説明

材料試験機

【課題】 試験力が急激に変化したときでも、指針を確実に試験力の最大値を示す位置まで移動させることが可能なアナログ指示計を備える材料試験機を提供する。
【解決手段】 アナログ指示計の制御回路においては、第1比較器71、第2比較器72、およびモータドライバ51等により指針駆動手段であるステッピングモータ44の制御回路を構成している。第1比較器71では目標値Bと現在値とが比較され、その比較結果に基づいて、パルス速度計算回路62により指針41の速度情報が算出される。そして、速度情報は書き込み制御回路73に入力される。第2比較器72は、目標値Bと目標値Aを比較し、比較結果を書き込み制御回路73に出力する。書き込み制御回路73は、第2比較器72の比較結果、パルス速度計算回路62からの速度情報に基づいて、目標値Bを保持するレジスタ67への目標値Aの書き込みを許可する信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、引張・圧縮等の試験力を試験片に与える材料試験において、試験片に作用する荷重をアナログ指針により表示するアナログ指示計を備える材料試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
試験片に対して引張試験および圧縮試験を行う材料試験機は、万能試験機とも呼称されるものであり、テーブルと、このテーブルに支柱を介して連結された上部クロスヘッドと、テーブルと上部クロスヘッドとを同期して昇降させるラムシリンダと、支柱に沿って昇降可能な下部クロスヘッドと、この下部クロスヘッドを昇降させる一対のネジ棹と、テーブルまたは上部クロスヘッドと下部クロスヘッドとの間に負荷される試験力を検出する圧力センサとを備える。
【0003】
この材料試験機において引張試験を行う場合には、上部クロスヘッドに配設された上つかみ具と下部クロスヘッドに配設された下つかみ具により試験片の両端を把持した状態で、ラムシリンダの駆動により下部クロスヘッドに対して上部クロスヘッドを上昇させる。一方、この材料試験機において圧縮試験を行う場合には、下部クロスヘッドとテーブルとの間に試験片を配置した状態で、ラムシリンダの駆動により下部クロスヘッドに対してテーブルを上昇させる。
【0004】
このような材料試験機においては、試験片に与えられる試験力を表示する装置としてディジタル数値表示器とともに,アナログ指示計も用いられている。このアナログ指示計は、指針の回転軸に連結されたモータに、ラムシリンダの圧力を検出する圧力センサからの信号に基づく駆動信号を、制御装置およびモータドライバを介して与えることにより、指針を回転させて試験力を表示するように構成されている(特許文献1参照)。
【0005】
図6は、従来の材料試験機におけるアナログ指示計の制御回路におけるモータの駆動制御の概要を説明するブロック図である。
【0006】
このようなアナログ指示計では、アナログ指示計の目盛盤上での指針が指し示す位置(試験力)を、圧力センサの検出値に比例して変化させるために、圧力センサの検出値が変化すれば、アナログ指示計の表示範囲に応じて、この検出値に対応付けられて指針が指し示すべき試験力が、上位回路により指針が移動すべき目標値として算出されレジスタ65に逐次目標値として書き込まれている。そして、指針による試験力の表示は、指針の回転軸に連結されたモータの制御回路により、設定された目標値に向けて指針が移動するようにモータの回転制御を行うことで実現されている。
【0007】
モータの制御回路は、図6に示すように、比較器61、パルス速度計算回路62、UP/DOWNパルス発生回路63およびモータドライバ51等により構成され、圧力センサの検出値に基づいて逐次更新される目標値と、現在カウンタ64によりカウントされ現在の試験力(指針が現在指し示している位置)として内部に記憶されている現在値とを比較器61において比較している。比較器61の比較結果(目標値>現在値、目標値B<現在値、目標値=現在値)に基づいて、パルス速度計算回路62によりパルス方向およびパルスレートが求められ、UP/DOWNパルス発生回路63を介してUP/DOWNパルスが出力される。UP/DOWNパルス発生回路63からのUP/DOWNパルスを受けたモータドライバ51は、駆動電流をステッピングモータ44に出力する。これらの動作により、アナログ指示計の現在値が目標値に近づく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−68487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところでこのように、モータによって物理的に指針を回転させるアナログ指示計においては、ステッピングモータ44の駆動速度が試験力の変化よりも遅いときには、アナログ指示計の表示が試験力の変化に対応できていない事態が生じている。これは、試験力が試験片の状態に応じてインパルス状に変化する場合もあればステップ状に変化する場合もあるのに対し、モータ駆動のアナログ指示計の指針は、モータのトルクと回転部分のイナーシャによって決まる加速度および速度以上で駆動させることができないため、試験力の変化速度がモータの最大速度を上回ったときに指針の動きが遅れることによる。
【0010】
図7は、従来の材料試験機における試験力の目標値とアナログ指示計の指針が指し示す現在値との関係を示すグラフである。グラフの縦軸は試験力を示し、横軸は試験開始からの時間を示している。また、グラフの破線は目標値を示し、実線は現在値を示している。
【0011】
図7に示すように、目標値が急激に上昇すると、アナログ指示計の指針が最大速度で回転したとしても、その位置は、試験力の目標値が最大となっているときに、その目標値まで到達できていない。従って、アナログ指示計の指針は最大試験力を指し示していない状態にある。一方で、目標値は圧力センサの検出値に基づいて逐次更新されているため、目標値が急激な上昇の後に急激に減少すると、目標値の最大値に現在値が到達する前に、現在値よりも低い試験力の値が新たに目標値としてレジスタ65に書き込まれ、さらに、その新たに書き込まれた目標値に応じたUP/DOWNパルスが、比較器61およびパルス速度計算回路62を介してUP/DOWNパルス発生回路63から出力される。そうすると、現在値は最大目標値に到達する前に減少することになる。その結果、指針が、最大目標値である最大試験力を一度も指し示すことなく試験が終了することになる。
【0012】
このように、現在値が目標値の急激な変化に追従できないと、アナログ指示計の指針の位置から目視で試験力の最大値を読み取るオペレータは、実際の最大値よりも低い試験力を、最大試験力と読み取ってしまう。これは、アナログ指示計に指針とは別に、試験力の最大値位置に残留する置き針を設けても、最大試験力を一度も指し示すことなく試験が終了するため同様の結果となる。すなわち、置き針が示す試験力は、実際に圧力センサが検出した検出値に対応した最大試験力よりも小さなものとなる。
【0013】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、試験力が急激に変化したときでも、指針を確実に試験力の最大値を示す位置まで移動させることが可能なアナログ指示計を備える材料試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の発明は、試験片に対して試験力を与える負荷機構と、前記負荷機構により試験片に与えられた試験力を計測する検出器と、指針を回転させる指針駆動手段と、前記指針駆動手段を制御する制御回路とを有し、前記検出器により検出された試験力に対応して前記指針を回転させることにより試験力をアナログ表示するアナログ指示計と、を備える材料試験機において、前記制御回路は、指針が指し示すべき試験力の現在の目標値として設定されている第1目標値と、指針が現在指し示している現在値とを比較する第1比較手段と、前記指針の移動速度を演算する速度計算手段と、前記第1目標値と前記検出器により検出される試験力に対応して指針が指し示すべき試験力として更新された第2目標値とを比較する第2比較手段と、前記第1目標値と前記第2目標値の関係が所定の条件をみたすとき、または、前記速度計算手段により求められた前記指針の移動速度が所定の条件をみたすときに、前記第1目標値を前記第2目標値に更新する書き込み制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の発明は、試験片に対して試験力を与える負荷機構と、前記負荷機構により試験片に与えられた試験力を計測する検出器と、指針を回転させる指針駆動手段と、前記指針駆動手段を制御する制御回路とを有し、前記検出器により検出された試験力に対応して前記指針を回転させることにより試験力をアナログ表示するアナログ指示計と、を備える材料試験機において、前記制御回路は、指針が指し示すべき試験力の現在の目標値として設定されている第1目標値と、指針が現在指し示している現在値とを比較する第1比較手段と、前記指針の移動速度を演算する速度計算手段と、前記第1目標値と、前記検出器により検出される試験力に対応して指針が指し示すべき試験力として更新された第2目標値とを比較する第2比較手段と、前記第2目標値が前記第1目標値よりも大きいとき、前記速度計算手段により演算された前記指針の移動速度がゼロのとき、および、前記速度計算手段により求められた前記指針の移動速度が負のとき、のいずれかの条件を満たすときに、前記第1目標値を前記第2目標値に更新する書き込み制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記指針駆動手段はステッピングモータである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1から請求項3に記載の発明によれば、第1の比較手段と、第2の比較手段と、書き込み制御手段とを備え、所定の条件を満たしたときにのみ、第1の目標値を第2目標値に更新することから、アナログ指示計の指針を、確実に最大試験力を示す位置にまで到達させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明に係る材料試験機の概要図である。
【図2】アナログ指示計40の目盛盤42付近の側面概要図である
【図3】この発明に係る材料試験機におけるアナログ指示計40のステッピングモータ44の駆動制御の概要を説明するブロック図である。
【図4】目標値Bを保持するレジスタB67への目標値Aの書き込み制御を説明する図である。
【図5】この発明に係る材料試験機における試験力の目標値A、目標値Bとアナログ指示計40の指針41が指し示す現在値との関係を示すグラフである。
【図6】従来の材料試験機におけるアナログ指示計の制御回路におけるモータの駆動制御の概要を説明するブロック図である。
【図7】従来の材料試験機における試験力の目標値とアナログ指示計の指針が指し示す現在値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1はこの発明に係る材料試験機の概要図である。
【0020】
この材料試験機は、負荷機構を備えた試験機本体1と、試験力をアナログ表示するためのアナログ指示計40と、内部に記憶装置としてのRAM、ROM、演算装置としてのCPU等を備えるコンピュータから構成される材料試験機全体を制御するための制御部35とを備える。
【0021】
試験機本体1は、テーブル21と、このテーブル21に一対の支柱22を介して連結された上部クロスヘッド24と、テーブル21と上部クロスヘッド24とを同期して昇降させるラムシリンダ25と、一対のネジ棹23に沿って昇降可能な下部クロスヘッド26と、この下部クロスヘッド26の両端に設けられた図示しない回転駆動機構つきナットを備える。なお、下部クロスヘッド26は、図示しない電動モータもしくは油圧モータによりナットを回転させることにより昇降可能な構成となっている。
【0022】
上部クロスヘッド24には上つかみ具31が配設されており、下部クロスヘッド26には下つかみ具32が配設されている。引張試験がなされる試験片10は、これらの上つかみ具31および下つかみ具32によりその両端を把持される。また、下部クロスヘッド26には圧盤28が付設されており、圧縮試験がなされる試験片11は、この圧盤28とテーブル21とによりその上下端部を押圧される。
【0023】
ラムシリンダ25は、シリンダ室25aに圧油を供給することによりラム25bが伸長する構成を有する。そして、ラム25aが伸長することにより、テーブル21、一対の支柱22および上部クロスヘッド24が同期して上昇する。このテーブル21および上部クロスヘッド24の上昇により、引張試験を行うときには上つかみ具31および下つかみ具32によりその両端を把持された試験片10に引張荷重が付与され、圧縮試験を行うときには圧盤28とテーブル21との間に配置された試験片11に圧縮荷重が付与される。このラムシリンダ25の動作は、ラムシリンダ25に圧油を供給する油圧源38により駆動制御される。この材料試験機では、油圧源38は、アナログ指示計40の下部ケース内に収容されており、制御部35により制御される。
【0024】
このときの試験力は、圧力センサ33により測定される。この測定値は、アナログ指示計40の制御回路45を介して制御部35に送信され、必要に応じ表示部36に表示されるとともに、アナログ指示計40にアナログ表示される。また、このときのテーブル21および上部クロスヘッド24の移動量は、ストローク検出器34により検出される。この検出値は、制御部35に送信され、必要に応じ表示部36に表示される。また、アナログ指示計40は、制御回路45に接続されたスイッチ群からなる操作パネル47を備え、表示範囲変更や指針のゼロ点合わせ等の操作をオペレータが手動で行うことが可能な構成となっている。
【0025】
この材料試験機において、引張試験を行うときには、上部クロスヘッド24と下部クロスヘッド26との距離を、引張試験を行う試験片10のサイズに対応した大きさとする必要がある。同様に、圧縮試験を行うときには、下部クロスヘッド26とテーブル21との距離を、圧縮試験を行う試験片11のサイズに対応させた大きさとする必要がある。この場合には、オペレータが操作部37における下部クロスヘッド26の昇降スイッチを操作して、下部クロスヘッド26の両端に内蔵されたナットを回転させることにより、ネジ棹23に連結された下部クロスヘッド26が昇降する。
【0026】
次に、この材料試験機において、アナログ指示計40により試験力を表示する動作について説明する。図2は、アナログ指示計40の目盛盤42付近の側面概要図である。図3は、この発明に係る材料試験機におけるアナログ指示計40の制御回路45におけるステッピングモータ44の駆動制御の概要を説明するブロック図である。
【0027】
アナログ指示計40は、図2に示すように、試験力を示す目盛が付された円形の目盛盤42の中心に軸43が設けられている。軸43の一方端には、指針41が接続され、他端にはステッピングモータ44が接続されている。このアナログ指示計40は、目盛盤42の指針41を、指針駆動手段であるステッピングモータ44で回転させることにより試験力を表示する。そして、ステッピングモータ44の動作は、制御回路45により制御される。なお、指針41は試験力が大きくなるにつれて、時計周りに回転する(図1参照)。
【0028】
この制御回路45においては、図3に示すように、第1比較器71、パルス速度計算回路62、UP/DOWNパルス発生回路63、第2比較器72、書き込み制御回路73およびモータドライバ51等によりステッピングモータ44の制御回路を構成している。なお、第1比較器71はこの発明における第1比較手段、第2比較器72はこの発明における第2比較手段、パルス速度計算回路62はこの発明における速度計算手段、書き込み制御回路73はこの発明における書き込み制御手段である。また、このステッピングモータ44の制御回路には、従来と同様に、圧力センサ33の検出値に基づいてプログラム等により算出された試験力である指針41が移動すべき目標値Aが、上位回路からレジスタA66に逐次書き込まれる。なお、目標値Aは、この発明における第2目標値である。また、圧力センサ33の検出値は、試験空間に印加されているリアルタイムの力の値であることから、目標値Aは試験中でも待機中でも逐次更新される。
【0029】
この発明のステッピングモータ44の制御回路では、第1比較器71において、目標値Bと現在の試験力(指針41が現在指し示している目盛盤42の目盛りの位置)として現在値カウンタ64によりカウントされ記憶されている現在値とを比較している。なお、目標値Bは、この発明における、指針が指し示すべき試験力の現在の目標値として設定されている第1目標値であり、所定の条件を満たした場合にのみ、目標値Aが書き込まれて更新される値である。
【0030】
第1比較器71には、目標値Bと現在値とが入力され、目標値Bと現在値との比較が行われる。そして、第1比較器71での目標値Bと現在値との比較結果(目標値B>現在値、目標値B<現在値、目標値B=現在値)に基づいて、パルス速度計算回路62によりパルス方向およびパルスレート等が算出され、指針41の移動速度に関する情報が求められる。パルス方向およびパルスレート等は、UP/DOWNパルス発生回路63に入力され、しかる後、UP/DOWNパルスが出力される。UP/DOWNパルス発生回路63からのUP/DOWNパルスを受けたモータドライバ51は、駆動電流をステッピングモータ44に出力する。そして、ステッピングモータ44が回転することで指針41が移動し、アナログ指示計40に試験力が表示されることになる。また、ステッピングモータ44の制御回路においては、UP/DOWNパルス発生回路63から出力されたUP/DOWNパルスは、現在値カウンタ64にも入力され現在値を修正する信号にもなる。すなわち、モータドライバ51は、1パルス受信するごとにステッピングモータ44を正転または逆転方向に駆動分解能分だけ回転させることから、このUP/DOWNパルスに応じて指針41の現在位置である現在値を増減させている。なお、この実施形態では、簡易な回路構成とするため、指針駆動手段としてステッピングモータ44を採用しているが、指針駆動手段は、指針41を動かすことができるモータであればよい。
【0031】
また、第1比較器71による目標値Bと現在値との比較に基づいてパルス速度計算回路62により得られたパルス方向およびパルスレートは、指針41の移動における速度情報であり、これらの速度情報が書き込み制御回路73に入力される。なお、パルス方向とパルスレート等からはステッピングモータ44の回転速度が解ることから、これらの速度情報から指針41の移動速度を知ることができる。
【0032】
第2比較器72に目標値A、目標値Bおよび速度情報が入力されると、第2比較器72は、目標値Bと目標値Aの比較を行う。そして、第2比較器72の比較結果(目標値A>目標値B,目標値A<目標値B、目標値A=目標値B)に基づいて、書き込み制御回路73において目標値Bを保持するレジスタB67への目標値Aの書き込み行うか否かの判断を行い、所定の条件を満たす場合にのみ、書き込みを許可する信号を出力する。
【0033】
次に、この発明に係る目標値Bを保持するレジスタB67への目標値Aの書き込み制御動作について説明する。図4は、目標値Bを保持するレジスタB67への目標値Aの書き込み制御を説明する図である。図4(a)は、目標値Bを保持するレジスタB67への目標値Aの書き込み制御のフローチャートであり、図4(b)は、目標値Bを保持するレジスタB67への目標値Aの書き込みを許可するときの条件を示すテーブルである。
【0034】
書き込み制御回路73に目標値Aと目標値Bの比較結果および速度情報が入力されると(ステップS1)、図4(b)に示す、(1)目標値Aが目標値Bよりも大きいとき、(2)パルス速度計算回路から出力される速度がゼロのとき、(3)パルス速度計算回路から出力される速度が負のとき、のいずれかの条件を満たすかどうかの判断が行われる(ステップS2)。
【0035】
なお、上述した(1)から(3)の条件を、目標値Bを保持するレジスタB67への目標値Aの書き込みを許可する、すなわち目標値Bを目標値Aの値に書き換える条件とするのは、以下の理由による。
【0036】
(1)の条件は、「目標値Aが目標値Bよりも大きいとき」との条件を満たすときには、指針41が指し示すべき現在の目標値である目標値Bよりも、その次の目標値Bとなるべき目標値Aの方が大きければ、指針41は、指針41が目盛盤42のどの目盛り位置を指し示していても、さらに大きな目標値まで移動する必要があることになる。このため、この条件を、目標値Bへの目標値Aの書き込みを許可する条件としている。
【0037】
(2)の条件は、パルス速度計算回路62から書き込み制御回路73に入力された速度情報に関する条件である。この(2)の「パルス速度計算回路から出力される速度がゼロのとき」とは、指針41が停止していることを意味し、現在値=目標値Bの状態である。すなわち、パルス速度計算回路62から出力される速度がゼロであれば、現在値は目標値Bに到達しており、現在値が目標値Bに追従できていると言える。このような場合は、次の目標値AをレジスタB67に書き込んで、新たな目標値Bに向けて指針41をさらに移動させればよいことになる。このため、この条件を、目標値Bを保持するレジスタB67への目標値Aの書き込みを許可する条件としている。
【0038】
(3)の条件は、(2)の条件と同様に、パルス速度計算回路62から書き込み制御回路73に入力された速度情報に関する条件である。この(3)の「パルス速度計算回路から出力される速度が負のとき」とは、指針41がマイナス方向に移動中であることを意味している。仮に、(3)の条件がない場合には、指針41がマイナス方向(反時計回り)に移動していくときの目標値Bの更新は、上述した(2)の条件を満たす場合に行われることとなる。そうすると、現在値=目標値Bのタイミングでしか目標値Bへの目標値Aの書き込みが許可されず、試験力の連続した減少に対して指針41の動きは何度もいったん停止(速度ゼロ)を繰り返すぎこちないものとなってしまう。このため、(3)の条件を目標値Bへの目標値Aの書き込みを許可する条件としている。
【0039】
このように(1)から(3)の目標値Bへの目標値Aの書き込みを許可する条件のうちのいずれかを満たすと判断されると(ステップS2)、目標値Bを保持するレジスタ67に目標値Aの値が書き込まれ、目標値Bが更新される(ステップS3)。なお、目標値Aは試験中/待機中の別なく更新されることから、ステップS1〜ステップS3も試験中/待機中の別なく繰り返される。
【0040】
図5は、この発明に係る材料試験機における試験力の目標値A、目標値Bとアナログ指示計40の指針41が指し示す現在値との関係を示すグラフである。グラフの縦軸は試験力(アナログ指示計40の指針41の目標位置および現在位置)を示し、横軸は時間を示している。また、グラフの破線は目標値Aを、一点鎖線は目標値Bを示し、実線は現在値を示している。
【0041】
上述した目標値Bへの目標値Aの書き込み制御を実行すると、目標値A、目標値Bおよび現在値の関係は、図5に示すようになる。図5に示すように、試験開始時には目標値A、目標値Bおよび現在値の値は、いずれもゼロである。そして、試験が開始されて目標値Aが最大値となるまでは、目標値Aは目標値Bより常に大きく、(1)の条件のみを満たすため、目標値Bが目標値Aに逐次書き換えられている。
【0042】
目標値Aが最大値となったのち減少に転じると、目標値Aが目標値Bよりも小さくなり(1)の条件を満たさない状態となる。このとき、現在値は目標値Bより低い値を示しており、指針41は目標値Bに向けて動いている途中である。すなわち、パルス速度計算回路62から出力される速度は正(図1に示すアナログ指針計40の指針41が時計周りに動いている状態)であり、(2)および(3)のいずれの条件も満たしていない状態にある。したがって、目標値Bを保持するレジスタB67への目標値Aの書き込みは許可されず、目標値Aが最大値のときにレジスタB67が保持していた値が目標値Bとして維持される。
【0043】
しかる後、現在値が目標値Bに到達すると、指針41は、最大試験力を示す位置まで移動したことになる。このとき、目標値Aは目標値Bより小さいため(1)の条件は満たさないが、現在値=目標値Bであるときは速度がゼロであることから(2)の条件を満たす。したがって、目標値Bへの目標値Aの書き込みが許可される。
【0044】
さらにその後、現在値が連続的に減少に転じると、(1)、(2)の条件は満たさないが、(3)の条件を満たすことになるため、目標値Bを保持するレジスタB67への目標値Aの書き込みが許可される。そして、現在値は、更新された目標値Bに向かって減少する。なお、この実施形態においては、パルス速度計算回路62に速度制限つき比例制御機能を持たせている。このため、指針41の移動時間を短縮させることができ、現在値を、更新された目標値Bに速やかに追従させている。
【0045】
このように、この発明に係る材料試験機では、所定の条件を満たす場合にのみ、目標値Bの目標値Aの値への書き換えを許容することで、目標値に対する現在値の追従性を向上させている。そして、この発明に係る材料試験機では、現在値が目標値Bに到達する前、すなわち、指針41が最大試験力を指し示す前に、最大試験力よりも小さい値が目標値Bを保持するレジスタに書き込まれることがないため、確実にアナログ指針計40に最大試験力を表示させることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 試験機本体
10 試験片
11 試験片
21 テーブル
22 支柱
23 ネジ棹
24 上部クロスヘッド
25 ラムシリンダ
26 下部クロスヘッド
28 圧盤
31 上つかみ具
32 下つかみ具
33 圧力センサ
35 制御部
36 表示部
37 操作部
38 油圧源
40 アナログ指示計
41 指針
42 目盛盤
43 軸
44 ステッピングモータ
45 制御回路
47 操作パネル
51 モータドライバ
62 パルス速度計算回路
63 UP/DOWNパルス発生回路
64 現在値カウンタ
66 レジスタA
67 レジスタB
71 第1比較器
72 第2比較器
73 書き込み制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片に対して試験力を与える負荷機構と、
前記負荷機構により試験片に与えられた試験力を計測する検出器と、
指針を回転させる指針駆動手段と、前記指針駆動手段を制御する制御回路とを有し、前記検出器により検出された試験力に対応して前記指針を回転させることにより試験力をアナログ表示するアナログ指示計と、
を備える材料試験機において、
前記制御回路は、
指針が指し示すべき試験力の現在の目標値として設定されている第1目標値と、指針が現在指し示している現在値とを比較する第1比較手段と、
前記指針の移動速度を演算する速度計算手段と、
前記第1目標値と、前記検出器により検出される試験力に対応して指針が指し示すべき試験力として更新された第2目標値とを比較する第2比較手段と、
前記第1目標値と前記第2目標値の関係が所定の条件をみたすとき、または、前記速度計算手段により求められた前記指針の移動速度が所定の条件をみたすときに、前記第1目標値を前記第2目標値に更新する書き込み制御手段と、
を備えたことを特徴とする材料試験機。
【請求項2】
試験片に対して試験力を与える負荷機構と、
前記負荷機構により試験片に与えられた試験力を計測する検出器と、
指針を回転させる指針駆動手段と、前記指針駆動手段を制御する制御回路とを有し、前記検出器により検出された試験力に対応して前記指針を回転させることにより試験力をアナログ表示するアナログ指示計と、
を備える材料試験機において、
前記制御回路は、
指針が指し示すべき試験力の現在の目標値として設定されている第1目標値と、指針が現在指し示している現在値とを比較する第1比較手段と、
前記指針の移動速度を演算する速度計算手段と、
前記第1目標値と、前記検出器により検出される試験力に対応して指針が指し示すべき試験力として更新された第2目標値とを比較する第2比較手段と、
前記第2目標値が前記第1目標値よりも大きいとき、前記速度計算手段により演算された前記指針の移動速度がゼロのとき、および、前記速度計算手段により求められた前記指針の移動速度が負のとき、のいずれかの条件を満たすときに、前記第1目標値を前記第2目標値に更新する書き込み制御手段と、
を備えたことを特徴とする材料試験機。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の材料試験機において、
前記指針駆動手段はステッピングモータである材料試験機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−229921(P2012−229921A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96745(P2011−96745)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】