説明

杖保持構造

【課題】杖の不使用時における立て掛け部への立て掛けを容易に行う。
【解決手段】杖の握り2に磁石3を設け、この磁石3の吸着力で、磁性体からなる立て掛け部Wに、杖を吸着させて立て掛ける。前記立て掛け部Wが磁性体でない場合は、その立て掛け部Wに予め杖保持部材9を取付ねじ12等で設けておく。この杖保持部材9には磁石10が設けられていて、杖の握り2に設けた磁石3と、杖保持部材9に収納した磁石10の互いの吸着力により、杖が杖保持部材9(立て掛け部W)に吸着されて立て掛けが容易になされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高齢者等が歩行の際の補助に用いる杖の保持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢者等の足腰が弱った人は、杖を歩行の際の補助として用いることが多い。この杖は、就寝時や玄関での靴等の脱着等の際は不要なので、ベッド脇や玄関の壁等の立て掛け部に一時的に立て掛けられる。
【0003】
このとき、杖が床に倒れてしまうことがよくある。この杖は、棒状の支柱の上端部に握りを設けた構造となっていて、重心位置が高いためである。倒れた杖を拾うには、床にかがんだり、腰を曲げたりする必要があり、高齢者等にとって大きな負担となる。
【0004】
そこで、杖の不使用時に、この杖を倒れないように立て掛け部に立て掛けるため、例えば、下記特許文献1及び2に示すような杖の保持具が提案されている。下記特許文献1に開示されている保持具は、杖保持部と載置部とからなる。この載置部をカウンター等の被載置部に固定し、横断面C字形の杖保持部の開口部から杖の支柱を嵌め込んで、この杖を保持するものである(同文献の図3を参照)。
【0005】
また、下記特許文献2に開示されている保持具は、使用者が杖とともに持ち歩くものであって、この保持具には杖の支柱を立て掛ける凹凸形状部が形成されている。この凹凸形状部に杖の支柱を嵌め込んで、この杖を保持するものである(同文献の図4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3134616号公報
【特許文献2】特開2006−87534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1及び2に示す保持具は、この保持具に形成された杖保持部(凹凸形状部)に杖の支柱を嵌め込むものである。この構成においては、保持具の掴み部の軸方向(保持溝の形成方向)と前記支柱の軸方向を合わせた上で、この支柱を保持具に嵌め込む必要があり、保持具と支柱の軸がずれている(傾いている)と前記嵌め込みができない。
この軸合わせの作業は、健常者にとって容易であっても、高齢者等は、身体機能の低下のためスムーズにできず、使い勝手に支障があることが多い。
【0008】
そこで、この発明は、杖の不使用時における立て掛け部への立て掛けを容易に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、この発明では、支柱の上部に握りを備えた杖を、立て掛け部へ立て掛けた状態に保持する杖保持構造において、前記杖の支柱若しくは前記握り、又は、前記立て掛け部の一方に磁石を、他方に、前記磁石に吸着する磁性体をそれぞれ設け、前記磁石の前記磁性体への吸着力により、前記杖が倒れないように保持する構造を採用した。
この磁石による磁場は磁石を中心に広がっており、前記磁性体がこの磁場中にあれば前記吸着力が作用する。このとき、杖の支柱軸が垂直方向から多少ずれていても、十分な吸着力を得ることができる。このため、杖の軸合わせを行う必要がなく、高齢者でも、容易に杖を立て掛けることができる。
【0010】
前記構成においては、前記立て掛け部に、前記磁性体を備える杖保持部材を予め設けておき、この杖保持部材の磁性体に、前記支柱又は前記握りに設けた磁石を吸着させるようにするのが好ましい。
このように杖側に磁石を設けておけば、この杖を前記杖保持部材に吸着させることができるのは勿論、住居内又は屋外において、鋼板等の磁性体からなる壁、カウンター等の立て掛け部に自在に立て掛けることができ、利便性が高い。前記杖保持部材に用いる磁性体として、磁石は勿論、鋼板等の金属板を採用することができる。
【0011】
前記杖保持部材は、例えば粘着テープやビス等で立て掛け部に取り付けることができる。この杖保持部材を予め設けておくことで、杖の使用者が、立て掛け位置の目印とすることができる。
【0012】
また、前記杖においては、前記握り又は前記支柱に、蓄光部材を設けるのが好ましい。
例えば、この杖をベッド脇に立て掛ける場合、使用者が夜間にトイレ等に行く際にこの杖を使用することが想定される。このとき、ベッド周囲が暗いため、杖がどこにあるのか分からなくなることがある。そこで、杖の握り又は支柱に蓄光材料を設けておくことにより、夜間でも明確に杖の場所を知ることができ、暗い部屋の中を探し回る必要がない。
【0013】
また、前記杖においては、前記握り又は前記支柱に、反射部材を設けるのが好ましい。
この反射部材は、夜間に自動車等のライトを受けて反射するため、この自動車等の運転手に、使用者の存在を明確に知らせることができる。このため、夜間の事故の恐れも大幅に小さくなる。自動車等は、車道に沿って歩行する歩行者に対して、前方又は後方から接近することが多いため、自動車等からの視認性を高めるため、握り又は支柱の前側及び後側にこの反射部材を設けるのがより好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明では、杖の支柱若しくは握り、又は、杖の立て掛け部の一方に磁石を、他方に、前記磁石に吸着する磁性体をそれぞれ設け、前記磁石の前記磁性体への吸着力により、杖を前記立て掛け部に立て掛けた状態で保持し得るようにした。この保持は磁石の磁力によってなされ、杖の支柱軸が垂直方向から多少ずれていても、十分な吸着力を得ることができる。このため、高齢者でも杖の立て掛けを容易に行うことができ、杖の使い勝手が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明に係る杖を示し、(a)は正面図、(b)は要部の斜視図、(c)は要部の側面図
【図2】杖の立て掛けに用いる杖保持部材を示す正面図
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図
【図4】杖保持部材を用いて杖を立て掛けた状態を示す、要部の縦断面図
【図5】磁石を設けたストラップをベルト等に設けた状態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明に係る杖を図1(a)〜(c)に示す。この杖は、支柱1と、この支柱1の上端部に設けられた握り2を備える。
【0017】
握り2の両側面(フラット面)には、ネオジム磁石3がそれぞれ埋め込まれており、この磁石3を覆うように、前記両側面の外面ほぼ全体に亘って蓄光部材4が設けられている。この蓄光部材4には、硫化亜鉛系、アルミン酸ストロンチウム系等の汎用の材料が用いられる。この蓄光部材の形成領域は特に限定されないが、磁石3を覆い隠して握りの美観を損なわないようにするとともに、杖の使用者が、夜間にこの杖の所在を認識できるように、できるだけ広めに形成するのが好ましい。
【0018】
握り2の前後端面には、反射部材5が設けられている。この反射部材5として、例えば自転車等に用いられている樹脂製のものや、裏面の剥離シートを剥がして貼り付けるシール式のものを採用することができる。
【0019】
この支柱1は上側支柱1aと下側支柱1bとからなり、下側支柱1bが上側支柱1aに同軸に抜き挿しし得るように挿し込まれている。上側支柱1aには、その軸方向に並ぶ複数の貫通孔(図示せず)が形成され、下側支柱1bには、前記複数の貫通孔のうちいずれか一つから、弾性部材の付勢力により突出し、前記付勢力に抗して支柱1の軸心側に押し込むことによって前記貫通孔内へ後退する係止突起6が設けられている。この係止突起6が前記貫通孔に嵌まり込んだ状態では、両支柱1a、1bを互いに抜き挿しできず、支柱1の全長が固定される。この係止突起6を前記貫通孔内に押し込んで前記嵌まり込みを解除すると、両支柱1a、1bを互いに抜き挿し自在となって、支柱1の全長を調節できる。
【0020】
下側支柱1bの下端には、杖先7が設けられており、この杖先7が、地面に杖を突いた際の滑り止めの役目を果たしている。上側支柱1aにはストラップ8が設けられている。このストラップ8を、例えばズボンのベルトに固定しておくことによって、杖から不用意に手を離した際に、この杖が地面に倒れてしまうのを防止することができる。
【0021】
この杖は、磁性体からなる立て掛け部Wに対して、握り2に設けた磁石3の吸着力によって立て掛けておくことができる。ところが、住居内や屋外において、杖を立て掛けたい場所に常に磁性体からなる立て掛け部Wが備わっているとは限らない。そのときは、図2に示すような杖保持部材9を用いる。この杖保持部材9には、磁石10が設けられている。また、貫通孔11が二箇所に形成されており、この貫通孔11に取付ねじ12を設けて、立て掛け部Wに固定する。この杖保持部材9の裏面には、粘着テープ13が貼り付けられている。ねじ止めすることが困難な立て掛け部Wに対しては、この粘着テープ13の剥離紙14を剥がして、立て掛け部Wに貼り付けて固定することもできる。
【0022】
この杖保持部材9はその外形が「犬(盲導犬等)の顔」を模した形状となっており、磁石の埋め込み部が「鼻」、立て掛け部への取付ねじ(貫通孔11)が「目」を表現している。このように、犬をモチーフとすることで、この杖保持部材9のデザイン性を高めるとともに、これが福祉関連用品であることを明示している。勿論、この杖保持部材9の形状は、デザイン性等を考慮して適宜変更することができる。
【0023】
上記のように、杖保持部材9に磁石10を設ける代わりに、この杖保持部材9を鋼板等の磁性体で構成したり、その一部を磁性体としたりすることもできる。
【0024】
この杖保持部材9を、住居内のみならず、駅の切符売り場や、役所の窓口等の公共施設、商店のレジ付近、電車内等に広く設置すると、本願発明に係る杖の使用者の行動範囲が大幅に広がることが期待される。このため、社会福祉等の観点からも非常に好ましいと言える。
【0025】
また、係止紐15付きのストラップ8にネオジム磁石3を設け、このストラップ8の係止紐15を、使用者のズボンのベルトBやベルト通し穴H等に通すようにしてもよい。このようにすれば、例えばベンチに腰掛けて休憩する際に、杖をこのストラップ8に吸着させておくことができ、休憩中に杖が倒れるのを防ぐことができる。
【0026】
あるいは、このストラップ8のストラップ長を長くして、首掛けタイプ(ネックストラップ)とすることもできる。このようにすれば、使用者が立ったままの状態で、一時的に両手を使いたい場合(例えば、レジで財布を開くとき)に、簡便に杖を立て掛けることができる。
【0027】
このストラップ8は、図1に示したように、杖の支柱1に設けてもよい。この磁石3付きのストラップ8を設けることで、杖の握り2に磁石3を設けていない一般的な杖でも、図1に示した杖と同様に、磁性体からなる立て掛け部Wや杖保持部材9に容易に立て掛けることができる。この杖保持部材9として、磁石3を備えたものだけではなく、鋼板等の金属の磁性体を備えたものも適用できる。
【0028】
上記説明では、主に高齢者が使用する一本の棒状の杖について述べたが、怪我人が歩行の補助として用いる松葉杖についても、勿論、本発明の構成を適用することもできる。この松葉杖も重心位置が高く、立て掛けの際に倒れることがよくあり、この倒れた松葉杖を拾う際に、怪我人が無理な姿勢を強いられることがあり得るからである。
【符号の説明】
【0029】
1 支柱
1a 上側支柱
1b 下側支柱
2 握り
3 磁石
4 蓄光部材
5 反射部材
6 係止突起
7 杖先
8 ストラップ
9 杖保持部材
10 磁性体(磁石)
11 貫通孔
12 取付ねじ
13 粘着テープ
14 剥離紙
15 係止紐

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支柱(1)の上部に握り(2)を備えた杖を、立て掛け部(W)へ立て掛けた状態で保持する杖保持構造において、
前記杖の支柱(1)若しくは前記握り(2)、又は、前記立て掛け部(W)の一方に磁石(3)を、他方に、前記磁石(3)に吸着する磁性体(10)をそれぞれ設け、前記磁石(3)の前記磁性体(10)への吸着力により、前記杖が倒れないように保持するようにしたことを特徴とする杖保持構造。
【請求項2】
前記立て掛け部(W)に、前記磁性体(10)を備える杖保持部材(9)を予め設けておき、この杖保持部材(9)の磁性体(10)に、前記支柱(1)又は前記握り(2)に設けた磁石(3)を吸着させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の杖保持構造。
【請求項3】
前記支柱(1)又は前記握り(2)に、蓄光部材(4)を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の杖保持構造。
【請求項4】
前記支柱(1)又は前記握り(2)に、反射部材(5)を設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の杖保持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−40232(P2012−40232A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185112(P2010−185112)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(510222419)株式会社ミムゴ (4)
【Fターム(参考)】