説明

杭基礎式タンクの施工方法

【課題】杭基礎式タンクの施工作業を並行作業可能なものとし、以て工期を従来工法よりも短縮する。
【解決手段】複数の杭を地中に打設して基礎を構築し、該基礎上にスラブ、側壁及び屋根を構築する杭基礎式タンクの施工方法であって、少なくとも側壁下に位置する地中に初期杭を打設する第1工程と、屋根を構築する第2工程と、屋根を上方に持ち上げて当該屋根下に側壁の最上段部分を連設する第3工程と、最上段部分に下段部分を構築して上方に持ち上げることを繰り返すことにより側壁を完成させる第4工程と、当該第4工程と並行して側壁下以外の地中に追加杭を打設する第5工程と、初期杭及び追加杭を覆うようにスラブを構築する第6工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の杭を地中に打設して基礎を構築する杭基礎式タンクの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記杭基礎式タンクの一つとして、地上式低温タンク、例えば地上式LNG(液化天然ガス)タンクや地上式LPG(液化石油ガス)タンクが知られている。この地上式低温タンクは、外槽がコンクリート製で内槽が金属製の二重殻構造を有しており、外槽側壁は耐圧性能に優れたPC(プレストレスコンクリート)として構築される。
【0003】
例えば、下記非特許文献1、2には、上記杭基礎地上式PC低温タンクの一種である杭基礎地上式PCLNGタンクの施工手順が記載されている。杭基礎地上式PCLNGタンクの施工工事は、土木工事と機械工事とからなるものであり、敷地への杭の打設→杭上へのコンクリートスラブの構築→コンクート側壁の構築→コンクリート屋根の構築の手順を経て建設される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】(社)プレストレストコンクリート技術協会 Vol51 No6 2009
【非特許文献2】土木学会 土木建設技術シンポジウム2005 III-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記杭基礎地上式PCLNGタンクの建設工事は、上述した各工程が並行作業不可能な作業工程であり、これ故に並行作業による工期短縮が不可能である。すなわち、杭基礎地上式PCLNGタンクにおける従来の建築工事は、ある工程の工期が計画工期よりも延びた場合に、他の工程を並行して行うことにより工事全体を計画通り行うような対応ができない工事内容である。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、杭基礎式タンクの施工作業を並行作業可能なものとし、以て工期を従来工法よりも短縮することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、第1の解決手段として、複数の杭を地中に打設して基礎を構築し、該基礎上にスラブ、側壁及び屋根を構築する杭基礎式タンクの施工方法であって、少なくとも側壁下に位置する地中に初期杭を打設する第1工程と、屋根を構築する第2工程と、屋根を上方に持ち上げて当該屋根下に側壁の最上段部分を連設する第3工程と、最上段部分に下段部分を構築して上方に持ち上げることを繰り返すことにより側壁を完成させる第4工程と、当該第4工程と並行して側壁下以外の地中に追加杭を打設する第5工程と、初期杭及び追加杭を覆うようにスラブを構築する第6工程とを有する、という手段を採用する。
【0008】
第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、屋根の外周あるいは側壁に沿って複数の油圧ジャッキを所定間隔で配置し、屋根あるいは側壁において油圧ジャッキとの係合部に補強処理を施して上方に持ち上げる、という手段を採用する。
【0009】
第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、側壁はプレストレスコンクリートとして構築され、側壁へのプレストレスは、スラブの構築前に付与される
、という手段を採用する。
【0010】
第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれかの解決手段において、杭基礎式タンクはLNG(液化天然ガス)を貯留する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、側壁を完成させる作業と追加杭の打設作業とを並行して行うので、工期を従来工法よりも短縮することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る杭基礎地上式PCLNGタンクの施工手順を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る杭基礎地上式PCLNGタンクの施工方法は、図1(a)〜(f)に示す各工程からなる。なお、以下の説明では、施工対象である杭基礎地上式PCLNGタンクを簡略化してLNGタンクという。
【0014】
最初に完成品としてのLNGタンクについて概要を説明する。このLNGタンクは、図1(f)に示すように、複数の杭1、円形スラブ2、側壁3及び屋根4を備える円筒形タンクである。なお、LNGタンクは、より詳細には二重殻構造を有するタンクであり、上記円形スラブ2、側壁3及び屋根4は、外殻(外槽)を構成するものである。図1には示されていないが、このような外殻(外槽)の内側に保冷剤を挟む状態で鋼製の内殻(内槽)が設けられる。
【0015】
上記杭1は、コンクリート製あるいは鋼製の棒状部材であり、円形の建設用敷地内に所定間隔で複数が設けられている。また、この杭1には、打設タイミングに応じて初期杭1aと追加杭1bとがある。円形スラブ2は、上記複数の杭1を上から覆う床版として複数の杭1上に設けられる円形の鉄筋コンクリートである。側壁3は、円形スラブ2の周縁部に立設状態に設けられるPC(プレストレス)コンクリートである。また、屋根4は、側壁3の上部を塞ぐように設けられる鉄筋コンクリートである。
【0016】
次に、このようなLNGタンクの施工方法について、図1を参照して詳しく説明する。
〔第1工程〕
第1工程では、建設用の敷地において後工程の第3、第4工程で側壁3を立設する場所つまり側壁3の直下に位置する地中に、図1(a)に示すように初期杭1aを打設する。この初期杭1aは、後工程で構築される側壁3及び屋根4の荷重を支えるために最初の工程である本第1工程で設けられる。なお、図1(a)では、外周と内周との2列に初期杭1aを打設した状態を示しているが、初期杭1aは側壁3及び屋根4の荷重を支えるためのものなので、当該荷重を支えるために必要な領域に必要本数が打設される。
【0017】
〔第2工程〕
第1工程における初期杭1aの打設が完了すると、図1(b)に示すように、建設用敷地上にて円形の屋根4を構築する。すなわち、屋根4の周縁部が初期杭1aの上に位置する位置関係で建設用敷地上に屋根4を構築する。なお、この屋根4は、仮支持した状態で建設用敷地上に構築されるものであり、初期杭1aとの結合は、強固なものではない。
【0018】
〔第3工程〕
第3工程では、図1(c)に示すように、上記第2工程で構築された屋根4を上方に持ち上げ、当該屋根4の周縁部の直下に側壁3の最上段部分3aを連設する。すなわち、第3工程では、屋根4の周縁部と初期杭1aの上端との間に油圧ジャッキを所定間隔で複数介装することによって屋根4を初期杭1aの上端から所望距離だけ上方に離間させ、この状態において屋根4の周縁部の直下に側壁3の最上段部分3aを一体に構築する。この最上段部分3aは、所定高さ寸法h1を有するPCコンクリートである。
【0019】
ここで、上記最上段部分3aは、側壁3の一部位であり、屋根4の全周縁部に亘って設けられるものである。したがって、最上段部分3aを構築する際に油圧ジャッキとの干渉が発生する。このような干渉を回避するためには、屋根4の周縁部から内側あるいは外側に多少オフセットした位置に油圧ジャッキを設けることが考えられる。また、屋根4の周縁部において油圧ジャッキの係合部には、荷重が局所的に作用するので、補強処理を施すことが好ましい。
【0020】
〔第4工程〕
第4工程では、図1(d)に示すように、最上段部分3aに所定高さの下段部分3bを構築して上方に持ち上げることを繰り返すことにより側壁3を完成させる。すなわち、第4工程では、最上段部分3aの下端部と初期杭1aの上端との間に油圧ジャッキを所定間隔で複数介装することによって最上段部分3a及び屋根4を初期杭1aの上端から所望距離だけ上方に離間させ、この状態において最上段部分3aの直下に下段部分3bを連続状態に構築する。この下段部分3bは、所定高さ寸法h2を有するPCコンクリートである。
【0021】
そして、最初の下段部分3bの構築が完了すると、油圧ジャッキを下段部分3bの下端部と初期杭1aの上端との間に移動させることによって一体構造物としての下段部分3b、最上段部分3a及び屋根4を初期杭1aの上端から所望距離だけ上方に離間させ、下段部分3bの直下に次の下段部分3bを連続状態に構築することを複数回繰り返すことにより、図1(e)に示すように屋根4と一体化された側壁3を完成させる。なお、最上段部分3a及び下段部分3bにおいて油圧ジャッキの係合部には、荷重が局所的に作用するので、上記第3工程と同様に補強処理を施すことが好ましい。
【0022】
〔第5工程〕
続いて、第5工程では、図1(d)に示すように、上記第4工程と並行して側壁3下以外の地中に追加杭1bを打設する。すなわち、上記第4工程では油圧ジャッキによって屋根4が上方に順次移動するので、建設用敷地において側壁3(下段部分3b及び最上段部分3a)によって囲まれた円形内部領域は、追加杭1bを打設するために必要な高さを確保できる状態となる。したがって、第4工程と並行して第5工程を行うことが可能となる。ただし、第4工程の初期状態では、屋根4が比較的低いので、低空頭下でも追加杭1bが打設できるような杭の種類や杭打ち機を選定する必要がある。
【0023】
〔第6工程〕
第6工程では、図1(f)に示すように、初期杭1a及び追加杭1bを覆うように円形スラブ2を構築する。すなわち、第5工程が完了すると、建設用敷地において側壁3(下段部分3b及び最上段部分3a)によって囲まれた円形内部領域には、複数の杭1(初期杭1a及び追加杭1b)が所定の間隔で打設された状態となり、複数の杭1が上から作用する荷重を均等に受け持つことが可能な状態となる。円形スラブ2は、このような複数の杭1上にコンクリート床版として設けられ、複数の杭1とともにLNGタンクの基礎を構成する。
【0024】
なお、第5工程が完了すると、第6工程に先立って、PCコンクリート製の側壁3にプレストレスが付与される。すなわち、側壁3は、円筒状の鉄筋コンクリートの高さ方向の複数個所に、周方向に延在するPCストランドを挿通させたPCコンクリートであり、各PCストランドの両端部を引っ張って所望の張力を付与することにより円筒状の鉄筋コンクリートにプレストレスを付与する。
【0025】
このような本実施形態によれば、第5工程を第4工程と並行して実施することが可能なので、従来工法とは異なり並行作業が不可能ではなく、よってLNGタンクの施工工期を従来工法よりも大幅に短縮することが可能である。
また、本実施形態によれば、側壁3が完成すると、第5工程に係る円形スラブ2の構築工事の前段階で側壁3にプレストレスを付与する作業を行うので、円形スラブ2の構築工事の後で側壁3にプレストレスを付与する作業を行う場合よりも施工工期を短縮することができる。
【0026】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、杭基礎地上式PCLNGタンクを施工対象とする場合について説明したが、本発明は、これ以外の杭基礎式タンクにも適用可能である。例えば、本発明は、LPG(液化石油ガス)を貯留する杭基礎地上式PCLPGタンクにも適用可能である。また、施工対象は、地上式やPC方式、さらには二重殻構造に限定されない。
【0027】
(2)上記実施形態では、側壁3が完成した後に円形スラブ2を構築するようにしたが、第5工程に係る追加杭1bの打設工事が側壁3の完成前に完了した場合には、側壁3の完成前の段階で第5工程に係る円形スラブ2の構築工事を開始しても良い。このような対応をすることによって、LNGタンクの施工工期をさらに短縮することができる。
【符号の説明】
【0028】
1…杭、1a…初期杭、1b…追加杭、2…円形スラブ、3…側壁、3a…最上段部分、3b…下段部分、4…屋根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の杭を地中に打設して基礎を構築し、該基礎上にスラブ、側壁及び屋根を構築する杭基礎式タンクの施工方法であって、
少なくとも側壁下に位置する地中に初期杭を打設する第1工程と、
屋根を構築する第2工程と、
屋根を上方に持ち上げて当該屋根下に側壁の最上段部分を連設する第3工程と、
最上段部分に下段部分を構築して上方に持ち上げることを繰り返すことにより側壁を完成させる第4工程と、
当該第4工程と並行して側壁下以外の地中に追加杭を打設する第5工程と、
初期杭及び追加杭を覆うようにスラブを構築する第6工程と
を有することを特徴とする杭基礎式タンクの施工方法。
【請求項2】
屋根の外周あるいは側壁に沿って複数の油圧ジャッキを所定間隔で配置し、屋根あるいは側壁において油圧ジャッキとの係合部に補強処理を施して上方に持ち上げることを特徴とする請求項1記載の杭基礎式低温タンクの施工方法。
【請求項3】
側壁はプレストレスコンクリートとして構築され、側壁へのプレストレスは、スラブの構築前に付与されることを特徴とする請求項1または2記載の杭基礎式タンクの施工方法。
【請求項4】
杭基礎式タンクはLNG(液化天然ガス)を貯留することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の杭基礎式タンクの施工方法。

【図1】
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