説明

杭引抜き上げ装置

【課題】ウインチを用いることなく重たい杭を引き上げる。
【解決手段】内側に杭貫通空間Sを形成したケーシング2と、ケーシング2と杭貫通空間Sの間に配置してケーシング2に連結した杭落下防止用チャック3と、ケーシング2と杭貫通空間Sの間に配置してケーシング2に複数個の油圧シリンダ4を介して昇降自在に設けた杭引上げ用チャック5と、これらチャック3,5及び油圧シリンダ4を制御する制御装置を備え、制御装置は、杭落下防止用チャック3を把持状態にしたまま非把持状態の杭引上げ用チャック11を油圧シリンダ4で降下させるチャック降下時間帯と、両方のチャック3,5を同時に把持状態にする同時把持時間帯と、杭落下防止用チャック3を非把持状態にしたまま把持状態の杭引上げ用チャック5を油圧シリンダ4で上昇させる杭引上げ時間帯と、両方のチャック3,5を同時に把持状態にする同時把持時間帯とをこの順番で順次繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外回りが掘削された地中杭を地上へ引抜き上げる杭引抜き上げ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地中に埋設された不要な杭を撤去する工法としては、リーダに沿って昇降するオーガーマシンに回転駆動可能にケーシングを連結し、ケーシングの先端部の掘削刃で地中に埋設された杭の周囲を掘削して杭と地盤との縁を切り、杭の頭部へワイヤーを引っ掛けてウインチで強制的に引抜き上げる方法(特許文献1)や、同様にケーシングで杭の周囲を掘削して杭と地盤との縁を切った後に、ケーシングの下部に設けた複数の係止爪で杭を把持し、ウインチによるオーガーマシンの上昇移動によってケーシングと共に引抜き上げるがある(特許文献2)。
【特許文献1】特公平5−63576号公報
【特許文献2】特開2001−3362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来工法は、杭を引抜き上げるウインチの吊り上げ力が5トン程度であるため、軽量のPC杭を引抜くときに用いられている。ところで、大径のコンクリート杭は、直径1Mで長さ30Mの重量が54トン、直径1.5Mで長さ30Mの重量が122トン、直径2.0Mで長さ30Mの重量が217トンとなる。そのため、従来工法では、非常に重い大径のコンクリート杭をウインチで引抜き上げることができない問題がある。そこで、本発明は、上記問題を解決するために、ウインチを用いることなく重たい杭を引抜き上げることができる杭引抜き上げ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
ウインチを用いることなく重たい杭を引き上げるために請求項1記載の本発明が採用した手段は、内側に杭貫通空間を形成したケーシングと、該ケーシングと杭貫通空間の間に配置してケーシングに連結した杭落下防止用チャックと、該ケーシングと杭貫通空間の間に配置して該ケーシングに複数個の油圧シリンダを介して連結した昇降自在な杭引上げ用チャックと、これらチャック及び油圧シリンダを制御する制御装置を備え、該制御装置は、杭落下防止用チャックを把持状態にしたまま非把持状態の杭引上げ用チャックを油圧シリンダで降下させるチャック降下時間帯と、両方のチャックを同時に把持状態にする同時把持時間帯と、杭落下防止用チャックを非把持状態にしたまま把持状態の杭引上げ用チャックを油圧シリンダで上昇させる杭引上げ時間帯と、両方のチャックを同時に把持状態にする同時把持時間帯とをこの順番で順次繰り返すことを特徴とする杭引抜き上げ装置である。
本発明にあっては、杭貫通空間を杭が貫通するようにケーシングを固定し、チャック降下時間帯と同時把持時間帯と杭引上げ時間帯と同時把持時間帯とをこの順番で順次繰り返すことで、杭引上げ時間帯において杭を把持する杭引上げ用チャックで杭を油圧シリンダストローク寸法分づつ間欠的に引き上げることができ、複数個の油圧シリンダを用いることで引き上げ力を大きくして重たい杭を引き上げることができる。
【0005】
前記複数個の油圧シリンダの配置の自由度を増すために請求項2記載の本発明が採用した手段は、前記ケーシングは外側ケーシングと該外側ケーシングの上方から昇降自在に挿入した内側ケーシングを備え、外側ケーシングと内側ケーシングの間に前記複数個の油圧シリンダを配置し、外側ケーシングに前記杭落下防止用チャックを連結し、内側ケーシングに杭引上げ用チャックを連結した請求項1記載の杭引抜き上げ装置である。
本発明にあっては、内側ケーシングを介して複数個の油圧シリンダと杭引上げ用チャックを連結することで、外側ケーシングと内側ケーシングの間に複数個の油圧シリンダを分散して配置することが可能となる。
【0006】
杭外径の変化に対応させる請求項3記載の本発明が採用した手段は、前記杭引上げ用チャックは、前記杭貫通空間の外側に配置した複数組の爪具と、隣接する爪具どうしを連結して連結長さ寸法を変更できる連結具の複数個を備え、各組の爪具が待機位置と把持位置の間で進退する爪及び該爪を進退させる操作具を備えた請求項1又は2記載の杭引抜き上げ装置である。
本発明にあっては、杭外径寸法が杭長手方向に沿って大きく変化するために、杭引上げ用チャックの各爪を進退させることで把持できる杭外径寸法の範囲を超えたとき、複数個ある連結具の全部又は任意の連結長さ寸法を変更することで把持できる範囲を調節することができる。
【0007】
連結具の連結長さ寸法を簡単に調節できるように請求項4記載の本発明が採用した手段は、前記連結具は、一方の爪具に連結した一方のリンクと、他方の爪具に連結した他方のリンクと、傾斜領域を有する調節部と直線部を対峙させた楔状部を有し、両リンクの挿通孔へ該直線部に沿って挿通して該調節部が他方のリンクと接すると共に該直線部が一方のリンクと接する調節片と、該調節片と該一方のリンクの間に設けられて該調節片を進退させる進退操作具を備えた請求項3記載の杭引抜き上げ装置である。なお、杭の引上げに伴い前記連結具に大きな引張力が加わっても連結長さ寸法に変化を生じさせないために、調節片は、調節部の傾斜領域の両端側に直線部と平行に延設する平行部を設けて、平行部を他方のリンクと接するように構成することもある。
本発明にあっては、進退操作具の操作で調節片の楔状部が移動して両方のリンクに接する箇所の間の寸法が変化することにより、連結具の連結長さ寸法を変更できる。杭引上げ用チャックで杭を把持したときに、調節片を介して連結している両方のリンクに大きな引張力が加わっても、調節部を介して調節片に加わる押し戻し力を小さくできる。なお、調節片に設けた平行部が他方のリンクに接するときには、調節片に加わる押し戻し力がゼロとなり、調節片を移動させることなく杭引上げ用チャックで杭を確実に把持して引上げることができる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の本発明に係る杭引抜き上げ装置は、複数個の油圧シリンダを用いることで引き上げ力を大きくすることが可能となり、重たい杭を引き上げることができる。
請求項2記載の本発明に係る杭引抜き上げ装置は、外側ケーシングと内側ケーシングの間に複数個の油圧シリンダを分散して配置することが可能となるため、複数個の油圧シリンダの配置の自由度が増し、最適な位置に油圧シリンダを配置できる。
【0009】
請求項3記載の本発明に係る杭引抜き上げ装置は、連結具の連結長さ寸法を変更することで把持できる範囲を調節することが可能となり、杭外径の変化に対応できる。
請求項4記載の本発明に係る杭引抜き上げ装置は、進退操作具の操作で楔状の調節片を移動させることで、連結具の連結長さ寸法を簡単に調節できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る杭引抜き上げ装置(以下、「本発明装置」と言う。)を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1乃至図7は本発明装置の第1の実施の形態を示すものであり、図1は本発明装置1を示す正面断面図である。図2は杭引上げ用チャック5を拡大して示すものであって、(A)は部分断面した側面図、(B)は二組の爪具11,11と連結具12を展開すると共に二組の爪具11,11の連結長さ寸法Wを長くした状態を示す部分断面した正面図、(C)は(B)のC−C線で断面した平面断面図である。図3は杭引上げ用チャック5を拡大して示すものであって、二組の爪具11,11と連結具12を展開すると共に二組の爪具11,11の連結長さ寸法Wを短くした状態を示す部分断面した正面図である。図4は連結具12の別態様を示すものであって、(A)は連結長さ寸法を短くした状態を示す部分断面した正面図,(B)は連結長さ寸法を長くした状態を示す部分断面した正面図である。図5は杭落下防止用チャック3を拡大して示すものであって、(A)は部分断面した側面図、(B)は二組の爪具を展開して示す正面図である。図6は地中杭Pの上端寄り周りに形成した地表凹部Gaに本発明装置1を挿入する前の状態を示す部分断面した正面図である。図7は地中に挿入固定した本発明装置1を用いて地中杭Pを引抜き上げる作業の各工程を示すものであって、(A)は杭落下防止用チャック3を把持状態にしたまま非把持状態の杭引上げ用チャック5を油圧シリンダ4で降下させるチャック降下時間帯の状態を示す半裁した縦断面図、(B)は両方のチャック3,5を同時に把持状態にする同時把持時間帯の状態を示す半裁した縦断面図、(C)は杭落下防止用チャック3を非把持状態にしたまま把持状態の杭引上げ用チャック5を油圧シリンダ4で上昇させる杭引上げ時間帯の状態を示す半裁した縦断面図、(D)は地中杭Pを引上げた後に両方のチャック3,5を同時に把持状態にする同時把持時間帯の状態を示す半裁した縦断面図である。
【0012】
本発明装置1は、図1に示す如く、内側に杭貫通空間Sを形成したケーシング2と、ケーシング2と杭貫通空間Sの間に配置してケーシング2に連結した杭落下防止用チャック3と、ケーシング2と杭貫通空間Sの間に配置してケーシング2に複数個の油圧シリンダ4を介して連結した昇降自在な杭引上げ用チャック5と、これらチャック3,5及び油圧シリンダ4を制御する制御装置(図示略)を備えている。
【0013】
前記ケーシング2は、円筒状の外側ケーシング6と、外側ケーシング6の上方から昇降自在に挿入した円筒状の内側ケーシング7とからなり、外側ケーシング6と内側ケーシング7の間に複数個の油圧シリンダ4を配置し、外側ケーシング6に杭落下防止用チャック3を連結し、内側ケーシング7に杭引上げ用チャック5を連結してある。本例の外側ケーシング6は、下端側に連結部6aを設けて、掘削用ケーシング10(図6参照)の上端10aに連結できるようにしてある。外側ケーシング6は、外周面上に土砂排出用螺旋羽根6bを必要に応じて設けてある。
【0014】
前記複数個の油圧シリンダ4は、外側ケーシング6から突出する内側ケーシング7の外側に分散して配置して、各油圧シリンダ4の上端側をブラケット8を介して内側ケーシング7に連結し、下端側をブラケット9を介して外側ケーシング6に連結してある。油圧シリンダ4は、例えば、シリンダ内径が200mmφで油圧が70Kg/cm2のとき、一本当たりの引き上げ力が約21トン程度となり、11本を設けることで231トンの引き上げ力を得ることができる。複数個の油圧シリンダ4は、同期して昇降するように制御装置(図示略)との間で油圧配管してある。
【0015】
前記杭引上げ用チャック5は、図2及び図3に示す如く、杭貫通空間Sの外側周囲に分散配置して内側ケーシング7へ揺動自在に吊り下げた複数組の爪具11と、隣接する爪具11,11どうしを連結して連結長さ寸法を変更できる連結具12の複数個を備え、複数組の爪具11を連結具12で環状に連結してある。各組の爪具11は、案内具13と、案内具13に案内されて非把持位置Fと把持位置Eの間で進退する爪14と、爪14を非把持状態から把持状態へ進退操作する操作具15を備えている。案内具13は、内側ケーシング7に取着したブラケット16に、中間リンク17を介して揺動自在に吊り下げられている。爪14は、案内具13の案内溝13aに上下摺動自在に案内されるスライダーとなっており、該ブラケット16に油圧シリンダからなる操作具15を介して吊り下げられている。案内具13は、案内溝13aで案内する爪14が、下方へ移動するのに伴って杭貫通空間Sへ向かって移動して非把持状態から把持状態へ移行するように、案内溝13aを傾斜状態にしてある。杭引上げ用チャック5は、案内溝13aを傾斜状態にすることで、把持状態で持ち上げたときに、爪14が杭Pの外周面へ食い込むようになる。
【0016】
前記杭引上げ用チャック5は、重たい杭Pを持ち上げることができる把持力を得るために、爪具11の個数、爪14の把持面の面積及び形状及び杭Pの外周面に対する爪14の押圧力が選択される。
【0017】
隣接する爪具11,11どうしを連結する連結具12は、一方の爪具11(図2(B)中の左側)に連結したリンク18と、他方の爪具11(同図中の右側)に連結したリンク19と、両リンク18,19の挿通孔18a,19aへ進退自在に挿通する調節片20と、調節片20と一方のリンク18の間に設けて調節片20を進退させる操作具21とを備えている。両リンク18,19は、隣接する爪具11,11どうしの上下側を連結するように二組を設けてある。調節片20は、傾斜領域を有する調節部20aと直線部20bを対峙させた楔状部20cを有し、両リンク18,19の挿通孔18a,19aへ直線部20bに沿って進退しつつ、調節部20aが他方のリンク19と接すると共に直線部20bが一方のリンク18と接するようになっている。調節片20は、二組の両リンク18,19に対応するように、二箇所に楔状部20cを設けてある。調節片20は、他方のリンク19と接す調節部20aの箇所が移動することで、隣接する爪具11,11の間の連結長さ寸法Wを、長い状態(図2(B)に示す状態)から短い状態(図3に示す状態)まで変更させることができる。調節片20を進退させる操作具21は、一方のリンク18に取着したブラケット29と、ブラケット29と調節片20とに連結した油圧シリンダ30を備えて、油圧シリンダ30の出力軸を伸縮させることで調節片20を進退させるようにしてある。
【0018】
なお、調節片20は、図4に示す如く、調節部20aの傾斜領域の両端側に、直線部20bと平行に延設する平行部20d,20dを設けて、各平行部20dを他方のリンク19と接するように構成することもある。調節片20は、移動して他方のリンク19と接す平行部20dを変更することで、隣接する爪具11,11の間の連結長さ寸法Wを、長い状態(図2(B)に示す状態)から短い状態(図3に示す状態)まで調節できる。調節片20に設けた平行部20dが他方のリンク19に接するときには、杭Pを把持することでリンク18,19に大きな引張り力が加わっても、調節片20を直線部20bに沿って移動させる押し戻し力が生じないため、調節片20を移動させることなく杭引上げ用チャック5で杭Pを確実に把持して引上げることができる。
【0019】
前記杭落下防止用チャック3は、図5に示す如く、杭貫通空間Sの外側周囲に分散配置して外側ケーシング6に連結した複数組の爪具23からなる。各組の爪具23は、案内具25と、案内具25に案内されて非把持位置Jと把持位置Kの間で進退する爪26と、爪26を非把持状態から把持状態へ進退操作する操作具24を備えている。案内具25は、外側ケーシング6に固定されるか、図示は省略しが、外側ケーシング6に取着したブラケット27に中間リンク(図示略)を介して揺動自在に吊り下げられている。爪26は、案内具25の案内溝25aに上下摺動自在に案内されるスライダーとなっており、ブラケット27に油圧シリンダからなる操作具24を介して吊り下げられている。案内具25は、案内溝25aで案内する爪26が、下方へ移動するのに伴って杭貫通空間Sへ向かって移動して非把持状態から把持状態へ移行するように、案内溝25aを傾斜状態にしてある。杭落下防止用チャック3は、案内溝25aを傾斜状態にすることで、把持状態の爪26が杭Pの外周面へ食い込むようになる。
【0020】
間欠的に引上げた地中杭Pを一時的に把持して落下を単に防止するだけの杭落下防止用チャック3は、杭Pを引上げる前記杭引上げ用チャック5に比べて把持力を弱くできる。そのため、本例の杭落下防止用チャック3は、案内具25の案内溝25aの勾配を前記杭引上げ用チャック5に備えた案内具13の案内溝13aに比べて急勾配にしてあり、各爪26の杭貫通空間Sへ向かう移動寸法を大きくし、杭Pの公称径に対する誤差が大きくなっても対処できるようにしてある。なお、外側ケーシング6に案内具25を揺動自在に吊り下げるときには、前記杭引上げ用チャック5の場合と同様に、隣接する爪具23の案内具25どうしを連結具12(図2及び図3参照)で連結して連結長さ寸法を変更できるようにし、杭Pの公称径に対する誤差が非常に大きくなる場合に対処できるようにすることもある。
【0021】
前記制御装置は、図7に示す如く、杭落下防止用チャック3を把持状態にしたまま非把持状態の杭引上げ用チャック5を油圧シリンダ4で降下させるチャック降下時間帯(同図(A)参照)と、両方のチャック3,5を同時に把持状態にする同時把持時間帯(同図(B)参照)と、杭落下防止用チャック3を非把持状態にしたまま把持状態の杭引上げ用チャック5を油圧シリンダ4で上昇させる杭引上げ時間帯(同図(C)参照)と、杭引上げ用チャック5を上昇させた後に両方のチャック3,5を同時に把持状態にする同時把持時間帯(同図(D)参照)とをこの順番で順次繰り返すように構成してある。
【0022】
前記チャック降下時間帯(同図(A)参照)では、杭落下防止用チャック3の各爪具23に備えた油圧シリンダからなる操作具24の出力軸を突出させ、各爪26を杭Pへ向かって移動させて杭Pを把持する共に、杭引上げ用チャック5の各爪具11に備えた油圧シリンダからなる操作具15の出力軸を後退させ、各爪14を杭Pから離隔する方向へ向かって移動させて非把持状態にする。
【0023】
前記同時把持時間帯(同図(B)参照)では、杭落下防止用チャック3の把持状態を維持させたまま、杭引上げ用チャック5の各爪具11に備えた油圧シリンダからなる操作具15の出力軸を突出させ、各爪14を杭Pへ向かって移動させて杭Pを把持する。続く、前記杭引上げ時間帯(同図(C)参照)では、杭引上げ用チャック5の把持状態を維持させたまま、杭落下防止用チャック3の各爪具23に備えた油圧シリンダからなる操作具24の出力軸を後退させて各爪26を杭Pから離隔する方向へ向かって移動させて非把持状態にした後に、複数の油圧シリンダ4の各出力軸を同期状態で突出させ、杭Pを把持している杭引上げ用チャック5と共に内側ケーシング7を持ち上げて、油圧シリンダ4の出力軸のストローク寸法Lだけ杭Pを引き抜くように持ち上げる。
【0024】
次に、同時把持時間帯(同図(D)参照)では、杭引上げ用チャック5の把持状態を維持させたまま、杭落下防止用チャック3の各爪具23に備えた油圧シリンダからなる操作具24の出力軸を突出させ、各爪26を杭Pへ向かって移動させて杭Pを把持する。続く、前記チャック降下時間帯(同図(A)参照)では、杭落下防止用チャック3の把持状態を維持させたまま、杭引上げ用チャック5の各爪具11に備えた油圧シリンダからなる操作具15の出力軸を後退させ、各爪14を杭Pから離隔する方向へ向かって移動させて非把持状態にした後に、複数の油圧シリンダ4の各出力軸を同期状態で後退させ、非把持状態の杭引上げ用チャック5と共に内側ケーシング7を前記ストローク寸法Lだけ降下させる。
【0025】
前記制御装置は、油の圧送及び回収を行う油圧ユニット、シーケンス制御部及び該シーケンス制御部で制御される切替弁等を備え、杭落下防止用チャック3に備えた油圧シリンダからなる各操作具24、杭引上げ用チャック5に備え油圧シリンダからなる各操作具15及び複数の油圧シリンダ4に対する油の圧送及び回収を順次制御することで、前記チャック降下時間帯、同時把持時間帯、杭引上げ時間帯及び同時把持時間帯をこの順番で順次繰り返すようにしてある。
【0026】
次に、本発明装置1を用いて地中杭Pを引抜き上げる方法を各作業工程に基づいて説明する。第1の掘削工程は、図6に示す如く、杭Pの周囲を掘削して杭Pと地盤Gとの縁を切る。この掘削は、リーダ(図示略)に沿って昇降するオーガーマシンに連結した掘削用ケーシング10で行い、掘削用ケーシング10の先端に設けた掘削刃10bで杭Pの回りを掘削しつつ、掘削用ケーシング10の外周に備えた土砂排出用螺旋羽根10cで土砂を地上に排出して行う。
【0027】
第2の本発明装置挿入工程は、図6に示す如く、地中杭Pの上端寄り周りに形成した地表凹部Gaに本発明装置1を挿入し、掘削用ケーシング10の上端10aに本発明装置1の外側ケーシング6の下端の連結部6aを嵌合させるようにして連結する。このとき、本発明装置1は、杭落下防止用チャック3及び杭引上げ用チャック5を非把持状態にしておく。
【0028】
第3の杭引抜き上げ工程は、図7に示す如く、制御装置(図示略)で杭落下防止用チャック3及び杭引上げ用チャック5に設けた油圧シリンダからなる各操作具15,24と、杭引上げ用チャック5で把持した地中杭Pを持ち上げる複数本の油圧シリンダ4とを制御することで、杭落下防止用チャック3を把持状態にしたまま非把持状態の杭引上げ用チャック5を油圧シリンダ4で降下させるチャック降下操作(同図(A)参照)と、両方のチャック3,5を同時に把持状態にする同時把持操作(同図(B)参照)と、杭落下防止用チャック3を非把持状態にしたまま把持状態の杭引上げ用チャック5を油圧シリンダ4で上昇させる杭引上げ操作(同図(C)参照)と、地中杭Pを引上げ後に両方のチャック3,5を同時に把持状態にする同時把持操作(同図(D)参照)をこの順番で順次繰り返し、油圧シリンダ4の出力軸のストローク寸法Lづつ間欠的に杭Pを引抜き上げる。本発明装置1は複数個の油圧シリンダ4を用いることで引き上げ力を大きくすることが可能となり、重たい杭Pを引き上げることができる。
【0029】
ところで、大径の杭は、地盤に掘削した孔に、鉄金を挿入した後にコンクリートを打設する現場打杭工法で施工されるが、掘削孔の内周面に生じた部分的な崩落等により局部的に大径となっていることがある。この局部的に大径となっている箇所は、第1工程において地中杭Pの回りを掘削するときに、掘削用ケーシング10の掘削刃10bである程度削り取られるが、真円にはならない。そこで、地中杭Pの大径となっている箇所の寸法が、杭引上げ用チャック5の公称径における把持できる許容範囲を越える場合には、図2及び図3に示す如く、杭引上げ用チャック5に設けた連結具12で隣接する爪具11,11の連結長さ寸法Wを調節して地中杭Pを把持できる範囲に変更する。本例の場合には、連結具12の調節片20を押し下げることにより連結長さ寸法Wを長くでき(図2(B),図4(B)参照)、逆に、連結具12の調節片20を持ち上げることにより連結長さ寸法Wを短くできる(図3,図4(A)参照)。地中杭Pの大径の程度により調節する連結具12の個数を選択することで、広い範囲わたって段階的に調節できる。
【0030】
前記第3の杭引抜き上げ工程において、地中杭Pを適宜寸法だけ引抜き上げたならば、両方のチャック3,5を同時に把持状態にして、地上に突出した杭Pの部分を切断分離する。地中杭Pの引抜きが終了したならば、本発明装置1及び掘削用ケーシング10を地中から撤去し、杭Pの撤去された後の残孔を埋め戻して作業を完了する。
【0031】
(第2の実施の形態)
図8は第2の実施の形態に係る本発明装置31の示すものであり、(A)は杭落下防止用チャック3で杭Pを把持しつつ、非把持状態の杭引上げ用チャック5を油圧シリンダ4で降下させた状態を示す正面断面図、(B)は杭落下防止用チャック3を非把持状態にして、把持状態の杭引上げ用チャック5を杭Pと共に油圧シリンダ4で上昇させた状態を示す正面断面図である。
【0032】
本実施の形態に係る本発明装置31が前記第1の実施の形態に係る本発明装置1と大きく相違する箇所は、内側に杭貫通空間Sを形成したケーシング32を一個とし、ケーシング32と杭貫通空間Sの間に配置した杭引上げ用チャック5を、複数個の油圧シリンダ4を介してケーシング32に昇降自在に吊り下げた点である。この相違点以外の構成は、前記第1の実施の形態に係る本発明装置31と実質的に同一であり、図中に示した同一の符号は同一の構成部材等を指す。
【0033】
本発明装置31は、杭引上げ用チャック5を上方に配置し、杭落下防止用チャック3を下方に配置してあるが、逆に配置することも勿論可能である。杭引上げ用チャック5は、ケーシング32に油圧シリンダ4を介して爪具11を昇降自在に吊り下げ、前記第1の実施の形態と同様に隣接する爪具11,11どうしを連結具12で連結して連結長さ寸法を変更できるようにしてある(図2,図3及び図4参照)。
【0034】
本発明装置31に備えた制御装置は、杭落下防止用チャック3を把持状態にしたまま非把持状態の杭引上げ用チャック5を油圧シリンダ4で降下させるチャック降下時間帯(同図(A)参照)と、両方のチャック3,5を同時に把持状態にする同時把持時間帯(図示略)と、杭落下防止用チャック3を非把持状態にしたまま把持状態の杭引上げ用チャック5を油圧シリンダ4で上昇させる杭引上げ時間帯(同図(B)参照)と、杭引上げ用チャック5を上昇させたまま両方のチャック3,5を同時に把持状態にする同時把持時間帯(図示略)とをこの順番で順次繰り返すように構成してある。
【0035】
本発明装置31を用いて地中杭Pを引抜き上げる作業は、前記第1の実施の形態における第1の掘削工程、第2の本発明装置挿入工程及び第3の杭引抜き上げ工程と同様の作業を行い、油圧シリンダ4の出力軸のストローク寸法Lづつ間欠的に杭Pを引抜き上げでいく。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明装置の第1の実施の形態を示すものであり、本発明装置を示す正面断面図である。
【図2】同実施の形態における杭引上げ用チャックを拡大して示すものであって、(A)は部分断面した側面図、(B)は二組の爪具と連結具を展開すると共に二組の爪具の連結長さ寸法を長くした状態を示す部分断面した正面図、(C)は(B)のC−C線で断面した平面断面図である。
【図3】同実施の形態における杭引上げ用チャックを拡大して示すものであって、二組の爪具と連結具を展開すると共に二組の爪具の連結長さ寸法を短くした状態を示す部分断面した正面図である。
【図4】連結具の別態様を示すものであって、(A)は連結長さ寸法を短くした状態を示す部分断面した正面図、(B)は連結長さ寸法を長くした状態を示す部分断面した正面図である。
【図5】杭落下防止用チャックを拡大して示すものであって、(A)は部分断面した側面図、(B)は二組の爪具を展開して示す正面図である。
【図6】地中杭の上端寄り周りに形成した地表凹部に本発明装置を挿入する前の状態を示す部分断面した正面図である。
【図7】地中に挿入固定した本発明装置を用いて杭を引抜き上げる作業の各工程を示すものであって、(A)は杭落下防止用チャックを把持状態にしたまま非把持状態の杭引上げ用チャックを油圧シリンダで降下させるチャック降下時間帯の状態を示す半裁した縦断面図、(B)は両方のチャックを同時に把持状態にする同時把持時間帯の状態を示す半裁した縦断面図、(C)は杭落下防止用チャックを非把持状態にしたまま把持状態の杭引上げ用チャックを油圧シリンダで上昇させる杭引上げ時間帯の状態を示す半裁した縦断面図、(D)は地中杭を引上げた後に両方のチャックを同時に把持状態にする同時把持時間帯の状態を示す半裁した縦断面図である。
【図8】本発明装置の第2の実施の形態を示すものであり、(A)は杭落下防止用チャックで杭を把持しつつ、非把持状態の杭引上げ用チャック5を油圧シリンダ4で降下させた状態を示す正面断面図、(B)は杭落下防止用チャック3を非把持状態にして、把持状態の杭引上げ用チャック5を杭Pと共に油圧シリンダ4で上昇させた状態を示す正面断面図である。
【符号の説明】
【0037】
2…ケーシング、3…杭落下防止用チャック、4…油圧シリンダ、5…杭引上げ用チャック、S…杭貫通空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に杭貫通空間を形成したケーシングと、該ケーシングと杭貫通空間の間に配置してケーシングに連結した杭落下防止用チャックと、該ケーシングと杭貫通空間の間に配置して該ケーシングに複数個の油圧シリンダを介して連結した昇降自在な杭引上げ用チャックと、これらチャック及び油圧シリンダを制御する制御装置を備え、該制御装置は、杭落下防止用チャックを把持状態にしたまま非把持状態の杭引上げ用チャックを油圧シリンダで降下させるチャック降下時間帯と、両方のチャックを同時に把持状態にする同時把持時間帯と、杭落下防止用チャックを非把持状態にしたまま把持状態の杭引上げ用チャックを油圧シリンダで上昇させる杭引上げ時間帯と、両方のチャックを同時に把持状態にする同時把持時間帯とをこの順番で順次繰り返すことを特徴とする杭引抜き上げ装置。
【請求項2】
前記ケーシングは外側ケーシングと該外側ケーシングの上方から昇降自在に挿入した内側ケーシングを備え、外側ケーシングと内側ケーシングの間に前記複数個の油圧シリンダを配置し、外側ケーシングに前記杭落下防止用チャックを連結し、内側ケーシングに杭引上げ用チャックを連結した請求項1記載の杭引抜き上げ装置。
【請求項3】
前記杭引上げ用チャックは、前記杭貫通空間の外側に配置した複数組の爪具と、隣接する爪具どうしを連結して連結長さ寸法を変更できる連結具の複数個を備え、各組の爪具が待機位置と把持位置の間で進退する爪及び該爪を進退させる操作具を備えた請求項1又は2記載の杭引抜き上げ装置。
【請求項4】
連結具の連結長さ寸法を簡単に調節できるように請求項4記載の本発明が採用した手段は、前記連結具は、一方の爪具に連結した一方のリンクと、他方の爪具に連結した他方のリンクと、傾斜領域を有する調節部と直線部を対峙させた楔状部を有し、両リンクの挿通孔へ該直線部に沿って挿通して該調節部が他方のリンクと接すると共に該直線部が一方のリンクと接する調節片と、該調節片と該一方のリンクの間に設けられて該調節片を進退させる進退操作具を備えた請求項3記載の杭引抜き上げ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−37657(P2006−37657A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222756(P2004−222756)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(591278116)
【Fターム(参考)】