説明

杭打機及びスプロケットの保持構造

【課題】作業装置の移動力を高めながら簡単な構造で駆動側スプロケットが油圧モータの出力軸から抜け落ちることを防止して掘削作業の中断を回避することができる杭打機を提供する。
【解決手段】リーダ1に沿って昇降する作業装置をチェーン10を介して昇降させるための杭打機の作業装置昇降手段3は、リーダの下部に出力軸4,4同士を一直線上にして対向配置した一対の油圧モータ5,5と、各油圧モータの各出力軸にそれぞれ結合して保持部材8に保持された駆動側スプロケット6,6と、両駆動側スプロケット同士の間に挟着された環状部材9とを備え、環状部材は、保持部材を挿入可能な内径を有し、先端面が駆動側スプロケットに対して回転可能な状態で当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭打機及びスプロケットの保持構造に関し、詳しくは、杭打機のリーダ下部に設けた油圧モータに駆動側スプロケットを装着し、この駆動側スプロケットとリーダ上部に設けた従動側スプロケットとの間に掛け渡したチェーンによってオーガなどの作業装置をリーダに沿って昇降させる作業装置昇降手段を備えた杭打機に関するとともに、油圧モータのような回転駆動手段の出力軸に装着されるスプロケットを確実に保持できるスプロケットの保持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ベースマシンの前部に立設されるリーダに沿ってオーガなどの作業装置を昇降させるための作業装置昇降手段として、減速器を内蔵した油圧モータとチェーンとを設けた杭打機が知られている。このような杭打機では、リーダの下部に油圧モータを配置し、その出力軸に駆動側スプロケットを装着するとともに、リーダの上部に従動側スプロケットを設け、駆動側スプロケットと従動側スプロケットとに掛け渡したチェーンに作業装置を連結し、前記油圧モータを作動させて駆動側スプロケットを介してチェーンを移動させることにより作業装置を昇降させる(例えば、特許文献1参照。)。また、油圧モータやチェーンなどの駆動手段を2組設けて作業装置の昇降力(移動力)を増大させた杭打機も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平11−303077号公報
【特許文献2】特開2000−282464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような杭打機の作業装置昇降手段をはじめとして、回転駆動手段である油圧モータの出力軸にスプロケットを装着する際には、出力軸外周とスプロケットの軸穴とをセレーションやキーを介して結合させ、出力軸と一体にスプロケットが回転するようにするとともに、出力軸の先端に保持部材をボルトで止着することにより、出力軸からスプロケットが抜け落ちないようにしている。
【0004】
しかし、杭打機の作業装置昇降手段では、大きなトルクを必要とするだけでなく、頻繁に正逆回転を切り換えるため、長期にわたる使用で出力軸とスプロケットとの結合状態が緩んでくることがある。出力軸とスプロケットとの結合状態が緩むと、回転駆動手段の始動時に出力軸の回転開始に僅かに遅れてスプロケットが回転を開始する状態になり、この出力軸とスプロケットとの回転開始のズレが保持部材に回転力として伝達され、保持部材を止着しているボルトに剪断力として作用し、ボルトが破断してしまうことがあった。保持部材を止着しているボルトが破断し、保持部材が出力軸先端から外れてしまうと、スプロケットが出力軸から抜け落ちて作業の続行が不可能になってしまう。さらに、出力軸の先端側に軸受を設けてスプロケットを両側から支持することも行われているが、この場合は、ベアリングなどの軸受部材が増加するため、製造コストや保守コストが増大するという問題がある。
【0005】
また、作業装置の移動力を高める場合、標準の油圧モータを能力の大きな大型の油圧モータに交換することが行われているが、大型の油圧モータは、一般に特注品であることが多いので、大幅なコストアップを招くことになる。さらに、引張力の増大に対応するため、チェーンとしてダブルチェーンやトリプルチェーンを使用することも行われているが、張りを一定状態に保つことが難しく、チェーンの切断を確実に避けることはできなかった。
【0006】
そこで本発明は、作業装置の移動力を高めながら簡単な構造で駆動側スプロケットが油圧モータの出力軸から抜け落ちることを防止して掘削作業の中断を回避することができる杭打機を提供するとともに、油圧モータやチェーンなどの駆動手段を2組設けた際の出力軸へのスプロケットの保持を確実に行うことができるスプロケットの保持構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の杭打機は、ベースマシンの前部に立設されるリーダと、該リーダに沿って昇降可能に設けられた作業装置と、前記リーダに設けられた作業装置をチェーンを介して昇降させる作業装置昇降手段とを備えた杭打機において、前記作業装置昇降手段は、前記リーダの下部又は上部のいずれか一方に出力軸同士を一直線上に位置させて対向配置した一対の油圧モータと、各油圧モータの各出力軸にそれぞれ結合した駆動側スプロケットと、前記各出力軸の先端にそれぞれ止着されて該出力軸に結合した前記駆動側スプロケットを出力軸に保持する保持部材と、両駆動側スプロケット同士の間に挟着された環状部材と、前記リーダの上部又は下部のいずれか他方に設けられた一対の従動側スプロケットと、前記各駆動側スプロケットと前記各従動側スプロケットとにそれぞれ掛け渡されるとともに前記作業装置に連結された一対のチェーンとを備え、前記環状部材は、前記保持部材を挿入可能な内径を有し、先端面が駆動側スプロケットに対して回転可能な状態で当接していることを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明の杭打機は、前記駆動側スプロケットの内周側に設けられたボス部の端部外周に、前記環状部材の内径に対応した外径を有する小径部を形成するとともに、該小径部を前記環状部材の開口端内周に嵌合したことを特徴としている。
【0009】
また、本発明のスプロケットの保持構造は、回転駆動手段の出力軸に結合した駆動側スプロケットを、出力軸の先端に止着される保持部材により出力軸に保持したスプロケットの保持構造であって、一対の回転駆動手段を、その出力軸同士を一直線上に位置させて対向配置し、各出力軸に駆動側スプロケットを結合して前記保持部材によって各駆動側スプロケットを各出力軸にそれぞれ保持するとともに、両駆動側スプロケット同士の間に環状部材を挟着させたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保持部材が出力軸先端から外れたとしても、環状部材によって出力軸から駆動側スプロケットが抜け落ちることを確実に防止できる。また、2台の回転駆動手段の出力軸を対向させて配置し、両出力軸にそれぞれ結合した駆動側スプロケット同士の間に環状部材、例えば適当な口径の金属パイプを所定の長さに切断したものを設けるだけの簡単な構造で実施できるので、製造コストや保守コストの増加もほとんどない。さらに、環状部材は駆動側スプロケットに固定しないため、チェーンが緩んで長さが不揃いになったときでも、各駆動側スプロケットで個別に各チェーンをそれぞれ駆動する状態になるので、チェーンの張力が片寄ることがなく、一方のチェーンに高負荷が掛かって切れることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1及び図2は本発明のスプロケットの保持構造を作業装置昇降手段として採用した本発明の杭打機の一形態例を示すもので、図1は杭打機のリーダ下部に設けた作業装置昇降手段の要部を示す要部断面図、図2は図1のII-II断面図である。なお、本発明の対象となる杭打機は、基本的に、ベースマシンの前部に立設されるリーダにオーガなどの作業装置をリーダに沿って昇降可能に設けるとともに、前記リーダに前記作業装置をチェーンを介して昇降させるための作業装置昇降手段を備えた周知の杭打機であって、作業装置昇降手段を除く構成は、この種の一般的な杭打機と同様に形成することができるので、杭打機全体の図示及び説明は省略する。
【0012】
杭打機のリーダ1は、ベースマシンの前部に設けられたフロントブラケット2に起伏可能に装着されており、該リーダ1の下部に作業装置昇降手段3が設けられている。この作業装置昇降手段3は、前記リーダ1の下部両側面に減速装置からの出力軸4,4同士を一直線上に位置させて対向配置された一対の減速器内蔵式の油圧モータ5,5と、前記各出力軸4,4にそれぞれ結合した駆動側スプロケット6,6と、前記各出力軸4,4の先端にそれぞれボルト7,7により止着された駆動側スプロケット6,6の保持部材8,8と、両駆動側スプロケット6,6同士の間に挟着された環状部材9と、前記リーダ1の上部に設けられた一対の従動側スプロケット(図示せず)と、前記各駆動側スプロケット6,6,と前記各従動側スプロケットとにそれぞれ掛け渡されるとともに作業装置(図示せず)に連結された一対のチェーン10,10とを備えている。
【0013】
駆動側スプロケット6の内周側には、駆動側スプロケット6の両側に突出したボス部6aが設けられており、このボス部6aの内周面と前記出力軸4の外周面とがセレーション結合することによって出力軸4と駆動側スプロケット6とが一体回転するように形成されている。保持部材8は、出力軸4の外径より大きく、ボス部6aの外径より小さな外径を有する円盤状の板材であって、この保持部材8をボルト7で出力軸4の先端に締付固定するときには、必要に応じて保持部材8と出力軸4との間にスペーサを介在させ、ボス部6aの外端面と保持部材8との間に僅かな隙間を設けるようにしている。
【0014】
前記環状部材9は、前記ボス部6a,6aの対向する外端面間に設けられるものであって、前記保持部材8の外径より大きな内径を有する金属パイプを所定の長さに切断して形成することができる。環状部材9の周壁には、取付後に環状部材9内にグリスなどの潤滑剤を注入するための注入部11が設けられている。また、前記両ボス部6aの外端面外周には、前記環状部材9の内径に対応させて、環状部材9の内径に等しいか僅かに小さな外径を有する小径部6bがそれぞれ形成されており、環状部材9は、保持部材8を止着した前記小径部6bを両開口端内周に挿入して小径部6bの外周面と環状部材9の開口端内周面とを回転可能な状態で嵌合させ、小径部6bの基端部に形成される段部に開口先端面をそれぞれ当接させて液密な状態で取り付けられる。
【0015】
作業装置昇降手段3は、駆動側スプロケット6及び保持部材8を取り付けた油圧モータ5の一方をリーダ1の下部一側面に取り付けた後、いずれか一方の駆動側スプロケット6の小径部6bに環状部材9の一端を嵌合させた状態で、環状部材9の他端を他方の駆動側スプロケット6の小径部6bに嵌合させるようにして他方の油圧モータ5をリーダ1の下部他側面に取り付け、さらに、前記注入部11から環状部材9内にグリスなどの潤滑剤を充填して組み立てられる。
【0016】
このように形成した作業装置昇降手段3は、2台の油圧モータ5を使用していることから、大型で高価な油圧モータを使用することなく、汎用の安価な油圧モータを使用して作業装置を昇降させる移動力を高めることができる。また、リーダ1の下部に2台の油圧モータ5を配置しているので、リーダ1の上部に油圧モータ5を配置した場合に比べて重心を低くでき、安定性を向上できるとともに、油圧配管を長くする必要もない。
【0017】
そして、2台の油圧モータ5を、その出力軸4を一直線上に位置させて対向配置するとともに、各油圧モータ5の出力軸4に結合した駆動側スプロケット6の間に環状部材9を挟み込むようにして設けているので、ボルト7が破断して保持部材8が出力軸4の先端から外れたとしても、環状部材9によって駆動側スプロケット6が出力軸4から抜け落ちることを確実に防止できる。
【0018】
また、環状部材9は、駆動側スプロケット6のボス部6aに形成した小径部6bに回転可能な状態で、かつ、液密な状態で嵌合しているので、チェーン10の緩みで両チェーン10の長さが不揃いになったときでも、各チェーン10の引っ張り側が所定の張力で張った状態になるまで、始動時に各油圧モータ5がそれぞれ自由に回転し、その後に同じ引張力でチェーン10を引っ張ることになるので、一方のチェーン10に高負荷が掛かって切断してしまうこともない。さらに、環状部材9内にグリスなどの潤滑剤を充填しておくことにより、摩擦力を軽減し、各油圧モータ5の始動時に回転差を生じても環状部材9に捩れ力などが加わることを抑えることができる。
【0019】
また、環状部材9の開口端をボス部6aの端部外周に形成した小径部6bに嵌合させることにより、組立時の環状部材9の保持を容易に行えるとともに、作業装置昇降手段3の作動時にガタつきなく確実に両駆動側スプロケット6,6間に挟着保持することができ、長期にわたって安定した使用状態が得られる。さらに、環状部材9は、適当な口径の金属パイプを所定長さに切断するだけで形成できるので、製造コストや保守コストの増加もほとんどない。
【0020】
なお、環状部材9は、両駆動側スプロケット6,6間に挟着されていれば、位置や口径は任意に選択することができ、環状部材9の一端を一方のスプロケットに溶接などで固着することも可能である。また、この作業装置昇降手段3と同様にして環状部材で一対の駆動側スプロケットを保持する構造は、杭打機に限らず他の駆動装置にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一形態例を示す杭打機のリーダ下部に設けた作業装置昇降手段の要部を示す要部断面図である。
【図2】図1のII-II断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1…リーダ、2…フロントブラケット、3…作業装置昇降手段、4…出力軸、5…油圧モータ、6…駆動側スプロケット、6a…ボス部、6b…小径部、7…ボルト、8…保持部材、9…環状部材、10…チェーン、11…注入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースマシンの前部に立設されるリーダと、該リーダに沿って昇降可能に設けられた作業装置と、前記リーダに設けられた作業装置をチェーンを介して昇降させる作業装置昇降手段とを備えた杭打機において、前記作業装置昇降手段は、前記リーダの下部又は上部のいずれか一方に出力軸同士を一直線上に位置させて対向配置した一対の油圧モータと、各油圧モータの各出力軸にそれぞれ結合した駆動側スプロケットと、前記各出力軸の先端にそれぞれ止着されて該出力軸に結合した前記駆動側スプロケットを出力軸に保持する保持部材と、両駆動側スプロケット同士の間に挟着された環状部材と、前記リーダの上部又は下部のいずれか他方に設けられた一対の従動側スプロケットと、前記各駆動側スプロケットと前記各従動側スプロケットとにそれぞれ掛け渡されるとともに前記作業装置に連結された一対のチェーンとを備え、前記環状部材は、前記保持部材を挿入可能な内径を有し、先端面が駆動側スプロケットに対して回転可能な状態で当接していることを特徴とする杭打機。
【請求項2】
前記駆動側スプロケットの内周側に設けられたボス部の端部外周に、前記環状部材の内径に対応した外径を有する小径部を形成するとともに、該小径部を前記環状部材の開口端内周に嵌合したことを特徴とする請求項1記載の杭打機。
【請求項3】
回転駆動手段の出力軸に結合した駆動側スプロケットを、出力軸の先端に止着される保持部材により出力軸に保持したスプロケットの保持構造であって、一対の回転駆動手段を、その出力軸同士を一直線上に位置させて対向配置し、各出力軸に駆動側スプロケットを結合して前記保持部材によって各駆動側スプロケットを各出力軸にそれぞれ保持するとともに、両駆動側スプロケット同士の間に環状部材を挟着させたことを特徴とするスプロケットの保持構造。

【図1】
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【図2】
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