説明

杭打機

【課題】簡単な構造で、安定性や作業性を損なうことなく、作業装置を円滑に昇降させることができるラックピニオン式昇降装置を備えた杭打機を提供する。
【解決手段】リーダ3の幅方向両側に、一側にラック部11aを有するガイド部材11をリーダ3の長手方向に沿って配設する。作業装置4の後方両側部に、前記ガイド部材11に沿って摺動可能なスライディングサポート10と、前記ガイド部材11の前記ラック部11aに噛合するピニオン8とを上下方向にそれぞれ併設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭打機に係り、詳しくは、ラックピニオン式昇降装置を備えた杭打機に関する。
【背景技術】
【0002】
杭打機で作業装置をリーダに沿って昇降させるための機構として、ラックピニオン式昇降装置が知られている。このラックピニオン式昇降装置としては、リーダの幅方向両側にそれぞれ配設された一対のガイドパイプと、リーダの前面に設けられた両歯のラックと、作業装置の両側部分から後方に突設されて前記ガイドパイプにそれぞれ摺動可能に係合する一対のガイドギブと、作業装置の後部側中央部に設けられて前記ラックに両側から噛合する一対のピニオンとを備えたものや(例えば、特許文献1参照。)、リーダの幅方向両側にそれぞれ配設された一対の片歯のラックと、リーダの前面に設けられた一対のガイドパイプと、作業装置の後部側中央部に設けられて前記ガイドパイプにそれぞれ摺動可能に係合する一対のガイドギブと、作業装置の両側部分から後方に突設されて前記ラックにそれぞれ噛合する一対のピニオンとを備えたものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特許第3962615号
【特許文献2】特開2004−150078号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述の特許文献1のものでは、ラックがリーダの前面に設けられ、ピニオンを駆動する2基の昇降用モータが作業装置の後部側中央部に並べて設けられていることから、施工する杭の径が大きくなると、昇降用モータを避けるために杭を前方に配置しなければならず、オーガなどの作業装置も大型化して前方への安定性が低下するだけでなく、リーダに作用する曲げモーメントが増加するため、そのままではリーダの強度が不足する虞がある。また、特許文献2のものでは、リーダの幅方向両側にそれぞれ配設したラックと、リーダを下部から支持する主軸とが干渉するため、ラックを主軸より下に連続させることができず、作業装置を地上付近まで下降させることができなくなって作業性が低下してしまう。
【0004】
そこで本発明は、簡単な構造で、安定性や作業性を損なうことなく、作業装置を円滑に昇降させることができるラックピニオン式昇降装置を備えた杭打機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の杭打機は、ベースマシンの前方に起伏可能に設けられたリーダに作業装置を昇降可能に装着した杭打機において、前記リーダの幅方向両側に、一側にラック部を有するガイド部材をリーダの長手方向に沿って配設するとともに、前記作業装置の後方両側部に、前記ガイド部材に沿って摺動可能なスライディングサポートと、前記ガイド部材の前記ラック部に噛合するピニオンとを、上下方向にそれぞれ併設したことを特徴とし、前記スライディングサポートは、前記ガイド部材の前面に摺接する前面摺接部と、ガイド部材の後面に摺接する後面摺接部と、ガイド部材の側方先端に摺接する側面摺接部とを有していると好適であり、また、前記ガイド部材は、その基部に、前後方向に突出した段部を備えるとともに、前記スライディングサポートは、前記ガイド部材の前面に摺接する前面摺接部と、ガイド部材の後面に摺接する後面摺接部と、前記段部の側方の面に摺接する側面摺接部を有していると好適である。さらに、前記ガイド部材を、前記リーダの側面に固着される取付部材と、該取付部材に着脱可能に取り付けられて該取付部材から側方に突出するラック部材とで形成することもできる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の杭打機によれば、リーダの両側に設けたガイド部材に対して作業装置側にスライディングサポートとピニオンとを上下に並べて設け、スライディングサポートをガイドするガイド部材を昇降用のラックとして兼用させているので、リーダにラックとガイドパイプとを別々に設けていた場合に比べて部材点数の削減及び製作コストの削減を図れる。
【0007】
また、ガイド部材をリーダの両側に設けることにより、リーダの前面にラックやガイドパイプを設けた場合に比べて作業装置をリーダの前面に近付けることができ、大径の杭を大型の作業装置で施工する際でも、杭の中心がリーダに近くなり、前方への安定性を確保することができる。さらに、ガイド部材をリーダの側面前方部に設けることにより、主軸との干渉が生じないので、リーダの下端までガイド部材を連続させて設けることができ、作業装置の昇降範囲を十分に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1乃至図6は本発明の杭打機の第1形態例を示すもので、図1は図4のI-I断面図、図2は図4のII-II断面図、図3は図4のIII-III断面図、図4は昇降装置の要部正面図、図5は杭打機の平面図、図6は杭打機の正面図である。
【0009】
この杭打機1は、ベースマシン2の前方に主軸3aを介して起伏可能に設けた角パイプ状のリーダ3と、該リーダ3に沿って昇降可能なオーガなどの作業装置4と、該作業装置4を昇降させる昇降装置5とを備えており、作業装置4には、中央に杭6を回転可能に挿通する回転駆動機構及びチャック機構を備えた回転駆動フレーム4aと、回転駆動機構やチャック機構等を作動させる3台の作業用油圧モータ7とが設けられるとともに、昇降装置5を構成する一対のピニオン8,8を回転駆動する2台の昇降用油圧モータ9と、作業装置4の昇降を案内する4つのスライディングサポート10とが設けられている。
【0010】
昇降装置5は、リーダ3の幅方向両側面の前方部分にそれぞれ設けられた一対のガイド部材11,11と、両側の各ガイド部材11の側面部分に連続形成されたラック部11aにそれぞれ噛合する前記一対のピニオン8,8と、各ピニオン8をそれぞれ回転させる前記昇降用油圧モータ9と、ガイド部材11に沿って摺動可能な前記スライディングサポート10とを備えている。
【0011】
ガイド部材11は、リーダ3の側面に固着され、側方が開口する断面コ字状の取付部材12と、一側方先端に前記ラック部11aを備えた板状のラック部材13とからなるもので、取付部材12の開口内にラック部材13の基端部13aを挿入し、ラック部11aを取付部材12の開口から側方に突出させた状態で、取付部材12とラック部材13との重合部分に複数のボルト14を締結して形成されている。
【0012】
スライディングサポート10は、作業装置4の後方両側部に設けられた取付フレーム4bの上下に、所定の間隔を空けて片側2個ずつ、左右合計で4個が設けられている。各スライディングサポート10は、前記取付フレーム4bに固着されて前記ラック部材13の基部の前面13bに摺接する前面摺接部を有する前面摺接部材10aと、ラック部材13の後面13cに摺接する後面摺接部を有する後面摺接部材10bと、ラック部材13のラック部11aの先端(歯先部)13dに摺接する側面摺接部を有する側面摺接部材10cとを、凹凸係合部10dをそれぞれ係合させた状態で、複数の連結ボルト15で連結して断面コ字状に形成されている。また、前記各摺接部材10a,10b,10cの摺接部には、摩擦係数の低い摺動板16が着脱交換可能な状態でそれぞれネジ止めされている。
【0013】
作業装置4の後方上部側に配置されたスライディングサポート10と、下部側に配置されたスライディングサポート10との間には、前記ピニオン8が配設される。このピニオン8は、外周に前記ガイド部材11のラック部11aに噛合するギア部8aを有し、作業装置4の後方の車体幅方向両側部に配置された前記2台の昇降用油圧モータ9の出力軸9aにそれぞれ連結されて回転するように設けられている。
【0014】
このように形成された昇降装置5を備えた杭打機1では、杭打ち作業を行う際には、作業装置4の回転駆動フレーム4aに杭6を挿通して保持し、作業用油圧モータ7を作動させて杭6に掘削方向の回転を与えるとともに、昇降用油圧モータ9により出力軸9aを介してピニオン8を下降方向に回転させる。これにより、各ピニオン8のギア部8aがガイド部材11のラック部11aを転動し、ガイド部材11に沿って摺動するスライディングサポート10により案内されながら、作業装置4がリーダ3に沿って下降し、回転する杭6の螺旋羽根6aによって地盤を掘削していく。また、杭6による杭打ち作業が終了した際には、昇降用油圧モータ9により出力軸9aを介してピニオン8を上昇方向に回転させることにより、ガイド部材11に沿って摺動するスライディングサポート10に案内されて作業装置4がリーダ3に沿って上昇する。
【0015】
本形態例の杭打機1によれば、昇降装置5を構成するガイド部材11をリーダ3の幅方向両側前方部分にリーダの長手方向に沿ってそれぞれ配設するとともに、ガイド部材11に噛合するピニオン8とガイド部材11に案内されるスライディングサポート10とを作業装置4の後方両側部に上下に併設したことにより、従来のラックとガイドパイプとを一つのガイド部材11で兼用することから、部品点数や溶接箇所を減少させることができ、コストの低減化を図ることができる。
【0016】
さらに、リーダ3の前面にラックやガイドパイプを設けていないので、作業装置4をリーダ3の前面に近接して配置することができるとともに、昇降用油圧モータ9が作業装置4の後方の車体幅方向両側部に配置されているので、杭6の径が大きくなっても杭6と昇降用油圧モータ9とが干渉することがない。これにより、大型の作業装置4を使用して大径の杭を施工する場合でも、作業装置4の掘削中心が車体前方に大きく張り出すことを抑制でき、杭打機1の安定性を確保することができる。また、ガイド部材11をリーダ3の幅方向両側前方部分に設けることにより、リーダ3の中心部を支持する主軸3aとガイド部材11とが干渉することはなく、ガイド部材11をリーダ3の下端部まで連続させることができ、作業装置の昇降範囲を狭めることがなく、作業性を確保することができる。
【0017】
また、作業装置4は、ギア部8aとラック部11aとが噛合し、さらに、ラック部材13の前面13bとスライディングサポート10の前面摺接部材10aとが、ラック部材13の後面13cとスライディングサポート10の後面摺接部材10bとが、ラック部11aの先端13dと側面摺接部材10cとがそれぞれ当接していることにより、上下方向、前後方向、左右方向が確実に保持された状態となり、安定した状態で作業装置4を作動させることができる。
【0018】
さらに、スライディングサポート10の各摺接面には、摩擦係数の低い摺動板16が取り付けられていることにより、スライディングサポート10の摺動性を向上させることができ、作業装置4を良好に昇降させることができる。また、ガイド部材11を、リーダ3の側面に溶接により固着される取付部材12と、該取付部材12に複数のボルト14によって着脱可能に取り付けられるラック部材13とに分割して形成したことにより、焼き入れを行って硬度を高めたものが用いられるラック部材13をリーダ3の側面に容易に取り付けることができ、摩耗したラック部材13の交換も容易に行うことができる。
【0019】
図7乃至図9は本発明の第2形態例を示すもので、図7は図9のVII-VII断面図、図8は図9のVIII-VIII断面図、図9は昇降装置の要部正面図である。なお、第1形態例と同様の構成要素を示すものには、同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0020】
本形態例のガイド部材21は、リーダ3の長手方向に固着される角棒状の取付部材22と、該取付部材22の後面先端側に取り付けられたラック部材23とで形成されている。ラック部材23は、取付部材22に形成された溝部22aに基部23aを係合させて位置決めした状態で複数のボルト25により締結される。また、ガイド部材21の前面側には、取付部材22の側端面により、ガイド部材21の前面から前方に突出した状態の前後方向の段部22bが形成されている。
【0021】
スライディングサポート24は、作業装置4の前記取付フレーム4bに固着されて前記取付部材22の前面22cに摺接する前面摺接部を有する前面摺接部材24aと、ラック部材23の後面23bに摺接する後面摺接部を有する後面摺接部材24bと、前記段部22bの側面に摺接する側面摺接部を有する側面摺接部材24cとを、凹凸係合部24dをそれぞれ係合させた状態で複数の連結ボルト26により連結されている。また、各摺接部材24a,24b,24cの摺接部には、摩擦係数の低い摺動板27がそれぞれネジ止めされている。
【0022】
本形態例では、側面摺接部材24cの側面摺接部を段部22bの側面に摺接させているので、前記第1形態例で示したように、側面摺接部10cをラック部11aの先端13dに摺接させる場合に比べて、作業装置昇降時における左右方向の保持性、摺動性を高めることができる。
【0023】
なお、スライディングサポートやガイド部材の形状は、作業装置やリーダの大きさなどの条件に応じて任意に設定することが可能であり、スライディングサポートは、ピニオンの上又は下のいずれか一方のみでもよい。また、本発明は、大径の杭を施工する大型の作業装置を使用した大型の杭打機に特に最適であるが、小型の杭打機にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図4のI-I断面図である。
【図2】図4のII-II断面図である。
【図3】図4のIII-III断面図である。
【図4】本発明の第1形態例を示す杭打機の昇降装置の要部正面図である。
【図5】同じく杭打機の平面図である。
【図6】同じく杭打機の正面図である。
【図7】図9のVII-VII断面図である。
【図8】図9のVIII-VIII断面図である。
【図9】本発明の第2形態例を示す杭打機の昇降装置の要部正面図である。
【符号の説明】
【0025】
1…杭打機、2…ベースマシン、3…リーダ、3a…主軸、4…作業装置、4a…回転駆動フレーム、4b…取付フレーム、5…昇降装置、6…杭、6a…螺旋羽根、7…作業用油圧モータ、8…ピニオン、8a…ギア部、9…昇降用油圧モータ、9a…出力軸、10…スライディングサポート、10a…前面摺動部材、10b…後面摺動部材、10c…側面摺動部材、10d…凹凸係合部、11…ガイド部材、11a…ラック部、12…取付部材、13…ラック部材、13a…基端部、13b…前面、13c…後面、13d…先端、14…ボルト、15…連結ボルト、16…摺動板、21…ガイド部材、22…取付部材、22a…溝部、22b…段部、22c…前面、23…ラック部材、23a…基部、23b…後面、24…スライディングサポート、24a…前面摺動部材、24b…後面摺動部材、24c…側面摺動部材、24d…凹凸係合部、25…ボルト、26…連結ボルト、27…摺動板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースマシンの前方に起伏可能に設けられたリーダに作業装置を昇降可能に装着した杭打機において、前記リーダの幅方向両側に、一側にラック部を有するガイド部材をリーダの長手方向に沿って配設するとともに、前記作業装置の後方両側部に、前記ガイド部材に沿って摺動可能なスライディングサポートと、前記ガイド部材の前記ラック部に噛合するピニオンとを、上下方向にそれぞれ併設したことを特徴とする杭打機。
【請求項2】
前記スライディングサポートは、前記ガイド部材の前面に摺接する前面摺接部と、ガイド部材の後面に摺接する後面摺接部と、ガイド部材の側方先端に摺接する側面摺接部とを有していることを特徴とする請求項1記載の杭打機。
【請求項3】
前記ガイド部材は、その前面又は後面に、前後方向に突出した段部を備えるとともに、前記スライディングサポートは、前記ガイド部材の前面に摺接する前面摺接部と、ガイド部材の後面に摺接する後面摺接部と、前記段部の側方の面に摺接する側面摺接部を有していることを特徴とする請求項1記載の杭打機。
【請求項4】
前記ガイド部材は、前記リーダの側面に固着される取付部材と、該取付部材に着脱可能に取り付けられて該取付部材から側方に突出するラック部材とで形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の杭打機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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