杭抜き用の掘削装置
【課題】現場打ち杭等の杭抜き作業において杭周囲の地盤を削孔したときに、途中にコブを有するため、掘削装置の姿勢が傾斜しケーシングが摩耗・損傷するのを防止する。
【解決手段】掘削装置1のケーシング103に装着した掘削ヘッド10内周面に掘削方向案内手段20が上下2列に配置される。掘削方向案内手段20は、回転自在に保持されるローラの複数個より構成される。各ローラが接する仮想内接円の直径は既存杭Pの公称外径より若干大きく設定される。ローラには耐摩耗性に優れた材質を使用する。側周面にコブQを有する既存杭Pの周囲を削孔すると掘削ヘッド10及びケーシング103が既存杭Pの軸線に対し傾斜しようとするが、掘削方向案内手段20が既存杭Pの側周面に当接して傾斜を妨げ、姿勢を適正に保つ。既存杭Pに当接するのはローラ部分であるから、掘削ヘッド10及びケーシング103の回転に支障を及ぼさない。
【解決手段】掘削装置1のケーシング103に装着した掘削ヘッド10内周面に掘削方向案内手段20が上下2列に配置される。掘削方向案内手段20は、回転自在に保持されるローラの複数個より構成される。各ローラが接する仮想内接円の直径は既存杭Pの公称外径より若干大きく設定される。ローラには耐摩耗性に優れた材質を使用する。側周面にコブQを有する既存杭Pの周囲を削孔すると掘削ヘッド10及びケーシング103が既存杭Pの軸線に対し傾斜しようとするが、掘削方向案内手段20が既存杭Pの側周面に当接して傾斜を妨げ、姿勢を適正に保つ。既存杭Pに当接するのはローラ部分であるから、掘削ヘッド10及びケーシング103の回転に支障を及ぼさない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
建築物の基礎の構築あるいは地盤改良等のため多数の杭が地中に埋設されるが、建築物の建て替えや地盤の新たな改質などを行う場合には、埋設されている杭(以下、既存杭と言う)を地中から引き抜いて除去することが必要となることがしばしばある。本発明は、地中に埋設されている既存杭を除去するにあたり、既存杭の周囲の地盤を削孔するのに用いられる掘削装置に関し、特に現場打ち杭(場所打ち杭とも言う)の場合に威力を発揮するものである。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設されている既存杭を引き抜くための技術について、特許文献1や特許文献2に記載されている。これらにおいて既存杭の周囲を削孔するには、図13に示すような、リーダ101に昇降可能に取り付けたオーガーマシン102に、外周面に螺旋羽根104が設けられ下端部に掘削刃105を有する円筒状のケーシング103を回転駆動可能に連結して構成した掘削装置100が使用される。
【0003】
オーガマシン102を駆動して、図14に示す如く、上記ケーシング103を回転駆動しつつ下降させ、下端の掘削刃105により、地中に埋設されている既存杭Pの周囲の地盤Sを削孔する。螺旋羽根104の機能により、ケーシング103は地盤Sの下方へ潜り込む。それと同時に、掘削刃105で削り取った既存杭P周囲の土壌は、螺旋羽根104により順次上方へ搬送され排出される。
【0004】
やがて図15に示すように、ケーシング103下端が既存杭Pの下端部に達し、当該既存杭Pが地盤Sから分離可能な状態となったならば、既存杭Pの頭部へワイヤーを引っ掛け、ウインチ等で引き上げる(特許文献1)か、あるいは、ケーシング103の下部に設けた複数の係止爪で既存杭Pを把持し、オーガーマシン102を上昇させることによってケーシング103と共に引抜き上げる(特許文献2)。
【特許文献1】特公平5−63576号公報
【特許文献2】特開2001−3362公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既存杭Pが現場打ち杭(場所打ち杭)の場合、地盤Sの状態などにより、既存杭Pの外径が必ずしも一定とはならないことがある。すなわち、地盤Sに局部的に軟質な部分があると、その部分が流し込んだコンクリートの圧力により拡開し、図16に例示する如き、部分的に膨らんだコブQを有する杭Pが形成される。このような、コブQを持った既存杭Pの周囲を前述した従来の掘削装置100で削孔するとき、ケーシング103下端の掘削刃105で上記コブQを切削・破砕しつつ掘削作業を進行させるのであるが、その際、ケーシング103の先端部に図16に矢印Rで示す方向の反力が作用する。ところで、ケーシング103の内部は既存杭Pを挿通させるため中空に形成されており、その内径は、既存杭Pの公称外径よりも若干大きく設定されている。従って、既存杭P周囲の地盤の削孔作業は、既存杭Pの外周面とケーシング103の内周面との間に若干の隙間を有する状態で行われる。このため、既存杭PのコブQ部分を掘削するときに、前記反力Rによりケーシング103の姿勢が傾斜する。ケーシング103が既存杭Pの軸線に対し傾斜した状態で削孔を進行させると、作業効率が低下するのみならず、ケーシング103の内周面が既存杭Pの外面と接触し、その結果、ケーシング103が摩耗・損傷して寿命を著しく短縮させるという問題があった。
【0006】
そこでケーシング103全体を、コンクリート製の既存杭Pと接触しても容易には摩耗したり傷ついたりするおそれのない硬質な材質で製作することも考えられるが、この場合には、ケーシング103の製造コストが非常に高くなるという欠点が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来の課題を解決するために本発明が採用した杭抜き用の掘削装置の特徴とするところは、請求項1に記載する如く、円筒状ケーシングの下端部に設けた掘削刃により、埋設された既存杭の周囲を削孔するものであって、当該装置の内周面における前記掘削刃の上方に、既存杭の側周面を取り囲む掘削方向案内手段が設けられ、当該掘削方向案内手段の内径又は内接円の直径は、既存杭の公称外径よりも大きく設定されていることである。
【0008】
前記掘削方向案内手段については、請求項2に記載の如く、回転自在に設けた複数のローラから成るものとすることができる。あるいは請求項3に記載の如く、前記ケーシングの内周面に周方向に延設したフランジ構造から成るものとすることも出来る。
【0009】
なお請求項4に記載する如く、前記掘削方向案内手段における少なくとも既存杭と接触し得る部位は、耐摩耗性に優れた部材で製作することが望ましい。具体的には、ケーシングがSS41(一般構造用圧延鋼材)である場合に、掘削方向案内手段はS45C(機械構造用炭素鋼鋼材)を用いて製作することが考えられる。
【0010】
また請求項5に記載の如く、前記掘削方向案内手段は、前記ケーシングの軸方向に沿って上下に間隔を空けて2列以上配置してもよい。
【0011】
さらに請求項6に記載の如く、前記掘削方向案内手段を、掘削刃を有しケーシングの下端部に着脱可能に装着される掘削ヘッドの内周面に設けてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る掘削装置は、内周面の上方に既存杭の側周面を取り囲む掘削方向案内手段を配置したので、既存杭がコブを有しており、このコブを掘削刃で切削する際、下端部に対し外方へ向かう力が作用したとしても、前記掘削方向案内手段が既存杭の表面に当接することにより、掘削装置の姿勢が傾斜するのを阻止することができる。従って、掘削作業中、ケーシングの姿勢を常に既存杭の軸線と実質的に平行に維持して、ケーシングと既存杭との接触を防止するから、既存杭周囲の地盤削孔を円滑に進行させる。またケーシングが既存杭との接触で損傷を受けるおそれがないから、ケーシングの長寿命化を図れる。なお、掘削方向案内手段の内径又は内接円の直径は、既存杭の公称外径よりも大きく設定されているから、コブのない部分における削孔作業時には、この掘削方向案内手段が支障を及ぼすおそれがない。
【0013】
前記掘削方向案内手段を、回転自在に設けた複数のローラから成るものとした場合は、これが既存杭と接触したときに、ケーシングの回転に支障を与えることがほとんど無くなる。他方、前記ケーシングの内周面に周方向に延設したフランジ構造から成るものとした場合は、掘削方向案内手段を比較的安価に製作することが可能となる。
【0014】
前記掘削方向案内手段における少なくとも既存杭と接触し得る部位を、耐摩耗性に優れた部材で製作することにより、掘削方向案内手段の長寿命化を図れる。しかも高価な材質の使用箇所を掘削方向案内手段だけに限れるので、製造コストの増大を抑制できる。
【0015】
前記掘削方向案内手段を、前記ケーシングの軸方向に沿って上下に間隔を空けて2列以上配置した場合は、ケーシングの姿勢が傾斜しようとしたときに、掘削方向案内手段が既存杭の表面に2箇所以上で当接するから、ケーシングの傾斜阻止がより確実になる。
【0016】
さらに前記掘削方向案内手段を、ケーシングの下端部に着脱可能に装着される掘削ヘッドの内周面に設けた場合は、既存杭との接触により摩耗が生じたときに、この掘削ヘッドを取り外してメンテナンスを行えるから、作業性が向上し、ケーシングを繰り返して使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[第1の実施形態]
図1に、本発明に係る掘削装置の要部を示す。同図に示す如く、本例は、円筒状ケーシング103の下端部へ着脱可能に装着した掘削ヘッド10の内周面に、掘削方向案内手段20を設けたところに特色を有している。なお、上記円筒状ケーシング103が、外周面に螺旋羽根104を有し、リーダに昇降可能に取り付けられたオーガーマシン(図13参照)へ回転駆動可能に連結される点は、従来と共通である。
【0018】
前記掘削ヘッド10は、ケーシング103に装着される円筒状のハウジング11と、該ハウジング11の下端部に取り付けられた掘削刃12と、ハウジング11の内周面に配置された掘削方向案内手段20とから構成される。ハウジング11は、ケーシング103とほぼ同径又は図示の如く若干大きく形成され、少なくとも既存杭Pを内部に挿通させ得る内径を有している。ハウジング11の下端に設けられる掘削刃12については、従来と共通のものが使用できる。
【0019】
本例の掘削方向案内手段20は、ハウジング11の内周面に固定したにブラケット21により回転自在に保持されるローラ21の複数個より構成される。各ローラ21は、ハウジング11の内周面に沿って一定間隔に配置され、それぞれの回転軸が、ハウジング11及びケーシング103の軸線と実質的に平行となるように設定されている。従って、これらローラ21は、既存杭Pと当接したときに、ケーシング103の回転に合わせて回転することができる。また、削孔作業中に内部に挿通させた既存杭Pとローラ21とが通常は接触することがないよう、各ローラ21が接する仮想内接円Xの直径が、既存杭Pの公称外径より若干大きくなるように設定されている。具体的な数値を例示すると、既存杭Pの公称外径が1000mm程度の場合、上記仮想内接円Xの直径は1050〜1100mm程度に設定すればよい。
【0020】
なお本例では、ハウジング11の内周面における下端の掘削刃12に近い位置とやや上方に離れた位置との2箇所に、ローラ21を2列に配置した。かかる構成により、ケーシング103に外力が作用して傾斜しようとしたとき、ローラ21が既存杭Pの外周面に当接するが、既存杭Pの若干離れた2箇所で当接することになるから、ケーシング103の姿勢安定性に優れる。
【0021】
掘削方向案内手段20を構成するローラ21は、コンクリート製の既存杭Pと接触して回転するから、耐摩耗性に優れた材質(例えば機械構造用炭素鋼鋼材S45C)を使用することが望ましい。このような材質は、ケーシング103を構成する材質(例えば一般構造用圧延鋼材SS41など)と比較して高価であるが、ケーシング103全体ではなく、掘削ヘッド10の一部だけに使用するものであるため、製造コストの増大を抑えられる。またローラ21が摩耗などした場合には容易に交換することができ、しかも、摩耗を生じたローラ21だけの交換で済むから、メンテナンス経費を低く抑えられる。
【0022】
なお、既存杭Pと接触することがないハウジング11やブラケット22の材質については、ケーシング103と同等の材質でよいが、所望により、ローラ21又は掘削刃12と同等の硬質な材質とすることも妨げない。
【0023】
次に、前述の如く構成した掘削装置を用いた既存杭の引き抜き手順について簡単に説明する。従来と同様に、本発明に係る掘削装置1は、図2に示すとおり、リーダ101に沿って昇降可能に成されたオーガマシン102へ回転駆動可能に連結される。また、掘削装置1と共に、リーダ101・オーガマシン102は、例えばクローラクレーン等に搭載され、移動可能である。
【0024】
既存杭Pを引き抜き作業は、はじめに、油圧ショベル等を用いて地盤Sを掘り起こし、地中に埋もれている既存杭Pの杭頭を露出させたのち、杭頭周囲に鉄枠を配置して作業領域を確保する。既存杭Pの杭頭に鉄筋が突出している場合は、これをガスバーナー等で切除する。しかる後、必要に応じ、掘削装置1を搭載したクローラクレーン等を停止させる位置へ転倒防止用の鉄板を敷設する。引き続き、クローラクレーンを運転して上記鉄板上へ移動させ、図2の如く、掘削装置1を既存杭Pの上方に位置させたのち、オーガマシン102と共に掘削装置1を下降させ、図3に示すように、既存杭Pの杭頭に掘削装置1を被せる。すなわち、既存杭Pの一部が、掘削装置1の掘削ヘッド10内に挿入された状態にする。
【0025】
続いて、オーガマシン102を駆動して掘削装置1を回転させつつ下降させ、既存杭P周囲の地盤Sの削孔を開始する。このとき、地盤Sの性質に応じ、水又はベントナイトを既存杭Pの周りへ注入して、掘削抵抗の緩和を図ることが望ましい。掘削装置1の回転により、下端の掘削刃12で地盤Sを削り取りつつ、ケーシング103が、外周面に設けた螺旋羽根104の機能で地盤S中へ潜り込む。それと同時に、既存杭P周囲の土壌が、螺旋羽根104により順次上方へ送り出される。既存杭Pの長さが充分に長く、最初のケーシング103だけでは既存杭Pの下端まで到達しないときには、ケーシング103の継ぎ足しを行い、地盤Sの削孔を続行する。
【0026】
こうして図4に示すように、掘削装置1が既存杭Pの下端位置に達し、既存杭Pが地盤Sから分離可能になったならば既存杭Pを地上へ引き上げる。これには、既存杭Pの頭部にワイヤーを結びつけてウィンチで引き上げる手段、ケーシング103に設けた係止爪で既存杭Pを把持しオーガーマシン102を上昇させてケーシング103と共に引き上げる手段、油圧チャックで既存杭Pの側周面を把持し順次押し上げる手段などが用いられる。また、既存杭Pの全体を一度に引き上げるのではなく、地上に露出した長さが適当長さに達したならば切断して杭倒しを行う作業を繰り返す工法も採用可能である。
【0027】
ところで既存杭Pが現場打ち杭の場合、地盤Sの状況により、図5に示すような側周面から突出するコブQを有することがあること、及び、掘削装置1でこのようなコブQを持った既存杭Pの周囲を削孔すると、下端の掘削刃12がコブQと衝突したときに外側へ逃げようとして、掘削刃12に矢印Rで示す方向の力が作用し、掘削ヘッド10及びケーシング103が既存杭Pの軸線に対し傾斜しようとすることは前述した。しかるに本発明では、掘削ヘッド10の内周面に適当間隔を空けて上下2列に配置した複数のローラ21から成る掘削方向案内手段20が、既存杭Pの側周面に当接(矢印T参照)して、掘削ヘッド10及びケーシング103が傾斜するのを妨げる。つまり、掘削ヘッド10及びケーシング103の姿勢を既存杭Pに対し常に平行に保つことが出来るので、ケーシング103が既存杭Pと接触して損傷を受けるおそれがない。また、掘削装置1の姿勢が安定するから、作業能率が良好である。
【0028】
既存杭PのコブQは、回転する切削刃12によって切削・粉砕されるが、このとき既存杭Pの側周面に当接するのは、掘削方向案内手段20における回転自在なローラ21部分である。つまり、掘削方向案内手段20は、掘削ヘッド10及びケーシング103が既存杭Pの周囲を回転するのに支障を及ぼすことがない。
【0029】
本発明に係る掘削装置1のうち、交換の必要が生じるのは、通常、ローラ21だけであるが、摩耗しにくい十分に硬度の大きい材質で製作することにより、交換やメンテナンスの回数を減らすことができる。これに対し、掘削方向案内手段20のローラ21以外の部分や、掘削ヘッド10のハウジング11、及び、ケーシング103等については、既存杭Pと接触するおそれがないから、硬度が低い比較的廉価な材質で製作することが可能であり、交換の必要が生じることもきわめて少ない。よって本発明は、部品交換やメンテナンスの経費を著しく抑えられるという効果を持つ。
【0030】
[第2の実施形態]
本発明に係る掘削方向案内手段20をローラ21で構成する場合、図6〜8に示すような構造を採用することも考えられる。この例では、ローラ21の複数個を、上下に配置したブラケット23,23により回転自在に支持すると共に一体化してローラユニットUを構成する(図7参照)。他方、掘削ヘッド10のハウジング11内周面に、適宜間隔を空けてフランジ24,24を固定し、上記ローラユニットUの装着部を形成する。上記フランジ24,24間には、必要に応じ、ハウジング11の内周面に沿って保護部材25を配置する。さらに、この保護部材25は交換可能とするのが望ましい。
【0031】
一つのローラユニットUは、図6(B)に示す如く、掘削方向案内手段20を構成するローラ21全体の3分の1乃至4分の1程度の個数のローラ21を一体化したものとし、ローラ21を回転自在に支持するブラケット23は、平面視すると3分の1円乃至4分の1円程度の円弧状とする。これは、ハウジング11内周面に固定したフランジ24,24間の装着部に対し、ローラユニットUを着脱可能にするためである。また平面視した状態のブラケット23の幅寸法は、ローラ21の直径よりも小さく設定される。すなわち、ローラユニットUをフランジ24,24間へ装着したときに、図6(B)に示すとおり、ローラ21のみが保護部材25(又はハウジング11の内周面)及び既存杭Pの側周面と接触し、ブラケット23はこれらと接触することがないように設定されている。
【0032】
ローラユニットUは、フランジ24,24間へ配置した後、互いを連結して全周にわたり一体化することが望ましい。それには例えば、図8(特に(B)(C))に示す如く、各ローラユニットUにおけるブラケット23の端縁部に接合部23aを設け、隣接するブラケット23,23どうしを、この接合部23aにてボルト26・ナット27等により接合し連結する構造が考えられる。複数の円弧状ローラユニットUを一体に連結することにより、ローラユニットUがフランジ24,24間から離脱することがなくなる。
【0033】
本例では、複数の円弧状ローラユニットUをフランジ24,24間へ配置したのち、全部を連結して一体化する構造を採用したので、ハウジング11に予めフランジ24,24が固定されていても、ローラ21の装着作業が可能である。またローラ21が摩耗したり損壊した場合には、ローラユニットUどうしの締結を解除することにより、ローラユニットUを容易に交換・修理することができる。さらに、ローラ21をハウジング11に固定するものではないから、掘削ヘッド10の製造が容易である。
【0034】
前述の如く構成した掘削方向案内手段20を備える掘削装置で、途中にコブQ(図5参照)を有する既存杭P周囲の地盤を削孔する場合を考える。掘削刃12が既存杭Pのコブに衝突すると、掘削装置に傾斜させようとする外力が作用するが、掘削方向案内手段20のローラ21が既存杭Pの側周面に当接して、掘削ヘッド10及びケーシング103の傾斜を阻止し姿勢を適正に維持する。このとき、掘削ヘッド10は回転駆動されているが、ハウジング11に内装した保護部材25と接するローラ21は、回転しつつ既存杭Pの側周面上を移動する。従って、ローラ21が既存杭Pに当接しても、掘削ヘッド10及びケーシング103の回転駆動に支障を来すおそれがない。このとき、ローラ21を支持するブラケット23は、ローラ21が回転することにより、既存杭Pの周囲を掘削ヘッド10と同一方向へ回転する。つまり一体化されたローラユニットUは、掘削ヘッド10と同方向へ回転する。但しその回転速度は、ローラ21の直径に応じ減速される。
【0035】
前記掘削方向案内手段20において、既存杭Pと接するローラ21は、比較的硬度の高い材質(例えばS45C等の機械構造用炭素鋼鋼材)で製作することが望ましいが、本例では、このローラ21がハウジング11に接触して損傷を与えないようにするため、ハウジング11の内周面に沿って保護部材25を配置した。また、この保護部材25はハウジング11内周面と接するから、保護部材25にはハウジング11と同等かそれよりも軟質な材質を使用して、ハウジング11が保護部材25から損傷を受けないようすることが望ましい。それ故、保護部材25は、硬質なローラ21との接触により摩耗等の損傷を受け易いが、交換可能にできるので、必要に応じ取り替えることにより、ローラ21との接触面を適正な状態に維持することが容易である。
【0036】
[第3の実施形態]
掘削ヘッド10に掘削方向案内手段20としてのローラ21を配置する態様は、図9に例示するように、ハウジング11の内周面に適宜間隔を空けて3〜4列、あるいはそれ以上とすることも可能である。かかる構成によれば、掘削ヘッド10及びケーシング103の姿勢安定性が一層向上する。
【0037】
[第4の実施形態]
図10に示す如く、掘削方向案内手段20を構成するローラ21を、ハウジング11の内周面において、周方向には比較的大きい間隔を空けると共に、軸方向には隣接しないよに配置することも考えられる。かかるローラ配置態様は、掘削ヘッド10及びケーシング103の姿勢安定性を損なうことなく、ローラ21の使用個数を減らして製造コストを下げられるという利点が得られる。
【0038】
[第5の実施形態]
掘削方向案内手段20は、図11に示すように、ハウジング11の内周面に形成したフランジ30で構成することも可能である。前記ローラ21を用いる構造と比べて構成が簡単になるので、非常に安価に製造できる。なおフランジ30は、図11の(B)に示すように、複数に分割した構成であってもよい。さらに図12に示すように、複数の円弧状フランジ31を、ハウジング11の内周面に周方向に配置する構成も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る掘削装置の第1の実施形態を示すものであって、図(A)は掘削ヘッドの部分断面した正面図、図(B)は同掘削ヘッドの平面断面図である。
【図2】オーガマシンに取り付けた本発明に係る掘削装置と、地盤に埋設されている既存杭の杭頭部分とを示す部分断面した正面図である。
【図3】オーガマシンに取り付けた本発明に係る掘削装置を、地盤に埋設されている既存杭の杭頭部分に被せた状態を示す部分断面した正面図である。
【図4】オーガマシンに取り付けた本発明に係る掘削装置で、地盤に埋設されている既存杭の下端部まで削孔した状況を示す部分断面した正面図である。
【図5】本発明に係る掘削装置で、地盤に埋設されている既存杭のコブを切削している状況を示す部分断面した正面図である。
【図6】本発明に係る掘削装置の第2の実施形態を示すものであって、図(A)は掘削ヘッドの部分断面した正面図、図(B)は同掘削ヘッドの平面断面図(フランジ24については半断面した)である。
【図7】本発明に係る掘削装置の第2の実施形態に関するものであって、掘削ヘッドのハウジングとローラユニットとを分解して示す部分断面した斜視図である。
【図8】本発明に係る掘削装置の第2の実施形態に関するものであって、図(A)は掘削ヘッドのハウジングとローラユニットの要部を示す正面断面図、図(B)はハウジングとローラユニットの要部を示す平面断面図、図(C)はローラユニットどうしの接合部を示す正面図である。
【図9】本発明に係る掘削装置の第3の実施形態を示す掘削ヘッドの部分断面した正面図である。
【図10】本発明に係る掘削装置の第4の実施形態を示す掘削ヘッドの部分断面した正面図である。
【図11】本発明に係る掘削装置の第5の実施形態を示すものであって、図(A)は掘削ヘッドの部分断面した正面図、図(B)は同掘削ヘッドの平面断面図である。
【図12】本発明に係る掘削装置の第5の実施形態の異なる態様を示す掘削ヘッドの平面断面図である。
【図13】オーガマシンに取り付けた従来の掘削装置と、地盤に埋設されている既存杭の杭頭部分とを示す部分断面した正面図である。
【図14】オーガマシンに取り付けた従来の掘削装置を、地盤に埋設されている既存杭の杭頭部分に被せた状態を示す部分断面した正面図である。
【図15】オーガマシンに取り付けた従来の掘削装置で、地盤に埋設されている既存杭の下端部まで削孔した状況を示す部分断面した正面図である。
【図16】従来の掘削装置で、地盤に埋設されている既存杭のコブを切削している状況を示す部分断面した正面図である。
【符号の説明】
【0040】
1…掘削装置 10…掘削ヘッド 11…ハウジング 12…掘削刃 20…掘削方向案内手段 21…ローラ 101…リーダ 102…オーガマシン 103…ケーシング 104…螺旋羽根 P…既存杭 Q…コブ S…地盤 U…ローラユニット
【技術分野】
【0001】
建築物の基礎の構築あるいは地盤改良等のため多数の杭が地中に埋設されるが、建築物の建て替えや地盤の新たな改質などを行う場合には、埋設されている杭(以下、既存杭と言う)を地中から引き抜いて除去することが必要となることがしばしばある。本発明は、地中に埋設されている既存杭を除去するにあたり、既存杭の周囲の地盤を削孔するのに用いられる掘削装置に関し、特に現場打ち杭(場所打ち杭とも言う)の場合に威力を発揮するものである。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設されている既存杭を引き抜くための技術について、特許文献1や特許文献2に記載されている。これらにおいて既存杭の周囲を削孔するには、図13に示すような、リーダ101に昇降可能に取り付けたオーガーマシン102に、外周面に螺旋羽根104が設けられ下端部に掘削刃105を有する円筒状のケーシング103を回転駆動可能に連結して構成した掘削装置100が使用される。
【0003】
オーガマシン102を駆動して、図14に示す如く、上記ケーシング103を回転駆動しつつ下降させ、下端の掘削刃105により、地中に埋設されている既存杭Pの周囲の地盤Sを削孔する。螺旋羽根104の機能により、ケーシング103は地盤Sの下方へ潜り込む。それと同時に、掘削刃105で削り取った既存杭P周囲の土壌は、螺旋羽根104により順次上方へ搬送され排出される。
【0004】
やがて図15に示すように、ケーシング103下端が既存杭Pの下端部に達し、当該既存杭Pが地盤Sから分離可能な状態となったならば、既存杭Pの頭部へワイヤーを引っ掛け、ウインチ等で引き上げる(特許文献1)か、あるいは、ケーシング103の下部に設けた複数の係止爪で既存杭Pを把持し、オーガーマシン102を上昇させることによってケーシング103と共に引抜き上げる(特許文献2)。
【特許文献1】特公平5−63576号公報
【特許文献2】特開2001−3362公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既存杭Pが現場打ち杭(場所打ち杭)の場合、地盤Sの状態などにより、既存杭Pの外径が必ずしも一定とはならないことがある。すなわち、地盤Sに局部的に軟質な部分があると、その部分が流し込んだコンクリートの圧力により拡開し、図16に例示する如き、部分的に膨らんだコブQを有する杭Pが形成される。このような、コブQを持った既存杭Pの周囲を前述した従来の掘削装置100で削孔するとき、ケーシング103下端の掘削刃105で上記コブQを切削・破砕しつつ掘削作業を進行させるのであるが、その際、ケーシング103の先端部に図16に矢印Rで示す方向の反力が作用する。ところで、ケーシング103の内部は既存杭Pを挿通させるため中空に形成されており、その内径は、既存杭Pの公称外径よりも若干大きく設定されている。従って、既存杭P周囲の地盤の削孔作業は、既存杭Pの外周面とケーシング103の内周面との間に若干の隙間を有する状態で行われる。このため、既存杭PのコブQ部分を掘削するときに、前記反力Rによりケーシング103の姿勢が傾斜する。ケーシング103が既存杭Pの軸線に対し傾斜した状態で削孔を進行させると、作業効率が低下するのみならず、ケーシング103の内周面が既存杭Pの外面と接触し、その結果、ケーシング103が摩耗・損傷して寿命を著しく短縮させるという問題があった。
【0006】
そこでケーシング103全体を、コンクリート製の既存杭Pと接触しても容易には摩耗したり傷ついたりするおそれのない硬質な材質で製作することも考えられるが、この場合には、ケーシング103の製造コストが非常に高くなるという欠点が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来の課題を解決するために本発明が採用した杭抜き用の掘削装置の特徴とするところは、請求項1に記載する如く、円筒状ケーシングの下端部に設けた掘削刃により、埋設された既存杭の周囲を削孔するものであって、当該装置の内周面における前記掘削刃の上方に、既存杭の側周面を取り囲む掘削方向案内手段が設けられ、当該掘削方向案内手段の内径又は内接円の直径は、既存杭の公称外径よりも大きく設定されていることである。
【0008】
前記掘削方向案内手段については、請求項2に記載の如く、回転自在に設けた複数のローラから成るものとすることができる。あるいは請求項3に記載の如く、前記ケーシングの内周面に周方向に延設したフランジ構造から成るものとすることも出来る。
【0009】
なお請求項4に記載する如く、前記掘削方向案内手段における少なくとも既存杭と接触し得る部位は、耐摩耗性に優れた部材で製作することが望ましい。具体的には、ケーシングがSS41(一般構造用圧延鋼材)である場合に、掘削方向案内手段はS45C(機械構造用炭素鋼鋼材)を用いて製作することが考えられる。
【0010】
また請求項5に記載の如く、前記掘削方向案内手段は、前記ケーシングの軸方向に沿って上下に間隔を空けて2列以上配置してもよい。
【0011】
さらに請求項6に記載の如く、前記掘削方向案内手段を、掘削刃を有しケーシングの下端部に着脱可能に装着される掘削ヘッドの内周面に設けてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る掘削装置は、内周面の上方に既存杭の側周面を取り囲む掘削方向案内手段を配置したので、既存杭がコブを有しており、このコブを掘削刃で切削する際、下端部に対し外方へ向かう力が作用したとしても、前記掘削方向案内手段が既存杭の表面に当接することにより、掘削装置の姿勢が傾斜するのを阻止することができる。従って、掘削作業中、ケーシングの姿勢を常に既存杭の軸線と実質的に平行に維持して、ケーシングと既存杭との接触を防止するから、既存杭周囲の地盤削孔を円滑に進行させる。またケーシングが既存杭との接触で損傷を受けるおそれがないから、ケーシングの長寿命化を図れる。なお、掘削方向案内手段の内径又は内接円の直径は、既存杭の公称外径よりも大きく設定されているから、コブのない部分における削孔作業時には、この掘削方向案内手段が支障を及ぼすおそれがない。
【0013】
前記掘削方向案内手段を、回転自在に設けた複数のローラから成るものとした場合は、これが既存杭と接触したときに、ケーシングの回転に支障を与えることがほとんど無くなる。他方、前記ケーシングの内周面に周方向に延設したフランジ構造から成るものとした場合は、掘削方向案内手段を比較的安価に製作することが可能となる。
【0014】
前記掘削方向案内手段における少なくとも既存杭と接触し得る部位を、耐摩耗性に優れた部材で製作することにより、掘削方向案内手段の長寿命化を図れる。しかも高価な材質の使用箇所を掘削方向案内手段だけに限れるので、製造コストの増大を抑制できる。
【0015】
前記掘削方向案内手段を、前記ケーシングの軸方向に沿って上下に間隔を空けて2列以上配置した場合は、ケーシングの姿勢が傾斜しようとしたときに、掘削方向案内手段が既存杭の表面に2箇所以上で当接するから、ケーシングの傾斜阻止がより確実になる。
【0016】
さらに前記掘削方向案内手段を、ケーシングの下端部に着脱可能に装着される掘削ヘッドの内周面に設けた場合は、既存杭との接触により摩耗が生じたときに、この掘削ヘッドを取り外してメンテナンスを行えるから、作業性が向上し、ケーシングを繰り返して使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[第1の実施形態]
図1に、本発明に係る掘削装置の要部を示す。同図に示す如く、本例は、円筒状ケーシング103の下端部へ着脱可能に装着した掘削ヘッド10の内周面に、掘削方向案内手段20を設けたところに特色を有している。なお、上記円筒状ケーシング103が、外周面に螺旋羽根104を有し、リーダに昇降可能に取り付けられたオーガーマシン(図13参照)へ回転駆動可能に連結される点は、従来と共通である。
【0018】
前記掘削ヘッド10は、ケーシング103に装着される円筒状のハウジング11と、該ハウジング11の下端部に取り付けられた掘削刃12と、ハウジング11の内周面に配置された掘削方向案内手段20とから構成される。ハウジング11は、ケーシング103とほぼ同径又は図示の如く若干大きく形成され、少なくとも既存杭Pを内部に挿通させ得る内径を有している。ハウジング11の下端に設けられる掘削刃12については、従来と共通のものが使用できる。
【0019】
本例の掘削方向案内手段20は、ハウジング11の内周面に固定したにブラケット21により回転自在に保持されるローラ21の複数個より構成される。各ローラ21は、ハウジング11の内周面に沿って一定間隔に配置され、それぞれの回転軸が、ハウジング11及びケーシング103の軸線と実質的に平行となるように設定されている。従って、これらローラ21は、既存杭Pと当接したときに、ケーシング103の回転に合わせて回転することができる。また、削孔作業中に内部に挿通させた既存杭Pとローラ21とが通常は接触することがないよう、各ローラ21が接する仮想内接円Xの直径が、既存杭Pの公称外径より若干大きくなるように設定されている。具体的な数値を例示すると、既存杭Pの公称外径が1000mm程度の場合、上記仮想内接円Xの直径は1050〜1100mm程度に設定すればよい。
【0020】
なお本例では、ハウジング11の内周面における下端の掘削刃12に近い位置とやや上方に離れた位置との2箇所に、ローラ21を2列に配置した。かかる構成により、ケーシング103に外力が作用して傾斜しようとしたとき、ローラ21が既存杭Pの外周面に当接するが、既存杭Pの若干離れた2箇所で当接することになるから、ケーシング103の姿勢安定性に優れる。
【0021】
掘削方向案内手段20を構成するローラ21は、コンクリート製の既存杭Pと接触して回転するから、耐摩耗性に優れた材質(例えば機械構造用炭素鋼鋼材S45C)を使用することが望ましい。このような材質は、ケーシング103を構成する材質(例えば一般構造用圧延鋼材SS41など)と比較して高価であるが、ケーシング103全体ではなく、掘削ヘッド10の一部だけに使用するものであるため、製造コストの増大を抑えられる。またローラ21が摩耗などした場合には容易に交換することができ、しかも、摩耗を生じたローラ21だけの交換で済むから、メンテナンス経費を低く抑えられる。
【0022】
なお、既存杭Pと接触することがないハウジング11やブラケット22の材質については、ケーシング103と同等の材質でよいが、所望により、ローラ21又は掘削刃12と同等の硬質な材質とすることも妨げない。
【0023】
次に、前述の如く構成した掘削装置を用いた既存杭の引き抜き手順について簡単に説明する。従来と同様に、本発明に係る掘削装置1は、図2に示すとおり、リーダ101に沿って昇降可能に成されたオーガマシン102へ回転駆動可能に連結される。また、掘削装置1と共に、リーダ101・オーガマシン102は、例えばクローラクレーン等に搭載され、移動可能である。
【0024】
既存杭Pを引き抜き作業は、はじめに、油圧ショベル等を用いて地盤Sを掘り起こし、地中に埋もれている既存杭Pの杭頭を露出させたのち、杭頭周囲に鉄枠を配置して作業領域を確保する。既存杭Pの杭頭に鉄筋が突出している場合は、これをガスバーナー等で切除する。しかる後、必要に応じ、掘削装置1を搭載したクローラクレーン等を停止させる位置へ転倒防止用の鉄板を敷設する。引き続き、クローラクレーンを運転して上記鉄板上へ移動させ、図2の如く、掘削装置1を既存杭Pの上方に位置させたのち、オーガマシン102と共に掘削装置1を下降させ、図3に示すように、既存杭Pの杭頭に掘削装置1を被せる。すなわち、既存杭Pの一部が、掘削装置1の掘削ヘッド10内に挿入された状態にする。
【0025】
続いて、オーガマシン102を駆動して掘削装置1を回転させつつ下降させ、既存杭P周囲の地盤Sの削孔を開始する。このとき、地盤Sの性質に応じ、水又はベントナイトを既存杭Pの周りへ注入して、掘削抵抗の緩和を図ることが望ましい。掘削装置1の回転により、下端の掘削刃12で地盤Sを削り取りつつ、ケーシング103が、外周面に設けた螺旋羽根104の機能で地盤S中へ潜り込む。それと同時に、既存杭P周囲の土壌が、螺旋羽根104により順次上方へ送り出される。既存杭Pの長さが充分に長く、最初のケーシング103だけでは既存杭Pの下端まで到達しないときには、ケーシング103の継ぎ足しを行い、地盤Sの削孔を続行する。
【0026】
こうして図4に示すように、掘削装置1が既存杭Pの下端位置に達し、既存杭Pが地盤Sから分離可能になったならば既存杭Pを地上へ引き上げる。これには、既存杭Pの頭部にワイヤーを結びつけてウィンチで引き上げる手段、ケーシング103に設けた係止爪で既存杭Pを把持しオーガーマシン102を上昇させてケーシング103と共に引き上げる手段、油圧チャックで既存杭Pの側周面を把持し順次押し上げる手段などが用いられる。また、既存杭Pの全体を一度に引き上げるのではなく、地上に露出した長さが適当長さに達したならば切断して杭倒しを行う作業を繰り返す工法も採用可能である。
【0027】
ところで既存杭Pが現場打ち杭の場合、地盤Sの状況により、図5に示すような側周面から突出するコブQを有することがあること、及び、掘削装置1でこのようなコブQを持った既存杭Pの周囲を削孔すると、下端の掘削刃12がコブQと衝突したときに外側へ逃げようとして、掘削刃12に矢印Rで示す方向の力が作用し、掘削ヘッド10及びケーシング103が既存杭Pの軸線に対し傾斜しようとすることは前述した。しかるに本発明では、掘削ヘッド10の内周面に適当間隔を空けて上下2列に配置した複数のローラ21から成る掘削方向案内手段20が、既存杭Pの側周面に当接(矢印T参照)して、掘削ヘッド10及びケーシング103が傾斜するのを妨げる。つまり、掘削ヘッド10及びケーシング103の姿勢を既存杭Pに対し常に平行に保つことが出来るので、ケーシング103が既存杭Pと接触して損傷を受けるおそれがない。また、掘削装置1の姿勢が安定するから、作業能率が良好である。
【0028】
既存杭PのコブQは、回転する切削刃12によって切削・粉砕されるが、このとき既存杭Pの側周面に当接するのは、掘削方向案内手段20における回転自在なローラ21部分である。つまり、掘削方向案内手段20は、掘削ヘッド10及びケーシング103が既存杭Pの周囲を回転するのに支障を及ぼすことがない。
【0029】
本発明に係る掘削装置1のうち、交換の必要が生じるのは、通常、ローラ21だけであるが、摩耗しにくい十分に硬度の大きい材質で製作することにより、交換やメンテナンスの回数を減らすことができる。これに対し、掘削方向案内手段20のローラ21以外の部分や、掘削ヘッド10のハウジング11、及び、ケーシング103等については、既存杭Pと接触するおそれがないから、硬度が低い比較的廉価な材質で製作することが可能であり、交換の必要が生じることもきわめて少ない。よって本発明は、部品交換やメンテナンスの経費を著しく抑えられるという効果を持つ。
【0030】
[第2の実施形態]
本発明に係る掘削方向案内手段20をローラ21で構成する場合、図6〜8に示すような構造を採用することも考えられる。この例では、ローラ21の複数個を、上下に配置したブラケット23,23により回転自在に支持すると共に一体化してローラユニットUを構成する(図7参照)。他方、掘削ヘッド10のハウジング11内周面に、適宜間隔を空けてフランジ24,24を固定し、上記ローラユニットUの装着部を形成する。上記フランジ24,24間には、必要に応じ、ハウジング11の内周面に沿って保護部材25を配置する。さらに、この保護部材25は交換可能とするのが望ましい。
【0031】
一つのローラユニットUは、図6(B)に示す如く、掘削方向案内手段20を構成するローラ21全体の3分の1乃至4分の1程度の個数のローラ21を一体化したものとし、ローラ21を回転自在に支持するブラケット23は、平面視すると3分の1円乃至4分の1円程度の円弧状とする。これは、ハウジング11内周面に固定したフランジ24,24間の装着部に対し、ローラユニットUを着脱可能にするためである。また平面視した状態のブラケット23の幅寸法は、ローラ21の直径よりも小さく設定される。すなわち、ローラユニットUをフランジ24,24間へ装着したときに、図6(B)に示すとおり、ローラ21のみが保護部材25(又はハウジング11の内周面)及び既存杭Pの側周面と接触し、ブラケット23はこれらと接触することがないように設定されている。
【0032】
ローラユニットUは、フランジ24,24間へ配置した後、互いを連結して全周にわたり一体化することが望ましい。それには例えば、図8(特に(B)(C))に示す如く、各ローラユニットUにおけるブラケット23の端縁部に接合部23aを設け、隣接するブラケット23,23どうしを、この接合部23aにてボルト26・ナット27等により接合し連結する構造が考えられる。複数の円弧状ローラユニットUを一体に連結することにより、ローラユニットUがフランジ24,24間から離脱することがなくなる。
【0033】
本例では、複数の円弧状ローラユニットUをフランジ24,24間へ配置したのち、全部を連結して一体化する構造を採用したので、ハウジング11に予めフランジ24,24が固定されていても、ローラ21の装着作業が可能である。またローラ21が摩耗したり損壊した場合には、ローラユニットUどうしの締結を解除することにより、ローラユニットUを容易に交換・修理することができる。さらに、ローラ21をハウジング11に固定するものではないから、掘削ヘッド10の製造が容易である。
【0034】
前述の如く構成した掘削方向案内手段20を備える掘削装置で、途中にコブQ(図5参照)を有する既存杭P周囲の地盤を削孔する場合を考える。掘削刃12が既存杭Pのコブに衝突すると、掘削装置に傾斜させようとする外力が作用するが、掘削方向案内手段20のローラ21が既存杭Pの側周面に当接して、掘削ヘッド10及びケーシング103の傾斜を阻止し姿勢を適正に維持する。このとき、掘削ヘッド10は回転駆動されているが、ハウジング11に内装した保護部材25と接するローラ21は、回転しつつ既存杭Pの側周面上を移動する。従って、ローラ21が既存杭Pに当接しても、掘削ヘッド10及びケーシング103の回転駆動に支障を来すおそれがない。このとき、ローラ21を支持するブラケット23は、ローラ21が回転することにより、既存杭Pの周囲を掘削ヘッド10と同一方向へ回転する。つまり一体化されたローラユニットUは、掘削ヘッド10と同方向へ回転する。但しその回転速度は、ローラ21の直径に応じ減速される。
【0035】
前記掘削方向案内手段20において、既存杭Pと接するローラ21は、比較的硬度の高い材質(例えばS45C等の機械構造用炭素鋼鋼材)で製作することが望ましいが、本例では、このローラ21がハウジング11に接触して損傷を与えないようにするため、ハウジング11の内周面に沿って保護部材25を配置した。また、この保護部材25はハウジング11内周面と接するから、保護部材25にはハウジング11と同等かそれよりも軟質な材質を使用して、ハウジング11が保護部材25から損傷を受けないようすることが望ましい。それ故、保護部材25は、硬質なローラ21との接触により摩耗等の損傷を受け易いが、交換可能にできるので、必要に応じ取り替えることにより、ローラ21との接触面を適正な状態に維持することが容易である。
【0036】
[第3の実施形態]
掘削ヘッド10に掘削方向案内手段20としてのローラ21を配置する態様は、図9に例示するように、ハウジング11の内周面に適宜間隔を空けて3〜4列、あるいはそれ以上とすることも可能である。かかる構成によれば、掘削ヘッド10及びケーシング103の姿勢安定性が一層向上する。
【0037】
[第4の実施形態]
図10に示す如く、掘削方向案内手段20を構成するローラ21を、ハウジング11の内周面において、周方向には比較的大きい間隔を空けると共に、軸方向には隣接しないよに配置することも考えられる。かかるローラ配置態様は、掘削ヘッド10及びケーシング103の姿勢安定性を損なうことなく、ローラ21の使用個数を減らして製造コストを下げられるという利点が得られる。
【0038】
[第5の実施形態]
掘削方向案内手段20は、図11に示すように、ハウジング11の内周面に形成したフランジ30で構成することも可能である。前記ローラ21を用いる構造と比べて構成が簡単になるので、非常に安価に製造できる。なおフランジ30は、図11の(B)に示すように、複数に分割した構成であってもよい。さらに図12に示すように、複数の円弧状フランジ31を、ハウジング11の内周面に周方向に配置する構成も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る掘削装置の第1の実施形態を示すものであって、図(A)は掘削ヘッドの部分断面した正面図、図(B)は同掘削ヘッドの平面断面図である。
【図2】オーガマシンに取り付けた本発明に係る掘削装置と、地盤に埋設されている既存杭の杭頭部分とを示す部分断面した正面図である。
【図3】オーガマシンに取り付けた本発明に係る掘削装置を、地盤に埋設されている既存杭の杭頭部分に被せた状態を示す部分断面した正面図である。
【図4】オーガマシンに取り付けた本発明に係る掘削装置で、地盤に埋設されている既存杭の下端部まで削孔した状況を示す部分断面した正面図である。
【図5】本発明に係る掘削装置で、地盤に埋設されている既存杭のコブを切削している状況を示す部分断面した正面図である。
【図6】本発明に係る掘削装置の第2の実施形態を示すものであって、図(A)は掘削ヘッドの部分断面した正面図、図(B)は同掘削ヘッドの平面断面図(フランジ24については半断面した)である。
【図7】本発明に係る掘削装置の第2の実施形態に関するものであって、掘削ヘッドのハウジングとローラユニットとを分解して示す部分断面した斜視図である。
【図8】本発明に係る掘削装置の第2の実施形態に関するものであって、図(A)は掘削ヘッドのハウジングとローラユニットの要部を示す正面断面図、図(B)はハウジングとローラユニットの要部を示す平面断面図、図(C)はローラユニットどうしの接合部を示す正面図である。
【図9】本発明に係る掘削装置の第3の実施形態を示す掘削ヘッドの部分断面した正面図である。
【図10】本発明に係る掘削装置の第4の実施形態を示す掘削ヘッドの部分断面した正面図である。
【図11】本発明に係る掘削装置の第5の実施形態を示すものであって、図(A)は掘削ヘッドの部分断面した正面図、図(B)は同掘削ヘッドの平面断面図である。
【図12】本発明に係る掘削装置の第5の実施形態の異なる態様を示す掘削ヘッドの平面断面図である。
【図13】オーガマシンに取り付けた従来の掘削装置と、地盤に埋設されている既存杭の杭頭部分とを示す部分断面した正面図である。
【図14】オーガマシンに取り付けた従来の掘削装置を、地盤に埋設されている既存杭の杭頭部分に被せた状態を示す部分断面した正面図である。
【図15】オーガマシンに取り付けた従来の掘削装置で、地盤に埋設されている既存杭の下端部まで削孔した状況を示す部分断面した正面図である。
【図16】従来の掘削装置で、地盤に埋設されている既存杭のコブを切削している状況を示す部分断面した正面図である。
【符号の説明】
【0040】
1…掘削装置 10…掘削ヘッド 11…ハウジング 12…掘削刃 20…掘削方向案内手段 21…ローラ 101…リーダ 102…オーガマシン 103…ケーシング 104…螺旋羽根 P…既存杭 Q…コブ S…地盤 U…ローラユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状ケーシングの下端部に設けた掘削刃により、埋設された既存杭の周囲を削孔する掘削装置であって、当該装置の内周面における前記掘削刃の上方に、既存杭の側周面を取り囲む掘削方向案内手段が設けられ、当該掘削方向案内手段の内径又は内接円の直径は、既存杭の公称外径よりも大きく設定されていることを特徴とする杭抜き用の掘削装置。
【請求項2】
前記掘削方向案内手段は、回転自在に設けた複数のローラから成っている請求項1に記載する杭抜き用の掘削装置。
【請求項3】
前記掘削方向案内手段は、前記ケーシングの内周面に周方向に延設したフランジ構造から成っている請求項1に記載する杭抜き用の掘削装置。
【請求項4】
前記掘削方向案内手段における少なくとも既存杭と接触し得る部位を、耐摩耗性に優れた部材で製作した請求項1乃至3のいずれかに記載する杭抜き用の掘削装置。
【請求項5】
前記掘削方向案内手段を、前記ケーシングの軸方向に沿って上下に間隔を空けて2列以上配置した請求項1乃至4のいずれかに記載する杭抜き用の掘削装置。
【請求項6】
前記掘削方向案内手段を、掘削刃を有しケーシングの下端部に着脱可能に装着される掘削ヘッドの内周面に設けた請求項1乃至5のいずれかに記載する杭抜き用の掘削装置。
【請求項1】
円筒状ケーシングの下端部に設けた掘削刃により、埋設された既存杭の周囲を削孔する掘削装置であって、当該装置の内周面における前記掘削刃の上方に、既存杭の側周面を取り囲む掘削方向案内手段が設けられ、当該掘削方向案内手段の内径又は内接円の直径は、既存杭の公称外径よりも大きく設定されていることを特徴とする杭抜き用の掘削装置。
【請求項2】
前記掘削方向案内手段は、回転自在に設けた複数のローラから成っている請求項1に記載する杭抜き用の掘削装置。
【請求項3】
前記掘削方向案内手段は、前記ケーシングの内周面に周方向に延設したフランジ構造から成っている請求項1に記載する杭抜き用の掘削装置。
【請求項4】
前記掘削方向案内手段における少なくとも既存杭と接触し得る部位を、耐摩耗性に優れた部材で製作した請求項1乃至3のいずれかに記載する杭抜き用の掘削装置。
【請求項5】
前記掘削方向案内手段を、前記ケーシングの軸方向に沿って上下に間隔を空けて2列以上配置した請求項1乃至4のいずれかに記載する杭抜き用の掘削装置。
【請求項6】
前記掘削方向案内手段を、掘削刃を有しケーシングの下端部に着脱可能に装着される掘削ヘッドの内周面に設けた請求項1乃至5のいずれかに記載する杭抜き用の掘削装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−219941(P2006−219941A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35975(P2005−35975)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(591278116)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(591278116)
【Fターム(参考)】
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