説明

板圧延機およびその制御方法

【課題】圧延材の反りによる通板トラブル、あるいはうねり、全波、小波等の板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良を、ロールの異常回転、スリップを生ずることなく解消できる板圧延機およびその制御方法を提供する。
【解決手段】上下一対の作業ロール2、3と、前記一対の作業ロール2、3をそれぞれ独立に駆動する一対の電動機5、6を有し、一方の電動機はロール回転速度を制御目標値として制御するロール回転速度制御電動機であり、他方の電動機は該電動機で駆動される作業ロールから圧延材に加えられる圧延トルクが略一定になることを制御目標として制御する駆動トルク制御電動機であり、該駆動トルク制御電動機を駆動トルクを制御量として制御する制御手段を備えた板圧延機であって、前記駆動トルク制御電動機のロール回転速度に上限値及び/又は下限値を設定する制御手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下一対の作業ロールがそれぞれ独立の電動機によって駆動される板圧延機、およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上下一対の作業ロールがそれぞれ独立の電動機によって駆動力を供給されるように構成された板圧延機による板圧延においては、圧延材の反りによる通板トラブル、あるいはうねり、全波、小波等と呼ばれる板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良が確率的に発生するため、これらの発生を防止する技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、圧延材の反りを制御する技術としては、前パスの圧延荷重、圧延トルクの実績値から、当該パスで発生する圧延反り量を計算し、これを防止するための上下ロール周速度差の設定変更制御量を算出し、当該算出した上下ロール周速度差の設定変更制御量に基づいてロール周速度を制御する方法がある(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、反りを防止するための上下ロール周速度差の設定変更制御量は種々の外乱要因によって変化するため、これを正確に算出することは困難である。このため、この方法は一定の効果を奏するものの、反りを皆無にすることはできない。
【0004】
また、小波・うねりを防止する技術としては、圧延材が上反りになるように上下ロールの周速度差を制御する板圧延方法がある(例えば、特許文献2参照)。これは、小波あるいはうねりと呼ばれる板幅全体にわたる波形状が、圧延機出側で圧延材が下反りになりローラーテーブルに衝突することで発生することを解明したことに基づく技術である。しかしながら、ローラーテーブルに衝突しないで発生する小波・うねりもあり、この場合には効果がない。
【0005】
さらに、圧延機の電動機駆動制御の一機能として、上下ロールの駆動トルク差を小さくするためのロードバランス制御が実用化されている(例えば、非特許文献1参照)。これは上下トルク差を検出して上下のロール回転速度差を制御するシステムであり、圧延設備保護を主目的としており、圧延速度制御の外乱になることを避けるため時定数の大きい緩慢な制御となっており、反りやうねりを防止する効果は得られない。
【0006】
ところで本発明とは目的が全く異なるが、特許文献3と4には本発明と類似の実施形態が開示されている。これらの発明は上下ロールの周速あるいはトルクに積極的に差をつけて圧延材に付加的なせん断塑性変形を与える、所謂、異周速圧延を実行するための技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−164031号公報
【特許文献2】特開2002−346617号公報
【特許文献3】特開昭54−71064号公報
【特許文献4】特開昭60−9509号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】富士時報Vol.73、No.11、pp.614〜618(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者らは、上記従来の板圧延機の問題を解決するために、次の板圧延機を開発した。すなわち、この板圧延機は、上下一対の作業ロールと、前記一対の作業ロールをそれぞれ独立に駆動する一対の電動機と、一方の電動機はロール回転速度を制御目標値として制御し、他方の電動機については該電動機で駆動される作業ロールから圧延材に加えられる圧延トルクが略一定になることを制御目標として駆動トルクを制御量として制御する制御手段を備えている。
【0010】
上記板圧延機は、上下作業ロールの圧延トルクバランスの急激な変化を抑制することができ、圧延材の反りによる通板トラブル、あるいはうねり、全波、小波等と呼ばれる板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良を解消することができる。しかし、この板圧延機には、ロールの異常回転、スリップ防止の観点からさらに改善する余地があった。
【0011】
本発明の課題は、圧延材の反りによる通板トラブル、あるいはうねり、全波、小波等の板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良を解消し、さらにロールの異常回転、スリップを防止することができる板圧延機およびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、反りあるいは板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良の発生メカニズムについて広く研究を行った結果、以下の技術的知見を得た。
(A)反りやうねりが発生する場合は、上下作業ロールの圧延トルクバランスが大きく変化すること。
(B)より具体的には、圧延材が上反りになる場合は下圧延トルクが増加方向、上圧延トルクが減少方向に急激に変化して、圧延材が下反りになる場合はその逆方向のトルク変化が生じること。
(C)うねりを生じる場合は、上下作業ロールの圧延トルクのバランスが連続的かつ周期的に変化すること。
(D)さらには、圧延トラブルを引き起こすような大きな反りの場合には、例えば、ホットストリップ仕上圧延の場合、ロール一本あたりトルクの絶対値の50%を超えるような非常に大きなトルク変化が1秒前後の短時間の間に上下ロールで逆方向に生じること。また、このような場合であっても上下ロールのトルクの合計値はほぼ一定値を保っていること。
(E)以上から、上下作業ロールの圧延トルクバランスの変化を抑制する高応答な駆動制御を行えば、反りあるいは板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良を防止できること。
(F)そして、本発明者らは、様々な実験的検討および理論的検討を重ねた結果、圧延速度制御と矛盾しない制御方案として、一方の作業ロールを駆動する電動機はロール回転速度を制御目標値として制御し、他方の作業ロールを駆動する電動機については該電動機で駆動される作業ロールから圧延材に加えられる圧延トルクが略一定になることを制御目標として駆動トルクを制御量として制御するという従来技術にはない新規な制御方式を採用すれば、上下作業ロールの圧延トルクバランスの変化を抑制する高応答な駆動制御を実現できること。
(G)さらに、駆動トルク制御のロール回転速度に上下限値(上限値と下限値の双方をいうことにする)を設け、該上下限値に基づいて圧延中に駆動トルク制御からロール回転速度制御に切り換えることによって、ロールの異常回転、スリップの防止が可能であることを発見した。
【0013】
ここで、圧延トルクを略一定にするとは、上下圧延トルク合計値に対するトルク制御側の作業ロールの圧延トルクの割合の時系列的変化を、圧延出側板厚の100倍に相当する長さを圧延する間に合計トルクの10%程度以下にすることとし、好ましくは、5%程度以下にすることとする。
【0014】
本発明は上記の知見・発見に基づくものであって、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)本発明者らは、圧延材の反りによる通板トラブル、あるいはうねり、全波、小波等と呼ばれる板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良を、ロールの異常回転、スリップを生ずることなく解消できる板圧延機に想到した。当該発明は、上下一対の作業ロールと、前記一対の作業ロールをそれぞれ独立に駆動する一対の電動機を有し、一方の電動機はロール回転速度を制御目標値として制御するロール回転速度制御電動機であり、他方の電動機は該電動機で駆動される作業ロールから圧延材に加えられる圧延トルクが略一定になることを制御目標として制御する駆動トルク制御電動機であり、該駆動トルク制御電動機を駆動トルクを制御量として制御する制御手段を備えた板圧延機であって、
前記駆動トルク制御電動機のロール回転速度に上限値及び/又は下限値を設定する制御手段を備えたことを特徴とする板圧延機である。
(2)本発明者らは、さらに前記ロール回転速度の上下限値をロール回転速度制御側の速度を基準として設定することにより、上下のロール回転数に極端な差が生じることのない板圧延機に想到した。当該発明は、前記回転速度上下限値は、ロール回転速度制御目標値として制御している前記一方の電動機のロール回転速度目標値又は測定値を基準として演算する制御手段を備えたことを特徴とする(1)記載の板圧延機である。
(3)本発明者らは、さらに圧延中に前記ロール回転数の上下限値と圧延トルク実績に基づき駆動トルク制御とロール回転速度制御を切り換えることによって、ロールの異常回転、スリップを防止しかつ、反り、うねり等を解消できる板圧延機に想到した。当該発明は、前記駆動トルクを制御する電動機のロール回転速度が前記上限値を超えた場合、該上限値を目標とするロール回転速度制御に切り換え、当該ロールの圧延トルク実績値が当該ロールの圧延トルク目標値を一定割合上回った場合、当該ロールを駆動トルク制御に戻し、又は、該駆動トルクを制御する電動機のロール回転速度が前記下限値を下回った場合、該下限値を目標とするロール回転速度制御に切り換え、当該ロール圧延トルク実績値が当該ロールの圧延トルク目標値を一定割合下回った場合、当該ロールを駆動トルク制御に戻す制御手段を備えたことを特徴とする(1)又は(2)に記載の板圧延機である。
(4)加えて、本発明者らは、圧延材の反りによる通板トラブル、あるいはうねり、全波、小波等と呼ばれる板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良を、ロールの異常回転、スリップを生ずることなく解消できる板圧延機の制御方法に想到した。当該発明は、上下一対の作業ロールと、前記一対の作業ロールをそれぞれ独立に駆動する一対の電動機を有し、一方の電動機はロール回転速度を制御目標値として制御するロール回転速度制御電動機であり、他方の電動機は該電動機で駆動される作業ロールから圧延材に加えられる圧延トルクが略一定になることを制御目標として制御する駆動トルク制御電動機であり、該駆動トルク制御電動機を駆動トルクを制御量として制御する制御手段を備えた板圧延機の制御方法であって、
前記駆動トルク制御電動機のロール回転速度に上限値及び/又は下限値を設定することを特徴とする板圧延機の制御方法である。
(5)本発明者らは、さらに前記ロール回転速度の上下限値をロール回転速度制御側の速度を基準として設定することにより、上下のロール回転数に極端な差が生じることない板圧延機の制御方法に想到した。当該発明は、前記回転速度上下限値は、ロール回転速度制御目標値として制御している他方の電動機のロール回転速度目標値又は測定値を基準として演算することを特徴とする(4)に記載の板圧延機の制御方法である。
(6)本発明者らは、さらに圧延中に前記ロール回転数の上下限値と圧延トルク実績に基づき駆動トルク制御とロール回転速度制御を切り換えることによって、ロールの異常回転、スリップを防止しかつ、反り、うねり等を解消できる板圧延機の制御方法に想到した。当該発明は、前記駆動トルクを制御する電動機のロール回転速度が前記上限値を超えた場合、該上限値を目標とするロール回転速度制御に切り換え、当該ロールの圧延トルク実績値が当該ロールの圧延トルク目標値を一定割合上回った場合、当該ロールを駆動トルク制御に戻し、又は、該駆動トルクを制御する電動機のロール回転速度が前記下限値を下回った場合、該下限値を目標とするロール回転速度制御に切り換え、当該ロール圧延トルク実績値が当該ロールの圧延トルク目標値を一定割合下回った場合、当該ロールを駆動トルク制御に戻すことを特徴とする(4)又は(5)に記載の板圧延機の制御方法である。
【0015】
なお、ここでは、本発明で言う圧延に関わるトルクについての定義を行う。
圧延トルクとは、圧延材の塑性変形仕事に直接対応するトルクを言い、圧延材と作業ロール間に作用する圧延圧力分布で決まるトルクを言う。
駆動トルクとは、駆動用電動機で発生するトルクを言い、圧延トルクの他にベアリング抵抗、駆動系およびロール系の慣性力の寄与分が含まれる。さらに、ロール系の慣性力には、補強ロールの慣性力の他に作業ロールの慣性力が含まれる。また、中間ロールがある場合には、中間ロールを含んだロール群の慣性力の合計となる。
スピンドルトルクとは、作業ロールに圧延トルクを伝達するスピンドルに負荷されるトルクを言い、圧延トルクの他にベアリング抵抗、ロール系の慣性力の寄与分が含まれる。また、トルクセンサーから作業ロールまでのスピンドルの一部の慣性力の寄与分が含まれるので、当該スピンドルの一部についてはロール系に含まれるものとする。
さらに、本発明で言う圧延トルク実績値または測定値とは、上記駆動トルクの測定値から駆動系とロール系の慣性力起因のトルクおよびベアリングの抵抗を差し引いた値、または、上記スピンドルトルクの測定値からロール系の慣性力起因のトルクおよびベアリングの抵抗を差し引いた値であり、圧延トルク演算値とも言うことにする。上記圧延トルク以外のトルク等を無視した場合は、圧延トルク実績値は、駆動トルク測定値またはスピンドルトルク測定値と一致することとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る板圧延機およびその制御方法によれば、ロール回転速度制御電動機および駆動トルク制御電動機は、それぞれ独立に駆動される。ロール回転速度制御電動機はロール回転速度を制御目標値として制御され、駆動トルク制御電動機は駆動トルクを制御量とし、圧延トルクが略一定になることを制御目標として制御される。これにより、上下作業ロールの圧延トルクバランスの急激な変化を抑制することができ、圧延材の反りによる通板トラブル、うねり、全波、小波の板幅方向に貫通した波形形状による平坦度不良を解消することができる。
【0017】
また、本発明では、駆動トルク制御電動機のロール回転速度に上限値を設けることによりロールの異常回転が防止され、下限値を設けることによりロールの逆回転が防止される。このことにより、設備が保護される。さらに前記ロール回転速度の上・下限値に基づき駆動トルク制御とロール回転速度制御を切り換えることによって、ロールの異常回転、作業ロールと圧延材間でのスリップを生ずることなく、反り、うねり、全波、小波を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す板圧延機の模式的構成図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態を示す板圧延機の模式的構成図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態を示す板圧延機の模式的構成図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態を示す板圧延機の制御方法を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第4の実施の形態を示す板圧延機の模式的構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明に係る板圧延機およびその制御方法の第1の実施の形態を示す構成図である。図1に示すように、板圧延機は上下補強ロール1、4および上下作業ロール2、3からなる4段板圧延機である。上下作業ロール2、3は、スピンドルを介して上下駆動電動機5、6でそれぞれ独立して回転駆動される。板圧延機は、上作業ロール回転速度制限装置33、上駆動トルク目標値7と上駆動トルク測定値8との偏差(上駆動トルク制御量9)を演算する比較器、および下作業ロール回転速度目標値10と下作業ロール回転速度測定値11との偏差(下作業ロール回転速度制御量12)を演算する比較器を備えている。
【0020】
図1に示すように、上作業ロール2を駆動する上駆動用電動機5は、上駆動トルク測定値8を、与えられた上駆動トルク目標値7に一致するように制御し、下作業ロール3を駆動する下駆動用電動機6は、下作業ロール回転速度測定値11を与えられた下作業ロール回転速度目標値10に一致するように制御する。すなわち、上駆動用電動機5は上駆動トルクを制御量として制御し、下駆動用電動機6についてはロール回転速度を制御目標値として制御する。
【0021】
このような制御を実現するため、上駆動制御回路は、上駆動トルク目標値7と上駆動トルク測定値8との差異に基づき、上駆動トルク制御量9を上駆動用電動機5に出力し、下駆動制御回路は、下作業ロール回転速度目標値10と下作業ロール回転速度測定値11との差異に基づき、下作業ロール回転速度制御量12を下駆動用電動機6に出力する。
【0022】
さらに、図1の板圧延機では、上作業ロール回転速度制限装置33において、上作業ロール回転速度測定値13と上作業ロール回転速度上下限値34(上限値と下限値の双方を示す)を読み込み、両者を比較することにより、上駆動電動機5のロール回転速度を制限する。すなわち、駆動トルクを制御目標値とした上駆動制御回路において、上作業ロール回転速度測定値13が、予め設定していた上作業ロール回転速度上下限値34を越えた場合あるいは下回った場合は、作業ロール回転速度制限装置33によって上駆動用電動機5の回転速度を、例えば、上作業ロール回転速度上下限値34の値を維持するように制御する。また、上作業ロール回転速度上下限値34は、例えば、ロール回転速度制御側の制御目標値、ライン速度あるいは上下ロール回転速度の平均値等に対して+30%を上限値、−30%を下限値として予め設定しておけば良い。このように、駆動トルク制御電動機のロール回転速度に上限値を設けることによりロールの異常回転が防止され、下限値を設けることによりロールの逆回転が防止される。これらのことから、設備が保護される。それと共に、作業ロールの異常回転や極端な上下速度差の発生を抑えることができるので、作業ロールと圧延材間で生じるスリップ等も防止することができる。
【0023】
以上のように、本発明に係る板圧延機およびその制御方法によれば、ロール回転速度制御電動機および駆動トルク制御電動機は、それぞれ独立に駆動される。ロール回転速度制御電動機はロール回転速度を制御目標値として制御され、駆動トルク制御電動機は駆動トルクを制御量とし、圧延トルクが略一定になることを制御目標として制御される。これにより、上下作業ロールの圧延トルクバランスの急激な変化を抑制することができ、さらに、駆動トルク制御電動機のロール回転速度に上下限値を設けることにより、設備を保護することができ、ロールの異常回転、スリップを生ずることがなく、圧延材の反りによる通板トラブル、うねり、全波、小波の板幅方向に貫通した波形形状による平坦度不良を解消することができる。
【0024】
なお、図1は上作業ロール2を駆動トルク制御、下作業ロール3をロール回転速度制御とした例であるが、上下の制御を入れ換えても差し支えない。
【0025】
図2は本発明に係る板圧延機およびその制御方法の第2の実施の形態を示す構成図である。図2において、図1と同様の装置および部材は同じ参照符号とし、その説明は省略する。
【0026】
図2に示すように、板圧延機は、上作業ロール回転速度上下限値演算器35が配置されている。上作業ロール回転速度上下限値演算器35では、下作業ロール回転速度目標値10または下作業ロール回転速度測定値11に基づき、上作業ロール回転速度上下限値34を演算する。上作業ロール回転速度上下限値34は、例えば、下作業ロール回転速度の目標値または測定値に対して+30%が上限値、−30%が下限値として演算すれば良い。なお、図2において、点線は下作業ロール回転速度測定値11を基準として上作業ロール回転速度上下限値を演算する場合の構成を示している。このように下作業ロールの回転速度の目標値または測定値を基準として演算した上作業ロール回転速度上下限値に基づき、上作業ロール回転速度制限装置33においては、上作業ロール回転速度測定値13と比較することにより、上駆動電動機5のロール回転速度を、例えば、上作業ロール回転速度上下限値を維持するように制御する。
【0027】
以上のように本発明に係る板圧延機およびその制御方法によれば、駆動トルク制御電動機のロール回転速度の上下限値を、ロール回転速度制御側の速度の目標値または測定値を基準として設定することによって、上下のロール回転速度に極端な差が生じることがなく作業ロールの異常回転や極端な上下速度差の発生を抑えることができるので、設備の保護、作業ロールと圧延材間で生じるスリップ等も防止することができる。
なお、第2の実施の形態を示す図2は上作業ロールを駆動トルク制御、下作業ロールをロール回転速度制御とした例であるが、第1の実施の形態と同様に上下の制御を入れ換えても差し支えない。
【0028】
図3は本発明に係る板圧延機およびその制御方法の第3の実施の形態を示す構成図である。図3において、図1および図2と同様の装置および部材は同じ参照符号とし、その説明は省略する。
【0029】
図3に示すように、板圧延機は、上作業ロール回転速度目標値37と上作業ロール回転速度測定値13との偏差(上作業ロール回転速度制御量38)を演算する比較器、上駆動トルク目標値7と上駆動トルク測定値8との偏差(上駆動トルク制御量9)を演算する比較器、上作業ロール回転速度上下限値34と上作業ロール回転速度測定値13との大小を演算する比較器、およびこの比較器からの信号に応じて動作する上作業ロール駆動トルク―回転速度制御切換器36、および切換スイッチ40を備えている。この切換スイッチ40により、上駆動制御回路は、上駆動トルク目標値7と上駆動トルク測定値8との差異に基づき、上駆動トルク制御量9を上駆動用電動機5に出力し駆動トルクを制御する駆動トルク制御と、上作業ロール回転速度目標値37と上作業ロール回転速度測定値13との差異に基づき、上作業ロール回転速度制御量38を上駆動用電動機5に出力しロール回転速度を制御するロール回転速度制御に切り換えることができる。
【0030】
上記板圧延機において、駆動トルクを制御目標値とした駆動トルク制御をしている際に、上駆動用電動機5の駆動トルク制御とするロールの回転速度が上限値を超えた場合、すなわち、図3の回路図では上作業ロール回転速度測定値13と上作業ロール回転速度上下限値34の上限値を比較した値が負の場合、上作業ロール駆動トルク−回転速度制御切換器36によって切換スイッチ40を動作させ、該上限値をロール回転制御目標値とするロール回転速度制御に切り換える。当該ロールの圧延トルク実績値(ここでは、上駆動トルク測定値8)が当該ロールの圧延トルク目標値(ここでは、上駆動トルク目標値7)を一定割合上回った場合、上作業ロール駆動トルク−回転速度制御切換器36によって切換スイッチ40を動作させ、当該ロールを駆動トルク制御に戻す。なお、ここでいう一定割合とは、圧延トルク目標値に対して一定割合の上限値を設定することであり、例えば、圧延トルク目標値にその値の30%を加えた値を上限値に設定する。すなわち、図3の回路図では、上駆動トルク測定値8と上駆動トルク目標値7を比較した値が、前記駆動トルク目標値から前記上限値を引いた値より小さくなった場合に駆動トルク制御に切り換えることになる。
【0031】
同様に、上作業ロール駆動トルク−回転速度制御切換器36によって切換スイッチ40を動作させ、駆動トルク制御とするロールの回転速度が下限値を下回った場合、すなわち、図3の回路図では上作業ロール回転速度測定値13と上作業ロール回転速度上下限値34の下限値を比較した値が正の場合、該下限値をロール回転制御目標値とする回転速度制御に切り換え、当該ロール圧延トルク実績値が当該ロールの圧延トルク目標値を一定割合下回った場合、当該ロールを駆動トルク制御に戻す。なお、ここでいう一定割合とは、圧延トルク目標値に対して一定割合の下限値を設定することであり、例えば、圧延トルク目標値からその値の30%を引いた値を下限値に設定する。すなわち、図3の回路図では、上駆動トルク測定値8と上駆動トルク目標値7を比較した値が、前記駆動トルク目標値から前記下限値を引いた値より大きくなった場合に駆動トルク制御に切り換えることになる。
このように、駆動トルク制御電動機のロール回転速度に上下限値と圧延トルク実績に基づき、駆動トルク制御とロール回転速度制御を頻繁に切り換えることによって、ロールの異常回転、作業ロールと圧延材間で生じるスリップを防止しできると共に、同時に反り、うねり、全波、小波等を防止することができる。
【0032】
上記板圧延機の制御方法を図4のフローチャートを参照して説明する。
ステップS1
上作業ロールは、与えられた圧延トルク目標値に基づく駆動トルク制御する。下作業ロールは、与えられたロール回転速度目標値に基づく回転速度制御する。
ステップS2
上作業ロール回転速度が上限値を越えたかを判断する。越えない場合はステップS3に進む。越えた場合は、ステップS11に進む。
ステップS3
上作業ロール回転速度が下限値を下回ったかを判断する。下回った場合は、ステップS4に進む。下回らない場合は、ステップ1に戻る。
ステップS4
上作業ロールは、ロール回転速度の下限値を目標とするロール回転速度制御を行う。下作業ロールは、与えられたロール回転速度目標値に基づく回転速度制御を継続する。
ステップS5
上圧延トルク実績が目標値を一定割合下回ったかを判断する。下回った場合は、ステップS1に戻る。下回らない場合は、ステップS4に戻る。
ステップS11
上作業ロールは、ロール回転速度の上限値を目標とするロール回転速度制御を行う。下作業ロールは、与えられたロール回転速度目標値に基づく回転速度制御を継続する。
ステップS12
上圧延トルク実績が目標値を一定割合越えたかを判断する。目標値を越えた場合は、ステップS1に戻る。越えない場合はステップS11に戻る。
【0033】
以上のように本発明に係る板圧延機およびその制御方法によれば、圧延中に駆動トルク制御電動機のロール回転速度の上下限値と圧延トルク実績に基づき駆動トルク制御とロール回転速度制御を切り換えることによって、ロールの異常回転、スリップを防止しかつ、圧延材の反りによる通板トラブル、あるいはうねり、全波、小波等と呼ばれる板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良を解消できる。
なお、第3の実施の形態を示す図3は上作業ロールを駆動トルク制御、下作業ロールをロール回転速度制御とした例であるが、第1、2の実施の形態と同様に上下の制御を入れ換えても差し支えない。
【0034】
図5は本発明に係る板圧延機およびその制御方法の第4の実施の形態を示す構成図である。図5において、図1、図2および図3と同様の装置および部材は同じ参照符号とし、その説明は省略する。
【0035】
図5に示す実施の形態では、作業ロールに圧延トルクを伝達するスピンドルに負荷されるトルクの測定値(スピンドルトルク測定値という)から、ロール系の慣性力に起因するトルクを差し引いた圧延トルク演算値に基づく場合の本発明に係る板圧延機およびその制御方法の例である。なお、厳密に言うとスピンドルトルクから圧延トルクを算出するにはベアリング抵抗の寄与分も計算して差し引かなければならないが、通常はベアリング抵抗の寄与分は極めて小さいので、この手続を省略してもよい。
【0036】
図5に示すように、板圧延機は、上圧延トルク演算器14、上作業ロール回転速度目標値37と上作業ロール回転速度測定値13との偏差(上作業ロール回転速度制御量38)を演算する比較器、上圧延トルク目標値16と上圧延トルク演算値15との偏差(上駆動トルク制御量9)を演算する比較器、上作業ロール回転速度上下限値34と上作業ロール回転速度測定値13との大小を演算する比較器、およびこの比較器からの信号に応じて動作する上作業ロール駆動トルク―回転速度制御切換器36、および切換スイッチ40を備えている。上圧延トルク演算器14は、上ロール系の慣性力を考慮して、上作業ロール回転速度測定値13から演算される上ロール系の加速度の駆動トルクへの寄与分を算出して上スピンドルトルク測定値17から差し引き、正味の上圧延トルク演算値15を推算する。
【0037】
上記板圧延機においては、第3の実施の形態の板圧延機およびその制御方法と同様に、駆動トルク制御のロール回転速度の上下限値および圧延トルク実績値に基づき駆動トルク制御とロール回転速度制御を切り換える。すなわち、駆動トルクを制御目標値とした駆動トルク制御をしている際に、駆動トルク制御とするロールの回転速度が上限値を超えた場合、該上限値を目標とするロール回転速度制御に切り換える。当該ロールの圧延トルク実績値(ここでは、上圧延トルク演算値15)が当該ロールの圧延トルク目標値(ここでは、上圧延トルク目標値16)を一定割合上回った場合、当該ロールを駆動トルク制御に戻す。また、駆動トルク制御とするロールの回転速度が下限値を下回った場合、該下限値を目標とするロール回転速度制御に切り換え、当該ロール圧延トルク実績値が当該ロールの圧延トルク目標値を一定割合下回った場合、当該ロールを駆動トルク制御に戻す。
【0038】
このように第4の形態においては、スピンドルトルク測定値からロール系の慣性力に起因するトルクを差し引いた圧延トルクが制御目標値に一致するように駆動トルク制御量を与えて上駆動用電動機5を制御するので、加減速の激しい圧延条件下であっても上下作業ロールの圧延トルクバランスを保持でき、さらに、圧延中に駆動トルク制御電動機のロール回転速度の上下限値とスピンドルトルク測定値より演算した圧延トルク演算値に基づき駆動トルク制御とロール回転速度制御を切り換えることによって、ロールの異常回転、スリップを防止しかつ、圧延材の反りによる通板トラブル、あるいはうねり、全波、小波等と呼ばれる板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良を解消できる。
【0039】
なお、図5は上作業ロール2を駆動トルク制御、下作業ロール3をロール回転速度制御とした例であるが、上下の制御を入れ換えても差し支えない。
また、この実施形態においても、第1〜3の実施の形態で示したように、駆動トルク制御電動機のロール回転速度の上・下限値をロール回転速度制御側の速度の目標値または測定値を基準として設定しても良い。
【実施例】
【0040】
上下の電動機ともロール回転速度を制御目標値として制御する従来の板圧延機の場合(従来法)と、一方の電動機はロール回転速度を制御目標値として制御し、他方の電動機は駆動トルクを制御量として制御する制御手段を備え、駆動トルク制御のロール回転速度に上下限値を設定することが可能な本発明の板圧延機で、駆動トルク制御のロール回転速度に上下限値を設けない場合(比較例)と駆動トルク制御のロール回転速度にロール回転速度制御側の制御目標値に対して±30%の上下限値を設けた場合(本発明)について、反りおよびスリップの発生状況の比較を行った.その結果を表1に示す。その結果を表1に示す。表1で、規格化反り曲率κは反り曲率/作業ロール半径の曲率を示す。規格化反り曲率κが1.0なら、作業ロールに巻き付く程の反り形状を示す。
【0041】
表1には、圧延本数200本に対して、反りが規格化反り曲率で0.5以上となった場合の発生本数と、ロールと圧延材間でスリップが生じた場合の発生本数を示す。表1より、従来法では、規格化反り曲率0.5以上の発生本数が17本であるのに対して、本発明1では2本、発明2では1本と減少し、本発明による反りの抑制効果が確認された。スリップの発生本数については、本発明1が4本であるに対して、本発明2では、従来法と同様に0本であることが確認され、反りとスリップ発生の双方が防止されていることがわかる。
【0042】
【表1】

【0043】
以上、本発明の板圧延機では、一方の電動機はロール回転速度を制御目標値として制御し、他方の電動機は駆動トルクを制御量として制御する制御手段を備えることにより、上下作業ロールのトルク差の急激な変化を抑制することができ、さらに駆動トルク制御のロール回転速度に上下限値を設定することでロールの異常回転、スリップを防止し、かつ、反りを抑制することが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0044】
1 上補強ロール 2 上作業ロール
3 下作業ロール 4 下補強ロール
5 上駆動用電動機 6 下駆動用電動機
7 上駆動トルク目標値 8 上駆動トルク測定値
9 上駆動トルク制御量 10 下作業ロール回転速度目標値
11 下作業ロール回転速度測定値 12 下作業ロール回転速度制御量
13 上作業ロール回転速度測定値 14 上圧延トルク演算器
15 上圧延トルク演算値 16 上圧延トルク目標値
17 上スピンドルトルク測定値
33 上作業ロール回転速度制限装置 34 上作業ロール回転速度上下限値
35 上作業ロール回転速度上下限値演算器
36 上作業ロール駆動トルク−回転速度制御切換器
37 上作業ロール回転速度目標値 38 上作業ロール回転速度制御量
40 切換スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下一対の作業ロールと、前記一対の作業ロールをそれぞれ独立に駆動する一対の電動機を有し、一方の電動機はロール回転速度を制御目標値として制御するロール回転速度制御電動機であり、他方の電動機は該電動機で駆動される作業ロールから圧延材に加えられる圧延トルクが略一定になることを制御目標として制御する駆動トルク制御電動機であり、該駆動トルク制御電動機を駆動トルクを制御量として制御する制御手段を備えた板圧延機であって、
前記駆動トルク制御電動機のロール回転速度に上限値及び/又は下限値を設定する制御手段を備えたことを特徴とする板圧延機。
【請求項2】
前記回転速度上下限値は、ロール回転速度制御目標値として制御している前記一方の電動機のロール回転速度目標値又は測定値を基準として演算する制御手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の板圧延機。
【請求項3】
前記駆動トルクを制御する電動機のロール回転速度が前記上限値を超えた場合、該上限値を目標とするロール回転速度制御に切り換え、当該ロールの圧延トルク実績値が当該ロールの圧延トルク目標値を一定割合上回った場合、当該ロールを駆動トルク制御に戻し、又は、該駆動トルクを制御する電動機のロール回転速度が前記下限値を下回った場合、該下限値を目標とするロール回転速度制御に切り換え、当該ロール圧延トルク実績値が当該ロールの圧延トルク目標値を一定割合下回った場合、当該ロールを駆動トルク制御に戻す制御手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の板圧延機。
【請求項4】
上下一対の作業ロールと、前記一対の作業ロールをそれぞれ独立に駆動する一対の電動機を有し、一方の電動機はロール回転速度を制御目標値として制御するロール回転速度制御電動機であり、他方の電動機は該電動機で駆動される作業ロールから圧延材に加えられる圧延トルクが略一定になることを制御目標として制御する駆動トルク制御電動機であり、該駆動トルク制御電動機を駆動トルクを制御量として制御する制御手段を備えた板圧延機の制御方法であって、
前記駆動トルク制御電動機のロール回転速度に上限値及び/又は下限値を設定することを特徴とする板圧延機の制御方法。
【請求項5】
前記回転速度上下限値は、ロール回転速度制御目標値として制御している前記一方の電動機のロール回転速度目標値又は測定値を基準として演算することを特徴とする請求項4に記載の板圧延機の制御方法。
【請求項6】
前記駆動トルクを制御する電動機のロール回転速度が前記上限値を超えた場合、該上限値を目標とするロール回転速度制御に切り換え、当該ロールの圧延トルク実績値が当該ロールの圧延トルク目標値を一定割合上回った場合、当該ロールを駆動トルク制御に戻し、又は、該駆動トルクを制御する電動機のロール回転速度が前記下限値を下回った場合、該下限値を目標とするロール回転速度制御に切り換え、当該ロール圧延トルク実績値が当該ロールの圧延トルク目標値を一定割合下回った場合、当該ロールを駆動トルク制御に戻すことを特徴とする請求項4又は請求項5記載の板圧延機の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−260075(P2010−260075A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111870(P2009−111870)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】