説明

板圧延機及びその制御方法

【課題】圧延時において圧延材に急激な張力変化が生じた場合であっても作業ロールに対して適切な制御を行って、圧延材の反りによる通板トラブル、あるいはうねり、全波、小波等と呼ばれる板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良を解消することができる板圧延機及びその制御方法を得る。
【解決手段】圧延材39に張力変化が生じてその張力変化量が予め定めた変化量許容範囲外となったときは、上駆動用電動機の制御を制御切換装置36によって駆動トルク制御からロール回転速度制御に切換え、該電動機5のロール回転速度を速度維持制御手段によって一定速度に維持制御する一方、圧延材39の張力変化後における上記他方の電動機の駆動トルクを測定して、その測定値を新たな駆動トルク制御目標値として変更した後、該他方の電動機の制御をロール回転速度制御から駆動トルク制御に切換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下一対の作業ロールがそれぞれ独立の電動機によって駆動力を供給されるように構成された板圧延機及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上下一対の作業ロールがそれぞれ独立の電動機によって駆動力を供給されるように構成された板圧延機による板圧延においては、圧延材の反りによる通板トラブル、あるいはうねり、全波、小波等と呼ばれる板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良が確率的に発生するため、これらの発生を防止する技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、圧延材の反りを制御する技術としては、前パスの圧延荷重、圧延トルクの実績値から、当該パスで発生する圧延反り量を計算し、これを防止するための上下作業ロールの回転速度差の設定変更制御量を算出し、当該算出した上下作業ロールの回転速度差の設定変更制御量に基づいてロール回転速度を制御する方法がある(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、反りを防止するための上下作業ロールの回転速度差の設定変更制御量は種々の外乱要因によって変化するため、これを正確に算出することは困難である。このため、この方法は一定の効果を奏するものの、反りを皆無にすることはできない。
【0004】
また、小波・うねりを防止する技術としては、圧延材が上反りになるように上下作業ロールの回転速度差を制御する板圧延方法がある(例えば、特許文献2参照)。これは、小波あるいはうねりと呼ばれる板幅全体にわたる波形状が、圧延機出側で圧延材が下反りになりローラーテーブルに衝突することで発生することを解明したことに基づく技術である。しかしながら、ローラーテーブルに衝突しないで発生する小波・うねりもあり、この場合には効果がない。
【0005】
さらに、圧延機の電動機駆動制御の一機能として、上下作業ロールの駆動トルク差を小さくするためのロードバランス制御が実用化されている(例えば、非特許文献1参照)。これは上下トルク差を検出して上下のロール回転速度差を制御するシステムであり、圧延設備保護を主目的としており、圧延速度制御の外乱になることを避けるため時定数の大きい緩慢な制御となっており、反りやうねりを防止する効果は得られない。
なお、本発明とは目的が全く異なるが、特許文献3と4には本発明と類似の実施形態が開示されている。これらの発明は上下作業ロールの回転速度あるいはトルクに積極的に差をつけて圧延材に付加的なせん断塑性変形を与える、所謂、異周速圧延を実行するための技術である。
【0006】
ところで、圧延機によって圧延される圧延材には、長さ方向(圧延方向)に張力が生じていることが多いが、例えば圧延機の上下作業ロールが圧延材先端を噛み込んだ場合、あるいは圧延ラインにおいて隣接する圧延機が1枚の圧延材を同時に圧延するような場合等に、上下作業ロールの回転に伴って圧延材の張力が急激に変化することがある。このように圧延材の張力が急激に変化した場合、上下各ロールそれぞれが異常回転することがあり、これにより圧延材の張力がさらに大きく且つ急激に変化し、その張力変化に上下作業ロールから圧延材に加えられる圧延トルクが追従することにより上下作業ロールのトルクバランスが急激に変化してしまう場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−164031号公報
【特許文献2】特開2002−346617号公報
【特許文献3】特開昭54−71064号公報
【特許文献4】特開昭60−9509号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】富士時報Vol.73、No.11、pp.614〜618(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の解決すべき課題は、圧延時において圧延材に急激な張力変化が生じた場合であっても作業ロールに対して適切な制御を行って、圧延材の反りによる通板トラブル、あるいはうねり、全波、小波等と呼ばれる板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良を解消することができる板圧延機及びその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、反りあるいは板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良の発生メカニズムについて広く研究を行った結果、以下の技術的知見を得た。
(A)反りやうねりが発生する場合は、上下作業ロールの圧延トルクバランスが大きく変化すること。
(B)より具体的には、圧延材が上反りになる場合は下圧延トルクが増加方向、上圧延トルクが減少方向に急激に変化して、圧延材が下反りになる場合はその逆方向のトルク変化が生じること。
(C)うねりを生じる場合は、上下作業ロールの圧延トルクのバランスが連続的かつ周期的に変化すること。
(D)また、圧延トラブルを引き起こすような大きな反りの場合には、例えばロール一本あたりトルクの絶対値の50%を超えるような非常に大きなトルク変化が1秒前後の短時間の間に上下作業ロールで逆方向に生じること。また、このような場合であっても上下作業ロールのトルクの合計値はほぼ一定値を保っていること。
(E)さらには、圧延機の上下作業ロールが圧延材先端を噛み込んだ際あるいは隣接する圧延機が同時に圧延する際等において、圧延材に張力変化が生じる場合、圧延トルクは張力の影響を受けて変動すること。また、圧延材の急激な張力変化によって上下作業ロールが異常回転し、さらに大きく且つ急激な張力変化が発生する場合があること。
(F)以上から、上下作業ロールの圧延トルクバランスの変化を抑制する高応答な駆動制御を行えば、反りあるいは板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良を防止できること。
(G)さらに、圧延時において圧延材に急激な張力変化が生じた場合であっても、作業ロールに対して適切な駆動制御を行えば、該作業ロールの異常回転を防止することができ、また張力変化後の圧延トルクバランスの変化を抑制する制御を行えば上述の反りや平坦度不良等を防止することができること。
【0011】
上記の知見・発見に基づき、本発明者らは、圧延時において圧延材に急激な張力変化が生じた場合であっても、圧延材の反りによる通板トラブル、あるいはうねり、全波、小波等と呼ばれる板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良を解消できる板圧延機に想到した。
即ち、本発明の板圧延機は、上下一対の作業ロールと、上記一対の作業ロールをそれぞれ独立に駆動する一対の電動機と、一方の電動機に対し、ロール回転速度を制御目標値として制御する第1の制御手段と、他方の電動機に対し、該電動機によって駆動される作業ロールから圧延材に加えられる圧延トルクが略一定になることを制御目標として駆動トルクを制御量とした制御であって駆動トルク制御目標値に応じて行う駆動トルクの制御、又はロール回転速度を制御目標値とした制御のいずれか一方に切換え可能な第2の制御手段とを備え、上記第2の制御手段は、圧延材に生じる張力変化の変化量が予め定めた変化量許容範囲外となったときに上記他方の電動機の制御を駆動トルク制御からロール回転速度制御に切換える一方、張力変化後にロール回転速度制御から駆動トルク制御に切換える切換手段と、上記他方の電動機の制御がロール回転速度制御に切り換わったときに該電動機のロール回転速度を一定速度に維持制御する速度維持制御手段と、圧延材の張力変化後であって上記他方の電動機をロール回転速度制御から駆動トルク制御に切換える前に該電動機の駆動トルクを測定する駆動トルク測定手段と、上記他方の電動機を回転速度制御から駆動トルク制御に切換えるときに該駆動トルク測定手段による測定値を新たな駆動トルク制御目標値として圧延中に変更する変更制御手段とを有していることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、上記第2の制御手段における切換手段は、圧延機における圧延材の入側又は出側のうちのいずれか一方で生じた張力に基づいて、上記他方の電動機の制御を駆動トルク制御又はロール回転速度制御に切換える構成であるものとすることができる。
また、上記第2の制御手段における切換手段は、圧延機における圧延材の入側と出側の間で生じた張力差の変化に基づいて、上記他方の電動機の制御を駆動トルク制御又はロール回転速度制御に切換える構成であるものとしてよい。
【0013】
一方、本発明の板圧延機の制御方法は、上下一対の作業ロールにそれぞれ独立の電動機によって駆動力を供給して、一方の電動機をロール回転速度を制御目標値として制御すると共に、他方の電動機を、該電動機によって駆動される作業ロールから圧延材に加えられる圧延トルクが略一定になることを制御目標として駆動トルクを制御量とした制御であって駆動トルク制御目標値に応じて行う駆動トルクの制御、又はロール回転速度を制御目標値とした制御のいずれか一方に切換え自在に制御し、圧延時において、圧延材に張力変化が生じてその張力変化量が予め定めた変化量許容範囲外となったときは、上記他方の電動機の制御を駆動トルク制御からロール回転速度制御に切換えると共に、該電動機のロール回転速度を一定速度に維持制御して、圧延材の張力変化後における上記他方の電動機の駆動トルクを測定して、その測定値を新たな駆動トルク制御目標値として変更した後、該他方の電動機の制御をロール回転速度制御から駆動トルク制御に切換えることを特徴とする。
【0014】
この場合においては、上記他方の電動機の駆動トルク制御とロール回転速度制御との切換えを、圧延機における圧延材の入側又は出側のうちのいずれか一方で生じた張力に基づいて行うこととすることができる。
また、上記他方の電動機の駆動トルク制御とロール回転速度制御との切換えを、圧延機における圧延材の入側と出側の間で生じた張力差の変化に基づいて行うようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一方の電動機をロール回転速度を制御目標値として制御すると共に、他方の電動機を、該電動機によって駆動される作業ロールから圧延材に加えられる圧延トルクが略一定になることを制御目標として駆動トルクを制御量とした制御であって駆動トルク制御目標値に応じて行う駆動トルクの制御、又はロール回転速度を制御目標値とした制御のいずれか一方に切換えて制御するため、圧延材に急激な張力変化が生じていない場合においては、他方の電動機については駆動トルクを制御量とした制御を行うことにより高応答な駆動制御を行うことができ、これにより、上下作業ロールの圧延トルクバランスの急激な変化を抑制することができ、圧延材の反りによる通板トラブル、あるいはうねり、全波、小波等と呼ばれる板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良を解消することができる。
【0016】
一方、圧延時において、圧延材に張力変化が生じてその張力変化量が予め定めた変化量許容範囲外となったときは、上記他方の電動機の制御を駆動トルク制御からロール回転速度制御に切換えて、該電動機のロール回転速度を一定速度に維持制御するため、作業ロールの異常回転を防止することができる。したがって、圧延時において圧延材に急激な張力変化が生じた場合であっても、作業ロールの異常回転に伴う急激な張力変化とそれに追随する圧延トルクの急激な変化を防止して、上下作業ロールのトルクバランスが変化することを防ぐことができる。また、張力変化後に電動機の駆動トルクを測定して、駆動トルク制御目標値を、その測定値を新たな駆動トルク制御目標値として変更し、その新たな駆動トルク制御目標値に基づいて該電動機の駆動トルク制御を再開するため、圧延材に急激な張力変化が生じても、上下作業ロールの圧延トルクバランスの急激な変化を抑制し、上述の反りや平坦度不良等を確実に防止することができる。
さらに、本発明によれば、このように定常的な圧延操業を行っている際に、急激な張力変化という非定常的な状態が生じたとしても、駆動トルク制御を一時的にロール回転速度制御に切換えて制御するため、その前後において反りや平坦度不良を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る板圧延機の一実施の形態を示す構成図である。
【図2】図1の板圧延機の制御フロー図である。
【図3】本発明に係る板圧延機において、上作業ロールの(a)圧延材先端噛み込み時からの単位張力の変化を経時的に示すグラフ、(b)ロール回転速度の変化を経時的に示すグラフ、(c)駆動トルクの変化を経時的に示すグラフである。
【図4】本発明に係る板圧延機の実施例を示す構成図である。
【図5】本発明の実施例に係る板圧延機において、上作業ロールの(a)圧延材先端噛み込み時からの単位張力の変化を経時的に示すグラフ、(b)ロール回転速度の変化を経時的に示すグラフ、(c)駆動トルクの変化を経時的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1〜図3を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は本発明に係る板圧延機の一実施の形態を本発明の制御情報の流れに基づいて示すものである(ただし、必ずしも装置構成と一致するように図示していない。)。図1の圧延機は、上作業ロール2及び下作業ロール3がそれぞれ独立の上下駆動用電動機5,6によって駆動されるもので、上作業ロール2の上部には上補強ロール1が、下作業ロール3の下部には下補強ロール4が配設されたものとなっている。
そして、下作業ロール3を駆動する下駆動用電動機6はロール回転速度を制御目標値に一致するように制御され、上作業ロール2を駆動する上駆動用電動機5は、該電動機5によって駆動される作業ロールから圧延材39に加えられる圧延トルクが略一定になることを制御目標として駆動トルクを制御量とした制御であって駆動トルク制御目標値に一致するように行う駆動トルクの制御、又はロール回転速度を制御目標値とした制御のいずれか一方に切換自在に制御されるようになっている。
ここで、圧延トルクを略一定にするとは、上下圧延トルク合計値に対するトルク制御側の作業ロールの圧延トルクの割合の時系列的変化を、圧延出側板厚の100倍に相当する長さを圧延する間に合計トルクの10%程度以下にすることとし、好ましくは、5%程度以下にすることとする。
【0019】
このような制御を実現するため、上記下駆動用電動機6を制御する下駆動制御回路は、下作業ロール回転速度目標値10と下作業ロール回転速度測定値11との差異に基づき、下作業ロール回転速度制御量12を下駆動用電動機6に出力する構成となっている。
なお、この下駆動制御回路は、下駆動用電動機6に対して下作業ロール回転速度のみを制御するようになっていて、駆動トルクについては制御しない。
【0020】
一方、上記上駆動用電動機5を制御する上駆動制御回路は、上駆動用電動機5の制御を駆動トルク制御又はロール回転速度制御のいずれか一方に切換える制御切換装置36と、上駆動用電動機5の制御がロール回転速度制御に切替わったときに、上作業ロール2のロール回転速度を一定速度に維持制御する速度維持制御手段と、上駆動用電動機5の駆動トルクを測定する上駆動トルク測定手段と、上駆動用電動機5を回転速度制御から駆動トルク制御に切換えるときに該駆動トルク測定手段による測定値を新たな駆動トルク制御目標値として圧延中に変更する変更制御手段とを備えている。
そして、上駆動用電動機5の制御が駆動トルク制御である場合は、上駆動トルク制御目標値計算器19によって設定された上記駆動トルク制御目標値7に一致するように上駆動用電動機5の駆動トルクを制御し、一方、ロール回転速度制御である場合は、後述する上作業ロール回転速度目標値37に一致するように上作業ロール2の回転速度を制御する。
【0021】
上記制御切換装置36は、圧延材39の張力変化によって、図示しない張力測定手段により測定された張力測定値40(この実施の形態においては、圧延機の入側における圧延材の張力を測定している。)の変化量が予め定めた変化量許容範囲外となったときに、その張力が変化するタイミングで上駆動用電動機5の制御を駆動トルク制御からロール回転速度制御に切換える一方、張力変化後(張力変化が完了した後)であって駆動トルク制御目標値変更後にロール回転速度制御から駆動トルク制御に切換える構成となっている。そして、この変化量許容範囲の上下限値41と圧延材39の張力測定値40から算出された実際の張力変化量とを比較し、張力変化量が許容範囲外であると判断された場合には、その情報が上記制御切換装置36に出力され、上駆動用電動機5の制御を駆動トルク制御からロール回転速度制御に切換えられる。
ここで、上記張力の変化量の上下限値41は、圧延材の強度や板厚、板幅等の各種条件によって決定される。
【0022】
また、上記速度維持制御手段は、一定の回転速度とするための所定の上作業ロール回転速度目標値37と、図示しない上作業ロール回転速度測定手段により測定された上作業ロール回転速度測定値13との差異に基づき、上作業ロール回転速度制御量38を上駆動用電動機5に出力する構成となっている。これにより、張力(測定値)の変化量が予め定めた変化量許容範囲外となった場合において、上記上駆動用電動機5の制御がロール回転速度制御に切替わるとほぼ同時に、上駆動用電動機5のロール回転速度を一定の回転速度に維持するようになっている。
なお、上記所定のロール回転速度目標値は、上記上駆動用電動機5の制御をロール回転速度制御に切換える瞬間の上作業ロール回転速度を目標とし決定される。
【0023】
上記上駆動トルク測定手段は、上駆動用電動機5が駆動トルク制御されている場合に、その測定値である該電動機5の上駆動トルク測定値8’を、駆動トルク制御装置(図示せず)に、制御切換装置36を経由して出力する。
その一方で、上駆動トルク測定手段は、圧延材39の張力変化後(急激な張力変化が終了して張力が比較的安定した後)であって上駆動用電動機5をロール回転速度制御から駆動トルク制御に切換える前に、該電動機5の上駆動トルクを測定し、測定値である上駆動トルク測定値8を、制御切換装置36を経由して上記駆動トルク制御装置に出力する。さらに、該上駆動トルク測定装置を通じて、上駆動トルク測定値8を、上記上駆動トルク制御目標値を設定する上駆動トルク制御目標値計算器19に出力するようにしている。
【0024】
上記変更制御手段は、上記上駆動トルク測定手段から入力した上駆動トルク測定値8を、上駆動トルク制御目標値計算器19によって新たな上駆動トルク制御目標値7として設定する。また、制御切換装置36を経由して上記上駆動トルク測定手段から入力した上駆動トルク測定値8に基づいて、上駆動用電動機5の駆動トルクを上記新たな上駆動トルク制御目標値7に一致させるための上駆動トルク制御量9を、該上駆動用電動機5に出力する構成となっている。
【0025】
ところで、図1に示す板圧延機においては、上駆動用電動機5の制御を駆動トルク制御である場合に、上下作業ロール2,3の圧延トルクバランスをより好適に制御するため、上駆動用電動機5の上駆動トルク制御目標値7を圧延中に更新する制御を行うことができるように構成されている。
具体的には、上駆動用電動機5が駆動トルク制御されている場合において、上記上駆動トルク測定手段によって測定された駆動トルク制御時の上駆動トルク測定値8’と、上記下駆動用電動機6に設けられた下駆動トルク測定手段によって測定された下駆動トルク測定値18と、現時点の上駆動トルク制御目標値とに基づいて、更新に供する上駆動トルク制御目標値7’を上駆動トルク制御目標値計算器19で演算し、上駆動用電動機5の駆動トルクをその上駆動トルク制御目標値7’に一致させるための上駆動トルク制御量9’を該上駆動用電動機5に出力するようになっている。
【0026】
上記構成を有する板圧延機によって圧延材39を圧延するにあたっては、図2に示すように、板圧延機は次のように制御される。
初期状態においては、上駆動用電動機5は、上駆動制御回路の制御切換装置36によって駆動トルク制御に切換えられていて、上作業ロール2は、事前に与えられた駆動トルク制御目標値に基づく駆動トルクに制御される。また、下駆動用電動機6に対してはロール回転速度制御のみが行われ、下作業ロール3は、事前に与えられた下作業ロール回転速度目標値10に基づいてロール回転速度が制御される。
【0027】
そして、例えば上下作業ロール2,3が圧延材先端を噛み込んだ場合等、圧延材39の張力が変化した場合において、圧延材39に生じる張力変化の変化量が小さく、予め定めた変化量許容範囲内、つまり張力の変化量が許容範囲の上下限値41内であるときは、上駆動用電動機5の制御は駆動トルク制御のまま維持され、上作業ロール2は、引き続き事前に与えられた駆動トルク制御目標値に基づく駆動トルクに制御される。
なお、この場合においては、上述したように、上下作業ロール2,3の圧延トルクバランスをより好適に制御するため、上下作業ロール2,3の駆動トルクの状況によっては、上駆動用電動機5の上駆動トルク制御目標値7を圧延中に更新する制御が行われることがある。
【0028】
一方、図3に示すように、圧延材39に生じる張力の変化量が予め定めた変化量許容範囲外、つまり張力変化量が許容範囲の上下限値41から外れた場合(図3(a)参照)、上駆動用電動機5の制御は、その張力が変化するタイミングで制御切換装置36によって駆動トルク制御からロール回転速度制御に切換えられる。そして、上駆動用電動機5の制御がロール回転速度制御に切替わるとほぼ同時に、速度維持制御手段によって上駆動用電動機5のロール回転速度が一定の回転速度に維持制御される(図3(b)参照)。
なお、上駆動用電動機5の制御が駆動トルク制御からロール回転速度制御に切換えられた場合には、駆動トルク制御は解除される(図3(c)参照)。
【0029】
その後、張力変化が終了して張力が安定したとき(図3(a)参照)には、その張力変化後の上作業ロール2の駆動トルクが上駆動トルク測定手段によって測定されると共に、変更制御手段により上駆動トルク制御目標値7が、その測定された上駆動トルク測定値8を新たな上駆動トルク制御目標値7として変更される。
【0030】
そして、上駆動トルク制御目標値を新たな上駆動トルク制御目標値に変更した後、上駆動用電動機5の制御は、制御切換装置36によってロール回転速度制御から駆動トルク制御に切換えられ、上作業ロール2の駆動トルク制御が再開されることとなる(図3(c)参照)。
なお、上駆動用電動機5の制御がロール回転速度制御から駆動トルク制御に切換えられた場合には、ロール回転速度制御は終了し、ロール回転速度の回転速度維持も解除される(図3(b)参照)。
【0031】
上述のように、圧延材39に生じる張力変化の変化量が予め定めた変化量許容範囲内であって、上駆動用電動機5の制御が駆動トルク制御されて上作業ロール2の駆動トルクが制御される場合、圧延材39の速度制御については従来技術に係る上下作業ロール2,3ともロール回転数制御とする場合と同様の性能を発揮できるうえ、上下作業ロール2,3の圧延トルクバランスの変化を防止することが可能となる。
これは、通常の圧延は圧下率がほぼ一定の状態で圧延を実施するので上下作業ロール2,3の圧延トルクを合計した合計トルクはほぼ一定値となるところ、上作業ロール2の圧延トルクを一定に制御すれば必然的に下作業ロール3の圧延トルクもほぼ一定に制御できるので、上下作業ロール2,3の圧延トルクバランスの変化を防止できるからである。即ち、ロール回転速度制御を実施している下作業ロール3の圧延トルクもほぼ一定となり、作業ロールと圧延材39とのスリップが零となる中立点の位置もほぼ一定に保たれるので、圧延材39の速度についてもほぼ一定に保たれるからである。
【0032】
したがって、上駆動用電動機5の制御が駆動トルク制御である場合は、高応答な駆動制御によって上下作業ロール2,3の圧延トルクバランスの急激な変化を抑制することができ、圧延材39の反りによる通板トラブル、あるいはうねり、全波、小波等と呼ばれる板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良を解消することができる。
また、このような制御を板圧延の全長に渡って行えば、特許文献1及び2に挙げられた対症療法的な対応ではなく定常的な制御を行うことができるため、応答も速く、反りや絞りを未然に防止できる。
【0033】
一方、圧延材39に張力変化が生じてその張力変化量が予め定めた変化量許容範囲外となった場合は、上駆動用電動機5の制御が駆動トルク制御からロール回転速度制御に切換えられ、該電動機5のロール回転速度が一定速度に維持制御されるため、作業ロールの異常回転を防止することができる。これにより、圧延時において圧延材39に急激且つ許容範囲を外れるような張力変化が生じた場合であっても、図3(c)に示すように、作業ロールの異常回転に伴う急激な張力変化とそれに追随する圧延トルクの急激な変化が防止され、上下作業ロール2,3のトルクバランスが変化することを防ぐことができる。
また、張力変化後に上駆動用電動機5の駆動トルクを測定して、上駆動トルク制御目標値7を、その測定値を新たな上駆動トルク制御目標値7として変更し、その新たな上駆動トルク制御目標値7に基づいて該電動機5の駆動トルク制御を再開するため、圧延材39に急激な張力変化が生じても、上下作業ロール2,3の圧延トルクバランスの急激な変化を抑制し、上述の反りや平坦度不良等を確実に防止することができる。
【0034】
上記実施の形態においては、上記上駆動制御回路の制御切換装置36は、圧延機における圧延材39の入側で生じた張力に基づいて、上駆動用電動機5の制御を駆動トルク制御又はロール回転速度制御に切換えるようにしているが、上駆動用電動機5の駆動トルク制御又はロール回転速度制御の切換えは、圧延機における圧延材39の出側で生じた張力に基づいて行うようにしてもよく、あるいは、圧延機における圧延材39の入側と出側の間で生じた張力差の変化に基づいて行うようにすることも可能である。
【0035】
上記実施の形態では、上作業ロール2を駆動トルク制御又はロール回転速度制御のいずれか一方に切換え可能とし、下作業ロール3をロール回転速度制御とした例を示しているが、上下の制御を入れ換えても差し支えない。
また、目標値と測定値との差異から制御量を決める際には、例えばPID制御ゲインを介する等、通常用いられる制御技術を適用することは言うまでもなく、上下一対の作業ロールをそれぞれ独立に駆動する一対の電動機に対して、ロール回転速度を制御目標値として制御、又は駆動トルクを制御量として制御する制御手段としては、例えばコンピュータ(電子計算機)を用いることができる。さらに、圧延トルク目標値の設定計算モデルを圧延実績データから学習することで圧延トルク設定値の計算精度を上げることができ、結果として上下作業ロール2,3のトルクの差を小さくすることもできる。
【実施例】
【0036】
詳細に本発明の効果を確認するため、図1の板圧延機を有する図4に示すような熱間タンデム圧延機において圧延実験を行った。タンデム圧延の場合、当該スタンドへの圧延材咬み込み、尻抜け時の他に、図5(a)に示すように圧延材が次のスタンドに咬み込む瞬間にも張力が変動するため、本発明は各スタンドの咬み込み毎に制御を行うこととなる。
以下、図4及び図5(a)〜(c)を用いて、当該スタンド咬み込みの後の次スタンド咬み込み時に用いられた実施例を説明する。
なお、図4において、図1と同じ構成あるいは機能、値であるものについては、図1と同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0037】
上述のように、当該スタンドへの圧延材咬み込み、尻抜け時、及び次スタンドへの圧延材咬み込みの瞬間においては、非定常的に変化する張力測定値40がそれぞれ検出される。この張力測定値40が変化許容範囲の上下限値41を越えた場合、上作業ロール2は制御切換装置36で駆動トルク制御からロール回転速度制御に切換えられる。制御が切換えられると、上作業ロール2の回転速度は回転速度目標値37に維持される(図5(b)参照)が、駆動トルクは大きく変動する(図5(c)参照)。
この後、非定常的に変化していた張力測定値40が変化許容範囲の上下限値41内に治まったとき(即ち、張力が安定したとき)、上作業ロール2は制御切換装置36でロール回転速度制御から駆動トルク制御に切換えられる。
このとき、下駆動トルク測定値18が検出され、上駆動トルク制御目標値計算器19において以前の上駆動トルク制御目標値7と合わせて、すでに新たな上駆動トルク制御目標値7が再計算され、その値に新たな上駆動トルク制御目標値7が変更されている。
制御が切換えられると上作業ロール2の回転速度は微小の変動をするが、トルクが一定に維持され、逸早く、トルクバランスの取れた安定した圧延状況に復帰する。
【0038】
図4に係る上述のような熱間タンデム圧延機によって普通鋼板を100枚圧延した結果、本発明を適用したスタンドの圧延材咬み込み時の張力変化時、当該スタンドの次スタンドへの圧延材咬み込み時の張力変化時、さらには当該スタンドの圧延材尻抜け時の張力変化時においても作業ロールの異常回転は発生せず、圧延材にスリップ疵を生じることは無かった。
この結果、圧延時において圧延材に急激な張力変化が生じた場合であっても、本発明のような作業ロールに対して適切な制御を行うことにより、圧延材の反りによる通板トラブル、あるいはうねり、全波、小波等と呼ばれる板幅方向に貫通した波形状による平坦度不良を解消することができることがわかった。
【符号の説明】
【0039】
1 上補強ロール
2 上作業ロール
3 下作業ロール
4 下補強ロール
5 上駆動用電動機
6 下駆動用電動機
7 上駆動トルク制御目標値
8 上駆動トルク測定値
9 上駆動トルク制御量
10 下作業ロール回転速度目標値
11 下作業ロール回転速度測定値
12 下作業ロール回転速度制御量
13 上作業ロール回転速度測定値
18 下駆動トルク測定値
19 上駆動トルク制御目標値計算器
36 制御切換装置
37 上作業ロール回転速度目標値
38 上作業ロール回転速度制御量
39 圧延材
40 圧延材張力測定値
41 張力変化上下限値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下一対の作業ロールと、
上記一対の作業ロールをそれぞれ独立に駆動する一対の電動機と、
一方の電動機に対し、ロール回転速度を制御目標値として制御する第1の制御手段と、
他方の電動機に対し、該電動機によって駆動される作業ロールから圧延材に加えられる圧延トルクが略一定になることを制御目標として駆動トルクを制御量とした制御であって駆動トルク制御目標値に応じて行う駆動トルクの制御、又はロール回転速度を制御目標値とした制御のいずれか一方に切換え可能な第2の制御手段とを備え、
上記第2の制御手段は、圧延材に生じる張力変化の変化量が予め定めた変化量許容範囲外となったときに上記他方の電動機の制御を駆動トルク制御からロール回転速度制御に切換える一方、張力変化後にロール回転速度制御から駆動トルク制御に切換える切換手段と、上記他方の電動機の制御がロール回転速度制御に切り換わったときに該電動機のロール回転速度を一定速度に維持制御する速度維持制御手段と、圧延材の張力変化後であって上記他方の電動機をロール回転速度制御から駆動トルク制御に切換える前に該電動機の駆動トルクを測定する駆動トルク測定手段と、上記他方の電動機を回転速度制御から駆動トルク制御に切換えるときに該駆動トルク測定手段による測定値を新たな駆動トルク制御目標値として圧延中に変更する変更制御手段とを有していることを特徴とする板圧延機。
【請求項2】
上記第2の制御手段における切換手段は、圧延機における圧延材の入側又は出側のうちのいずれか一方で生じた張力に基づいて、上記他方の電動機の制御を駆動トルク制御又はロール回転速度制御に切換える構成であることを特徴とする請求項1に記載の板圧延機。
【請求項3】
上記第2の制御手段における切換手段は、圧延機における圧延材の入側と出側の間で生じた張力差の変化に基づいて、上記他方の電動機の制御を駆動トルク制御又はロール回転速度制御に切換える構成であることを特徴とする請求項1に記載の板圧延機。
【請求項4】
上下一対の作業ロールにそれぞれ独立の電動機によって駆動力を供給して、一方の電動機をロール回転速度を制御目標値として制御すると共に、他方の電動機を、該電動機によって駆動される作業ロールから圧延材に加えられる圧延トルクが略一定になることを制御目標として駆動トルクを制御量とした制御であって駆動トルク制御目標値に応じて行う駆動トルクの制御、又はロール回転速度を制御目標値とした制御のいずれか一方に切換自在に制御し、圧延時において、圧延材に張力変化が生じてその張力変化量が予め定めた変化量許容範囲外となったときは、上記他方の電動機の制御を駆動トルク制御からロール回転速度制御に切換え、該電動機のロール回転速度を一定速度に維持制御する一方、圧延材の張力変化後における上記他方の電動機の駆動トルクを測定して、その測定値を新たな駆動トルク制御目標値として変更した後、該他方の電動機の制御をロール回転速度制御から駆動トルク制御に切換えることを特徴とする板圧延機の制御方法。
【請求項5】
上記他方の電動機の駆動トルク制御とロール回転速度制御との切換えを、圧延機における圧延材の入側又は出側のうちのいずれか一方で生じた張力に基づいて行うことを特徴とする請求項4に記載の板圧延機の制御方法。
【請求項6】
上記他方の電動機の駆動トルク制御とロール回転速度制御との切換えを、圧延機における圧延材の入側と出側の間で生じた張力差の変化に基づいて行うことを特徴とする請求項4に記載の板圧延機の制御方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−260067(P2010−260067A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111112(P2009−111112)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】