説明

板材加工機の熱変位補正制御方法

【目的】 パンチプレス機にレーザヘッドを設けた複合加工機等の板材加工機において、熱変位補正を効率良く行う。また、加工中のオフセットにかかわらずに熱変位補正を可能とする。
【構成】 温度センサによる温度情報により計測開始条件が充足されたことを判定し(S1)、条件充足の判定結果に応答して加工点の変位量測定用プログラムを発生させる(S2)。この測定用プログラムを実行して加工点の変位量を測定し(S3)、その変位量測定値に対応するオフセット値で板材加工機のワーク座標原点をシフトさせる(S4)。前記測定用プログラムは機械座標で動作させるものとする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、パンチプレス機にレーザヘッドを搭載した複合加工機や、その他の種々の板材加工機の熱変位補正制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、タレットパンチプレス機にレーザヘッドを搭載した複合加工機がある。このような複合加工機では、同じワークに対してパンチ加工とレーザ加工とが適宜施される。例えば、パンチ加工により孔加工を行い、レーザ加工により切断を行う。
【0003】パンチプレスやレーザ加工機等の板材加工機では、外気温の変化や、運転に伴う発熱によって、フレームや送りねじの熱膨張が生じ、これによりパンチ位置やレーザ加工位置に誤差が生じる。特に、前記のような複合加工機では、パンチ加工した箇所に続いてレーザ加工を施すような場合があり、このような場合に、パンチ位置とレーザ加工位置とのずれによって加工品質が大きく低下するという問題点がある。そのため、熱変位補正を行う方法が種々考えられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、加工プログラムに設定した所定時に熱変位補正のための変位測定を行う方法や、タイマで設定した一定期間ごとに変位測定を行う方法では、経時的な温度変化の程度に応じた適切な頻度で測定を行うことが難しい。そのため、測定頻度が少なくて充分な補正が行えなかったり、必要以上の測定を行って加工時間が無駄に長くなったりすることがある。また、板材加工機では、パンチ加工からレーザ加工に変更するときや、ワークの加工部分に応じてワークを持ち替えたりするときに、NC装置においてワーク座標の原点シフト、すなわちオフセット補正が行われる。このようなオフセット補正が行われていると、ワーク送り装置等を利用して変位測定のセンサを動作させようとした場合に、繰り返し行われたオフセットを考慮する必要があって、実際のセンサの位置を認識することが難しいという問題点がある。
【0005】この発明の目的は、経時的な温度変化の程度に応じた効率的な熱変位補正が行え、また加工中におけるオフセット値にかかわらずに熱変位補正が行える板材加工機の熱変位補正制御方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明方法を、実施例に対応する図4と共に説明する。この熱変位補正制御方法は、次の各過程を含む方法である。すなわち、温度センサによる温度情報により計測開始条件の充足を判定し(S1)、条件充足の判定結果に応答して加工点の変位量測定用プログラムを発生させる(S2)。この測定用プログラムを実行して加工点の変位量を測定し(S3)、その変位量測定値に対応するオフセット値で板材加工機のワーク座標原点をシフトさせる(S4)。前記測定用プログラムは機械座標で動作させるものとする。
【0007】
【作用】この発明方法によると、温度センサの温度情報により計測開始条件の充足判定を行い、条件充足の場合に熱変位補正を行わせるので、温度変化の激しいときは、頻繁に変位測定して熱変位補正が行われ、温度変化の緩やかなときは測定頻度が少なくなる。そのため、経時的な温度変化の程度に応じた適正な頻度で変位測定および熱変位補正が行える。また、変位量測定用プログラムは、前記の条件充足の判定による測定開始時に発生させるので、機械座標により動作させることが可能となり、また機械座標で動作させるので、それまでに行われたオフセット補正にかかわらずに、変位測定を行い、熱変位補正することができる。
【0008】
【実施例】この発明の一実施例を図1ないし図6に基づいて説明する。図2はこの実施例の熱変位補正制御方法を適用する板材加工機を示し、パンチプレス機構部1とレーザヘッド2とワーク送りテーブル装置3とを備えた複合加工機からなる。板材加工機のフレームは、パンチプレス機フレーム4と、レーザ加工機フレーム5と、テーブル部フレーム6とで構成される。
【0009】パンチプレス機構部1は、同期して割出回転する上下のタレット7,8の外周部に複数のパンチ工具およびダイ工具(図示せず)を各々設置し、パンチ位置Pに割り出されたパンチ工具をクランク機構9で昇降駆動するものである。
【0010】レーザヘッド2は、集光用の光学系およびアシストガスのノズル(図示せず)を有するものであり、パンチ位置Pから後方(Y軸方向)に若干離れた位置Rで、レーザ加工機フレーム5の先端に設置されている。レーザヘッド2には、レーザ発振機10で発振されたレーザ光がレーザ案内筒11を介して導かれる。また、レーザヘッド2は退避および焦点調整のための昇降駆動機構を備えている。
【0011】ワーク送りテーブル装置3は、図1に示すようにテーブル部フレーム6のレール12上に前後移動自在に設置した左右一対のスライドテーブル3aと、中央の固定テーブル3bとを有し、両側のスライドテーブル3aは後端のキャリッジ13と共に、Y軸サーボモータ14および送りねじ15により進退駆動される。キャリッジ13には、クロススライド16が横(X軸方向)移動自在に搭載され、板状のワークWを把持する複数のワークホルダ17がクロススライド16に取付けられている。クロススライド16は、キャリッジ13に設置されたX軸サーボモータ18および送りねじ19により進退駆動される。
【0012】前記クロススライド16に、電気マイクロメータからなる変位検出器20が取付けてある。変位検出器20は、レーザヘッド2と上タレット7の外径面とに各々接触させてレーザ加工位置Rとパンチ位置Pの変位測定に使用するものであり、非使用時にパンチプレスフレーム4の正面カバー部4aに干渉することを避けるために、後方へ退避させる退避駆動機構(図示せず)が付設してある。
【0013】図1において制御系を説明する。制御装置の全体は、軸制御を行うNC装置21と、シーケンス制御を主に行うPMC装置(プログラマブル・マシン・コントローラ)22とで構成される。NC装置21は、加工プログラム24を実行する演算制御部25を有し、演算制御部25から出力された各軸送り指令により、サーボコントローラ23を介してX軸サーボモータ18およびY軸サーボモータ14の駆動が行われる。各サーボモータ14,18はパルスコーダ等からなる位置検出器14a,18aを有し、検出値がサーボコントローラ23にフィードバックされる。
【0014】演算制御部25には、設定されたオフセット量に応じてワーク送りテーブル装置3のワーク座標の原点をシフトさせて加工プログラム24のX,Y軸の送り指令値を補正するオフセット補正手段26が設けられている。オフセット補正手段26は、工具位置オフセット手段として前記と同様な座標原点シフトを行うものであっても良い。また、NC装置21には、板材加工機自体のX,Y座標として決定された機械座標の現在値を常に認識する現在機械座標位置認識手段27が設けられている。この手段27による機械座標位置の認識は、各軸の位置検出器14a,18aの出力と、クロススライド16およびキャリッジ13の原点復帰を検出する原点復帰検出スイッチ(図示せず)の出力とで行われる。
【0015】PMC装置22は、加工プログラム24に記述されたシーケンス指令を実行すると共に、内蔵のシーケンス制御プログラム等を実行する手段であり、独立した演算制御部(図示せず)を有し、あるいはNC装置21の演算制御部26を共有する。このPMC装置22に記憶されたプログラムまたは電気素子により、測定条件開始判定手段28と、測定用プログラム発生手段29とが設けられている。
【0016】測定条件開始判定手段28は、常に温度センサ32を監視してその温度情報を設定条件と比較し、条件充足の場合に測定指令を測定用プログラム発生手段29に出力する手段である。温度センサ32は、板材加工機のフレーム4〜6等に設けられて、外気温や運転に伴うフレーム4〜6等の温度変化を測定するものである。温度センサ32は一個または複数個設けられる。
【0017】測定用プログラム発生手段29は、前記の測定指令に応答して現在機械座標位置認識手段27の機械座標値を取り込み、予め準備された測定用プログラム30の未完成プログラムに送り量データを与えることで測定用プログラム30を完成させる手段である。
【0018】測定用プログラム30は、クロススライド16およびキャリッジ13等に測定のための所定の動作を行わせるシーケンスプログラムと、変位検出器20の測定値である変位量を取り込み、所定の変位量演算を行って測定値格納エリア31に格納する演算プログラムとで構成される。測定用プログラム30は、各軸の送り指令を機械座標で行うものとしてある。なお、測定値格納エリア31に格納された変位量測定値は、PMC装置22に記憶されたプログラムからなる転送手段(図示せず)により、オフセット値aとしてNC装置21のオフセット補正手段26に転送され、オフセット補正手段26に前に設定されていたオフセット量に加算される。
【0019】上記構成による熱変位補正制御方法を説明する。まず、測定動作の概略を図3と共に説明する。クロススライド16に取付けられた変位検出器20の接触子20aを、上タレット7の外周における後面位置S1、およびレーザヘッド2の後面位置S2に順次接触させ、これによりパンチ位置Pおよびレーザ加工位置Rの熱変位を測定する。変位検出器20は、例えば図6に示すように、原点位置OからX,Y方向に移動させてパンチ位置Pの測定を行い、次に中間戻り位置Qまで一旦後退させた後、レーザヘッド2に接触させることにより行う。
【0020】このような測定動作は、機械原点が決定された時点で1回行い、その後の測定を前記の自動発生させた測定用プログラム30によって行う。この測定用プログラム30による測定値は、原点決定時の測定値と比較し、その差分を変位量測定値として測定値格納エリア31に格納する。前記の機械原点の決定は、変位検出器20の取付後の校正が完了したとき、または電源スイッチのオン時等に行われる。
【0021】次に、熱変位補正の動作手順を図4の流れ図および図5に基づいて説明する。図5の加工プログラム24が実行されて加工が行われている間は、図1の温度センサ32の温度情報は常に監視される(図4のステップS1)。測定条件開始判定手段28により開始条件が充足されたと判定されると、測定用プログラム発生手段29によりその時点の機械座標位置が読み取られて、機械座標により送り指令値が記述された測定用プログラム30が自動生成される(S2)。
【0022】測定用プログラム30は、機械が加工を中断しても良い状態になったときに実行され、図3および図6と共に説明したシーケンス動作を行なって変位量測定を行い、その測定値を格納エリア31に格納する(S3)。この格納された変位量測定値は、NC装置21のオフセット補正手段26に転送され、パンチ位置Pおよびレーザ加工位置Rに対するワーク原点オフセット値が設定される(S4)。この場合、予め設定されているオフセット値に、変位量測定値が加算された値に新たなオフセット値が設定される。このようにして、NC装置21にオフセット補正手段26として設けられているワーク座標原点シフト機能を利用して、変位量測定値で加工プログラム座標を全体にシフトさせることにより、加工精度が保たれる。
【0023】この熱変位補正制御方法によると、このように温度センサ32の温度情報により計測開始条件の充足判定を行い、条件充足の場合に熱変位補正を行わせるので、温度変化の激しいときは、頻繁に変位測定して熱変位補正が行われ、温度変化の緩やかなときは測定頻度が少なくなる。そのため、経時的な温度変化の程度に応じた適正な頻度で変位測定および熱変位補正が行えて、作業の全体時間を短縮しながら、必要な熱変位補正を行うことができる。
【0024】また、変位量測定用プログラム30は、前記の条件充足の判定による測定開始時に発生させるので、機械座標により動作させることが可能となり、また機械座標で動作させるので、それまでに行われたオフセット補正にかかわらずに、変位測定を行い、熱変位補正することができる。すなわち、機械座標を使用することにより、加工中のオフセット値がそのまま測定用プログラム30に用いられて、変位量測定値が前記の加工中のオフセット値に加えられることになり、測定完了後はそのまま加工を継続できる。
【0025】なお、前記実施例はパンチプレスにレーザヘッド2を搭載した複合加工機に適用した場合につき説明したが、この発明の熱変位補正制御方法は板材加工機一般に適用することができる。
【0026】
【発明の効果】この発明の板材加工機の熱変位補正制御方法は、温度センサの温度情報により計測開始条件の充足判定を行い、条件充足の場合に熱変位補正を行わせるので、経時的な温度変化の程度に応じた適正な頻度で効率的に変位測定および熱変位補正が行える。また、測定開始時に変位量測定用プログラムを発生させることにより、機械座標で変位量測定用プログラムを実行させるようにしたので、板材加工機に特有の加工中のオフセット補正にかかわらずに変位測定を行い、熱変位補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例の熱変位補正制御方法を適用する板材加工機の概略平面図と機能ブロック図とを併記した概念図である。
【図2】その板材加工機の側面図である。
【図3】同板材加工機の測定動作の説明図である。
【図4】同板材加工機の熱変位補正制御方法の流れ図である。
【図5】加工プログラムと測定用プログラムとの関係を示す説明図である。
【図6】測定動作における変位検出器移動経路の説明図である。
【符号の説明】
1…パンチプレス機構部、2…レーザヘッド、3…ワークテーブル、7…上タレット、13…キャリッジ、14a…位置検出器、20…変位検出器、21…NC装置、22…PMC装置、24…加工プログラム、26…オフセット補正手段、28…測定条件開始判定手段、29…測定用プログラム発生手段、30…測定用プログラム、32…温度センサ、P…パンチ位置、R…レーザ加工位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 温度センサの温度情報により計測開始条件の充足を判定する過程と、条件充足の判定結果に応答して加工点の変位量測定用プログラムを発生させる過程と、この測定用プログラムを実行して加工点の変位量を測定する過程と、その変位量測定値に対応するオフセット値で板材加工機のワーク座標原点をシフトさせる過程とを含み、前記測定用プログラムは機械座標で動作させるものとした板材加工機の熱変位補正制御方法。

【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図1】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate