説明

板金用引出具及びこれを用いた車体パネルの補修方法

【課題】 パネル引き出し量を、正確に、且つ面倒な操作無しに自在に行うことができ、また引き出し作業に要する力を軽減した板金用引出器具の提供。
【解決手段】 板金面に当てる当て座が取り付けられた基部フレームと、当該基部フレームに対して進退自在に設けられて先端に板金面との接続具が設けられたシャフトと、当該シャフトを後退させる際の操作部としての操作レバーと、当該操作レバーの操作に応じてシャフトを後退させる第一のラチェット機構を備える板金用引出具とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は板金用引出具及びこれを用いた車体パネルの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板材に生じた凹み、例えば事故等で凹んだ自動車のボディー(車体パネル)を簡易且つ迅速に復元する方法として、近年では、各種の板金用引出具を用いて、凹みを車体パネルの外側から引き出す方法が行われている。このような方法によれば、修復すべき凹み部分の裏面を露呈することなしに、当該凹み部分の表面側のみで修復処理を行うことができ、作業時間を大幅に短縮することができる。
【0003】
そして従来、このような補修方法に使用される板金用引出具(プーラー)としては、一般に、溶接電極用の溶接チップ(溶植チップともいう)をロッドの先端に設けたものや、フックをロッドの先端に設けたもの等が提供されている。
【0004】
この内、溶接チップを設けた引出具では、溶接チップを補修対象となる車体パネルの凹み部に溶接した後、ロッドを引っ張って凹み具合を緩和するもので、またフックを設けた引出具では、板金面に溶接したワッシャや孔開きピンにフックを直接的または間接的に引っ掛けて、同様にロッドを引っ張って凹み具合を緩和するものである。
【0005】
かかる板金用引出具乃至プーラーに就いての先行文献としては、特許文献1〜5が存在する。
【0006】
特許文献1(特開平7−303920号公報)では、操作手段の握り幅を作業者に適する握り幅に調整できるように、メインレバーと前記セカンドレバーとの握り幅を調整する握り幅調整手段を配設することが提案されており、またこの文献では、脚体における左右の脚部を独立させて、左右の脚部の位置を移動させて使用することも提案されている。
【0007】
また、特許文献2(特開平10−328739号公報)では、梃子の原理を利用して、自動車の車体等板金の陥没した部分を微弱な作用力で容易、且つ、適正に引出すことが出来る板金の補修方法と、これに用いる簡易構造の工具を提案している。
【0008】
また、特許文献3(特開2004−154855号公報)では、点溶接電極棒の突き出し量の調整を簡単、正確且つ迅速に行い、更に損傷部位の損傷の状況に応じてスタンドの回動位置の変更や取換えを容易且つ迅速に行えるようにするべく、点溶接電極棒の仮溶接部位方向への突き出し量を調整する突き出し量調整手段と、仮溶接後の点溶接電極棒の仮溶接部位方向と反対方向への引き上げ量を調整する引き上げ量調整手段とを備え、更に異なるサイズと形状を有する複数の種類のスタンド部材を具備する金属板材の凹み修復用プーラーが提案されている。
【0009】
そして従来においては、上記補修作業を行う前に、その損傷量を測定することも行われており、そのような先行文献としては、以下の特許文献4及び5が存在する。
【0010】
特許文献4(特開2000−142335号公報)では、車両の損傷の評価や記録が容易になるとともに、的確に修理の手法を知ることができるようにするため、板状体の中央にスライド可能なゲージを設け、このゲージのスライド量により車体損傷の程度を計測し、且つ損傷を修理する処置手法を指標する車体の修理指標装置が提案されている。
【0011】
また、特許文献5(特開平9−206833号公報)には、自動車修理用パネル板金引出し工具並びに金属ピンを使用したパネル板金引出し方法において、金属ピンを順に引き出す過程で、金属ピンの末端に直線定規を当ててパネル面の凹みの状態を眼で確認しながら作業を進めることが記載されている(同文献の段落番号〔0004〕)。
【特許文献1】特開平7−303920号公報
【特許文献2】特開平10−328739号公報
【特許文献3】特開2004−154855号公報
【特許文献4】特開2000−142335号公報
【特許文献5】特開平9−206833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の通り、従来においては数多くの板金用引出具が提案されており、また引き出し作業に先立ち、凹みの深さを測定し、パネルの引出し量を特定する器具乃至方法も提案されている。併しながら、従来提供されている板金用引出具では、引き出し作業に先立って計測した引出し量を有効に利用できていないのが実情である。
【0013】
例えば、前記特許文献3では、引き上げ量調整手段によってパネルの引出し量を調整し得ることが記載されているが、この文献に記載されている金属板材の凹み修復用プーラーは、圧縮空気によって作動するものであることから、パネルの引出し量を調整するには、都度、引き上げ量調整手段を調整しなければならず、引き上げ量調整手段の調整なしに、引き出し量を調整し得ないものとなっている。そして、引き出しポイントごとの引き上げ量調整手段の調整は、実際の引き出し作業において受け入れられ難いことから、結局の所は、最初に設定した引き上げ量でパネル全体を引き出してしまい、最初に測定した引き出し量は有効に利用され得ないものとなっている。また、この文献に記載された板金用引出器具は、引き上げ量調整手段の調整等、その操作が面倒であり、却って作業効率において障害になるおそれがある。
【0014】
そこで本発明は、引き出し作業に先立って測定した凹みの深さの測定結果を有効に活用し、更に引き出し量の調整を、面倒な操作無しに、自在に行い得るものとした板金用引出具を提供するものである。
【0015】
また本発明では、引き出し作業に要する力を軽減し、力(特に握力)の弱い作業者であっても、簡易に引き出し作業を行うことのできる板金用引出器具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明にかかる板金用引出具では、先端に板金面との接続具が設けられたシャフトを引張るための機構としてラチェット機構を用い、その結果、操作レバーを一回操作することによるパネルの引出し量を特定して、正確にパネルを引き出すことができ、且つ1っ海の操作に要する力を軽減し、パネルの引き出し作業を軽減させることのできる板金用引出具としたものである。
【0017】
即ち、前記課題を解決するものとして、本発明は板金面を引き出すための板金用引出具であって板金面に当てる当て座が取り付けられた基部フレームと、当該基部フレームに対して進退自在に設けられて先端に板金面との接続具が設けられたシャフトと、当該シャフトを後退させる際の操作部としての操作レバーと、当該操作レバーの操作に応じてシャフトを後退させる第一のラチェット機構を備える板金用引出具を提供する。
【0018】
かかる第一ラチェット機構としては、シャフトに設けられたラックと、操作レバーの操作によって、ラックをシャフトの後退方向に付勢するラチェット爪とを含んで構成する他、これとは逆にシャフトにラチェット爪を設け、操作レバーの操作によってラックを動かし、シャフトに設けられたラチェット爪を、シャフトの後退方向に付勢するように形成することもできる。
【0019】
なお上記のようにラックと組み合わせて使用されるラチェット爪は、車体パネルを引き出している状態(即ち、シャフトを後退させている状態)において、両者の噛合が解除されることの無いように、バネその他の弾性部材によって、ラックに噛み込み勝手に付勢されていることが望ましい。
【0020】
更に前記作動機構は、第一のラチェト機構によって後退したシャフトの前進を阻止する第二のラチェット機構を備えている事が望ましい。この第二ラチェット機構は、シャフトに設けたラックと、前記操作レバーとは無関係に当該ラックに噛合するラチェット爪とで構成することができる。このような第二ラチェット機構を具備することにより、操作レバーを一回操作してシャフトを所定量だけ後退させ、その後再度、操作レバーを元の位置に戻したとしても、先の操作で後退したシャフトの位置は、この第二ラチェット機構によって維持することができる。
【0021】
依って、第二ラチェット機構を具備することにより、第一ラチェット機構によるシャフトの後退操作、即ち車体パネルの引き出し操作を繰り返し行うことができる。そして、操作レバーを一回操作することにより移動するシャフトの距離を、ラック歯の間隔やラチェット爪の長さ等によって設定しておけば、何回操作レバーを操作したか、或いはラチェット爪が幾つのラック歯を移動したか等を計測することにより、シャフトの後退量、ひいては車体パネルの引出し量を正確に調整することができる。例えば、操作レバーを引くことにより、ラックに噛合しているラチェット爪をシャフトの後退方向に移動させるものとして構成されている場合、一回の握り動作で移動するラチェット爪の移動量を特定し、その移動量中に存在するラック歯の数を特定しておけば、引き付けた操作レバーを元の位置に戻す際、ラチェット爪が移動するラック歯の数を、手の感触や音などで特定しながら所定量だけ戻し、そして再度操作レバーを引き付けることで、意図する量だけシャフトを後退させることができる。
【0022】
上記のように操作レバーとは無関係にシャフトの移動を規制する第二のラチェット機構を設けた場合、再度、シャフトを前進させるためには、この第二のラチェット機構におけるシャフトの固定を解放しなければならない。そこで本発明では、更に、第一ラチェット機構におけラックとラチェットの噛合、及び第二ラチェット機構におけるラックとラチェットの噛合を同時に開放するリターンレバーを設けるのが望ましい。このように形成すれば2つのラチェット機構での制限を、リターンレバーの一回の操作で解放でき、補修作業における作業効率の向上を図ることができる。
【0023】
また、前記シャフトは、常に、或いは後退した状態において、バネ、その他の弾性部材によって前進する向きに付勢されていることが望ましい。前記リターンレバーの操作により2つのラチェット機構における制限を解いた時に、シャフトが素早く元の位置に復帰できるようにするためである。
【0024】
上記本発明の板金用引出具では、これまで述べてきたように、上記のラチェット機構によってパネルの引出し量を調整することが可能であるが、更に確実にパネルの引出し量を調整する場合には、前記シャフトの後端側に、軸方向に穿設した穴部を形成し、当該穴部に、シャフトの後退量を調整する引き出し量調節軸を挿通させるのが望ましい。即ち、パネルの引き出しに際して進退するシャフトを、フレームに固定された引き出し量調節軸で支持して、その移動量を調整するものである。特に、この引き出し量調節軸は、シャフトの軸方向に穿設した穴部に挿入されていることから、シャフトの後退量を調節するのみならず、シャフトの移動方向を規制することもできる。依って、このように形成すれば、シャフトの移動量と移動方向を単一の部材で規制することができることから、板金用引出具の軽量化を図ることができる。
【0025】
更に、パネルの引出し量を正確に調整するためには、本発明にかかる板金用引出具において、シャフト進退方向に沿う目盛り部を基部フレームに設けると共に、当該目盛り部を指標する指針を前記引き出し量調節軸に設けることができる。このように形成すれば、より正確に引き出し量調節軸の移動量を設定することができ、即ち、シャフトの移動量、ひいてはパネルの引出し量を正確に設定することができる。
【0026】
以上の様に、本発明にかかる板金用引出具は、ラチェット機構、シャフトの引き出し量調節軸、及び/又は目盛り部と指針とを備えることから、引き出し作業に先立って測定した凹みの深さの測定結果を有効に活用して引出し作業を行うことができ、しかも車体パネルの引き出し量の調整を、面倒な操作無しに、自在に行うことのできる板金用引出具となっている。
【0027】
依って、本発明にかかる板金用引出具を使用して、車体パネルの補修作業を行うことにより、面倒な操作無しに車体パネルの引き出し量を調整することができ、特に引き出し作業に先立って凹みの深さを測定している場合には、それに応じた引出し量を、簡易な方法により調整することができる。
【0028】
また、ラチェット機構を用いることにより、引き出しに要する力を複数回に分散させることができるので、引き出し作業の省力化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0030】
図1は、本実施の形態にかかる板金用引出具10の内部構造を示す略図であり、図2は、ラチェット機構Rを示す要部拡大図であり、図3は、この板金用引出具10を用いた引き出し工程を示す略図であり、図4は引き出し量を正確に調整するための目盛り部23を示す略図であり、図5は、この板金用引出具10を用いて車体パネルPの損傷を補修している状態を示す略図である。
【0031】
先ず、図1を参照しながら本実施の形態にかかる板金用引出具10の内部構造を説明する。この図に示す板金用引出具10は、板金面Pに当てる当て座21が取り付けられた基部フレーム20と、この基部フレーム20に対して進退自在に設けられるシャフト30と、シャフト30の先端に設けられて、車体パネルPの凹み部に溶接される溶接チップ31と、シャフト30を後退移動させる為の力を加える操作レバー40と、操作レバー40に加えられた力でシャフト30を後退させる第一ラチェット機構R1と、シャフト30の後退量を規制する引き出し量調節軸50と、後退したシャフト30の前進を阻止する第二ラチェット機構R2を伴って構成されている。
【0032】
シャフト30の先端に設けられる溶接チップ31には、シャフトとの接合部に供給される電気が通電し、車体パネルPに対して電気溶着される。一方、シャフト30の後端には、その軸方向に穿設された穴部32が形成され、この穴部32には引き出し量調節軸50が挿入されている。これにより当該シャフト30は引き出し量調節軸50に沿って進退移動することができる。
【0033】
そしてこの引き出し量調節軸50は、基部フレーム20に取り付けられたナット22に対して螺合されており、このナット22に対する進退を基部フレーム20の外側から操作できるように、その後端には、当該引き出し量調節軸50の操作部51が設けられている。この操作部51によって、引き出し量調節軸50は軸芯回りに回転し、穴部32に対する挿入量を調整することができる。
【0034】
そしてシャフト30に設けられるラック33には、バネなどの弾性部材42によって噛み込み勝手に付勢されているラチェット爪41が噛合しており、このラチェト爪は、基部フレーム20に対して揺動自在に軸着又は枢着されている操作レバー40を図1中の矢印方向に動かすことによってラック歯33'に噛み合い、当該操作レバー40の移動に伴ってシャフト30を後退させる。
【0035】
このように本実施の形態にかかる板金用引出具10ではラチェット機構Rによってシャフト30を後退させていることから、操作レバー40の戻し量を調整することにより、その後退量(即ちパネル面Pの引き出し量)を正確に調整することができる。
【0036】
即ち、図2に示すように、操作レバー40を一回揺動させることによってシャフト30が移動する距離を(X)とすると、操作レバー40を元の位置に戻す事で、ラチェット爪41は距離(X)の範囲に存在するラック歯33'の数(Y)だけ移動する。依って「距離(X)/ラック歯33'の数(Y)」を求めることで、ラック歯1つあたりの後退量(引き出し量)を算出することができる。そこで操作レバー40を戻す際、希望する後退量(引き出し量)に応じた数のラック歯分だけ操作レバー40を戻し、そして再度ラチェット爪41の噛合方向に操作レバー40を引くことにより、正確な引き出し量を出すことができる。なお、引き出しレバーを戻す際のラック歯33'の戻り数は、操作レバー40に伝わる感触や音によって特定することができる。
【0037】
この図2において、シャフト30の移動距離(X)を3mmとすると、一回の操作によりラック歯33'が3個分移動することから、ラック歯一個あたりの移動距離は「3mm/3個」で1mmとなる。よって、操作レバー40を戻す際、ラチェット爪41の移動量をラック歯2個に設定すると、次の操作で操作レバーを引くことにより、シャフト30を2mm後退させ、パネルPを2mm引き出すことができる。
【0038】
そして、第一のラチェット機構R1の操作で後退したシャフト30は、第二のラチェット機構R2により前進方向への移動が阻止され、その後退位置が維持されていることから、上記のように操作レバー40を元の位置に戻した場合においても、パネルPの引き出し量を維持することができる。
【0039】
特にこの実施の形態に示すように、シャフト30の後退動作にラチェット機構Rを使用し、更にその前進を阻止するための第二のラチェット機構Rを設けていることから、変形した金属パネルPを、少しづつ、複数回に分けてパネルPの引き出すことができる。その結果、従来においては、多大な握力が要求されていたパネルPの引き出し作業を、少ない握力で、簡易に行うことができるようになる。依って、本発明にかかる板金用引出器具を使用すれば、女性等のように握力の弱いものでも、車体パネルPの引き出し作業を行うことができるようになる。
【0040】
そして、必要量だけシャフト30を後退させてパネルPを引き出した後は、リターンレバー43を操作して(引いて)、第一ラチェット及び第二ラチェット機構Rにおけるラック33とラチェット歯の噛合を同時に解放する。この解放によって、基部フレーム20はシャフト30の後端側に設置された弾性部材34により後方に押し出され、当て座21が板金面Pから離れる。そこでパネルPに接合している溶接チップ31を揺らしたり、回したりして溶接チップ31をパネルPから剥し、次の補修ポイントに溶接させる。
【0041】
なお、溶接チップ31の先端をパネル面Pに接合させるための電気の通電スイッチは、操作レバー40に指を掛けた状態で操作できる範囲内に設けることが望ましい。
【0042】
次に、上記板金用引出具10において、引き出し量調節軸50及び目盛り部23などを使用し、より正確にパネルPの引き出し量を調整する補修方法を図3及び4に基づいて説明する。
【0043】
先ず、シャフト30が最も先に位置している状態で、その先端に設けた溶接チップ31を補修対象となるパネルP面に電気溶接する(図3(A))。次に、操作レバー40を引いて、当て座21がパネルP面に接するまで(基部フレーム20に対しての)シャフト30の位置を後退させる。この時、車体パネルPを基準にみれば、基部フレーム20が車体パネルP側に前進していることになる(同図(B))。この状態において、引き出し量調節軸50を、穴部32の底面に付くまでねじ込み、それから引き出し量に相当する分だけ後退させる(同図(C))。この引き出し量調節軸50の後退量は、例えば操作部51を一回転させると2mm後退するなどのように、引き出し量調節軸50に設けた螺子溝の幅や角度等を調整する事が望ましい。また、図4に示すように、シャフト30進退方向に沿う目盛り部23を基部フレーム20に設けると共に、当該目盛り部23を指標する指針52を、操作部51など、引き出し量調節軸50と共に移動する箇所に設け、この指針52が示す目盛り部23の値に基づいて、引き出し量調節軸50を後退させることもできる。
【0044】
この引き出し量調節軸50の後退により、引き出し量調節軸50の先端と穴部32の底面との間には、当該引き出し量調節軸50の後退量に一致する長さの空間部が生じる。そして、図3(D)及び(E)に示すように複数回、操作レバー40を操作してシャフト30を後端方向に移動させ、凹んだパネルP面を引き出す。
【0045】
当初予定した引き出し量(即ち、引き出し量調節軸50を後退させた分)を引き出すと、図3(F)に示すように、シャフト30の後端の穴部32の底が引き出し量調節軸50の先端に当たることから、それ以上の引き出しを阻止することができる。これで、当初予定した引き出し作業は完了することから、リターンレバー43を引いて、第一及び第二ラチェットの噛合を解き、当て座21をパネルP面から浮かせる。その後、溶接チップ31をパネルP面から剥して次の引き出しポイントに移動させ、同じように作業を行う。
【0046】
なお、この作業の状態は、例えば図5に示すように車体パネルPに生じた凹みに対して行うことができる。
【0047】
以上の操作により、凹んだパネル面Pをある程度引き出した後は、従来の補修方法と同じように、パテの塗布・硬化作業、及びサーフェサー(プライマーサーフェサー)の塗布・硬化作業と、適宜研磨作業を行い、最後に上塗り塗装を行って磨き上げることで、車体パネルPの補修作業が完了する。
【0048】
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本実施の形態にかかる板金用引出具の内部構造を示す略図
【図2】ラチェット機構を示す要部拡大図
【図3】板金用引出具を用いた引き出し工程を示す略図
【図4】引き出し量を正確に調整するための目盛り部を示す略図
【図5】板金用引出具を用いて車体パネルの損傷を補修している状態を示す略図
【符号の説明】
【0050】
10 板金用引出具
20 基部フレーム
21 当て座
22 ナット
23 目盛り部
30 シャフト
31 溶接チップ
32 穴部
33 ラック
33' ラック歯
40 操作レバー
41 ラチェット爪
42 弾性部材
43 リターンレバー
50 引き出し量調節軸
51 操作部
52 指針
P 車体パネル
R ラチェット機構
R1 第一ラチェット機構
R2 第二ラチェット機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板金面を引き出すための板金用引出具であって、
板金面に当てる当て座が取り付けられた基部フレームと、
当該基部フレームに対して進退自在に設けられて先端に板金面との接続具が設けられたシャフトと、
当該シャフトを後退させる際の操作部としての操作レバーと、
当該操作レバーの操作に応じてシャフトを後退させる第一のラチェット機構を備えることを特徴とする、板金用引出具。
【請求項2】
前記第一ラチェット機構は、シャフトに設けられたラックと、操作レバーの操作によって当該ラックをシャフトの後退方向に付勢するラチェット爪とを含んで構成される請求項1に記載の板金用引出具。
【請求項3】
更に、第一のラチェト機構によって後退したシャフトの前進を阻止する第二のラチェット機構を備える、請求項1又は2に記載の板金用引出具。
【請求項4】
更に、第一ラチェット機構におけラックとラチェットの噛合、及び第二ラチェット機構におけるラックとラチェットの噛合を同時に開放する、リターンレバーが設けれられている請求項1〜3の何れか一項に記載の板金用引出具。
【請求項5】
後退した状態のシャフトは、弾性部材によって前進する向きに付勢されている、請求項1〜4の何れか一項に記載の板金用引出具。
【請求項6】
更に、前記シャフトの後端側には、軸方向に穿設された穴部が形成され、当該穴部にはシャフトの後退量を調整する引き出し量調節軸が挿通されている、請求項1〜5の何れか一項に記載の板金用引出具。
【請求項7】
更に、前記基部フレームには、シャフト進退方向に沿う目盛り部が設けられ、前記引き出し量調節軸には、当該引き出し量調節軸と共に移動し、且つ当該目盛り部を指標する指針が設けられている、請求項6に記載の板金用引出具。
【請求項8】
板金面を引き出すための板金用引出具であって、
板金面に当てる当て座が取り付けられた基部フレームと、
当該基部フレームに対して進退自在に設けられると共に、先端に板金面との接続具が設けられ、後端に軸方向に穴部が穿設されたシャフトと、
当該シャフトを後退させる時の操作部である操作レバーと、
当該操作レバーの操作に応じて、前記シャフトを後退させる第一のラチェット機構と、
第一のラチェト機構によって後退したシャフトの前進を阻止する第二のラチェット機構と、
少なくとも後退した状態のシャフトを、前進する向きに付勢する弾性部材と、
前記シャフトの後端側に穿設された穴部に挿通され、シャフトの後退量を調整する引き出し量調節軸と、
前記基部フレームに設けられた、シャフト進退方向に沿う目盛り部と、
前記引き出し量調節軸に設けられた、当該引き出し量調節軸と共に移動し、且つ当該目盛り部を指標する指針と、
を備える、板金用引出具。
【請求項9】
車体パネルの窪みを補修する車体パネルの補修方法であって、
当該補修方法は、窪んだ車体パネルを板金用引出具で引き出す工程を含み、
当該板金用引出具として、請求項1〜8の何れか一項に記載の板金用引出具が使用されることを特徴とする、車体パネルの補修方法。
【請求項10】
車体パネルの窪みを補修する車体パネルの補修方法であって、
当該補修方法は、窪んだ車体パネルを請求項8に記載の板金用引出具で引き出す引き出し工程を含み、当該引き出し工程は、
弾性部材によって前進方向に付勢されているシャフトの先端に設けられた接続具を、板金面に溶着する工程、
操作レバーを操作してシャフトを後退させ、板金面に当て座を当接させる工程、
シャフトの後端側に穿設された穴部に挿通された引き出し量調節軸を、当該穴部の底面に押し当てると共に、目盛り部を指標する指針に基づいて、車体パネルの引き出し量分だけ引き出し量調節軸を後退させる工程、
シャフトの後端側に穿設された穴部の底面が、後退させた引き出し量調節軸の先端に当たるまで操作レバーを操作し、シャフトを後退させる工程
を含むことを特徴とする、車体パネルの補修方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−83243(P2007−83243A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−271195(P2005−271195)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(594057314)翼システム株式会社 (22)
【Fターム(参考)】