説明

【課題】大掛かりな装置を用いずに頭載せ部の高さを横向き姿勢時には高く、仰向き姿勢時には十分に低くできるようにした低コストの枕を提供する
【解決手段】枕に内蔵される空気袋8と、空気袋8を拡張方向に付勢する付勢手段9と、空気袋8への空気の流入を許容し、空気袋8からの空気の排出を阻止する逆止弁13とを備える。付勢手段9の構成要素として、空気袋8内の横方向両側部に配置したX型リンク10と、両型Xリンクを連結する前後の連結部材10d,10e間に張設した複数の引張りばね11とを備える。空気袋8上に配置する頭載せ部2aに頭部を仰向きで載せることで、頭載せ部の前側の頸支持部2bが沈下したときに、前側連結部材10dを介して検出部材141が押下げられ、検出部材141に連動する弁駆動部材により逆止弁13が強制的に開弁されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寝ている人の姿勢に応じて高さを自動的に可変できるようにした枕に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠中に人はよく寝返りし、姿勢が仰向きや横向きに変化する。枕の高さは、人の頸部が不自然に曲がらないようにする上で、仰向き姿勢時には低目であることが望ましく、横向き姿勢の場合は高目であることが望ましい。そこで、従来、上下方向に拡張、収縮自在な空気袋を備え、寝ている人の姿勢に応じて空気袋を拡張(横向き姿勢時)、収縮(仰向き姿勢時)させ、空気袋の上側に配置される頭載せ部の高さを可変する枕が知られている。
【0003】
このような空気袋式の枕の代表的なものとしては、空気袋に連通するゴム製の蓄圧袋を備え、頭載せ部に作用する荷重が増加したときに、空気袋内の空気が蓄圧袋に押し出されて空気袋が収縮され、頭載せ部に作用する荷重が減少したときに、蓄圧袋から空気袋に空気が押し込まれて空気袋が拡張されるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。頭載せ部に作用する荷重が仰向き姿勢では横向き姿勢より大きくなるのであれば、仰向き姿勢の時には空気袋の収縮で頭載せ部の高さが低くなり、横向き姿勢の時には空気袋の拡張で頭載せ部の高さが高くなる。確かに、頭載せ部の高さが高い状態で仰向き姿勢になると、人の頸部が曲がり、頸部の筋肉が緊張してその筋反力により頭載せ部に作用する荷重が増加するが、荷重が増加するのは一時的であって、頭載せ部の高さが若干低くなったところで荷重は元通りになり、頭載せ部を仰向き姿勢に適した十分に低い位置まで下降させることはできない。
【0004】
また、かかる不具合を解消したものとして、空気袋に連通する蓄圧袋と、寝ている人の上半身の下に敷設されるエアマットと、エアマットの内圧が減少したときに蓄圧袋を圧縮し、エアマットの内圧が増加したときに蓄圧袋を拡張させる機構とを設けた装置もある(例えば、特許文献2参照)。寝ている人が仰向き姿勢になると、エアマットが広範囲に亘って押し潰されて内圧が高くなり、その結果、蓄圧袋が拡張されて空気袋内の空気が蓄圧袋に流れ、空気袋が収縮して頭載せ部の高さが低くなる。然し、このものでは、エアマットと、蓄圧袋を圧縮、拡張する機構とが必要で大掛かりな装置になり、コストが高くなる。
【特許文献1】特開2004−249088号公報
【特許文献2】特開2001−190383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、大掛かりな装置を用いずに頭載せ部の高さを横向き姿勢時には高く、仰向き姿勢時には十分に低くできるようにした低コストの枕を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、上下方向に拡張、収縮自在な空気袋を備え、空気袋の拡張、収縮で空気袋の上側に配置される頭載せ部の高さを可変する枕において、空気袋を拡張方向に付勢する付勢手段と、空気袋への空気の流入を許容し、空気袋からの空気の排出を阻止する逆止弁と、頭載せ部に人の頭部を載せたときに人の頸部が当接する頭載せ部の前側部分を頸支持部として、頸支持部の沈下量が所定値以上になったときに逆止弁を強制的に開弁させる開弁機構とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、頭載せ部の高さが高い状態で人が仰向き姿勢になると、頸部の曲げによる筋反力を受けて頸支持部が沈下し、開弁機構により逆止弁が強制的に開弁される。すると、空気袋内の空気が抜け、頭部の荷重で空気袋が収縮して頭載せ部が下降する。また、人が横向き姿勢になると、頸部の位置が高くなって頭載せ部に作用する荷重が減少し、付勢手段の付勢力により空気袋が空気を吸い込みつつ拡張して頭載せ部が上昇する。そして、空気袋に吸い込まれた空気は逆止弁の働きで空気袋に封じ込められ、頭載せ部は空気圧により高い位置にしっかりと支持される。従って、付勢手段による付勢力は左程大きくする必要がない。ここで、付勢手段による付勢力が大きいと、仰向き姿勢時に逆止弁が開弁されても、頭載せ部が左程下降しないうちに付勢手段による付勢力と頭載せ部に作用する頭部の荷重とがバランスして、頭載せ部がそれ以上下降しなくなってしまう。然し、本発明では、上記の如く付勢手段による付勢力を左程大きくする必要がないため、仰向き姿勢時に頭載せ部を仰向け姿勢に適した十分に低い位置まで下降させることが可能になる。
【0008】
このように、本発明は、仰向き姿勢と横向き姿勢とで床からの頸部の高さが変化し、仰向き姿勢では頸支持部が頸部に押されて沈下することを利用して逆止弁を開弁させ、頭載せ部を下降させるものであり、エアマット等の大掛かりな装置を必要とせず、コストも安くなる。
【0009】
尚、付勢手段は、空気袋の拡張状態で発生する付勢力に比し、空気袋の収縮状態で発生する付勢力の方が小さくなるように構成されていることが望ましい。これによれば、仰向き姿勢時に頭載せ部の下降が途中で停止されることを確実に防止できる。このような付勢手段は、例えば、一対のアーム部材を中間部で水平の軸(アーム軸)を介して互いに回動自在に連結して成るX型リンクと、両アーム部材の端部同士を互いに接近する略水平方向に付勢するばね部材とで構成できる。アーム部材には、ばね部材のばね力によるモーメントが作用し、このモーメントにより空気袋を拡張方向に付勢する付勢力が発生する。ここで、アーム部材に作用するモーメントは、ばね力の作用線とアーム軸との間の距離とばね力との積に等しい。空気袋が収縮すると、即ち、頭載せ部が下降すると、アーム部材とばね力の作用線との成す角度が減少し、この減少に伴い一対のアーム部材の端部間の距離が増加してばね力が増加する。然し、アーム部材とばね力の作用線との成す角度が比較的小さい角度範囲に収まっていれば、角度減少によるばね力の増加率は、ばね力の作用線とアーム軸との間の距離の減少率に比し小さくなる。その結果、モーメントは頭載せ部の下降に伴って減少し、空気袋の拡張状態で発生する付勢力に比し、空気袋の収縮状態で発生する付勢力の方が小さくなる。
【0010】
また、付勢手段は、空気袋内の横方向両側部に配置した、一対のアーム部材を中間部で水平の軸を介して互いに回動自在に連結して成る一対のX型リンクと、両X型リンクの前上がりに傾斜するアーム部材の前端部同士を連結する前側の連結部材と、両X型リンクの後上がりに傾斜するアーム部材の後端部同士を連結する後側の連結部材と、これら両連結部材の間に横方向の間隔を存して張設した複数の引張りばねとを備えるものであることが望ましい。
【0011】
これによれば、上記の如く空気袋の拡張状態で発生する付勢力に比し、空気袋の収縮状態で発生する付勢力の方が小さくなって、仰向き姿勢時に頭載せ部の下降が途中で停止されることを確実に防止できる。更に、仰向き姿勢時に頭載せ部が下降したとき、引張りばね上に頭載せ部を介して後頭部が載ることになり、付勢手段による付勢力が後頭部で受けられ、頸部に付勢力が殆ど作用しなくなり、頸部の圧迫が防止される。
【0012】
この場合、前側の連結部材は、頭載せ部に人の頭部を仰向きで載せたときに頸支持部に作用する荷重で下方に撓むように、上下方向の曲げ剛性が低い部材で形成されていることが望ましい。このように前側の連結部材が下方に撓むと、仰向き姿勢になったときに頸支持部が軽い力で沈下するようになり、逆止弁が応答性良く開弁されて、頭載せ部が速やかに下降する。
【0013】
また、開弁機構は、頸支持部の沈下により前側の連結部材を介して押下げられる検出部材と、検出部材の押下げに連動して前記逆止弁を開弁させる弁駆動部材とを備えるものであることが望ましい。これによれば、頸支持部の沈下を検出部材により確実に検出し、弁駆動部材を介して逆止弁を確実に開弁できる。尚、弁駆動部材は、検出部材に対し機械的に連動するものであっても、電気的に連動するものであっても良い。
【0014】
ところで、空気袋が枕の外面に露出していると、空気袋が物に当って傷付く可能性がある。そのため、空気袋を収納する空洞部が形成された枕芯体を備え、枕芯体の空洞部上に位置する部分で頭載せ部が形成されていることが望ましい。この場合、枕芯体は、軟質樹脂製成形体から成るものであっても、また、羽毛、天然繊維、合成繊維、無機質粒子、有機質粒子、流体からなる群から選択された少なくとも1種の材料を内蔵する袋状体から成るものであっても良い。
【0015】
また、頭載せ部に人の頭部を仰向きで載せた状態で空気袋の収縮により頭載せ部が陥没したときに、頭載せ部の表面と人の耳との間に間隙が確保されるように前記空洞部の大きさが設定されていることが望ましい。これによれば、頭載せ部が陥没しても、頭載せ部の表面が耳に接触せず、人に不快感を与えることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の枕について説明する。図1〜図4を参照して、本実施形態の枕は、硬質のスポンジで形成された底部材1と、底部材1上に配置した枕芯体2と、これら底部材1と枕芯体2とを被包する外皮布3とを備える。
【0017】
枕芯体2は、横長の略直方体形状に形成された低反発ウレタンフォーム製の成形体で構成されている。枕芯体2の上面部分には、前側の高い稜部4と後側の低い稜部5とが形成され、両稜部4,5間が鞍部6になっている。また、枕芯体2の内部には空洞部7が形成されており、この空洞部7に空気袋8が収納されている。そして、枕芯体2の空洞部7上に位置する部分で形成される頭載せ部2aの高い稜部4に人の頸部を載せ、鞍部6に人の頭部を載せるようにして枕を使用する。頭載せ部2aの前側の高い稜部4を含む部分が頸支持部2bとなる。
【0018】
空気袋8は、可撓性を有し、上下方向に拡張、収縮自在であり、付勢手段9により拡張方向に付勢されている。付勢手段9の構成要素として、空気袋8内の横方向両側部に一対のX型リンク10,10が配置されている。各X型リンク10は、一対のアーム部材10a、10bを両者の中間部で横向きの水平の軸10cにより互いに回動自在に連結して成るものである。また、両X型リンク10,10の前上がりに傾斜するアーム部材10a,10aの前端部同士を連結する前側の連結部材10dと、両X型リンク10,10の後上がりに傾斜するアーム部材10b,10bの後端部同士を連結する後側の連結部材10eと、前上がりに傾斜するアーム部材10a,10aの後端部同士を連結する下方の連結部材10fとが設けられている。前側と後側の両連結部材10d,10e間には、横方向の間隔を存して複数の引張りばね11が張設されている。また、各X型リンク10の直下部に位置させて、アーム部材10aの後端部とアーム部材10bの前端部との間に張設される下側の引張りばね12が設けられている。尚、下方の連結部材10fは省略しても良い。
【0019】
これら引張りばね11,12のばね力により各アーム部材10a,10bに軸10c回りのモーメントが作用し、このモーメントにより空気袋8を拡張する方向の付勢力が発生する。空気袋8の最拡張状態において、各アーム部材10a,10bと各引張りばね11,12のばね力の作用線との成す角度は20度程度になるように設定されている。空気袋8が収縮して頭載せ部2aが下降すると、各アーム部材10a,10bと各引張りばね11,12のばね力の作用線との成す角度が減少し、この減少に伴い引張りばね11,12が伸ばされてばね力が増加するが、20度以下の角度範囲では角度減少によるばね力の増加は僅かになる。一方、各引張りばね11,12のばね力の作用線と軸10cとの間の距離は頭載せ部2aの下降量に比例して減少する。そのため、各アーム部材10a,10bに作用するモーメント(=ばね力×ばね力の作用線と軸10cとの間の距離)は頭載せ部2aの下降に伴って減少し、空気袋8を拡張する方向の付勢力は空気袋8の拡張状態よりも空気袋8の収縮状態の方が小さくなる。
【0020】
尚、空気袋8の収縮状態では、前側と後側の連結部材10d,10e間に張設する引張りばね11のばね力の作用線と軸10cとの間の距離がほぼ零になり、空気袋8の拡張方向への付勢力は殆ど発生しない。ここで、寝ている人が仰向き姿勢から横向き姿勢になったときに、後述する如く空気袋8を拡張させるには、空気袋8の収縮状態において僅かではあっても拡張方向への付勢力が発生されている必要がある。そこで、本実施形態では、前側と後側の連結部材10d,10e間に、両X型リンク10,10の間に位置する引張りばね11に加えて、各X型リンク10の直上部に位置する引張りばね11´を張設している。この引張りばね11´と各X型リンク10の直下部に位置する下側の引張りばね12とは、空気袋8の収縮状態において各X型リンク10のアーム部材10a,10bに干渉して、そのばね力の作用線と軸10cとの間の距離が零になることが阻止される。そのため、これら引張りばね11´,12のばね力により、空気袋8の収縮状態においても拡張方向への付勢力が発生される。本実施形態では、図7に示す空気袋8の拡張状態で発生する付勢力が約4kgf、図8に示す空気袋8の収縮状態で発生する付勢力が約350gfになる。
【0021】
各アーム部材10a,10bと各連結部材10d,10e,10fは板厚方向を上下方向とする帯状の金属板で形成されている。前側の連結部材10dは特に板厚が薄く、上下方向の曲げ剛性が低くなっている。そのため、頭載せ部2aの前側の頸支持部2bに作用する荷重で前側の連結部材10dは容易に下方に撓む。
【0022】
尚、空洞部7の天井面は、頸支持部2bが過度に厚くならないように、前上がりに傾斜している。そこで、空気袋8の拡張状態において、その上面が前上がりに傾斜して空洞部7の天井面に接するように、各X型リンク10の軸10cの位置を後側にずらし、前上がりに傾斜するアーム部材10aの前端部の高さが後上がりに傾斜するアーム部材10bの後端部よりも高くなるようにしている。
【0023】
空気袋8の内底面には、空気袋への空気の流入を許容し、空気袋からの空気の排出を阻止する逆止弁13が配置されている。逆止弁13は、図5及び図6に明示されているように、弁孔131を開設した弁座板132と、弁座板132に対し上下方向に傾動自在となるようにリベット133で緩く止めた板状の弁体134とで構成されている。弁体134の下面には、弁座板132の上面に弁孔131を覆うようにして着座するゴム製の吸盤状シール部材134aが取り付けられている。弁体134は自重で弁座板132の上面に着座し、弁孔131を閉塞する。弁座板132は、弁孔131の周囲において空気袋8の内底面に接着等で固定される。空気袋8の底面には、弁孔134が臨む穴が形成されている。かくして、弁体134が上方に傾動して弁孔131が開放されると、即ち、逆止弁13が開弁されると、空気袋8内の空気が排出可能になる。
【0024】
ここで、逆止弁13は、頸支持部2bの沈下量が所定値以上になったときに開弁機構14により強制的に開弁されるようになっている。本実施形態においては、開弁機構14の構成要素として、頸支持部2bの沈下により上記前側連結部材10dを介して押下げられる検出部材141と、検出部材141の押下げに連動して逆止弁13を開弁させる弁駆動部材142とを備えている。検出部材141は、弁座板132の側部に軸支した前後方向に長手の回転軸143に一端を固定し、他端を前側連結部材10dの中央部の直下に臨ませたレバーで構成されている。また、弁駆動部材142は、弁体134の可動端の下面に係合する板片で構成され、回転軸143に固定されている。かくして、頸支持部2bが沈下すると、前側連結部材10dを介して検出部材141が押下げられ、この押下げにより回転軸143が回転して弁駆動部材142が上方に回動し、この回動で弁体134が押し上げられて、逆止弁13が強制的に開弁される。
【0025】
尚、弁駆動部材142は、前側連結部材10dを介して検出部材141が押下げられない限り上方に回動しないように、弁座板132に取り付けた板ばねで構成される戻しばね144により下方に付勢されている。また、前側連結部材10dに対する検出部材141の位置ずれを防止するため、弁座板132を、片側のX型リンク10の後上がりに傾斜するアーム部材10bの前端近傍部分に取付軸132aを介して枢着している。
【0026】
次に、図7乃至図9を参照して、本実施形態の枕と寝ている人の姿勢との関係について説明する。図7に示すように、人が横向き姿勢で頭部Hを頭載せ部2aに載せている場合、空気袋8は拡張状態になり、逆止弁13の働きで空気袋8に封じ込められる空気の圧力により、頭載せ部2aは横向き姿勢での頭部Hの高さに適合した高い位置にしっかりと支持される。従って、頭部Hの重さが個人差で異なっても、空気袋8の拡張状態で付勢手段9が発生する付勢力を左程大きくせずに、頭載せ部2aを高い位置に保持できる。
【0027】
上記の如く横向き姿勢から人が寝返りを打って仰向き姿勢になると、図8に仮想線で示すように、頸部Nが曲がり、頸支持部2bに作用する荷重が大きくなる。そのため、頸支持部2bが前側連結部材10dを押下げつつ沈下する。そして、頸支持部2bの沈下量が所定値以上になって、前側連結部材10dを介して開弁機構14の検出部材141が押し下げられたとき、弁駆動部材142により逆止弁13が強制的に開弁される。尚、前側連結部材10dは上記の如く上下方向の曲げ剛性が低く、頸支持部2bに作用する荷重で容易に下方に撓む。そのため、仰向き姿勢になったとき応答性良く逆止弁13が開弁される。
【0028】
逆止弁13が開弁されると、空気袋8内の空気圧による頭載せ部2bの支持が失われ、逆止弁13を介しての空気の排出で空気袋8を収縮させつつ頭載せ部2aが下降する。ここで、付勢手段9による付勢力は空気袋8の拡張時より収縮時の方が小さいため、頭載せ部2aは途中で停止することなく仰向き姿勢に適した低い位置まで下降し、図8に実線で示す状態になる。この状態では、前側連結部材10dと後側連結部材10eとの間に張設した引張りばね11上に頭載せ部2aを介して後頭部が載ることになる。そのため、付勢手段9による付勢力が後頭部で受けられ、頸部Nに付勢力が殆ど作用しなくなり、頸部Nの圧迫が防止される。尚、頭載せ部2aを仰向き姿勢に適した十分に低い位置まで下降させるには、空気袋8が10mm以下の厚さに収縮可能となるようにすることが望ましい。
【0029】
また、このように頭載せ部2aが下降すると、枕芯材2の他の部分に対し頭載せ部2aが図9に示す如く陥没した状態になる。この状態において、頭載せ部2aの表面と人の耳Eとの間に間隙が確保されるように空洞部7の大きさが設定されている。具体的には、空洞部7は、横方向長さが人の両耳E,E間の長さの1.5〜2.0倍程度(約30〜40cm)、高さが6〜8cmの大きさに形成されている。このようにすることで、頭載せ部2aが陥没しても、頭載せ部2aの表面が耳Eに触れることがなく、睡眠を妨げることが防止される。
【0030】
仰向き姿勢から寝返りをうって横向き姿勢になると、頸部Nの位置が肩に支えられて高くなり、頭載せ部2aに作用する荷重が減少する。そのため、付勢手段9の付勢力により空気袋8が逆止弁13を介して空気を吸い込みつつ拡張して頭載せ部2aが上昇し、図7に示す状態に復帰する。
【0031】
尚、図7の仮想線は頭載せ部2aの上面の自由状態での位置を示している。頭載せ部2aは、その素材である低反発ウレタンフォームの特性で頭部Hと頸部Nの形状に馴染むように変形し、肩、頸に無理な負担が掛からない。ところで、従来より枕に使用されている低反発ウレタンフォームは、頭頸部の体温により軟化して、頭頸部の高さが姿勢変更で変化してもこれに追従して変形する点を基本的な効果としている。然し、このような温度に敏感なウレタンフォームは、冬季には硬くなって高さが高くなり過ぎ、夏季には軟らかくなって高さが低くなり過ぎる欠点がある。ここで、本実施形態の枕は空気袋8の変形で高さが変化するため、ウレタンフォームが体温によって軟化する必要がなく、温度依存性の少ない低反発ウレタンフォームを用いることができる。これにより夏冬何れにおいても一定した使用状態が得られる。
【0032】
以上、付勢手段9をX型リンク10を用いて構成した実施形態について説明したが、これに限るものではなく、例えば、空気袋8内に収納した上下方向に伸縮自在な弾性部材で付勢手段を構成することも可能である。また、上記実施形態では、開弁機構14の検出部材141に対し弁駆動部材142を機械的に連動させているが、検出部材141の押下げでオンするリミットスイッチ等のスイッチを設け、弁駆動部材142を検出部材141に電気的に連動させることも可能である。
【0033】
また、上記実施形態では、枕芯体2を低反発ウレタンフォーム製の成形体で構成しているが、ラバーフォーム等の他の軟質樹脂製の成形体で枕芯体2を構成しても良い。更に、羽毛、天然繊維、合成繊維、無機質粒子、有機質粒子、流体からなる群から選択された少なくとも1種の材料を内蔵する袋状体で枕芯体2を構成することも可能である。上記天然繊維としては、綿、パンヤ等の植物性繊維、キャメル等の動物性繊維を挙げることができ、上記合成繊維としては合成綿等を挙げることができる。また、上記無機粒子としては、炭、セラミック、天然石等の粒子を挙げることができ、上記有機粒子としては、そば殻等の植物性粒子、プラスチックビーズ、プラスチックパイプ等の合成樹脂製粒子等を挙げることができ、上記流体としては、水、ゼリー、冷却剤等を挙げることができる。
【0034】
また、上記実施形態では、枕芯体2に形成した空洞部7に空気袋8を収納し、空洞部7上に位置する枕芯体2の部分で頭載せ部2aを構成しているが、空気袋8の上に頭載せ部2aとなる部材を取付けて、枕芯体2を省略することも可能である。但し、これでは、空気袋8が保護されず傷付く虞があるため、上記実施形態のように構成することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態の枕の斜視図。
【図2】図1のII−II線で切断した断面図。
【図3】図2のIII−III線で切断した断面図。
【図4】図3のIV−IV線で切断した断面図。
【図5】実施形態の枕に設けられる逆止弁と開弁機構の平面図。
【図6】図5のVI−VI線で切断した断面図
【図7】実施形態の枕に頭部を横向きで載せた状態の断面図。
【図8】実施形態の枕に頭部を仰向きで載せた状態の断面図。
【図9】図8のIX−IX線で切断した断面図。
【符号の説明】
【0036】
2…枕芯体、2a…頭載せ部、2b…頸支持部、7…空洞部、8…空気袋、9…付勢手段、10…X型リンク、10a,10b…アーム部材、10c…軸、10d…前側連結部材、10e…後側連結部材、11…引張りばね、13…逆止弁、14…開弁機構、141…検出部材、142…弁駆動部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に拡張、収縮自在な空気袋を備え、空気袋の拡張、収縮で空気袋の上側に配置される頭載せ部の高さを可変する枕において、
空気袋を拡張方向に付勢する付勢手段と、
空気袋への空気の流入を許容し、空気袋からの空気の排出を阻止する逆止弁と、
頭載せ部に人の頭部を載せたときに人の頸部が当接する頭載せ部の前側部分を頸支持部として、頸支持部の沈下量が所定値以上になったときに逆止弁を強制的に開弁させる開弁機構とを備えることを特徴とする枕。
【請求項2】
前記付勢手段は、前記空気袋の拡張状態で発生する付勢力に比し、空気袋の収縮状態で発生する付勢力の方が小さくなるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の枕。
【請求項3】
前記付勢手段は、前記空気袋内の横方向両側部に配置した、一対のアーム部材を中間部で水平の軸を介して互いに回動自在に連結して成る一対のX型リンクと、両X型リンクの前上がりに傾斜するアーム部材の前端部同士を連結する前側の連結部材と、両X型リンクの後上がりに傾斜するアーム部材の後端部同士を連結する後側の連結部材と、これら両連結部材の間に横方向の間隔を存して張設した複数の引張りばねとを備えることを特徴とする請求項1記載の枕。
【請求項4】
前記前側の連結部材は、前記頭載せ部に人の頭部を仰向きで載せたときに前記頸支持部に作用する荷重で下方に撓むように、上下方向の曲げ剛性が低い部材で形成されていることを特徴とする請求項3記載の枕。
【請求項5】
前記開弁機構は、前記頸支持部の沈下により前記前側の連結部材を介して押下げられる検出部材と、検出部材の押下げに連動して前記逆止弁を開弁させる弁駆動部材とを備えることを特徴とする請求項3または4記載の枕。
【請求項6】
前記空気袋を収納する空洞部が形成された枕芯体を備え、枕芯体の空洞部上に位置する部分で前記頭載せ部が形成され、枕芯体は、軟質樹脂製成形体または羽毛、天然繊維、合成繊維、無機質粒子、有機質粒子、流体からなる群から選択された少なくとも1種の材料を内蔵する袋状体で構成されることを特徴とする請求項1〜5に記載の枕。
【請求項7】
前記頭載せ部に人の頭部を仰向きで載せた状態で空気袋の収縮により頭載せ部が陥没したときに、頭載せ部の表面と人の耳との間に間隙が確保されるように前記空洞部の大きさが設定されていることを特徴とする請求項6記載の枕。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−223621(P2006−223621A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41817(P2005−41817)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【特許番号】特許第3699472号(P3699472)
【特許公報発行日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(391009718)株式会社医研工業 (9)
【出願人】(500314728)
【Fターム(参考)】