説明

【課題】仰臥姿勢で就寝しても或いは側臥姿勢で就寝しても頚椎部の支える枕の高さはほぼ一定であるが、頭部を支える位置は異なるのに対処し、寝姿勢に対応して頭部の動きに合わせて頭部支持部の高さを調節し得る。
【解決手段】頚椎部を支持する頚椎部支持部と頭部を支持する頭部支持部とが、それぞれ独立した袋体として連設されており、頭部支持部を構成する袋体には、中央部を挟んで中央部の両側に上布と下布とを所定の間隔に支持する障壁襠布を、障壁襠布両端と袋体との間には充填物の流動間隙を有して配した。頚椎部支持部の容積は枕の容積の1/3〜1/6であり、該枕の幅より狭くしている。頭部の当たる部位の袋体中に袋体内の充填物の流れを制御制止する障壁キルトを複数設けた。詰物を充填物がビーズ,パイプ,繊維粒わた,そば殻などの粒状体及び又はこれらの粒状物との混合体であるとしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、就寝した際、使用者それぞれ特有の寝姿勢に合った形状,高さに調整し易い枕に関する。
【背景技術】
【0002】
枕は人が就寝した時に敷き寝具と身体の間に生ずる隙間を埋め身体を安定させ身体に不要の緊張を与えずリラックスさせるために用いるものであり、そのためには傾臥姿勢で横たわったとき頚椎を適切に固定することが重要とされている。従って、枕の高さは、人の体格,体型に関係して個人個人で異なり、更には硬さの好みもあり、さまざまな枕が提案されている。
【0003】
その一つに枕を複数区画に分け、それぞれの区画ごとに詰物を適宜出し入れすることが出来るようにし、後頭部に当たる部分の詰物量を使用者の好みに応じ変化させ窪みを作った枕(特許文献1)のように、一つの袋体枕中央部分の後頭部に当たる部分を他の部分より窪ませ凹部を作り、該凹部に後頭部を対応させた枕とすれば凹部周辺に高い部分が出来、この部分が頚椎に対応することになり頚椎固定作業を発揮出来る。然し、就寝直後は仰臥位姿勢て枕中央部に頭を置き、側臥位状態では枕サイド部に頭を載せて就寝しても、眠ってしまえば無意識状態で寝返りをうつため、定位置に固定することは難しい。
【0004】
また、伸縮性を有する生地よりなる内袋に平均直径0.1〜1.4mmの発泡粒子を封入し、複数の内袋を伸縮性に富む生地で包んだ枕(特許文献2)が提案されている。かかる枕であれば、いろいろな寝姿勢にフィットした形状を実現できるが、平均粒径が細かく非常に流動性のあるビーズと伸縮性の大きいツーウェイトリコット生地との組み合わせで実現できる特殊な材料による枕であり、頭を載せただけで大きく変形し、いろいろな寝姿勢にフィットさせてくれる反面、その状態を継続させ安定した高さをキープすることが難しく、好みの硬さと高さに合わせることが難しい。
【0005】
そこで、頭部と頸部との枕に対する位置関係がどのようであれば好ましいかを寝姿勢計測器を用いて検証した。その例を次に説明する。
使用した寝姿勢計測器は特開2003−130635号記載の計測器で、敷き寝具と体の間に、一辺が5cm角の小片を、各辺を屈曲可能に31枚連結させておき、その角度変化から寝具の沈み込み曲線を計測したものである。同一人物が、同じ敷き寝具の上に仰臥位姿勢、側臥位姿勢で横たわった時の体の身長方向に沿って計測した寝姿勢曲線を図1に示す。ふとん表面をゼロとして、寝たときの各部位の体重変化により沈み込み変形量の違いがわかる。特に首から頭部に注目すると枕に接するのは仰臥位姿勢と側臥位姿勢では、その位置の差は2〜3cm程度である。即ち、仰臥位と側臥位では枕の高さの差は2〜3cmである。一方、頚椎部の高さは仰臥位と側臥位ではほぼ同一で寝姿勢の違いによる差は小さいといえる。
かかる点に着目して、本発明者らは、枕において、寝姿勢の相違による枕高さの変化は頚椎部の高さよりも、頭部の高さ変化の方が大きく、頭部の高さ変化が頚椎部に影響していると考え、頚椎の当たる部分を確実に固定し、頭の当たる部分を寝姿勢の変化に対応しやすくすれば好みの硬さの枕で寝姿勢にフィットしやすい枕が得られることを突き止め本発明に到達した。
【特許文献1】特開2002−223917号公報
【特許文献2】特開2004−344586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みて、仰臥姿勢で就寝しても或いは側臥姿勢で就寝しても頚椎部を支える枕の高さはほぼ一定であるが、頭部を支える位置は異なるのに対処し、寝姿勢に対応して頭部の動きに合わせて頭部支持部の高さを調節し得るようにした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明にあっては、頚椎部を支持する頚椎部支持部と頭部を支持する頭部支持部とが、それぞれ独立した袋体として連設されており、頭部支持部を構成する袋体には、中央部を挟んで中央部の両側に上布と下布とを所定の間隔に支持する障壁襠布を、障壁襠布両端と袋体との間には充填物の流動間隙を有して配した。
請求項2記載の発明にあっては、頭部支持部を構成する袋体の中央部に、上布と下布とを所定の間隔に支持し、袋体内の詰物を案内する案内襠布を設けている。
請求項3記載の発明にあっては、頚椎部支持部の、容積は枕の容積の1/3〜1/6であり、幅は枕の幅より狭くしている。
請求項4記載の発明にあっては、充填物がビーズ,パイプ,繊維粒わた,そば殻などの粒状体及び又はこれらの粒状物との混合体としている。
請求項5記載の発明にあっては、それぞれ独立した袋体として連設された頚椎部支持部袋体と頭部支持部袋体とを有する枕において、前記各袋体の下面に高さ調節板を配している。
【発明の効果】
【0008】
本発明枕は、頚椎部支持部と、頭部支持部とがそれぞれ独立した袋体として連設されており、それぞれに充填物が充填されているが、枕使用者各人の支持高さがほぼ等しい頚椎部は、充填物の内部移動のない頚椎部支持部で固定して支持し、使用者の各人によって支持高さの異なる頭部は、頭部支持部を構成する袋体によって頭部を支持し該袋体は、中央部を挟んでその両側に袋体を構成する上布と下布を所定の間隔に支持する襠布を設け、襠布の両端と袋体の間には充填物の流動間隙を設けた頭部を支持する袋体で支持したため該袋体内の充填物が頭部により圧力を受けた際、袋体内中央部位から案内襠布に沿って容易に移動し、頭部を支える部位の両側位置に流れ込むことで頭部をその使用者に最も適した高さで支えることが出来る。
即ち、頚椎の固定を確実に行った上、頭部は寝姿勢に応じ変形して頭部を支えるので仰臥姿勢にも横寝姿勢にも安定して使用出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明枕1の最良の形態につき次に説明する。
図2は本発明枕1の上布2の一部を削除した状態の平面図、図3は同斜視図である。
枕1は、全体として平面視長方形をなす上布2と下布3とよりなる袋体に構成され、その長辺の一側に枕使用時頚椎部を載せる頚椎部支持部4を構成し、その他の部分を頭部支持部5としている。頚椎部支持部4,頭部支持部5は襠布4aを介して共に袋状に一連に連続構成されている。頭部支持部5の平面視中心線Lを対象軸とする状態に、頭部支持部5の中央部に枕中央から両側にハ字状に拡がる案内襠布6a,6bを複数(図1に示す例では2個所)に設ける。案内襠布6a,6bは上布2と下布3とを適宜間隔を有して隔離させその間に枕詰物(図示せず)を封入する空間を構成する。案内襠布6a,6b……は隣接する案内襠布間の空間を詰物封入空間とすると共に頭部支持部5内の詰物量が多いときに頭部支持位置から詰物を排除するための詰物誘導空間7としての役割も担っている。そして案内襠布6a,6b……の先端部に対面して、案内襠布6a,6b……間の詰物誘導空間内7の詰物の流れを制止する状態に障壁の役目をする障壁襠布8,8を設ける。
【0010】
障壁襠布8,8は、頭部支持部5を横切る状態に設けられ、詰物誘導空間7にある詰物が頭部支持部5の両端部に移動しにくくする為のものであり、障壁襠布8,8の端部は上布2及び下布3との間に隙間9,9を有し、隙間9,9から詰物が頭部支持部5の両端部に少しずつ流れて枕の高さを調整するようにしている。上記襠布は帯状体の両側端縁を折り返し(図示せず)該折り返し部を上布2及び下布3に縫着することにより適所に設けられる。帯状体の幅の大小により襠布の高さでは変化するから予め数種類の高さの異なる襠布により枕を作っておき、好みの高さに有った襠布の枕を選択すれば良い。
【0011】
本発明の枕においては、詰物を後頭部の状態に応じて変化し流動するのを制御し易くするように障壁襠布8を工夫しているが、頚椎部の詰物量は一定であり、枕のサイズが着用する人の調整範囲を越える場合、次の如き手段により高さを変更すれば良い。即ち、頚椎部支持部4と頭部支持部5の下に適宜厚さの高さ調節板10,11を配し、高さ調節板10,11が移動しないように枕全体をカバー12でくるむようにする。調節には頚椎部と後頭部を別々に行う必要がある。高さ調節としては高々2〜4cm程度で、高さ調節板としては、一定の高さを保持できれば如何なる材料でも良いが、形態保持でき弾力性のあるものポリウレタンフォーム、ポリエステル繊維硬綿などがよい。
【0012】
本発明枕で使用する詰物は、ポリエチレン中空パイプをカットしたビーズ,そば殻など通常使用されている流動性を有する素材であれば特に制限されるものではない。
【0013】
次に、本発明枕の使用状態につき説明する。
枕1の頭部支持部5に頭部を、頚椎部支持部4に頚椎部を載せた場合、枕1内の詰物は大略図2に示す矢印の方向(枕の両サイドに向け)動くことになる。
即ち、頚椎部支持部4にあっては中央線LL上で頚椎部を受け、頚椎部支持部4内の詰物を、左右方向に押しやることになるが、頚椎部支持部4は特に袋体内の詰物が移動し易いような構成は採用していないので、載置された頚椎部を詰物が左右から強固に支持することになる。
【0014】
そして、同時に枕に載せた頭部は頭部支持部5の中央部分において案内襠布6a,6bの部分に接し、前記案内襠布6a,6b間の詰物誘導空間7内の詰物を加圧することになり同空間7内の詰物は押し出され障壁襠布8による抵抗を受けつつ、即ち、詰物誘導空間7内の詰物の流出に適宜の抵抗を与えた状態で詰物を頭部支持部5に保有することになる。この作用によって、頭部支持部5内の詰物は、就寝者の頭部に適した高さ形状を保つことになり就寝者の仰臥位,側臥位などの姿勢による頭部の形状変化にも寝返りの都度対応して頭部を支持することになる。
【実施例】
【0015】
図2に示す構造の枕において、全体として平面視長方形(よこ63cm、たて43cm・詰物を入れない状態)のポリエステル織物製の上布2,下布3による袋体を作り、頭部支持部5に案内襠布6a,6bおよび障壁襠布8を配し、袋体への詰物としてポリエチレン中空パイプ(外径3.5mmφ×5.0mm長、嵩高10.4cc/g)を充填させ本発明の枕を作成した。障壁襠布(枕表層部での長さ12cm)8の両端は、頚椎部支持部4側に4cm、反対の頭頂部側に10cmの流動間隙9をそれぞれ開放しており、該開放間隙9,9より枕両端部に詰物(ポリエチレン中空パイプ)が流動するようにした。枕重量は1.7kgで全体容積の72%のポリエチレン中空パイプを詰めた。
詰物の流動性は袋体への詰物の充填度合いにより変化するが、充填度が少なすぎると頭部を乗せたとき詰物が移動しすぎて底付きすることになり、逆に充填しすぎると詰物の流動性が悪くなるのでフィットし難くなる。従って、詰物の充填度は60〜90%が良好である。
【0016】
このうち、頚椎部支持部の袋体部には全体容積の1/10の中空ポリエチレンを詰めた。頚椎支持部の枕巾は30cmで、詰物を入れたときの枕の全巾(56cm)より狭く、就寝中の仰臥位や側臥位などの寝姿勢変化により、後頭部支持部の詰物が袋体内部で流動するにも拘わらず、頚椎支持部としてしっかりと頚椎を固定できる。
比較例として、案内襠布6a,6b間の詰物誘導空間内7の流れを制止する障壁襠布8と頭部支持部5との間の流動間隙を障壁襠布で完全にブロックし頭部支持部5と障壁襠布との間に詰物が流れないようにした形状の枕を作成した。
本発明の枕と比較例の枕の頭をのせた時の詰物(ポリエチレン中空パイプ)の流動による枕高さの変形状態を検証した。
図5に前記検証に使用した装置を示す。図6はその結果である。
頭をのせたときの枕の高さ変化を見るために、計測器20を使用した。計測器20は目盛を有する案内枠21(長さ44cm)を逆T字形に中心部に設けた円板22(面積40cm2)と、中央に、該円板の上に重ねた15cm案内棒21に挿通するための穴を有するウエイト23とよりなり、頭部の重さに相当する1kg、2kg、3kg、・・・・8kgのウエイト23を円板22に重ねたときの枕高さを計測した。頭の動きにより詰物が流動性することを想定し、テストでは各荷重を枕に加えた状態で、逆T字型の棒の先端を枕の横方向に左右5cm(振幅巾10cm)の刺激を5回加えた後の枕高さの変化を計測した。高さが変化することは枕に頭部がフィットし易いことを示している。
計測結果を図6に示す。
【0017】
仰臥姿勢で後頭部の当たる枕中央部と、横寝姿勢時に使うサイド部の2ヶ所を計測した。枕の変形は本発明の枕の方がいずれも変形率が大きく、詰物は流動しやすく高さ変化が大きい。通常ヒトの頭部の重さは体重の8%といわれており、体重60kgのヒトであれば、頭の重さは約5kgである。図において、頭の重さに相当する荷重5kgにおいて比較例に比べて本発明枕が頭部にフィットし易いことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】傾臥位と側臥位での寝具の沈み込み形状を示すグラフ。
【図2】本発明枕の上布の一部を切除した状態の平面図。
【図3】本発明枕の上布の一部を切除した状態の斜視図。
【図4】高さ調節板を挿入した状態の中心線断面図。
【図5】計測器の概略説明図。
【図6】枕の変形挙動を示すグラフ。
【符号の説明】
【0019】
1 枕
2 上布
3 下布
4 頚椎部支持部
5 頭部支持部
6 案内襠布
7 詰物誘導空間
8 障壁襠布
9 流動隙間
10,11 高さ調節板
12 カバー
20 計測器
21 案内棒
22 円板
23 ウエイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頚椎部を支持する頚椎部支持部と頭部を支持する頭部支持部とが、それぞれ独立した袋体として連設されており、頭部支持部を構成する袋体には、中央部を挟んで中央部の両側に上布と下布とを所定の間隔に支持する障壁襠布を、障壁襠布両端と袋体との間には充填物の流動間隙を有して配したことを特徴とする枕。
【請求項2】
頭部支持部を構成する袋体の中央部に、上布と下布とを所定の間隔に支持し、袋体内の詰物を案内する案内襠布を設けたことを特徴とする請求項1記載の枕。
【請求項3】
頚椎部支持部の、容積は枕の容積の1/3〜1/6であり、幅は枕の幅より狭い事を特徴とする請求項1又は2記載の枕。
【請求項4】
充填物がビーズ,パイプ,繊維粒わた,そば殻などの粒状体及び又はこれらの粒状物との混合体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の枕。
【請求項5】
それぞれ独立した袋体として連設された頚椎部支持部袋体と頭部支持部袋体とを有する枕において、前記各袋体の下面に高さ調節板を配したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載の枕。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−11699(P2009−11699A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179437(P2007−179437)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000196129)西川産業株式会社 (31)
【Fターム(参考)】