説明

【課題】 発泡樹脂材料の不定形変形を制御することによって、快適な寝心地と就寝中における正しい寝姿勢の維持とを実現した枕を提供する。
【解決手段】 弾性回復性の発泡樹脂材料を所定の枕型外形をなすように成形してなる枕90において、枕使用者Mの首に対応する部分に、枕使用者の頚椎に直交する向きに剛性材料からなる全形または半割りのパイプ状の変形抑制部材80を装填し、使用時における枕90の首支持部9Aの変形を変形形状と沈込み変形量との2面から、変形抑制部材80が有する形状と高さとに限界付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性回復性の発泡樹脂素材からなる枕において、枕の内部に発泡樹脂材料の過度の変形を抑制するための変形抑制部材を装填することより、就寝中における枕使用者の頚椎の屈曲状態を理想的な状態に保持できるようにした枕に関する。
【背景技術】
【0002】
枕は、睡眠の質、したがって健康で快適な日常生活と深い相関関係を有する。例えば、枕は、就寝中の背骨全体の形状、したがって、腰痛等にも関係する。枕の高さを適切に維持することによって腰痛を軽減することができる。枕は、いびきにも関係し、就寝中に気道十分に確保することによっていびきを解消することができる。
【0003】
枕は、交通事故等による頚椎傷害を負っている人や過去に頚椎の傷害を負ったことのある人の場合には、症状の回復や予後に大きな影響を及ぼす。これらの場合には、就寝中に頚椎を牽引するようにすることによって症状を軽減することができる。枕は、睡眠以前の寝付きにも関係する。例えば、柔らかくも硬くもなく、頭部が思いの方向に向けて適切な高さに安定に支持され、しかも、頭部に乾燥した涼感を感じるような枕であれば、寝付きも良いというものである。枕に対する要望事項は、現実にはさらに多様である。
【0004】
枕は、このように健康上重要な機能を有するものであることは、多くの人は知識としては知っている。しかし、実際には、寝具売り場で何か枕らしい形をしたものを購入して頭の下に入れて使用し、毎日何かとは知れない不満感を抱いているだけというのが現実である。枕は、実際に試用して買うものではないことから、製造者ないし売り手の側としても、枕らしい外観を売りものにせざるを得ないし、買い手の側も、実際に使用してみないと本当の寝心地が分からないことから、いかにも枕らしいものを購入せざるを得ない。すなわち、どのような枕が枕として適切であるかが、メーカにおいても購入者においても判然としないのである。
【0005】
しかし、最近において、枕に関して人間工学的ないし医学的見地からの主張が採用されるようになってきている。極めて好ましい傾向である。例えば、正しい姿勢で起立しているときの腰椎から頚椎に至るまでの脊骨の屈曲姿勢が理想的なものであり、就寝に際して平坦な床面に仰臥した際にも、この理想的とされる脊骨の屈曲状態を維持することが自然であり、上半身、特に頚椎部分についての屈曲状態を自然に維持することが枕に求められる基本的な機能であるというような主張である。
【0006】
多数の枕を試作検討した結果としては、上記主張は、基本的に正しいと思われる。しかし、現実問題としは、上記人間工学的または医学的見地から枕に求められる機能と、良好な寝心地とを両立させることが以外に困難なことであることが判明した。
【0007】
すなわち、今日枕の素材としては、弾性回復性の発泡樹脂素材が主流になっている。その理由としては、弾性回復性の発泡樹脂素材は、枕として不可欠なクッション性および適度な体圧分散性を提供してくれる、また、取扱い易い軽量さ、低価格、量産性、製造の容易性等の枕として好都合な特性によるものである。
【0008】
そこで、この発泡樹脂素材を用いて理想的とされる形状の枕を作製して試用してみても、理想的な枕形状の効用は何ら実感されない。これは、使用前の枕がいかに理想的な断面形状を有するとしても、実際の使用時においては、発泡樹脂素材の殆ど節度のない変形性によって、使用している枕が理想的な断面形状からかけ離れた断面形状に変化してしまうからである。この問題は、近年枕の分野に需要を拡大している低反発性の発泡樹脂素材において極めて顕著である。
【0009】
上記問題に対しては、予め発泡樹脂素材の変形量を見込んだ上で、例えば、使用時における枕の沈込み変形量を加算して枕形状を決定すれば良いのではないかという発想に至るのは自然である。しかし、このような方策は全く奏功しない。というのは、使用時における枕の変形態様は、就寝中における枕使用者の僅かの身体挙動によって刻々と異なることとなるとともに、弾性回復性の発泡樹脂素材においては、変形によって理想的な枕形状になったとしても、変形量の大きな部分の反発力と、周辺部分の反発力との間に大きな較差が生じることにより、首部位または頭部が、その位置に安定していないのである。
【0010】
すなわち、理想的な枕形状がその効用を発揮するためには、少なくとも部分的には、枕の断面形状が変形しない剛素材を用いて枕形状を制御する必要があるのである。
【0011】
それでは、発泡樹脂素材によって理想的な枕形状に近いものを作製し、その内部に発泡樹脂素材の過度の変形を抑制する剛性の大きい心材、補強材、ないし変形抑制部材を装填すればよいのではないかという発想に至るのは自然である。ただし、心材等によって枕の断面形状を理想的な形状に維持するためには、心材等の断面積が、枕の断面積に占める割合を適切に設定する必要がある。心材等が剛体であっても、ある程度の太さを有しない限り、枕の断面形状変化を抑制することができないからである。
【0012】
一方、剛体であって十分に大きな心材等を装填した枕においては、相対的に心材を被覆する発泡樹脂素材を薄くせざるを得ず、この場合、枕の使用時にゴツンとした不快な底突き感が発生することが新たな問題になる。この問題を防止するには、心材等に、その断面形状が変化することなくある程度のクッション性を発揮するものを用いるか、その他、実質的に底突き感が解消若しくは軽減されるような特別な対応策を採る必要がある。
【0013】
上記検討結果を踏まえて、本願の枕に直接又は間接に関連すると思われる枕の改良提案を例示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平7−39443号公報
【特許文献2】特開閉10−165275号公報
【特許文献3】特開2004−129887号公報
【特許文献4】特開2004−249023号公報
【特許文献5】特開2004−321229号公報
【特許文献6】特開2006−51335号公報
【特許文献7】特開2009−22317号公報
【0015】
上記先行技術文献に示されている枕の技術上の意義は、概ね次のようなものであると解される。
【0016】
特許文献1に記載の枕は、首部に対する指圧効果を課題としている。この枕は、外周面に多数の突起を列設したプラスチック製の円筒をカバーで被覆するようにして構成され、就寝時に首の下にいれ、他に通常の枕と併用する首枕である。首枕が転動して枕が首の最適位置に安定しないきらいがある。また、全くクッション性を有しない構成であるが、枕には適度なクッション性が不可欠である。ただし、出願人による主張はないものの、円筒状の物体によって首部分を支持することは、枕に求められる適切な寝姿勢の維持や気道確保の要求に寄与すると思われる。なお、通気性の確保等にも言及がある。
【0017】
特許文献2に記載の枕は、気道確保を課題としている。いわば、おむすび型の断面形状を有する枕で、首を下側から支持して気道を確保する目的である。出願人の主張では、後頭部を寝床から浮かした状態で使用するようであるが、長時間の使用には首に負担がかかりすぎ、このまま寝込むことは危険であると思われる。しかし、気道を確保する目的に対する手段としての基本的対応を示唆している。なお、枕の内部に保冷剤を収納して冷涼感を得ることができることにも、付帯的に言及がある。
【0018】
特許文献3に記載の枕は、枕のクッション性を使用者の好みに応じて調節可能とすることを課題としている。この枕は、後述する本願に近い構成を有する。この枕は、一般的なクッション性素材からなる枕本体と、枕本体に選択的に装填する複数種のクッション性の調節素材との組合せからなる。枕本体は、首を支持する部分から後頭部を支持する部分に向かって徐々に高さが低くなる形状に形成され、首を支持する部分に空洞が設けられる。クッション性の調節素材は、この空洞に装填される。
【0019】
前述したように、発泡樹脂素材の過度の変形性や反発性は、一見快い感触を提供する反面において、頭部を一定の高さに安定に支持する枕としての基本的な機能に劣る。上記提案は、この本質的な問題に注目した専門メーカらしい優れた提案である。ただし、現実の使用においては、複数種のクッション性の調節素材のうち、使用しないものが無駄になるとともに、クッション性の調節素材自体が反発性の異なるクッション性素材から構成されていることにより、心材等としての効果は、希薄であり、あくまでもクッション性の調節に寄与するのみである。
【0020】
特許文献4に記載の枕は、頚椎の牽引を課題としている。就寝中に首部分に適度な牽引力が加わると気持ちがよいものである。この枕における牽引力は、頭部の重みによって枕の位置そのものを僅かに頭上方向に変位させるものであるが、人の身体が動かない固定物であるとして考えられていることに問題がある。つまり、身体が僅かに頭側に移動することによってこの枕の牽引機能は損なわれると思われる。
【0021】
特許文献5に記載の枕は、多目的であり、したがって、構成も非常に凝ったものである。このうち、クッション性の調節については、複数本の溝状の切り欠きを設け、さらには、特許文献3に記載のものと同様に、枕本体内部にフレキシブルなポール部材を装填する手段を採用している。このようなフレキシブルなポール部材の場合、ポール部材が屈曲する際に、ポール部材の断面形状が変化してしまうことが問題である。ポール部材の断面形状が変化する場合には、当然に枕の断面形状を理想的な形状に維持するような機能は希薄なものとならざるを得ず、専ら、枕の沈込み変形の調節が主眼である。
【0022】
特許文献6に記載の枕は、枕の中央位置にゲル状保冷剤を封入した包装物を埋め込む構成である。この種の構成は、枕の形状がいかに理想的である場合においても、ゲル状保冷剤の包装物が外力に対して不定形変化するため、枕は、その形状が有する機能を十分に発揮することができない。
【0023】
特許文献7に記載の枕は、首を支持する部分と、頭部を支持する部分とをシートで包装して一体化する構成である。首を支持する部分は、紙管であったり、籾殻の包装体であったりする。また、頭部を支持する部分は、檜板であったり、水入りの包装体であったりする。この種の構成は、部分ごとに所望の特性を実現することができるが、2物体がシート内部で個別に動くため、1個の枕としての取扱い性に違和感が生じる。毎日使用する物品においては、このような取扱い上の違和感が長期間蓄積して大きな不満に成長することが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、上記従来の枕における問題点を解決し、就寝中における背骨全体の屈曲状態を人間工学的又は医学的に理想的とされる屈曲状態に維持することを最終的な目的とし、直接的には、この目的を達成する上において枕が分担すべき機能、すなわち就寝中における頚椎部分の屈曲状態を理想的な状態となるように頭部を支持し、快適で深い眠りを実現するとともに、十分に気道の確保し、いびきや無呼吸症候群等の気道の狭窄に起因する不快症状の軽減、および、枕使用者の頚椎に対する適度な牽引作用を及ぼすことによって、頚部傷害者の予後等にも寄与することができる枕を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するための本発明は、次のような構成を採用する。
【0026】
(解決手段1)
本発明の枕は、弾性回復性の発泡樹脂材料を所定の枕型外形をなすように一体成形または接合成形してなる枕において、発泡樹脂材料の枕使用者の首に対応する部分に、枕使用者の頚椎に直交する向きに剛性材料からなる全形のパイプ状または半割りのパイプ状の変形抑制部材を装填してなり、この変形抑制部材は、平坦な床面に正しい起立姿勢に相当する寝姿勢で横たわった枕使用者の頚部位置における枕の断面形状の変化を変形抑制部材の断面形状に限界付けるとともに、枕の沈込み変形を変形抑制部材の高さに限界付けることを特徴とする。
【0027】
(解決手段2)
所定の枕型外形に成形された発泡樹脂材料に装填する変形抑制部材は、側面に任意形状の多数の透孔を備え、この透孔は、枕使用者の頚部の重みによって圧縮された発泡樹脂材料を受け入れることによって、剛性材料からなる変形抑制部材の剛性感を緩和する構成とすることができる。
【0028】
(解決手段3)
また、変形抑制部材は、側面に軸方向に沿って全長に及ぶスリットを形成してなるパイプ状であって、このスリットが、枕に加わる外力に応じて開閉する構成とすることができる。
【0029】
(解決手段4)
さらに、変形抑制部材は、側面を蛇腹構造に形成することによって、断面形状を変化させることなく屈曲可能であるとともに、蛇腹構造の谷部に枕使用者の頚部の重みによって圧縮された発泡樹脂材料を受け入れることによって、変形抑制部材の剛性感を緩和する構成とすることができる。
【0030】
(解決手段5)
上記いずれの構成においても、所定の枕型外形が、相対的に厚く形成する首支持部と、首支持部から厚みを漸減させながら枕使用者の頭上方向に延設される頭支持部とからなる枕型外形であって、変形抑制部材が、首支持部に装填されている構成とすることができる。
【0031】
上記(解決手段1)に示す構成による枕は、所定の枕型外形に形成された発泡樹脂材料の特定の部分、すなわち、枕使用者の首に対応する部分に剛性材料からなる変形抑制部材が装填され、この部分における枕の変形形状と沈込み変形量とが変形抑制部材の形状と高さとによって限界付けられることとなる。この結果、例えば、所定の枕型外形が、殆ど反発性を示さない軟質の低反発性発泡樹脂材料から形成されているような枕において、発泡樹脂材料が最大限に変形したとしても、枕使用者の頚部は、少なくとも変形抑制部材が有する形状によって、変形抑制部材が有する高さに支持されることが保障される。なお、剛性材料における「剛性」とは、枕の変形抑制部材としての用途において、一応、剛体としての特性を示すという意味であり、機械産業分野における、いわゆる「剛性」とは、意味が異なることを特に付記する。
【0032】
また、全形のパイプ状または半割りのパイプ状とした変形抑制部材の形状は、寝姿勢の人の頚部または頚椎の屈曲形状に沿って頚部を下方から安定に支持し、体圧を分散する意義を有するとともに、後頭部の首近傍部位を変形抑制部材の円弧斜面で支持することとなるため、斜面によって生じる分力によって枕使用者の頚椎に適度な牽引力を及ぼすことができる。
【0033】
上記(解決手段2)に示す変形抑制部材における透孔は、透孔の部分において部分的に変形抑制部材の機能を排除してあるという意義を有する。つまり、透孔の部分においては、発泡樹脂材料の変形が限界付けられていないのである。このため、枕使用者の頭部の重みによって圧縮された発泡樹脂材料は、変形抑制部材の表面位置からさらに変形抑制部材の内部に入り込むように変形することができる。ただし、枕使用者の頚部は、透孔内に落ち込むことはできない。この結果、変形抑制部材による枕の断面形状を維持する機能を損ねることなく、発泡樹脂材料のクッション性の底突き感を軽減することができるのである。これによって、有効に機能することができる大形の変形抑制部材の使用と、厚みを抑えた発泡樹脂材料と、快適な寝心地との組合せを実現することができるのである。なお、変形抑制部材における透孔は、通気性の向上や熱気の排出にも寄与することができる。
【0034】
上記(解決手段3)に示す変形抑制部材におけるスリットは、パイプ状の変形抑制部材にバネ板の機能を付加する意義を有する。スリットを形成した変形抑制部材は、比喩的に表現するとCチャンネル部材のような断面形状となり、外力に対して断面形状を殆ど変化させることなく機能する一種の板バネとして働くので、変形抑制部材を被覆する発泡樹脂材料を薄くした場合の底突き感を軽減することができるのである。なお、この構成は、上記透孔を併用することによって一層効果的に作用することができる。
【0035】
上記(解決手段4)に示す変形抑制部材の側面の蛇腹構造は、変形抑制部材に、その断面形状を変化させることなくある程度の屈曲性を付加する意義を有する。つまり、蛇腹構造のパイプ状体は、側面が軸方向に伸縮することによって屈曲することができるのであるが、この際には、断面形状は変化しないという構造的特徴を有する。なお、蛇腹構造の変形抑制部材の屈曲の程度は、変形抑制部材を被覆している発泡樹脂材料の変形の容易性との相互作用によって定まる。また、蛇腹構造においては、圧縮された際の発泡樹脂材料の一部を蛇腹構造の谷部に逃がすことができ、この限度において、発泡樹脂材料のクッション性の底突き感を軽減することができる。したがって、この構成においては、変形抑制部材全体の屈曲性との相乗作用によって、枕の不定形変形の原因となる発泡樹脂材料の厚みを十分に抑えることが可能である。
【0036】
上記(解決手段5)に示す枕型外形は、先ず、変形抑制部材を装填する以前の発泡樹脂材料の形状をほぼ理想的な外形とし、この外形との関係において変形し易いこととなる首支持部に変形抑制部材を装填することによって、現実の使用時における枕の理想的外形を維持する趣旨である。
【発明の効果】
【0037】
本発明の枕は、発泡樹脂材料からなる枕の特定位置、具体的には、枕使用者の首に対応する部分に、枕使用者の頚椎に直交する向きに、理想的寝姿勢から逆算的に求めた最適高さと最適形状とを有する全形のパイプ状または半割りのパイプ状の剛性材料からなる変形抑制部材を装填して発泡樹脂材料の欠点である不定形変形を、変形形状と沈込み変形量との2面から限界付けることによって、枕使用者の頚部を理想的な高さに理想的な屈曲状態で支持するとともに、頚椎に適度な牽引力を作用させることができるので、快適で深い眠りを実現される他、気道も十分に確保されるので、いびきや無呼吸症候群等の気道の狭窄に起因する不快症状等の軽減等にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の枕の実施の形態を示す全体斜視図である。
【図2】上記実施の形態における枕の動作説明図である。
【図3】本発明の枕の他の実施の形態を示す全体斜視図である。
【図4】上記実施の形態における枕の動作説明図である。
【図5】本発明の枕の他の実施の形態を示す側面図である。
【図6】上記実施の形態における枕の動作説明図である。
【図7】本発明の枕の他の実施の形態を示す要部の斜視図である。
【図8】上記実施の形態における枕の動作説明図である。
【図9】本発明の枕の他の実施の形態を示す要部の斜視図である。
【図10】上記実施の形態における枕の動作説明図である。
【図11】本発明の枕の他の実施の形態を示す要部の断面図である。
【図12】上記実施の形態における枕の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を引用しながら本発明の枕の実施の形態例を順次に説明する。
【0040】
(実施の形態1)
枕90は、弾性回復性の発泡樹脂材料MTとして発泡ポリウレタンを用いた枕本体9と、変形抑制部材80としての塩化ビニル性の全形のパイプ材8Aからなるシンプルな構成である(図1)。使用される発泡樹脂材料MTは、発泡ポリウレタンに限らないが、枕の素材としては、他の発泡樹脂材料を用いる格別の理由に乏しい。
【0041】
枕本体9は、側面視において相対的に厚く(高く)形成する首支持部9Aと、この首支持部9Aから厚み(高さ)を漸減させながら枕使用者Mの頭上方向に延設される頭支持部9Bとからなる枕型外形に形成されている(図1,図2)。側面視におけるこのような枕型外形は、枕使用者Mの身長方向に沿ったいずれの箇所の縦断面形状とも、ほぼ同形状である。なお、この枕型外形は、発泡樹脂材料MTを一体成形して得るものであっても、接合成形して得るものであってもよく、結果的にこのような外形に成形されていれば足りる。
【0042】
変形抑制部材80としての全形のパイプ材8Aの両端は、切り放しのままであり、外気疎通可能に開口している。全形のパイプ材8Aは、枕使用者Mの頚椎に直交する向きに枕本体9の首支持部9Aに装填されている。全形のパイプ材8Aの長さは、枕90の全幅相当に寸法設定され、全形のパイプ材8Aは、首支持部9Aの全幅に及んでいる。また、全形のパイプ材8Aの高さH1は、首支持部9Aの高さH2の1/2程度に設定されている。なお、全形のパイプ材8Aの高さH1は、全形のパイプ材8Aの直径によって決定する。
【0043】
変形抑制部材80を装填した枕90の使用において、枕本体9の首支持部9Aの断面形状変化は、全形のパイプ材8Aの断面形状によって限界付けられることとなる(図2)。発泡樹脂材料MTがどのように変形しても、全形のパイプ材8Aの断面形状が変化することはないからである。同様に、首支持部9Aの沈込み変形は、全形のパイプ材8Aの高さH1によって限界付けられる。
【0044】
すなわち、変形抑制部材80は、枕90の首支持部9Aを形成している発泡樹脂材料MTの不定形変化を一定範囲に抑制するように機能し、外力に対して特定の形状を維持することができないという発泡樹脂素材の本質的欠点を発泡樹脂素材のクッション性を大きく損ねることなく抑制することができるのである。この結果、首支持部9Aは、枕使用者Mの頚部M2を下方から円弧面によって少なくとも全形のパイプ材8Aの高さ相当の適度の高さに安定に支持し、枕使用者Mの頚部M2の屈曲状態を、例えば、正しい起立姿勢における頚部M2に屈曲状態相当の適切な状態に維持することができるのである。
【0045】
なお、変形抑制部材80としての全形のパイプ材8Aは、枕使用者Mの頚部M2に適度な牽引力を及ぼすように機能することができる(図2)。全形のパイプ状の変形抑制部材80が枕使用者Mの頚部M2、つまり、頭部M1と胴部との接続部位を押し上げている結果、頭部M1と胴部は、全形のパイプ材8Aの円弧斜面によって反対側に押し分けられる向きの力を受けるからである(同図矢印で示す)。この牽引力は、枕使用者Mに快適感を感じさせる一要因であるとともに、様々な頚部M2の不快症状に軽減効果があることが知られている。
【0046】
(実施の形態2)
枕90に装填する変形抑制部材80としては、半割りのパイプ材8Bを用いることができる(図3,図4)。半割りのパイプ材8Bは、全形のパイプ材8Aをその直径を含む平面、またはその近傍で軸方向に切断することによって得られる。また、予め、半割り状態に形成した製品を利用することもできる。この種の塩化ビニル製品は、種類が豊富である。
【0047】
半割りのパイプ材8Bの場合は、枕90の首支持部9Aに上凸の姿勢となるように装填するものとし、半割りのパイプ材8Bの高さH1は、半割りの状態において、全形のパイプ材8Aの高さH1相当、つまり、枕90の首支持部9Aの高さH2の1/2程度に設定される。したがって、半割りのパイプ材8Bは、その直径D1が全形のパイプ材8Aの直径の2倍相当であるものが用いられることになる。この結果、半割りのパイプ材8Bの円弧面を枕使用者Mの頚部M2の屈曲状態に沿った穏やかな曲面とすることができる。
【0048】
すなわち、変形抑制部材80として半割りのパイプ材8Bを用いる場合は、その高さH1を一定としながらも、一定の範囲内で直径D1を調節することが可能であることから、発泡樹脂材料MTの変形限界における首支持部9Aの高さを一定としながら、変形後における首支持部9Aの断面形状を調節することができるという利点があるのである。
【0049】
(実施の形態3)
変形抑制部材80は、枕型外形が、外観上の首支持部9Aおよび頭支持部9Bの区別を有しない一般的な中膨れ型の枕に適用することもできる(図5,図6)。この場合、変形抑制部材80は、枕90の一方側に片寄せて装填するものとし、枕90の外形にかかわらず、変形抑制部材80を装填した側が使用上の首支持部9Aとなる。なお、枕使用者Mは、枕90を持った際の重量の偏りによっていずれが首支持部9Aであるかを容易に判断することができる。
【0050】
上記枕90における発泡樹脂材料MTの沈込み変形は、変形抑制部材80を装填した首支持部9A側においてより強く抑制され、就寝中における枕使用者Mの頚椎の屈曲状態を理想的な屈曲状態に維持することができる(図6)。
【0051】
(実施の形態4)
変形抑制部材80として半割りのパイプ材8Bを用いる場合においても、全形のパイプ材8Aを用いる場合においても、その側面に多数の透孔H…を設けることによって、変形抑制部材80の剛性感ないし発泡樹脂材料MTの底突き感を緩和することが可能である(図7,図8)。この考え方は、透孔H…の部分において部分的に発泡樹脂材料MTの変形を抑制しないようにするというものであり、したがって、剛性感の緩和効果は、透孔H…を多くするほど顕著に現れる。変形抑制部材80は、透孔H…を設けた側が上方を向くように枕本体9に装填される。
【0052】
透孔H…による剛性感の緩和効果は、具体的には、首支持部9Aに枕使用者Mの頚部M2による重みが加わり、発泡樹脂材料MTが圧縮されるように変形する場合、圧縮された発泡樹脂材料MTが透孔H…を介して変形抑制部材80の内部側に膨出するように逃げることによって実現される(図8)。
【0053】
(実施の形態5)
全形のパイプ材8Aを用いる場合の剛性感を緩和する他の方法として、変形抑制部材80の側面にスリットSを設けることができる(図9,図10)。この際、スリットSは、変形抑制部材80の全長に及んでいる必要がある。また、透孔H…は、設けても設けなくともよい。つまり、スリットSは、透孔H…とは別の独立した手段である。なお、スリットSの幅は、広く設定する必要はなく僅かの幅で足りる。この変形抑制部材80は、スリットSを側方に向けて枕本体9に装填される。
【0054】
スリットSが側方に向けて枕本体9に装填されていることにより、上方から枕90に加わる外力に対して、全形のパイプ材8Aは、スリットSの幅を限度としてバネ板として機能する。具体的には、外力が加わったときにスリットSが閉じる向きに全体が弾性変形し、外力から開放された際にスリットSが開いて原形に復帰するような変形動作をするのである。僅かの変形範囲であり、全形のパイプ材8Aの断面形状は、殆ど変化しないといえるが、体感的な剛性感は顕著に緩和される。
【0055】
(実施の形態6)
変形抑制部材80には、蛇腹構造のパイプ材8Cを用いることができる(図11,図12)。蛇腹構造のパイプ材8Cは、樹脂製であって、側面が半円形のコルゲーション環R…の連続によって形成されている。また、隣接するコルゲーション環R,Rの間には、通気孔H3…が配設されている。このようなパイプ材8Cは、多数のコルゲーション環R…の変形の累積による側面の伸縮運動によって簡単に屈曲することができる。しかし、このような屈曲メカニズムによる蛇腹構造のパイプ材8Cにおいては、屈曲に伴う断面形状の変化がないことが特徴である。
【0056】
したがって、枕90の首支持部9Aに装填された変形抑制部材80、つまり蛇腹構造のパイプ材8Cは、枕使用者Mの頚部M2を適度に屈曲しながら受け止めて、変形抑制部材80の剛性感を効果的に緩和しながらも(図12)、その部分における枕90の断面形状変化を一定範囲に抑制する効果を失わないのである。また、頚部M2の重みによって圧縮された発泡樹脂材料MTは、蛇腹構造の谷部、つまり、多数のコルゲーション環R…の間に押し込まれるように逃げることができるので、クッション性の底突き感も緩和される。なお、圧縮変形によって発泡樹脂材料MTの内部から追い出された空気は、通気孔H3…を介してパイプ材8Cの内部に入り、パイプ材8Cの両端の開口部から排出される経路で換気される。
【0057】
なお、蛇腹構造のパイプ材8Cには、上記した、いわゆるコルゲート管の外、金属製のフレキシブル管、金属線コイルの樹脂被覆管等、同等の構成と機能を有する管材を含むものとする。
【符号の説明】
【0058】
M 枕使用者M
MT 発泡樹脂材料
S スリット
H 透孔
90 枕
9 枕本体
9A 首支持部9A
9B 頭支持部9B
80 変形抑制部材
8A 全形のパイプ材
8B 半割りのパイプ材
8C 蛇腹構造のパイプ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性回復性の発泡樹脂材料を所定の枕型外形をなすように一体成形または接合成形してなる枕において、
前記発泡樹脂材料の枕使用者の首に対応する部分に、枕使用者の頚椎に直交する向きに剛性材料からなる全形のパイプ状または半割りのパイプ状の変形抑制部材を装填してなり、
前記変形抑制部材は、平坦な床面に正しい起立姿勢に相当する寝姿勢で横たわった枕使用者の頚部位置における枕の断面形状の変化を前記変形抑制部材の断面形状に限界付けるとともに、枕の沈込み変形を前記変形抑制部材の高さに限界付けることを特徴とする枕。
【請求項2】
前記変形抑制部材は、側面に任意形状の多数の透孔を備え、該透孔は、枕使用者の頚部の重みによって圧縮された発泡樹脂材料を受け入れることによって、前記変形抑制部材の剛性感を緩和することを特徴とする請求項1に記載の枕。
【請求項3】
前記変形抑制部材は、側面に軸方向に沿って全長に及ぶスリットを形成してなるパイプ状であって、該スリットは、枕に加わる外力に応じて開閉することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の枕。
【請求項4】
前記変形抑制部材は、側面が蛇腹構造に形成され、断面形状を変化させることなく屈曲可能であるとともに、前記蛇腹構造の谷部に枕使用者の頚部の重みによって圧縮された発泡樹脂材料を受け入れることによって、前記変形抑制部材の剛性感を緩和することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の枕。
【請求項5】
前記枕型外形が、相対的に厚く形成する首支持部と、該首支持部から厚みを漸減させながら枕使用者の頭上方向に延設される頭支持部とからなる枕型外形であって、前記変形抑制部材が、首支持部に装填されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の枕。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−67260(P2011−67260A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218992(P2009−218992)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(597069741)株式会社ブイオーシーダイレクト (16)
【Fターム(参考)】