説明

【課題】通気性、放熱性、頭部や頸部の安定保持性、弾力性、耐へたり性および所要の枕実効高さ保持性などの機能を併せ持った枕を提供する。
【解決手段】可塑性を有する軽量な素材により500〜700mmの長さLと人体の頭部等を載置できる幅Wと頭部等の荷重に応じて湾曲状に撓むことができる厚みHとを有する直方体に形成された枕芯体4と、枕芯体4の厚みの1/5〜3/5の厚みを有して枕芯体4の少なくとも上面全体を覆うように配設された軟質海綿状シート材7と、熱可塑性弾性樹脂からなる立体構造の網状体が枕芯体4とほぼ同じ直方体に形成されてなり、軟質海綿状シート材7を介在して枕芯体4の上面に積層された立体構造クッション体8と、枕芯体4、軟質海綿状シート材7および立体構造クッション体8を積層した状態で内部に収納した外装布3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、蒸れ難い通気性、放熱性、弾力性および頭部および頸部の安定保持性に優れた枕に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から用いられている枕は、種々の素材からなる詰め物を外装布袋の内部に充填してなるものが一般的である。蕎麦殻やパンヤなどの植物性素材を詰め物に用いた枕は、頭部の熱や発汗を効果的に吸収して放熱する良好な通気性を有する反面、クッション性に劣るうえに使用中に頭部の重みで詰め物が外装布袋の隅に片寄って中央部が凹む状態に変形してしまうために、寝返りを自然な状態でうちながらの快適な安眠を促進することができない。また、真綿や羽毛などの植物性素材または粒状や玉状の無機素材を詰め物に用いた枕は、頭部に馴染み易い安定した枕形状を維持できる利点を有するが、通気性や弾力性に劣る欠点がある。さらに、ウレタンフォームやプラスチックなどの化学製品からなる素材を詰め物に用いた枕は、極めて良好な弾力性を有しているが、透湿透水性に劣って蓄熱性があるために蒸れ易く、頭部からの熱や汗が内部に籠もり易く、しかも、頭部の荷重を受けたときに大きく変形して底つきし易いことから良好な頸部保持性を常に保持できない難点がある。すなわち、外装布袋の内部に詰め物を充填しただけの構造の枕は、何れも詰め物の種類に応じて一長一短があり、快適な安眠を促進できるものが得られない。
【0003】
そこで、従来では種々の構造の枕が提案されており、その一つとして、熱可塑性樹脂からなる線径が5mm以下の連続した線条を曲がりくねらせることで形成したランダムループの互いに接触する各部分をそれぞれ融着することにより得られた立体構造網状体を、両面がフラット化された直方体に整形することで中芯を形成し、この中芯を、天然繊維または合成繊維のウェツブ層の両面を編織物で被ってキルティング縫製した袋状の側地で包み込んでなる枕が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この袋は、載置された頭部による荷重を受ける中芯が、立体網状体であることから頭部に沿った形状に沈み込む状態に大きく弾性変形して、頭部および頸部を柔らかなタッチで把持するように支持でき、また、頭部による変形応力が解除されると中芯が自体の弾性力で元の状態に回復することができ、さらに、立体構造網状体である中芯が空隙率の高い構造であるのに伴って通気性が著しく良好であることから蒸れ難い特長がある。
【0004】
また、従来に提案された他の枕として、或る程度の弾力性を有する半硬質の材料により直方体の板状に形成された芯材の外周面全体を軟質ウレタンフォームなどからなる軟質クッション材で包み込んだ状態で外装袋体の内部に収容し、外装袋体における頭部が載置される上面に、3〜5mm程度の粒径を有する細石を小袋体に充填してなる複数の放熱部を縫合したものが知られている(例えば、特許文献2参照)。この枕は、複数の放熱部の細石が使用者の頭部の熱を吸収することにより適度の清涼感が得られ、また、半硬質の芯材により大きな変形を防止して所要の枕実効高さを維持できるように図ったものである。さらに、この枕では、長手方向の一辺の中央部が内方に向けて凹んだ凹曲線部が形成されているともに、この凹曲線部の内部において仕切布の縫着によって設けられた空間に遠赤綿を収容して封止した構成が設けられている。これにより、この枕では、肩口に出来やすい寝具の隙間を凹曲線部が人体の頸部から両肩部にかけて接触して塞ぐことにより肩冷えを防止できるとともに、遠赤綿から放射される電磁波により良好な保温効果も得るように図っている。
【0005】
さらに、従来では、使用者毎に形状が異なる頭部と頸椎を、それぞれ使用者に対応する正しい枕高さで支持できるように調整可能な枕も提案されている(例えば、特許文献3参
照)。この枕は、枕本体袋に詰め物が充填されて上面が人体の頭部から頸部への曲面に合致する形状に形成された枕本体を備え、この枕本体における頭部および頸部がそれぞれ載置される箇所に各々対向する下面部分に、頭部高さ調整用袋および頸部高さ調整用袋が一体的に形成され、この頭部高さ調整用袋および頸部高さ調整用袋にそれぞれ収容する高さ調整用パッドの数によって枕本体の頭部および頸椎を支持する高さを個別に調整できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−28534号公報
【特許文献2】特開平9−23960号公報
【特許文献3】特表2005−520585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に係る各発明の枕には何れも改善すべき問題が残存している。すなわち、特許文献1に係る発明の枕は、上述したように、枕にとって必要な種々の機能を備えている特徴を有する反面、立体構造網状体からなる中芯を、繊維のウェツブ層の両面を編織物で被ってキルティング縫製した袋状の側地で包み込んだだけの構成であって、硬質または半硬質の支持用の部材が何ら存在しないことから、載置される頭部および頸部による変形応力の殆ど全部が中芯に付与されることになる。中芯は、自体が有する網状構造体の全体が変形して変形応力を低い反発力で受け止めるので、極端な局部的沈み込みが生じないが、頭部および頸部に対し把持力が柔らか過ぎて安定な支持とはなり難く、また、頭部および頸部の載置箇所やその重みが変わる毎に枕高さが変化し易く、枕高さを常に一定に維持することが難しい。
【0008】
また、特許文献2に係る発明の枕は、上述したように、芯材により大きな変形を防止して所要の枕実効高さを維持できる利点があるが、半硬質の芯材と軟質ウレタンフォームなどからなる軟質クッション材との各々の弾力性のみで頭部や頸部を支持するだけであるから、弾力性が不足して頭部や頸部に馴染む好適な形状に弾性変形することができず、頭部や頸部の安定保持性が不十分であり、さらに、弾力性の不足により底つきし易くなって顎がせり上がって頸椎保持性が低下する問題もある。また、この枕は、放熱部の細石により良好な放熱性が得られるが、その放熱部の下方に配置された軟質ウレタンフォームなどの軟質クッション材が蓄熱性を有しているのに起因して蒸れ易い欠点がある。さらに、この枕に形成されている凹曲線部は、仰臥姿勢の使用者の頭部から両肩部にかけて接触することで肩冷えを防止することを想定して設けられたものであるから、横臥したときには、寝具が開いた隙間が肩口に出来易く、しかも、凹曲線部の存在によって睡眠中の自然な寝返りが妨げられることもある。一方、遠赤綿から放射される電磁波による保温効果は、寝返りなどによる位置のずれによって頭部に作用するような不具合な状態が生じるおそれもある。
【0009】
さらに、特許文献3に係る発明の枕は、頭部高さ調整用袋および頸部高さ調整用袋にそれぞれ収容する高さ調整用パッドの数によって枕本体の頭部および頸椎を支持する高さを個別に調整できるが、その調整作業は、頭部高さ調整用袋および頸部高さ調整用袋の各々の入口開閉用のスライドファスナーまたはベルクロスファスナーを開操作して入口を開き、その入口から所要枚数の高さ調整用パッドを挿入または取り出したのちに、ファスナーを閉操作して入口を閉じる手順で行う必要があり、作業が煩雑である。
【0010】
このように、特許文献1〜3に係る各発明の枕は、何れも一長一短があって、蒸れ難い通気性、放熱性、頭部や頸部の安定保持性、弾力性、耐へたり性および所要の枕実効高さ
保持性などの枕として必須の機能の全てを併せ持った物が存在しなく、また、枕高さの調整が容易で、且つ見栄えの良い高さ調整手段や、寝返りをうった際にも安定に肩冷えを防止できる肩冷え防止機能を有した物も存在しない。さらに、従来において提案されている枕には、迎臥する人体の後頭部および頸部をそれぞれ支持できる形状に予め形成された支持部が上面中央部に配設されているとともに、この両側位置に横臥する人体の横頭部の支持部が形成されたものが多いが、このような枕は、迎臥で睡眠中に自然な動作でスムーズに寝返りをうって横臥することができ難く、しかも、迎臥と横臥とで枕高さが異なり易いので、快適な安眠を促進することができない。
【0011】
本発明は、蒸れ難い通気性、放熱性、頭部や頸部の安定保持性、弾力性、耐へたり性および所要の枕実効高さ保持性などの機能を併せ持った枕、さらには前記機能に加えて、容易な操作で枕高さを調節でき、且つ見栄えの良い外観を備えた枕高さ調節手段および寝返りをうった際にも安定に肩冷えを防止できる肩冷え防止機能を備えた枕を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明の枕は、可塑性を有する軽量な素材により500〜700mmの長さと人体の頭部および頸部を載置できる幅と頭部および頸部の載置による荷重に応じて湾曲状に撓むことができる厚みとを有する直方体に形成された枕芯体と、前記枕芯体の厚みの1/5〜3/5の厚みを有して当該枕芯体の少なくとも上面全体を覆うように配設された軟質海綿状シート材と、熱可塑性弾性樹脂からなる連続した線条を曲がりくねらせることで形作られたランダムループの各接触部の大部分を互いに接続してなる立体構造の網状体が、前記枕芯体とほぼ同じ長さと幅を有し、且つ前記枕芯体の厚みよりも僅かに小さい厚みを有する直方体に形成されてなり、前記軟質海綿状シート材を介在して前記枕芯体の上面に積層された立体構造クッション体と、前記枕芯体、前記軟質海綿状シート材および前記立体構造クッション体を積層した状態で内部に収納した外装布とを備えてなることを特徴としている。
【0013】
請求項2に係る発明の枕は、請求項1に係る発明において、前記軟質海綿状シート材が、前記枕芯体の厚みの1/10〜3/10の厚みを有するウレタンフォームからなり、前記枕芯体の外周面に対し上面を2重重ねに、且つ下面を一重重ねにそれぞれ被覆する状態に巻き付けられている。
【0014】
請求項3に係る発明の枕は、可塑性を有する軽量な素材により500〜700mmの長さと人体の頭部および頸部を載置できる幅と頭部および頸部の載置による荷重に応じた湾曲状に撓むことができる厚みとを有する直方体に形成された枕芯体と、前記枕芯体の厚みの1/5〜3/5の厚みを有して当該枕芯体の少なくとも上面全体を覆うように設けられた軟質海綿状シート材と、熱可塑性弾性樹脂からなる連続した線条を曲がりくねらせることで形作られたランダムループの各接触部の大部分を互いに接続してなる立体構造の網状体が、前記枕芯体とほぼ同じ長さと幅を有し、且つ前記枕芯体の厚みよりも僅かに小さい厚みを有する直方体に形成されてなり、前記軟質海綿状シート材を介在して前記枕芯体の上面に積層された立体構造クッション体と、前記枕芯体とほぼ同じ長さと前記枕芯体、前記軟質海綿シート材および前記立体構造クッション体の積層高さとほぼ同じ直径とを有する筒状の収納袋の内部に天然綿のような自在に変形する保温材を充満して形成されてなる2つの保温部材と、積層状態の前記枕芯体、前記軟質海綿状シート材および前記立体構造クッション体をこれらの両側面に前記2つの保温部材をそれぞれ当て付けた状態で内部に収納した外装布とを備えてなることを特徴としている。
【0015】
請求項4に係る発明の枕は、請求項3に係る発明において、積層状態の前記枕芯体、前記軟質海綿状シート材および前記立体構造クッション体をこれらの両側面に前記2つの保
温部材がそれぞれ当て付けられた状態で外装布の内部に収納して枕本体部が形成されているとともに、当該枕本体部の下面に高さ調節部が設けられ、前記高さ調節部が、前記枕芯体とほぼ同等の長さと幅とを有する偏平な板状の複数枚の高さ調節シート材と、伸縮性に優れた生地の長方形の幅方向の両側辺が前記外装布の下面に縫着されて前記外装布の下面との間で前記高さ調節シート材を保持する調節材収容袋とを備えてなり、前記調節材収容袋の長さ方向の両端部が複数枚重ねに折り返えされて、その折り返し部が互いに縫着されることにより幅方向に向け帯状に延びる蓋状片が形成され、この蓋状片の長さ方向の両端辺が前記外装布の下面に縫着されている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る枕によれば、外装布を介して頭部が直接的に載置される部分に配置された立体構造クッション体は、載置される頭部および頸部の荷重による変形応力を立体構造網状体のフラット化された上面に受け止めて変形応力を分散化させるとともに、構造体全体が変形したエネルギー変換により変形応力を吸収させることにより弾性による低い反発力で変形応力を受け止めるので、頭部による荷重に対し大きい沈み込みを付与できるにもかかわらず、極端な局部的沈み込みが防止されて、頭部および頸部を柔らかなタッチの把持力で支えられるように弾性変形する。また、立体構造クッション体は、頭部の荷重による変形応力が解除されると熱可塑性弾性樹脂の弾性で容易に元の形態に回復するので、常に同じ形状を長期間にわたり維持し、高い耐へたれ性を有している。しかも、立体構造クッション体は、立体構造の網状体であることから通気性に優れているのに加えて、立体構造クッション体が圧縮形状に変形される際に内部に溜まった蒸気や熱を含む空気を排出し、且つ圧縮形状から回復される際に内部に新鮮な外気と入れ換えるポンプ機能を有して放熱性にも優れているため、蒸れ難くい快適な寝心地が得られる。
【0017】
また、立体構造クッション体の下部と枕芯体の上面との間に介在された軟質海綿状シート体は、頭部が載置されたときに、立体構造クッション体の変形に対応して弾性変形するから、弾力性の底うち感が無くなって一層良好なクッション性を確保することができる。また、軟質海綿状シート体は、立体構造クッション体が弾性変形したときにその変形状態に保持するように作用するので、頭部および頸部の安定保持性が一層向上する。
【0018】
さらに、枕芯体は、大きな変形が生じるのを阻止して、常に所定の枕高さを長期間にわたり安定に維持するように機能する。また、この枕は、500〜700mmの長さを有する直方体であって、その長さ方向において一様な構成になっているから、睡眠中に何ら拘束を受けることなくスムーズに寝返りをうつことができるとともに、その寝返りをうった何れの箇所においても頭部および頸部が安定に保持される。特に、枕芯体は、左右に自由に寝返りをうてる比較的長い長さを有しているとともに、容易に凹まない硬質素材である可塑性の素材で形成されているが、500〜700mmと比較的長いことから、頭部の荷重により敷布団が沈み込むのに対応して湾曲形状に撓むことができ、これよっても頭部が一層自然な状態で保持される。
【0019】
請求項2に係る枕によれば、枕芯体の厚みの1/10〜3/10の厚みを有するウレタンフォームからなる軟質海綿状シート材が、枕芯体の外周面に対し上面が2重重ねになる被覆状態に巻き付けられているので、頭部を載置したときのクッション性が一層向上して、頭部を安定に保持することができる。
【0020】
請求項3に係る枕によれば、請求項1に係る発明と同様の効果が得られるのに加えて、収納袋の内部に天然綿のような自在に変形する保温材を充満してなる2つの保温部材が、全体として直方体状に積層された枕芯体、軟質海綿シート材および立体構造クッション体の全体の両側面に当て付けられているので、直方体形状に沿って左右何れの方向へも自在に寝返りをうてるとともに、何れの方向へ寝返りをうった場合にも保温部材の保温材が肩
および頸部に確実に接触することになるので、肩冷えを効果的に防止できるとともに頸部を保温することができる。また、保温部材が幅方向の両側に配設されているので、使用する場合に方向性がなくなり、何れか一方の保温部材を頸部および肩に確実に接触させることができる。
【0021】
請求項4に係る枕によれば、高さ調節部による枕高さの調節は、伸縮性に優れた生地からなる調節材収容袋に形成された蓋状片を把持して引き出した状態で調節材収容袋と外装布との間に所要枚数の高さ調節シート材を挿入または引き出し、その後に蓋状片の把持を解除すれば、蓋状片は、帯状の長さ方向の両端辺が外装布の下面に縫着されているのに伴って長さ方向両側に向け付与されている引っ張り力により、調節材収容袋と外装布との間の入口を塞ぐ状態に保持される。このため、この枕では、従来の枕のようにファスナーの開閉操作を伴う枕高さ調節を行う場合と比較して、枕高さの調節を容易に行うことができ、しかも、調節材収容袋の一部を利用して形成した蓋状片により高さ調節部の入口を塞ぐことができるので、外観上、見栄えの良いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る枕を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】仰臥時における図1のB−B線に沿った断面図である。
【図5】横臥時における図1のB−B線に沿った断面図である。
【図6】(a)〜(c)は枕高さを種々に変更した状態における図1のA−A線に沿った一部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら詳述する。図1は本発明の第1実施形態に係る枕を示す斜視図であり、この枕は、全体として略直方体の外観を呈する枕本体部1の下面に高さ調節部2が設けられた構成になっている。略直方体の枕本体部1は、長さLが約600mm、幅Wが約270mm、高さHが約60mm程度の寸法に設定されている。枕本体部1の長さLは、中央部に後頭部を乗せた仰臥姿勢の睡眠者がその状態から左右にそれぞれ自然に寝返りをうって容易に横臥姿勢をとることができる長さ寸法に設定されている。
【0024】
図2および図3は図1のA−A線断面図およびB−B線断面図をそれぞれ示す。枕本体部1は、綿100%の布地を縫製してなる外装布3で覆われている。すなわち、枕本体部1の全ての構成要素が外装布3の内部に収容されている。枕本体部1の下方に内装された枕芯体4は、加圧を受けても容易に凹まない可塑性を有する軽量な素材、例えば発砲樹脂により形成されており、この実施形態において、長さが600mm、幅が180mm、厚みが25mmの平板状を直方体に形成されている。この枕芯体4は、上述のように凹まないが、長さが600mmで幅が180mmの比較的細長い長方形の平面形状を有し、且つ厚みが25mmと比較的薄いことから、上方から頭部の荷重を受けたときに、その荷重に応じた湾曲形状に撓むことができる。
【0025】
前記枕芯体4の外周面全体には、例えばウレタンフォーム等からなる軟質海綿状シート体7が約1回り半周巻き付けられている。この実施形態において、軟質海綿状シート体7は、長さ方向が630mm、幅方向が670mm、厚みが5mmの形状に設定されている。この軟質海綿状シート体7は、枕芯体4の上面および両側面に2重重ねで、且つ枕芯体4の下面に一重でそれぞれ被覆する状態に巻き付けられる。すなわち、軟質海綿状シート体7は、枕芯体4の厚みに対し1/5の厚みのものを用いて、少なくとも枕芯体4の上面を二重重ねで覆う配置で設けられる。
【0026】
枕芯体4の上面には、二重重ねの軟質海綿状シート体7を介在して立体構造クッション体8が対置されている。この立体構造クッション体8は、熱可塑性弾性樹脂からなる連続した線条を曲がりくねらせることで形作られたランダムループの各接触部の大部分が互いに接続されることにより、天然へちまの繊維を模した立体構造の網状体に形成され、外周面に被覆された軟質海綿状シート体7を含む枕芯体4の外形とほぼ同じ寸法の外形を有する直方体に形成されて、少なくとも上面および下面がフラット化されている。この立体構造クッション体8は、外部から変形応力が与えられたときに、全体が変形してエネルギ変換により変形応力を受け止めることにより、極端な局部的沈み込みが生じなく、また、変形応力が解除されると自体の弾性により容易に元の形態に回復する機能を有している。また、立体構造クッション体8は、立体構造の網状体に形成されていることから通気性が著しく良好である。
【0027】
軟質海綿状シート体7で被覆された枕芯体4および立体構造クッション体8の両側位置には、2つの保温部材9,9が軟質海綿状シート体7および立体構造クッション体8にそれぞれ当て付ける配置で設けられている。保温部材9は、直径が約60mmで長さが約600mmの円筒状の綿100%の収納袋10の内部に、天然綿、パンヤまたは真綿などの保温材11を充満状態に挿入して形成されたものである。この保温部材9は、外装布3と軟質海綿状シート体7および立体構造クッション体8との間に挟み込まれることにより、軟質海綿状シート体7および立体構造クッション体8に当て付けられる形状に変形する。なお、外装布3の長さ方向(図2の左右方向)の両端部には、二枚重ねに突出させた状態で縫い付けることにより把持片1aが形成されており、この把持片1aは枕の持ち運び時に利用される。
【0028】
高さ調節部2は、伸縮性に優れた生地、例えばニット生地の幅方向の両側部が外装布3の下面に縫い付けられて外装布3との間に高さ調節シート材13を収容する調節材収容袋12と、この調節材収容袋12内に任意に選定された枚数だけ収容される高さ調節シート材13とにより構成されている。高さ調節シート材13としては、例えば5mmの厚みを有するポリエチレンシート等を好適に用いることができる。調節材収容袋12は、図2において、図示便宜上、長さ方向(図2の左右方向)の両端部を二つ折りした場合を例示しているが、実際には、図6(a)に示すように、両端部が2回折り返されており、その第2折り返し部12aにおける3枚重ねの生地および第1折り返し部12cにおける2枚重ねの生地がそれぞれ互いに縫い付けられている。その縫着部は×印で図示してある。これにより、第1折り返し部12aの内方側には、生地を2枚重ねして帯状とされた蓋状片12bが形成されている。この蓋状片12bは、帯状の長さ方向(図3の左右方向)の両端辺が、図6(a)に縫着部を×印で図示するように、外装布3に縫い付けられている。このように、高さ調節部2は、伸縮性に優れた生地からなる調節材収容袋12の一部を利用して一体形成された蓋状片12bを把持して引き出した状態で調節材収容袋12と外装布3との間に所要枚数の高さ調節シート材13を挿入または引き出し、その後に蓋状片12bの把持を解除すれば、蓋状片12bは、帯状の長さ方向の両端辺が外装布3の下面に縫着されているのに伴って長さ方向両側に向け付与されている引っ張り力により、調節材収容袋12と外装布3との間の入口を塞ぐ状態に保持される。このため、この枕では、従来の枕のようにファスナーの開閉操作を伴う枕高さ調節を行う場合と比較して、枕高さの調節を容易に行うことができ、しかも、調節材収容袋12の一部を利用して形成した蓋状片12bにより高さ調節部2の入口を内部の高さ調節シート材13を隠蔽する状態に塞ぐことができるので、外観上、見栄えの良いものとなる。
【0029】
つぎに、前記実施形態の枕が有する機能について説明する。この枕は、外装布3を介して頭部が直接的に載置される部分に立体構造クッション体8が配置されており、この立体構造クッション体8は、上述のように、天然へちまの繊維を模した立体構造の網状体にな
っているため、載置される頭部の荷重による変形応力を、網状体のフラット化された上面に受け止めて変形応力を分散化させるとともに、構造体全体が変形したエネルギー変換により変形応力を吸収させることにより弾性による低い反発力で変形応力を受け止めるので、図4および図5に示すように、頭部による荷重に対し大きい沈み込みを付与できるにもかかわらず、極端な局部的沈み込みが防止されて、頭部および頸部を柔らかなタッチの把持力で支えるように弾性変形する。
【0030】
また、立体構造クッション体8は、頭部の荷重による変形応力が解除されると熱可塑性弾性樹脂が有する弾性で容易に元の形態に回復するので、常に同じ形状を長期間にわたり維持することができ、高い耐へたり性を有している。しかも、立体構造クッション体8は、空隙率が高く、通気孔径が著しく大きいのに伴って通気性が極めて良好であり、さらに、圧縮形状に変形される際に内部に溜まった蒸気や熱を含む空気を排出し、且つ圧縮形状から回復される際に内部を新鮮な外気と入れ換えるようなポンプ機能を有しているため、通気性に加えて放熱性にも優れ、蒸れ難くい快適な寝心地が得られる。
【0031】
また、立体構造クッション体8の下部と枕芯体4の上面との間には、二枚重ねの軟質海綿状シート体7が介在されており、この軟質海綿状シート体7は、頭部が載置されたときに、立体構造クッション体8の変形に対応して弾性変形するから、弾力性の底うち感が無くなって一層良好なクッション性を確保することができる。また、軟質海綿状シート体7は、立体構造クッション体8が弾性変形したときにその変形状態に保持するように作用するので、頭部および頸部の安定保持性が一層向上する。
【0032】
枕本体部1の下部に配置された枕芯体4は、大きな荷重により枕本体部1に大きな変形が生じるのを阻止されており、常に所定の枕高さを長期間にわたり安定に維持するように機能する。一方、この枕は、中央部に後頭部を乗せた仰臥姿勢の睡眠者がその状態から左右にそれぞれ自然に寝返りをうって横臥姿勢をとることができる比較的長い寸法に設定さされているとともに、頭部が載置される上面が一様なフラット面に形成されているので、睡眠中に何ら拘束を受けることなく自由に寝返りをうつことができる。また、枕芯体4は、左右に自由に寝返りをうてる比較的長い長さを有していることから、容易に凹まない硬質素材でありながらも、人体の荷重により敷布団が沈み込むのに対応して湾曲形状に撓むことができ、頭部が一層自然な状態で保持される。
【0033】
また、図4に明示するように、幅方向の両側において長さ方向に配置された保温部材9は、枕本体部1の立体構造クッション体8の上方に頭部が載置されたときに、首や肩にフイットするように変形しながら首や肩に接触するので、睡眠中に肩口にでき易い隙間から空気が流入することによる肩冷えを防止できるとともに、保温部材9の保温材11により頸部を保温することができる。しかも、この枕は、図5に示すように、横臥姿勢に寝返りをうったときにも、枕本体部1の全体が直方体状であることから、やはり、保温部材9は首や肩にフイットするように変形しながら首や肩に接触する。
【0034】
さらに、この枕では、非常に薄い高さ調節シート材13の枚数の選定により枕使用者にとって好適な枕高さに調節できるようになっているが、この高さ調節部2は、ジッパーまたはスライドファスナーやベルクロスファスナーなどを設けた従来の高さ調節構造とは異なり、伸縮性に優れたニット生地などからなる調節材収容袋12を伸縮させるだけで所要枚数の高さ調節シート材13を調節材収容袋12内に収容することができるとともに、調節材収容袋12の長さ方向の両側の一部を利用して形成した帯状の蓋状片12bにより、内部の高さ調節シート材13を隠蔽し、且つ調節材収容袋12から各高さ調節シート材13が脱落しない状態に調節材収容袋12の開口を塞ぐことができ、見栄えの良いものとなる。
【0035】
図6(a)に示すように、高さ調節シート材13を1枚も収容しない場合には、伸縮性に優れた調節材収容袋部12が外装布3の下面に重なる状態となるだけであり、何ら不具合が生じない。図6(b)は3枚の高さ調節シート材13を収容した状態を示し、図6(c)は5枚の高さ調節シート材13を収容した状態を示している。高さ調節部2は、高さ調節シート材13の収容枚数にかかわらず、伸縮性を有する蓋状片12bが、調節材収容袋部12と外装布3とからなる高さ調節部2の入口を塞ぐ形状に変形して、内部に収容している高さ調節シート材13を脱落しないように保持する。
【0036】
なお、本発明は、以上の実施形態で示した内容に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の枕は、一般家庭において使用できる他に、整骨院や整体院などにおける矯正術を施す場合の専用枕としても好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 枕本体部
2 高さ調節部
3 外装布
4 枕芯体
7 軟質海綿状シート体
8 立体構造クッション体
9 保温部材
10 収納袋
11 保温材
12 調節材収容袋
12a 折り返し部
12b 蓋状片
13 高さ調節シート材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑性を有する軽量な素材により500〜700mmの長さと人体の頭部および頸部を載置できる幅と頭部および頸部の載置による荷重に応じて湾曲状に撓むことができる厚みとを有する直方体に形成された枕芯体と、
前記枕芯体の厚みの1/5〜3/5の厚みを有して当該枕芯体の少なくとも上面全体を覆うように配設された軟質海綿状シート材と、
熱可塑性弾性樹脂からなる連続した線条を曲がりくねらせることで形作られたランダムループの各接触部の大部分を互いに接続してなる立体構造の網状体が、前記枕芯体とほぼ同じ長さと幅を有し、且つ前記枕芯体の厚みよりも僅かに小さい厚みを有する直方体に形成されてなり、前記軟質海綿状シート材を介在して前記枕芯体の上面に積層された立体構造クッション体と、
前記枕芯体、前記軟質海綿状シート材および前記立体構造クッション体を積層した状態で内部に収納した外装布とを備えてなることを特徴とする枕。
【請求項2】
前記軟質海綿状シート材は、前記枕芯体の厚みの1/10〜3/10の厚みを有するウレタンフォームからなり、前記枕芯体の外周面に対し上面を2重重ねに、且つ下面を一重重ねにそれぞれ被覆する状態に巻き付けられている請求項1に記載の枕。
【請求項3】
可塑性を有する軽量な素材により500〜700mmの長さと人体の頭部および頸部を載置できる幅と頭部および頸部の載置による荷重に応じた湾曲状に撓むことができる厚みとを有する直方体に形成された枕芯体と、
前記枕芯体の厚みの1/5〜3/5の厚みを有して当該枕芯体の少なくとも上面全体を覆うように設けられた軟質海綿状シート材と、
熱可塑性弾性樹脂からなる連続した線条を曲がりくねらせることで形作られたランダムループの各接触部の大部分を互いに接続してなる立体構造の網状体が、前記枕芯体とほぼ同じ長さと幅を有し、且つ前記枕芯体の厚みよりも僅かに小さい厚みを有する直方体に形成されてなり、前記軟質海綿状シート材を介在して前記枕芯体の上面に積層された立体構造クッション体と、
前記枕芯体とほぼ同じ長さと前記枕芯体、前記軟質海綿シート材および前記立体構造クッション体の積層高さとほぼ同じ直径とを有する筒状の収納袋の内部に天然綿のような自在に変形する保温材を充満して形成されてなる2つの保温部材と、
積層状態の前記枕芯体、前記軟質海綿状シート材および前記立体構造クッション体をこれらの両側面に前記2つの保温部材をそれぞれ当て付けた状態で内部に収納した外装布とを備えてなることを特徴とする枕。
【請求項4】
積層状態の前記枕芯体、前記軟質海綿状シート材および前記立体構造クッション体をこれらの両側面に前記2つの保温部材がそれぞれ当て付けられた状態で外装布の内部に収納して枕本体部が形成されているとともに、当該枕本体部の下面に高さ調節部が設けられ、
前記高さ調節部は、
前記枕芯体とほぼ同等の長さと幅とを有する偏平な板状の複数枚の高さ調節シート材と、伸縮性に優れた生地の長方形の幅方向の両側辺が前記外装布の下面に縫着されて前記外装布の下面との間で前記高さ調節シート材を保持する調節材収容袋とを備えてなり、
前記調節材収容袋の長さ方向の両端部が複数枚重ねに折り返えされて、その折り返し部が互いに縫着されることにより幅方向に向け帯状に延びる蓋状片が形成され、この蓋状片の長さ方向の両端辺が前記外装布の下面に縫着されている請求項3に記載の枕。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−170616(P2012−170616A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35441(P2011−35441)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(309040343)
【Fターム(参考)】