説明

果実の成長促進方法

【課題】遺伝子組換え技術を用いず、外部からの刺激によってヤトロファからより大量の油を効率よく回収するために、ヤトロファの種子の成長を促進する方法を提供の提供。
【解決手段】ヤトロファ(Jatropha curcas)に、植物ホルモン又はその誘導体である1種類以上の化合物を有効成分とする果実成長促進剤を付着させることを特徴とする、果実の成長促進方法、前記化合物が、ジャスモン酸又はその誘導体であることを特徴とする前記記載の果実の成長促進方法、前記果実成長促進剤が、前記化合物を水溶性媒体に溶解又は分散させてなることを特徴とする前記いずれか記載の果実の成長促進方法、及び、前記果実成長促進剤を、ヤトロファの果実に噴霧又は塗布することを特徴とする前記いずれか記載の果実の成長促進方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤトロファの果実の成長を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止のため、CO排出削減が地球規模での重要な課題となっている。この課題解決の一環として、再生可能な植物系資源から得られるバイオ燃料の技術開発が盛んに行われている。このようなバイオ燃料は、石油等の化石燃料とは異なり、燃焼させても地表の循環炭素量を増やさないと考えられているためである。
現在、バイオ燃料の原料植物としては、トウモロコシやサトウキビ等が主に用いられている。しかしながら、これらの植物は、食料とバッティング(競合)するため、これらの植物をバイオ燃料の原料として用いることにより、穀物価格の高騰を招いてしまっている。そこで、食料と直接バッティングしない植物資源を利用したバイオ燃料の製造方法の開発が求められている。
【0003】
食料とバッティングしないバイオ燃料の原料として、近年、ヤトロファ(Jatropha curcas)という油脂植物が注目されている。ヤトロファは、中南米原産のトウダイグサ科の樹木であり、ジャトロファとも呼ばれ、和名をナンヨウアブラギリという。樹高は3〜8m程度であり、やせた土地でも成長が早く、旱魃や病気にも強い。ヤトロファの種子は、600mg前後の黒褐色であり、非常に油分が多く、ナタネ等と比較して、種子重量比約3倍の油が採れる。ヤトロファは有毒成分を含むため、食用としては利用されず、このため、食料とバッティングしないバイオディーゼル燃料の新原料としての利用が期待されている。
【0004】
油分が採取される種子の収量を増大させることにより、ヤトロファからより大量の油を効率よく回収することが期待できる。ここで、種子の収量を増大させる方法として、遺伝子組換え技術を用いて、種子の成長に関与する遺伝子の発現を制御する方法が挙げられる。該方法として、例えば、DHS(デオキシヒプシンシンターゼ)のアンチセンスポリヌクレオチド又は成長eIF−5A(真核生物翻訳開始因子5A)のセンスポリヌクレオチドのいずれかを取込むベクターを用いて植物内の種子の収量を増大させる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。eIF−5Aは、葉、花及び果実の自然老化におけるプログラミングされた細胞死を調節する因子であり、DHSは、eIF−5Aを活性化する酵素である。つまり、当該方法では、植物体内の成長eIF−5Aの発現を増加させ、又は内因性DHSの発現を減少させることにより、当該植物体の老化を遅延させて成長を促進することにより、種子サイズを増大させ、種子収穫量を増大させることができる。
【特許文献1】特表2008−521445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、遺伝子組換え植物の作製は困難であるという問題がある。また、バイオ燃料の原料とするためには、ヤトロファを広く簡便に栽培することが求められるが、作製された遺伝子組換え植物は、安全性等の点から栽培管理に注意を要するという問題もある。
そこで、本発明は、遺伝子組換え技術を用いず、外部からの刺激によってヤトロファからより大量の油を効率よく回収するために、ヤトロファの種子の成長を促進する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ジャスモン酸等の植物ホルモン又はその誘導体を、ヤトロファに付着させることにより、ヤトロファの果実の成長を促進させることができること、種子は果実中に含まれていることから、果実の成長が促進されることにより、種子の早期収穫が可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1) ヤトロファ(Jatropha curcas)に、植物ホルモン又はその誘導体である1種類以上の化合物を有効成分とする果実成長促進剤を付着させることを特徴とする、果実の成長促進方法、
(2) 前記化合物が、ジャスモン酸又はその誘導体であることを特徴とする前記(1)記載の果実の成長促進方法、
(3) 前記化合物が、下記一般式(I)[式中、Rは炭化水素基であり、Rは水素原子又は炭化水素基である。]で表される化合物であることを特徴とする前記(1)記載の果実の成長促進方法、
【化1】

(4) 前記一般式(I)において、Rが炭素数1〜6のアルキル基であり、Rが炭素数1〜6のアルキル基であることを特徴とする前記(3)記載の果実の成長促進方法、
(5) 前記化合物を、水溶性媒体に溶解又は分散させてなることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載の果実の成長促進方法、
(6) 前記果実成長促進剤を、ヤトロファの果実に噴霧又は塗布することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか記載の果実の成長促進方法、
(7) 前記果実成長促進剤を、ヤトロファに対して、5〜100μg/cmとなるように付着させることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか記載の果実の成長促進方法、
を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の果実の成長促進方法により、単にジャスモン酸等の植物ホルモン又はその誘導体を有効成分とする果実成長促進剤を付着させることによって、簡便にヤトロファの果実の成長を促進させることができる。ヤトロファの果実の成長を促進させることにより、果実(種子)の早期収穫が可能となることから、1のヤトロファの木から、より大量の種子を収穫することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<果実成長促進剤>
本発明の果実成長促進剤は、植物ホルモン又はその誘導体である1種類以上の化合物を有効成分とすることを特徴とする。なお、本発明及び本願明細書において、植物ホルモンとは、低濃度で植物の生理過程を調節し得る物質を意味し、植物体自身が産生する物質であってもよく、人工的に合成されたものであってもよい。
【0010】
本発明の果実成長促進剤の有効成分となる化合物としては、植物体に作用させた場合に、該植物体の成長を促進する作用を有し、特に果実の熟化や種子形成の促進を促進させる作用(果実成長促進作用)を有する植物ホルモン又はその誘導体であることが好ましい。なお、該化合物としては、果実や種子の形成を直接促進させる化合物であってもよく、間接的に促進させる化合物であってもよい。
【0011】
本発明の果実成長促進剤の有効成分となる化合物としては、ジャスモン酸及びジャスモン酸誘導体からなる群より選択される1種であることが好ましい。なお、本発明におけるジャスモン酸誘導体は、ジャスモン酸等の公知化合物から公知の合成反応により合成することができる誘導体であって、果実成長促進作用を有する化合物であれば、特に限定されるものではない。
【0012】
特に、本発明の果実成長促進剤の有効成分となるジャスモン酸又はジャスモン酸誘導体としては、下記一般式(I)で表される化合物であることが好ましい。
【0013】
【化2】

[式中、Rは炭化水素基であり、Rは水素原子又は炭化水素基である。]
【0014】
一般式(I)中、Rは炭化水素基である。Rの炭化水素基としては、特に限定されるものではなく、飽和炭化水素基であってもよく、不飽和炭化水素基であってもよい。また、直鎖状の炭化水素基であってもよく、分岐鎖状の炭化水素基であってもよく、環状の炭化水素基であってもよい。なお、本発明において、炭化水素基とは、炭素原子と水素原子からなる官能基を意味する。
【0015】
飽和炭化水素基としては、例えば、アルキル基やシクロアルキル基等が挙げられる。また、シクロアルキル基は、単環式基であるモノシクロアルキル基であってもよく、多環式基であるポリシクロアルキル基であってもよい。
のアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜6のアルキル基であることがより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基等が挙げられる。
のシクロアルキル基としては、炭素数3〜20のシクロアルキル基であることが好ましく、炭素数3〜8のモノシクロアルキル基、炭素数4〜10のポリシクロアルキル基であることがより好ましい。具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等が挙げられる。
【0016】
不飽和炭化水素基としては、例えば、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等が挙げられる。
のアルケニル基としては、炭素数2〜20のアルケニル基であることが好ましく、炭素数2〜6のアルケニル基であることがより好ましい。具体的には、ビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、イソブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、3−メチル−2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、5−ヘキセニル基等が挙げられる。
のアルキニル基としては、炭素数2〜20のアルキニル基であることが好ましく、炭素数2〜6のアルキニル基であることがより好ましい。具体的には、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等が挙げられる。
のアリール基としては、炭素数6〜10のアリール基であることが好ましい。具体的には、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、トリル基、キシリル基等が挙げられる。
【0017】
本発明において、一般式(I)のRとしては、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基であることが好ましい。シクロアルキル基やアリール基等の環状炭化水素基よりも、比較的水溶性媒体へ溶解しやすく、取り扱い性に優れるためである。中でも、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基であることが好ましく、炭素数4又は5のアルキル基、炭素数4又は5のアルケニル基、炭素数4又は5のアルキニル基であることがより好ましい。
【0018】
の炭化水素基は、1又は2以上の水素原子が、水酸基、スルホニル基、スルホキシ基等により置換されていてもよい。このような置換基を有する炭化水素基として、具体的には、5―ヒドロキシー2―ペンテニル基、4―ヒドロキシー2―ペンテニル基、5―(スルホオキシ)―2―ペンテニル基等が挙げられる。
【0019】
一般式(I)中、Rは水素原子又は炭化水素基である。Rの炭化水素基としては、特に限定されるものではなく、Rにおいて挙げられた炭化水素基と同様のものを用いることができる。
また、Rの炭化水素基は、1又は2以上の水素原子が、水酸基、アルキルオキシ基、スルホニル基、スルホキシ基、ニトロ基、アミノ基等により置換されていてもよい。このような置換基を有する炭化水素基として、ヒドロキシエチル基、ジヒドロキシプロピル基等のヒドロキシアルキル基、メトキシエチル基等のアルキルオキシアルキル基等が挙げられる。
【0020】
本発明において、一般式(I)のRとしては、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐鎖状の炭化水素基であることが好ましい。比較的水溶性媒体へ溶解しやすく、取り扱い性に優れるためである。中でも、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基であることがより好ましい。
【0021】
上記一般式(I)で表される化合物は、少なくとも1つの不斉炭素原子を有するため、光学異性体が存在し得る。また、R又はRが不飽和炭化水素基である場合には、シス-トランス異性体が存在し得る。本発明においては、乳管形成促進作用を有する限り、これらの立体異性体のいずれを有効成分としてもよい。
【0022】
なお、上記一般式(I)で表される化合物としては、ジャスモン酸以外のものであることが好ましい。すなわち、Rが(Z)―2―ペンテニル基であり、かつRが水素原子である化合物以外であることが好ましい。
【0023】
また、上記一般式(I)で表される化合物は、いずれも公知化合物又は公知化合物から公知の合成反応により簡便に合成し得る化合物である。したがって、常法により製造することができる。
例えば、上記式(1)において、Rがアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基であり、かつRがアルキル基である化合物は、2−アルキルシクロペンテン−1−オン、2−アルケニルシクロペンテン−1−オン、又は2−アルキニルシクロペンテン−1−オンとマロン酸のアルキルエステルとをマイケル付加させた後、脱炭酸させることにより容易に得ることができる。また、このようにして製造した化合物に対して、常法に従いアルコール類とエステル交換させてもよい。その他、上記式(1)において、Rが水素原子である化合物は、例えば、上記のように合成したRがアルキル基である化合物を、塩基又は酸で加水分解することにより得ることができる。
【0024】
また、ジャスモン酸又はジャスモン酸誘導体は、塩として本発明の果実成長促進剤に有効成分として含有させてもよい。塩としては、ジャスモン酸誘導体等の果実成長促進作用を阻害しない限り、特に限定されず、無機塩であってもよく、有機塩であってもよい。例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩等の金属塩;アンモニウム塩、グルコサミン塩、エチレンジアミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジエタノールアミン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩等のアミン塩; 塩酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、燐酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、りんご酸塩、フマ-ル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩等の有機酸塩;及び、グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等のアミノ酸塩を挙げることができる。
【0025】
本発明の果実成長促進剤は、1種類の果実成長促進作用を有する化合物を有効成分とするものであってもよく、2種類以上の果実成長促進作用を有する化合物を有効成分とするものであってもよい。
【0026】
本発明の果実成長促進剤の有効成分としては、特に、上記一般式(1)において、RとRが共に炭素数1〜6のアルキル基である化合物であることが好ましい。中でも、Rがn−ペンチル基であり、Rがn−プロピル基であるプロヒドロジャスモンであることがより好ましい。果実成長促進作用が高く、かつ水に対する溶解性が高いためである。加えて、ジャスモン酸等よりも、比較的安価であり、コストメリットも大きい。例えば、プロヒドロジャスモンを、後述する水溶性媒体に希釈することにより、果実成長促進効果と植物体への付着の作業性に優れた果実成長促進剤を、安価に製造することができる。
【0027】
本発明の果実成長促進剤は、有効成分である1種類又は2種類以上の果実成長促進作用を有する化合物を、適当な媒体に溶解又は分散させて希釈させることにより得ることができる。該媒体は、果実成長促進作用を有する化合物を、その果実成長促進作用を阻害することなく十分に溶解又は分散させ得る媒体であれば、特に限定されるものではなく、公知の溶媒の中から、有効成分である化合物の性質、使用方法等を考慮して、適宜選択して用いることができる。
【0028】
該媒体として、例えば、水;カルナバロウ、密ロウ等のワックス類;ラノリン等のグリース類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;メチレンクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエ-テル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸ジエチル、エチレングリコールアセテート、マレイン酸ジブチル、コハク酸ジエチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類;ニトロエタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物類;アセトニトリル等のニトリル類;及び、ピリジン類等を挙げることができる。
【0029】
本発明の果実成長促進剤の媒体としては、5〜50℃において液状であるものが好ましい。この温度において液状であれば、十分に粘度が低いため、ラノリン等の粘度が高く半固形状の媒体よりも、より簡便に植物体に付着させることができるためである。具体的には、水、ハロゲン化炭化水素類、ケトン類、アルコール類等の水溶性媒体が好ましい。中でも、水やアルコール類等であることがより好ましい。なお、本発明において水溶性媒体とは、水と容易に混和し得る媒体を意味する。
【0030】
また、本発明の果実成長促進剤の媒体としては、1種類を用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、水とアルコールとの混合溶液であってもよく、水とケトン類との混合溶液であってもよい。
【0031】
本発明の果実成長促進剤中の果実成長促進作用を有する化合物の濃度は、植物体へ付着させた場合に、果実成長促進効果を奏するために十分な濃度であればよく、果実成長促進作用を有する化合物の種類、用いる媒体の種類、植物体への付着方法等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、有効成分としてプロヒドロジャスモンを用いた場合には、0.005%(w/v)以上であることが好ましく、0.005〜0.1%(w/v)であることがより好ましい。
【0032】
本発明の果実成長促進剤の剤型は、植物体に付着させることが可能な剤型であれば、特に限定されるものではなく、液剤、水和剤、エマルジョン、懸濁剤、ゾル剤、ペースト剤、シート剤等を挙げることができる。植物への付着が簡便であるため、液剤、水和剤、エマルジョン、懸濁剤、ゾル剤等であることが好ましく、液剤であることがより好ましい。
【0033】
本発明の果実成長促進剤は、本発明の効果を阻害しない限り、果実成長促進作用を有する化合物と媒体のほかに、分散剤、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、保存剤、安定化剤、殺菌剤、殺虫剤、栄養剤等を含有していてもよい。
【0034】
分散剤としては、例えば、公知の界面活性剤の中から適宜選択して用いることができる。界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤のいずれであってもよく、1種類を用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
好ましい分散剤としては、例えば、2種以上のアルキレンオキシドのブロック縮重合体、ポリオキシアルキレンエーテル系化合物、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル系化合物、多価アルコール系脂肪酸エステル化合物、ポリオキシアルキレン多価アルコール系脂肪酸エステル化合物、ポリオキシアルキレンアルキルアミン化合物、アルキルアルカノールアミド化合物等が挙げられる。
【0036】
粘度調整剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose,CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子の中から適宜選択して用いることができる。中でも、カルボキシメチルセルロースを用いることが好ましい。
【0037】
本発明の果実成長促進剤は、本発明の効果を阻害しない限り、果実成長促進作用を有する化合物以外の他の植物ホルモンを含有していてもよい。このような植物ホルモンとして、例えば、オーキシン類、インドール酢酸、ジベレリン、サイトカイニン、アブシジン酸、エチレン、Ethephon、ブラシノステロイド類、フロリゲン、サリチル酸等が挙げられる。
【0038】
<ヤトロファの果実の成長促進方法>
本発明の果実の成長促進方法は、本発明の果実成長促進剤を、ヤトロファに付着させることを特徴とする。本発明の果実成長促進剤を付着させ、ヤトロファの果実の成長を促進させることにより、果実(種子)の早期収穫や、果実(種子)の収量を増量させることが可能となり、結果として、種子から回収される油脂を増産することができる
【0039】
本発明の果実成長促進剤を付着させる部位は、特に限定されるものではなく、ヤトロファの幹、葉、花、芽、枝、果実、根等、いずれであってもよい。付着させた果実成長促進剤中の有効成分であるジャスモン酸等は、付着部位から植物体全体に移行するためである。本発明においては、特に、ヤトロファの葉、花、芽、枝、果実等に付着させることが好ましく、果実に付着させることがより好ましい。成長を促進させる対象である果実に直接、又はその近傍に付着させることにより、本発明の果実成長促進剤による果実成長促進効果が効率よく得られるためである。
【0040】
付着方法は、果実成長促進剤をヤトロファに直接付着させることが出来る方法であれば、特に限定されるものではなく、例えば、有効成分を水溶性媒体に希釈させた果実成長促進剤を、刷毛等を用いて直接果実等に塗布してもよく、スプレー等を用いて噴霧してもよい。また、植物への果実成長促進剤の付着量は、果実成長促進効果が得られる量であれば、特に限定されるものではなく、果実成長促進剤の有効成分の種類や濃度、付着方法、植物の成長段階や樹齢等を考慮して適宜決定することができる。例えば、果実に塗布又は噴霧することにより直接付着させる場合には、有効成分である化合物量として、5〜100μg/cmとなるように付着させることが好ましい。
【0041】
ヤトロファに本発明の果実成長促進剤を付着させる時期は、特に限定されるものではなく、播種前の種子に付着させてもよく、播種時の種子に付着させてもよく、苗、成長期、開花期および成熟期のいずれの時期に付着させてもよい。また、開花前の花芽に付着させてもよく、開花した花に付着させてもよく、形成された果実に付着させてもよい。本発明においては、形成された果実に付着させることがより効果的である。また、1のヤトロファに本発明の果実成長促進剤を付着させる回数は、1回でもよく、複数回でもよい。本発明においては、ヤトロファの2以上の成長段階において付着させることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の果実の成長促進方法を用いることにより、ヤトロファの果実の成長を促進させることができるため、ヤトロファから採取される油脂量を増大させることができ、バイオ燃料、主にバイオディーゼル燃料の製造の分野で特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤトロファ(Jatropha curcas)に、植物ホルモン又はその誘導体である1種類以上の化合物を有効成分とする果実成長促進剤を付着させることを特徴とする、果実の成長促進方法。
【請求項2】
前記化合物が、ジャスモン酸又はその誘導体であることを特徴とする請求項1記載の果実の成長促進方法。
【請求項3】
前記化合物が、下記一般式(I)で表される化合物であることを特徴とする請求項1記載の果実の成長促進方法。
【化1】

[式中、Rは炭化水素基であり、Rは水素原子又は炭化水素基である。]
【請求項4】
前記一般式(I)において、Rが炭素数1〜6のアルキル基であり、Rが炭素数1〜6のアルキル基であることを特徴とする請求項3記載の果実の成長促進方法。
【請求項5】
前記果実成長促進剤が、前記化合物を水溶性媒体に溶解又は分散させてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の果実の成長促進方法。
【請求項6】
前記果実成長促進剤を、ヤトロファの果実に噴霧又は塗布することを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の果実の成長促進方法。
【請求項7】
前記果実成長促進剤を、ヤトロファに対して、5〜100μg/cmとなるように付着させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の果実の成長促進方法。

【公開番号】特開2010−143871(P2010−143871A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323906(P2008−323906)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】