説明

架橋性フッ素ゴム組成物、フッ素ゴム成形品及びその製法

【課題】機械的強度に優れ、低摩擦性のフッ素ゴム架橋成形体を与え得る架橋性フッ素ゴム組成物を提供する。
【解決手段】フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)を含み、フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して得られたものであることを特徴とする架橋性フッ素ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性フッ素ゴム組成物、それを架橋して得られる成形品および成形品の製造方法に関する。これらは各種のシール材や摺動部品、非粘着部品、撥水撥油性表面を有する部品として好適である。
【背景技術】
【0002】
フッ素ゴムは、優れた耐薬品性、耐溶剤性及び耐熱性を示すことから、自動車工業、半導体工業、化学工業等の各種分野において広く使用されており、たとえば、自動車産業においては、エンジンならびに周辺装置、AT装置、燃料系統ならびに周辺装置などに使用されるホース、シール材等として使用されている。
【0003】
しかし、フッ素ゴム、たとえばプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体ゴムなどは低温で脆化することがあるので、その改善のために融点が240〜300℃のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂〔ETFE〕を配合し、溶融混練した後、放射線架橋またはパーオキサイド架橋する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、特許文献2には、フッ素ゴム(ビニリデンフルオライド〔VdF〕系ゴム)とフッ素樹脂〔ETFE〕と含フッ素熱可塑性エラストマーとを配合したフッ素ゴム組成物をプレス架橋(160℃10分間)し、ついでオーブン架橋(180℃4時間)して熱時強度が改善された架橋ゴムを製造する方法が記載されている。
【0005】
これらの特許文献では架橋ゴムの表面性状、特に摩擦特性については触れていない。これは、ゴムは本来そのエラストマー性により摩擦係数が高いからである。
【0006】
シール材などの分野では、ゴムの特性を活かしながら摩擦係数を低下させる方法として、たとえばフッ素樹脂(またはフッ素樹脂繊維層)をゴムの表面に積層する方法(特許文献3、4)、ゴムの表面にフッ素樹脂の塗膜を形成する方法(特許文献5)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭50−32244号公報
【特許文献2】特開平6−25500号公報
【特許文献3】特開平7−227935号公報
【特許文献4】特開2000−313089号公報
【特許文献5】特開2006−292160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ゴム表面に積層又は塗装によりフッ樹脂層を形成した場合、フッ素ゴムとフッ素樹脂の界面での接着性を高めることが重要な課題となり、その解決に悩まされているのが現状である。
【0009】
本発明は、機械的強度に優れ、低摩擦性のフッ素ゴム成形品を与え得る架橋性フッ素ゴム組成物、それを架橋して得られる成形品、さらには成形品を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、従来の積層法や塗装法とは異なって、フッ素ゴムとフッ素樹脂とを共凝析することによって得られた架橋性フッ素ゴム組成物を、架橋させ、さらに特定の条件下に熱処理すると、意外なことに高機械的強度および低摩擦係数を有するフッ素ゴム成形品が得られることを見出し、完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)を含み、フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して得られたものであることを特徴とする架橋性フッ素ゴム組成物に関する。
【0012】
フッ素樹脂(B)は、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、及び、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)の質量割合(A)/(B)が、60/40〜97/3であることが好ましい。
【0014】
本発明は、架橋性フッ素ゴム組成物を架橋して得られるフッ素ゴム成形品でもある。
【0015】
本発明は、
(I)フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して上記架橋性フッ素ゴム組成物を得る工程、
(II)架橋性フッ素ゴム組成物を成形し、架橋して、架橋成形品を得る成形架橋工程、及び、
(III)架橋成形品をフッ素樹脂(B)の融点以上の温度に加熱してフッ素ゴム成形品を得る熱処理工程
を含むフッ素ゴム成形品の製造方法にも関する。
【0016】
本発明は、上記製造方法により得られるフッ素ゴム成形品にも関する。
【0017】
フッ素ゴム成形品は、シール材、摺動部材、非粘着性部材として好適に使用できる。
【0018】
本発明は、表面に撥水撥油性を有するフッ素ゴム成形品にも関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、機械的強度に優れ、低摩擦性で、非粘着性でかつ表面撥水撥油性のフッ素ゴム成形品を提供することができる。本発明のフッ素ゴム成形品は、シール材、摺動部材、非粘着性部材または表面に撥水撥油性を有する成形品として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)を含み、フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)は共凝析して得られたものであることを特徴とする。
【0021】
本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、共凝析させたフッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを含むので、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とが架橋性フッ素ゴム組成物中に均一に分散していると予想される。これによって、架橋性フッ素ゴム組成物を架橋して特定条件下に熱処理すると、高い機械的強度を持つと同時に、低摩擦性のフッ素ゴム成形品が得られるものと考えられる。
【0022】
上記共凝析の方法としては、例えば、(i)フッ素ゴム(A)の水性分散液と、フッ素樹脂(B)の水性分散液とを混合した後に凝析させる方法、(ii)フッ素ゴム(A)の粉末を、フッ素樹脂(B)の水性分散液に添加した後に凝析させる方法、(iii)フッ素樹脂(B)の粉末を、フッ素ゴム(A)の水性分散液に添加した後に凝析させる方法が挙げられる。
上記共凝析の方法としては、特に各樹脂が均一に分散し易い点で、上記(i)の方法が好ましい。特に、フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)は、フッ素ゴム(A)の水性分散液と、フッ素樹脂(B)の水性分散液とを混合した後に凝析し、次いで凝析物を回収し、所望により乾燥させることにより得られたものであることが好ましい。
【0023】
(A)フッ素ゴム
上記フッ素ゴム(A)は、主鎖を構成する炭素原子に結合しているフッ素原子を有し且つゴム弾性を有する非晶質の重合体からなるものである。上記フッ素ゴム(A)は、1種の重合体からなるものであってもよいし、2種以上の重合体からなるものであってもよい。
【0024】
上記フッ素ゴム(A)としては、ビニリデンフルオライド(VdF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、VdF/HFP/テトラフルオロエチレン(TFE)共重合体、TFE/プロピレン共重合体、TFE/プロピレン/VdF共重合体、エチレン/HFP共重合体、エチレン/HFP/VdF共重合体、エチレン/HFP/TFE共重合体、VdF/TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)共重合体、VdF/CTFE共重合体等を挙げることができる。
【0025】
上記フッ素ゴム(A)は、ビニリデンフルオライド単位を含む共重合体又はテトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン(P)共重合体からなるフッ素ゴムであることが好ましい。
【0026】
上記ビニリデンフルオライド(VdF)単位を含む共重合体からなるフッ素ゴム(以下、「VdF系フッ素ゴム」ともいう。)について説明する。VdF系フッ素ゴムとは、少なくともビニリデンフルオライドに由来する共重合単位を含むフッ素ゴムである。
【0027】
VdF単位を含む共重合体としては、VdF単位及び含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位(但し、VdF単位は除く。)を含む共重合体であることが好ましい。VdF単位を含む共重合体は、更に、VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の共重合単位を含むことも好ましい。
【0028】
VdF単位を含む共重合体としては、30〜85モル%のVdF単位及び70〜15モル%の含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位を含むことが好ましく、30〜80モル%のVdF単位及び70〜20モル%の含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位を含むことがより好ましい。VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の共重合単位は、VdF単位と含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位の合計量に対して、0〜10モル%であることが好ましい。
【0029】
含フッ素エチレン性単量体としては、たとえばTFE、CTFE、トリフルオロエチレン、HFP、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、PAVEともいう)、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体があげられるが、これらのなかでも、TFE、HFP及びPAVEからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
上記PAVEとしては、一般式(1):
CF=CFO(CFCFYO)−(CFCFCFO)−R (1)
(式中、YはF又はCFを表し、Rは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0〜5の整数を表し、qは0〜5の整数を表す。)、及び、一般式(2)
CFX=CXOCFOR (2)
(式中、XはH、F又はCFを表し、Rは、直鎖又は分岐したC〜Cフルオロアルキル基、若しくは、C〜C環状フルオロアルキル基を表す。)
からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0031】
一般式(2)におけるRは、H、Cl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1〜2個含むフルオロアルキル基であってもよい。
【0032】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)又はパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)であることがより好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)であることが更に好ましい。これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0033】
VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体としては、たとえばエチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどがあげられる。
【0034】
このようなVdF単位を含む共重合体として、具体的には、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体などの1種または2種以上が好ましくあげられる。これらのVdF単位を含む共重合体のなかでも、耐熱性、圧縮永久ひずみ、加工性、コストの点から、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体がとくに好ましい。
【0035】
VdF/HFP共重合体としては、VdF/HFPのモル比が45〜85/55〜15であるものが好ましく、より好ましくは50〜80/50〜20であり、さらに好ましくは60〜80/40〜20である。
【0036】
VdF/HFP/TFE共重合体としては、VdF/HFP/TFEのモル比が40〜80/10〜35/10〜35のものが好ましい。
【0037】
VdF/PAVE共重合体としては、VdF/PAVEのモル比が65〜90/10〜35のものが好ましい。
【0038】
VdF/TFE/PAVE共重合体としては、VdF/TFE/PAVEのモル比が40〜80/3〜40/15〜35のものが好ましい。
【0039】
VdF/HFP/PAVE共重合体としては、VdF/HFP/PAVEのモル比が65〜90/3〜25/3〜25のものが好ましい。
【0040】
VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体としては、VdF/HFP/TFE/PAVEのモル比が40〜90/0〜25/0〜40/3〜35のものが好ましく、より好ましくは40〜80/3〜25/3〜40/3〜25である。
【0041】
上記フッ素ゴム(A)は、TFE/P共重合体であることも好ましい。TFE/P共重合体は、テトラフルオロエチレン単位、プロピレン単位、並びに、テトラフルオロエチレン及びプロピレンと共重合可能な任意成分としての他の単量体に由来する繰り返し単位と、を含むことが好ましく、テトラフルオロエチレン単位及びプロピレン単位が合計で90〜100モル%であり、他の単量体に由来する繰り返し単位が10〜0モル%であることがより好ましい。
【0042】
他の単量体としては、テトラフルオロエチレン単位及びプロピレン単位と共重合可能な単量体であれば特に限定されないが、ビニリデンフルオライド(VdF)であることが好ましい。
【0043】
上記フッ素ゴム(A)は、架橋部位を与えるモノマー由来の共重合単位を含む共重合体からなることも好ましい。架橋部位を与えるモノマーとしては、たとえば特公平5−63482号公報、特開平7−316234号公報に記載されているようなパーフルオロ(6,6−ジヒドロ−6−ヨード−3−オキサ−1−ヘキセン)やパーフルオロ(5−ヨード−3−オキサ−1−ペンテン)などのヨウ素含有モノマー、特開平4−505341号公報に記載されている臭素含有モノマー、特開平4−505345号公報、特開平5−500070号公報に記載されているようなシアノ基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー、アルコキシカルボニル基含有モノマーなどがあげられる。架橋部位を与えるモノマーとしては、なかでも、シアノ基含有モノマーが好ましい。
【0044】
シアノ基含有モノマーとしては、たとえば、以下の式(3)〜(20)で表されるシアノ基含有モノマーが挙げられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0045】
CY=CY(CF−CN (3)
(式中、Yは水素原子またはフッ素原子、nは1〜8の整数である)
CF=CFCF−CN (4)
(式中、Rは、−(OCF−、又は、−(OCF(CF))−であり、nは0〜5の整数である)
CF=CFCF(OCF(CF)CF(OCHCFCFOCHCF−CN (5)
(式中、mは0〜5の整数、nは0〜5の整数である)
CF=CFCF(OCHCFCF(OCF(CF)CFOCF(CF)−CN (6)
(式中、mは0〜5の整数、nは0〜5の整数である)
CF=CF(OCFCF(CF))O(CF−CN (7)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜8の整数である)
CF=CF(OCFCF(CF))−CN (8)
(式中、mは1〜5の整数である)
CF=CFOCF(CF(CF)OCFCF(−CN)CF (9)
(式中、nは1〜4の整数である)
CF=CFO(CFOCF(CF)−CN (10)
(式中、nは2〜5の整数である)
CF=CFO(CF−(C)−CN (11)
(式中、nは1〜6の整数である)
CF=CF(OCFCF(CF))OCFCF(CF)−CN (12)
(式中、nは1〜2の整数である)
CH=CFCFO(CF(CF)CFO)CF(CF)−CN (13)
(式中、nは0〜5の整数である)、
CF=CFO(CFCF(CF)O)(CF−CN (14)
(式中、mは0〜5の整数、nは1〜3の整数である)
CH=CFCFOCF(CF)OCF(CF)−CN (15)
CH=CFCFOCHCF−CN (16)
CF=CFO(CFCF(CF)O)CFCF(CF)−CN (17)
(式中、mは0以上の整数である)
CF=CFOCF(CF)CFO(CF−CN (18)
(式中、nは1以上の整数である)
CF=CFOCFOCFCF(CF)OCF−CN (19)
CF=CFOCF(CF)CFOCFCF−CN (20)
【0046】
なかでも、共重合性と加硫性が良好な点から式(7)、(14)または(20)で表されるシアノ基含有モノマーが好ましく、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCN、CF=CFO(CFCN又はCF=CFOCF(CF)CFOCFCF−CNがより好ましい。
【0047】
フッ素ゴム(A)が上記シアノ基含有モノマー由来の共重合単位を有すると、シアノ基が環化三量化反応してトリアジン架橋が進行する。
【0048】
シアノ基含有モノマー由来の共重合単位は、良好な架橋特性および耐熱性が得られることから、VdF単位と含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位の合計量に対して、0.1〜5モル%であることが好ましく、0.3〜3モル%であることがより好ましい。
【0049】
フッ素ゴム(A)は、主鎖末端にヨウ素原子又は臭素原子を有するフッ素ゴムであることも好ましい。主鎖末端にヨウ素原子又は臭素原子を有するフッ素ゴムは、実質的に無酸素下で、水媒体中でハロゲン化合物の存在下に、ラジカル開始剤を添加してモノマーの乳化重合を行うことにより製造できる。使用するハロゲン化合物の代表例としては、たとえば、一般式:
Br
(式中、xおよびyはそれぞれ0〜2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、Rは炭素数1〜16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基、または炭素数1〜3の炭化水素基であり、酸素原子を含んでいてもよい)で表される化合物があげられる。
【0050】
ハロゲン化合物としては、たとえば1,3−ジヨードパーフルオロプロパン、1,3−ジヨード−2−クロロパーフルオロプロパン、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、1,5−ジヨード−2,4−ジクロロパーフルオロペンタン、1,6−ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8−ジヨードパーフルオロオクタン、1,12−ジヨードパーフルオロドデカン、1,16−ジヨードパーフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2−ジヨードエタン、1,3−ジヨード−n−プロパン、CFBr、BrCFCFBr、CFCFBrCFBr、CFClBr、BrCFCFClBr、CFBrClCFClBr、BrCFCFCFBr、BrCFCFBrOCF、1−ブロモ−2−ヨードパーフルオロエタン、1−ブロモ−3−ヨードパーフルオロプロパン、1−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブタン、2−ブロモ−3−ヨードパーフルオロブタン、3−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、2−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、ベンゼンのモノヨードモノブロモ置換体、ジヨードモノブロモ置換体、ならびに(2−ヨードエチル)および(2−ブロモエチル)置換体などがあげられ、これらの化合物は、単独で使用してもよく、相互に組み合わせて使用することもできる。
【0051】
これらのなかでも、重合反応性、架橋反応性、入手容易性などの点から、1,4−ジヨードパーフルオロブタンまたはジヨードメタンを用いるのが好ましい。
【0052】
フッ素ゴム(A)は、加工性が良好な点から、ムーニー粘度(ML1+10(121℃))が5〜140であることが好ましく、10〜120であることがより好ましく、20〜100であることが更に好ましい。
【0053】
また、フッ素ゴム(A)は数平均分子量20,000〜1,200,000のものが好ましく、30,000〜300,000のものがさらに好ましく、50,000〜200,000のものがさらに好ましく用いられる。
【0054】
また、本発明に使用されるフッ素ゴム(A)は、フッ素含有率50質量%以上のフッ素ゴムであることが好ましく、フッ素含有率60質量%以上のフッ素ゴムであることがより好ましく、フッ素含有率65質量%以上のフッ素ゴムであることが更に好ましい。フッ素含有率の上限値は特に限定されないが、74質量%以下であることが好ましい。フッ素含有率が低すぎると、耐薬品性、耐燃料油性、燃料低透過性が劣る傾向がある。
【0055】
上記フッ素ゴム(A)は、用途によって架橋系を選択することができる。架橋系としては、パーオキサイド架橋系、ポリオール架橋系、ポリアミン架橋系、オキサゾール架橋系、イミダゾール架橋系、チアゾール架橋系、トリアジン架橋系、放射線架橋系等があげられる。本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、それぞれの架橋系において使用される架橋剤又はアンモニア発生化合物を含むものであってよい。
【0056】
パーオキサイド架橋は、パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴム及び架橋剤として有機過酸化物を使用することにより行うことができる。
【0057】
パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴムとしては特に限定されず、パーオキサイド架橋可能な部位を有するフッ素ゴムであればよい。上記パーオキサイド架橋可能な部位としては特に限定されず、例えば、プロピレン(P)単位を有する部位、ヨウ素原子、臭素原子等を挙げることができる。
【0058】
有機過酸化物としては、熱や酸化還元系の存在下で容易にパーオキシラジカルを発生し得る有機過酸化物であればよく、たとえば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエイトなどをあげることができる。これらの中でも、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3が好ましい。
【0059】
架橋剤が有機過酸化物である場合、本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は架橋助剤を含むことが好ましい。架橋助剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N′−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5−トリス(2,3,3−トリフルオロ−2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン)、トリス(ジアリルアミン)−S−トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N−ジアリルアクリルアミド、1,6−ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N′,N′−テトラアリルフタルアミド、N,N,N′,N′−テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6−トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトなどがあげられる。これらの中でも、架橋性及び成形品の物性が優れる点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。
【0060】
架橋助剤の配合量は、フッ素ゴム100質量部に対して0.01〜10質量部であり、好ましくは0.1〜5.0質量部である。架橋助剤が、0.01質量部より少ないと、架橋時間が実用に耐えないほど長くなる傾向があり、10質量部をこえると、架橋時間が速くなり過ぎることに加え、成形品の圧縮永久歪も低下する傾向がある。
【0061】
ポリオール架橋は、ポリオール架橋可能なフッ素ゴム及び架橋剤としてポリヒドロキシ化合物を使用することにより行うことができる。
【0062】
上記ポリオール架橋可能なフッ素ゴムとしては特に限定されず、ポリオール架橋可能な部位を有するフッ素ゴムであればよい。上記ポリオール架橋可能な部位としては特に限定されず、例えば、フッ化ビニリデン(VdF)単位を有する部位等を挙げることができる。上記架橋部位を導入する方法としては、フッ素ゴムの重合時に架橋部位を与える単量体を共重合する方法等が挙げられる。
【0063】
ポリヒドロキシ化合物としては、耐熱性に優れる点からポリヒドロキシ芳香族化合物が好適に用いられる。
【0064】
上記ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されず、たとえば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(以下、ビスフェノールAFという)、レゾルシン、1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4’―ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシスチルベン、2,6−ジヒドロキシアントラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(以下、ビスフェノールBという)、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’−テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールAなどがあげられる。これらのポリヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などであってもよいが、酸を用いて共重合体を凝析した場合は、上記金属塩は用いないことが好ましい。
【0065】
架橋剤がポリヒドロキシ化合物である場合、本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は架橋促進剤を含むことが好ましい。架橋促進剤は、ポリマー主鎖の脱フッ酸反応における分子内二重結合の生成と、生成した二重結合へのポリヒドロキシ化合物の付加を促進する。
【0066】
架橋促進剤としては、オニウム化合物があげられ、オニウム化合物のなかでも、第4級アンモニウム塩等のアンモニウム化合物、第4級ホスホニウム塩等のホスホニウム化合物、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物、環状アミン、及び、1官能性アミン化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、第4級アンモニウム塩及び第4級ホスホニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0067】
第4級アンモニウム塩としては特に限定されず、たとえば、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムメチルスルフェート、8−エチル−1,8―ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−テトラコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド(以下、DBU−Bとする)、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7―ウンデセニウムクロライド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライドなどがあげられる。これらの中でも、架橋性及び成形品の物性が優れる点から、DBU−Bが好ましい。
【0068】
また、第4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、たとえば、テトラブチルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(以下、BTPPCとする)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロライド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロライド、トリブチルアリルホスホニウムクロライド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロライド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロライドなどをあげることができ、これらの中でも、架橋性及び成形品の物性が優れる点から、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(BTPPC)が好ましい。
【0069】
また、架橋促進剤として、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩とビスフェノールAFの固溶体、特開平11−147891号公報に開示されている塩素フリー架橋促進剤を用いることもできる。
【0070】
架橋促進剤の配合量は、フッ素ゴム100質量部に対して、0.01〜8質量部であることが好ましく、より好ましくは0.02〜5質量部である。架橋促進剤が、0.01質量部未満であると、フッ素ゴムの架橋が充分に進行せず、得られる成形品の耐熱性および耐油性が低下する傾向があり、8質量部をこえると、架橋性フッ素ゴム組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0071】
ポリアミン架橋は、ポリアミン架橋可能なフッ素ゴム及び架橋剤としてポリアミン化合物を使用することにより行うことができる。
【0072】
上記ポリアミン架橋可能なフッ素ゴムとしては特に限定されず、ポリアミン架橋可能な部位を有するフッ素ゴムであればよい。上記ポリアミン架橋可能な部位としては特に限定されず、例えば、フッ化ビニリデン(VdF)単位を有する部位等を挙げることができる。上記架橋部位を導入する方法としては、フッ素ゴムの重合時に架橋部位を与える単量体を共重合する方法等が挙げられる。
【0073】
ポリアミン化合物としては、たとえば、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートなどがあげられる。これらの中でも、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミンが好ましい。
【0074】
トリアジン架橋、オキサゾール架橋、イミダゾール架橋、及び、チアゾール架橋は、これらの架橋系により架橋可能なフッ素ゴムと、オキサゾール架橋剤、イミダゾール架橋剤、チアゾール架橋剤又はトリアジン架橋剤とを使用することにより行うことができる。
【0075】
これらの架橋系により架橋可能なフッ素ゴムとしては、上述した架橋部位を与えるモノマー由来の共重合単位を含む共重合体からなるフッ素ゴムをあげることができる。
【0076】
オキサゾール架橋剤、イミダゾール架橋剤、チアゾール架橋剤又はトリアジン架橋剤としては、下記式:
【0077】
【化1】

【0078】
(式中、Rは同じかまたは異なり、−NH、−NHR、−OHまたは−SHであり、Rはフッ素原子または1価の有機基である。)で示される架橋性反応基を少なくとも2個含む化合物、下記式:
【0079】
【化2】

【0080】
(Rは−SO−、−O−、−CO−、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基または単結合種であり、R
【0081】
【化3】

【0082】
である。)で示される化合物、下記式:
【0083】
【化4】

【0084】
(式中、Rは炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基を表す。)で示される化合物、下記式:
【0085】
【化5】

【0086】
(式中、nは1〜10の整数を表す。)で示される化合物等があげられる。
【0087】
具体例としては、限定的ではないが、たとえば、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N− メチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−エチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス [3−アミノ−4−(N−プロピルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−パーフルオロフェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ −4−(N−ベンジルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどがあげられる。これらの中でも、耐熱性が優れており、架橋反応性が特に良好である点から、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンがさらに好ましい。
【0088】
上述した架橋剤と共に、トリアジン架橋用触媒を併用することもできる。トリアジン架橋用触媒としては、テトラフェニルスズ、トリフェニルスズなどの有機スズ化合物があげられる。また、トリアジン架橋用触媒は、架橋剤と併用せず、単独で使用してもよい。
【0089】
上記フッ素ゴム(A)が架橋部位を与えるシアノ基含有モノマー由来の共重合単位を含む共重合体からなる場合、アンモニア発生化合物を用いることで、シアノ基が環化三量化反応してトリアジン架橋を進行させることもできる。アンモニア発生化合物は単独で使用してもよいし、オキサゾール架橋剤、イミダゾール架橋剤、チアゾール架橋剤又はトリアジン架橋剤と共に使用することもできる。上記アンモニア発生化合物は、40〜330℃でアンモニアを発生させる化合物である。
【0090】
アンモニア発生化合物としては、尿素、アンモニウム塩等が好ましくあげられ、アンモニウム塩は有機アンモニウム塩でも無機アンモニウム塩でもよい。
【0091】
尿素としては、尿素のほか、ビウレア、チオウレア、尿素塩酸塩、ビウレットなどの尿素誘導体であってもよい。
【0092】
有機アンモニウム塩としては、特開平9−111081号公報、国際公開第00/09603号パンフレット、国際公開第98/23675号パンフレットに記載された化合物、たとえばパーフルオロヘキサン酸アンモニウム塩、パーフルオロオクタン酸アンモニウム塩、パーフルオロブチル酸アンモニウム塩、パーフルオロアセチル酸アンモニウム塩、パーフルオロドデカン酸アンモニウム塩、パーフルオロヘキサデカン酸アンモニウム塩などのポリフルオロカルボン酸アンモニウム塩;パーフルオロヘキサンスルホン酸アンモニウム塩、パーフルオロオクタンスルホン酸アンモニウム塩、パーフルオロドデカンスルホン酸アンモニウム塩、パーフルオロヘキサデカンスルホン酸アンモニウム塩などのポリフルオロスルホン酸アンモニウム塩;パーフルオロヘキサンリン酸アンモニウム塩、パーフルオロオクタンリン酸アンモニウム塩、パーフルオロヘキサンホスホン酸アンモニウム塩、パーフルオロオクタンホスホン酸アンモニウム塩、パーフルオロオクタンスルホン酸アンモニウム塩などのポリフルオロアルキル基含有リン酸、ホスホン酸のアンモニウム塩;安息香酸アンモニウム塩、アジピン酸アンモニウムなどの非フッ素系のカルボン酸またはスルホン酸のアンモニウム塩が例示できる。なかでも、フッ素ゴムへの分散性を考慮するとフッ素系のカルボン酸、スルホン酸またはリン酸のアンモニウム塩が好ましく、安価な点から、非フッ素系のカルボン酸、スルホン酸またはリン酸のアンモニウム塩が好ましい。
【0093】
無機アンモニウム塩としては、特開平9−111081号公報に記載された化合物、たとえば硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどが例示でき、なかでも加硫特性を考慮すると、リン酸アンモニウムが好ましい。
【0094】
そのほか、アセトアルデヒドアンモニア、ヘキサメチレンテトラミン、ホルムアミジン、ホルムアミジン塩酸塩、ホルムアミジン酢酸塩、t−ブチルカルバメート、ベンジルカルバメート、HCFCFCH(CH)OCONH、フタルアミドなども使用できる。
【0095】
これらのアンモニア発生化合物は、1種又は2種以上使用できる。
【0096】
アンモニア発生化合物の添加量は、発生するアンモニアの量により適宜選択すればよいが、通常、フッ素ゴム100質量部に対して0.05〜10質量部であることが好ましく、0.1〜5質量部であることがより好ましく、0.2〜3質量部であることが更に好ましい。アンモニア発生化合物が少なすぎると、架橋密度が低くなるため、実用上、充分な耐熱性、耐薬品性を発現しない傾向があり、多くなりすぎると、スコーチの懸念があり保存安定性が悪くなるという問題があり、かつ成形品の色目に透明感がなくなる傾向がある。
【0097】
上記放射線架橋系は、紫外線や放射線等の活性エネルギー線の照射によることによって架橋を開始する架橋系である。この場合、多官能不飽和化合物等の架橋助剤を用いてもよい。上記放射線架橋系は、フッ素ゴムがTFE/P共重合体である場合に好適である。
【0098】
上記多官能不飽和化合物としては、例えば、CH=CH−、CH=CHCH−、CF=CF−、−CH=CH−等のエチレン性不飽和結合基を有する多官能化合物が挙げられる。中でも、架橋効率が良好な点から、オキシムニトロソ化合物、ジ(メタ)アクリレート系化合物、トリエステル系化合物、トリアリルイソシアヌレート系化合物、ポリブタジエン系化合物が好適であり、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0099】
上記オキシムニトロソ化合物としては、例えばジニトロソベンゼン等が挙げられ、上記ジ(メタ)アクリレート系化合物としては、例えばNKエステル9G(新中村化学工業社製)等が挙げられ、上記トリエステル系化合物としては、例えばハイクロスM(精工化学社製)、NKエステルTMTP(新中村化学工業社製)等が挙げられ、上記トリアリルイソシアヌレート系化合物としては、例えばトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメタアリルイソシアヌレート(TMAIC)等が挙げられ、上記ポリブタジエン系化合物としては、例えばNISSO−PB(日本曹達社製)等が挙げられる。中でも、架橋効率が良好な点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)を用いることが好適である。
【0100】
上記多官能不飽和化合物の使用量(配合量)は、フッ素ゴム100質量部に対し、0.1〜20質量部とすることが好ましい。これにより、架橋効率をより高めることができる。下限値としては、より好ましくは0.5質量部、更に好ましくは1質量部であり、上限値としては、より好ましくは10質量部、更に好ましくは5質量部である。
【0101】
(B)フッ素樹脂
フッ素樹脂(B)としては、少なくとも1種の含フッ素エチレン性単量体由来の構造単位を有する含フッ素エチレン性重合体であることが好ましく、溶融加工可能なフッ素樹脂であることが好ましい。上記含フッ素エチレン性単量体としては、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、式(21):
CF=CF−R (21)
(式中、Rは、−CFまたは−ORを表す。Rは、炭素原子数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)
で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物などの1種または2種以上のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニリデン〔VdF〕、フッ化ビニル、式(22):
CH=CX(CF (22)
(式中、Xは、水素原子またはフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子または塩素原子を表し、nは、1〜10の整数を表す。)
で表されるフルオロオレフィンなどをあげることができる。
【0102】
フッ素樹脂(B)は、上記含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の構造単位を有する含フッ素エチレン性重合体であってもよく、このような単量体としては、上記パーフルオロオレフィン及びフルオロオレフィン以外の非フッ素エチレン性単量体をあげることができる。非フッ素エチレン性単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、またはアルキルビニルエーテル類などをあげることができる。ここで、アルキルビニルエーテルは、炭素数1〜5のアルキル基を有するアルキルビニルエーテルをいう。
【0103】
これらの中でも、フッ素ゴム成形品における摩擦係数低減効果が良好な点から、つぎの含フッ素重合体が好ましい。
(1)エチレン/TFE共重合体〔ETFE〕
(2)TFEと式(21):
CF=CF−R (21)
(式中、Rは、−CFまたは−ORを表す。Rは、炭素原子数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)
で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の1種または2種以上からなる共重合体、たとえばTFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕共重合体〔PFA〕またはTFE/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕共重合体〔FEP〕
(3)TFEとVdFと式(21):
CF=CF−R (21)
(式中、Rは、−CFまたは−ORを表す。Rは、炭素原子数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)
で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の1種または2種以上からなる共重合体、たとえばTFE/VdF/HFP共重合体
(4)ポリフッ化ビニリデン〔PVdF〕
(5)CTFE/TFE共重合体
【0104】
上記フッ素樹脂は、ETFE、FEP、PFA、TFE/VdF/HFP共重合体、PVdF、及び、CTFE/TFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ETFE、FEP、PFA及びCTFE/TFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましく、ETFE、FEP及びCTFE/TFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましく、フッ素ゴム(A)との相溶性に特に優れる点からFEPであることが最も好ましい。
【0105】
ETFE
ETFEは、フッ素ゴム成形品の力学物性や燃料バリア性が向上する点で好ましい。TFE単位とエチレン単位との含有モル比は20:80〜90:10が好ましく、37:63〜85:15がより好ましく、38:62〜80:20が特に好ましい。
【0106】
ETFEは、TFE、エチレン、並びに、TFE及びエチレンと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよい。共重合可能な単量体としては、下記式
CH=CX、CF=CFR、CF=CFOR、CH=C(R
(式中、Xは水素原子またはフッ素原子、Rはエーテル結合性酸素原子を含んでいてもよいフルオロアルキル基を表す)
で表される単量体が挙げられ、なかでも、CH=CXで表される含フッ素ビニルモノマーが好ましく、Rが炭素数1〜8のフルオロアルキル基であるCH=CXで表される含フッ素ビニルモノマーがより好ましい。
【0107】
上記式で示される含フッ素ビニルモノマーの具体例としては、1,1−ジヒドロパーフルオロプロペン−1、1,1−ジヒドロパーフルオロブテン−1、1,1,5−トリヒドロパーフルオロペンテン−1、1,1,7−トリヒドロパーフルオロへプテン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロヘキセン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロオクテン−1、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルビニルエーテル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロペン、パーフルオロブテン−1、3,3,3−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)プロペン−1、2,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロ−1−ペンテン(CH=CFCFCFCFH)があげられる。
【0108】
また、TFE及びエチレンと共重合可能な単量体としては、イタコン酸、無水イタコン酸等の脂肪族不飽和カルボン酸であってもよい。
【0109】
TFE及びエチレンと共重合可能な単量体は、含フッ素エチレン性重合体に対して0.1〜10モル%が好ましく、0.1〜5モル%がより好ましく、0.2〜4モル%が特に好ましい。
【0110】
FEP
FEPは、とりわけフッ素ゴム成形品の耐熱性が優れたものとなり、優れた燃料バリア性が発現する点で好ましい。FEPとしては、特に限定されないが、TFE単位70〜99モル%とHFP単位1〜30モル%からなる共重合体であることが好ましく、TFE単位80〜97モル%とHFP単位3〜20モル%からなる共重合体であることがより好ましい。TFE単位が70モル%未満では機械物性が低下する傾向があり、99モル%をこえると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。
【0111】
FEPは、TFE、HFP、並びに、TFE及びHFPと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよく、当該単量体としては、CF=CF−OR(式中、Rは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、CX=CX(CF(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられ、なかでも、PAVEであることが好ましい。
【0112】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、及び、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、なかでも、PMVE、PEVE及びPPVEからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0113】
上記アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体としては、Rfが炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であるものが好ましく、CF=CF−OCH−CFCFがより好ましい。
【0114】
FEPは、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びHFP単位が合計で90〜99.9モル%であることが好ましい。共重合可能な単量体単位が0.1モル%未満であると成形性、耐環境応力割れ性及び耐ストレスクラック性に劣りやすく、10モル%をこえると薬液低透過性、耐熱性、機械特性、生産性などに劣る傾向にある。
【0115】
PFA
PFAは、とりわけフッ素ゴム成形品の耐熱性が優れたものとなり、優れた燃料バリア性が発現する点で好ましい。PFAとしては、特に限定されないが、TFE単位70〜99モル%とPAVE単位1〜30モル%からなる共重合体であることが好ましく、TFE単位80〜97モル%とPAVE単位3〜20モル%からなる共重合体であることがより好ましい。TFE単位が70モル%未満では機械物性が低下する傾向があり、99モル%をこえると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。
【0116】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、及び、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、なかでも、PMVE、PEVE及びPPVEからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、PMVEであることが更に好ましい。
【0117】
PFAは、TFE、PAVE、並びに、TFE及びPAVEと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよく、当該単量体としては、HFP、CX=CX(CF(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0118】
上記アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体としては、Rfが炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であるものが好ましく、CF=CF−OCH−CFCFがより好ましい。
【0119】
PFAは、TFE及びPAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びPAVE単位が合計で90〜99.9モル%であることが好ましい。共重合可能な単量体単位が0.1モル%未満であると成形性、耐環境応力割れ性及び耐ストレスクラック性に劣りやすく、10モル%をこえると薬液低透過性、耐熱性、機械特性、生産性などに劣る傾向にある。
【0120】
CTFE/TFE共重合体
CTFE/TFE共重合体は、CTFE単位とTFE単位の含有モル比がCTFE:TFE=2:98〜98:2であることが好ましく、5:95〜90:10であることがより好ましい。CTFE単位が2モル%未満であると薬液透過性が悪化しまた溶融加工が困難になる傾向があり、98モル%をこえると成型時の耐熱性、耐薬品性が悪化する場合がある。
【0121】
CTFE/TFE共重合体は、CTFE、TFE、並びに、CTFE及びTFEと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよく、エチレン、VdF、HFP、CF=CF−OR(式中、Rは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、CX=CX(CF(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられ、なかでも、PAVEであることが好ましい。
【0122】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、及び、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、なかでも、PMVE、PEVE及びPPVEからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0123】
上記アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体としては、Rfが炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であるものが好ましく、CF=CF−OCH−CFCFがより好ましい。
【0124】
上記CTFE/TFE共重合体は、CTFE及びTFEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、CTFE単位及びTFE単位が合計で90〜99.9モル%であることが好ましい。共重合可能な単量体単位が0.1モル%未満であると成形性、耐環境応力割れ性及び耐ストレスクラック性に劣りやすく、10モル%をこえると薬液低透過性、耐熱性、機械特性、生産性などに劣る傾向にある。
【0125】
フッ素樹脂(B)は、融点が120〜340℃であることが好ましく、150〜330℃であることがより好ましく、170〜320℃であることがさらに好ましい。フッ素樹脂(B)の融点が、120℃未満であると、架橋成形時にブリードアウトする傾向があり、340℃を超えると、フッ素ゴム(A)との混合が困難になる傾向がある。
【0126】
フッ素樹脂(B)は、メルトフローレート〔MFR〕が0.1〜100g/10分であることが好ましい。MFRが小さすぎると耐摩耗性に劣るおそれがあり、MFRが大きすぎると成形が困難になるおそれがある。
【0127】
フッ素樹脂(B)とフッ素ゴム(A)との相溶性向上のため、少なくとも1種の多官能化合物を添加してもよい。多官能化合物とは、1つの分子中に同一または異なる構造の2つ以上の官能基を有する化合物である。
【0128】
多官能化合物が有する官能基としては、カルボニル基、カルボキシル基、ハロホルミル基、アミド基、オレフィン基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基、エポキシ基等、一般に反応性を有することが知られている官能基であれば任意に用いることができる。これらの官能基を有する化合物は、フッ素ゴム(A)との親和性が高いだけではなく、フッ素樹脂(B)が持つ反応性を有することが知られている官能基とも反応しさらに相溶性が向上することが期待される。
【0129】
フッ素ゴム(A)は、組成物の45〜97質量%であることが好ましい。フッ素ゴムが少なすぎるとゴムとしての特性を有するフッ素ゴム成形品を得ることができないおそれがあり、フッ素ゴムが多すぎると低摩擦性のフッ素ゴム成形品を得ることができないおそれがある。
【0130】
本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)との質量割合(A)/(B)が60/40〜97/3であることが好ましい。フッ素樹脂(B)が少なすぎると摩擦係数低減の効果が充分に得られないおそれがあり、一方、フッ素樹脂(B)が多すぎると、ゴム弾性が著しく損なわれ、柔軟性が失われるおそれがある。柔軟性と低摩擦性の両方が良好な点から、(A)/(B)は、65/35〜95/5であることがより好ましく、70/30〜90/10であることがさらに好ましい。
【0131】
本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、必要に応じてフッ素ゴム中に配合される通常の配合剤、たとえば充填剤、加工助剤、可塑剤、着色剤、安定剤、接着助剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤などの各種添加剤を配合することができ、これらの添加剤、配合剤は、本発明の効果を損なわない範囲で使用すればよい。
【0132】
なお、本発明の架橋性フッ素ゴム組成物は、含フッ素熱可塑性エラストマーは含まない。
【0133】
つぎに本発明のフッ素ゴム成形品の製造方法について説明する。
【0134】
本発明のフッ素ゴム成形品の製造方法は、
(I)フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して架橋性フッ素ゴム組成物を得る工程、
(II)架橋性フッ素ゴム組成物を成形し、架橋して、架橋成形品を得る成形架橋工程、及び、
(III)架橋成形品をフッ素樹脂(B)の融点以上の温度に加熱してフッ素ゴム成形品を得る熱処理工程
を含む。
【0135】
以下、各工程について説明する。
【0136】
(I)工程
この工程は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して架橋性フッ素ゴム組成物を得る工程である。
【0137】
上記共凝析の方法としては、例えば、(i)フッ素ゴム(A)の水性分散液と、フッ素樹脂(B)の水性分散液とを混合した後に凝析する方法、(ii)フッ素ゴム(A)の粉末を、フッ素樹脂(B)に添加した後に凝析する方法、(iii)フッ素樹脂(B)の粉末を、フッ素ゴム(A)の水性分散液に添加した後に凝析する方法が挙げられる。
【0138】
上記共凝析の方法としては、特に各樹脂が均一に分散し易い点で、上記(i)の方法が好ましい。
【0139】
上記(i)〜(iii)の凝析方法における凝析は、例えば、凝集剤を用いて行うことができる。このような凝集剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸アルミニウム、ミョウバン等のアルミニウム塩、硫酸カルシウム等のカルシウム塩、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化ナトリウムや塩化カリウム等の一価カチオン塩等の公知の凝集剤が挙げられる。凝集剤により凝析を行う際、凝集を促進させるために酸又はアルカリを添加してpHを調製してもよい。
【0140】
フッ素ゴムの架橋系によっては架橋剤が必要であるので、工程(I)は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して共凝析粉末を得た後、共凝析粉末と架橋剤とを混合することにより架橋性フッ素ゴム組成物を得る工程であることも好ましい。
【0141】
共凝析粉末と架橋剤との混合は従来公知の方法により行うことができる。例えば、オープンロールを使用して共凝析粉末と架橋剤とが充分に混合される程度の時間及び温度で混合すればよい。
【0142】
(II)成形架橋工程
この工程は、混合工程(I)で得られた架橋性フッ素ゴム組成物を成形し架橋して架橋成形品を製造する工程である。成形及び架橋の順序は限定されず、成形した後架橋してもよいし、架橋した後成形してもよいし、成形と架橋とを同時に行ってもよい。
【0143】
たとえばホース、長尺板ものなどの場合は押出成形した後架橋する方法が適切であり、異形の成形品の場合は、ブロック状の架橋物を得た後切削などの成形処理を施す方法も採れる。また、ピストンリングやオイルシールなどの比較的単純な成形品の場合、金型などで成形と架橋を同時に並行して行うことも通常行われている方法である。
【0144】
成形方法としては、たとえば押出成形法、金型などによる加圧成形法、インジェクション成形法などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0145】
架橋方法も、スチーム架橋法、加圧成形法、放射線架橋法、加熱により架橋反応が開始される通常の方法が採用できる。本発明においては、フッ素樹脂の架橋性フッ素ゴム組成物の表面層への移行がスムーズに起こる点から、加熱による架橋反応が好適である。
【0146】
架橋性フッ素ゴム組成物の成形及び架橋の方法及び条件は、採用する成形及び架橋において公知の方法及び条件の範囲内でよい。
【0147】
限定されない具体的な架橋条件としては、通常、150〜300℃の温度範囲、1分間〜24時間の架橋時間内で、使用する架橋剤などの種類により適宜決めればよい。
【0148】
また、ゴムの架橋において、最初の架橋処理(1次架橋という)を施した後に2次架橋と称される後処理工程を施すことがあるが、つぎの熱処理工程(III)で説明するように、従来の2次架橋工程と本発明における成形架橋工程(II)及び熱処理工程(III)とは異なる処理工程である。
【0149】
(III)熱処理工程
この工程では、成形架橋工程(II)で得られた架橋成形品をフッ素樹脂(B)の融点以上の温度に加熱してフッ素ゴム成型品を得る。
【0150】
本発明における熱処理工程(III)は、架橋成形品表面のフッ素樹脂比率を高めるために行う処理工程であり、この目的に即して、フッ素樹脂(B)の融点以上かつフッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)の熱分解温度未満の温度が加熱温度として採用される。
【0151】
加熱温度が融点よりも低い場合は、架橋成形品表面のフッ素樹脂比率が十分に高くならない。フッ素ゴム及びフッ素樹脂の熱分解を回避するために、フッ素ゴム(A)またはフッ素樹脂(B)のいずれか低い方の熱分解温度未満の温度でなければならない。好ましい加熱温度は、短時間で低摩擦化が容易な点から、フッ素樹脂の融点より5℃以上高い温度である。
【0152】
上記の上限温度は通常のフッ素ゴムの場合であり、超耐熱性を有するフッ素ゴムの場合は、上限温度は超耐熱性を有するフッ素ゴムの分解温度であるので、上記上限温度はこの限りではない。
【0153】
熱処理工程(III)において、加熱温度は加熱時間と密接に関係しており、加熱温度が比較的下限に近い温度では比較的長時間加熱を行い、比較的上限に近い加熱温度では比較的短い加熱時間を採用することが好ましい。このように加熱時間は加熱温度との関係で適宜設定すればよいが、加熱処理をあまり長時間行うとフッ素ゴムが熱劣化することがあるので、加熱処理時間は、耐熱性に優れたフッ素ゴムを使用する場合を除いて実用上48時間までである。通常、加熱処理時間は1分間〜48時間が好ましく、生産性が良好な点から1分間〜24時間がより好ましいが、摩擦係数を充分に低下させたい場合は24〜48時間であることが好ましい。
【0154】
かかる熱処理工程(III)で起こる架橋成形品表面領域のフッ素樹脂比率が高くなるという現象は本発明者らにより初めて見出されたものである。
【0155】
ところで、従来行われている2次架橋は1次架橋終了時に残存している架橋剤を完全に分解してフッ素ゴムの架橋を完結し、架橋成形品の機械的特性や圧縮永久ひずみ特性を向上させるために行なう処理である。
【0156】
したがって、フッ素樹脂(B)の共存を想定していない従来の2次架橋条件は、その架橋条件が偶発的に本発明における熱処理工程の加熱条件と重なるとしても、2次架橋ではフッ素樹脂の存在を架橋条件設定の要因として考慮せずにフッ素ゴムの架橋の完結(架橋剤の完全分解)という目的の範囲内での加熱条件が採用されているにすぎず、フッ素樹脂(B)を配合した場合にゴム架橋物(ゴム未架橋物ではない)中でフッ素樹脂(B)を加熱軟化または溶融する条件を導き出せるものではない。
【0157】
なお、本発明における成形架橋工程(II)において、フッ素ゴム(A)の架橋を完結させるため(架橋剤を完全に分解するため)の2次架橋を行ってもよい。
【0158】
また、熱処理工程(III)において、残存する架橋剤の分解が起こりフッ素ゴム(A)の架橋が完結する場合もあるが、熱処理工程(III)におけるかかるフッ素ゴム(A)の架橋はあくまで副次的な効果にすぎない。
【0159】
本発明の製造方法によれば、フッ素樹脂の特性、たとえば低摩擦性や非粘着性、撥水撥油性が、熱処理をしないものより、格段に向上したフッ素ゴム成形品を得ることができる。しかも、表面領域以外では逆にフッ素ゴムの特性が発揮でき、全体として、低摩擦性や非粘着性、撥水撥油性、エラストマー性、のいずれにもバランスよく優れたフッ素ゴム成形品が得られる。さらに、得られるフッ素ゴム成形品には、フッ素樹脂とフッ素ゴムの明確な界面状態が存在しないので、表面のフッ素樹脂に富む領域が脱落や剥離することもなく、従来のフッ素ゴムの表面をフッ素樹脂の塗布や接着で改質したフッ素ゴム成形品に比べて耐久性に優れている。
【0160】
本発明のフッ素ゴム成形品は、その低摩擦性、非粘着性、撥水撥油性(高接触角)を利用して、シール材、摺動部材、非粘着性部材などとして有用である。
【0161】
具体的には、つぎの成形品が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0162】
シール材:
半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体関連分野では、O(角)−リング、パッキン、ガスケット、ダイアフラム、その他の各種シール材等があげられ、これらはCVD装置、ドライエッチング装置、ウェットエッチング装置、酸化拡散装置、スパッタリング装置、アッシング装置、洗浄装置、イオン注入装置、排気装置に用いることができる。具体的には、ゲートバルブのO−リング、クォーツウィンドウのO−リング、チャンバーのO−リング、ゲートのO−リング、ベルジャーのO−リング、カップリングのO−リング、ポンプのO−リング、ダイアフラム、半導体用ガス制御装置のO−リング、レジスト現像液、剥離液用のO−リング、その他の各種シール材として用いることができる。
【0163】
自動車分野では、エンジンならびに周辺装置に用いるガスケット、シャフトシール、バルブステムシール、各種シール材や、AT装置の各種シール材に用いることができる。燃料系統ならびに周辺装置に用いるシール材としては、O(角)−リング、パッキン、ダイアフラムなどがあげられる。具体的には、エンジンヘッドガスケット、メタルガスケット、オイルパンガスケット、クランクシャフトシール、カムシャフトシール、バルブステムシール、マニホールドパッキン、酸素センサー用シール、インジェクターO−リング、インジェクターパッキン、燃料ポンプO−リング、ダイアフラム、クランクシャフトシール、ギアボックスシール、パワーピストンパッキン、シリンダーライナーのシール、バルブステムのシール、自動変速機のフロントポンプシール、リアーアクスルピニオンシール、ユニバーサルジョイントのガスケット、スピードメーターのピニオンシール、フートブレーキのピストンカップ、トルク伝達のO−リング、オイルシール、排ガス再燃焼装置のシール、ベアリングシール、キャブレターのセンサー用ダイアフラム等として用いることができる。
【0164】
航空機分野、ロケット分野および船舶分野では、ダイアフラム、O(角)−リング、バルブ、パッキン、各種シール材等があげられ、これらは燃料系統に用いることができる。具体的には、航空機分野では、ジェットエンジンバルブステムシール、ガスケットおよびO−リング、ローテーティングシャフトシール、油圧機器のガスケット、防火壁シール等に用いられ、船舶分野では、スクリューのプロペラシャフト船尾シール、ディーゼルエンジンの吸排気用バルブステムシール、バタフライバルブのバルブシール、バタフライ弁の軸シール等に用いられる。
【0165】
化学プラント分野では、バルブ、パッキン、ダイアフラム、O(角)−リング、各種シール材等があげられ、これらは医薬、農薬、塗料、樹脂等化学品製造工程に用いることができる。具体的には、化学薬品用ポンプ、流動計、配管のシール、熱交換器のシール、硫酸製造装置のガラス冷却器パッキング、農薬散布機、農薬移送ポンプのシール、ガス配管のシール、メッキ液用シール、高温真空乾燥機のパッキン、製紙用ベルトのコロシール、燃料電池のシール、風洞のジョイントシール、ガスクロマトグラフィー、pHメーターのチューブ結合部のパッキン、分析機器、理化学機器のシール、ダイアフラム、弁部品等として用いることができる。
【0166】
現像機等の写真分野、印刷機械等の印刷分野および塗装設備等の塗装分野では、乾式複写機のシール、弁部品等として用いることができる。
【0167】
食品プラント機器分野では、バルブ、パッキン、ダイアフラム、O(角)−リング、各種シール材等があげられ、食品製造工程に用いることができる。具体的には、プレート式熱交換器のシール、自動販売機の電磁弁シール等として用いることができる。
【0168】
原子力プラント機器分野では、パッキン、O−リング、ダイアフラム、バルブ、各種シール材等があげられる。
【0169】
一般工業分野では、パッキング、O−リング、ダイアフラム、バルブ、各種シール材等があげられる。具体的には、油圧、潤滑機械のシール、ベアリングシール、ドライクリーニング機器の窓、その他のシール、六フッ化ウランの濃縮装置のシール、サイクロトロンのシール(真空)バルブ、自動包装機のシール、空気中の亜硫酸ガス、塩素ガス分析用ポンプのダイアフラム(公害測定器)等に用いられる。
【0170】
電気分野では、具体的には、新幹線の絶縁油キャップ、液封型トランスのベンチングシール等として用いられる。
【0171】
燃料電池分野では、具体的には、電極、セパレーター間のシール材や水素・酸素・生成水配管のシール等として用いられる。
【0172】
電子部品分野では、具体的には、放熱材原料、電磁波シールド材原料、コンピュータのハードディスクドライブのガスケット等に用いられる。
【0173】
現場施工型の成形に用いることが可能なものとしては特に限定されず、例えばエンジンのオイルパンのガスケット、磁気記録装置用のガスケット、クリーンルーム用フィルターユニットのシーリング剤等があげられる。
【0174】
また、磁気記録装置(ハードディスクドライブ)用のガスケット、半導体製造装置やウェハー等のデバイス保管庫等のシールリング材等のクリーン設備用シール材に特に好適に用いられる。
【0175】
さらに、燃料電池セル電極間やその周辺配管等に用いられるパッキン等の燃料電池用のシール材等にも特に好適に用いられる。
【0176】
摺動部材:
自動車関連分野では、ピストンリング、シャフトシール、バルブステムシール、クランクシャフトシール、カムシャフトシール、オイルシールなどがあげられる。
一般に、他材と接触して摺動を行う部位に用いられるフッ素ゴム製品があげられる。
【0177】
非粘着性部材:
コンピュータ分野での、ハードディスククラッシュストッパーなどがあげられる。
【0178】
撥水撥油性を利用する分野:
自動車のワイパーブレード、屋外テントの引き布などがあげられる。
【実施例】
【0179】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0180】
本明細書における各種の特性については、つぎの方法で測定した。
【0181】
(1)架橋(加硫)特性
キュラストメーターII型(JSR(株)製)にて最低トルク(ML)、最高トルク(MH)、誘導時間(T10)および最適加硫時間(T90)を測定する。
【0182】
(2)100%モジュラス(M100)
JIS K6251に準じて測定した。
【0183】
(3)引張破断強度(Tb)
JIS K6251に準じて測定した。
【0184】
(4)引張破断伸び(Eb)
JIS K6251に準じて測定した。
【0185】
(5)硬度(ショアA)
JIS K6253に準じ、デュロメータ タイプAにて測定した(ピーク値)。
【0186】
(6)摩擦係数
レスカ社製フリクションプレーヤーFPR2000で、加重20g、回転モード、回転数60rpm、回転半径10mmで測定を行い、回転後5分以上経過した後、安定した際の摩擦係数を読み取り、その数値を動摩擦係数とした。
【0187】
また、表および明細書中の使用材料は、それぞれ次に示すものである。
【0188】
フッ素ゴム(A)
VdF/HFP/TFE/シアノ基含有モノマー=50/30/19/1(モル%)の共重合体
ML1+10(121℃)=88
【0189】
フッ素樹脂(B)
ダイキン工業製ネオフロンFEPディスパージョン
(商品名;ND−1、MFR;1.7g/10min、融点;約240℃)
【0190】
充填剤
カーボンブラック(Cancarb社製のMTカーボン:N990)
【0191】
アンモニア発生化合物
ウレア(尿素)(キシダ化学社製、特級試薬)
【0192】
実施例1
(I)工程
フッ素ゴム(A)のディスパージョン(ポリマー含量24質量%)とフッ素樹脂(B)のディスパージョン(ポリマー含量32質量%)を、フッ素ゴム(A):フッ素樹脂(B)の固形分質量比が70:30となるように混合したものをディスパージョンDとする。
次にディスパージョンD 400gを純水500gに投入後、ミキサーで混合しながら硫酸アルミニウムを2g添加し、約3分混合して固形分を取り出した。
この固形分を、80℃のオーブンで20時間乾燥したものを、共凝析物とする。
【0193】
得られた共凝析物を8インチロール2本を備えたオープンロールに巻き付け、上記共凝析物100質量部に対して、充填剤を14質量部、アンモニア発生化合物を0.3質量部添加し、20分間混練りした。さらに得られた混合物を24時間冷却し、再度8インチロール2本を備えたオープンロールを用いて、30〜80℃で20分間混練りしてフルコンパウンド(架橋性フッ素ゴム組成物)を調製した。
【0194】
このフルコンパウンドの架橋(加硫)特性を調べた。結果を表1に示す。
【0195】
(II)成形架橋工程
(成形工程)
得られたフルコンパウンドを8インチオープンロールにより最終的に3mmの厚さの未架橋フッ素ゴムシートに成形した。
【0196】
(架橋工程)
この未架橋フッ素ゴムシートを金型で180℃にて15分間プレス架橋し、厚さが2mmの架橋フッ素ゴムシートを得た。
【0197】
得られた架橋フッ素ゴムシートについて、100%モジュラス(M100)、引張破断強度(Tb)、引張破断伸び(Eb)、硬度(ショアA、ピーク値)および摩擦係数を調べた。結果を表2に示す。
【0198】
(III)熱処理工程
架橋フッ素ゴムシート(含まれるフッ素樹脂Bの融点:240℃)を230℃および250℃に維持された加熱炉中に24時間または48時間入れ、それぞれ熱処理をした。
【0199】
熱処理した架橋フッ素ゴムシート(230℃熱処理および250℃熱処理)のそれぞれについて、100%モジュラス(M100)、引張破断強度(Tb)、引張破断伸び(Eb)、硬度(ショアA、ピーク値)および摩擦係数を調べた。結果を表2に示す。
【0200】
比較例1
架橋性フッ素ゴム組成物としてフッ素ゴム(A)にフッ素樹脂を共凝析せず、充填剤を20質量部、アンモニア発生化合物を0.4質量部としたほかは実施例1と同様に成形架橋工程を施して架橋フッ素ゴムシートを製造した。
【0201】
得られた架橋フッ素ゴムシートを実施例1と同様に250℃に維持された加熱炉中に48時間入れ、加熱処理をした。
【0202】
得られた架橋フッ素ゴムシート(250℃熱処理)について、100%モジュラス(M100)、引張破断強度(Tb)、引張破断伸び(Eb)、硬度(ショアA、ピーク値)および摩擦係数を調べた。
【0203】
比較例2
材料温度200℃でフッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを混練りした後、充填剤を20質量部、アンモニア発生化合物を0.3質量部としたほかは実施例1と同様に成形架橋工程を施して架橋フッ素ゴムシートを製造した。
【0204】
得られた架橋フッ素ゴムシートを実施例1と同様に250℃に維持された加熱炉中に48時間入れ、加熱処理をした。
【0205】
得られた架橋フッ素ゴムシート(250℃熱処理)について、100%モジュラス(M100)、引張破断強度(Tb)、引張破断伸び(Eb)、硬度(ショアA、ピーク値)および摩擦係数を調べた。
【0206】
フルコンパウンドの架橋(加硫)特性を表1に、架橋フッ素ゴムシートの特性を表2に示す。
【0207】
【表1】

【0208】
【表2】

【0209】
表1及び表2の結果から、特定の条件下で調製された架橋性フッ素ゴム組成物(フルコンパウンド)を、フッ素樹脂の融点以上の温度で熱処理することによって、優れた機械的強度を有し、摩擦係数が小さいフッ素ゴム成形品が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0210】
本発明のフッ素ゴム成形品は、シール材、摺動部材、非粘着性部材として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して架橋性フッ素ゴム組成物を得る工程、
(II)架橋性フッ素ゴム組成物を成形し、架橋して、架橋成形品を得る成形架橋工程、及び、
(III)架橋成形品をフッ素樹脂(B)の融点以上の温度に加熱してフッ素ゴム成形品を得る熱処理工程
を含むフッ素ゴム成形品の製造方法。
【請求項2】
フッ素ゴム(A)は、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/ビニリデンフルオライド共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフルオライド共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、及び、ビニリデンフルオライド/クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載のフッ素ゴム成形品の製造方法。
【請求項3】
フッ素ゴム(A)は、架橋部位を与えるモノマー由来の共重合単位を含む請求項1又は2記載のフッ素ゴム成形品の製造方法。
【請求項4】
フッ素樹脂(B)は、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、及び、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1、2又は3記載のフッ素ゴム成形品の製造方法。
【請求項5】
架橋性フッ素ゴム組成物におけるフッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)の質量割合(A)/(B)が、60/40〜97/3である請求項1、2、3又は4記載のフッ素ゴム成形品の製造方法。
【請求項6】
成形品がシール材である請求項1、2、3、4又は5記載のフッ素ゴム成形品の製造方法。
【請求項7】
成形品が摺動部材である請求項1、2、3、4又は5記載のフッ素ゴム成形品の製造方法。
【請求項8】
成形品が非粘着性部材である請求項1、2、3、4又は5記載のフッ素ゴム成形品の製造方法。

【公開番号】特開2013−57089(P2013−57089A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−287708(P2012−287708)
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2011−520993(P2011−520993)の分割
【原出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】