説明

架橋構造を導入した高耐久性燃料電池用高分子電解質膜

【課題】 高分子電解質膜における欠点であるイオン交換容量が小さく、かつ、耐酸化性や耐メタノール性が悪いことなどを解決課題とする。
【解決手段】 基材とした高分子フィルムにγ線、電子線などの放射線を照射して官能性モノマーを多元共グラフト重合し、次いで、グラフトした分子鎖やスルホン酸基を導入して得られたグラフト分子鎖を含む高分子フイルム基材を放射線で架橋することによって、優れた耐酸化性、寸法安定性、電気伝導性と耐メタノール性を有し、かつ、イオン交換容量が広い範囲内に制御された高分子電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池への使用に適した高分子電解質膜に関する。また、本発明は、優れた耐酸化性、耐熱性及び寸法安定性と共に、優れた電気伝導性を有する燃料電池に適した高分子電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質膜を用いた燃料電池は、エネルギー密度が高いことから、メタノール、水素等の燃料を利用して、携帯機器、家庭向けコジェネレーション、自動車の電源や簡易補助電源として期待されている。この燃料電池において、優れた特性を有する高分子電解質膜の開発は最も重要な技術の一つである。
【0003】
高分子電解質膜型燃料電池において、電解質膜は、プロトンを伝導するための働きと、燃料である水素やメタノールと酸化剤である空気(酸素)とを直接混合させないための隔膜としての役割も有する。電解質膜としては、イオン交換容量が大きいこと、長期間電流を通すので膜の化学的な安定性、特に、膜の劣化の主因となる水酸化ラジカル等に対する耐性(耐酸化性)が優れていること、電池の動作温度である80℃以上での耐熱性があること、また、電気抵抗を低く保持するために膜の保水性が一定で高いことが要求される。一方、隔膜としての役割から、膜の力学的な強度や寸法安定性が優れていること、水素ガス、メタノール又は酸素ガスについて過剰な透過性を有しないことなどが要求される。
【0004】
初期の高分子電解質膜型燃料電池では、スチレンとジビニルベンゼンの共重合で製造した炭化水素系高分子電解質膜が使用された。しかし、この電解質膜は耐酸化性に起因する耐久性が非常に劣っていたため実用性に乏しく、その後はデュポン社により開発されたパーフルオロスルホン酸膜「ナフィオン(デュポン社登録商標)」等が一般に用いられてきた。
【0005】
しかしながら、「ナフィオン(登録商標)」等の従来の含フッ素系高分子電解質膜は、化学的な耐久性や安定性には優れているが、イオン交換容量が1 meq/g前後と小さく、また、保水性が不十分でイオン交換膜の乾燥が生じてプロトン伝導性が低下したり、メタノールを燃料とする場合に膜の膨潤やメタノールのクロスオーバーが起きたりする。
【0006】
また、イオン交換容量を大きくするため、スルホン酸基を多く導入しようとすると、高分子鎖中に架橋構造を持たないため、膜の膨潤によって強度が著しく低下し、容易に破損するようになる。従って、従来の含フッ素系高分子電解質膜ではスルホン酸基の量を膜強度が保持される程度に抑える必要があり、このためイオン交換容量が1 meq/g程度ものしかできなかった。
【0007】
さらに、ナフィオン(登録商標)などの含フッ素系高分子電解質膜はモノマーの合成が困難かつ複雑であり、また、これを重合してポリマー膜を製造する工程も複雑であるため、製品は非常に高価であり、プロトン交換膜型燃料電池を自動車などへ搭載して実用化する場合の大きな障害となっている。そのため、前記ナフィオン(登録商標)等に替わる低コストで高性能な電解質膜を開発する努力がおこなわれてきた。
【0008】
一方、本発明と密接に関連する放射線グラフト重合法では、高分子膜にスルホン酸基を導入することができるモノマーをグラフトして、固体高分子電解質膜を作製する試みがなされている。本発明者らはこれらの新しい固体高分子電解質膜を開発すべく検討を重ね、架橋構造を有するポリテトラフルオロエチレンフィルムにスチレンモノマーを放射線グラフト反応により導入し、次いでスルホン化することにより、イオン交換容量を広い範囲に制御できることを特徴とする固体高分子電解質膜及びその製造方法を出願した(特許文献1)。しかし、この高分子電解質膜はスチレングラフト鎖が炭化水素で構成されているため、膜に長時間電流を通すとグラフト鎖部の一部に酸化が起こり、膜のイオン交換能が低下した。
【0009】
さらに、本発明者らは、架橋構造を有するポリテトラフルオロエチレンフィルムにフッ素系モノマーの放射線グラフト、または放射線共グラフトに続き、グラフト鎖にスルホン基を導入することによって、広いイオン交換容量と優れた耐酸化性とを特徴とする固体高分子電解質膜及びその製造方法を出願した(特許文献2)。しかし、通常のフッ素系高分子膜ではフッ素系モノマーはグラフト反応が膜の内部まで進行し難く、反応条件によってはグラフト反応がフィルム表面に限られてしまうため、電解質膜としての特性を向上させにくいことが判明した。
【特許文献1】特開2001-348439号公報
【特許文献2】特開2002-348389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を克服するためになされたものであり、高分子固体電解質として、高分子イオン交換膜の欠点である、イオン交換容量が小さく、膜の寸法安定性が悪いこと、特に、最も重要である耐酸化性が低いことを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、燃料電池への使用に適した広いイオン交換容量と優れた耐酸化性や電気伝導性とを有する高分子電解質膜を提供する。
高分子フィルムに放射線を照射し、種々のモノマーを同時にグラフト重合させる多元共グラフト重合を行い、得られたグラフト鎖にスルホン酸基を導入することに関して研究を進めた結果、基材として高分子フィルムを用い、これに1官能性と多官能性モノマーを電離性放射線によって多元共グラフトし、その際、グラフトを膜中心部まで進行させ、その後、導入されたグラフト鎖を含む高分子フイルム基材を放射線によって架橋させた後、スルホン酸基を導入することを特徴とする高分子電解質膜の製造法を発明するにいたった。放射線照射のタイミングであるが、スルホン酸基を導入したグラフト鎖を含む高分子フイルム基材に放射線を照射し、架橋構造を付与する製造方法も本発明の対象となす。本発明の高分子電解質膜は、高分子フィルムへのモノマーのグラフト率が6〜120%、イオン交換容量が0.3〜4.0 meq/gであることを特徴とする。また、本発明の高分子電解質膜は、イオン交換容量などの各特性を適切で広い範囲内に制御できること、電気伝導性が高いこと、膜の寸法安定性が高いこと、特にグラフト鎖もしくはスルホン酸基を導入して得られたグラフト鎖を含む高分子フイルム基材に架橋構造を付与できたことから耐酸化性にきわめて優れた特徴を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって製造された高分子電解質膜は、優れた耐酸化性、電気伝導性、及び寸法安定性、耐メタノール性と共に、イオン交換容量を広い範囲で制御できる特徴を有する。
上記の特徴を有する本発明のイオン交換膜は、特に燃料電池膜への使用に適している。また、安価で耐久性のある電解膜やイオン交換膜として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の一態様においては、高分子フィルム基材として、耐熱性が高く、耐酸化性のあるポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略す)を使用する。
本発明において、高分子フィルム基材にグラフト重合するモノマーは、A群の1官能性ビニルモノマー、B群の多官能性ビニルモノマー、C群のスルホニルビニルモノマーを使用することができる。
(1)A群:
スチレン、メチルスチレン類(α−メチルスチレン、ビニルトルエンなど)、エチルスチレン類、ジメチルスチレン類、トリメチルスチレン類、ペンタメチルスチレン類、ジエチルスチレン類、イソプロピルスチレン類、ブチルスチレン類(3-tert-ブチルスチレン、4-tert-ブチルスチレンなど)などのアルキルスチレン、クロロスチレン類、ジクロロスチレン類、トリクロロスチレン類、ブロモスチレン類(2-ブロモスチレン、3-ブロモスチレン、4-ブロモスチレンなど)、フルオロスチレン類(2-フルオロスチレン、3-フルオロスチレン、4-フルオロスチレン)などのハロゲン化スチレン、メトキシスチレン類、メトキシメチルスチレン類、ジメトキシスチレン類、エトキシスチレン類、ビニルフェニルアリルエーテル類などのアルコキシスチレン、ヒドロキシスチレン類、メトキシヒドロキシスチレン類、アセトキシスチレン類、ビニルベンジルアルキルエーテル類などのヒドロキシスチレン誘導体、ビニル安息香酸類、ホルミルスチレン類などのカルボキシスチレン誘導体、ニトロスチレン類などのニトロスチレン、アミノスチレン類、ジメチルアミノスチレン類などのアミノスチレン誘導体、ビニルベンジルスルホン酸類、スチレンスルホニルフルオリド類などのイオンを含むスチレン誘導体からなる群から選択されるモノマー。
(2)B群:
ビス(ビニルフェニル)エタン、ジビニルベンゼン、2,4,6-トリアリロキシ-1,3,5-トリアジン(トリアリルシアヌレート)、トリアリル-1,2,4-ベンゼントリカルボキシレート(トリアリルトリメリテート)、ジアリルエーテル、トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリワン、2,3-ジフェニルブタジエン、1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン、1,4-ジビニルオクタフルオロブタン、ビス(ビニルフェニル)メタン、ジビニルアセチレン、ジビニルスルフィド、ジビニルスルフォン、ジビニルエーテル、ジビニルスルホキシド、イソプレン、1,5-ヘキサジエン、ブタジエン、1,4-ジビニル-2,3,5,6-テトラクロルベンゼンからなる群から選択される架橋剤。
(3)C群:
スルホニルビニルモノマーである、CF2=CF(SO2X1)(式中、X1はハロゲン基で-F又は-Clである)、CH2=CF(SO2X1)(式中、X1はハロゲン基で-F又は-Clである)、CF2=CF(O(CF2)14SO2X1)(式中、X1はハロゲン基で-F又は-Clである)、CF2=CF(OCH2(CF2)14SO2X1)(式中、X1はハロゲン基で-F又は-Clである)、CF2=CF(SO2R1)(式中、R1はアルキル基で-CH3、- C2H5、または-C(CH3)3である)、CH2=CF(SO2R1) (式中、R1はアルキル基で-CH3、- C2H5、または-C(CH3)3である)、CF2=CF(OCH2(CF2)14SO2X1) (式中、R1はアルキル基で-CH3、- C2H5、または-C(CH3)3である)からなる群から選択されるモノマー。
【0014】
(1)〜(3)のモノマーは、フレオン112(CCl2FCCl2F)、フレオン113(CCl2FCClF)、ジクロロエタン、クロロメタン、n-ヘキサン、アルコール、t-ブタノール、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、シクロヘキサノンやジメチルスルホオキシドの各溶媒で希釈したものを用いてもよい。
【0015】
高分子フィルム基材への上記モノマーのグラフト重合は、ステンレス又はガラス製の耐圧容器に、高分子フィルム基材を入れて十分に真空に引き、予め不活性ガスのバブリングや凍結脱気により酸素ガスを除いたモノマーを加えて、60Co、γ線を、室温、不活性ガス中で5〜500 kGy照射する。グラフト重合は、高分子フィルム基材とモノマーを同時に放射線照射してグラフト反応させる、いわゆる同時照射法と、高分子フィルム基材を先に放射線照射した後にモノマーと接触させてグラフト反応させる、いわゆる後グラフト重合法のいずれかの方法によって行うことができる。グラフト重合温度は同時照射法では室温、後グラフト重合法では、モノマーや溶媒の沸点以下の温度で通常0℃〜150℃で行なう。酸素の存在はグラフト反応を阻害するため、これら一連の操作はアルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガス中で行い、また、モノマーやモノマーを溶媒に溶かした溶液は常法の処理(バブリングや凍結脱気)で酸素を除去した状態で使用する。
【0016】
本発明では、複数のモノマーを同時にグラフト重合させる手法を用いることを特徴としているが、この手法を”多元共グラフト重合”と定義する。
グラフト率(実施例の式(1)参照)は、同時照射法では放射線の線量が多いほど、若しくは、放射線の線量率が低く照射時間が長いほどグラフト率が高く、後グラフト重合法では、線量が多いほど、グラフト温度が高いほど、若しくは、グラフト時間が長いほどグラフト率は高くなる。
【0017】
電離放射線は、物質の透過率が高いγ線やX線、また、照射容器、フィルム基材やモノマー溶液を透過するのに十分な高エネルギー電子線を用いるのが良い。
高分子フィルム基材は、本発明の一態様で使用するポリフッ化ビニリデン(PVDF)のほかに、高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、又はポリスルホンフィルム基材を用いることができる。また、ポリイミド系の高分子フィルムであるポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、又はポリエーテルエーテルイミドフィルム基材も使用することができる。さらに、フッ素系の高分子であるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−六フッ化プロピレン共重合体、又はテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体フィルム基材を用いてもよい。
本発明者らは、これらの高分子フィルム基材に、予め架橋したフィルム基材を用いることにより、得られるイオン交換膜の耐熱性が向上する、膜の膨潤が少ない、架橋構造の導入によりモノマーのグラフト率が向上する、照射による膜強度の低下を抑制できる等の利点がすでに明らかにされている。この特徴を利用して、例えば、グラフトモノマーとしてスチレンを用いた場合、未架橋のポリテトラフルオロエチレンに比較し、架橋ポリテトラフルオロエチレンはグラフト率を著しく増加させることができ、このため未架橋ポリテトラフルオロエチレンの2〜10倍のスルホン酸基を架橋ポリテトラフルオロエチレンに導入できることを本発明者らはすでに見出した(特開2001‐348439号公報:特願2000-170450)。架橋構造を有するテトラフルオロエチレン・六フッ化プロピレン共重合体やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の製造方法は、Radiation Physics Chemistry, 42, 139-142(1993)に掲載されている。
【0018】
上記で得られたグラフトした高分子フィルム基材にスルホン酸基を導入するには、上記の(1)〜(3)のグラフトした分子鎖、又はグラフトした分子鎖中のフェニル基は、クロルスルホン酸のジクロルエタン溶液やクロロホルム溶液を反応させることによって、グラフト鎖中にスルホン酸基を導入することができる。芳香環を有する炭化水素系の高分子フィルム基材の場合、クロルスルホン酸によるスルホン基の導入は、条件によって基材自身もスルホン化される。一方、グラフトした分子鎖中の[-SO2X1]基は、0.1M〜10M濃度の苛性カリ(KOH)又は苛性ソーダ(NaOH)の水溶液、水・アルコール溶液、又は水・ジメチルスルホオキシド溶液中、室温〜100℃以下の温度で反応させて、スルホン酸塩[-SO3M](式中、Mはアルカリ金属でNa又はKである。)とし、次いでスルホン酸塩基を1M〜2M硫酸溶液中、60℃でスルホン酸基[-SO3H]とすることにより、高分子イオン交換膜が得られる。また、グラフトした分子鎖中の[-SO3R1]基は、0.1M〜10M濃度の硫酸溶液中など酸性溶液中で、室温〜100℃で反応させて加水分解するか、又は同濃度の水酸化カリウムやナトリウム溶液中で加水分解し、スルホン酸基[-SO3H]とすることにより、高分子イオン交換膜が得られる。更に、グラフトした分子鎖中のハロゲン基[-X2]は、亜硫酸塩若しくは亜硫酸水素塩の水溶液、又は、水・アルコールの溶液中などで反応させてスルホン酸塩基[-SO3M](式中、Mはアルカリ金属でNa又はKである。)とし、次いで上記と同様にスルホン酸塩基をスルホン酸基[-SO3H]とする。
【0019】
電子線、γ線による架橋構造の付与は、グラフトした分子鎖、又はスルホン酸基を導入したグラフト分子鎖を含む高分子フイルム基材へ放射線を照射することで行うことを特徴とする。この方法によって、高分子フイルム基材のみならずグラフトした分子鎖やスルホン酸基を導入したグラフト分子鎖も同時に架橋でき、その結果として、より耐久性があり、又、より耐酸化性に優れた電量電池用高分子電解質を製造できる。
【0020】
本発明による高分子電解質膜はグラフト量やスルホン化反応量、即ち、導入されるスルホン酸基の量を制御することによって、得られる膜のイオン交換容量を変えることができる。グラフト反応は、グラフト率60〜80%で徐々に飽和してくる傾向を示す。本発明において、グラフト率は、高分子フィルム基材に対し、10〜150%、より好ましくは10〜100%である。
【0021】
ここで、イオン交換容量とは、乾燥電解質膜の重量1g当たりのイオン交換基量(meq/g)である。グラフトモノマーの種類に依存するが、グラフト率が10%以下の場合はイオン交換容量が0.3 meq/g以下であり、グラフト率が150%以上の場合は膜の膨潤が大きくなる。すなわち、グラフト率を高くしてイオン交換基を多く導入すれば、イオン交換容量は高くなる。しかし、イオン交換基量を高くし過ぎると、含水時に膜が膨潤して膜の強度が低下する。これらのことから、本発明の高分子イオン交換膜においては、イオン交換容量は。0.3 meq/g〜4.0 meq/g、好ましくは0.5 meq/g〜2.5 meq/gである。
【0022】
本発明の高分子電解質膜においては、グラフト基材の選択、導入するスルホン酸基の量やグラフトモノマーの分子構造によって、膜の含水率を制御することができる。この膜を燃料電池用電解質膜として使用する場合、含水率が低すぎると運転条件のわずかな変化によって電気伝導度やガス透過係数が変わり好ましくない。従来のナフィオン膜は分子鎖のほとんどが[-CF2-]で構成され、かつ架橋構造を持たないために、80℃以上の高い温度で電池を作動させると膜が水を過剰に吸水するため膨潤によって導電率が急速に低下する。
【0023】
これに対し、本発明の高分子電解質膜膜の場合、グラフトした分子鎖やスルホン酸基を導入したグラフト分子鎖を含む高分子フイルム基材に同時に架橋構造を導入できるために、含水率は、主にスルホン酸基の量によるが、10〜120重量(wt)%の範囲で制御することができる。一般的には、イオン交換容量が増すにつれて含水率も増大するが、本発明の高分子電解質膜の含水率は、10〜120 wt%、好ましくは20〜80 wt%とすることができる。
【0024】
高分子電解質膜は、イオン交換容量とも関係する電気伝導度が高いものほど電気抵抗が小さく、電解質膜としての性能はすぐれている。しかし、25℃におけるイオン交換膜の電気伝導度が0.05([Ω・cm]-1)以下である場合は、燃料電池としての出力性能が著しく低下する場合が多いため、高分子電解質膜の電気伝導度は0.05([Ω・cm]-1)以上、より高性能の高分子電解質膜では0.10([Ω・cm]-1)以上に設計されていることが多い。本発明による高分子電解質膜では25℃における高分子電解質膜の電気伝導度がナフィオン(登録商標)膜と同等かそれよりも高い値が得られた。これはスルホン酸基を導入したグラフト分子鎖と高分子フイルム基材が架橋されているため水による膜の膨潤が抑制され、その結果として、隣接しているスルホン酸基同士の相互作用が容易になることからイオンの伝達が比較的に高くなったと思われる。
【0025】
高分子電解質膜の電気伝導度を高めるため、高分子電解質膜の厚みを薄くすることも考えられる。しかし現状では、過度に薄い高分子電解質膜では破損しやすく、膜自体の製作が困難である。したがって、通常では30〜200 μmの高分子電解質膜が使われている。本発明の場合、膜厚は10〜200 μm、好ましくは20〜150 μmの範囲のものが有効である。
【0026】
燃料電池膜においては、現在、燃料の候補の一つとして考えられているメタノールがあるが、パーフルオロスルホン酸膜であるナフィオン(登録商標)膜では分子鎖間に架橋構造を持たないためにメタノールによって大きく膨潤し、燃料であるメタノールが電池膜を通してアノード(燃料極)からカソード(空気極)へと拡散する燃料のクロスオーバーが、発電効率を低下させるとして大きな問題となっている。しかし、本発明による高分子電解質膜では、スルホン酸基を導入して得られたグラフト分子鎖と高分子フィルム基材が相互に架橋し、膨潤し難い構造からなるため、メタノールを含めたアルコール類による膜の膨潤はほとんど認められない。このため、改質器を用いずにメタノールを直接燃料とするダイレクト・メタノール型燃料電池(Direct methanol Fuel cell)の膜として有用である。
【0027】
燃料電池膜においては、膜の耐酸化性は膜の耐久性(寿命)に関係する極めて重要な特性である。これは電池稼働中に発生するOHラジカル等がイオン交換膜を攻撃して、膜を劣化させるものである。高分子フィルムに炭化水素系のスチレンをグラフトした後、ポリスチレングラフト鎖をスルホン化して得た高分子電解質膜の耐酸化性は極めて低い。例えば、グラフト分子鎖を導入する前に架橋構造を付与した高分子フイルム基材に、グラフト率45%のポリスチレン鎖をスルホン化したポリスチレングラフト架橋電解質膜では、60℃の3%過酸化水素水溶液中、約20時間でイオン交換膜が劣化し、導電性基のスチレンスルホン酸基が脱離してくる(比較例3)。これは、OHラジカルの攻撃によって、ポリスチレン鎖が容易に分解するためである。
【0028】
これに対し、本発明による高分子電解質膜は、スルホン酸基を導入したグラフと分子鎖自体が化学架橋剤によって高度に架橋しているばかりでなく、このグラフト分子鎖と高分子フイルム基材が放射線照射によって相互に架橋するため、耐酸化性がきわめて高く、60℃の3%過酸化水素水溶液中に400時間以上置いてもイオン交換容量はほとんど変化しない。
【0029】
以上のように、本発明の高分子電解質膜は優れた耐酸化性や寸法安定性、耐メタノール性を有すると共に、膜としての重要な特性であるイオン交換容量を0.3〜4.0 meq/gの広い範囲に制御できる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各測定値は以下の測定によって求めた。
(1)グラフト率(%)
フィルム基材を主鎖部、フッ素モノマーやこれらと炭化水素系モノマー等とのグラフト重合した部分をグラフト鎖部とすると、主鎖部に対するグラフト鎖部の重量比は、次式のグラフト率(Xdg [重量%])として表される。
【0031】
[数1]
Xdg = 100(W2 - W1)/W1
W1:グラフト前の乾燥状態の重量(g)
W2:グラフト後の乾燥状態の重量(g)

(2)イオン交換容量(meq/g)
膜のイオン交換容量(Ion Exchange Capacity, IEC)は次式で表される。
【0032】
[数2]
IEC = [n(酸基)obs] / Wd
[n(酸基)obs]:イオン交換膜の酸基量(mM)
Wd:イオン交換機の乾燥重量(g)
[n(酸基)obs]の測定は、正確を期すため、膜を再度1M硫酸溶液中に50℃で4時間浸漬し、完全に酸型(H型)とした。その後、3MのNaCl水溶液中50℃、4時間浸漬して-SO3Na型とし、置換されたプロトン(H+)を0.2MのNaOHで中和滴定し酸基濃度を求めた。
【0033】
(3)含水率(%)
室温で水中に保存しておいたH型のイオン交換膜を水中から取り出し軽くふき取った後(約1分後)の膜の重量をWs(g)とし、その後、この膜を60℃にて16時間、真空乾燥した時の膜の重量Wd(g)を乾燥重量とすると、Ws、Wdから次式により含水率が求められる。
【0034】
[数3]
含水率= 100(Ws - Wd) / Wd
(4)電気伝導度(Ω-1 cm-1
高分子電解質膜の電気伝導性は、交流法による測定(新実験化学講座19、高分子化学〈II〉、p. 992、丸善)で、通常の膜抵抗測定セルとヒュ−レットパッカード製のLCRメー
タ、E-4925Aを使用して膜抵抗(Rm)の測定を行った。1M硫酸水溶液をセルに満たして膜の有無による白金電極間(距離5 mm)の抵抗を測定し、膜の電気伝導度(比伝導度)は次式を用いて算出した。
【0035】
[数4]
κ= 1/Rm・d / S
κ:膜の電気伝導度(Ω-1 cm-1
d:電解質膜の厚さ(cm)
S:電解質膜の通電面積(cm2
電気伝導度測定値の比較のために、直流法でMark W. Verbrugge, Robert F. Hill等(J. Electrochem. Soc., 137(1990)3770-3777)と類似のセル及びポテンショスタット、関数発生器を用いて測定した。交流法と直流法の測定値には良い相関性が見られた。下記の表1の値は交流法による測定値である。
【0036】
(5)耐酸化性(導電性基脱離時間)
60℃の水溶液中で飽和膨潤させた電解質膜の重量を基準とし、次いで60℃の3%過酸化水素溶液に浸漬し、電解質膜の重量が減少し始めた時の時間(導電性基脱離時間)を耐酸化性の尺度とする。
【0037】
(6)膜の長さ膨潤度(%)
スルホン酸型膜の室温における湿潤状態(水)の膜の一辺の長さをL0とし、膜を所定の条件にてメタノール溶液に浸漬した後、室温におけるメタノール溶液湿潤状態での膜の同じ片の長さをLMとすると
[数5]
長さの膨潤度= 100(LM / L0)
【0038】
(実施例1)
ポリフッ化ビニリデンフィルム基材(以下PVDFと略す)を2 cm x 2 cmに切断しコック付きのガラス製セパラブル容器(内径3 cmφx15 cm高さ)に入れて脱気の後、ガラス容器内をアルゴンガスで置換した。この状態で、PVDFフイルムに60Co線源からのγ線を室温で線量30 kGy(線量率10 kGy/h)照射した。引き続いて、このガラス容器中に予め脱気しておいた60 wt%(体積百分率)トルエン希釈の、40 wt%モノマー(ビニルトルエン/t-ブチルスチレン/ビスビニルフェニルエタン)溶液10 mlをいれ、フイルムを浸漬した。アルゴンガスで置換した後、ガラス容器を密閉し、50℃にして5時間反応させた。得られたグラフト重合膜をトルエンで洗浄し乾燥した。グラフト率は、35%であった。
【0039】
グラフト重合膜は、コック付のガラス製セパラブル容器に入れて脱気の後、ガラス容器内をアルゴンガスで置換した。この状態でグラフト重合膜にγ線照射によって架橋構造を付与するため、60℃の温度で、線量100 kGy(線量率10 kGy/h)照射した。
【0040】
架橋グラフト重合膜をスルホン化するため、1,2-ジクロロエタンで希釈した0.2Mクロロスルホン酸に浸漬し、80℃で6 間反応させた後、水洗により加水分解を行った。本実施例で得られた高分子電解質膜のイオン交換容量、含水率、電気伝導度、耐酸化性、及び長さの膨潤度を測定した。その結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
(実施例2)
実施例1で用いたビニルトルエン/t-ブチルスチレン/ビスビニルフェニルエタンのモノマーに、さらにモノマーとしてジビニルベンゼンを加え、同様の条件でグラフト重合させたところ、グラフト率は37%であった。得られたグラフト重合膜のγ線架橋とスルホン化は実施例1)に示した条件で行った。その結果を表1に示す。
【0043】
(実施例3)
PVDFフィルム基材を2 cm x 2 cmに切断しコック付きのガラス製セパラブル容器(内径3 cmφx15 cm高さ)に入れて脱気の後、ガラス容器内をアルゴンガスで置換した。この状態で、PVDFフイルムに60Co線源からのγ線を室温で線量30 kGy(線量率10 kGy/h)照射した。引き続いて、このガラス容器中に予め脱気しておいた60 vol%(体積百分率)トルエン希釈の、モノマー(ビニルトルエン/t-ブチルスチレン/ビスビニルフェニルエタン/ジビニルベンゼン)溶液10 mlをいれ、フイルムを浸漬した。アルゴンガスで置換した後、ガラス容器を密閉し、50℃にして5時間反応させた。得られたグラフト重合膜をトルエンで洗浄し乾燥した。グラフト率は、37%であった。グラフト重合膜をスルホン化するため、1,2-ジクロロエタンで希釈した0.2Mクロロスルホン酸に浸漬し、80℃で6時間反応させた後、水洗により加水分解を行った。
【0044】
スルホン酸基を導入して得られた電解質膜は、コック付のガラス製セパラブル容器に入れて脱気の後、ガラス容器内をアルゴンガスで置換した。この状態で電解質膜にγ線照射によって架橋構造を付与するため、60℃の温度で、線量100 kGy(線量率10 kGy/h)照射した。その結果を表1に示す。
【0045】
(実施例4)
実施例2)において、高分子フイルム基材として、PVDFの代わりにエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(以下ETFEと略す)を用いた。グラフと率は、60%であった。グラフトした分子鎖を含むETFE基材の架橋は、60℃の温度で、線量100 kGy(線量率10 kGy/h)照射することで行った。その結果を表1に示す。
【0046】
(実施例5)
ETFEフィルム基材を2 cm x 2 cmに切断しコック付きのガラス製セパラブル容器(内径3 cmφx15 cm高さ) に入れて、さらに、モノマー(1,2,2-トリフルオロエチレンスルホニルフルオライド(CF2=CF-SO2F)、2-フルオロスチレン、ブタジエン)溶液10 mlをフィルムが浸るまで入れ、凍結脱気を繰り返してモノマー液体やETFEフィルム中の空気を除いた。最後に、ガラス容器内をアルゴンガスで置換して密封した。この状態でETFEフィルムに、γ線(線量率10 kGy/h)を100 kGy、室温で照射した。照射後、さらに60℃にして24時間反応させ、トルエン、ついでアセトンで洗浄し、フィルムを乾燥した。グラフト率は50%であった。
【0047】
グラフト重合膜は、コック付のガラス製セパラブル容器に入れて脱気の後、ガラス容器内をアルゴンガスで置換した。この状態でグラフト重合膜にγ線照射によって架橋構造を付与するため、60℃の温度で、線量100 kGy(線量率10 kGy/h)照射した。
【0048】
架橋グラフト重合膜は、最初、20 wt%(重量%)KOHのジメチルスルホオキシド・水(1:2)溶液、80℃で24時間反応させた。反応後、膜を取り出し、水洗し、2Mの硫酸溶液中、60℃で4時間処理し、次いで、1,2-ジクロロエタンで希釈した0.2Mクロロスルホン酸に浸漬し、60℃で6時間反応させた後、水洗により加水分解を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
(実施例6)
実施例1〜実施例5、比較例1、及び比較例2〜比較例3において、膜のアルコールによる膨潤度を測定した。本実施例により得られた膜、及びナフィオン112を3Mの硫酸溶液に浸漬し、スルホン酸基をH型とした。そして、室温水に浸漬し、湿潤状態で寸法を測定した。次に膜をメタノール濃度80 vol%(体積%)水溶液に浸けて60℃、3時間保持し、その後、室温まで一夜放冷した後、膜の寸法変化を測定した。その結果を表1に示す。本実施例で得られた膜は、ナフィオン膜に比べメタノールによる膜の膨潤がほとんど認められないので、直接メタノール型燃料電池の膜材料としてきわめて有効である。表1より本発明の有効性が実証された。
【0050】
(比較例1)
下記の表1に示したナフィオン112(デュポン社製)について測定されたイオン交換容量電気伝導度、含水率、耐酸化性、及び長さの膨潤度の結果を表1の比較例1に示す。
【0051】
(比較例2)
実施例1において、アルゴンガス雰囲気下、60℃の温度で、線量100 kGy(線量率10 kGy/h)照射することで、予めPVDFフィルムフイルム基材に架橋構造を付与した。さらに、この架橋PVDFフイルムをコック付きのガラス製セパラブル容器(内径3 cmφ,、高さ15 cm)に入れて脱気後アルゴンガスで置換した。この状態でPVDFフィルムに、γ線(線量率 10 kGy/h)を30 KGy、室温で再照射した。次いで、アルゴンガスのバブリングによって酸素を除きアルゴンガス置換したスチレンモノマーをPVDFフィルムの入ったガラス容器に、膜が浸漬されるまで導入し、60℃の温度で6時間反応させた。その後、グラフト共重合膜をトルエン、続いてアセトンで洗浄し、乾燥した。グラフト率は45%であった。このグラフト重合膜を0.2Mクロルスルホン酸(1,2-ジクロロエタン溶媒)に浸漬し60℃、24時間スルホン化反応を行った。その後、この膜を水洗いしてスルホン酸基とした。
【0052】
(比較例3)
実施例4において、アルゴンガス雰囲気下、60℃の温度で、線量100 kGy(線量率10 kGy/h)照射することで、予めETFEフィルムフイルム基材に架橋構造を付与した。さらに、架橋ETFEフイルムをコック付きのガラス製セパラブル容器(内径3 cmφ,、高さ15 cm)に入れて脱気後アルゴンガスで置換した。この状態でPVDFフィルムに、γ線(線量率 10 kGy/h)を30 KGy、室温で再照射した。次いで、アルゴンガスのバブリングによって酸素を除きアルゴンガス置換したモノマー(4種類)をETFEフィルムの入ったガラス容器に、膜が浸漬されるまで導入し、50℃の温度で6時間反応させた。その後、グラフト共重合膜をトルエン、続いてアセトンで洗浄し、乾燥した。グラフト率は40%であった。このグラフト重合膜を0.2Mクロルスルホン酸(1,2-ジクロロエタン溶媒)に浸漬し80℃で6時間スルホン化反応を行った。その後、この膜を水洗いしてスルホン酸基とした。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の電解質膜は、コンピューター、パソコンに代表される携帯機器、家庭用コジェネレーション、自動車等において用いられる燃料電池の電解質膜として使用されることができる。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子フイルム基材に、モノマーとして、下記A群の1官能性ビニルモノマーを1種類以上と下記B群の多官能性ビニルモノマーを1種類以上の範囲で組み合わせ、それを多元共グラフト重合させ、グラフトした分子鎖を含むフイルム基材を放射線で架橋し、次いでグラフトした分子鎖や分子鎖中の芳香環にスルホン酸基を導入して得られる燃料電池用高分子電解質膜であって、
上記A群の1官能性ビニルモノマーが、スチレン、メチルスチレン類(α−メチルスチレン、ビニルトルエンなど)、エチルスチレン類、ジメチルスチレン類、トリメチルスチレン類、ペンタメチルスチレン類、ジエチルスチレン類、イソプロピルスチレン類、ブチルスチレン類(3-tert-ブチルスチレン、4-tert-ブチルスチレンなど)などのアルキルスチレン、クロロスチレン類、ジクロロスチレン類、トリクロロスチレン類、ブロモスチレン類(2-ブロモスチレン、3-ブロモスチレン、4-ブロモスチレンなど)、フルオロスチレン類(2-フルオロスチレン、3-フルオロスチレン、4-フルオロスチレン)などのハロゲン化スチレン、メトキシスチレン類、メトキシメチルスチレン類、ジメトキシスチレン類、エトキシスチレン類、ビニルフェニルアリルエーテル類などのアルコキシスチレン、ヒドロキシスチレン類、メトキシヒドロキシスチレン類、アセトキシスチレン類、ビニルベンジルアルキルエーテル類などのヒドロキシスチレン誘導体、ビニル安息香酸類、ホルミルスチレン類などのカルボキシスチレン誘導体、ニトロスチレン類などのニトロスチレン、アミノスチレン類、ジメチルアミノスチレン類などのアミノスチレン誘導体、ビニルベンジルスルホン酸類、スチレンスルホニルフルオリド類などのイオンを含むスチレン誘導体からなる群から選択されるモノマーであり、
上記B群の多官能性モノマーが、ビス(ビニルフェニル)エタン、ジビニルベンゼン、2,4,6-トリアリロキシ-1,3,5-トリアジン(トリアリルシアヌレート)、トリアリル-1,2,4-ベンゼントリカルボキシレート(トリアリルトリメリテート)、ジアリルエーテル、トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリワン、2,3-ジフェニルブタジエン、1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン、1,4-ジビニルオクタフルオロブタン、ビス(ビニルフェニル)メタン、ジビニルアセチレン、ジビニルスルフィド、ジビニルスルフォン、ジビニルエーテル、ジビニルスルホキシド、イソプレン、1,5-ヘキサジエン、ブタジエン、1,4-ジビニル-2,3,5,6-テトラクロルベンゼンからなる群から選択される架橋剤である、上記電解質膜。
【請求項2】
高分子フイルム基材に、モノマーとして、A群の1官能性ビニルモノマーを1種類以上とB群の多官能性ビニルモノマーを1種類以上の範囲で組み合わせ、それを多元共グラフト重合させ、グラフトした分子鎖や分子鎖中の芳香環にスルホン酸基を導入後、スルホン酸基保持グラフト鎖を含むフイルム基材を放射線で架橋して得られる燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項3】
高分子フイルム基材に、モノマーとして、下記C群のスルホニルビニルモノマーを1種類以上と下記A群の1官能性ビニルモノマーを1種類以上と下記B群の多官能性ビニルモノマーを1種類以上の範囲で組み合わせ、それを多元共グラフト重合させ、グラフトした分子鎖や分子鎖中の芳香環にスルホン酸基を導入後、スルホン酸基保持グラフト鎖を含むフイルム基材を放射線で架橋して得られる燃料電池用高分子電解質膜であって、
上記A群の1官能性モノマーが、スチレン、メチルスチレン類(α−メチルスチレン、ビニルトルエンなど)、エチルスチレン類、ジメチルスチレン類、トリメチルスチレン類、ペンタメチルスチレン類、ジエチルスチレン類、イソプロピルスチレン類、ブチルスチレン類(3-tert-ブチルスチレン、4-tert-ブチルスチレンなど)などのアルキルスチレン、クロロスチレン類、ジクロロスチレン類、トリクロロスチレン類、ブロモスチレン類(2-ブロモスチレン、3-ブロモスチレン、4-ブロモスチレンなど)、フルオロスチレン類(2-フルオロスチレン、3-フルオロスチレン、4-フルオロスチレン)などのハロゲン化スチレン、メトキシスチレン類、メトキシメチルスチレン類、ジメトキシスチレン類、エトキシスチレン類、ビニルフェニルアリルエーテル類などのアルコキシスチレン、ヒドロキシスチレン類、メトキシヒドロキシスチレン類、アセトキシスチレン類、ビニルベンジルアルキルエーテル類などのヒドロキシスチレン誘導体、ビニル安息香酸類、ホルミルスチレン類などのカルボキシスチレン誘導体、ニトロスチレン類などのニトロスチレン、アミノスチレン類、ジメチルアミノスチレン類などのアミノスチレン誘導体、ビニルベンジルスルホン酸類、スチレンスルホニルフルオリド類などのイオンを含むスチレン誘導体からなる群から選択されるモノマーであり、
上記B群の多官能性モノマーが、ビス(ビニルフェニル)エタン、ジビニルベンゼン、2,4,6-トリアリロキシ-1,3,5-トリアジン(トリアリルシアヌレート)、トリアリル-1,2,4-ベンゼントリカルボキシレート(トリアリルトリメリテート)、ジアリルエーテル、トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリワン、2,3-ジフェニルブタジエン、1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン、1,4-ジビニルオクタフルオロブタン、ビス(ビニルフェニル)メタン、ジビニルアセチレン、ジビニルスルフィド、ジビニルスルフォン、ジビニルエーテル、ジビニルスルホキシド、イソプレン、1,5-ヘキサジエン、ブタジエン、1,4-ジビニル-2,3,5,6-テトラクロルベンゼンからなる群から選択される架橋剤であり、
上記C群のスルホニルビニルモノマーが、スルホニルビニルモノマーである、CF2=CF(SO2X1)(式中、X1はハロゲン基で-F又は-Clである)、CH2=CF(SO2X1)(式中、X1はハロゲン基で-F又は-Clである)、CF2=CF(O(CF2)14SO2X1)(式中、X1はハロゲン基で-F又は-Clである)、CF2=CF(OCH2(CF2)14SO2X1)(式中、X1はハロゲン基で-F又は-Clである)、CF2=CF(SO2R1)(式中、R1はアルキル基で-CH3、- C2H5、または-C(CH3)3である)、CH2=CF(SO2R1) (式中、R1はアルキル基で-CH3、- C2H5、または-C(CH3)3である)、CF2=CF(OCH2(CF2)14SO2X1) (式中、R1はアルキル基で-CH3、- C2H5、または-C(CH3)3である)からなる群から選択されるモノマーである、上記電解質膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、高分子フイルム基材がオレフィン系高分子もしくはフッ素系高分子からなる燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項5】
上記の請求項1〜4のいずれかにおいて得られたグラフト重合体のグラフト率が6〜120%、イオン交換容量が0.3〜4.0 meq/gであることを特徴とする燃料電池用高分子電解質膜。















【公開番号】特開2006−179301(P2006−179301A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371249(P2004−371249)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 高分子学会発行、高分子学会予稿集 53巻2号、平成16年9月1日発行 第20回日本イオン交換研究発表会実行委員長発行、第20回日本イオン交換研究発表会 講演要旨集、平成16年9月24日発行 第47回放射線化学討論会事務局発行、第47回放射線化学討論会講演要旨集、2004年10月9日発行 社団法人 高分子学会発行、第13回ポリマー材料フォーラム要旨集、平成16年10月28日発行 (社)電気化学会電池技術委員会発行、第45回電池討論会 講演要旨集、平成16年11月27日発行
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】