説明

架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子

【課題】分散媒中での沈降が少なく、かつ分散安定性や再分散性に優れた(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸エステル系単量体と架橋剤とを含む重合性単量体組成物を重合することにより得られる樹脂粒子であり、前記樹脂粒子が0.90〜1.04g/cm3の真密度を有することを特徴とする架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料用添加剤、艶消し剤、化粧品、フィルム等の表面処理剤ないし内添剤、コーティング材、電気泳動表示装置、流体可視化剤等に好適に用いられる架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、塗料用添加剤、艶消し剤、化粧品、フィルム等の表面処理剤ないし内添剤、コーティング材、電気泳動表示装置、流体可視化剤等種々の分野で利用されている。
(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、一般的に添加剤として各種分散媒に分散されることにより使用される。しかし、従来の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、分散媒との比重差が非常に大きいため、分散後、時間の経過に連れて分散媒中で沈降凝集しやすく、再分散性も悪化するという問題があった。
【0003】
このような問題を改善する従来技術としては、樹脂粒子に空隙を生じさせて内部を中空にすることにより樹脂粒子の見かけ比重を小さくして、樹脂粒子の長期的な分散性を確保させたものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−20604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の方法では、樹脂粒子に存在する空隙の数や量を正確に調整することが非常に困難なため、得られた樹脂粒子の各粒子間に大きな比重分布が生じてしまい、分散媒中で浮遊する樹脂粒子や沈降する樹脂粒子があり、樹脂粒子全体としての分散安定性が優れないことが分かった。また、製造する際、臭気を伴う溶剤を使用するため、品質の安定した樹脂粒子を提供することが困難なことが分かった。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、その目的とするところは、分散媒中での沈降が少なく、かつ分散安定性や再分散性に優れた(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かくして本発明によれば、(メタ)アクリル酸エステル系単量体と架橋剤とを含む重合性単量体組成物を重合することにより得られる樹脂粒子であり、前記樹脂粒子が0.90〜1.04g/cm3の真密度を有することを特徴とする架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明による架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、分散媒中での沈降が少なく、かつ分散安定性や再分散性に優れ、塗料用添加剤、艶消し剤、化粧品、フィルム等の表面処理剤ないし内添剤、コーティング材、電気泳動表示装置、流体可視化剤等として好適に用いられる。
【0009】
また、(メタ)アクリル酸エステル系単量体が、炭素数が8〜20の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する場合、更に分散媒中での沈降が少なく、かつ分散安定性や再分散性に優れた架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が得られる。
【0010】
また、架橋剤が、ビニル基を2個以上有する多官能性ビニル系単量体であり、重合性単量体組成物100重量%中1〜30重量%混合される場合、更に分散媒中での沈降が少なく、かつ分散安定性や再分散性に優れた架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子(以下、単に樹脂粒子ともいう)は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体と架橋剤とを含む重合性単量体組成物を重合することにより得られる樹脂粒子であり、その真密度は0.90〜1.04g/cm3である。(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを示す。また、真密度とは、物質自身が占める体積だけを密度算定用の体積とする密度のことを言う。真密度の測定方法については、実施例において述べる。
一般的な架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子(例えば、メタクリル酸メチル粒子)の真密度は約1.2g/cm3であり、このような真密度の粒子は、分散媒中で沈降凝集してしまい、沈降凝集した樹脂粒子は再分散性に劣るものとなる。本発明の発明者等は、真密度を0.90〜1.04g/cm3の範囲に調整することで、分散媒中での沈降凝集を抑制できることを意外にも見出している。
【0012】
真密度が0.90g/cm3未満だと、分子量が小さくなり、樹脂粒子を安定して製造することが困難となる場合がある。また、分散媒の種類によっては、樹脂粒子と分散媒との比重差により、ほとんどの樹脂粒子が分散媒中で浮遊することとなって、分散安定性が悪くなる場合がある。また、真密度が1.04g/cm3を超えると、分散媒中での樹脂粒子の沈降速度が速くなり、沈降凝集等が発生して、分散安定性が悪くなる場合がある。
樹脂粒子は、中実粒子でも、中空粒子でも、多孔質粒子でもよい。このうち、中実粒子であることが各樹脂粒子の間で大きな比重分布を生じさせずに均一な分散性を得るという観点から好ましい。ここで、中実とは、実質的に空間の存在しないことを意味し、意図せず形成された空間を含んでいてもよい。
【0013】
架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径は、0.2〜50μmが好ましい。より好ましくは、1〜30μmである。平均粒子径が0.2μm未満では、微粉体であるためにハンドリング性が悪化する場合がある。一方、50μmを超えると、分散媒との比重差が小さい場合でも粒子径が大きいため沈降速度が速くなり分散媒中で直ぐに沈降してしまう場合がある。
【0014】
架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、単分散性に優れていることが好ましい。ここで言う単分散性とは、粒子の大きさが略均一であって凝集せずに散らばりやすい状態のことを指す。単分散性の1つの指標となる粒度分布において、変動係数(CV値)が40%以下であることが好ましい。より好ましくは、30%以下である。CV値が40%を超えると、各樹脂粒子の大きさが異なることにより、分散媒中における各樹脂粒子の沈降度合いにバラツキが生じる場合がある。なお、CV値測定方法については、実施例において述べる。
【0015】
架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を少なくとも一種類以上含むビニル系重合性単量体に架橋剤が混合された重合性単量体組成物を重合することによって得られる。
(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体としては、重合可能なものであれば特に限定されるものではないが、炭素数が8〜20である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体であれば、より好ましい。このような単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸i−オクチル、(メタ)アクリル酸i−ノニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリルが挙げられる。これらの単量体から1種のみ使用しても又は2種以上を併用してもよい。
【0016】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体の添加量は、ビニル系重合性単量体及び架橋剤を含む重合性単量体組成物100重量%中、50〜99重量%が好ましい。より好ましくは、60〜97重量%である。50重量%未満では、重合によって製造された樹脂粒子の真密度が大きくなってしまい、分散媒中での樹脂粒子の沈降速度が速くなり、沈降凝集等が発生する場合がある。一方、99重量%を越えると、架橋剤の使用の有無に関係なく、得られる樹脂のガラス転移温度が低くなり、また耐溶剤性も低くなるため、一般的な使用条件下での製造及び使用が困難となる場合がある。
【0017】
その他のビニル系重合性単量体としては、得られる樹脂粒子が所定の真密度(0.90〜1.04g/cm3)となるのを妨げない範囲で、広く一般的に用いられる各種ビニル系単量体を使用することができる。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、ヘプチルスチレン、オクチルスチレン等のアルキルスチレン;フルオロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ヨウ化スチレン;ニトロスチレン、アセチルスチレン、メトキシスチレン等の置換スチレン等のスチレン系単量体等を1種のみで又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
その他のビニル系重合性単量体の添加量は、ビニル系重合性単量体及び架橋剤を混合した重合性単量体組成物100重量%中、40重量%以下が好ましい。より好ましくは、30重量%以下である。添加量が40重量%を超えると、得られる樹脂粒子の真密度が大きくなるので、分散媒中での樹脂粒子の沈降速度が速くなり、沈降凝集等が発生する場合がある。
【0019】
架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を製造する際に、耐溶剤性や耐熱性を付与するために用いられる架橋剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、これらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリルメタクリレート、t−ブチルアミノエチルメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート等のビニル基を2個以上有する化合物が挙げられる。
【0020】
架橋剤の添加量は、ビニル系重合性単量体及び架橋剤を混合した重合性単量体組成物100重量%中、1〜30重量%が好ましい。より好ましくは、5〜20重量%である。架橋剤の添加量が1重量%未満では、樹脂の架橋度が低く、また耐溶剤が低くなるため、得られる樹脂粒子が膨潤することや一部溶解することがあり、また樹脂粒子同士が合着することがある。また、架橋剤の添加量が30重量%を超えると、架橋剤により樹脂密度が高くなり、得られる樹脂粒子の真密度が大きくなることにより、分散媒中での樹脂粒子の沈降速度が速くなり、沈降凝集等を生ずる場合がある。
【0021】
架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を得るための重合性単量体組成物を重合する方法としては、公知の重合方法、例えば懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法等を用いることができる。以下懸濁重合法による(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法の一例について説明するが、本発明は、この製造方法のみに限定されるものではない。
【0022】
重合性単量体に重合開始剤、架橋剤、界面活性剤等を添加、混合することにより重合性単量体組成物が得られる。得られた重合性単量体組成物は、水系分散媒に懸濁される。ここで、懸濁した粒子の安定化を図るために、重合性単量体組成物100重量部に対して、水系分散媒は100〜1000重量部使用するのが好ましい。なお、水系分散媒としては、水、又は水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合物が挙げられる。
懸濁安定剤は、重合性単量体組成物の添加前に水系分散媒へ添加することが好ましい。懸濁重合は、水系分散媒を、例えば40〜120℃、好ましくは45〜110℃の温度に加熱することにより行うことができる。懸濁重合が完了した後、得られた樹脂粒子を水系分散媒中より分離、洗浄、乾燥した後、必要に応じて分級工程を経て、所望粒径の樹脂粒子を得ることができる。
【0023】
懸濁安定剤としては、目的とする樹脂粒子が得られるものであれば何ら制限されるものではないが、例えば、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛等のリン酸塩、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸アルミニウム、ピロリン酸亜鉛等のピロリン酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、コロイダルシリカ等難水溶性無機化合物の分散安定剤が挙げられる。なかでも、重合終了後に系のpHを調整することにより容易に溶解し、除去可能な無機化合物を用いるのがよい。例えば、第三リン酸カルシウムや複分解生成法によるピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウム、コロイダルシリカを使用すると、目的とする樹脂粒子をより安定的に得ることができるため好ましい。
【0024】
懸濁安定剤は、得られる樹脂粒子の粒子径が所定の大きさになるようにその組成や使用量を適宜調節して使用される。懸濁安定剤の添加量は、重合性単量体組成物100重量部に対して、0.1〜30重量部が好ましい。より好ましくは0.5〜20重量部である。
【0025】
分散媒に水系分散媒を用いる場合には、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等の界面活性剤が添加されてもよい。界面活性剤の添加量は、重合性単量体組成物100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましい。より好ましくは0.02〜3重量部である。
【0026】
アニオン性界面活性剤としては、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリ等の脂肪酸油、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0027】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミンオキサイドや、リン酸エステル系又は亜リン酸エステル系界面活性剤が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレン−オキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
【0028】
重合に用いる重合開始剤としては、通常懸濁重合に用いられる油溶性の過酸化物系あるいはアゾ系開始剤が用いられる。一例を挙げると、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化オクタノイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、キュメンハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の過酸化物系開始剤、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2,3−ジメチルブチロニトリル)、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2−アゾビス(2,3,3−トリアゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2−アゾビス(2,3,3−トリメチルブチロニトリル)、2,2−アゾビス(2−イソプロピルブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、4,4−アゾビス(4−シアノバレリン酸)、ジメチル−2,2−アゾビスイソブチレート等がある。重合開始剤の添加量は、重合性単量体組成物100重量部に対して、0.05〜10重量部が好ましい。特に、0.1〜5重量部が好ましい。
【0029】
重合完了後、樹脂粒子は、必要に応じて遠心分離されて水性媒体が除去され、水及び溶剤で洗浄された後、乾燥、単離される。本発明で行われる懸濁重合により、得られる樹脂粒子の水系分散媒からの単離方法は、特に限定されるものではないが、公知の方法として例えば、スプレードライヤーに代表される噴霧乾燥法、ドラムドライヤーに代表される加熱された回転ドラムに付着させて乾燥する方法又は凍結乾燥法が挙げられる。
【0030】
また、上記重合工程において水系での乳化粒子の発生を抑えるために、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤が用いられてもよい。
得られる架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、光拡散性が良好であることに基づいて塗料用添加剤、艶消し剤、化粧品、フィルム等の表面処理剤ないし内添剤、コーティング材等として使用することができ、分散媒への分散性が良好であることに基づいて電気泳動表示装置、流体可視化剤(例えば、水中における水流の方向を可視化するための剤)等として使用することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
まず、平均粒子径及びCV値の測定方法、真密度の測定方法、分散安定性の評価方法について説明する。
【0033】
(平均粒子径及びCV値の測定方法)
樹脂粒子の平均粒子径の測定方法は、Coulter Electronics Limited発行のReference MANUAL FOR THE COULTER MULTISIZER(1987)に従って、粒子サイズに適した細孔径サイズを有するアパチャーを用いてキャリブレーションを行う方法とする。使用するアパチャーの細孔径サイズは、平均粒子径が1〜10μm未満の樹脂粒子に対しては50μmのものを、平均粒子径が10〜30μm未満の樹脂粒子に対しては100μmのものを、平均粒子径が30〜90μm未満の樹脂粒子に対しては280μmのものを用いる。
測定には、精密粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製: コールターマルチサイザーIII)が用いられる。具体的には、重合後の樹脂粒子懸濁液0.1gを0.1%ノニオン系界面活性剤溶液10ml中にタッチミキサー及び超音波を用いて予備分散させ、これを本体備え付けのISOTONII(ベックマンコールター社製測定用電解液)を満たしたビーカー中に、緩く攪拌しながらスポイドで滴下して、本体画面の濃度計の示度を10%前後に合わせる。次にマルチサイザーIII本体にアパチャーサイズXμmをセットし、Current、Gain、Polarityをアパチャーサイズに合わせた所定の条件で測定を行う。測定中は気泡が入らない程度にビーカー内を緩く攪拌しておき、樹脂粒子を10万個測定した時点で測定を終了する。
【0034】
体積加重の平均径(体積%モードの算術平均径:体積メジアン径)を樹脂粒子の平均粒子径(Y)として算出する。
変動係数(CV値)とは、標準偏差(σ)及び上記平均粒子径(Y)から以下の式により算出された値である。
CV値(%)=(σ/Y)×100
【0035】
(真密度の測定)
島津製作所−マイクロメリティックス社製 乾式密度計アキュピック1330(気体置換法)を用い、樹脂粒子4gを10ccセルに採り、繰り返し5回以上測定し、その平均値を求める。
【0036】
(分散安定性の評価)
分散媒中における樹脂粒子の分散安定性評価については、有機分散媒系及び/又は水系分散媒系における樹脂粒子の沈降状態を観察することにより行う。具体的には次の方法により行う。
【0037】
(有機分散媒系における沈降性評価)
樹脂粒子10重量部、バインダー樹脂(東洋紡社製:バイロン200)50重量部、トルエン100重量部及びメチルエチルケトン20重量部の割合で配合し、マグネチックスターラー(柴田科学機器工業社:MGP−301)により5分間撹拌したものを測定用試料とする。測定用試料50mlを50mlメスシリンダーに移し、密封、恒温下で静置48時間経過後の樹脂粒子の沈降状態を観察し、下記3段階の評価基準を基に評価する。
(評価基準)
◎:樹脂粒子の沈殿がほとんどなく、また無色透明な上澄み部分が10%未満
○:樹脂粒子の沈殿が若干見られるものの、無色透明な上澄み部分が40%未満
×:樹脂粒子が沈殿しており、無色透明な上澄み部分が40%以上
【0038】
(水系分散媒系における沈降性評価)
樹脂粒子0.1gが配合された蒸留水50mlを100mlビーカーに投入し、マグネチックスターラー(柴田科学機器工業社:MGP−301)により5分間撹拌したものを測定用試料とする。測定用試料50mlを50mlメスシリンダーに移し、静置30分経過後の樹脂粒子の沈降状態を観察し、下記3段階の評価基準を基に評価する。
(評価基準)
◎:樹脂粒子の沈殿がほとんどなく、また無色透明な上澄み部分が10%未満
○:樹脂粒子の沈殿が若干見られるものの、無色透明な上澄み部分が40%未満
×:樹脂粒子が沈殿しており、無色透明な上澄み部分が40%以上
以下に実施例及び比較例について説明する。なお、特にことわりのない限り「部」は重量部、「%」は重量%を意味するものである。
【0039】
(実施例1)
アクリル酸イソステアリル(大阪有機化学社製)90%、エチレングリコールジメタクリレート(商品名:ライトエステルEG 共栄社化学社製)10%を用いて重合性単量体組成物を調製した。
この重合性単量体組成物100重量部に、ABNV(日本ヒドラジン工業社製)0.5部及び過酸化ベンゾイル(商品名ナイパーBW 日油社製)0.3部を添加し溶解させた。次に、あらかじめ調整された0.03%のラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムと2.5%のピロリン酸マグネシウムを分散した水500重量部に投入し、T.K.ホモミキサー(特殊機化工業社製)を用い液滴径が8μm程度になるように調製した。
この懸濁液を窒素雰囲気下で、全体を均一に撹拌しながら昇温して、60℃で5時間重合を行った。更に、この懸濁液を105℃に昇温して、1時間重合を継続した。次いで常温まで冷却し、塩酸を添加して懸濁安定剤としてのピロリン酸マグネシウムを溶解させた。次いで、固液分離、水洗浄を繰り返し行い、70℃の熱風乾燥機で24時間乾燥し、樹脂粒子を得た。
【0040】
得られた樹脂粒子は、平均粒子径が8.1μm、CV値が29.2%、真密度が0.98g/cm3であった。また、有機分散媒系における沈降性評価においては、分散安定性に優れ、粒子の沈殿がほとんどなく、また無色透明な上澄み部分が10%未満(◎)であった。
【0041】
(実施例2)
重合性単量体をアクリル酸イソステアリルからアクリル酸ラウリル(大阪有機化学社製)に変更し、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムの水への配合量を0.03%から0.015%に変更し、T.K.ホモミキサー(特殊機化工業製)を用い液滴径が35μm程度になるように調製したこと以外は、実施例1と同様の操作で樹脂粒子を得た。
得られた樹脂粒子は、平均粒子径が33.0μm、CV値が34.7%、真密度が0.99g/cm3であった。また、有機分散媒系における沈降性評価においては、分散安定性に優れ、粒子の沈殿が若干見られているものの、無色透明な上澄み部分が40%未満(○)であった。
【0042】
(実施例3)
重合性単量体をアクリル酸イソステアリルからアクリル酸イソオクチル(大阪有機化学社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作で樹脂粒子を得た。
得られた樹脂粒子は、平均粒子径が7.8μm、CV値が28.3%、真密度が1.02g/cm3であった。また、有機分散媒系における沈降性評価においては、分散安定性に優れ、粒子の沈殿が若干見られているものの、無色透明な上澄み部分が40%未満(○)であった。
【0043】
(実施例4)
重合性単量体組成物をアクリル酸イソステアリル80%、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル(商品名:ライトエステルHOB 共栄社化学社製)15%、エチレングリコールジメタクリレート5%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作で樹脂粒子を得た。
得られた樹脂粒子は、平均粒子径が7.5μm、CV値が24.7%、真密度が1.01g/cm3であった。また、有機分散媒系及び水系分散媒系における沈降性評価においては、分散安定性に優れ、粒子の沈殿が若干見られているものの、無色透明な上澄み部分が40%未満(○)であった。
【0044】
(実施例5)
重合性単量体組成物をアクリル酸イソステアリル70%、エチレングリコールジメタクリレート30%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作で樹脂粒子を得た。
得られた樹脂粒子は、平均粒子径が7.6μm、CV値が27.6%、真密度が1.03g/cm3であった。また、有機分散媒系における沈降性評価においては、分散安定性に優れ、粒子の沈殿が若干見られているものの、無色透明な上澄み部分が40%未満(○)であった。
【0045】
(実施例6)
重合性単量体組成物をアクリル酸イソステアリル60%、メタクリル酸メチル25%、スチレン10%、エチレングリコールジメタクリレート5%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作で樹脂粒子を得た。
得られた樹脂粒子は、平均粒子径が7.8μm、CV値が28.1%、真密度が1.04g/cm3であった。また、有機分散媒系における沈降性評価においては、分散安定性に優れ、粒子の沈殿が若干見られているものの、無色透明な上澄み部分が40%未満(○)であった。
【0046】
(比較例1)
重合性単量体をアクリル酸イソステアリルからメタクリル酸メチル(三菱レイヨン社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作で樹脂粒子を得た。
得られた樹脂粒子は、平均粒子径が7.4μm、CV値が25.3%、真密度が1.23g/cm3であった。また、有機分散媒系における沈降性評価においては、樹脂粒子が沈殿しており、無色透明な上澄み部分が40%以上(×)であった。
【0047】
(比較例2)
重合性単量体組成物をメタクリル酸n-ブチル60%、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)40%に変更し、T.K.ホモミキサー(特殊機化工業製)を用い液滴径が2.5μm程度になるように調製したこと以外は、実施例1と同様の操作で樹脂粒子を得た。
得られた樹脂粒子は、平均粒子径が2.4μm、CV値が30.4%、真密度が1.20g/cm3であった。また、有機分散媒系における沈降性評価においては、樹脂粒子が沈殿しており、無色透明な上澄み部分が40%以上(×)であった。
【0048】
(比較例3)
重合性単量体組成物をアクリル酸イソステアリル48%、メタクリル酸メチル25%、スチレン17%、エチレングリコールジメタクリレート10%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作で樹脂粒子を得た。
得られた樹脂粒子は、平均粒子径が7.3μm、CV値が27.2%、真密度が1.06g/cm3であった。また、有機分散媒系における沈降性評価においては、樹脂粒子が沈殿しており、無色透明な上澄み部分が40%以上(×)であった。
【0049】
(比較例4)
重合性単量体組成物をアクリル酸イソステアリル40%、メタクリル酸メチル40%、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル15%、エチレングリコールジメタクリレート5%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作で樹脂粒子を得た。
得られた樹脂粒子は、平均粒子径が7.4μm、CV値が29.6%、真密度が1.10g/cm3であった。また、有機分散媒系及び水系分散媒系における沈降性評価においては、樹脂粒子が沈殿しており、無色透明な上澄み部分が40%以上(×)であった。
【0050】
(比較例5)
重合性単量体組成物をアクリル酸イソステアリル45%、メタクリル酸n-ブチル55%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。しかし、重合後に取り出す際、重合体のガラス転移点が低いため粒子形状として得られなかった。なお、得られた重合体の真密度は1.07g/cm3であった。
【0051】
(比較例6)
重合性単量体組成物をスチレン99%、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)1%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作で樹脂粒子を得た。
得られた樹脂粒子は、平均粒子径が9.3μm、CV値が28.1%、真密度が1.05g/cm3であった。また、有機分散媒系及び水系分散媒系における沈降性評価においては、樹脂粒子が沈殿しており、無色透明な上澄み部分が40%以上(×)であった。
実施例1〜6及び比較例1〜6の結果について、表1にまとめて示す。
【0052】
【表1】

ISTA:アクリル酸イソステアリル
LA:アクリル酸ラウリル
IOAA:アクリル酸イソオクチル
BMA:メタクリル酸n-ブチル
HBMA:メタクリル酸2-ヒドロキシブチル
MMA:メタクリル酸メチル
EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート
St:スチレン
【0053】
比較例1〜6の評価は、樹脂粒子の真密度が1.04g/cm3を超えていたことが原因だと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体と架橋剤とを含む重合性単量体組成物を重合することにより得られる樹脂粒子であり、前記樹脂粒子が0.90〜1.04g/cm3の真密度を有することを特徴とする架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体が、炭素数が8〜20の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する請求項1に記載の架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子。
【請求項3】
前記架橋剤が、ビニル基を2個以上有する多官能性ビニル系単量体であり、前記重合性単量体組成物100重量%中1〜30重量%混合される請求項1又は2に記載の架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子。

【公開番号】特開2011−153217(P2011−153217A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15545(P2010−15545)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】