説明

架空線用低風圧絶縁電線

【課題】風圧荷重の低減、加工速度の向上、CD値の増大の抑制、及び一定角度において発生する風切音を低減することが可能な架空線用低風圧絶縁電線を提供する。
【解決手段】架空線用低風圧絶縁電線100は、複数の導体1と、複数の導体1を被覆する架橋ポリエチレンからなる絶縁被覆2とを有し、絶縁被覆2の外周面(全表面)には、長手方向Lに連続し、長手方向に直交する円周方向Cに一定の間隔で設けられる4本の線状突起3と、線状突起3の形成部分を除く表面で、かつ線状突起3の間に楕円状の粒状突起4が間隔をおき多数設けられて列を形成し複数の列を構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体に絶縁被覆を施した絶縁電線に関し、特に、屋外で電柱や鉄塔などの構造物に架線して使用する際、強風に曝されたときに生ずる風圧を低減させることのできる架空線用低風圧絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、屋外等で配電用又は送電用として架線される絶縁電線に対して台風などによる強風が作用すると、風圧荷重が風速とともに増加し、電柱の倒壊や電線の断線といった多大な被害をもたらす場合がある。そして、この電線の風圧荷重は、FX=(1/2)・ρ・V2・A・CDという式を用いて求められることが知られている。ここで、FXは風圧荷重値、ρは空気密度、Vは風速、Aは電線の断面高さ(外径)、CDは抗力係数である。
【0003】
上記各種パラメータのうち、いずれかを小さくすれば、風圧荷重を小さくすることが可能となる。電線により制御し得るパラメータはAとCDであるが、Aは通電容量との関係で決まる導体サイズに所定の厚さの絶縁体を被覆する必要があるため、小さくするには限界がある。したがって、風圧荷重を小さくするためには、主にCD値を小さくするための対策が講じられている。
【0004】
風圧荷重を小さくした絶縁電線として、例えば、電柱に架線されて電力を供給する低風圧絶縁電線があり、この低風圧絶縁電線は、絶縁被覆の表面に、直径0.7〜1.5mmで高さ0.1〜0.5mmの複数のエンボス突起が円周方向及び長手方向に連続的に形成された構成を有している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3954536号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の低風圧絶縁電線によると、加工速度を早くすると所定の突起の高さが確保できない領域が発生するため、表面が平滑でエンボス突起を有しない通常の電線に比べ、加工速度が遅くなり、生産性の面で問題があった。
【0006】
低風圧絶縁電線は、絶縁被覆の表面に複数のロールを押し付けて製造するが、所定の突起形状が得られるよう鮮明に成型しようとしてロールを強く押し過ぎると、ロールとロールの境目の部分において変形が起こり、風に対する電線の角度によりCD値、揚力係数(CL値)の変動が大きくなり、CD値の平均値が増大する要因になっていた。また、突起を大きく(直径、高さ)設けようとした場合にも同様にCD値が上昇する傾向にあった。
【0007】
更に、ロールとロールの境目の部分における突起の高さが低い場合(所定の高さに満たない領域)、あるいは突起が無い場合(非突起部領域)、この部分が風上に対し、ある一定角度に位置する際、高周波の風切音が発生することがあった。
【0008】
従って、本発明の目的は、風圧荷重の低減、加工速度の向上、CD値の増大の抑制、及び一定角度において発生する風切音を低減することが可能な架空線用低風圧絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するため、導体の外周面に形成された絶縁被覆の表面に、その長手方向に沿って連続する線状突起を円周方向に所定の間隔で複数箇所に設け、前記線状突起の間の前記絶縁被覆の全表面に前記長手方向に沿って多数の粒状突起が一定間隔で配列される複数の列を前記絶縁被覆の全表面を取り囲むように設けて粒状突起形成領域とし、前記粒状突起形成領域は、前記複数の列における任意の列(n列)と、その列と隣り合う列(n+1列)とで前記粒状突起の配列が1/2間隔だけずれ、前記n列とn+2列とで粒状突起の配列が同一となるように設けられることを特徴とする架空線用低風圧絶縁電線を提供する。
【0010】
また、本発明は上記目的を達成するため、導体の外周面に形成された絶縁被覆の表面に、その長手方向に沿って連続する線状突起を円周方向に所定の間隔で複数箇所に設け、前記線状突起の間の前記絶縁被覆の全表面に前記長手方向に沿って多数の楕円状突起が一定間隔で配列される複数の列を前記絶縁被覆の全表面を取り囲むように設けて楕円状突起形成領域とし、前記楕円状突起形成領域は、前記複数の列における任意の列(n列)と、その列と隣り合う列(n+1列)とで前記楕円状突起の配列が1/2間隔だけずれ、前記n列とn+2列とで楕円状突起の配列が同一となるように設けられることを特徴とする架空線用低風圧絶縁電線を提供する。
【0011】
更に、本発明は上記目的を達成するため、導体の外周面に形成された絶縁被覆の表面に、その長手方向に沿って連続する線状突起を円周方向に所定の間隔で複数箇所に設け、前記線状突起の間の前記絶縁被覆の全表面に前記長手方向に沿って多数の楕円状突起が一定間隔で配列される複数の列を前記絶縁被覆の全表面を取り囲むように設けて楕円状突起形成領域とし、前記楕円状突起形成領域は、前記複数の列における任意の列(n列)と、その列と隣り合う列(n+1列)とで前記楕円状突起の配列が1/m間隔だけずれ、前記n列とn+m列とで楕円状突起の配列が同一となるように設けられることを特徴とする提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の架空線用低風圧絶縁電線によれば、風圧荷重の低減、加工速度の向上、CD値の増大の抑制、及び一定角度において発生する風切音を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る架空線用低風圧絶縁電線の斜視図である。
【0014】
この架空線用低風圧絶縁電線100は、複数の導体1と、複数の導体1を被覆する架橋ポリエチレンからなる絶縁被覆2とを有し、絶縁被覆2の外周面(表面)には、長手方向Lに連続し、長手方向Lに直交する円周方向Cに一定の間隔で設けられる4本の線状突起3が形成されている。さらに、その線状突起3の形成部分を除いた4本の線状突起3の間のその絶縁被覆2の全表面(外周面)には楕円状の粒状突起4が、長手方向Lに線状突起3と平行な状態で、かつその絶縁被覆2の全表面を取り囲むように一定間隔おきに独立した状態で配列して多数設けられ、4箇所からなる楕円状の粒状突起形成領域を構成している。この楕円状の粒状突起形成領域は、任意の列(n列)と、その列と隣り合う列(n+1列)とで楕円状の粒状突起4の配列が1/2間隔だけずれ、n列とn+2列とで楕円状の粒状突起4の配列が同一となるように設けられる。また、線状突起3は絶縁被覆2の円周方向Cに等間隔に設けているが、その等間隔に設けた線状突起3の隣に間隔をおかずに設けて(線状突起3の間に楕円状の粒状突起4がない)も良い。なお、本実施の形態において19本の導体1が設けられているが、導体1はこの本数に限定されない。
【0015】
架空線用低風圧絶縁電線100は、電力用規格C−107に規定される屋外用架橋ポリエチレン絶縁電線として使用されるが、布設される場所によっては、架空送電線及び架空配電線としての用途がある。
【0016】
また、架空線用低風圧絶縁電線100は、電気設備技術基準及びJIS C3105などの規定により、導体1の外径と絶縁被覆2の厚さから求められる最小外径及び最大外径の目安は、最小外径が9mm、最大外径が40mmである。この最大外径は、電気設備技術基準第86条(低高圧架空電線と植物との離隔距離)を満足する寸法となっている。特に、本実施の形態に係る架空線用低風圧絶縁電線100は、強風時の風圧荷重を低減する低風圧電線に適している。
【0017】
なお、架空線用低風圧絶縁電線100のような低風圧特性を有する絶縁電線は、使用電圧によって絶縁被覆2の最小厚さが「電気設備技術基準」に規定されており、その使用電圧に耐えて絶縁破壊を起こさない絶縁被覆2の厚さを保障することが要求されている。
【0018】
線状突起3は、架空線用低風圧絶縁電線100の長手方向Lに沿って直線状に均一な高さで設けられるとともに、絶縁被覆2の円周方向Cに90度間隔で4本が設けられている。この線状突起3は、半円状(半球状)又は半楕円状の断面形状を有し、幅が0.05〜1.5mm、高さ0.1〜0.5mmで、円形状又は楕円状などの粒状突起4の高さを超えないように設けられている。
【0019】
粒状突起4は、楕円状に形成されており、その外径は、例えば、長径が0.5〜3.0mm、短径が0.5〜3.0mmである。また、楕円状の粒状突起4は、高さを0.1〜0.6mmとすることで、CD値を好ましい値(例えば、0.85以下)にすることができる。本実施の形態では、粒状突起4は長径方向が架空線用低風圧絶縁電線100の長手方向Lに平行となるように設けられている。なお、粒状突起4は、楕円状に限るものではなく、例えば、直径が1.0〜3.0mm、高さが0.1〜0.6mmの円形状又は半円状(半球状)もしくは半楕円状のものであっても良い。
【0020】
図2(a)は、図1の架空線用低風圧絶縁電線の正面図、図2(b)は、図2(a)のA−A部における断面図である。
【0021】
図2(a)に示すように、楕円状の粒状突起4は、架空線用低風圧絶縁電線100の長手方向Lに沿って一定間隔Pで配列された楕円状の粒状突起4の列(n列)を絶縁被覆2の全表面(外周面)を取り囲むように形成して複数の列からなる楕円状の粒状突起形成領域を設けている。この楕円状の粒状突起形成領域の複数の列における任意の列(n列)と、n列に対して円周方向Cに隣り合う列(n+1列)とで粒状突起4の配列が1/2間隔だけずれ、更に(n+1)列に対して円周方向Cに隣り合う列(n+2列)とでは1/2間隔だけずれている。従って、n列と(n+2)列とを比較すると、楕円状の粒状突起4の配列が等しくなる。
【0022】
架空線用低風圧絶縁電線100の外径(9〜40mm)の30%以下となる間隔で、線状突起3の間の絶縁被覆の全表面に長手方向Lに楕円状の粒状突起4が隣接するように列を形成し、又は、線状突起3の間の絶縁被覆2の全表面(外周面)を取り囲むように円周方向Cに複数列が設けられた楕円状の粒状突起形成領域を設ける場合、その粒状突起形成領域は、絶縁被覆2の全表面積に対して、線状突起3の形成領域を除いた全ての領域(多数の独立した楕円状の粒状突起4により満たされている全部の表面積)において、その占める面積が28%〜55%以下となるように形成することで、CD値を好ましい値(例えば、0.85以下)にすることができる。
【0023】
なお、楕円状の粒状突起4からなる任意の列(n列)と、その列と隣り合う列(n+1列)とで楕円状の粒状突起4の配置を1/m間隔だけずらし、n列とn+m列とでの配列を同一とすることもできる。更に、楕円状の粒状突起4の大きさを均一とせず、例えば、直径1.5mmの楕円状の粒状突起4と、直径2mmの楕円状の粒状突起4を混在させて配置しても良い。また、楕円状の粒状突起4の高さを均一とせず、例えば、高さ0.3mmの楕円状の粒状突起4と、高さ0.5mmの楕円状の粒状突起4を混在させて配置しても良い。この場合、線状突起3の高さは、一番高い楕円状の粒状突起4の高さ以下で設けられる。
【0024】
次に、架空線用低風圧絶縁電線100の製造方法について説明する。
【0025】
まず、図2に示す絶縁被覆2及び線状突起3に対応した押出成型金型に導体1を通し、導体1の周囲に絶縁材料を押し出して絶縁被覆2を一体的に設けるとともに、その表面に所定の幅と高さを有する4つの線状突起3を、円周方向Cに等間隔となるように押出成型して楕円状の粒状突起のない絶縁電線を形成する。
【0026】
次に、それぞれが楕円状の粒状突起4に対応した多数の凹部を外周面に有する4本の加工ローラーを用いて、線状突起3が形成された絶縁電線に4本の加工ローラーを4方向から押し付ける。このとき、線状突起3が、楕円状の粒状突起4の形成領域である絶縁電線の表面と重ならず、4本の加工ローラーの境目に位置するように調整しておく。これにより、絶縁被覆2の表面に長手方向Lに沿って一定間隔おきに、かつ所定の平均直径と高さを有する多数の独立した楕円状の粒状突起4が付与された単独の列からなる複数の列が形成され、図1及び図2に示した架空線用低風圧絶縁電線100が得られる。
【0027】
加工ローラーを4つ使用することで、加工ローラーの端部近傍(90度加工の両端)の楕円状の粒状突起4の高さをほぼ均一に加工することができる。従って、加工ローラーを4つ以上使用することが好ましい。なお、加工ローラーは、最少3つの組み合わせから可能であるが、この場合、線状突起3の本数は加工ローラーと同数になる。加工ローラーが3つの場合、120度の範囲を1つの加工ローラーで加工することになる。
【0028】
本実施の形態によれば、絶縁被覆2の全表面に多数の独立した楕円状の粒状突起4と、この楕円状の粒状突起4の高さを超えず、所定の幅を有し、かつ長手方向Lに直線状に連続した線状突起3を設けているので、強風域(40m/s)の環境で使用されても、CD値を小さく抑えることができることから、その全長にわたって風圧荷重が小さく、かつ一定角度において発生する高周波の風切音の小さい架空線用低風圧絶縁電線100が得られる。また、線状突起3及び楕円状の粒状突起4の加工速度を早くしても、低風圧絶縁電線として充分なCD値の特性を確保できる形状の線状突起3及び楕円状の粒状突起4を安定して成形でき、効率良く架空線用低風圧絶縁電線100を製造することができる。
【0029】
なお、絶縁電線では、使用電圧に耐えて絶縁破壊を起こすことのない電気的特性を備えなければならず、風圧低減を図るものとして溝、穴等の加工によって絶縁被覆の厚さを減少させることは機械的強度の点からも好ましくない。また、楕円状の粒状突起4及び線状突起3の高さが大になると、電線接続部の防水処理に際して防水性の低下や、雨等の水分、塵埃の付着によって絶縁被覆の表面状態を良好に保つことが難しくなる。このことに対して、絶縁被覆の表面に高さ1mmを超えない粒状、楕円状、線状の突起を組み合わせて混在させることにより、電気的特性、機械的強度、及び良好な表面状態の確保を実現しつつ風圧低減を実現することができる。
【0030】
なお、上記した実施の形態で説明した楕円状の粒状突起4の長径方向が架空線用低風圧絶縁電線100の長手方向Lに対して所定の角度を有して設けられていても良い。また、線状突起3についても、絶縁被覆2の表面の円周方向Cに等間隔で設けるもの以外に、不等間隔で設けるものであっても良い。
【0031】
次に、本発明の架空線用低風圧絶縁電線の実施例について説明する。
【実施例】
【0032】
図3は、絶縁被覆の表面に4本の線状突起を設けず多数の楕円状の粒状突起を設けた参考例の低風圧絶縁電線の突起の直径と風速40m/sの条件下におけるCD値の関係を示す図である。なお、楕円状の粒状突起については、図1に示す架空線用低風圧絶縁電線100の製造方法と同様に形成したものである。
【0033】
図3に示すように、絶縁被覆の表面に4本の線状突起を設けずに多数の楕円状の粒状突起のみを有する参考例の低風圧絶縁電線では、粒状突起の直径に応じてCD値が変化する。粒状突起の直径が0.1〜1.3mmではCD値が低下する傾向を示すが、1.3mm以上ではCD値が増大する傾向を示した。このCD値の特性は、後述する図4の多数の円形状の粒状突起のみを有する比較例である従来の低風圧絶縁電線と同じ傾向を示し、同じ値であった。
【0034】
図4の実施例は、図1及び図2に示す絶縁被覆の表面に長手方向Lに沿って4本の線状突起を形成し、その線状突起の間の絶縁被覆の全表面に多数の楕円状の粒状突起を設けた架空線用低風圧絶縁電線100における楕円状の粒状突起の直径と風速40m/sの条件下でのCD値との関係を示す図である。なお、同図の比較例は、図3の絶縁被覆の表面に4本の線状突起を設けず多数の円形状の粒状突起のみを有する従来の低風圧絶縁電線を比較例として示している。
【0035】
図4に示すように、楕円状の粒状突起4の直径においては、比較例の従来の低風圧絶縁電線と、実施例の架空線用低風圧絶縁電線100とのCD値を比較すると、その値は異なるものの、ほぼ同様の傾向を示している。楕円状の粒状突起4の直径が2.0mm(長径方向)の場合、実施例の架空線用低風圧絶縁電線100ではCD値が0.8である。これに対して、比較例の従来の低風圧絶縁電線ではCD値が約0.9である。また、楕円状の粒状突起4の直径が3.0mm(長径方向)の場合、実施例の架空線用低風圧絶縁電線100ではCD値が0.82である。これに対して、比較例の従来の低風圧絶縁電線ではCD値が約0.92である。このことから、実施例の架空線用低風圧絶縁電線100では、4本の線状突起3によってCD値が減少し、風圧荷重が低減されていることがわかる。
【0036】
このように、線状突起3を設けた架空線用低風圧絶縁電線100のCD値が、線状突起3を設けない従来の低風圧絶縁電線との比較をすると、その値の変化において同様の傾向を示すとともに、線状突起3を有していることに起因する効果分だけCD値が低下することがわかった。このように線状突起3を併設した実施例の架空線用低風圧絶縁電線100においては、CD値を0.85以下にし得る楕円状の粒状突起4の最大径は約3.5mmの値である。ちなみに、線状突起3及び粒状突起4を有しない絶縁電線、すなわち、表面が平滑な円柱状の絶縁電線では、風速40m/sにおけるCD値は約1.2である。
【0037】
図5の実施例は、図4の実施例と同じ架空線用低風圧絶縁電線100であり、4本の線状突起の間の絶縁被覆の表面に設けた多数の楕円状の粒状突起の高さと風速40m/sの条件下におけるCD値の関係を示す図である。なお、比較例に用いた従来の低風圧絶縁電線は図4のものと同じである。
【0038】
図5より明らかなように、楕円状の粒状突起4の高さについては、比較例の従来の低風圧絶縁電線と、実施例の架空線用低風圧絶縁電線100とのCD値を比較すると、その値は異なるものの高さを大にすることでほぼ同様にCD値が低下する傾向を示している。実施例の架空線用低風圧絶縁電線100では、楕円状の粒状突起4の高さが0.1mmの場合、CD値が0.78であり、0.6mmではCD値が0.66である。これに対して、比較例の従来の低風圧絶縁電線では、楕円状の粒状突起4の高さが0.1mmの場合、CD値が0.8であり、0.6mmではCD値が0.7である。このことから、実施例の架空線用低風圧絶縁電線100では、4本の線状突起3によってCD値が減少し、風圧荷重が低減されていることがわかる。
【0039】
図6の実施例は、図4の実施例と同じ架空線用低風圧絶縁電線100であり、4本の線状突起からなる線状突起形成領域と、その線状突起の間にある絶縁被覆の全表面に複数列からなる多数の独立した楕円状の粒状突起により満たされている全部の表面積からなる楕円状突起形成領域において、その楕円状突起形成領域が絶縁被覆の全表面積に対して占める面積の割合と風速40m/sの条件下におけるCD値との関係を示す図である。なお、比較例に用いた従来の低風圧絶縁電線は図4のものと同じである。
【0040】
図6より明らかなように、楕円状突起形成領域の割合は、比較例の従来の低風圧絶縁電線と、実施例の架空線用低風圧絶縁電線100とのCD値を比較すると、その値は異なるものの、楕円状の粒状突起が形成される楕円状粒状突起形成領域の面積が大であるほど、ほぼ同様にCD値が低下する傾向を示している。実施例の架空線用低風圧絶縁電線100では、絶縁被覆の全表面積に対して楕円状粒状突起形成領域の占める面積が28〜55%の範囲において、28%の場合、CD値が0.79であり、55%では、CD値が0.8である。これに対して、比較例の従来の低風圧絶縁電線では、絶縁被覆の全表面積に対して楕円状粒状突起形成領域の占める面積が28〜55%の範囲において、28%の場合、CD値が0.86であり、55%では、CD値が0.85である。このことから、実施例の架空線用低風圧絶縁電線100では、4本の線状突起3によってCD値が減少し風圧荷重が低減されていることがわかる。
【0041】
図7の実施例は、図4の実施例と同じ架空線用低風圧絶縁電線100であり、4本の線状突起の間の絶縁被覆の表面に設けた多数の楕円状の粒状突起の列数と風速40m/sの条件下におけるCD値との関係を示す図である。絶縁被覆2の表面に形成される楕円状の粒状突起4については、長径が0.5〜3.0mm、短径が0.5〜3.0mmで、高さが0.1〜0.6mmで、架空線用低風圧絶縁電線100の外径(電線外径)の30%以下となる間隔で4本の線状突起の間の絶縁被覆の全表面に長手方向Lに隣接するように設けられて複数の列を形成している。なお、比較例に用いた従来の低風圧絶縁電線は、図4のものと同じである。
【0042】
図7より明らかなように、楕円状の粒状突起の列数は、比較例の従来の低風圧絶縁電線と、実施例の架空線用低風圧絶縁電線100とのCD値を比較すると、その値は異なるものの、ほぼ同様にCD値が低下していく傾向を示している。実施例の架空線用低風圧絶縁電線100では、16列の場合ではCD値が0.81であり、56列では0.79であり、60列では0.84の値である。これに対して、比較例の従来の低風圧絶縁電線では、16列の場合ではCD値が0.82であり、56列では0.8の値である。このことから、楕円状の粒状突起4の列を16〜60列で形成することにより、CD値を0.85以下の好ましいものとすることができる。実施例の架空線用低風圧絶縁電線100では、4本の線状突起3によってCD値が減少し風圧荷重が低減されていることがわかる。
【0043】
図8の実施例は、図4の実施例と同じ架空線用低風圧絶縁電線100であり、4本の線状突起の線状突起形成領域と、その線状突起の間にある絶縁被覆の全表面に複数列からなり、絶縁電線に対して長手方向に所定の間隔をおいて設けた多数の独立した楕円状の粒状突起で満たされた全面積の楕円状突起形成領域が設けられた絶縁電線の外径に対する楕円状の粒状突起の長手方向の間隔と風速40m/sの条件下におけるCD値との関係を示す図である。なお、比較例に用いた従来の低風圧絶縁電線は図4のものと同じである。
【0044】
図8より明らかなように、絶縁電線の外径に対する多数の独立した楕円状の粒状突起の間隔は、比較例の従来の低風圧絶縁電線と、実施例の架空線用低風圧絶縁電線100とのCD値を比較すると、その値は異なるものの、ほぼ同様に絶縁電線の外径に対して楕円状の粒状突起4の長手方向Lの間隔が大になると、CD値は増大する傾向を示している。例えば、楕円状の粒状突起4の間隔が20%の場合、実施例の架空線用低風圧絶縁電線100ではCD値が0.80である。これに対して、比較例の従来の低風圧絶縁電線ではCD値が0.82である。また、楕円状の粒状突起4の間隔が30%の場合、実施例の架空線用低風圧絶縁電線100ではCD値が0.84である。これに対して、比較例の従来の低風圧絶縁電線ではCD値が0.85である。このことから、実施例の架空線用低風圧絶縁電線100では、4本の線状突起3によってCD値が減少し風圧荷重が低減されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る架空線用低風圧絶縁電線の斜視図である。
【図2】図2(a)は、図1の架空線用低風圧絶縁電線の正面図、図2(b)は、図2(a)のA−A部における断面図である。
【図3】図3は、絶縁被覆に線状突起を設けず多数の楕円状の粒状突起を設けた参考例の低風圧絶縁電線における突起の直径と風速40m/sの条件下におけるCD値の関係を示す図である。
【図4】図4は、図1及び図2に示す実施例の架空線用低風圧絶縁電線と比較例の絶縁被覆に線状突起を設けず多数の円形状の粒状突起のみを有する従来の低風圧絶縁電線とにおける粒状突起の直径と風速40m/sの条件下におけるCD値との関係を示す図である。
【図5】図5は、図4の実施例の架空線用低風圧絶縁電線と比較例の従来の低風圧絶縁電線とにおける絶縁被覆に設ける粒状突起の高さと風速40m/sの条件下におけるCD値の関係を示す図である。
【図6】図6は、図4の実施例の架空線用低風圧絶縁電線と比較例の従来の低風圧絶縁電線とにおける絶縁電線の全表面積に対して粒状突起形成領域が占める面積の割合と風速40m/sの条件下におけるCD値との関係を示す図である。
【図7】図7は、図4の実施例の架空線用低風圧絶縁電線と比較例の従来の低風圧絶縁電線とにおける絶縁被覆に設けた粒状突起の列数と風速40m/sの条件下におけるCD値との関係を示す図である。
【図8】図4の実施例の架空線用低風圧絶縁電線と比較例の従来の低風圧絶縁電線とにおける絶縁電線の外径に対する粒状突起形成領域に設けた多数の粒状突起の長手方向の間隔と風速40m/sの条件下におけるCD値との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 導体
2 絶縁被覆
3 線状突起
4 楕円状の粒状突起
100 架空線用低風圧絶縁電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周面に形成された絶縁被覆の表面に、その長手方向に沿って連続する線状突起を円周方向に所定の間隔で複数箇所に設け、前記線状突起の間の前記絶縁被覆の全表面に前記長手方向に沿って多数の粒状突起が一定間隔で配列される複数の列を前記絶縁被覆の全表面を取り囲むように設けて粒状突起形成領域とし、前記粒状突起形成領域は、前記複数の列における任意の列(n列)と、その列と隣り合う列(n+1列)とで前記粒状突起の配列が1/2間隔だけずれ、前記n列とn+2列とで粒状突起の配列が同一となるように設けられることを特徴とする架空線用低風圧絶縁電線。
【請求項2】
導体の外周面に形成された絶縁被覆の表面に、その長手方向に沿って連続する線状突起を円周方向に所定の間隔で複数箇所に設け、前記線状突起の間の前記絶縁被覆の全表面に前記長手方向に沿って多数の楕円状突起が一定間隔で配列される複数の列を前記絶縁被覆の全表面を取り囲むように設けて楕円状突起形成領域とし、前記楕円状突起形成領域は、前記複数の列における任意の列(n列)と、その列と隣り合う列(n+1列)とで前記楕円状突起の配列が1/2間隔だけずれ、前記n列とn+2列とで楕円状突起の配列が同一となるように設けられることを特徴とする架空線用低風圧絶縁電線。
【請求項3】
導体の外周面に形成された絶縁被覆の表面に、その長手方向に沿って連続する線状突起を円周方向に所定の間隔で複数箇所に設け、前記線状突起の間の前記絶縁被覆の全表面に前記長手方向に沿って多数の楕円状突起が一定間隔で配列される複数の列を前記絶縁被覆の全表面を取り囲むように設けて楕円状突起形成領域とし、前記楕円状突起形成領域は、前記複数の列における任意の列(n列)と、その列と隣り合う列(n+1列)とで前記楕円状突起の配列が1/m間隔だけずれ、前記n列とn+m列とで楕円状突起の配列が同一となるように設けられることを特徴とする架空線用低風圧絶縁電線。
【請求項4】
前記線状突起は、前記絶縁被覆の円周方向に等間隔で設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の架空線用低風圧絶縁電線。
【請求項5】
前記線状突起は、その高さが前記粒状突起の高さ、又は前記楕円状突起の高さを超えないことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の架空線用低風圧絶縁電線。
【請求項6】
前記粒状突起及び楕円状突起は、その平均直径が0.5〜3.0mm、高さが0.1〜0.6mmであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の架空線用低風圧絶縁電線。
【請求項7】
前記粒状突起形成領域及び楕円状突起形成領域は、前記絶縁被覆の全表面積に対して占有する面積が28〜55%であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の架空線用低風圧絶縁電線。
【請求項8】
前記粒状突起及び楕円状突起は、前記絶縁被覆の円周方向に16〜56列が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の架空線用低風圧絶縁電線。
【請求項9】
前記粒状突起及び楕円状突起は、電線外径の30%以下となる間隔で前記線状突起の間の絶縁被覆の全表面に長手方向に設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の架空線用低風圧絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−181697(P2009−181697A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17170(P2008−17170)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(501304803)株式会社ジェイ・パワーシステムズ (89)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】