説明

架空電線用鳥害防止装置

【課題】ジャンパ装置の装着部における架空電線の腐食防止を可能とする架空電線用鳥害防止装置を提供する。
【解決手段】架空電線用鳥害防止装置10は、鋼心アルミニウム撚線(ACSR),アルミニウム覆鋼心アルミニウム撚線(ACSR/AC)などの架空電線1の周囲に装着される、内面に複数の突起部111を有して架空電線1との間に空隙を形成するシリコーンゴムからなる管状部の管状絶縁体11と、管状絶縁体11の内部に滞留した水分を排出するシリコーンゴムからなる少なくとも1つの水抜管12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空電線用鳥害防止装置(鳥害防止装置)に関し、特に、ジャンパ装置などの装着部における架空電線の腐食防止を可能とした鳥害防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジャンパ装置の構成部材である架空裸電線(架空電線、ジャンパ線)は、支持物である鉄塔と近接して設置されているため、鳥獣類やその鳥獣類の営巣部材を介して支持物との間で地絡事故が発生する場合がある。
【0003】
この地絡事故を防止する従来の方法として、図4の正面図及び図5の断面図、または図6の断面図に示すようなジャンパ線に絶縁材料を被覆する方法が多数提案されている。亜鉛めっき鋼線もしくはアルミニウム被覆鋼線の鋼心部2の周囲に複数本のアルミニウム素線もしくはアルミニウム合金素線の導体部3を配置した構造の架空電線1の外周に対して、図5の管状の絶縁性カバー21(架空電線用鳥害防止装置)を装着すること、あるいは図6の絶縁性テープを重ね巻きした絶縁テープ層31(架空電線用鳥害防止装置)を装着することなどにより、架空電線1の部分的な絶縁化が図られ、鳥獣類やその鳥獣類の営巣部材に起因した架空電線の地絡事故が防止される。
【0004】
特許文献1には、架空電線(ジャンパ線)の地絡事故防止と、鳥害防止装置を装着したジャンパ線がその装着部において腐食を防止するため、長手方向で両面に鋸歯状突状を設けた絶縁シートをジャンパ線にロール巻きし、この絶縁シートとジャンパ線の中間部分を懸垂碍子連で上方に吊り上げることで、絶縁シートとジャンパ線との間に雨水が滞留することを防止した鳥害防止ジャンパ装置が開示されている。
【0005】
特許文献2には、筒状絶縁体の肉厚方向の絶縁破壊が生じても地絡事故防止効果を維持するため、筒状絶縁体の内面と架空電線の外面との間に絶縁空間を形成した鳥害防止絶縁カバーが開示されている。
【0006】
特許文献3には、架空線の外周長手方向に巻き付けられた光ケーブルの損傷を防ぐため、その架空線の外周に取り付けられた複数個のリング状固定体と、リング状固定体の外周に係合して回転自在に取り付けられた筒状の回転体とを備えた鳥害防止装置が開示されている。
【0007】
特許文献4には、電線への装着被覆作業を容易にするため、シリコーンゴムの押出成形品を被覆すべき電線の外周に少なくとも2重に捲回可能な幅を有した電線保護カバーが開示されている。
【0008】
特許文献5には、裸電線の放熱特性及び耐食性を向上させるため、絶縁シートと裸電線との間に雨水排水用の間隙を形成した鳥害防止絶縁装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−260633号公報
【特許文献2】特開2000−92672号公報
【特許文献3】特開2003−284227号公報
【特許文献4】特開2004−72809号公報
【特許文献5】実開平5−74131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そして、上記のような従来の架空電線が海岸近接地帯や工業地帯などに布設されると、周辺環境に存在する海塩粒子、SOx系ガス、NOx系ガス等に起因して腐食が発生、進展する場合がある。
【0011】
また、近年では、上記以外の地域においても、地球環境の変化による酸性雨などの影響によって腐食が進展することも指摘されている。そして、前述したとおり架空電線の布設場所や布設後の気象条件などの布設環境により、従来の鳥害防止装置と架空電線との隙間に腐食性物質を含んだ水分が浸入し、それが鳥害防止装置と架空電線との間で滞留することがある。
【0012】
図7は、図5に示す架空電線用鳥害防止装置内に水が滞留した状態であるが、架空電線用鳥害防止装置5と架空電線1との間に形成された隙間は、鳥害防止装置5と架空電線1の最外層の導体部3とが常に当接している状態であることから極めて小さい隙間となるため、架空電線1と腐食性物質を含んだ水分4とは長期間接触し続けることになる。結果として、鳥害防止装置5が装着された装着部の架空電線1は、装着部以外の架空電線1に比べて腐食進展速度が加速されるという問題がある。また、架空電線が腐食することにより、その機械的特性・電気的特性が低下し、安定して電力を供給することが困難となる。さらに腐食が進展すると、架空電線が破断し、送電が不可能になる場合もある。
【0013】
したがって、本発明の目的は、ジャンパ装置などの装着部に装着される架空電線の腐食を防止し、かつ装着部での鳥獣類による地絡事故防止を可能とした架空電線用鳥害防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
架空電線の鳥害防止装置の装着部における腐食を防止するために、本発明者らは、実環境での腐食実態を詳細に調査・解析し、それらを踏まえて、架空電線用鳥害防止装置について絶縁材料、厚さ、架空電線との間隔(隙間)等を規定した本発明に至ったものである。
【0015】
本発明は、上記目的を達成するため、亜鉛めっき鋼線もしくはアルミニウム被覆鋼線の鋼心部と、その鋼心部の外周に複数本のアルミニウム素線もしくはアルミニウム合金素線を撚り合せた導体部とから構成された架空電線の周囲に装着される架空電線用鳥害防止装置において、内面に複数の突起部を有して前記架空電線との間に空隙を形成するシリコーンゴムからなる管状部の管状絶縁体と、前記管状絶縁体の内部に滞留した水分を排出するシリコーンゴムからなる少なくとも1つの水抜管とを備えることを特徴とする架空電線用鳥害防止装置を提供する。
【0016】
前記管状絶縁体の前記管状部の厚さは、1mm以上8mm以下が好ましい。
【0017】
前記管状絶縁体の前記突起部によって前記管状部と前記架空電線との間に形成される空隙の長さは、3mm以上20mm以下が好ましい。
【0018】
上記構成によれば、管状絶縁体の突起部によって管状部の内面と架空電線との間に空隙が形成されるため、管状絶縁体の内側に浸入した水分、または内部に滞留した水分と架空電線とが接触し難くなるとともに、水抜管を設けることで、装置部における架空電線の排水性、通気性をさらに向上させることにより腐食を防止できる。また装着部での鳥獣類による地絡事故を防止できる。さらに本装置全体が可撓性を有するシリコーンゴムの絶縁材料としたことにより、架空電線の布設状況に応じて柔軟に追随することができ、常に突起部を架空電線に当接した状態を保持できる。また、透明性のあるシリコーンゴムを用いれば、排水状況や滞留状況などを外部から容易に観察することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ジャンパ装置などの装着部に装着される架空電線の腐食防止が可能であるとともに、装着部での鳥獣類による地絡事故防止が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る架空電線用鳥害防止装置の外観の一例を示す正面図である。
【図2】図2は、図1に示す架空電線用鳥害防止装置の断面構造を模式的に示し、図2(a)は、図1におけるA−A線断面図、図2(b)は、図1におけるB−B線断面図である。
【図3】図3は、図1に示す架空電線用鳥害防止装置と架空電線との間に水が浸入した状態を示し、図3(a)は、図1におけるA−A線断面図、図3(b)は、図1におけるB−B線断面図である。
【図4】図4は、従来の架空電線用鳥害防止装置の外観を示す正面図である。
【図5】図5は、図4に示す架空電線用鳥害防止装置の断面図である。
【図6】図6は、従来の架空電線用鳥害防止装置の他の例の断面図である。
【図7】図7は、図5に示す架空電線用鳥害防止装置内に水が滞留した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、各図中、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付しその重複した説明を省略する。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態に係る架空電線用鳥害防止装置の外観の一例を示す正面図である。図2は、図1に示す架空電線用鳥害防止装置の断面構造を模式的に示し、図2(a)は、図1におけるA−A線断面図、図2(b)は、図1におけるB−B線断面図である。
【0023】
この架空電線用鳥害防止装置10は、図1に示すように、架空電線1に周囲に装着される管状絶縁体11と、管状絶縁体11に設けられその管状絶縁体11内の水分を排出するための水抜管12とを備える。管状絶縁体11は可撓性を有するシリコーンゴムの絶縁材料からなる。また、透明性を有するものでもよい。
【0024】
水抜管12は、水分が滞留する箇所に設けられる。本実施の形態は、水抜管12を1箇所に設けたが、架空電線(ジャンパ線)1の布設状況に応じて水分の滞留し易い複数の箇所に設けてもよい。水抜管12は、管状部110から突出するような長さを有する。また、水抜管12は、管状絶縁体11と同じ可撓性を有するシリコーンゴムの絶縁材料からなる。透明性を有するものであってもよい。管状絶縁体11と水抜管12とは、例えば常温硬化型シリコーン樹脂の接着剤によりに強固に接着されている。管状絶縁体11と水抜管12とは本実施の形態においては分割構造であるが、一体成型構造でもよい。
【0025】
架空電線1は、図2に示すように、例えば、中心部にテンションメンバーとして機能する複数本の亜鉛めっき鋼線もしくはアルミニウム被覆鋼線を撚り合わせてなる鋼心部2と、この鋼心部2の外周に複数本のアルミニウム素線もしくはアルミニウム合金素線を撚り合せた導体部3とが配置されたものである。
【0026】
管状絶縁体11は、図2に示すように、管状部110と、管状部110の内面に中心に向かうように設けられた複数の突起部111とを備える。この突起部111によって管状絶縁体11と架空電線1との間に空隙13が形成される。突起部111の形状は、本実施の形態では幅が一定の矩形状であるが、半円形状等の他の形状でもよい。突起部111の数については特に規定はなく、鳥害防止装置10の製造性や架空電線1の腐食防止効果などを踏まえて適正な数に設定すればよい。また、管状部110と突起部111とは一体成型されているが、分割成型でもよい。
【0027】
管状絶縁体11の管状部110の厚さは、1mm以上8mm以下が好ましい。管状部110の厚さが1mm未満であると、絶縁特性が不十分であり、所望の鳥害防止効果(地絡事故防止効果)が得られ難い。また、管状部110の厚さが8mmを超えると、重量増や製品コスト増の点で問題となる。したがって、管状部110の厚さは、1mm以上8mm以下であることが好ましい。
【0028】
突起部111によって管状部110と架空電線1との間に形成される空隙13の長さ、すなわち突起部111の高さは、3mm以上20mm以下が好ましい。空隙13の長さ、すなわち突起部111の高さが3mm未満であると、鳥害防止装置10の内部に浸入した水分と架空電線1との接触抑制効果、鳥害防止装置10と架空電線1との間の排水性、通気性が十分でなく、所望の腐食抑制効果が得られ難い。また、空隙13の長さ、すなわち
突起部111の高さが20mmを超えても、腐食抑制効果はほぼ一定に留まる。しかし、無用に空隙13の長さを大きくすると、風圧特性上好ましくない。したがって、突起部111によって管状部110と架空電線1との間に形成される空隙13の長さは、3mm以上20mm以下であることが好ましい。
【0029】
上記のように構成された管状絶縁体11は、例えば押出成形によって形成することができる。また、管状絶縁体11は、架空電線1に巻き付けたときに材料が有する弾性により閉じて管状となるように構成されていてもよい。この場合、管状絶縁体11を架空電線1に正面から装着した後、端面の突合せ部(図示せず)同士を接着剤、例えば常温硬化型シリコーン樹脂で接合して架空電線1に取り付ける。なお、管状絶縁体11は、2つ割り構造でもよく、それらの間の接合は接着剤を用いてもよく、ねじを用いてもよい。
【0030】
図3は、図1に示す架空電線用鳥害防止装置と架空電線との間に水が浸入した状態を示し、図3(a)は、図1におけるA−A線断面図、図3(b)は、図1におけるB−B線断面図である。
【0031】
突起部111によって管状絶縁体11と架空電線1との間には空隙13が形成されるため、管状絶縁体11の内部に浸入した水分4は架空電線1との接触が抑えられるとともに、水抜管12から滞留した水分4、または滞留しようとする水分4を外部へ排出される構造となっている。
【0032】
(本実施の形態の効果)
本実施の形態の架空電線用鳥害防止装置によれば、以下の効果を奏する。
(1)管状絶縁体11の突起部111によって管状部110の内面と架空電線1との間に空隙13が形成されるため、管状絶縁体11の内部に浸入した水分4と架空電線1とが接触し難くなる。
(2)また、水抜管12を設けることで、装置部における架空電線1の排水性、通気性が高まる。この結果、従来と比較して鳥害防止装置装着部における架空電線の腐食を大幅に抑制することができ、架空電線の寿命を格段に延伸化することが可能となる。
(3)さらに、本装置10の装着部における鳥獣類やその営巣部材に起因した架空電線の地絡事故を防止することが可能となる。
(4)本装置10全体が可撓性を有するシリコーンゴムの絶縁材料としたことにより、架空電線1の布設状況に応じて柔軟に追随することができ、常に突起部を架空電線に当接した状態を保持できる。
(5)本装置10を透明性のあるシリコーンゴムを用いれば、排水状況や滞留状況などを外部から容易に観察することができる。
【実施例1】
【0033】
以下、本発明の架空電線用鳥害防止装置の一実施例を説明する。
【0034】
(実施例1)
実施例1は、体積固有抵抗5×1016Ω・cmのシリコーンゴムからなり、管状部110の厚さを1.0mm、突起部111の高さを3.0mmとする管状絶縁体11、および水抜管12からなる全体長さ4mの架空電線用鳥害防止装置10としての管状カバー10を作製した。この管状カバー10を長さ5mの架空電線1としての導体有効断面積410mmの導電部が内外層の2層からなる鋼心アルミニウム撚線(ACSR)に隙間を設けるように覆った後、管状カバー10内の水分が滞留するカバー長手方向の中央部の1箇所に管状カバーと同材質のシリコーンゴムからなる内径10mmの水抜管12を設ける。次に、管状カバー10と鋼心アルミニウム撚線1との間の空隙13の長さ(突起部111の高さ)が3.0mmとなるようその管状カバーの両突合せ部を常温硬化型シリコーン樹脂で接合することにより、その架空電線1に架空電線用鳥害防止装置10を装着した。
【0035】
(実施例2〜4)
実施例2〜4は、実施例1に対して管状部110の厚さを異ならせたものであり、他は実施例1と同様に構成されている。管状部110の厚さは、実施例2は3.5mm、実施例3は5.5mm、実施例4は8.0mmとした。
【0036】
(実施例5)
実施例5は、突起部111の高さ(空隙13の長さ)を実施例1よりも高い12.0mmとしたものであり、他は実施例1と同様に構成されている。
【0037】
(実施例6〜8)
実施例6〜8は、実施例5に対して管状部110の厚さを異ならせたものであり、他は実施例5と同様に構成されている。管状部110の厚さは、実施例6は4.0mm、実施例7は6.5mm、実施例8は8.0mmとした。
【0038】
(実施例9)
実施例9は、突起部111の高さ(空隙13の長さ)を実施例1よりも高い20.0mmとしたものであり、他は実施例1と同様に構成されている。
【0039】
(実施例10〜12)
実施例10〜12は、実施例9に対して管状部110の厚さを異ならせたものであり、他は実施例5と同様に構成されている。管状部110の厚さは、実施例10は4.5mm、実施例11は6.0mm、実施例12は8.0mmとした。
【0040】
(比較例1)
比較例1は、管状部110の厚さを実施例1〜12よりも薄い0.7mmとし、突起部111の高さ(空隙13の長さ)を実施例1〜12よりも低い0.5mmとしたものであり、他は実施例1〜12と同様に構成されている。
【0041】
(比較例2)
比較例2は、突起部111の高さ(空隙13の長さ)を実施例1〜12よりも低い1.0mmとし、管状部110の厚さを4.0mmとしたものであり、他は実施例1〜12と同様に構成されている。
【0042】
(比較例3)
比較例3は、突起部111の高さ(空隙13の長さ)を実施例1〜12よりも低い2.0mmとし、管状部110の厚さを7.0mmとしたものであり、他は実施例1〜12と同様に構成されている。
【0043】
(比較例4)
比較例4は、突起部111の高さ(空隙13の長さ)を実施例1〜12よりも低い2.5mmとし、管状部110の厚さを9.5mmとしたものであり、他は実施例1〜12と同様に構成されている。
【0044】
(比較例5)
比較例5は、管状部110の厚さを実施例1〜12よりも薄い0.5mmとし、突起部111の高さ(空隙13の長さ)を4.0mmとしたものであり、他は実施例1〜12と同様に構成されている。
【0045】
(比較例6)
比較例6は、管状部110の厚さを実施例1〜12よりも厚い8.5mmとし、突起部111の高さ(空隙13の長さ)を8.0mmとしたものであり、他は実施例1〜12と同様に構成されている。
【0046】
(比較例7)
比較例7は、管状部110の厚さを実施例1〜12よりも薄い0.8mmとし、突起部111の高さ(空隙13の長さ)を14.0mmとしたものであり、他は実施例1〜12と同様に構成されている。
【0047】
(比較例8)
比較例8は、管状部110の厚さを実施例1〜12よりも厚い9.0mmとし、突起部111の高さ(空隙13の長さ)を16.0mmとしたものであり、他は実施例1〜12と同様に構成されている。
【0048】
(比較例9)
比較例9は、管状部110の厚さを実施例1〜12よりも薄い0.7mmとし、突起部111の高さ(空隙13の長さ)を実施例1〜12よりも高い22.0mmとしたものであり、他は実施例1〜12と同様に構成されている。
【0049】
(比較例10)
比較例10は、突起部111の高さ(空隙13の長さ)を実施例1〜12よりも高い24.0mmとし、管状部110の厚さを3.5mmとしたものであり、他は実施例1と同様に構成されている。
【0050】
(比較例11)
比較例11は、突起部111の高さ(空隙13の長さ)を実施例1〜12よりも高い21.0mmとし、管状部110の厚さを5.5mmとしたものであり、他は実施例1〜12と同様に構成されている。
【0051】
(比較例12)
比較例12は、突起部111の高さ(空隙13の長さ)を実施例1〜12よりも高い20.5mmとし、管状部110の厚さを8.5mmとしたものであり、他は実施例1〜12と同様に構成されている。
【0052】
(従来例1)
従来例1は、体積固有抵抗5×1016Ω・cmのシリコーンゴムからなり、管状部110の厚さを4.0mm、突起部111のない、管状絶縁体11、および水抜管12のない全体長さ4mの管状カバー10を作製した。この管状カバー10を長さ5mの架空電線1としての導体有効断面積410mmの導電部が内外層の2層からなる鋼心アルミニウム撚線(ACSR)に緊密に覆った後、その切れ目同士を常温硬化型シリコーン樹脂で接合することにより、その架空電線1に管状カバー(架空電線用鳥害防止装置10)を装着した。
【0053】
(従来例2)
従来例2は、体積固有抵抗2.5×1016Ω・cmのエチレンプロピレン製テープを螺旋状に厚さ4.0mmとしたテープカバーで長さ5mの架空電線1としての導体有効断面積410mmの導電部が内外層の2層からなる鋼心アルミニウム撚線(ACSR)に緊密に覆い、その架空電線1に(テープカバー)架空電線用鳥害防止装置を装着した。
【0054】
上記の実施例、比較例及び従来例のそれぞれの架空電線用鳥害防止装置を装着した架空電線について、各種特性評価を実施した。
【0055】
(絶縁特性の評価方法)
はじめに、絶縁特性として、それぞれの絶縁破壊電圧値を測定した。架空電線用鳥害防止装置を装着した電線サンプルを水平に設置し、電線本体を高電圧電極、鳥害防止装置にアルミ箔を取付け、これを接地電極とした。表面無汚損・乾燥条件下においてこの電線と鳥害防止装置間に交流電圧を印加し、鳥害防止装置が絶縁破壊し、回路中に電流が流れた時の電圧値を絶縁破壊電圧値として測定した。絶縁特性は、77kV送電線路の対地電圧(44.5kV)を超えたものを「○」、対地電圧到達前に絶縁破壊に至ったものを「×」で評価した。
【0056】
(耐食特性の評価方法)
次に、腐食加速実験により架空電線用鳥害防止装置の装着部における電線の耐食特性を評価した。腐食加速実験は各種鳥害防止装置を装着した電線を支持点間3mで1.5m程度の弛度を設け、鳥害防止装置に取付けた水抜管が最下点に位置する状態で設置し、電線温度90℃になるようトランスで通電した状態の下、5重量%の塩化ナトリウム水溶液に硫酸を添加しpH4に調整した電解質溶液を噴霧30min、大気放置60minを1サイクルとして、これを2400サイクルまで繰り返すことで実施した。耐食特性は、鳥害防止装置の装着部における電線の最外層アルミ線の腐食進展状況を相対的に「○(鳥害防止装置の非装着部と同等)」、「×(鳥害防止装置の非装着部よりも腐食進展)」、「××(鳥害防止装置の非装着部よりも激しく腐食進展)」で評価した。
【0057】
(風圧特性の評価方法)
また、風洞実験設備により架空電線用鳥害防止装置の装着部の風圧特性を評価した。鳥害防止装置を装着した電線を水平に設置し、それぞれ風速40m/sまでパラメータとした際の風圧荷重を測定した。風圧特性は、許容レベルにあるものを「○」、許容できないレベルを「×」で評価した。
【0058】
(施工特性の評価方向)
そして、各種架空電線用鳥害防止装置の施工特性も評価した。施工特性は、電線に鳥害防止装置を装着する際の所要時間を測定するとともに、その容易さを調査し、現地作業において問題ないレベルを「○」、問題が生じるレベルを「×」で評価した。
【0059】
各種架空電線用鳥害防止装置の絶縁特性評価結果、鳥害防止装置の装着部における電線の耐食特性評価結果、鳥害防止装置の装着部の風圧特性測定結果、及び鳥害防止装置の施工特性評価結果を表1に示す。
【0060】
(絶縁特性の評価結果)
はじめに、絶縁特性についてみると、実施例1〜12の絶縁破壊電圧値はすべて規定の値を上回っており、本鳥害防止装置10の絶縁特性は問題ない結果となった。また、鳥害防止装置の管状絶縁体の厚さが1mm以上である比較例2〜4、6、8、10〜12についても、絶縁破壊電圧値は規定値を満足していた。これに対して、管状絶縁体の厚さが1mm未満である比較例1、5、7、9では、絶縁破壊電圧値が規定値未満であり、絶縁特性が不十分であった。このように、鳥害防止装置における管状絶縁体の厚さを1mm以上に設定することで、優れた絶縁特性が得られることが分かった。
【0061】
(耐食特性の評価結果)
次に、耐食特性についてみると、実施例1〜12における最外層アルミ線の腐食進展程度は鳥害防止装置の非装着部のそれと同等レベルにあり、これらの耐食特性は問題ないことが明らかとなった。また、鳥害防止装置(管状絶縁体)と電線との空隙長さが3mm以上である比較例5〜12においても、耐食特性は良好であった。これに対して、管状絶縁体と電線との空隙長さが3mm未満である比較例1〜4、及び従来例1、2では鳥害防止装置の装着部における架空電線の腐食が鳥害防止装置の非装着部のそれよりも進展しており、特に、従来例1、2ではそれが著しく大きかった。このように、鳥害防止装置(管状絶縁体)と電線との空隙長さを3mm以上に設定することで、鳥害防止装置の内部における電線と浸入水分との接触が抑制されるとともに、鳥害防止装置と電線との間の排水性、通気性が図られ、良好な腐食抑制効果が得られることが分かった。
【0062】
(風圧特性の評価結果)
そして、風圧特性についてみると、実施例1〜12における鳥害防止装置の風圧荷重は、すべて許容されるレベルにあった。また、鳥害防止装置(管状絶縁体)と電線との空隙長さが20mm以下である比較例1〜8においても、風圧特性は許容範囲であった。これに対して、鳥害防止装置(管状絶縁体)と電線との空隙長さが20mmを超える比較例9〜12では、本鳥害防止装置の装着によって風圧荷重が増大し、風圧特性上、適用箇所が制限される結果となった。このように、鳥害防止装置(管状絶縁体)と電線との空隙長さを20mm以下に設定することで、本鳥害防止装置の装着部の風圧特性を許容範囲内に留められることが分かった。
【0063】
(施工特性の評価結果)
最後に、施工特性についてみると、実施例1〜12における鳥害防止装置の架空電線への装着は短時間で行うことができ、作業上問題となる点も特段見当たらなかった。
【0064】
また、比較例1〜3、5、7の施工特性も問題ないレベルであった。これに対して、鳥害防止装置における管状絶縁体の厚さが8mmを超える比較例4、6、8、12、ならびに、管状絶縁体内面の突起部111の高さが20mmを超える比較例9〜11では鳥害防止装置の装着性、取扱性が劣り、特に、管状絶縁体の厚さが8mmを超え、かつ、突起部111の高さが20mmを超える比較例12では作業に極めて長い時間を要した。
【0065】
このように、鳥害防止装置10における管状絶縁体11の管状部110の厚さを8mm以下、突起部111の高さを20mm以下に設定することで、問題のない施工特性が得られることが分かった。
【0066】
(総合評価結果)
以上により、亜鉛めっき鋼線の鋼心部と、その鋼心部の外周に複数本のアルミニウム素線を撚り合せた導体部とから構成された架空電線の周囲に装着される架空電線用鳥害防止装置10において、可撓性を有する厚さ1mm以上8mm以下のシリコーンゴムからなる管状絶縁体11の内面に複数の突起部111を設けた管状部の管状絶縁体11と、その突起部111によって管状部110と架空電線1との間に3mm以上20mm以下の空隙13を形成し、かつ、管状絶縁体11の内部に滞留した水分を排出するためのシリコーンゴムからなる少なくとも1つの水抜管12を備えた架空電線用鳥害防止装置10では、規定の絶縁特性を確保しつつ、鳥害防止装置の装着部における架空電線の耐食性が従来の鳥害防止装置の装着部のそれと比較して著しく優れることが判明した。本鳥害防止装置により、電線の腐食進展を確実に、かつ経済的に防止することができ、架空電線の機械的性能・電気的性能の確保、重大事故の防止、安定した電力の供給等が可能となる。
【0067】
なお、本発明は、上記実施の形態及び上記実施例に限定されず、発明の要旨を変更しない範囲内で種々に変形実施が可能である。
【0068】
【表1】

【符号の説明】
【0069】
1 架空電線
2 鋼心部
3 導体部
4 水分
5 架空電線用鳥害防止装置
10 架空電線用鳥害防止装置
11 管状絶縁体
12 水抜管
13 空隙
21 絶縁性樹脂製カバー(架空電線用鳥害防止装置)
31 絶縁テープ層(架空電線用鳥害防止装置)
110 管状部
111 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛めっき鋼線もしくはアルミニウム被覆鋼線の鋼心部と、その鋼心部の外周に複数本のアルミニウム素線もしくはアルミニウム合金素線を撚り合せた導体部とから構成された架空電線の周囲に装着される架空電線用鳥害防止装置において、内面に複数の突起部を有して前記架空電線との間に空隙を形成するシリコーンゴムからなる管状部の管状絶縁体と、前記管状絶縁体の内部に滞留した水分を排出するシリコーンゴムからなる少なくとも1つの水抜管とを備えることを特徴とする架空電線用鳥害防止装置。
【請求項2】
前記管状絶縁体の前記管状部の厚さは、1mm以上8mm以下であることを特徴とする請求項1記載の架空電線用鳥害防止装置。
【請求項3】
前記管状絶縁体の前記突起部によって前記管状部と前記架空電線との間に形成される空隙の長さは、3mm以上20mm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の架空電線用鳥害防止装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−5681(P2013−5681A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137353(P2011−137353)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(501304803)株式会社ジェイ・パワーシステムズ (89)
【Fターム(参考)】