説明

柄付編地の製造方法、製造装置、コンピュータプログラム、および調整方法

【課題】柄付編地の編成方法、装置、プログラム、および調整方法の提供。
【解決手段】本発明では、張力付与機構の位置を段階的に制御することによって給糸張力を段階的に変動せしめ、色濃度等の柄要素に変化を与える方法により編地に柄を形成する柄付編地の編成方法であって、あらかじめ設計された図案と同等な柄を生地上に再現するために、図案中でコース方向に柄要素の変化する位置のデータと、編機に取り付けられた位置情報出力手段から出力される編成位置を特定するための信号とが同期して張力付与機構を作動させ、図案中の柄要素の各段階に対応する張力付与機構の位置に対応するデータが制御装置のメモリに格納されており、各作動タイミングにおいて作動後の柄要素の段階を指定すると、当該データを参照して張力付与機構の作動量を決めることにより、張力付与機構の作動タイミングと作動量の少なくとも何れか一方を制御して編地上に柄を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編機によって作成される柄付編地の製造方法、製造装置、コンピュータプログラム、および調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
編機に供給される糸に意図的な張力変動を与えることにより、編地に柄を形成する方法およびその製造方法により製造された柄付編地について、特開2001-207355号(特願2001-20903号:特許文献1)および特開2002-302853号(特願2001-184363号:特許文献2)で特許出願されている。
当該特許出願発明による柄の形成は、編地の編成中に給糸張力を変化させることにより、変化の前後で編目の大きさが変化し、特に色や光沢などの異なる複数の糸を用いた場合には、複数の糸が編地表面に現れる割合が変化し、同一編地上に色濃度や光沢感等の柄要素の程度が異なる部分を形成することによって実現される。
これらの出願発明により新しく多種多様な素材が求められるアパレル素材として新しい特徴を有するものを提供できる基礎技術が開発された。
上記特許出願においては、張力変動を与えるタイミングを制御することで、多様な柄を編地上に形成することが可能であり、張力変動を多段階若しくは無段階で行うことにより、柄に階調を持たせることができることが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001-207355号公報
【特許文献2】特開2002-302853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許出願では、多様な柄に対応するための装置の制御方法が具体的に示されておらず、特に絵や写真等を基にした曲線等を含む複雑形状に対応する制御方法は、唯一示されているチェック柄の制御方法(上記出願図5)からは想到できない。また、階調を持たせるための多段階制御等の具体的な方法等も開示されていない。これら制御方法の確立等には、以下に示す問題点を解決する必要がある。
(1)当該方法によって編地に柄を形成するためには、編地上の意図する位置(編機で編成中の位置)で意図する柄要素の程度(色濃度の程度等)を実現するために、糸に張力を与えるための張力付与機構の作動タイミングと作動量を決定して制御する必要がある。従来は、張力変動装置の制御シーケンスの中で、タイマを利用して編機の編成中の位置を特定していたが、この方法では、編機の回転速度にバラツキが出た場合には、柄の位置が狂う等の不具合が生じるほか、編機の回転速度を変更した場合には、再度タイミングの設定を行う必要がある。また、付与する張力の程度によって、柄要素の程度がアナログ的に変化するため、3段階以上の階調を持たせることが可能であるが、一つの編地上で作動タイミング毎に3段階以上の意図する階調に対応する位置に張力付与機構を作動させる方法は確立されていなかった。
【0005】
(2)当該方法によって編地に柄を形成するためには、デザイン画等の図案を元に張力付与機構の作動タイミングと作動量をデータとして作成する必要がある。しかし、この作業には多大な労力と時間を要し、複雑なあるいはサイズの大きな図案に対応することはできなかった。
(3)図案から変換した作動タイミングのデータ中に作動間隔が狭い部分があり、前の作動でのパルス出力中に次の作動タイミングが到来した場合、パルス出力中に次の作動命令が出され、パルス発信がかぶることによって正確な数のパルスを出力することができず誤作動の原因となる。
(4)生産性を上げるために1台の編機に複数の給糸口を設け、対応する数だけ張力変動装置を設置した場合、装置の部品精度のバラツキ等により、同一階調であっても、色濃度等の柄要素の程度にバラツキが生じ、ヨコ段等の製品不具合を生じる。
【0006】
そこで、本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、図案を元にした多階調で精細な柄付編地を高い生産性で不具合なく生産できる製造方法と製造装置、複雑でサイズが大きな柄を効率良く制御データに変換可能な制御データ生成プログラム、およびよこ段等の製品不具合を生じさせない装置の調整方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1の編成方法は、
張力付与機構の位置を段階的に制御することによって給糸張力を段階的に変動せしめ、色濃度等の柄要素に変化を与える方法により編地に柄を形成する柄付編地の編成方法であって、
あらかじめ設計された図案と同等な柄を生地上に再現するために、図案中でコース方向に柄要素の変化する位置のデータと、編機に取り付けられた位置情報出力手段から出力される編成位置を特定するための信号とが同期して張力付与機構を作動させ、
図案中の柄要素の各段階に対応する張力付与機構の位置に対応するデータが制御装置のメモリに格納されており、
各作動タイミングにおいて作動後の柄要素の段階を指定すると、当該データを参照して張力付与機構の作動量を決めることにより、張力付与機構の作動タイミングと作動量の少なくとも何れか一方を制御して編地上に柄を形成するものである。
【0008】
請求項2の編成方法は、
張力付与機構を駆動するアクチュエータに、パルス入力により位置制御可能なアクチュエータを備えた張力変動装置を用いた請求項1に記載の柄付編地の製造方法であって、
柄データの一部で連続する2つの作動位置データの差が小さく結果として2つの作動の時間間隔が狭くなる場合に、
前の作動で作動命令出力後且つパルス出力完了以前に次の作動命令を出すことにより生じる誤作動を防止するために、2つの作動位置データの差が一定値以下となる場合には、前の作動命令を出さないようにする制御、または先の作動を早め、あるいは後の作動を遅らせて作動間隔を広げるようにする制御、若しくは出力パルス数を減らすようにする制御のうちの少なくとも何れかひとつの制御を行うことによりパルス出力完了を早めることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の編成方法は、
張力付与機構のアクチュエータに、パルス入力形式の位置制御サーボモータを使用し、アクチュエータの移動量に相当するパルス数のパルス出力完了をモータの実作動完了より早くして、パルス出力完了後、モータが所定の位置に達する前に編み機が次の作動位置に達した場合は、モータの位置に関係なく次の作動を開始させられるように制御するものである。
【0010】
請求項4の製造装置は、
張力付与機構の位置を段階的に制御することによって給糸張力を段階的に変動せしめ、色濃度等の柄要素に変化を与える方法により編地に柄を形成する柄付編地の製造装置であって、
あらかじめ設計された図案と同じ柄を生地上に再現するために、図案中でコース方向に柄要素の変化する位置のデータと、編機に取り付けられた位置情報出力手段から出力される編成位置を特定するための信号とが同期して張力付与機構を作動させるように制御する制御装置と、
図案中の柄要素の各段階に対応する張力付与機構の位置に対応するデータが格納されるメモリと、
各作動タイミングにおいて作動後の柄要素の段階を指定すると、当該メモリに格納されたデータを参照して張力付与機構の作動量が決められることにより、張力付与機構の作動タイミングと作動量の少なくとも何れか一方を制御可能な張力変動装置と
を有するものである。
【0011】
請求項5の製造装置は、
張力付与機構を駆動するアクチュエータに、パルス入力により位置制御可能なアクチュエータを備えた請求項4に記載の柄付編地の製造装置であって、
柄データの一部で連続する2つの作動位置データの差が小さく結果として2つの作動の時間間隔が狭くなる場合に、前の作動で作動命令出力後且つパルス出力完了以前に次の作動命令を出すことにより生じる誤作動を防止するために、2つの作動位置データの差が一定値以下となる場合には、前の作動命令を出さないようにする制御、または先の作動を早め、あるいは後の作動を遅らせて作動間隔を広げるようにする制御、若しくは出力パルス数を減らすようにする制御のうち、少なくとも何れかひとつの制御を行うことによりパルス出力完了を早める制御装置を備えたものである。
【0012】
請求項6の製造装置は、
張力付与機構のアクチュエータに、パルス入力形式の位置制御サーボモータを使用し、アクチュエータの移動量に相当するパルス数のパルス出力完了をモータの実作動完了より早くして、パルス出力完了後、モータが所定の位置に達する前に編み機が次の作動位置に達した場合は、モータの位置に関係なく次の作動を開始させられるように制御する制御装置を備えている。
【0013】
請求項7のコンピュータプログラムは、
デザイン画または画像データファイル等の図案を請求項4に記載の柄付編地製造装置で使用可能なデータに変換するコンピュータプログラムであって、
図案を製造装置の編成位置Xとコース数Yに対応するマス目状に区切り、各コース内(X方向)で階調に変化があった場合に順次その編成位置Xと変化後の階調をデータとして作成する変換データ作成用のコンピュータプログラムとした。
【0014】
請求項8のコンピュータプログラムは、
張力付与機構を駆動するアクチュエータに、パルス入力により位置制御可能なアクチュエータを備えた柄付編地の製造装置用のコンピュータプログラムであって、
編成する柄の一部で作動間隔が狭く、前の作動で作動命令出力後、パルス出力完了以前に次の作動命令を出すことを防止するために、一定間隔以上作動間隔がない場合は前の作動命令を出さないようにデータ処理する機能、または先の作動を早め、あるいは後の作動を遅らせて作動間隔を広げるようにデータを処理する機能を備えた柄付編地の製造装置用のコンピュータプログラムとした。
【0015】
請求項9の製造装置は、
あらかじめ設計された図案中の柄要素の変化後にとる状態に対応する張力付与機構の位置に対応するデータが制御装置のメモリに格納されており、各作動量が当該データを参照して決められることにより、張力付与機構の作動量を制御可能な張力変動装置を1台の編機において複数個有する柄付編地の製造装置であって、
各張力変動装置に対応する当該データをそれぞれメモリに格納し個別に変更することにより、複数の張力変動装置が同一階調で同じ程度の柄要素を実現するように調整可能な構成とした。
【0016】
請求項10の製造方法は、
あらかじめ設計された図案中の柄要素の変化後にとる状態に対応する張力付与機構の位置に対応するデータが制御装置のメモリに格納されており、各作動量が当該データを参照して決められることにより、張力付与機構の作動量を制御可能な張力変動装置を1台の編機において複数個有する柄付編地の製造装置に用いる製造方法であって、
各張力変動装置に対応する当該データをそれぞれメモリに格納し個別に変更することにより、複数の張力変動装置が同一階調で同じ程度の柄要素を実現するように構成した。
【0017】
請求項11の製造装置は、
あらかじめ設計された図案中の柄要素の変化後にとる状態に対応する張力付与機構の位置に対応するデータが制御装置のメモリに格納されており、各作動量が当該データを参照して決められることにより、張力付与機構の作動量を制御可能な張力変動装置を1台の編機において複数個有する柄付編地の製造装置であって、
各張力変動装置に対応する当該データをそれぞれメモリに格納し個別に変更することにより、複数の張力変動装置が同一階調で同じ程度の柄要素を実現するように調整可能な構成とした。
【0018】
請求項12の調整方法は、
請求項10に記載の柄付編地の製造方法におけるデータを変更することによって複数の張力変動装置を調整する調整方法であって、
張力変動装置による張力制御を行う糸種ごとに張力付与機構による張力付加を行わない状態で編成中の各給糸口の給糸張力を一定値に調整し、その後張力付与機構による張力付加を行わない状態の編成中の各給糸口の糸速が一定値になるよう度目調整し、次に各階調に対応する張力付与機構の位置が同一階調において給糸口間で張力変動装置の直前の糸速が同じになるように前記データを変更することにより、各糸により編地上に現れる同一階調の柄要素の程度が同じになるようにした。
【0019】
なお、前記述中、図案と同等な柄とは、細部にわたり図案と同じでなくても、図案を元に画像処理された画像と同じ、または、図案の画像データに対して一定の法則性を有する処理を制御装置または別のコンピュータ等で行い得られたデータを用いて再現された柄を含む。一定の法則性を有する処理とは、例えば、グラデーションを有する柄の場合に、色濃度等に閾値を設け、グラデーション部分を段階的な色濃度(階調)に変換することで本製造方法で使用できる階調数に減色する処理、ある階調のコース方向に連続した長さが一定値に満たない場合に、装置の誤作動を防止するためにその位置に当該階調がないものとするデータ処理等が該当する。したがって、図案中でコース方向に柄要素の変化する位置のデータには、上記の画像処理やデータ処理を制御装置内で行って得られた階調の境目の位置データをロータリエンコーダ等の位置情報出力手段から出力される編成位置を特定するための信号と対比可能にしたものも含まれる。
また、同期とは、図案中で柄要素の変化する位置のデータと、編機に取り付けられたロータリエンコーダ等の位置情報出力手段から出力される編成位置を特定するための信号とが一致した場合に限らず、一定時間遅れて作動タイミングを与える場合等も含む。
また、ロータリーエンコーダ等の位置情報出力手段とは、編機上での編成位置を一定間隔ごとに特定するためのセンサ等の手段であって、編成位置を特定するための信号を出力する機能を有したものであり、ロータリーエンコーダやリニアエンコーダややセンサ等の各種の情報エンコーダを含み、電気的変化、磁気的変化、光学的変化等を検出して編成位置を特定するための信号を出力するものである。例えば、反射型光センサ等を用いて、一定間隔に並んでいる編針をカウントして編成位置を得るように構成されたものでもよい。
また、柄要素とは、色濃度、光沢感等の視覚によって程度の差が認識できる要素および凹凸等の触覚によって程度の差が認識できる要素を含む。また、これらの要素は生機で程度の差が認識できなくても染色加工後に認識可能になるもの等を含み、ブラックライト照射等によって初めて認識可能になるものも含む。
【0020】
また、本発明に係る変換データ作成用のコンピュータプログラムにおいて、
編成位置Xと変化後の階調を表すデータは、1組のデータとして作成するものであり、柄を編成するのに必要な張力付与機構の作動回数に相当する組数のデータを製造装置側で利用可能な順番で配列して出力される。
なお、マス目は横(X)方向と縦(Y)方向の座標で画像の一点を指定できるという概念を表したもので、ビットマップのドットそのものであっても座標により位置を指定できるのでマス目に含まれる。この場合、ビットマップの横方向の1ドットがそのまま編機の位置情報出力手段から出力される1パルスに相当し、縦方向1ドットが1コースに相当する場合の他、横方向2ドットで1パルス、縦方向1ドットで2コース等の調整を行ったものも含む。また、X軸とY軸は直交するものに限らない。
【発明の効果】
【0021】
以上詳述したように、本発明に係る柄付編地の製造方法によれば、給糸張力を変化させるタイミングと変化量を図案に基づいて制御し、曲線等の複雑形状を含む柄を精細に多階調で生地上に再現することができる。
当該製造方法によると、制御装置のメモリに格納されている各階調に対応するアクチュエータ位置データを変更することで、糸種や柄の特徴に合わせて張力を付加する程度を容易に変更できる。例えば、糸の物性等により柄がはっきりしやすい場合や、糸が切れやすい場合には、当該アクチュエータ位置データを付加張力が小さくなるように変更する、また、階調間の間隔(階調間の色濃度の差等)を柄によって変更する等が可能である。
また、柄データの一部で連続する2つの作動位置データの差が小さく結果として2つの作動の時間間隔が狭くなる場合に、2つの作動位置データの差が一定値以下となる場合には、前の作動命令を出さないようにする、または先の作動を早め、あるいは後の作動を遅らせて作動間隔を広げるようにする、若しくは出力パルス数を減らすことによりパルス出力完了を早めることにより、図案の一部に階調が細かく変化する部分があったとしても、アクチュエータの誤作動なく、かつ図案を大きく変形させずに柄付編地を編成することができる。
【0022】
そして、張力付与機構のアクチュエータに、パルス入力形式の位置制御サーボモータを使用し、アクチュエータの移動量に相当するパルス数のパルス出力完了をモータの実作動完了より早くして、パルス出力完了後、モータが所定の位置に達する前に編み機が次の作動位置に達した場合は、モータの位置に関係なく次の作動を開始させられるようにすることで、上記「作動させないようにする」または「作動間隔を広げる」等の処理を行わなければならない最大の作動間隔を小さくすることができる効果を有する。さらに、Xの1目の所要時間よりパルス出力時間が短くなるようにパルス速度を上げればこのような処理は全く必要なくなる。
【0023】
また、この方法を用いると、作動間隔が小さい位置でアクチュエータが所定の位置に達しないため柄がぼやける場合があるが、編地の性質や用途に照らして微小部分では問題は生じない。むしろ、上記「作動させないようにする」または「作動間隔を広げる」処理のみ行った場合より柄のくずれを小さくでき、より精細に柄を再現できる。
さらに、本発明に係る柄付編地の製造装置は、上記した製造方法を実現するものであり、以上の機能を有する装置により上記製造方法の効果が実現される。
【0024】
また、本発明に係るコンピュータプログラムによれば、複雑な形状や多階調な柄であってもデザイン画等の図案に基づいて、迅速かつ正確に柄付編地製造装置で用いる柄データが提供できる。
そして、柄の一部に一定間隔以上作動間隔がない場合は前の作動命令を出さないようにデータ処理する機能、または先の作動を早め、あるいは後の作動を遅らせて作動間隔を広げるようにデータを処理する機能を付加することにより、図案の一部に階調が細かく変化する部分があったとしても、アクチュエータの誤作動なく、かつ図案を大きく変形させずに柄付編地を編成することができる。
【0025】
なお、この機能は当該コンピュータプログラムに付加することができる他、前述したように製造装置に付加しても良い。前者の場合は、当該処理後のデータがプログラムにより作成されるため、製造装置側で処理は不要である。一方、後者の場合は、当該処理前のデータがプログラムにより作成され、製造装置を構成する制御装置の制御プログラムにより当該処理を行う。
【0026】
また、本発明に係る柄付編地の製造装置は、多給糸に対応することが可能であり編機本来の生産性を低下させずに柄付編地を生産することができる。その際、各階調に対応する張力付与機構の位置がデータとして制御装置のメモリに格納されており、各作動量が当該データを参照して決められることにより、張力付与機構の作動量を制御可能な複数個の張力変動装置を1台の編機で使用することになる。本発明に係る柄付編地の製造装置は、当該データを張力変動装置ごとに、また、階調ごとにそれぞれメモリに格納し個別に変更可能にすることによって、部品寸法のばらつき等があっても、複数の張力変動装置が同一階調で同じ程度の柄要素を実現するように調整可能となる。
【0027】
さらに、本発明に係る張力変動装置の調整方法によれば、張力を基準にした場合と比較して、糸にかかる振動等による変化を平均化でき、結果としてよこ段が生じない正確な調整ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る柄付編地の製造装置の概略構成図であり、本発明の柄付編地の製造方法に用いられる。
本実施形態でのベースに用いる編機は、シリンダ1の外周に多数の編針11が配置され、編針11は固定の給糸位置で上下動を行いながらシリンダ1とともに回転することによって編地を編成する汎用公知の丸編機である。また、本実施形態では、2種類の異色糸(例えば白糸Y1と黒糸Y2)を用い、白糸Y1のみ張力変動装置8で張力制御を実施することにより、生地上での白糸Y1と黒糸Y2の出現割合を制御し柄を形成する。
【0029】
編機シリンダ1には、シリンダ側ギヤ2が全周にわたり装備され、エンコーダ3は軸に取り付けられたエンコーダ側ギア4がシリンダ側ギヤ2と噛み合った構造で設置され、シリンダ1が回転すると、編機の回転角度に対応する数のパルス信号がエンコーダ3から出力される。また、シリンダ1に固定された巻取装置ブラケット5に金属片6が取り付けられており、近接スイッチ7が金属片6を検知することによってシリンダが1回転するごとに1回の信号(コース先頭信号)を得る。したがって、コース先頭信号の立ち上がりを0として、エンコーダ3から出力されるパルスをカウントすると、そのカウント値(以下、エンコーダカウント)から編機1回転(開反した生地のコース方向の長さ)をエンコーダ3の分解能とギヤ比により定まる数で分割した精度で編機の回転角(編成位置)を特定し、任意の位置で張力変動装置を作動させることができる。
【0030】
図2は張力変動装置8の概略図である。パルス入力により位置制御可能なアクチュエータ9で動力伝達機構を介して櫛歯状の張力付与機構10の開閉を制御することで糸Y1の張力に変動を与える。また、図3は張力付与機構10の作動を模式的に表した図である。図は4階調(段階)で張力制御を行う場合を現しており、左から右にいくにしたがって、駆動側テンサ10Aと固定側テンサ10Bとが相対的に閉じ、糸Y1にかかる張力が大きくなる。それぞれの階調における張力付与機構10の閉じ量は、モータ制御回路からサーボアンプへ出力されるアクチュエータ原点からのパルス数で設定され、あらかじめ、階調ごとに制御装置のRAM(メモリ)にアクチュエータ位置データとして格納されている。したがって、アクチュエータ作動命令出力前に作動後の階調を指定し、対応する階調のアクチュエータ位置データをメモリから参照して、現在位置と比較することにより、作動量(出力パルス数)を決定することが可能になる。
【0031】
ここで、図5は本発明に係る柄付編地の製造装置を制御するための制御装置のブロック図である。
制御装置は、制御基板、サーボアンプ、電源等によって構成される。また、制御基板は、処理を実行するCPU、制御用のコンピュータプログラムが格納されているROM、図案どおりに装置の作動を制御するための柄データおよびパルス速度等制御に必要な制御用パラメータ等が格納されるRAM、フレキシブルディスク等のメディアに記録された柄データ等を読み込むためのメディアインターフェース、エンコーダ3からのパルス信号を入力するためのエンコーダインターフェース、コース先頭信号等制御に必要な信号を入力するための入力インターフェース、およびCPUからの命令によりサーボアンプにパルス信号を出力することを主な働きとするモータ制御回路から成る。
【0032】
RAMの内部領域は、さらに、パルス速度等の制御パラメータを格納する制御パラメータ領域、各階調に対応するアクチュエータの位置をデータとして格納するアクチュエータ位置データ領域、図案に基づいて作成された柄データを格納する柄データ領域、および制御プログラムを実行するときに使用する作業領域から成る。
柄データは、上記メディアインターフェースを介してRAMの柄データ領域に格納され、制御プログラムで利用可能となっている。柄データには、図案に対応する位置で張力付与機構10を作動させるために上記エンコーダカウントと対比可能な形式の作動タイミングが含まれており、RAM上の当該作動タイミングを順次参照してエンコーダカウントと比較することによって、柄データどおりの位置で張力付与機構10を作動させることが可能である。
また、柄データには、作動タイミングの他に作動後の階調を示すデータが階調データとして含まれており、当該階調データが示す階調に対応するアクチュエータの位置をRAMのアクチュエータ位置データ領域から読み出して現在のアクチュエータの位置と比較して次回の作動量(出力パルス数)と作動方向を決定する。当該出力パルス数は、作動命令以前にCPUからの命令によりモータ制御回路のレジスタに登録され、作動命令により登録された数のパルスを出力する。
【0033】
図4は、柄の図案A1を本発明に係る柄付編地の製造装置で利用できるように処理した画像A2を示す。処理後の画像でマス目の横軸Xはエンコーダ3のパルスカウント数に対応し、縦軸Yはコース数に対応する。編機では各コースにおいてXが増加する方向に編成する。階調が変化する点のX値を編成順に作動位置データとして作成し、当該作動位置データを制御装置のメモリにあらかじめ格納し、制御装置が当該作動位置データとエンコーダパルスカウント数と比較し、両者が一致したときに作動命令を出力することで図案を編地上に再現するための作動タイミングを制御できる。
また、画像A2で各変化点における変化後の階調を階調データとして、各作動位置データとセットで作成し、あらかじめ制御装置のメモリに格納しておき、各作動時に当該階調データを参照することによって、図案の階調どおりに柄を生地上に再現するための張力付与機構10の閉じ量(アクチュエータの作動量)を制御できる。
さらに、上記した図案からマス目状への画像の変換、作動位置データおよび階調データの作成の一連の作業をコンピュータで処理することにより、大きく複雑な図案でも迅速に処理できる。
【0034】
次に、請求項7の発明に係るコンピュータプログラムの一実施形態を示す。図6は前記プログラムのフローチャートである。図案がスキャナーで読み込んだ写真のように多色で多階調である画像の場合、または画像にノイズが含まれる場合等必要なときは、図6中破線で囲まれた前処理を行う必要がある。
【0035】
次に前記コンピュータプログラムの処理について説明する。
まず、ステップS1において画像の横(X)方向を編機1周のエンコーダカウント数に、縦(Y)方向をコース数にそれぞれ対応するドット数となるビットマップに変換する。次に、ステップS2で画像中のドットの位置を示すパラメータXとYの初期値として1をセットする。次に、ステップS3で現在のXの値が、編機における最大値(コースの終端)より小さい場合は、ステップS4に進む。
【0036】
ステップS4では、現在の(X,Y)に対応する位置のドットの階調と(X+1,Y)に対応する位置のドットの階調を比較し、両ドットの階調が異なる場合のみステップS5に進み、X+1を作動位置データとして作成し、同時に(X+1,Y)に対応する位置のドットの階調を階調データとして作成する。その後ステップS6でパラメータXに1を加算してステップS3に戻る。一方、ステップS4で両ドットの階調が同じ場合にはデータの作成は行わず、そのままステップS6に進む。
【0037】
以上のステップS3からS6までのループ処理によって、横(X)方向に階調の変化があった場合にのみ、変化点でのX値が作動位置データとして作成されるため、制御装置が作動位置データとエンコーダによる位置情報を比較することで、画像で階調が変化する点に対応する位置で作動タイミングを決定することができる。また、同時に変化後(X+1,Y)の階調がデータとして作成されるため、制御装置が現在のアクチュエータの位置と変化後の階調に対応するアクチュエータの位置との差を計算して、アクチュエータの作動量を決めることができる。
次に、ステップS7からS9について説明する。ステップS3でXの値が最大値(コースの終端)を超えた場合は、ステップS7にシーケンスを移し、次のコースに処理対象を変更する。まず、ステップS7でコースの終端を表すデータを作成する。これによって、制御装置がコースの終端を認識することができる。次に、ステップS8でパラメータYに1を加算し、パラメータXをリセット(X=1)することで処理を次のコースの先頭に移す。その後、ステップS9でYが柄の最終コースを越えていないか判断して、超えていない場合はステップS3に戻り、最終コースを越えた場合は、処理を終了することによって、画像を生地上に再現するための柄データが作成される。
【0038】
以上のプログラムによって得られるデータ(作動位置X,階調)を図4で例示する。まず、1コースと2コースには、階調の変化がないので、(作動位置X,階調)=(0xffff,0xff)という終端子が上記ステップS7で作成されるだけとなる。次に、3コースでは(作動位置X,階調)=(19,4)、(23,1)、(0xffff,0xff)となり、4コースでは(作動位置X,階調)=(16,4)、(26,1)、(0xffff,0xff)となる。このように、各コース順番にデータが処理され、全コース分の柄データを1つの柄データファイルとして制御装置のメディアインターフェースを介してRAMの柄データ領域に格納される。
【0039】
図7および図8は、本発明に係る柄付編地の製造方法を実現するための製造装置を制御するための制御用のコンピュータプログラムのフローチャートである。
まず、メインプログラムのステップSA1でパルス速度、加減速時間等の制御に必要なパラメータをRAMの制御パラメータ領域から読み出してモータ制御回路を設定する等の初期設定を行う。次に、ステップSA2で柄データをメディアインターフェースからRAMの柄データ領域に読み込む。以上で運転準備が完了し、ステップSA3で運転開始命令を待ち、ステップSA4でコース先頭信号(近接スイッチ7の信号の立ち上がり)を待って、ステップSA5の柄出し作動に移る。
【0040】
次に、柄出し作動について説明する。
まず、ステップSB1では、RAMの柄データ領域から最初の作動位置データを読み出し、RAMの作業領域に格納される変数aに代入する。次にステップSB2でアクチュエータの作動量(出力パルス数c)を設定するが、ステップSB2の詳細については後述する。次に、ステップSB3でコース先頭信号を検知した場合以外は、ステップSB4へ進み、ここで運転終了命令がなければ、そのままステップSB5に進む。
ステップSB5ではインクリメンタルエンコーダのパルス信号の立ち上がり以外は、処理をステップSB3に戻し、当該信号の立ち上がりが検知されるまでステップSB3からSB5間でループする。その後、当該信号の立ち上がりを検知するとステップSB6で編成位置を表すカウンタ変数bに1を加算する。次に、ステップSB7で次回の作動位置を表す変数aとカウンタ変数bが一致した場合には、モータ制御回路に対して作動命令を出し、作動命令を受けたモータ制御回路はサーボアンプに対して、ステップSB2で設定した作動パルス数cと同数のパルスを出力し、アクチュエータを作動させ処理はステップSB1に戻る。一方ステップSB7で変数aとカウンタ変数bが一致しない場合には、編成位置が次回作動位置に達していないものとして処理をSB3に戻す。ステップSB8を通ってステップSB1に戻った後は、再びRAMの柄データ領域から次の作動位置データを読み出し、RAMの作業領域に格納される変数aに代入する。
【0041】
以後、説明した一連の処理を繰り返すことで、柄データ通りのアクチュエータ作動が行われる。なお、ステップSB3でコース先頭信号を検知した場合には、ステップSB9へ進み、前回のコース先頭信号から編機が1周しコースの先頭に戻ったものとしてカウンタ変数bを0にして、処理をステップSB1に戻す。なお、変数aにコースの終端を表すデータ(終端子(0xffff))が読み込まれた後は、ステップSB9を通って、SB1に戻らない限り変数aとカウンタ変数bが一致することはない。したがって、編機の編成位置が次のコースに移る前に、次のコースの柄データを読み込んで起こる誤作動を防止できる。また、ステップSB9へ進んだ時点で変数aが終端子(0xffff)となっているか確認することで信頼性を高められる。
【0042】
次に、作動量設定について図8に基づいて説明する。図7柄出し作動のステップSB2を詳細に表したフローチャートである。まず、ステップSC1で、次回作動に対応する階調データをRAMの柄データ領域から読み出し、当該階調に対応するアクチュエータ位置データをRAMのアクチュエータ位置データ領域から読み出し変数dに代入する。次に、ステップSC2で現在のアクチュエータ位置変数eと次回作動後の位置変数dの差を計算して次回の作動量(出力パルス数)変数cに代入する。次に、ステップSC3で出力パルス数cをモータ制御回路のレジスタに登録することで図7柄出し作動のステップSB8の作動命令出力後、cの数だけパルスが出力される。最後に、ステップSC4で変数dの値を変数eに代入して次々回の作動量を算出できるように準備してこのサブプログラムを抜ける。なお、作動量変数cが正の値か負の値かによって、アクチュエータの正転、逆転を切り替える処理が必要である。
【0043】
次に、図9を用いて連続する2つの作動位置の間隔(以下、作動間隔)が小さい場合に生じる誤作動を防止する方法について説明する。上記したように、アクチュエータの作動は、作動前の階調に対応するアクチュエータの位置と作動後の階調に対応するアクチュエータの位置の差分の数だけパルスをモータ制御回路から出力することにより行われる。このパルス出力にはパルス数に応じて所要時間がかかり、パルス出力中に再度作動命令を出力すると誤作動が生じる。したがって、連続する2つの作動の作動位置を示すエンコーダカウント間に十分な差がない場合には、前記誤作動が生じる危険がある。
例えば、図9において6コース目を例に取ると作動位置はX=16とX=22にありその差は6である。一方、5コース目では、作動位置がX=17とX=21にありその差は4である。ここで、編機の編成位置が、エンコーダカウントで5進む時間とモータ制御回路から出力されるパルス出力の所要時間とが等しい場合、6コース目では正常に作動するが、5コース目ではパルス出力中に次の作動位置に達し作動命令がだされ誤作動を生じる。この誤作動を防止するためには、編機の速度を下げることでも対応できるが、生産性が落ちるため好ましくない。
【0044】
そこで、編機の速度を下げずに上記の誤作動を防止するための方法を示す。図9では6コース目以降は問題がない。誤作動の問題を生じるのは4コース目と5コース目である。これらのコースでは、連続する2つの作動位置が正常作動可能な最小の作動間隔が5未満であることが問題の原因である。
そこで、誤作動を生じさせないためには、4コース目と5コース目の当該位置での作動をさせないように制御装置またはデータ変換プログラムでデータ処理をすれば良い。
または、作動間隔を広げるように制御装置またはデータ変換プログラムでデータ処理をすれば良い。作動をさせないようにする具体的な例としては、4コース目のX=18と5コース目のX=17における柄データを削除する。
作動間隔を広げる具体的な例としては、4コース目のX=20の作動位置と5コース目のX=21の作動位置を作動間隔が5となる位置まで遅らせる。これらの処理によって再現される柄が図案と異なる部分が生じるが、編地の性質や用途から考えて微小であれば問題は生じない。さらに、両処理を組み合わせることも可能である。4コース目の作動間隔は2であるので作動をさせない選択をし、5コース目は、作動間隔が4あるので1広げて5とする処理をすれば、柄のくずれを極小化できる。
【0045】
さらに、上記誤作動を防止する方法として、作動間隔が小さい場合は、パルス出力時間が作動間隔以下となるパルス数まで出力パルス数を減らして次の作動タイミングまでにパルス出力を完了させることで誤作動を防止できる。このときアクチュエータは、柄データで指定された階調に対応する位置に達していないが、図8のステップSC3で変数eに現在の位置を代入する処理を行えば、次の作動では、柄データで指定された階調に対応する位置にアクチュエータを移動させることができるため誤作動は生じない。
【0046】
さらに、上記誤作動を防止するために、アクチュエータにサーボモータを用いてパルス出力完了がモータの実作動完了より早く終了するようにパルス速度を速めて設定することも可能である。モータの実作動速度は、モータの最大トルクと負荷イナーシャにより定まる最大速度を超えることはできず、ステッピングモータでは、当該モータの最大速度を越えるパルス速度を入力すると脱調が発生し制御不能に陥る。しかし、サーボモータを用いるとモータの最大速度を越えるパルス速度を入力しても、モータ位置とパルス位置のズレが偏差パルスとして蓄えられモータは当該偏差パルスを減少するように作動するので誤作動は生じない。
【0047】
また、本来サーボモータを用いた機器では、通常偏差パルスが一定値以下に収束した時点で作動完了を確認して次のシーケンスに移るが、本発明に係る柄付編地の製造方法は、サーボモータの実作動終了よりパルス出力終了を大幅に早めることで、作動間隔が小さい場合には先のパルス出力を後の作動タイミングより早く終了させ、偏差パルスが大きい状態でもモータの位置に関係なく次の作動位置で作動命令を出力できるようにしたものである。
【0048】
この方法を使用すると、上記「作動させないようにする」または「作動間隔を広げる」処理を行わなければならない最大の作動間隔を小さくすることができる効果を有する。さらに、Xの1目の所要時間よりパルス出力時間が短くなるようにパルス速度を上げればこのような処理はまったく必要なくなる。
また、この方法を用いると、作動間隔が小さい位置でアクチュエータが所定の位置に達しないため柄がぼやける場合があるが、編地の性質や用途に照らして微小部分では問題は生じない。むしろ、上記「作動させないようにする」または「作動間隔を広げる」処理のみ行った場合より柄のくずれを小さくでき、より精細に柄を再現できる。
【0049】
次に、図10は本発明に係る柄付編地の製造方法を多給糸で行う例を示したものである。丸編みでは、給糸数を増やすことで生産性を向上させることができる。本実施形態では、2種類の異色糸(例えば白糸Y1と黒糸Y2)を3本ずつ交互に用い、白糸Y1のみ3機の張力変動装置8A、8Bおよび8Cで張力制御を実施することにより、生地上での白糸Y1と黒糸Y2の出現割合を制御し柄を形成する。このとき図案の各コースを各張力変動装置の順序に合わせて振り分けて制御する。つまり、張力変動装置8A、8Bおよび8Cは、編機の1回転目でそれぞれ図案の1、2、3コース目、2回転目でそれぞれ4、5、6コース目を編成して図案を生地上に再現するように作動させる。
【0050】
また、このとき各張力変動装置が生地上X方向の同じ位置を編成するタイミングは、各給糸位置の距離に応じて前後するので、この差を考慮して作動タイミングをずらすことにより、図案を同一座標系(作動位置X、コースY)で制御することが可能である。例えば、張力変動装置8Bが8Aよりエンコーダカウントで100遅れて同一位置を編成すると仮定すると、張力変動装置8Aと8Bが図案のともにX=10の位置に作動タイミングがある場合は、張力変動装置8Aは、コース先頭信号通過後、エンコーダカウント10の位置で作動するのに対し、8Bは10+100の110の位置で作動することで、生地上で同一の位置で階調が変化する。
【0051】
また、このように複数の張力変動装置を用いる場合には、各張力変動装置は同一階調で同じ張力を付与し、生地上で同一の色濃度等の柄要素の程度を実現するようにアクチュエータの位置を調整する必要がある。各張力変動装置が同一の部品で構成されているとしても、部品の寸法精度のばらつきや組み付け精度のばらつきがあり、アクチュエータ原点から一定量作動させても、張力変動装置間で必ずしも同一の張力等を実現できない。
そこで、本出願に係る柄付編地の製造装置は、各階調に対応する張力付与機構(アクチュエータ)の位置が、張力変動装置ごとにデータとして制御装置のメモリに格納されており、当該データを個別に変更することにより、複数の張力変動装置が同一階調で同じ程度の柄要素を実現するように調整可能にしたものである。
【0052】
さらに、前記データ変更による調整方法について図11を用いて説明する。糸Y1は、初期張力調整装置13と張力変動装置8の張力付与機構10を通り編機に供給される。まず、最初に張力変動装置8による張力付加を行わない状態で、各張力変動装置に対応する給糸口の糸の張力が一定値になるように調整する。その後、カムの引き込み量等編機の調整で各給糸口の糸速が一定になるように調整する。この段階では、編目長がそろった均一な編地を編成することができる。その後、張力付与機構の閉じ量を大きくするにしたがって、図中P1における糸速とP2における張力に変化が現れる。閉じ量を大きくするとP2における張力が増し、P2における糸の伸び率が大きくなるが、P2における糸速はほとんど変化しない。
したがって、編目1つに供給される糸の実質的な量(無張力時の長さ)は付加張力が大きいほど少なく(短く)なる結果、編地上で緊張を開放したときに編目が小さくなる。同一の編機で同種の糸では付加張力と生地上の編目の大きさが1対1に対応するため、各給糸口の同一階調におけるP2での張力が一定となるように制御装置のメモリに格納された張力付与機構(アクチュエータ)の位置データを変更・調整することで、給糸口間での同一階調での編目長が同じになるように調整できる。
【0053】
一方、P1では張力付与機構の閉じ量を大きくするにしたがって、張力と伸び率は変化しないが糸速が減少する。P1とP2での単位時間当りに通過する糸の実質的な量(無張力時の長さ)は等しいので、伸び率に変化がないP1では糸速が変化する。したがって、P1での糸速と生地上の編目の大きさも1対1に対応するためP1での糸速を基準に張力付与機構(アクチュエータ)の位置データを変更・調整することで、給糸口間での同一階調での編目長が同じになるように調整できる。
なお、P2での張力を基準に調整する場合、糸の振動等により張力がふらつくため、正確な調整が困難である。これに対し、P1での糸速を基準にした場合は、一定時間あたりに糸が進んだ量を計測するため細かい振動によるふらつきが平均化されるため数値が安定し正確な調整が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係る柄付き編地製造装置の概略構成図である。
【図2】前記柄付き編地製造装置に設けられた張力変動装置である。
【図3】前記張力変動装置を構成する張力付与機構により糸に張力が付与される概念を表した図である。
【図4】柄要素が変化する位置データと階調データの作成方法を示した図である。
【図5】前記柄付き編地製造装置を制御する制御装置の概略構成図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る柄データ作成プログラムのフローチャートである。
【図7】前記制御装置で使用する制御プログラムのフローチャートである。
【図8】前記制御プログラムのフローチャートのうち作動量設定を定義したフローチャートである。
【図9】作動間隔が狭い場合の誤作動防止方法について概念を示した図である
【図10】前記張力変動装置を1台の編機で複数個用いる場合の概略構成図である。
【図11】前記張力付与装置の位置を調整する方法を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 編機のシリンダ
2 シリンダ側ギヤ
3 エンコーダ、位置情報出力手段
4 エンコーダ側ギヤ
5 巻き取り装置ブラケット
6 金属片
7 近接スイッチ
8、8A、8B、8C 張力変動装置
9 アクチュエータ
10 張力付与機構
11 編み針
12 給糸口
13 初期張力調整装置
14 糸パッケージ
10A 駆動側テンサ
10B 固定側テンサ
Y1 張力制御を行う糸
Y2 張力制御を行わない糸
A1 図案の原画
A2 マス目状に処理した図案
S1〜S9、SA1〜SA5、SB1〜SB9、SC1〜SC4 フローチャートの要素
P1、P2 張力および糸速の測定位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
張力付与機構の位置を段階的に制御することによって給糸張力を段階的に変動せしめ、色濃度等の柄要素に変化を与える方法により編地に柄を形成する柄付編地の編成方法であって、
あらかじめ設計された図案と同等な柄を生地上に再現するために、図案中でコース方向に柄要素の変化する位置のデータと、編機に取り付けられた位置情報出力手段から出力される編成位置を特定するための信号とが同期して張力付与機構を作動させ、
図案中の柄要素の各段階に対応する張力付与機構の位置に対応するデータが制御装置のメモリに格納されており、
各作動後の柄要素の段階を指定すると、当該データを参照して張力付与機構の作動量を決めることにより、張力付与機構の作動タイミングと作動量の少なくとも何れか一方を制御して編地上に柄を形成する柄付編地の製造方法。
【請求項2】
張力付与機構を駆動するアクチュエータに、パルス入力により位置制御可能なアクチュエータを備えた張力変動装置を用いた請求項1に記載の柄付編地の製造方法であって、
柄データの一部で連続する2つの作動位置データの差が小さく結果として2つの作動の時間間隔が狭くなる場合に、
前の作動で作動命令出力後且つパルス出力完了以前に次の作動命令を出すことにより生じる誤作動を防止するために、2つの作動位置データの差が一定値以下となる場合には、前の作動命令を出さないようにする制御、または先の作動を早め、あるいは後の作動を遅らせて作動間隔を広げるようにする制御、若しくは出力パルス数を減らしてパルス出力完了を早めるようにする制御のうちの少なくとも何れかひとつの制御を行うことを特徴とする柄付編地製造方法。
【請求項3】
張力付与機構のアクチュエータに、パルス入力により位置制御可能なサーボモータを使用し、張力付与機構の移動量に相当するパルス数のパルス出力完了を前記サーボモータの実作動完了より早くして、パルス出力完了後、前記サーボモータが所定の位置に達する前に編み機が次の作動位置に達した場合は、前記サーボモータの位置に関係なく次の作動を開始させられるように制御する請求項1に記載の柄付編地の製造方法。
【請求項4】
張力付与機構の位置を段階的に制御することによって給糸張力を段階的に変動せしめ、色濃度等の柄要素に変化を与える方法により編地に柄を形成する柄付編地の製造装置であって、
あらかじめ設計された図案と同じ柄を生地上に再現するために、図案中でコース方向に柄要素の変化する位置のデータと、編機に取り付けられた位置情報出力手段から出力される編成位置を特定するための信号とが同期して張力付与機構を作動させるように制御する制御装置を備えるとともに、
この制御装置に含まれるメモリには、図案中の柄要素の各段階に対応する張力付与機構の位置に対応するデータが格納されており、
各作動タイミングにおいて作動後の柄要素の段階を指定すると、当該メモリに格納されたデータを参照して張力付与機構の作動量が決められることにより、張力付与機構の作動タイミングと作動量の少なくとも何れか一方を制御可能な張力変動装置を有する柄付編地の製造装置。
【請求項5】
張力付与機構を駆動するアクチュエータに、パルス入力により位置制御可能なアクチュエータを備えた請求項4に記載の柄付編地の製造装置であって、
柄データの一部で連続する2つの作動位置データの差が小さく結果として2つの作動の時間間隔が狭くなる場合に、前の作動で作動命令出力後且つパルス出力完了以前に次の作動命令を出すことにより生じる誤作動を防止するために、2つの作動位置データの差が一定値以下となる場合には、前の作動命令を出さないようにする制御、または先の作動を早め、あるいは後の作動を遅らせて作動間隔を広げるようにする制御、若しくは出力パルス数を減らしてパルス出力完了を早めるようにする制御のうち、少なくとも何れかひとつの制御を行うように構成された制御装置を備えたことを特徴とする柄付編地の製造装置。
【請求項6】
張力付与機構のアクチュエータに、パルス入力により位置制御可能なサーボモータを使用し、張力付与機構の移動量に相当するパルス数のパルス出力完了を前記サーボモータの実作動完了より早くして、パルス出力完了後、前記サーボモータが所定の位置に達する前に編み機が次の作動位置に達した場合は、前記サーボモータの位置に関係なく次の作動を開始させられるように制御する制御装置を備えた請求項4に記載の柄付編地の製造装置。
【請求項7】
デザイン画または画像データファイル等の図案を請求項4に記載の柄付編地の製造装置で使用可能なデータに変換するコンピュータプログラムであって、
図案を製造装置の編成位置Xとコース数Yに対応するマス目状に区切り、各コース内(X方向)で階調に変化があった場合に順次その編成位置Xと変化後の階調をデータとして作成する変換データ作成用のコンピュータプログラム。
【請求項8】
デザイン画または画像データファイル等の図案を請求項5または6の何れか1項に記載の柄付編地製造装置で使用可能なデータに変換するコンピュータプログラムであって、
図案を製造装置の編成位置Xとコース数Yに対応するマス目状に区切り、各コース内(X方向)で階調に変化があった場合に順次その編成位置Xと変化後の階調をデータとして作成するとともに、
編成する柄の一部で作動間隔が狭く、前の作動で作動命令出力後、パルス出力完了以前に次の作動命令を出すことを防止するために、一定間隔以上作動間隔がない場合は前の作動命令を出さないようなデータ、または先の作動を早め、あるいは後の作動を遅らせて作動間隔を広げるようなデータを作成する変換データ作成用のコンピュータプログラム。
【請求項9】
請求項5または6の何れか1項に記載の柄付編地の製造装置を制御して柄付編地を製造するためのコンピュータプログラムであって、
編成する柄の一部で作動間隔が狭く、前の作動で作動命令出力後、パルス出力完了以前に次の作動命令を出すことを防止するために、一定間隔以上作動間隔がない場合は前の作動命令を出さないようなデータ、または先の作動を早め、あるいは後の作動を遅らせて作動間隔を広げるように前記製造装置を制御するように構成されているコンピュータプログラム。
【請求項10】
あらかじめ設計された図案中の柄要素の変化後にとる状態に対応する張力付与機構の位置に対応するデータが制御装置のメモリに格納されており、各作動量が当該データを参照して決められることにより、張力付与機構の作動量を制御可能な張力変動装置を1台の編機において複数個有する柄付編地の製造装置に用いる製造方法であって、
各張力変動装置に対応する当該データをそれぞれメモリに格納し個別に変更することにより、複数の張力変動装置が同一階調で同じ程度の柄要素を実現する柄付編地の製造方法。
【請求項11】
あらかじめ設計された図案中の柄要素の変化後にとる状態に対応する張力付与機構の位置に対応するデータが制御装置のメモリに格納されており、各作動量が当該データを参照して決められることにより、張力付与機構の作動量を制御可能な張力変動装置を1台の編機において複数個有する柄付編地の製造装置であって、
各張力変動装置に対応する当該データをそれぞれメモリに格納し個別に変更することにより、複数の張力変動装置が同一階調で同じ程度の柄要素を実現するように調整可能とした柄付編地の製造装置。
【請求項12】
請求項10に記載の柄付編地の製造方法におけるデータを変更することによって複数の張力変動装置を調整する調整方法であって、
張力変動装置による張力制御を行う糸種ごとに張力付与機構による張力付加を行わない状態で編成中の各給糸口の給糸張力を一定値に調整し、その後張力付与機構による張力付加を行わない状態の編成中の各給糸口の糸速が一定値になるよう度目調整し、次に各階調に対応する張力付与機構の位置が同一階調において給糸口間で張力変動装置の直前の糸速が同じになるように前記データを変更することにより、各糸により編地上に現れる同一階調の柄要素の程度が同じになるようにする調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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