説明

柔軟性が維持された抄紙用フェルト及びその梱包方法

【課題】抄紙機に抄紙用フェルトを掛け入れる際、容易に作業ができ、作業時間を短縮し得る抄紙用フェルト及び抄紙用フェルトの梱包方法を提供すること。
【解決手段】製品である抄紙用フェルトに水分を付与することによって柔軟性を維持するものであって、水を含ませた状態で梱包することを特徴とする。水分付与量は、フェルトの目付に対しその2質量%以上とするのが好ましい。梱包は、プラスチックシートまたはアルミシートの袋状物からなる密封容器を用いる。水分とともに、保湿性、抗菌性、殺菌性を有する処理剤を併用しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性が維持された抄紙用フェルト及び柔軟性を維持し得る抄紙用フェルトの梱包方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙用のプレスフェルト及び湿紙搬送用ベルト(以下抄紙用フェルトという)は、汎用の製造工程の後、乾燥、仕上工程を経て、そのまま梱包出荷されている。そして、使用時には、製紙工場において抄紙機に抄紙用フェルトを掛け入れして取り付けられる。ところが、納品された抄紙用フェルトは含水率4%前後の乾燥状態のものであって柔軟性に乏しく、取扱いが困難なものであった。
【0003】
特に耐久性を付与するために化学処理されたものや搾水性を向上させるためにウレタン樹脂が含浸されたものなどは乾燥状態で剛直となり易い。また、基布の目付量やバット繊維層の目付量の増加、ニードリング時の針打効果の強化、あるいは乾燥時のヒートプレスの強化などにより高密度化することもなされているが、やはり柔軟性に欠けるものとなってしまう。
いずれも、梱包から解かれた状態では取扱いが難しく、掛け入れ作業時の取扱いも非常に困難となり、作業時間の長大化を招く原因となっていた。
【0004】
また、抄紙用フェルトは、エンドレスで使用されるため、エンドレスの抄紙用フェルトが多く用いられているが、エンドレスの抄紙用フェルトは抄紙機に掛け入れる際、クレーン等を用いてロールやロール支持部材等を取り外して行われるため、大型抄紙機では長時間機械を止めて掛け入れ作業を行う必要があった。その点からも、掛け入れ作業の時間を短縮し得る技術の開発が待たれていた。
【0005】
剛直化した抄紙用フェルトを柔軟化する技術自体は公知である。例えば特許文献1においては改質されたナイロン素材を使用することにより、余分な樹脂の生成を抑えている。
しかしながら、抄紙用フェルト使用時の柔軟性を考慮したものであって、掛け入れ時の状態まで配慮したものではない。
また、掛け入れ作業が容易であるように梱包を解いた状態での柔軟性について言及する文献は見当たらない。
【特許文献1】特開平11−200274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、抄紙機に抄紙用フェルトを掛け入れる際、容易に作業ができ、作業時間を短縮し得る抄紙用フェルト及び抄紙用フェルトの梱包方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、抄紙フェルトの水分含有量が高く保持されていると、柔軟性が維持されることに着目し、本発明に至ったものである。
本発明は、基本的には、製品である抄紙用フェルトに水分を付与することによって柔軟性を維持し、かつその高含水率を保った状態で梱包することを特徴とする抄紙用フェルト及びその製造方法に関する発明であり、以下の各技術を基礎とするものである。
【0008】
(1) 水分を付与することによって柔軟性が維持された抄紙用フェルトであって、水を含ませた状態で梱包されていることを特徴とする抄紙用フェルト。
【0009】
(2) フェルトの目付に対し、その2質量%以上の水を含ませた状態で梱包されていることを特徴とする(1)に記載の抄紙用フェルト。
【0010】
(3) 前記梱包が、外気の出入りがないように密封された容器内に封入することにより行われていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の抄紙用フェルト。
【0011】
(4) 前記梱包において、該容器内の空気が脱気されている密封容器が使用されていることを特徴とする(3)に記載の抄紙用フェルト。
【0012】
(5) 前記容器がプラスチックシートまたはアルミシートからなる袋状物であることを特徴とする(3)又は(4)に記載の抄紙用フェルト。
【0013】
(6) 水とともに、1又は2以上の保湿性、抗菌性、殺菌性を有する処理剤が併用されていることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の抄紙用フェルト。
【0014】
(7) 前記処理剤の1つが多価アルコールであることを特徴とする(6)記載の抄紙用フェルト。
【0015】
(8) 上記(1)に記載された抄紙用フェルトを製造する方法であって、抄紙用フェルトの製造工程において、仕上げ乾燥処理工程に続けて水分付与処理工程を設けて水分を付与し、その水分が含まれた状態で梱包することを特徴とする抄紙用フェルトを製造する方法。
【0016】
(9) 該水分付与処理によりフェルトの目付の2質量%以上の水が含まれるように調整し、その含水量を維持した状態で梱包することを特徴とする(8)に記載の抄紙用フェルトを製造する方法。
【0017】
(10) 前記梱包は、外気の出入りがないように密封された容器内に封入することにより行うことを特徴とする(8)又は(9)に記載の抄紙用フェルトを製造する方法。
【0018】
(11) 前記梱包が、密封容器内の空気を脱気することにより行うことを特徴とする(10)に記載の抄紙用フェルトを製造する方法。
【0019】
(12) 前記梱包が、プラスチックシートまたはアルミシートからなる袋状物を容器として使用することを特徴とする(10)又は(11)に記載の抄紙用フェルトを製造する方法。
【0020】
(13) 前記水分付与処理工程において、1または2以上の保湿性、抗菌性、殺菌性を有する処理剤を併用することを特徴とする(8)〜(12)のいずれかに記載の抄紙用フェルトを製造する方法。
【0021】
(14) 前記水分付与処理工程の前または後において、1または2以上の保湿性、抗菌性、殺菌性を有する処理剤の付与工程を設けることを特徴とする(8)〜(12)のいずれかに記載の抄紙用フェルトを製造する方法。
【0022】
(15) 前記処理剤として多価アルコールを用いることを特徴とする(13)又は(14)に記載の抄紙用フェルトを製造する方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、簡便な手段で抄紙用フェルトに柔軟性を付与することができ、その状態で梱包し、製品とすることにより、製紙工場における抄紙機への掛け入れ作業を容易とすることができ、掛け入れ時間を大幅に短縮できる抄紙用フェルトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
紙は、抄紙した後、湿った状態にある原料(湿紙)から連続的に水分を除去する工程を経て製造されるが、その製紙工程において使用される抄紙機は大きく分けて、ワイヤーパート、プレスパート、ドライパートの3つのパートから構成されている。
本発明は、主にプレスパートで使用される抄紙用フェルトを対象とする。
抄紙用フェルトは、湿紙とともにプレスパート内に設けられたプレス加圧部を通過することにより、湿紙の水分をフェルトへ受け入れ、脱水が行われる。
【0025】
抄紙用フェルトは、代表的には、図1に概略で示されるような製造工程で製造されている。準備工程においては、基布及びバット繊維層となる繊維原料が用意され、かつ基布を構成する経糸、緯糸を織機に掛ける準備が行われる。機織工程においてフェルト基布が織成され、ニードリング工程においてバット繊維層と基布とがニードリングにより一体化され、ニードルフェルトとされる。次いで、必要により化学処理(樹脂処理)を施し、乾燥工程を経て仕上られている。
【0026】
従来は、乾燥処理された状態で、すなわち含水率については、公定水分率(4〜5%)に抑えられた状態、すなわち剛性のある状態で梱包されていたため、実際に抄紙機に掛け入れする段階では、剛直であり、その作業は難渋を強いられるものであったのである。
【0027】
本発明においては、この仕上工程において、乾燥処理後、水分付与工程を設けることにより、フェルトの掛け入れ作業を容易とする柔軟性を与える含水状態に調整し、その含水状態を維持し得るようにして梱包を行うものである。その概略は図2に示されている。
【0028】
水分の付与は、フェルト目付に対してその2%以上の量が含まれるように行う。フェルト目付量は公定水分率の水分を含むが、その値に対して2%以上さらに水分が含まれていると、所望の柔軟性が得られる。
水分の付与は、図3及び図4aに示すような噴霧等の手段により行う。噴霧はフェルトの内面から行っても良い(図4b)。
【0029】
梱包は、まず、「たたみ」あるいは「ロール巻き」とし、内装材である袋状の容器に封入されることにより行う(図5a及びb)。容器の素材としては、プラスチックシートやアルミシートが用いられるが、いわゆるビニール袋と呼ばれるポリエチレン製の袋が好適に用いられる。
袋状容器に入れられたフェルトは、脱気し密封するのが好ましい。
【0030】
水分付与工程において、保湿性、抗菌性、殺菌性等の性質を有する処理剤を併用することもできる。これにより、容器に入れられたフェルトの乾燥を防ぎ、カビ等の雑菌の発生、増殖を防ぐことができる。
水分付与と同時に行うことが効率の面から好ましいが、その前工程あるいは後工程で付与してもよい。別工程で行う場合の手段は水と同様、散布等が採用される。
【0031】
本発明で使用する処理剤は、保湿性物質としては、エチレングリコ−ル、グリセリン、プロピレングリコ−ル、ジプロピレングリコ−ル、ブタンジオールなどの多価アルコール類及びそれらの重合物や、スクワラン、ヒアルロン酸、ロイヤルゼリー、植物抽出エキスなど一般的に知られている保湿剤を用いることができる。
【0032】
また、抗菌性物質としては、ヒノキチオ−ルなどの天然由来の抗菌物質や、エタノールやイソプロパノール等のアルコール類、塩化ベンザルコニウム等の第4級アンモニウム塩類、安息香酸またはその塩類、パラヒドロキシ安息香酸エステル類等の一般的に知られる抗菌剤、イミダゾール、2−メチルイミダゾールのような防カビ剤として知られる複素環式化合物のイミダゾール類などを用いることができる。
【0033】
多価アルコールは、優れた保湿性を有しており、処理剤として好ましい。好適に用いられる多価アルコールとしては、ポリエチレングリコール、グリセリンが挙げられる。
【実施例】
【0034】
ニードリング工程を経た後、そのまま及び樹脂処理したフェルトについて、次のサンプルを作成し、図3記載の散布装置を用いて種々の条件で水分を付与し、掛入性を評価するため、代用特性であるフェルト横剛軟度を測定した。
【0035】
<ハンドサンプルに用いたフェルト2種類>
サンプル1(フェルト目付1420g/m)・・・実施例1〜8、比較例1で使用
基材 経糸:1000dtexのモノフィラメント単糸 80本/5cm
緯糸:1240dtexのモノフィラメント単糸 84本/5cm
組織:2重
目付:550g/m
バット 繊度:17dtex
目付:830g/m
樹脂処理 材質:ウレタン
目付:40g/m
サンプル2(フェルト目付1420g/m)・・・実施例9〜11、比較例2で使用
基材 経糸:1000dtexのモノフィラメント単糸 80本/5cm
緯糸:1240dtexのモノフィラメント単糸 84本/5cm
組織:2重
目付:550g/m
バット 繊度:17dtex
目付:870g/m
【0036】
<剛軟度試験>
剛軟度としては、横剛軟度を測定した。該横剛軟度は、一般織物試験方法 JIS L1096に基づき、ガーレ式試験機を用いてA法(ガーレ法)により曲げ反発性を測定することにより求めた。
【0037】
<実施例1〜11、比較例1及び2>
ハンドサンプル1及び2に対し、条件を変えて、剛軟度を測定した。その結果を表1、2及び図6〜8に示す。表中、水分の付与量はフェルト目付に対する質量%である。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果によると、実施例1〜11のいずれにおいても、密封容器内に保持した場合には、剛軟度は低い値のまま維持されてた。
【0040】
また、60日密封した後、風乾(容器が解放)させた場合には、水分付与前(比較例と同じ状態)と同等の剛軟度に戻ってしまった(実施例1〜4、8〜11)が、保湿性物質を付与した場合(実施例5〜7)には、十分柔軟性が維持されていた。(表2)
【0041】
【表2】

【0042】
<実施例12>
表1のハンドサンプルによる測定結果に基づき、実施例2と同じ条件(サンプル1と同じ基本設計、水分付与量3質量%)で実機用フェルトを製作した。
フェルトの基本設計:サンプル1と同じ
フェルト寸法:36.86×920cm(481.5kg)
フェルト目付:1420g/m
水散布量:43cc/m
散布周回数:4周
【0043】
実施例12のフェルトを、密封容器で梱包後6日経過した状態で、抄紙機に掛け入れたところ、従来1時間かかっていた作業時間が25分で終えることができた。従来比で58%の時間短縮となった。
なお、従来のものとは、水分付与も処理剤付与も行わず、乾燥状態(公定水分率で保持されたもの、含水率4%前後)で梱包されたものである。
【0044】
<実施例13>
同様に、実施例9と同じ条件(サンプル2と同じ基本設計、水分付与量3質量%)で実機用フェルトを製作した。
フェルトの基本設計:サンプル2と同じ
フェルト寸法:36.86×920cm(481.5kg)
フェルト目付:1420g/m
水散布量:43cc/m
散布周回数:4周
【0045】
実施例13のフェルトを、密封容器で梱包後12日経過した状態で、抄紙機に掛け入れたところ、従来30分かかっていた作業時間が20分に短縮された。従来比で33%の時間短縮となった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により、抄紙用フェルトの納品先において、製紙工場で抄紙機に掛け入れする際、必要な柔軟性が保つことができる抄紙用フェルトを得ることができた。その結果、掛け入れ時の作業効率の格段の向上が図られ、大型抄紙機にも容易に対応することができるなど、本発明は、製紙工業において実用上有用性のあるものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】抄紙用フェルトの製造工程の概略を示す図である。
【図2】本発明の、仕上工程の一部を示す図である。
【図3】本発明における水付与装置を上面からみた図である。
【図4】本発明における水付与装置を側面からみた図(bは他の例)である。
【図5】本発明の抄紙用フェルト製品が容器(内装材)に梱包された状態(aがたたみ、bがロール巻)を示す図である。
【図6】水分付与率と剛軟度の関係について、実施例1〜4を比較例1と対比させたグラフである。
【図7】水分付与率と剛軟度の関係について、実施例5〜7を比較例1と対比させたグラフである。
【図8】水分付与率と剛軟度の関係について、実施例8〜11を比較例2と対比させたグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1:抄紙用フェルト
2:散布装置(スプレーノズル)
3:ポンプ(P)
4:ロール
5:容器(内装材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を付与することによって柔軟性が維持された抄紙用フェルトであって、水を含ませた状態で梱包されていることを特徴とする抄紙用フェルト。
【請求項2】
フェルトの目付に対し、その2質量%以上の水を含ませた状態で梱包されていることを特徴とする請求項1に記載の抄紙用フェルト。
【請求項3】
前記梱包が、外気の出入りがないように密封された容器内に封入することにより行われていることを特徴とする請求項1又は2に記載の抄紙用フェルト。
【請求項4】
前記梱包において、該容器内の空気が脱気されている密封容器が使用されていることを特徴とする請求項3に記載の抄紙用フェルト。
【請求項5】
前記容器がプラスチックシートまたはアルミシートからなる袋状物であることを特徴とする請求項3又は4に記載の抄紙用フェルト。
【請求項6】
水とともに、1又は2以上の保湿性、抗菌性、殺菌性を有する処理剤が併用されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の抄紙用フェルト。
【請求項7】
前記処理剤の1つが多価アルコールであることを特徴とする請求項6記載の抄紙用フェルト。
【請求項8】
請求項1に記載された抄紙用フェルトを製造する方法であって、抄紙用フェルトの製造工程において、仕上げ乾燥処理工程に続けて水分付与処理工程を設けて水分を付与し、その水分が含まれた状態で梱包することを特徴とする抄紙用フェルトを製造する方法。
【請求項9】
該水分付与処理によりフェルトの目付の2質量%以上の水が含まれるように調整し、その含水量を維持した状態で梱包することを特徴とする請求項8に記載の抄紙用フェルトを製造する方法。
【請求項10】
前記梱包は、外気の出入りがないように密封された容器内に封入することにより行うことを特徴とする請求項8又は9に記載の抄紙用フェルトを製造する方法。
【請求項11】
前記梱包が、密封容器内の空気を脱気することにより行うことを特徴とする請求項10に記載の抄紙用フェルトを製造する方法。
【請求項12】
前記梱包が、プラスチックシートまたはアルミシートからなる袋状物を容器として使用することを特徴とする請求項10又は11に記載の抄紙用フェルトを製造する方法。
【請求項13】
前記水分付与処理工程において、1または2以上の保湿性、抗菌性、殺菌性を有する処理剤を併用することを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の抄紙用フェルトを製造する方法。
【請求項14】
前記水分付与処理工程の前または後において、1または2以上の保湿性、抗菌性、殺菌性を有する処理剤の付与工程を設けることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の抄紙用フェルトを製造する方法。
【請求項15】
前記処理剤として多価アルコールを用いることを特徴とする請求項13又は14に記載の抄紙用フェルトを製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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