説明

柔軟性及び耐磨耗性に優れた長繊維不織布

【課題】
柔軟性、耐磨耗性、及び形態保持性に優れた、使い捨てカイロ用基布に好適な長繊維不織布を提供する。
【解決手段】
ポリブチレンテレフタレート(A成分)に対して、A成分と非相溶でありかつ110℃〜160℃のガラス転移点温度を有する熱可塑性ポリスチレン系共重合体(B成分)を0.05〜4.0重量%混合して得られるポリエステルからなる長繊維で構成された不織布において、22℃雰囲気での縦方向の伸度が30〜70%であり、22℃雰囲気での縦方向の目付量あたりの力(リキ)が10〜30(N/50mm*√%)/(g/m)であり、交絡処理していないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性及び耐磨耗性に優れた、使い捨てカイロ用基布に好適な長繊維不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨てカイロは、一般的に空気に曝すことで発熱する組成物を利用しており、製品寿命等は包材の通気性の影響を強く受けるため、通気性を制御し易い有孔フィルム、微孔フィルム等が包材として用いられている。しかしながら、これらのフィルムは柔軟性に乏しく、ゴワツキ感があり、衣服内で用いることが多い使い捨てカイロにおいては、使用快適性に問題があった。
【0003】
かかる問題を解消するために、例えば特許文献1,2では、使い捨てカイロ用包材として、フィルム特有の貼りついた触感、ゴワゴワする肌触り等を防ぎ、布的触感を持たせると共に、包材層の裂けにくさを付与する狙いとしてフィルムに不織布をラミネート加工したものが提案されている。しかしながら、従来の不織布を用いた場合は、包材の裂け難さと毛羽立ちの少なさを配慮すると、硬くなってゴワゴワ感が増し、逆に繊維触感を持たせ柔軟性を保持させると、毛羽立ちや形態保持性が悪くなる問題があった。
【0004】
かかる問題を解消する方法として、例えば特許文献3では、エンボス加工により凹凸を付与した不織布とラミネートフィルムとの接合を調整して肌との接着面の柔軟性を改良する方法が提案されている。しかしながら、かかる方法においても、不織布の柔軟性を改良する検討がなされておらず、ラミネートにより不織布の非接合部をラミネートフィルムと主体的に接合させるので、不織布の柔らかさが拘束されて不織布の柔軟性を充分生かせない問題があった。
【0005】
また、特許文献4では、不織布の厚みと見掛密度を限定して温熱機能を改良する方法が提案されている。しかしながら、かかる方法は、厚みで発熱体からの初期の熱移動を調整するのみであり、不織布の柔軟性やヒートシール性、形態保持性を向上させる検討がなされておらず、使い捨てカイロとして実用上の不具合が生じやすい。
【0006】
ラミネート性の改良方法として、例えば特許文献5では、不織布片面の繊維表面に低融点樹脂皮膜を塗布する方法が提案されている。この方法は、煩雑なコーティング工程を加える必要があり、コストアップが不可避である。また、不織布自身の柔軟性とヒートシール性及び耐熱性の問題点も解決されていない。
【0007】
また、ラミネート性向上による形態保持性の改良方法として、例えば特許文献6〜8では、熱接着成分を繊維化してラミネートする方法が提案されている。これらの方法は、低融点成分を繊維化しているので、低温でのラミネートは可能だが、耐熱性に劣る問題があった。
【0008】
同様に、特許文献9では、低融点繊維不織布と低融点フィルムを用いた低温シール性等に優れるラミネート不織布が提案されている。この方法では、低温シール性は良くなるが、不織布の耐熱性が不充分な問題が残る。
【0009】
柔軟性を改良する方法として、例えば特許文献10,11では、不織布を構成する繊維に扁平断面繊維を用いる方法が提案されている。これらの方法では、柔軟性向上以外の利点として、扁平断面繊維を用いるので、不織布の平滑性が向上して印刷性が改良されることと、厚みが薄くなり伝熱性が良くなる効果が開示されている。確かに、扁平断面繊維を用いると、断面二次モーメントの低い方向では曲げ剛性が低下するが、断面二次モーメントの高い方向では剛性が著しく高くなり、全方向の柔軟性を付与することは困難である。更に、フラット化により厚みに由来する柔らかさは付与できなくなる。従って、肌に接触して柔らかな風合いを付与できない問題があった。
【0010】
不織布の伝熱特性を利用する方法として、例えば、特許文献12では、不織布の断熱性を高めて、発熱体の発熱を有効に利用する方法が提案され、特許文献13では、特許文献12と逆に不織布の断熱性を低下させて熱損失を低減する方法が提案されている。しかしながら、断熱性が良すぎると、発熱体の発熱を伝達し難くなり温まり難く、断熱性が悪すぎると発熱体の発熱を制御し難くなり熱すぎる問題が発生する。即ち、不織布に対して適度の伝熱効率の付与が必要であるが、これらの方法は、その範囲が無視されており、快適性の配慮に欠けるものである。
【0011】
不織布の柔軟性を向上させる方法として、例えば特許文献14では、伸縮性を持つポリトリメチレンテレフタレートを用いて、ソフトな風合いを付与する方法が提案され、特許文献15では、ポリブチレンテレフタレートに非晶性ポリエステルをブレンドして、素材のモジュラスを低減させ、柔らかさを付与する方法が提案されている。これらの方法では、柔軟性は向上するが、繊維が柔らかなため、不織布強度が弱く破れやすい問題が残る。
【0012】
上述のように、従来の使い捨てカイロ用包材の改良では、柔軟性、耐磨耗性、及び形態保持性を全て満足したものが得られていないのが現状である。
【特許文献1】実開昭51−23769号公報
【特許文献2】実開昭55−59616号公報
【特許文献3】特開平2−297362号公報
【特許文献4】特開平3−001856号公報
【特許文献5】特開平9−300547号公報
【特許文献6】特開平8−131472号公報
【特許文献7】特開平10−314208号公報
【特許文献8】特開平10−328224号公報
【特許文献9】特開平11−56894号公報
【特許文献10】特開2004−024748号公報
【特許文献11】特開2004−024749号公報
【特許文献12】特開2004−41299号公報
【特許文献13】特開2004−42300号公報
【特許文献14】特開平11−89869号公報
【特許文献15】特開2007−105163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、柔軟性、耐磨耗性、及び形態保持性に優れた、使い捨てカイロ用基布に好適な長繊維不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。即ち、本発明は、以下の構成からなるものである。
(1)ポリブチレンテレフタレート(A成分)に対して、A成分と非相溶でありかつ110℃〜160℃のガラス転移点温度を有する熱可塑性ポリスチレン系共重合体(B成分)を0.05〜4.0重量%混合して得られるポリエステルからなる長繊維で構成された不織布において、22℃雰囲気での縦方向の伸度が30〜70%であり、22℃雰囲気での縦方向の目付量あたりの力(リキ)が10〜30(N/50mm*√%)/(g/m)であり、交絡処理していないことを特徴とする長繊維不織布。
(2)剛軟度が30〜70mmであり、耐磨耗性が4〜5級であることを特徴とする(1)に記載の長繊維不織布。
(3)使い捨てカイロ用基布として(1)または(2)に記載の長繊維不織布を用いたことを特徴とする使い捨てカイロ。
【発明の効果】
【0015】
本発明の長繊維不織布は、ポリブチレンテレフタレートに対して特定の熱可塑性ポリスチレン共重合体を特定量配合したポリエステルから構成され、縦方向の伸度、縦方向の目付量のあたりの力(リキ)が適度に高いので、柔軟性、耐磨耗性、及び形態保持性が極めて優れている。従って、本発明の長繊維不織布は、特に使い捨てカイロ用基布に使用するのに極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の長繊維不織布を詳述する。
本発明の長繊維不織布は、ポリブチレンテレフタレート(A成分)に対して特定の熱可塑性ポリスチレン系共重合体(B成分)を特定量混合して得られるポリエステルからなるものである。
【0017】
本発明におけるポリブチレンテレフタレート(A成分)は、耐熱性を維持して、低モジュラス化による柔軟性を付与するためのものであり、汎用性の高い安価な素材である。本発明では、A成分に対して特性を低下させない範囲で、必要に応じて、抗酸化剤、耐光剤、着色剤、抗菌剤、難燃剤、消臭剤などの改質剤を添加することができる。
【0018】
本発明における熱可塑性ポリスチレン系共重合体(B成分)は、本発明のA成分と非相溶であり、かつ110℃〜160℃のガラス転移点温度を有することが必要である。(B成分)は、A成分と相溶性を有しないことにより、A成分中で島成分として独立に存在する特性を有し、また、海成分であるA成分のガラス転移点温度より高い特定のガラス転移点温度とすることにより、B成分が紡糸張力を受けてポリエステルの配向結晶化を抑制する効果を発揮する。B成分としては、例えば、122℃のガラス転移点温度を有するスチレン−メタクリル酸メチル−無水マレイン酸共重合体樹脂(市販品では、例えば、Rohm GmbH&Co.KGのPLEXIGLAS hw55)や155℃のガラス転移点温度を有するスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂(市販品では、例えば、SARTOMER製 SMA1000)が少量の添加量で高い配向結晶化抑制効果を期待できるので特に好ましい。
【0019】
本発明のポリエステルでは、A成分に対するB成分の混合割合は0.05〜4.0重量%、好ましくは0.08重量%〜3.0重量%であり、より好ましくは0.1〜1.5重量%である。B成分の混合量が上記範囲未満では、配向結晶化抑制効果が少なくなり、繊維の配向度が高くなり、高伸度不織布にならないので好ましくない。混合量が上記範囲を超えると、高速での紡糸時、糸切れが顕著となり、繊維の配向度が非常に低いものしか得られず、弱い不織布しか得られないうえに、生産性も劣るので好ましくない。
【0020】
本発明の不織布は、長繊維で構成された不織布である。短繊維不織布では、繊維端が毛羽立ちの原因になるので好ましくない。長繊維では、繊維が切断しない限り毛羽立ちしないので、本発明では長繊維に限定される。長繊維不織布としては、スパンボンド不織布、長繊維トウ不織布などが挙げられるが、本発明では、スパンボンド不織布が、高速紡糸による力学特性の制御が容易なことから特に好ましい。
【0021】
本発明の不織布の22℃雰囲気での縦方向の伸度は30〜70%、好ましくは35〜68%、より好ましくは40〜65%である。伸度が上記範囲未満では、剛直性が増加して柔らかさが劣ると共に不織布のタフさがなくなり構造保持性も劣るものとなるので、好ましくない。伸度が上記範囲を超えると、引き伸ばされ易くなり、形態保持性や加工性が劣るので好ましくない。
【0022】
本発明の不織布の縦方向の伸度は、幅50mm、縦方向の測定長さ200mmのサンプルを、JIS−L−1906に準拠して測定した引張荷重と伸度の破断までの曲線(図1のようなSS曲線)を描いて、SS曲線のグラフより最大荷重での伸度の平均値(n=10)(DE)を計算して得られるものである。
【0023】
本発明の不織布の22℃雰囲気での縦方向の目付量あたりの力(リキ)は10〜30(N/50mm*√%)/(g/m)、好ましくは12〜28(N/50mm*√%)/(g/m)、より好ましくは15〜25(N/50mm*√%)/(g/m)である。縦方向の目付量あたりの力(リキ)が上記範囲未満では、不織布のタフさが不充分となり、毛羽立ち易く、形態保持性も不充分となるので好ましくない。上記範囲を超えると、シートが硬く、耐毛羽性、形態保持性と取扱性は十分優れるが、柔軟性が損なわれるため好ましくない。
【0024】
本発明の不織布の縦方向の力(リキ)(N/50mm*√%)は、上記SS曲線から求めたDEと、上記SS曲線から求めた最大引張荷重の平均値(n=10)(DT)とから下記式(I)で計算した値である。
力=DT×√(DE) 式(I)
【0025】
本発明の不織布は、繊維を損傷させないため、交絡処理しない不織布に限定される。ここで交絡処理とは、ニードルパンチ交絡処理、水流交絡処理などの処理により、構成繊維が不織布の断面方向に絡み合いを生じる処理を言う。交絡処理を行うと、長繊維を用いても繊維が切断され、毛羽立ちを生じやすくなるので好ましくない。本発明でいう交絡処理しない不織布とは、エンボス加工、熱接着加工などの圧着加工で不織布を固定された不織布を言う。本発明では、交絡処理されていない不織布であれば特には限定されないが、圧着面積が全面に及ぶとフィルム化してしまい柔軟性が低下するので好ましくない。フィルム化させない圧着方法としては、エンボス加工が望ましい。エンボス加工における好ましい圧着面積率は、柔軟性と表面平滑性と耐磨耗性を同時に満足できる30%未満であり、特に好ましくは8〜25%である。本発明のエンボス加工文様は、特に制限されないが、好ましくは横楕円ドットや織目柄などが挙げられる。
【0026】
本発明の不織布では、柔軟性の指標となるJIS−L−1096による剛軟性A法に準拠した剛軟度が30〜70mm,40〜65mmであり、JIS−L−1096IIに準拠した耐磨耗性が4〜5級、好ましくは5級である。剛軟度が上記範囲未満では、柔らかすぎて取扱性に問題が出る場合があり、上記範囲を越えると、硬い風合いを感じるので、好ましくない場合がある。また、耐磨耗性が4級より下では、毛羽立ちが発生する可能性があり、好ましくない場合がある。
【0027】
本発明の不織布を構成する長繊維の繊度は、特に限定されないが、被覆性と剛軟性を維持できる0.5〜5dtexが好ましい。より好ましくは1〜4dtexである。本発明の不織布を構成する長繊維の断面形状は、特に限定されないが、丸断面以外に異形断面、中空断面、中空異形断面を用いることができる。本発明の不織布の目付は、特に限定されないが、使い捨てカイロ用基布として用いる場合、15〜50g/mが好ましく、20〜45g/mが特に好ましい。
【0028】
次に、本発明の不織布の製造方法の一例を以下に示すが、本発明の製造方法はこれらに限定されるものではない。
例えば、A成分として固有粘度0.95のポリブチレンテレフタレート99.0重量部とB成分としてスチレン・メタクリル酸メチル・無水マレイン酸共重合体(例えば、PLEXIGLAS hw55)1.0重量部を乾燥機でブレンド乾燥し、次いで、通常の溶融紡糸機にて、孔長(L)と孔径(D)の比(L/D)が1〜5のオリフィスを持つノズルを用いて、A成分の融点+20〜50℃である紡糸温度、例えば265℃にて紡糸する。L/Dが1未満では、バラス効果が大きくなりやすく高速紡糸では糸切れが発生しやすくなる。L/Dが5を越えると、剪断力でA成分とB成分が分離しやすくなるので、配向結晶化抑制効果が繊維断面内で均質になりにくい問題がある。本発明では、繊維断面内で均質にA成分中にB成分が分散できるために、L/Dは好ましくは2〜4であり、より好ましくは3である。吐出量は所望の繊度を得るために、設定牽引速度に応じて設定する。例えば、2dtexの繊維を得たい場合、牽引による紡糸速度を4500m/分に設定する時は、単孔吐出量を0.9g/分にて吐出する。
【0029】
紡糸された吐出糸条はノズル直下〜10cm下で冷却風により冷却されつつ、下方に設置された牽引ジェットにて3000〜5000m/分の紡糸速度で牽引細化されて固化する。A成分が固化する前にB成分が固化して、A成分は、配向結晶化し難くなり、得られる長繊維の伸度を高く保つことができる。
【0030】
牽引紡糸された長繊維は、下方に設置された吸引ネットコンベア上に振落されてウエッブ化される。連続して、ウエッブはバラケないように100〜210℃にて予備圧着されてハンドリング性を確保される。次いで、巻き取られ、又は、連続して、エンボス加工される。圧着面積率が8〜25%の場合、用いるエンボスローラーのエンボス文様は、圧着面積となる凸部面積が6〜23%に設定した文様を用いることが好ましい。本発明でのエンボス加工温度は、素材と目付、加工速度、線圧により好ましい温度が異なるが、140℃〜230℃、特に160℃〜220℃で行うことが好ましい。
【0031】
なお、本発明の不織布は、必要に応じて、片面を印刷加工又はラミネート加工することができる。印刷加工は、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセットのいずれかの印刷機を用いて表面全面に施されていることが好ましい。印刷加工に使用されるインキは、ポリエステル系樹脂やポリウレタン系樹脂をバインダーとするものがポリエステル不織布との接着性の点で好ましい。印刷加工の厚みは全面に10μm以上が好ましく、より好ましくは15μm以上である。印刷加工の代わりにフィルムのラミネート加工をしてもよい。使い捨てカイロ用基布には、多孔性フィルムを使用することが好ましい。ラミネートされるフィルムの厚みは、柔軟性を損なわない範囲で5〜100μm程度が好ましい。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例で記載する特性の評価は以下の方法による。
【0033】
(1)B成分のガラス転移点温度及び融点
B成分の樹脂のサンプル5mgを採取し、示差走査型熱量計(TA instruments社製Q100)によって、窒素雰囲気下で20℃から10℃/分にて290℃まで昇温させたときの発熱ピーク位置の温度をガラス転移点温度、吸熱ピーク位置の温度を融点として評価した。
【0034】
(2)不織布の目付
JIS−L−1906−2000に準じて測定した単位面積あたりの質量(Ms):g/mを目付とした。
【0035】
(3)不織布の圧着面積率
不織布の任意の20箇所で30mm角に裁断し、SEMにて50倍の写真を撮る。撮影写真をA3サイズに印刷して圧着単位面積を切り抜き、面積(S0)を求める。次いで圧着単位面積内において圧着部のみを切り抜き圧着部面積(Sp)を求め、以下の式に従って圧着面積率(P)を算出する。圧着面積率は20点の平均値を求めた。
P=Sp/S0(n=20)
【0036】
(4)不織布の縦方向の伸度
幅50mm、縦方向の測定長さ200mmのサンプルを、JIS−L−1906に準拠して測定した引張荷重と伸度の破断までの曲線(SS曲線のグラフ)を描いて、SS曲線のグラフより破断時の伸度の平均値(n=10)を縦方向の伸度(DE)として求めた。
【0037】
(5)不織布の縦方向の力(リキ)
上記(4)でSS曲線から求めたDEと、SS曲線から求めた破断時の引張荷重の平均値(n=10)(DT)とから下記式(I)に従って力(リキ)を計算した。
力(リキ)=DT×√(DE) 式(I)
目付量あたりの力は、上記式(I)で求めた力(リキ)を不織布の目付Msで除した値である。
【0038】
(6)不織布の剛軟度
幅20mm、縦方向の長さ200mmの試料を用い、JIS−L−1096剛軟性A法に準拠した条件で測定した(n=10の平均値)(単位:mm)。
【0039】
(7)不織布の耐磨耗性
JIS−L−1096II法に準拠して、(株)大栄科学精器製作所製「学振型染色物摩擦堅牢度試験機」を用いて、不織布を試料とし、摩擦布は金巾3号を使用して、荷重500gfを使用、摩擦回数100往復にて摩擦させ、不織布表面の毛羽立ち、磨耗状態を下記の基準で目視判定で評価した(n=5の平均値)。
0級:損傷大
1級:損傷中、
2級:損傷小、
3級:損傷なし、毛羽発生あり小
4級:損傷なし、毛羽発生微小
5級:損傷なし、毛羽なし
【0040】
(8)官能評価
作成した長繊維不織布の片面に多孔性ポリエチレンフィルムをラミネートしたラミネート不織布を、20cm×15cmに切断して試料とし、これを二つ折りして、この間に市販の使い捨てカイロから取り出した発熱部分を挿入して周囲を熱シールして10cm×15cmのカイロを作成した。この作成したカイロに対して、パネラー5名による以下の官能評価を行った。
(i)柔らかさ
作成したカイロを手で軽く揉んでもらい、柔らかさを官能評価した。
4級:日本製紙クレリア製「クリネックス」並み〜より柔らかい、2級:旭化成製「クリーンワイプP」並みを基準にして、それらの中間を3級、2級より硬い場合を1級として、5名のパネラーの平均値を評価値にした。なお、3級以上を合格とした。
(ii)毛羽立ち性
作成したカイロを、下着(臀部)に外れないように縫いつけて8時間作業した後、目視で以下の基準で官能評価した。
4級:毛羽剥離なし、3級:毛羽微小剥離なし、2級:毛羽小〜中剥離微小、1級:毛羽大剥離中以上とし、5名の平均値とした。3級以上を合格とした。
【0041】
実施例1
固有粘度0.95のポリブチレンテレフタレート(PBT)99.6重量%とスチレン−メタクリル酸メチル−無水マレイン酸共重合体樹脂(Rohm GmbH&Co.KGのPLEXIGLAS hw55(hw55))0.4重量%を混合乾燥し、ノズルオリフィスがL/D3.0のノズルを用い、紡糸温度265℃、単孔吐出量0.7g/分にて常法により溶融紡糸し、紡糸速度4500m/分にて引取り、ネットコンベア上に振落してウエッブを得た。連続して、ネット上で190℃の予備圧着ローラーにて押さえ処理を行い、単糸繊度1.6dtexの長繊維からなるウエッブを得た。次いで、圧着面積率16%の210℃に加熱した横楕円エンボスローラーにて、線圧30kgf/cmにてエンボス加工して、目付量30g/mの長繊維不織布を得た。得られた不織布の詳細と評価結果を表1に示す。実施例1の不織布は、柔らかく毛羽立ちがなく、柔軟性と耐磨耗性がともに優れた不織布であった。
【0042】
実施例2
目付量が40g/mとなるようにコンベア速度を調整した以外、実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布の詳細と評価結果を表1に示す。実施例2の不織布は、柔らかく毛羽立ちがなく、柔軟性と耐磨耗性がともに優れた不織布であった。
【0043】
実施例3
目付量が20g/mとなるようにコンベア速度を調整した以外、実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布の詳細と評価結果を表1に示す。実施例3の不織布は、柔らかく毛羽立ちがなく、柔軟性と耐磨耗性がともに優れた不織布であった。
【0044】
実施例4
PBTを99.8重量%、hw55を0.2重量%とした以外は、実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布の詳細と評価結果を表1に示す。実施例4の不織布は、柔らかく毛羽立ちがなく、柔軟性と耐磨耗性がともに優れた不織布であった。
【0045】
実施例5
PBTを99.3重量%、hw55を0.7重量%とした以外は、実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布の詳細と評価結果を表1に示す。実施例5の不織布は、柔らかく毛羽立ちがなく、柔軟性と耐磨耗性がともに優れた不織布であった。
【0046】
実施例6
PBTを99.0重量%、hw55を1.0重量%とした以外は、実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布の詳細と評価結果を表1に示す。実施例6の不織布は、柔らかく毛羽立ちがなく、柔軟性と耐磨耗性がともに優れた不織布であった。
【0047】
実施例7
PBTを98.7重量%、hw55を1.3重量%とした以外は、実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布の詳細と評価結果を表1に示す。実施例7の不織布は、柔らかく毛羽立ちがなく、柔軟性と耐磨耗性がともに優れた不織布であった。
【0048】
実施例8
PBTを99.6重量%とし、hw55の代わりにSARTOMER製 SMA1000を0.4重量%とした以外は、実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布の詳細と評価結果を表1に示す。実施例8の不織布は、柔らかく毛羽立ちがなく、柔軟性と耐磨耗性がともに優れた不織布であった。
【0049】
実施例9
PBTを99.8重量%とし、hw55の代わりにSARTOMER製 SMA1000を0.2重量%とした以外は、実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布の詳細と評価結果を表1に示す。実施例9の不織布は、柔らかく毛羽立ちがなく、柔軟性と耐磨耗性がともに優れた不織布であった。
【0050】
【表1】

【0051】
比較例1
PBTを100重量%とし、hw55を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布の詳細と評価結果を表2に示す。比較例1の不織布は、B成分を含有していないため、柔軟性、耐磨耗性が劣る不織布であった。
【0052】
比較例2
PBTを95重量%、hw55を5重量%とした以外は、実施例1と同様にして紡糸したが、糸切れが顕著でウエッブが得られなかった。比較例2の詳細を表2に示す。比較例2は、B成分の添加量が多すぎるため、ウエッブを得ることも困難であった。
【0053】
比較例3
PBTを95重量%とし、hw55の代わりにSARTOMER製 SMA1000を5重量%とした以外は、実施例1と同様にして紡糸したが、糸切れが顕著でウエッブが得られなかった。比較例3の詳細を表2に示す。比較例3は、比較例2と同様にB成分の添加量が多すぎるため、ウエッブを得ることも困難であった。
【0054】
比較例4
PBTを99.9重量%、hw55を0.01重量%とした以外は、実施例1と同様にして長繊維不織布を得た。得られた不織布の詳細と評価結果を表2に示す。比較例4の不織布は、B成分の添加量が少なすぎるため、柔軟性、耐磨耗性が劣る不織布であった。
【0055】
比較例5
実施例1と同様にして作成したウエッブを、ペネ60でニードルパンチ加工して長繊維不織布を得た。得られた不織布の詳細と評価結果を表2に示す。比較例5の不織布は、交絡処理をしているため、柔軟性は良いが、耐磨耗性が劣る不織布であった。
【0056】
比較例6
固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート(PET)99.5重量%とスチレン−メタクリル酸メチル−無水マレイン酸共重合体樹脂(Rohm GmbH&Co.KGのPLEXIGLAS hw55)0.5重量%を混合乾燥し、ノズルオリフィスがL/D3.0のノズルを用い、紡糸温度282℃、単孔吐出量0.88g/分にて常法により溶融紡糸し、紡糸速度3500m/分にて引取り、ネットコンベア上に振落してウエッブを得た。連続して、ネット上で100℃の予備圧着ローラーにて押さえ処理を行い、単糸繊度2.5dtexの長繊維からなるウエッブを得た。次いで、圧着面積率18%の140℃に加熱した横楕円エンボスローラーにて、線圧30kgfにてエンボス加工して、目付50g/mの不織布を得た。得られた不織布の詳細と評価結果を表2に示す。比較例6の不織布は、剛軟度が高く硬直なため、耐磨耗性は許容されるが、柔らかさに劣る不織布であった。
【0057】
比較例7
B成分を混合しなかった以外は、比較例6と同一の条件で長繊維不織布を得た。得られた不織布の詳細と評価結果を表2に示す。比較例7の不織布は、比較例6と同様に剛軟度が高く剛直で、柔らかさが劣る不織布であった。
【0058】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の長繊維不織布は、柔軟性と耐磨耗性に優れ、表面がフラットで印刷性にも優れているので、使い捨てカイロ用基布に特に最適な材料を提供することができる。これらの用途に展開されることで生産性と品質の向上をもたらし、産業界に大きく寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】破断時までの引張荷重と伸度を描いたSS曲線の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート(A成分)に対して、A成分と非相溶でありかつ110℃〜160℃のガラス転移点温度を有する熱可塑性ポリスチレン系共重合体(B成分)を0.05〜4.0重量%混合して得られるポリエステルからなる長繊維で構成された不織布において、22℃雰囲気での縦方向の伸度が30〜70%であり、22℃雰囲気での縦方向の目付量あたりの力(リキ)が10〜30(N/50mm*√%)/(g/m)であり、交絡処理していないことを特徴とする長繊維不織布。
【請求項2】
剛軟度が30〜70mmであり、耐磨耗性が4〜5級であることを特徴とする請求項1に記載の長繊維不織布。
【請求項3】
使い捨てカイロ用基布として請求項1または2に記載の長繊維不織布を用いたことを特徴とする使い捨てカイロ。

【図1】
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【公開番号】特開2010−150687(P2010−150687A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329054(P2008−329054)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】