説明

柱状インゴットの鋳造装置およびこれを用いた柱状インゴットの鋳造方法

【課題】 本発明の目的は、ノズル閉塞性の低減と、タンディッシュとの分離性とを両立させた柱状インゴットの鋳造装置およびこれを用いた柱状インゴットの鋳造方法を提供することである。
【解決手段】 本発明は、複数本の柱状鋳型と、個々の該鋳型に対応する複数のノズル穴を底部に有するタンディッシュと、該タンディッシュ下面に配置され、前記柱状鋳型の上部端面に接続して前記ノズルとの間に鋳型毎の断熱空間を形成する、耐火物で断熱された断熱枠と、を具備しており、前記断熱枠の下部端面と前記柱状鋳型の上部端面とは、断熱枠側の自重により載置接続される柱状インゴットの鋳造装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の鋳型、典型的にはマトリックス状(行列状)に配置した鋳型に、同時に上注ぎ鋳造する鋳造装置およびこれを用いた柱状インゴットの鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インベストメント鋳造法(ロストワックス鋳造法)等においては、純度の高いマスターメタルをあらかじめ製造しておき、これを溶解して鋳造するのが一般的である。
インベストメント鋳造においては、通常、多数の比較的小型の製品を効率よく鋳造する必要性から、鋳造に要する溶湯をその都度成分調整しなくても済むように、その製品のサイズに合わせて特定サイズのマスターメタルを多数準備しておく必要がある。
このマスターメタルはインベストメント鋳造に用いられる炉に充填率高く装入できる矩形や円形等の断面形状が選択される。もっとも一般的な形状は、円柱状であり、前記の炉のサイズに合わせて長手に対し定尺に切断したものが使用されることが多い。
【0003】
マスターメタルを鋳造する手法としては、単一のノズルから鋳型一本ずつ順次に上注ぎ鋳造する方法と、マトリックス状(行列状)に配置した鋳型に、複数のノズルを底面に有するタンディシュ(あるいはディストリビューション・ボックス)と呼ばれる治具を用いて同時に上注ぎ鋳造する鋳造方法が知られている。
特に後者の複数のノズルを用いる方法は、複数の鋳型を同時並行的に鋳造するため、短時間で鋳造が完了し、溶湯の温度低下が少なく、ノズルの詰まりのリスクが軽減されるとともに、溶湯のスーパーヒートを低くできるため、溶湯の窒素含有量を低くすることができるといった利点がある。
鋳造に使用される複数のノズルを有するタンディシュには、本体を繊維性の耐火物を圧密成形により製作し、必要に応じて周囲を鉄枠等で補強したものや、上方が開放された箱状の鉄製枠内面に耐火物で内張りしたものが用いられている.
【0004】
これに類する技術として特許文献1には、複数インゴットの同時造塊装置が報告されている。特許文献1においては、並置立設された複数の鋳型と、各鋳型に向かうノズル口を有する溶湯分配用のタンディッシュとの間に、連通湯道をもつ耐火物製の平盤体を介在させ、タンディシュのノズル口と平盤体の通口の位置を一致させ、タンディシュのノズルが閉塞したときには、平盤体の連通湯道を通って溶湯が閉塞したノズルの下にある通口に供給され、鋳造を継続しうるようにしたものである。この方法では複数の鋳型に同時に鋳造することが可能であり、かつ各鋳型に均一に鋳造して、押湯不足を生じさせないという利点がある。
また、特許文献1に記載されるように鋳型上部の内壁に押湯枠として断熱材を配置する手法は、凝固時の収縮に対応した鋳型への溶湯供給作用を持続的に発揮させるという意味で有効であり、一般的に適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭62−82150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したとおり、マトリックス状に配置した鋳型に、同時に上注ぎ鋳造する鋳造方法は、マスターメタルの製造に有効である。
そして、特許文献1に指摘される通りノズルの閉塞は大きな問題である。特許文献1の技術は、簡単にいうと迂回路となる連通湯道を設けて溶湯を供給する方式である。この方式では、連通湯道の空間の存在により断熱効果が特に高まることはなく、各ノズル自体の閉塞リスクは軽減されない。
【0007】
また、本発明者の検討によれば、インゴットとタンディッシュ内に残留した凝固メタルとの分離性は重要な課題である。理想的には、ノズル口近傍で確実かつ容易に分離させる必要がある。マトリックス状に配置した複数の鋳型に対して、破断可能位置がまちまちであると、鋳型ごとに破断に必要な力が異なることになるため、安定した作業が困難となる。たとえば、ある鋳型に対しては、鋳造後のインゴットと鋳型の自重で破断可能であるものが、他の鋳型ではインゴットとタンディッシュ内に残留した凝固メタルとがノズル内に残留したメタルにより強固に接続されてしまい付加的な分離作業が必要となるといった具合である。
本発明の目的は、ノズル閉塞性の低減と、タンディッシュとの分離性とを両立させた柱状インゴットの鋳造装置およびこれを用いた柱状インゴットの鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数本の柱状鋳型と、
個々の該鋳型に対応する複数のノズル穴を底部に有するタンディッシュと、
該タンディッシュ下面に配置され、前記柱状鋳型の上部端面に接続して前記ノズルとの間に鋳型毎の断熱空間を形成する、耐火物で断熱された断熱枠と、
を具備しており、
前記断熱枠の下部端面と前記柱状鋳型の上部端面とは、断熱枠側の自重により載置接続される柱状インゴットの鋳造装置である。
本発明の柱状インゴットの鋳造装置においては、タンディッシュ下面と断熱枠とは、一
体に成形したものとしても良い。
また、本発明の柱状インゴットの鋳造装置においては、タンディッシュとして金属製枠に耐火物を内張りしてなるタンディッシュを用いることができる。
【0009】
また、本発明の鋳造方法は、
定盤上に複数本の柱状鋳型を配置し、
個々の該鋳型に対応する複数のノズル穴を底部に有するタンディッシュと、
該タンディッシュ下面に配置され、前記柱状鋳型の上部端面に接続して前記ノズルとの間に鋳型毎の断熱空間を形成する耐火物で断熱された断熱枠とを
該断熱枠の下部端面が、前記柱状鋳型の上部端面に接続するように載置し、前記断熱枠側の自重により接続を維持させ、
次いで前記タンディッシュから溶湯を供給して、タンディッシュ底部に溶湯が残留するまで前記柱状鋳型に鋳造し、溶湯が凝固した後、前記タンディッシュを上方に移動して、前記柱状鋳型から分離する柱状インゴットの鋳造方法である。
本発明の鋳造方法においては、タンディッシュ下面と断熱枠とを一体に成形したものを使用しても良い。
また、本発明の鋳造方法においては、タンディッシュとして金属製枠に耐火物を内張りしてなるタンディッシュを用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ノズル閉塞性の低減と、タンディッシュとの分離性とを両立できるため、インベストメント鋳造法に適用するマスターメタルの製造性に対して有効な手段となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の鋳造装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の鋳造装置の一例を示す部分断面模式図である。
【図3】本発明に適用するタンディッシュの一例を示す模式図である。
【図4】本発明に適用するタンディッシュの別の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を、図を用いて詳しく説明する。図1は、本発明に適用する鋳造装置の一例を示す模式図である。また、図2は、本発明に適用する鋳型と断熱枠とタンディッシュの接合部分の形態の一例を示す断面模式図である。
【0013】
まず、図1および図2に示すように本発明の柱状インゴットの鋳造装置は、複数本の柱状鋳型5を用いる。柱状インゴットは、先に記載したようにマスターメタルの使用形状にとって有利であり、複数同時鋳造法によれば生産性に優れている。鋳型形状は柱状であればよく断面は矩形であっても円形であってもよいが、鋳型製造性および作業性(後述の補強枠を用いたときの鋳型位置決めの容易性)の面からは円形が好ましい。鋳型としては溶湯との反応性の低い材質が好ましい。一般的にはコストを考慮して、炭素鋼を適用することができる。また、鋳型のサイズとしては、内径50〜200mm、長さ500〜2000mmが典型である。
本発明では、図1に示すように、鋳型底部より順次凝固させるための冷し金6を配置した定盤7を準備し、その上に中空円柱状の鋳型5を配置することで、マトリックス状に鋳型を組むことができる。使用する典型的な冷し金6の材質は銅であり、定盤7の材質は鋳鉄である。
【0014】
図2に本発明に適用する鋳造装置の一例を示す断面模式図を記す。図2に示すように、本発明の鋳造装置においてタンディッシュ1は、上方が開放された箱状の金属製枠1aの内面に溶湯を受ける耐火物1bで内張りしたものであり、柱状鋳型5に対応する複数のノズル3を底部に有するものとしている。金属製枠としては安価な鉄製を用いることができる。
使用する耐火物としては、高アルミナ質、ジルコン質などの溶湯との反応性の低い耐火物を主体とした耐火物を定型または不定形の状態で金属製枠に内張りしたものが使用できる。
タンディッシュ1としては、各ノズル3からの出湯量が大きく異なることのないように内部に堰を設けた構造を適用することができる。
また、図3に示すようにタンディッシュ1の下面、すなわちタンディッシュを構成する金属製枠1aの下面に格子状の補強枠2を設けることもできる。補強枠2を図3に示すような各ノズル3を取り囲む格子状とすることにより、タンディッシュ1の金属製枠1a中央底部の変形を防止できるとともに、後述する断熱枠4を嵌め込み固定する作用も付与することができるものとなる。
【0015】
図3に本発明に適用する断熱枠4の一例を示す模式図を示す。図3に示す断熱枠4は、断熱枠4上面を図3に示すタンディッシュ1の下面に接触するように補強枠2に嵌め込み、補強枠2と断熱枠4側面の嵌め合いにより固定するものである。この構成により、断熱枠4が各ノズル3毎に位置決めされる。これにより断熱枠4の耐火物による断熱空間は空洞状となる。
断熱枠4のサイズとしては、断熱空間となる内径は、ノズル3の外径以上、柱状鋳型5の内径以下から選び、長さは、5mm〜100mmとして、断熱空間内容積を鋳型内容積の1%以上とすることが断熱空間の確実な確保のために望ましい。
本発明に用いる断熱枠4となる耐火物としては、アルミナ・シリカ系セラミックファイバを適用することができる。特に断熱枠は溶湯の漏洩を防止するため、またできる限り密閉するために伸縮性のある前記のセラミックファイバを用いることが望ましい。
【0016】
上述した断熱枠4を配置したタンディッシュ1を、断熱枠4下部端面が柱状鋳型5の上部端面に接触接続するように載置することで、図1および図2に示す本発明の鋳造装置となる。
本発明の鋳造装置は、断熱枠4により、鋳型毎の断熱空間が形成される。これにより、ノズル3の閉塞の要因となるノズル3近傍の抜熱を確実に抑制することができる。
また、本発明の鋳造装置においては、断熱枠4の下部端面と柱状鋳型5の上部端面とは、断熱枠4側の自重により接続される。この構造は、組み立て容易性はもちろん、鋳造後のインゴットからの断熱枠4の分離除去性にも優れるものとなる。
また、柱状鋳型5と断熱枠4の載置接続する面の構成として、断熱枠4の下部端面と柱状鋳型5の上部端面とは、お互いに補角となるようなテーパーを形成することが好ましい。これにより位置決めがより容易となる。
【0017】
図1および図2に示す本発明の鋳造装置を使用した柱状インゴットの鋳造方法の一例について説明する。
まず、タンディッシュ1に、図1および図2には図示されていない溶解炉から直接、あるいは、これも図示されていない別のタンディッシュまたはラウンダー(樋)を介して、所定量の溶湯を供給する。この所定量はタンディッシュ1内に残湯が残るレベルとすることが望ましい。
本発明の鋳造装置により、複数本の柱状鋳型5に同時に鋳造が行われ、断熱枠4の断熱効果により、ノズル3が急には閉塞せず、溶湯の凝固過程におけるインゴットの引けに対して、タンディッシュ1からの溶湯を補充できる押湯の効果が得られるものとなる。タンディッシュ1内に残湯が残るレベルとすることにより、タンディッシュ1内の溶湯による押湯の効果がより確実なものとなる。
また、鋳造開始から最終凝固形態に至るまでには、ノズル3にある溶湯の方が先に凝固する場合が多いため、インゴットの引けがある程度は発生する。しかし、本発明では断熱枠4の断熱効果により、その形態は深いパイプ状とはならず、浅い平面状とすることができる。
本発明においては、鋳造後、溶湯が凝固した後、タンディッシュ1を上方に移動することで、柱状鋳型5から容易に分離する。本発明では、断熱枠4の断熱効果によりノズル3内の溶湯が凝固し、閉塞するのに遅れて断熱枠4内部の溶湯が引けて湯面が低下するため断熱枠4の内壁の溶湯の切れがよくなり、凝固後にノズル3の口近傍で、タンディッシュ1をインゴットから確実かつ容易に分離させることができるものとなる。
【0018】
また、本発明の別の形態として、図4にタンディッシュ1の下面と断熱枠4とが、一体に成形された場合の部分断面模式図を示す。この場合、タンディッシュ1本体の材質は断熱枠4に適した材質と同じにするのがよく、ノズル3は、図4に示すように、タンディッシュと別材質としてもよいが、溶湯とタンディッシュの反応が少ない場合は、単にタンディッシュ底面に開けられた穴をノズルとしてもよい。
この構造を適用すると、断熱枠4とタンディッシュ1の接合部分からの抜熱をより確実に防止することができ、ノズル3の閉塞を防止する上で、図3の構造より有利なものとなる。
一方、この金属枠を使用しない構成では、タンディッシュは、通常、一回の鋳造毎に使い捨てとなる。
本発明においてタンディッシュ1に金属製枠1aを適用して断熱枠4を別の部品として使用するか、タンディッシュ1と断熱枠4とを一体とするかは、タンディッシュを複数回使用するものとするか、1回の消耗品とするかによって、あるいは加工コスト等を考慮して適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0019】
1.タンディッシュ、 1a.金属製枠 1b.耐火物、 2.補強枠、 3.ノズル、 4.断熱枠、 5.鋳型 6.冷し金、 7.定盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の柱状鋳型と、
個々の該鋳型に対応する複数のノズル穴を底部に有するタンディッシュと、
該タンディッシュ下面に配置され、前記柱状鋳型の上部端面に接続して前記ノズルとの間に鋳型毎の断熱空間を形成する、耐火物で断熱された断熱枠と、
を具備しており、
前記断熱枠の下部端面と前記柱状鋳型の上部端面とは、断熱枠側の自重により載置接続されることを特徴とする柱状インゴットの鋳造装置。
【請求項2】
タンディッシュ下面と断熱枠とは、一体に成形されてなることを特徴とする請求項1に記載の柱状インゴットの鋳造装置。
【請求項3】
タンディッシュは、金属製枠に耐火物を内張りしてなることを特徴とする請求項1に記載の柱状インゴットの鋳造装置。
【請求項4】
定盤上に複数本の柱状鋳型を配置し、
個々の該鋳型に対応する複数のノズル穴を底部に有するタンディッシュと、
該タンディッシュ下面に配置され、前記柱状鋳型の上部端面に接続して前記ノズルとの間に鋳型毎の断熱空間を形成する耐火物で断熱された断熱枠とを
該断熱枠の下部端面が、前記柱状鋳型の上部端面に接続するように載置し、前記断熱枠側の自重により接続を維持させ、
次いで前記タンディッシュから溶湯を供給して、タンディッシュ底部に溶湯残留するまで前記柱状鋳型に鋳造し、溶湯が凝固した後、前記タンディッシュを上方に移動して、前記柱状鋳型から分離することを特徴とする柱状インゴットの鋳造方法。
【請求項5】
タンディッシュ下面と断熱枠とは、一体に成形されてなることを特徴とする請求項4に記載の柱状インゴットの鋳造方法。
【請求項6】
タンディッシュは、金属製枠に耐火物を内張りしてなることを特徴とする請求項4に記載の柱状インゴットの鋳造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−240051(P2012−240051A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109114(P2011−109114)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)