説明

柱耐火装置

【課題】不使用時に駅ホーム上以外の場所に格納することができ、使用時に柱を覆うように動作して柱を火炎の熱から防護することが可能な柱耐火装置を提供することを課題とする。
【解決手段】柱耐火装置101は、鉄骨柱3の周囲を覆う可動式の柱耐火装置である。さらに、柱耐火装置101は、鉄骨柱3の周囲を囲い伸縮可能な筒状の遮熱部10(11〜15)と、遮熱部10を伸長させる駆動機構20及び30とを備え、遮熱部10は、縮められた状態で鉄骨柱3に備え付けられる。このとき、ホーム階100に火災が発生しない平常時では、遮熱部10は、縮められた状態でホーム階100の床スラブ1の下側に格納され、ホーム階100での火災の発生時には、駆動機構20及び30が遮熱部10を床スラブ1から上方に鉄骨柱3に沿って伸長させ、ホーム階100の鉄骨柱3が覆われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、柱耐火装置に係り、特に可動式の柱耐火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地上空間に建設された鉄道の駅舎のホームは、周囲が開放されているうえ、火災の要因となるものが列車、売店等しかなく可燃物量が限定されており、火災発生時における火災の規模及び延焼性が一般の建築物に比べ非常に小さい。このため、ホーム上に建てられた駅舎の鉄骨柱や鉄骨梁には、厳格な耐火構造が要求されてこなかった。しかしながら、近年、ホーム上の売店の大型化が進んでおり、火災時の火炎や熱によって鉄骨柱が被害を受ける危険性が増大している。そして、鉄骨柱が火炎による高温の熱にさらされると、鉄骨柱の強度が著しく低下するうえ、鉄骨柱に伸びや曲がり等の変形が発生する場合があり、このような鉄骨柱に発生する異常は、駅舎全体の構造を崩壊させるような重大な問題を引き起こす可能性がある。
【0003】
一方、一般の建築物では、鉄骨柱の耐火対策として、特許文献1に示されるような鉄骨柱へ耐火塗料を塗布する構成、又は、特許文献2に示されるような鉄骨柱の周りを耐火ボードで囲む構成が採用されている。
なお、特許文献1では、鉄骨柱及び鉄骨梁の表面に発泡性耐火塗料による塗膜層が形成され、さらに、鉄骨梁と鉄骨柱との角部に、鉄骨柱及び鉄骨梁の塗膜層の表面にセメント系耐火被覆材を使用した耐火被覆材層が形成された構成が記載されている。
また、特許文献2では、鉄骨柱の外面を、耐火ボード取付用鋼製下地材を介して強化耐火ボードで被覆する構成が記載されている。そして、耐火ボード取付用鋼製下地材は、スペーサを兼ねており、耐火ボードと鉄骨柱の外面との間に間隙を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−266397号公報
【特許文献2】特開2002−180569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、駅ホームでは鉄骨柱は屋外で常に外気にさらされているため、特許文献1に記載される構成では、塗膜層の表面における雨の付着及び結露水の発生等が、塗膜層の劣化を進行させ、耐久性を低下させるという問題がある。また、運行する列車及び線路配置等に対して規定される建築限界によって、駅ホームの形状・寸法及び柱等の配置が制約を受けている。そして、特許文献2のように鉄骨柱の周りを耐火ボードで囲む構成は、柱の断面寸法を大きくするため、駅ホームの有効幅員を減少させるという問題がある。
【0006】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、不使用時に駅ホーム上以外の場所に格納することができ、使用時に柱を覆うように動作して柱を火炎の熱から防護することが可能な柱耐火装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明に係る柱耐火装置は、柱の周囲を覆う可動式の柱耐火装置において、柱の周囲を囲い伸縮可能な筒状の遮熱部と、遮熱部を伸長させる伸長機構とを備え、遮熱部は、縮められた状態で柱に備え付けられる。
【0008】
遮熱部は、多重に重ねられてそれぞれが柱の周囲を囲むようにして備え付けられる複数の遮熱筒と、遮熱筒同士を遮熱筒の軸方向に沿って一列に並ぶように連結するための連結部とを有してもよい。
伸長機構は、遮熱筒に当接し且つ遮熱筒を柱の長手方向に沿って移動させるように回転可能である回転体と、回転体を回転駆動する駆動装置とを有してもよい。
伸長機構は、回転体を遮熱筒に向かって押し付ける押圧装置を有してもよい。
【0009】
また、遮熱部は、柱の周囲を囲むようにして備え付けられる筒状の遮熱シートであり、伸長機構は、柱の長手方向に沿って縮められた遮熱部を伸長させる方向に付勢する付勢部材を有してもよい。
上記柱耐火装置は、遮熱部の上部を吊り下げる第一支持部材と、遮熱部の下部を吊り下げる第二支持部材とをさらに備え、第二支持部材は、所定の温度以上で溶融する材料から形成されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る柱耐火装置によれば、不使用時に駅ホーム上以外の場所に格納することができ、使用時に柱を覆うように動作して柱を火炎の熱から防護することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1に係る柱耐火装置の平常時の構成及びその周辺の構成を示す模式断面側面図である。
【図2】図1の柱耐火装置における火災発生時の構成及びその周辺の構成を示す模式断面側面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿った模式断面図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る柱耐火装置の平常時の構成及びその周辺の構成を示す模式断面側面図である。
【図5】図4のV−V線に沿った模式断面図である。
【図6】図4の柱耐火装置における火災発生時の構成及びその周辺の構成を示す模式断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
まず、図1〜3を用いて、この発明の実施の形態に係る柱耐火装置101及びその周辺の構成を説明する。なお、本実施形態では、鉄道の駅ホームに建てられた鉄骨柱に対して、柱耐火装置101を使用した場合の例について説明する。
【0013】
図1を参照すると、平常時、つまり火災が発生していない時の、鉄道の駅舎における一階部分であるホーム階100の構成が示されている。
ホーム階100は、乗客が通行し列車に乗降するための床スラブ1と、地面6の上に建てられて床スラブ1を支持する床支柱5と、地面6の中に埋め込まれた柱基礎4から延びる鉄骨柱3と、ホーム階100の天井を形成し鉄骨柱3によって支持される天井スラブ2とによって、構成されている。なお、天井スラブ2は、駅舎の二階200の床スラブも同時に形成している。また、ホーム階100では、天井スラブ2の下面2dに火災感知器7が取り付けられている。
ここで、床スラブ1から天井スラブ2に向かう方向を上方と呼び、天井スラブ2から床スラブ1に向かう方向を下方と呼ぶ。
【0014】
さらに、床スラブ1と柱基礎4との間には、ホーム階100での火災の発生時に火炎の熱から鉄骨柱3を防護するための柱耐火装置101が、設けられている。
柱耐火装置101は、鉄骨柱3の周りを取り囲むように構成された遮熱部10を柱基礎4上に備えており、遮熱部10は、鉄骨柱3の周りを取り囲む矩形状の断面をもつ筒状の遮熱筒11〜15によって構成されている。
また、遮熱筒11〜15は、柱基礎4上で多重に重ねて配置されている。具体的には、
遮熱筒11が鉄骨柱3に最も近接させて配置され、遮熱筒12が遮熱筒11を外側から取り囲むように重ねて形成・配置されている。そして、遮熱筒13が遮熱筒12を外側から取り囲むように重ねて形成・配置され、遮熱筒14が遮熱筒13の外側に重ねられ、さらに、遮熱筒15が遮熱筒14の外側に重ねられ、遮熱筒13と同様にして形成・配置されている。なお、遮熱筒11〜15は、耐火性及び耐熱性がある金属等の材料から形成されており、互いに固定されておらず、個別に上下つまり筒形状の軸方向にスライドさせることができる。さらに、遮熱筒11〜15は、鉄骨柱3へ伝達する熱を低減するために、その内側に断熱性を有する材料からなる断熱層が設けられてもよい。
【0015】
また、床スラブ1の地面6側となる下面1dには、遮熱筒11〜15を上下方向にスライドさせるための駆動機構20及び30が取り付けられている。
駆動機構20及び30は、鉄骨柱3を挟んで対向するようにして設けられている。
駆動機構20は、床スラブ1の下面1dに固定されたL字状の断面をもつ支持台21と、支持台21上で鉄骨柱3に対して接近する方向及び離れる方向に移動可能なローラ部22と、ローラ部22を鉄骨柱3に向かって付勢するバネ23と、ローラ部22を回転駆動させるためのモータ25とを有している。そして、図1では、遮熱筒11がローラ部22と鉄骨柱3との間に延び、ローラ部22の円筒状のローラ22b(図3参照)が、バネ23によって付勢されて遮熱筒11に押し付けられている。
【0016】
駆動機構20と同様にして、駆動機構30は、支持台31、ローラ部32、バネ33、及びモータ35(図3参照)を有している。そして、図1では、遮熱筒11がローラ部32と鉄骨柱3との間に延び、ローラ部32のローラ32b(図3参照)が、バネ33によって付勢されて遮熱筒11に押し付けられている。
ここで、駆動機構20及び30は、伸長機構を構成し、ローラ部22及び32は、回転体を構成している。さらに、モータ25及び35は、駆動装置を構成し、バネ23及び33は、押圧装置を構成している。
【0017】
図3を参照すると、駆動機構20及び30の水平断面を上方から下方に向かって見た図が示されている。
駆動機構20において、支持台21の水平方向に伸びる底板21b上には、ローラ部22が設けられ、ローラ部22は、回転軸22aをもつローラ22bと、回転軸22aを回転可能に支持するローラ支持台22cとを有している。そして、ローラ支持台22cは、底板21b上で鉄骨柱3及び遮熱筒11〜15に対して接近する方向及び離れる方向に移動可能である。また、ローラ22bは、遮熱筒11〜15と当接し遮熱筒11〜15を上方又は下方に移動させるように回転することができる。
【0018】
また、ローラ支持台22cは、支持台21の底板21bから上方に向かって延びて床スラブ1の下面1d(図1参照)に固定される壁部21aと、バネ23を介して連結されている。そして、ローラ支持台22cは、バネ23によって鉄骨柱3に向かって付勢されている。
また、ローラ22bの回転軸22aは、ギヤボックス24を介してモータ25と連結されており、モータ25によって回転駆動される。さらに、モータ25は、制御装置40と電気的に接続されており、制御装置40の制御によって駆動する。また、制御装置40は、火災感知器7と電気的に接続されており、火災感知器7からの信号を受信することができる。
【0019】
また、駆動機構30において、駆動機構20と同様にして、壁部31a及び底板31bを有する支持台31には、回転軸32aをもつローラ32b及びローラ支持台32cを有するローラ部32と、ローラ支持台32cを鉄骨柱3に向かって付勢するバネ33と、ギヤボックス34を介して回転軸32aに連結されるモータ35とが設けられている。そして、モータ35は、制御装置40と電気的に接続されている。
【0020】
また、図1に戻り、床スラブ1において、遮熱筒11〜15の上方となる部位には、遮熱筒11〜15を上方に向かってスライドさせた場合に通過することができる矩形状の貫通穴1aが形成されている。さらに、床スラブ1の上面1cには、床スラブ1上の乗客の通行を妨げないように、貫通穴1aを上方から塞ぐ蓋1bが設けられている。蓋1bは、上面1cで枢軸回転可能であり、貫通穴1aを閉鎖した状態で下方から押し上げられることによって貫通穴1aを開放するように構成されている。
【0021】
次に、図1〜3を用いて、この発明の実施の形態に係る柱耐火装置101の動作を説明する。
図1及び図3をあわせて参照すると、ホーム階100が平常時の状態では、遮熱筒11〜15は、床スラブ1の下方の柱基礎4上に配置されており、床スラブ1の貫通穴1aは蓋1bによって塞がれている。
【0022】
ホーム階100で火災が発生した場合、火災感知器7が、火炎の熱によって所定の温度以上に上昇した周囲空気の温度を感知すると、制御装置40が、火災感知器7から上記温度の感知信号を受信し、モータ25及び35を駆動させる。駆動したモータ25及び35はそれぞれ、ローラ部22及び32のローラ22b及び32bを回転駆動し、ローラ22b及び32bは、バネ23及び33によって押し付けられて摩擦係合している遮熱筒11を上方に向かってスライドさせる。つまり、ローラ22b及び32bを回転させることによって、遮熱筒11は、その筒形状の軸方向である鉄骨柱3の長手方向に沿って、上方へ移動する。そして、遮熱筒11は、貫通穴1aを通って蓋1bを押し上げ、床スラブ1より上方に突出するようにスライドして、ホーム階100の鉄骨柱3を囲む。
【0023】
ここで、図2を参照すると、遮熱筒12の上部には、図示しないバネによって遮熱筒12の内側に向かって付勢されて突出する連結ピン12aが設けられており、遮熱筒11の下部には、連結ピン12aと係合可能な穴11bが形成されている。そして、遮熱筒11及び12が重ねられている状態では、連結ピン12aは、遮熱筒11の側面に当接して押し戻されている。また、遮熱筒13〜15それぞれの上部には、遮熱筒12と同様にして、連結ピン13a〜15aが設けられており、遮熱筒12〜14それぞれの下部には、遮熱筒11と同様にして、連結ピン13a〜15aと係合可能な穴12b〜14bが形成されている。
【0024】
遮熱筒11がスライドされて遮熱筒12に対して所定の高さに達すると、遮熱筒12の連結ピン12aが、遮熱筒11の穴11bの中に突出してこの穴11bと係合する。これによって、遮熱筒11が遮熱筒12に対して遮熱筒12の軸方向に沿って一列に並ぶようにして連結・固定され、ローラ部22及び32のローラ22b及び32b(図3参照)は、遮熱筒11及び12を一体として上方に向かって移動させる。そして、ローラ22b及び32bは、係合している遮熱筒11を上方に移動させた後、鉄骨柱3から離れる方向に僅かに移動して遮熱筒12と係合し、バネ23及び33の付勢力を利用した摩擦係合により、遮熱筒12を遮熱筒11と共に上方に向かってスライド移動させる。これにより、鉄骨柱3の周囲のさらに多くの部分が遮熱筒11及び12によって覆われる。
【0025】
また、遮熱筒12がスライドされて遮熱筒13に対して所定の高さに達すると、遮熱筒13の連結ピン13aが遮熱筒12の穴12bと係合し、一体となった遮熱筒11〜13が、ローラ22b及び32b(図3参照)によって上方に向かってスライド移動され、鉄骨柱3の周囲のさらに多くの部分が遮熱筒11〜13によって覆われる。
上述と同様にして、遮熱筒14の連結ピン14a(図3参照)が遮熱筒13の穴13bと係合することによって、遮熱筒11〜14が一体となって上方に向かってスライド移動され、遮熱筒15の連結ピン15a(図3参照)が遮熱筒14の穴14bと係合することによって遮熱筒11〜15が一体となって固定され、ホーム階100の鉄骨柱3のほぼ全体が遮熱筒11〜15によって覆われる。
ここで、連結ピン12a〜15aは、連結部を構成している。
【0026】
上述より、火災の発生時に、遮熱筒11〜15からなる上下方向に伸縮可能な遮熱部10が上方に伸張することによって、鉄骨柱3がホーム階100で発生した火災の火炎及び熱に直接さらされることが防がれる。
【0027】
上述の説明から、この発明に係る柱耐火装置101は、鉄骨柱3の周囲を覆う可動式の柱耐火装置である。さらに、柱耐火装置101は、鉄骨柱3の周囲を囲い伸縮可能な筒状の遮熱部10と、遮熱部10を伸長させる駆動機構20及び30とを備え、遮熱部10は、縮められた状態で鉄骨柱3に備え付けられる。このとき、火災が発生しない平常時では、遮熱部10は、縮められた状態で鉄骨柱3に備え付けられているため、ホーム階100の床スラブ1の下側に格納しておくことができる。一方、ホーム階100での火災の発生時には、駆動機構20及び30が遮熱部10を床スラブ1から上方に鉄骨柱3に沿って伸長させることによって、遮熱部10がホーム階100の鉄骨柱3を覆い、火炎及び熱から鉄骨柱3を防護することができる。従って、柱耐火装置101は、不使用時に駅ホーム上以外の場所に格納され、使用時に鉄骨柱3を覆うように動作して鉄骨柱3を火炎の熱から防護することを可能にする。
【0028】
遮熱部10は、多重に重ねられてそれぞれが鉄骨柱3の周囲を囲むようにして備え付けられる複数の遮熱筒11〜15と、遮熱筒11〜15同士を遮熱筒11〜15の軸方向に沿って一列に並ぶように連結するための連結ピン12a〜15aとを有している。多重に重ねることができる複数の遮熱筒11〜15で遮熱部10を構成することによって、遮熱部10は、不使用時の縮められた状態で占めるスペースを縮小することができ、既設の駅ホームへ柱耐火装置101を追加設置することを容易にできる。
【0029】
駆動機構20及び30は、遮熱筒11〜15に当接し且つ遮熱筒11〜15を鉄骨柱3の長手方向に沿って移動させるように回転可能であるローラ部22及び32と、ローラ部22及び32のそれぞれを回転駆動するモータ25及び35とを有している。このとき、モータ25及び35を制御することによって、遮熱筒11〜15の動作を制御することができる。そして、モータ25及び35を制御する制御装置40が、火災感知器7の信号を受信できるようにすることによって、火災の発生時、制御装置40が自動的に、受信した信号に基づきモータ25及び35を駆動させるようにすることができる。つまり、柱耐火装置101の自動化を図ることが可能になる。
【0030】
駆動機構20及び30は、ローラ部22及び32のそれぞれを遮熱筒11〜15に向かって押し付けるバネ23及び33を有している。多重に重ねられた遮熱筒11〜15はそれぞれ、軸方向に垂直な方向の断面の大きさが異なるが、バネ23及び33の付勢力によって、ローラ部22及び32のローラ22b及び32bを遮熱筒11〜15それぞれの形状に対応して押し付けることができる。よって、駆動機構20及び30は、ローラ22b及び32bによって遮熱筒11〜15を確実に移動させることが可能になる。
【0031】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係る柱耐火装置201は、実施の形態1における柱耐火装置101が、下方から上方に向かって遮熱筒11〜15を伸ばすことによって鉄骨柱3を覆っていたのに対して、上方から遮熱筒を伸ばすことによって、鉄骨柱3を覆うようにしたものである。
なお、以下の実施の形態において、前出した図における参照符号と同一の符号は、同一または同様な構成要素であるので、その詳細な説明は省略する。
【0032】
図4を参照すると、ホーム階100が平常時の状態の柱耐火装置201が示されている。
柱耐火装置201は、天井スラブ2の下面2dの下方近傍に配置され且つ鉄骨柱3の周りを取り囲む円筒状をした遮熱筒210を有している。さらに、遮熱筒210は、遮熱シートを円筒状にして形成されている。
ここで、遮熱筒210は、遮熱部を構成している。
また、柱耐火装置201は、遮熱筒210の周囲に巻き付けられた付勢部材であるバネ212と、遮熱筒210の下端に取り付けられた輪状のウェイト211とを有している。
【0033】
さらに、柱耐火装置201は、遮熱筒210の上端と天井スラブ2の下面2dとを連結する第一支持部材221a〜221dと、ウェイト211と天井スラブ2の下面2dとを連結する第二支持部材222a〜222dとを有している。そして、第二支持部材222a〜222dによってバネ212が押し縮められていると共に遮熱筒210が折り畳まれている状態で、遮熱筒210が天井スラブ2から垂下されている。
また、図5に示すように、第二支持部材222a〜222dはウェイト211から四方に張り出すようにして天井スラブ2に取り付けられ、第一支持部材221a〜221dは、遮熱筒210の上部周縁からほぼ鉛直上方に向かって天井スラブ2に取り付けられている。
【0034】
図4に戻り、第一支持部材221a〜221dは、金属製のワイヤロープの周囲に耐火性及び耐熱性を有するシート状の耐火被覆材を巻き付けて形成され、ワイヤロープは、遮熱筒210、ウェイト211及びバネ212の重量を支持するのに十分な強度を有して形成されている。一方、第二支持部材222a〜222dは、所定の温度以上の空気に曝されると溶融して切断する材料で形成され、さらに、4つの第二支持部材222a〜222dでは、遮熱筒210、ウェイト211及びバネ212の重量並びにバネ212の伸長方向の付勢力による荷重を支持できるが、4つの第二支持部材222a〜222dのうち1つでも切断すると上記荷重を支持することができない強度で形成されている。第二支持部材222a〜222dを形成する材料としては、火災が発生していない通常時は正常な性能を維持するが火災の発生により周囲温度が上昇した場合に比較的低い温度(例えば、鉄が耐力及び剛性を低下させ始める350℃程度)で熱分解を起こし溶融するものが好ましく、ポリエチレン等の高分子材料を使用することができる。例えば、ポリエチレンは、約100℃以上で強度が低下し、約350℃で着火し、約335〜450℃で熱分解を起こし溶融する。
【0035】
また、床スラブ1の上面1cにおいて、ウェイト211の下方には、鉄骨柱3の周りを取り囲む円錐台状をした支持部3aが突出形成されている。支持部3aにおける外側に向かって下方に傾斜したテーパ面3a1は、輪状のウェイト211の内側がテーパ面3a1の途中に嵌合するような形状で形成されている。つまり、ウェイト211が落下した際に、支持部3aのテーパ面3a1によって、ウェイト211が床スラブ1の上面1cで跳ね返って暴れるのが抑えられる。また、テーパ面3a1を形成することによって、ウェイト211の下方の落下地点に人が立つこと及び物等が置かれることが防止され、ウェイト211の落下時に人と接触することを防ぎ、ウェイト211が支持部3aまで落下することができる。
【0036】
そして、ホーム階100で火災が発生した場合、火炎によって柱耐火装置201の周囲において、例えば第二支持部材222aの近傍の温度が所定の温度以上になると、第二支持部材222aは、溶融し、支持している遮熱筒210、ウェイト211及びバネ212の重量並びにバネ212の伸長方向の付勢力による荷重に耐えきれなくなり切断する。そして、第二支持部材222aが切断することによって、他の第二支持部材222b〜222dも、増大した支持すべき荷重に耐えきれなくなり切断する。
【0037】
このとき、図6を参照すると、ウェイト211が、バネ212の伸長方向の付勢力及びウェイト211の自重によって下方に向かって落下し、それによって、遮熱筒210が下方に向かって引き延ばされる。落下したウェイト211は、支持部3aのテーパ面3a1に係合して支持部3a上で固定され、鉄骨柱3は、遮熱筒210によってホーム階100で発生した火炎及び熱に直接さらされることが防がれる。
なお、ウェイト211の落下の途中では、バネ212には縮み方向の付勢力が作用し、この付勢力によって、ウェイト211の急激な落下が防がれる。
また、この発明の実施の形態2に係る柱耐火装置201のその他の構成及び動作は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0038】
上述のように、実施の形態2における柱耐火装置201によれば、上記実施の形態1の柱耐火装置101と同様な効果が得られる。
また、柱耐火装置201において、遮熱筒210は、鉄骨柱3の周囲を囲むようにして備え付けられる筒状の遮熱シートであり、伸長機構として、鉄骨柱3の長手方向に沿って縮められた遮熱筒210を伸長させる方向に付勢するバネ212が設けられている。これにより、不使用時に遮熱筒210を折り畳むと共にバネ212を縮めて固定することによって、柱耐火装置201をホーム階100の天井スラブ2の下面2d近傍に格納しておくことができ、使用時に固定したバネ212を解放することによって遮熱筒210が伸長し鉄骨柱3を覆うことができる。よって、柱耐火装置201は、その構成を簡易にすることを可能にする。
【0039】
また、柱耐火装置201は、遮熱筒210の上部を吊り下げる第一支持部材221a〜221dと、遮熱筒210の下部を吊り下げる第二支持部材222a〜222dとを備え、第二支持部材222a〜222dは、所定の温度以上で溶融する材料から形成される。これによって、火災の発生時、火炎の熱によって第二支持部材222a〜222dが溶融して切断し、遮熱筒210を下方に向かって伸長させることができる。従って、柱耐火装置201は、火災の発生時、自動的に遮熱筒210を伸長させて鉄骨柱3を熱から防護することを可能にする。
【0040】
また、実施の形態1の柱耐火装置101において、駆動機構20及び30は、床スラブ1の下面1dに取り付けられていたが、これに限定されるものでなく、柱基礎4に取り付けてもよい。
また、実施の形態1の柱耐火装置101において、駆動機構20及び30は、遮熱筒11〜15に対して、最も内側の遮熱筒11から上昇させ、その後、外側の遮熱筒12〜15を順次上昇させていたが、これに限定されるものでなく、最も外側の遮熱筒15から上昇させ、その後、内側の遮熱筒14〜11を順次上昇させるようにしてもよい。
【0041】
また、実施の形態1の柱耐火装置101において、駆動機構20及び30は、ローラ22b及び32bを遮熱筒11〜15の外側に当接させて、遮熱筒11〜15を上昇させていたが、これに限定されるものでなく、遮熱筒11〜15の内側に当接させてもよい。
また、実施の形態1の柱耐火装置101において、駆動機構20及び30は、ローラ22b及び32bを遮熱筒11〜15の側面に当接させて遮熱筒11〜15を上昇させていたが、これに限定されるものでなく、遮熱筒11に接続されたワイヤ等を巻き取ることによって、遮熱筒11を吊り上げるようにして上昇させるものであってもよい。
【0042】
また、実施の形態1の柱耐火装置101において、駆動機構20及び30は、円筒状のローラ22b及び32bを遮熱筒11〜15の外側の平坦な側面に当接させて、互いの間における摩擦力によって遮熱筒11〜15を上昇させていたが、これに限定されるものでない。駆動機構20及び30のローラを歯車状とし、遮熱筒11〜15の外側の側面にローラの歯車の歯に係合可能な溝を長手方向に形成し、ローラの歯と溝とを係合させつつローラを回転させることによって、遮熱筒11〜15を上昇させてもよい。
【0043】
また、実施の形態1の柱耐火装置101において、駆動機構20及び30では、ローラ支持台22c及び32cを遮熱筒11〜15に向かって押し付けるために、バネ23及び33が使用されていたが、これに限定されるものでなく、油圧若しくは空気圧を利用した機構でローラ支持台22c及び32cを押し付けてもよく、又は、動力を利用して機械式にローラ支持台22c及び32cを押し付けてもよい。
【0044】
また、実施の形態1の柱耐火装置101において、遮熱筒12〜15はそれぞれ、連結ピン12a〜15aによって、遮熱筒11〜14と連結・固定されていたが、これに限定されるものでない。遮熱筒11〜15を軸方向に垂直な横断面積が上方に向かって減少するテーパ形状をした台形台状又は円錐台状に形成し、遮熱筒11〜14はそれぞれ、上方に向かってスライドすることによって遮熱筒12〜15と係合し、この係合による摩擦力によって互いに連結・固定されるようにしてもよい。
また、実施の形態1の柱耐火装置101において、遮熱筒11〜15はそれぞれ、2つ以上に分割できるように構成してもよい。それによって、既設の鉄骨柱3に対してその側方から遮熱筒11〜15を取り付けることができ、柱耐火装置101の設置作業を容易にすることが可能になる。
【0045】
また、実施の形態1の柱耐火装置101において、遮熱筒11〜15は、金属材料から形成されていたが、これに限定されるものでなく、耐火ボード、耐火シート等の耐火性を有する材料から形成されてよい。また、耐火シートを使用する場合、鉄骨柱3の周りを取り囲む遮熱筒11〜15の輪郭を形成するフレームに耐火シートを取り付けてもよい。これにより、遮熱筒11〜15を軽量化して、遮熱筒11〜15を移動させるモータ25及び35を小型化し、柱耐火装置101の小型化を図ることが可能になる。
また、実施の形態1の柱耐火装置101において、床スラブ1の貫通穴1aの上方の蓋1bは、貫通穴1aの閉鎖時に床スラブ1の上面1cに倣うように延在していたが、これに限定されるものでない。蓋1bは、実施の形態2の支持部3aのテーパ面3a1と同様に、貫通穴1aの閉鎖時に傾斜するようにして設けられてもよい。
【0046】
また、実施の形態2の柱耐火装置201において、遮熱筒210の下端のウェイト211には4つの第二支持部材222a〜222dが取り付けられていたが、これに限定されるものでなく、3つ以下であっても5つ以上であってもよい。そして、第二支持部材は、1つでも切断すると必然的にウェイト211が落下するように、1つであってもよい。
また、実施の形態1及び2の柱耐火装置101及び201は、柱に対する火炎の熱の防護に使用されているが、これに限定されるものでなく、梁、筋交い等の棒状の部材に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
3 鉄骨柱(柱)、10 遮熱部、11,12,13,14,15 遮熱筒、12a,13a,14a,15a 連結ピン(連結部)、20,30 駆動機構(伸長機構)、22,32 ローラ部(回転体)、23,33 バネ(押圧装置)、25,35モータ(駆動装置)、101,201 柱耐火装置、210 遮熱筒(遮熱部)、212 バネ(付勢部材)、221a,221b,221c,221d 第一支持部材、222a,222b,222c,222d 第二支持部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱の周囲を覆う可動式の柱耐火装置において、
前記柱の周囲を囲い伸縮可能な筒状の遮熱部と、
前記遮熱部を伸長させる伸長機構とを備え、
前記遮熱部は、縮められた状態で前記柱に備え付けられる柱耐火装置。
【請求項2】
前記遮熱部は、多重に重ねられてそれぞれが前記柱の周囲を囲むようにして備え付けられる複数の遮熱筒と、前記遮熱筒同士を前記遮熱筒の軸方向に沿って一列に並ぶように連結するための連結部とを有する請求項1に記載の柱耐火装置。
【請求項3】
前記伸長機構は、前記遮熱筒に当接し且つ前記遮熱筒を前記柱の長手方向に沿って移動させるように回転可能である回転体と、
前記回転体を回転駆動する駆動装置とを有する請求項2に記載の柱耐火装置。
【請求項4】
前記伸長機構は、前記回転体を前記遮熱筒に向かって押し付ける押圧装置を有する請求項3に記載の柱耐火装置。
【請求項5】
前記遮熱部は、前記柱の周囲を囲むようにして備え付けられる筒状の遮熱シートであり、
前記伸長機構は、前記柱の長手方向に沿って縮められた前記遮熱部を伸長させる方向に付勢する付勢部材を有する請求項1に記載の柱耐火装置。
【請求項6】
前記遮熱部の上部を吊り下げる第一支持部材と、前記遮熱部の下部を吊り下げる第二支持部材とをさらに備え、
前記第二支持部材は、所定の温度以上で溶融する材料から形成される請求項5に記載の柱耐火装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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