説明

核移植用レシピエント細胞質としての不活性卵母細胞

【課題】動物胚の再構築方法の開発。
【解決手段】二倍体核を第二減数分裂中期で停止している卵母細胞に移植することからなる。卵母細胞は、ドナー核が一定期間レシピエント細胞質と接触され続けられるように、移植時には活性化されない。二倍体核は、移植時に細胞周期のG0期またはG1期のいずれかの細胞から得られる。次に、再構築された胚を活性化する。正しい倍数性は、例えばノコダゾールなどの微小管阻害剤の存在下で再構築された胚をインキュベーションすることによって、活性中維持される。さらに、再構築された胚から、1以上の生きた動物が誕生する。本発明は、遺伝的な価値の高い形質転換動物および非形質転換動物の生産に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、以下に制限されるものではないが、遺伝的に選択される及び/または修飾される動物等の動物の生産およびこれらの生産に有用な細胞に関するものである。
【背景技術】
【0002】
除核された卵母細胞(oocyte)または一細胞接合体へのドナー核(donor nucleus)の移植(Transfer)による哺乳動物の胚(embryo)の再構築(reconstruction)は、遺伝的に全く同一な個体の生産を可能にする。上記胚の再構築は、研究(即ち、生物学的コントロールとして)および商業的応用(即ち、遺伝的に価値のある家畜の増殖、肉製品の均一性、動物の管理)においても明らかに利点を有する。
【0003】
核の移植による胚の再構築は、核の等価性や「発達中に核は変化するのか」という質問に答えるために初めて提案された(Spemann,Embryonic Development and Induction 210-211 Hofner Publishing Co., New York(1938);非特許文献1)。だんだんに進行する胚期から核を移植することにより、核が胚の発達能力を制限する時点を決定する実験が計画された。技術的制限やシュペーマン(Spemann)の不運な死によってこれらの研究は1952年までには完成されず、この年、カエルにおいて核を性的な成熟体に発達させ得ること(Briggs and King, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 38 455-461(1952);非特許文献2)が示された。これらの発見は、一つの個体から生じた等しく分化全能性を有する核は、除核された卵に移植されると、「遺伝的に全く同一な」個体のもととなり得るという現在の概念のもととなった。この本当の意味では、それぞれで不明な細胞質の関与が異なるため上記個体はクローンではなく、またクロモソーム再編成が示されなければならない。
【0004】
両生動物の胚クローニグの開示以来、同様の技術が哺乳動物に応用された。これらの技術は、二つのカテゴリー:1)クロモソームDNAが予め除去された成熟分裂中期IIの卵母細胞へドナー核を移植すること、2)双方の前核が除去された受精1細胞接合体へドナー核を移植することに分けられる。有蹄動物においては、前者の方法が選択方法となった。前核置換の場合を除いて後者の方法を使用して発達が報告されないからである。
【0005】
一般的に、ドナー核の卵母細胞細胞質への移植は、細胞融合を誘導することによって達成される。有蹄動物における融合は、そのカプレット(Couplet)の接触/融合面にDC電気パルスをあてることにより誘導される。細胞融合を誘導する同様のパルスは、レシピエント卵母細胞もまた活性化する。胚再構築後の発達は、発達を指揮する核の能力、即ち分化全能性、レシピエント細胞質の発達の適格性(即ち、卵母細胞の成熟)、卵母細胞活性化、胚培養等の多くの要素に依存する(reviewed Campbell and Wilmut in Vth World Congress on Genetics as Applied to Livestock 20 180-187 (1994);非特許文献3)。
【0006】
上記に加え、我々は、再構築された胚の最初の細胞周期に、正確な倍数性の維持が重要であること示した(Campbell et al.,Biol.Reprod.49 933-942(1993);非特許文献4; Campbell et al., Biol.Reprod.50 1385-1393(1994);非特許文献5)。一細胞周期の間、全てのゲノムDNAが一回、有糸分裂(mitosis)に先立ち一回のみ複製される。いずれかのDNAが複製に失敗しまたは一回以上複製されると、有糸分裂時のその核の倍数性は不正確なものとなる。各細胞周期の複製が一回に制限されるメカニズムは不明確であるが、しかしながら、いくつかの証拠は、無傷な核膜の維持がこの調整に極めて重要であることを示す。除核された分裂中期IIの卵母細胞へのドナー核の移植後、核に生ずる形態的なできごとは、マウス(Czolowiska et al., J. Cell Sci. 69 19-34 (1984);非特許文献6)、ウサギ(Collas and Robl, Biol. Reprod. 45 455-465 (1991);非特許文献7)、ブタ(Prather et al., J. Exp. Zool. 225 355-359 (1990);非特許文献8)、メスウシ(Kanka et al., Mol. Reprod. Dev. 29 110-116(1991);非特許文献9)等の多くの動物種で研究されている。融合と同時に、直ちにドナー核の外被が破壊され(NEBD)、そのクロモソームが早期に凝縮する(PCC)。これらの作用は、成熟/有糸分裂/減数分裂促進物質(MPF)と呼ばれる細胞質活性物質によって触媒される。この活性が、全ての有糸分裂細胞および減数分裂細胞において、分裂中期に最高値に達する。成熟した哺乳動物の卵母細胞は、第二減数分裂の中期(分裂中期II)で停止し、高MPF活性を有する。受精またはMPF活性の活性化減退により、第二減数分裂が完了し第二極体が押し出され、この時クロマチンが解凝縮し前核形成が起こる。核移植においてMPFレベルが高くMEBDおよびPCCが生じる際に胚が再構築される;これらの後、MPF活性が減少するとクロマチン解凝縮と核の再形成およびDNA配列の複製が起こる。再構築された胚において、正確な倍数性は以下のいずれかのようにして維持される;第一は、定められた細胞周期段階の核、例えばG1期の細胞の二倍体核を活性化時の分裂中期IIである卵母細胞へ移植することにより;または、第二は、レシピエント卵母細胞を活性化し、MPF活性消滅後にドナー核を移植することによるものである。ヒツジでは、後者の方法は、ドナー細胞核として16細胞胚(16 cell embryos)からの分割球(blastomere)を用いたとき、再構築された胚が胚盤胞期へ発達する頻度を21%〜55%へ増加させる(Campbell et al., Biol. Reprod. 50 1385-1393(1994);非特許文献5)。
【非特許文献1】Spemann,Embryonic Development and Induction 210-211 Hofner Publishing Co., New York(1938)
【非特許文献2】Briggs and King, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 38 455-461(1952)
【非特許文献3】reviewed Campbell and Wilmut in Vth World Congress on Genetics as Applied to Livestock 20 180-187 (1994)
【非特許文献4】Campbell et al.,Biol.Reprod.49 933-942(1993)
【非特許文献5】Campbell et al., Biol.Reprod.50 1385-1393(1994)
【非特許文献6】Czolowiska et al., J. Cell Sci. 69 19-34 (1984)
【非特許文献7】Collas and Robl, Biol. Reprod. 45 455-465 (1991)
【非特許文献8】Prather et al., J. Exp. Zool. 225 355-359 (1990)
【非特許文献9】Kanka et al., Mol. Reprod. Dev. 29 110-116(1991)
【発明の開示】
【0007】
このような再構築された胚の発達頻度の上昇は、いまのところ核の再プログラム(reprogramming)の問題を扱ってはいない。発達中にある遺伝子が「インプリントされる(imprinted)」、即ちもはや転写されないように変換される。インプリントに関する研究から、このインプリントは生殖細胞形成(即ち、再プログラム)中に除去されることを示す。一つの可能性としては、減数分裂を受ける細胞に存在する細胞質因子にクロマチンが接触することによって、この再プログラムが影響を受けることがある。これはドナー核の発達の時計を再プログラムするため、核移植による胚の再構築中にこの状況を如何に模倣するかという疑問が生じる。
【0008】
ここで、分裂中期IIで停止された卵母細胞への核移植が、正常な倍数性(即ち二倍体)が維持され、かつこの胚が核移植時に活性化されなければ生育可能な胚をもたらし得ることが示された。活性化が遅滞することにより、核はレシピエント細胞質を接触され続けることが可能になる。
【0009】
本発明の第一の概念によると、付随して卵母細胞を活性化することなく第二減数分裂の中期(metaphase of the second meiotic division)で停止されている卵母細胞中に二倍体核を移植し、再構築された胚が生きた状態で誕生することができるようになるのに十分な時間、核をレシピエントの細胞質(cytoplasm)と接触させ続け、さらに正確な倍数性を維持しつつ再構築された胚を活性化することを含む、動物胚の再構築方法が提供される。この段階では、再構築された胚は単細胞である。
【0010】
原則としては、本発明はニワトリなどの鳥類、両生動物及び魚類などの全ての動物に応用され得る。しかしながら、実際には、最も商業性の高い有用な利用可能性が現在期待されるのは、ヒト以外の動物、特にヒト以外の哺乳動物、特に胎盤のある哺乳動物についてであろう。特に、本発明が、動物をクローニングするための手段としておよび形質転換動物を生産するための手段として、最も有用であると考えられるのは、有蹄動物、特にウシ、ヒツジ、ヤギ、スイギュウ、ラクダ及びブタなどの経済上重要な有蹄動物を用いるものである。本発明は他の経済上重要な動物種、例えば、ウマ、ラマまたはラットやマウス等の齧歯動物、またはウサギ等にも適当できると考えられることに留意すべきである。
【0011】
本発明は、形質転換、および非形質転換動物の生産に同様に使用できる。形質転換動物は遺伝的に変換されたドナー細胞から生産される。全体としての方法は、形質転換(即ち、遺伝的に修飾された)動物の生産に関する既知の方法に比べて多くの利点を有し、これらを要約すると以下のとおりである:
(1)より少ない数のレシピエントで十分である;
(2)多数の同遺伝子型創始体(founder) がクローンドナー細胞を用いて得られる;
(3)遺伝子ターゲティングによって微細な遺伝的修飾が可能である;
(4)各動物は単一の核由来であるので、本発明によって調製される胚から生産されるすべての動物は生殖系列を介してその関連する遺伝的修飾を遺伝すべきである;これに対して、胚盤胞(blastocyst)注入により修飾された幹細胞群を封入させた後の前核注入又はキメラ現象による形質転換動物の生産は、すべての細胞が修飾を有するものではないモザイク動物が一定の割合で生産され、これらは生殖細胞系を介して修飾を後世に伝えない;および
(5)細胞を、全動物を生産する前に遺伝的修飾(例えば、組み込み)の部位で選択できる。
【0012】
動物に関して使用される、「形質転換」という言葉は、多くの形質転換動物は他の種由来の一以上の遺伝子をその生殖系列内に含むものであるが、そのような一以上の遺伝子をその生殖系列内に含む動物を称するものと限定して解してはならないことに留意すべきである。むしろ、このことばは、組換DNA技術による技術的な関与を受けた生殖系列を有する動物を意味するものとしてより広範な意味で使用される。このため、例えば、その生殖系列において内因性の遺伝が欠失、複製、活性化または修飾された動物、さらにはその生殖系列に外因性のDNA配列が付加された動物は、本発明の目的では形質転換動物である。
【0013】
動物が形質転換動物である際の本発明の実施態様によると、ドナー核は遺伝的に修飾される。このドナー核は一以上のトランスジーンを含み、遺伝的修飾は核の移植及び胚の再構築の前に起こる。接合体のオスまたはメスの前核中への注入に類似する、マイクロインジェクションが遺伝的修飾方法として使用されるが、本発明は上記方法に限定されるものではない:例えば、エレクトロポレーション、ウィルスのトランスフェクションまたはリポフェクション(lipofection) などの、マストランスフォーメーション(mass transformtion)またはトランスフェクション技術もまた使用できる。
【0014】
前述した本発明の方法において、二倍体核はドナーから除核されたレシピエント卵母細胞へ移植される。移植時に二倍体であるドナーは、再構築された胚の正確な倍数性を維持するために必要であり;それゆえドナーは、細胞周期のG1期または好ましくは、本日出願した我々の同時継続中のPCT特許出願番号PCT/GB96/02099号(GB9517780.4号からの優先権主張)の対象であるように、G0期のいずれかにある。
【0015】
有糸核分裂細胞周期は、G、S、G2及びMの明瞭な4期からなる。「スタート(start) 」と称される、細胞周期の開始はG1期で起こり、独特の機能を有する。他の細胞周期を受けるかの決定または拘束はスタート(start) 時になされる。細胞がいったんスタート(start) を通過すると、プレDNA(pre-DNA) 合成期である、G1期の残りを通過する。第二段階である、S期はDNA合成が行われる時期である。その後、G2期があり、ここはDNA合成と有糸分裂との間の時期である。有糸分裂自体はM期で起こる。静止状態の細胞(静止状態が誘導された細胞および十分分化した細胞などの自然に静止状態にある細胞を含む)は、通常、このような周期の4期のいずれにも属さないと見なされる;静止状態の細胞はG0状態にあると一般的に説明され、このため、静止状態の細胞は上記周期を正常に進行しないことが示される。静止状態のG0細胞の核は、G1期の細胞の核と同様、2倍のDNA含量を有する;双方の二倍体核を本発明において使用することができる。
【0016】
上記を仮定すると、核ドナーに使用できる細胞に制限はなく;完全にもしくは部分的に分化した細胞または未分化細胞を、さらにはインビトロで培養されまたはex vivoで抽出された細胞をも使用することができると考えられる。ただ一つの制限は、ドナー細胞が正常なDNA含量を有しかつ核学的に正常であることである。好ましい細胞源は、WO96/07732号として公開された、我々の同時継続中のPCT特許出願番号PCT/GB95/02095号に開示される。このような正常な全ての細胞は、生体動物を生産するために必要な全ての遺伝的情報を含んでいると考えられる。本発明により、このような情報が遺伝子材料が再度発達させられるようにクロマチン構造を変化させることにより胚を発達させるために提供されうる。
【0017】
本発明で有用なレシピエント細胞は、第二減数分裂中期で停止し、除核された卵母細胞である。ほとんどの脊椎動物では、卵母細胞の成熟はインビボでは卵の成熟工程のほとんど最終段階にまで進行し停止する。排卵時には、停止された卵母細胞が卵巣から放出される(受精が起こる際には、卵母細胞は当然刺激され、減数分裂し終える)。本発明を実際するにあたっては、卵母細胞は、インビトロまたはインビボのいずれかで成熟させてもよく、これらは第一極体の出現時にまたは排卵後速やかに集められる。
【0018】
レシピエントは除核されることが好ましい。核の移植工程におけるレシピエント卵母細胞の除核は必須であると通常考えられるが、この判断の実験による確認は公表されていない。有蹄動物について記載されたオリジナルな方法は、細胞を2個等分に分割することを伴うが、この際、一方が除核されたと考えられた(Willadsen Nature 320 (6) 63-65 (1986))。この方法は、他方の不明な半分は中期の器官を有したままであり、細胞質の容積の減少は新たな胚の分化パターンを加速すると考えるという短所を有する(Eviskov et al., Development 109 322-328 (1990))。
【0019】
より近年では、異なる方法が最小限の細胞質量で染色体を除去する試みに使用された。第一極体及び付近の細胞質の吸引により、67%のヒツジの卵母細胞において中期II器官が除去されることが分かった(Smith Biol. Reprod. 40 1027〜1035(1989))。除核が細胞質の容積を最小限の減少で行われることによる方法は、DNA特異的蛍光色素(Hoechst 33342)を用いるもののみであった(Tsunoda et al., J.Reprod. Fertil. 82 173 (1988))。家畜種では、これは現在定常的に使用される方法であると考えられる(Prather & First J. Reprod. Fertil. Suppl. 41 125 (1990), Westhusin et al., Biol. Reprod. (Suppl) 42 176 (1990))。
【0020】
哺乳動物の非侵襲による除核方法に関してはほとんど報告がなかったが、両生類では、紫外線の照射が定常的な方法として使用される(Gurdon Q. J. Microsc. Soc. 101 299-311 (1960))。DNA特異的蛍光色素の使用中にマウスの卵母細胞に30秒以上紫外線を照射すると細胞の発達可能性が下がることは記載された(Tsunoda et al., J.Reprod. Fertil. 82 173 (1988))が、哺乳動物に上記方法を使用する詳細な報告はない。
【0021】
上述したように、除核は、物理的に、核、前核もしくは赤道板(metaphase plate)(レシピエント細胞によって異なる)を実際に除去により、または紫外線照射の使用や他の除核作用による等の機能的に行われる。
【0022】
除核された後、ドナー核は、卵母細胞の活性化を誘導しない条件下でドナー細胞に融合することによって、または非活性条件下で注入することによって導入される。再構築胚の正確な倍数性維持のため、ドナー核は融合時に二倍体(即ち、細胞周期のG0期またはG1期)でなければならない。
【0023】
適当なドナー及びレシピエント細胞が同定されれば、前者の核が後者に移植されることが必要である。最も簡便には、核の移植は融合によってなされる。活性化は融合時に行うべきでない。
【0024】
融合を誘導するのに使用された3種の確立された方法は以下のとおりである:
(1)細胞をポリエチレングリコール等の融合促進物質と接触させる;
(2)センダイウィルス(Sendai virus)等の非活化ウィルスを使用する;および
(3)電気刺激を使用する。
【0025】
細胞をポリエチレングリコールまたは他のグリコール類等の融合促進物質と接触させることは、体細胞の融合では一般的な方法であるが、胚と共には広く使用されていなかった。ポリエチレングリコールは毒性があるため、細胞とは最小期間接触させる必要があり、化学物質を迅速に除去可能でなければならないことにより透明帯は除去される必要がある(Kanka et al., Mol. Reprod. Dev. 29 110-116 (1991))。マウスの胚を用いた実験では、非活化センダイウィルス(Sendai virus)は分割段階の胚由来の細胞の有効な融合手段を提供し(Graham Wistar Inst. Sym. Monogr. 9 19 (1969))、この際、活性化は誘導されないという実験上の利点がさらにある。有蹄動物では、融合は、単為生殖の活性化を誘導するのに使用される同様の電気刺激によって一般的に達成される(Willadsen Nature 320 (6) 63-65 (1986)), Prather et al., Biol. Reprod. 37 859-866 (1987))。これらの種では、センダイウィルス(Sendai virus)は一定の割合で融合を誘導するが、定常的に使用するには十分な信頼性がない(Willadsen Nature 320 (6) 63-65 (1986))。
【0026】
細胞−細胞融合は核を移植するのに好ましい方法であるが、使用できる唯一の方法ではない。他の適当な技術としては、マイクロインジェクション(Ritchie and Campbell, J.Reproduction and Fertility Abstract Series No.15, p60)が挙げられる。
【0027】
本発明の好ましい態様において、卵母細胞核体カプレットの融合は、0.3Mマンニトール溶液または0.27Mショ糖溶液中で電気パスルにより活性化無しで行われる;または、核をカルシウム無添加培養液中に注入することによって導入されてもよい。融合/注入時の卵母細胞の期(age)および融合/注入培養液にカルシウムイオンを含ませないことにより、レシピエント卵母細胞の活性化が防止される。
【0028】
実際には、卵母細胞が分裂中期IIに達した後、なるべく早く核除去および移植を行うことが最もよい。(インビトロにおける)成熟または(インビボにおける)ホルモン処理開始後の時期は種により異なる。ウシやヒツジでは、核移植は24時間以内に起こることが好ましく;ブタでは、48時間以内;マウスでは、12時間以内;およびウサギでは、20〜24時間以内に起こることが好ましい。移植はもっと遅く行うことができるが、卵母細胞の経過時につれて次第に達成が困難になる。高HPF活性が望ましい。
【0029】
次に、通常成熟用培地に戻された、融合再構築胚は、再構築胚が実際に生きた状態で(好ましくは繁殖力のある子孫が)誕生できるようになるのに十分な時間、ドナー核がレシピエント細胞質と接触するように、活性化されずに維持される。
【0030】
活性化前の最適な時間は、種により異なり、実験によって容易に決定することができる。ウシでは、6〜20時間が適当である。この時間は、多分クロモソーム形成がなされる時間よりは短くてはならず、かつカプレットが自発的に活性化する、または最悪の場合では死ぬほど長くされるべきではない。
【0031】
活性化のとき、公知のまたは他の適当な活性化方法を用い得る。近年の実験により、単為生殖の活性化の必要条件は想像していたより複雑であったことが示された。活性化はすべてか無の現象であり、前核の形成が誘導可能な大多数の処理はすべて「活性化」を引き起こすと考えられた。しかしながら、ウサギの卵母細胞に繰り返し電気パルスをさらすことにより、適当な一連のパルスの選択及びCa2+の制御のみが2倍数化卵母細胞の妊娠中期までの発達を促進できることが明らかになった(Ozil Development 109 117-127 (1990))。受精中、細胞内のカルシウム濃度は繰り返し一時的に上昇する(Cutbertson & Cobbold Nature 316 541-542 (1985))が、電気パルスは同様にしてカルシウム濃度の上昇を引き起こすと考えられる。カルシウム一過性パターンが種によって変化するという証拠があり、最適な電気パルスパターンは同様にして変化すると考えられる。ウサギにおけるパルス間の間隔は約4分であり(Ozil Development 109 117-127 (1990))、マウスでは10〜20分である(Cutbertson & Cobbold Nature 316 541-542 (1985))が、ウシではこの間隔は約20〜30分であるという初期の考察がある(Robl et al., in Symposium on cloning mammals by Nuclear Transplantation Colorado State University, 24-27 (1992))。ほとんどの公開された実験では、活性化は単一の電気パルスで誘導されたが、新たな考察から、発達する再構築された胚の割合は複数のパルスにさらすことにより上昇することが示唆される(Collas & Robl Biol. Reprod. 43 877-884 (1990))。場合によっては、パルス数、場の強度及びパルス期間及び培地のカルシウム濃度を最適化するために、定常的に調節を行う。
【0032】
本発明の実施において、正確な倍数性が活性化の間中維持されていなければならない。多発性前核(multiple pronuclei)の生産を防止しこれにより正確な倍数性の維持するために、微小管重合を阻害するまたは安定化することが望ましい。これは有効濃度(およそ5μg/mlなど)のノコダゾール等の微小管阻害剤の適用によって達成される。コルヒチンやコルセミド等の微小管阻害剤もある。または、タキソール等の微小管安定化剤を使用してもよい。
【0033】
微小管の分子成分(チューブリン)は、重合と非重合状態との間で動的平衡状態をとる。ノコダゾールなどの微小管阻害剤は、微小管へのチューブリン分子の添加を阻害し、これにより平衡が妨害され、さらに微小管解重合およびスピンドルの破壊が起こる。微小管の解重合を完了する、またはほとんど完了させるのに十分な時間を活性化する前にあけて、微小管阻害剤を添加することが好ましい。ほとんどの場合、20〜30分で十分である。タキソール等の微小管安定化剤はスピンドルの分解を妨害し、それゆえ多発性前核の生産を防止する。微小管安定化剤は、微小管阻害剤に関して使用されるのと同様の条件下で好ましく使用される。
【0034】
微小管阻害剤または安定化剤は、活性化後前核形成まで存在し続けなければならない。微小管阻害剤または安定化剤は、その後であってかつ最初の分裂が行われる前に除去されなければならない。
【0035】
本発明の好ましい態様によると、成熟開始してから30〜42時間(ウシ及びヒツジ、即ち、核移植後6〜18時間)後に、再構築された卵母細胞は、公知のプロトコルを用いて活性化される。ノコダゾール中の培養は、活性化が刺激された後4〜6時間(種と卵母細胞の経過時(age)に依存する)続けられる。
【0036】
本発明の第二の概念によると、前記の方法により調製された生存可能な再構築された動物胚が提供される。
【0037】
本発明の第三の概念によると、以下を含む、動物の調製方法が提供される:
(a)上記したようにして動物胚を再構築する;および
(b)動物を胚から自然に誕生するまで発達させる(develop to term);および
(c)選択的に、このようにして形成された動物から繁殖させる。
【0038】
段階(a)は上記で詳細に説明された。
【0039】
本発明の上記概念の方法における、第二段階である、段階(b)は、動物を胚から自然に誕生するまで発達させる(develop to term) ものである。これは、直接あるいは間接的になされてもよい。直接的な発達では、段階(a)による再構築された胚を、単に、発達を行わせる必要性のある範囲を越えるような干渉はさらに伴わずに発達させる。しかしながら、間接的な発達では、胚は、完全な発達が起こる前にさらに操作されてもよい。例えば、収率を上げることを目的として、胚を分割(split) させたり、細胞をクローン性増殖(clonally expanded) したりしてもよい。
【0040】
またはあるいは上記に加えて、ドナーのクローン性増殖(clonal expansion)による本発明の手段によって生存胚の収率を上げることも可能であるおよび/または使用する際には一連の(核の)移植のプロセスからなる。現在達成される胚盤胞の形成速度の制限は、大部分の胚は「リプログラム(reprogram) 」しない(許容できる数は行うが)という事実によるものであるかもしれない。このような場合には、以下のようにして速度を上げてもよい。それ自身で発達する各胚を32〜64細胞期の核ドナーとして使用してもよい;または、内細胞塊細胞を胚盤胞段階で使用してもよい。これらの胚が確かに遺伝子の発現をリプログラムした(reprogram) 胚を示しかつこれらの核が事実リプログラムされる(reprogram) (そうであると考えられる)際には、各発達胚は核移植プロセスの効率によってこのように増殖(multiply)してもよい。得られると考えられる促進の度合いは細胞型によって異なる。ヒツジでは、16細胞胚の単一の割球を前活性化(preactivated)「ユニバーサルレシピエント(Universal Recipient) 」卵母細胞に移植することにより55%の胚盤胞段階の胚を得ることが容易に可能である。このため、単一の細胞から発達した各胚が16細胞段階で8になるという仮説は理にかなっている。これらの図説はおおよそのガイドではあるが、より後半の発達段階では利点の範囲はその段階でのプロセスの有効性によることは明らかである。
【0041】
収率を向上させる便利性があるのとは別に、再構築された胚は、胚盤胞まで、インビボまたはインビトロで培養されてもよい。
【0042】
経験から、核の移植により誘導される胚は正常な胚とは異なり、場合によっては胚が(少なくともインビボで)一般的に培養される条件以外のインビボでの培養条件から利益を得るまたはこのような培養条件を必要とすることが示唆される。上記に関する理由は不明である。定常的なウシの胚の処置では、再構築された胚(一度にこれらの多く)を5〜6日間ヒツジの卵管内で培養した (ウィラセン前述したように、In Mammalian Egg Transfer (Aadams, E.E., ed.) 185 CRC Rress, Boca Raton, Florida (1982))。しかしながら、本発明を実施するにあたっては、胚を保護するために、移植前に寒天等の保護培地内に胚を埋め込んだ後、一時的なレシピエントから回収した後寒天から取り出すことが好ましい。保護寒天または他の培地の機能は以下の2点である:第一に、透明帯を一緒に保持することにより胚にとって構造上の助けとして作用する;および第二に、レシピエント動物の免疫システムの細胞に対してバリアーとして作用する。この方法は胚盤胞を形成する胚の割合を上げるが、多くの胚が失われてしまうという短所がある。
【0043】
インビトロの条件を使用する際には、当該分野において定常的に使用される条件が非常に好ましい。
【0044】
胚盤胞段階では、胚は、自然に誕生するまで発達するための適切性に関してスクリーニングされる。具体的には、胚を形質転換し、安定した組込体(integrant) に関するスクリーニング及び選択が行われた際になされるであろう。非形質転換遺伝子マーカーに関するスクリーニングもまたこの段階で行われてもよい。しかしながら、本発明の方法はより初期段階でドナーをスクリーニングすることが可能であるので、これは通常好ましい。
【0045】
スクリーニングが行われた際には、スクリーニング後に、胚盤胞胚を自然に誕生するまで発達させる。これは、通常、インビボで行われる。胚盤胞までの発達をインビトロで行った際には、最終のレシピエント動物への移植はこの段階で行われる。胚盤胞までの発達がインビボで行われた際には、原則としては胚盤胞は胚盤胞前宿主(pre-blastocyst host)中で自然に誕生するまで発達させる(development to term) ことができるが、実際には、胚盤胞は一般的に(一時的な)胚盤胞前(pre-blastocyst)レシピエントから除去され、保護培地から取り出した後、(永久)胚盤胞後(post-blastocyst) レシピエントに移植される。
【0046】
本発明の上記概念の最適な段階(c)では、動物を前記段階によって生産された動物から繁殖させてもよい。このようにして、動物は、目的とする遺伝特性を有する動物の群れ(herd)またはフロック(flock) を確立するのに使用され得る。
【0047】
遺伝的に同一の細胞の源由来の核を移植した後に生産される動物は同一の核を共有するが、これらの動物は異なる卵母細胞由来であるので厳密な意味では同一ではない。上記異なるオリジンの意味は明確ではないが、商業上の特性に影響を及ぼす。アイオワステートユニヴァシティブリーディングハード(Iowa State University Breeding Herd) における乳牛のミトコンドリアDNAの近年の分析から、ミルク及び生殖行動と関連があることが明らかになった(Freeman & Beitz. In Symposium on Cloning Mammals by Nuclear Transplantation (Seidel, G.E.Jr., ed.)17-20, Colorado State University, Colorado (1992) )。同様の効果がウシ集団を通して存在することが確認され、特定の状況では卵母細胞の選択を考慮することが可能であるまたは必要であるかどうかを考えられ続けている。ウシを飼育する地域では、遺伝的なメリットの高いドナーから大多数の胚を生産できることは、全国的な群れに遺伝的な改良を普及させる上でかなり有益であると考えられる。用途のスケールは各胚のコスト及び自然に誕生するまで発達することが可能な移植された胚の割合によって異なる。
【0048】
詳細な説明および要約により、以下のスキームにより、形質転換及び非形質転換動物の具体的な生産方法を説明する。この方法は以下の5段階を含むと考えられる:
(1)二倍体ドナー細胞の単離;
(2)選択的に、例えば、選択マーカーを使用してまたは使用せずに、適当な構築物によるトランスフェクションによる、トランスジェネシス(transgenesis);
(2a)選択的に、安定した組込体に関するスクリーニング及び選択−マイクロインジェクションの場合には省略;
(3)核の移植による胚の再構築;
(4)胚盤胞までの、インビボまたはインビトロでの、培養;
(4a)選択的に、安定した組込体−(2a)で行われる際には省略−または他の目的とする特性に関するスクリーニング及び選択;
(5)必要であれば、最終レシピエントへの移植。
【0049】
このプロトコルは、核移植に関する既に発表された方法に比べて以下の多くの利点を有する;
1)ドナー核のクロマチンは、適当な時間、活性化なしにレシピエント卵母細胞の成熟分裂細胞質を接触できる。これは、クロマチン構造の変化によるドナー核の「再プログラム」を増加させる。
2)G0/G1期の核が移植されたときに再構築された胚で正確な倍数性が維持される。
3)従前の研究により、ウシ/ヒツジ卵母細胞の活性化の応答性は時間経過とともに向上することが示された。先に観察されたひとつの問題としては、除核された時間のたった卵母細胞では、成熟分裂のスピンドル極体の複製が起こり、多極紡錘体が観察されることがある。しかしながら、我々は、再構築されかつ高MPFレベルで維持される胚では、核外被の破壊及びクロマチン凝縮が起こるものの、器質化したスピンドルが認められないことを報告する。成熟前に凝縮したクロモソームは密着束(tight bunch)中に残るため、我々は、老化プロセスの利点を享受することができ、さらに再構築された胚の倍数性に悪影響を与えることなく再構築された卵母細胞の活性化応答を向上することができる。
【0050】
本発明の第四の概念によると、上記で調製された動物が提供される。
【0051】
本発明の各概念の好ましい態様は、必要であれば変更を加えて(mutatis mutandis)、他の各概念と同様である。
【0052】
本発明を下記実施例を参照しながら説明するが、下記実施例は詳細に説明するためのものであり、本発明を制限するものではないと考えられる。以下の説明において、添付図面を引用する。
【0053】
実施例1:ウシ卵母細胞を用いた「MAGIC」方法
本実験方法の被検体であるレシピエント卵母細胞は、MAGIC(Metaphase Arrested G1/G0 AcceptIng Cytoplast)レシピエントと称される。
【0054】
インビトロでの卵母細胞の成熟中の核と細胞質内とで生じる事象を研究した。加えて、様々な期で再構築された胚における融合及び活性化の役割もまた研究した。これらの研究から、卵母細胞の成熟は非同調であるが、成熟卵母細胞集団は形態学的に18時間後に選別することができることが示された(図1)。
【0055】
卵母細胞の形態学的選別
図1において、卵巣を地方の畜殺場から得て、実験室まで移動する間28〜32℃に維持した。卵丘細胞卵母細胞複合体(cumulus oocyte complex)(COC’s)を、皮下針(1.2mm内径)を用いて直径3〜10mmの卵胞から吸引し、滅菌プラスチック製万能容器(universal container) に置いた。この万能容器を加温チャンバー(35℃)中に置き、卵胞材料を10〜15分間静置した後、上清の3/4を注ぎ出した。残りの卵胞材料を10%ウシ血清を補足した等容の解離用培地(dissection medium) (イーグル塩(Eagles salts)(ギブコ(Gibco) )、75.0mg/l カナマイシン、30.0mM ヘペス(Hepes) を含むTCM199、pH7.4、浸透圧 280mOsmol/Kg H2 O)で希釈し、85mmペトリ皿に移し、解剖顕微鏡でCOC’sを調べた。
【0056】
卵丘細胞の少なくとも2〜3mmの緻密層を有する複合体を選択し、解離用培地で3回洗浄し、10%ウシ血清及び1×106 顆粒膜細胞/mlを補足した成熟用培地(イーグル塩(Eagles salts)(ギブコ(Gibco) )、75mg/l カナマイシン、30mM ヘペス(Hepes) 、7.69mM NaHCO3 を含むTC培地199、pH7.8、浸透圧 280mOsmol/Kg H2 O)に移し、必要になるまで、空気における5%CO2 雰囲気中で39℃でロッキングテーブル(rocking table) 上で培養した。卵母細胞を成熟用皿(maturation dish)から取り出し、5%の黄色ワセリンと95%のワックスとの混合物を使用して取り付けられたカバースリップ(coverslip) 下のエタノールで清浄されたガラススライド上に湿式マウントした。次に、マウントされた胚を新たに調製したメタノール:氷酢酸(3:1)中で24時間固定し、45%アセトオルセイン(Sigma)で染色し、ニコンマイクロフォト−SA(Nikon Micropht-SA)を用いて位相及びDIC顕微鏡によって試験した。図1は、MII期の卵母細胞及び極体が目視できる卵母細胞の割合(%)を示すものである。
【0057】
ウシ卵胞卵母細胞の活性化
24時間まで成熟させ続ける際には、これらの卵母細胞はカルシウムを含むマンニトール中で極めて低い割合(24%)で活性化する(表1a)。しかしながら、カルシウム及びマグネシウムを電気パスル適用培地から除去すると活性化が防止される。
【0058】
表1aは、様々な時間インビトロで成熟させたウシの卵胞卵母細胞の活性化を示すものである。卵母細胞を成熟用培地から取り出し、活性化用培地で一回洗浄し、活性化用チェンバー中に置き、80μ秒、1.25kv/cmの単一の電気パルスを与えた。
【0059】
【表1a】

【0060】
偽除核ウシ卵母細胞(sham enucleated bovine oocyte) の活性化応答性
表1bは、成熟開始後約22時間(hpm)で偽性的に除核した(sham enucleated) インビトロで成熟させたウシ卵母細胞の活性化の応答性を示すものである。除核を目的として、小容の細胞質を赤道板を含まずに吸引するため、卵母細胞は厳密に処理された。操作終了後、卵母細胞に1.25KV/cmの単一のDCパルスを与え、成熟用培地に戻し、30hpmおよび42hpm後に卵母細胞群をマウントし、固定し、アセトオルセインで染色した。これらの結果は、全細胞数に対する前核を有する細胞数として個々の5実験での各時間における卵母細胞の数を示す。
【0061】
【表1b】

【0062】
除核卵母細胞の前核成形
表2は、ウシの初期線維芽細胞と融合され(24hpm)続いて活性化された(42hpm)除核卵母細胞における前核形成を示すものである。この結果は5つの別個の実験をあらわす。卵母細胞は二群に分けられ、グループAは、活性化前に1時間および活性化後に6時間ノコダゾール中で培養された。グループBは、ノコダゾール処理を行わなかった。活性化された卵母細胞を、固定化し、活性化してから12時間後にアセトオルセインで染色した。次に、各単為生殖生物における前核(PN)数を位相差顕微鏡下で計測した。結果は、1以上の前核を含む活性化卵母細胞割合(%)として表される。
【0063】
【表2】

【0064】
器質化されたスピンドルが存在せずかつ極体が存在しないことから、倍数性を再構築された胚で維持するためには、二倍体、即ちG0/G1期の核が上記細胞質状態中に移植される必要があることが示唆される。活性化された卵母細胞を微小管阻害剤であるノコダゾールの存在下で5時間、活性化刺激の前後1時間インキュベートすることにより、小核(micronuclei)の形成が防止される(表2)ことから、ドナー核が細胞周期のG0/G1期にあるときは、再構築された胚の正確な倍数性が維持される。
【0065】
結果
これらの結果から、以下のことが示される:
i)卵母細胞は成熟開始後18時間で除核できる(図1);
ii)除核卵母細胞は0.3Mマンニトールまたは0.27Mショ糖のいずれかでドナー分割細胞/細胞と融合できる、またはドナー細胞または核は活性化反応を伴わずにカルシウム非含有培地中に注入され得る;
iii)再構築された胚または除核されパルスを受けた卵母細胞は成熟用培地中で培養でき、自発的な活性化を受けない;
iv)移植された核は核の外被膜の破壊(NEBD)及びクロモソーム凝縮を受けることが観察される。器質化された有糸分裂/減数分裂のスピンドルは、移植された核の細胞周期にかかわらず観察される;
v)このように操作されたカプレット(couplet) は、操作されない対照卵母細胞と同等の頻度で30時間および42時間で活性化するであろう;
vi)極体は、移植された核の細胞周期の段階にかかわらず、次の活性化の後は観察されない;
viii)後に続く活性化時に、1〜5個の小核が1再構築接合子あたり形成される(表2)。
【0066】
「MAGIC」方法を用いたウシ胚の再構築
予備試験において、この技術を、5日間血清欠乏によって細胞周期のG0期に同調させた初期線維芽細胞を用いてウシ胚の再構築に適用した。結果を表3に要約する。
【0067】
表3は、血清欠乏された(G0期の)ウシ初期線維芽細胞の核を除核した不活性化MII卵母細胞に移植することによって再構築されたウシ胚の発達を示すものである。胚は24hpmで再構築され、融合カプレットは42hpmで活性化された。融合カプレットを、ノコダゾール(5μg/ml)を含むM2培地中で、活性化前1時間および活性化後5時間インキュベートした。カプレットは、1.25KV/cmの単一のDCパルスで80μ秒間活性化された。
【0068】
【表3】

【0069】
実施例2:ヒツジ卵母細胞を用いた「MAGIC」方法
実施例1と同様の観察結果が、予めインビボで成熟させたヒツジ卵母細胞でも得られた。新たに排卵させた卵母細胞は、プロスタグランジン処理してから24時間後の過剰に刺激されたメスヒツジの輸卵管から洗い流すことによって回収できる。フラッシング溶液としてカルシウムマグネシウム非含有PBS/1.0%FCSを使用することによって、卵母細胞の活性化が妨げる。卵母細胞はカルシウム非含有培地中で除核でき、ドナー細胞を活性化を伴わずに前述のように導入できる。器質化されたスピンドルは観察されず、多数の核が後の活性化の際に形成され、これはノコダゾール処理によって抑制される。
【0070】
結果
ヒツジでの予備実験で、1回の妊娠で1頭の生きた子羊が誕生した。この結果を表4及び5に要約する。
【0071】
表4は、胚由来の確立された細胞系を非活性化され除核されインビボで成熟されたヒツジの卵母細胞に移植することによって再構築されたヒツジ胚の発達を示すものである。卵母細胞は、過剰に刺激されたスコティッシュブラックフェイス(Scottish Blackface)メスヒツジから得、細胞系は、ウェルシュマウンテン(Welsh mountain)メスヒツジから得られた9日胚の胚盤から確立した。再構築された胚は、一時的なレシピエントメスヒツジの結紮された卵管中で6日間培養され、回収され、発達について評価される。
【0072】
【表4】

【0073】
表5は、同調された最終のレシピエントブラックフェイス(blackface)メスヒツジの子宮角へのすべての桑実胚/胚盤胞段階の再構築された胚の移植後の妊娠の誘導を示すものである。この表は、移植された各群の全胚数ならびにメスヒツジ及び胚に関する妊娠頻度を示すものであり、多くの場合、2個の胚を各メスヒツジに移植した。一回の双子の妊娠があり、この際、1匹の生きた仔羊が誕生した。
【0074】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、インビトロにおけるウシの卵母細胞の成熟速度を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
付随して卵母細胞を活性化することなく第二減数分裂の中期で停止されている卵母細胞中に二倍体核を移植し、胚が生きた状態で誕生することができるようになるのに十分な時間、核をレシピエントの細胞質と接触させ続け、さらに正確な倍数性を維持しつつ再構築された胚を活性化することを含む、動物胚の再構築方法。
【請求項2】
該動物が有蹄動物種である、請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項3】
該動物がメスウシ若しくはオスウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ラクダまたはスイギュウである、請求の範囲第2項に記載の方法。
【請求項4】
ドナー核が遺伝的に修飾される、請求の範囲第1項から第3項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
二倍体核が静止細胞から得られる、請求の範囲第1項から第4項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
レシピエント卵母細胞が除核される、請求の範囲第1項から第5項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
核の移植が細胞融合によって達成される、請求の範囲第1項から第6項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
該動物がメスウシまたはオスウシであり、かつドナー核が活性化前6〜20時間の間レシピエント細胞質と接触し続けられる、請求の範囲第1項から第7項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
正確な倍数性が微小管の阻害によって活性化中維持される、請求の範囲第1項から第8項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
該微小管の阻害がノコダゾールの使用によって達成される、請求の範囲第9項に記載の方法。
【請求項11】
正確な倍数性が微小管の安定化によって活性化中維持される、請求の範囲第1項から第8項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
該微小管の安定化がタキソールの使用によって達成される、請求の範囲第11項に記載の方法。
【請求項13】
以下を含む、動物の調製方法:
(a)請求の範囲第1項から第12項のいずれかに記載の方法により動物胚を再構築する;
(b)動物を胚から自然に誕生するまで発達させる;および
(c)選択的に、このようにして形成された動物から繁殖させる。
【請求項14】
該動物胚が、完全に発達する前にさらに操作される、請求の範囲第13項に記載の方法。
【請求項15】
一以上の動物が胚由来である、請求の範囲第14項に記載の方法。
【請求項16】
生きた状態で誕生させることができかつ請求の範囲第1項から第12項のいずれかに記載の方法によって調製される再構築された動物胚。
【請求項17】
請求の範囲第13項から第15項のいずれかに記載の方法によって調製された動物。
【請求項18】
請求の範囲第16項に記載の胚から発達させた動物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−194053(P2008−194053A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111492(P2008−111492)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【分割の表示】特願平9−509995の分割
【原出願日】平成8年8月30日(1996.8.30)
【出願人】(501121842)ロスリン インスティテュート (エジンバラ) (3)
【出願人】(505443193)
【出願人】(508089370)バイオテクノロジー アンド バイオロジカル サイエンセスリサーチ カウンシル (1)
【Fターム(参考)】