核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置
【課題】修正のために用いる第2の蛍光信号を用いること無く、装置上の誤差要因を効果的に排除又は低減することができる核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置を提供する。
【解決手段】複数のウエル7Aに温度サイクルを与え、各ウエル7Aにおける核酸増幅生成物からの蛍光強度をリアルタイムで検出する。ウエル7Aから得られる蛍光測定値[DNA]rawと、このウエル7A近傍における周辺の連結壁から得られる蛍光測定値[DNA]bgとを検出し、蛍光測定値[DNA]rawから蛍光測定値[DNA]bgを差し引くことにより、当該ウエル7Aの蛍光強度[DNA]realを決定する。
【解決手段】複数のウエル7Aに温度サイクルを与え、各ウエル7Aにおける核酸増幅生成物からの蛍光強度をリアルタイムで検出する。ウエル7Aから得られる蛍光測定値[DNA]rawと、このウエル7A近傍における周辺の連結壁から得られる蛍光測定値[DNA]bgとを検出し、蛍光測定値[DNA]rawから蛍光測定値[DNA]bgを差し引くことにより、当該ウエル7Aの蛍光強度[DNA]realを決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reactin:PCR)から得られるポリヌクレオチド生成物をリアルタイムに検出する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PCRはDNA鎖を複製する循環的な酵素反応で、前のサイクルで複製されたPCRプロダクト(核酸増幅生成物)が連続するサイクルのテンプレートとして用いられることになる関係上、目的とする標的配列分子を指数関数的に増幅させることができる。リアルタイムPCRは、例えば互いに干渉しあう二種類の蛍光色素で標識した配列特異的なプローブ(TaqManプローブ)を用い、PCRプロダクトに励起光を当てて蛍光を励起させ、この蛍光強度を測定することでPCRプロダクトの増幅をリアルタイムでモニタリングする。
【0003】
そして、定量的に用いるときは、既知試料における増幅曲線の指数関数的増幅領域に閾値(図7の(6))を設定し、この閾値と増幅曲線が交わる点(閾値サイクル数Ct。図7の(8))を算出する。この閾値サイクル数Ctと検査試料の初期DNA量との間には初期DNA量をLog値で目盛ると直線関係があり、この直線関係を示す検量線を作成できる。この検量線をもとに検査試料の初期DNA量を推定する。これにより、PCRの増幅速度論に基づいた正確な定量が可能である。
【0004】
ここで、実際のPCR効率は100%ではないため、増幅されるPCRプロダクトの濃度は式(1)で示される。
[DNA]=[DNA]0(1+e)c ・・・・(1)
[DNA] :PCRプロダクトの濃度
[DNA]0:標的テンプレートの初期濃度
e:平均PCR効率
c:サイクル数
【0005】
即ち、平均PCR効率eが100%(即ち、上記式(1)においてe=1)であれば、PCRプロダクトの濃度[DNA]は2のサイクル数乗で指数関数的に増幅していくが、サイクルの初期と中期と後期とで効率eが徐々に低下してくるため、増幅曲線は図7に示すような状況となる。図7の横軸はサイクル数、縦軸は蛍光強度を示しており、サイクル初期では指数関数的に増幅し(図7の(5))、サイクル中期では直線関数的となり(図7の(6))、サイクル後期ではプラトー効果により増幅しなくなる(図7の(7))。
【0006】
尚、このプラトー効果を引き起こす化学反応的な要因としては次のようなものがある。
・dNTPとプライマーの加水分解
・DNAポリメラーゼ(テンプレート(鋳型)のコピーをつくるためのDNA合成酵素)の熱による失活
・1本鎖PCRフラグメントの再会合によるプライマーアニーリング効率の低下
・非特異的PCRプロダクトによる競合素材
・ピロホスフェートのようなPCR阻害物質の蓄積
・DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性によるPCRプロダクトの加水分解
【0007】
従って、リアルタイムPCRにおいては上記式(1)の関係が成立する指数関数的増幅領域での測定が前提条件となる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2005−516630号公報
【特許文献2】特許第2909216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
また、リアルタイムPCRに用いられる反応容器としては、複数のウエル(凹みから構成される反応領域。例えば96個。)を有するマイクロプレートと称される容器が一般的に用いられ、各ウエルに所定の初期DNA濃度の反応溶液が分注されるが、装置上の誤差要因としては次のようなものによって反応容器のウエル毎に増幅曲線がばらつく。
・光学系の誤差
・校正溶液の濃度誤差
・校正溶液の分注誤差
・反応容器の蓋やシールフィルムの光透過性誤差
・反応容器の汚れ誤差
・反応溶液の分注誤差
【0009】
ここで、反応容器(マイクロプレート)は、片面の全域に接着剤が付いた前述したシールフィルムを貼り付けることでウエルに蓋をする方法が安価として主流となっている。そして、このシールフィルムを通して励起光が各ウエルに照射され、PCRプロダクト(反応物)が発した蛍光もこのシールフィルムを通してCCDカメラなどの光検出部により検出される(これらが装置の光学系を構成する)。このようにシールフィルムや反応容器の本体は、蛍光強度の測定上光学系の重要な要素を構成しているにもかかわらず、これらは消耗品であるため、均一で精度の高い光学性能を期待することは困難である。
【0010】
図4は光検出部により検出されるPCR前の反応容器の実際の画像である。反応容器のウエルの周囲は全体としては黒く見えるが、背景となるこの画像の各ピクセルの輝度(背景の蛍光強度)は必ずしも一定では無く、同図中に(1)で示すように光学系の汚れや、迷走光などにより斑が発生している。PCR反応が開始されると、この斑は図5中に(2)で示すようにウエル部分の画像(図5に丸く映っている96個の画像)に重なり、ウエル本体の蛍光強度に冗長されてしまう。
【0011】
そこで従来では、最初にDNAの入っていない空の反応容器を準備し、各ウエル毎に空の状態の蛍光強度を測定し、スタンダードな補正値として記憶する。そして、実際の蛍光強度の測定値から記憶された補正値を差し引く補正処理を行うことによって、このような光学系の校正を行っていた。しかしながら、空の反応容器の汚れによる誤差は各反応容器固有のものであるため、スタンダードとされた他の空の反応容器による補正値を用いた場合、測定値に誤差が生じる問題があった。
【0012】
また、特許文献2では第1の蛍光信号を第2の蛍光信号で修正しているが、本来測定しなければならない第1の蛍光を発する溶液の他に、参照用の第2の蛍光を発する溶液を追加しなければならないので、作業が繁雑となると共にコストも高騰することになる。更に、第2の蛍光を発する溶液は非常に高精度に分注され、精度良く測定されなければ効果が得られない。更にまた、第2の蛍光を測定するために格別な光学フィルタを装備しなければならず、また、測定の都度、光学フィルタを第1の蛍光を発する溶液用と第2の蛍光を発する溶液用とで入れ替えなければならないなど、データの取得と処理に要する時間が余分に必要となる問題がある。
【0013】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、修正のために用いる第2の蛍光信号を用いること無く、装置上の誤差要因を効果的に排除又は低減することができる核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明の装置は、複数の反応領域に温度サイクルを与え、各反応領域における核酸増幅生成物からの蛍光強度をリアルタイムで検出するものであって、反応領域から得られる蛍光測定値[DNA]rawと、この反応領域近傍における反応領域外領域から得られる蛍光測定値[DNA]bgとを検出し、蛍光測定値[DNA]rawから蛍光測定値[DNA]bgを差し引くことにより、当該反応領域の蛍光強度[DNA]realを決定することを特徴とする。
【0015】
請求項2の発明の装置は、上記において蛍光測定値[DNA]bgは、反応領域近傍における複数の反応領域外領域から得られる蛍光測定値の単純平均、若しくは、所定の重み付けを行った後の平均値であることを特徴とする。
【0016】
請求項3の発明の装置は、上記各発明において蛍光測定値[DNA]rawの検出の都度、蛍光測定値[DNA]bgを検出し、当該蛍光測定値[DNA]rawから蛍光測定値[DNA]bgを差し引くことで、蛍光強度[DNA]realの決定を行うことを特徴とする。
【0017】
請求項4の発明の装置は、複数の反応領域に温度サイクルを与え、各反応領域における核酸増幅生成物からの蛍光強度をリアルタイムで検出するものであって、温度サイクルn回毎に各反応領域から得られる蛍光強度[DNA]nを、当該蛍光強度[DNA]nの最大値若しくはそれに関連する値[DNA]maxを用いて正規化し、当該正規化された蛍光強度[DNA]nNを用いて描かれる増幅曲線の指数関数的増幅領域に閾値Thを設定することにより、閾値サイクル数Ctを算出することを特徴とする。
【0018】
請求項5の発明の装置は、上記において反応領域毎の蛍光強度[DNA]nを、最大値若しくはそれに関連する値[DNA]max、或いは、それに比較対象とする反応領域に対して共通する値を加えた値で除することにより蛍光強度[DNA]nNを算出することを特徴とする。
【0019】
請求項6の発明の装置は、請求項4又は請求項5において指数関数的増幅領域以前の蛍光強度[DNA]baseを、各反応領域毎の蛍光強度[DNA]n及び最大値若しくはそれに関連する値[DNA]maxから差し引いて増幅曲線を描くことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、複数の反応領域に温度サイクルを与え、各反応領域における核酸増幅生成物からの蛍光強度をリアルタイムで検出する核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置において、反応領域から得られる蛍光測定値[DNA]rawと、この反応領域近傍における反応領域外領域から得られる蛍光測定値[DNA]bgとを検出し、蛍光測定値[DNA]rawから蛍光測定値[DNA]bgを差し引くことにより、当該反応領域の蛍光強度[DNA]realを決定するので、各反応領域毎に当該反応領域及びその周辺の光透過性の誤差や汚れ、迷走光による背景の蛍光強度を除外した当該反応領域の核酸増幅生成物本来の蛍光強度[DNA]realを得ることができるようになる。これにより、正確な増幅曲線の作成と定量化を実現することが可能となる。この場合、第2の蛍光信号を用いる必要も無いので、コストの高騰や作業性の悪化も発生せず、データの取得と処理に要する時間を短縮することができるようになるものである。
【0021】
請求項2の発明では、上記に加えて蛍光測定値[DNA]bgを、反応領域近傍における複数の反応領域外領域から得られる蛍光測定値の単純平均、若しくは、所定の重み付けを行った後の平均値としたので、より正確な背景の蛍光強度を算出して、精度の高い蛍光強度[DNA]realの決定を行うことができるようになる。
【0022】
請求項3の発明では、上記各発明に加えて蛍光測定値[DNA]rawの検出の都度、蛍光測定値[DNA]bgを検出し、当該蛍光測定値[DNA]rawから蛍光測定値[DNA]bgを差し引くことで、蛍光強度[DNA]realの決定を行うようにしたので、反応中に背景の蛍光強度が変動しても、常に核酸増幅生成物本来の蛍光強度[DNA]realをリアルタイムで精度良く得ることができるようになる。
【0023】
請求項4の発明では、複数の反応領域に温度サイクルを与え、各反応領域における核酸増幅生成物からの蛍光強度をリアルタイムで検出する核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置において、温度サイクルn回毎に各反応領域から得られる蛍光強度[DNA]nを、当該蛍光強度[DNA]nの最大値若しくはそれに関連する値[DNA]maxを用いて正規化し、当該正規化された蛍光強度[DNA]nNを用いて描かれる増幅曲線の指数関数的増幅領域に閾値Thを設定することにより、閾値サイクル数Ctを算出するようにしたので、光学系の誤差、校正溶液の濃度誤差、校正溶液の分注誤差や反応溶液の分注誤差などの装置上の誤差要因に伴う各反応領域の蛍光強度のバラツキを補正して低減し、確度の高い閾値サイクル数Ctの算出が可能となる。
【0024】
請求項5の発明では、上記に加えて反応領域毎の蛍光強度[DNA]nを、最大値若しくはそれに関連する値[DNA]max、或いは、それに比較対象とする反応領域に対して共通する値を加えた値で除することにより蛍光強度[DNA]nNを算出するようにしたので、正規化の効果を抑制して、閾値での補正効果を充分確保しながら、サイクル中期から後期の増幅曲線を実際のデータに近似させ、装置上の誤差要因以外の要因に伴うデータの挙動把握を容易にすることができるようになる。
【0025】
請求項6の発明では、請求項4又は請求項5に加えて指数関数的増幅領域以前の蛍光強度[DNA]baseを、各反応領域毎の蛍光強度[DNA]n及び最大値若しくはそれに関連する値[DNA]maxから差し引いて増幅曲線を描くようにしたので、反応領域の反応溶液そのものから発生する蛍光の強度を排除した核酸増幅生成物そのものからの蛍光強度の状況を把握することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を詳述する。
【実施例1】
【0027】
図1は本発明の実施例のリアルタイム検出装置Rの構成図、図2は図1のリアルタイム検出装置Rを構成する反応検出装置1の縦断側面図、図3は反応検出装置1の平断面図である。本発明のリアルタイム検出装置Rは、反応検出装置1とこの反応検出装置1からの検出データをリアルタイムで処理するコンピュータから成る処理装置Cとから構成される。
【0028】
実施例の反応検出装置1は、反応試料としての染色体DNAの増殖を行うと共に、当該増殖に関する反応状態を光学的測定方法により検出を行う装置である。この反応検出装置1は、上面に反応室4を形成した本体3と、当該反応室4の後方であって本体3の上面に配設された反応検出部5を備えている。そして、この反応室4には、アルミニウム等の熱伝導性材料にて形成された反応ブロック6が設けられている。この反応ブロック6には、内部にDNA(標的テンプレート:λDNAなど)や各種試薬、培地となる溶液等を混合した反応溶液を収容した複数のウエル7A・・を有する反応容器7を保持するための複数の保持穴8が形成されている。
【0029】
本実施例において用いられる反応容器7は、縦に12個、横に8個、合計96個の反応領域としてのウエル7A・・が一体に形成され、各ウエル7A・・が連結壁(ウエル7A(反応領域)外の領域、即ち、反応領域外領域)にて連結されたマイクロプレートである。尚、反応容器としてはウエルが一体成形されたものに限らず、複数本のチューブにて構成されるものであってもよい。また、当該ウエル7Aの個数は、これに限られるものではなく、これ以外にも、例えば384個を一体に構成したものが、取り扱い性がよい。また、反応容器7の各ウエル7Aは、上面に開口して形成されており、当該上面開口は、反応溶液の温度処理による蒸発を阻止するため、シール製の蓋9が貼り付けられている。また、本実施例において、蛍光強度の検出には当該蓋9を透過して検出が行われることから、光透過性の合成樹脂材料が使用される。
【0030】
そして、この本体2内には、反応ブロック6を加熱、冷却するペルチェ素子10を備えている。尚、このペルチェ素子10は、図示しない制御装置により温度制御されることで、反応ブロック6をサイクル的に加熱・冷却し、これにより、反応容器7の各ウエル7A内のDNA(反応試料)の培養(増幅)が行われる。
【0031】
この本体2の後端上面に設けられた反応検出部5から他端、本実施例では、反応室4が形成される本体2前端上方にわたって暗室構成部12が設けられる。この暗室構成部12の前面は、前方に向けて開放して形成されていると共に、この前面開口には、前方に向けて低く傾斜して形成される前記カバー2が開閉自在に設けられる。そして、このカバー2は、暗室構成部12の前方、即ち、本体3上面前部から該暗室構成部12内後部にわたって構成されるレール部材13により、前後に移動可能に構成され、後方に移動した状態で該カバー2は、暗室構成部12内に収容される。
【0032】
そして、このカバー2内には、該カバー2が閉塞された状態で反応室4の反応ブロック6に臨んで反応容器7を反応ブロック6に押しつけるための押さえ部材15が一体に移動自在に設けられている。この押さえ部材15は、熱伝導性の良いアルミニウム材などにより構成される板材であり、各ウエル7Aの上面に対応して複数の透孔が形成されている。
【0033】
更に、この押さえ部材15の上側には光学レンズとしてのフレネルレンズ21が配設される。このフレネルレンズ21は、一般に平面上に複数の溝が形成されており、これによって、入射した光を屈折させて拡大するものである。このとき、フレネルレンズ21は、入射した光を屈折させて拡大するに際して、入射光を平行若しくは平行に近い状態に収束させて透過する光学特性を有しており、これにより、入射光は、各光路の歪みが修整された状態で、投光されることとなる。
【0034】
一方、反応ブロック6の上方において、反応室4の前上方を閉塞するカバー2の反応室4側を構成する面には、反射板22が配設される。本実施例における反射板22は、平板にて構成されるミラーなどから構成されており、詳細は後述する光源ランプ23からの光をフレネルレンズ21に向けて屈曲させるものである。
【0035】
他方、反応検出部5内には、光源ランプ23と、複数のバンドパスフィルタを備えたフィルタ装置35と、反射板26、CCDカメラ27と、フィルタ装置35を回転させるフィルタ駆動装置28とを備えている。
【0036】
光源ランプ23は、反応液内の検出対象となるDNAプロダクトの量に応じて当該反応溶液から蛍光を励起させるための励起光を含む光を照射するランプであり、一般にハロゲンランプが用いられる。反射板26は、光源ランプ23から照射された所定の波長の光を所定の角度に屈曲させることで、反射板22に偏光させるものである。また、この反射板26は、所定の蛍光を透過する性質を有している。本実施例では、反応検出部5の側部に配設される光源ランプ23からの光を当該反射板26によって前方に屈曲させることで、当該光源ランプ23の光が反射板22に照射される。
【0037】
フィルタ装置35は、数種類のバンドパスフィルタを輪状に配置することにより構成される装置であり、フィルタ駆動装置28により回転することで、光源ランプ23と反射板26との間や反射板22とカメラ27との間に所定のバンドパスフィルタを選択して位置させるものである。尚、図中、光源ランプ23と反射板26との間に位置させるものをバンドパスフィルタ24とし、反射板22とカメラ27との間に位置させるものをバンドパスフィルタ25とする。
【0038】
バンドパスフィルタ24は、光源ランプ23からの光の成分のうち、反応溶液から蛍光を励起するのに必要な波長の光だけを透過する性質を有する光学フィルタであり、当該フィルタ24を通過した光は、反応溶液の特定成分から蛍光を励起させるための励起光とされる。
【0039】
バンドパスフィルタ25は、反射板22を介して反応容器7の各ウエル7A内の反応溶液から発する蛍光及び反射光から所定の蛍光成分だけを透過する性質を有する光学フィルタであり、ここで、当該蛍光以外の反射光は遮断される。
【0040】
カメラ27は、バンドパスフィルタ25を透過した蛍光を検出する装置であり、当該カメラ27にて検出された蛍光画像が前記制御装置に取り込まれ、処理装置Cに送信されて各反応溶液の濃度、即ち増幅量が分析される。尚、これらバンドパスフィルタ24、25は、検出対象となる反応溶液、更には、これに対応して用いられる蛍光染料の種類に基づいて、これらバンドパスフィルタ24、25の組み合わせが任意に決定され、選択的に使用されるものとする。
【0041】
以上の構成により、前記制御装置は、前記ペルチェ素子10を制御し、反応ブロック6の保持穴8に保持された反応容器7内の反応溶液を例えば+95℃の熱変性温度とし、反応溶液を熱変性させる熱変性工程を行う。次いで、制御装置は、ペルチェ冷却素子10を制御し、反応ブロック6を例えば+60℃に冷却して、反応容器7内に収容されて熱変性された反応溶液中のDNAのアニーリング工程と伸張工程を行う。制御装置は、この熱変性工程と、アニーリング工程と、伸張工程を1サイクルとして複数回、例えば40回繰り返すことにより、PCR法によるDNA等の培養(増幅)を行う。
【0042】
この培養の過程又は、終了時において、反応検出部5は、反応容器7内の反応溶液のDNAの増幅状態を検出するため、一サイクル終了後など、定期的に検出動作を実行する。検出動作は、まず、光源ランプ23から照射された光がバンドパスフィルタ24を介して反射板26に到達する。バンドパスフィルタ24は、光源ランプ23からの光のうち、蛍光を励起させるのに必要な波長の光、即ち、励起光だけを透過させる。当該励起光は、反射板26により暗室構成部12内を通過して反射板22方向に照射され、更に、反射板22によって当該励起光は、反応ブロック6に臨んで設けられるフレネルレンズ21に向けて、即ち、上から下方向に向かって照射される。
【0043】
当該フレネルレンズ21に照射された励起光は、当該レンズ21の光学特性により、光を集束し、反応ブロック6に収容される反応容器7の各ウエル7Aに対して平行若しくは、平行に近い角度に入射角度が変更される。これにより、当該レンズ21を透過した励起光は、押さえ部材15に形成された各透孔を介して平行若しくは、平行に近い角度の入射角度にて各ウエル7Aに入射される。
【0044】
各ウエル7A内に平行若しくは平行に近い角度にて入射された励起光は、予め所定の蛍光染料が添加されたウエル7A内のDNAに照射されることで、PCRプロダクトの量に応じた蛍光を発する。この発生した蛍光及びその他のPCRプロダクトからの反射光は、同様に押さえ部材15に形成された各透孔及びフレネルレンズ21を介して反射板22に到達する。
【0045】
その後、反射板22に到達した蛍光及びその他の反射光は、該反射板22の作用によって暗室構成部12内を略水平方向に光路を形成しながら、当該反射板22に対向して設けられるバンドパスフィルタ25を介してカメラ27に到達する。尚、この場合において、暗室構成部12内は、カバー2が閉塞されていることにより、暗室とされていることから、蛍光が減衰等される不都合を抑制することができる。
【0046】
このとき、反射板26は、蛍光を透過可能とする材料にて構成されていることから、当該反射板26を透過した反射光及び蛍光は、バンドパスフィルタ25に照射されることとなる。バンドパスフィルタ25では、上述したように、当該フィルタ25の種類に応じて、所定の蛍光のみが透過可能とされているため、その後方に配設されるカメラ27には、所定の蛍光のみが照射されることとなる。
【0047】
そして、カメラ27では、受光された蛍光を撮影することにより、反応容器7の各ウエル7A内のPCRプロダクトの蛍光状態を検出する。そして、この検出された各PCRプロダクトの蛍光状態に関する検出データ(図4〜図6に示す画像データ)は、制御装置から処理装置Cに送出され、この処理装置Cにて分析されることにより、各試料の濃度、即ち、DNA等の増幅量を検出することができる。各ウエル7Aの位置と画像の位置関係は予め分かっているので、ウエル7Aの画像の各ピクセルの輝度を求めることで、ウエル7Aそれぞれの蛍光強度が測定でき、この蛍光強度からPCRプロダクトの量を把握することができる。
【0048】
処理装置Cは、図11に示すように反応検出装置1から送信される検出データの処理を行う演算処理部(CPU)31と、この演算処理部31に接続された記憶装置(記憶手段)32、キーボード(或いはマウスなどの入力手段)33、ディスプレイ(出力手段)34、プリンタ(出力手段)36、FD、CD、DVD、メモリなどの外部記憶装置37などから構成されている。反応検出装置1から送信された検出データは記憶装置32に記憶され、演算処理部31により後述する処理が行われてディスプレイ34などに表示出力される。
【0049】
次に、この処理装置Cにおける検出データの処理手順について説明する。図5、図6は反応検出装置1から処理装置Cに送られてくる検出データの画像である。各画像で白く映っている96個の丸画像がそれぞれのウエル7A内のPCRプロダクトから発せられた蛍光である。尚、実施例では、SYBR Premix Ex Taq(登録商標)をベースとし、PCR Forward Primerと、PCR Reverse Primerと、Template(初期値として与えるλDNA)と、dH2O から反応溶液を調整する。また、図5、図6では上半分の48個のウエル7A内に0.2pg/μLの濃度の反応溶液が分注されており(Xグループ)、下半分の48個のウエル7A内にはその倍の濃度の0.4pg/μLの反応溶液が分注されている(Yグループ)。そして、温度サイクルは40回である。
【0050】
反応開始から温度サイクルの回数が進むと、DNAの増幅量に応じて蛍光強度が増加する。この過程をプロットしたものが前述した図7の増幅曲線である。この増幅曲線は各ウエル7A毎に得られ、ディスプレイ34に表示される(図8)。そして、キーボード(マウス)33を用いて指数関数的増幅領域(図7の(5))に閾値Th(図7の(11))を設定すると、そのときのサイクル数Ct(閾値サイクル数Ct)はこの図では24.5と読み取れる。この閾値サイクル数Ctと検査試料の初期DNA量との間には相関関係があり、この直線関係を示す検量線を作成できる。演算処理部31はこの検量線をもとに検査試料の初期DNA量を推定する。これにより、PCRの増幅速度論に基づいた正確な定量が可能となる。
【0051】
(A)装置上の誤差要因の除去
前述した如く反応開始前において、反応検出装置1のカメラ27で撮影された画像データでは、各ピクセルの輝度は必ずしも一定では無く、図4の(1)に示すように光学系の汚れや迷走光などにより斑が発生する。反応が進むとこの斑は図5の(2)に示すようにウエル7Aの画像に重なってウエル7A本来の蛍光強度に冗長されてしまう。
【0052】
そこで、処理装置Cの演算処理部31では、ウエル本来の蛍光強度を求めるために次の処理を実行する。即ち、例えば図6の右から2番目で且つ上から二段目(B11)のウエル7Aの場合、当該B11のウエル7A(図6の(4))の蛍光測定値[DNA]rawB11を測定し、記憶装置32に記憶する。次に、当該B11のウエル7Aの近傍の連結壁部分における周囲4点の蛍光測定値[DNA]bg1、[DNA]bg2、[DNA]bg3、[DNA]bg4を測定し、これら4点の蛍光測定値の平均値(背景の蛍光測定値)を求めて記憶装置32に記憶する。そして、式(2)の如く蛍光測定値[DNA]rawB11からこの平均値を差し引くことで、B11のウエル7A本来の蛍光強度[DNA]realB1を算出する。
[DNA]realB11=[DNA]rawB11−(([DNA]bg1+[DNA]bg2+[DNA]bg3+[DNA]bg4)/4) ・・・・(2)
【0053】
この処理を蛍光測定値[DNA]rawの検出の都度、96個全てのウエルについてそれぞれ実行し、全てのウエル7A本来の蛍光強度[DNA]realを決定する。これにより、各ウエル7A(反応領域)毎に当該ウエル7A及びその周辺の光透過性の誤差や汚れ、迷走光による背景の蛍光測定値[DNA]bgを除外した当該ウエル7AのDNAプロダクト本来の蛍光強度[DNA]realが得られる。
【0054】
従って、正確な増幅曲線の作成と定量化を実現することが可能となる。この場合、従来例で説明した第2の蛍光信号を用いる必要も無く、処理装置Cにおける演算処理のみで済むので、コストの高騰や作業性の悪化も発生せず、データの取得と処理に要する時間を短縮することができるようになる。
【0055】
尚、実施例ではウエル7Aの周囲4点の蛍光測定値[DNA]bg1、[DNA]bg2、[DNA]bg3、[DNA]bg4を測定してその平均値を蛍光測定値[DNA]rawから差し引いたが、それに限らず、1点或いは2点若しくは3点の平均でもよい。但し、実施例のように4点の平気値を用いれば、より正確は背景の蛍光強度を算出して精度の高い蛍光強度[DNA]realの決定を行うことができるようになる。また、実施例ではウエル7A周囲4点の蛍光測定値の単純平均を使用したが、それに限らず、汚れ具合の斑も考慮し、各点毎に所定の重み付けを行った後に平均してもよい。
【0056】
また、反応前と反応後で背景の蛍光強度の変動(ドリフト)は明確ではない。しかしながら、実施例では蛍光測定値[DNA]rawの検出の都度、蛍光測定値[DNA]bg1〜[DNA]bg4を検出し、蛍光測定値[DNA]rawから蛍光測定値[DNA]bg1〜[DNA]bg4の平均値を差し引き、蛍光強度[DNA]realを決定しているので、反応中に背景の蛍光強度が変動しても、常にDNAプロダクト本来の蛍光強度[DNA]realをリアルタイムで精度良く得ることができる。
【0057】
(B)正規化1
次に、図8は96個の全てのウエル7Aの増幅曲線を示している。横軸は温度サイクル数、縦軸は蛍光強度である。前述した如く図5、図6の上半分のXグループと下半分のYグループで濃度の異なる反応溶液が分注してある関係上、本来ならば反応曲線は2本の線に見えなければならない。また、閾値サイクル数Ctも2点となるはずである。しかしながら、前述した光学系の誤差、校正溶液の濃度誤差、校正溶液の分注誤差や反応溶液の分注誤差などの装置上の誤差要因により、各ウエル7Aの増幅曲線はバラツキ、閾値サイクル数Ctも(8)、(9)のように複数生じる(バラツキ)。
【0058】
そこで、演算処理部31はキーボード(マウス)33からの所定の選択指令に基づき、データの正規化を行う。即ち、演算処理部31は、温度サイクル数n毎に決定して記憶装置32に記憶している蛍光強度[DNA]n(温度サイクル数n回目の本来の蛍光強度[DNA]real)と、各ウエル7A毎の蛍光強度の最大値[DNA]max(温度サイクル数n回目までの蛍光強度[DNA]realのうちで最大のもの。記憶装置32に記憶されている。)と、比較対象とするウエル7A(実施例では全ウエル7A)に共通する値Zを用い、式(3)の演算により正規化された蛍光強度[DNA]nNを得る。
[DNA]nN=[DNA]n/([DNA]max+Z) ・・・(3)
【0059】
この処理により、各ウエル7Aの蛍光強度は正規化される。図9はZ=0の場合である。この正規化により、各ウエル7Aの装置上の誤差要因に伴う蛍光強度のバラツキが補正低減されるので、Xグループ、Yグループそれぞれで閾値サイクル数Ctのバラツキが図8の場合に比して低減される。これにより、確度の高い閾値サイクル数の算出が可能となる。尚、図9では全体のスケールを適当な値にするために[DNA]nNに全ウエル共通の値を乗算して表示している。
【0060】
(C)正規化2
ここで、サイクル後期のプラトー領域で蛍光強度がばらつく要因としては、上述した装置上の誤差要因だけでなく、ケミカルな反応のバラツキによっても発生する。そして、その要因に関しては指数関数的増幅領域の蛍光強度に比例的に影響しないことが考えられる。即ち、プラトー効果の領域での蛍光強度を完全に一致させないほうが良い場合もある。
【0061】
その場合は、キーボード(マウス)33を用いて式(3)のZの値を大きくする。図10はZ=20000とした場合の各ウエル7A毎の増幅曲線を示している。Zの値を大きくすると云うことは、正規化の効果を弱くしていることになる。しかしながら、図10では特にサイクル中期から後期の増幅曲線の挙動が実際の蛍光強度の動き(図8)に近似していることが分かる。一方で、閾値での補正効果は充分確保されていることが分かる。これにより、正規化の効果を抑制して、閾値での補正効果を充分確保しながら、サイクル中期から後期の増幅曲線を実際のデータに近似させ、装置上の誤差要因以外の要因に伴うデータの挙動把握を容易にすることができるようになる。
【0062】
ここで、このような不完全な正規化を行う際には、式(4)のようにZの値を決定してもよい。
Z=α[DNA]max+β ・・・(4)
α、βは各ウエル7Aに共通する係数。
また、演算処理部31は前述した最大値[DNA]maxを、蛍光強度の移動平均で算出している。なぜならば蛍光強度[DNA]realは実際にはのこぎり状を呈するからである。しかしながら、正規化に使用する最大値としては、このノコギリのピーク値であってもよく、当該ピーク値の例えば90%などの数値(何れも最大値に関連する値)を使用しても差し支えない。
【0063】
(D)ベースラインの補正
ここで、図8の(10)はサイクル初期で反応結果を検出できないレベルの領域であるが、ウエル7A内の反応溶液そのものが最初から一定の蛍光を発生しているので、この領域でも一般的には蛍光強度は0では無い。そこで、キーボード(マウス)33からの指示に基づき、演算処理部31はベースラインの補正を行う。即ち、演算処理部31は、サイクル初期の領域(10)での各ウエル7Aの蛍光強度の平均値[DNA]baseをベースラインとし、この平均値を前述した[DNA]n及び[DNA]maxから差し引いてから上述した正規化の処理を行っている。図9、図10で初期の蛍光強度が0となっているのは、この処理を行っているためである([DNA]baseは[DNA]nの最小値を使用しても差し支えない)。
【0064】
これにより、ウエル7A内の反応溶液そのものから発生する蛍光の強度を排除したPCRプロダクトそのものからの蛍光強度の状況を把握することができるようになる。
【0065】
尚、上記実施例で示した物質、量、数はそれに限定されるものでないことは云うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例のリアルタイム検出装置の構成図である。
【図2】図1のリアルタイム検出装置を構成する反応検出装置の縦断側面図である。
【図3】図2の反応検出装置の平断面図である。
【図4】反応容器の背景の蛍光強度の状態を示す図である。
【図5】反応後の蛍光強度の状態を示す図である。
【図6】反応後の蛍光強度の状態を示すもう一つの図である。
【図7】或るウエルのDNA増幅曲線である。
【図8】全ウエルのDNA増幅曲線である。
【図9】図8のデータを正規化した場合のDNA増幅曲線である。
【図10】図8のデータの不完全な正規化を行った場合のDNA増幅曲線である。
【図11】図1のリアルタイム検出装置を構成する処理装置の機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0067】
1 反応検出装置
7 反応容器
7A ウエル(反応領域)
10 ペルチェ素子
27 カメラ
31 演算処理部
34 ディスプレイ
C 処理装置
R リアルタイム検出装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reactin:PCR)から得られるポリヌクレオチド生成物をリアルタイムに検出する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PCRはDNA鎖を複製する循環的な酵素反応で、前のサイクルで複製されたPCRプロダクト(核酸増幅生成物)が連続するサイクルのテンプレートとして用いられることになる関係上、目的とする標的配列分子を指数関数的に増幅させることができる。リアルタイムPCRは、例えば互いに干渉しあう二種類の蛍光色素で標識した配列特異的なプローブ(TaqManプローブ)を用い、PCRプロダクトに励起光を当てて蛍光を励起させ、この蛍光強度を測定することでPCRプロダクトの増幅をリアルタイムでモニタリングする。
【0003】
そして、定量的に用いるときは、既知試料における増幅曲線の指数関数的増幅領域に閾値(図7の(6))を設定し、この閾値と増幅曲線が交わる点(閾値サイクル数Ct。図7の(8))を算出する。この閾値サイクル数Ctと検査試料の初期DNA量との間には初期DNA量をLog値で目盛ると直線関係があり、この直線関係を示す検量線を作成できる。この検量線をもとに検査試料の初期DNA量を推定する。これにより、PCRの増幅速度論に基づいた正確な定量が可能である。
【0004】
ここで、実際のPCR効率は100%ではないため、増幅されるPCRプロダクトの濃度は式(1)で示される。
[DNA]=[DNA]0(1+e)c ・・・・(1)
[DNA] :PCRプロダクトの濃度
[DNA]0:標的テンプレートの初期濃度
e:平均PCR効率
c:サイクル数
【0005】
即ち、平均PCR効率eが100%(即ち、上記式(1)においてe=1)であれば、PCRプロダクトの濃度[DNA]は2のサイクル数乗で指数関数的に増幅していくが、サイクルの初期と中期と後期とで効率eが徐々に低下してくるため、増幅曲線は図7に示すような状況となる。図7の横軸はサイクル数、縦軸は蛍光強度を示しており、サイクル初期では指数関数的に増幅し(図7の(5))、サイクル中期では直線関数的となり(図7の(6))、サイクル後期ではプラトー効果により増幅しなくなる(図7の(7))。
【0006】
尚、このプラトー効果を引き起こす化学反応的な要因としては次のようなものがある。
・dNTPとプライマーの加水分解
・DNAポリメラーゼ(テンプレート(鋳型)のコピーをつくるためのDNA合成酵素)の熱による失活
・1本鎖PCRフラグメントの再会合によるプライマーアニーリング効率の低下
・非特異的PCRプロダクトによる競合素材
・ピロホスフェートのようなPCR阻害物質の蓄積
・DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性によるPCRプロダクトの加水分解
【0007】
従って、リアルタイムPCRにおいては上記式(1)の関係が成立する指数関数的増幅領域での測定が前提条件となる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2005−516630号公報
【特許文献2】特許第2909216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
また、リアルタイムPCRに用いられる反応容器としては、複数のウエル(凹みから構成される反応領域。例えば96個。)を有するマイクロプレートと称される容器が一般的に用いられ、各ウエルに所定の初期DNA濃度の反応溶液が分注されるが、装置上の誤差要因としては次のようなものによって反応容器のウエル毎に増幅曲線がばらつく。
・光学系の誤差
・校正溶液の濃度誤差
・校正溶液の分注誤差
・反応容器の蓋やシールフィルムの光透過性誤差
・反応容器の汚れ誤差
・反応溶液の分注誤差
【0009】
ここで、反応容器(マイクロプレート)は、片面の全域に接着剤が付いた前述したシールフィルムを貼り付けることでウエルに蓋をする方法が安価として主流となっている。そして、このシールフィルムを通して励起光が各ウエルに照射され、PCRプロダクト(反応物)が発した蛍光もこのシールフィルムを通してCCDカメラなどの光検出部により検出される(これらが装置の光学系を構成する)。このようにシールフィルムや反応容器の本体は、蛍光強度の測定上光学系の重要な要素を構成しているにもかかわらず、これらは消耗品であるため、均一で精度の高い光学性能を期待することは困難である。
【0010】
図4は光検出部により検出されるPCR前の反応容器の実際の画像である。反応容器のウエルの周囲は全体としては黒く見えるが、背景となるこの画像の各ピクセルの輝度(背景の蛍光強度)は必ずしも一定では無く、同図中に(1)で示すように光学系の汚れや、迷走光などにより斑が発生している。PCR反応が開始されると、この斑は図5中に(2)で示すようにウエル部分の画像(図5に丸く映っている96個の画像)に重なり、ウエル本体の蛍光強度に冗長されてしまう。
【0011】
そこで従来では、最初にDNAの入っていない空の反応容器を準備し、各ウエル毎に空の状態の蛍光強度を測定し、スタンダードな補正値として記憶する。そして、実際の蛍光強度の測定値から記憶された補正値を差し引く補正処理を行うことによって、このような光学系の校正を行っていた。しかしながら、空の反応容器の汚れによる誤差は各反応容器固有のものであるため、スタンダードとされた他の空の反応容器による補正値を用いた場合、測定値に誤差が生じる問題があった。
【0012】
また、特許文献2では第1の蛍光信号を第2の蛍光信号で修正しているが、本来測定しなければならない第1の蛍光を発する溶液の他に、参照用の第2の蛍光を発する溶液を追加しなければならないので、作業が繁雑となると共にコストも高騰することになる。更に、第2の蛍光を発する溶液は非常に高精度に分注され、精度良く測定されなければ効果が得られない。更にまた、第2の蛍光を測定するために格別な光学フィルタを装備しなければならず、また、測定の都度、光学フィルタを第1の蛍光を発する溶液用と第2の蛍光を発する溶液用とで入れ替えなければならないなど、データの取得と処理に要する時間が余分に必要となる問題がある。
【0013】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、修正のために用いる第2の蛍光信号を用いること無く、装置上の誤差要因を効果的に排除又は低減することができる核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明の装置は、複数の反応領域に温度サイクルを与え、各反応領域における核酸増幅生成物からの蛍光強度をリアルタイムで検出するものであって、反応領域から得られる蛍光測定値[DNA]rawと、この反応領域近傍における反応領域外領域から得られる蛍光測定値[DNA]bgとを検出し、蛍光測定値[DNA]rawから蛍光測定値[DNA]bgを差し引くことにより、当該反応領域の蛍光強度[DNA]realを決定することを特徴とする。
【0015】
請求項2の発明の装置は、上記において蛍光測定値[DNA]bgは、反応領域近傍における複数の反応領域外領域から得られる蛍光測定値の単純平均、若しくは、所定の重み付けを行った後の平均値であることを特徴とする。
【0016】
請求項3の発明の装置は、上記各発明において蛍光測定値[DNA]rawの検出の都度、蛍光測定値[DNA]bgを検出し、当該蛍光測定値[DNA]rawから蛍光測定値[DNA]bgを差し引くことで、蛍光強度[DNA]realの決定を行うことを特徴とする。
【0017】
請求項4の発明の装置は、複数の反応領域に温度サイクルを与え、各反応領域における核酸増幅生成物からの蛍光強度をリアルタイムで検出するものであって、温度サイクルn回毎に各反応領域から得られる蛍光強度[DNA]nを、当該蛍光強度[DNA]nの最大値若しくはそれに関連する値[DNA]maxを用いて正規化し、当該正規化された蛍光強度[DNA]nNを用いて描かれる増幅曲線の指数関数的増幅領域に閾値Thを設定することにより、閾値サイクル数Ctを算出することを特徴とする。
【0018】
請求項5の発明の装置は、上記において反応領域毎の蛍光強度[DNA]nを、最大値若しくはそれに関連する値[DNA]max、或いは、それに比較対象とする反応領域に対して共通する値を加えた値で除することにより蛍光強度[DNA]nNを算出することを特徴とする。
【0019】
請求項6の発明の装置は、請求項4又は請求項5において指数関数的増幅領域以前の蛍光強度[DNA]baseを、各反応領域毎の蛍光強度[DNA]n及び最大値若しくはそれに関連する値[DNA]maxから差し引いて増幅曲線を描くことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、複数の反応領域に温度サイクルを与え、各反応領域における核酸増幅生成物からの蛍光強度をリアルタイムで検出する核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置において、反応領域から得られる蛍光測定値[DNA]rawと、この反応領域近傍における反応領域外領域から得られる蛍光測定値[DNA]bgとを検出し、蛍光測定値[DNA]rawから蛍光測定値[DNA]bgを差し引くことにより、当該反応領域の蛍光強度[DNA]realを決定するので、各反応領域毎に当該反応領域及びその周辺の光透過性の誤差や汚れ、迷走光による背景の蛍光強度を除外した当該反応領域の核酸増幅生成物本来の蛍光強度[DNA]realを得ることができるようになる。これにより、正確な増幅曲線の作成と定量化を実現することが可能となる。この場合、第2の蛍光信号を用いる必要も無いので、コストの高騰や作業性の悪化も発生せず、データの取得と処理に要する時間を短縮することができるようになるものである。
【0021】
請求項2の発明では、上記に加えて蛍光測定値[DNA]bgを、反応領域近傍における複数の反応領域外領域から得られる蛍光測定値の単純平均、若しくは、所定の重み付けを行った後の平均値としたので、より正確な背景の蛍光強度を算出して、精度の高い蛍光強度[DNA]realの決定を行うことができるようになる。
【0022】
請求項3の発明では、上記各発明に加えて蛍光測定値[DNA]rawの検出の都度、蛍光測定値[DNA]bgを検出し、当該蛍光測定値[DNA]rawから蛍光測定値[DNA]bgを差し引くことで、蛍光強度[DNA]realの決定を行うようにしたので、反応中に背景の蛍光強度が変動しても、常に核酸増幅生成物本来の蛍光強度[DNA]realをリアルタイムで精度良く得ることができるようになる。
【0023】
請求項4の発明では、複数の反応領域に温度サイクルを与え、各反応領域における核酸増幅生成物からの蛍光強度をリアルタイムで検出する核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置において、温度サイクルn回毎に各反応領域から得られる蛍光強度[DNA]nを、当該蛍光強度[DNA]nの最大値若しくはそれに関連する値[DNA]maxを用いて正規化し、当該正規化された蛍光強度[DNA]nNを用いて描かれる増幅曲線の指数関数的増幅領域に閾値Thを設定することにより、閾値サイクル数Ctを算出するようにしたので、光学系の誤差、校正溶液の濃度誤差、校正溶液の分注誤差や反応溶液の分注誤差などの装置上の誤差要因に伴う各反応領域の蛍光強度のバラツキを補正して低減し、確度の高い閾値サイクル数Ctの算出が可能となる。
【0024】
請求項5の発明では、上記に加えて反応領域毎の蛍光強度[DNA]nを、最大値若しくはそれに関連する値[DNA]max、或いは、それに比較対象とする反応領域に対して共通する値を加えた値で除することにより蛍光強度[DNA]nNを算出するようにしたので、正規化の効果を抑制して、閾値での補正効果を充分確保しながら、サイクル中期から後期の増幅曲線を実際のデータに近似させ、装置上の誤差要因以外の要因に伴うデータの挙動把握を容易にすることができるようになる。
【0025】
請求項6の発明では、請求項4又は請求項5に加えて指数関数的増幅領域以前の蛍光強度[DNA]baseを、各反応領域毎の蛍光強度[DNA]n及び最大値若しくはそれに関連する値[DNA]maxから差し引いて増幅曲線を描くようにしたので、反応領域の反応溶液そのものから発生する蛍光の強度を排除した核酸増幅生成物そのものからの蛍光強度の状況を把握することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を詳述する。
【実施例1】
【0027】
図1は本発明の実施例のリアルタイム検出装置Rの構成図、図2は図1のリアルタイム検出装置Rを構成する反応検出装置1の縦断側面図、図3は反応検出装置1の平断面図である。本発明のリアルタイム検出装置Rは、反応検出装置1とこの反応検出装置1からの検出データをリアルタイムで処理するコンピュータから成る処理装置Cとから構成される。
【0028】
実施例の反応検出装置1は、反応試料としての染色体DNAの増殖を行うと共に、当該増殖に関する反応状態を光学的測定方法により検出を行う装置である。この反応検出装置1は、上面に反応室4を形成した本体3と、当該反応室4の後方であって本体3の上面に配設された反応検出部5を備えている。そして、この反応室4には、アルミニウム等の熱伝導性材料にて形成された反応ブロック6が設けられている。この反応ブロック6には、内部にDNA(標的テンプレート:λDNAなど)や各種試薬、培地となる溶液等を混合した反応溶液を収容した複数のウエル7A・・を有する反応容器7を保持するための複数の保持穴8が形成されている。
【0029】
本実施例において用いられる反応容器7は、縦に12個、横に8個、合計96個の反応領域としてのウエル7A・・が一体に形成され、各ウエル7A・・が連結壁(ウエル7A(反応領域)外の領域、即ち、反応領域外領域)にて連結されたマイクロプレートである。尚、反応容器としてはウエルが一体成形されたものに限らず、複数本のチューブにて構成されるものであってもよい。また、当該ウエル7Aの個数は、これに限られるものではなく、これ以外にも、例えば384個を一体に構成したものが、取り扱い性がよい。また、反応容器7の各ウエル7Aは、上面に開口して形成されており、当該上面開口は、反応溶液の温度処理による蒸発を阻止するため、シール製の蓋9が貼り付けられている。また、本実施例において、蛍光強度の検出には当該蓋9を透過して検出が行われることから、光透過性の合成樹脂材料が使用される。
【0030】
そして、この本体2内には、反応ブロック6を加熱、冷却するペルチェ素子10を備えている。尚、このペルチェ素子10は、図示しない制御装置により温度制御されることで、反応ブロック6をサイクル的に加熱・冷却し、これにより、反応容器7の各ウエル7A内のDNA(反応試料)の培養(増幅)が行われる。
【0031】
この本体2の後端上面に設けられた反応検出部5から他端、本実施例では、反応室4が形成される本体2前端上方にわたって暗室構成部12が設けられる。この暗室構成部12の前面は、前方に向けて開放して形成されていると共に、この前面開口には、前方に向けて低く傾斜して形成される前記カバー2が開閉自在に設けられる。そして、このカバー2は、暗室構成部12の前方、即ち、本体3上面前部から該暗室構成部12内後部にわたって構成されるレール部材13により、前後に移動可能に構成され、後方に移動した状態で該カバー2は、暗室構成部12内に収容される。
【0032】
そして、このカバー2内には、該カバー2が閉塞された状態で反応室4の反応ブロック6に臨んで反応容器7を反応ブロック6に押しつけるための押さえ部材15が一体に移動自在に設けられている。この押さえ部材15は、熱伝導性の良いアルミニウム材などにより構成される板材であり、各ウエル7Aの上面に対応して複数の透孔が形成されている。
【0033】
更に、この押さえ部材15の上側には光学レンズとしてのフレネルレンズ21が配設される。このフレネルレンズ21は、一般に平面上に複数の溝が形成されており、これによって、入射した光を屈折させて拡大するものである。このとき、フレネルレンズ21は、入射した光を屈折させて拡大するに際して、入射光を平行若しくは平行に近い状態に収束させて透過する光学特性を有しており、これにより、入射光は、各光路の歪みが修整された状態で、投光されることとなる。
【0034】
一方、反応ブロック6の上方において、反応室4の前上方を閉塞するカバー2の反応室4側を構成する面には、反射板22が配設される。本実施例における反射板22は、平板にて構成されるミラーなどから構成されており、詳細は後述する光源ランプ23からの光をフレネルレンズ21に向けて屈曲させるものである。
【0035】
他方、反応検出部5内には、光源ランプ23と、複数のバンドパスフィルタを備えたフィルタ装置35と、反射板26、CCDカメラ27と、フィルタ装置35を回転させるフィルタ駆動装置28とを備えている。
【0036】
光源ランプ23は、反応液内の検出対象となるDNAプロダクトの量に応じて当該反応溶液から蛍光を励起させるための励起光を含む光を照射するランプであり、一般にハロゲンランプが用いられる。反射板26は、光源ランプ23から照射された所定の波長の光を所定の角度に屈曲させることで、反射板22に偏光させるものである。また、この反射板26は、所定の蛍光を透過する性質を有している。本実施例では、反応検出部5の側部に配設される光源ランプ23からの光を当該反射板26によって前方に屈曲させることで、当該光源ランプ23の光が反射板22に照射される。
【0037】
フィルタ装置35は、数種類のバンドパスフィルタを輪状に配置することにより構成される装置であり、フィルタ駆動装置28により回転することで、光源ランプ23と反射板26との間や反射板22とカメラ27との間に所定のバンドパスフィルタを選択して位置させるものである。尚、図中、光源ランプ23と反射板26との間に位置させるものをバンドパスフィルタ24とし、反射板22とカメラ27との間に位置させるものをバンドパスフィルタ25とする。
【0038】
バンドパスフィルタ24は、光源ランプ23からの光の成分のうち、反応溶液から蛍光を励起するのに必要な波長の光だけを透過する性質を有する光学フィルタであり、当該フィルタ24を通過した光は、反応溶液の特定成分から蛍光を励起させるための励起光とされる。
【0039】
バンドパスフィルタ25は、反射板22を介して反応容器7の各ウエル7A内の反応溶液から発する蛍光及び反射光から所定の蛍光成分だけを透過する性質を有する光学フィルタであり、ここで、当該蛍光以外の反射光は遮断される。
【0040】
カメラ27は、バンドパスフィルタ25を透過した蛍光を検出する装置であり、当該カメラ27にて検出された蛍光画像が前記制御装置に取り込まれ、処理装置Cに送信されて各反応溶液の濃度、即ち増幅量が分析される。尚、これらバンドパスフィルタ24、25は、検出対象となる反応溶液、更には、これに対応して用いられる蛍光染料の種類に基づいて、これらバンドパスフィルタ24、25の組み合わせが任意に決定され、選択的に使用されるものとする。
【0041】
以上の構成により、前記制御装置は、前記ペルチェ素子10を制御し、反応ブロック6の保持穴8に保持された反応容器7内の反応溶液を例えば+95℃の熱変性温度とし、反応溶液を熱変性させる熱変性工程を行う。次いで、制御装置は、ペルチェ冷却素子10を制御し、反応ブロック6を例えば+60℃に冷却して、反応容器7内に収容されて熱変性された反応溶液中のDNAのアニーリング工程と伸張工程を行う。制御装置は、この熱変性工程と、アニーリング工程と、伸張工程を1サイクルとして複数回、例えば40回繰り返すことにより、PCR法によるDNA等の培養(増幅)を行う。
【0042】
この培養の過程又は、終了時において、反応検出部5は、反応容器7内の反応溶液のDNAの増幅状態を検出するため、一サイクル終了後など、定期的に検出動作を実行する。検出動作は、まず、光源ランプ23から照射された光がバンドパスフィルタ24を介して反射板26に到達する。バンドパスフィルタ24は、光源ランプ23からの光のうち、蛍光を励起させるのに必要な波長の光、即ち、励起光だけを透過させる。当該励起光は、反射板26により暗室構成部12内を通過して反射板22方向に照射され、更に、反射板22によって当該励起光は、反応ブロック6に臨んで設けられるフレネルレンズ21に向けて、即ち、上から下方向に向かって照射される。
【0043】
当該フレネルレンズ21に照射された励起光は、当該レンズ21の光学特性により、光を集束し、反応ブロック6に収容される反応容器7の各ウエル7Aに対して平行若しくは、平行に近い角度に入射角度が変更される。これにより、当該レンズ21を透過した励起光は、押さえ部材15に形成された各透孔を介して平行若しくは、平行に近い角度の入射角度にて各ウエル7Aに入射される。
【0044】
各ウエル7A内に平行若しくは平行に近い角度にて入射された励起光は、予め所定の蛍光染料が添加されたウエル7A内のDNAに照射されることで、PCRプロダクトの量に応じた蛍光を発する。この発生した蛍光及びその他のPCRプロダクトからの反射光は、同様に押さえ部材15に形成された各透孔及びフレネルレンズ21を介して反射板22に到達する。
【0045】
その後、反射板22に到達した蛍光及びその他の反射光は、該反射板22の作用によって暗室構成部12内を略水平方向に光路を形成しながら、当該反射板22に対向して設けられるバンドパスフィルタ25を介してカメラ27に到達する。尚、この場合において、暗室構成部12内は、カバー2が閉塞されていることにより、暗室とされていることから、蛍光が減衰等される不都合を抑制することができる。
【0046】
このとき、反射板26は、蛍光を透過可能とする材料にて構成されていることから、当該反射板26を透過した反射光及び蛍光は、バンドパスフィルタ25に照射されることとなる。バンドパスフィルタ25では、上述したように、当該フィルタ25の種類に応じて、所定の蛍光のみが透過可能とされているため、その後方に配設されるカメラ27には、所定の蛍光のみが照射されることとなる。
【0047】
そして、カメラ27では、受光された蛍光を撮影することにより、反応容器7の各ウエル7A内のPCRプロダクトの蛍光状態を検出する。そして、この検出された各PCRプロダクトの蛍光状態に関する検出データ(図4〜図6に示す画像データ)は、制御装置から処理装置Cに送出され、この処理装置Cにて分析されることにより、各試料の濃度、即ち、DNA等の増幅量を検出することができる。各ウエル7Aの位置と画像の位置関係は予め分かっているので、ウエル7Aの画像の各ピクセルの輝度を求めることで、ウエル7Aそれぞれの蛍光強度が測定でき、この蛍光強度からPCRプロダクトの量を把握することができる。
【0048】
処理装置Cは、図11に示すように反応検出装置1から送信される検出データの処理を行う演算処理部(CPU)31と、この演算処理部31に接続された記憶装置(記憶手段)32、キーボード(或いはマウスなどの入力手段)33、ディスプレイ(出力手段)34、プリンタ(出力手段)36、FD、CD、DVD、メモリなどの外部記憶装置37などから構成されている。反応検出装置1から送信された検出データは記憶装置32に記憶され、演算処理部31により後述する処理が行われてディスプレイ34などに表示出力される。
【0049】
次に、この処理装置Cにおける検出データの処理手順について説明する。図5、図6は反応検出装置1から処理装置Cに送られてくる検出データの画像である。各画像で白く映っている96個の丸画像がそれぞれのウエル7A内のPCRプロダクトから発せられた蛍光である。尚、実施例では、SYBR Premix Ex Taq(登録商標)をベースとし、PCR Forward Primerと、PCR Reverse Primerと、Template(初期値として与えるλDNA)と、dH2O から反応溶液を調整する。また、図5、図6では上半分の48個のウエル7A内に0.2pg/μLの濃度の反応溶液が分注されており(Xグループ)、下半分の48個のウエル7A内にはその倍の濃度の0.4pg/μLの反応溶液が分注されている(Yグループ)。そして、温度サイクルは40回である。
【0050】
反応開始から温度サイクルの回数が進むと、DNAの増幅量に応じて蛍光強度が増加する。この過程をプロットしたものが前述した図7の増幅曲線である。この増幅曲線は各ウエル7A毎に得られ、ディスプレイ34に表示される(図8)。そして、キーボード(マウス)33を用いて指数関数的増幅領域(図7の(5))に閾値Th(図7の(11))を設定すると、そのときのサイクル数Ct(閾値サイクル数Ct)はこの図では24.5と読み取れる。この閾値サイクル数Ctと検査試料の初期DNA量との間には相関関係があり、この直線関係を示す検量線を作成できる。演算処理部31はこの検量線をもとに検査試料の初期DNA量を推定する。これにより、PCRの増幅速度論に基づいた正確な定量が可能となる。
【0051】
(A)装置上の誤差要因の除去
前述した如く反応開始前において、反応検出装置1のカメラ27で撮影された画像データでは、各ピクセルの輝度は必ずしも一定では無く、図4の(1)に示すように光学系の汚れや迷走光などにより斑が発生する。反応が進むとこの斑は図5の(2)に示すようにウエル7Aの画像に重なってウエル7A本来の蛍光強度に冗長されてしまう。
【0052】
そこで、処理装置Cの演算処理部31では、ウエル本来の蛍光強度を求めるために次の処理を実行する。即ち、例えば図6の右から2番目で且つ上から二段目(B11)のウエル7Aの場合、当該B11のウエル7A(図6の(4))の蛍光測定値[DNA]rawB11を測定し、記憶装置32に記憶する。次に、当該B11のウエル7Aの近傍の連結壁部分における周囲4点の蛍光測定値[DNA]bg1、[DNA]bg2、[DNA]bg3、[DNA]bg4を測定し、これら4点の蛍光測定値の平均値(背景の蛍光測定値)を求めて記憶装置32に記憶する。そして、式(2)の如く蛍光測定値[DNA]rawB11からこの平均値を差し引くことで、B11のウエル7A本来の蛍光強度[DNA]realB1を算出する。
[DNA]realB11=[DNA]rawB11−(([DNA]bg1+[DNA]bg2+[DNA]bg3+[DNA]bg4)/4) ・・・・(2)
【0053】
この処理を蛍光測定値[DNA]rawの検出の都度、96個全てのウエルについてそれぞれ実行し、全てのウエル7A本来の蛍光強度[DNA]realを決定する。これにより、各ウエル7A(反応領域)毎に当該ウエル7A及びその周辺の光透過性の誤差や汚れ、迷走光による背景の蛍光測定値[DNA]bgを除外した当該ウエル7AのDNAプロダクト本来の蛍光強度[DNA]realが得られる。
【0054】
従って、正確な増幅曲線の作成と定量化を実現することが可能となる。この場合、従来例で説明した第2の蛍光信号を用いる必要も無く、処理装置Cにおける演算処理のみで済むので、コストの高騰や作業性の悪化も発生せず、データの取得と処理に要する時間を短縮することができるようになる。
【0055】
尚、実施例ではウエル7Aの周囲4点の蛍光測定値[DNA]bg1、[DNA]bg2、[DNA]bg3、[DNA]bg4を測定してその平均値を蛍光測定値[DNA]rawから差し引いたが、それに限らず、1点或いは2点若しくは3点の平均でもよい。但し、実施例のように4点の平気値を用いれば、より正確は背景の蛍光強度を算出して精度の高い蛍光強度[DNA]realの決定を行うことができるようになる。また、実施例ではウエル7A周囲4点の蛍光測定値の単純平均を使用したが、それに限らず、汚れ具合の斑も考慮し、各点毎に所定の重み付けを行った後に平均してもよい。
【0056】
また、反応前と反応後で背景の蛍光強度の変動(ドリフト)は明確ではない。しかしながら、実施例では蛍光測定値[DNA]rawの検出の都度、蛍光測定値[DNA]bg1〜[DNA]bg4を検出し、蛍光測定値[DNA]rawから蛍光測定値[DNA]bg1〜[DNA]bg4の平均値を差し引き、蛍光強度[DNA]realを決定しているので、反応中に背景の蛍光強度が変動しても、常にDNAプロダクト本来の蛍光強度[DNA]realをリアルタイムで精度良く得ることができる。
【0057】
(B)正規化1
次に、図8は96個の全てのウエル7Aの増幅曲線を示している。横軸は温度サイクル数、縦軸は蛍光強度である。前述した如く図5、図6の上半分のXグループと下半分のYグループで濃度の異なる反応溶液が分注してある関係上、本来ならば反応曲線は2本の線に見えなければならない。また、閾値サイクル数Ctも2点となるはずである。しかしながら、前述した光学系の誤差、校正溶液の濃度誤差、校正溶液の分注誤差や反応溶液の分注誤差などの装置上の誤差要因により、各ウエル7Aの増幅曲線はバラツキ、閾値サイクル数Ctも(8)、(9)のように複数生じる(バラツキ)。
【0058】
そこで、演算処理部31はキーボード(マウス)33からの所定の選択指令に基づき、データの正規化を行う。即ち、演算処理部31は、温度サイクル数n毎に決定して記憶装置32に記憶している蛍光強度[DNA]n(温度サイクル数n回目の本来の蛍光強度[DNA]real)と、各ウエル7A毎の蛍光強度の最大値[DNA]max(温度サイクル数n回目までの蛍光強度[DNA]realのうちで最大のもの。記憶装置32に記憶されている。)と、比較対象とするウエル7A(実施例では全ウエル7A)に共通する値Zを用い、式(3)の演算により正規化された蛍光強度[DNA]nNを得る。
[DNA]nN=[DNA]n/([DNA]max+Z) ・・・(3)
【0059】
この処理により、各ウエル7Aの蛍光強度は正規化される。図9はZ=0の場合である。この正規化により、各ウエル7Aの装置上の誤差要因に伴う蛍光強度のバラツキが補正低減されるので、Xグループ、Yグループそれぞれで閾値サイクル数Ctのバラツキが図8の場合に比して低減される。これにより、確度の高い閾値サイクル数の算出が可能となる。尚、図9では全体のスケールを適当な値にするために[DNA]nNに全ウエル共通の値を乗算して表示している。
【0060】
(C)正規化2
ここで、サイクル後期のプラトー領域で蛍光強度がばらつく要因としては、上述した装置上の誤差要因だけでなく、ケミカルな反応のバラツキによっても発生する。そして、その要因に関しては指数関数的増幅領域の蛍光強度に比例的に影響しないことが考えられる。即ち、プラトー効果の領域での蛍光強度を完全に一致させないほうが良い場合もある。
【0061】
その場合は、キーボード(マウス)33を用いて式(3)のZの値を大きくする。図10はZ=20000とした場合の各ウエル7A毎の増幅曲線を示している。Zの値を大きくすると云うことは、正規化の効果を弱くしていることになる。しかしながら、図10では特にサイクル中期から後期の増幅曲線の挙動が実際の蛍光強度の動き(図8)に近似していることが分かる。一方で、閾値での補正効果は充分確保されていることが分かる。これにより、正規化の効果を抑制して、閾値での補正効果を充分確保しながら、サイクル中期から後期の増幅曲線を実際のデータに近似させ、装置上の誤差要因以外の要因に伴うデータの挙動把握を容易にすることができるようになる。
【0062】
ここで、このような不完全な正規化を行う際には、式(4)のようにZの値を決定してもよい。
Z=α[DNA]max+β ・・・(4)
α、βは各ウエル7Aに共通する係数。
また、演算処理部31は前述した最大値[DNA]maxを、蛍光強度の移動平均で算出している。なぜならば蛍光強度[DNA]realは実際にはのこぎり状を呈するからである。しかしながら、正規化に使用する最大値としては、このノコギリのピーク値であってもよく、当該ピーク値の例えば90%などの数値(何れも最大値に関連する値)を使用しても差し支えない。
【0063】
(D)ベースラインの補正
ここで、図8の(10)はサイクル初期で反応結果を検出できないレベルの領域であるが、ウエル7A内の反応溶液そのものが最初から一定の蛍光を発生しているので、この領域でも一般的には蛍光強度は0では無い。そこで、キーボード(マウス)33からの指示に基づき、演算処理部31はベースラインの補正を行う。即ち、演算処理部31は、サイクル初期の領域(10)での各ウエル7Aの蛍光強度の平均値[DNA]baseをベースラインとし、この平均値を前述した[DNA]n及び[DNA]maxから差し引いてから上述した正規化の処理を行っている。図9、図10で初期の蛍光強度が0となっているのは、この処理を行っているためである([DNA]baseは[DNA]nの最小値を使用しても差し支えない)。
【0064】
これにより、ウエル7A内の反応溶液そのものから発生する蛍光の強度を排除したPCRプロダクトそのものからの蛍光強度の状況を把握することができるようになる。
【0065】
尚、上記実施例で示した物質、量、数はそれに限定されるものでないことは云うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例のリアルタイム検出装置の構成図である。
【図2】図1のリアルタイム検出装置を構成する反応検出装置の縦断側面図である。
【図3】図2の反応検出装置の平断面図である。
【図4】反応容器の背景の蛍光強度の状態を示す図である。
【図5】反応後の蛍光強度の状態を示す図である。
【図6】反応後の蛍光強度の状態を示すもう一つの図である。
【図7】或るウエルのDNA増幅曲線である。
【図8】全ウエルのDNA増幅曲線である。
【図9】図8のデータを正規化した場合のDNA増幅曲線である。
【図10】図8のデータの不完全な正規化を行った場合のDNA増幅曲線である。
【図11】図1のリアルタイム検出装置を構成する処理装置の機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0067】
1 反応検出装置
7 反応容器
7A ウエル(反応領域)
10 ペルチェ素子
27 カメラ
31 演算処理部
34 ディスプレイ
C 処理装置
R リアルタイム検出装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の反応領域に温度サイクルを与え、各反応領域における核酸増幅生成物からの蛍光強度をリアルタイムで検出する装置であって、
前記反応領域から得られる蛍光測定値[DNA]rawと、該反応領域近傍における反応領域外領域から得られる蛍光測定値[DNA]bgとを検出し、前記蛍光測定値[DNA]rawから前記蛍光測定値[DNA]bgを差し引くことにより、当該反応領域の蛍光強度[DNA]realを決定することを特徴とする核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置。
【請求項2】
前記蛍光測定値[DNA]bgは、前記反応領域近傍における複数の反応領域外領域から得られる蛍光測定値の単純平均、若しくは、所定の重み付けを行った後の平均値であることを特徴とする請求項1に記載の核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置。
【請求項3】
前記蛍光測定値[DNA]rawの検出の都度、前記蛍光測定値[DNA]bgを検出し、当該蛍光測定値[DNA]rawから蛍光測定値[DNA]bgを差し引くことで、前記蛍光強度[DNA]realの決定を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置。
【請求項4】
複数の反応領域に温度サイクルを与え、各反応領域における核酸増幅生成物からの蛍光強度をリアルタイムで検出する装置であって、
前記温度サイクルn回毎に各反応領域から得られる蛍光強度[DNA]nを、当該蛍光強度[DNA]nの最大値若しくはそれに関連する値[DNA]maxを用いて正規化し、当該正規化された蛍光強度[DNA]nNを用いて描かれる増幅曲線の指数関数的増幅領域に閾値Thを設定することにより、閾値サイクル数Ctを算出することを特徴とする核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置。
【請求項5】
前記反応領域毎の蛍光強度[DNA]nを、前記最大値若しくはそれに関連する値[DNA]max、或いは、それに比較対象とする前記反応領域に対して共通する値を加えた値で除することにより前記蛍光強度[DNA]nNを算出することを特徴とする請求項4に記載の核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置。
【請求項6】
前記指数関数的増幅領域以前の前記蛍光強度[DNA]baseを、前記各反応領域毎の蛍光強度[DNA]n及び最大値若しくはそれに関連する値[DNA]maxから差し引いて前記増幅曲線を描くことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置。
【請求項1】
複数の反応領域に温度サイクルを与え、各反応領域における核酸増幅生成物からの蛍光強度をリアルタイムで検出する装置であって、
前記反応領域から得られる蛍光測定値[DNA]rawと、該反応領域近傍における反応領域外領域から得られる蛍光測定値[DNA]bgとを検出し、前記蛍光測定値[DNA]rawから前記蛍光測定値[DNA]bgを差し引くことにより、当該反応領域の蛍光強度[DNA]realを決定することを特徴とする核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置。
【請求項2】
前記蛍光測定値[DNA]bgは、前記反応領域近傍における複数の反応領域外領域から得られる蛍光測定値の単純平均、若しくは、所定の重み付けを行った後の平均値であることを特徴とする請求項1に記載の核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置。
【請求項3】
前記蛍光測定値[DNA]rawの検出の都度、前記蛍光測定値[DNA]bgを検出し、当該蛍光測定値[DNA]rawから蛍光測定値[DNA]bgを差し引くことで、前記蛍光強度[DNA]realの決定を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置。
【請求項4】
複数の反応領域に温度サイクルを与え、各反応領域における核酸増幅生成物からの蛍光強度をリアルタイムで検出する装置であって、
前記温度サイクルn回毎に各反応領域から得られる蛍光強度[DNA]nを、当該蛍光強度[DNA]nの最大値若しくはそれに関連する値[DNA]maxを用いて正規化し、当該正規化された蛍光強度[DNA]nNを用いて描かれる増幅曲線の指数関数的増幅領域に閾値Thを設定することにより、閾値サイクル数Ctを算出することを特徴とする核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置。
【請求項5】
前記反応領域毎の蛍光強度[DNA]nを、前記最大値若しくはそれに関連する値[DNA]max、或いは、それに比較対象とする前記反応領域に対して共通する値を加えた値で除することにより前記蛍光強度[DNA]nNを算出することを特徴とする請求項4に記載の核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置。
【請求項6】
前記指数関数的増幅領域以前の前記蛍光強度[DNA]baseを、前記各反応領域毎の蛍光強度[DNA]n及び最大値若しくはそれに関連する値[DNA]maxから差し引いて前記増幅曲線を描くことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の核酸増幅生成物のリアルタイム検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図11】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図11】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2007−236219(P2007−236219A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−59381(P2006−59381)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
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