説明

核酸増幅用の試薬入り反応容器

【課題】有機層を使用することなく、ゲル層と水層を用いて核酸増幅用試薬の成分を分離し、これにより非特異反応の発生を抑制することが可能な試薬入り反応容器を提供すること。
【解決手段】ゲル層と水層を含む、核酸増幅用の試薬入り反応容器であって、ゲル層または水層の何れか一方の層にプライマーが含有され、プライマーを含有しない他方の層に、緩衝液、マグネシウム化合物、およびdNTPが含有される、核酸増幅用の試薬入り反応容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅用の試薬入り反応容器およびかかる容器を用いた核酸増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸増幅用試薬として、緩衝液およびDNAポリメラーゼ酵素を一つの溶液の状態で提供することは、Amplitaq Gold(登録商標)(Applied Biosystems社)等の販売製品で知られている。かかる試薬は、試薬調製の手間が掛からないので簡便である。さらに、増幅する遺伝子部位が予め定められている場合、前述の試薬溶液にさらに目的増幅部位に対するプライマーも加えることにより、増幅反応に用いられる鋳型以外の全ての成分を兼ね備えた試薬溶液を提供することも可能となり、さらに簡便性の高いものとなる。しかし、プライマーを含めた試薬溶液は、プライマーダイマーに代表される非特異反応による産物が発生する危険性がある。これを回避する方法の一つとして、試薬の構成成分をそれぞれ分離しておく方法が知られている。
【0003】
特許文献1は、核酸増幅用に、2つ以上の水層を形成して溶液を分離する方法として、ワックス/グリースの層を用いて、マグネシウム化合物(MgCl2)とそれ以外の試薬成分を同一容器内で分離する方法を開示する。さらに、特許文献2は、ワックス担体にPCR試薬の一部を封入することで、PCR試薬の構成成分を分離する方法を開示する。また、PCR試薬の構成成分を上層反応液と下層反応液に分離するためのワックス層として、AmpliWax(登録商標)PCR Gem 50(Applied Biosystems社)が販売されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5411876号明細書
【特許文献2】米国特許第5599660号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Takara AmpliWax(登録商標)PCR Gem 50 説明書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景技術において、グリースまたはワックスの有機層は、PCRの最初の熱変性段階で融解し、分離されていた試薬成分は互いに混合される。このとき、グリースまたはワックスの有機層は、水より比重が小さいため水層より上部に位置し、反応液の蒸発を防ぐバリヤとして機能する。このため、PCR産物を含む下層の水層をマイクロピペット等で分取する際に有機層に接触してしまい、有機層成分が混入する危険性がある。加えて、PCR産物を分取するために上部の有機層を除去しようとすると手間が掛かってしまう。そこで本発明は、有機層を使用することなく、ゲル層と水層を用いて核酸増幅用試薬の成分を分離し、これにより非特異反応の発生を抑制することが可能な試薬入り反応容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、核酸増幅用試薬の全構成成分を混在させると非特異反応が生じるのに対し、核酸増幅用試薬のうち、プライマーとその他の試薬成分を別個の水性層(たとえばゲル層と水層)に分離することにより非特異反応を防ぐことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の手段を提供する。
【0008】
[1] ゲル層と水層を含む、核酸増幅用の試薬入り反応容器であって、
ゲル層または水層の何れか一方の層にプライマーが含有され、
プライマーを含有しない他方の層に、緩衝液、マグネシウム化合物、およびdNTPが含有される、核酸増幅用の試薬入り反応容器。
[2] プライマーを含むゲル層と、
DNAポリメラーゼ、緩衝液、マグネシウム化合物、およびdNTPを含む水層
を含む、核酸増幅用の試薬入り反応容器。
[3] フォーワードプライマーまたはリバースプライマーの何れか一方を含む第一のゲル層と、
フォーワードプライマーまたはリバースプライマーの他方を含む第二のゲル層と、
DNAポリメラーゼ、緩衝液、マグネシウム化合物、およびdNTPを含む水層
を含む、核酸増幅用の試薬入り反応容器。
[4] プライマーまたはDNAポリメラーゼの何れか一方を含む第一のゲル層と
プライマーまたはDNAポリメラーゼの他方を含む第二のゲル層と、
緩衝液、マグネシウム化合物、dNTPを含む水層
を含む、核酸増幅用の試薬入り反応容器。
【0009】
[5] 上記[1]〜[4]の何れか1に記載の反応容器を用いた核酸増幅方法であって、
上記[1]〜[4]の何れか1に記載の反応容器に鋳型としての核酸検体を添加する工程と、
前記工程により得られた容器を加熱して核酸増幅反応を行い、加熱により形成されたゲル層と水層の混合液中の核酸増幅産物を得る工程と
を含む、核酸増幅方法。
[6] 前記核酸検体が、電気泳動後のゲルから切り出された所定のバンドを含むゲルであることを特徴とする、上記[5]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に従ってプライマーとその他の試薬成分を一つの容器内で別個の水性層(たとえばゲル層と水層)に分離することにより、試薬成分の混合が抑制され、保存中に溶液の状態で発生する非特異増幅反応を抑制することができる。これにより、一つの容器内に全ての試薬成分が含まれているが、非特異増幅反応の発生が抑制された「核酸増幅用の試薬入り反応容器」を提供することができる。本発明の「核酸増幅用の試薬入り反応容器」を使用することにより、試薬調製の手間を省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1を説明するための図。
【図2】本発明の実施例1の結果を示す電気泳動写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の「核酸増幅用試薬入り反応容器」は、
ゲル層と水層を含み、
ゲル層または水層の何れか一方の層にプライマーが含有され、
プライマーを含有しない他方の層に、緩衝液、マグネシウム化合物、およびdNTPが含有される。
【0013】
本発明において、核酸増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)等による核酸増幅を含む。
【0014】
本発明の「反応容器」は、核酸増幅反応に適した容量を有しており、たとえば200μlのマイクロチューブを使用することができる。反応容器内の総液量、すなわちゲル層と水層の総液量は、たとえば20〜100μlとすることができる。ゲル層の総液量は、たとえば10〜90μlとすることができ、水層の総液量は、たとえば10〜90μlとすることができる。
【0015】
「ゲル層」は、1層、2層またはそれ以上であってもよい。ゲル層は、ゲル中に特定の試薬成分を包埋して、特定の試薬成分を他の試薬成分と分離する機能を果たす。「ゲル層」は、ゲル化剤を加温された水に溶解し、得られた水溶液(ゲル化剤含有水溶液)を室温(たとえば10〜30℃)に戻すことにより形成することができる。ゲル化剤としては、公知のゲル化剤を使用することができ、たとえばアガロース、ゼラチン、デンプン、カラギーナン、ペクチン、アガロペクチン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、またはトレハロース等を使用することができる。ゲル化剤の水溶液中の濃度は、ゲル化剤含有水溶液を室温(たとえば10〜30℃)に戻した際にゲルを形成することが可能な濃度(下限)であって、核酸増幅反応の加熱により融解したゲル層と水層の混合液(核酸増幅反応後の反応液)が室温(たとえば10〜30℃)で流動性を有することが可能な濃度(上限)に設定される。「流動性を有する」とは、ピペットにより分取することが可能な粘度を有していることを意味し、好ましくは、アニーリング温度以下の温度(たとえば18〜40℃)で50cp以下の粘度を有することを意味する。たとえば、ゲル化剤は、核酸増幅反応後の溶液が、アニーリング温度以下の温度(たとえば18〜40℃)で粘度50cP以下となるように、水溶液中に添加される。より具体的には、低融点アガロース(Low Melting Point Agarose, Cat.No.15517-014, invitrogen社)の場合、水溶液中、一般に0.05〜2.0重量%の濃度で使用され、ゼラチン(Gelatin, Cat.No.077-03155, 和光純薬社)の場合、水溶液中、一般に1.0〜5.0重量%の濃度で使用される。
【0016】
「ゲル層」は、容器内のゲル化剤含有水溶液の温度を下げて固化することにより形成することができる。2層のゲル層を形成する場合、第一のゲル層を形成した後、第二のゲル層を形成するための第二のゲル化剤含有水溶液を、「第二のゲル化剤含有水溶液が固化しない温度」〜「既に形成されている第一のゲル層が融解しない温度」の間の温度に加温し、これを第一のゲル層の上に添加することにより形成することができる。2層のゲル層を形成する場合、第一のゲル層と第二のゲル層は同一のゲル化剤により形成されてもよいし、異なるゲル化剤により形成されてもよい。
【0017】
「水層」は、所定の試薬成分を含有する水溶液であり、一般に、ゲル層の上に形成される。「水層」は、容器内にゲル層を形成した後に、ゲル層の上に、所定の試薬成分を含有する水溶液を添加することにより作成することができる。
【0018】
「核酸増幅用試薬」は、公知の組成を用いることができ、プライマー、DNAポリメラーゼ、緩衝液、マグネシウム化合物、およびdNTPを含む水溶液とすることができる。
【0019】
(a)「プライマー」は、0.1〜5.0μMのプライマー溶液を0.1〜10μlの液量で使用し、最終濃度0.01〜0.5μMとすることができる。
【0020】
(b)「DNAポリメラーゼ」は、一般にPCRに使用される耐熱性DNAポリメラーゼ、たとえばTaqポリメラーゼ(TaKaRa)であり、0.1〜10 units/μlの濃度の酵素液を0.1〜2.0μlの液量で使用し、最終濃度0.02〜0.1 units/μlとすることができる。
【0021】
(c)「緩衝液」は、たとえば10x Titanium Taq PCR buffer (639141, clontech社)のような市販のPCR bufferを使用することができ、たとえば10×PCR buffer(TaKaRa)を、水層の総液量の1/10の液量で使用することができる。
【0022】
(d)「マグネシウム化合物」は、核酸増幅用試薬の水溶液中でMg2+を生じるマグネシウム化合物であり、MgSO4、MgCl2などが挙げられ、20〜30mMの濃度のMg2+含有溶液を1.0〜10μlの液量で使用し、最終濃度1.0〜4.0mMとすることができる。
【0023】
(e)「dNTP」は、dATP、dTTP、dCTPおよびdGTPの混合液であり、dATP、dTTP、dCTPおよびdGTPをそれぞれ1.0〜10mMの濃度で含有するdNTP溶液を1.0〜10μlの液量で使用し、最終濃度100〜500μMとすることができる。
【0024】
本発明では、「核酸増幅用試薬」のうち、少なくともプライマーとその他の試薬成分は、容器内で別々の層(たとえばゲル層と水層)に分離されている必要がある。これにより、非特異的な増幅反応を防止することができる(後述の実施例参照)。
【0025】
後述の第一の実施の形態は、1つのゲル層と1つの水層を含み、ゲル層にプライマー(フォーワードプライマーとリバースプライマー)を含有し、水層にその他の試薬成分を含有する。また、第二および第三の実施の形態は、2つのゲル層と1つの水層を含み、第二の実施の形態では、第一のゲル層と第二のゲル層に、それぞれフォーワードプライマーとリバースプライマーを含有し、水層にその他の試薬成分を含有する。第三の実施の形態では、第一のゲル層と第二のゲル層に、それぞれプライマー(フォーワードプライマーとリバースプライマー)とDNAポリメラーゼを含有し、水層にその他の試薬成分を含有する。
【0026】
以下、本発明の「核酸増幅用の試薬入り反応容器」の例として第一、第二、第三の実施の形態について述べるが、本発明がこれらに限定されないことはいうまでもない。
【0027】
[第一の実施の形態]
第一の実施の形態に係る「核酸増幅用の試薬入り反応容器」は、
プライマーを含むゲル層と、
DNAポリメラーゼ、緩衝液、マグネシウム化合物、およびdNTPを含む水層
を含む。
【0028】
第一の実施の形態において、好ましくは、図1に示されるようにゲル層が水層の下に形成される。
【0029】
第一の実施の形態に係る「核酸増幅用の試薬入り反応容器」は、
プライマーおよびゲル化剤を含有し、融点以上の温度に加温された溶液を容器に添加して、これをゲル化してゲル層を形成し、
形成されたゲル層の上に、プライマー以外の試薬成分を含有する水溶液を添加して水層を形成する
ことにより作成することができる。
【0030】
[第二の実施の形態]
第二の実施の形態に係る「核酸増幅用の試薬入り反応容器」は、
フォーワードプライマーまたはリバースプライマーの何れか一方を含む第一のゲル層と、
フォーワードプライマーまたはリバースプライマーの他方を含む第二のゲル層と、
DNAポリメラーゼ、緩衝液、マグネシウム化合物、およびdNTPを含む水層
を含む。
【0031】
[第三の実施の形態]
第三の実施の形態に係る「核酸増幅用の試薬入り反応容器」は、
プライマーまたはDNAポリメラーゼの何れか一方を含む第一のゲル層と
プライマーまたはDNAポリメラーゼの他方を含む第二のゲル層と、
緩衝液、マグネシウム化合物、dNTPを含む水層
を含む。
【0032】
第二および第三の実施の形態に係る「核酸増幅用の試薬入り反応容器」は、
所定の試薬成分および第一のゲル化剤を含有し、第一のゲル化剤の融点以上の温度に加温された溶液を容器に添加して、これをゲル化して第一のゲル層を形成し、
所定の試薬成分および第二のゲル化剤を含有し、第二のゲル化剤の融点以上であるが第一のゲル層が融解しない温度の範囲内に加温された溶液を、第一のゲル層の上に添加して、第二のゲル層を形成し、
次いで、形成された第二のゲル層の上に、その他の試薬成分を含有する水溶液を添加して水層を形成する
ことにより作成することができる。
【0033】
上述のとおり、本発明の容器は、ゲル層を用いて2つ以上の溶液組成を区分する。ゲルで区分されることにより、試薬成分の混合が抑制され、保存中に溶液の状態で発生する非特異反応の進行を抑えることができる。本発明の容器においてゲル層は、核酸増幅反応の加熱により融解し、これによりゲル層と水層は混合し、流動性を有する溶液の状態になる。核酸増幅反応後の溶液は、ゲルの濃度が希釈されて液状となるか、あるいは所定の温度以上の条件で液状となるため、反応後の溶液をピペットなどで容易に取り扱うことができる。
【0034】
[核酸増幅方法]
本発明の反応容器を用いた「核酸増幅方法」は、
本発明の反応容器に鋳型としての核酸検体を添加する工程と、
前記工程により得られた容器を加熱して核酸増幅反応を行い、加熱により形成されたゲル層と水層の混合液中の核酸増幅産物を得る工程と
を含む。
【0035】
「核酸検体」は、被検体から抽出された核酸サンプルであってもよいし、後述の実施例3に記載されるとおり、電気泳動後のゲルから切り出された所定のバンドを含むゲルであってもよい。「核酸検体」は、0.1〜100ng/反応容器の濃度で容器に添加することができる。
【0036】
本発明において核酸増幅反応は、公知の手法で行うことができ、たとえば、熱変性(90〜98℃で5〜30秒)→アニーリング(35〜75℃で5〜30秒)→伸長反応(35〜75℃で5〜30秒)のサイクルを、25〜40回繰り返すことにより行うことができる。
【0037】
「加熱により形成されたゲル層と水層の混合液」は、ゲルの濃度が希釈されて液状となるか、あるいは所定の温度以上の条件で液状となるため、この混合液中の核酸増幅産物は、ピペッティングにより採取することができる。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
以下のとおり核酸増幅用の試薬入り反応容器を調製した。200μlスケールのPCR用マイクロチューブに、Milli-Q水 5.5μl、各10μMに調製したプライマー 1.5μLづつを加えた。一方、60℃に加温した1% 低融点アガロース(Low Melting Point Agarose, Cat.No.15517-014, invitrogen社)を10μl加え、遠心した。遠心後、氷上で静置した。本実施例では、5’- GCACGAGGTCCAGAGATACC -3’(配列番号1)、および5’- TCTGAATTTAATGTCACAGGTC -3’(配列番号2)の配列を有するプライマーを使用した。次いでMilli-Q水 24.8μL、10xPCR buffer 5μL(Cat.No.R001AM,TaKaRa)、25mM MgSO4 2μL、2.5mM dNTPs 5μL(Cat.No.R001AM,TaKaRa)、Taq polymerase (1.0 Unit/μL) 1.2μL(Cat.No.R001AM,TaKaRa)を混合した溶液を積層し、試薬入り反応容器を調製した。一方、本発明と比較するため、前記反応組成物を全て同一溶液中に混合した溶液を分注した反応容器(コントロール容器)を準備した。これらの反応容器は、4℃近傍の冷蔵で保存した。
【0039】
1チューブ内の増幅反応溶液は、総量50μLになるよう調製された。鋳型には、ヒト由来のゲノム核酸検体(提供元:ヒューマンサイエンス振興財団)を50ng/tubeで加えた。一方、ゲノム核酸検体を加える代わりに、Milli-Q水を加えたものをネガティブコントロールとした。調製された増幅試薬デバイスは、サーマルサイクラー(ABi 9700, Applied Biosystems社)を用いて、熱変性:94℃, 30sec→アニーリング:60℃, 30sec→伸長:72℃, 30secを、32サイクルで増幅反応を行った。反応後の容器は、20〜25℃の室温に置いた。増幅した核酸を電気泳動した(2100 Bioanalyzer, Agilent technologies社)。
【0040】
増幅反応前後の反応容器の状態を図1に示す。増幅反応前は、ゲル状物質と溶液が層状に分離している(図1上)。これを加熱すると、ゲルが溶融し、上下層が混合して、増幅反応が開始される。このとき、ゲルは希釈され、マイクロピペットで扱える程度の流動性がある溶液となる(図1下)。そのため反応後の溶液は、容易に分取することができる。
【0041】
得られた増幅反応産物の電気泳動の結果を図2に示す。図2において、レーン1は、反応組成物を全て同一溶液中に混合した溶液を分注した反応容器(コントロール容器)を用いてヒト由来のゲノム核酸検体(陽性検体)を増幅した結果を示し、レーン2は、コントロール容器を用いて水を増幅した結果を示し、レーン3は、本発明の反応容器を用いて陽性検体を増幅した結果を示し、レーン4は、本発明の反応容器を用いて水を増幅した結果(ネガティブコントロール)を示す。反応組成物を全て同一溶液中に混合した溶液を分注した反応容器(コントロール容器)では、鋳型の有無に関わらず、目的産物と異なる長さの非特異産物が生成された(図2.レーン1、2、四角枠)。一方、本発明による反応容器では、前記非特異産物は見られなかった(図2.レーン3、4)。
【0042】
本結果は、本発明が非特異反応を抑制する効果があることを示している。本実施例では、プライマーをゲルで区分したデバイスとしているが、酵素やバッファー等の他の反応成分をゲルで区分しても、同様の効果が得られる。
【0043】
(実施例2)
以下のとおり核酸増幅用の試薬入り反応容器を調製した。60℃に加温した1% 低融点アガロース水溶液(Low Melting Point Agarose, Cat.No.15517-014, invitrogen社)を用いて、5’- GCACGAGGTCCAGAGATACC -3’(配列番号1)の配列を有するプライマーを10μMに調製した。調製したプライマーを含むゲル状物質を60℃に加温し、2μlを200μlスケールのPCR用マイクロチューブに加えた。同様に、40℃に加温した1.5%ゼラチン溶液(Gelatin, Cat.No.077-03155, 和光純薬社)を用いて、5’- TCTGAATTTAATGTCACAGGTC -3’(配列番号2)の配列を有するプライマーを10μMに調整し、同マイクロチューブに2μl加えた。次いでMilli-Q水 24.8μL、10xPCR buffer 5μL、25mM MgSO4 2μL、2mM dNTPs 5μL、Taq polymerase (1.0 Unit/μL) 1.2μLを混合した溶液を積層し、試薬入り反応容器を調製した。このデバイスは、4℃近傍の冷蔵で保存した。
【0044】
1チューブ内の増幅反応溶液は、総量50μLになるよう調製された。鋳型には、ヒト由来のゲノム核酸検体を50ng/tubeで加えた。一方、ゲノム核酸検体を加える代わりに、Milli-Q水を加えたものをネガティブコントロールとした。調製された反応容器は、サーマルサイクラー(ABi 9700, Applied Biosystems社)を用いて、熱変性:94℃, 30sec→アニーリング:60℃, 30sec→伸長:72℃, 30secを、32サイクルで増幅反応を行った。反応後の容器は、20〜25℃の室温に置いた。増幅した核酸を電気泳動した(2100 Bioanalyzer, Agilent technologies社)。
【0045】
増幅反応前の状態は、実施例1と同様に、ゲル状物質と溶液が各々区分されている。これを加熱すると、ゲルが溶融し、上下層が混合して、増幅反応が開始される。反応後は加温することで、マイクロピペットで扱える程度の流動性がある溶液となるため、反応後の溶液は容易に分取することができる。
【0046】
電気泳動の結果、実施例1と同様の結果を得た。すなわち、本発明の反応容器にゲノム核酸検体(陽性検体)を加えた場合、特定の増幅産物のみが得られ、非特異産物は見られなかった。また、本発明の反応容器に水を加えた場合(ネガティブコントロール)も、非特異産物は見られなかった。よって、2種類のゲルを用いても、実施例1と同様の効果が得られることが解った。
【0047】
(実施例3)
実施例2に記載したとおり、核酸増幅用の試薬入り反応容器を調製した。一方、ヒト血液から抽出したゲノム検体を、5’- GCACGAGGTCCAGAGATACC -3’(配列番号1)、および5’- TCTGAATTTAATGTCACAGGTC -3’(配列番号2)の配列を有するプライマーを用いて、熱変性:94℃, 30sec→アニーリング:60℃, 30sec→伸長:72℃, 30secを、32サイクルで増幅反応を行った。増幅産物を1%低融点アガロースで電気泳動後、エチジウムブロマイドにより増幅産物を染色した。染色された増幅産物部位を、カッターを用いてゲルごと切り出した。切り出したゲル1.5mm角を、実施例2のとおり調製された反応容器に加えた。次いで、サーマルサイクラー(ABi 9700, Applied Biosystems社)を用いて、熱変性:94℃, 30sec→アニーリング:60℃, 30sec→伸長:72℃, 30secを、32サイクルで増幅反応を行った。反応後の容器は、55℃に加温した。増幅した核酸を電気泳動した(2100 Bioanalyzer, Agilent technologies社)。
【0048】
増幅反応前の状態は、実施例1と同様に、ゲル状物質と溶液が各々区分されている。これを加熱すると、ゲルが溶融し、上下層が混合して、増幅反応が開始される。反応後は加温することで、マイクロピペットで扱える程度の流動性がある溶液となるため、反応後の溶液は容易に分取することができる。
【0049】
電気泳動上確認される増幅産物は、実施例1および2と同様の結果であった。すなわち、特定の増幅産物のみが得られ、非特異産物は見られなかった。よって、ゲル電気泳動から切り出した検体や精製物を対象に、本方法を適用することができる。本実施例では、鋳型となる増幅産物を切り出しているが、プライマー等の他の反応成分を電気泳動したゲルを用いても、同様の効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル層と水層を含む、核酸増幅用の試薬入り反応容器であって、
ゲル層または水層の何れか一方の層にプライマーが含有され、
プライマーを含有しない他方の層に、緩衝液、マグネシウム化合物、およびdNTPが含有される、核酸増幅用の試薬入り反応容器。
【請求項2】
プライマーを含むゲル層と、
DNAポリメラーゼ、緩衝液、マグネシウム化合物、およびdNTPを含む水層
を含む、核酸増幅用の試薬入り反応容器。
【請求項3】
フォーワードプライマーまたはリバースプライマーの何れか一方を含む第一のゲル層と、
フォーワードプライマーまたはリバースプライマーの他方を含む第二のゲル層と、
DNAポリメラーゼ、緩衝液、マグネシウム化合物、およびdNTPを含む水層
を含む、核酸増幅用の試薬入り反応容器。
【請求項4】
プライマーまたはDNAポリメラーゼの何れか一方を含む第一のゲル層と
プライマーまたはDNAポリメラーゼの他方を含む第二のゲル層と、
緩衝液、マグネシウム化合物、dNTPを含む水層
を含む、核酸増幅用の試薬入り反応容器。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の反応容器を用いた核酸増幅方法であって、
請求項1〜4の何れか1項に記載の反応容器に鋳型としての核酸検体を添加する工程と、
前記工程により得られた容器を加熱して核酸増幅反応を行い、加熱により形成されたゲル層と水層の混合液中の核酸増幅産物を得る工程と
を含む、核酸増幅方法。
【請求項6】
前記核酸検体が、電気泳動後のゲルから切り出された所定のバンドを含むゲルであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−45278(P2011−45278A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195741(P2009−195741)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】