椅子
【課題】ガイド軸が長穴(ブッシュ)を移動するストロークによって背もたれの傾動範囲が規制されるタイプの椅子において、ガイド軸が長穴の端にコツンと当たって着座者に違和感を与えることを簡単な構造で防止する。
【手段】ブッシュ24の前端部と後端部とに上下一対ずつの突起27を設けている。上下の突起27は、互いの間隔がブッシュ24の端に行くに従って小さくなるように傾斜しており、ガイド軸25は両突起27の傾斜面に当たって制動される。かつ、ガイド軸25は突起27を超えてブッシュ24の前部端面24b又は後部端面24cまで移動する。ブッシュ24の形状を工夫するだてあるためコストアップは生じず、かつ、ガイド軸25はブッシュ24の端まで移動するため突起27の耐久性が低下したりガイド軸25が上下突起27で挟まれて動かなくなったりすることはない。
【手段】ブッシュ24の前端部と後端部とに上下一対ずつの突起27を設けている。上下の突起27は、互いの間隔がブッシュ24の端に行くに従って小さくなるように傾斜しており、ガイド軸25は両突起27の傾斜面に当たって制動される。かつ、ガイド軸25は突起27を超えてブッシュ24の前部端面24b又は後部端面24cまで移動する。ブッシュ24の形状を工夫するだてあるためコストアップは生じず、かつ、ガイド軸25はブッシュ24の端まで移動するため突起27の耐久性が低下したりガイド軸25が上下突起27で挟まれて動かなくなったりすることはない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、背もたれがばね手段(弾性手段)に抗して後傾動するロッキング椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
背もたれが後傾動するロッキング椅子には、背もたれと座との関係で見ると、ロッキング時に座は動かずに背もたれのみが後傾するノーマルタイプと、ロッキング時に座が一緒に動くシンクロタイプとがある。シンクロタイプは更に、ロッキング時に座が背もたれと一緒に後退動(及び後傾動)するタイプと、ロッキング時に座が前進動するタイプとに大別される。本願出願人は、ロッキング時に座が前進動するタイプの一例を特許文献1で開示している。
【0003】
背もたれの取付け構造は様々であるが、一般的には、脚に固定されたベースに背フレームを傾動自在に連結して、背フレームに背もたれを取付けていることが多い。座が動かないノーマルタイプの場合は座はベースに固定されている。他方、シンクロタイプのうちロッキング時に座が後傾するタイプでは、座をベースと背フレームとに連結して三角リンク構造にしていることが多い。これに対して特許文献1では、座はベースでスライド自在に支持している。
【0004】
いずれにしても、ロッキング椅子では背もたれの後傾範囲(座が前後動する場合は座の前後移動範囲も)を規制する手段が必要であり、そのための手段として、ベースに設けた長穴にガイド軸をスライド自在に挿通し、ガイド軸のストロークを長穴で規制することで背もたれの傾動範囲を規制していることが多い。この場合、ガイド軸の動きをばねで支持することより、ロッキングに対する抵抗を付与している。すなわち、ガイド軸は、背もたれの傾動ストロークの規制とばねの支持との2つの機能を有している。
【0005】
このような長穴とガイド軸とによる傾動規制手段は、ガイド軸は長穴に確実に保持されているため規制機能に優れているのみならず、ガイド軸に2つの機能を持たせ得るため構造の簡素化に貢献できる利点があるが、ロッキングに際して背もたれが後傾し切ったときや、背もたれがロッキング状態から戻り切ったときに、ガイド軸が長穴の端にコツンと当たって音が発生することがある。
【0006】
このような現象に関連して、本願出願人の出願に係る特許文献2には、長穴及びガイド軸とは別の部位に摩擦抵抗付与部材を配置して、背もたれの急激な動きを阻止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2008−220758号
【特許文献2】特開2000−333760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2は、いわば背もたれをじんわり傾動させることで停止時の衝撃を無くそうとするものであり、機能的には優れていると言えるが、専用の部材を追加して配置けねばならないため、コストアップは否めない。
【0009】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、長穴とガイド軸とによって背もたれ等の傾動範囲等を規制しているタイプの椅子において、ガイド軸の停止に伴って音が発生したり衝撃が作用したりすることを簡易な構造で無くすことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明に係る椅子は、座及び背もたれとこれらを支持するベースとが備えられており、前記座の前後スライドと前記背もたれの後傾動とのうち少なくともいずれか一方が許容されており、かつ、前記座が前後スライドする範囲又は前記背もたれが傾動する範囲若しくは両方が、前記ベース又は他の部材に設けた長穴の内部をガイド軸が相対動することによって規制されている、という基本構成になっている。
【0011】
そして、請求項1の発明では、上記基本構成において、前記長穴のうちその一端寄り部位又は他端寄り部位若しくは両端寄り部位に、前記ガイド軸の相対動に対して抵抗を付与する制動部が、前記ガイド軸が長穴の端まで相対動し切ることを阻害しない状態で設けられている。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1において、少なくとも前記背もたれの後傾動が許容されているロッキング椅子であり、前記背もたれの傾動範囲が前記長穴とガイド軸との組み合わせによって規制されている。更に請求項3の発明は、請求項1において、前記座は、その全部又は少なくとも略前半部が前記ベースに前後スライド自在に支持されており、前記座と背もたれとは、前記背もたれの後傾動に連動して前記座が前進動するように互いに連動している。
【発明の効果】
【0013】
本願発明は、長穴の内面に制動部を設けるだけの簡単な構造であるため、コストアップを防止又は著しく抑制しつつ、ロッキングや座の前後動に際してコツンという衝撃音が発生することを防止できる。また、ガイド軸を制動部で停止させるのではなく、ガイド軸は長穴の端まで動いてから止まるようになっているため、制動部に過大な負担が掛かることはなくて、制動部は高い耐久性を確保できると共に、ガイド軸の移動ストロークも一定する。
【0014】
さて、リンク式のシンクロタイプの椅子では、座の後退動及び後傾動がばね手段で支えられており、従って、非ロッキング状態で座が後退及び後傾しないようにばね手段はある程度の強さのものを使用せねばならない。これに対して請求項2の発明に係る椅子は、座をベースでスライド自在に支持されているため、ばね手段は背もたれの後傾動に抵抗を付与する強さがあれば足り、このため、弱いばねを使用できてコストダウンできる利点がある。
【0015】
他方、請求項3で特定した椅子は、弱いばねを使用した場合に座の前後スライド及びロッキングが軽快に行われること関連していると推測されるが、座が前進して停止するときと後退して停止するときとの両方においてコツンと異音が発生しやすくなる傾向が見られた。そして、請求項2の発明では、ガイド軸が前進又は後退して停止するにおいて、ガイド軸が長穴の制動部に当たることで勢いを削がれるため、ガイド軸が長穴の端に当たって音が発生することを的確に防止できる(衝撃も防止できる。)。従って、本願発明は請求項2で特定した椅子において特に有益であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】椅子の全体斜視図である。
【図2】非ロッキング状態(ニュートラル状態)の縦断側面図である。
【図3】ロッキング状態の縦断側面図である。
【図4】全部材を表示した分離斜視図である。
【図5】主要部材を表示した分離斜視図である。
【図6】要部の分離斜視図である。
【図7】(A)は要部の分離斜視図、(B)は要部の分離平面図である。
【図8】(A)は要部の分離斜視図、(B)はブッシュの斜視図である。
【図9】要部の斜視図である。
【図10】要部の側面図である。
【図11】実施形態の利点を示す要部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明で方向を示すため「前後」「手前」「後ろ」「左右」といった文言を使用するが、これらの文言はロッキング椅子(以下、単に椅子と称する)に着座した人の向き基準にしている。「正面視」は着座者と対向した方向から見た状態になる。
【0018】
(1).椅子の概要
まず、主として図1〜図5に基づいて概要を説明する。本実施形態の椅子は事務用のいわゆる回転椅子に適用しており、椅子は、主要要素として、脚装置1、ベース2、座3、背もたれ4、バックサポート5、肘掛け装置6を有している。
【0019】
脚装置1はガスシリンダより成る脚支柱7を有している。脚支柱7は、放射状に延びる複数本の枝足を有する脚本体の中心部に嵌着されている。例えば図6に示すように、ベース2は上向きに開口した略函状の形態になっていて脚支柱7の上端に固定されている。そして、ベース2に座受金具(中間金具)8が前後スライド自在に装着されている。
【0020】
肘掛け装置7はオプション部品であり、ベース2に着脱可能に取付けられている。そして、肘掛け装置7を取り外すとベース2には取付け穴が空く。そこで、取付け穴は着脱可能な樹脂カバー9で塞がれる(例えば図4〜6等参照)。
【0021】
図4に示すように、座3は、座板(座インナーシェル)10とその上面に張られた座クッション体11とを備えており、座クッション体11はクロス等の表皮材で覆われている。座板10の略前半部は座受けシェル(座アウターシェル)12の上面に取付けられている。座受けシェル12及び座板10はPP(ポリプロピレン)等の合成樹脂材を素材とした射出成形品である。
【0022】
座板10は、大雑把に言って、前部を構成する第1部分10aと後部を構成する第2部分10bとを有し、第1部分10aと第2部分10bとの間には座3の左右方向に長いスリット13の群が形成されている。スリット13は着座者の体圧が強く作用する部分を中心にして多数形成されている(図4,5参照)。 前後の部分10a,10bは数箇所のスリット13の箇所において連結片を介して連結されている。
【0023】
スリット13の群を設けている部分は一種のヒンジ部であり、座板10はスリット13の群の箇所で屈曲する。従って、座3は、前側に位置した第1部分3aと後ろに位置した第2部分3bとが連結された構成になっている。なお、座受けシェル12は座3の一部とみなすことも可能である。或いは、座3と座受けシェル12とで座部が構成されていると言うことも可能である。
【0024】
例えば図4に示すように、背もたれ4は、主として、バックカバー14と、バックカバー14の前面に取付けられた背板15と、背板15の前面に取付けられた背クッション体16とで構成されている。背クッション体16にはクロス等の表皮材が張られている。バックカバー14を背アウターシェルと言い換え、背板15を背インナーシェルと言い換えることも可能である。バックカバー14及び背板15はPP等の合成樹脂材を素材とした射出成形品である。
【0025】
バックカバー14は、背板15を支持する本体部14aと、この本体部14aの下端から前向き突出した前向き部14bとを有している。従って、バックカバー14は側面視で略L字状の外観を呈しており、バックカバー14における前向き部14bは座板10の第2部分10bに連結されている。また、バックカバー14はバックサポート5に下降動自在及び傾動自在に連結されている。
【0026】
着座した人が背もたれ4に凭れ掛かると、背もたれ4は上端が後退して下端が前進するように後傾動しつつ下降する一方、座3は全体として前進しつつ第2部分3bは第1部分3aに対して後傾する。以下、各部位の詳細を説明する。
【0027】
(2).バックサポート・ベース部
まず、バックサポート5やベース2のような支持機構部を説明する。本実施形態のバックサポート5は左右一対のパイプ材で側面視L字状に形成されており、このバック支柱5に裏側から支柱カバー18が装着されている。左右のバックサポート5は補強材5aで連結されている。なお、バックサポート5は樹脂材やアルミ成形品より成る一体成形品とすることも可能である。
【0028】
例えば図4,6に示すように、バック支柱17の基部は、ベース2の内面に固定されたベース基板19に溶接などにて固定され、更に、補強金具20で押さえ保持している。ベース2は既述のとおり上向きに開口した箱形の外観を呈しており、後端は開放されている。そして、後部内面に既述のベース基板19が溶接によって固着されている。例えば図2,3に示すように、ベース2とベース基板19には上下に開口した受け筒21が固着されており、この受け筒21に脚支柱7の上端を下方から嵌着している。
【0029】
例えば図8に明示するように、ベース2の左右両側板2aには前後長手の長穴23が形成されており、この長穴23に樹脂製のブッシュ24を装着し、左右両ブッシュ24に左右長手のガイド軸25が前後スライド自在に挿通されている。ブッシュ24は長穴23に外側から嵌め込んでおり、ベース3の外面に当たるフランジ24aを有している。ガイド軸25は、座受金具8の後部に設けた下向きの軸受け片26に挿通している。
【0030】
そして、図8(B)及び図10に明示するように、ブッシュ24の前後両端部の上内面と下内面とに、請求項に記載した制動部の一例として突起27を相対向する状態で一体に形成している。突起27の左右横幅寸法W2はブッシュ24の左右横幅寸法W1よりも小さい寸法(約半分)になっており、かつ、ブッシュ24の端面24b、24cに近づくに従って互いの間隔が小さくなるように側面視で傾斜している。
【0031】
また、ブッシュ24の溝の基本的な寸法はガイド軸25の外径よりも僅かに小さいが、上下突起27の間隔は、前後方向の大部分の範囲においてガイド軸25の外径よりも大径に設定しており、このため、ガイド軸25は突起27に当たることで摩擦抵抗が発生し、これによってガイド軸25は前端部と後端部とで動きが抑制される。この場合、ブッシュ24はベース2の長穴23に嵌まっているので、突起27はガイド軸25の押圧作用で弾性変形するが、ガイド軸25が突起27を弾性変形させながらブッシュ24の前部内端面24bと後部内面24cとに到達するように設定している。
【0032】
詳細は省略するが、座受金具8の前部は座板10の下面に設けたポケット部に後ろから嵌まっており、その状態で、座板10は座受金具8の後部に左右2本のねじで締結されている。
【0033】
例えば図8に明示するように、ベース2の内部には、ロッキング用弾性支持手段の一例として、前後方向に伸縮するロッキンばね用のコイルばね28を配置している。他方、座受金具8の後端部には、下向きの後部ばね受け支持片29が形成されている。コイルばね28は後部ばね受け30を介して後部ばね受け支持片29で後ろから支持されている。また、コイルばね28の前端は前部ばね受け31を介してベース2の前壁で支持されている。従って、座受金具8はコイルばね28に抗して前進動する。
【0034】
例えば図8に示すように、ベース2における左右両側板2aの上端には左右外向きの水平片2bが一体に形成されており、この水平片2bに樹脂製のスライド補助体33が装着されている。スライド補助体33は水平片2bを抱持するように断面略溝形の形態になっている。また、座受金具8の左右両側部には、スライド補助体33を外側から包み込む溝形の抱持部34が形成されている。この抱持部34がスライド補助体33に対してスライドすることにより、座受金具8はベース2に対してスムースに前後摺動する。
【0035】
詳細は省略するが、座板10の第1部分10aは係合爪同士より成るキャッチ手段で座受けシェル12に連結されており、また、座板10の第2部分10aも係合爪と係合穴との組み合わせによるキャッチ手段でバックカバー14の前向き部に取付けられている。
【0036】
(3).背もたれの構造
例えば図5から理解できるように、バックカバー14の左右中間部には下向きに開口した長溝35が形成されており、このためバックカバー14の前向き部14bは左右に分断されている。そして、バックカバー14における左右前向き部14bの前端には軸受け部36が形成されており、この左右軸受け部36とベース2における左右両側板2aの後端とがガイド軸25で連結されている。
【0037】
例えば図4から理解できるように、長溝35は、バックカバー14における本体部14aの上下中途高さ位置まで延びている。但し、前向き部14bの前後方向の中途部及び本体部14aの上下方向中途部には、長溝35を跨ぐ複数の連結部37が一体に形成されている。
【0038】
例えば図5に示すように、バック支柱17の上端部には補強ブラケット38が固定されており、この補強ブラケット38に、ガイドピン39が固定されている。ガイドピン39の左右両端部は補強ブラケット38の左右外側に露出している。
【0039】
他方、バックカバー14における長溝35の左右内側面の上部には上下長手のガイド溝40が向かい合う状態に形成されている。左右のガイド溝40には溝形の樹脂製ガイド部材41が嵌まっており、このガイド部材41の溝にガイドピン39の端部が上下スライド自在に嵌まっている。ガイド部材41は側面視において緩い曲率で前向き凹状に湾曲している。ブッシュ24の内端面24b,24cの側面視形状は、ガイド軸25の曲率とおなじでもよいし、小さくてもよいし大きくてもよい。また、平坦面であってもよい。
【0040】
(3).まとめ
以上の構成において、ロッキング状態では、姿勢が一定のバックサポート5に対して背もたれ4が沈み込みながら後傾する。これと同時に座3は全体として前向きに移動しつつ、第2部分3bは第1部分3aに対して後傾する。ロッキング状態から身体を起こすと、背もたれ4及び座3はコイルばね28によって元の状態に戻る。
【0041】
そして、背もたれ4の傾動範囲と座3の前後動範囲とはガイド軸25がブッシュ24の内部を移動するストロークによって規制されるが、ガイド軸25は前進し切るやや少し前の位置及び後退し切るやや少し前の位置において突起27に当たることにより、移動に対する摩擦抵抗が付与され、速度を減殺した状態でブッシュ24の前部内面24b又は後部内面24cに当たる。
【0042】
このため、ガイド軸25がブッシュ24にコツンと当たって背もたれ4の動きが急停止することによって使用者に違和感を与えることを防止できる。また、既述のとおりガイド軸25はブッシュ24の前部内面24b又は後部内面24cに当たるため、突起27に過大な負荷が作用したり、ガイド軸25が上下突起27の間に挟まってしまって動かなくなるような不都合は生じない。
【0043】
さて、ベース2の長穴23はバーリング加工によって内向きフランジが形成されており、このためブッシュ24は広い面積で支持されている。そして、バーリング加工によって内向きフランジを形成する場合、内向きフランジの付け根箇所には必ず丸みが存在している。換言すると、長穴23の内周面のうちベース2の外側面に近い部分は正断面視において丸みを帯びている。従って、ブッシュ24の外面を平坦面と成していると、ブッシュ24の外面と長穴23の内面との間には、ベース2の外面に寄った部位にて空間が空く。
【0044】
そして、ガイド軸25が突起27に当たると突起27は上下外側に押圧されて逃げようとするため、仮に突起27をブッシュ27の内面の横幅一杯に形成すると、ガイド軸25が突起27に当たるとブッシュ24のうち外端部が上下外側に逃げて曲がり変形する現象が発生し、すると、ブッシュ24には上下方向に曲がり変形することに伴ってベース2の外側に押しやろうとする水平分力が作用することになり、このため、ブッシュ24が長穴23から抜け勝手になってしまう。
【0045】
これに対して本実施形態では、突起27は、ブッシュ24の内面のうちベース2における内向きフランジの平坦面と重なった部分のみに位置するように、ブッシュ24の左右横幅W1よりも小さい巾寸法W2に設定しているため、ガイド軸27が当たることがベース2から抜け出る方向に移動することはない。この点、本実施形態の利点の一つである。
【0046】
更に、突起27の横幅寸法W2をブッシュ24の横幅寸法W1よりも小さく設定していることは、潤滑用グリスの保持部を確保するという機能も有している。つまり、ガイド軸25は突起27を押し潰すような状態に弾性変形させてブッシュ24の端24a,24bに当たるが、本実施形態では突起27の横幅寸法W2がブッシュ24の横幅寸法W1よりも小さいため(突起27が内側に寄っているため)、ガイド軸25が移動し切った状態で突起27の外側に空間42が存在しており、この空間をグリス溜まりとして利用できるのである。これにより、ガイド軸25のスムースな動きを確保しつつ、コツンという異音が発生することを防止できる。
【0047】
なお、詳細は省略するが、ガイド軸25が移動する部分は座受けシェル(座アウターシェル)12に設けたポケット部で外側から囲われており、ガイド軸25のためのグリスや座受金具8のためのグリスが滴下しても、これらは座受けシェル(座アウターシェル)12に設けたポケット部に受けられるようになっており、グリスが床に落ちることはないように配慮されている。なお、ブッシュ24の内面のうち突起27とは別の部位にグリス溜まり部を形成することも可能である。
【0048】
(4).その他
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば本願発明はロッキングに際して座が後退(及び/又は後傾)するシンクロタイプの椅子にも適用できるし、背もたれのみが後傾する椅子にも適用できる。
【0049】
また、制動手段としては突起には限らないのであり、例えばブッシュ(長穴)の端部の内面にエラストマーのような摩擦係数が大きい部材からなる抵抗付与部を設け、抵抗付与部の溝巾寸法をガイド軸の外径よりも僅かに小さくするといったことも可能である。ブッシュの前後内端面(或いは長穴の前後内端面)にゴム等の緩衝部を一体に設けることも可能である。制動部として突起を設ける場合、突起をブッシュの横幅巾方向(ガイド軸の軸線方向)に沿って複数条設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本願発明は椅子に具体化して有用性を発揮できる。従って産業上利用できる。
【符号の説明】
【0051】
2 ベース
3 座
4 背もたれ
7 脚支柱
8 座受金具
10 座板
12 座受けシェル
23 ベースに設けた長穴
24 長穴を有するブッシュ
25 ガイド軸
27 制動部の一例としての突起
28 ロッキング用ばね手段の一例としてのコイルばね
【技術分野】
【0001】
本願発明は、背もたれがばね手段(弾性手段)に抗して後傾動するロッキング椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
背もたれが後傾動するロッキング椅子には、背もたれと座との関係で見ると、ロッキング時に座は動かずに背もたれのみが後傾するノーマルタイプと、ロッキング時に座が一緒に動くシンクロタイプとがある。シンクロタイプは更に、ロッキング時に座が背もたれと一緒に後退動(及び後傾動)するタイプと、ロッキング時に座が前進動するタイプとに大別される。本願出願人は、ロッキング時に座が前進動するタイプの一例を特許文献1で開示している。
【0003】
背もたれの取付け構造は様々であるが、一般的には、脚に固定されたベースに背フレームを傾動自在に連結して、背フレームに背もたれを取付けていることが多い。座が動かないノーマルタイプの場合は座はベースに固定されている。他方、シンクロタイプのうちロッキング時に座が後傾するタイプでは、座をベースと背フレームとに連結して三角リンク構造にしていることが多い。これに対して特許文献1では、座はベースでスライド自在に支持している。
【0004】
いずれにしても、ロッキング椅子では背もたれの後傾範囲(座が前後動する場合は座の前後移動範囲も)を規制する手段が必要であり、そのための手段として、ベースに設けた長穴にガイド軸をスライド自在に挿通し、ガイド軸のストロークを長穴で規制することで背もたれの傾動範囲を規制していることが多い。この場合、ガイド軸の動きをばねで支持することより、ロッキングに対する抵抗を付与している。すなわち、ガイド軸は、背もたれの傾動ストロークの規制とばねの支持との2つの機能を有している。
【0005】
このような長穴とガイド軸とによる傾動規制手段は、ガイド軸は長穴に確実に保持されているため規制機能に優れているのみならず、ガイド軸に2つの機能を持たせ得るため構造の簡素化に貢献できる利点があるが、ロッキングに際して背もたれが後傾し切ったときや、背もたれがロッキング状態から戻り切ったときに、ガイド軸が長穴の端にコツンと当たって音が発生することがある。
【0006】
このような現象に関連して、本願出願人の出願に係る特許文献2には、長穴及びガイド軸とは別の部位に摩擦抵抗付与部材を配置して、背もたれの急激な動きを阻止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2008−220758号
【特許文献2】特開2000−333760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2は、いわば背もたれをじんわり傾動させることで停止時の衝撃を無くそうとするものであり、機能的には優れていると言えるが、専用の部材を追加して配置けねばならないため、コストアップは否めない。
【0009】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、長穴とガイド軸とによって背もたれ等の傾動範囲等を規制しているタイプの椅子において、ガイド軸の停止に伴って音が発生したり衝撃が作用したりすることを簡易な構造で無くすことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明に係る椅子は、座及び背もたれとこれらを支持するベースとが備えられており、前記座の前後スライドと前記背もたれの後傾動とのうち少なくともいずれか一方が許容されており、かつ、前記座が前後スライドする範囲又は前記背もたれが傾動する範囲若しくは両方が、前記ベース又は他の部材に設けた長穴の内部をガイド軸が相対動することによって規制されている、という基本構成になっている。
【0011】
そして、請求項1の発明では、上記基本構成において、前記長穴のうちその一端寄り部位又は他端寄り部位若しくは両端寄り部位に、前記ガイド軸の相対動に対して抵抗を付与する制動部が、前記ガイド軸が長穴の端まで相対動し切ることを阻害しない状態で設けられている。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1において、少なくとも前記背もたれの後傾動が許容されているロッキング椅子であり、前記背もたれの傾動範囲が前記長穴とガイド軸との組み合わせによって規制されている。更に請求項3の発明は、請求項1において、前記座は、その全部又は少なくとも略前半部が前記ベースに前後スライド自在に支持されており、前記座と背もたれとは、前記背もたれの後傾動に連動して前記座が前進動するように互いに連動している。
【発明の効果】
【0013】
本願発明は、長穴の内面に制動部を設けるだけの簡単な構造であるため、コストアップを防止又は著しく抑制しつつ、ロッキングや座の前後動に際してコツンという衝撃音が発生することを防止できる。また、ガイド軸を制動部で停止させるのではなく、ガイド軸は長穴の端まで動いてから止まるようになっているため、制動部に過大な負担が掛かることはなくて、制動部は高い耐久性を確保できると共に、ガイド軸の移動ストロークも一定する。
【0014】
さて、リンク式のシンクロタイプの椅子では、座の後退動及び後傾動がばね手段で支えられており、従って、非ロッキング状態で座が後退及び後傾しないようにばね手段はある程度の強さのものを使用せねばならない。これに対して請求項2の発明に係る椅子は、座をベースでスライド自在に支持されているため、ばね手段は背もたれの後傾動に抵抗を付与する強さがあれば足り、このため、弱いばねを使用できてコストダウンできる利点がある。
【0015】
他方、請求項3で特定した椅子は、弱いばねを使用した場合に座の前後スライド及びロッキングが軽快に行われること関連していると推測されるが、座が前進して停止するときと後退して停止するときとの両方においてコツンと異音が発生しやすくなる傾向が見られた。そして、請求項2の発明では、ガイド軸が前進又は後退して停止するにおいて、ガイド軸が長穴の制動部に当たることで勢いを削がれるため、ガイド軸が長穴の端に当たって音が発生することを的確に防止できる(衝撃も防止できる。)。従って、本願発明は請求項2で特定した椅子において特に有益であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】椅子の全体斜視図である。
【図2】非ロッキング状態(ニュートラル状態)の縦断側面図である。
【図3】ロッキング状態の縦断側面図である。
【図4】全部材を表示した分離斜視図である。
【図5】主要部材を表示した分離斜視図である。
【図6】要部の分離斜視図である。
【図7】(A)は要部の分離斜視図、(B)は要部の分離平面図である。
【図8】(A)は要部の分離斜視図、(B)はブッシュの斜視図である。
【図9】要部の斜視図である。
【図10】要部の側面図である。
【図11】実施形態の利点を示す要部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明で方向を示すため「前後」「手前」「後ろ」「左右」といった文言を使用するが、これらの文言はロッキング椅子(以下、単に椅子と称する)に着座した人の向き基準にしている。「正面視」は着座者と対向した方向から見た状態になる。
【0018】
(1).椅子の概要
まず、主として図1〜図5に基づいて概要を説明する。本実施形態の椅子は事務用のいわゆる回転椅子に適用しており、椅子は、主要要素として、脚装置1、ベース2、座3、背もたれ4、バックサポート5、肘掛け装置6を有している。
【0019】
脚装置1はガスシリンダより成る脚支柱7を有している。脚支柱7は、放射状に延びる複数本の枝足を有する脚本体の中心部に嵌着されている。例えば図6に示すように、ベース2は上向きに開口した略函状の形態になっていて脚支柱7の上端に固定されている。そして、ベース2に座受金具(中間金具)8が前後スライド自在に装着されている。
【0020】
肘掛け装置7はオプション部品であり、ベース2に着脱可能に取付けられている。そして、肘掛け装置7を取り外すとベース2には取付け穴が空く。そこで、取付け穴は着脱可能な樹脂カバー9で塞がれる(例えば図4〜6等参照)。
【0021】
図4に示すように、座3は、座板(座インナーシェル)10とその上面に張られた座クッション体11とを備えており、座クッション体11はクロス等の表皮材で覆われている。座板10の略前半部は座受けシェル(座アウターシェル)12の上面に取付けられている。座受けシェル12及び座板10はPP(ポリプロピレン)等の合成樹脂材を素材とした射出成形品である。
【0022】
座板10は、大雑把に言って、前部を構成する第1部分10aと後部を構成する第2部分10bとを有し、第1部分10aと第2部分10bとの間には座3の左右方向に長いスリット13の群が形成されている。スリット13は着座者の体圧が強く作用する部分を中心にして多数形成されている(図4,5参照)。 前後の部分10a,10bは数箇所のスリット13の箇所において連結片を介して連結されている。
【0023】
スリット13の群を設けている部分は一種のヒンジ部であり、座板10はスリット13の群の箇所で屈曲する。従って、座3は、前側に位置した第1部分3aと後ろに位置した第2部分3bとが連結された構成になっている。なお、座受けシェル12は座3の一部とみなすことも可能である。或いは、座3と座受けシェル12とで座部が構成されていると言うことも可能である。
【0024】
例えば図4に示すように、背もたれ4は、主として、バックカバー14と、バックカバー14の前面に取付けられた背板15と、背板15の前面に取付けられた背クッション体16とで構成されている。背クッション体16にはクロス等の表皮材が張られている。バックカバー14を背アウターシェルと言い換え、背板15を背インナーシェルと言い換えることも可能である。バックカバー14及び背板15はPP等の合成樹脂材を素材とした射出成形品である。
【0025】
バックカバー14は、背板15を支持する本体部14aと、この本体部14aの下端から前向き突出した前向き部14bとを有している。従って、バックカバー14は側面視で略L字状の外観を呈しており、バックカバー14における前向き部14bは座板10の第2部分10bに連結されている。また、バックカバー14はバックサポート5に下降動自在及び傾動自在に連結されている。
【0026】
着座した人が背もたれ4に凭れ掛かると、背もたれ4は上端が後退して下端が前進するように後傾動しつつ下降する一方、座3は全体として前進しつつ第2部分3bは第1部分3aに対して後傾する。以下、各部位の詳細を説明する。
【0027】
(2).バックサポート・ベース部
まず、バックサポート5やベース2のような支持機構部を説明する。本実施形態のバックサポート5は左右一対のパイプ材で側面視L字状に形成されており、このバック支柱5に裏側から支柱カバー18が装着されている。左右のバックサポート5は補強材5aで連結されている。なお、バックサポート5は樹脂材やアルミ成形品より成る一体成形品とすることも可能である。
【0028】
例えば図4,6に示すように、バック支柱17の基部は、ベース2の内面に固定されたベース基板19に溶接などにて固定され、更に、補強金具20で押さえ保持している。ベース2は既述のとおり上向きに開口した箱形の外観を呈しており、後端は開放されている。そして、後部内面に既述のベース基板19が溶接によって固着されている。例えば図2,3に示すように、ベース2とベース基板19には上下に開口した受け筒21が固着されており、この受け筒21に脚支柱7の上端を下方から嵌着している。
【0029】
例えば図8に明示するように、ベース2の左右両側板2aには前後長手の長穴23が形成されており、この長穴23に樹脂製のブッシュ24を装着し、左右両ブッシュ24に左右長手のガイド軸25が前後スライド自在に挿通されている。ブッシュ24は長穴23に外側から嵌め込んでおり、ベース3の外面に当たるフランジ24aを有している。ガイド軸25は、座受金具8の後部に設けた下向きの軸受け片26に挿通している。
【0030】
そして、図8(B)及び図10に明示するように、ブッシュ24の前後両端部の上内面と下内面とに、請求項に記載した制動部の一例として突起27を相対向する状態で一体に形成している。突起27の左右横幅寸法W2はブッシュ24の左右横幅寸法W1よりも小さい寸法(約半分)になっており、かつ、ブッシュ24の端面24b、24cに近づくに従って互いの間隔が小さくなるように側面視で傾斜している。
【0031】
また、ブッシュ24の溝の基本的な寸法はガイド軸25の外径よりも僅かに小さいが、上下突起27の間隔は、前後方向の大部分の範囲においてガイド軸25の外径よりも大径に設定しており、このため、ガイド軸25は突起27に当たることで摩擦抵抗が発生し、これによってガイド軸25は前端部と後端部とで動きが抑制される。この場合、ブッシュ24はベース2の長穴23に嵌まっているので、突起27はガイド軸25の押圧作用で弾性変形するが、ガイド軸25が突起27を弾性変形させながらブッシュ24の前部内端面24bと後部内面24cとに到達するように設定している。
【0032】
詳細は省略するが、座受金具8の前部は座板10の下面に設けたポケット部に後ろから嵌まっており、その状態で、座板10は座受金具8の後部に左右2本のねじで締結されている。
【0033】
例えば図8に明示するように、ベース2の内部には、ロッキング用弾性支持手段の一例として、前後方向に伸縮するロッキンばね用のコイルばね28を配置している。他方、座受金具8の後端部には、下向きの後部ばね受け支持片29が形成されている。コイルばね28は後部ばね受け30を介して後部ばね受け支持片29で後ろから支持されている。また、コイルばね28の前端は前部ばね受け31を介してベース2の前壁で支持されている。従って、座受金具8はコイルばね28に抗して前進動する。
【0034】
例えば図8に示すように、ベース2における左右両側板2aの上端には左右外向きの水平片2bが一体に形成されており、この水平片2bに樹脂製のスライド補助体33が装着されている。スライド補助体33は水平片2bを抱持するように断面略溝形の形態になっている。また、座受金具8の左右両側部には、スライド補助体33を外側から包み込む溝形の抱持部34が形成されている。この抱持部34がスライド補助体33に対してスライドすることにより、座受金具8はベース2に対してスムースに前後摺動する。
【0035】
詳細は省略するが、座板10の第1部分10aは係合爪同士より成るキャッチ手段で座受けシェル12に連結されており、また、座板10の第2部分10aも係合爪と係合穴との組み合わせによるキャッチ手段でバックカバー14の前向き部に取付けられている。
【0036】
(3).背もたれの構造
例えば図5から理解できるように、バックカバー14の左右中間部には下向きに開口した長溝35が形成されており、このためバックカバー14の前向き部14bは左右に分断されている。そして、バックカバー14における左右前向き部14bの前端には軸受け部36が形成されており、この左右軸受け部36とベース2における左右両側板2aの後端とがガイド軸25で連結されている。
【0037】
例えば図4から理解できるように、長溝35は、バックカバー14における本体部14aの上下中途高さ位置まで延びている。但し、前向き部14bの前後方向の中途部及び本体部14aの上下方向中途部には、長溝35を跨ぐ複数の連結部37が一体に形成されている。
【0038】
例えば図5に示すように、バック支柱17の上端部には補強ブラケット38が固定されており、この補強ブラケット38に、ガイドピン39が固定されている。ガイドピン39の左右両端部は補強ブラケット38の左右外側に露出している。
【0039】
他方、バックカバー14における長溝35の左右内側面の上部には上下長手のガイド溝40が向かい合う状態に形成されている。左右のガイド溝40には溝形の樹脂製ガイド部材41が嵌まっており、このガイド部材41の溝にガイドピン39の端部が上下スライド自在に嵌まっている。ガイド部材41は側面視において緩い曲率で前向き凹状に湾曲している。ブッシュ24の内端面24b,24cの側面視形状は、ガイド軸25の曲率とおなじでもよいし、小さくてもよいし大きくてもよい。また、平坦面であってもよい。
【0040】
(3).まとめ
以上の構成において、ロッキング状態では、姿勢が一定のバックサポート5に対して背もたれ4が沈み込みながら後傾する。これと同時に座3は全体として前向きに移動しつつ、第2部分3bは第1部分3aに対して後傾する。ロッキング状態から身体を起こすと、背もたれ4及び座3はコイルばね28によって元の状態に戻る。
【0041】
そして、背もたれ4の傾動範囲と座3の前後動範囲とはガイド軸25がブッシュ24の内部を移動するストロークによって規制されるが、ガイド軸25は前進し切るやや少し前の位置及び後退し切るやや少し前の位置において突起27に当たることにより、移動に対する摩擦抵抗が付与され、速度を減殺した状態でブッシュ24の前部内面24b又は後部内面24cに当たる。
【0042】
このため、ガイド軸25がブッシュ24にコツンと当たって背もたれ4の動きが急停止することによって使用者に違和感を与えることを防止できる。また、既述のとおりガイド軸25はブッシュ24の前部内面24b又は後部内面24cに当たるため、突起27に過大な負荷が作用したり、ガイド軸25が上下突起27の間に挟まってしまって動かなくなるような不都合は生じない。
【0043】
さて、ベース2の長穴23はバーリング加工によって内向きフランジが形成されており、このためブッシュ24は広い面積で支持されている。そして、バーリング加工によって内向きフランジを形成する場合、内向きフランジの付け根箇所には必ず丸みが存在している。換言すると、長穴23の内周面のうちベース2の外側面に近い部分は正断面視において丸みを帯びている。従って、ブッシュ24の外面を平坦面と成していると、ブッシュ24の外面と長穴23の内面との間には、ベース2の外面に寄った部位にて空間が空く。
【0044】
そして、ガイド軸25が突起27に当たると突起27は上下外側に押圧されて逃げようとするため、仮に突起27をブッシュ27の内面の横幅一杯に形成すると、ガイド軸25が突起27に当たるとブッシュ24のうち外端部が上下外側に逃げて曲がり変形する現象が発生し、すると、ブッシュ24には上下方向に曲がり変形することに伴ってベース2の外側に押しやろうとする水平分力が作用することになり、このため、ブッシュ24が長穴23から抜け勝手になってしまう。
【0045】
これに対して本実施形態では、突起27は、ブッシュ24の内面のうちベース2における内向きフランジの平坦面と重なった部分のみに位置するように、ブッシュ24の左右横幅W1よりも小さい巾寸法W2に設定しているため、ガイド軸27が当たることがベース2から抜け出る方向に移動することはない。この点、本実施形態の利点の一つである。
【0046】
更に、突起27の横幅寸法W2をブッシュ24の横幅寸法W1よりも小さく設定していることは、潤滑用グリスの保持部を確保するという機能も有している。つまり、ガイド軸25は突起27を押し潰すような状態に弾性変形させてブッシュ24の端24a,24bに当たるが、本実施形態では突起27の横幅寸法W2がブッシュ24の横幅寸法W1よりも小さいため(突起27が内側に寄っているため)、ガイド軸25が移動し切った状態で突起27の外側に空間42が存在しており、この空間をグリス溜まりとして利用できるのである。これにより、ガイド軸25のスムースな動きを確保しつつ、コツンという異音が発生することを防止できる。
【0047】
なお、詳細は省略するが、ガイド軸25が移動する部分は座受けシェル(座アウターシェル)12に設けたポケット部で外側から囲われており、ガイド軸25のためのグリスや座受金具8のためのグリスが滴下しても、これらは座受けシェル(座アウターシェル)12に設けたポケット部に受けられるようになっており、グリスが床に落ちることはないように配慮されている。なお、ブッシュ24の内面のうち突起27とは別の部位にグリス溜まり部を形成することも可能である。
【0048】
(4).その他
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば本願発明はロッキングに際して座が後退(及び/又は後傾)するシンクロタイプの椅子にも適用できるし、背もたれのみが後傾する椅子にも適用できる。
【0049】
また、制動手段としては突起には限らないのであり、例えばブッシュ(長穴)の端部の内面にエラストマーのような摩擦係数が大きい部材からなる抵抗付与部を設け、抵抗付与部の溝巾寸法をガイド軸の外径よりも僅かに小さくするといったことも可能である。ブッシュの前後内端面(或いは長穴の前後内端面)にゴム等の緩衝部を一体に設けることも可能である。制動部として突起を設ける場合、突起をブッシュの横幅巾方向(ガイド軸の軸線方向)に沿って複数条設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本願発明は椅子に具体化して有用性を発揮できる。従って産業上利用できる。
【符号の説明】
【0051】
2 ベース
3 座
4 背もたれ
7 脚支柱
8 座受金具
10 座板
12 座受けシェル
23 ベースに設けた長穴
24 長穴を有するブッシュ
25 ガイド軸
27 制動部の一例としての突起
28 ロッキング用ばね手段の一例としてのコイルばね
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座及び背もたれとこれらを支持するベースとが備えられており、前記座の前後スライドと前記背もたれの後傾動とのうち少なくともいずれか一方が許容されており、かつ、前記座が前後スライドする範囲又は前記背もたれが傾動する範囲若しくは両方が、前記ベース又は他の部材に設けた長穴の内部をガイド軸が相対動することによって規制されている、という構成であって、
前記長穴のうちその一端寄り部位又は他端寄り部位若しくは両端寄り部位に、前記ガイド軸の相対動に対して抵抗を付与する制動部が、前記ガイド軸が長穴の端まで相対動し切ることを阻害しない状態で設けられている、
椅子。
【請求項2】
少なくとも前記背もたれの後傾動が許容されているロッキング椅子であり、前記背もたれの傾動範囲が前記長穴とガイド軸との組み合わせによって規制されている、
請求項1に記載した椅子。
【請求項3】
前記座は、その全部又は少なくとも略前半部が前記ベースに前後スライド自在に支持されており、前記座と背もたれとは、前記背もたれの後傾動に連動して前記座が前進動するように互いに連動している、
請求項2に記載した椅子。
【請求項1】
座及び背もたれとこれらを支持するベースとが備えられており、前記座の前後スライドと前記背もたれの後傾動とのうち少なくともいずれか一方が許容されており、かつ、前記座が前後スライドする範囲又は前記背もたれが傾動する範囲若しくは両方が、前記ベース又は他の部材に設けた長穴の内部をガイド軸が相対動することによって規制されている、という構成であって、
前記長穴のうちその一端寄り部位又は他端寄り部位若しくは両端寄り部位に、前記ガイド軸の相対動に対して抵抗を付与する制動部が、前記ガイド軸が長穴の端まで相対動し切ることを阻害しない状態で設けられている、
椅子。
【請求項2】
少なくとも前記背もたれの後傾動が許容されているロッキング椅子であり、前記背もたれの傾動範囲が前記長穴とガイド軸との組み合わせによって規制されている、
請求項1に記載した椅子。
【請求項3】
前記座は、その全部又は少なくとも略前半部が前記ベースに前後スライド自在に支持されており、前記座と背もたれとは、前記背もたれの後傾動に連動して前記座が前進動するように互いに連動している、
請求項2に記載した椅子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−161123(P2011−161123A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29755(P2010−29755)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]