説明

椅子

【課題】本発明は、床面に予め固定して配置された椅子に関し、従来の複雑なリンク機構を用いることなく、簡易な構成で座を可動自在に構成し、着座者が座りやすく、また、着座後も足元の空間を大きくとることが可能な椅子を提供することを課題とする。
【解決手段】床面に固定されたベースに起立される支柱の上端に、前後方向に延出された支杆を架設し、前記支杆に摺動自在に設けられ、前後方向に伸縮するガイド部材の前端と、前記支柱に上下方向に伸縮自在に設けられ、上向きに付勢する付勢部材の上端とに、座の下面の前後部を、それぞれ左右方向の枢軸をもって回動自在に軸支することで、前記座を、略水平な使用状態から前下方に傾倒した不使用状態に、傾倒可能としたことを特徴とする椅子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床面に固定されるベースと、該ベースから起立する支柱と、該支柱上方の座とを有し、座の傾倒により使用状態と不使用状態とに可変する椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、講義室等の床面に予め固定して配置された椅子や机が知られている。このような、机と椅子は、主に、多数の人が着座する学校の講義室や国際会議場などで用いられており、限られた空間で、最大限の座席数を確保することができるといった利点がある。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された椅子は、後方の机にリンク機構を介して、座を取り付けた構成であるが、この場合、後方の机を背凭れとして用いるため、椅子の使用時には、前後の机間に通路が確保されず、机の端に着座者がいる場合、着座者の後を通り机の中程の席に行くことができないといった問題があった。
これに対して、特許文献2および特許文献3に開示された椅子は、床面に固定されたベース上に椅子を起立させた構成であり、机に対して近接する位置まで傾倒する収納状態と、着座するために机に対して離間する着座状態とに可変するため、椅子の収納時のみならず使用時においても、着座者が腰を浮かせながら椅子を前傾させることで、椅子の後方に通路を確保することが可能である。
【0004】
しかしながら、これらの椅子は、ベースから座にかけて起立させた主リンクや前脚といった複雑なリンク機構が張り巡らされるために、リンク機構の可動部分のメンテナンスを頻繁に行う必要があり、また、着座者の足が、可動するリンク機構に接触するなどしてリンク機構が邪魔であり、さらには、着座者の足元の空間を狭めてしまうため、不自由な着座姿勢を強いる原因ともなった。
【0005】
【特許文献1】特開平4−367622号公報
【特許文献2】特許第2927712号公報
【特許文献3】特許第3803642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記床面に予め固定して配置された椅子に関し、従来の複雑なリンク機構を用いることなく、簡易な構成で座を可動自在に構成し、着座者が座りやすく、また、着座後も足元の空間を大きくとることが可能な椅子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明の請求項1に記載の発明は、床面に固定されたベースに起立される支柱の上端に、前後方向に延出された支杆を架設し、前記支杆に摺動自在に設けられ、前後方向に伸縮するガイド部材の前端と、前記支柱に上下方向に伸縮自在に設けられ、上向きに付勢する付勢部材の上端とに、座の下面の前後部を、それぞれ左右方向の枢軸をもって回動自在に軸支することで、前記座を、略水平な使用状態から前下方に傾倒した不使用状態に、傾倒可能としたことを特徴とする椅子である。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の椅子において、前記支柱は、前記ベースに左右方向の枢軸をもって回動自在に軸支されることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の椅子において、前記支杆の後部より背杆を起立させ、該背杆に背凭れを取り付けたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3に記載の椅子において、前記支杆は、支柱上端に固着した左右一対の管材からなり、該管材に前記左右一対のガイド部材を摺動自在に挿通し、該左右一対のガイド部材の前端同士を連結する軸に、前記座の下面の前部を軸支することを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4に記載の椅子において、座の下面に固着した座受け板の前後端にそれぞれ形成された下向き支持片に、前記ガイド部材の前端と、前記付勢部材の上端とを、軸支することを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5に記載の椅子において、前記支柱上端より伸縮する前記付勢部材の上部を、支柱内を摺動するカバー部材により覆ったことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1に記載の発明によれば、従来の複雑なリンク機構を用いることなく、簡単な構成で、座を略水平な使用状態から、座が前方に傾倒した不使用状態に移動させることができる。
特に、ベースから座にかけて複雑なリンク機構を必要とせず、リンク機構の頻繁なメンテナンスを要さず、座の下方には支柱が起立されているだけで、座に着座した際の足元の邪魔になるようなことはないから、足元の空間が狭められることがなく、足回りを広くした自由な姿勢で着座することができる。
【0014】
また、請求項2に記載の発明によれば、支柱の傾倒により、椅子の収納状態と使用状態とに容易に変形させることができる。これにより、椅子の未使用時には、支柱を前傾させることで、椅子を机に近接させ椅子の後方に大きな通路を確保することが可能であり、他方、椅子の使用時には、支柱を後傾させることにより、椅子を引き出した状態で使用することが可能である。
【0015】
また、請求項3に記載の発明によれば、支杆の後部から背杆を起立させる簡単な構成により、支杆の後部に背凭れを取り付けることが可能である。
【0016】
また、請求項4に記載の発明によれば、左右一対のガイド部材の前端間に、座を回動自在に取り付けるための軸を形成することが可能であり、略コ字状のガイド部に座の円滑な摺動機構および回動機構を一体的に形成することが可能である。
【0017】
また、請求項5に記載の発明によれば、座の下面に、前後端にそれぞれ下向き支持片を有する座受け板を形成する簡単な構成により、座の前方および後方をそれぞれ回動自在に軸支することが可能である。
【0018】
また、請求項6に記載の発明によれば、支柱内部の付勢部材を露出することなく、意匠性の高い椅子を提供することが可能である。また、支柱内部に異物が入り込むことを防ぎ、付勢部材の可動部に異物が付着することを防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の椅子を示す図である。(a)椅子の収納状態を示す図である。(b)椅子の引き出し状態を示す図である。(c)椅子の着座状態を示す図である。
【図2】椅子の分解図である。
【図3】座の不使用状態を示す説明図である。
【図4】座の動きを示す説明図である。
【図5】座の使用状態を示す説明図である。
【図6】椅子の収納状態を示す一部切断図である。
【図7】椅子の収納状態を示す断面図である。
【図8】椅子の引き出し状態を示す一部切断図である。
【図9】椅子の引き出し状態を示す断面図である。
【図10】椅子の着座状態を示す一部切断図である。
【図11】椅子の着座状態を示す断面図である。
【図12】座の動きを示す断面図である。
【図13】座の動きを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の椅子1の一例としては、図1(a)(b)(c)に示すように、床面に固定されたベース91に対して起立する角柱状の支柱51が、ベース91前方の軸孔93へと枢軸99を介して前後傾倒自在に軸支され、支柱51上方に、略水平方向に形成された支杆54の後方には、略垂直方向に背杆53が形成され、該背杆53の上方に背凭れ21が形成された椅子1であって、前記支柱51上方に位置する座31の後方部分が上下昇降自在に形成されるとともに、座31の前方部分が前後摺動自在に形成されることで、座31を略水平な使用状態から、座31が前方に傾倒した不使用状態に移動させることができるとともに、支柱51の前後傾倒により、(a)椅子1の収納状態1aから、(b)椅子1の引き出し状態1bを経て、(c)座31に着座する着座状態1cへと、変形することが可能な椅子1である。
特に、本発明の椅子は、前記座31の可動機構が簡易な構成であり、従来の支柱の傾倒に追従させて座を可動させるための複雑なリンク機構を用いない利点がある。
【0021】
以下、本発明の椅子1の構成について詳述する。
本発明の椅子1は、図2に示すように、座31、座受け板32、コ字状のガイド部40、からなる座31の可動に係る部材(図中、左方)と、支柱51、支杆54、背杆53が一体に形成されたボディ50(図中、中央)と、ベース91、傾倒部材81、付勢部材70(ガススプリング70)、カバー部材61、からなる、傾倒および昇降部材(図中、右方)とに大別される。
【0022】
まず、図の左方に配置された各部材とそれぞれの関係について説明する。
使用者が着座するための略平板状の座31は、該座31の直下に位置する座受け板32へと、前記座31の中央部分が当接する状態で固着される。
前記座受け板32は、その上面に座31を取り付けるとともに、座受け板32の前後には、それぞれ下方へと突出する支持片36,37が設けられ、該支持片36,37には左右方向に貫通する軸孔33、34がそれぞれ設けられている。
【0023】
前記座受け板32の支持片36に設けられた前記軸孔33には、略コ字状の筒体からなるガイド部40の、横方向の円筒部材(枢軸41)が軸支され、該枢軸41へと前記座受け板32の前方32aが回動自在に取り付けられる。
また、枢軸41の左右端から水平方向の円筒部材(ガイド部材42)が、それぞれ保持部43を介して取り付けられ、後述する、支杆54の内部55(空洞55)へと前後摺動自在に挿通される。
【0024】
次に、図の中央に配置された各部材とそれぞれの関係について説明する。
まず、椅子の躯体となるボディ50は、略垂直に起立する角柱状の支柱51と、該支柱51の上方に一体に配設された台形状の取付部材56と、該取付部材56の左右から水平方向に伸びる左右1対の支杆54と、該支杆54の後方から緩やかに上方に伸びる背杆53と、からなり、該背杆53の上方に背凭れ21が取り付けられる。
【0025】
特に、前記支杆54の内部には、該支杆54の前方端から後方にかけて空洞55が形成されており、該支杆の内部55に、前記ガイド部40のガイド部材42が挿通されている。これにより、コ字状のガイド部40が前記支杆54へと前後摺動自在に形成されている。
【0026】
また、前記支柱51の内部には、支柱51を上下方向に貫通する空洞59が形成されており、後述する、ガススプリング70等の付勢部材70を挿通する構成である。
【0027】
次に、図の右方に配置された各部材とそれぞれの関係について説明する。
図中下方に配置されたベース部材91(ベース91)は、平板状の固定板96と、該固定板96より上方に立設するカバー部95とからなる。
前記固定板96には、四隅に取付孔97をそれぞれ有しており、この取付孔97へとアンカー94等を用いて、ベース部材91を床面へと固定する構成である。
【0028】
また、ベース部材91の直上には、靴形状を有する傾倒部材81が設けられ、該傾倒部材81の前方に形成された横方向の軸孔82を、ベース部材91の前記カバー部95前方に形成された横方向の軸孔93へと、枢軸99を用いて軸支する。
【0029】
傾倒部材81の内部には、上下方向に空洞84を有しており、この空洞84へとガススプリング70を挿通し、ガススプリング下端に設けられた軸支部74を、ベース部材91の内部に形成された軸受け92へと、枢軸98を用いて軸支する。
【0030】
前記ガススプリング70は、上下方向に長い筒部材(筒本体72)と、該筒本体72の内部から外部にかけて、下方へと突出するロッド73からなり、前記筒本体72の内部には圧縮ガスおよびオイル等が密封されている。
そして、筒本体72の内部を、図示しないオリフィスを有するピストン75で二室に区切ることにより、ピストン75から延設された前記ロッド73が常に伸びる方向へと付勢力を生じている。
【0031】
よって、前記ロッド73先端の軸支部74をベース91の軸受け92に軸支することにより、ガススプリング70が前後方向に回動自在に軸支されるとともに、前記筒本体72が常に上方へと伸びる付勢力を生じている。
【0032】
他方、ガススプリング70上方の筒本体72および軸支部71が、内部に空洞を有する角柱状のカバー部材61に収納される。これにより、支柱内部の付勢部材70を露出することなく、また、支柱51内部に異物が入り込むことを防せぎ、付勢部材70の可動部に異物等が付着することを防止することが可能である。
【0033】
そして、この状態(ガススプリング70がカバー部材61で覆われた状態)で、支柱51の内部へと挿通された後、カバー部材61およびガススプリング70上方の軸支部72が、前記支柱51の上方に突出した状態で、前記座受け板32の後方32bに形成された支持片37の軸孔34へと、枢軸35を用いて一体に軸支される。
【0034】
すなわち、ガススプリング70と、カバー部材61と、座受け板32とが回動自在に軸支されており、特に、ガススプリング70の上方への付勢力により、座受け板32の後方部分32bが、常に上方へと押し上げられる構成である。
【0035】
また、前記カバー部材61の下端に形成された外方へと突出するストッパ62が、支柱51の内部で規制されており、カバー部材61が上方へと飛び出して脱落してしまうことを防止している。
同様に、前記ガイド部材42の一端に形成された外方へと突出するストッパ45が、支杆54の内部55に形成された図示しないストッパ58で規制されており、ガイド部材42が外方へと飛び出して脱落してしまうことを防止している。
【0036】
次に、本発明の椅子における、座31の動作について説明する。
図3に示すように、ガススプリング70のロッド73に設けられた軸支部74が、図示しないベース内部の軸受け92へと、枢軸98を用いて軸支されており、ベース91に対して回動自在(傾倒自在)、かつガススプリング70上方の筒本体72が上方へと付勢力を生じている。
他方、ガススプリング70上方の筒本体72に設けられた軸支部71は、カバー部材61に収納された状態で、座受け板32の後方32bの軸孔34に枢軸35で軸支されており、座受け板32の後方32bを、回動自在かつ常に上方へと押し上げている。
【0037】
このとき、座受け板32の前方32aが、ガイド部40の枢軸41へと回動自在に軸支されており、座受け板32の枢軸41を支点に座受け板32が上方へと回動した状態、かつ座受け板32のガイド部材42が支杆54の内部後方へと摺動した状態となり、結果、座31および座受け板32が、略起立した状態を保持している。
【0038】
このように、左右一対の管材(支杆54)へと、左右一対のガイド部材42を摺動自在に取り付けることで、ガイド部材42の前端間に座31を回動自在に取り付けるための軸41を形成することが可能であり、略コ字状のガイド部40に座3の摺動機構および回動機構を一体に形成することが可能である。
【0039】
また、座31の下面に、前後端にそれぞれ下向き支持片36,37を有する座受け板32を形成する簡単な構成により、座31の前方および後方をそれぞれ回動自在に軸支することが可能である。
【0040】
次に、前記座31および座受け板32が起立した状態から、座31の後方を押し下げると、図4に示すように、ガススプリング70の筒本体72が押し下げられて縮むとともに、座受け板32の後方32bが下降することとなる。
これに伴い、座受け板32の前方32aが、枢軸41を支点に回動するとともに、座受け板32を前方へと移動させる力が生じるため、座受け板32のガイド部材42が支杆54の内部55を前方へと摺動する。
【0041】
さらに、着座者の着座に伴い、図5に示すように、座31が下降して、ガススプリングの筒本体72が収縮するとともに、ガイド部材42の後端に形成されたストッパ45が、支杆54の内部55前方に形成されたストッパ58に当接することにより、座受け板32の摺動が規制され、座31および座受け板32が略水平の状態となる。
【0042】
このように、前記座31の動作は、座31の後方が下降する動作に追従して、座31の前方が前進することで、座31が略水平の状態へと可動変形(可変)する構成である。
他方、着座状態から起立したときは、座31の後方が上昇する動作に追従して、座31の前方が後進することで、座31が略垂直の状態へと戻ることはいうまでもない。
【0043】
次に、支柱51の傾倒および座31の傾倒による、椅子の収納状態1aから、引き出し状態1bを経て、着座状態1cに至る一連の動作について説明する。
【0044】
まず、椅子の収納状態1aについて説明する。
ここでいう椅子の収納状態1aとは、図6に示すように、座31が略垂直に起立した不使用状態かつ支柱51がベース91に対して前傾した状態をいう。この状態(収納状態)では、椅子全体が、椅子の前方に位置する机面の下方スペースへと入り込むため、椅子の後方に、人が通れる通路が確保される構成である。
【0045】
一般に、複数の机が前後方向に連続して配置される講義室などでは、前後の机間距離を最小にして、限られた空間内で最大の人数を収容する必要がある。しかしながら、前後方向に複数の机を配置すると、必然的に前後の机間距離が小さくなるため、椅子と後方の机との間に、人が通るスペース(通路)を確保することが困難となる。
よって、未使用の椅子を前傾させることで、未使用の椅子を机に近接させて収納し、椅子の後方に大きな通路を確保することが可能である。そして、椅子の使用者は、その都度、未使用の椅子(収納状態の椅子)を引き出して着座することが効率的である。
【0046】
すなわち、本発明の椅子における収納状態1aは、図6および図7に示すように、ベース91に軸支されたガススプリング70が上方に伸びた状態であり、ガススプリング70が座受け板32の後方32bを持ち上げて座31を略垂直に保持するとともに、ベース91内部の前記傾倒部材81が、ガススプリングのロッド73の軸支部74より前方において軸支99されるため、前記ガススプリング70の伸長作用により前記傾倒部材81が前方へと軸回転して、結果、椅子全体が前傾姿勢を保持する構成である。
【0047】
この場合、椅子の座31が机面15の下方に入り込み、椅子の背面21が、ベース91の後端位置より前方に位置するため、椅子の後方に大きな空間(通路)が形成される構成である。
【0048】
また、ガススプリングの筒本体72を覆うカバー部材61の下端に形成されたストッパ62が、支柱51内部のストッパ(内方突出部分)に当接することで、カバー部材61が支柱51から抜けてしまうことを防止することが可能であり、さらには、ガススプリング70の伸長を規制することが可能である。
【0049】
次に、椅子の引き出し状態1bについて説明する。ここでいう椅子の引き出し状態1bとは、図8に示すように、座31が略垂直に起立した不使用状態かつ支柱51がベース91に対して後傾した状態をいう。
着座者は、前記収納状態1aにおける前傾した椅子の背凭れ21を持ち、後方へと引くことで、図8および図9に示すように、ベース内部の傾倒部材81が、枢軸99を軸に後方へと回転(傾倒)して、支柱51を介し椅子全体が後傾する。このとき、ガススプリング70が僅かに縮むとともに、傾倒部材81の下面がベース91の下面に当接して、椅子1の後傾が規制される。
【0050】
このとき、座31は支柱51に対して略垂直に起立した状態であるが、椅子の後傾に伴い支柱51が後傾するため、座31の起立角度が緩やかになり側面視で約45度の角度に設定される。この状態で着座者は、座31の前方に入り込み、臀部を座31に当接させた状態で座り込むことにより、座31の後方31bが押し下げられるとともに、座31の前方31aが前進して、図10に示すように、座31が略水平の使用状態となる。
【0051】
また、椅子の引き出し状態1bでは、依然ガススプリング70が上方へと付勢力を働かせており、ガススプリングのカバー部材61のストッパ62が、支柱51内部で規制されることで、支柱51の傾倒部材81が前方の軸99を支点に回動する力を有している。このため、引き出し状態1bで椅子から手を離すと、再び、椅子が前傾して収納状態1aへと戻る構成である。
【0052】
次に、椅子の着座状態1cについて説明する。
前記椅子の引き出し状態で、着座者は、椅子の前方に起立し、座へと着座することで、図10および図11に示すように、座が下降してガススプリング70が最も縮み、この状態が座31の水平状態すなわち着座状態となる。
座31の後方31bの下降に伴い、ガススプリング70が収縮するとともに、支杆54内部のガイド部材42が前進して座31が水平状態となり、これにより、着座者は、机面15との最適な距離をもって着座することが可能である。
なお、着座者が起立して席を離れる際には、ガススプリング70の上方への付勢力により、自動的に座31が略垂直に持ち上がり、支柱51が前方へと傾倒する収納状態1aへと移行することはいうまでもない。
【0053】
このように、本発明の椅子は、椅子の未使用時には、支柱51が前傾して椅子が机に近接し、椅子の後方に大きな通路を確保することが可能であり、他方、椅子の使用時には、支柱51を後傾させ、着座することことが可能である。
特に、従来の複雑なリンク機構を用いることなく、簡単な構成で、座31を可動自在に構成し、着座者が座りやすく、また、着座後も足元の空間を大きくとることが可能である。さらには、ベース91から座31にかけて1本の支柱で済むため、シンプルな構成からなる意匠性の高い椅子1を提供することが可能である。
【0054】
さらに、本発明の椅子1は、着座状態1cにおいて、座31を前方に水平移動させることで、椅子1の後方に容易に通路を形成することが可能である。
例えば、着座している椅子1の後方には後の机が位置しており、着座者の後方を人が通過しようとする場合、椅子と机との間に通路を確保する必要がある。
この場合、着座者が一度起立して椅子1を収納状態1aに戻さないと、通路を確保することが困難であるが、本発明の椅子1は、着座者が座った状態で僅かに前方へとかがむことにより、支柱51が着座者の動きに追従して前方に傾倒するため、背凭れ21が大きく傾倒し、椅子1の後方に大きな通路を形成することが可能である。
【0055】
すなわち、図12に示すように、ガススプリング70の作用により、座31を押し上げる付勢力とともに支柱51を前方へと傾倒する付勢力が作用している。よって、着座者が前方にかがむことで支柱51が前傾して、座31の前方が前傾するとともに、座31の後方が僅かに下降するため、結果、座31が水平方向にスライドすることとなる。
【0056】
これにより、背凭れ21が大きく前傾するため、背凭れ21と後方の机との間に大きな通路を確保することが可能である。特に、座31の高さをほぼ変えることなく、座を水平移動させることが可能であり、自然な着座姿勢を維持した状態で、椅子全体を前方へと移動させて、後方に通路を確保することが可能である。
【0057】
また、本発明の椅子1は、椅子を引き出した後、机と椅子との間に入り込む際に、椅子の前方に大きな空間を形成することが可能な構成であってもよく、例えば、図13に示すように、椅子1を引き出した状態で、机と椅子との間に入り込んだ後、前方に突出している座31の先端部分31aを、着座者のふくらはぎで後方へと押すことにより、座31の先端部分31aをさらに後方へと押し込み、座板と机との間に空間を形成する構成であってもよい。
【0058】
すなわち、通常の引き出し状態1bにおける、前記ガイド部材42の支杆54への挿入量に、余裕を持たせることで、ガイド部材42がさらに後方へと摺動可能に構成して、椅子の引き出し状態における、座31の先端部分31aをさらに後方へと移動させることが可能である。このとき、ガススプリング70が上方へとさらに伸びることで、座31の後端部分31bが押し上げられるとともに前方に回動し、座31をより垂直状態とすることが可能である。
【0059】
これにより、着座者が机と椅子との間に起立することが可能であり、再び着座する際にも、座31の先端部分31aから脚を離せば、座31が自然に元の状態へと戻るとともに斜め上方を向くため、着座者はスムースに着座を行うことが可能である。
【0060】
以上のように、本発明の椅子は、従来の複雑なリンク機構を用いることなく、簡単な構成で、座31を略水平な使用状態から、座31が前方に傾倒した不使用状態に移動させることができる。特に、ベース91から座31にかけて複雑なリンク機構を必要とせず、リンク機構の頻繁なメンテナンスを要さず、座31の下方には支柱51が起立されているだけで、座31に着座した際の足元の邪魔になるようなことはないから、足元の空間が狭められることがなく、足回りを広くした自由な姿勢で着座することができる。
【0061】
何れにせよ、本発明の椅子1は、前記座31の前方31aを前後摺動かつ回動自在に構成し、かつ前記座31の後方31bを上下昇降かつ回動自在に構成することにより、前記座31が略垂直状態となる収納状態1aと、前記座31が略水平状態となる着座状態と、に可変する構成であれば、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 椅子
21 背凭れ
31 座
31a 座の前方
31b 座の後方
32 座受け板
32a 座受け板の前方
32b 座受け板の後方
33 軸孔
34 軸孔
35 枢軸
36 支持片
37 支持片
40 ガイド部
41 枢軸
42 ガイド部材
43 保持部
50 ボディ
51 支柱
53 背杆
54 支杆
55 支杆の内部(空洞)
56 軸支部材
58 ストッパ
59 空洞
61 カバー
62 ストッパ
70 付勢部材(ガススプリング)
71 軸支部
72 筒本体
73 ロッド
74 軸支部
81 傾倒部材
82 軸孔
84 空洞
91 ベース
92 軸受け
93 軸孔
95 カバー部
96 固定板
97 取付孔
98 枢軸
99 枢軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面に固定されたベースから起立する支柱の上部に、前後方向に延出する支杆を設け、
前記支杆に摺動自在に設けられ、前後方向に伸縮するガイド部材の前端と、
前記支柱に上下方向に伸縮自在に設けられ、上向きに付勢する付勢部材の上端とに、
座の下面の前後部を、それぞれ左右方向の枢軸をもって回動自在に軸支することで、前記座を、略水平な使用状態から前下方に傾倒した不使用状態に、傾倒可能としたことを特徴とする椅子。
【請求項2】
前記支柱は、前記ベースに左右方向の枢軸をもって回動自在に軸支されることを特徴とする、請求項1に記載の椅子。
【請求項3】
前記支杆の後部より背杆を起立させ、該背杆に背凭れを取り付けたことを特徴とする、請求項1または2に記載の椅子。
【請求項4】
前記支杆は、支柱上部に固着した左右一対の管材からなり、該管材に左右一対のガイド部材を摺動自在に挿通し、該左右一対のガイド部材の前端同士を連結する軸に、前記座の下面の前部を軸支することを特徴とする、請求項1乃至3に記載の椅子。
【請求項5】
座の下面に固着した座受け板の前後端にそれぞれ形成された下向き支持片に、前記ガイド部材の前端と、前記付勢部材の上端とを、軸支することを特徴とする、請求項1乃至4に記載の椅子。
【請求項6】
前記支柱上端より伸縮する前記付勢部材の上部を、支柱内を摺動するカバー部材により覆ったことを特徴とする、請求項1乃至5に記載の椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−72492(P2011−72492A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226274(P2009−226274)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)
【Fターム(参考)】