説明

椅子

【課題】本発明は、床面に予め固定して配置された椅子に関し、従来の複雑なリンク機構を用いることなく、簡易な構成で座を可動自在に構成し、着座者が座りやすく、また、着座後も足元の空間を大きくとることが可能な椅子を提供することを課題とする。
【解決手段】床面に固定されたベースから起立する支柱の上部に座を有する椅子であって、前記支柱の上部から前方に延出した延出部の前部と、前記支柱の上端開口から昇降する付勢部材の上部とに、前記座の下面の前部および後部を左右方向の枢軸をもってそれぞれ軸支するとともに、少なくとも一方を、前後摺動自在に軸支することで、前記座を略水平な使用位置から、前下方に傾倒した不使用位置とに変形可能としたことを特徴とする椅子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床面に固定されたベースから起立する支柱の上部に、座を有する椅子に関し、座の傾倒により使用位置と不使用位置とに可変する椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、講義室等の床面に予め固定して配置された椅子や机が知られている。このような、机と椅子は、主に、多数の人が着座する学校の講義室や国際会議場などで用いられており、限られた空間で、最大限の座席数を確保することができるといった利点がある。
【0003】
このような椅子の一例としては、特許文献1に開示された椅子が挙げられるが、後方の机にリンク機構を介して、座を取り付けた構成であり、この場合、後方の机を背凭れとして用いるため、椅子の使用時には、前後の机間に通路が確保されず、机の端に着座者がいる場合、着座者の後を通り机の中程の席に行くことができないといった問題があった。
【0004】
これに対して、特許文献2および特許文献3に開示された椅子は、床面に固定されたベース上に椅子を起立させた構成であり、机に対して近接する位置まで傾倒する収納状態と、着座するために机に対して離間する着座状態とに可変するため、椅子の収納時のみならず使用時においても、着座者が腰を浮かせながら椅子を前傾させることで、椅子の後方に通路を確保することが可能である。
【0005】
しかしながら、これらの椅子は、ベースから座にかけて起立させた主リンクや前脚といった複雑なリンク機構が張り巡らされるために、リンク機構の可動部分のメンテナンスを頻繁に行う必要があり、また、着座者の足が、可動するリンク機構に接触するなどしてリンク機構が邪魔であり、さらには、着座者の足元の空間を狭めてしまうため、不自由な着座姿勢を強いる原因ともなった。
【0006】
【特許文献1】特開平4−367622号公報
【特許文献2】特許第2927712号公報
【特許文献3】特許第3803642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記床面に予め固定して配置された椅子に関し、従来の複雑なリンク機構を用いることなく、簡易な構成で座を可動自在に構成し、着座者が座りやすく、また、着座後も足元の空間を大きくとることが可能な椅子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明の請求項1に記載の発明は、床面に固定されたベースから起立する支柱の上部に座を有する椅子であって、前記支柱の上部から前方に延出した延出部の前部と、前記支柱の上端開口から昇降する付勢部材の上部とに、前記座の下面の前部および後部を左右方向の枢軸をもってそれぞれ軸支するとともに、少なくとも一方を、前後摺動自在に軸支することで、前記座を略水平な使用位置から、前下方に傾倒した不使用位置とに変形可能としたことを特徴とする椅子である。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の椅子において、前記座の下面の前部および後部に形成した軸孔の、少なくとも一方を、前後方向に長い軸孔とし、該軸孔へと前記枢軸を挿通することで、前記座の前部もしくは後部の少なくとも一方を、前記軸孔に沿って前後摺動自在に軸支したことを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の椅子において、前記支柱を、前記ベースに左右方向の枢軸をもって回動自在に軸支して、前記支柱を、前後方向へ傾倒自在に形成したことを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3に記載の椅子において、前記支柱の上端開口より昇降する前記付勢部材の上部を、前記支柱内を摺動するカバー部材により覆ったことを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4に記載の椅子において、前記延出部の前部を上向きに隆起させ、使用位置とした前記座の下面を支持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1に記載の発明によれば、従来の複雑なリンク機構を用いることなく、簡単な構成で、座の使用位置から不使用位置へと変形させることができる。特に、ベースから座にかけて複雑なリンク機構を必要とせず、リンク機構の頻繁なメンテナンスを要さず、座の下方には支柱が起立されているだけで、座に着座した際の足元の邪魔になるようなことはないから、足元の空間が狭められることがなく、足回りを広くした自由な姿勢で着座することができる。
【0014】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記座の下面の前部もしくは後部に形成した軸孔の少なくとも一方を前後方向に長く穿設して、前記枢軸を挿通することで、前記座の前部もしくは後部の少なくとも一方を前後移動可能として、簡単な構成で、座の使用位置から不使用位置へと変形させることができる。
【0015】
また、請求項3に記載の発明によれば、前記支柱を、前記ベースに左右方向の枢軸をもって回動自在に軸支して、前記支柱を、前後方向へ傾倒自在させることにより、椅子の収納状態と着座状態とに容易に変形させることができる。これにより、椅子の未使用時には、支柱を前傾させることで、椅子を机に近接させ椅子の後方に大きな通路を確保することが可能であり、他方、椅子の使用時には、支柱を後傾させることにより、椅子を引き出した状態で着座することが可能である。
【0016】
また、請求項4に記載の発明によれば、支柱内部の付勢部材を露出することなく、意匠性の高い椅子を提供することが可能である。また、支柱内部に異物が入り込むことを防ぎ、付勢部材の可動部に異物が付着することを防止することが可能である。
【0017】
また、請求項5に記載の発明によれば、座の前部を安定かつ強固に支持することが可能であり、座り心地が向上する効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の椅子1の一例としては、図1(a)(b)(c)に示すように、床面に固定されたベース61に対して起立する円柱状の支柱57が、ベース61前方の軸孔64へと枢軸67を介して前後傾倒自在に軸支され、支柱57上部より、後方へと略水平方向に形成された背支持板54は、その後端部分より略垂直方向に背取付板55が形成され、該背取付板55の前面にビス25等で背凭れ21が取り付けられた椅子1であって、前記支柱57の上方に位置する座35の後部が上下昇降自在に形成されるとともに、座35の前部が回動自在かつ前後摺動自在に形成されることで、座35を略水平な使用位置から、座35が斜めに傾倒した不使用位置へと変形させることが可能である。
【0019】
さらには、前記支柱57が前記ベース61へと回動自在に軸支されており、前記支柱57の前後傾倒により、(a)椅子1の収納状態1aから、(b)椅子1の引き出し状態1bを経て、(c)座35に着座する着座状態1cへと、変形させることが可能である。特に、本発明の椅子1は、前記座35の可動機構が簡易な構成であり、従来の構成である支柱の傾倒に追従させて座を可動変形させるための複雑なリンク機構等を用いない利点がある。
【0020】
以下、本発明の椅子1の構成について詳述する。
本発明の椅子1は、図2に示すように、座35および座受け部材31からなる座35に係る部材(図中、左方)と、支柱57、延出部53、背支持板54、背取付板55が一体に形成されたボディ(図中、中央)と、ベース61、付勢部材82(ガススプリング82)、カバー部材71からなる、傾倒および昇降部材(図中、右方)とに大別される。
【0021】
まず、図の左方に配置された各部材とそれぞれの関係について説明する。
使用者が着座するための略平板状の座35の下面には、左右一対の座受け部材31が形成されており、該座受け部材31は、座35の前部35aから後部35bにかけて、前後方向に長い部材である。
【0022】
前記座受け部31の前部内側には、前後方向に長いスリット状の軸孔32が穿設されており、後述する、延出部53の枢軸51が、前記軸孔32へと回動自在に軸支されるとともに、軸孔32に沿って前後摺動自在に形成される構成である。
また、座受け部31の後部内側には、軸孔33が形成されており、後述する、ガススプリング等の付勢部材82の一端86を、左右方向の枢軸74を介して回動自在に軸支する構成である。なお、付勢部材としては、ガススプリングの他に、バネ等の弾性部材を用いることも可能であり、上方へと付勢力を生じる部材であれば、特に限定されるものではない。
【0023】
次に、図の中央に配置された各部材とそれぞれの関係について説明する。
まず、椅子の躯体となるボディは、略垂直方向に起立する円柱状の支柱57と、該支柱57の上部から後方に延設される扇形状の背支持板54と、該扇形状の背支持板54の後部から上方向に延設される背取付板55と、からなり、該背取付板55の前方に背凭れ21が取り付けられる。
【0024】
特に、前記支柱57の上部から前方にかけて、延出部53が形成されており、該延出部53の前部には、左右方向に円柱状の軸支部52が形成されている。そして、軸支部52の左右には、それぞれ軸51が突出しており、該軸51が前記座受け部材31の軸孔32へと軸支される構成である。これにより、前記座35の下面前方を回動自在かつ前後摺動自在に軸支する構成である。また、延出部の前部には、上方へと突出する上面が略水平の座受け60が形成されており、該座受け60へと前記座の前部下面を保持する構成である。
【0025】
前記支柱57の内部には、該支柱57を上下方向に貫通する開口56が形成されており、後述する、ガススプリング82等の付勢部材82を挿通するとともに、ガススプリングが上部開口56から上下昇降自在に形成される。
【0026】
前記支柱57の下方には、アンカーボルト64等を用いて床面に固定されるベース61が形成されており、該ベース61の上方に形成された窪みには、ガススプリング等の付勢部材82の一端84を軸支するための軸孔63を有する軸受け62が形成されている。
【0027】
また、ベース61の側面前方には、前記支柱57を軸支するための軸孔64が形成されており、該軸孔64と支柱下部の脚部材58の前方側面に形成された軸孔59とを、枢軸67を用いて一体に軸支する構成である。
【0028】
これにより、前記支柱57はベース61に対して回動自在に軸支され、前記支柱57を斜め前方と斜め後方とに、それぞれ傾倒自在となっている。このとき、支柱の脚部58の先端部分68が、ベース61の内壁に当接して、支柱61の前後傾倒の角度を決める構成である。
【0029】
次に、図の右方に配置された各部材とそれぞれの関係について説明する。
まず、前記座35を上下に昇降させる付勢部材82としてのガススプリング82は、上下方向に長い筒部材(筒本体82)と、該筒本体82の内部から外部にかけて、下方へと突出するロッド83からなり、前記筒本体82の内部には圧縮ガスおよびオイル等が密封されている。
そして、筒本体82の内部を、図示しないオリフィスを有するピストン85で二室に区切ることにより、ピストン85から延設された前記ロッド83が常に伸びる方向へと付勢力を生じている。
【0030】
すなわち、ガススプリング下部の軸支部84を、ベース内部の軸受け部62へと左右方向の枢軸85を介して軸支し、ガススプリング82を前記支柱内部の空洞56へと挿通する。そして、ガススプリング上部が支柱上部より突出した状態で、内部が空洞の円筒状カバー部材71を、ガススプリング上部に挿通するとともに支柱57の内部へと挿通する。
【0031】
前記円筒状のカバー部材71は、その上部に、左右方向の円筒部材72が延設されており、ガススプリング82の上部81が、カバー部材71に挿通された状態で、左右方向の円筒部材72から枢軸74を用いてガススプリング上部の軸支部81を軸支するとともに、さらには、前記座35の下面に形成された座受け部31の軸孔33へと一体に軸支する構成である。
【0032】
このように、ガススプリング82を支柱内部に挿通するとともに、ガススプリングの一端84をベース61に固定(軸支)し、他端81を座35の下面後部に軸支することで、支柱57の上部において、座35の下面後部に、上方への付勢力を常に付与することが可能である。
【0033】
また、ガススプリング82上部を、カバー部材71で覆うことにより、支柱内部の付勢部材82を外部に露出することなく、さらには、支柱57内部に異物等が入り込むことを防止することが可能である。
【0034】
次に、本発明の椅子における、座35の動作について説明する。
まず、図3に示すように、ガススプリング82の一端84(下方)が、床面に固定されたベース61に軸支され、ガススプリング82の他端81(上方)が、座受け部31の後部に軸支74されている。このとき、ガススプリング82の上方への付勢力により、座35の後部35bが上昇した状態となり、すなわち座35の不使用位置となる。
【0035】
他方、座35の前部に形成された軸孔32へと、支柱上部から前方に延出した延出部53の枢軸51が軸支されており、延出部53の枢軸51は、座受け部31の軸孔32の前部に当接した状態で、座35の前部が、上方へと回動して斜めの傾斜をなしている。すなわち、ガススプリングが座の中心より後方を押し上げ、かつ座の前部35aを回動自在に軸支することで、座の後部35bを上昇せしめ座を斜めに傾斜させる構成である。
【0036】
このように、本発明の椅子における座35は、通常状態では、付勢部材82の上方への付勢力により、座の後部35bが上昇し、座の前部35aが上方へと回動かつ後方へと摺動する、座の不使用位置を保持している。
【0037】
次に、この状態(座の不使用位置)から、座35の後部35bを押し下げると、図4に示すように、ガススプリング82が収縮しつつ軸支部81が枢軸74を軸に回動し、座の後部35bが下降する。
【0038】
このとき、座受け部材31の前部が、延出部53の枢軸51を支点に下方へと回動するとともに、軸孔32に沿って座受け部31が前方へと摺動する。
【0039】
さらに、座35を押し下げると、図5に示すように、座受け部材31の前部が、軸孔32に沿って前方へと摺動し、軸孔32の最後部に当接するとともに、ガススプリングの筒本体82が軸支部84に当接して、座35の下降が規制され、座35および座受け部材31が略水平状態の、座35の使用位置となる。
【0040】
このように、本発明の椅子1は、座の後部35bが下降する動作に追従して、座の前部35aが前方へと摺動して、座35が略水平の状態へと可動変形する構成である。
他方、着座状態から起立したときは、ガススプリングの上方への付勢力に伴い、座の後部35bが上昇するとともに、座の前部35aが、軸孔に沿って後方へと摺動して、座35が初期状態(不使用位置)に戻ることはいうまでもない。
【0041】
このように、本発明の椅子1は、従来の複雑なリンク機構を用いることなく、簡単な構成で、座35の使用位置から不使用位置へと変形させることが可能である。
すなわち、支柱57の上部から、前方へと延出する延出部53を設け、該延出部53に、前記座35の下面前部を回動自在かつ前後摺動自在に軸支31し、前記支柱57の上部に、上方へと付勢する付勢部材85を形成し、該付勢部材85に、前記座31の下面後部を回動自在に軸支74する簡単な構成により、従来の複雑なリンク機構を用いることなく、座35の使用位置から不使用位置へと変形させることが可能である。
【0042】
特に、ベース61から座35にかけて複雑なリンク機構を必要とせず、リンク機構の頻繁なメンテナンスを要さず、座の下方には支柱が起立されているだけで、座に着座した際の足元の邪魔になるようなことはないから、足元の空間が狭められることがなく、足回りを広くした自由な姿勢で着座することができる。
【0043】
次に、前記座の使用位置から不使用位置へと変形させる構成に加えて、前記支柱57の傾倒による、椅子の収納状態1aから、引き出し状態1bを経て、着座状態1cに至る一連の動作について説明する。
【0044】
まず、椅子の収納状態1aについて説明する。
ここでいう椅子の収納状態1aとは、図6に示すように、座35が略垂直に起立した不使用位置かつ支柱57がベース61に対して前傾した状態をいう。この状態(収納状態1a)では、椅子全体が、椅子の前方に位置する机面の下方スペースへと入り込むため、椅子の後方に、人が通れる通路が確保される構成である。
【0045】
一般に、複数の机が前後方向に連続して配置される講義室などでは、前後の机間距離を最小にして、限られた空間内で最大の人数を収容する必要がある。しかしながら、前後方向に複数の机を配置すると、必然的に前後の机間距離が小さくなるため、椅子と後方の机との間に、人が通るスペース(通路)を確保することが困難となる。
よって、未使用の椅子を前傾させることで、未使用の椅子を机に近接させて収納し、椅子の後方に大きな通路を確保することが可能である。そして、椅子の使用者は、その都度、未使用の椅子(収納状態の椅子)を引き出して着座することが効率的である。
【0046】
すなわち、本発明の椅子における収納状態1aは、図6および図7に示すように、ベース61に軸支されたガススプリング82が上方に伸びきった状態であり、ガススプリング82が座受け部31の後部を持ち上げて座35を不使用位置に保持するとともに、前記脚部材58が、ガススプリングの軸支部84より前方で軸支67されるため、前記ガススプリング82の伸長作用により前記脚部材58がさらに前方へと軸回転して、結果、支柱57が前傾姿勢を保持する構成である。この場合(1a)、椅子の座35が机面Dの下方に入り込み、椅子の背凭れ21が、ベース61の後端より前方に位置するため、椅子1の後方に大きな空間(通路)が形成される構成である。
【0047】
次に、椅子の引き出し状態1bおよび椅子の着座状態1cについて説明する。
ここでいう椅子の引き出し状態1bとは、図8に示すように、座35の不使用位置かつ支柱57がベース61に対して後傾した状態をいう。着座者は、前記椅子の収納状態1aにおける前傾した椅子の背凭れ21を持ち、後方へと引くことで、図8および図9に示すように、支柱の脚部材58が、枢軸67を軸に後方へと回動(傾倒)するとともに、脚部材58の下面および脚部材58の先端部分68がベース61の下面およびベースの内壁に当接して、椅子1の後傾が規制され椅子全体が後傾する。
【0048】
このように、椅子の引き出し状態において、座板を前傾させる理由としては、着座者が、椅子を引き出した状態で、椅子の横に立った位置から足元を見ると、机の縁部と座板の前縁とから、着座者の足を滑り込ませるための、大きな隙間空間が形成されるためである。
【0049】
例えば、椅子が傾斜しない構成では、机と座板との間に入り込むことができず、図11の状態で足を滑り込ませ窮屈な姿勢で着座するため、身体的な負荷が大きい。よって、椅子の引き出し状態で、座板が前傾した状態が有効である。
【0050】
また、略垂直に起立した座35は、支柱57の後傾に伴い、座面35の起立角度が緩やかになるため、臀部を座35に当接させた際にも、臀部が前方へと滑り落ちることを防ぐ効果がある。
【0051】
そして、椅子の着座状態1cでは、図10および図11に示すように、座の後部35bの下降に伴い、ガススプリング82が収縮して最も縮んだ状態となり、他方、延出部53の枢軸51が座受け部31の軸孔32の最後部に位置して、座35が略水平の使用位置となり、着座者は、机面Dとの最適な距離をもって着座することが可能である。また、座の下面が、延出部53の上面の座受け60に当接して座35を安定して保持することが可能である。
【0052】
特に、椅子の着座状態1cにおいて、座35の下方と支柱57の前方との間に大きな空間Sが形成されるため、着座者が脚を折り曲げて座面の下方に脚を挿入しても、脚が当接する部材等がなく、座に着座した際の足元の邪魔になるようなことはないから、足回りを広くした自由な姿勢で着座することができる。
【0053】
なお、着座者が起立して席を離れる際には、ガススプリング82の付勢力により、自動的に座35が略垂直に持ち上がり、支柱57が前方へと傾倒する収納状態1aへと移行することはいうまでもない。また、椅子の引き出し状態1bでは、依然ガススプリング82が上方へと付勢力を働かせており、引き出し状態1bで椅子から手を離すと、再び、椅子が前傾して収納状態1aへと戻る構成である。
【0054】
このように、本発明の椅子は、従来の複雑なリンク機構を用いることなく、簡単な構成で、座35を可動自在に構成し、着座者が座りやすく、また、着座後も足元の空間を大きくとることが可能である。さらには、ベース61から座35にかけて1本の支柱で済むため、シンプルな構成からなる意匠性の高い椅子1を提供することが可能である。
【0055】
さらに、本発明の椅子1は、着座状態1cにおいて、座35を前方に水平移動1dさせることで、椅子1の後方に大きな通路を形成することが可能である。
【0056】
例えば、着座している椅子1の後方には後の机D’が位置しており、着座者の後方を人が通過しようとする場合、椅子1と机D’との間に通路を確保する必要がある。
この場合、着座者が一度起立して椅子1を収納状態1aに戻さないと、通路を確保することが困難であるが、本発明の椅子1は、図12に示すように、着座者が座った状態で僅かに前方へとかがむことにより、支柱57が着座者の動きに追従して前方に傾倒するため、僅かな座面の水平移動Hにより、背凭れ21が大きく傾倒Wして、椅子1の後方に大きな通路を形成することが可能である。
【0057】
すなわち、着座者が前方にかがむことで支柱57が僅かに前傾して、座35が水平方向にスライドHする一方、支柱57の僅かな前傾に伴い、背凭れ21が大きく前傾するため、背凭れ21と机D’との間に大きな通路を確保することが可能である。特に、座面の高さhをほぼ変えることなく、座を水平移動Hさせて、自然な着座姿勢を維持した状態で、後方に大きな通路を確保することが可能である。
【0058】
以上のように、本発明の椅子1は、従来の複雑なリンク機構を用いることなく、簡単な構成で、座35を略水平な使用位置から、座35が前方に傾倒した不使用位置に移動させることができる。特に、ベース61から座35にかけて複雑なリンク機構を必要とせず、リンク機構の頻繁なメンテナンスを要さず、座35の下方には支柱57が起立されているだけで、座35に着座した際の足元の邪魔になるようなことはないから、足元の空間が狭められることがなく、足回りを広くした自由な姿勢で着座することができる。
【0059】
上記例では、座の前部35aを回動自在かつ前後方向に摺動自在に形成した例を示したが、これに限らず、座の後部35bを前後方向に摺動自在に形成してもよく、例えば、図13に示すように、座の前部35aを回動自在に形成するとともに、座の後部35bを回動自在かつ前後摺動自在に形成することで、座の不使用位置と使用位置とに変形自在とする構成であってもよい
【0060】
さらに、上記例では、座の前部35aまたは後部35bのいずれかを前後摺動自在に形成した例を示したが、これに限らず、例えば、座の前部35aおよび後部35bを、それぞれ前後摺動自在に形成してもよく、図14に示すように、座の前部35aおよび後部35bに、それぞれ長い軸孔32,33を形成し、延出部53の枢軸51と付勢部材82の枢軸74とを、それぞれ軸支する構成であってもよい。このとき、座の不使用位置において、座の後部35bの枢軸74が軸孔33の最後部に軸支されるため、座が下方へと滑り落ちることがない。
【0061】
そして、図15に示すように、椅子を引き出した後、座板に臀部を当接させることで、図16および図17に示すように、座の前部35aおよび後部35bの枢軸51,74が軸孔32,33に沿って滑らかに摺動し、図18に示すように、座35を略水平の使用位置とすることが可能である。このとき、座の前部35aの枢軸51が座の前部35aの軸孔32の最後部に位置するとともに、座の後部35bの枢軸74が座の後部35bの軸孔33の最前部に位置するため、座35が前後に滑ることがない。このように、座の前部35aおよび後部35bに長い軸孔32,33を形成し、前後摺動自在に軸支51,74することで、座35の傾倒動作がスムーズに行われる効果がある。
【0062】
特に、座り始めに、座の先端部分が前方にスライドするため、座の傾きが緩やかになるとともに、着座者の臀部が椅子の後方に自動で入り込み、座板と臀部が確実に当接するため、着座者が座板から滑り落ちる等の恐れがない。
【0063】
何れにせよ、本発明の椅子1は、前記座の前部35aまたは後部35bを前後摺動かつ回動自在に構成し、かつ前記座の後部35bを上下昇降かつ回動自在に構成することにより、前記座35が略垂直状態となる不使用位置1aと、前記座35が略水平状態となる使用位置と、に変形自在な構成であれば、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の椅子を示す図である。(a)椅子の収納状態を示す図である。(b)椅子の引き出し状態を示す図である。(c)椅子の着座状態を示す図である。
【図2】椅子の分解図である。
【図3】座の不使用位置を示す説明図である。
【図4】座の動きを示す説明図である。
【図5】座の使用位置を示す説明図である。
【図6】椅子の収納状態を示す一部切断図である。
【図7】椅子の収納状態を示す断面図である。
【図8】椅子の引き出し状態を示す一部切断図である。
【図9】椅子の引き出し状態を示す断面図である。
【図10】椅子の着座状態を示す一部切断図である。
【図11】椅子の着座状態を示す断面図である。
【図12】座の動きを示す断面図である。
【図13】本発明の椅子の別の例を示す図である。(a)椅子の収納状態を示す図である。(b)椅子の引き出し状態を示す図である。(c)椅子の着座状態を示す図である。
【図14】椅子の収納状態を示す断面図である。
【図15】椅子の引き出し状態を示す断面図である。
【図16】椅子の着座時を示す断面図である。
【図17】椅子の着座状態を示す断面図である。
【図18】椅子の着座状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 椅子
21 背凭れ
35 座
35a 座の前部
35b 座の後部
31 座受け部材
32 軸孔
33 軸孔
51 枢軸
52 軸支部
53 延出部
54 背支持板
55 背取付板
56 開口
57 支柱
58 脚部
59 軸孔
60 座受け
61 ベース部材(ベース)
62 軸受け
63 軸孔
64 軸孔
65 アンカーボルト
66 軸孔
67 枢軸
68 脚部の先端
71 カバー(垂直部)
72 カバー(水平部)
73 ストッパ
74 枢軸
81 軸支部
82 ガススプリング
83 ロッド
84 軸支部
85 枢軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面に固定されたベースから起立する支柱の上部に座を有する椅子であって、
前記支柱の上部から前方に延出した延出部の前部と、
前記支柱の上端開口から昇降する付勢部材の上部とに、
前記座の下面の前部および後部を左右方向の枢軸をもってそれぞれ軸支するとともに、少なくとも一方を、前後摺動自在に軸支することで、前記座を略水平な使用位置から、前下方に傾倒した不使用位置とに変形可能としたことを特徴とする、椅子。
【請求項2】
前記座の下面の前部および後部に軸孔を形成するとともに、少なくとも一方を前後方向に長い軸孔とし、該軸孔へと前記枢軸を挿通することで、前記座の前部もしくは後部の少なくとも一方を、前記軸孔に沿って前後摺動自在に形成したことを特徴とする、請求項1記載の椅子。
【請求項3】
前記支柱を、前記ベースに左右方向の枢軸をもって回動自在に軸支して、前記支柱を、前後方向へ傾倒自在に形成したことを特徴とする、請求項1または2記載の椅子。
【請求項4】
前記支柱の上端開口より昇降する前記付勢部材の上部を、前記支柱内を摺動するカバー部材により覆ったことを特徴とする、請求項1乃至3記載の椅子。
【請求項5】
前記延出部の前部を上向きに隆起させ、使用位置とした前記座の下面を支持することを特徴とする、請求項1乃至4記載の椅子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−72494(P2011−72494A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226287(P2009−226287)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)
【Fターム(参考)】