説明

椅子

【課題】複雑なロッキング機構を用いる必要がなく、着座者の体重差の影響をあまり受けることなしに通常姿勢と真後ろ及び左右後方へのリクライニング姿勢とをとることができる椅子を提供する。
【解決手段】脚体2と、この脚体2に支持された座支持部と、この座支持部に位置付けられた座4とを具備してなる椅子であって、前記座支持部が、左右方向に延びる単一の軸心20まわりに一体的に天秤動作し得るように脚体2に枢支されたものであり、前記座支持部の天秤動作を一定の範囲内に規制する回動規制機構を備えており、前記座4が、前記座支持部の天秤動作による回動範囲を越えて、その前部領域8に対して後部領域9が弾性変形により下方に沈み込み可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学校用または事務用等として好適に使用される椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の椅子として、リクライニング感を出すために、座が後傾動作するようにしたものが種々開発されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
ところが、従来のものは、座を後傾動作させるために複雑なロッキング機構を採用しており、構成が複雑であり、部品点数が多くなるという問題があった。
【0004】
また、簡略な構成のものとして、座の前部のみを支持体により支持させ、座や支持体の弾性変形を利用して座が後傾動作するようにしたものも知られている。このようなものは、体重が重い人の着座によって大きな荷重がかかった場合にも耐え得るよう、例えば、椅子全体が剛性を有するように椅子の各部を設定せざるを得ない。ところが、そのようにすると、体重の軽い人が着座した場合に十分なリクライニング感が得られない、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−342377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような事情に着目してなされたものであり、複雑なロッキング機構を用いる必要がなく、着座者の体重差の影響をあまり受けることなしに通常姿勢と真後ろ及び左右後方へのリクライニング姿勢とをとることができる椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するために、次のような構成を採用したものである。すなわち、本発明に係る椅子は、脚体と、この脚体に支持された座支持部と、この座支持部に位置付けられた座とを具備してなるものであって、前記座支持部が、左右方向に延びる単一の軸心まわりに一体的に天秤動作し得るように脚体に枢支されたものであり、前記座支持部の天秤動作を一定の範囲内に規制する回動規制機構を備えており、前記座が、前記座支持部の天秤動作による回動範囲を越えて、その前部領域に対して後部領域が下方に弾性変形により沈み込み可能に構成されていることを特徴とする。
【0008】
ここで、「脚体」とは、例えば、パイプ材で作られた4本足タイプのフレームを備えたもの、パイプ材で作られたカンチレバータイプのフレームを備えたもの、回転椅子タイプの脚羽根と、脚支柱と、支基とを備えたもの等持ち運びやキャスタ付きで移動可能なもののほか、床面や起立壁から伸びる脚等の床に固定されたタイプのものであってもよい。
【0009】
「座支持部」とは、フレーム等の座支持部材を主体として形成されるものや、座等の他の部材に一体的に形成されているもの等を含む概念である。
【0010】
「座」とは、例えば、フレーム間にメッシュ状の張地を張設したものの他、シェル等の板状のもの、シェルにスリットや溝等を入れてたわみやすくしたもの、シェル上にクッション材等を設けたもの等が挙げられる。
【0011】
「天秤動作」とは、軸を中心として、着座者の荷重が後方にかかったときに座が後傾して後端側が下がるとともに前端側が上がる動作をいう。
【0012】
「天秤動作を許容し得るように」とは、座の一部または全部が変形する場合や、座とフレーム部との結合部分が遊動する場合等が考えられる。座とフレーム部との結合部分が遊動する場合の一例としては、スライド動作するものが挙げられる。
【0013】
「前部領域」とは、座の前端から後端までの間の任意の箇所よりも前側に形成される領域を示しており、無負荷状態で、支持体により座が支持され、着座者が安定して着座することのできる領域であれば、その大きさや形状、支持体への取付方法等はどのようなものであってもよい。また、「後部領域」とは、座の前端から後端までの間の任意の箇所よりも後側に形成される領域を示しており、無負荷状態で、支持体により座が直接支持されていない領域を指し、その大きさや形状、沈み込み量等はどのようなものであってもよい。
【0014】
また、本件で「前」、「後」、「左」、「右」とは、着座者が本発明に係る椅子に着座した状態で着座者から見た「前」、「後」、「左」、「右」を指すものとする。
【0015】
このようなものであれば、複雑なロッキング機構を用いる必要がなく、着座者の体重差の影響をあまり受けることなく通常姿勢と真後ろ及び左右後方へのリクライニング姿勢とをとることができる。
【0016】
前記座支持部の好適な一態様としては、剛性を有したものであり、前記座の前部領域を前記座支持部に対して前後方向に相対傾動しないように支持させ、前記座の後部領域に荷重を作用させた場合にだけ前記座支持部に対して当該後部領域が沈み込むようにしているものが挙げられる。
【0017】
前記座の後部領域の座面が、当該座の弾性変形により左右方向にも傾くことができるように構成されているものが好ましい。
【0018】
前記座の好適な一態様としては、弾性変形可能な左右のフレーム部間に張地を張設したものであり、前記左右のフレーム部が前記座支持部に対して独立して沈み込むようにしているものが挙げられる。
【0019】
前記座支持部の好適な他の態様としては、前記座支持部が弾性変形可能なものであり、該座支持部の天秤動作による回動範囲を越えて、前記座の後部領域に対応する後部分が、座の前部領域に対応する前部分に対して自らの変形によって下方に沈み込み可能に構成されたものが挙げられる。
【0020】
前記座支持部を前方に回動付勢する復帰機構を備えているものが好ましい。
【0021】
前記復帰機構の好適な一態様としては、前記座支持部を前方に回動付勢する単一の板ばねを主体に構成されたものが挙げられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、以上のような構成であるから、複雑なロッキング機構を用いる必要がなく、着座者の体重差の影響をあまり受けることなしに通常姿勢と真後ろ及び左右後方へのリクライニング姿勢とをとることができる椅子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態の椅子を示す全体斜視図。
【図2】同実施形態の椅子を示す正面図。
【図3】図2におけるX−X線断面図。
【図4】同実施形態の椅子を示す右側面図。
【図5】同実施形態の椅子の沈下状態を示す右側面図。
【図6】図2におけるY−Y線断面図。
【図7】同実施形態の回動規制機構を模式的に示す説明図。
【図8】本発明の変形例の回動規制機構を模式的に示す説明図。
【図9】本発明のさらに他の変形例の椅子を示す右側面図。
【図10】同変形例の椅子の沈下状態を示す右側面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、本発明の一実施形態について図1ないし図7を参照して説明する。
【0025】
この実施形態は、本発明を事務用回転椅子に適用した場合のものである。この椅子1は、図1ないし図6に示すように、脚体2と、この脚体2に支持された座支持部たる左右のフレーム3A、3Bと、この左右のフレーム3A、3Bに位置付けられた座4と、この座4に支持された背凭れ5とを具備してなる。
【0026】
脚体2は、図1ないし図6に示すように、先端にキャスタを取り付けた脚羽根21と、この脚羽根21から立設された脚支柱22と、この脚支柱22の上端に支持され前記脚支柱22の軸心まわりに旋回可能な支基23とを備えたものであり、この支基23に前記左右のフレーム3A、3Bを天秤動作可能に支持させている。前記脚支柱22は、ガススプリングにより構成されており、このガススプリングのシリンダ軸24の上端に前記支基23が固定されている。この支基23は、前記シリンダ軸24に固定された支基本体25と、この支基本体25の左右両端から上方に起立させたアーム26とを具備してなるもので、前記シリンダ軸24とともに水平方向に旋回し得るようになっている。左右のアーム26の上端には、左右の支軸27が相互に軸心20を一致させて設けられており、これらの支軸27に左右のフレーム3A、3Bを天秤動作可能に軸支させている。ここで、「天秤動作」とは、支軸27を中心として、着座者の荷重が後方にかかったときに座4が後傾して後端側が下がるとともに前端側が上がる動作をいう。本実施形態においては、この天秤動作には、支軸27を中心として、着座者の荷重が前方にかかったときに座4が初期状態(f)に戻って前端側が下がるとともに後端側が上がる動作も含んでいる。前記軸心20は、椅子1の左右方向に延びている。
【0027】
前記左右のフレーム3A、3Bは、図1ないし図6に示すように、左右方向に延びる単一の前記軸心20まわりにそれぞれ天秤動作し得るように脚体2に枢支されたものであり、例えば、繊維で強化された合成樹脂等により作られている。これら左右のフレーム3A、3Bは、それぞれフレーム本体3A1、3B1と、このフレーム本体3A1、3B1の中央部から下方に延びる固定アーム3A2、3B2とを備えたものであり、これらフレーム本体3A1、3B1と固定アーム3A2、3B2とは一体的に成形されている。左右のフレーム本体3A1、3B1は、それぞれ、前端から座2の前後方向中間部に向かってほぼ水平に伸びる前部分91と、座2の下面から漸次離間しつつ前記前部分91の後端から後方に伸びる後部分93とを備えたものである。本実施形態では、この後部分93は、前記座4の後部領域9の下方に、この座2から後方に向かって漸次離れる傾斜部分90を有したものであり、前記座4の後部領域9に荷重を作用させた場合に当該後部領域9が沈み込んで座4が前記傾斜部分90に沿って変形するように構成されている。
【0028】
座4は、図1ないし図6に示すように、前記左右の座フレーム4A、4B間にメッシュ状の張地41を張設したものである。この座4は、前記軸心20よりも前側の前部領域8と、前記軸心20よりも後側の後部領域9とを備えている。左右の座フレーム4A、4Bは、それぞれ合成樹脂等により作られた弾性変形可能な杆状のもので、その前部領域8が前記座支持部たる左右のフレーム3A、3Bにより支持されており、後部領域9は沈み込む前の初期状態(f)と最も沈み込んだ沈下状態(s)との間で沈み込み動作を行い得るようになっている。すなわち、後部領域9は、前記初期状態(f)において前記左右のフレーム3A、3Bの上面と離間しており、座面に作用する荷重に応じて座4の弾性変形を利用して適宜沈み込むようになっている。そして、後部領域9は、最も沈み込んだ前記沈下状態(s)において前記左右のフレーム3A、3Bの上面と接触するように構成されている。すなわち、本発明の左右のフレーム部たる座フレーム4A、4Bが前記座支持部たる左右のフレーム3A、3Bに対して左右独立して沈み込むようにしてあり、これによって、この座2は、後部領域6の座面が左右方向にも傾くことができるように構成されている。なお、図4では、執務姿勢時にとられる初期状態(f)を実線で示すとともに、天秤動作による回動範囲を超えて座4の後部領域9が前部領域8に対して沈み込む状態(説明の便宜のため、天秤動作は行われていない前提の図である)を二点差線で示している。また、図5では、リクライニング姿勢時にとられる天秤動作とこの天秤動作による回動範囲を超えて座4の後部領域9が沈み込む動作が同時に行われる沈下状態(s)を実線で示すとともに、初期状態(f)を二点鎖線で示している。
【0029】
背凭れ5は、図1ないし図6に示すように、前記左右の座フレーム4A、4Bに一体に形成された左右の背フレーム5A、5B間にメッシュ状の張地51を張設したものである。前記左右の座フレーム4A、4Bと左右の背フレーム5A、5Bとはそれぞれ、例えば、繊維で強化された合成樹脂等により一体に成形されている。本実施形態の椅子1は、この背凭れ5と前記座4とを連動させるようにしており、具体的には、背凭れ5の後傾動作に伴わせて座4を傾動させつつ前側を上動させるようにした体重感知式のものである。
【0030】
また、この椅子1は、前記左右のフレーム3A、3Bの天秤動作を一定の範囲内に規制する回動規制機構6を備えている。回動規制機構6は、図7に示すように、前記支基23のアーム26に設けられた長孔状の凹部61と、前記左右フレーム3A、3Bの固定アーム3A2、3B2に設けられ前記凹部61に挿入された突部62とを備えたもので、前記座4の後端側が沈み込む前の初期状態(f)において前記突部62が前記凹部61の一端63側に係止され、前記座4の後端側が最も沈み込んだ沈下状態(s)において前記突部62が前記凹部61の他端64側に係止されるようになっている。
【0031】
さらに、この椅子1は、図1ないし図6に示すように、前記左右のフレーム3A、3Bが一体的に回転動作を行うことができるように前記左右のフレーム3A、3Bを前方に回動付勢する復帰機構7を備えている。この復帰機構7は、前記座支持部たる左右のフレーム3A、3Bを前方に回動付勢する単一の板ばねを主体に構成されたものである。すなわち、この復帰機構7は、一端71を前記左右のフレーム3A、3Bの中間部に横架材33を介して連続させるとともに他端72を前記脚体2に支持させた樹脂ばね73を備えたものである。詳述すれば、この樹脂ばね73は、中間部分を前方に湾曲した状態で側面視J字形に設けられており、この樹脂ばね73の一端71は、前記横架材33の左右方向中央に連続させている。この横架材33は、左右のフレーム3A、3Bが同じ角度で、すなわち、左右で同期して傾動するように前記左右のフレーム3A、3Bに連続させている。
【0032】
このような椅子1であれば、執務姿勢で座4に着座した場合には着座者の体重に起因した荷重は、座4の前部領域8に作用するため、左右のフレーム3A、3Bは傾動せず、座4は安定した状態で支持されることになる。また、着座者が背凭れ5に凭れかかり、座4の後部領域9に荷重が移動した場合には、左右のフレーム3A、3Bが同じ角度だけ回動して天秤動作し、座4の後部領域9が沈み込むことになる。
【0033】
着座者が右方向に傾いた状態でリクライニング動作を行うと右の座フレーム4Aが左の座フレーム4Bに比べてより大きく弾性変形を行うこととなり、右の座フレーム4Aがフレーム3A上に当接するまで右方向に座面が傾く。同様に、着座者が左方向に傾いた状態でリクライニング動作を行うと左の座フレーム4Bが右の座フレーム4Aに比べてより大きく弾性変形を行うこととなり、左の座フレーム4Bがフレーム3B上に当接するまで左方向に座面が傾く。
【0034】
着座者が座4の前部領域8に荷重を移動させて執務姿勢に戻ると、左右のフレーム3A、3Bが前方に天秤動作を行い、座4の後部領域9は、沈み込む前の初期状態(f)に自己復帰する。
【0035】
このように本実施形態の椅子1は、脚体2と、この脚体2に支持された座支持部たる左右のフレーム3A、3Bと、この座左右のフレーム3A、3Bに位置付けられた座4とを具備してなるものであって、前記左右のフレーム3A、3Bが、左右方向に延びる単一の軸心20まわりに一体的に天秤動作し得るように脚体2に枢支されたものであり、前記左右のフレーム3A、3Bの天秤動作を一定の範囲内に規制する回動規制機構6を備えており、前記座4が、前記左右のフレーム3A、3Bの天秤動作による回動範囲を越えて、その前部領域8に対して後部領域9が弾性変形により下方に沈み込み可能に構成されているので、複雑なロッキング機構を用いる必要がなく、簡単な構造で、好適なリクライニング感を得ることができる。しかも、天秤動作の回転支持部が座4の前後方向中央部分にあり、作業姿勢時には着座者による荷重の重心が前部領域8に集中することによって、安定して作業姿勢が維持できるとともに、休息姿勢時には着座者による荷重の重心が後部領域9に集中することによって座4の後部領域9が下方に落ち込むため、好適なリクライニング姿勢をとることができる。すなわち、この椅子1は、座4の後側が下がると前側が上がり、逆に座4の前側が下がって元の位置に戻ると後側が上がって元の位置に戻るというシーソーのような構造を備えていると言える。
【0036】
本実施形態では、特に、座支持部たる左右のフレーム3A、3Bが、剛性を有したものであり、前記座4の前部領域8を前記フレーム3A、3Bに対して前後方向に相対傾動しないように支持させ、前記座4の後部領域9に荷重を作用させた場合にだけ前記フレーム3A、3Bに対して当該後部領域9が沈み込むようにしているので、前記フレーム3A、3Bが前記座4の後部領域8の沈み込み動作を制御する受止め部としての役割を担うこととなる。すなわち、フレーム3A、3Bの後部分93における傾斜部分90に沿って座フレーム4A、4Bが弾性変形するので、座4が必要以上に傾くことを防止でき、着座者に安心感を与えることができる。
【0037】
本実施形態の椅子1は、座フレーム4A、4Bに連続させて背フレーム5A、5Bを設けているので、座4と背凭れ5とを一連の傾動動作をさせることができる。すなわち、着座者がリクライニング姿勢をとった際、軸心20よりも後側の領域である座4の後部領域9が下方に弾性変形して沈み込むとともに、この座4の沈み込み動作に伴って背凭れ5も後方に傾動することとなる。なお、本実施形態の座4の後部領域9は、左右の座フレーム4A、4B全体が弾性変形してこの弾性復帰力により自己復帰させするものとしているが、これには限られず、例えば、フレームは剛体で変形しないものとし、座を弾性変形させるための他の復帰機構を設けておき、この復帰機構の働きによって座を弾性変形させるものであってもよい。
【0038】
そして、このような天秤動作は、着座者の体重差の影響をあまり受けることなしに行われる。従来、作業姿勢時の座4の安定性を求めると座4を脚体2で強固に支持することとなり、リクライニング姿勢をとりにくくなるという問題があったが、本実施形態のようなものであれば、座4の後側が下がると前側が上がり、逆に前側が下がって元の位置に戻ると後側が上がって元の位置に戻るというシーソー構造であるため、体重差の影響をあまり受けることなく、リクライニング感を安定して発揮させることができる。
【0039】
また、リクライニング姿勢から安定姿勢に戻る場合には、着座者の荷重が集中する箇所が後部領域9から前部領域8に漸次移動するが、座面がこれに追随して弾性変形するため、座4の後部領域8が着座者の意識に従って通常姿勢方向へと弾性復帰するようになっている。換言すれば、再び作業姿勢に戻る際には、着座者の荷重の重心が座2の前部領域5へと移動するため、自然に作業姿勢へと移行させることができる。すなわち、この場合にも、着座者の体重の影響をあまり受けることなく、着座者の姿勢変化に座面が自然に追随することとなる。そのため、着座者の意志で座2の傾きを変更できるような感覚が得られる。
【0040】
さらに、本実施形態の椅子1は、回動規制機構6を備えているので、座4が単一の軸心20まわりに回動するように支持されたものであっても、無制限に後方に倒れることが規制され、着座者が安心してリクライニング姿勢をとることができる。
【0041】
また、この椅子1は、着座者が背凭れ5や座4の左右いずれか一方に傾いて凭れた場合には、座4の後部領域9に対応する座フレーム4A、4Bが厚み方向へ弾性変形することにより、凭れた側の背凭れ5及び座4が、反対側の背凭れ5及び座4よりも大きな傾動動作を行って下方に沈み込む。すなわち、左右に傾いて座面や背凭れ面が捩れるとともに、座フレーム4A、4B及び背フレーム5A、5Bがそれぞれ左右で独立して後傾することができる。そのため、着座者の後方左右への傾動動作に座4及び背凭れ5が容易に追随し得る。換言すれば、左右のフレーム3A、3Bが左右同一の角度で天秤動作可能であるとともに、座フレーム4A、4Bの後側がそれぞれ独立して前後方向に弾性変形可能であるため、左右方向に傾きながら前後方向にも沈み込み動作を行うことも容易にできる。特に、この椅子1は、座4の前後方向中央部分を中心として天秤動作を行うものであるので、座4の後部領域9のうち特に後端部分の沈み込み量を大きくすることができる。
【0042】
この椅子1は、前記左右のフレーム3A、3Bを一挙に前方に回動付勢する復帰機構7を備えているので、座4の後方への傾きを一定量に規制することができる。特に、本実施形態では、復帰機構7が、一端71を前記左右のフレーム3A、3Bに連続させるとともに、他端72を前記脚体2に支持させた単一の樹脂ばね73を備えたものであるので、この復帰機構7が座4の下面側に配されることとなり、椅子1全体の美観を良くすることができる。また、この樹脂ばね73は、座面に荷重がかかっていない無負荷状態での座4の位置を決めるための位置決め機構としての役割も兼ね備えている。
【0043】
また、左右の座フレーム4A、4B及び左右の背フレーム5A、5Bが合成樹脂によって形成されており、これらの左右フレーム4A、4B及び左右の背フレーム5A、5B自体が弾性変形するので、着座者の荷重のかけ方によって左右に偏って後傾動作可能である。
【0044】
なお、本発明は以上に述べた実施形態に限られない。
【0045】
回動規制機構は、本実施形態に示したものに限られず、形状及び寸法も種々変更可能である。回動規制機構の他の例としては、図8に示すような複数の離間した突部間に設けられる凹部を備えたものが挙げられる。図8では、上述した実施形態に対応する部分には同じ符号を付した上で、詳細な説明を省略する。さらに、支基側に突部を設け、フレーム側に凹部を設けたものであってもよい。また、凹部は、有底の孔状のものに限られず、貫通孔状のものや、複数の離間した突部間に設けられる隙間等であってもよい。
【0046】
また、座支持部たる左右のフレームは、図9及び図10に示すように、該左右のフレーム3A、3Bの天秤動作による回動範囲を越えて、前記軸心20よりも後の部分が、軸心20よりも前の部分に対して自らの変形によって下方に沈み込み可能に構成されたものであってもよい。図9及び図10では、上述した実施形態に対応する部分には同じ符号を付した上で、詳細な説明を省略する。ここで、図9では、執務姿勢時にとられる初期状態(f)を実線で示すとともに、天秤動作による回動範囲を超えて座4の後部領域9が前部領域8に対して沈み込む状態(説明の便宜のため、天秤動作は行われていない前提の図である)を二点差線で示している。また、図10では、リクライニング姿勢時にとられる天秤動作とこの天秤動作による回動範囲を超えて座4の後部領域9が沈み込む動作が同時に行われる沈下状態(s)を実線で示すとともに、初期状態(f)を二点鎖線で示している。図9及び図10に示す椅子1は、前記座支持部たる左右のフレーム3A、3Bが、弾性変形可能なものであり、該左右のフレーム3A、3Bの天秤動作による回動範囲を越えて、前記座4の後部領域9に対応する後部分が、座4の前部領域8に対応する前部分に対して自らの変形によって下方に沈み込み可能に構成されたものである。すなわち、座4の後部領域9もフレーム3A、3Bによって支持しており、具体的には、初期状態(f)でフレーム3A、3Bの後部分を座4の座フレーム4A、4Bの下面と当接させている。このようなものであれば、本実施形態の効果に準じた効果が得られる。また、このように座支持部も弾性変形する場合には、適宜の箇所に座支持部の下限位置を決めるためのストッパを設けることが好ましい。
【0047】
座支持部は、フレーム状のものに限られず種々変更可能であるが、座の前部領域における前縁側を左右に亘って支持するとともに後縁側を左右方向中央付近でのみ支持しているものであれば、座の後端部側を左右方向に傾斜させやすい。そのため、着座者の身体のひねり動作に追随するものとすることができる。また、座支持部から一体的に設けられる固定アームは、フレームと一体に設けられてもよいし、フレームと別体のもので形成してもよい。また、この固定アームは、座支持部の垂直方向に延出するものの他、側面視斜め方向に延出したものであってもよい。すなわち、固定アームにおける支軸に取り付けられる位置と座支持部に連続する位置とは、前後方向に異なるものであってもよい。
【0048】
左右の背フレームは、横架材により連結されたものであってもよい。この横架材は、左右の背フレームが異なった角度に傾動することを許容し得るような弾性を有しているものが好ましい。
【0049】
軸は、軸心が単一で左右方向に延びるものであればどのようなものであってもよく、本実施形態のように左右に離間して設けられたものに限られないが、支軸が左右に離間したものであれば、支基やフレームに一体に成形することができるため、部品点数の削減や工数の削減を図ることができる。一方、支軸が、左右方向に連続するものであれば、支軸でも着座者の荷重を分担することができるため、椅子の剛性を高めることができる。すなわち、支軸が左右に離間したものであると、片持ち支持された先端に支軸を設けることとなるので、強度を保つことが難しいが、支軸を左右方向に連続する1本の軸で構成すれば、支軸自体の剛性を高めることができ、軸心を左右で安定させることができる。なお、支軸は、上述した実施形態では、脚側の部材に一体に形成していたが、これにかぎられず、例えば、フレーム側の部材に一体に形成したり、支軸を脚やフレームとは別体のもので構成してもよい。
【0050】
復帰機構は、上述した樹脂ばねの他に、金属製のコイルばねや板ばね等を用いてもよい。また、復帰機構の取り付け位置も、座の前部、中央部、後部のどの位置に取り付けてもよい。例えば、復帰機構を座の前部に取り付ける場合であっても、本実施形態で示した樹脂ばねの一端の位置を変える等して反発力を調整する等種々変更可能である。すなわち、樹脂ばねの一端と、この樹脂ばねの他端が取り付けられている脚体との全長距離を短く設定したり、長く設定したりすることもできる。
【0051】
また、前記左右のフレーム3A、3Bは異なった角度に傾動するものであってもよい。この場合には、これら左右のフレーム間に設けられる横架材が、左右のフレーム3A、3Bが異なった角度に傾動することを許容し得るような弾性を有するものとするのが好ましい。このようなものであれば、着座者が右方向に傾いた状態でリクライニング動作を行うと右のフレーム3Aが左のフレーム3Bに比べてより大きく天秤動作を行うこととなり、座4の後部領域9の右側の沈み込み量が左側の沈み込み量よりも大きくすることができる。同様に、着座者が左方向に傾いた状態でリクライニング動作を行うと左のフレーム3Bが右のフレーム3Aに比べてより大きく天秤動作を行うこととなり、座4の後部領域9の左側の沈み込み量が右側の沈み込み量よりも大きくすることができる。
【0052】
その他、本発明の趣旨を損ねない範囲で種々に変更してよい。
【符号の説明】
【0053】
1…椅子
2…脚体
20…軸心
3A、3B…フレーム
4…座
6…回動規制機構
7…復帰機構
8…前部領域
9…後部領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脚体と、この脚体に支持された座支持部と、この座支持部に位置付けられた座とを具備してなる椅子であって、
前記座支持部が、左右方向に延びる単一の軸心まわりに一体的に天秤動作し得るように脚体に枢支されたものであり、前記座支持部の天秤動作を一定の範囲内に規制する回動規制機構を備えており、前記座が、前記座支持部の天秤動作による回動範囲を越えて、その前部領域に対して後部領域が弾性変形により下方に沈み込み可能に構成されていることを特徴とする椅子。
【請求項2】
前記座支持部が、剛性を有したものであり、前記座の前部領域を前記座支持部に対して前後方向に相対傾動しないように支持させ、前記座の後部領域に荷重を作用させた場合にだけ前記座支持部に対して当該後部領域が沈み込むようにしている請求項1記載の椅子。
【請求項3】
前記座の後部領域の座面が、当該座の弾性変形により左右方向にも傾くことができるように構成されている請求項1または2記載の椅子。
【請求項4】
前記座が、弾性変形可能な左右のフレーム部間に張地を張設したものであり、前記左右のフレーム部が前記座支持部に対して独立して沈み込むようにしている請求項1、2または3記載の椅子。
【請求項5】
前記座支持部が、弾性変形可能なものであり、該座支持部の天秤動作による回動範囲を越えて、前記座の後部領域に対応する後部分が、座の前部領域に対応する前部分に対して自らの変形によって下方に沈み込み可能に構成されたものである請求項1記載の椅子。
【請求項6】
前記座支持部を前方に回動付勢する復帰機構を備えている請求項1、2、3、4または5記載の椅子。
【請求項7】
前記復帰機構が、前記座支持部を前方に回動付勢する単一の板ばねを主体に構成されたものである請求項6記載の椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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