説明

植物での糖タンパク質生成の改変

改変されたN-グリコシル化プロファイルを有する対象タンパク質を植物、植物の部分又は植物細胞で合成する方法が提供される。前記方法は、ベータ-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ(GalT)の触媒ドメインと融合したN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GNT1)のCTSドメインを含むハイブリッドタンパク質(GNT1-GalT)をコードする第一のヌクレオチド配列(植物中で活性な第一の調節領域と機能的に連結されている)及び対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列(植物中で活性な第二の調節領域と機能的に連結されている)をコードするヌクレオチド配列を植物で同時発現させる工程を含む。前記第一及び第二のヌクレオチド配列を同時発現させて、改変されたN-グリコシル化プロファイルを有するグリカンを含む対象タンパク質を植物、植物の部分又は植物細胞で合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物での糖タンパク質の生成を改変する方法に関する。本発明はまた、糖タンパク質生成が改変された植物を提供する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリン(IgG)は、多様な性質を有するその特異的抗原対応物に対して特徴的な親和性を有する複雑なヘテロマルチマータンパク質である。今日、IgG産生細胞株の日常的な単離、並びにIgG誘導進化及び分子操作のための技術の出現は、生物性治療薬として及び一般ライフサイエンス市場におけるIgGの展開に重大な影響を及ぼした。治療用モノクローナルIgG(モノクローナル抗体、mAb)は、現在の新規な抗炎症薬及び抗癌薬の市場で優勢であり、さらに何百もの新規な候補物質が、改善された適用又は新規な適用のために現時点で研究及び臨床開発下にある。mAbの市場における年間需要は、数グラム(診断薬)、数キログラム(抗毒素)から百又は数百キログラム(生物防衛、抗癌、抗感染、抗炎症)の範囲である。
CHO細胞株は、今もなお好ましいmAbの産業規模での生成宿主であるが、mAbがライフサイエンス市場でそれらの完璧な効果に達するためには、また別の生産系を開発する必要があることは一般的に理解されている。なぜならば、これらの培養に必要な施設は規模の調節が容易ではなく、それらの構築及び維持コストは極めて高価で、さらに着実に増加しつつあり、GMP基準下でのそれらの実証には構築後なお平均3年を要するからである。初期開発期においてすら、許容可能な収量及び生産性を有するCHO細胞株の選択が、コストのかかる長期に及ぶプロセスであることに変わりはない。上流でのコストを削減させえる新規な生産系(より高収量、より単純な技術及び基盤組織)がリードタイムを短縮し、能力をより柔軟にし、一方で従来の細胞培養系における従来の再現性、品質及び安全性特性を充足させる新規な生産系は、ライフサイエンス市場用のmAb及びワクチンの開発に対し全開発ステージでおそらく大きな影響をもつであろう。
植物は、mAb及びライフサイエンスでこれまで利用されてきたいくつかの他のタンパク質の製造に適した宿主である(最近の概説として以下を参照されたい:Ko and Koprowski 2005;Ma et al. 2005;Yusibov et al. 2006)。mAbは、安定なトランスジェニック植物株で新鮮重量(FW)1kg当たり200mgもの収量で、さらに一過性発現では20mg/kgFWもの割合で生産されている(Kathuria, 2002)。Giritchら(2006)は、IgGについて、葉の重量1kgにつき200−300mgの発現レベルを報告し、多重ウイルス系の一過性発現系を用いた場合の引用最大例は500mg/kgであった。
植物と哺乳動物のN-グリコシル化プロセスは異なる。哺乳動物細胞におけるN-グリコシル化の後期工程では、β1,4ガラクトース、α1,6フコース(ベータ-1,4ガラクトース、アルファ-1,6フコース)及び末端シアリン酸残基が複合グリカンに付加される。しかしながら植物では、β1,3ガラクトース、α1,3フコース(ベータ-1,3ガラクトース、アルファ-1,3フコース)、α1,4フコース及びβ1,2キシロース(アルファ-1,4フコース及びベータ-1,2キシロース)残基が付加される。アルファ-1,3フコース及びβ1,2キシロースはいくつかの植物アレルゲンの糖エピトープの構成成分であり、これらの残基は潜在的に免疫原性であると考えられるので、治療用タンパク質(抗体を含む)にそれらが存在することは望ましくない。
【0003】
ペプチドのC-末端へのKDEL配列の付加は、典型的にはゴルジからERへのペプチドの回収を担保するために用いられる。このアプローチは、タバコの葉のアグロバクテリア浸透を利用して非フコシル化及び非キシロシル化抗体を生成するために用いられた(Sriraman et al. 2004)。しかしながら、付加されたKDELペプチドは潜在的に免疫原性であり、このアプローチは治療用タンパク質の製造については応用性が限定される。
α1,3フコース(アルファ-1,3フコース)及びβ1,2キシロース(β-1,2キシロース)付加の制御はまた、フコシルトランスフェラーゼ及びキシロシルトランスフェラーゼの発現の改変によって達成された。α1,3フコース及びβ1,2キシロースを複合グリカンに付加する能力を欠く変異体がコケ(Physcomitrella patens;Koprivova et al. 2004)及びシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)(Strasser et al. 2004)で作製された。植物のフコシルトランスフェラーゼ及びキシロシルトランスフェラーゼ発現の部分的阻害はまた、レムナ・マイナー(Lemna minor)(Cox et al. 2006)においてα1,3フコシルトランスフェラーゼ及びβ1,2キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子に誘導される干渉RNA(RNAi)の発現によって達成された。しかしながら、これら酵素活性の完全な阻害はいくつかの植物種に対して有害な作用を有する。なぜならば、それらは、重要な発育事象(例えば花粉形成又は種子の結実)を妨げるからである。RNAiによって誘発されるmRNAの特異的分解は長時間にわたっては安定ではない可能性があり、治療薬製造に用いられる広範囲の植物系プラットフォームには適用できないかもしれない。なぜならば、前記は環境因子に対して感受性を有すると報告されているからである。
WO03/078637は、植物グリカンで末端β1,4ガラクトース(GalT)の付加を触媒するためにヒトガラクトシルトランスフェラーゼの使用を開示している。GalTの発現、及びキシロシルトランスフェラーゼトランスメンブレンドメインとの融合を利用することによるcis-ゴルジへのその活性の誘導は、末端ガラクトースの付加及び植物特異的残基を保持するN-グリカンの減少をもたらす(以下もまた参照されたい:Bakker et al. 2006)。組換えIgGを含む植物とこれらの植物を交配することによって、フコース及びキシロースを含むグリカンの顕著であるが変動が認められる低下が生じた。
ベータ-1,4-結合N-アセチルグルコサミン(GlnNAc)残基のベータ-結合マンノースへの結合による二分GlnNacの生成は、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnT-III;EC2.4.1.144)によって触媒される。この酵素の植物への導入は既に報告されており(Rouwendal et al. 2007)、GnT-IIIを発現する植物は、二分され、2つのGlnAc残基を保持する複合N-グリカンを有するタンパク質を含んでいた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、植物の糖タンパク質生成を改変する方法に関する。本発明はまた糖タンパク質生成が改変された植物を提供する。
本発明の目的は、植物での糖タンパク質生成を改変す改善方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書では、配列番号:17のヌクレオチド1−1077(GNT1-GalT;図5d)を含むか、又は、以下のパラメータ(プログラム:blastn;データベース:nr;期待値10;フィルター:低複雑度;アラインメント:ペア毎;ワードサイズ:11)を用いて測定したとき、配列番号:17のヌクレオチド1−1077と約80%から100%の同一性を示すヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列(A)を有する核酸が提供され、前記ヌクレオチド配列は、対象タンパク質のグリコシル化を改変するタンパク質をコードする。
さらにまた、配列番号:14のヌクレオチド5−1198(GalT)を含むか、又は、以下のパラメータ(プログラム:blastn;データベース:nr;期待値10;フィルター:低複雑度;アラインメント:ペア毎;ワードサイズ:11)を用いて測定したとき、配列番号:14のヌクレオチド5−1198と約80%から100%の同一性を示す配列を含む第一の核酸配列を含むヌクレオチド配列(B)を有する核酸が提供され、前記第一の核酸配列は、対象タンパク質のグリコシル化を改変するタンパク質をコードし、さらに前記第一の核酸配列は、35S又はプラストシアニンプロモーターを含む第二の核酸配列と機能的に連結される。
本発明は、配列番号:26のヌクレオチド1−1641(GNT1-GnT-III)を含むか、又は、以下のパラメータ(プログラム:blastn;データベース:nr;期待値10;フィルター:低複雑度;アラインメント:ペア毎;ワードサイズ:11)を用いて測定したとき、配列番号:26のヌクレオチド1−1641と約80%から100%の同一性を示すヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列を有する核酸を開示し、前記ヌクレオチド配列は、対象タンパク質のグリコシル化を改変するタンパク質をコードする。
【0006】
さらにまた、配列番号:16のヌクレオチド1−1460(GnT-III)を含むか、又は、以下のパラメータ(プログラム:blastn;データベース:nr;期待値10;フィルター:低複雑度;アラインメント:ペア毎;ワードサイズ:11)を用いて測定したとき、配列番号:16のヌクレオチド1−1460と約80%から100%類似の配列を含む第一の核酸配列を含むヌクレオチド配列を有する核酸が開示され、前記第一の核酸配列は、対象タンパク質のグリコシル化を改変するタンパク質をコードし、前記第一の核酸配列は、35S又はプラストシアニンプロモーターを含む第二の核酸配列と機能的に連結される。
さらにまた、上記に記載したヌクレオチド配列(A)、(B)、(C)又は(D)を含む植物、植物細胞又は種子が提供される。
本発明はまたハイブリッドタンパク質GNT1-GalTに関し、前記は、ベータ-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼの触媒ドメインと融合したN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼのCTSドメインを含み、さらに配列番号:18の配列を含む。配列番号:18のアミノ酸配列は配列番号:17のヌクレオチド配列によってコードされえる。前記記載のハイブリッドタンパク質を含む植物、植物細胞又は種子もまた提供される。配列番号:17のヌクレオチド配列を含む核酸を含む植物、植物細胞又は種子もまた提供される。
本発明にはハイブリッドタンパク質GNT1-GnT-IIIが含まれ、前記は、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIIIの触媒ドメインと融合したN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼのCTSドメインを含み、さらに配列番号:20のアミノ酸配列を含む。配列番号:21のアミノ酸配列は配列番号:26のヌクレオチド配列によってコードされえる。前記記載のハイブリッドタンパク質を含む植物、植物細胞又は種子もまた提供される。配列番号:26のヌクレオチド配列を含む核酸を含む植物、植物細胞又は種子もまた提供される。
【0007】
本発明にしたがえば、植物又は植物の部分内で、ベータ-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ(GalT)の触媒ドメインと融合されたN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GNT1)のCTSドメインを含むハイブリッドタンパク質GNT1-GalTをコードする第一のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な第一の調節領域と機能的に連結された第一のヌクレオチド配列、及び対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な第二の調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列を発現させる工程、並びに第一及び第二のヌクレオチド配列を発現させて、改変されたN-グリコシル化を有するグリカンを含む対象タンパク質を合成する工程を含む、対象のタンパク質を合成する方法(1)が提供される。
上記に記載の第一のヌクレオチド配列及び第二のヌクレオチド配列は植物で一過性に発現させてもよいが、またそれらは安定的に発現させてもよい。さらにまた、第一の調節領域は第一の組織特異的プロモーターで、第二の調節領域は第二の組織特異的プロモーターであってもよい。第一及び第二の組織特異的プロモーターはプラストシアニンプロモーターであってもよい。
本発明はまた対象タンパク質を合成する方法(2)を提供する。前記方法は上記に記載したとおりであるが(方法1)、ここで前記対象タンパク質は抗体であってもよい。対象タンパク質が抗体である場合、対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列は、植物中で活性な調節領域2Aと機能的に連結されたヌクレオチド配列2A、及び植物中で活性な調節領域2Bと機能的に連結されたヌクレオチド配列2Bを含み、2A及び2Bの各々によってコードされた生成物が結合して抗体を生成する。調節領域2Aはプラストシアニンプロモーターであってもよく、調節領域2Bはプラストシアニンプロモーターであってもよい。
【0008】
本発明はまた、第三のヌクレオチドが植物で発現される、上記に記載の方法(1)又は(2)を提供する。前記第三のヌクレオチド配列はサイレンシングのサプレッサーをコードし、植物中で活性な第三の調節領域と機能的に連結される。サイレンシングのサプレッサーをコードする前記第三のヌクレオチド配列は、例えば、HcPro、TEV-p1/HC-Pro、BYV-p21、TBSV p19、TCV-CP、CMV-2b、PVX-p25、PVM-p11、PVS-p11、BScV-p16、CTV-p23、GLRaV-2p24、GBV-p14、HLV-p10、GCLV-p16、又はGVA-p10であってもよい。第三の組織特異的プロモーターはプラストシアニンプロモーターであってもよい。
本発明は、改変グリコシル化パターンを含む対象タンパク質の植物での発現を駆動する植物発現系を提供する。例えば、対象タンパク質は、フコシル化、キシロシル化、又はフコシル化及びキシロシル化の両方が低下したN-グリカンを含むことができる。また別には、対象タンパク質は改変されたグリコシル化パターンを含んでもよく、この場合前記タンパク質はフコシル化残基、キシロシル化残基、又はフコシル化及びキシロシル化両残基を欠き、さらにガラクトシル化の増加を示す。さらにまた、野生型植物で生成された同じ対象タンパク質と比較したとき、対象タンパク質のフコシル化及びキシロシル化の低下又は排除をもたらす末端ガラクトースが添加されてもよい。
【0009】
本発明は、N-グリコシル化プロファイルが改変された対象タンパク質を合成する方法であって、植物、植物の部分又は植物細胞内で、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnT-III)の触媒ドメインと融合されたN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GNT1)のCTSドメインを含むハイブリッドタンパク質GNT1-GnT-IIIをコードする第一のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な第一の調節領域と機能的に連結された第一のヌクレオチド配列、及び対象のタンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な第二の調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列を同時発現させる工程、並びに第一及び第二のヌクレオチド配列を同時発現させて、N-グリコシル化プロファイルが改変されたグリカンを含む対象タンパク質を合成する工程を含む、方法(3)を提供する。
上記(方法3)に記載の第一のヌクレオチド配列及び第二のヌクレオチド配列は植物で一過性に発現させてもよいが、またそれらは安定的に発現させてもよい。さらにまた、第一の調節領域は第一の組織特異的プロモーターであってもよく、第二の調節領域は第二の組織特異的プロモーターであってもよい。第一及び第二の組織特異的プロモーターの各々はプラストシアニンプロモーターであってもよい。
さらにまた、N-グリコシル化プロファイルが改変された対象タンパク質を合成する方法であって、植物、植物の部分又は植物細胞内で、ベータ-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ(GalT)の触媒ドメインと融合されたN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GNT1)のCTSドメインを含むハイブリッドタンパク質GNT1-GalTをコードする第一のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な第一の調節領域と機能的に連結された第一のヌクレオチド配列、ベータ-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼをコードする第二のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な第二の調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列、及び対象のタンパク質をコードする第三のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な第三の調節領域と機能的に連結された第三のヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列を同時発現させる工程、並びに第一、第二及び第三のヌクレオチド配列を同時発現させて、N-グリコシル化プロファイルが改変されたグリカンを含む対象のタンパク質を合成する工程、を含む方法(4)が提供される
上記(方法4)に記載の第一のヌクレオチド配列及び第二のヌクレオチド配列は植物で一過性に発現させてもよいが、またそれらは安定的に発現させてもよい。さらにまた、第一の調節領域は第一の組織特異的プロモーターであってもよく、第二の調節領域は第二の組織特異的プロモーターであってもよい。第一及び第二の組織特異的プロモーターの各々はプラストシアニンプロモーターであってもよい。
【0010】
本発明は、N-グリコシル化プロファイルが改変された対象タンパク質を合成する方法であって、植物、植物の部分又は植物細胞内で、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnT-III)の触媒ドメインと融合したN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GNT1)のCTSドメインを含むハイブリッドタンパク質GNT1-GnT-IIIをコードする第一のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な第一の調節領域と機能的に連結された第一のヌクレオチド配列、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIIIをコードする第二のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な第二の調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列、及び対象のタンパク質をコードする第三のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な第三の調節領域と機能的に連結された第三のヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列を同時発現させる工程、及び第一、第二及び第三のヌクレオチド配列を同時発現させて、N-グリコシル化プロファイルが改変されたグリカンを含む対象タンパク質を合成する工程、を含む方法(5)を開示する。
上記の方法5に記載した第一のヌクレオチド配列、第二のヌクレオチド配列及び第三のヌクレオチド配列は植物で一過性に発現させてもよいが、またそれらは安定的に発現させてもよい。さらにまた、第一、第二、第三の調節領域は組織特異的プロモーターであってもよい。例えば、前記組織特異的プロモーターの各々はプラストシアニンプロモーターであってもよい。
本明細書に開示した方法にしたがえば、対象のタンパク質は、したがって高収量の製造が可能であり、さらに過敏反応に関与するか、そうでなければアレルギー反応に関与することが判明しているグリカンを欠落させることができる。これは、糖操作酵素を対象タンパク質と一緒に同時発現させることによって達成され、これによって、野生型植物で生成される対象タンパク質よりも免疫原性が低下したタンパク質の生成がもたらされる。
【0011】
本明細書に開示するように、一過性発現系を用いて対象タンパク質生成用単純化発現系を利用することができるが、しかしながら、本方法はまた安定的な形質転換系とともに用いることができる。本発明はしたがって一過性発現系に限定されない。
一過性同時発現系を用いることによって、本明細書に記載した系は、極めて長い製造時間、並びにえり抜きの変異体又は糖操作トランスジェニック株の選別プロセス及びそれらの親株としてのその後の使用(例えばBakkerら(2005)に記載されたようなもの)を必要としない。本発現系はまた、変異体又は糖操作植物でしばしば遭遇し、同時に発生する生産性、花粉生産、種子の結実(Bakker et al. 2005)及び生存率(Boisson et al. 2005)に関する問題を回避する。本明細書に開示するように、対象タンパク質と改変キメラヒトガラクトシルトランスフェラーゼとの同時発現は、生成動力学又は収量に対して全く影響を与えなかった。
本明細書に開示した一過性発現系は、新鮮な葉の重量1kg当たり高品質の抗体1.5gに達する発現レベルをもたらし、他の発現系(多重ウイルスベースの系及びトランスジェニック植物を含む)を含む植物でいずれかの抗体に関して報告された蓄積レベルを凌駕する。
本明細書に開示したアプローチ(例えばGalT又はGalT-GNT1の発現を必要とする)はまた安定的に形質転換した植物とともに利用されえる。一過性発現では上記に記載した多くの利点が示されるが、一方、本発明は一過性発現に限定されない。
本発明の上記の要旨は必ずしも本発明のすべての特徴を記述しているわけではない。
本発明のこれらの特徴及び他の特徴は、添付の図面に言及する以下の記述からいっそう明白となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1Aは、C5-1発現のために組み立てたプラストシアニン系カセットを示す。R610はC5-1 LC及びC5-1 HC-KDELをコードするヌクレオチド配列を含み、R612はC5-1 LC及びC5-1 HCをコードするヌクレオチド配列を含む。C5-1 LC:C5-1軽鎖コード配列;C5-1 HC:C5-1重鎖コード配列。
【図1B】図1Bは、プラストシアニンプロモーター及び5'UTR(配列番号:23)のためのヌクレオチド配列を示し、転写開始部位は太字で示され、翻訳開始コドンには下線が付されている。
【図1C】図1Cは、プラストシアニン3'UTR及びターミネータ(配列番号:24)のためのヌクレオチド配列を示し、停止コドンには下線が付されている。
【図2】図2は、R610及びR612(プラストシアニン系カセット)を浸透させたニコチアナ・ベンタミアナ(Nicotiana benthamiana)の葉における、サイレンシングサプレッサーHcProを同時発現させたとき又は同時発現させなかったときのC5-1抗体の蓄積を示す。提示した値は、3つの植物(注射筒)についての6回の測定、又は約12の植物(250g)を含む個々の浸透バッチについての6回の測定から得た平均蓄積レベル及び標準偏差に対応する。
【図3A】図3は、注射筒浸透及び真空浸透植物の抽出物におけるC5-1蓄積のタンパク質ブロット分析を示す。図3Aは、R612(分泌用、レーン1)又はR610(ER-保持用、レーン2)を浸透させた植物の抽出物に対して、ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG(H+L)を用いたイムノブロッティングを示す。C1:100ngの市販ネズミIgG1(Sigma M9269)、電気泳動移動度のためのコントロールとしてローディング;C2:擬似(空ベクター)浸透バイオマスから抽出した全タンパク質12μg;C3:擬似(空ベクター)浸透バイオマスから抽出した全タンパク質12μg中でスパイクされた100ngの市販ネズミIgG1(Sigma M9269)。
【図3B】図3Bは、R612(分泌用、レーン1)又はR610(ER保持用、レーン2)を浸透させた植物の抽出物における、ペルオキシダーゼ結合ヒトIgG1によるイムノブロッティング活性を示す。C1:ハイブリドーマから精製した2μgのコントロールC5-1(Choudi et al. 1997);C2:擬似(空ベクター)浸透バイオマスから抽出した75μgの全タンパク質。
【図4A】図4は、R612(分泌用、レーン1)又はR610(ER保持用、レーン2)のどちらかを浸透させた植物から精製した抗体の分析を示す。図4Aは、非還元条件で実施した、粗抽出物及び精製抗体のSDS-PAGEを示す。
【図4B】図4Bは、還元条件下で実施した、粗抽出物及び精製抗体のSDS-PAGEを示す。
【図4C】図4Cは、ペルオキシダーゼ結合ヒトIgG1を用いて実施した精製抗体のイムノブロッティング活性を示す。
【図4D】図4Dは、種々の浸透バッチに由来する精製C5-1の6ロットにおける夾雑物の比較を示す。C:2.5μgの市販ネズミIgG1(Sigma M9269)、電気泳動移動度のためのコントロールとしてローディング。
【図5A】図5Aは、ガラクトシルトランスフェラーゼ発現の天然型(R622)及びハイブリッド型(R621)のために組み立てたカセット例を示す。GNTI-CTS:N-アセチルグルコース-アミニルトランスフェラーゼIのCTSドメイン;GalT-Cat:ヒトβ1,4ガラクトシルトランスフェラーゼの触媒ドメイン;GalT(R622のGalT):ヒトβ1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ。
【図5B】図5Bは、GalT(UDP-Gal:ベータGlcNacベータ1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼポリペプチド1、ベータ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼI)のヌクレオチド配列(配列番号:14)を示す。ATG開始部位は下線を付され、トランスメンブレンドメインは下線を付されイタリック体であり、太字の配列はヒトベータ1,4GalTの触媒ドメインに該当し、FLAGエピトープはイタリック体である。
【図5C】図5Cは、GalT(UDP-Gal:ベータGlcNacベータ1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼポリペプチド1、ベータ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼI)のアミノ酸配列(配列番号:15)を示す。トランスメンブレンドメインは下線を付されイタリック体であり、太字の配列はヒトベータ1,4GalTの触媒ドメインに該当し、FLAGエピトープはイタリック体である。
【図5D】図5Dは、GNTIGalTのヌクレオチド配列(配列番号:17)を示す。ATG開始部位は下線を付され、トランスメンブレンドメイン(CTS)は下線を付されイタリック体であり、太字の配列はヒトベータ1,4GalTの触媒ドメインに該当し、FLAGエピトープはイタリック体である。
【図5E】図5EはGNTIGalTのアミノ酸配列(配列番号:18)を示す。トランスメンブレンドメイン(CTS)は下線を付されイタリック体であり、太字の配列はヒトベータ1,4GalTの触媒ドメインに該当し、FLAGエピトープはイタリック体である。
【図5F】図5Fは、N-アセチルグルコサミントランスフェラーゼのCTSドメイン(細胞質テール、トランスメンブレンドメイン、幹領域)のヌクレオチド配列(GNT1;配列番号:21)を示す。
【図5G】図5GはCTSのアミノ酸を示す(配列番号:22)。
【図5H】図5Hは、GntI-GntIIIのアミノ酸配列を示す(配列番号:26)。
【図5I】図5Iは、GntI-GntIIIのアミノ酸配列を示す(配列番号:20)。
【図5J】図5Jは、GntIIIの核酸配列(配列番号:16)を示す。
【図5K】図5Kは、GntIII(配列番号:19)のアミノ酸配列を示す。
【図6】図6は、タンパク質染色又はウェスタン分析のどちらかを実施した、C5-1発現植物から得られた抽出物のプロファイルを示す。一番上のパネルはクマシー染色PAGEゲルを示す。上から二番目のパネルは、β1,4ガラクトースと特異的に結合するエリスリナ・クリスタガリ(Erythrina cristagali)アグルチニン(ECA)を用いた親和性検出を示す。上から三番目のパネルは抗α1,3フコース抗体を用いたウェスタンブロット分析を示す。一番下のパネルは抗β1,2キシロース特異的抗体を用いたウェスタンブロット分析を示す。R612:単独発現C5-1;R612+R622:GalTと同時発現させた(同時浸透させた)C5-1;R612+R621:GNT1-GalTと同時発現させたC5-1。
【図7A】図7は、一連の構築物を注射筒浸透させた、ニコチアナ・ベンタミアナ植物から単離したC5-1のトリプシン消化糖ペプチドEEQFNSTFR(配列番号:13)のN-グリコシル化測定のためのMALDI-TOF質量分析を示す。糖ペプチドのN-グリコシル化は、調製用HPLCによる分離後に測定した。同様な結果が真空浸透後に得られた。図7Aは、R612(C5-1;図1参照)の発現後のトリプシン消化糖ペプチドのMALDI-TOF質量分析を示す。
【図7B】図7Bは、天然のGalT(R622、図5参照)と一緒にC5-1(R612、図1参照)を発現させた後のトリプシン消化糖ペプチドのMALDI-TOF質量分析を示す。
【図7C】図7Cは、GNT1GalT(R621、図5参照)と一緒にC5-1(R612、図1参照)を発現させた後のトリプシン消化糖ペプチドのMALDI-TOF質量分析を示す。図7C挿入図は、スペクトルのm/z 2650−2800の拡大図に該当し、R612植物で検出された主要錯イオンJが存在しないことを示す。A:GlcNAcMan3GlcNAc2;B:Man5GlcNAc2;C:GalGlcNAcMan3GlcNAc2;D:GlcNAc2Man3GlcNAc2;E:Man6GlcNAc2;F:GalGlcNAcMan3(Xyl)GlcNAc2;G:GlcNAcMan5GlcNAc2;H:GlcNAc2Man3(Fuc)GlcNAc2;I:Man7GlcNAc2;J:GlcNAc2Man3(Xyl)(Fuc)GlcNAc2;K:GalGlcNAcMan5GlcNAc2;L:Man8GlcNAc2;M: Man9GlcNAc2
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、植物で糖タンパク質生成を改変する方法に関する。本発明はまた、糖タンパク質生成が改変された植物を提供する。
本発明は、植物で対象タンパク質の発現を駆動する植物発現系を開示する。記載の発現系を用いて、改変されたグリコシル化パターンを含む(例えばフコシル化、キシロシル化又はフコシル化とキシロシル化の両方が低下したN-グリカンを有する)対象タンパク質を得ることができる。また別には、改変されたグリコシル化パターンを含む対象タンパク質であって、フコシル化、キシロシル化又はその両方を欠き、かつガラクトシル化を含むタンパク質が得られ得る。さらにまた、本明細書に記載するように、翻訳後修飾の調整、例えば末端ガラクトースの添加は、発現された対象タンパク質のフコシル化及びキシロシル化の低下をもたらす。例えば、野生型植物で生成される同じ対象タンパク質と比較したとき、対象タンパク質は、10%未満のフコシル化及びキシロシル化(すなわちN-グリカン残基の10%未満がフコシル化及びキシロシル化されている)、又は5%未満のフコシル化及びキシロシル化(N-グリカン残基の5%未満がフコシル化及びキシロシル化されている)、1%未満のフコシル化及びキシロシル化(N-グリカン残基の1%未満がフコシル化及びキシロシル化されている)を含むことができ、約0.1から約2%のN-グリカン残基がフコシル化及びキシロシル化され、約0.5から約1.5%のN-グリカン残基がフコシル化及びキシロシル化され、約0.7から約1.0%のN-グリカン残基がフコシル化及びキシロシル化される。したがって対象タンパク質は高収量生産が可能であり、過敏反応を惹起するか、あるいはアレルギー反応に中心的に関与する可能性があるグリカンを欠落させることができる。
【0014】
発現される対象タンパク質の非限定的な例には複合タンパク質(例えば抗体)が含まれる。アグロバクテリア浸透植物(例えばニコチアナ・ベンタミアナ)でのそのような複合タンパク質の発現によって、1.5g/kgFW(ほぼTSPの25%)に達するタンパク質レベルが得られる。558及び757mg/kg/FWの平均レベルが、それぞれ対象タンパク質の分泌型及びER保持型について得られた。非限定的な例を提供すれば、この発現レベルは、抗体の場合、多重ウイルスの一過性発現系(Giritch et al. 2006)を用いて生成される抗体の場合よりも3倍高い発現レベルで得られた。
植物と典型的哺乳動物のN-グリコシル化における相違の影響が、治療薬製造ために植物を使用するという考え方についての主要な懸念であった。植物特異的グリカンの存在は、血流中での植物生成タンパク質の半減期の短縮の原因となりえるか、又は前記グリカンが患者で過敏反応を惹起する可能性がある。
植物で生成される糖タンパク質におけるコアα1,3フコース及びβ1,2キシロースの存在は、それらはまたいくつかの植物アレルゲンで見出されるので、製造業界では規制上の問題と理解される。さらにまた、CHO細胞由来のIgGで見出されるコアフコースの除去は(1,6フコースの除去でさえ)ADCC活性を高めると報告されている。本明細書に記載した系の特徴は、翻訳後修飾の調整(例えば末端ガラクトースの同時付加並びにフコシル化及びキシロシル化の低下又は阻害(野生型植物で生成された同じタンパク質と比較して))を達成する能力である。また別には、フコシル化の程度を下げながら、ガラクトシル化の量を増加させることができる(繰り返せば野生型植物で生成された同じタンパク質と比較して)。
【0015】
フコシル化、キシロシル化又はガラクトシル化の量の調整は、任意の適切な方法(例えば抗アルファ-1,3フコース抗体の使用によるフコース特異的イムノシグナルの有無(フコシル化)の検出、及び抗ベータ1,2キシロース抗体の使用によるキシロシル化又はキシロース特異的イムノシグナルの有無の検出)を用いて測定することができる(例えば図6に示されている)。また別には、図7に示すように、MALDI-TOF質量分析を用いて、タンパク質又はタンパク質の部分のN-グリコシル化プロファイルを測定してもよい。当業者に公知のタンパク質又はタンパク質の部分のN-グリカンプロファイルを測定する他の方法もまた用いることができる。
下記でさらに詳細に記載されるように、真空利用アグロバクテリア浸透系を用いることが、対象タンパク質(例えば抗体)の生産に、量、品質及び再現性に関して適していることが判明した。測定可能な浸透技術の進展は、小規模パイロットユニットでの1日当たり数グラムの抗体の生産を可能にする(この小規模パイロットユニットは、極めて短時間枠内における臨床試験用材料の製造のために、及び年間数キログラムまでの市場サイズのライセンス製品の供給のために前記のような一過性発現系を使用することを可能にする)。高品質抗体が、浸透処理された葉からただ1回のアフィニティクロマトグラフィー工程後に得られた。しかしながら、本明細書に記載の方法は、安定的に形質転換される植物にも適用しえることは理解されるべきである。
転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)は、植物でのトランスジーンの発現制限に中心的に関与する可能性があり、サイレンシングサプレッサー(例えばジャガイモウイルスY由来のHcPro(ただし前記に限定されない))の同時発現を、トランスジーンmRNAの特異的分解に対抗するために用いることができる(Brigneti et al. 1998)。また別のサイレンシングサプレッサーは当分野で周知であり、本明細書に記載するように用いることができる(Chiba et al. 2006, Virology 346:7-14、前記文献は参照により本明細書に含まれる)。前記は例えば以下である(ただしこれらに限定されない):TEV-p1/HC-Pro(タバコエッチウイルス-p1/HC-Pro)、トマトブシースタントウイルスのBYV-p21、p19(TBSV p19)、トマトクリンクルウイルスのキャプシドタンパク質(TCV-CP)、キュウリモザイクウイルスの2b(VMC-2b)、ジャガイモウイルスXのp25(PVX-p25)、ジャガイモウイルスMのp11(PVM-p11)、ジャガイモウイルスSのp11(PVS-p11)、ブルーベリースコーチウイルスのp16(BScV-p16)、レモントリステキサウイルスのp23(CTV-p23)、ブドウの木のリーフロール関連ウイルス-2(GLRaV-2p24)、ブドウの木のウイルスAのp10(GVA-p10)、ブドウの木のウイルスB(GVB-p14)、ヘラクレウム潜在ウイルスのp10(HLV-p10)、又はニンニクの共通潜在ウイルス(GCLV-p16)。したがって、サイレンシングのサプレッサー、例えばHcPro、TEV-p1/HC-Pro、BYV-p21、TBS p19、TCV-CP、CMV-2b、PVX-p25、PVM-p11、PVS-p11、BScV-p16、CTV-p23、GLRaV-2 p24、BGV-p14、HLV-p10、GCLV-p16、又はGVA-p10(ただしこれらに限定されない)を、GnT-III、GNT1-GnT-III、または前記の組合せと一緒に発現させて、植物における高レベルのタンパク質生産をさらに担保することができる。
【0016】
一過性発現を用いて製造された精製生成物のクマシー染色は、多様な少量の夾雑物の存在を示している。これらのフラグメントは生成物関連であるように思われ、70kDaを超える全ての夾雑物が、活性ブロット(図3B)によって示されるように、少なくとも1つのFabを含んでいた。植物抽出物中に存在する生成物関連夾雑物の実体及び量は、哺乳動物細胞の生産系で観察されたものと類似している。したがって、治療用抗体の精製に典型的に用いられる精製過程(例えば陰イオン交換、アフィニティ及び陽イオン交換)によって、治療用タンパク質のための規制機関が要求する純度が容易に得られる。
本発明は、改変グリコシル化パターンを有することを特徴とする植物で対象タンパク質を合成する方法を提供する。この方法は、ベータ1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ(GalT;配列番号:14)、例えば哺乳動物GalT又はヒトGalT(前記に限定されず、別の供給源のGalTもまた用いることができる)をコードするヌクレオチド配列と一緒に対象タンパク質を同時発現させることを必要とする。GalTの触媒ドメイン(例えば配列番号:14のヌクレオチド370−1194(図5bの太字の配列)又は配列番号:17のヌクレオチド238−1062(図5dの太字の配列))もまた、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼのCTSドメイン(細胞質テール、トランスメンブレンドメイン、幹領域)(GNT1;例えば配列番号:のヌクレオチド34−87を含む;図5d)と融合させ、配列番号:18のアミノ酸12−29(図5e)を含むアミノ酸配列をコードして、GNT1-GalTハイブリッド酵素を作製し、このハイブリッド酵素を対象タンパク質と同時発現させてもよい。さらに、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnT-III;配列番号:16;図5j)、例えば哺乳動物GnT-III又はヒトGnT-III(前記に限定されず、他の供給源のGnT-IIIもまた用いることができる)をコードするヌクレオチド配列と一緒に対象タンパク質を同時発現させることもまた含まれる。さらに、GNT1-GnT-IIIハイブリッド酵素(配列番号:26;図5d)(GnT-IIIと融合させたCTSを含む)もまた用いることができる(下記に記載されている)。
【0017】
GalT(mGalT若しくはhGalT又は他の供給源のGalT)をコードするヌクレオチド配列をつなぎとめるためのまた別の方法は、GalTと以下の配列との融合を含む:HDEL、KDEL(両配列とも小胞体保持配列)、N-糖タンパク質生合成に必要とされるタンパク質のCTS、例えばグルコシダーゼIのCTS、グルコシダーゼIIのCTS、マンノシダーゼIのCTS、マンノシダーゼIIのCTS、ベータ1,2キシロシルトランスフェラーゼのCTS、アルファ1,2フコシルトランスフェラーゼのCTS(ただしこれらCTSに限定されない)。GalTの触媒ドメインもまた、HDEL、KDEL(両配列とも小胞体保持配列)、グルコシダーゼIのCTS、グルコシダーゼIIのCTS、マンノシダーゼIのCTS、マンノシダーゼIIのCTS、ベータ1,2キシロシルトランスフェラーゼのCTS、アルファ1,2フコシルトランスフェラーゼのCTSと融合させることができる。
GNT1-GalT又はGNT1-GnT-IIIのどちらかを含むハイブリッド酵素の使用によって、GalT又はGnT-IIIの触媒ドメインはcis-ゴルジ装置(ここで複合N-グリカンの成熟の初期段階が発生する)に配置される。理論に拘束されないが、グリカン成熟の初期段階におけるGalT活性の封鎖は、成熟中のグリカンへのβ1,4ガラクトースの付加をもたらし、あるいは当該植物内で生じるタンパク質のフコシル化及びキシロシル化の効率的な阻害をもたらすことができる。同様に、グリカン成熟の初期段階におけるGnT-III活性の封鎖は、ベータ結合マンノースへのGlcNAc残基の付加をもたらして二分GlnAcを生成し、あるいは当該植物内で生じるタンパク質のフコシル化及びキシロシル化の効率的な阻害をもたらすことができる。例えば、GalT触媒ドメインと融合させたCTSドメインを含むハイブリッド酵素、例えばGNT1-GalT(R621;図5a、5d)、又はGnT-III触媒ドメインと融合させたCTSドメインを含むハイブリッド酵素、例えばGNT1-GnT-III(配列番号:26;図5h)と一緒に対象タンパク質を同時発現させることができる。低レベルのフコシル化を含むが、なおキシロシル化及びガラクトシル化された対象タンパク質を所望する場合、非改変(天然の)GalTを対象タンパク質と同時発現させることができる。二分GlnAc残基を含む改変されたグリコシル化を含む対象タンパク質を所望する場合は、非改変(天然の)GnT-IIIを対象タンパク質と同時発現させることができる。植物最適化核酸配列を用いて非改変又は天然のGalTまたはGnT-III酵素を作製することができることは当業者には理解されよう。
【0018】
したがって、配列番号:17(GNT1-GalT)のヌクレオチド1−10662を含むか、又は配列番号:17のヌクレオチド1−102と約80%から100%同一性を示すヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列が提供され、このヌクレオチド配列は対象タンパク質のグリコシル化を改変するタンパク質をコードする。前記配列は植物に対して最適化することができる。さらにまた、配列番号:14(GalT)のヌクレオチド1−1224を含むか、又は配列番号:14のヌクレオチド1−1224と約80%から100%同一性を示す配列を含む核酸を含むヌクレオチド配列が提供され、この核酸配列は対象タンパク質のグリコシル化を改変するタンパク質をコードする。前記配列は植物に対して最適化することができる。前記配列同一性は以下のパラメータ(プログラム:blastn;データベース:nr;Expect 10;フィルター:低複雑度;アラインメント:ペア毎;ワードサイズ:11)を用いて測定することができる。
さらに、配列番号:18(GNT1-GalT;図5e)又は配列番号:15(GalT;図5c)に示されるアミノ酸配列もまた開示される。
配列番号:26(GNT1-GnT-III)のヌクレオチド1−1641を含むか、又は配列番号:26のヌクレオチド1−1641と約80%から100%同一性を示すヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列を有する核酸が提供され、この核酸配列は対象タンパク質のグリコシル化を改変するタンパク質をコードする。前記配列は植物に対して最適化することができる。さらにまた、配列番号:26のヌクレオチド232−1641(GnT-III;又は配列番号:16のヌクレオチド1−1460)を含むか、又は配列番号:26のヌクレオチド232−1641(又は配列番号:16のヌクレオチド1−1460)と約80%から100%同一性を示す配列を含む核酸配列を含むヌクレオチド配列が提供され、この核酸配列は対象タンパク質のグリコシル化を改変するタンパク質をコードする。前記配列は植物に対して最適化することができる。前記配列同一性は以下のパラメータ(プログラム:blastn;データベース:nr;Expect 10;フィルター:低複雑度;アラインメント:ペア毎;ワードサイズ:11)を用いて測定することができ、このヌクレオチド配列は対象タンパク質のグリコシル化を改変するタンパク質をコードする。
さらに、配列番号:20(GNT1-GnT-III;図5i)又は配列番号:19(GnT-III;図5k)に示されるアミノ酸配列もまた開示される。
【0019】
対象タンパク質の“改変されたグリコシル化”とは、改変されたグリコシル化を含む対象タンパク質(例えば本明細書に記載)のN-グリカンプロファイルが、野生型植物で生成される対象タンパク質のN-グリカンプロファイルと異なることを意味する。グリコシル化の改変は、対象タンパク質の1つ以上のグリカンの増加若しくは減少、又はGlnAcの二分化を含むことができる。例えば、対象のタンパク質は、キシロシル化の低下、フコシル化の低下、又はキシロシル化及びフコシル化の両低下を示すことができる。また別には、対象タンパク質のN-グリカンプロファイルは、ガラクトシル化の量が増加し、さらに場合によってキシロシル化、フコシル化又はその両方が低下するような態様で改変させることができる。さらにまた、二分GlnAcを生成することができ、これによって当該タンパク質のフコシル化及びキシロシル化の量の低下が生じえる。
対象タンパク質の“キシロシル化の低下”又は“フコシル化の低下”とは、対象タンパク質で検出できるN-グリカンのキシロシル化、フコシル化、又はキシロシル化及びフコシル化の両方の量が、野生型植物で対象タンパク質を生成し、さらに対象タンパク質を単離し、さらに同じ方法を用いてキシロシル化又はフコシル化を測定した場合に対象タンパク質で検出できるキシロシル化、フコシル化、又は両方の量の10%未満であることを意味する。例えば、野生型植物で生成された同じ対象タンパク質と比較したとき、対象タンパク質で、5%未満のN-グリカン残基がフコシル化、キシロシル化又はその両方を受けているか、対象タンパク質で検出できるN-グリカン残基の1%未満がフコシル化、キシロシル化又はその両方を受けているか、又は、対象タンパク質で検出できるN-グリカン残基の約0.1%から約2%がフコシル化、キシロシル化又はその両方を受けているか、又は、N-グリカン残基の約0.5%から約1.5%がフコシル化、キシロシル化又はその両方を受けているか、N-グリカン残基の約0.7%から約1.0%がフコシル化及びキシロシル化されている。
【0020】
図6及び7に示すように、本明細書に記載の方法を用いることによって、改変されたグリコシル化プロファイルを示す対象タンパク質を生成することができる。例えば、免疫学的に検出不能のフコース又はキシロース残基を有する対象タンパク質が、GNT1-GalTと一緒に当該対象タンパク質を同時発現させたときに生成された。対象タンパク質のエピトープのMALDI-TOF分析によって、改変グリコシル化パターンを有する対象タンパク質が、GalT又はGNT1-GalTのどちらかと一緒に対象タンパク質を同時発現させたときに得ることができることが示された(図7A−C、Cの挿入図参照)。例えば、図7Aは、野生型植物で発現された対象タンパク質のエピトープのグリコシル化プロファイルを示す。対象タンパク質は、いくらかのキシロシル化及びフコシル化残基を含む(図7AのそれぞれピークH及びJ)。これらの残基は、対象タンパク質をGalTと一緒に同時発現させたときに低下又は欠落する(図7B)。さらにまた、GalTと同時発現させたとき、対象タンパク質には新規なキシロシル化残基(ピークF)が、ガラクトシル化残基の増加とともに観察される(図7BのピークC、F、Kを参照)。対象タンパク質をGNT1-GalTと同時発現させることによって、1%未満のキシロシル化及びフコシル化残基(図7Cの挿入図を参照)及びガラクトシル化残基の増加(図7CのピークK)を示すこと特徴とするN-グリカンプロファイルがもたらされる。
したがって、本発明は、N-グリコシル化が改変された対象タンパク質を合成する方法であって、ヒトベータ-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ(GalT)をコードする第一のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第一のヌクレオチド配列、及び対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列を含む植物を提供する工程、前記植物を生育させる工程、並びに第一及び第二のヌクレオチド配列を発現させて改変されたN-グリコシル化を含む対象タンパク質を合成する工程、を含む方法(方法A)を提供する。対象タンパク質をコードする第二の配列と一緒にGalTをコードする第一の配列を同時発現させることによって、対象タンパク質の成熟中のグリカンにベータ-1,4ガラクトースが付加され、それによって対象タンパク質のグリカンのフコシル化の低下、キシロシル化の低下又はその両方がもたらされる。さらにまた、この方法を用いて、GalTを発現しない野生型植物で生成された対象タンパク質のガラクトシル化量と比較して、対象タンパク質のガラクトシル化の程度を増加させ得る。
【0021】
さらにまた、N-グリコシル化が改変された対象タンパク質を合成する方法であって、植物又は植物の部分内で、ヒトベータ-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ(GalT;配列番号:14;図5b)をコードする第一のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第一のヌクレオチド配列、及び対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列を、一過性態様で発現させる工程、並びに第一及び第二のヌクレオチド配列を発現させて改変されたN-グリコシル化を有するグリカンを含む対象タンパク質を合成する工程、を含む方法(方法B)が提供される。対象タンパク質をコードする第二の配列と一緒にGalTをコードする第一の配列を同時発現させることによって、対象タンパク質の成熟中のグリカンにベータ-1,4ガラクトースが付加され、それによって対象タンパク質のグリカンのフコシル化の低下、キシロシル化の低下又はその両方がもたらされる。さらにまた、GalTを発現しない野生型植物で生成された対象タンパク質のガラクトシル化量と比較して、対象タンパク質のガラクトシル化の程度を増加させ得る。この発現工程は、第一及び第二のヌクレオチド配列を一過性に同時発現させる工程、又は第一及び第二のヌクレオチド配列を安定的に同時発現させる工程を含み得る。
【0022】
本発明はまた、N-グリコシル化が改変された対象タンパク質を合成するまた別の方法であって、GalT(ヒトベータ-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ)の触媒ドメインと融合されたN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GNT1)のCTSドメインを含む第一のハイブリッドタンパク質をコードする第一のハイブリッドヌクレオチド配列(GNT1-GalT;配列番号:17;図5d)であって、第一のハイブリッドヌクレオチド配列は植物中で活性な調節領域と機能的に連結され、及び対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列を含む植物を提供する工程、前記植物を生育させる工程、並びに第一ハイブリッドヌクレオチド及び第二のヌクレオチド配列を発現させて改変されたN-グリコシル化を含む対象タンパク質を合成する工程、を含む方法(方法C)を提供する。対象タンパク質をコードする第二の配列と一緒にGNT1-GalTをコードする第一のハイブリッド配列を同時発現させることによって、対象タンパク質の成熟中のグリカンにベータ-1,4ガラクトースが付加され、それによって対象タンパク質のグリカンのフコシル化及びキシロシル化の低下がもたらされる。例えば、GNT1-GalTを発現しない野生型植物で生成された対象タンパク質と比較して、フコシル化、キシロシル化又はその両方の程度は、野生型の量の約0.5から約5%、又は約0.5から約2%に低下しえる。
【0023】
N-グリコシル化が改変された対象タンパク質を合成する、さらにまた別の方法であって、植物又は植物の部分内で、GNT1-GalTをコードする第一のハイブリッドヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第一のハイブリッドヌクレオチド配列、及び対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列を、一過性態様で発現させる工程、並びに第一及び第二のヌクレオチド配列を発現させて改変されたN-グリコシル化を含む対象タンパク質を合成する工程、を含む方法(方法D)が提供される。対象タンパク質をコードする第二の配列と一緒にGNT1-GalTをコードする第一のハイブリッド配列を同時発現させることによって、対象タンパク質の成熟中のグリカンにベータ-1,4ガラクトースが付加され、それによって対象タンパク質のグリカンのフコシル化及びキシロシル化の低下がもたらされる。例えば、GNT1-GalTを発現しない野生型植物で生成された対象タンパク質と比較して、フコシル化、キシロシル化又はその両方の程度は、野生型の量の約0.5から約5%、又は約0.5から約2%に低下しえる。この発現工程は、第一及び第二のヌクレオチド配列を一過性に同時発現させる工程、又は第一及び第二のヌクレオチド配列を安定的に同時発現させる工程を含み得る。
【0024】
本発明はまた、N-グリコシル化が改変された対象タンパク質を合成する、さらにまた別の方法であって、ヒトベータ-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ(GalT)をコードする第一のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第一のヌクレオチド配列、対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列、及び遺伝子サイレンシングのサプレッサー(例えばHcPro)をコードする第三のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第三のヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列を含む植物を提供する工程、前記植物を生育させる工程、並びに第一、第二及び第三のヌクレオチド配列を発現させて改変されたN-グリコシル化を有するグリカン含む対象タンパク質を合成する工程、を含む方法(方法E)を提供する。対象タンパク質をコードする第二の配列と一緒にGalTをコードする第一の配列を同時発現させることによって、対象タンパク質の成熟中のグリカンにベータ-1,4ガラクトースが付加され、それによって、GalTを発現しない野生型植物を用いて生成された対象タンパク質と比較して、対象タンパク質のグリカンのフコシル化の低下及びキシロシル化の低下がもたらされる。GalTを発現しない野生型植物で生成された対象タンパク質のガラクトシル化の量と比較して、対象タンパク質のガラクトシル化の量は増加しえる。サイレンシングサプレッサーをコードする第三の配列の発現は、ガラクトシルトランスフェラーゼ及び対象タンパク質の高収量を担保する。
【0025】
さらにまた、N-グリコシル化が改変された対象タンパク質を合成する方法であって、植物又は植物の部分内で、ヒトベータ-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ(GalT)をコードする第一のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第一のヌクレオチド配列、対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列、及び遺伝子サイレンシングのサプレッサー(例えばHcPro)をコードする第三のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第三のヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列を、一過性態様で発現させる工程、並びに第一、第二及び第三のヌクレオチド配列を発現させて改変されたN-グリコシル化を含む対象タンパク質を合成する工程、を含む方法(方法F)が提供される。対象タンパク質をコードする第二の配列と一緒にGalTをコードする第一の配列を同時発現させることによって、対象タンパク質の成熟中のグリカンにベータ-1,4ガラクトースが付加され、それによって、対象タンパク質のグリカンのフコシル化及びキシロシル化の低下がもたらされる。GalTを発現しない野生型植物で生成された対象タンパク質のガラクトシル化の量と比較して、対象タンパク質のガラクトシル化の量が増加しえる。サイレンシングサプレッサーをコードする第三の配列の発現は、ガラクトシルトランスフェラーゼ及び対象タンパク質の高収量を担保する。この発現工程は、第一及び第二のヌクレオチド配列を一過性に同時発現させる工程、又は第一及び第二のヌクレオチド配列を安定的に同時発現させる工程を含み得る。
【0026】
したがって、本発明は、N-グリコシル化が改変された対象タンパク質を合成する方法であって、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GnT-III)をコードする第一のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第一のヌクレオチド配列、及び対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列を含む植物を提供する工程、前記植物を生育させる工程、並びに第一及び第二のヌクレオチド配列を発現させて改変されたN-グリコシル化を含む対象タンパク質を合成する工程、を含む方法(方法G)を提供する。対象タンパク質をコードする第二の配列と一緒にGnT-IIIをコードする第一の配列を同時発現させることによって、対象タンパク質の成熟中のグリカンのベータ結合マンノース(二分GlnAc)にベータ-1,4結合N-アセチルグルコサミン(GlnAc)残基が付加され、それによって、GnT-IIIを発現しない野生型植物で生成された対象タンパク質と比較して、対象タンパク質のグリカンのフコシル化、キシロシル化及びその両方の低下がもたらされる。GnT-IIIをコードする配列(第一のヌクレオチド配列)、対象タンパク質をコードする配列(第二のヌクレオチド配列)又は第一及び第二のヌクレオチド配列の両配列を一過性に発現させてもよい。前記配列が一過性に発現される場合は、遺伝子サイレンシングのサプレッサー(例えばHcPro)をコードする第三のヌクレオチド配列(植物中で活性な調節領域と機能的に連結される)がまた用いられてもよく、第一、第二及び第三のヌクレオチド配列を発現させて、改変グリコシル化を含む対象タンパク質を合成し得る。
【0027】
本発明はまた、改変されたN-グリコシル化を有する対象タンパク質を合成するまた別の方法であって、GnT-IIIの触媒ドメインと融合されたN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GNT1)のCTSドメインをコードする第一のハイブリッドタンパク質(GNT1-GnT-III、配列番号:20)をコードする第一のハイブリッドヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第一のハイブリッドヌクレオチド配列、及び対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列であって、植物中で活性な調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列を含む植物を提供する工程、前記植物を生育させる工程、並びに第一のハイブリッドヌクレオチド及び第二のヌクレオチド配列を発現させて改変されたN-グリコシル化を含む対象タンパク質を合成する工程、を含む方法(方法H)を提供する。対象タンパク質をコードする第二の配列と一緒にGNT1-GnT-IIIをコードする第一のハイブリッド配列を同時発現させることによって、対象タンパク質の成熟中のグリカンのベータ結合マンノース(二分GlnAc)にベータ-1,4結合N-アセチルグルコサミン(GlnAc)残基が付加され、それによって、対象タンパク質のグリカンのフコシル化及びキシロシル化の低下がもたらされる。例えば、GNT1-GnT-IIIを発現しない野生型植物で生成された対象タンパク質と比較して、フコシル化、キシロシル化又はその両方の程度は、野生型の量の約0.5から約5%、又は約0.5から約2%に低下しえる。GNT1-GnT-IIIをコードする配列(第一のヌクレオチド配列)、対象タンパク質をコードする配列(第二のヌクレオチド配列)又は第一及び第二のヌクレオチド配列の両配列を一過性に発現させてもよい。前記配列が一過性に発現される場合は、遺伝子サイレンシングのサプレッサー(例えばHcPro)をコードする第三のヌクレオチド配列(植物中で活性な調節領域と機能的に連結される)がまた用いられてもよく、第一、第二及び第三のヌクレオチド配列を発現させて、改変グリコシル化を含む対象タンパク質を合成し得る。
【0028】
対象タンパク質をコードするヌクレオチド配列に追加の改変を加えて、高収量を担保し得る。例えば、対象タンパク質をコードする第二の配列はまた、小胞体(ER)内にタンパク質を保持する活性を有する配列、例えばKDEL(Lys-Asp-Glu-Leu)配列又は他の公知のER保持配列、例えばHDEL又はKKSS(ただしこれらに限定されない)をコードする配列と融合させ得る。
さらにまた、対象の複合タンパク質を生成するとき、上記に記載の方法A−Hのいずれかで用いられる第二のヌクレオチド配列は、複合タンパク質の2つ以上のペプチド又はドメインをコードし得る。例えば、対象タンパク質が抗体である場合は、第二のヌクレオチド配列は、2つの第二のヌクレオチド配列2A及び2Bを含み、前記は各々抗体の部分を含み得る。例えば、ヌクレオチド2Aは抗体の軽鎖をコードし、2Bは重鎖をコードし得る。そのような構築物の非限定例は図1に提供され、この場合、R216及びR610の各構築物は、以下のような2つの第二のヌクレオチド配列、2A及び2Bを含む:2AはC5-1 LC(C5-1の軽鎖)をコードし、前記は植物で活性な調節領域(例えばプラストシアニン(ただし前記に限定されない))と機能的に連結され、2BはC5-1の重鎖(C5-1 HC)をコードし、前記は植物で活性な調節領域、例えばプラストシアニン(ただし前記に限定されない)と機能的に連結される。前記プラストシアニンは図1bのヌクレオチド556−999又は配列番号:23を含む(US7,125,978、前記文献は参照により本明細書に含まれる)。図1で、さらにR610に関して示されるように、KDEL配列をペプチド2A又は2Bの一方のC-末端領域に融合させ得る。例えば、KDEL配列(前記に限定されると考えるべきではないが)は、抗体がERに保持されることを担保するために抗体の重鎖に融合させ得る。
第二のヌクレオチドによってコードされる各タンパク質はグリコシル化されえる。
方法A−Hのいずれかによって生成された対象タンパク質は植物から回収し得る。さらにまた、対象タンパク質は、当業者に公知の標準的技術を用いて部分的に精製し得る。
【0029】
ヌクレオチド配列が植物で同時発現される場合は、所望のヌクレオチド配列の各々は、標準的な形質転換技術(一過性形質転換技術)を用いて植物に導入し得、2つ以上の植物(各々は1つ以上の所望のヌクレオチド配列を発現する)を交配させて、要求されるヌクレオチド配列の組合せを同時発現する植物を得ることができる。又は上記技術の組合せを一緒にしてもよい。例えば、GalT、GNT1-GalT、GalT及びGNT1-GalT、GnT-III、GNT1-GnT-III、GNT1-GnT-III及びGnT-III、又は前記の組合せをコードする配列を発現している安定的に形質転換された植物を用いて、一過性発現を実施し得る。
したがって、本発明はまた、N-グリコシル化が改変された対象タンパク質を製造するためのプラットフォームとして用いられ得る植物を作製する方法(方法I)を提供する。この方法は、GalT、GNT1-GalT、又はGalT及びGNT1-GalTの両方をコードする1つ以上の第一のヌクレオチドを発現する植物を提供する工程、及び前記1つ以上のヌクレオチド配列を発現させる工程を含む。対象タンパク質を製造するために、対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列を安定的形質転換又は一過性形質転換を含む標準的技術を用いてプラットフォーム植物に導入し、生成された対象タンパク質が、N-グリコシル化が改変されたグリカンを含むように第二のヌクレオチド配列を発現させるか、又は第一のヌクレオチド配列を発現する植物を第二のヌクレオチド配列を発現する第二の植物と交配し、このようにして生成対象タンパク質は改変N-グリコシル化を有するグリカンを含む。対象タンパク質を植物から抽出し、所望する場合は、標準的な方法を用いて、対象タンパク質を単離及び精製し得る。
【0030】
したがって、本発明はまた、N-グリコシル化が改変された対象タンパク質を製造するためのプラットフォームとして用いられ得る植物を作製する方法(方法J)を提供する。この方法は、GnT-III、GNT1-GnT-III又はGnT-III及びGNT1-GnT-IIIの両方をコードする1つ以上の第一のヌクレオチドを発現する植物を提供する工程、及び前記1つ以上のヌクレオチド配列を発現させる工程を含む。対象タンパク質を製造するために、対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列を安定的形質転換又は一過性形質転換を含む標準的技術を用いてプラットフォーム植物に導入し、生成された対象タンパク質がN-グリコシル化が改変されたグリカンを含むように第二のヌクレオチド配列を発現させるか、又は第一のヌクレオチド配列を発現する植物を第二のヌクレオチド配列を発現する第二の植物と交配し、このようにして生成対象タンパク質は改変N-グリコシル化を有するグリカンを含む。対象タンパク質を植物から抽出し、所望する場合は、標準的な方法を用いて、対象タンパク質を単離及び精製し得る。
したがって、本発明はまた、N-グリコシル化が改変された対象タンパク質を製造するためのプラットフォームとして用いられ得る植物を作製する方法(方法K)を提供する。この方法は、GalT、GNT1-GalT、GalT及びGNT1-GalT、GnT-III、GNT1-GnT-III、GnT-III及びGNT1-GnT-III、又は前記の組合せをコードする1つ以上の第一のヌクレオチドを発現する植物を提供する工程、及び前記1つ以上のヌクレオチド配列を発現させる工程を含む。対象タンパク質を製造するために、対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列を安定的形質転換又は一過性形質転換を含む標準的技術を用いてプラットフォーム植物に導入し、生成された対象タンパク質がN-グリコシル化が改変されたグリカンを含むように第二のヌクレオチド配列を発現させるか、又は第一のヌクレオチド配列を発現する植物を第二のヌクレオチド配列を発現する第二の植物と交配し、このようにして生成対象タンパク質は改変N-グリコシル化を有するグリカンを含む。対象タンパク質を植物から抽出し、所望する場合は、標準的な方法を用いて、対象タンパク質を単離及び精製し得る。
【0031】
GalT、GNT1-GalT、GnT-III、GNT1-GnT-III、対象タンパク質、又は前記の組合せをコードするヌクレオチド配列は、コドン最適化を実施して、植物での発現レベルを高めることができる。コドン最適化とは、植物でのコドン使用頻度に類似するように、構造遺伝子又はそのフラグメントのオリゴヌクレオチド構築ブロックの合成、及びその後のそれらブロックの酵素的アッセンブリのために適切なDNAヌクレオチドを選別することを意味する。
植物での外来遺伝子の発現を最適化するために、野生型又は合成配列のヌクレオチド配列を用いてもよいが、又は、対応タンパク質(例えばGalT、GNT1-GalT、GnT-III、GNT1-GnT-III、対象タンパク質、又は前記の組合せ)が、未改変ヌクレオチド配列によってコードされたときに生成されるよりも高レベルで生成されるように必要に応じて変異させてもよい。例えば(ただし例示である)、配列を合成し、植物でのコドン使用頻度について最適化することができ、前記配列は、配列比較技術(例えばBLAST(ただし前記に限定されない)(BLASTはGenBankを介して利用でき、規定値パラメータを用いる))用いて測定したとき野生型配列と少なくとも約80%同一性を含む。さらにまた、有用な生物学的特性(例えば抗原性特性(ただし前記に限定されない))を示す、対象タンパク質又はその誘導体をコードする配列のフラグメント又は部分を、植物組織で発現させることもまた意図される。
GalT、GNT1-GalT、GnT-III、GNT1-GnT-III、及び対象タンパク質の発現レベル及びトランスジーンタンパク質の生成を最大にするために、Sardanaら(Plant Cell Reports, 1996, 15:677-681)が概略した方法と類似の方法を用いて、核酸配列を調べ、植物での遺伝子の発現を最適化するためにコード領域を改変し得る。双子葉植物の高度に発現される遺伝子から得られたコドン使用頻度表が、Murrayら(Nuc Acids Res 1989, 17:477-498)を含むいくつかの供給源から入手できる。さらにまた、配列最適化にはまた、コドンタンデムリピートの削減、隠れたスプライス部位の削除、反復配列(倒置リピートを含む)の削減が含まれ、例えばLeto 1.0(Entelechon, Germany)を用いて決定し得る。
【0032】
したがって、本発明は、上記方法(方法A−K)のいずれかに記載されたN-グリコシル化が改変された対象タンパク質を合成する方法(方法L)を提供する。この方法では、GalT、GNT1-GalT、GnT-III、GNT1-GnT-III、対象タンパク質、又は前記の組合せをコードするヌクレオチド配列の1つ以上が植物での発現のために最適化される。
さらにまた、本発明は、GalT、GNT1-GalT、GnT-III、GNT1-GnT-III、対象タンパク質、又は前記の組合せをコードするヌクレオチド配列(各々は植物で活性を有する調節領域と機能的に連結される)を含む植物、植物細胞、又は種子に関する。前記植物、植物細胞又は種子はさらに、1つ以上の対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列(植物で活性な1つ以上の第二の調節領域と機能的に連結される)を含むことができる。第一のヌクレオチド配列、第二のヌクレオチド配列、又は第一のヌクレオチド配列及び第二のヌクレオチド配列の両配列は、植物、植物細胞、又は植物種子での発現のためにコドンを最適化し得る。
“機能的に連結される”とは、個々の配列が直接的又は間接的に相互作用して、意図した機能(例えば遺伝子の仲介又は調節)を達成することを意味する。機能的に連結された配列の相互作用は、例えば機能的に連結された配列と相互作用するタンパク質によって仲介されえる。転写調節領域及び対象配列は、前記転写調節領域によって仲介または調節されるべき対象配列の転写を可能にするために、それら配列が機能的に連結されるとき機能的に連結されてある。
“植物の部分”とは植物に由来する任意の部分を意味し、全植物、植物から得られる組織、例えば葉、葉及び茎、根、気生部分(植物の葉、茎及び場合によって花の部分を含む)、植物から得られる細胞又はプロトプラストが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
“植物材料”とは植物に由来する任意の素材を意味する。植物材料は、全植物、組織、細胞又はその任意の部分を含み得る。さらにまた、植物材料は、細胞内の植物成分、細胞外の植物成分、植物の液体若しくは固体抽出物、又は前記の組合せを含み得る。さらにまた、植物材料は、植物、植物細胞、組織、液体抽出物又は前記の組合せであって、植物の葉、茎、果実、根又は前記の組合せに由来するものを含み得る。植物材料は、いずれの加工工程にも付されていない植物又はその部分を含み得る。しかしながら、植物材料は、下記に規定する最小限の加工工程、又はより厳密な加工(部分的又は実質的なタンパク質の精製を含み、前記精製は当分野で一般的に知られている技術(クロマトグラフィー、電気泳動などを含むがただしこれらに限定されない)を用いる)に付すこともまた意図される。
【0033】
“最小限の加工”とは、植物抽出物、ホモジネート、植物ホモジネートの分画などを得るために部分的に精製された植物材料(例えば対象タンパク質を含む植物又はその部分)を意味する。部分的精製は、植物の細胞構造を破壊し、それによって可溶性植物成分及び不溶性植物成分を含む組成物を生成する工程を含み得るが、ただしこれらに限定されない(前記可溶性及び不溶性成分は、例えば遠心沈殿、ろ過又はその組合せ(ただしこれらに限定されない)によって分離し得る)。前記に関しては、葉又は他の組織の細胞外間隙に分泌されたタンパク質は真空又は遠心抽出を用いて容易に入手することができよう。または、組織は、細胞外間隙からタンパク質を搾り出すか又は遊離させるために、ローラーを通過させるか、又はすり潰しなどにより加圧下で抽出することもできよう。最小限の加工はまた、可溶性タンパク質の粗抽出物の調製を含み得る。なぜならば、これらの調製物は二次的な植物生成物に由来する夾雑物をほとんど含まないからである。さらにまた、最小限の加工は、葉の可溶性タンパク質の水性抽出物を続いて適切な塩で沈殿させることを含み得る。他の方法には、抽出物の直接的な使用を可能にするための大規模な離解及び絞り汁抽出が含まれえる。
植物素材又は組織の形態の植物材料は、対象に経口的にデリバーすることができる。植物材料は、食事用サプリメントの部分として他の食物と一緒に又は被包化して投与し得る。植物材料又は組織はまた濃縮して嗜好性を改善又は向上させるか、または要請に応じて他の素材、成分又は医薬賦形剤と一緒に提供し得る。
【0034】
対象のタンパク質を含む植物は、対象(例えば動物又はヒト)に、必要性及び状況に応じて多様な方法で投与することが意図される。例えば、植物から得られる対象タンパク質は、それを使用する前に、未精製、部分精製又は精製形として抽出し得る。タンパク質を精製することができる場合には、タンパク質は、食用又は非食用植物で生産し得る。さらにまた、タンパク質を経口投与する場合には、植物組織を収穫して対象に直接供給するか、または収穫した組織を供給前に乾燥させるか、または収穫を実施することなく動物に生草を食べさせてもよい。収穫した植物組織を動物の飼料に食物サプリメントとして提供することもまた本発明の範囲内であると考える。植物組織がほとんど又は更なる加工を加えることなく動物に供給される場合は、投与される植物組織が食用であることが好ましい。
実施例でさらに詳細に記載するように、GalT、GNT1-GalT及び対象タンパク質は、一過性態様で植物に導入された。適切な抗体を用いた免疫学的解析によって、MWrが150kDaのタンパク質が形質転換細胞に存在することが明らかにされた(図2、3A及び3B)。さらにまた、GalT又はGNT1-GalTが、どちらかの構築物を発現する植物から得られた抽出物で検出され、さらにGNT1-GalTが植物で発現されたときに、対象タンパク質の改変Nグリコシル化が観察された(図6)。したがって、組換えにより発現されたGalT又はGNT1-GalTはin plantaで生物学的に活性を有する。
GalT-FLAG又はGNT1-GalT-FLAG(すなわち、形質転換体における組換えタンパク質の免疫学的検出を可能にするためにそのC-末端にFLAGエピトープをタグ付加されたGalT又はGNT1-GalT)が植物に導入された。抗FLAG抗体によるウェスタンブロット分析を用いて、妥当なタンパク質が形質転換細胞に存在することを明示し得る。
【0035】
“類似体”又は“誘導体”は、GalT(配列番号:14)、GalTの触媒ドメイン(配列番号:14のヌクレオチド368−1198;太字配列をコードする、図5b)、又はGNT1-GalT(配列番号:17のヌクレオチド248−1077;太字配列をコードする、図5d)をコードするヌクレオチド配列への任意の置換、欠失又は付加を含むが、ただし、異所的に発現されたGalT(配列番号:14)又はGNT1-GalT(配列番号:17)の非存在下の植物で生成された対象タンパク質のグリコシル化プロファイルと比較したとき、前記配列が(又はGalTのCSTと融合させたとき)、対象タンパク質のグリコシル化プロファイルを改変する(例えば対象タンパク質のグリカンのフコシル化、キシロシル化又はその両方の低下、又は対象タンパク質のガラクトシル化の増加をもたらす)タンパク質をコードすることを条件とする。例えば、前記配列によってコードされるタンパク質は、Nグリカンの成熟中に末端ガラクトースを付加し得る。核酸配列の誘導体及び類似体は、ある核酸配列と典型的には80%を超える同一性、例えば約80−100%の配列同一性、又は約80、82、84、86、88、90、92、94、96、98、100%同一性を示す。配列同一性は、BLASTアルゴリズム(GenBank:ncbi.nlm.nih.gov/cgi-bin/BLAST/)を、以下の規定値パラメータ(プログラム:blastn;データベース:nr;期待値10;フィルター:低複雑度;アラインメント:ペア毎;ワードサイズ:11)とともに用いることによって測定し得る。類似体又はその誘導体にはまた、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で(以下の文献を参照されたい:Maniatis et al. in Molecular Cloning (A Laboratory Manual), Cold Spring Harbor Laboratory, 1982, p.387-389又はAusubel et al. (eds), 1989, Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, Green Publishing Associattes, Inc., and John Wiley & Sons, Inc., New York, p.2.10.3)、本明細書に記載のGalT(配列番号:14)配列、GNAT1-GalT(配列番号:18)配列のいずれかとハイブリダイズするヌクレオチド配列が含まれるが、ただし、GalT(配列番号:14)又はGNT1-GalT(配列番号:17)の非存在下で生成された対象タンパク質のグリコシル化プロファイルと比較したとき、前記配列が、対象タンパク質のグリコシル化プロファイルを改変する、例えば対象タンパク質のグリカンのフコシル化、キシロシル化又はその両方の低下、又は対象タンパク質のガラクトシル化の増加をもたらすタンパク質をコードすることを条件とする。例えば、前記配列によってコードされるタンパク質は、Nグリカンの成熟中に末端ガラクトースを付加し得る。そのようなストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、適切なプローブ、例えば[ガンマ-32P]dATP標識プローブ(ただし前記に限定されない)との7%SDS、1mM EDTA、0.5M Na2HPO4(pH7.2)中での16−20時間、65℃でのハイブリダイゼーションでありえる。続いて65℃にて5%SDS、1mM EDTA、40mM Na2HPO4(pH7.2)中で30分洗浄し、続いて65℃にて1%SDS、1mM EDTA、40mM Na2HPO4(pH7.2)中で30分洗浄する。この緩衝液での洗浄を繰り返してバックグラウンドを低下させ得る。
【0036】
同様に、本発明は、GnT-III(配列番号:16)、GnT-IIIの触媒ドメイン、又はGNT1-GnT-III(配列番号:20)をコードするヌクレオチド配列への改変を含むが、ただし異所的に発現されたGnT-III(配列番号:16)又はGNT1-GnT-III(配列番号:26)の非存在下の植物で生成された対象タンパク質のグリコシル化プロファイルと比較したとき、前記配列が(又はGnT-IIIのCSTと融合させたとき)、対象タンパク質のグリコシル化プロファイルを改変する(例えばGlnAcの二分化、及び対象タンパク質のグリカンのフコシル化、キシロシル化又はその両方の低下をもたらす)タンパク質をコードすることを条件とする。核酸配列の誘導体及び類似体は、ある核酸配列と典型的には80%を超える同一性、例えば約80−100%の配列同一性、又は約80、82、84、86、88、90、92、94、96、98、100%同一性を示す。配列同一性は、BLASTアルゴリズム(GenBank:ncbi.nlm.nih.gov/cgi-bin/BLAST/)を、以下の規定値パラメータ(プログラム:blastn;データベース:nr;期待値10;フィルター:低複雑度;アラインメント:ペア毎;ワードサイズ:11)とともに用いることによって測定し得る。類似体又はその誘導体にはまた、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で(以下の文献を参照されたい:Maniatis et al. in Molecular Cloning (A Laboratory Manual), Cold Spring Harbor Laboratory, 1982, p.387-389又はAusubel et al. (eds), 1989, Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, Green Publishing Associattes, Inc., and John Wiley & Sons, Inc., New York, p.2.10.3)、本明細書に記載のGnT-III(配列番号:16)配列、GNAT1-GnT-III(配列番号:26)配列のいずれかとハイブリダイズするヌクレオチド配列が含まれるが、ただし、GnT-III(配列番号:16)又はGNT1-GnT-III(配列番号:26)の非存在下で生成された対象タンパク質のグリコシル化プロファイルと比較したとき、前記配列が、対象タンパク質のグリコシル化プロファイルを改変するタンパク質をコードすることを条件とする。そのようなストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、適切なプローブ、例えば[ガンマ-32P]dATP標識プローブ(ただし前記に限定されない)との7%SDS、1mM EDTA、0.5M Na2HPO4(pH7.2)中での16−20時間、65℃でのハイブリダイゼーションでありえる。続いて65℃にて5%SDS、1mM EDTA、40mM Na2HPO4(pH7.2)中で30分洗浄し、続いて65℃にて1%SDS、1mM EDTA、40mM Na2HPO4(pH7.2)中で30分洗浄する。この緩衝液での洗浄を繰り返してバックグラウンドを低下させ得る。
【0037】
“調節領域”、“調節エレメント”又は“プロモーター”とは、核酸の部分、典型的には遺伝子(DNA若しくはRNA又はDNA及びRNAの両方を含み得る)のタンパク質コード領域の上流(ただし常にそうであるとは限らないが)を意味する。調節領域が活性を有し、かつ対象の遺伝子と機能的な結合状態にあるとき、又は機能的に連結されているとき、対象遺伝子の発現がもたらされえる。調節エレメントは器官特異性を仲介するか、又は発生若しくは一過性遺伝子活性化を制御することができる。“調節領域”には、プロモーターエレメント、基礎プロモーター活性を示すコアプロモーターエレメント、外部刺激に応答して誘導されえるエレメント、プロモーター活性を仲介するエレメント、例えば負の調節エレメント又は転写エンハンサーが含まれる。本明細書で用いられる、“調節領域”にはまた転写後に活性を示すエレメントが含まれる。前記は、例えば遺伝子発現を調節する調節エレメント、例えば翻訳及び転写エンハンサー、翻訳及び転写リプレッサー、上流の活性化配列、及びmRNA不安定性決定因子である。これら後者のエレメントのいくつかはコード領域の近位に存在しえる。
本開示に関しては、“調節エレメント”又は“調節領域”は典型的には、構造遺伝子のコード配列の通常は(常にというわけではないが)上流(5')のDNA配列に該当し、前記は、RNAポリメラーゼ及び/又は転写を特定の部位で開始させるために必要な他の因子のための見分けを提供することによってコード領域の発現を制御する。しかしながら、イントロン内又は配列の3'に配置される他のヌクレオチドもまた、対象のコード領域の発現の調節に寄与し得ることは理解されよう。特定の部位での開始を担保するためにRNAポリメラーゼ又は他の転写因子のための見分けを提供する調節エレメントの例はプロモーターエレメントである。ほとんどの(全てではないが)真核細胞性プロモーターエレメントはTATAボックスを含む。前記は保存された核酸配列であって、アデノシン及びチミンヌクレオチド塩基対を含み、通常は転写開始部位のほぼ25塩基対上流に位置している。プロモーターエレメントは基礎プロモーターエレメントを含み、遺伝子の発現を修正する他の調節エレメント(上記に列挙されている)と同様に転写の開始のために極めて重要である。
【0038】
いくつかのタイプの調節領域が存在する。前記には、発育にしたがって調節されるか、誘導的又は構成的である調節領域が含まれる。発育にしたがって調節されるか、又はその制御の下で遺伝子の弁別的発現を制御する調節領域は、ある種の器官又はある器官の組織内で、当該器官又は組織の発育時の特定の時期に活性化される。しかしながら、発育にしたがって調節されるいくつかの調節領域は、ある種の器官又は組織内で特定の発育期に優先的に活性を示し、それらはまた発育にしたがって調節される態様で活性を示すか、又は当該植物の他の器官若しくは組織では基準レベルで活性を示し得る。組織特異的調節領域、例えば種子特異的調節領域の例には、ナピンプロモーター及びクルシフェリンプロモーターが含まれる(Rask et al. 1998, J Plant Physiol 152:595-599;Bilodeau et al. 1994, Plant Cell 14:125-130)。葉特異的プロモーターの例にはプラストシアニンプロモーターが含まれる(US 7,125,978、前記文献は参照により本明細書に含まれる;配列番号:23;図1b)。
誘導性調節領域は、誘導物質に応答して1つ以上のDNA配列又は遺伝子の転写を直接的又は間接的に活性化することができる領域である。誘導物質の非存在下では、DNA配列又は遺伝子は転写されないであろう。典型的には、誘導性調節領域に特異的に結合して転写を活性化するタンパク質因子は不活性な形態で存在し得、続いて前記は、誘導物質によって直接的又は間接的に活性な形態に変換される。しかしながら、タンパク質因子はまた存在しなくてもよい。誘導物質は化学物質、例えばタンパク質、代謝物質、成長調節因子、除草剤若しくはフェノール化合物であるか、又は、熱、寒冷、塩若しくは有毒エレメントによって直接与えられるか、又は病原体若しくは発症因子(例えばウイルス)の作用により間接的に与えられる生理学的ストレスでありえる。誘導性調節領域を含む植物細胞は、当該誘導物質を外部から細胞又は植物に適用することによって(例えば噴霧、灌水、加熱又は同様な方法によって)、当該誘導物質に暴露させ得る。誘導性調節エレメントは、植物又は非植物遺伝子から誘導し得る(例えば、C. Gatz and I.R.P. Lenk 1998, Trends Plant Sci 3:352-358、前記文献は参照により本明細書に含まれる)。潜在的な誘導性プロモーターの例には、テトラサイクリン誘導性プロモーター(C. Gatz 1997, Ann Rev Plant Physiol Plant Mol Biol 48:89-108、前記文献は参照により本明細書に含まれる)、ステロイド誘導性プロモーター(T. Aoyama and N.H. Chua 1997, Plant J 2:397-404、前記文献は参照により本明細書に含まれる)、及びエタノール誘導性プロモーター(M.G. Salter et al. 1998, Plant J 16:127-132;M.X. Caddick et al. 1998, Nature Biotech 16:177-180、前記文献は参照により本明細書に含まれる)、サイトキニン誘導性IB6及びCKI1遺伝子(I. Brandstatter and J.J. Kieber 1998, Plant Cell 10:1009-1019;T. Kakimoto 1996, Science 274:982-985、前記文献は参照により本明細書に含まれる)、及びオーキシン誘導性エレメント、DR5(T. Ulmasov et al. 1997, Plant Cell 9:1963-1971、前記文献は参照により本明細書に含まれる)が含まれるが、ただしこれらに限定されない。
【0039】
構成的調節領域は、植物の種々の部分にわたって、さらに植物の発育中に持続的に遺伝子の発現を誘導する。公知の構成的調節エレメントの例には、CaMV 35S転写物(Odell et al., 1985, Nature, 313: 810-812)、コメのアクチン1(Zhang et al, 1991, Plant Cell, 3: 1155-1165)、アクチン2(An et al., 1996, Plant J., 10: 107-121)、又はtms2(U.S. 5,428,147、前記文献は参照により本明細書に含まれる)、及びトリオースホスフェートイソメラーゼ1(Xu et. al., 1994, Plant Physiol. 106: 459-467)遺伝子、トウモロコシユビキチン1遺伝子(Cornejo et al, 1993, Plant Mol. Biol. 29: 637-646)、シロイヌナズナ(Arabidopsis)ユビキチン1及び6遺伝子(Holtorf et al, 1995, Plant Mol. Biol. 29: 637-646)、並びにタバコ翻訳開始因子4A遺伝子(Mandel et al, 1995 Plant Mol. Biol. 29: 995-1004)と密接に関連するプロモーターが含まれる。本明細書で用いられる“構成的”という用語は、構成的調節領域の制御下にある遺伝子が全ての細胞タイプで同じレベルで発現されることを必ずしも示しているわけではないが、前記遺伝子は豊富さに変動はしばしば認められるものの広い範囲の細胞タイプで発現される。
本発明の1つ以上のヌクレオチド配列は、本発明のヌクレオチド配列又は構築物又はベクターによって形質転換される任意の適切な植物宿主で発現させることができる。適切な宿主の例には、農作物(アルファルファ、キャノーラ、ブラシッカ(Brassica)spp.、トウモロコシ、ニコチアナ(Nicotiana)spp.、アルファルファ、ジャガイモ、チョウセンニンジン、エンドウ、エンバク、コメ、ダイズ、コムギ、オオムギ、ヒマワリ、ワタを含む)が含まれるが、ただしこれらに限定されない。
本発明の1つ以上のキメラ遺伝子構築物はさらに3'非翻訳領域を含むことができる。3'非翻訳領域は、ポリアデニル化シグナル及びmRNAプロセッシング又は遺伝子発現を実行することができる他の任意の調節シグナルを収納するDNAセグメントを含む遺伝子の部分に該当する。ポリアデニル化シグナルは、通常mRNA前駆体の3'末端にポリアデニル酸鎖を付加することを特徴とする。ポリアデニル化シグナルは、一般的には正規の形態5'AATAAA-3'(ただし変型は珍しくはないが)との相同性の存在によって認識される。本発明の1つ以上のキメラ遺伝子構築物はさらにまたエンハンサー(翻訳又は転写エンハンサー)を必要に応じて含むことができる。これらのエンハンサー領域は当業者には周知であり、ATG開始コドン及び隣接配列を含むことができる。開始コドンは、全配列の翻訳を担保するためにコード配列のリーディングフレームと一致しなければならない。
【0040】
適切な3'領域の非限定的な例は、アグロバクテリウム腫瘍誘発(Ti)プラスミド遺伝子、例えばノパリンシンターゼ(Nos遺伝子)並びに植物遺伝子、例えばダイズ貯蔵タンパク質遺伝子及びリブロース1,5-ビスホスフェートカルボキシラーゼ遺伝子の小サブユニット(ssRUBISCO)のポリアデニル化シグナルを含む3'転写非翻訳領域である。
形質転換植物細胞の識別を促進するために、本発明の構築物をさらに操作して植物性選別可能マーカーを含ませ得る。有用な選択可能マーカーには、化学物質、例えば抗生物質(例えばゲンタマイシン、ヒグロマイシン、カナマイシン)又は除草剤(例えばホスフィノトリシン、グリホセート、クロロスルフロンなど)に対して耐性を提供する酵素が含まれる。同様に、色の変化によって識別可能な化合物の生成を提供する酵素、例えばGUS(ベータ-グルクロニダーゼ)又はルミネセンス(例えばルシフェラーゼ又はGFP)を用いてもよい。
本発明で考慮される部分はまた、本発明のキメラ遺伝子構築物を含むトランスジェニック植物、植物細胞又は種子である。植物細胞から植物全体を再生する方法もまた当分野では公知である。一般的には、形質転換細胞は適切な培地で培養される。前記培地は選別物質(例えば抗生物質)を含んでもよく、選別可能マーカーは形質転換植物細胞の識別を容易にするために用いられる。いったんカルスが形成されたら、シュートの形成は、公知の方法にしたがって適切な植物ホルモンを利用することによって促進することができ、このシュートを発根培地に移して植物を再生させる。続いて、この植物を用いて、反復生成を種子から又は栄養繁殖技術を用いて確立し得る。トランスジェニック植物はまた組織培養を用いることなく作製することができる。
本発明の調節エレメントはまた、形質転換又は一過性発現になじみ易い一連の宿主生物での発現のために、対象コード領域と結合させ得る。そのような生物には、単子葉及び双子葉植物(ただしこれらに限定されない)、例えばトウモロコシ、穀類植物、コムギ、オオムギ、エンバク、ニコチアナ(Nicotiana)spp.、ブラシッカ(Brassica)spp.、ダイズ、インゲンマメ、エンドウ、アルファルファ、ジャガイモ、トマト、チョウセンニンジン、及びシロイヌナズナが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
安定な形質転換のための方法及びこれら生物の再生は当分野では確立されてあり、当業者には公知である。形質転換及び再生植物を得る方法は、本発明にとって重要ではない。
【0041】
“形質転換”とは、遺伝子型として、表現型として又はその両方として表出される遺伝情報(ヌクレオチド配列)の種間移転を意味する。キメラ構築物から宿主への遺伝情報の種間移転は遺伝性であって遺伝情報の移転は安定であると考えられるが、また移転は一過性であって遺伝情報の移転は遺伝性でなくてもよい。
本発明はさらに、安定な発現系又は一過性発現系による使用に適したキメラ構築物を含む適切なベクターを含む。遺伝情報はまた1つ以上の構築物で提供し得る。例えば、対象のタンパク質をコードするヌクレオチド配列は一方の構築物に導入され、対象タンパク質のグリコシル化を改変するタンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列は別の構築物を用いて導入し得る。続いてこれらのヌクレオチド配列を植物内で同時発現させ得る。しかしながら、対象タンパク質及び対象タンパク質のグリコシル化プロファイルを改変するタンパク質の両タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む構築物もまた用い得る。この場合、ヌクレオチド配列は、対象タンパク質をコードする第一の核酸配列(プロモーター又は調節領域と機能的に連結されている)を含む第一の配列、及び対象タンパク質のグリコシル化プロファイルを改変するタンパク質をコードする第二の核酸配列(第二の配列はプロモーター又は調節領域と機能的に連結されている)を含む第二の配列を含むであろう。
“同時発現”とは、2つ以上のヌクレオチド配列が、ほぼ同じときに植物内で、及び植物の同じ組織で発現されることを意味する。しかしながら、前記ヌクレオチド配列は、厳密に同じときに発現される必要はない。そうではなくて、2つ以上のヌクレオチド配列は、コードされた生成物が相互作用する機会を有することができるように発現される。例えば、対象タンパク質のグリコシル化を改変するタンパク質は、対象タンパク質のグリコシル化の改変が生じるように、対象タンパク質が発現される前又は発現期間中に発現される。2つ以上のヌクレオチドは一過性発現系を用いて同時発現させることができる。この場合、2つ以上の配列は、両配列が発現される条件下でほぼ同じときに植物に導入される。また別には、ヌクレオチド配列の一方(例えば対象タンパク質のグリコシル化プロファイルを改変するタンパク質をコードする配列)を含むプラットフォーム植物を、一過性態様又は安定的態様で対象タンパク質をコードする追加の配列で形質転換し得る。この場合、対象タンパク質のグリコシル化プロファイルを改変するタンパク質をコードする配列は、所望の組織で所望の発育期の間に発現させるか、又は誘導性プロモーターを用いて前記の発現を誘導し、さらに対象タンパク質をコードする追加の配列を類似の条件下及び同じ組織で発現させて、ヌクレオチド配列が同時発現されることを担保し得る。
【0042】
本発明の構築物は、Tiプラスミド、Riプラスミド、植物ウイルスベクター、直接DNA形質転換、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどを用いて植物細胞に導入することができる。そのような技術の検討のためには例えば以下を参照されたい:Weissbach and Weissbach, Methods for Plant Molecular Biology, Academy Press, New York VIII, pp. 421-463 (1988);Geierson and Corey, Plant Molecular Biology, 2d Ed. (1988);及びMiki and Iyer, Fundamentals of Gene Transfer in Plants. ”Plant Metabolism”, 2d Ed. DT. Dennis, DH Turpin, DD Lefebrve, DB Layzell (eds), Addison Wesly, Langmans Ltd. London, pp. 561-579 (1997)。他の方法には、直接DNA取込み、リポソームの使用、エレクトロポレーション(例えばプロトプラストを用いる)、マイクロインジェクション、マイクロプロジェクティル又はウィスカー(whisker)、及び真空浸透が含まれる。例えば以下を参照されたい:Bilang, et al. (Gene 100: 247-250 (1991);Scheid et al. (Mol. Gen. Genet. 228: 104-112, 1991);Guerche et al. (Plant Science 52: 111-116, 1987);Neuhause et al. (Theor. Appl Genet. 75: 30-36, 1987);Klein et al., Nature 327: 70-73 (1987);Howell et al. (Science 208: 1265, 1980);Horsch et al. (Science 227: 1229-1231, 1985);DeBlock et al., (Plant Physiology 91: 694-701, 1989);Methods for Plant Molecular Biology (Weissbach and Weissbach, eds., Academic Press Inc., 1988);Methods in Plant Molecular Biology (Schuler and Zielinski, eds., Academic Press Inc., 1989);Liu and Lomonossoff (J Virol Meth, 105:343-348, 2002,);米国特許4,945,050号、5,036,006号及び5,100,792号;米国特許出願08/438,666号(1995年5月10日出願)及び07/951,715号(1992年9月25日出願)(前記文献はいずれも参照により本明細書に含まれる)。
下記で述べるように、一過性発現方法を用いて、本発明の構築物を発現させ得る(以下を参照されたい:Liu and Lomonossoff, 2002, Journal of Virological Methods, 105:343-348、前記文献は参照により本明細書に含まれる)。また別には、Kapilaら(1997)(前記文献は参照により本明細書に含まれる)が記載した真空による一過性発現方法を用いてもよい。これらの方法には、例えばアグロバクテリア接種(Agro-inoculation)若しくはアグロバクテリア浸透(Agro-infiltration)が含まれるが(ただしこれらに限定されない)、上記に記載した他の方法もまた用いられ得る。アグロバクテリア接種又はアグロバクテリア浸透に関しては、所望の核酸を含むアグロバクテリア菌の混合物が、組織(例えば葉)、植物の気生部分(茎、葉及び花を含む)、植物の他の部分(茎、根、花)又は全植物の細胞間間隙に入り込む。
表皮を交雑させた後、アグロバクテリア菌が感染してt-DNAコピーが細胞に移される。このt-DNAはエピソーム的に(episomally)転写され、mRNAが翻訳されて感染細胞で対象タンパク質の生成をもたらすが、t-DNAの核内での継代は一過性である。
【0043】
“対象の遺伝子”、“対象のヌクレオチド配列”、又は“対象のコード領域”とは、宿主生物、例えば植物で発現されるべき任意の遺伝子、ヌクレオチド配列又はコード領域を意味する。これら用語は相互に用いられる。そのような対象ヌクレオチド配列には、その生成物が対象タンパク質である遺伝子又はコード領域が含まれるが、ただしこれらに限定されない。対象タンパク質の例には例えば以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):工業用酵素、タンパク質サプリメント、栄養性医薬(nutraceutical)、付加価値製品、又は前記のフラグメントであって飼料、食品若しくは飼料と食品双方に使用するためのもの、医薬的に活性を有するタンパク質(例えば成長因子、生長調節物質、抗体、抗原及び前記のフラグメント、又は免疫付与又はワクチン接種のために有用な前記の誘導体が含まれるが、ただしこれらに限定されない)など。さらに追加される対象タンパク質には以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):インターロイキン(例えば1つ以上のIL-1からIL-24、IL-26及びIL-27)、サイトカイン、エリスロポエチン(EPO)、インスリン、G-CSF、GM-CSF、hPG-CSF、M-CSF若しくは前記の組合せ、インターフェロン(例えばインターフェロン-アルファ、インターフェロン-ベータ、インターフェロン-ガンマ)、血液凝固因子(例えば第VIII因子、第IX因子)、又はtPA hGH、レセプター、レセプターアゴニスト、抗体、神経ポリペプチド、インスリン、ワクチン、成長因子(例えば表皮増殖因子、ケラチノサイト増殖因子、形質転換増殖因子、増殖調節因子が含まれるが、ただしこれらに限定されない)、抗原、自己抗原、前記のフラグメント、又は前記の組合せ。
対象のヌクレオチド配列が、植物に対して直接的に又は間接的に毒性を有する生成物をコードする場合は、本発明の方法を用いることによって、所望の組織又は植物の所望の発育期に対象遺伝子を選択的に発現させて植物全体でそのような毒性を低下させることができる。さらにまた、一過性の発現により発現期間を限定して、植物内で有毒な生成物が生じるときの影響を少なくし得る。
対象のコード領域又は対照のヌクレオチド配列は、形質転換されているか、又は本発明のヌクレオチド配列、又は核酸分子、又は遺伝子構築物、又はベクターを含む任意の適切な植物宿主で発現させることができる。適切な宿主の例には、シロイヌナズナ、農作物(例えばキャノーラ、ブラシッカ(Brassica)spp.、トウモロコシ、ニコチアナ(Nicotiana)spp.、アルファルファ、アルファルファ、ジャガイモ、チョウセンニンジン、エンドウ、エンバク、コメ、ダイズ、コムギ、オオムギ、ヒマワリ、ワタを含む)が含まれるが、ただしこれらに限定されない。
下記実施例でより詳細に記載するように、N-グリコシル化が改変された対象タンパク質(例えば抗体、C5-1(ただし前記に限定されない))の合成は、GalT又はGNT1-GalTのどちらかを同時発現する植物で実施された。
【0044】
配列リスト:

【実施例1】
【0045】
発現カセットR610、R612(図1a)、R621及びR622(図5a)のアッセンブリ
全ての操作は、SambrookとRussel(2001)の一般的な分子生物学プロトコルを用いて実施した。
R610、R612(図1a)
使用したオリゴヌクレオチドプライマーを下記に提示する:
【0046】
XmaI-pPlas.c: 配列番号:1
5'-AGTTCCCCGGGCTGGTATATTTATATGTTGTC-3' 配列番号:1
SacI-ATG-pPlas.r: 配列番号:2
5'-AATAGAGCTCCATTTTCTCTCAAGATGATTAATTAATTAATTAGTC-3' 配列番号 :2
SacI-PlasTer.c: 配列番号:3
5'-AATAGAGCTCGTTAAAATGCTTCTTCGTCTCCTATTTATAATATGG-3' 配列番号:3
EcoRI-PlasTer.r: 配列番号:4
5'-TTACGAATTCTCCTTCCTAATTGGTGTACTATCATTTATCAAAGGGGA-3' 配列番号:4
Plasto-443c: 配列番号:5
5'-GTATTAGTAATTAGAATTTGGTGTC-3' 配列番号:5
Plas+LC-C51.r: 配列番号:6
5'-ATCTGAGGTGTGAAAACCATTTTCTCTCAAGATG-3' 配列番号:6
LC-C51.c: 配列番号:7
5'-ATGGTTTTCACACCTCAGATACTTGG-3' 配列番号:7
LC-C51XhoSac.r: 配列番号:8
5'-ATATGAGCTCCTCGAGCTAACACTCATTCCTGTTGAAGC-3' 配列番号:8
Plas+HC-C51.r: 配列番号:9
5'-CAAGGTCCACACCCAAGCCATTTTCTCTCAAGATG-3' 配列番号:9
HC-C51.c: 配列番号:10
5'-ATGGCTTGGGTGTGGACCTTGC-3' 配列番号:10
HC-C51XhoSac.r: 配列番号:11
5'-ATAAGAGCTCCTCGAGTCATTTACCAGGAGAGTGGG-3' 配列番号:11
HC-C51KDEL(SacI).r: 配列番号:12
5'-ATAAGAGCTCTCAAAGTTCATCCTTTTTACCAGGAGAGTGGG-3' 配列番号:12
【0047】
第一のクローニング工程は、アルファルファのプラストシアニン遺伝子の上流及び下流の調節エレメントを含むレセプタープラスミドを組み立てることであった。プラストシアニンプロモーター(米国特許7,125,978号、前記文献は参照により本明細書に含まれる)及び5'UTR配列は、オリゴヌクレオチドプライマーXmaI-pPlas.c(配列番号:1)及びSacI-ATG-pPlas.r(配列番号:2)を用いて、アルファルファのゲノムDNAから増幅した。得られた増幅生成物をXmaI及びSacIで消化して、pCAMBIA2300(以前に同じ酵素で消化しておいた)に連結し、pCAMBIA-PromoPlastoを作製した。同様に、プラストシアニン遺伝子の3'UTR配列及びターミネータ(図1c、配列番号:24のヌクレオチド1−399)を、以下のプライマー(SacI-PlasTer.c(配列番号:3)及びEcoRI-PlasTer.r(配列番号:4))を用いアルファルファのゲノムDNAから増幅し、生成物をpCAMBIA-PromoPlastoの同じ部位に挿入する前にSacI及びEcoRIで消化してpCAMBIAPlastoを作製した。
プラスミドR610及びR612は、アルファルファのプラストシアニンプロモーター下でC5-1軽鎖及びC5-1重鎖コード配列をタンデム構築物として含むように調製した。R610はアッセンブリされたIgGがERで保持されるように設計され、さらに前記はC5-1の重鎖末端に融合したKDELを含んでいた。R612は分泌が可能なように設計された。
C5-1発現カセットのアッセンブリは、Darveauら(1995)が記載したPCR仲介連結方法を用いて実施した。プラストシアニンの下流で軽鎖コード配列をアッセンブリするために、第一の工程は、最初のATGの下流にあるD'Aoustら(米国特許7,125,978号、前記文献は参照により本明細書に含まれる)が記載したアルファルファプラストシアニンプロモーターの最初の443塩基対(bp)(図1bのヌクレオチド556−999又は配列番号:23)を、pCAMBIAPlastoを鋳型とし以下のプライマーを用いて増幅させることであった:
Plasto-443c(配列番号:5)及びPlas+LC-C51.r(配列番号:6、オーバーラップには上記で下線が付されている)。
【0048】
並行して、軽鎖コード配列を、プラスミドpGA643-kappa(Khoudi et al. 1999)から以下のプライマーを用いてPCR増幅させた:
LC-C51.c(配列番号:7)及びLC-C51XhoSac.r.(配列番号:8、オーバーラップには下線が付されている)。
得られた2つの増幅生成物を混合し、プライマーPlasto-443c(配列番号:5)及びLC-C51XhoSac.r(配列番号:8)による第三のPCR反応で鋳型として用いた。第一の反応で用いたプライマーPlas+LC-C51.r(配列番号:6)とLC-C51.c(配列番号:7)との間のオーバーラップは、第三の反応時の増幅生成物のアッセンブリをもたらす。第三のPCR反応から生じたアッセンブリ生成物をDraIII及びSacIで消化し、DraIII及びSacIで消化したpCAMBIAPlastoに連結してプラスミドR540を作製した。
重鎖コード配列は、プラストシアニンの開始ATGの上流の443 bp、ヌクレオチド556−999(図1b、配列番号:23、)を、pCAMBIAPlastoを鋳型とし以下のプライマーを用いて増幅させることによってプラストシアニンの上流の調節エレメントと融合させた:
Plasto-443c(配列番号:5)及びPlas+HC-C51.r(配列番号:9、オーバーラップには上記で下線が付されている)。
【0049】
これら反応の生成物を混合して、プライマーPlasto-443c(配列番号:5)及びHC-C51XhoSac.r.(配列番号:11)を用い第三のPCR反応でアッセンブリさせた。得られたフラグメントをDraIII及びSacIで消化し、pCAMBIAPlastoのDraIIIとSacI部位の間で連結させた。この生成プラスミドをR541と名付けた。
プラスミドR541を鋳型として用い、プライマーPlasto-443c(配列番号:8)及びHC-C51KDEL(SacI).r(配列番号:12)によるPCR増幅によって、重鎖コード配列のC-末端にKDELタグを付加した。生成フラグメントをDraIII及びSacIで消化し、pCAMBIAPlastoの同じ部位にてクローニングし、R550を作製した。
同じ二元プラスミドでの軽鎖及び重鎖発現カセットのアッセンブリは以下のように実施した:R541及びR550をEcoRIで消化して平滑端を得、さらにHindIIIで消化して、R540のHindIII及びSmaI部位に連結してR610(KDELを有する)及びR612(KDELをもたない、図1参照)を作製した。
R514(図5a)
R621及びR622(図5a)−使用したオリゴヌクレオチドプライマーは以下に提示する:
【0050】
FgalT 配列番号:27
5'-GACTCTAGAGCGGGAAGATGAGGCTTCGGGAGCCGCTC-3' 配列番号:27
RgalTFlagStu 配列番号:28
5'- AAGGCCTACG CTACTTGTCAT CGTCATCTTT GTAGTCGCAC GGTGTCCCG AAGTCCAC -3' 配列番号: 28
FGNT 配列番号:29
5'-ATCGAAATCGCACGATGAGAGGGAACAAGTTTTGC-3' 配列番号: 29
RGNTSpe 配列番号:30
5'-CGGGATCCACTAGTCTGACGCTTCATTTGTTCTTC-3' 配列番号: 30
FgalTSpe 配列番号:25
5'-GGACTAGTGCACTGTCGCTGCCCGCCTGC-3' 配列番号: 25
【0051】
GalT及びGNT1GalT発現用プラスミドはpBLTI121(Pagny et al. 2003)からアッセンブリさせた。ヒトβ(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼ(hGalT)遺伝子(UDPガラクトース:β-N-アセチルグルコサミド:β(1,4)-ガラクトシルトランスフェラーゼ;EC2.4.1.22)をpUC19-hGalT(Watzele et al. 1991)からEcoRI消化により単離した。クレノー処理後、1.2kbのhGalTフラグメントをpBLT221のSmaI部位でクローニングし、プラスミドpBLTI221hGalTを生成した。続いて、プライマーFGalT(配列番号:27)及びRGalTFlagStu(配列番号:28)を増幅のために用い、PCRによって前記コード領域のC-末端にFlagタグを融合させた。続いて、このXbaI-StuIフラグメントを二元ベクターpBLTI121にてクローニングすることによってR622を生成した。トランスメンブレンドメインに対応するN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI(GNT1)から最初の77アミノ酸を、鋳型としてN-GNT1をコードするN. tabacumのcDNA(Strasser et al. 1999)並びにプライマーとしてFGNT(配列番号:29)及びRGNTSpe(配列番号:30)を用いてPCRによって増幅させた。増幅生成物を先ず初めにpGEM-Tベクターにてクローニングし、得られたプラスミドをApaI及びBamHIで消化し、pBLTI221に連結し、pBLTI221-GNT1と称されるプラスミドを生成した。hGalTの触媒ドメインを、プライマーFGalTSpe(配列番号:25)及びRGalTFlagStu(配列番号:28)を用いてpBLTI221hGalTを基にPCR増幅によって入手し、SpeI及びStuI部位をそれぞれ5'及び3'末端に作製した。続いて、SpeI/StuI hGalTフラグメントを同じ(SpeI及びStuI)部位を用いてpBLTI221-GNT1にてクローニングし、pBLTI221-GNT1GalTを作製した。最後に、pBLTI221-GNT1GalTをXbaI及びStuIで消化し、GNT1GalTコード配列(図5d、配列番号:17)を単離し、このフラグメントを二元ベクターpBLTI121にてクローニングすることによってR621を作製した。
全てのクローンでシークェンシングを実施して構築物の完全性を確認した。これらのプラスミドを用い、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)を大腸菌(E.coli)の形質転換の場合のように(W.S. Dower, Electroporation of Bacteria, In “Gentic Engineering”, Volume 12, Plenum Press, New York, 1990, J.K. Setlow eds.)Gene Pulser II装置(Biorad, Hercules, CA, USA)を用いて形質転換した。全てのA.ツメファシエンス株の完全性は制限マッピングによって確認した。
HcPro構築物はHamiltonらの記載にしたがって調製した。
【実施例2】
【0052】
植物バイオマスの調製、接種物、アグロバクテリア浸透及び採集
植物ニコチアナ・ベンタミアナ(Nicotiana benthamiana)を、市販の泥炭ゴケ基質を満たした平箱で種子から育てた。前記植物を16/8の光周期及び25℃日中/20℃夜間の温度スケジュールの下で温室にて生育させた。播種から3週間後に、個々の幼植物を採取して鉢に移植し、さらに3週間同じ環境条件下で温室にて生育させた。
10mMの2-[N-モルフォリノ]エタンスルホン酸(MES)、20μMアセトシリンゴン、50μg/mLカナマイシン及び25μg/mLのカルベニシリン(pH5.6)を補充したYEB培地で、アグロバクテリア株R612、R610、R621、R622又は35SHcProをOD600が0.6から1.6に達するまで増殖させた。アグロバクテリア菌の懸濁液を使用前に遠心し、浸透培養液(10mMのMgCl2及び10mMのMES(pH5.6))に再懸濁した。
注射筒浸透(syringe-infiltration)は、Liu and Lomonossoffの記載(2002、Journal of Virological Methods, 105:343-348)にしたがって実施した。
真空浸透(vacuum-infiltration)については、A.ツメファシエンス懸濁液を遠心し、浸透培養液に再懸濁して4℃で一晩保存した。浸透の日に、培養バッチを2.5培養体積に希釈し、使用前に温めた。ニコチアナ・ベンタミアナの全植物を気密なスチールタンク中の細菌懸濁液に上下さかさまにして20−40トルの真空下に2分静置した。注射筒又は真空浸透に続いて、植物を温室に戻し、採集まで4−5日間インキュベートした。
【0053】
葉のサンプリング及び全タンパク質抽出:
インキュベーションに続いて、植物の気生部分を採集し、-80℃で凍結し、小片に粉砕して1.5又は7.5gのサブサンプルに分けた。凍結粉砕した植物材料の各サブサンプルを、冷却した50mMトリス(pH7.4)、0.15MのNaCl、0.1%のトリトンX-100、1mMフェニルメタンスルフォニルフロリド及び10μMキモスタチンの3体積中で均質化することによって(Polytron)、全可溶性タンパク質を抽出した。均質化後に、スラリーを4℃で20分、20,000gで遠心し、これらの清澄粗抽出物(上清)を分析のために維持した。参照標準物としてウシ血清アルブミンを用い、Bradfordアッセイ(Bio-Rad, Hercules, CA)によって、清澄粗抽出物の全タンパク質含有量を測定した。
【実施例3】
【0054】
タンパク質分析、免疫ブロッティング及びELISA
C5-1は抗ヒトネズミIgGであり、したがって検出及び定量は、ヒトIgGに対するその特徴的な親和性により(活性ブロット)または抗マウスIgG対するその免疫反応性によって実施することができる。
全粗抽出物又は精製抗体のタンパク質をSDS-PAGEによって分離し、クマシーブルーR-250若しくはG-250で染色するか、又は免疫的検出のためにポリビニレンジフロリドメンブレン(Roche Giagnostics Corporation, Indianapolis, IN)に電気的に移した。イムノブロッティングの前に、このメンブレンをトリス緩衝食塩水(TBS-T)中の5%脱脂乳及び0.1%トゥイーン20で4℃にて16−18時間ブロッキングした。
イムノブロッティングは以下の抗体とともにインキュベートすることにより実施した:ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoResearch, West Grove, PA, Cat#115-035-146)(TBS-T中の2%脱脂乳にて0.04μg/mL)、ペルオキシダーゼ結合ヒトIgG抗体(Gamunex(商標)Bayer Corp., Elkhart, IN)(TBS-T中の2%脱脂乳にて0.2μg/mL)、又はポリクローナルヤギ抗マウスIgG抗体(重鎖特異的)(Sigma-Aldrich, St-Louis, MO)(TBS-T中の2%脱脂乳にて0.25μg/mL)。ペルオキシダーゼ結合ロバ抗ヤギIgG抗体(Jackson ImmunoResearch)(TBS-T中の2%脱脂乳にて0.04μg/mL)は、重鎖特異的抗体で処理したメンブレンについて二次抗体として用いた。免疫反応性複合体は、基質としてルミノール(Roche Giagnostics Corporation)を用いケミルミネセンスによって検出した。ヒトIgG抗体のセイヨウワサビペルオキシダーゼ酵素結合は、EZ-Link Plus(商標)活性化ペルオキシダーゼ結合キット(Pierce, Rockford, IL)を用いて実施した。
【0055】
ELISA定量アッセイ
マルチウェルプレート(Immulon 2HB, ThermoLab System, Franklin, MA)を、IgG1重鎖特異的ヤギ抗マウス抗体(Sigma M8770)(50mMの炭酸緩衝液(pH9.0)中に2.5μg/mL)で4℃にて16−18時間コーティングした。続いてマルチウェルプレートを、リン酸緩衝食塩水(PBS)(Pierce Biotechnology, Rockford, IL)中の1%カゼインで37℃にて1時間ブロッキングした。標準曲線は精製マウスIgG1コントロール(Sigma M9269)の希釈物を用いて作成した。イムノアッセイを実施しているときは、全ての希釈(コントロール及びサンプル)は、一切のマトリックスの作用を排除できるように、模擬接種物を浸透させインキュベートした植物組織から得た植物抽出物中で実施した。プレートをタンパク質サンプル及び標準曲線希釈物とともに1時間37℃でインキュベートした。PBS中の0.1%トゥイーン20で3回洗浄した後、このプレートをペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体(ブロッキング溶液中で0.04μg/mL)(Jackson ImmunoResearch 115-035-146)とともに37℃で1時間インキュベートした。PBS−Tでの洗浄を繰り返し、プレートを3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)Sure Blueペルオキシダーゼ基質(KPL, Gaithersburg, MD)とともにインキュベートした。反応を1NのHClを添加して停止させ、吸収を450nmで読み取った。各サンプルをトリプリケートでアッセイし、標準曲線の直線部分で濃度を内挿した。
【実施例4】
【0056】
IgG精製
材料の葉からのC5-1の精製は、N.ベンタミアナ(100−150g)の凍結葉を採取する工程、20mMリン酸ナトリウム、150mMのNaCl及び2mMメタ重亜硫酸ナトリウム(pH5.8−6.0)を添加する工程、及び市販のブレンダーを用いて室温で2−3分混ぜ合わせる工程を必要とした。不溶性線維はMiraclothTM(Calbiochem, San Diego, CA)での粗いろ過によって除去し、10mMフェニルメタンスルホニルフルオリド(PMSF)をろ液に添加した。1MのHClで抽出物をpH4.8±0.1に調整し、18000gで15分、2−8分遠心して清澄にした。この清澄にした上清を2MのTRISでpH8.0±0.1に調整し、再度18000gで15分、2−8分遠心して清澄にし、0.8及び0.2μmの連続メンブレン(Pall Corporation, Canada)でろ過した。ろ過した材料は、有効面積が0.2ft2の100kDa分子量カットオフ限外ろ過膜(GE Healthcare Biosciences, Canada)を用いて接線流ろ過によって濃縮し、前記清澄材料の体積を5−10倍減少させた。続いて、この濃縮サンプルを、組換えプロテインG-セファロースファストフロー(Sigma-Aldrich, St-Louis, MO, Cat.#P4691)の5mmx5cmカラム(カラム体積1mL)に適用した。このカラムを5カラム体積の20mM TRIS-HCl、150mM NaCl(pH7.5)で洗浄した。抗体は100mMのグリシン(pH2.9−3.0)で溶出させ、計算した体積の1M TRIS-HCl(pH7.5)を含むチューブに採取することによって直ちにpHを中性にした。プールした溶出抗体分画を21000gで15分、2−8℃で遠心し、分析まで-80℃で保存した。精製後、前記アフィニティカラムを清浄にし、製造業者の指示にしたがって保存した。同じクロマトグラフィー媒体は、精製性能を顕著に変更することなく数回の精製に再使用することができる(10サイクルまで試験済み)。
【実施例5】
【0057】
N-グリコシル化分析
C5-1(50μg)を含むサンプルを15% SDS/PAGEで泳動した。重鎖及び軽鎖はクマシーブルーで明らかにし、重鎖に対応するタンパク質バンドを切り出し、小断片に切断した。断片を0.1M NH4HCO3/CH3CN(1/1)の溶液600μLで3回、各回15分間洗浄して乾燥させた。
ジスルフィド架橋の還元は、ゲル断片を0.1M NH4HCO3中の0.1MのDTT溶液600μLで56℃にて45分間インキュベートすることにより得られた。アルキル化は、0.1M NH4HCO3中のヨードアセトアミド55mMの溶液600μLを室温で30分添加することによって実施した。上清を廃棄し、ポリアクリルアミド断片を0.1M NH4HCO3/CH3CN(1/1)中でもう1回洗浄した。
続いてタンパク質を、0.05M NH4HCO3 600μL中の7.5μgトリプシン(Promega)で37℃にて16時間消化した。200μLのCH3CNを添加し、上清を収集した。続いて、ゲル断片を0.1M NH4HCO3 200μLで、その後200μLのCH3CNで再度、最後に200μLのギ酸(5%)で洗浄した。全ての上清をプールし凍結乾燥させた。
HPLCによるペプチドの分離は、C18逆相カラム(4.5x250mm)で0.1%のTFA中のCH3CNの直線勾配で実施した。分画を収集して凍結乾燥させ、337-nm窒素レーザーを搭載したVoyager DE-Pro MALDI-TOF装置(Applied Biosystems, USA)でMALDI-TOF-MSによって分析した。質量分析は、マトリックスとしてアルファ-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(Sigma-Aldrich)を用い、リフレクター遅延抽出モードで実施した。
【実施例6】
【0058】
アグロバクテリア浸透ニコチアナ・ベンタミアナの葉における一過性IgG発現の定量
強力なプラストシアニン系発現カセットが完全にアッセンブリされたIgGの高度な蓄積を駆動させることができるか否かを試験するために、図1に提示したように、pCambia二元プラスミドの同じT-DNAセグメント上で、C5-1(ネズミ抗ヒトIgG)(Khoudi et al. 1997)の軽鎖及び重鎖のコード配列をプラストシアニンプロモーター及び5'非翻訳配列の下流でタンデム構築物としてアッセンブリし、さらにプラストシアニン3'非翻訳配列及び転写終了配列とフランキングさせた。
R612及びR610の両発現カセット(実施例1参照)では、軽鎖及び重鎖コード配列は、C5-1(Khoudi et al. 1999)由来の天然のシグナルペプチドを含んでいたが、R610では、アッセンブリされたIgGのゴルジ装置への移動を抑制するために、KDELペプチドのコード配列を重鎖のC-末端に付加した。
クローニング工程及びアグロバクテリウム・ツメファシエンス(AGL1)のプラスミドの移入に続いて、ニコチアナ・ベンタミアナの3つの植物の全ての葉に、プラスミドR612又はR610で形質転換したアグロバクテリウム株を注射筒浸透させ、実施例2に記載したように分析を実施する前に、温室の条件下で6日間インキュベートした。インキュベーション期間の後、各植物の葉(ほぼ20gのバイオマス)を凍結し、粉砕し、さらに凍結粉末を混合して均質なサンプルを作製し、前記サンプルから1.5gの2つのサブサンプル(各植物から、実施例3参照)を抽出のために採取した。ポリクローナルヤギ抗マウスIgG1重鎖を捕捉用に、さらにペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG(H+L)を検出用に用いて、各サンプルの全タンパク抽出物中のC5-1含有量を酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって定量した(実施例3参照)。
図2に示すように、R612のアグロバクテリア浸透は、新鮮重量1kg当たり106mgの抗体の蓄積をもたらし、一方、抗体のER保持型(R610)は同じ条件下で211mg/kgFWに達した。
【0059】
転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)はアグロバクテリア浸透ニコチアナ・ベンタミアナ植物のトランスジーンの発現を制限し、ジャガイモウイルスYのサイレンシングサプレッサー(HcPro)の同時発現は、トランスジーンのmRNAの特異的分解を妨害することが示されたので(Brigneti et al. 1998)、HcPro構築物(Hamilton et al. 2002)の同時浸透をC5-1の発現増加における有効性について試験した。R612及びR610とHcProとの同時発現は、HcProの非存在下で観察された抗体蓄積と比較して、抗体蓄積レベルをそれぞれ5.3倍及び3.6倍増加させた。HcProの存在下では、プラストシアニン制御C5-1発現は、R612では558mg/kgFW、R610では757mg/kgFWの平均値に達した(図2)。C5-1最大発現レベルは、R612及びR610の両浸透葉由来のいくつかの抽出物で1.5g/kgFW(全可溶性タンパク質の25%)を超えた。
アグロバクテリア浸透発現系の計測性を判定するために、Kapilaらの記載した方法から応用した真空浸透方法にしたがって、C5-1の蓄積を定量した。この実験シリーズでは、全植物の気生部分にR612+HcPro又はR610+HcProを用いて真空浸透を実施し、採集前の6日間温室に戻した。大規模生産系に典型的なデータを提供するために、数植物から得られる葉/葉柄のほぼ250g量のバッチを凍結し、すり潰して均質なサンプルにし、さらにバッチ当たり7.5g量を含む3つのサブサンプルを分析用に収集した。ELISAによる定量で示されたように、平均的なC5-1蓄積レベルは、R612とR610浸透についてそれぞれ238及び328mg/kgFWに達した(図2)。
【実施例7】
【0060】
生成抗体の性状決定
タンパク質ブロット分析(実施例3参照)を用いて、注射筒浸透及び真空浸透実験の両実験の後、分泌型(R612)及びER保持型(610)タンパク質を生成する植物でC5-1 IgGのアッセンブリ及び断片化レベルを明らかにした。H+Lペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgGをプローブに用いたウェスタンブロットを先ず初めに用いて、C5-1分子におけるその由来とは無関係に、最大量の抗体フラグメントの存在を明瞭に示した。図3Aに示すように、全てのタンパク質抽出物は、使用した分子内標的誘導方法又は浸透方法とは無関係に、類似の分子サイズのフラグメントを類似の相対的豊富さで含んでいた。各事例で、完全な抗体に一致する約150kDaの主要(≧85%)バンドが、約135kDa及び約100kDaのマイナーバンドとともに明示され、抗体は主としてその完全なアッセンブリ型(H2L2)として蓄積されることが示された。興味深いことに、同様な電気泳動移動度を有するフラグメントがまた、ネズミ腫瘍細胞株(MOPC-21;Sigma #M9269)から生成されたコントロールIgGにも存在し、植物及び哺乳動物細胞株で生じる断片化は類似し、おそらく共通のタンパク質分解活性から生じることが示唆された。同様な結果がまた、検出用抗マウス重鎖特異的抗体を用いて得られた。
抽出物中に存在する抗体フラグメントの実体を調べるために、ブロットタンパク質をペルオキシダーゼ結合ヒトIgG1(C5-1の抗原)プローブを用いて試験する活性ブロットを利用した。約150kDaの完全にアッセンブリした抗体の実体は図3Bで知ることができる。さらにまた、ウェスタンブロットで観察される断片化パターンは活性ブロットで知ることができるが(図3B参照)、ただし100kDaバンドは例外である(図3A参照)。理論に拘束されないが、この結果は、100kDaフラグメントはC5-1抗体のFab領域を含まず、少なくとも部分的には重鎖ダイマー(抗体アッセンブリーの中間物)から成るかもしれない。
【実施例8】
【0061】
抗体精製及び精製生成物の性状決定
プロテインGアフィニティクロマトグラフィー工程を用いてバイオマスから抗体を精製し、得られた生成物をSDS-PAGEによって分析した(実施例4参照)。図4aに提示したクマシーブルー染色ゲルは、プロテインGから溶出した分画中の150kDaの主要バンドを示している。このバンドは、分泌型及びER保持型の両型で精製生成物の85%を占め、夾雑物における含有量は両型について同一である(図4A、レーン4及び5)。ポリクローナル抗マウスIgGプローブで調べたウェスタンブロット分析は、精製C5-1分画中の主要夾雑物がネズミIgG起源であることを示した(データは示されていない)。還元条件下では、2つの主要な生成物が約26kDa及び約55kDaで検出され、これらは、それぞれ軽鎖及び重鎖の分子量と一致している(図4B、レーン2)。ER保持抗体の重鎖は、アポプラスト抗体の重鎖より高い電気泳動移動度を示し(図4B、レーン3)、これは、C-末端に存在する付加KDELアミノ酸とER保持によるN-グリコシル化の相違とが重なった結果と解釈される。図4Cは、精製抗体(150kDa)が、75、90、100及び120kDaの夾雑フラグメントと同様にヒトIgG1と結合したことを示し、これらのフラグメントに少なくとも1つのFabセグメントが存在することを明瞭に示している。100kDaフラグメントのFabの存在は、粗抽出物から得られた結果と対照的で、後者では100kDaバンドはヒトIgG1と結合しなかった。粗抽出物において100kDaで泳動するFab-含有フラグメントの量はこの活性ブロットによる検出のためには低すぎたか、又は100kDaで泳動するフラグメントは2つの異なる分子(一方は重鎖ダイマー(Fab無し)及び他方は抗原結合領域を含む)から成っていたという仮説が成り立つ。
抗体生成についてこの系の再現性は、2つの異なる浸透バッチから精製した生成物及び各バッチ由来の3つの別個の精製ロットを並べて比較して判定された。精製ロットのクマシー染色SDS-PAGE分析によって、全てのロットで同一バンドが高度に類似する相対的豊富さで存在することが示された(図4D)。
【実施例9】
【0062】
ヒトガラクトシルトランスフェラーゼの同時発現による抗体のN-グリコシル化の改変
一過性同時発現を用いて、一過性発現中に生成されつつあるタンパク質のグリコシル化を制御することができるか否かを調べるために、天然のヒトβ1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ(GalT)を含むプラストシアニン発現カセットを調製した。R622はGalTを含み(図5B)、R621は、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GNTI)のCTSドメインと融合させたGalT触媒ドメインを含んでいた(GNT1GalT、図5A)。N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GNTI)のCTSドメインは、GNT1が複合N-グリカン合成の初期にER及びcis-ゴルジ装置で機能するので、ヒトGalT触媒ドメインのために膜足場として選択した(Saint-Jore-Dupas et al. 2006)。理論に拘束されないが、タンパク質成熟の初期にGalT活性を隔離することによって、成熟グリカンのβ1,4ガラクトース付加及びコアのフコシル化及びキシロシル化の効率的な阻害がもたらされるのかもしれない。これらの構築物をC5-1とともに植物に同時浸透させた。
ニコチアナ・ベンタミアナの植物に、HcProの存在下でR612(C5-1の分泌型)、R612+R621(GNT1GalT)又はR612+R622(GalT)を浸透させた。図6は、これらのバイオマスサンプルから精製したC5-1の免疫学的分析を示す。
【0063】
抗体のガラクトシル化は、β1,4ガラクトースと特異的に結合するエリトリナ・クリスタガリ(Erythrina cristagali)アグルチニン(ECA)を用いる親和検出によって概算した。期待したように、C5-1を単独で発現させたとき(R612、図6)ガラクトースは検出されなかった。ガラクトシル化は、R512+R622(GalT)による同時浸透から精製したC5-1で認められたが、R612+R621(GNT1GalT、図6)による同時浸透から得たものでは認められなかった。抗α1,3フコース抗体を用いて実施したウェスタンブロットは、ガラクトシルトランスフェラーゼ無しに発現させたコントロールC5-1のN-グリカンのフコシル化を明示した。N-グリカンのフコシル化は、アグロバクテリア浸透の方法に関係なくGNT1GalTを同時発現させた抗体で検出されなかったが、一方、天然のGalTの同時発現は抗体のフコシル化の検出可能な低下をもたらさなかった(図6)。同様な結果が抗β1,2キシロース特異的抗体を用いて得られた。前記の結果では、GNT1GalT同時発現C5-1におけるキシロース特異的免疫シグナルの完全な欠如、及びGalT同時発現C5-1におけるキシロース特異的免疫シグナルの存在が示された(図6)。
完全にアッセンブリされたIgGの直接視覚的概算のためのクマシーゲル染色、並びにウェスタン及び活性ブロットを同じ抽出物について実施した。このデータを基にすれば、記載した抗体発現系は1.5g/kg新鮮重量の収量を達成し、粗抽出物中の生成物の85%を越えるものが、約150kDaの完全サイズのテトラマーIgGから成っていた。
【0064】
重鎖のC-末端へのKDELペプチドの付加が以前に用いられ、ゴルジからERへの抗体の回収を仲介することにより抗体蓄積を増加させた(2−10倍)(Schillberg et al. 2003)。本明細書に記載の発現系を用いたとき、C5-1の重鎖へのKDELペプチドの付加は、HcProサイレンシングサプレッサーを使用しないときC5-1の収量を倍増させた。KDELの存在下又は非存在下におけるC5-1の収量の相違は、HcProを使用してサイレンシングを低下させたとき顕著に減少した。ER保持は生成物の品質に影響を与えなかった。なぜならば、ER保持型抗体及び分泌型抗体を産生する植物から得られる粗抽出物で観察されるフラグメントは、サイズ及び相対的豊富さが同一であったからである。
C5-1を調製用HPLCで分離し、C5-1のトリプシン処理糖ペプチドEEQFNSTFR(配列番号:13)をMALDI-TOF質量分析で分析した。図7Aに示すように、C5-1を単独で発現させたとき、そのN-グリカン集団は主として複合型を示し、安定的発現で観察される(Bardor et al. 2003)フコシル化及びキシロシル化オリゴ糖から成るイオンを含む。非成熟ER-特異的グリカン(例えばMan-8及びMan-9)の存在は、一過性発現によって生成された植物由来抗体について以前に報告された(Sriaman et al. 2004)、“途上(en-route)”タンパク質分画と符号しえる。
抗体C5-1と天然のGalTとの同時発現はN-グリカン構造の顕著な改変をもたらしたが、高マンノース型グリカンと一致するイオンがなお豊富であった。主要なフコシル化及びキシロシル化複合N-グリカン(J)は消失し、新規な部分的にガラクトシル化されたオリゴ糖が検出され、それらのいくつかは植物特異的成熟及びガラクトース伸張(例えばGalGlcNAcMan3(Xyl)GlcNAc2(図7B)の両方を保持していた。これは、C5-1とヒトβ1,4ガラクトシルトランスフェラーゼとの同時発現は植物誘導抗体の効率的な糖操作をもたらすことを示している。
C5-1とGNTIGalTとの同時発現によって、N-グリカン集団がGalT/C5-1のN-グリカン集団と顕著に異なる精製C5-1調製物が得られた。図7Cに示すように、ガラクトシル化及び非ガラクトシル化ハイブリッド(GalGlcNAcMan5GlcNAc2(K)及びGalGlcNAcMan5GlcNAc2(G))が未成熟オリゴマンノースN-グリカンと一緒に存在した。理論に拘束されないが、Bakkerら(2006)が仮説を立てたように、GalGlcNAcMan5GlcNAc2(G)及びMan5GlcNAc2(B)は、成熟N-グリカン形成の中間体ではなく内因性グリコシダーゼによりハイブリッドGalGlcNAcMan5GlcNAc2の分解から誘導されたフラグメントかもしれない。GNT1膜固着の影響は驚くべきであった。すなわち、合成酵素GNT1GalTがC5-1とともに一過性に同時発現された植物から精製されたC5-1は、植物特異的α1,3フコース又はβ1,2キシロースを保持するグリカンを全く含まず(≦99%)、一過性発現中にフコシル化及びキシロシル化の完全改変が達成されたことを示している。
【0065】
全ての引用文献は参照により本明細書に含まれる。
本発明は1つ以上の実施態様に関して記載してきた。しかしながら、多数の変型及び改変が、特許請求の範囲で規定した本発明の範囲から逸脱することなく実施されえることは当業者には明白であろう。
【0066】
参考文献











【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変されたN-グリコシル化プロファイルを有する対象タンパク質を合成する方法であって、植物、植物の部分又は植物細胞内で、ベータ-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ(GalT)の触媒ドメインと融合されたN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GNT1)のCTSドメインを含むハイブリッドタンパク質GNT1-GalTをコードする第一のヌクレオチド配列であって、前記植物中で活性な第一の調節領域と機能的に連結された第一のヌクレオチド配列、及び対象タンパク質をコードするための第二のヌクレオチド配列であって、前記植物中で活性な第二の調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列を同時発現させる工程、並びに前記第一及び第二のヌクレオチド配列を同時発現させて、前記改変されたN-グリコシル化プロファイルを有するグリカンを含む対象タンパク質を合成する工程、を含む方法。
【請求項2】
前記第一のヌクレオチド配列及び第二のヌクレオチド配列が、前記植物中で一過性に発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一のヌクレオチド配列及び第二のヌクレオチド配列が、前記植物中で安定的に発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第一の調節領域が第一の組織特異的プロモーターであり、前記第二の調節領域が第二の組織特異的プロモーターである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第一の組織特異的プロモーターがプラストシアニンプロモーター又は35Sプロモーターであり、第二の組織特異的プロモーターがプラストシアニンプロモーター又は35Sプロモーターである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
第三のヌクレオチド配列が前記植物中で発現され、前記第三のヌクレオチド配列がサイレンシングのサプレッサーをコードし、前記第三のヌクレオチド配列が前記植物中で活性な第三の調節領域と機能的に連結される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
第三の組織特異的プロモーターがプラストシアニンプロモーター又は35Sプロモーターである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
第三のヌクレオチド配列が前記植物中で発現され、前記第三のヌクレオチド配列がサイレンシングのサプレッサーをコードし、前記第三のヌクレオチド配列が前記植物中で活性な第三の調節領域と機能的に連結される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
第三の組織特異的プロモーターがプラストシアニンプロモーター又は35Sプロモーターである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記対象タンパク質が、抗体、抗原又はワクチンである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
対象タンパク質をコードする前記第二のヌクレオチド配列が、前記植物中で活性な調節領域2Aと機能的に連結されたヌクレオチド配列2A、及び前記植物中で活性な調節領域2Bと機能的に連結されたヌクレオチド配列2Bを含み、かつ、2A及び2Bの各々によってコードされた生成物が結合して抗体を生成する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記調節領域2Aがプラストシアニンプロモーターであり、前記調節領域2Bがプラストシアニンプロモーターである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
配列番号:17(GNT1-GalT)を含むか、又は、以下のパラメータ(プログラム:blastn;データベース:nr;期待値10;フィルター:低複雑度;アラインメント:ペア毎;ワードサイズ:11)を用いて測定したとき、配列番号:17と約80%から100%の同一性を示すヌクレオチド配列を含む核酸であって、前記ヌクレオチド配列が、対象タンパク質のグリコシル化を改変するタンパク質をコードする、前記核酸。
【請求項14】
配列番号:14(GalT)を含むか、又は、以下のパラメータ(プログラム:blastn;データベース:nr;期待値10;フィルター:低複雑度;アラインメント:ペア毎;ワードサイズ:11)を用いて測定したとき、配列番号:14と約80%から100%類似の配列を含む第一の核酸配列を含む核酸であって、前記第一の核酸配列が、対象のタンパク質のグリコシル化を改変するタンパク質をコードし、前記第一の核酸配列が、プラストシアニンプロモーターを含む第二の核酸配列と機能的に連結される、前記核酸。
【請求項15】
改変されたN-グリコシル化プロファイルを有する対象タンパク質を合成する方法であって、植物、植物の部分又は植物細胞内で、ハイブリッドタンパク質(GNT1-GnT-III)をコードし、かつN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnT-III)の触媒ドメインと融合されたN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GNT1)のCTSドメインを含む第一のヌクレオチド配列であって、前記植物中で活性な第一の調節領域と機能的に連結された第一のヌクレオチド配列、及び対象タンパク質をコードする第二のヌクレオチド配列であって、前記植物中で活性な第二の調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列を含む核酸を同時発現させる工程、並びに前記第一及び第二のヌクレオチド配列を同時発現させて、前記改変されたN-グリコシル化プロファイルを有するグリカンを含む対象タンパク質を合成する工程、を含む方法。
【請求項16】
前記第一のヌクレオチド配列及び第二のヌクレオチド配列が、前記植物中で一過性に発現される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第一のヌクレオチド配列及び第二のヌクレオチド配列が、前記植物中で安定的に発現される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
配列番号:26のヌクレオチド1〜1641(GNT1-GnT-III)を含むか、又は、以下のパラメータ(プログラム:blastn;データベース:nr;期待値10;フィルター:低複雑度;アラインメント:ペア毎;ワードサイズ:11)を用いて測定したとき、配列番号:26のヌクレオチド1−1641と約80%から100%の同一性を示すヌクレオチド配列を含む核酸であって、対象タンパク質のグリコシル化を改変するタンパク質をコードする、前記核酸。
【請求項19】
配列番号:16のヌクレオチド1〜1460(GnT-III)を含むか、又は、以下のパラメータ(プログラム:blastn;データベース:nr;期待値10;フィルター:低複雑度;アラインメント:ペア毎;ワードサイズ:11)を用いて測定したとき、配列番号:16のヌクレオチド1−1460と約80%から100%類似の配列を含む第一の核酸配列を含む核酸であって、前記第一の核酸配列が、対象タンパク質のグリコシル化を改変するタンパク質をコードし、前記第一の核酸配列が、プラストシアニンプロモーターを含む第二の核酸配列と機能的に連結される、前記核酸。
【請求項20】
改変されたN-グリコシル化プロファイルを有する対象タンパク質を合成する方法であって、植物、植物の部分又は植物細胞内で、ベータ-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ(GalT)の触媒ドメインと融合されたN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GNT1)のCTSドメインを含むハイブリッドタンパク質GNT1-GalTをコードする第一のヌクレオチド配列であって、前記植物中で活性な第一の調節領域と機能的に連結された第一のヌクレオチド配列、ベータ-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼをコードする第二のヌクレオチド配列であって、前記植物中で活性な第二の調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列、及び対象タンパク質をコードするための第三のヌクレオチド配列であって、前記植物中で活性な第三の調節領域と機能的に連結された第三のヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列を同時発現させる工程、並びに前記第一、第二及び第三のヌクレオチド配列を同時発現させて、前記改変されたN-グリコシル化プロファイルを有するグリカンを含む対象タンパク質を合成する工程、を含む方法。
【請求項21】
改変されたN-グリコシル化プロファイルを有する対象タンパク質を合成する方法であって、植物、植物の部分又は植物細胞内で、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnT-III)の触媒ドメインと融合されたN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GNT1)のCTSドメインを含むハイブリッドタンパク質GNT1-GnT-IIIをコードする第一のヌクレオチド配列であって、前記植物中で活性な第一の調節領域と機能的に連結された第一のヌクレオチド配列、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIIIをコードする第二のヌクレオチド配列であって、前記植物中で活性な第二の調節領域と機能的に連結された第二のヌクレオチド配列、及び対象タンパク質をコードするための第三のヌクレオチド配列であって、前記植物中で活性な第三の調節領域と機能的に連結された第三のヌクレオチド配列をコードするヌクレオチド配列を同時発現させる工程、並びに前記第一、第二及び第三のヌクレオチド配列を同時発現させて、前記改変されたN-グリコシル化プロファイルを有するグリカンを含む対象タンパク質を合成する工程、を含む方法。
【請求項22】
ベータ-1,4ガラクトシルトランスフェラーゼの触媒ドメインと融合されたN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼのCTSドメインを含むハイブリッドタンパク質GNT1-GalTであって、配列番号:18の配列を含む、前記ハイブリッドタンパク質。
【請求項23】
N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIIIの触媒ドメインと融合されたN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼのCTSドメインを含むハイブリッドタンパク質GNT1-GnT-IIIであって、配列番号:20のアミノ酸配列を含む、前記ハイブリッドタンパク質。
【請求項24】
請求項13に記載のヌクレオチド配列を含む植物、植物細胞又は種子。
【請求項25】
請求項14に記載のヌクレオチド配列を含む植物、植物細胞又は種子。
【請求項26】
請求項18に記載のヌクレオチド配列を含む植物、植物細胞又は種子。
【請求項27】
請求項19に記載のヌクレオチド配列を含む植物、植物細胞又は種子。
【請求項28】
請求項23に記載のハイブリッドタンパク質を含む植物、植物細胞又は種子。
【請求項29】
請求項24に記載のハイブリッドタンパク質を含む植物、植物細胞又は種子。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図5H】
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【図5I】
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【図5J】
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【図5K】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【公表番号】特表2010−531136(P2010−531136A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511461(P2010−511461)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001139
【国際公開番号】WO2008/151440
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(502121395)メディカゴ インコーポレイテッド (13)
【出願人】(506316557)センター ナショナル ド ラ ルシェルシュ サイエンティフィーク (14)
【出願人】(509345006)ユニヴェルシテ ド ルーアン (1)
【Fターム(参考)】