説明

植物において表皮特異的なトランスジェニック発現を行うためのプロモーター

本発明は、その制御下で、植物において表皮特異的に導入遺伝子を発現させることができるプロモーター領域に関する。本発明はまた、前記プロモーターを含む組換え核酸分子、これらの核酸分子で形質転換されたトランスジェニックな植物および植物細胞、ならびにそれらの製造方法に関する。本発明はさらに、本発明に係るプロモーターを含む核酸分子、病原体抵抗性を媒介する核酸配列または導入遺伝子、これらの核酸分子で形質転換された植物および植物細胞、ならびにそれらの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その制御下で植物において導入遺伝子が表皮特異的に発現することができるプロモーター領域に関する。さらに、本発明は、前記プロモーター領域を含む組換え核酸分子、前記核酸分子を用いて形質転換されたトランスジェニック植物および植物細胞、ならびにそれらの製造方法に関する。さらに、本発明は、本発明に係るプロモーターを含む核酸分子、病原体抵抗性を媒介することができる核酸配列または導入遺伝子、前記核酸分子を用いて形質転換された植物および植物細胞、ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転写開始点の上流に位置し、それによって転写の開始点および開始頻度が決定され、それにより、制御下の遺伝子の発現レベルおよび発現パターンが決定される遺伝子のDNA領域は通常、プロモーターと呼ばれる。RNAポリメラーゼおよびRNAポリメラーゼを活性化する特異的な転写因子は、基本転写複合体とともに転写を開始するために、プロモーターに結合する。プロモーターの有効性は、付加的なDNA配列、すなわちエンハンサー配列によってしばしば高められるとともに調節される。このエンハンサー配列の位置は、プロモーターの位置と違って固定されていない。この調節エレメントは、発現される遺伝子の上流、下流、またはイントロン中に位置することができる。
【0003】
組換えDNA技術において、プロモーターは、通常は該プロモーターによって自然に調節される遺伝子ではない導入遺伝子の発現を制御するために、発現ベクター中に挿入される。遺伝子工学を用いて移入された遺伝子がどの時点で、どのタイプの組織で、また、どれくらいの強度で発現されるかを決定するプロモーターの特異性は、本願ではかなり重要である。
【0004】
植物育種において、特定の有利な諸特性を有用な植物に伝達するために組換えDNA技術がしばしば使用される。これは、例えば病原体抵抗性の向上によって収率を上昇させ、または収穫作物の諸特性を改善すると期待されている。トランスジェニック産物の存在が一部の組織の正常な生理的過程に負の影響を与える可能性があることから、本願において、移入された遺伝子が偏在的に発現されるのではなく、形質転換された活性が必要とされる組織中でのみ発現されることが多くの場合望ましい。すなわち、例えば、偏在的に有効な35Sプロモーターの制御下で陰イオン性のペルオキシダーゼを過剰に発現させると、根の成長の低下が起こり、したがって、発達する根の質量も低下することから、トランスジェニックタバコ植物がしおれることが示されている(ラグリミニ(Lagrimini)他(1997年) The consequence of peroxidase overexpression in transgenic plants on root growth and development.Plant Mol Biol.第33巻(第5号)、887〜895ページ)。同様に偏在的に有効なユビキチンプロモーターの制御下でspi2ペルオキシダーゼを過剰に発現させると、コントロール植物と比べて、上胚軸の発達が低減し、縦方向の成長が低減する(エルフストランド(Elfstrand),M.他(2001年)Overexpression of the endogenous peroxidase−like gene spi2 in transgenic Norway spruce plants results in increased total peroxidase activity and reduced growth.Plant Cell Reports 第20巻(第7号)596〜603ページ)。生理的過程に対する負の影響とは無関係に、抵抗性育種では、収穫された植物部分にトランスジェニック産物も存在することを防ぐことが多くの場合期待される。
【0005】
したがって、組織特異的に、または誘導的に機能するプロモーターが、過去数年間に単離されている。組織特異的プロモーターは、例えば、種子、塊茎、および果実に特異的なプロモーターである。誘導性プロモーターは、例えば、化学誘導、光誘導、または他の刺激によって活性化され得る。
【0006】
表皮において遺伝子発現を特異的に調節することも望ましい。表皮は、高等植物の地上の器官の末端組織である。したがって、表皮の役目は、一方では植物に水および栄養物を交換させることであり、もう一方では、病原体が植物中に侵入するのを防止することである。これらの機能は、適切なプロモーターおよび後者によって制御される遺伝子の助けを借りて表皮中での遺伝子発現を改変することによって、特異的に調節され得る。
【0007】
表皮特異的プロモーターは、双子葉植物では既に説明されている。すなわち、ろう状物質の合成の際の縮合酵素をコードするシロイヌナズナ(Arabidopsis)のCER6(CUT1)遺伝子のプロモーターが、β−グルクロニダーゼ受容体遺伝子の表皮特異的な発現を引き起こすことができることが示されている(フーカー(Hooker)他(2002年)、Significance of the expression of the CER6 condensing enzyme for cuticular wax production in Arabidopsis,Plant Physiol.第129巻(第4号)、1568〜1580ページ;クンスト(Kunst)他(2000年)、Expression of the wax−specific condensing enzyme CUT1 in Arabidopsis、Biochem.Soc.Trans.第28巻(第6号)、651〜654ページ)。
【0008】
しかし、単子葉類、特にイネ科植物(コウボウ)で導入遺伝子を発現するのに特に好適である単子葉植物の適切な表皮特異的プロモーターは、これまで首尾良く同定することができなかった。したがって、これまでは、トウモロコシ由来のユビキチンプロモーターに似た構成的プロモーターが表皮でタンパク質を発現するのに使用されていた(例えば、オルダク(Oldach)他(2001年)、Heterologous expression of genes mediating enhanced fungal resistance in transgenic wheat、Mol Plant Microbe Interact.第14巻(第7号)、832〜838ページを参照のこと)。しかし、前述したように、この方法は、表皮以外の他の組織または器官にトランスジェニック産物が存在することから、トランスジェニック植物に望ましくない副次的作用をもたらす可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、単子葉類、好ましくは穀類植物における表皮特異的な遺伝子発現を可能にする手段を提供することが、本発明の根本的な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、特許請求の範囲を特徴とする実施形態を提供することによって解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
したがって、本発明は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼAl(GSTA1)遺伝子のプロモーター由来の第1の配列、およびWIR1a遺伝子のイントロン由来の第2の配列を含み、植物の表皮に対する特異性を有するプロモーター領域に関する。GSTA1は、ドゥドラー(Dudler)他(1991年)、A pathogen−induced wheat gene encodes a protein homologous to glutathione−S−transferases,Mol.Plant Microbe Interact.第4巻(第1号)、14〜18ページに記載されている遺伝子に関係している。具体的には、これらの遺伝子は、コムギ由来の遺伝子である。しかし、これらは、類似の発現パターンおよび類似の遺伝子産物を有する他の穀類植物、特に、オオムギからの相同遺伝子でもよい。WIR1aは、ブル(Bull)他(1992年)、Sequence and expression of a wheat gene that encodes a novel protein associated with pathogen defense,Mol.Plant Microbe Interact.第5巻(第6号)、516〜519ページで記載されている遺伝子を示す。
【0012】
好ましくは、第1の配列は配列番号1であり、第2の配列は配列番号2である。
第1の配列と第2の配列との間には、さらに、長さが10bp〜1000bp、好ましくは20bp〜800bp、特に好ましくは30bp〜500bp、最も好ましくは40bp〜300bpの非翻訳配列が存在してもよい。
【0013】
特に好ましくは、本発明に係るプロモーター領域は、
a)配列番号3で与えられる核酸配列を含むプロモーター領域、
b)配列番号3で与えられる核酸配列の機能部分を含むプロモーター領域、または
c)ストリンジェントな条件のもとで、配列番号3で与えられる核酸配列とハイブリダイズする配列を有するプロモーター領域からなる群から選択されるプロモーター領域である。
【0014】
本発明の範囲内では、プロモーター領域は、コード配列(導入遺伝子)の発現に必要とされる制御配列を含む核酸配列と理解される。制御配列は、コード配列の発現、すなわち、特に発現レベルおよびパターンを決定する遺伝子の一部を形成する。この制御配列は、転写複合体を形成するために特異的な転写因子およびRNAポリメラーゼが結合して集まり、プロモーター領域によって制御されている核酸配列の転写を効果的に開始する少なくとも一つの配列モチーフを有する。
【0015】
本発明に係るプロモーター領域は、コムギ由来のGSTA1遺伝子のプロモーターを、コムギ由来のWIR1a遺伝子のイントロン配列と融合させることによって、新しい諸特性を有するプロモーターが製造され得るという観察に基づいている。
【0016】
大腸菌由来のβ−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子をレポーター遺伝子として有するコムギの葉における一過性のレポーター遺伝子アッセイで、WIR1aのプロモーターと、イントロンと、GSTプロモーターとの様々な組合せが試験された。驚くべきことに、GSTプロモーターとWIR1aイントロンとが、レポーター遺伝子活性に対して相乗効果を有することが示された。転写活性の上昇は、偏在的に発現される35Sプロモーターによって実現される転写活性に匹敵していた。
【0017】
本発明の範囲内では、「表皮特異的な」という用語は、本発明に係るプロモーター領域の制御下にある核酸配列が、植物の芽の表皮で発現されることを意味すると理解される。本発明の意味では、特に、本発明に係るプロモーター領域が、他の細胞型と比べて表皮での外来遺伝子の発現を促進し、且つ他の細胞型と比べて少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍、特に好ましくは少なくとも10倍、最も好ましくは少なくとも50倍など、有意な発現の増大を引き起こす場合も、表皮特異性が与えられる。この発現レベルは、従来のin situな検出技術を用いて測定され得る。
【0018】
「植物の表皮」という用語は当業者に公知である。補完的な情報は、例えば、シュトラースブルガー(Strasburger),Lehrbuch der Botanik、第35版、2002年、スペクトラム大学出版(Spektrum Akademischer Verlag)のような植物解剖学または植物生理学に関する任意の書籍に見出され得る。
【0019】
現在では驚くべきことに、コムギ由来のGSTA1遺伝子の制御配列と、コムギ由来のWIR1a遺伝子のイントロン配列との双方を含むプロモーター領域が、その制御下にあるコード核酸配列の表皮特異的な発現を引き起こすことが判明している。
【0020】
配列番号3で示される核酸配列を有するプロモーター領域に加えて、本発明はまた、前記配列の機能部分を有し、それらが制御するコード核酸配列のうちの一つを植物中で表皮特異的に発現させるプロモーター領域にも関する。
【0021】
この文脈において、「機能部分」とは、転写複合体が、わずかに異なる核酸配列ではあるものの、なお結合し、表皮特異的な発現を引き起こすことができる配列を意味すると理解される。プロモーター配列の機能部分は、野生型と比べてそのプロモーター活性が低減または増大されている前記プロモーターの変異体も含む。具体的には、機能部分は当然、配列番号3で与えられるプロモーター領域の配列の天然または人工の変異体を意味するとも理解される。突然変異は、一つまたは複数のヌクレオチド残基の置換、付加、欠失、交換、および/または挿入を含む。本発明の範囲内において、プロモーター領域の機能部分は、配列番号3の天然に存在する変異体、ならびに例えば化学合成によって得られる人工ヌクレオチド配列を含む。
【0022】
どんな場合でも、使用されるプロモーターはTATAボックス(配列番号1および3中の2163〜2169位)を含み、好ましくは2つのCAATボックス(配列番号1および3中の1047〜1051、または1895〜1899位)も含む。さらに、このプロモーターは、以下の配列モチーフのうちの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つおよび3つ、特に好ましくは少なくとも4つ、5つ、および6つ、最も好ましくは少なくとも7つまたは8つを含む。
【0023】
a)GTGGGGG
b)ACGTGGA
c)TCCACCT
d)TATCCAT
e)CATGCATG
f)TGTAAAG
g)CCTACCA
h)AATAGTA
好ましくは、この配列モチーフは、配列番号1および3中の以下の位置に対応する位置に配置されている。
【0024】
a)185〜191bpおよび217〜223bp
b)455〜461bp
c)508〜514bp
d)564〜570bp
e)1514〜1521bp
f)1520〜1526bp
g)1569〜1575bp
h)1610〜1616bp
プロモーター領域の変異体のプロモーター活性は、コード配列が検査対象のプロモーター領域の制御下にあるマーカー遺伝子の助けを借りて測定され得る。適切なマーカー遺伝子は、例えば、大腸菌由来のβ−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、例えば、エクオリア・ビクトリア(Aequoria victoria)由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子やフォチナス・ピラリス(Photinus pyralis)由来のルシフェラーゼ遺伝子のような蛍光遺伝子、または大腸菌由来のβ−ガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子である。絶対的なプロモーター活性は、野生型の植物との比較により決定される。組織特異性または細胞特異性は、それぞれの組織または細胞における前述のマーカー遺伝子の発現速度を比較することによって容易に決定され得る。
【0025】
本発明はまた、ストリンジェントな条件のもとで、配列番号3で与えられる核酸配列とハイブリダイズする核酸配列を有するプロモーター領域にも関する。本発明の文脈において、「ストリンジェントな条件のもとでのハイブリダイゼーション」という用語は、特異的なハイブリダイゼーションを確実に起こすのに十分な厳密さを有する条件のもと、in vitroでハイブリダイゼーションが行われることを意味する。このようなストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は当業者には公知であり、文献から知られ得る(サンブルック(Sambrook)他(2001年)、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版、コールドスプリングハーバー研究所出版会(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、[米国ニューヨーク州コールドスプリングハーバー(Cold Spring Harbor)所在])。
【0026】
「特異的にハイブリダイズする」とは通常、特定のヌクレオチド配列が(例えば全)DNAまたはRNAの複合混合物の形で存在する場合に、ある分子が、ストリンジェントな条件のもとで前記配列と優先的に結合することを意味する。「ストリンジェントな条件」という用語は通常、ある核酸配列がその標的配列と優先的に結合し、他の配列にはかなり低い程度しか結合せず、または全く結合しないと考えられる条件を意味する。ストリンジェントな条件は配列にある程度依存しており、様々な状況によって異なると考えられる。より長い配列は、より高温で特異的にハイブリダイズする。通常、所定の一定のイオン強度および所定のpH値における特定の配列の熱融解温度(T)より約5℃低く温度が維持されるように、ストリンジェントな条件が選択される。Tは、標的配列に相補的な分子の50%がその標的配列に平衡状態でハイブリダイズする(所定のイオン強度、pH値、および核酸濃度のもとでの)温度である。一般に、ストリンジェントな条件は、短い分子(すなわち、例えば10〜50ヌクレオチド)の場合、7.0〜8.3のpH値で塩濃度が少なくとも約0.01〜1.0Mナトリウムイオン濃度(または他の任意の塩)であり、温度が少なくとも30℃である条件である。さらに、ストリンジェントな条件は、例えばホルムアミドのような不安定化剤の添加によって実現され得る。
【0027】
適切なストリンジェントな条件は、例えば、サンブルック(Sambrook)他にも記載されている。上記を参照されたい。すなわち、ハイブリダイゼーションは、例えば、以下の条件のもとで起こり得る。
【0028】
ハイブリダイゼーションバッファー:2×SSC、10×デンハルト液(フィコール(Fikoll)400+PEG+BSA、1:1:1の比)、0.1%SDS、5mM EDTA、50mM NaHPO、250μg/mlニシン精子DNA、50μg/ml tRNA、または0.25Mリン酸ナトリウム緩衝液、pH7,2、1mM EDTA、7%SDS、65℃〜68℃のハイブリダイゼーション温度。
【0029】
洗浄バッファー:0.2×SSC、0.1%SDS。65℃〜68℃の洗浄温度。
好ましくは、このようなプロモーター変異体は、配列番号3で示される全DNA配列に関して、配列番号3中で与えられるプロモーター配列またはその一部分に対して少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、特に好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有する。好ましくは、このようなプロモーター配列の配列同一性は、配列番号3で与えられる核酸配列との比較によって決定される。長さが異なる2つの核酸配列が互いに比較される場合、好ましくは、配列同一性は、長い方の配列の対応するヌクレオチド残基と同一である、短い方の配列のヌクレオチド残基の比率に合致することが好ましい。
【0030】
配列同一性は通常、例えばCLUSTALのような様々なアライメントプログラムによって決定される。通常、当業者は、配列同一性を決定するのに適切なアルゴリスムを自由に使うことができる。例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST(例えば、「標準ヌクレオチド−ヌクレオチドBLAST[blastn]」のリンク)でアクセス可能なプログラムも使用され得る。
【0031】
配列番号3について上記に与えられた同一性の比率の程度は、配列番号1および2で示される、本発明に係るプロモーター領域の第1および第2の配列にも当てはまる。
本発明の好ましい実施形態では、本発明に係るプロモーター領域は、配列番号3で与えられる2552ヌクレオチドの全配列を有する。
【0032】
本発明はまた、本発明に係るプロモーター領域のキメラ遺伝子、および天然には本発明に係るプロモーター領域によって調節されていない発現が、キメラ遺伝子中では本発明に係るプロモーター領域によって調節されている、有効に結合したコード配列のキメラ遺伝子、ならびに前記キメラ遺伝子を含む組換え核酸分子に関する。
【0033】
「発現が本発明に係るプロモーター領域によって調節されている核酸配列」という用語は、プロモーター領域が活性な細胞において、本発明に係るプロモーター領域の制御下にある核酸配列の発現が、野生型細胞と比べて、少なくとも5倍、好ましくは少なくとも10倍、特に好ましくは少なくとも50倍に増大され得ることを意味する。
【0034】
発現が本発明に係る核酸配列によって調節されている核酸配列は、導入遺伝子のコード領域、例えば、遺伝子産物が表皮中で望まれる耐性遺伝子でもよい。導入遺伝子の発現により、それにコードされる遺伝子産物の含有量は、少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍、特に好ましくは少なくとも10倍、最も好ましくは少なくとも50倍に増大され得る。
【0035】
しかし、本発明に係るプロモーター領域は、遺伝子産物が表皮中に通常より少なく存在し、または全く存在しないことが期待される特定の遺伝子の表皮特異的なサイレンシングを実現するために、RNA干渉用のRNAi構築物にも使用され得る。当然、本発明に係るプロモーター領域を使用した典型的なアンチセンスまたはコサプレッション構築物を用いても、後者を実現することができる。サイレンシング構築物によって、内在性遺伝子の発現は少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、特に好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%低減される。
【0036】
RNA干渉に使用されることになっている構築物中には通常、転写に続いて2本鎖RNAを形成する回文構造のDNA配列がある。ダイサー酵素によって前記2本鎖RNAが処理され、内在性RNAに結合するとともに、RISC(RNA誘導型サイレンシング複合体)と協力してその分解を引き起こす、より短いRNA断片が形成される(ハノン(Hannon)(2002年)RNA interference,Nature,Bd.第418巻、244〜251ページ)。
【0037】
内在性遺伝子の発現に対する遺伝子サイレンシング構築物の効果は、当業者に周知である従来の分子生物学的方法によって検出され得る。すなわち、RNAレベルの検査にはノーザンブロットおよびRT−PCR法が利用可能であり、タンパク質は、ウェスタンブロット分析、免疫蛍光法、または、タンパク質が酵素であることを条件として酵素アッセイにより検出され得る。
【0038】
本発明の範囲内において、「導入遺伝子」という用語は、その遺伝子産物が、表皮中に供給されることになり、または、遺伝子サイレンシングで抑制されることになる遺伝子をまとめて示す。
【0039】
好ましくは、表皮は、病原体が植物中に侵入する際に越えなければならない最初の層であることから、発現が本発明に係るプロモーターによって調節されている核酸配列は、病原体抵抗性を媒介する核酸配列である。
【0040】
本発明の範囲内において、「組換え核酸分子」という用語は、本発明に係るキメラ遺伝子または本発明に係るプロモーター領域を含み、植物細胞および植物中で、本発明に係るプロモーター領域の制御下にある核酸配列のプロモーター依存的な発現を引き起こすことができるベクターを意味すると理解される。好ましい実施形態において、本発明に係る組換え核酸分子は、転写終結配列をさらに含む。本願において、「転写終結配列」は、コード配列の下流末端に位置しており、RNAポリメラーゼに転写を終結させるDNA配列を意味すると理解される。
【0041】
さらに、本発明は、以下の工程、
a)本発明に係るプロモーター領域がコード配列と有効に結合して、その中に存在している組換え核酸分子を製造する工程と、
b)a)からの核酸分子を植物細胞に移入する工程と、
c)完全に形質転換された植物を再生させ、所望により、それらの植物を増殖させる工程とを備え、
本発明に係るプロモーター領域によって調節されている核酸配列を表皮特異的に発現するトランスジェニック植物の製造方法に関する。
【0042】
高等植物およびその細胞中への外来遺伝子の導入準備のために、それぞれ、大腸菌に対する複製シグナル、および形質転換された細菌細胞を選別するためのマーカー遺伝子を含む多数のクローニングベクターが利用可能である。このようなベクターの例として、pBR322、pUC系、M13mp系、pACYC184などがある。キメラ遺伝子は、ベクターの適切な制限部位に導入され得る。
【0043】
次に、得られたプラスミドを使用して、大腸菌を形質転換する。形質転換された大腸菌細胞を適切な培地中で培養し、続いて回収および溶解し、プラスミドを再度得る。制限分析、ゲル電気泳動、さらに生化学−分子生物学的方法が、得られたプラスミドDNAの特性を決定するための分析方法として一般に使用される。各操作の後に、プラスミドDNAは切断可能であり、それから得られたDNA断片は他のDNA配列と結合可能である。
【0044】
既に述べたように、植物宿主細胞中にDNAを導入するために様々な技術が利用可能であり、当業者は、各事例に適した方法を苦もなく決定することができる。前記技術は、形質転換媒体としてアグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)またはアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を使用するT−DNAによる植物細胞の形質転換、プロトプラストの融合、インジェクション、エレクトロポレーション、単離されたDNAのプロトプラスト中への直接的な遺伝子移入、遺伝子銃法によるDNAの導入、ならびにこれまでの数年間に十分に確立されており、植物分子生物学および植物バイオテクノロジーのそれぞれの技術分野の技術者の標準の能力の範囲に属する別の実行可能な手段を含む。遺伝子銃による遺伝子移入法は、特に単子葉植物で使用される。この点で、当業者は、例えば、バシル(Vasil)他(1992年)Bio/Technology、第10巻、667〜674ページ;バシル(Vasil)他(1993年)Bio/Technology、第11巻、1153〜1158ページ;ネーラ(Nehra)他(1994年)Plant J.第5巻、285〜297ページ;ベッカー(Becker)他(1994年)Plant J、第5巻、299〜307ページ;アルトピター(Altpeter)他(1996年)Plant Cell Reports、第16巻、12〜17ページ;オルチズ(Ortiz)他(1996年)Plant Cell Reports、第15巻、877〜81ページ;ラスコーゴーント(Rasco−Gaunt)他(2001年)J.Exp.Bot.第52巻、865〜874ページで、誘導に関する有用な情報を確認することができる。
【0045】
植物細胞中へのDNAのインジェクションおよびエレクトロポレーションの場合、使用されるプラスミドそれ自体に対して特別な要求はない。これは、直接的な遺伝子移入にも当てはまる。例えば、pUC誘導体のような、単純なプラスミドが使用可能である。
【0046】
しかし、植物全体が、この方法で形質転換された細胞から再生されることになる場合には、選択マーカー遺伝子が存在することが推奨される。標準的な選択マーカーは当業者に公知であり、適切なマーカーを選択することは困難ではない。
【0047】
植物細胞中に所望の遺伝子が導入される方法では、さらに別のDNA配列が必要とされることがある。例えば、植物細胞を形質転換するためにTiプラスミドまたはRiプラスミドが使用される場合は、フランキング領域を形成するために、右端および左端であることが多いが、TiプラスミドまたはRiプラスミド中に含まれるT−DNAの少なくとも右端が、導入されることになっている遺伝子と結合されていなければならない。アグロバクテリアが形質転換に使用される場合は、導入されることになっているDNAは、特定のプラスミド、すなわち実際には中間ベクターまたはバイナリーベクター中にクローニングされなければならない。中間ベクターは、T−DNA中の配列に相同な配列を有することから、相同組換えによって、アグロバクテリアのTiプラスミドまたはRiプラスミド中に組み込まれ得る。前記プラスミドは、T−DNAの移行に必要とされるvir領域も含む。しかし、中間ベクターはアグロバクテリア中で複製することができない。ヘルパープラスミドを用いて、中間ベクターがアグロバクテリウム・チュメファシエンスに移入され得る(接合)。しかし、バイナリーベクターは、大腸菌中でもアグロバクテリア中でも複製することができる。これらは、左右のT−DNAボーダー領域に囲まれた、選択マーカー遺伝子およびリンカーまたはポリリンカーを含む。これらは、アグロバクテリア中に直接形質転換され得る。宿主細胞の役目を果たすアグロバクテリウムは、T−DNA内部に、植物細胞中に移行されるキメラ遺伝子を有するプラスミドを含んでいなければならない。追加のT−DNAも存在可能である。このような方法で形質転換されたアグロバクテリウムは、植物細胞の形質転換に使用される。植物細胞を形質転換するためのT−DNAの使用は鋭意検討されており、植物の形質転換に関する一般的に知られた調査論文および手引書で十分に説明されている。単子葉植物の場合は、例えば、チェン(Cheng)他(1997年)Plant Physiol.第115巻、971〜980ページ;カンナ(Khanna)およびダガード(Daggard)(2003年)Plant Cell Reports第21巻、429〜436ページ;ウー(Wu)他(2003年)Plant Cell Reports 第21巻、659〜668ページ;フー(Hu)他(2003)Plant Cell Reports 第21巻、1010〜1019ページで記載されているように、アグロバクテリウムを媒介とした有効な遺伝子移入を行うには、改変したプロトコールが適用されなければならない。植物細胞中にDNAを移行させるために、賢明には、植物外植片がアグロバクテリウム・チュメファシエンスまたはアグロバクテリウム・リゾゲネスとともに培養され得る。次に、形質転換された細胞を選別するための抗生物質または殺生剤を含有することができる適切な培地中で、感染された植物物質(例えば、葉片、茎の断片、根、ならびに、プロトプラストまたは懸濁培養された植物細胞)から植物全体が再生され得る。
【0048】
導入DNAは、植物細胞のゲノムに組み込まれた後は通常、そこで安定であり、初めに形質転換された細胞の子孫でも維持される。導入されたDNAは通常、カナマイシン、G418、ブレオマイシン、ヒグロマイシン、メトトレキサート、グリホサート、ストレプトマイシン、スルホニル尿素、ゲンタマイシン、またはホスフィノトリシン、および形質転換された植物細胞に対するその他のもののような殺生剤または抗生物質に対する抵抗性を媒介する選択マーカーを含む。したがって、個別に選択されるマーカーは、導入されるDNAを欠いている細胞と比較して、形質転換された細胞の選択を可能にしなければならない。このためには、栄養マーカーまたはスクリーニングマーカー(GFP、すなわち緑色蛍光タンパク質など)のような代替マーカーも適している。当然、選択マーカーも完全に取り除かれ得るが、比較的高度なスクリーニングが必要である。マーカーを含まないトランスジェニック植物が望まれる場合は、当業者は、後でマーカー遺伝子を除去することを可能にする戦略、例えば、共形質転換または配列特異的なリコンビナーゼも自由に使用できる。
【0049】
トランスジェニック植物細胞からのトランスジェニック植物の再生は、既知の栄養培地を用いる従来の再生法に従って実施される。次に、この方法で得られた植物が、発現が本発明に係るプロモーターによって制御される導入核酸配列の存在および組織特異性、または前記核酸配列の影響を受けた内在性のRNAおよびタンパク質を目的としたPCR分析、ブロット分析のような分子生物学的方法を含む従来の方法によって検査され得る。
【0050】
さらに、本発明は、本発明に係るプロモーター領域によって調節されている核酸配列を含み、前記核酸配列を表皮特異的に発現するトランスジェニック植物に関する。
好ましくは、本発明に係る植物は、単子葉類、特にライムギ、トウモロコシ、およびオートムギなどの穀類植物、特に好ましくはコムギまたはオオムギ、ならびにプロトプラスト、植物細胞、カルス、種子、塊茎、または挿し木のような前記植物の形質転換部分およびそれらの形質転換された増殖物質、ならびに前記植物のトランスジェニックな子孫である。しかし、本発明に係るプロモーター領域は、導入遺伝子を表皮特異的に発現する対応する植物を製造するために、例えば、飼料用のイネ科植物のような他のイネ科植物(ドジョウツナギ)でも使用され得る。
【0051】
エピクチクラワックスを産生するための遺伝子も、植物の耐乾燥性を高めるために、本発明に係る表皮特異的プロモーターの制御下で発現され得る。さらに、紫外線耐性を高めるためにアントシアニンまたは他の紫外線吸収物質を産生するための遺伝子も、本発明に係るプロモーターの制御下で発現され得る。上記に既に論じたように、病原体抵抗性遺伝子は、好ましくは本発明に係るプロモーターの制御下で発現される。
【0052】
植物に感染し、それによって植物の代謝に悪影響を及ぼす細菌、ウイルス、および真菌は特に植物病原体と呼ばれる。
これらの植物病原体の一つは、特に、コムギおよびオオムギのような穀類植物でウドンコ病および褐変症を引き起こす真菌である。感染の程度によって、これらの病害は相当な収穫量低下(最大50%)を引き起こす可能性がある。
【0053】
従来、前述の病害および別の植物真菌病は、地下水中への浸透および食物連鎖での蓄積のような不利益を有することが知られている殺真菌薬によって制御されている。
しかし、ここ数年間に、ある特定の病原因子またはいくつかの病原因子に対する抵抗性を媒介することができるいくつかの遺伝子が同定された。本願において「病原体抵抗性の媒介」という用語は、前記遺伝子の発現が増大された植物が、前記遺伝子の発現が通常どおりである植物と比べて、特定の病原体による感染の影響を受けにくいことを意味する。病原体抵抗性を媒介する遺伝子のうちには、発現が病原体の感染によって活性化されるような遺伝子もある。
【0054】
これらの遺伝子のうちには、ペルオキシダーゼおよびシュウ酸エステル酸化酵素がある。ジャーミン様タンパク質(germin−like protein)のファミリーに属するシュウ酸エステル酸化酵素は、シュウ酸の酸化を触媒し、それによって過酸化水素が形成される。過酸化水素は殺菌性の役割を果たすとともに細胞壁の木質化を促進することができ、それによって病害虫の侵入が防がれる。さらに、これは、低濃度で高感受性の細胞死を引き起こすことができる。ペルオキシダーゼは、細胞基質を酸化し、それによって解毒するために、酸素分子または過酸化水素分子を使用する。
【0055】
植物の表皮中でシュウ酸エステル酸化酵素およびペルオキシダーゼが発現することにより、それに対する抵抗性を媒介することができる病原体としては、例えば、ウドンコ病菌、フザリウム属、リンコスポリウム・セカリス(rynchosporium secalis)、ピレノホラ・テレス(pyrenophora teres)が挙げられる。病原体に対する抵抗性を媒介することができる他の遺伝子は、キチナーゼ、Ag−AFP、GSTA1、およびWIR1aである。
【0056】
本発明に係るプロモーター領域の助けを借りて、トランスジェニック植物の表皮中で前記酵素をコードしている核酸配列を発現させることによって、病原体抵抗性を高めた植物を得ることができる。
【0057】
病原体抵抗性を媒介する遺伝子とは対照的に、病原体の侵入を促進する植物固有の遺伝子もある。これらの一つは、7回膜貫通型受容体をコードするMlo遺伝子であり、これは、表皮中へのウドンコ病菌の侵入を促進するようである。この場合、植物中への真菌の侵入を防止するために、Mlo遺伝子の発現を阻害することが適切である。これは、例えば、上述のRNAi法を用いて実施され得る。植物中への真菌の侵入を防止するのにMlo遺伝子の発現を阻害することが適切であるということは、Mlo−dsRNAで被覆されたタングステン粒子が撃ち込まれたオオムギの葉片中においてin vitroで示された(シュバイツァー(Schweizer)他(2000年)、Double−stranded RNA interferes with gene function at the single−cell level in cereals,The Plant Journal、第24巻(第6号)、895〜903ページ)。しかし、トランスジェニック植物でMlo発現を表皮特異的に阻害することが同じ効果を有するということは、これまで示されていない。
【0058】
病原体と植物との相互作用を媒介し、それによって植物中への病原体の侵入を促進することができる別の植物遺伝子は、例えば、アミノ酸もしくは糖輸送体または転化酵素である。前記遺伝子は、遺伝子サイレンシングの標的としても適切である。したがって、本発明は、
a)本発明に係るプロモーターが、病原体抵抗性を媒介する核酸配列と有効に結合してその中に存在している組換え核酸分子を製造する工程と、
b)a)からの組換え核酸分子を植物細胞に移入する工程と、
c)完全に形質転換された植物を再生させ、所望により該植物を増殖させる工程とを備える、病原体抵抗性を有する植物の製造方法に関する。
【0059】
好ましくは、病原体抵抗性を媒介する核酸配列は、ペルオキシダーゼもしくはシュウ酸エステル酸化酵素遺伝子のコード領域、または内在性Mlo−RNAを阻害する配列である。
【0060】
以下の実施例は本発明を例示するのに役立つが、限定するものとして理解されるべきではない。
【実施例】
【0061】
以下の実施例では、サンブルック(Sambrook)他(2001年)の書籍に従って(上記を参照されたい)、当技術分野で公知である大腸菌による形質転換、制限消化、ライゲーション、DNA抽出、PCRなどの分子生物学の標準的な方法を実施した。すべてのPCR反応において、プルーフリーディングポリメラーゼのPwo(ロシュ社(Roche))を使用した。
【0062】
1)GSTA1プロモーターおよびWIR1aイントロンからのプロモーター構築物の製造(pPS18)
以下の前駆構築物、すなわちpPS1、pPS3、pPS15を経て、いくつかの工程で製造した。一過性のアッセイで直接試験され得るように、すべての構築物はGUSレポーター遺伝子を含んでいた。
【0063】
pPS1:
PstIを用いて、WIR1a遺伝子の1.9kbのプロモーター断片を組換型pブルースクリプト(Bluescript)クローンから切り出し、GUS遺伝子の前方にある発現カセットのPstI制限部位中にクローニングした。この発現カセットはpブルースクリプトをベースとし、その後にコムギGSTA1遺伝子の転写ターミネーターが続くGUS遺伝子を含んでいた。GUS遺伝子およびGSTA1転写ターミネーターは、使用される最終構築物にはもはや含まれないことから(実施例2を参照のこと)、この発現カセットの詳細な説明を省略する。得られる構築物は、翻訳融合物WIR1a::GUSを含有していた。
【0064】
pPS3:
アダプタープライマー5’ATA TAT CTG CAG GGA GCC ACG GCC GTC CACおよび5’TAT CCC GGG CCC GTG CCT GGA CGG GAAを用いて約240bpのPCR断片を製造し、その端を(アダプターを介して)SmaIおよびPstIで切断した。ゲノム性のWIR1aクローンは、PCRの鋳型としての機能を果たした。PCR断片は、WIR1aの最初のエキソンの最後の15アミノ酸と、スプライス受容部位を含むイントロンとを含有していた。このPCR断片をpPS1に連結し、PstI(部分的に)およびSmaIで切断し、アガロースゲル電気泳動によって精製した。得られた構築物は、GUS遺伝子の前方にWIR1イントロンを含む翻訳融合物WIR1a::GUSを含有していた。さらに、(シグナルペプチドを除去することによって)翻訳融合物WIR1a::GUSの分泌を防ぐために、WIR1aの最初のエキソンの18番〜35番のアミノ酸の欠失を導入した。
【0065】
pPS15:
WIR1aプロモーターをGSTA1プロモーターのPCR断片で置き換えた。このために、XhoIおよびSnaBIでpPS3を(部分的に)消化し、アガロースゲル電気泳動を用いてベクターのバンドを精製した。ゲノムGSTA1クローン由来のアダプタープライマー5’ATA TAT CTC GAG TCT AGA ACT AGT GGA TCCおよび5’ATA TAT TAC GTA GTT TGT CCG TGA ACT TCAを用いるPCRによって、長さが約2.3kbのGSTA1プロモーター断片を増幅させ、XhoIおよびSnaBIで端を切断した。このPCR断片をゲル溶出させたpPS3バンドに連結して、イントロン含有WIR1a遺伝子断片とGSTA1プロモーター制御下のGUSとの翻訳融合物を得た。
【0066】
pPS18:
PstIおよびSnaBIでpPS15を(部分的に)消化し、アガロースゲル電気泳動を用いてベクターのバンドを精製し、2本鎖オリゴヌクレオチド(5’GTA CAC AGG CAG CTA GCT CTC GAA ACC TCG CTC GAA ACG CAおよび5’CAT GTG TCC GTC GAT CGA GAG CTT TGG AGC GAG CTT TGC GT)と連結した。これにより、翻訳開始部位の周辺(翻訳開始部位の46bp上流〜53bp下流)に位置するWIR1a遺伝子の部分を、翻訳開始コドンATGを含まないWIR1a遺伝子の42bpの5’UTRで置き換えた。得られた構築物は、イントロン含有WIR1a遺伝子断片とGSTA1プロモーター制御下のGUSとの転写融合物を含んでいた。
【0067】
2)使用する構築物の製造
a)発現ベクターpPS24(本発明に係るプロモーターの制御下にあるシュウ酸エステル酸化酵素の発現)
オープンリーディングフレーム(ORF)全体を含むコムギgf−2.8遺伝子の長さ745bpのHindIII/SphI断片(シュウ酸エステル酸化酵素;アクセッション番号M63223)を植物発現カセットpGY1中にサブクローニングして、pジャーミン構築物を得た(シュバイツァー(Schweizer)他、1999年に記述されている)。このクローニングのために、pGY1中の制限部位BamHIおよびPstIを用いて断片を連結することができるように、シュウ酸エステル酸化酵素断片を中間ベクター中に連結した。
【0068】
pジャーミンから、シュウ酸エステル酸化酵素遺伝子およびCamV 35Sターミネーターを含むとともに長さが約1kbのSmaI/EcoRI断片を、SmaI/EcoRIで切断してアガロースゲル電気泳動を用いて精製したベクターpPS18中に連結した。得られた構築物は、イントロン含有WIR1a遺伝子断片とGSTA1プロモーター制御下のシュウ酸エステル酸化酵素遺伝子との転写融合物を含んでいた。pPS18と比べると、この構築物は、GSTA1転写ターミネーターはもはや含まないが、CamV 35S遺伝子の転写ターミネーターを含んでいた。
【0069】
b)発現ベクターpPS41(本発明に係るプロモーターの制御下にあるTAPEROの発現)
pWIR3(CamV 35SプロモーターとTAPEROの転写融合物とを含む;シュバイツァー(Schweizer)他、1999年)から、長さ約1.2kbのTAPERO断片を、SmaIおよびPstIを用い、制限消化によって単離した。
【0070】
SmaIおよびPstIで(部分的に)消化し、アガロースゲル電気泳動を用いて精製したベクターpPS24中にTAPERO断片を連結した。これにより、シュウ酸エステル酸化酵素遺伝子がTAPERO遺伝子に置き換えられた、イントロン含有WIR1a遺伝子断片とGstA1プロモーター制御下のTAPERO遺伝子(アクセッション番号X56011)との転写融合物が得られた。pPS24と同様に、pPS41はCamV 35S遺伝子の転写ターミネーターを含んでいた。
【0071】
c)発現ベクターpWIR5−TaMlo−RNAi(本発明に係るプロモーターの制御下にあるMlo−RNAi構築物の発現)
まず初めに、ベクターpGEM TeasyにサブクローニングされているオオムギからのMla1耐性遺伝子の3番目のイントロン(約1.1kb)を、EcoRIおよびPstIを用いて単離し、同様にEcoRIおよびPstIで切断されたベクターpBSw41(キャンダス・エリオット(Candace Elliott)が論文の範囲内でクローニングされた一部分のTaMlo1 cDNAを含むpブルースクリプト誘導体;ジェンバンク(GenBank)アクセッション番号AF361933)中に連結した。
【0072】
この構築物から、Mla1イントロンを、TaMlo1遺伝子のコード配列の一部分とともに約1.55kbのPstI/MscI断片(断片1)として単離した。これと並行して、PCRにより、オリゴヌクレオチドT3(pブルースクリプト用の標準の配列決定用プライマー)およびTaMlo1−1(5’GTC GCA TGC CTG TCC ACA CGA AAT GTG C 3’、下線部はSphI制限部位)を用いて、プラスミドpBSw41から約450bpの断片を増幅させた。続いて、制限酵素PstIおよびSphIを用いてPCR断片を消化した(断片2)。ベクターpPS24(プロモーター+シュウ酸エステル酸化酵素、上記参照)をSmaIおよびSphIによる制限消化によって開き、切り取られたシュウ酸エステル酸化酵素遺伝子断片を廃棄した。その後すぐに、3つの構成要素のライゲーション(three−component ligation)で、上述の断片1および2を、SmaI/SphIで切断したpPS24ベクター中に連結した。このライゲーションでは、MscIおよびSmaIで切断された構成要素の両末端は、双方ともいわゆる平滑末端であるため適合しやすい。得られた構築物(pTaMlo1 RNAi)は、約300bpのTaMlo1遺伝子、ならびにMla1イントロンによって分離された「逆方向反復」としての約150bpのポリリンカー/アダプター配列を含む。この転写単位の制御は、GSTA1プロモーターの支配下にある。
【0073】
注記:歴史的な理由から本願ではTaMlo1と称するこの遺伝子は、後に、TaMlo A1と名付けられた(エリオット(Elliott)他、2002年)。Mol.Plant Microbe Interact.第15巻:1069〜1077ページ(2002年)。
【0074】
3)コムギ植物の形質転換
植物室で、短日条件(10時間/日、約600マイクロモル(600マイクロアインシュタイン))のもと、昼間15℃、夜間12℃で40日間、続いて、温室中で、18/16℃および少なくとも16時間の光周期の条件で、コムギ植物(ボブホワイト栽培品種)を栽培した。穂をすぐに使用し、または4℃で最大5日間貯蔵した。穂から取った穀果を、70%エタノールで2分間、次いで5%次亜塩素酸ナトリウム溶液/0.1%Tween20で15〜20分間表面滅菌し、最後に無菌の2回蒸留水で4回洗浄した。
【0075】
0.5〜15mmの大きさの未熟胚を無菌状態で穀果から取り出して準備し、胚盤が上の方を向くように、ペトリ皿のカルス誘導培地(2mg/lの2,4−D、40gのマルトース一水和物、500mg/lのL−グルタミン、100mg/lのカゼイン加水分解物、5μMのCuSO、および0.25%フィタゲル(phytagel)を含むムラシゲ・スクーグ(Murashige Skoog)による基本培地(1962年))上に並べた。25℃、暗所で培養物をインキュベートした。
【0076】
胚の単離5〜7日後に、遺伝子銃による形質転換を実施した。粒子発射の4〜6時間前に、既に増殖している胚を水ポテンシャルの低い新しい培地(上記のように、0.3Mマンニトールを添加)へ移し、25℃、暗所でインキュベートした。
【0077】
ホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼをコードするbar遺伝子を含むプラスミドpAHC20(クリステンセン(Christensen)およびクァイル(Quail)1996年)を、モル比1:1で同時形質転換しようとするベクターと混合した。次に、全体で10μlのプラスミドDNA溶液を、60mg/lの金懸濁液25μlの粒子に沈着させた。1回の発射につき、5μlエタノール中の30μgの粒子をマイクロキャリア表面に塗布した。DuPont PDS−1000/Heの製造業者の仕様書に従って発射を行った。
【0078】
粒子発射の12〜16時間後に、(胚の前培養の場合は)新しいカルス誘導培地に外植片を移し、25℃、暗所で10日間インキュベートした。
次に、そのカルスを分化培地(20g/lのスクロース、5μMのCuSO、0.25%フィタゲル、および3mg/lのビアラホスを含むムラシゲおよびスクーグ(Murashige and Skoog)(1962年)による基本培地)に移し、200マイクロモル(マイクロアインシュタイン)、16時間の光周期条件下、25℃でインキュベートした。
【0079】
2週間後に、褐色化していないカルスを再生培地(20g/lのスクロース、0.25%フィタゲル、および4mg/lのビアラホスを含むムラシゲおよびスクーグ(Murashige and Skoog)(1962年)による基本培地)へ移し、200マイクロモル(マイクロアインシュタイン)、16時間の光周期条件下、25℃でさらにインキュベートした。
【0080】
さらに2週間後、成長した芽を間引きし、再生培地を入れた培養管に移し、200マイクロモル(マイクロアインシュタイン)、16時間の光周期条件下、25℃でさらに培養した。
【0081】
スペンサー(Spencer)他(1990年)による葉抽出物のPAT活性試験によって、または、候補植物のゲノムDNAから導入遺伝子に特異的な配列を増幅すること、および/もしくは対応するプローブを用いたサザンブロットによって、形質転換された再生体の同定を行った。
【0082】
基本となる物質の品質によって、この方法の形質転換効率は、培養胚100個当たりトランスジェニック植物が0.5〜3つであった。
4)pPS24構築物を有する植物におけるin situでのシュウ酸エステル酸化酵素活性
ボブホワイト野生型植物またはT3世代のpPS24トランスジェニックコムギ植物の葉片に真空内でシュウ酸エステル酸化酵素検出溶液(2.5mMのシュウ酸、3.5mMの遊離のEDTA、0.6mg/mlの4−クロロ−1−ナフトール、50μg/mlのホースラディッシュペルオキシダーゼ、20%(v/v)のエタノール、Tris塩基でpH4.0に調整)を染み込ませ、37℃で一晩インキュベートした。検出溶液を除去した後、4℃水中でさらに24時間、これらの葉をインキュベートした。続いて、葉を手で横に裂いて薄い切片にし、顕微鏡で観察した。ツァイス・アキシオフォット(Zeiss Axiophot)を100倍の拡大率で用いて、位相差光学顕微鏡での観察を行った。シュウ酸エステル酸化酵素が発現している細胞の細胞壁は紫色に染色される。
【0083】
5)ノーザンブロット分析による、pPS41トランスジェニック植物中のTAPERO導入遺伝子の検出
ともに止め葉(flag leaf)段階のボブホワイト植物およびT2世代のpPS41トランスジェニック植物の葉(それぞれ、新鮮重(FW)約1g)を、細粉が形成されるまで液体窒素中でホモジナイズした。この粉末を3mlのRNA抽出バッファー(0.5MのTris Cl pH8.0;0.25MのNa−EDTA;5%(w/v)SDS)および1.5mlのバッファー飽和フェノール(15mlのプラスチック製試験管)に加え、よく振とうした。4000rpm〜5000rpm、20℃で30分間、抽出物を遠心分離した(スイング型、ヘラウス・バリフュージ(Heraeus Varifuge))。1.5mlのクロロホルムを(上清を捨てずに)加え、試験管を数回逆さにした。4000rpm〜5000rpm、20℃で30分間、抽出物を再度遠心分離し、上清を注意深く新しい試験管(15mlのプラスチック製試験管)に注いだ。6MのLiCl 3mlを加えて、RNAを沈降させた(一晩、4℃)。12500rpm、4℃で30分間、沈降したRNAを遠心分離し(固定ローター、ハームル(Hermle)Z360K)、RNA沈殿物を500〜1000μlの70%エタノール中に溶かし(RNAは溶解しない)、エッペンドルフ試験管に移した。このサンプルを14000rpm、4℃で10分間、遠心分離し(固定ローター、エッペンドルフ遠心分離機5417R)、上清を除去した。このRNA沈殿物を37℃で5分間乾燥させ、100μl〜200μlのTE中に溶かし、75℃で5〜10分間溶解させた。標準プロトコール(サンブルック(Sambrook)他、上記を参照されたい)に従って、ホルムアルデヒド含有ゲルにおけるRNAの変性アガロースゲル電気泳動およびナイロン膜(ハイボンド(Hybond)N、アマシャム社(Amersham))への移行を実施した。1サンプル当たり10μgのRNAを使用した。
【0084】
キット(ロシュ社(Roche))を用いるランダムプライム標識法に従って、32P−dCTPによる放射性プローブ標識を実施した。65℃で一晩、CHURCHバッファー(0.5Mリン酸Na pH7.2;1%(w/v)BSA;7%(w/v)SDS;1mM NaETDA)中でハイブリダイゼーションを実施した。65℃、洗浄溶液(0.1×SSC;0.15w/v)SDS)中で15分間、ブロットを2回洗浄し、続いて、ホスフォイメージャースクリーンに16〜48時間曝露した。曝露されたスクリーンをホスフォイメージャー装置(富士フイルム(Fuji Film)FLA3000)を用いてスキャンし、TIFF形式の画像ファイルとして出力した。
【0085】
6)ウェスタンブロット分析による、pPS41トランスジェニック植物中のTAPERO導入遺伝子の検出
共に止め葉段階のボブホワイト植物およびT2世代のpPS41トランスジェニック植物の葉の先端を、IWFバッファー(32mMリン酸Na;84mMクエン酸;pH2.8;スパチュラ先端量のポリビニルピロリドン)中でホモジナイズした。13000rpm、4℃で15分間、このホモジネートを遠心分離した。上清を0.5g/mlの酢酸アンモニウムと混合し、4℃で一晩、酸可溶性タンパク質を沈降させた。
【0086】
13000rpm、4℃で30分間、このタンパク質を遠心分離した。タンパク質沈殿物を50μl/gのFG再懸濁バッファー(50mM Tris−Cl pH7.5;20%(v/v)グリセロール)に溶かした。4倍濃縮SDSサンプルバッファー5μlを20μlのサンプルに加え、このサンプルを、ブロモフェノールブルーの色が青色に変わるまで(1〜5μlの)Tris飽和溶液と混合した。各レーンについて、バイオラド(Bio−Rad)社のミニゲル装置を用いる標準の方法に従って、変性SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(15%分離ゲル)において、12.5μlの煮沸したサンプルを分離した。
【0087】
電気泳動に続いて、ゲルを(ローディングコントロールとして)クーマシー染色し、または標準の方法に従ってニトロセルロース膜に移した(ブロットした)。標準の方法に従って、この膜を、オオムギ由来のPrx8タンパク質(TAPEROに相同なタンパク質)に対して標的化した第1のポリクローナル抗体とともに(希釈率1:2000)、続いて、ウサギ抗体に対して標的化し、アルカリホスファターゼを結合した第2の抗体(希釈率1:2000)とともにインキュベートした。局在的なアルカリホスファターゼ活性を利用して(BCIP/NBT染色溶液;調製済みの錠剤(ロシュ社(Roche)))、TAPEROタンパク質のバンドを検出した。
【0088】
7)ノーザンブロット分析およびリアルタイムPCR分析による、表皮特異的なトランスジェニック発現の検出
実施例5で説明したようにして、RNA抽出およびノーザンブロット分析を実施した。製造業者の仕様書に従い、「Light Cycler(登録商標)」装置(ロシュ(Roche)社、[ドイツ国マンハイム(Mannheim)所在]を用いて、リアルタイムPCR分析を実施した。
【0089】
8)pPS41またはpWIR5−TaMlo−RNAiトランスジェニック植物におけるウドンコ病抵抗性
抵抗性試験のために、温室で栽培されて新しく出てきた止め葉が十分に発達している成熟したpPS41またはpWIR5−TaMlo−RNAiトランスジェニックコムギ植物を使用した。同時に栽培した野生型植物のボブホワイト栽培品種が、コントロールとしての役目を果たした。止め葉の先端半分を切断し、大きさ20x20cmのポリカーボネート皿中の、20ピーピーエム(百万分率)のベンズイミダゾールと混合した0.5%(w/v)フィトアガー(phytoagar)上に広げた。1皿当たり、1つのトランスジェニック亜系統(各20枚の葉)ならびにボブホワイト野生型(各6枚の葉)を広げた。4枚の十分に接種されたコムギの葉の胞子を接種箱(tower)に吹き入れることによって、接種培地中で葉片にウドンコ病菌胞子を接種した。5分後に皿を取り出して蓋を閉め、間接昼光のもと、20℃でインキュベートした。接種の7日後、クラス評価システム(シュバイツァー(Schweizer)他、1995年)を用いてウドンコ病菌の感染を評価した。それぞれのフィトアガープレート上にあるコントロールの葉を参照して、抵抗性を算出した。
【0090】
文献:
Christensen and Quail (1996) Transgenic Res. 5: 213-218.
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Spencer et al. (1990) TAG 79: 625-631.
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】GSTA1プロモーターの核酸配列(配列番号1)を示す図。
【図2】WIR1aイントロンの核酸配列(配列番号2)を示す図。
【図3】好ましいプロモーター領域の核酸配列(配列番号3)を示す図。
【図4】TAPERO(ペルオキシダーゼ)cDNAの核酸配列(配列番号4)を示す図。
【図5】TAPERO発現ベクターpPS41を示す図であって、核酸配列(配列番号5)を示す図。
【図6】TAPERO発現ベクターpPS41を示す図であって、核酸配列(配列番号5)を示す図(図5の続き)。
【図7】TAPERO発現ベクターpPS41を示す図であって、ベクターマップを示す図。
【図8】ジャーミン9f−2.8(シュウ酸エステル酸化酵素)cDNAの核酸配列(配列番号6)を示す図。
【図9】ジャーミン発現ベクターpPS24を示す図であって、核酸配列(配列番号7)を示す図。
【図10】ジャーミン発現ベクターpPS24を示す図であって、核酸配列(配列番号7)を示す図(図9の続き)。
【図11】ジャーミン発現ベクターpPS24を示す図であって、ベクターマップを示す図。
【図12】Mlo−RNAi構築物の配列(配列番号8)を示す図。
【図13】Mlo−RNAi発現ベクターpWIR5−TaMlo RNAiを示す図であって、核酸配列(配列番号9)を示す図。
【図14】Mlo−RNAi発現ベクターpWIR5−TaMlo RNAiを示す図であって、核酸配列(配列番号9)を示す図(図13の続き)。
【図15】Mlo−RNAi発現ベクターpWIR5−TaMlo RNAiを示す図であって、ベクターマップを示す図。
【図16】pPS24トランスジェニック植物におけるin situでのシュウ酸エステル酸化酵素活性を示す図。ボブホワイト(Bobwhite)野生型植物(BW)ならびにトランスジェニック系統157番および170番の葉を横方向に切り、in situでシュウ酸エステル酸化酵素活性を検出した。左の列は、シュウ酸基質との反応を示す。右の列はシュウ酸基質が無い場合のコントロール反応を示す。紫の強い着色は、トランスジェニック系統の表皮におけるシュウ酸エステル酸化酵素活性を示唆している。
【図17】(a)は、pPS41トランスジェニック植物におけるTAPERO導入遺伝子の検出を示す図であって、ノーザンブロットによる検出を示す図。ノーザンブロットにWIR3サンプルをハイブリダイゼーションすることによる、pPS41構築物を有するT2世代のトランスジェニックコムギ系統からのTAPERO RNA蓄積の検出。各場合において、成植物の段階の4種の選択された系統の2種の亜系統ならびに野生型(BW)を分析した。葉1は止め葉を示す。葉2〜4は、次第に成長した葉を示す。TaGer−4プローブは、ストレス誘導性コムギ遺伝子のグループにハイブリダイズし、TAPERO過剰発現の多面発現性の副次的作用を試験するために使用された。著しい副次的作用は認められなかった。EtBrは、臭化エチジウムで染色されたゲルのローディングコントロールを示す。(b)は、pPS41トランスジェニック植物におけるTAPERO導入遺伝子の検出を示す図であって、ウェスタンブロットによる検出を示す図。ウェスタンブロットに抗体を反応させることによる、pPS41構築物を有するT2世代のトランスジェニックコムギ系統のTAPEROタンパク質蓄積の検出。TAPEROトランスジェニック産物の予想されるサイズは31kDである。ボブホワイトの葉3では、基礎活性の高まったTAPERO遺伝子を観察することができた。葉1は止め葉を示す。クーマシー染色は、クーマシーブルーR250で染色されたゲルのローディングコントロールを示す。
【図18】(a)は、表皮特異的なトランスジェニック発現の検出を示す図であって、ノーザンブロット分析による検出を示す図。特異的なプローブによるpPS24またはpPS41構築物を有するトランスジェニック植物の葉の表皮におけるシュウ酸エステル酸化酵素(左)およびTaPERO(右)mRNAの蓄積の検出。Wは、葉全体から得たRNAを示す。Eは、葉の表皮から得たRNAを示す。EtBrは、ローディングコントロールとしての臭化エチジウムで染色されたゲルを示す。26SRNAは、ブロットとローディングコントロールとしての26SリボゾームRNAに対するプローブとのその後のハイブリダイゼーションを示す。(b)は、表皮特異的なトランスジェニック発現の検出を示す図であって、リアルタイム逆PCR法による検出による検出を示す図。(構築物pPS41で形質転換された)トランスジェニック系統2013番の葉全体および表皮中のTaPEROmRNAの濃度を測定した。構成的に発現されるコントロール遺伝子UBC(ユビキチン結合酵素)およびGAPDH(グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ)を用いてデータを標準化した。葉全体で残っている発現は、除去されていない上部の葉の表皮および師部からのものである(プロモーターの副活性)。
【図19】表皮特異的なトランスジェニック発現の検出を示す図であって、リアルタイム逆PCR法による検出による検出を示す図。成植物の段階の野生型植物(ボブホワイト)および(pPS41構築物で形質転換された)トランスジェニック系統2013番および2151番を分析した。プロモーターは、特に葉および穂で強く発現される。茎および根では、導入遺伝子は全く発現されず、または弱くしか発現されない。
【図20】pPS41トランスジェニック植物のウドンコ病菌に対する抵抗性の調査を示す図。成植物の止め葉を切り取り、ボブホワイト野生型植物とともに、切断葉のアッセイでコムギのウドンコ病菌を接種した。接種の7日後に、ウドンコ病菌の感染を評価した。T2世代およびT3世代の植物を用いた3回の独立した接種実験の平均値を示している。亜系統2088/2は、TAPEROを全く発現せず、抵抗性は高まっていない。「非サイレンシング」の平均値は、2088/2以外のすべての系統およびすべての実験の平均値を示す。
【図21】pPS41トランスジェニック植物の芽の成長を示す図。T2世代の植物をボブホワイト野生型植物とともに植え、成植物段階で写真を撮影した。
【図22】pWIR5−TaMlo−RNAiトランスジェニック植物のウドンコ病菌に対する抵抗性の調査を示す図。T2世代の成植物の止め葉を切り取り、ボブホワイト野生型植物とともに、切断葉のアッセイでコムギのウドンコ病菌を接種した。接種の7日後に、ウドンコ病菌の感染を評価した。各事例において、1系統につき2種の亜系統を試験した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GSTA1遺伝子のプロモーター由来の第1の配列、およびWIR1a遺伝子のイントロン由来の第2の配列を含み、植物の表皮に対する特異性を有するプロモーター領域。
【請求項2】
前記第1の配列が配列番号1であり、前記第2の配列が配列番号2であることを特徴とする請求項1に記載のプロモーター領域。
【請求項3】
a)配列番号3で与えられる核酸配列を含むプロモーター領域、
b)配列番号3で与えられる該核酸配列の機能部分を含むプロモーター領域、および
c)ストリンジェントな条件のもとで、配列番号3で与えられる該核酸配列とハイブリダイズする配列を有するプロモーター領域からなる群から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載のプロモーター領域。
【請求項4】
コード配列と有効に連結している請求項1から3のいずれかに記載のプロモーター領域を含むことを特徴とするキメラ遺伝子。
【請求項5】
発現により、前記表皮中での前記コード配列にコードされたタンパク質の収量が増加することを特徴とする請求項4に記載のキメラ遺伝子。
【請求項6】
前記コード領域が耐性遺伝子由来であることを特徴とする請求項4または5に記載のキメラ遺伝子。
【請求項7】
前記コード配列が、ペルオキシダーゼまたはシュウ酸エステル酸化酵素をコードすることを特徴とする請求項5または6に記載のキメラ遺伝子または組換え核酸分子。
【請求項8】
発現が、前記表皮中の対応する内在性遺伝子の発現を抑制することを特徴とする請求項4に記載のキメラ遺伝子。
【請求項9】
前記コード配列がアンチセンスの向きであることを特徴とする請求項8に記載のキメラ遺伝子。
【請求項10】
前記内在性遺伝子の発現の抑制がRNA干渉に起因することを特徴とする請求項8に記載のキメラ遺伝子。
【請求項11】
発現が抑制される前記遺伝子がMlo遺伝子であることを特徴とする請求項8から10のいずれかに記載のキメラ遺伝子。
【請求項12】
請求項1から3のいずれかに記載のプロモーター領域、または請求項4から11のいずれかに記載のキメラ遺伝子を含む組換え核酸分子。
【請求項13】
さらに転写終結配列を含む請求項12に記載の組換え核酸分子。
【請求項14】
a)請求項12または13に記載の組換え核酸分子を製造する工程と、
b)a)からの該組換え核酸分子を植物細胞に移入する工程と、
c)完全に形質転換された植物を再生させ、所望により該植物を増殖させる工程とを備える、導入遺伝子を表皮特異的に発現するトランスジェニック植物の製造方法。
【請求項15】
請求項12または13に記載の組換え核酸分子、あるいは請求項14に記載の方法に従って製造された組換え核酸分子を含むトランスジェニック植物、ならびに、プロトプラスト、植物細胞、カルス、種子、塊茎、または挿し木のような該植物の形質転換部分およびそれらの形質転換された増殖物質、ならびに該植物のトランスジェニックな子孫。
【請求項16】
前記植物が単子葉植物である請求項15に記載のトランスジェニック植物。
【請求項17】
前記植物がイネ科植物である請求項16に記載のトランスジェニック植物。
【請求項18】
前記植物がコムギまたはオオムギである請求項17に記載のトランスジェニック植物。
【請求項19】
植物中で導入遺伝子を表皮特異的に発現するための請求項1から3のいずれか一項に記載のプロモーター領域の使用方法。
【請求項20】
前記導入遺伝子が耐性遺伝子である請求項19に記載の使用方法。
【請求項21】
a)請求項12または13に記載の組換え核酸分子を製造する工程と、
b)a)からの該組換え核酸分子を植物細胞に移入する工程と、
c)完全に形質転換された植物を再生させ、所望により該植物を増殖させる工程とを備える、トランスジェニック植物の病原体抵抗性を高めるための方法。
【請求項22】
請求項12または13のいずれか一項に気合いの組換え核酸分子、あるいは請求項21に記載の方法に従って製造された組換え核酸分子を含む、病原体抵抗性が高められているトランスジェニック植物、ならびに、プロトプラスト、植物細胞、カルス、種子、塊茎、または挿し木のような該植物の形質転換部分およびそれらの形質転換された増殖物質、ならびに該植物のトランスジェニックな子孫。
【請求項23】
前記植物が単子葉植物である請求項22に記載のトランスジェニック植物。
【請求項24】
前記植物がイネ科植物である請求項23に記載のトランスジェニック植物。
【請求項25】
前記植物がコムギまたはオオムギである請求項24に記載のトランスジェニック植物。
【請求項26】
ウドンコ病菌に対して高い抵抗性を示すことを特徴とする請求項22から25のいずれかに記載のトランスジェニック植物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2007−507215(P2007−507215A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530115(P2006−530115)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【国際出願番号】PCT/EP2004/011214
【国際公開番号】WO2005/035766
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(503384328)
【出願人】(503259738)マクス−プランク−ゲゼルシヤフト・ツア・フエルデルング・デア・ビーゼンシヤフテン・イー・ブイ (1)
【出願人】(503148096)
【Fターム(参考)】