説明

植物を用いた土壌または水の浄化方法およびシステム

【課題】下水処理および工場廃水処理のような一般的な水または土壌の浄化に適用可能な省コストで、省エネルギー型の浄化方法およびシステムを提供すること。
【解決手段】本発明は、バラ属(Rosa)の植物を環境ホルモンで汚染された土壌で栽培するかまたは環境ホルモンで汚染された水を培地として用いて水耕栽培することにより、そのような土壌または水を浄化する方法またはシステムを提供する。本発明によれば、土壌または水中の環境ホルモンが、バラ属(Rosa)の植物を利用することにより除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境ホルモンで汚染された土壌または水を、植物を用いて浄化する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールAに代表される環境ホルモンは、内分泌撹乱化学物質とも呼ばれ、生体の恒常性、生殖、発生、または行動に関与するエストロゲン、アンドロゲン、甲状腺ホルモンなどの種々の生体ホルモンの合成、分泌、生体内輸送、受容体への結合またはその作用などの、生体ホルモンが関与する諸過程を撹乱する物質である。
【0003】
環境ホルモンは、大部分が人工の化学物質であり、その由来は工業原料などである。例えば、ビスフェノールAは、プラスチックの原材料として用いられ、プラスチック工場の廃水に多く含まれるほか、廃棄物処分場から出る浸出水にも多量に含まれている。
【0004】
現在の下水処理および工場廃水処理では、環境ホルモンの除去が不十分で、広範囲の土壌および水の汚染の問題が生じている。工場廃水または生活廃水に含まれる環境ホルモンは、濃度が極めて低く急性毒性がないために、源位置での除去システムが導入されていないことが多い。環境中に放出された環境ホルモンは、生物濃縮された場合、生体に影響を及ぼし得る。
【0005】
現状の廃水高度処理法としては、活性汚泥による生物処理を行った処理水を、オゾンによる化学処理または活性炭による物理的吸着を利用して処理する方法が実用化されている。これらの高度処理技術は、高エネルギーおよび高コストを要することに加え、難分解性のフェノール系環境ホルモン(例えば、ビスフェノールA)の完全分解または吸着分離処理は難しい。さらに、これらの高度処理技術は、工場廃水の処理には適するが、生活廃水、農業廃水、または汚染土壌の処理においては莫大なコストがかかり、実用的でない。
【0006】
近年、廃水処理のために、環境ホルモンの吸収および分解が可能な植物を利用することが試みられている。
【0007】
例えば、ビスフェノールAを含む水でタバコの苗を水耕栽培することによりビスフェノールAをタバコ植物によって吸収分解させる方法が知られている(非特許文献1)。この方法では、その吸収率は4時間の水耕栽培で27%程度であり、またこの吸収はタバコ根表面への初期吸着によるものが殆どであり、植物体中に能動的に取り込まれたものではなく、実用的なレベルの浄化技術とは言えない。
【0008】
特許文献1には、イネ科植物またはタデ科植物を利用したビスフェノール類縁化合物で汚染された水の浄化が記載されている。
【0009】
特許文献2には、スベリヒユ属(Portulaca)のポーチュラカを用いたビスフェノールAを含む環境ホルモンで汚染された土壌または水の浄化が記載されている。ポーチュラカは、高温性の園芸植物であり、日本での栽培期間はおよそ5月から10月に限定され、低温期には適用できない。
【特許文献1】特開2006−43643号公報
【特許文献2】特開2006−297367号公報
【非特許文献1】N. Nakajimaら, Processing of Bisphenol A by Plant Tissues: Glucosylation by Cultured BY-2 Cell and Glucosylation/Translocation by Plants of Nicotiana tabacum, Plant Cell Physiol., 43(9), 1036-1042, 2002年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、一般的な水または土壌の浄化に適用可能な省コストで、省エネルギー型の浄化方法およびシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水中の環境ホルモンを除去する方法を提供する。この方法は、
該環境ホルモンを含む水をバラ属(Rosa)の植物に与えて該環境ホルモンを該植物に吸収させる工程を含む。
【0012】
本発明はまた、環境ホルモンで汚染された土壌または水を浄化する方法を提供する。この方法は、
バラ属(Rosa)の植物を該土壌で栽培するかまたは該水を培地として用いて水耕栽培する工程を含み、これにより該土壌または水から環境ホルモンを除去する。
【0013】
本発明はさらに、土壌浄化システムを提供する。この土壌浄化システムは、バラ属(Rosa)の植物および環境ホルモンで汚染された土壌を含み、該バラ属の植物が該土壌の上に植栽され、該土壌中の環境ホルモンを該バラ属の植物に吸収させる。
【0014】
本発明はさらに、水浄化システムを提供する。この水浄化システムは、バラ属(Rosa)の植物および支持体を備え、該支持体は、該バラ属の植物根の部分を保持し、そして環境ホルモンで汚染された水を保持する構造を有し、該根を該汚染された水との接触により水中の環境ホルモンを該バラ属の植物に吸収させる。
【0015】
1つの実施態様では、上記バラ属の植物はミニバラ(Rosa hybrida)である。
【0016】
別の実施態様では、上記環境ホルモンは、フェノール系環境ホルモンである。
【0017】
1つの実施態様では、上記支持体は、水の導入および排出が可能な容器に該植物を支える濾材を入れたユニットである。
【0018】
さらなる実施態様では、上記濾材は、人工ゼオライトを含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、土壌または水中に含有される環境ホルモンを、バラ属の植物を利用することにより、その土壌または水から除去することができる。本発明によれば、工場廃水に加えて、生活廃水、農業廃水、または汚染土壌の処理にも適した浄化処理方法およびシステムが提供される。ミニバラは、高温期だけでなく低温期であっても野外で栽培可能であり、通年にわたって野外での適用が可能になる。また、バラ属の植物は、通常の園芸植物として栽培されており、安全性および鑑賞性が高い。本発明は、環境浄化能に加えて、景観保護にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の方法では、環境ホルモンを含む水をバラ属(Rosa)の植物に与えることにより、その水から環境ホルモンを除去する。「環境ホルモンを含む水を与える」工程には、バラ属の植物の根から、環境ホルモンを含む水を吸収可能とする任意の工程が含まれる。例えば、環境ホルモンを含む水を培地としてバラ属の植物を水耕栽培することであってもよく、あるいは環境ホルモンを含む土壌において(必要に応じて給水しながら)植物を栽培することであってもよい。これらのいずれの工程によっても、植物は、環境ホルモンを水と共に根から吸収できる。水耕栽培では、培地である環境ホルモンを含む水が根から吸収され得、一方、土壌栽培では、土壌中または土壌に付与された水分を通じて、環境ホルモンを含む水が根から吸収され得る。
【0021】
バラ属(Rosa)の植物は、落葉または常緑の低木で、匍匐性またはつる性であり、多くは棘を有する。バラ属には、野生種のバラに加え、多くの園芸品種が含まれる。本発明によればバラ属の任意の植物が用いられ得るが、好ましくは、ミニバラ(Rosa hybrida)である。ミニバラは、高温期だけでなく低温期であっても野外で栽培可能であり、そして水耕栽培が可能である。本発明で使用されるミニバラの種は問わない。ミニバラは匍匐性であり、一旦土壌に植栽すると生長するにつれて生育面積が自然に四方に広がり、広い範囲の土壌を少ない植栽労力で被覆することができる。ミニバラは美しい花を咲かせる園芸植物であり、鑑賞性に優れる。また多年性の種であれば、毎年植栽を行う必要はなく、メンテナンスコストを低く抑えることができる。
【0022】
土壌または水から除去される環境ホルモンとしては、内分泌撹乱作用を有する化学物質であれば、その化学構造、由来を問わずいかなる環境ホルモンも対象とし得る。環境ホルモンには、例えば、プラスチックの原材料として用いられるビスフェノールA、ごみ焼却施設の焼却灰および集塵灰に含まれるダイオキシンおよびコプラナーポリ塩化ビフェニル(co−PCB)、界面活性剤の原材料として用いられるノニルフェノールおよびオクチルフェノール、屎尿処理場から放出され、環境中で女性ホルモンとして作用するエストラジオール(β−エストラジオール)、可塑剤として用いられるフタル酸エステル、医療品合成の原材料として用いられるベンゾフェノン、殺虫剤として用いられるジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)およびDDE(DDTの代謝物)が含まれる。好適には、フェノール系環境ホルモン(ビスフェノールA、ノニルフェノール、およびオクチルフェノールを含む)が除去され得る。環境ホルモンは、単独で土壌または水に含まれている必要はなく、二種以上の組合せで土壌または水に含まれていてもよい。
【0023】
これらの環境ホルモンは、バラ属の植物の植物体に吸収された後、植物体内に蓄積されない。そのため、生育している植物体は、新たな環境ホルモン汚染物質として廃棄処理する必要はない。
【0024】
環境ホルモンが除去される対象となり得る土壌または水は、環境ホルモンを含む土壌または水であり、このような土壌または水を、本明細書では、環境ホルモンで汚染された土壌または水ともいう。例えば、環境ホルモンが原材料などとして用いられている工場からの廃棄物の処分場周辺の土壌、上記工場からの工場廃水、生活廃水、農業廃水など、およびそれらの廃水が流入している河川または湖沼の水および土壌が対象となる。
【0025】
環境ホルモンを除去する対象が土壌である場合、本発明の浄化方法は、この土壌の上にバラ属の植物を植栽して栽培することによって実施することができる。土壌への植栽は、植物の種子を播種することによって、または挿し芽によって行われ得る。また、別の土壌である程度生長させた苗を準備または購入し、次いで浄化対象の土壌に移植してもよい。いずれの方法においても、バラ属の植物の土壌への植栽前に土壌の耕起および肥料の施肥を必要により適宜行うことは言うまでもない。なお、植物の生育に適切な土壌pHは6.5〜7.5程度である。
【0026】
環境ホルモンを除去する対象が水である場合、本発明の浄化方法は、この水を培地として用いてバラ属の植物を水耕栽培することによって実施することができる。水耕栽培とは、植物の根が直接水と接する状態で栽培することをいう。本発明によれば、環境ホルモンで汚染している水を培地として用いて植物を水耕栽培することにより、その水を浄化できる。水耕栽培では、環境ホルモンで汚染している河川または湖沼においてその水面に、植物の根が水と接触可能であるように該植物を保持した支持体を浮遊させることにより、該河川または湖沼の水を培地として使用してもよく、あるいは該植物を保持した支持体を環境ホルモンで汚染された水を導入可能な手段(例えば、水槽または水路)の中に設置し、当該河川または湖沼から、または廃水を排出している設備から、環境ホルモンで汚染された水を該手段に導入して培地として使用してもよい。例えば、水槽などを用いて水耕栽培を行う場合、汚染水を水槽に導入して植物を栽培した後、汚染除去された水を水槽から排出し得る。
【0027】
水耕栽培は、適当な大きさまで生長させたバラ属の植物の根の部分を、環境ホルモンで汚染された水と接触させるように浸漬させ、環境ホルモンで汚染された水を培地として植物を培養すればよい。栽培または培養条件は植物毎に異なり得る。屋内で水耕栽培を行う場合、それぞれの植物について好適な培養条件を適宜設定し得る。種を問わずミニバラの場合、通常、白色蛍光灯の連続照射(1日18時間照射)下で20〜25℃の温度条件で培養することが好適である。環境ホルモンで汚染された水を浄化するのに必要な培養時間は、培地中の環境ホルモンの初期濃度または培養するバラ属の植物の植え込み量(植物体重量)によって異なる。例えば、ミニバラ・カリナを用いて約1gの植物体重量当たり100mlの初期濃度50μMのビスフェノールA溶液を浄化する場合、約3日間の培養でこの溶液中のビスフェノールAをほとんど除去し得る。ミニバラ・カリナを用いて約1gの植物体重量当たり100mlの初期濃度20μMのオクチルフェノール溶液を浄化する場合、約3日間の培養でこの溶液中のオクチルフェノールを完全に除去し得る。ミニバラ・カリナを用いて約1gの植物体重量当たり100mlの初期濃度25μMのノニルフェノール溶液を浄化する場合、約1日間の培養でこの溶液中のノニルフェノールを完全に除去し得る。
【0028】
水耕栽培では、植物の茎および葉を水面上に出して、根を水と接触できるように植物を保持する支持体が必要である。環境ホルモンで汚染された水に植物の根が直接接触可能とである限り、任意の支持体が用いられ得る。屋外または屋内の施設で水耕栽培を行う場合、支持体としては、水の導入および排出が可能な容器(例えば、空隙状の壁を側面および底面に有し、頂部が開口している容器)に植物を支える濾材を入れたユニットが挙げられる。このユニットは、環境ホルモンで汚染された水が植物に送られるような手段(例えば、給水口および排水口を備えた水槽、または水路)の中に、植物が吸水可能な状態に配置され得る。
【0029】
植物を支える濾材としては、浄化対象水中の富栄養化の原因物質に対する吸着性能を有することが好ましい。例えば、人工ゼオライト、竹炭などが挙げられる。人工ゼオライトは、石炭火力発電所などから排出される石炭灰を人工的にアルカリ処理することにより生成されるリサイクル資材である。環境ホルモンならびに環境負荷となり得る窒素およびリンの吸着性能が優れる点で、人工ゼオライトFeタイプが好ましい。人工ゼオライトFeタイプは、水耕栽培での植物の生育にも優れる。人工ゼオライトFeタイプは粒径5mmのペレットが好適に使用され得るが、これに限定されない。竹炭は、竹を炭化したものである。
【0030】
濾材は、植物の生育に適切な条件(例えばpH)および形態を考慮して組成が決定され得る。例えば、濾材として、人工ゼオライトFeタイプに竹炭を混合して用いることもできる。植物の生育に適切な土壌pHは6.5〜7.5程度である。そのため、濾材のpHも適切に調節され得る。濾材は、新根の形成および水の吸収性の点で団粒構造が好ましい。
【0031】
本発明によれば、環境ホルモンが除去された土壌または水が得られ得る。これらの用途は特に限定されない。環境ホルモンが除去された土壌は、例えば、植物栽培用土壌として園芸用または農業用に用いることができる。環境ホルモンが除去された水は、例えば、農業用水または工業用水として好適に用いることができる。飲料用水の原料水としても適している。
【0032】
バラ属の植物(例えば、ミニバラ)は、通常の園芸植物として栽培されており、安全性および鑑賞性が高いので、緑化効果に優れる。本発明によれば、浄化性に加えて、緑化的要素であるアメニティーも向上される。また、植物バイオマス生産にも利用可能である。したがって、本発明によれば、環境浄化と花卉生産または植物バイオマス生産とを併せて行うことができる。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
本実施例では、以下の表1に示す種々のミニバラを用いた。植物は、挿し芽をして約8週齢の時点(樹高25cm程度)で試験に供した。試験に供した植物の個体数は、明記しない限り1個体である。
【0034】
鉢植えにした各植物の根を水道水で洗浄後、ベンレート2,000倍液で殺菌した。湿重量1gの植物体当たり25mlの50μMビスフェノールA(BPA)水溶液を培地としてこれに根を浸漬した。根を完全に培地に浸漬させ、茎および葉は空気中に出るように配置し、アルミ箔で容器の口を覆った。白色蛍光灯の連続照射下、25℃で培養した。24時間後および48時間後に培地をサンプリングし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてBPAを定量した。HPLCによるBPAの測定条件は以下の通りである:
カラム:逆相カラム(COSMOSIL 5C18−AR−II Waters 2590−4.6、ナカライテスク)
注入量:40μl
流速:1.0ml/分
移動相:60%(v/v)メタノール水溶液
検出器:ダイオードアレイ検出器
検出波長:280nm。
【0035】
BPAの添加濃度および培地中のBPAの残存濃度からBPA除去率(%)を以下の式に従って計算した:
BPA除去率(%)=100−(培地中のBPAの残存濃度/BPAの添加濃度)×100
【0036】
これらの結果を以下の表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、ミニバラは、いずれの種においても培地から大部分のBPAを除去できた。種によっては24時間後においてでさえもほとんどのBPAを培地から除去できた。
【0039】
(実施例2)
上記実施例1から、ミニバラが水培地からBPAを効果的に除去することが分かった。そこで本実施例では、BPAと同様のフェノール系環境ホルモンであるオクチルフェノール(OP)およびノニルフェノール(NP)、ならびにBPA、OPおよびNPの3種の組合せに対して、ミニバラが浄化能を有するか否かを調べた。
【0040】
本実施例では、供試植物としてミニバラ・カリナを用いた。上記実施例1と同様にして植物体を調製した。湿重量1gの植物体当たり100mlの各化合物を含む水溶液を培地としてこれに根を浸漬した。培地中の化合物の濃度はそれぞれ、BPAが50μM、OPが20μM、NPが25μMであった。3種を組み合わせた場合は、50μMのBPA、20μMのOP、および25μMのNPを含む200mlの水溶液を培地とした。上記実施例1と同様にしてミニバラを培養し、培地を経時的にサンプリングしてHPLCにて各化合物の含有濃度を定量した。これらの結果を図1から図4に示す。
【0041】
図1は、ミニバラ・カリナを培養した場合の培地中のビスフェノールA(BPA)濃度の経時変化を示す。植物を培養していない培地について、BPA濃度を対照として測定した。図中、四角がミニバラ・カリナ培養時の結果を表し、菱形が植物なしの結果を表す。縦軸は培地中のBPA濃度(μM)を表し、横軸は植物体の培養後の経過時間(h)を示す。図1に示されるように、ミニバラ・カリナの培養により、培地中のBPA濃度は1日後にすでに半分以下になり、以後も時間の経過と共に減少した。
【0042】
図2は、ミニバラ・カリナを培養した場合の培地中のオクチルフェノール(OP)濃度の経時変化を示す。縦軸は培地中のOP濃度(μM)を表し、横軸は植物体の培養後の経過時間(h)を示す。図2に示されるように、ミニバラ・カリナの培養により、培地中のOP濃度は1日後にすでに5分の1以下になり、以後も時間の経過と共に減少し、3日後にはほぼ完全に消失した。
【0043】
図3は、ミニバラ・カリナを培養した場合の培地中のノニルフェノール(NP)濃度の経時変化を示す。縦軸は培地中のNP濃度(μM)を表し、横軸は植物体の培養後の経過時間(h)を示す。図3に示されるように、ミニバラ・カリナの培養により、培地中のNP濃度は1日後にはほぼ完全に消失していた。
【0044】
図4は、3種組み合わせを含む培地でのミニバラ・カリナ培養による培地中のビスフェノールA(BPA)、オクチルフェノール(OP)、およびノニルフェノール(NP)濃度の経時変化を示す。縦軸は培地中の各環境ホルモン濃度(μM)を表し、横軸は植物体の浸漬後の経過時間(h)を示す。それぞれ、黒四角印がビスフェノールA(BPA)であり、黒三角印がオクチルフェノール(OP)であり、そして白丸印がノニルフェノール(NP)である。図4に示されるように、三種の化合物を組み合わせて含有する培地の場合であっても、ミニバラ・カリナの培養により、培地中の各化合物の濃度は時間の経過と共に減少した。
【0045】
したがって、ミニバラが、フェノール系環境ホルモンを含む培地からこれらのホルモンを効果的に除去できることが示された。
【0046】
(実施例3)
実施例2と同様にして、フェノール系環境ホルモン(BPA、NP、またはOP)を含有する水溶液培地でミニバラ・カリナを培養した。ミニバラ・カリナ培養の間の培地中の環境ホルモンの活性(エストロゲン様活性)の変移を調べた。培地中にエストロゲン様活性が残存していれば、酵母β−ガラクシダーゼ活性が検出されることを利用して、以下のアッセイを実施した。
【0047】
酵母サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を、ロイシンおよびトリプトファンを除いたアミノ酸制限SD合成寒天培地(下記)上で、30℃にて培養した後、4℃で保存した。この保存株を上記のSD合成培地10mlに植菌し、30℃にて約40時間振盪培養し、これを前培養液とした。
【0048】
SD合成培地の組成は以下の通りである:
Difco yeast nitrogen base without amino acid
(Becton, Dickinson and Company, USA) 6.7g
Dropout supplement (Clontech, USA) 0.64g
グルコース 33.3g
蒸留水 1000ml
【0049】
1.5mlマイクロチューブにSD合成培地200μlおよび前培養液50μlを入れた。次いで、ミニバラ培養中の培地を採取し、この採取した培地の上清250μlをこれに加え、30℃にて4時間振盪培養した。この時、ポジティブコントロールとして0.1μMの17β−エストラジオールを、ネガティブコントロールとして内分泌攪乱作用を持たない溶媒(エタノール)のみを、ミニバラ培養中の培地の代わりに添加して酵母を培養した。
【0050】
濁度の測定のために、振盪培養後の酵母培養液から150μlを採取し、この採取液を96穴マイクロプレートに移し、プレートリーダー(Model550、BIO-RAD、USA)を用いて595nmの吸光度(A595)を測定した。
【0051】
残りの酵母培養液を遠心分離し(1100×g、4℃、5分)、上清を完全に除いた。これに、Z緩衝液(下記)を用いて調製したZymolase-20T溶液(1mg/ml)を200μl添加し、30秒激しく撹拌し、次いで37℃にて15分間インキュベートし、細胞を破砕した。
【0052】
Z緩衝液の組成は以下の通りである:
Na2HPO4・12H2O 21.492g
NaH2PO4・2H2O 6.22g
KCl 0.75g
MgSO4・7H2O 0.246g
蒸留水 1000ml
(pHを7に調整した後0.27mlのβ−メルカプトエタノールを添加した)
【0053】
酵母の細胞破砕液にo−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシド溶液(下記)40μlを添加し、30℃にて反応させた。o−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシド溶液の組成は以下の通りである:
o−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド
(東京化成工業株式会社) 400mg
0.1M リン酸緩衝液(Na2HPO4・12H2O:35.814g/l) 100ml
【0054】
90分の反応後、1M Na2CO3溶液100μlを添加して反応を停止させた。遠心分離後(17360×g、4℃、5分)、回収した反応上清150μlを96穴マイクロプレートに移した。プレートリーダーを用いて415nmおよび570nmの各波長における吸光度(A415、A570)を測定した。
【0055】
β−ガラクトシダーゼ酵素活性は次の式を用いて求めた:
酵素活性(U)=1000×(A415−1.75×A570)/(90×0.05×A595
【0056】
図5は、ミニバラ・カリナの培養時間に対するオクチルフェノール(OP)含有培地中の酵母β−ガラクトシダーゼ活性の変移を示す。縦軸はβ−ガラクトシダーゼ活性(U)を表し、横軸はミニバラ培養時間(h)を示す。図5に示されるように、ミニバラ・カリナの培養により、β−ガラクトシダーゼ活性は、ミニバラ培養時間の増大と共に減少し、ミニバラ培養の96時間後にほぼ完全に消失した。これにより、培地中のオクチルフェノールによるエストロゲン様活性は消失していることがわかる。
【0057】
図6は、ミニバラ・カリナの培養時間に対するノニルフェノール(NP)含有培地中の酵母β−ガラクトシダーゼ活性の変移を示す。縦軸はβ−ガラクトシダーゼ活性(U)を表し、横軸はミニバラ培養時間(h)を示す。図6に示されるように、ミニバラ・カリナの培養により、β−ガラクトシダーゼ活性は、ミニバラ培養時間の増大と共に減少し、ミニバラ培養の48時間後にほぼ完全に消失した。これにより、培地中のノニルフェノールによるエストロゲン様活性は消失していることがわかる。
【0058】
ビスフェノールA(BPA)についても同様に、ミニバラ培養時間の増大と共に、β−ガラクトシダーゼ活性が減少する傾向が見られた。
【0059】
(実施例4)
水耕栽培時にミニバラを保持する支持体として適切な濾材を、環境ホルモンならびに環境負荷となり得る窒素およびリンの吸着性能について検討した結果、Feタイプの人工ゼオライトが適していることがわかった。そこで、この人工ゼオライトFeタイプを用いて、水耕栽培システムを構築した。
【0060】
支持体の濾材として、リサイクル資材であって、吸着能に優れる竹炭もまた採用した。人工ゼオライトはFeタイプの粒径5mmペレット(シリカ系バインダー)(前田建設工業株式会社製)を、そして竹炭は700℃以上で炭化させたチップ炭(粒径10mm以下)(株式会社環境総合テクノス製)を使用した。人工ゼオライトおよび竹炭を1:1(v/v)で混合した濾材を植物の支持体に使用した。
【0061】
15×15×15cmのステンレス網カゴに上記混合濾材を入れ、花をつける時期(1年齢)まで生育したミニバラ・カリナを1カゴ当たり6株植え込んだ。これを植物ユニットという。
【0062】
図7は、本実施例で使用した水耕栽培システムを模式的に示す。図7の上側の図は、水耕栽培システムの断面図であり、下側の図は、水耕栽培システムを上方から見た平面図である。この水耕栽培システムでは、給水および排水できるように、屋外で、800mmの高さの位置の土台を組み、その土台上に排水口を備えた長さ3200mm×幅600mm×高さ150mmの水槽を2つ並べた。排水口とは反対の側に給水口を設置した。植物ユニットを、図7に示すように、一方の水槽中に配置した。他方の水槽には、対照として、植物を植えていないユニットを同様に配置した。
【0063】
この水耕栽培システムに植物ユニットを0.5ヶ月間(15日)設置し、ミニバラ・カリナを栽培した(秋季、温室内 15〜25℃)。栽培期間中は水位が約100mmになるように給水量を調整した。設置してから0.5ヶ月間栽培した後においてもミニバラ・カリナの状態は良好であった。このように、ミニバラは水耕栽培可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、下水処理および工場廃水処理のような一般的な水または土壌の浄化に適用可能な方法およびシステムが提供される。本発明の方法およびシステムは、環境浄化と花卉生産または植物バイオマス生産とを併せて行うことが期待される。ミニバラは、通常の園芸植物として低温期でも栽培されるので、屋外であっても通年にわたって利用することができる。また、その安全性および鑑賞性から景観保護の向上も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】ミニバラ・カリナを培養した場合および植物を培養しなかった場合の培地中のビスフェノールA(BPA)濃度の経時変化を示すグラフである。
【図2】ミニバラ・カリナを培養した場合の培地中のオクチルフェノール(OP)濃度の経時変化を示すグラフである。
【図3】ミニバラ・カリナを培養した場合の培地中のノニルフェノール(NP)濃度の経時変化を示すグラフである。
【図4】3種組み合わせを含む培地でのミニバラ・カリナ培養による培地中のビスフェノールA(BPA)、オクチルフェノール(OP)、およびノニルフェノール(NP)濃度の経時変化を示すグラフである。
【図5】ミニバラ・カリナの培養時間に対するオクチルフェノール(OP)含有培地中の酵母β−ガラクトシダーゼ活性の変移を示すグラフである。
【図6】ミニバラ・カリナの培養時間に対するノニルフェノール(NP)含有培地中の酵母β−ガラクトシダーゼ活性の変移を示すグラフである。
【図7】ミニバラ・カリナの水耕栽培を検討したシステムを模式的に示す断面図および平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の環境ホルモンを除去する方法であって、
該環境ホルモンを含む水をバラ属(Rosa)の植物に与えて該植物に該環境ホルモンを吸収させる工程を含む、方法。
【請求項2】
前記バラ属の植物がミニバラ(Rosa hybrida)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記環境ホルモンが、フェノール系環境ホルモンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
環境ホルモンで汚染された土壌または水を浄化する方法であって、
バラ属(Rosa)の植物を該土壌で栽培するかまたは該水を培地として用いて水耕栽培する工程を含み、これにより該土壌または水から環境ホルモンを除去する、方法。
【請求項5】
前記バラ属の植物がミニバラ(Rosa hybrida)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記環境ホルモンが、フェノール系環境ホルモンである、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
土壌浄化システムであって、バラ属(Rosa)の植物および環境ホルモンで汚染された土壌を含み、該バラ属の植物が該土壌の上に植栽され、該土壌中の環境ホルモンを該バラ属の植物に吸収させる、システム。
【請求項8】
前記バラ属の植物がミニバラ(Rosa hybrida)である、請求項7に記載の土壌浄化システム。
【請求項9】
前記環境ホルモンが、フェノール系環境ホルモンである、請求項7または8に記載の土壌浄化システム。
【請求項10】
水浄化システムであって、バラ属(Rosa)の植物および支持体を備え、該支持体は、該バラ属の植物を、該植物の根が環境ホルモンで汚染された水と接触可能であるように保持する構造を有し、該根と該汚染された水との接触により水中の環境ホルモンを該バラ属の植物に吸収させる、システム。
【請求項11】
前記バラ属の植物がミニバラ(Rosa hybrida)である、請求項10に記載の水浄化システム。
【請求項12】
前記環境ホルモンが、フェノール系環境ホルモンである、請求項10または11に記載の水浄化システム。
【請求項13】
前記支持体が、水の導入および排出が可能な容器に前記植物を支える濾材を入れたユニットである、請求項10から12のいずれかに記載の水浄化システム。
【請求項14】
前記濾材が、人工ゼオライトを含む、請求項13に記載の水浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−238081(P2008−238081A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83848(P2007−83848)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、近畿経済産業局長、再委託「平成17年度地域新生コンソーシアム研究開発事業」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(591151808)株式会社環境総合テクノス (23)
【Fターム(参考)】