説明

植物性タンパク質含有濃厚流動食

【課題】タンパク源として植物性タンパク質を含有しつつも流動性が高く、飲み口やチューブ流動性等の取り扱いに優れ、更にレトルト殺菌等の加熱殺菌工程や長期保存下においても植物性タンパク質の凝集が抑制された濃厚流動食を提供する。
【解決手段】植物性タンパク質含有濃厚流動食に、高度分岐環状デキストリン及び微結晶セルロースを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃厚流動食に関する。詳細には、タンパク源として植物性タンパク質を含有しつつも流動性が高く、飲み口やチューブ流動性等の取り扱いに優れ、更にレトルト殺菌等の加熱殺菌工程や長期保存下においても植物性タンパク質の凝集が抑制された濃厚流動食に関する。
【背景技術】
【0002】
濃厚流動食には、体に必要な各種の栄養素(タンパク質、炭水化物、脂質、ミネラル、ビタミン、水分等)が十分量バランスよく配合されており、食物の咀嚼・嚥下が困難な患者の他、寝たきり老人等の高齢者や手術前・手術後の患者等に必要な栄養を補給する栄養食として広く使用されている。上記栄養素の一種であるタンパク質としては、カゼインナトリウム、ホエイタンパク質、脱脂粉乳、全乳タンパク質およびこれらの分解物等の動物性タンパク質や大豆タンパク質、脱脂豆乳粉末、カロブビーンガムタンパク質、エンドウマメタンパク質およびこれらの分解物等の植物性タンパク質が挙げられるが、近年の乳原料の高騰、乳アレルギー患者の増加や植物性タンパク質の血中コレステロール低減効果の面より植物性タンパク質の使用が検討されてきている。しかし、植物性タンパク質は乳タンパク質に比して共存する含有組成物の影響を強く受けやすく、植物性タンパク質を各種ミネラルやビタミンを多量に含有する濃厚流動食に用いた際は、濃厚流動食の粘度が著しく増加し、飲料として用いた際に飲みづらい、対象患者に濃厚流動食を経管投与する際にチューブ流動性が低下して取り扱いに欠けるといった不具合を抱えていた。更に、かかる植物性タンパク質を含有する濃厚流動食をレトルト殺菌等の加熱殺菌を施した際や長期保存下では、タンパク質が凝集し、食感や飲み口がざらつく、経管投与時に使用されるチューブにタンパク質凝集物が付着する、目詰まりを生じる等、その使用勝手は悪く、高い流動性及びタンパク質の凝集が防止された植物性タンパク質含有濃厚流動食が求められていた。
【0003】
一方、分子内に環状構造を有した澱粉分解物である高度分岐環状デキストリンを用いた技術として、胃などの消化管に負担をかけず、速やかにエネルギー摂取の可能な飲食物を製造できること(特許文献1)、高濃度の糖質と適量のビタミン、ミネラルを含むスポーツ飲料に使用できること(特許文献2)、デンプン及び/又は増粘多糖類の溶液の粘度を低下できること(特許文献3)、タンパク質の凝集分離が起こりにくいヨーグルト様飲食品を提供できること(特許文献4)、及び高度分岐環状デキストリンを用いて調製された粉末油脂を自然流動食に添加できること(特許文献5)が開示されている。同様にして、特許文献6には結晶セルロースを濃厚流動食に添加する技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−83621号公報
【特許文献2】特開2003−169642号公報
【特許文献3】特開平09−272702号公報
【特許文献4】特開2003−289800号公報
【特許文献5】特開2003−49189号公報
【特許文献6】特開2003−289830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タンパク源として植物性タンパク質を用いて調製された濃厚流動食は、カゼインナトリウムや乳清タンパク質等の乳タンパク質を用いた際と異なった挙動を示し、レトルト殺菌等の加熱殺菌や長期保存下においてタンパク質が凝集し、ざらついた飲み口となる、経管投与時に使用するチューブが目詰まりを起こす、濃厚流動食の粘度が上昇して飲料として適さない等の不具合を抱えていた。かかる点、特許文献1〜4にはタンパク源として植物性タンパク質を含有する濃厚流動食に関して一切記載されておらず、特許文献1及び2に開示されている技術もクラスターデキストリンの浸透圧の低さに着目した体内吸収性の速い飲料の提供を目的としており、栄養素の過不足を生じないように設計される高栄養食品であり、体内吸収性の速さを目的としない濃厚流動食とは相違する。同様にして、特許文献5に開示されている技術も粉末油脂自体の流動性や水への分散性を改良する技術であり、植物性タンパク質を含有した濃厚流動食の流動性や凝集について一切開示されていない。更に高度分岐環状デキストリンを用いた場合であっても、炭水化物、脂質、ミネラル、ビタミン、水分等を複合的に含有する濃厚流動食中では植物性タンパク質が凝集し、依然としてざらついた飲み口となる、経管投与時に使用するチューブが目詰まりを起こす等の問題点を抱えていた。
【0006】
同様にして、特許文献6には結晶セルロースや増粘多糖類などを使用した凝集防止や沈殿物の再分散の容易化に関する技術が開示されているが、結晶セルロースを用いた場合であっても、タンパク源として植物性タンパク質を使用すると、濃厚流動食の粘度が高くなり、飲料として用いた際に飲みづらい、経管投与時にチューブ流動性が悪く使い勝手が悪いといった問題点を抱えており、植物性タンパク質を用いつつも、高い流動性及び植物性タンパク質の安定性に優れた濃厚流動食が求められていた。
【0007】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、タンパク源として植物性タンパク質を用いた場合であっても、飲み口やチューブ流動性等の取り扱いに優れ、更にレトルト殺菌等の加熱殺菌工程や長期保存下においても植物性タンパク質の凝集が抑制された濃厚流動食を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、植物性タンパク質を含有する濃厚流動食に高度分岐環状デキストリン及び微結晶セルロースを含有することにより、飲み口やチューブ流動性等の取り扱いに優れ、更にレトルト殺菌等の加熱殺菌工程や長期保存下においても植物性タンパク質の凝集が抑制された濃厚流動食を提供できることを見出して本発明を完成した。
【0009】
本発明は、以下の態様を有する植物性タンパク質含有濃厚流動食に関する;
項1.高度分岐環状デキストリン及び微結晶セルロースを含有することを特徴とする植物性タンパク質含有濃厚流動食。
項2.高度分岐環状デキストリン100質量部に対し、微結晶セルロースを0.01〜100質量部含有する、項1に記載の植物性タンパク質含有濃厚流動食。
項3.植物性タンパク質の含有量が2質量%以上である、項1又は2に記載の植物性タンパク質含有濃厚流動食。
項4.植物性タンパク質が大豆タンパク質である項1〜3のいずれかに記載の植物性タンパク質含有濃厚流動食。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、炭水化物、脂質、ミネラル、ビタミン、水分等を複合的に含有する濃厚流動食中に植物性タンパク質を含有した場合においても、濃厚流動食の粘度が高くなることなく飲み口やチューブ流動性等の流動性に優れ、更には、レトルト殺菌等の加熱殺菌工程や長期保存下においても植物性タンパク質の凝集が抑制された濃厚流動食を提供できる。これにより、栄養面や機能性に優れた植物性タンパク質を含有しつつも、流動性や植物性タンパク質の安定性に優れた、乳アレルギー患者でも摂取可能な濃厚流動食を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の植物性タンパク質含有濃厚流動食は、高度分岐環状デキストリン及び微結晶セルロースを含有することを特徴とする。
【0012】
本発明で使用する高度分岐環状デキストリンは、分子内に環状構造を有した澱粉分解物であり、動植物、微生物に広く分布するグルカン鎖転移酵素であって、生体内で澱粉やグリコーゲンのα−1,6−グルコシド結合(分岐結合)を合成するブランチングエンザイムという酵素によって澱粉を加工することにより得られるデキストリンである。ブランチングエンザイムはアミロペクチンのクラスター構造の継ぎ目に作用し、環状化を行いながら分解するため、高度分岐環状デキストリンは澱粉の基本的な構造単位であるクラスター構造をほぼ保持している構造を有する。かかる高度分岐環状デキストリンは特許第3150266号や特許第3107358号に開示されている方法を用いて製造することが可能である。詳細には、少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカン及び/又は内分岐環状構造部分と外分岐環状構造部分とを有し、重合度が50以上であることを特徴とする。本発明で使用する高度分岐環状デキストリンは、商業上入手可能であり、例えば、江崎グリコ株式会社製のクラスターデキストリンを挙げることができる。
【0013】
植物性タンパク質含有濃厚流動食への高度分岐環状デキストリンの添加量としては、添加対象の濃厚流動食の処方や求められる流動性によっても適宜調節することが可能であるが、具体的には、濃厚流動食に対し、0.1〜25質量%、好ましくは0.5〜20質量%、更に好ましくは1〜15質量%を例示することができる。
【0014】
本発明で高度分岐環状デキストリンと併用して用いる微結晶セルロースは、パルプを原料とし加水分解によりセルロース結晶領域を取り出して精製したものであり、平均粒子径が40μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは、10μm以下の結晶セルロースである。微結晶セルロースを含む組成物として、微結晶セルロースを100質量%含有するものを使用しても良いが、バインダーとして、キサンタンガム、カラヤガム、カラギナン、グァーガム、CMC−Na等の増粘多糖類等を添加して、機械的なシェアをかけて磨砕して、必要に応じて乾燥することによって製剤化したものを使用するのが好ましい。微結晶セルロースを、組成物に対して、5〜100質量%となるように配合し、製剤化する場合は、残りにバインダーを使用して製剤化を行う。本発明で使用する微結晶セルロースを含む組成物(微結晶セルロース製剤)は、商業的に入手することが出来、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「ホモゲン[商標]No.2210」等を挙げることが出来る。
【0015】
微結晶セルロースの植物性タンパク質含有濃厚流動食への添加量としては、濃厚流動食に対し、微結晶セルロースが0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜2質量%、更に好ましくは0.1〜1質量%を例示することができる。
【0016】
本発明では上記高度分岐環状デキストリン及び微結晶セルロースを併用することにより、炭水化物、脂質、ミネラル、ビタミン、水分等を複合的に含有する濃厚流動食中に植物性タンパク質を含有した場合においても、濃厚流動食の粘度が高くなることなく飲み口やチューブ流動性等の流動性に優れ、更には、レトルト殺菌等の加熱殺菌工程や長期保存下においても植物性タンパク質の凝集が抑制された濃厚流動食を提供することが可能となった。このように、本発明では、高度分岐環状デキストリン及び微結晶セルロースを併用することを特徴とするが、高度分岐環状デキストリンと微結晶セルロースの併用割合としては、高度分岐環状デキストリン100質量部に対し、微結晶セルロースが0.01〜100質量部、好ましくは0.1〜20質量部となるように併用することが好ましい。一方で、高度分岐環状デキストリンを単独で使用した際は、レトルト殺菌といった加熱殺菌や長期保存下において植物性タンパク質が凝集してざらついた舌触りとなり、微結晶セルロースを単独で使用した際は植物性タンパク質を含有した濃厚流動食の粘度が高くなり飲料として飲みづらい、経管投与した際のチューブ流動性が低く取り扱いの利便性に欠けるといった不具合がある。
【0017】
本発明が対象とする濃厚流動食は、タンパク源として植物性タンパク質を含有することを特徴とする。植物性タンパク質を使用することにより乳に由来するアレルギーを有する患者であっても摂取可能な濃厚流動食を提供でき、また血中コレステロール低減効果等の機能性の高い濃厚流動食を提供することができる。使用可能な植物性タンパク質としては、大豆、エンドウマメ、カロブビーンガム等の植物性タンパク質やその分解物が挙げられ、好ましくは大豆タンパク質が挙げられる。従来、濃厚流動食に使用されるタンパク源としては、濃厚流動食の粘度が高くなりにくい、植物性タンパク質と比較してタンパク質が安定であるといった点から、カゼインナトリウム、ホエイタンパク質、脱脂粉乳、全乳タンパク質等の乳タンパク質が用いられており、一方で植物性タンパク質は濃厚流動食中の炭水化物、脂質、ミネラル、ビタミン等の複合物質と相互作用しやすく、粘度が顕著に高くなる、タンパク質の凝集が多発し、使い勝手が悪いといった問題点を抱えていた。しかし、本発明にかかる高度分岐環状デキストリン及び微結晶セルロースを併用することにより、流動性及び安定性に優れた上記植物性タンパク質を含有した濃厚流動食が提供可能となった。
【0018】
特に、濃厚流動食中の植物性タンパク質含量が2質量%以上と高くなるにつれ濃厚流動食自体の粘度が上昇する、植物性タンパク質の凝集物が濃厚流動食にざらつきを与える、経管投与の際にチューブ中で目詰まりを起こす等の問題が顕著に発生するが、本発明の構成をとることにより、上記植物性タンパク質を高添加量含有した濃厚流動食であっても、流動性及び植物性タンパク質の安定性に優れた濃厚流動食を提供可能となった。
【0019】
本発明が対象とする濃厚流動食はカロリー値が1kcal/mL以上であり、栄養成分は、タンパク質、脂質、炭水化物、ミネラル、ビタミンなどを含む食品である。以下、濃厚流動食を構成する各成分について詳述する。
【0020】
タンパク質
本発明では植物性タンパク質を用いることを特徴とするが、本発明に影響を与えない範囲内において、従来から食品に汎用されている各種タンパク質を併用することができる。具体的には、脱脂粉乳、カゼイン、ホエイタンパク質、全乳タンパク質及び小麦タンパク質、上記タンパク質の塩類分解物等が挙げられる。
【0021】
脂質
本発明の濃厚流動食では、一般に食用として利用されている脂質であれば特に限定されず、各種脂質を用いることができる。具体的には、大豆油、綿実油、サフラワー油、コーン油、米油、ヤシ油、シソ油、ゴマ油、アマニ油等の植物油や、イワシ油、タラ肝油等の魚油、必須脂肪酸源として長鎖脂肪酸トリグリセリド(LCT)、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)等を挙げることができ、好ましくは通常炭素数が8〜10である中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)である。濃厚流動食中の脂質の含有量としては、求められる栄養素によって適宜調節することが可能であるが、具体的には、0.5〜25質量%を例示することができる。ここで、濃厚流動食中の脂質含量が30質量%以上と高くなると濃厚流動食自体の粘度が上昇しやすくなり、飲料としての喫食に適さない、経管投与時にチューブ流動性が悪い等の不具合が顕著となるが、本発明にかかる高度分岐環状デキストリン及び微結晶セルロースを併用することにより、上記油脂含量が高い濃厚流動食であっても、良好な流動性を有し、飲料としての使用にも適した濃厚流動食を提供可能である。
【0022】
炭水化物
本発明の濃厚流動食では、一般に食用として利用されているものが使用できる。例えば、澱粉、食物繊維やグルコース、フラクトース等の単糖類、マルトース、蔗糖等の二糖類等の通常の各種の糖類や、キシリトール、ソルビトール、グリセリン、エリスリトール等の糖アルコール類、デキストリン、シクロデキストリン等の多糖類、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラクトスクロース等のオリゴ糖類等が挙げられる。濃厚流動食中の炭水化物の含有量としては、求められる栄養素によって適宜調節することが可能であるが、具体的には、0.5〜30質量%、好ましくは1〜20質量%である。中でも、カロリー付与を目的とし、炭水化物源として種々のデキストリンを用いることが多々あるが、従来のデキストリンを用いた際は濃厚流動食に植物性タンパク質を含有させると濃厚流動食の粘度が高くなり、また植物性タンパク質が凝集することが問題となっていた。この点、本発明の濃厚流動食は高度分岐デキストリンを含有することを特徴とするが、炭水化物源として含有することが好ましい。これにより、流動性及び安定性が良好な濃厚流動食を提供することが可能である。なお、高度分岐環状デキストリンは炭水化物源としても使用できるが、本発明に影響を与えない範囲内において、炭水化物源として他のデキストリンや澱粉、食物繊維、糖類、多糖類、糖アルコール類、オリゴ糖など炭水化物源として用いることも可能である。
【0023】
ミネラル、ビタミン
本発明の濃厚流動食では、一般に食用として利用されているものが使用できる。例えば、ミネラルであれば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄等は食品添加物扱いの塩の形で添加することができる。ビタミンであれば、例えば、ビタミンB1、B2、B6、B12、C、D、K、ナイアシン、ニコチン酸アミド、パントテン酸、又は葉酸等を使用することができる。濃厚流動食中のミネラル、ビタミンの量は「日本人の食事摂取基準[2005年度版]」に記載の推奨量、目安量、目標量又は上限量に従い適宜設定することが可能である。
【0024】
濃厚流動食中、ミネラルやビタミンは上記脂質や炭水化物以上に植物性タンパク質の安定性に与える影響が大きく、ミネラルやビタミンを含有した濃厚流動食は、濃厚流動食の粘度が急激に上昇する、植物性タンパク質の凝集物を生じるなど、安定性の高い濃厚流動食を提供することが極めて困難であった。更に濃厚流動食はミネラルやビタミンに加え、上記脂質や炭水化物を複合的に含有するため、植物性タンパク質の安定化はより一層困難であった。しかし、本発明の構成をとることにより、ミネラルやビタミンを含有した濃厚流動食中であっても良好な流動性を示し、植物性タンパク質の凝集も顕著に防止された濃厚流動食を提供可能となった。
【0025】
上述のように、濃厚流動食はタンパク質、脂質、炭水化物、ミネラル及びビタミンを複合的に含有する点で、植物性タンパク質を含有した通常の飲料や食品中とは異なった挙動を示したり、植物性タンパク質の安定性が著しく低下したりするなど、濃厚流動食中での植物性タンパク質の安定化を図ることが大変困難であったが、高度分岐環状デキストリン及び微結晶セルロースを併用することにより、濃厚流動食中に植物性タンパク質を含有した場合においても、濃厚流動食の粘度が高くなることなく良好な流動性を示し、更にレトルト殺菌等の加熱殺菌工程や長期保存下においても植物性タンパク質の凝集が抑制された濃厚流動食を提供することが可能となった。
【0026】
本発明において良好な流動性とは、濃厚流動食を飲料として適用した際に飲み易く、また経管投与した際のチューブ流動性が良好な粘度を示し、例えば0.01〜200mPa・s、好ましくは0.01〜100mPa・sの粘度を示すものが好ましい。
【0027】
本発明の濃厚流動食は、例えば以下に示す製法に従って製造することができる。水に上記タンパク質、脂質、炭水化物、ミネラル及びビタミンを含有し、加熱攪拌溶解後、必要に応じて均質化処理を行い、容器に充填後、レトルト殺菌(110〜130℃で10〜30分間)やUHT殺菌(95〜140℃で15〜120秒間)等の加熱殺菌を行うことにより調製される。従来はかかる加熱殺菌工程、特にレトルト殺菌工程において、植物性タンパク質が凝集することが問題となっていたが、高度分岐環状デキストリン及び微結晶セルロースを併用することにより、過酷な加熱条件下においても植物性タンパク質の凝集が顕著に抑制された濃厚流動食の提供が可能となった。同様に、濃厚流動食はその性質上、長期間常温下で保存される保存形態をとることが多いが、かかる保存条件下においても、高度分岐環状デキストリン及び微結晶セルロースを併用することにより濃厚流動食の植物性タンパク質の凝集を顕著に抑制することが可能となった。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは、「質量部」、「%」は「質量%」を意味するものとする。文中「*」印のものは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0029】
実験例1 濃厚流動食の調製
表1及び表2の処方に従って植物性タンパク質含有濃厚流動食を調製した。詳細には、水に各種デキストリン、マルトオリゴ糖、大豆タンパク質、微結晶セルロース、中鎖脂肪酸トリグリセリド、グラニュー糖、ビタミン、鉄、亜鉛、銅、塩化マグネシウム、クエン酸三ナトリウム、グルコン酸カリウム及び乳化安定剤を添加し、80℃で10分間加熱攪拌溶解後、水で全量を100%に調整した。次いで1段目15MPa、2段目5MPaの圧力条件で均質化処理を行い、容器に充填後、121℃で10分間レトルト殺菌を行うことにより植物性タンパク質含有濃厚流動食を調製した(実施例1〜2及び比較例1〜3)。一方、タンパク源として大豆タンパク質の代わりに乳タンパク質(カゼインナトリウム)を用いる以外は実施例1及び2と同様にして乳タンパク質含有濃厚流動食を調製した(比較例4〜7)。
【0030】
【表1】

【0031】
注1)江崎グリコ株式会社製「クラスターデキストリン」使用
注2)松谷化学株式会社製の低粘度デキストリン「TK−16」使用
注3)松谷化学株式会社製のマルトオリゴ糖「パインオリゴ20」使用
注4)旭化成ケミカルズ株式会社製、「セオラスSC−900S」使用
注5)オリエンタル酵母株式会社製、鉄分1.5%含有製剤「ミネラル酵母Fe」使用
注6)オリエンタル酵母株式会社製、亜鉛5.0%含有製剤「ミネラル酵母Zn」使用
注7)オリエンタル酵母株式会社製、銅0.3%含有製剤「ミネラル酵母Cu」使用
注8)日清オイリオ製、「スコレ64G」使用
注9)ビタミンB群+ビタミンA、B、C、D(全11種)配合ミックス製剤「V−ミックス RD−05*」使用
注10)「ホモゲン※897*」使用
【0032】
各々調製した濃厚流動食(実施例1〜2、比較例1〜7)につき、流動性及びタンパク質の凝集について評価した。流動性は、20℃条件下で、BL型回転粘度計(ローターNo.2)を用いて回転数12rpmで1分間測定することによって求めた値である。タンパク質の凝集性はタンパク質が凝集し、ざらつきが多いものから順に+++>++>+>±>−の5段階で評価した。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2より、デキストリンとして高度分岐環状デキストリン及び微結晶セルロースを併用することにより、大豆タンパク質を含有しているにも関わらず、濃厚流動食の粘度が上昇することなく(約80〜130mPa・s)、喫食時の飲み口及びチューブ流動性に優れた流動性の高い濃厚流動食となった(実施例1、2)。更に、実施例1及び2の濃厚流動食は121℃で10分間レトルト殺菌といった過酷な殺菌条件下にも関わらず大豆タンパク質が凝集することなく、大豆タンパク質の安定性にも優れた濃厚流動食であった。一方、高度分岐環状デキストリンを微結晶セルロースと併用することなく用いた際は大豆タンパク質が凝集し、調製した濃厚流動食を飲料として飲んだ際にざらついた食感の濃厚流動食となってしまった(比較例3)。同様にして、高度分岐デキストリンと併用することなく他のデキストリンと併用して微結晶セルロースを使用した際は、低粘度デキストリンとして用いられているデキストリンや乳タンパク質を含有した濃厚流動食では低粘度を示すマルトオリゴ糖を使用したにも関わらず、濃厚流動食の粘度が高くなる上、大豆タンパク質の凝集も防止できなかった(比較例1、2)。一方、比較として大豆タンパク質の代わりに乳タンパク質を用いて調製した濃厚流動食(比較例6、7)では、低粘度デキストリン及びマルトオリゴ糖が良好な流動性を示し(71及び64mPa・s)、高度分岐環状デキストリン及び微結晶セルロースを乳タンパク質含有濃厚流動食に添加した際は、むしろ比較例6、7の濃厚流動食に比べ粘度上昇が見られた(比較例4、5)。更に、乳タンパク質を含有した濃厚流動食ではタンパク質の凝集が見られない場合においても、大豆タンパク質を用いることにより顕著に大豆タンパク質の凝集や粘度上昇が見られ、このように、乳タンパク質と大豆タンパク質(植物性タンパク質)では同じタンパク質であっても濃厚流動食中の挙動や物性は全く異なったものであり、本発明は植物性タンパク質を含有した濃厚流動食に対し、極めて顕著に良好な効果を奏するものである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
タンパク源として植物性タンパク質を含有しつつも流動性が高く、飲み口やチューブ流動性等の取り扱いに優れ、更にレトルト殺菌等の加熱殺菌工程や長期保存下においても植物性タンパク質の凝集が抑制された濃厚流動食を提供でき、ひいては乳に由来するアレルギーを有する患者であっても摂取可能であり、機能性も高い濃厚流動食を安定して提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高度分岐環状デキストリン及び微結晶セルロースを含有することを特徴とする植物性タンパク質含有濃厚流動食。
【請求項2】
高度分岐環状デキストリン100質量部に対し、微結晶セルロースを0.01〜100質量部含有する、請求項1に記載の植物性タンパク質含有濃厚流動食。
【請求項3】
植物性タンパク質の含有量が2質量%以上である、請求項1又は2に記載の植物性タンパク質含有濃厚流動食。
【請求項4】
植物性タンパク質が大豆タンパク質である請求項1〜3のいずれかに記載の植物性タンパク質含有濃厚流動食。

【公開番号】特開2009−261361(P2009−261361A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117193(P2008−117193)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】