説明

植物性乳酸菌増殖促進用組成物及び経口摂取用組成物

【課題】 植物性乳酸菌を選択的に増殖させうる機能を備えた植物性乳酸菌増殖促進用組成物を提供する。
【解決手段】 平均キシロース鎖長が3.5以上であるキシロオリゴ糖を有効成分とする植物性乳酸菌増殖促進用組成物。キシロビオースの含有量が20質量%未満であることを前項に記載の植物性乳酸菌増殖促進用組成物。植物性乳酸菌が、Lactobacillus brevisである前項記載の植物性乳酸菌増殖促進用組成物。前項記載の物性乳酸菌増殖促進用組成物と植物性乳酸菌を含有する経口摂取用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性乳酸菌を選択的に増殖させ得る機能を備えた植物性乳酸菌増殖促進用組成物を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、予防医学の概念から食品の3次機能、すなわち代謝調節、生体防御、疾病予防、疾病回復、老化防止などの体調調節機能を持つ食品が注目されている。例えば、特定保健用食品の関与成分として広く認知されている発酵乳類(プロバイオティクス)や難消化性オリゴ糖類(プレバイオティクス)は、整腸作用に加え花粉症やアトピー性皮膚炎の症状を緩和する作用等、食品分野にとどまらず、医療分野などでの利用も期待されている(非特許文献1および2参照)。
【0003】
前記プロバイオティクスやプレバイオティクスのそれぞれの効果を増強することを目的として、両者を配合したシンバイオティクスと定義される製品が開発されている(非特許文献3参照)。Bifidobacterium breveまたはLactobacillus caseiにガラクトオリゴ糖を添加したシンバイオティクスを小児外科疾患患児に投与することで、投与したプロバイオティクスの顕著な生着が認められ、腸管内の生体防御機構の回復に寄与する可能性が示唆されている(非特許文献4参照)。
【0004】
ところで最近、植物性乳酸菌に注目が集まっている。動物性乳酸菌が牛乳などの動物の乳を餌に増殖するのに対し、植物性乳酸菌は米、麦、果物などの植物を餌に増殖する。また、植物性乳酸菌は胃酸や消化酵素に耐性があり、生きたまま腸に届くため現在注目を浴びている。植物性乳酸菌の効果として,免疫活性作用、発癌物質の排出・分解、便秘・下痢の解消、病原菌感染の予防(非特許文献5参照)などが挙げられる。前述のシンバイオティクスの考え方に基づき、植物性乳酸菌とプレバイオティクスを組み合わせた食品がいくつか上市されている。しかし、植物性乳酸菌と一緒に摂取することで、腸内で摂取した植物性乳酸菌を選択的に増加させ、その機能を増強する能力に優れたプレバイオティクスの報告は無かった。
【0005】
【非特許文献1】腸内細菌学会誌 19、p31-36 (2005)
【非特許文献2】腸内細菌学会誌 18、p7-14 (2004)
【非特許文献3】臨床と微生物 Vol. 33、No.2、p147〜151 (2006)
【非特許文献4】Journal of Pediatric Surgery 39:1686-1692, (2004)
【非特許文献5】腸内細菌学、5章 食品への応用、朝倉書店、p439-445 (1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、植物性乳酸菌を選択的に増殖させうる機能を備えた植物性乳酸菌増殖促進用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決する為、鋭意研究した結果、キシロオリゴ糖組成物、特に平均キシロース鎖長が3.5以上であるキシロオリゴ糖組成物が、植物性乳酸菌、特にLactobacillus brevisを選択的に増殖させる能力に優れていることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0008】
本発明においては、上記課題を解決するため、以下の構成を採用する。
すなわち、本発明の第1は、平均キシロース鎖長が3.5以上であるキシロオリゴ糖を有効成分とする植物性乳酸菌増殖促進用組成物である。
【0009】
本発明の第2は、キシロビオースの含有量が20質量%未満である本発明の第1に記載の植物性乳酸菌増殖促進用組成物である。
【0010】
本発明の第3は、植物性乳酸菌が、Lactobacillus brevisである本発明の第1〜2のいずれかに記載の植物性乳酸菌増殖促進用組成物である。
【0011】
本発明の第4は、本発明の第1〜3のいずれかに記載の植物性乳酸菌増殖促進用組成物と植物性乳酸菌を含有する経口摂取用組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、植物性乳酸菌を選択的に増殖させうる機能を備えた植物性乳酸菌増殖促進用組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の構成について詳述する。
キシロオリゴ糖とは、キシロースのみを構成単糖とする難消化性のオリゴ糖であり、キシロースの2量体であるキシロビオース、3量体であるキシロトリオース、あるいは4量体〜20量体程度のキシロースの重合体、及び、このような様々な重合度のキシロオリゴ糖からなる組成物である。
本発明において、植物性乳酸菌増殖促進用組成物の有効成分として用いられるキシロオリゴ糖の平均キシロース鎖長は、3.5以上であり、4.0以上であることがより好ましい。また、キシロースの二量体であるキシロビオースの含有量は30%未満が好ましく、20%未満であることがより好ましい。
【0014】
植物性乳酸菌とは、乳や畜肉等の動物性素材を発酵させる動物性乳酸菌に対して、野菜、果実類、穀物、豆類、海藻類等の植物性素材を発酵させる乳酸菌を指す。
植物性乳酸菌は、動物性乳酸菌に比べて貧栄養状態での生育が可能であり、また、生育温度やpH等の環境要因においても、より過酷な条件で増殖できる。また、胃酸耐性、胆汁酸耐性が高く、低pHでの増殖が可能であるため、生体内での生存率が良好である。
本発明で用いる植物性乳酸菌は、一般的に植物性乳酸菌とされているもので食品として利用可能なものであればよく、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属、ロイコノストック属、バチルス属、テトラジェノコッカス属等が挙げられ、さらに具体的には、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、テトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)等が挙げられる。中でも、本発明の植物性乳酸菌増殖促進用組成物によって、最も増殖が促進されるのはLactobacillus brevisである。
【0015】
キシロオリゴ糖の製造方法としては、(1)加圧加熱、爆砕又はアルカリ処理等の糖化処理を行ない、直接キシロオリゴ糖液を製造する方法、(2)加圧加熱、アルカリ加熱処理や抽出、精製したキシランを出発原料とし、これに酵素を作用させて糖化処理してキシロオリゴ糖液を製造する方法、(3)植物体の原料を細片化し、アルカリ加熱処理後、直接酵素を作用させて糖化処理してから固液分離し、キシロオリゴ糖液を製造する方法、(4)リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、イオン交換樹脂を用いて精製キシロオリゴ糖を得る方法等が挙げられる。製造方法は任意に選択可能であるが、(4)の方法によって得られるキシロオリゴ糖は比較的重合度が高く、平均重合度が3.5以上であり、キシロビオースの含有量の少ないキシロオリゴ糖の組成物となるため、本発明での使用に特に適する。また経済性にも優れているため、以下にその方法について特に示す。
【0016】
キシロオリゴ糖は、化学パルプ等のリグノセルロース材料を原料とし、加水分解工程、濃縮工程、希酸処理工程、精製工程を経て得ることができる。加水分解工程では、希酸処理、高温高圧の水蒸気(蒸煮・爆砕)処理もしくは、ヘミセルラーゼによってリグノセルロース中のキシランを選択的に加水分解し、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体として得る。濃縮工程では逆浸透膜等により、キシロオリゴ糖−リグニン様物質複合体が濃縮され、低重合度のオリゴ糖や単糖並びに低分子の夾雑物などを除去することができる。濃縮工程は逆浸透膜を用いることが好ましいが、限外濾過膜、塩析、透析などでも可能である。得られた濃縮液の希酸処理工程により、複合体からリグニン様物質が遊離し、キシロオリゴ糖を含む希酸処理液を得ることができる。この時、複合体から切り離されたリグニン様物質は酸性下で縮合し沈殿するのでセラミックフィルターや濾紙などを用いたろ過等により除去することができる。希酸処理工程では、酸による加水分解を用いることが好ましいが、リグニン分解酵素などを用いた酵素分解などでも可能である。
【0017】
精製工程は、限外濾過工程、脱色工程、吸着工程からなる。一部のリグニン様物質は可溶性高分子として溶液中に残存するが、限外濾過工程で除去され、着色物質等の夾雑物は活性炭を用いた脱色工程によってそのほとんどが取り除かれる。限外濾過工程は限外濾過膜を用いることが好ましいが、逆浸透膜、塩析、透析などでも可能である。こうして得られた糖液中にはキシロオリゴ糖が溶解している。この糖液を陽イオン交換樹脂並びに陰イオン交換樹脂に通液し、イオン性の夾雑物を除去することで、非吸着画分に高度に精製されたキシロオリゴ糖溶液を得ることができる。なお、この溶液を、スプレードライや凍結乾燥処理することにより、キシロオリゴ糖組成物の粉末を得ることができる。
【0018】
なお、上記方法で得られるキシロオリゴ糖組成物の平均キシロース重合度は、希酸処理条件の調節や、ヘミセルラーゼで再度処理する等の方法で調節可能である。
【0019】
本発明の平均鎖長3.5以上のキシロオリゴ糖は、水溶液の形で、もしくは粉末状の形等、任意の形態で植物性乳酸菌増殖促進用組成物として使用することが可能である。
また、この即物性乳酸菌増殖促進用組成物を、そのまま、あるいは任意の成分、例えば、オリゴ糖類、糖類、澱粉、セルロース、油脂類、脂肪酸類、アミノ酸類、ビタミン類、ミネラル類、動物・植物由来天然物、海産物、肉類、蛋白質等を添加して、経口摂取用組成物とすることができる。その形態は、粉末状、顆粒状、液状等、任意の形態で使用することが可能である。また、打錠により錠剤とすることが可能である。なお、錠剤化する場合は、香料・甘味料などを添加し水なしで摂取可能な、いわゆるチュアブルタイプの錠剤としてもよい。さらに水溶性カプセル等に封入してカプセル状としてもよい。また、顆粒状に加工してもよい。顆粒状の形態にする場合、キシロオリゴ糖にデキストリン、デンプン、乳糖等の賦形剤を混合し造粒することができる。
【0020】
なお、本発明の経口摂取用組成物中キシロオリゴ糖の配合量は、経口摂取用組成物1日摂取量あたりキシロオリゴ糖含有量として、0.1〜5gが好ましく、0.2〜2gであることがより好ましい。
【0021】
本発明のキシロオリゴ糖を有効成分とする植物性乳酸菌増殖促進用組成物は、他の食品や飲料、栄養補助食品等に任意に添加して使用が可能である。
また、一般的に医療用食品、医薬部外品や医薬品に使用される成分と混合し、医療用食品、医薬部外品、医薬品としても提供することも出来る。
なお、上述の各種食品、医療用食品、医薬品の対象としては、ヒトだけではなく、犬や猫等のペット、動物用としても用いることが可能である。
【0022】
本発明のキシロオリゴ糖を有効成分とする植物性乳酸菌増殖促進用組成物は、当然のことながら、植物性乳酸菌と混合して経口摂取用組成物とすることができる。混合する植物性乳酸菌は、食品として利用可能なものであればよく、具体的には、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属、ロイコノストック属、バチルス属、テトラジェノコッカス属等が挙げられ、具体的には、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、テトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)等が挙げられる。
なお、本発明の植物性乳酸菌増殖促進用組成物は生きた植物性乳酸菌に作用することから、混合する植物性乳酸菌は生菌が望ましい。
【0023】
なお、本発明のキシロオリゴ糖を有効成分とする植物性乳酸菌増殖促進用組成物は、発酵食品の製造にも用いることが出来る。例えば、漬け物やキムチ、ピクルスは、植物乳酸菌による発酵を利用して製造される。これらの野菜発酵食品の製造工程において、該植物性乳酸菌増殖促進用組成物を添加することで、発酵速度を速め、製造時間を短縮することも可能である。また、該植物性乳酸菌増殖促進用組成物を添加した発酵食品は、摂取後に体内で植物性乳酸菌を増加させるなどの効果も期待できる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0025】
<分析法の概要>
キシロオリゴ糖の物理化学的性質の分析法を以下に示した。
(1)構成単糖の分析
オリゴ糖乾燥粉末に12N硫酸を加え、35℃で1時間放置後、12倍に希釈し、更に100℃で2時間煮沸して加水分解した。単糖組成の分析には、DIONEX社製糖分析システム(DX500)を用いた。カラムはCarbopak PA-10(4.5×250mm)を用い、流速1ml/minで0.1M NaOH溶液と、0.5M酢酸ナトリウムを含むNaOH溶液の直線グラジェントによって分離させ、PADで検出した。
(2)全糖量の定量
全糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製し、フェノール硫酸法(還元糖の定量法 第2版、学会出版センター発行:ISBN 4-7622-0102-2)にて定量した。
(3)還元糖量の定量
還元糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、ソモジ−ネルソン法(還元糖の定量法 第2版、学会出版センター発行:ISBN 4-7622-0102-2)にて定量した。
(4)平均キシロース重合度の決定法
糖液の全糖濃度と還元糖濃度を測定し、下式によって平均キシロース重合度を求めた。
平均キシロース重合度=全糖濃度÷還元糖濃度
(5)キシロオリゴ糖の純度およびキシロース、キシロビオース含有量の定量法
平成17年7月1日付け食安発第0701007号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知に記載のキシロオリゴ糖分析方法に準じた。すなわち、5%のキシロオリゴ糖を調製し、正確に1%に調製したグルコース、キシロースおよびキシロビオースを標準物質として用い、ポリスチレンジビニルベンゼン陽イオン交換樹を充填剤としたカラム(φ7.8×30cm)を接続したHPLCを用いて分析した。カラム温度は65℃とし、0.005mol/L硫酸を移動層として、示差屈折計にて検出を行った。グルコース、キシロース、キシロビオースの標準物質の面積を求め、濃度と面積の比をファクターとし、これらのファクターをキシロオリゴ糖の各ピークの面積に乗じて濃度を計算する。キシロオリゴ糖の純度、キシロビオースの含有量を以下に従って求めた。
キシロオリゴ糖純度(%)=(キシロビオース及びキシロビオースより相対保持時間の短いピークのものの濃度の総計/全ピークの濃度の総計)×100
キシロース含量(%)=(キシロースの濃度/全ピークの濃度の総計)×100
キシロオリゴ糖中のキシロビオース含量(%)=(キシロビオースの濃度/キシロビオース及びキシロビオースより相対保持時間の短いピークのものの濃度の総計)×100
【0026】
<キシロオリゴ糖調製例>
10%広葉樹クラフトパルプスラリーのpHを硫酸を用いて6.0とした後、Tricoderma reesei由来の市販のキシラナーゼを5000U/Lとなるように添加した。攪拌混合しながら50℃、45分間インキュベートした。固液分離によってパルプを除去し、糖濃度0.2%の糖液をRO膜を用いて50倍に濃縮後、糖濃度10%の糖液を1000L得た。この糖液を硫酸を用いてpH3.0に調整した。次いで120℃、1気圧で100分間加熱処理を行い、リグニンを会合・沈殿させた。次いで、活性炭によって脱色後、糖液を強カチオン交換樹脂(オルガノ製200CT)、弱アニオン樹脂(オルガノ製IRA96SB)、強カチオン交換樹脂(オルガノ製200CT)、弱アニオン樹脂(オルガノ製IRA96SB)の順に通液する操作を行い、非吸着画分を回収し、噴霧乾燥した。
得られたキシロオリゴ糖粉末の構成単糖はキシロースが99%以上であった。固形分中のキシロオリゴ糖の純度は96.7%であり、キシロース含有量は3.3%、キシロビオース含有量は12.8%、平均キシロース重合度は4.5であった。
【0027】
<植物性乳酸菌のオリゴ糖資化性試験1>
(1)使用培地
Pepton-Yeast-Fildes solution(PYF)液体培地に、グルコース及びサンプルを最終濃度0.5%になるように添加し、115℃、20分オートクレーブ滅菌して用いた。培地組成を以下に示す。
-PYF液体培地-
Trypticase 10.0g
Yeast Extract 5.0g
Fildes Extract (OXOID/SR0046) 40.0ml
Salts Soltion 40ml
L-システイン塩酸塩1水和物 0.5g
蒸留水 920ml
pH7.2
Salts Solution組成
無水CaCl2 0.2g
MgSO4 0.2g
K2HPO4 1.0g
KH2PO4 1.0g
NaHCO3 10.0g
NaCl 2.0g
蒸留水 1000ml
【0028】
(2)試験方法
植物性乳酸菌を純粋培養して得られたコロニーを掻き取り、Fildes Solution加GAM半流動寒天培地に接種して37℃、24時間培養した。この培養液を(1)に示した試験培地1.5mLに0.03ml接種し、37℃、72時間嫌気培養後、培養液をよく攪拌し、660nmの吸光度を測定した。嫌気培養はFORMA社製嫌気グローブボックスを用い、雰囲気はCO10%、H10%、N80%の混合ガスを用いた。
【0029】
(3)被験物質
被験物質は、一般的に難消化性オリゴ糖として食品に用いられるものを選択した。フラクトオリゴ糖(比較例1)、イソマルトオリゴ糖(比較例3)、セロビオース(比較例5)、ラフィノース(比較例6)およびゲンチオビオース(比較例7)は和光純薬(株)より試薬として入手し、ラクトシュークロース(比較例2)およびガラクトオリゴ糖(比較例4)は食品原料として販売されているものを入手した。尚、広葉樹パルプスラリーから調製したキシロオリゴ糖を実施例1、和光純薬(株)より試薬として入手したキシロオリゴ糖を実施例2とした。尚、実施例2のキシロオリゴ糖の構成単糖はキシロースが99%以上、固形分中のキシロオリゴ糖の純度は97.8%であり、キシロース含有量は0.7%、キシロビオース含有量は31.6%、平均キシロース重合度は3.3であった。
植物性乳酸菌は、発酵食品などから分離される代表的なものを、(独)理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(JCM)より入手した。試験に供した菌株は、JCMより入手したLactobacillus brevis(JCM1059、JCM1559)、Lactobacillus pentosus(JCM1558、JCM8333)、Lactobacillus plantarum(JCM11125)、Lactobacillus plantarum subsp. plantarum(JCM1055)、Pediococcus pentosaceus(JCM5885 )、Pediococcus acidilactici(JCM2032)、Tetragenococcus halophilus(JCM2014)の7属9種に、市販の健康食品から分離したLactobacillus brevis KB290を加え、計10種とした。
【0030】
(4)結果
各被験物質を添加し、培養した後の培養液の濁度(660nmの吸光度)を表1に示した。
本結果から、試験に供した全ての植物性乳酸菌に資化され、濁度が0.1以上となったのは実施例1及び2のキシロオリゴ糖のみであった。即ち、L.brevisに資化されうるのはキシロオリゴ糖のみであった。また、実施例1と実施例2を比較すると、実施例1の方が良好に資化される傾向が見られた。実施例1のキシロオリゴ糖は、単糖であるキシロースを3.3%含有している。一方、実施例2のキシロオリゴ糖は、キシロースの含有量は0.7%である。そこで、このキシロース含有量の差が資化性の差に影響したかどうかを検討するため、実施例2にキシロースを含有量が3.3%となるように添加したものを比較例9とし、広葉樹パルプスラリーから調製したキシロオリゴ糖を実施例3、和光純薬(株)より試薬として入手したキシロオリゴ糖を比較例8としてL.brevisに対する資化性試験を実施した。その結果を表2に示した。本結果から、キシロースの含有量は資化性に影響を与えないことが判明した。また、実施例3は比較例8と比較してL.brevisに資化されやすいばかりでなく、単糖であるキシロースと同等の資化性を示した。
なお、キシロースは資化性試験では資化性に優れているが、実際に経口摂取した場合には小腸から吸収されてしまうため、大腸内の植物乳酸菌が効率よく利用することは出来ない。一方、キシロオリゴ糖、特に広葉樹パルプスラリーから調製したキシロオリゴ糖は、胃酸や消化酵素でほとんど分解されない為に消化吸収されることなく(食品工業、Vol.51、No.12)、植物性乳酸菌に効率よく利用されると考えられる。また、広葉樹パルプスラリーから調製したキシロオリゴ糖は、平均キシロース鎖長が比較的長く、キシロビオースの含有量が12.8%であり、試薬として入手したキシロオリゴ糖(比較例8)のキシロビオースの含有量(31.6%)よりも低くなっている。キシロース鎖長がより長く、キシロビオースの含有量が低い方が、より資化されやすいことが判明した。
【0031】
<植物性乳酸菌のオリゴ糖資化性試験2>
植物性乳酸菌が大腸内でキシロオリゴ糖を資化することを確認するため、糞便バッチ培養法によって資化性試験を実施した。
(1)糞便バッチ培養法の手順
健常な成人男性1名から糞便を採取し、直ちに嫌気グローブボックス内で、予め窒素置換しておいたPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に懸濁後、100μmのナイロンメッシュにて濾過し、5%スラリーとした。本スラリー1.5mlに、あらかじめ前培養しておいた市販健康食品由来のL.brevis培養液を0.03ml添加した。次いで、最終濃度1%となるように被検物質を添加した。次に、嫌気グローブボックス内のインキュベータ中で、37℃にて24時間インキュベートした。インキュベート後、懸濁液を15,000rpm、5分間遠心して糞便ペレットを回収した。
【0032】
(2)糞便からのDNAの抽出
前記(1)で得られた糞便ペレットからDNAを抽出した。抽出にはQuiagen社製 QIAmp DNA Stool Mini Kitを用い、添付のプロトコールに従って抽出操作を行った。
【0033】
(3)糞便中の総菌数におけるL.brevis占有率の測定
糞便中の総菌数におけるL.brevis占有率の測定は、前記(2)で抽出した糞便DNAを用いた定量PCR法によって行った。定量PCRの装置はMJ Reserch社製のDNA Engine Opticonを用い、定量PCRの反応はSYBR Premix Ex Taq(タカラバイオ製)を使用した。PCR産物の定量、解析はMJ Reserch社製Opticon Monitorを用いた。
総菌数の測定には下記のプライマーの組み合わせを用いた(Poult Sci. 2004 Jul;83(7):1093-8)。
forward primer 5’ CGTGCCAGCCGCGGTAATACG 3’
reverse primer 5’ GGGTTGCGCTCGTTGCGGGACTTAACCCAACAT 3’
また、L.brevisの測定には下記プライマーの組合せを用いた(特開平10-210980参照)。
forward primer 5’ CTGATTTCAACAATGAAGC 3’
reverse primer 5’ CCGTCAATTCCTTTGAGTTT 3’
【0034】
PCR反応液の組成は、抽出したDNA溶液1μl、5μMに調製したプライマーをそれぞれ1μl、超純水7μl、キットに付属のPCR反応バッファー10μlを加え、20μlとした。PCR反応条件は、総菌数の測定においては、95℃、15分を1サイクル、94℃で15秒、60℃で15秒、72℃で30秒、75℃で蛍光測定を30サイクル、50℃〜95℃で1℃刻みに蛍光測定を1サイクル行った。
L.brevisの菌数測定においては、95℃、15分を1サイクル、94℃で15秒、54℃で15秒、72℃で30秒、75℃で蛍光測定を30サイクル、50℃〜95℃で1℃刻みに蛍光測定を1サイクル行った。
尚、総菌数測定用のプライマーを用いた時の増幅領域を領域A、L.brevisの菌数測定用プライマーを用いたときの増幅領域を領域Bとする。あらかじめ領域Aおよび領域BのPCR産物をそれぞれ作成・精製し、260nmの吸光度からコピー数を算出したものを検量線用DNAとした。領域Aおよび領域BそれぞれのPCR反応において、先に作成した検量線用DNAのコピー数とCt値から検量線を作成し、サンプル抽出したDNA1μlあたりに含まれる、領域A、及びBのコピー数を算出した。総菌数に対するL.brevisの占有率は、次式によって表すことができる。
L.brevisの占有率=(領域Bのコピー数/領域Aのコピー数)×100(%)
また、L.brevisの占有率の培養前後における相対的変化は次式によって表すことが出来る。
L.brevisの占有率の相対的変化=(培養後のL.brevisの占有率/培養前のL.brevisの占有率)×100(%)
【0035】
(4)被験物質
被験物質は、前述の<植物性乳酸菌のオリゴ糖資化性試験1>にて使用した難消化性オリゴ糖を使用した。広葉樹パルプスラリーから調製したキシロオリゴ糖を実施例4、和光純薬(株)より試薬として入手したキシロオリゴ糖を実施例5とし、比較例として、フラクトオリゴ糖(比較例10)、ラクトシュークロース(比較例11)、イソマルトオリゴ糖(比較例12)、ガラクトオリゴ糖(比較例13)、セロビオース(比較例14)、ラフィノース(比較例15)およびゲンチオビオース(比較例16)を用いた。
【0036】
(5)糞便懸濁液中のL.brevisに対する増殖促進活性の比較
糞便バッチ培養試験において、オリゴ糖添加前の糞便懸濁液におけL.brevisの占有率に対する、各種オリゴ糖を添加し、24時間インキュベートした後の糞便懸濁液におけるL.brevisの占有率の相対的変化から、増殖促進活性を評価した。培養前の総菌数に対するL.brevisの占有率を100としたときの培養後の相対的占有率を表3に示す。オリゴ糖を添加しないものは、24時間培養後にL.brevisは検出されなかった。グルコース添加試験区では、培養前と比較して占有率が減少していた。オリゴ糖添加試験区ではいずれも占有率は増加する傾向が見られたが、実施例4の広葉樹パルプスラリーから調製したキシロオリゴ糖及び実施例5のキシロオリゴ糖が他のオリゴ糖よりも占有率の増加は大きかった。また、実施例5と比べて平均キシロース鎖長が長く、キシロビオース含有量が低い実施例4の方が、より占有率を増加させた。
以上の結果から、キシロオリゴ糖は糞便懸濁液中でもL.brevisを増殖させる事が出来、その活性はキシロビオースの含有量が比較的少なく、平均キシロース鎖長が長い広葉樹パルプスラリーから調製したキシロオリゴ糖の方が優れていることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のキシロオリゴ糖を植物性乳酸菌増殖促進剤として用いることで、経口摂取した植物性乳酸菌を消化管内で増殖させる事が出来る他、植物性乳酸菌を用いる発酵食品においては、発酵を促進させ、生産速度を向上させる事などが可能となる。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均キシロース鎖長が3.5以上であるキシロオリゴ糖を有効成分とすることを特徴とする植物性乳酸菌増殖促進用組成物。
【請求項2】
キシロビオースの含有量が20質量%未満であることを特徴とする請求項1に記載の植物性乳酸菌増殖促進用組成物。
【請求項3】
植物性乳酸菌が、Lactobacillus brevisであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の植物性乳酸菌増殖促進用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の植物性乳酸菌増殖促進用組成物と植物性乳酸菌を含有することを特徴とする経口摂取用組成物。

【公開番号】特開2010−124720(P2010−124720A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300789(P2008−300789)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】