説明

植物成長抑制資材

【課題】ヒノキ科の葉から抽出される植物成長抑制物質を主たる構成成分とする植物成長抑制資材を提供することを目的とする。
【解決手段】ヒノキ科の葉からヘキサンなどにより抽出される抽出物をシリカゲルクロマトグラフィーに付しヘキサンおよび酢酸エチル混合溶媒にて溶出することにより、植物成長抑制作用が極めて強い植物成長抑制物質を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物成長抑制資材およびそれを用いた植物成長抑制方法に関する。更に詳細には、ヒノキ科の葉から中性の条件下で低極性有機溶媒により抽出し、次いで、得られる抽出物をシリカゲルクロマトグラフィーに付し低極性有機溶媒で溶出して精製することにより得ることができる水難溶性の植物成長抑制物質を主たる構成成分とする植物成長抑制資材、および該植物成長抑制資材を、植物が成育する土壌表面に散布および/または土壌に混合することにより、あるいは植物が成育する水中に浸漬することにより、植物の成長を抑制する植物成長抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業、林業、緑化、空き地、宅地および庭園において雑草の発芽や繁茂を抑制する場合、除草剤および人力による排除が行われている。近年、除草剤の残留問題を解決するため、天然素材による雑草発芽抑制技術の開発が行われており、ヒノキの樹皮や枝葉を利用した雑草発芽抑制技術についても、特許文献1、特許文献2、非特許文献1および非特許文献2によりその効果が報告されている。また、特許文献3には、コウヤマ、ナギ、スギ、ヒノキなどの植物の葉または抽出物を植物に対する生理活性抑制剤として用いることも報告されている。
【0003】
現在、雑草抑制用として使用されている除草剤の大部分は化学製品であるため、生態系および人体への影響が問題となっており、その使用低減が望まれている。また、工場および住宅予定地(空き地)や法面では雑草管理に多大な費用と労力が必要となり、その改善方法の開発が望まれている。また、木材を採集した後に残る枝葉は廃棄物として処理され、林地に廃棄されるかあるいは焼却処分されており、有効な利用方法は未だ開発されていない状況にある。反面、ヒノキ等の枝葉には抗菌性や耐虫性といった有用な天然物質が多く含まれており、その有効利用が望まれている。これまでに、それらの有用成分を工業的に抽出し、添加物として利用する試みがなされてきたが、抽出という煩雑な行程を経るため製品の高価格化を招き、普及の妨げとなってきた。枝葉と同様に廃棄物として扱われてきた樹皮については様々な研究・開発がなされ、堆肥や雑草・病害虫抑制資材として使用されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1、特許文献2および非特許文献1に記載されているように、ヒノキの樹皮を雑草抑制資材として用いた場合、敷設厚さを5cm以上取らないと雑草抑制効果が認められず、資材本来の抑制効果なのか、単なる光の遮断による抑制効果なのかが明確ではなく、従ってヒノキ樹皮を含む資材を用いた場合、雑草抑制効果は低いと言える。また、非特許文献1において、ヒノキ枝葉の雑草抑制効果が報告されているが、葉の粉砕材に効果があるという記載に止まっており、具体的な加工方法や使用方法は言及されておらず、更には葉だけでは効果が無かったことが記載されている。また、非特許文献2において、ヒノキ葉からメタノールにより抽出された物質に植物の発芽抑制効果があることが記載されており、メタノール抽出物質であったことから難水溶性物質が主成分であるという推測がなされているが、メタノール抽出物質の中にも水溶性物質が含まれている可能性があることから、発芽抑制効果の主物質を同定するには至っていない。また、特許文献3には、ヒノキ葉から酢酸エチルなどにより抽出される脂溶性の植物成長抑制資材が記載されているが、その成長抑制効果は未だ十分に満足できるものではない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−31969号公報
【特許文献2】特開平5−15253号公報
【特許文献3】特開2005−239676号公報
【非特許文献1】埼玉県林業試験場業務成果報告No.41及びNo.42
【非特許文献2】ランドスケープ研究62(5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、生態系に優しい天然材料であり、且つ未利用材であるヒノキ葉を有効利用した植物成長抑制資材であって、その成長抑制効果が強力な新たな資材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記した課題を解決することを目的として鋭意研究した結果、ヒノキ科の葉から中性の条件下で低極性有機溶媒により抽出し、次いで、得られる抽出物をシリカゲルクロマトグラフィーに付し低極性有機溶媒で溶出して精製することにより得ることができる水難溶性の植物成長抑制物質が植物の成長を強力に抑制することを見出し本発明を完成させた。
即ち、本発明は、ヒノキ科の葉から中性の条件下で低極性有機溶媒により抽出し、次いで、得られる抽出物をシリカゲルクロマトグラフィーに付し低極性有機溶媒で溶出して精製することにより得ることができる水難溶性の植物成長抑制物質を主たる構成成分とする植物成長抑制資材に関する。
更に、本発明は、上記の植物成長抑制資材を、植物が成育している土壌表面に散布および/または土壌に混合することにより、あるいは植物が成育している水中に浸漬することにより、植物の成長を抑制することを特徴とする植物成長抑制方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヒノキ科の葉から中性の条件下で低極性有機溶媒により抽出し、次いで、得られる抽出物をシリカゲルクロマトグラフィーに付し低極性有機溶媒で溶出して精製することにより得ることができる水難溶性の植物成長抑制物質は、その植物成長抑制効果が非常に高い。特に、本発明の植物成長抑制物質はマメ科植物およびキク科植物の発芽を強く抑制し、また、幼根長や胚軸長の成長を強く抑制する。更には、本発明の植物成長抑制物質は、他方、植物の側根発生促進作用を有しており、側根発生促進作用を有することにより植物の根のルーピング現象防止効果を発揮することができる。従って、植物成長抑制資材を、育苗容器内に適用して、雑草の成長を抑制し、他方、植物の側根発生を促進し、根のルーピング現象防止に使用することができる。
本発明の資材を用いることにより、これまで用いられてきた除草剤の使用量の低減化が図れ、人体および環境への影響が少ない植物の成長を抑制するための資材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の植物成長抑制資材の主たる構成成分は、ヒノキ科の葉から抽出される水難溶性の植物成長抑制物質である。ここでヒノキ科に属するものとしては、ヒノキ属、クロベ属、アスナロ属、ビャクシン属、コノテガシワ属などが挙げられる。更にヒノキ属に属するものとしては、ヒノキ、サワラ、チャボヒバ、クジャクヒバ、ローソンヒノキ、アラスカヒノキ、オウゴンチャボヒバ、スイリュウヒバ、ヒヨクヒバ、オウゴンヒヨクヒバ、シノブヒバ、オウゴンシノブヒバ、ムヒロなどが、クロベ属に属するものとしては、ニオイヒバ、クロベ(ネズコ)、アメリカネズコなどが、アスナロ属に属するものとしては、ヒバ(アスナロ)などが、ビャクシン属に属するものとしては、ハイネズ、イブキ、ハイビャクシャン、ミヤマビャクシャン、カイヅカイブキ、タマイブキ、ネズ、オオシマハイネズ、ミヤマネズなどが、コノテガシワ属に属するものとしては、コノテガシワ、シシンデンなどが挙げられる。本発明では、ヒノキ属及びクロベ属が好ましく、特にヒノキ属のヒノキ及びサワラ、クロベ属のニオイヒバが好ましい。
【0010】
ヒノキ科の葉から抽出される水難溶性の植物成長抑制物質を得るための材料としては、ヒノキ科の苗木または成木から採取した葉が用いられる。材料として用いる葉は、採取直後の葉でも、あるいは長期間、例えば数十年間保存していたものでよいが、裁断または粉砕したものについては、直ちに使用することが好ましい。葉の採取時期は特に限定する必要はなく、春、夏、秋、冬のいずれの時期でもよい。採取する葉齢も特に限定されず、若葉、古葉のいずれでもよい。
植物成長抑制物質を得るための材料としては、ヒノキ科の葉粉末が好ましく、葉粉末を得るには、採取した葉を粉砕機、製粉機または食繊機を用いて摩砕することにより得ることができる。葉粉末は、加熱下に乾燥機で乾燥して絶乾状態にしたものであっても、あるいは多くの水分を含んでいてもよい。またヒノキ属の葉粉末は、高温下に置いても、それから抽出される植物成長抑制物質の抑制作用が失われることがない。
【0011】
本発明の植物成長抑制資材の主たる構成成分である、ヒノキ科の葉から抽出される水難溶性の植物成長抑制物質は、ヒノキ科の葉から中性の条件下で低極性有機溶媒により抽出し、次いで、得られる抽出物をシリカゲルクロマトグラフィーに付し低極性有機溶媒で溶出して精製することにより得ることができる。具体的には、例えば、ヒノキ科の葉を加熱下に通風乾燥して絶乾状態にした後で粉末とし、この葉乾燥粉末を、70から90%のメタノール中に加えて、超音波処理などによりよく攪拌した後に、濾過してメタノール抽出液を得る。次いで、このメタノール抽出液を濃縮し、溶媒を溜去させ水を加えて水溶液とする。この水溶液を中性の範囲に、具体的には、pH6から8の範囲、好ましくはpH7に調整した後で、n−ヘキサン、酢酸エチルなどの低極性有機溶媒で抽出し、濃縮、乾固して水難溶性の抽出物を得る。
次いで、得られた抽出物を、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィーに注入し、ヘキサン、酢酸エチルなどの低極性有機溶媒にて溶出して精製する。溶出液に用いる低極性有機溶媒としては、90から95容量%のn−ヘキサンおよび10から5容量%の酢酸エチルの混合低極性有機溶媒が好ましい。カラムクロマトグラフィーによる精製は、一回でもよいが、二回から五回程度、繰り返すことにより、より高い植物成長抑制効果を有する植物成長抑制物質を得ることができる。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した後、更に必要に応じて、シリカゲル薄層クロマトクロマトグラフィーにより精製してもよい。シリカゲル薄層クロマトクロマトグラフィーに用いる展開溶媒としては、例えば、ヘキサン、酢酸エチルなどの低極性有機溶媒が好ましい。具体的には、例えば、ヘキサン:酢酸エチル=3:1の混合溶媒を用いることができる。また、0.1%程度の酢酸を加えてもよい。
【0012】
シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して得られる植物成長抑制物質をそのまま植物成長抑制資材として用いてもよく、また使用対象、使用方法などに応じて適当な他の材料などと一緒にして用いてもよい。この植物成長抑制物質は、酢酸エチル、アセトン、ヘキサン、石油エーテル、ジエチルエーテル、メタノール、エタノール、ジクロロメタンなどに可溶であり、水に難溶性を示す。また、トリメチルシリル化処理を行ってもトリメチルシリル化されず、従って水酸基を持たない物質と考えられ、GCMSのマススペクトルからテルペン類であると推測される。また、高温下に置いても変質せず且つ揮発しないものであり、低極性有機溶媒を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製できることから、極性の低い物質といえる。
【0013】
上記したヒノキ科の葉から抽出される植物成長抑制物質を主たる構成成分とする植物成長抑制資材は、植物が成育する土壌表面に散布および/または土壌に混合することにより、あるいは植物が成育する水中に浸漬することにより、植物の成長を抑制することができる。
ここで主たる構成成分であるヒノキ科の葉から抽出される植物成長抑制物質に、他の同様の作用を有する物質を混合してもよく、またヒノキ科の葉粉末と一緒に用いることもできる。また、植物成長抑制物質を、他の固形剤、例えば、酢酸ビニルなどと一緒にして用いることもできる。更には、植物成長抑制物質をペレット状に加工して用いてもよい。
植物成長抑制資材を、土壌表面に散布する場合には、該植物成長抑制物質が0.1g/m2以上、特に1.0g/m2以上となる量を散布するのが好ましく、また、土壌に混合する場合は、該植物成長抑制物質の濃度が0.05g/l以上、特に0.5g/l以上となる量を混合するのが好ましい。
本発明の植物成長抑制資材を土壌表面あるいは土壌に混合して用いる場合には、植物成長抑制物質をペレット状に加工して用いることもできる。また、植物成長抑制物質に、上記した固化剤を添加することにより得られる植物成長抑制資材は、風雨による当該資材からの植物成長抑制物質の流亡を抑制することができため、特に法面等の傾斜地で植物成長抑制資材として好適に使用することができる。
【0014】
本発明の植物成長抑制資材を水に浸漬して用いる場合には、例えば、当該資材を適当な固形剤とともに小穴の開いた袋状容器に入れた後、水の中に浸漬することにより、水田や池等の水中植物の成長を抑制することができる。水に浸漬して用いる場合の当該資材の量は、当該資材に用いる構成成分の種類、対象とする水田や池などの面積等に応じて適当に決定することができる。
本発明の植物抑制資材は、いずれの植物にも適用可能であるが、特に、白クローバー、アカツメクサ、カラスノエンドウ、ゲンゲ、クズなどのマメ科植物、レタス、マゲラタム、ブタクサ、オオアレチノギク、セイタカアワダチソウ、ハルジオン、ヒメジョオン、ヨモギ、ハハコグサ、タンポポなどのキク科植物に適している。また、ヒユ科、スベリヒユ科、アカザ科、スミレ科、ナス科、カヤツリグサ科、キョウチクトウ科、トウダイグサ科、ナデシコ科などの広葉雑草などにも適用可能である。
【0015】
本発明の植物成長抑制物質は、特に、上記した植物の発芽を抑制し、また幼根長、胚軸長などの成長を強く抑制する作用を有する。他方、本発明の植物成長抑制物質は、植物の側根、特にキク科植物の側根の発生促進作用を有しており、側根発生促進作用を有することにより植物の根のルーピング現象防止効果を発揮することができる。従って、本発明の植物成長抑制物質を含む植物成長抑制資材を、育苗容器内に適用して、雑草などの植物の成長を抑制し、他方、植物の側根発生を促進し、根のルーピング現象防止に使用することができる。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
実施例1
植物成長抑制物質の抽出、精製および性質
(1)ヒノキ葉からの抽出
愛媛県新居浜市の山林からヒノキ枝葉を採取し、材料とした。採取したヒノキ葉を60℃で通風乾燥させ絶乾状態にした後、ミルを用いて粉末状にした。この粉末300gに80%メタノール1.5Lを加え、攪拌後、超音波処理を施した。回収したメタノール抽出液を減圧濃縮し、メタノールを溜去させ水溶液を得た。この水溶液を1N塩化カリウム溶液でpH7に調整し、ヘキサンと分配し減圧濃縮・乾固しヘキサン抽出物を17.6g得た。これを以後、抽出物という。
【0017】
(2)1回目のシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製
この抽出物をシリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィーに注入し、ヘキサン−酢酸エチルで溶出し、90%ヘキサン−酢酸エチル画分を取得した。この画分を減圧濃縮・減圧乾固し、2.0gの分画物を得た。これを以後、精製物1という。
【0018】
(3)2回目のシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製
次にシリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィーに、精製物1の濃縮物2gを付し、ヘキサン−酢酸エチルで溶出し、90%ヘキサン−酢酸エチル画分を取得した。この画分を減圧濃縮・減圧乾固し971mgの分画物を得た。これを以後、精製物2という。
【0019】
(4)3回目のシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製
さらにシリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィーに、精製物2の濃縮物971mgを付し、ヘキサン−酢酸エチルで溶出し、92%ヘキサン−酢酸エチル画分を取得した。この画分を減圧濃縮・減圧乾固し139mgの分画物を得た。これを以後、精製物3という。
【0020】
(5)4回目のシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製
精製物3をシリカゲル薄層クロマトクロマトグラフィーで展開溶媒ヘキサン、酢酸エチル(3:1)に0.1%酢酸を加えた混液で分離し、Rf0.34〜0.44付近の画分を得た。この画分を減圧濃縮・減圧乾固し白色の粉末を得た。
この白色粉末を以後、精製物4という。
【0021】
(6)精製物4の性質
この精製物4は白色の粉末で、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(Silica Gel 60 F254 MERCK)上でヘキサン、酢酸エチル(3:1)に0.1%酢酸を加えた混液で展開すると、UV下でRf0.68に吸収、持つ。さらにこの画分をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(Silica Gel 60 F254 MERCK)上でヘキサン、酢酸エチル(3:1)に0.1%酢酸を加えた液で展開し、溶媒を乾燥後10%希硫酸を噴霧し加熱するとRf0.58に黒褐色のスポット及び0.66に赤褐色のスポットを持つ。
この精製物4をトリメチルシリル化しガスクロマトグラフィー(Agilent Technologies:HP−5MS 30m×0.25mm 0.25μmI.D 100℃−5℃/min−250℃ 10min)で分析すると16.71分、19.13分に特徴的なピークを持つ。
また、この精製物4を高速液体クロマトグラフィー(Waters:島津製PREP−ODS(H)分析カラム)で85%アセトニトリル−水、流速1ml/min.条件で分析すると、6.28分、7.46分に200nmで吸収を持つ特異的なピークが検出された。
この精製物4は酢酸エチル、アセトン、ヘキサン、石油エーテル、ジエチルエーテル、メタノール、エタノール、ジクロロメタンに可溶であり、水に難溶性を示した。
この精製物4はヘキサン画分から得られたのもであり、水に難溶を示し、トリメチルシリル化処理を行ってもトリメチルシリル化されない。またGCMSのマススペクトルからテルペン類であると推測される。
【0022】
実施例2
植物成長抑制物質の各種作用
(1)白クローバーに対する阻害活性
24穴シャーレに円形濾紙を入れ、精製物3を200μl添加し、減圧乾固した。メタノールが溜去後、蒸留水150μlを添加し湿潤し、白クローバー種子9粒を播種した。イチゴパックで蓋をし、25℃暗所で7日間培養した後、発芽率、幼根長、胚軸長を測定した。成長阻害活性は精製物3を加えない対照区に対する百分率で示した。
得られた精製物3の阻害活性を図1および図2に示した。図1および図2から分かるように、精製物3は、白クローバーの胚軸長および幼根長の成長を濃度依存的に強く抑制した。
【0023】
(2)レタスに対する阻害活性
24穴シャーレに円形濾紙を入れ、メタノールで濃度調整した精製物3を200μl添加し、減圧乾固した。メタノールが溜去後、蒸留水150μlを添加し湿潤し、レタス種子5粒を播種した。イチゴパックで蓋をし、25℃暗所で4日間培養した後、発芽率、幼根長、胚軸長を測定した。成長阻害活性は精製物3を加えない対照区に対する百分率で示した。
得られた精製物3の阻害活性を図3および図4に示した。図3および図4から分かるように、精製物3は、レタスの胚軸長および幼根長の成長を濃度依存的に強く抑制した。
【0024】
(3)阻害活性の持続性評価
6穴シャーレに2.5cm角の脱脂綿を入れ、蒸留水で湿潤し、上記(1)および(2)で供試した個体を置床した。25℃暗所で7日間培養した後、幼根長、胚軸長を測定し、上記(1)または(2)で得られた結果と比較した。その結果、クローバーでは置床した個体は腐朽し成長が認められなかった。一方、レタスでは側根が発生し、問題なく成長した。
表1に、レタス種子に対する各種濃度での精製物3のレタス種子に対する側根発生効果を示した。
【表1】

【0025】
これらの結果から、本発明の植物成長抑制物質、例えば精製物3は、育苗容器内で発生するルーピング現象を防止することができる。植物成長抑制物質は、根に対し、成長を阻止する作用を持ち、他方、側根を発生させる作用を持つ。従って、ポット栽培を行うと鉢内部で根巻き(ルーピング)現象が起こることが問題となっているが、この植物成長抑制物質を用いると直根の成長を阻害し、側根を発生させるため、これらの問題を解決することができる。
【0026】
(4)各精製物の相対的阻害活性評価
実施例1の(1)から(5)で得られた抽出物、精製物1から4について、上記(1)と同様にして、白クローバーに対する阻害活性を測定して、それらの相対的阻害活性を求めた。得られた結果は図5に示した。図5において、精製1、2、3および4は、それぞれ、精製物1、2、3および4を示す。抽出は抽出物を示す。
図5の結果から分かるように、実施例1の(1)で得られる抽出物に比べて、実施例1の(2)から(5)で得られる精製物1から4は、遥かに高い阻害活性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、実施例1の(4)で得られた精製物3の、白クローバーの胚軸長に対する成長抑制効果を示す。
【図2】図2は、実施例1の(4)で得られた精製物3の、白クローバーの幼根長に対する成長抑制効果を示す。
【図3】図3は、実施例1の(4)で得られた精製物3の、レタスの胚軸長に対する成長抑制効果を示す。
【図4】図4は、実施例1の(4)で得られた精製物3の、レタスの幼根長に対する成長抑制効果を示す。
【図5】図5は、実施例1の(1)から(5)で得られた抽出物、精製物1から4についての、白クローバーに対する相対的阻害活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒノキ科の葉から中性の条件下で低極性有機溶媒により抽出し、次いで、得られる抽出物をシリカゲルクロマトグラフィーに付し低極性有機溶媒で溶出して精製することにより得ることができる水難溶性の植物成長抑制物質を主たる構成成分とする植物成長抑制資材。
【請求項2】
植物成長抑制物質が、ヒノキ科の葉乾燥粉末から中性の条件下で低極性有機溶媒により抽出し、次いで、得られる抽出物をシリカゲルクロマトグラフィーに付しn−ヘキサンおよび酢酸エチルの混合低極性有機溶媒で溶出して精製することにより得ることができるものである、請求項1の植物成長抑制資材。
【請求項3】
混合低極性有機溶媒が、90から95容量%のn−ヘキサンおよび10から5容量%の酢酸エチルの混合低極性有機溶媒である請求項2の植物成長抑制資材。
【請求項4】
植物成長抑制物質が、側根発生促進作用を有する植物成長抑制物質である請求項1から3のいずれかの植物成長抑制資材。
【請求項5】
植物成長抑制物質が、側根発生促進作用を有することにより根のルーピング現象防止効果を発揮する植物成長抑制物質である請求項4の植物成長抑制資材。
【請求項6】
マメ科植物またはキク科植物の成長抑制に用いる請求項1から5のいずれかの植物成長抑制資材。
【請求項7】
植物の発芽を抑制し、あるいは幼根長および/または胚軸長の成長を抑制する請求項6の植物成長抑制資材。
【請求項8】
植物の側根発生を促進する請求項1から7のいずれかの植物成長抑制資材。
【請求項9】
植物の側根発生を促進して根のルーピング現象を防止する請求項8の植物成長抑制資材。
【請求項10】
植物がキク科植物である請求項8または9の植物成長抑制資材。
【請求項11】
ヒノキ科の葉が、ヒノキ属またはクロベ属の葉である請求項1から10のいずれかの植物成長抑制資材。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかの植物成長抑制資材を、植物が成育している土壌表面に散布および/または土壌に混合することにより、あるいは植物が成育している水中に浸漬することにより、植物の成長を抑制することを特徴とする植物成長抑制方法。
【請求項13】
植物成長抑制資材を、育苗容器内に適用して、植物の側根発生を促進する請求項12の植物成長抑制方法。
【請求項14】
植物の側根発生を促進して、ルーピング現象を防止する請求項13の植物成長抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−284403(P2007−284403A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116246(P2006−116246)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】