説明

植物栽培用フィルム

【課題】植物を充分に生長させることができるとともに根の貫通を抑制することのできる植物栽培用フィルム、その製造方法および当該植物栽培用フィルムを用いた植物栽培方法を提供すること。
【解決手段】ポリビニルアルコールフィルム層と防根剤を含む層とを有する植物栽培用フィルム;上記植物栽培用フィルムの製造方法であって、ポリビニルアルコールフィルム層上に、防根剤を含む層を形成するための原液をコートする工程を含む、製造方法;および、植物と上記植物栽培用フィルムとが直接接触するように植物を栽培する、植物栽培方法。前記防根剤を含む層は、好ましくはポリビニルアルコールをさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物栽培用フィルム、その製造方法および当該植物栽培用フィルムを用いた植物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の養液栽培において、養液と植物との間にフィルムを配置することにより養液の腐敗を抑制する植物栽培方法が提案されている(特許文献1参照)。当該フィルムは養分を透過することが重要であり、フィルム材料としては、ポリビニルアルコール、セロファン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、エチルセルロース、ポリエステル等の親水性材料が提案されている。しかしながら、上記の栽培方法により植物を栽培する際にこのような親水性材料を単純に用いた場合には、根による貫通部を通じて細菌等が養液に移動し養液が腐敗するなどの懸念が未だ存在していた。そのため、養分が透過しやすく、根が貫通しにくい植物栽培用フィルムが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−61503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、植物を充分に生長させることができるとともに根の貫通を抑制することのできる植物栽培用フィルム、その製造方法および当該植物栽培用フィルムを用いた植物栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリビニルアルコールフィルム層と防根剤を含む層を積層することで、植物を充分に生長させることができるとともに根の貫通を抑制することができることを見出した。本発明者らは当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1]ポリビニルアルコール(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略称する場合がある)フィルム層と防根剤を含む層(以下、「防根剤を含む層」を「防根剤層」と略称する場合がある)とを有する植物栽培用フィルム、
[2]前記防根剤層がPVAをさらに含む、上記[1]の植物栽培用フィルム、
[3]前記防根剤が2−(4−クロロ−2−メチルフェノキシ)脂肪酸ポリグリコールエステルである、上記[1]または[2]の植物栽培用フィルム、
[4]PVAフィルム層/防根剤層の層構成を有する2層構造の積層体であるか、または、PVAフィルム層/防根剤層/PVAフィルム層の層構成を有する3層構造の積層体である、上記[1]〜[3]のいずれか1つの植物栽培用フィルム、
[5]上記[1]〜[4]のいずれか1つの植物栽培用フィルムの製造方法であって、PVAフィルム層上に、防根剤層を形成するための原液をコートする工程を含む、製造方法、
[6]植物と上記[1]〜[4]のいずれか1つの植物栽培用フィルムとが直接接触するように植物を栽培する、植物栽培方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、植物を充分に生長させることができるとともに根の貫通を抑制することのできる植物栽培用フィルム、その製造方法および植物栽培方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の植物栽培用フィルムは、PVAフィルム層と防根剤層の少なくとも2層を有する。ここでPVAフィルム層とはPVAフィルムからなる層を意味し、PVA繊維を用いた布帛やこれにPVA以外の樹脂を含浸させたシートは包含しない。
【0009】
本発明の植物栽培用フィルムの層構成に特に制限はなく、例えば、1つのPVAフィルム層と1つの防根剤層とからなる、PVAフィルム層/防根剤層の層構成を有する2層構造の積層体;PVAフィルム層と防根剤層とが接着剤を介して積層されている、PVAフィルム層/接着剤層/防根剤層の層構成を有する3層構造の積層体;2つのPVAフィルム層と1つの防根剤層とからなる、PVAフィルム層/防根剤層/PVAフィルム層の層構成を有する3層構造の積層体;1つまたは2つ以上のPVAフィルム層と1つまたは2つ以上の防根剤層とを有する(必要に応じてさらに接着剤層を有していてもよい)3層以上の層構成を有する積層体;PVAフィルム層、防根剤層、ならびに、PVAフィルム層および防根剤層以外の他の層を有する(必要に応じてさらに接着剤層を有していてもよい)3層以上の層構成を有する積層体などが挙げられる。その中でも製造の容易さの観点からは、1つのPVAフィルム層と1つの防根剤層とからなる、PVAフィルム層/防根剤層の層構成を有する2層構造の積層体であることが好ましい。また、根の貫通をより効果的に抑制する観点からは、2つのPVAフィルム層と1つの防根剤層とからなるPVAフィルム層/防根剤層/PVAフィルム層の層構成を有する、3層構造の積層体であることが好ましい。
【0010】
本発明の植物栽培用フィルムは、PVAフィルム層を有すると共に、防根剤層を有することによって防根剤を含む構成を有しており、これにより、植物を充分に生長させることができるとともに根の貫通を抑制することのできる植物栽培用フィルムとなる。本発明の植物栽培用フィルムにおける防根剤の含有率は、防根剤の種類にもよるが、0.1〜10質量%の範囲内であることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲内であることがより好ましい。植物栽培用フィルムにおける防根剤の含有率が0.1質量%以上であることにより、根の貫通をより効果的に抑制することができる。一方、植物栽培用フィルムにおける防根剤の含有率が10質量%以下であることにより、植物の生長が低下するのをより効果的に防ぐことができる。
【0011】
PVAフィルム層を構成するPVAとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニル等のビニルエステルの1種または2種以上を重合して得られるポリビニルエステルをけん化することにより得られるものを使用することができる。上記のビニルエステルの中でも、PVAの製造の容易性、入手容易性、コスト等の点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0012】
上記のポリビニルエステルは、単量体として1種または2種以上のビニルエステルのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルのみを用いて得られたものがより好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のビニルエステルと、これと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0013】
上記のビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数2〜30のα−オレフィン;(メタ)アクリル酸またはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;不飽和スルホン酸などを挙げることができる。上記のポリビニルエステルは、前記した他の単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0014】
上記のポリビニルエステルに占める前記した他の単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステルを構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。
特に前記した他の単量体が、(メタ)アクリル酸、不飽和スルホン酸などのように、得られるPVAの水溶性を促進する可能性のある単量体である場合には、得られる植物栽培用フィルムにおいてPVAフィルム層が溶解するのを防止するために、ポリビニルエステルにおけるこれらの単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステルを構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましく、3モル%以下であることがより好ましい。
【0015】
上記のPVAは、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のグラフト共重合可能な単量体によって変性されたものであってもよい。当該グラフト共重合可能な単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体;不飽和スルホン酸またはその誘導体;炭素数2〜30のα−オレフィンなどが挙げられる。PVAにおけるグラフト共重合可能な単量体に由来する構造単位の割合は、PVAを構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましい。
【0016】
上記のPVAは、その水酸基の一部が架橋されていてもよいし架橋されていなくてもよい。また上記のPVAは、その水酸基の一部がアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド化合物などと反応してアセタール構造を形成していてもよいし、これらの化合物と反応せずアセタール構造を形成していなくてもよい。
【0017】
上記のPVAの重合度は1500〜6000の範囲内であることが好ましく、1800〜5000の範囲内であることがより好ましく、2000〜4000の範囲内であることがさらに好ましい。重合度が1500未満であると根が植物栽培用フィルムを貫通しやすくなる傾向がある。一方、重合度が6000を超えると製造コストの上昇や、植物栽培用フィルムまたはそれを構成する各層を製造する際における工程通過性の不良などにつながる傾向がある。なお、本明細書でいうPVAの重合度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0018】
上記のPVAのけん化度は、得られる植物栽培用フィルムの耐水性の点から、98.0モル%以上であることが好ましく、98.5モル%以上であることがより好ましく、99.0モル%以上であることがさらに好ましい。けん化度が98.0モル%未満であると、根が植物栽培用フィルムを貫通しやすくなる傾向がある。なお、本明細書におけるPVAのけん化度とは、PVAが有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。けん化度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0019】
PVAフィルム層には、根が得られる植物栽培用フィルムを貫通するのを抑制する点で可塑剤を含ませないことが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、PVAフィルム層となるPVAフィルムまたは最終的に得られる植物栽培用フィルムの生産性や取り扱い性を向上させるなどの目的で可塑剤を含ませてもよい。可塑剤としては、多価アルコールが好ましく用いられ、具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどを挙げることができ、PVAフィルム層はこれらの可塑剤の1種または2種以上を含むことができる。これらのうちでも、PVAフィルムまたは植物栽培用フィルムの取り扱い性が向上する点でグリセリンが好ましい。
【0020】
PVAフィルム層における可塑剤の含有量は、それに含まれるPVA100質量部に対して、0〜20質量部の範囲内であることが好ましく、0〜12質量部の範囲内であることがより好ましく、0〜8質量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0021】
後述する原液を用いてPVAフィルム層を形成する際に、当該原液中に界面活性剤を配合してもよい。界面活性剤を配合することにより、製膜性が向上し、PVAフィルム層の厚み斑の発生が抑制されると共に、金属ロールやベルトを使用してPVAフィルム層となるPVAフィルムを製造する場合にこれらの金属ロールやベルトからのPVAフィルムの剥離が容易になる。界面活性剤が配合された原液からPVAフィルム層を形成した場合には、当該PVAフィルム層中には界面活性剤が含有される。上記の界面活性剤の種類は特に限定されないが、金属ロールやベルトからの剥離性の観点から、アニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤が好ましく、ノニオン性界面活性剤がより好ましい。
【0022】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが好適である。
【0023】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが好適である。
【0024】
これらの界面活性剤は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
界面活性剤を配合する場合、原液またはPVAフィルム層におけるその含有量は、PVA100質量部に対して、0.01〜0.5質量部の範囲内であることが好ましく、0.02〜0.3質量部の範囲内であることがより好ましく、0.05〜0.1質量部の範囲内であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量がPVA100質量部に対して0.01質量部以上であることにより、製膜性および剥離性を向上させることができる。一方、界面活性剤の含有量がPVA100質量部に対して0.5質量部以下であることにより、得られるPVAフィルム層の表面に界面活性剤がブリードアウトしてブロッキングが生じるのを抑制することができる。
【0026】
PVAフィルム層は、必要に応じて、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色防止剤、油剤などの成分をさらに含有していてもよい。ただし、PVAフィルム層が植物と直接接触するように植物栽培用フィルムが使用される場合に植物をより効果的に生長させる観点から、PVAフィルム層は防根剤を含まないか、含んでいても少量(好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下)であることが好ましい。
PVAフィルム層において、PVA、可塑剤および界面活性剤の合計の占める割合としては、植物栽培用フィルムとしての性能やPVAフィルムの成形性の観点から、50〜100質量%の範囲内であることが好ましく、80〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、90〜100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0027】
防根剤層は防根剤を含む層である限りその構成に特に制限はなく、例えば、防根剤とバインダー樹脂および/または接着剤とを含む層が挙げられる。防根剤層が防根剤とバインダー樹脂および/または接着剤とを含む構成を有することにより、目的とする植物栽培用フィルムを容易に得ることができる。
【0028】
防根剤の種類に特に制限はなく、防根剤あるいは植物忌避剤として公知の化合物を使用することができ、例えば、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、2−(4−クロロ−2−メチルフェノキシ)脂肪酸ポリグリコールエステル(例えば、2−(4−クロロ−2−メチルフェノキシ)プロピオン酸ポリグリコールエステル等)等のフェノキシ系の防根剤;グリホサートイソプロピルアンモニウム(イソプロピルアンモニウム N−(ホスホノメチル)グリシナート)等のアミノ酸系の防根剤などが挙げられる。これらの中でも根の貫通をより効果的に抑制することができる点で、フェノキシ系の防根剤が好ましく、2−(4−クロロ−2−メチルフェノキシ)脂肪酸ポリグリコールエステルがより好ましく、2−(4−クロロ−2−メチルフェノキシ)プロピオン酸ポリグリコールエステルが特に好ましい。
【0029】
防根剤層における防根剤の含有率は、防根剤の種類にもよるが、1〜100質量%の範囲内であることが好ましく、5〜90質量%の範囲内であることがより好ましく、10〜80質量%の範囲内であることがさらに好ましい。防根剤層における防根剤の含有率が1質量%以上であることにより、根の貫通をより効果的に抑制することができる。
【0030】
上記のバインダー樹脂および接着剤の各種類に特に制限はないが、養分透過性に優れるとともにPVAフィルム層との接着性にも優れることから、防根剤層はバインダー樹脂としてPVAを含むことが好ましい。バインダー樹脂として使用されるPVAとしては、PVAフィルム層を構成するPVAとして上記したのと同様のPVAを使用することができる。なお、バインダー樹脂として使用されるPVAはPVAフィルム層を構成するPVAと同じPVAであっても、異なるPVAであっても、どちらでもよい。
【0031】
防根剤層がバインダー樹脂としてPVAを含む場合、防根剤層には、根が得られる植物栽培用フィルムを貫通するのを抑制する点で可塑剤を含ませないことが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、防根剤層となるフィルムまたは最終的に得られる植物栽培用フィルムの生産性や取り扱い性を向上させるなどの目的で可塑剤を含ませてもよい。防根剤層に含ませることのできる可塑剤としては、PVAフィルム層に含ませることのできる可塑剤として上記したのと同様の可塑剤を使用することができる。なお、防根剤層に含ませる可塑剤はPVAフィルム層に含ませる可塑剤と同じ可塑剤であっても、異なる可塑剤であっても、どちらでもよい。
防根剤層における可塑剤の含有量は、それに含まれるPVA100質量部に対して、0〜20質量部の範囲内であることが好ましく、0〜12質量部の範囲内であることがより好ましく、0〜8質量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0032】
また、後述する原液を用いてバインダー樹脂としてPVAを含む防根剤層を形成する際に、当該原液中に界面活性剤を配合してもよい。界面活性剤を配合することにより、製膜性が向上し、防根剤層の厚み斑の発生が抑制されると共に、金属ロールやベルトを使用して防根剤層となるフィルムを製造する場合にこれらの金属ロールやベルトからのフィルムの剥離が容易になる。界面活性剤が配合された原液から防根剤層を形成した場合には、当該防根剤層中には界面活性剤が含有される。防根剤層を形成するための原液に配合される界面活性剤としては、PVAフィルム層を形成するための原液に配合される界面活性剤として上記したのと同様の界面活性剤を使用することができる。なお、防根剤層を形成するための原液に配合する界面活性剤はPVAフィルム層を形成するための原液に配合する界面活性剤と同じ界面活性剤であっても、異なる界面活性剤であっても、どちらでもよい。
界面活性剤を配合する場合、原液または防根剤層におけるその含有量は、それらが含むPVA100質量部に対して、0.01〜0.5質量部の範囲内であることが好ましく、0.02〜0.3質量部の範囲内であることがより好ましく、0.05〜0.1質量部の範囲内であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量がPVA100質量部に対して0.01質量部以上であることにより、製膜性および剥離性を向上させることができる。一方、界面活性剤の含有量がPVA100質量部に対して0.5質量部以下であることにより、得られる防根剤層の表面に界面活性剤がブリードアウトしてブロッキングが生じるのを抑制することができる。
【0033】
防根剤層は、必要に応じて、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色防止剤、油剤などの成分をさらに含有していてもよい。防根剤層において、防根剤、PVA等のバインダー樹脂、接着剤、可塑剤および界面活性剤の合計の占める割合としては、植物栽培用フィルムとしての性能や防根剤層となるフィルムの成形性の観点から、50〜100質量%の範囲内であることが好ましく、80〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、90〜100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明の植物栽培用フィルムの厚みは、根の貫通をより効果的に抑制する点および取り扱い性の点から、10〜200μmの範囲内であることが好ましく、20〜150μmの範囲内であることがより好ましく、30〜120μmの範囲内であることが特に好ましい。なお、植物栽培用フィルムの厚みは、任意の5箇所の厚みを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0035】
本発明の植物栽培用フィルムの厚みに占める防根剤層の厚みの割合は、0.1〜90%の範囲内であることが好ましく、0.5〜50%の範囲内であることがより好ましく、1〜30%の範囲内であることが特に好ましい。上記割合が0.1%以上であることにより、根の貫通をより効果的に抑制することができる。一方、上記割合が90%以下であることにより、植物の生長が低下するのをより効果的に防ぐことができる。
【0036】
また、本発明の植物栽培用フィルムの厚みに占める、PVAフィルム層と防根剤層の厚みの合計の割合は、本発明の効果がより顕著に奏されることから、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。
【0037】
本発明の植物栽培用フィルムの形状は特に制限されず、四角形(例えば、長方形、正方形等)、円形、三角形などの形状が挙げられ、本発明の植物栽培用フィルムの使用形態などに応じて適宜設定することができるが、連続的に製造することができ、保管や輸送も容易になることから、長尺のフィルムがロール状に巻かれた形状であることが好ましい。上記長尺の植物栽培用フィルムの幅(機械流れ方向に対してフィルム面内において垂直な方向の長さ)は特に限定されないが、製造時の幅のまま植物栽培用フィルムとして使用する場合などにおいては、あまりに幅が広すぎると、植物の管理を行うことが困難になりやすいので、2m以下であることが好ましく、10cm〜1.5mの範囲内であることがより好ましい。なお、広い幅の長尺の植物栽培用フィルムであっても、必要な幅に裁断して使用することができることから、生産性の点からは広い幅(例えば、2〜4m)であることも好ましい。また、長尺の植物栽培用フィルムの長さ(機械流れ方向の長さ)も特に限定されず、例えば、5〜5000mの範囲内とすることができる。
【0038】
本発明の植物栽培用フィルムは、膨潤度が150〜210%の範囲内にあることが好ましく、153〜205%の範囲内にあることがより好ましく、155〜200%の範囲内にあることが特に好ましい。膨潤度が150%以上であることにより、養分透過性を向上させることができる。一方、膨潤度が210%以下であることにより、根の貫通をより効果的に抑制することができる。なお、本明細書における植物栽培用フィルムの膨潤度とは、植物栽培用フィルムを30℃の蒸留水中に30分間浸漬した際の質量を、浸漬後105℃で16時間乾燥した後の質量で除して得られる値の百分率を意味し、具体的には実施例において後述する方法により測定することができる。当該膨潤度は熱処理の条件を変更することによって調整することができ、通常、熱処理温度を高くしたり、熱処理時間を長くしたりすることによって膨潤度を低下させることができる。なお、熱処理など、膨潤度の調整は、植物栽培用フィルムに対して行っても、植物栽培用フィルムを製造するためのフィルム(PVAフィルム層となるPVAフィルム等)に対して行っても、どちらでもよい。
【0039】
本発明の植物栽培用フィルムを製造する方法としては、本発明で規定される構成を有する植物栽培用フィルムが得られる限り特に制限はなく、例えば、
(1)PVAフィルム層上に防根剤層を形成するための原液をコートし、必要に応じてさらに乾燥することにより植物栽培用フィルムを製造する方法;
(2)防根剤層上にPVAフィルム層を形成するための原液をコートし、必要に応じてさらに乾燥することにより植物栽培用フィルムを製造する方法;
(3)PVAフィルム層となるPVAフィルムと、防根剤層となるフィルムとをそれぞれ公知の方法等を利用して予め製膜しておき、これらを接着剤を使用したり熱融着したりするなどして貼り合わせて植物栽培用フィルムを製造する方法;
などが挙げられる。これらの方法においては、所望の層構成を有する植物栽培用フィルムを得るために、さらに他の操作を組み合わせることもでき、例えば、上記(1)の方法において、PVAフィルム層上に防根剤層を形成するための原液をコートした後に、そのコート面に別のPVAフィルム層を貼り合わせて、必要に応じてさらに乾燥すれば、PVAフィルム層/防根剤層/PVAフィルム層の層構成を少なくとも有する植物栽培用フィルムを得ることができる。また上記の各方法において、PVAフィルム層および防根剤層以外の他の層をさらに貼り合わせたり、1つまたは複数の操作を繰り返すこともできる。
上記の方法の中でも、(1)の方法が、本発明の植物栽培用フィルムを容易にかつ円滑に製造することができることから好ましい。
【0040】
上記したPVAフィルム層を形成するための原液としては、例えば、PVAおよび必要に応じてさらに可塑剤、界面活性剤、これら以外の上記した他の成分等が液体媒体中に溶解した溶液や、PVA、液体媒体および必要に応じてさらに可塑剤、界面活性剤、これら以外の上記した他の成分等が溶融した溶融物などが挙げられる。
また、上記した防根剤層を形成するための原液としては、例えば、防根剤および必要に応じてさらにPVA等のバインダー樹脂、接着剤、可塑剤、界面活性剤、これら以外の上記した他の成分等が液体媒体中に溶解した溶液や、防根剤、液体媒体および必要に応じてさらにPVA等のバインダー樹脂、接着剤、可塑剤、界面活性剤、これら以外の上記した他の成分等が溶融した溶融物などが挙げられる。
なお、上記の各原液(溶液、溶融物等)において、一部の成分が溶解または溶融せずに分散していてもよい。
【0041】
上記の各原液の調製に使用される液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。その中でも、環境に与える負荷が小さいことから水が好ましい。
【0042】
また各原液の揮発分率(植物栽培用フィルムの製造時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の、原液中における含有割合)は、各層の形成方法や形成条件などによっても異なるが、50〜95質量%の範囲内であることが好ましく、55〜90質量%の範囲内であることがより好ましい。原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、原液の粘度が高くなり過ぎず、原液調製時の濾過や脱泡が円滑に行われ、異物や欠点の少ない層を形成するのが容易になる。一方、原液の揮発分率が95質量%以下であることにより、原液の粘度が低くなりすぎず、均一に吐出または流延するのが容易になる。
【0043】
PVAフィルム層を形成するための原液を用いてPVAフィルム層となるPVAフィルムを予め製造したり、または、防根剤層を形成するための原液を用いて防根剤層となるフィルムを予め製造したりする場合において、これらのフィルムの製膜方法に特に制限はなく、例えば、湿式製膜法、ゲル製膜法、乾式によるキャスト製膜法、押出製膜法などを採用することができる。これらの製膜方法は、1種のみを採用しても2種以上を組み合わせて採用してもよい。
【0044】
上記の製膜方法の中でも、T型スリットダイ、ホッパープレート、I−ダイ、リップコーターダイ等を用いるなどしたキャスト製膜法が好ましい。キャスト製膜法の具体的な方法としては、例えば、最上流側に位置する回転する加熱したロール(あるいはベルト)の周面上に上記の原液を均一に吐出または流延し、このロール(あるいはベルト)の周面上に吐出または流延された膜の一方の面から揮発性成分を蒸発させて乾燥し、続いてその下流側に配置した1個または複数個の回転する加熱したロールの周面上でさらに乾燥するか、または熱風乾燥装置の中を通過させてさらに乾燥した後、巻き取り装置により巻き取る方法を工業的に好ましく採用することができる。加熱したロールによる乾燥と熱風乾燥装置による乾燥とは、適宜組み合わせて実施してもよい。
【0045】
上記の製膜方法によってPVAフィルム層となるPVAフィルムや防根剤層となるフィルムを製膜する際にさらに熱処理を施すことによりこれらのフィルムの膨潤度を調整することができる。熱処理方法としては、例えば、熱ロールに接触させる方法や熱風を当てる方法などが挙げられるが、均一に熱処理を行うことができることから、熱ロールに接触させる方法が好ましい。これらの熱処理方法は、1種のみを採用しても2種以上を組み合わせて採用してもよい。
【0046】
上記のようにして製造された本発明の植物栽培用フィルムは、そのまま使用してもよいし、裁断、重ね合わせ等を適宜行うことにより所望とする形状にした後に使用してもよい。
【0047】
本発明の植物栽培用フィルムの使用方法としては、本発明の植物栽培用フィルム上で植物を栽培するなど、植物と本発明の植物栽培用フィルムとが直接接触するように植物を栽培する使用方法が挙げられる。ここで、植物の生長が低下するのをより効果的に防ぐことができることから、植物の播種時や移植時など、植物と本発明の植物栽培用フィルムとを直接接触させる際(植物が生長して植物栽培用フィルムと接触する場合を含む)において、防根剤層が植物と直接接触しないように植物栽培用フィルムを使用することが好ましく、PVAフィルム層が植物と直接接触するように植物栽培用フィルムを使用することがより好ましい。
【0048】
本発明の植物栽培用フィルムの具体的な使用方法としては、例えば、必要に応じて窪みを設けた大地土壌の上に、所望の形状を有する本発明の植物栽培用フィルムを配置し、その上に植物を配置することによって大地土壌と植物とを当該植物栽培用フィルムで隔てて、これらが直接接触しないようにして植物を生育させる方法;植物の養分を含む水溶液(養液)の上に、所望の形状を有する本発明の植物栽培用フィルムを配置し、その上に植物を配置することによって、上記水溶液と植物とを当該植物栽培用フィルムで隔てて、これらが直接接触しないようにして植物を生育させる方法などが挙げられる。このようにすることにより、大地土壌中の微生物、細菌類、ウイルス類、残留農薬等によって植物が汚染されるのを抑制したり、植物の養分を含む水溶液中に植物の根を介して細菌等が浸入して水溶液が腐敗するのを抑制したりすることができる。
【実施例】
【0049】
本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお以下の製造例、実施例および比較例において採用された、フィルムの膨潤度、養分透過性および植物栽培試験の各測定または評価方法を以下に示す。
【0050】
膨潤度の測定方法
以下の製造例、実施例または比較例で得られたフィルムを約1.5gにカットし、30℃の1000gの蒸留水中に浸漬した。30分間浸漬後にフィルムを取り出し、ろ紙で表面の水を取り、質量「X」を測定した。続いてそのフィルムを105℃の乾燥機で16時間乾燥した後、質量「Y」を測定し、下記式(1)により膨潤度を算出した。
膨潤度(%) = 100 × X/Y (1)
【0051】
養分透過性の評価方法
ボウルの内側にざるを配置し、ざるの上に以下の実施例または比較例で得られたフィルムを配置した。次にボウルとフィルムの間に濃度5%のグルコース水溶液を150g加え、フィルムの上には蒸留水を150g加えることで、グルコース水溶液と蒸留水とがフィルムによって隔離されるようにした。続いて水分の蒸発を防ぐため、全体をポリ塩化ビニリデンフィルムで包んだ。これを23℃で24時間放置後、ボウル側の液(当初のグルコース水溶液)と、ざる側の液(当初の蒸留水)のそれぞれについて、グルコースの濃度を測定し、両濃度の差を算出した。両濃度の差が2.0%未満の場合を「○」(良好)と評価し、2.0%以上の場合を「×」(不良)と評価した。なお、上記評価においてグルコースの濃度はサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製デジタル屈折計「AR200」を用いて測定したBrix濃度を意味する。
【0052】
植物栽培試験
ボウルに養液(株式会社ハイポネックスジャパン製「ハイポネックス」EC=2を200倍に希釈したもの)200gを入れ、養液に片面が接触するように以下の実施例または比較例で得られたフィルムを配置した。フィルムの上に、土壌としてヤシガラチップ50gを置き、芝の種(タキイ種苗株式会社製 西洋芝「ベントグラス・ハイランド」)を蒔き、霧吹きで充分給水し、乾燥を防ぐため、全体をポリ塩化ビニリデンフィルムで包んだ。これを15〜25℃の室内におき、人工灯を用いて栽培した。なお、芝が生長しポリ塩化ビニリデンフィルムに接触してからは、ポリ塩化ビニリデンフィルムを除いた。当該試験において「生長」および「貫通」を評価項目とした。「生長」の評価項目では、蒔いた種の50%以上が発芽したものを「○」(良好)と評価し、50%未満の場合を「×」(不良)と評価した。「貫通」の評価項目では、根がフィルムを貫通した日が栽培してから150日以上の場合を「○」(良好)と評価し、150日未満の場合を「×」(不良)と評価した。
【0053】
[製造例]
PVAフィルムの製造
酢酸ビニルの単独重合体をけん化して得られたPVA(重合度2400、けん化度99.9モル%)100質量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部および水からなる揮発分率90質量%の水溶液を60℃の金属ロール上で乾燥して、厚み20μmのPVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを枠に固定して、膨潤度が160%になるように熱処理をした。このようにして得られたPVAフィルムを、以下、「PVAフィルム−1」という。
上記と同様にして、厚み30μm、膨潤度160%のPVAフィルム(以下、「PVAフィルム−2」という)、および、厚み40μm、膨潤度160%のPVAフィルム(以下、「PVAフィルム−3」という)を製造した。
【0054】
[実施例1]
上記の製造例で得られたPVAフィルム−1の片面に、酢酸ビニルの単独重合体をけん化して得られたPVA(重合度2400、けん化度99.9モル%)を4質量%含むとともに、防根剤として2−(4−クロロ−2−メチルフェノキシ)プロピオン酸ポリグリコールエステル(ランクセス株式会社製、「プリベントール B2」)が6質量%分散された水溶液をバーコーターにより塗工し、その上に別のPVAフィルム−1を配置して風乾することにより、PVAフィルム層(20μm)/防根剤層(1μm)/PVAフィルム層(20μm)の層構成を有する積層体のフィルムを得た。得られたフィルムを用いて、上記した方法により膨潤度の測定、養分透過性の評価、および植物栽培試験における各評価を行った。結果を表1に示した。
【0055】
[実施例2]
上記の製造例で得られたPVAフィルム−2の片面に、酢酸ビニルの単独重合体をけん化して得られたPVA(重合度2400、けん化度99.9モル%)を9質量%含むとともに、防根剤として2−(4−クロロ−2−メチルフェノキシ)プロピオン酸ポリグリコールエステル(ランクセス株式会社製、「プリベントール B2」)が1質量%分散された水溶液をバーコーターにより塗工し、風乾することにより、PVAフィルム層(30μm)/防根剤層(10μm)の層構成を有する積層体のフィルムを得た。得られたフィルムを用いて、上記した方法により膨潤度の測定、養分透過性の評価(PVAフィルム層を上に向けて評価した)、および植物栽培試験における各評価(PVAフィルム層を上に向けて評価した)を行った。結果を表1に示した。
【0056】
[比較例1]
上記の製造例で得られたPVAフィルム−3を単独で用いて、上記した方法により養分透過性の評価、および植物栽培試験における各評価を行った。結果を表1に示した。
【0057】
[比較例2]
酢酸ビニルの単独重合体をけん化して得られたPVA(重合度2400、けん化度99.9モル%)100質量部および界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部を含むとともに、防根剤として2−(4−クロロ−2−メチルフェノキシ)プロピオン酸ポリグリコールエステル(ランクセス株式会社製、「プリベントール B2」)が2質量部分散された揮発分率90質量%の水溶液を60℃の金属ロール上で乾燥して、厚み40μmのPVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムを枠に固定して、膨潤度が160%になるように熱処理をした。得られたフィルムを単独で用いて、上記した方法により養分透過性の評価、および植物栽培試験における各評価を行った。結果を表1に示した。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1および2では、養分透過性が優れ、蒔いた種の50%以上が発芽していて植物の生長もよく、根の貫通も抑制されていた。一方、比較例1では、養分透過性は優れるものの、根がすぐにフィルムを貫通した。また、比較例2では、養分透過性は優れるものの、植物が充分に育たなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールフィルム層と防根剤を含む層とを有する植物栽培用フィルム。
【請求項2】
前記防根剤を含む層がポリビニルアルコールをさらに含む、請求項1に記載の植物栽培用フィルム。
【請求項3】
前記防根剤が2−(4−クロロ−2−メチルフェノキシ)脂肪酸ポリグリコールエステルである、請求項1または2に記載の植物栽培用フィルム。
【請求項4】
ポリビニルアルコールフィルム層/防根剤を含む層の層構成を有する2層構造の積層体であるか、または、ポリビニルアルコールフィルム層/防根剤を含む層/ポリビニルアルコールフィルム層の層構成を有する3層構造の積層体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の植物栽培用フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の植物栽培用フィルムの製造方法であって、ポリビニルアルコールフィルム層上に、防根剤を含む層を形成するための原液をコートする工程を含む、製造方法。
【請求項6】
植物と請求項1〜4のいずれか1項に記載の植物栽培用フィルムとが直接接触するように植物を栽培する、植物栽培方法。

【公開番号】特開2012−170396(P2012−170396A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35321(P2011−35321)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】