説明

植物栽培用温室、およびその温度調整方法

【課題】温度維持が容易であり、植物の生育性を向上させることができる温室、および該温室の温度を効果的かつ簡便に調整する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも屋外面が親水処理面である植物栽培用温室であって、該温室の外に散水設備を備える植物栽培用温室。前記親水処理面が、Mg、Ca、Si、Alから選ばれる元素を含む酸化物から構成される植物栽培用温室。また、前記植物栽培用温室の屋外面に前記散水設備から水を流下し、該植物栽培用温室内の温度を調整する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物栽培用温室、および該植物栽培用温室内の温度調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用や園芸用の植物栽培用温室は、古くから、金属製または木製のフレーム構造体にガラス板がはめ込まれた、いわゆるガラス温室として普及してきた。最近では、ハウス形状に組まれた金属製のフレーム構造体の外側を透光性樹脂フィルムからなる被覆材で覆った構造のものが主流となってきている。
植物栽培用温室では、植物の栽培期間を通して温室内の温度を一定に保つことが重要であり、そのような温室用資材が種々開発されている。
【0003】
温室内の温度を維持するための温室用資材として、例えば特許文献1には、熱線遮断フィルムを貼付した温室用ガラス積層体が開示されている。また特許文献2には、二重に展張されたフィルムに挟まれた空間に散水機構を備えた冷暖房装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−139489
【特許文献2】特開2001−211757
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1で用いられる熱線遮断フィルムは、銀、銅、アルミニウム等、通常可視光部に吸収をもつ材料から構成されるため、該フィルムを貼付したガラス積層体からなる温室は、昼間の光線透過が不十分となり、冬季等弱光時の植物の生長が十分ではなかった。
特許文献2の装置を用いた場合には、確かに潜熱の利用により温室内の温度は維持できるものの、温室内部への水分供給が多くなるため、温室内の湿度が上昇し、高湿度下で発生する病害により、植物の生育が妨げられるおそれがある。
本発明は、温度維持が容易であり、植物の生育性に優れる温室、および該温室の温度を効果的かつ簡便に調整する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、少なくとも屋外面が親水処理面である植物栽培用温室であって、該温室の外に散水設備を備える植物栽培用温室である。さらに本発明は、前記植物栽培用温室の屋外面に前記散水設備から水を流下し、該植物栽培用温室内の温度を調整する方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の植物栽培用温室は、該温室内の温度を、効果的にかつ簡便に調節することが可能であり、植物の生育性に優れるものである。また、本発明の植物栽培用温室内の温度を調整する方法によれば、該温室内の温度を、効果的にかつ簡便に調節することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の植物栽培用温室は、少なくともその屋外面が親水処理面である。通常温室は、ガラスまたは熱可塑性樹脂フィルムから構成される。したがって、少なくとも一方の面が親水処理されたガラスまたは熱可塑性樹脂フィルムを、該親水処理された面が屋外面となるように用いることにより、少なくとも屋外面が親水処理面である植物栽培用温室とすることができる。
【0009】
前記熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル/メタクリル酸メチル共重合体、ポリ塩化ビニリデンなどの塩素含有樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂;フッ素含有樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリカーボネート樹脂が挙げられる。上記熱可塑性樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、上記例示の熱可塑性樹脂のうち、例えば、熱可塑性樹脂フィルムをインフレーション成形などの押出成形にて製造する場合には、特に、インフレーション成形などの押出成形に適したオレフィン系樹脂が好ましい。
フィルム厚みは、特に限定されないが、展張の容易さから30〜300μmが好適である。
【0010】
前記熱可塑性樹脂フィルムは、各種の添加剤を含有していていもよい。前記添加剤としては、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、酸化防止剤、輻射線吸収剤、流滴剤、防霧剤などが挙げられる。
【0011】
本発明で親水処理面を形成するために用いられる親水性材料は、特に限定されない。親水性材料としては、界面活性剤、親水性樹脂などの有機系成分や、金属酸化物や金属水酸化物などの無機系成分が挙げられる。これらのうち、Mg、Ca、Si、Alから選ばれる元素を含む酸化物から構成されることが好ましく、特に前記元素の酸化物または水酸化物からなることが、親水効果の持続性の観点から好ましい。
ガラスや熱可塑性樹脂フィルム等の基材表面を親水処理する方法については、特に限定されないが、上記成分を懸濁液もしくは水溶液にして基材に塗布する方法が簡便である。
基材に親水性材料の懸濁液もしくは水溶液を塗布する方法は、特に限定されるものではなく、グラビアコーティング方式、リバースコーティング方式、刷毛ロールコーティング方式、スプレーコーティング方式、キッスコーティング方式、ダイコーティング方式、ディッピング/ロール・バーコーティング方式、スプレーコーティング方式などの公知の方法で塗布することができる。
基材表面に親水性材料の懸濁液もしくは水溶液を塗布し、乾燥して形成される層の厚みは、親水効果を発揮する厚みであることが必要である。例えば親水性材料として酸化ケイ素を用いる場合、乾燥後の厚みが0.1〜1g/m2の範囲のとなるように調整することが好ましい。
【0012】
本発明の植物栽培用温室は、該温室の外に散水設備を備える。散水設備としては、公知の散水設備を用いることができる。多量の水量は必要としないため、散水部材として、スプレー、潅水チューブなどの使用が好ましい。
一般的に、温室屋根は傾斜している。そのため、温室の最も高い部分に散水設備を設置することにより、効果的に温室の屋外面全体に水を行き渡らせることができ、少ない水量で温度調整が可能となる。
【0013】
前記したような構成の植物栽培用温室の屋外面に、前記散水設備から水を流下することにより、昼間の温室内の温度上昇を抑え、一方、夜間は水の赤外線吸収能力により、温室内の温度低下を抑えることができるため、植物栽培用温室内の温度を調整することができる。このようにして温室内の温度を一定に維持することが可能な温室内で植物を生育することにより、植物の生育性を向上させることができる。
【0014】
[実施例]
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
[実施例で使用するフィルム−1の製造]
(1)熱可塑性樹脂フィルム−1の製造
A層を構成する樹脂組成物として、エチレン/ヘキセン−1共重合体A(商品名:スミカセンE FV201、メルトフローレート1.5g/10分、密度0.919g/cm3;住友化学社製)75重量%、ポリエチレン樹脂(商品名:スミカセン F208−0、メルトフローレート1.5g/10分、密度0.922g/cm3;住友化学社製)24.5重量%、光安定剤としてヒンダードアミン系化合物(商品名:チヌビンNOR371;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.4重量%および酸化防止剤(商品名:イルガノックス1010;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1重量%からなる熱可塑性樹脂組成物を用いた。B層を構成する樹脂組成物として、エチレン/ヘキセン−1共重合体B(商品名:エクセレンFX CX2001、メルトフローレート2g/10分、密度0.898g/cm3;住友化学社製)86.8重量%、界面活性剤としてジグリセリンセスキオレート(室温で液状かつ水溶性)0.7重量%、無機フィラーとしてリチウムアルミニウム複合水酸化物(商品名:フジレイン;富士化学工業社製)12重量%、光安定剤としてヒンダードアミン系化合物(商品名:チヌビンNOR371;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.4重量%および酸化防止剤(商品名:イルガノックス1010;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1重量%からなる熱可塑性樹脂組成物を用いた。C層を構成する樹脂組成物として、エチレン/ヘキセン−1共重合体C(商品名:エクセレンFX CX3005、メルトフローレート4g/10分、密度0.887g/cm3;住友化学社製)99.5重量%、光安定剤としてヒンダードアミン系化合物(商品名:チヌビンNOR371;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.4重量%および酸化防止剤(商品名:イルガノックス1010;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1重量%からなる熱可塑性樹脂組成物を用いた。これら各樹脂組成物を用い、共押出インフレーション成形法により、加工温度150℃にて、A層/B層/C層の層比が2/6/2、厚みが約90μmのフィルムを作製し、そのままC層面同士をロールで熱圧着させることでA層を両面に有する厚み180μmの熱可塑性樹脂フィルム−1を得た(3種6層の形態を有する。熱圧着したC層は2層と数える。)。
【0016】
(2)無機コロイドを主成分とする組成物の作製
水100重量部に対し、コロイダルアルミナ1.84重量部(商品名:アルミナゾル520、固形分濃度20重量%;日産化学工業社製)、コロイダルシリカ0.49重量部(商品名:スノーテックス20、固形分濃度20重量%;日産化学工業社製)、カプリル酸ナトリウム0.013重量部(試薬;東京化成社製)、p−トルエンスルホン酸ナトリウム0.002重量部(試薬;ナカライテスク社製)および無機層状化合物0.09重量部(商品名:スメクトンSA;クニミネ工業社製)を配合し、組成物とした。
【0017】
(3)コロイダルシリカの調整
コロイダルシリカ水分散液(商品名:スノーテックス−ZL、平均粒子径70nm、固形分濃度40重量%;日産化学工業社製)を水で希釈し、固形分濃度が10重量%となるように調整した。
(4)親水処理面の形成
熱可塑性樹脂フィルム−1の製造と一貫した工程において、上記熱可塑性樹脂フィルム−1の両面に、コロナ処理を施した後に、前記した無機コロイドを主成分とする組成物を、マイヤーバーを用いて熱可塑性樹脂フィルムの両面に塗工し、塗膜を乾燥させ、無機コロイドを主成分とする組成物からなる層を両表面に形成した。
マイヤーバーとしては、線径0.2mmφのワイヤー巻き、バー長さ4500mm、バー径16mmφのものを用いた。また、被膜の厚みは、重量厚みが0.2g/m2となるように調整した。乾燥条件は、ドライヤーの風温60℃、風速18m/秒とした。
さらに、上記工程と一貫した工程において、前記無機コロイドを主成分とする組成物からなる各層上に、コロイダルシリカの水分散液を、プレーンバーを用いて塗工し、塗膜を乾燥させ、コロイダルシリカを含む液を塗布して形成された層を両表層に有する積層フィルム−1を得た。該コロイダルシリカを含む液を塗布して形成された層が、親水処理面である。
プレーンバーとしては、表面粗さ(最大径と最小径の差)6μm以下、バー長さ4500mm、バー径16mmφのものを用いた。また、コロイダルシリカを含む液を塗布して形成された層の厚みは、重量厚みが、0.2g/m2となるように調整した。乾燥条件は、ドライヤーの風温60℃、風速18m/秒とした。
【0018】
[比較例に使用するフィルム−2の製造]
(5)熱可塑性樹脂フィルム−2の製造
A層を構成する樹脂組成物として、エチレン/ヘキセン−1共重合体A(商品名:スミカセンE FV201、メルトフローレート1.5g/10分、密度0.919g/cm3;住友化学社製)75重量%、ポリエチレン樹脂(商品名:スミカセン F208−0、メルトフローレート1.5g/10分、密度0.922g/cm3;住友化学社製)24.5重量%、光安定剤としてヒンダードアミン系化合物(商品名:チヌビンNOR371;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.4重量%および酸化防止剤(商品名:イルガノックス1010;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1重量%からなる熱可塑性樹脂組成物を用いた。B層を構成する樹脂組成物として、エチレン/ヘキセン−1共重合体B(商品名:エクセレンFX CX2001、メルトフローレート2g/10分、密度0.898g/cm3;住友化学社製)82.8重量%、界面活性剤としてジグリセリンセスキオレート(室温で液状かつ水溶性)0.7重量%、無機フィラーとしてリチウムアルミニウム複合水酸化物(商品名:フジレイン;富士化学工業社製)16重量%、光安定剤としてヒンダードアミン系化合物(商品名:チヌビンNOR371;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.4重量%および酸化防止剤(商品名:イルガノックス1010;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1重量%からなる熱可塑性樹脂組成物を用いた。C層を構成する樹脂組成物として、ポリエチレン樹脂(商品名:スミカセン F208−0、メルトフローレート1.5g/10分、密度0.922g/cm3;住友化学社製)99.5重量%、光安定剤としてヒンダードアミン系化合物(商品名:チヌビンNOR371;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.4重量%および酸化防止剤(商品名:イルガノックス1010;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.1重量%からなる熱可塑性樹脂組成物を用いた。これら各樹脂組成物を用い、共押出インフレーション成形法により、加工温度150℃にて、A層/B層/C層の層比が2/6/2、厚みが130μmのフィルムを作製した。
(6)親水処理面の形成
熱可塑性樹脂フィルム−2の製造と一貫した工程において、上記熱可塑性樹脂フィルムの片面にコロナ処理を施した後、熱可塑性樹脂フィルム−1と同様にして、前記無機コロイドを主成分とする組成物をマイヤーバーを用いて塗工し、塗膜を乾燥させ、無機コロイドを主成分とする組成物からなる層を形成した。
さらに、上記工程と一貫した工程において、無機コロイドを主成分とする組成物からなる層上に、コロイダルシリカの水分散液を、熱可塑性樹脂フィルム−1と同様にしてプレーンバーを用いて塗工し、塗膜を乾燥させ、コロイダルシリカを含む液を塗布して形成された層を一方の表層に有する積層フィルム−2を得た。該コロイダルシリカを含む液を塗布して形成された層が、親水処理面である。
【0019】
(7)展張
2005年12月〜2006年3月までの間、千葉県市原市内の農場において、幅1.2m、高さ1m、長さ11mの東西方向のトンネル状のハウスを設置した。なお、積層フィルム−1、積層フィルム−2を展張したハウスを、それぞれ2棟ずつ設置した。以下、積層フィルム−1を展張したハウスをハウスA、ハウスB、積層フィルム−2を展張したハウスをハウスC、ハウスDと称する。ハウスC、ハウスDでは、積層フィルム−2の親水処理面がトンネルの内側となるように展張した。
【0020】
テスト(1)(昼間の遮熱効果)
晴天日であった1/28、1/29、2/4、2/5の午前10時から午後2時までトンネル状ハウス上部50cmの高さからスプレーヤーで散水を行い、前記ハウスの屋外面に水を流下した。散水間隔は10分おきとし、散水量は1平米あたり100ccに設定した。1/28、2/4にはハウスAおよびハウスCのみに散水を行ない、1/29、2/5にはハウスBおよびハウスDのみに散水を行なった。全てのハウスの内部の温度を、デジタル式温度計を用いて午前12時に測定した。散水した4日間の平均散水水温は7.4℃であり、平均外気温は5.6℃であった。
【0021】
テスト(2)(夜間の保温効果)
テスト(1)と同日の午前4時から午前6時まで、テスト(1)と同様にしてスプレーヤーで散水を行った。散水間隔は30分おきとし、散水量は1平米あたり100ccに設定した。散水区、および非散水区のハウス内部の温度をデジタル式温度計で測定を行った。
1/28、2/4にはハウスAおよびハウスCのみに散水を行ない、1/29、2/5にはハウスBおよびハウスDのみに散水を行なった。全てのハウスの内部の温度を、デジタル式温度計を用いて午前6時に測定した。散水した4日間の平均散水水温は3.2℃であり、平均外気温は−2.3℃であった。
【0022】
前記のテスト(1)および(2)を行ない、散水を実施したハウス内の温度の平均値と、散水を実施しなかったハウス内の温度の平均値を、表1および表2に示した。表1はテスト(1)の結果、すなわち午前12時のハウス内の気温であり、表2はテスト(2)の結果、すなわち午前6時のハウス内の気温である。実施例1は積層フィルム−1を展張した温室の屋外面に水を流下した場合のハウス内温度の平均値(すなわち1/28、2/4のハウスA、1/29、2/5のハウスBの温度の平均値)であり、参考例1は、積層フィルム−1を展張した温室に水を流下しなかった場合のハウス内温度の平均値(すなわち1/28、2/4のハウスB、1/29、2/5のハウスAの温度の平均値)である。比較例1は積層フィルム−2を展張した温室の屋外面に水を流下した場合のハウス内温度の平均値(すなわち1/28、2/4のハウスC、1/29、2/5のハウスDの温度の平均値)であり、参考例2は、積層フィルム−2を展張した温室に水を流下しなかった場合のハウス内温度の平均値(すなわち1/28、2/4のハウスD、1/29、2/5のハウスCの温度の平均値)である。
積層フィルム−1を展張した温室の屋外面に水を流下した場合は、昼間の遮熱効果および夜間の保温効果に優れていた。このような温室内で植物を栽培すると、植物の生育性が向上する。
【0023】
【表1】

散水水温7.4℃、外気温5.6℃
【0024】
【表2】

散水水温3.2℃、外気温−2.3℃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも屋外面が親水処理面である植物栽培用温室であって、該温室の外に散水設備を備える植物栽培用温室。
【請求項2】
前記親水処理面が、Mg、Ca、Si、Alから選ばれる元素を含む酸化物から構成される請求項1に記載の植物栽培用温室。
【請求項3】
請求項1または2に記載の植物栽培用温室の屋外面に前記散水設備から水を流下し、該植物栽培用温室内の温度を調整する方法。