説明

植物栽培装置と方法

【課題】設備投資を抑え、かつ植物の生育と果実の着色を助ける局所冷却が可能な植物栽培装置と方法を提供すること。
【解決手段】加圧空気を配管9からボルテックスチューブ10に導入し、該チューブ10で得られた温風と冷風がそれぞれ流れる配管17,18から供給される温風と冷風の混合比率を調整して三方弁19で混合し、得られた温度と湿度が調節された空気を配管11の先端から果実の袋6内に空気を放散して植物の局所を加熱又は冷却する植物の栽培装置であり、熱交換などを用いない簡単な装置で必要な箇所に必要な温湿調空気を、低コストで植物の局所に供給でき、ブドウ果実などの着色を始め、植物の生育を促進し、病害を防ぐことができ、栽培に適地とされていた地方での高品質化に加えて、より温暖な地域での高品質栽培が可能となるだけでなく、冬季栽培作物では栽培時期の夏季への拡張ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種植物の一部の周囲環境を制御して栽培する植物栽培装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブドウなどの食用の果実の着色の程度は、ブドウの品質を示す指標となることはよく知られている。例えば、赤色系ブドウなどの果実の着色には果実を低温雰囲気に置くことが必要であり、品質の良いブドウ等を栽培するには温度環境が栽培に適した地方で行うか、図10に示すように、ブドウ園の温室28内のブドウの木全体を冷却する事である。しかし、前者の栽培方法では栽培地が一部の地域に限定されるという問題があり、また後者の栽培方法は経済的でないために実用化されていない。非特許文献1にはブドウの着色に関わる要因とその制御機構及び着色向上技術に関する研究の現状などについて論じられている。
また、高温多湿の環境下では果実の湿りによる有害菌の発生があり、ブドウなどの植物は乾燥雰囲気に置くことが有効な病害虫対策であった。
【0003】
ところが、非特許文献2に述べられているように、地球環境の温暖化は平均気温の上昇を招き、今までブドウの栽培適地とされてきた地方が近未来に不適地となる可能性が出てきた結果、従来のブドウ栽培地でのブドウの収穫を断念し、新たな栽培地でブドウ栽培を行う必要性などが検討されている。しかし、作地転換は莫大な資金と月日を必要とする事になり、現在の栽培地で高品質の果実が得られる技術の開発が望まれていた。
また、イチゴや一部の花等の冬季作物は冬場のみの収穫に限定させるために四季を通しての安定した収益が望めず、通年栽培ができる技術の開発が課題であった。
【0004】
さらに、温室内で行われるイチゴや花等の栽培では夏季の収穫量を上げるためには、苗周りの雰囲気温度を下げる必要があったが、植物栽培用の温室全体を冷却する事は経済的でなく、苗の部分のみを冷気雰囲気に置く冷却方法も行われている。たとえば、メロンの恒温栽培では動力を用いて地下水を汲み上げて空気と熱交換する方式が考案されている(例えば、非特許文献3参照)。しかしこの方法は低温の地下水が得られない所では採用できず、有効な地下水がある場合でも汲み上げた地下水と空気との熱交換が必要であり、一般的に地下水の温度と栽培する植物の果実などが必要とする生育温度との温度差が小さく、熱交換が簡単ではない。
【0005】
また、地下水と空気との熱交換方式では、熱交換を一箇所で行い、熱交換した空気を各果実部等へ送る場合には送風機などの機器が必要であり、さらに個々の果実部で地下水と空気との熱交換を行う場合には、それぞれの果実部で温度の管理をする必要があるが、コスト的に実用性がなかった。
【非特許文献1】「ブドウの着色機構とその制御」、園芸学会誌 第73巻 別冊2、園芸学会発行、2004年9月25日発行
【非特許文献2】杉浦俊彦「温暖化が果樹生産環境に及ぼす影響」、平成13年7月10日 日本学術会議農学研究連絡委員会シンポジウム、〔平成16年12月25日検索〕、インターネット<URL http://ss.fruit.affrc.go.jp/announcements/ronbun/ondanka.html
【非特許文献3】米沢電気工事グループ「メロン栽培で新手法」米沢電気工事株式会社WELCOME OUR SITE、〔平成16年12月25日検索〕、インターネット<URL http://www.yonezawa.co.jp/melon/
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高温多湿という日本の栽培気象環境下で高温や湿気に弱い植物、または高温では着色しない果実を栽培するには低温・乾燥雰囲気を作り出さなければならないが、このような栽培条件を設定することは経済性の上で大きな障害であった。
【0007】
また、前記低温・乾燥雰囲気を作る技術として、例えば、夏季の強い太陽光線の下で植物と周囲空気と付属設備全体を冷却する方法はコストがかさむため経済的に現実的でなく、また果実だけを包装して湿気や虫による病害虫を防ぐ方策もあるが、この方法では果実を冷却することができず、逆に昇温することにもなり果実が着色しないという問題が有る。
【0008】
このように各種植物の局所冷却栽培技術に関して経済性を維持しながら、冷風を発生し、必要な箇所のみに冷風を供給する事が大きな技術的課題であり、低コストで前記低温・乾燥雰囲気を作る技術を確立することが、地球温暖化が進んでいることに対処するため及び大事業となる作地転換を回避するために強く望まれている。
【0009】
本発明の課題は、設備投資を抑え、かつ植物の生育と果実の着色を助ける局所冷却が可能な植物栽培装置と方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を次の解決手段で解決する。
請求項1記載の発明は、加圧空気源から凝縮水を除去された加圧空気を供給する加圧空気配管(9)と、該加圧空気配管(9)に接続したボルテックスチューブ(10)と、該ボルテックスチューブ(10)に接続し、かつボルテックスチューブ(10)で得られた温風と冷風がそれぞれ流れる温風配管(18)と冷風配管(17)と、前記両方の配管(17,18)から供給される温風と冷風の混合比率を調整して混合する温風と冷風の混合量調節手段(19)と、温風と冷風の混合により温度が調節された空気を植物の局所に導く空気配管(11)と、該空気配管(11)の先端に植物の前記局所を加熱又は冷却する空気放散手段(30)を備えた植物の栽培装置である。
【0011】
請求項2記載の発明は、加圧空気を供給する加圧空気配管(9)と、該加圧空気配管(9)に接続し、加圧空気を冷却された冷媒と熱交換させて除湿するための冷媒循環式エアードライヤー(37)と、該エアードライヤー(37)で湿度調整された高圧空気の温度を所定の温度に再加熱するヒーター(38)と、該ヒーター(38)で再加熱された空気を減圧する減圧弁(39)と、減圧され、温度と湿度が調節された空気を植物の局所に導く空気配管(11)と、該空気配管(11)の先端に植物の前記局所を加熱又は冷却する空気放散手段を備えた植物の栽培装置である。
【0012】
請求項3記載の発明は、前記温度調節された空気を植物の局所に導く前記空気配管(11)には空気の湿度を調整する加湿手段(24)を設けた請求項1又は2記載の植物の栽培装置である。
【0013】
請求項4記載の発明は、前記温度調節された空気を植物の局所に導く前記空気配管(11)には植物成長用補助ガス又は防病害補助ガスを含む補助ガスを供給する補助ガス供給手段(23)を設けた請求項1叉は2記載の植物栽培装置である。
【0014】
請求項5記載の発明は、加圧空気源から除水された加圧空気をボルテックスチューブ(10)に供給して温風と冷風を発生させ、得られた温風と冷風の混合比率を調整して合流させ、得られた温度及び湿度を調節された空気を植物の局所又はその近傍のみに放散する植物の栽培方法である。
【0015】
請求項6記載の発明は、加圧空気を冷媒循環式エアードライヤー(37)とヒーター(81)と減圧弁(39)を順次通して空気の温度と湿度を調節し、得られた温度及び湿度が調節された空気を植物の局所又はその近傍のみに放散する植物の栽培方法である。
【0016】
請求項7記載の発明は、植物成長用補助ガス叉は防病害補助ガスを含む補助ガス及び/又は補給水を前記温度及び湿度を調節された空気に加える請求項5又は6記載の植物栽培方法。
【0017】
なお、前記植物の前記局所と前記空気放散手段(30)の全体を覆う袋状部、又は上一部分だけを覆うカバーを設けた構成とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
請求項1又は5記載の発明によれば、ボルテックスチューブ(10)で得られた温風と冷風から温度及び湿度を調節された空気を得て、この空気をボルテックスチューブ(10)の背圧を利用してブドウ果実などの植物の局所に放散させる方法により、前記局所の雰囲気を一定範囲の温度、湿度に保つことによって、電力というユーテリティーのみと熱交換などを用いない簡単な装置で必要な箇所に必要な温湿調空気を、低コストで供給でき、ブドウ果実などの着色をはじめ、植物の生育を促進し、病害を防ぐことができる。
【0019】
また、請求項1又は4記載の発明によりイチゴなどの冬季栽培作物では栽培時期の夏季への拡張ができる。これらの栽培に適地とされていた地方での高品質化に加えて、より温暖な地域での高品質栽培が可能となり、既存生産地の代替植物切り替え及び新しい適地への作地転換することなく、地球温暖化に対応した植物の栽培ができる。
【0020】
請求項2又は6記載の発明によれば、冷媒循環式エアードライヤー(37)とヒーター(38)と減圧弁(39)を用いて、冷媒循環式エアードライヤー(37)により高圧下で効率的に空気の除湿を行うことで、ドライヤー(37)内で用いる熱交換器の能力が小さくても良く、また除湿後の空気はヒータ(38)で温度調整が容易に行え、減圧弁(39)で大気圧に戻して温度と湿度を調整した空気を植物の生育に利用できる。
【0021】
請求項3記載の発明によれば、除湿された温風と冷風の混合により得られた空気を必要に応じて加湿した後、植物の局所に放散することができるので前記請求項1記載の湿度範囲より狭い湿度範囲に調節できるので、前記請求項1記載の発明の効果に加えて、植物の生育の促進と病害防止などの効果がさらに良くなる。
【0022】
請求項4又は7記載の発明によれば、植物成長用の補助ガス、防病害補助ガス又は有益菌含有補助ガスなどの補助ガスを植物の局所に放散することができるので前記請求項1、2又は請求項4に記載の発明の効果に加えて、植物の生育の促進と病害防止などの効果がさらに良くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施例を図面と共に説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は本発明の一実施例のブドウ栽培設備の平面図、図2は図1のブドウ栽培設備のII−II線縦断面図、図3は図2のブドウ栽培設備の果実部の構成を示す一部拡大図である。
【0025】
図1、図2及び図3に示すように、ブドウは、その幹1から主枝2、主枝2から小枝3へと伸び、各小枝3には葉4と果実房5が成育している。それぞれの果実房5は袋6にて覆われている。また主枝2と小枝3はブドウ栽培設備に設けられた針金7によって支持されている。また、袋6は果実房に固定針金8により固定されている。
【0026】
このブドウ栽培設備は、加圧空気は配管9から後述するボルテックスチューブ10に供給され、ボルテックスチューブ10で加圧空気から作られた冷風は供給配管11を経由して各幹1の近くへ導かれ、供給配管11に接続している複数の分配配管12から各袋6内に送られる。分配配管12は固定針金8により枝2,3又は針金7に固定されている構成を備えている。
このように分配配管12は各袋6内に導かれるために各袋6内を分配配管12から供給される冷却空気により果実5にとって生育に最適な所定の環境に維持できる。
【0027】
図4に本発明の一実施例に係る果実5にとって生育に最適な所定温度の空気を作るための温風制御のシステムの一例を示す。空気圧縮機13により加圧され、過飽和水蒸気分が凝縮した空気は遮断弁14を備えた配管9を通り除水器(除湿器)15に導かれ、除水器15で空気中の凝縮した水が配管16から図示されていないスチームトラップなどを用いて排水される。
【0028】
除水器15内に乾燥剤を充填した場合には、除水器15内の加圧空気は露点を−40℃以下という、ほぼ完全に乾燥空気までの除湿ができる。その場合、除水器15は除湿器となる。通常は空気の加圧により生成する空気中の凝縮水の除去でも十分な病害予防が可能である。その場合の植物へ供給される冷風の湿度を、例えば、表1に示す。
【表1】

【0029】
30℃の飽和湿度100%(絶対湿度0.02718kg/kg)の大気から20℃、50%(絶対湿度0.00735kg/kg)の空気を得る場合、大気を0.38MPaまで加圧すると空気中飽和の絶対湿度は0.00735kg/kgになるので、過飽和分の凝縮した水分0.01983kg/kgを排水する事によって20℃における50%の湿度の空気が得られる。
【0030】
大気温度が低下して25℃の飽和湿度になった時に0.38MPaに加圧した空気の凝縮水を排水して20℃の空気とした場合、表中の点線で示す様に得られた空気の湿度は37%となる。従って、それぞれの植物に応じて最適許容範囲の湿度(例えば、ブドウ粒などの果実又はイチゴなどの葉茎の成長を促し、かつ果実や葉茎が湿らない程度の水分を含む空気の湿度)を想定して大気の加圧を行えば、除水器15に乾燥剤を入れて除湿器にする必要は無い。
【0031】
除湿された加圧空気はボルテックスチューブ10により配管17を流れる冷風と配管18を流れる温風とに分けられる。ボルテックスチューブ10は、チューブ10内の接線方向に高速注入された空気がチューブ10内を高速回転する際に外縁部は加圧されて温度上昇し、中心部は減圧されて温度低下する現象を利用するもので、外縁部付近より空気を取り出すと温風が得られ、中心部より空気を取り出すと冷風が得られるという機能を有するものであり、その特性の一例を表2に示す。
【表2】

【0032】
得られた冷風と温風はそれぞれ配管17と配管18から三方弁19に導入されて混合され、所定温度の空気が配管11内に供給され、必要箇所に供給される。この温度調節は三方弁19の出口空気温度を温度計21で検出して、その結果に基づき、コントローラ(図示せず)により自動的に三方弁19の開度を変えて、冷風用の配管17と温風用の配管18の背圧を変更し、冷風側と温風側の空気の取り出し流量を変えることによって行われる。この方法は三方弁19で前記冷風と温風を混合して配管11内の空気の温度制御が行われ供給先に送る方法であり、冷風側と温風側の混合後の空気温度はボルテックスチューブ10内の断熱変化及び損失エネルギーに相当する温度降下しか得られないので、温度制御範囲は狭くなる。
【0033】
また、図5に本発明の実施例に係る他の温風制御のシステムの部分系統図を示すが、この制御方法は、加圧空気が流れる配管9からボルテックスチューブ10に供給された加圧空気をボルテックスチューブ10で冷風用の配管17と温風用の配管18とに分けた後、温風のみを配管18から三方弁19に導入し、冷風用の配管17に接続した供給先への配管11内の空気が所定温度になるように配管18内の温風の必要量のみを冷風用の配管17内の冷風と混合し、余剰の温風は配管22から排気する方法である。この方式は余剰温風を排気する事によって、図4に示す方法に比べてより広い温度範囲で制御できる。
【0034】
また、この方式は供給先に送る配管11内の空気が所定温度になるように三方弁19の出口にある配管11内の空気温度を温度計21で検出して、その結果に基づきコントローラ(図示せず)により自動的に三方弁19の開度を変えて、冷風に混合する温風の量を調節し、供給先に送る空気の温度制御を行う方式である。
【0035】
図6には、本発明の一実施例に係る温風制御のシステム系統図を示すが、これは除水器(除湿器)15で凝縮水のみを除去する方法では所定の湿度が得られない場合や、大気温度が変化しても一定湿度の空気を得たい場合に有効なシステムである。
【0036】
すなわち、空気圧縮機13により加圧され、過飽和水蒸気分が凝縮した空気は遮断弁14を備えた配管9を通って除水器15に導かれ、除水器15で空気中の凝縮した水が配管16からスチームトラップ(図示せず)などを用いて排水される。除湿器15で所定湿度よりも湿度の低い乾燥空気を得て、該乾燥空気をボルテックスチューブ10に送り、該チューブ10内で所定の温度にする。該チューブ10内で得られた冷風と温風に分けてそれぞれ各配管17,18に流す。温風用の配管18のみを三方弁19に接続して温風を三方弁19に導入し、三方弁19の出口の温風用配管18とボルテックスチューブ10で得られた冷風を流す冷風用の配管17とを接続し、さらにその下流部の冷風用の配管17には加湿器24を接続する。また、加湿器24の下流部の空気配管11には補助ガス用配管23を接続し、さらに該配管23の接続部の下流部の空気配管11には該配管11内の空気の温度を計測する温度計21を設けている。また、三方弁19の出口の余剰の温風は配管22から排気する。
【0037】
こうして三方弁19の出口の温風用配管18内の温風に配管17内の冷風を加えて加湿器24に供給する。また、加湿器24に補給水配管25からの補給水を加え、さらに、加湿器24の出口の空気配管11に補助ガス配管23からの補助ガスを加える。その後、供給先空気用配管11内の空気の温度を温度計21で検出して、その結果に基づきコントローラ(図示せず)により自動的に三方弁19の開度を変えて配管17内の冷風に混合する配管18からの温風の量を調節する。また、冷風用の配管17内の冷風と温風により温度調節された混合空気には加湿器24から補給水が供給される。加湿器24からの補給水の供給量は配管11内の空気の湿度を湿度計(図示せず)で計測して設定し、以後はその設定した補給水を供給することで、供給先空気用配管11内の空気の湿度調整も行われる。さらに温度と湿度が調整された供給先空気用配管11内の空気には補助ガス配管23から補助ガスが供給されることもある。例えばイチゴのように、植物によっては、温室内に炭酸ガスを補充する事で炭酸ガス同化作用を促進させるためである。また、殺虫ガスなどの防病害補助ガス又は貴腐ブドウ生成用菌などの有益菌含有補助ガスを加えることもある。
【0038】
このように、図6に示すシステムでは所定温度、湿度の管理に加えて、植物成長用及び/又は防病害用及び/又は有益菌含有補助ガスなど補助ガスを植物の必要箇所へ供給することも容易であり、かつ効率的な植物栽培方法となる。
【実施例2】
【0039】
夏季にイチゴの栽培環境温度が適温より高温化した場合には、葉の炭酸同化作用が低下して、高品質、多収穫のイチゴを商取引が可能な規模での生産量で栽培することは難しかった。
【0040】
夏季の高温対策としては、例えば温室全体を冷却する等の方法が取られていたが、夏季の直射日光は温室内外の対流伝熱による熱放散では放散しきれず、温室内に水を噴霧すること等により温度調節をしていたが、温室内に水を噴霧すると葉が濡れることが避けられず、そのためにイチゴの生育に悪い影響を与え、効果的かつ経済的な栽培方法が無かった。
【0041】
図7には本発明の実施例に係るイチゴ栽培設備の概要系統図を示す。これは冷風をイチゴの葉の部分に部分的に供給し、夏季の高温化対策を効果的に行ってイチゴの収量を上げるシステムである。加圧空気が流れる配管9からボルテックスチューブ10に供給された加圧空気をボルテックスチューブ10で配管17内の冷風と配管18内の温風とに一旦分けた後、再び配管17内の冷風と配管18内の温風をそれぞれ三方弁19に導入し、三方弁19で所定温度になった空気を配管11を経由してその先端の空気放散部30からイチゴの栽培用のカバー29内に供給する。
【0042】
このときカバー29内に供給する配管11内の空気が所定温度になるように、三方弁19の出口の配管11内の空気温度を温度計21で検出して、その結果に基づきコントローラ(図示せず)により自動的に三方弁19の開度を変えて、配管17内の冷風と配管18内の温風の混合比率を調節する。
【0043】
前記冷風と温風の混合後の配管11内の空気をカバー29で覆われたイチゴ26の葉の部分に集中的に空気放散部30から放散する。このようにして、たとえ夏季にイチゴが高温化した環境にあっても葉の部分は涼しい雰囲気にして炭酸同化作用を促進させてイチゴの収量を上げる装置を示す。また、図示していないが、殺虫ガスなどの防病害補助ガス又は貴腐ブドウ生成用菌などの有益菌含有補助ガス及び/または補給水を配管11内の空気に加えて集中的に空気放散部30からイチゴ26の葉の部分に放散することもある。
【0044】
本方式の場合、イチゴ栽培装置全体の温室28(図10参照)は大気開放部を拡大して、苗の周囲温度を大気温度とし、カバー29で覆われた炭酸同化作用を行う葉の部分のみに温度制御された空気(冷風)を配管11から降り注ぎ、炭酸同化作用の低下を防ぐ事ができる。
なお前記カバー29としてはイチゴなどの植物の局所と空気放散部30の全体を覆う通気性の袋6(図2参照)又は植物の局所の一部分を覆う通気性の基材を用いる。
【0045】
また、図8には図7にイチゴ栽培設備の株部の設備を変更した構成図を示すが、冷風を苗27の中心部等の一部に配管12から供給して、苗27にあたかも圃場全体が涼しい雰囲気にあるかのごとく感じさせて、炭酸同化作用の低下を防ぐ方法であり、図7に示す方法より更に少ない冷風で栽培することができる。
【実施例3】
【0046】
図9には、本発明の一実施例にかかる冷風制御の他のシステム系統図を示す。加圧空気を得る動力に加え、低温除湿空気を得る動力も必要であるが、大気温度からの冷風温度を余り下げる必要の無いときで、且つ、多量の冷風を必要とするときに有効なエアードライヤーを利用するシステムである。
【0047】
エアードライヤーユニット37内では、コンプレッサー31において加圧された加圧冷媒は、冷媒配管32でコンデンサー33に導かれて凝縮した後、冷媒配管32及びキャピラリーチューブ34を経て、断熱膨張してクーラー35に導かれ、クーラー35において加圧空気配管9aからの空気を冷却し、冷媒は加熱されて蒸気化して再びコンプレッサー31に戻る。コンデンサー33は電気モータ36で駆動するファン41で、適宜空冷される。
【0048】
一方、加圧空気配管9a内の加圧空気はクーラー35において冷媒の蒸発熱で冷却されて、温度低下して含有水蒸気を凝縮させ、除水器15において凝縮した水分をドレン配管16に逃がした後、加圧空気配管9bを通りヒーター38で加温されて減圧弁39で必要背圧に減圧される。電源からは電源ケーブル40によりファンモータ36及びヒータ38に電力が供給される。なお、加圧空気配管9aからの空気の加圧度合いが大きい程、クーラー35の伝熱面積は小さくてよい。
【0049】
前記空気の減圧の際に断熱膨張のために空気の温度が低下する。このようにクーラー35及び減圧弁39で温度が低下した空気を必要な温度にするために温度調節設備21により温度検出して、前記ヒーター38の熱出力をコントローラ(図示せず)により制御する。
【0050】
ヒーター38に必要な熱はエアードライヤーユニット37内で発生する排気熱を利用した、図示されていないリヒーターにより予め余熱して、最終的にヒーター38において温度調節しても良く、この方式が温度調節範囲は狭まるが熱効率的には有利である。
【0051】
エアードライヤーユニット37とヒータ38で加圧空気から作られた冷風は供給配管11を経由してブドウの幹1の近くへ導かれ、供給配管11に接続している複数の分配配管12から果実房5を覆う袋6内に送られ、果実5の生育に最適な環境が得られる。なお、分配配管12は固定針金(図示せず)により枝2,3又は針金7に固定されている。
また、図示していないが、殺虫ガスなどの防病害補助ガス又は貴腐ブドウ生成用菌などの有益菌含有補助ガス及び/または補給水を配管11内の空気に加えて集中的に空気放散部からイチゴの葉の部分に放散することもある。
【0052】
本実施例の冷媒循環式エアードライヤーユニット37とヒータ38を用いる温度調節された空気を利用して植物の局所に放散させる方法は前記実施例2に示すボルテックスチューブ10を用いる方法に代えてイチゴなどの植物の栽培設備に適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施例のブドウ栽培設備の平面図である。
【図2】図1のブドウ栽培設備のII−II線縦断面図である。
【図3】図2のブドウ栽培設備の果実部の構成を示す一部拡大図である。
【図4】本発明の一実施例に係る果実にとって生育に最適な所定温度の空気を作るための温風制御のシステム系統図である。
【図5】本発明の一実施例に係る温風制御のシステムの部分系統図である。
【図6】本発明の一実施例の形態に係る配管系統図である。
【図7】本発明の一実施例に係るイチゴ栽培設備の概要系統図である。
【図8】図7のイチゴ栽培設備の株部設備を変更した構成図である。
【図9】本発明の一実施例のブドウ栽培設備の平面図である。
【図10】従来の栽培装置の一例の温室横断面を示す。
【符号の説明】
【0054】
1 ブドウの幹 2 ブドウの主枝
3 ブドウの小枝 4 ブドウの葉
5 ブドウの果実房 6 袋
7 針金 8 固定針金
9 配管 10 ボルテックスチューブ
11、12、16〜18、22,23,25 配管
13 空気圧縮機 14 遮断弁
15 除水器(除湿器)
19 三方弁 21 温度計
24 加湿器 26 イチゴ
27 苗 28 温室
29 カバー 30 空気放散部
31 コンプレッサー
32 冷媒配管 33 コンデンサー
34 キャピラリーチューブ
35 クーラー 37 エアードライヤーユニット
38 ヒーター 39 減圧弁
40 電源ケーブル 41 ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧空気源から凝縮水を除去された加圧空気を供給する加圧空気配管と、該加圧空気配管に接続したボルテックスチューブと、該ボルテックスチューブに接続し、かつボルテックスチューブで得られた温風と冷風がそれぞれ流れる温風配管と冷風配管と、前記両方の配管から供給される温風と冷風の混合比率を調整して混合する温風と冷風の混合量調節手段と、温風と冷風の混合により温度が調節された空気を植物の局所に導く空気配管と、該空気配管の先端に植物の前記局所を加熱又は冷却する空気放散手段を備えたことを特徴とする植物の栽培装置。
【請求項2】
加圧空気を供給する加圧空気配管と、該加圧空気配管に接続し、加圧空気を冷却された冷媒と熱交換させて除湿するための冷媒循環式エアードライヤーと、該エアードライヤーで湿度調整された高圧空気の温度を所定の温度に再加熱するヒーターと、該ヒーターで再加熱された空気を減圧する減圧弁と、減圧され、温度と湿度が調節された空気を植物の局所に導く空気配管と、該空気配管の先端に植物の前記局所を加熱又は冷却する空気放散手段を備えたことを特徴とする植物の栽培装置。
【請求項3】
前記温度調節された空気を植物の局所に導く前記空気配管には空気の湿度を調整する加湿手段を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の植物の栽培装置。
【請求項4】
前記温度調節された空気を植物の局所に導く前記空気配管には植物成長用補助ガス又は防病害補助ガスを含む補助ガスを供給する補助ガス供給手段を設けたことを特徴とする請求項1叉は2記載の植物栽培装置。
【請求項5】
加圧空気源から除水された加圧空気をボルテックスチューブに供給して温風と冷風を発生させ、得られた温風と冷風の混合比率を調整して合流させ、得られた温度及び湿度が調節された空気を植物の局所又はその近傍のみに放散することを特徴とする植物の栽培方法。
【請求項6】
加圧空気を冷媒循環式エアードライヤーとヒーターと減圧弁を順次通して空気の温度と湿度を調節し、得られた温度及び湿度が調節された空気を植物の局所又はその近傍のみに放散することを特徴とする植物の栽培方法。
【請求項7】
植物成長用補助ガス叉は防病害補助ガスを含む補助ガス及び/又は補給水を前記温度及び湿度を調節された空気に加えることを特徴とする請求項5又は6記載の植物栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−246879(P2006−246879A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188214(P2005−188214)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(302060890)
【Fターム(参考)】