説明

植物栽培装置

【課題】植物の育成において、適切な温度管理を行なわない場合には、植物の健全な育成ができなく、また、大量のエネルギーで温度管理を行なう場合には、栽培価格が高価なものである。
【解決手段】鉢やパレットによる栽培あるいは地耕栽培において、土壌などの栽培媒体に通気することによって、現状の生産方式を活用し、簡単な装置で、少ないエネルギーで、栽培媒体を直接的に冷却することが可能で、植物の栽培を健全に促進することが可能となり、また、天候に左右されない生産管理を行なうことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花卉や野菜などの植物を育成する装置に関するものであり、さらに詳しくは、植物が成長するのに適切な温度に冷却する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
花卉や野菜を人工的に栽培する場合には、各々の植物に適した太陽光、水、空気、炭酸ガスおよび肥料などを施し、温度や湿度を適切に管理する。特に、温度の管理は、栽培用ハウスで、外気との熱遮断をするだけでなく、夏季は、クーラーで冷房し、冬季は温風を循環することなどによって暖房をすることが行われている。また、冷暖房方法として空調機の外に、ヒートポンプや地熱が利用されることがある。
【0003】
特開平10−215684は、栽培容器と、栽培容器を収納する外側容器とを組み合わせ、2つの容器の間に空間を儲け、密閉状態を維持する手段を設けた栽培ユニットが提案されている。構成は、本発明の冷却装置に似ているが、空気を通す目的は、植物に酸素と水分を与え植物に活力を与えることである。したがって、給気系のパイプは、給水水位より低い部分に設置され、かつ、気泡発生装置を配置してあり、余分の空気は外容器から排出される構造になっている。これは、空気供給によって、酸素を供給することと湿った空気を送ることによって、土に水分を与えることを目的としたもので、土を冷却することを示唆する思想は含まれていない。水中で空気を発泡させれば、空気には水分が含まれ、土中の水分を気化することによる冷却する効果は薄れる。また、外容器に排気口を設けると、土の底部と土の上面には十分な圧力差を発生することができず、土を冷却するのに十分な通気を行なうことができない。このように、本特開公報には、通気によって土を直接的に冷却するという技術思想は含まれない。特許公開2002−191243に、植木鉢と通水・給水のためのホースを漏水することなく瞬時に着脱可能とした流路切換コネクタと、二重構造とした空間に保温・冷却効果を発揮できるよう通水用ホースを通した植木鉢に、ホースにつないだバルブにより給水量を調節できるようにしたうえに、ワンタッチで着脱可能としたキャップ型防虫用鉢底ネットを鉢底に備えた植木鉢が提案されている。循環する水を送水する温度コントロール装置付ポンプを組み合わせることによって、温度・給水・施肥をはじめ、植木鉢の簡易な着脱をも含むマルチな管理を、可能にすることを特徴とする園芸システムである。特許公開2000−217449には、人工培地を水分と空気が円滑に疎通できる材質の包装シートで包装して一定形態を維持する培地セルと、該培地セルが内装され、この培地セルの培地に充分な量の空気と養液が疎通されるように通水孔が形成された通気植木鉢と、該通気植木鉢内に設置された培地セルの内部下方に設置されて、植物の根部分を冷却及び加熱させる冷却/加熱空気パイプと、水源よりも高い所に配置された培地セルに植えられた植物に養液を自動的に循環供給する養液供給台とを具備する装置が提案されている。これらの方法は、いずれも熱媒体を鉢などの容器の周囲に循環して、冷却あるいは加温をするものである。これらの方法は、ハウス全体を冷却、加温する方法と比較すると熱効率は改善されているものの本発明の方法とは異なる。水の蒸発熱を利用する方法が、「促成イチゴの高設栽培における連続出蕾性に与える定植後の培地昇温抑制と施肥時期の効果」(近中四農研報735−47(2007)に記載されている。イチゴ栽培においても温度管理が重要で、夏季に土壌の昇温を抑制するために、栽培槽を形成している不織布からしみ出す潅水の余剰水を、既設の暖房機の送風機能を利用して20cm間隔で穴を開けたビニルダクト(直径約10cm)からの風により強制的に気化させ、不織布表面の温度を低下させて間接的に培地の温度上昇を抑える仕組みが提案されている。この方法は、培地の容器(不織布)の表面で気化する熱量を冷却エネルギーとして利用するものであるが、栽培媒体に通気して、栽培媒体に含まれる水分を気化して、栽培媒体を直接的に冷却する本発明の方法とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−215684
【特許文献2】特許公開2002−191243
【特許文献3】特許公開2000−217449
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】近中四農研報735−47(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、花卉や野菜の栽培において、栽培の適正温度を上回る温度になると植物に障害が発生(枯れる)したり、休眠状態になる課題を解決したり、適切な温度に冷却するために大きなエネルギーを使用しなければならない課題を解決するものである。すなわち、適切な温度管理ができないために、適切な品質の植物が育成できない、あるいは、適切な温度管理をするために、大きな設備で、大量のエネルギーを使用し、大きな費用がかかっていた課題を解決するものである。
【0007】
例えば、シクラメン、胡蝶蘭、シンピジュ−ムの生産では、一軒の生産農家で、大量の鉢花の生産を行なっている。本発明の装置は、これらの現状の生産方式に適合し、かつ冷却のコストと作業を低減するものである。シクラメンは、底部に穴が開いたプラスチック製の植木鉢に吸水紐を付け、C鋼といわれている樋の上に設置し、吸水紐を、水を入れた樋に垂らして、底面給水して栽培する。樋に入れた水には、肥料や農薬を配合することがある。11月あるいは12月にトレーなどの容器に播種し発芽後、3月から6月に、鉢に移し、苗が成長するにしたがって、大きい鉢に順次植え替える。鉢が小さい段階では、平らな不織布の上に鉢を設置し、不織布から給水あるいは上面から灌水して栽培することがある。6月あるいは7月には、出荷する大きさの鉢に植え替え、C鋼上で底面給水栽培を行なう。C鋼上での鉢の設置は葉茎の成長に合わせて間隔を調整する。大きな鉢に移植した当初は、葉茎の茂りは少ないので、鉢は狭い間隔で設置されるが、成長にしたがってその間隔は拡げられる。したがって、鉢の間隔の変更に追随する通気部材とする必要である。シクラメンの最適温度は15〜23℃といわれている。12℃以下あるいは、25℃以上では成長をしていくことができない状態(休眠状態)になり、さらに、7℃以下あるいは33℃以上では生存していくこが難しい(枯れる)状態になる。シクラメンの栽培は、比較的に寒冷地で行なわれるが夏季には、25℃以上の条件では、休眠状態になり、成長は止まった状態で数ヶ月が過ぎる。秋になり気温が低下すると再び成長を始めるが、最適温度を下回る条件になるとハウスを温風により加温を行なう。本発明の装置により、夏季に25℃以下にすることができれば、夏季も継続して成長することができる。すなわち、従来と同じ期間でより成長が進んだシクラメンが得られる(品質向上)。シクラメンは12月中に出荷しないと価値が著しく低下する季節性の花卉であるが、本発明の装置によって、夏季の成長を促進することが可能となり、天候による納期遅延の心配がなくなる。シクラメンの生産にとって、適切な冷却を安い費用で行なうことは、シクラメンの付加価値を高め、生産期間を短縮し、出荷管理を確実に行ない、生産費用を低減することに貢献する。
【0008】
胡蝶蘭の栽培は、親苗から核を切り出し、ビーカーで苗を育て、葉が2枚に育った時点でプラスチックポットに移し、成長にしたがって、さらに大きなポットに移され育成される。葉を成長させるこの期間は、30℃の高温・多湿の条件で育成される。葉が十分に育った時点から花芽を分化させる育成を行なう。この期間は、12〜18℃で約6ヶ月育成し、開花させ、出荷製品とする。胡蝶蘭の出荷時期は、年間に渡るので、外気の温度変化に伴ってハウスの温度調節が必要である。すなわち、葉の成長段階では、30℃を越える加温を行ない、花芽の分化、開花の期間には、冬季であっても昼間はハウスの冷房が必要であり、その他の季節においても、適切な温度に管理するために特に冷房に大きな費用を必要とする。
【0009】
このように、花卉の生産栽培は、多数の鉢あるいはポットを成長段階に合わせて温度管理や水、肥料、農薬などの供給を行なう必要がある。このために、多く種類の花卉はハウス内で厳密な温度管理を行なっている。ハウスの温度管理は、加温・冷却の膨大な費用を必要とし、花卉生産の中で大きな負担になっている。
【0010】
地耕栽培においても、植物の栽培は季節を限定されなくなってきており、植物にとって、必ずしも最適な温度条件で栽培される訳ではない。例えば、11月、12月の需要最盛期に出荷されるイチゴは、夏季に苗を育成する必要があり、栽培環境は最適でないことがあり、植物、栽培媒体を冷却する必要がある場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
鉢やパレットによる栽培あるいは地耕栽培において、水分を含む土壌などの栽培媒体に、適切な量の通気を行なうことによって、栽培媒体中の水分を気化し、蒸発熱で栽培媒体を直接的に冷却することが可能である。植物の成長は、根の温度に影響されることが多く、栽培媒体の温度を適切に管理することによって、育成を促進することができる。適切な量の通気を行なうためには、鉢やトレーによる栽培の場合には、水分を含む栽培媒体に、通底部から適切な量の通気をすることによってなされ、地耕栽培の場合は、根の下の部分に、ホースやパイプなどを挿入し、通気することによって、冷却することができる。通気することによって、水分は減少するので、適切な状態に水分を補給することが必要である。
【0012】
水分が1グラム蒸発すると、538カロリーの熱が奪われる。それによって、栽培媒体は冷却される。冷却される温度は、栽培媒体の充填状態、その成分の比熱などによって異なる。植物には、各々適した栽培媒体が使用されるために、これらの栽培媒体の冷却特性に併せて、通気条件、水分の状態を選択しなければならない。また、花卉の栽培には、水分の補給方法、肥料、農薬の施す方法など、施設栽培が行なわれており、これらに適した通気方法を考案することが重要である。下表に、土の種類に対して、通気圧力(通気量)、周囲温度を変えた場合に、栽培媒体の冷却効果をみたものである。土壌の種類によって、通気圧力に対する通気量が異なる。この原因は、土の充填状態の差異、保水状態の差異によるものと考えられる。いずれの土壌についても、通気による冷却効果は、認められる。栽培する植物により、土壌の種類が選択され、適切な管理温度が異なる。植物に適した温度条件を、周囲温度の設定、通気量を設定などによって調整することができる。
【表1】

*ピートモス/バーミキュライト/パーライト(70/15/15)
** 水苔100%
***赤玉土小玉/中玉(50/50)
【0013】
例えば、シクラメンやポインセチアなどは、ハウスの中で、いわゆるC鋼栽培が行なわれている。C鋼栽培の制約条件の中で通気するには、図1において、C鋼1に固定据付が可能な通気用容器で、底部に吸水紐が通り、通気が可能な穴が開いてある容器2に、C鋼全体を覆い、該容器を挿入できる例えばポリエチレンフィルムからなるチューブ3を設置し、一端部を閉じ、他端部に給気パイプ4、給水パイプ5を接続し、該容器に気密に密着できる鉢6を挿入することによって通気が可能であり、水などの補給も、従来の方法と同様に可能である。鉢の大きさにしたがって通気量を調整することによって、冷却温度を調整することができる。
【0014】
C鋼を使用しない花卉の場合、例えば胡蝶蘭は、苗が植えられた鉢をトレーに搭載し、ハウスの作業台の上で、温度、水分などを管理して栽培する。この場合にも、図2において、鉢に気密に密着できる容器7に通気パイプ8を挿入して、該容器に鉢9を挿入することによって、適切な量の通気を行なうことができる。
【0015】
通気は、プラスチックフィルムチューブや通気容器を用いなくても実施することができる。鉢の側面の下の部分あるいは底部に穴を開けてホースを通し、該ホースを通して通気することができる。鉢の底部の穴は、開いていても、無くてもよい。底部に受け皿を設置し、水を入れ、深さを10mm以上にすると、通気圧を調整することによって、その穴から空気が逃げることはない。鉢の中の土壌に十分な水分が含まれた状態で、適切な量の通気を行なうことによって、鉢の中の土壌を冷却することができる。
【0016】
地耕栽培にも、温度管理は必要であり、土壌の冷却は植物の育成促進に有効である。地耕栽培において、適切に通気するには、通気抵抗を調整した素材を使用することが有効である。図3において、セラミック多孔質パイプ10の一端をゴム栓11で閉じ、他端にゴム栓を通してビニールパイプ12を通して、通気を行なった。地耕栽培の土壌は、もともと気温変化に対する土壌の温度変化は小さいが、それでも、通気によって、冷却効果を確認することができた。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、現状の生産方式を活用し、土壌などの栽培媒体に通気することによって、簡単な装置で、少ないエネルギーで、栽培媒体を直接的に冷却することが可能で、植物の栽培を促進することが可能となり、また、天候に左右されない生産管理を行なうことが可能となり、植物生産の費用削減、合理化につながり、農業に貢献するところは大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】C鋼栽培における冷却装置
【図2】鉢栽培における冷却装置
【図3】地耕栽培における冷却装置
【図4】ポリエチレンフィルムチューブ
【発明を実施するための形態】
【0019】
植物を育成する条件は、植物の種類、成長段階、季節などによって異なる。各々について最適な条件があるが、栽培媒体の冷却効果について記述する。
【0020】
C鋼栽培の場合、鉢をC鋼に取り付けて、底面給水により栽培する。このような状態で通気をするには、図1で、鉢1を気密に挿入できる容器2をポリエチレンなどのフィルムチューブ3で覆い、該フィルムチューブに通気することによってなされる。鉢をフィルムチューブで覆うことも可能であるが、植物の手入れなどで、鉢を取り扱う作業が煩雑となる。それで、鉢に気密に密着する容器で、底部に通気と、吸水紐を通す穴が開いている容器を、C鋼4とともにフィルムチューブにより覆い、該チューブの一端5を閉じ、他端6から、通気を行なうパイプ7および給水を行なうパイプ8を取り付ける。給水を行なうパイプは、給水しない時は閉じた状態にする。該容器は、C鋼端に鉢を固定する通常の方法で固定する。該容器に鉢を挿入する。該容器と鉢は、気密が保てるように固定するが、取り外しが可能なものとし、植物の手入れに差し支えがないように固定する。該容器とフィルムの開口部の取扱いを容易にし、気密をしっかり保つために、フィルム開口部端部を折り曲げて、その中に、通気用容器に密着するプラスチックリンクやOリングあるいは輪ゴムを挿入し、折り曲げ端をフィルムに溶着することができる。シクラメンを栽培する土壌は、通常ピートモスにバーミキュライト、パーライトなどを配合して作成する。該フィルムチューブに、加温用の温風機で、通気のみ行なう。C鋼は、長さ20メートルに、15cm間隔で、5号プラスチック鉢(直系15cm)を60個設置した。鉢は底面給水により飽和状態になるまで、給水した。ハウス内は、夏季は40℃を越えることは珍しくなく、通常は外気を取り入れたりして、温度の上昇を抑えている。ハウス温度が35℃の時、フィルムチューブから30mmHOの圧力で通気した場合、鉢の土壌温度は21℃にまで低下した。同様に15mmHOで通気した場合、24℃となった。このように、わずかな風圧によって、十分な温度低下効果が得られる。シクラメンは、夏季に25℃を越えると休眠状態になり成長が止まることが知られている。さらに、33℃を越えると障害が起こる(枯れる)可能性が生じる。夏季においても、栽培媒体を23℃以下に抑えることによって、成長が進行し、出荷時期である11月、12月には、通常の冷却をしないより栽培方法より成長が促進された製品の出荷が可能である。また、天候の条件によって、出荷時期に十分な開花が得られずに、出荷遅れの問題はなくなる。シクラメン生産においては、夏季の温度調整が製品の品質に影響を与え、また、出荷時期の調整の失敗もなく、生産管理を容易に行なうことができる。
【0021】
胡蝶蘭の栽培において、花芽を発生し、開花するためには、12〜18℃で冷房して5〜6ヶ月経過することが必要である。夏季は、ハウス内は40℃を越えることがあるが、冬季においても、30℃を越える場合もある。ハウスをこのような温度に冷房することは、冷房費用は膨大なものになる。図2において、上部直径10cm、下部直径8cm、高さ11cmの栽培用鉢9を、直径1cmの通気ホース10を挿入した、上部直径10cm、下部直径8cm、高さ10cmのプラスチック容器11に挿入した。栽培ポットに水苔を入れて、水を十分含ませた。周囲気温が30℃の時、通気圧力を10mmHOで通気すると、通気量は8リットル/分となり、水苔温度は、17℃となった。周囲温度が25℃の時に、同じ条件で通気を行なうと、水苔温度は16℃となった。胡蝶蘭の発芽分化温度は12℃〜18℃であるの、ハウス温度がそれ以上の場合は、通気圧力を調節することによって、温度調節をすることが可能である。さらに、夏の昼間など、通気のみで適温に調節できない場合は、既設の冷房機で、30℃程度に冷房して、さらに通気によって18℃以下に調節することが可能である。このように、冷房機を使わないあるいは冷房温度を高めた条件で、ハウスの温度調節をした後に、冷房エネルギーの小さい通気によって所定の温度に調節が可能となる。
【0022】
地耕栽培で植物を育成する場合において、土中に多孔質セラミックなどの通気性のパイプを埋設して、給気を行なうことができる。図3において、直径30mm、厚さ2mm、長さ20cmの多孔質セラミックパイプ12の一端をゴム栓13で閉じ、他端にゴム栓で直径10mmの通気用プラスチックホース14を挿入し、通気用プラスチックホース12を連結して、土壌の深さ10cmのところに埋設した。ゴムホースを通して、通気量が10リットル/分になるように調整した。通気は多くの給気口から均等に給気されることが好ましく、開口径が小さい多孔質セラミックスパイプを使用することが好ましい。給気した空気は、いろいろな方向に拡散し、パイプからの距離が大きくなるにしたがって、単位断面あたりの通気量は小さくなる。したがって、土壌の冷却も小さくなる。パイプの近傍の土壌を測定すると、10℃程度の温度低下が確認され、土壌が高温状態の時には、植物を育成するのに、よい効果を与えた。複数の苗を育成するには、多孔質パイプをゴムホースなどで連結することによって、広範囲の土壌を冷却することができる。
【実施例1】
【0023】
3号プラスチック鉢で育成した苗を、6月に5号プラスチック鉢に植え替えた。5号鉢が出荷できる大きさの鉢である。5号プラスチック鉢は、底部に吸水用の紐が取り付けられていて、C鋼(樋)に水を入れ、紐を水に垂らすことによって給水する(C鋼底面給水法栽培)。既に6月に時点で、ハウスの中は、30℃を越すことがあり、シクラメンの育成には適切な温度範囲を越えている。そこで、本発明の装置を取り付けた。すなわち、図4において、2枚重ねで片面20cmのポリエチレンフィルムチューブ(厚さ50ミクロン)15を、15cm間隔で、半径11.5cmの半円形16に溶着切断した。半円形の間の部分17は切断し開口した。この部分を、容器挿入部分とする。このように加工したチューブをC鋼に挿入し、一端を閉じ、他端に空気挿入ホースと給水用のホースを設置し、気密が保たれるように閉じた。容器は、プラスチック5号鉢とほぼ同じ形状で、底部に、給水紐がC鋼に通じる用に穴を明け、そこから給気を行なう通路とした。ポリエチレンフィルムチューブの開口部に該容器を挿入し、輪ゴムでフィルムを押さえ気密を保った。該容器をC鋼にプラスチック鉢と同じ方法で固定設置した。容器はC鋼の長さに応じて、複数個の容器の設置が可能である。該容器にプラスチック5号鉢を挿入する。容器と鉢の間に隙間がある場合は、気密が保てるようにOリングなどを挿入する。このようにして、ポリエチレンフィルムチューブで、鉢が気密を保って取り付けることができる。このような方法だと、鉢を植物の世話をする時に取り外し、取り付け作業を容易に行なうことができる。この状態で、給気ホースに、温風加温機のダクトを繋ぎ、暖房しない風を送った。風量を調節して、ポリエチレンフィルムチューブの内圧を20mmHOに調節して、本発明の試験体とした。比較として、通気をしない、通常の栽培方法で、C鋼に取り付け、比較試験体とした。本発明の試験体は、夏季も成長を続け、9月の時点では葉が茂り、比較試験体と見た目にも明らかな差が認められた。9月から蕾が発生し、10月には出荷が可能な状態にまで成長した。それに対して、比較試験体は、10月になって、蕾が発生し、11月に出荷が可能な状態になった。10月の時点での、葉数、葉重量、蕾と花の数は、本発明の試験体では、各々78枚、290g、48本であったのに対して、比較試験体は、同じく53枚、232g、12本であった。このように、明らかに本発明の試験体の成長は、比較試験体に比較して、早く、できあがった花、葉、茎の品質は優れるものであった。
【実施例2】
【0024】
直径10cmのプラスチックポットに水苔を栽培媒体として、葉が6枚までに成長した胡蝶蘭を試験体とした。本発明の試験体は、ポットに気密に挿入できる容器の底部に直径1cmのゴムホースを挿入し、ポットの底部の穴から通気できる構成とした。一方比較の試験体1は、同じ容器に挿入したものの通気は行なわなかった。比較試験体2は、比較試験1と同じ構成で、部屋の温度を空調により12℃〜18℃に調整できる部屋に設置した。4月に試験を開始し、室温(周囲温度)は20℃を越えることがあり、その期間は、本発明の試験体は通気を行ない水苔の温度が12℃以上、18℃以下になるように、比較試験体2は、室温が12℃以上、18℃以下になるように管理した。比較の試験体1は、室温より水苔の温度は低くなるものの、室温の上昇に伴って水苔温度は上昇し、15℃から32℃の間で変動した。本発明の試験体および比較試験体2は、7月に芽茎が成長し始め、8月に蕾および花を付けた。これに対して、比較の試験体は9月になっても、芽茎は発生しなかった。胡蝶蘭の発芽には、18℃以下の温度で栽培することが必要であることを再確認した。本発明の試験体を冷却するエアポンプは、100ボルト、15ワットであるのに対して、比較試験体2の温度管理をするための空調機は、100ボルト1.5キロワットであった。このように、通気によって、冷却する方法は、冷却する部分が水苔の部分であり、容積が小さく、直接水苔を冷却するために、冷却エネルギーが小さい。
【実施例3】
【0025】
ハウス内の土壌の地下約10cmの部分に直径30mm、長さ20cm、肉厚2mmの多孔質セラミックパイプを深さ10cmのところに、水平に埋設した。このパイプの一端はゴム栓で閉じ、他端は、穴の開いたゴム栓を設置し、直径1cmのゴムホースを挿入し、本発明の試験体とした。一方、これらの処置を行なわず、通常の地植え栽培したものを比較の試験体とした。これらの試験体を8月に植え付け、栽培状態の比較をおこなった。本発明の試験体は、8月から10月の期間、9時から17時まで、12リットル/分で通気し、土壌の冷却を行なった。ハウス内温度は、昼間は35℃を越えることがあり、冷却処置をしていない土壌は、25℃〜28℃になることがたびたびあった。イチゴは、根圏温度が18〜23℃が好適といわれている。すなわち、比較試験体は、これを越える高温にさらされることが多くあった。これに対して、本発明の試験体は、地表面から1cmないし3cmの領域で、冷却効果が認められ、23℃以下に抑制することができた。これらの結果、本発明の試験体は、順調に成長し、11月に蕾が付き、12月の初めに開花し、12月中旬から末にかけて収穫することができた。一方、比較の試験体は、苗は本発明の方法と同じように成長したが、蕾の発生時期が1週間程度遅れ、蕾の発生時期にばらつき(長期間にわたって出蕾)が起こったこと、収穫に中休みが生じ、収穫量も少なくなった。イチゴは、クリスマスや正月に大きな需要があり、この時期に集中して良品質のイチゴが収穫できることが要望され、本発明による冷却効果は、イチゴの生産性を高めることに貢献できる。
【実施例4】
【0026】
胡蝶蘭の開花栽培は、施設栽培だけでなく、趣味として家庭でも行なわれる。これまでは、冬季から春季にかけて、気温が18℃以下に下がる季節に花芽分化が試みられ、開花することが可能であった。本発明の方法によって、直径10cm、高さ10cmの鉢の側面底から2cmの位置に通気用のビニールホースを設置し、通気により鉢を冷却した。栽培用媒体として、水苔を使用し、鉢は、無釉の多孔質鉢(素焼き鉢)とした。鉢底部に通常の鉢のように穴が開いていてもいいが、穴なしの物を使用し、受け皿に、水を入れ、底面給水とした。4月に葉が6枚に育った胡蝶蘭を本発明の試験体とし、同様に、通気をしない胡蝶蘭を比較試験体とした。本発明の試験体は、室温が18℃を越える期間は通気し、18℃以下に保った。比較試験体は、鉢側面などからの水分蒸発によって、室温より、3℃〜5℃の冷却効果が認められたが、栽培期間中は、14℃〜28℃で変動した。本発明の試験体は7月から花芽の成長が認められ、8月から蕾を付け、9月には開花した。比較の試験体は、9月になっても、花芽の成長は認められなかった。このように、本発明の方法によれば、季節を限定せずに胡蝶蘭の開花が可能になり、胡蝶蘭栽培を楽しむことができる。
【符号の説明】
【0027】
1 鉢
2 気密に挿入できる容器
3 ポリエチレンなどのフィルムチューブ
4 C鋼
5 閉じたチューブの一端
6 チューブの他端
7 通気を行なうパイプ7
8 給水を行なうパイプ
9 栽培用鉢
10 通気ホース
11 プラスチック容器
12 多孔質セラミックパイプ
13 ゴム栓
14 通気用プラスチックホース
15 ポリエチレンフィルムチューブ
16 溶着切断部分
17 半円形の間の開口部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の栽培装置において、植物を栽培する土壌などの栽培媒体に通気することによって、栽培媒体を直接的に冷却することを特徴とする植物栽培装置。
【請求項2】
C鋼(給水樋)を使用した底面給水鉢による栽培方法において、プラスチックフィルムチューブによってC鋼全体を覆い、そのチューブに容器が挿入できる開口部を設け、吸水紐を通す貫通口を有する該容器をC鋼に接続し、該容器に鉢を密着して挿入し、プラスチックフィルムチューブから通気することによって、栽培媒体を直接冷却する特許請求1に記載の植物栽培装置。
【請求項3】
鉢の底部に気密を維持し密着する容器に、ゴムホースなどを挿入し、該ゴムホースなどを通して鉢の底部から鉢に通気して、栽培媒体を直接冷却する特許請求1に記載の植物栽培装置。
【請求項4】
鉢の側面あるいは底部に通気する貫通口を設け、ホースを接続し、該ホースを通して、鉢に通気して、栽培媒体を直接冷却する特許請求1に記載の植物栽培装置。
【請求項5】
地植え栽培において、地下の茎、根の部分に通気性パイプあるいはホースを設置し、該パイプあるいはホースを通して通気し、栽培媒体を直接冷却する特許請求1に記載の植物栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−220485(P2010−220485A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68246(P2009−68246)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(307019192)有限会社パールハート (5)
【Fターム(参考)】