説明

植物生成用吸水保持剤およびその使用方法

【課題】植物の生育に対して水分の吸収および放出に優れた特性を有する植物生成用吸水保持剤を提供する。
【解決手段】植物10が生育のために水分を要求する湿度領域である湿度30〜100%の範囲内において、該湿度領域よりも低い湿度のときよりも相対湿度の変化に対する放出水分量が大きく、かつ、化学的な結合によって吸着することで水分を保持する材料で植物生成用吸水保持剤を構成する。例えば、メソポーラスシリカやシリカヒドロゲルを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生育に用いることができる植物生成用吸水保持剤およびその使用方法に関するもので、特に、砂漠などのように水が供給され難い場所での植物の生育に用いると好適である。また、乾燥を嫌う植物の栽培に適するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオテクノロジーにより、例えば、自動車部品等に用いられる樹脂製品を植物から製造するということが考えられている。そして、この植物の生産を現在植物が植えられていない地域で行うことで、現存の植物伐採による自然破壊、地球の砂漠化、二酸化炭素(CO2)の増加の抑制を図りつつ、樹脂製品の植物からの製造を可能にすることが試みられている。
【0003】
しかしながら、例えば中国やモンゴルなどの砂漠に近い地域では、雨水の量が年間200mm程度と非常に少なく、雨が降るときは集中して降るが降らない時には長期間にわたって降らないため、降った雨を長期間にわたって植物に供給することができない。このため、これらの地域で降る雨は植物にとって有用な水分にはなり難い。
【0004】
また、日本の砂丘や砂地の場合には、上記地域と比べれば雨が多く降るが、雨を蓄えられるような土壌ではないため、雨が降っても直ぐに地中深くまで染み込み、植物の根元に残る水分は非常に少ないものとなる。
【0005】
このため、従来では、植物の生育に用いられる土にゼオライトを混入し、水分の保水性を良くすることが提案されている(特許文献1参照)。また、植物の根元に鹿沼土や苔を設置し、水分の給水量を高めるという方法も用いられている。さらに、植物の根元に生理用オムツなどに使用されている吸水性樹脂やシリカゲルを設置する方法もある。
【特許文献1】特開平5−176643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ゼオライトは、吸水性に優れているものの、吸着した水を放水するためには高温度(約80〜150℃)が必要になるため、植物が必要とする温度範囲では、水を供給することができない。
【0007】
また、鹿沼土や苔も、吸水性は良いが、高湿度域で水分を放出するので、植物が最も欲しがる湿度領域(例えば土の中の湿度30〜100%の領域)において、高い放出量(または、有効な水分の放出)を得ることができず、植物に有用な水分を提供することができないという問題がある。
【0008】
さらに、吸水性樹脂やシリカゲルを用いる場合、水分を非常に多く吸収するが、植物が水分を必要とする温度・湿度域では全く水分を放出しないため、吸収した水を植物に提供することができないという問題がある。
【0009】
本発明は上記点に鑑みて、植物の生育に対して水分の吸収および放出に優れた特性を有する植物生成用吸水保持剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、植物(10)が生育のために水分を要求する湿度領域である湿度30〜100%の範囲内において、該湿度領域内における相対湿度の変化に対する放出水分量が、該湿度領域の外における相対湿度の変化に対する放出水分量に比較して大きく、かつ、化学的な結合によって吸着することで水分を保持する材料で植物生成用吸水保持剤を構成することを特徴としている。
【0011】
乾燥地の植物は一般的には30〜100%の湿度領域内で湿度を欲しがる。この湿度が30%より少なくなると、枯れてしまう。保水している水分は、30〜50%の湿度範囲で、保水している全部の水分を放出する材料が好ましい。温暖な地方で生育されている植物の場合は約40〜100%で水分を吸収する。この場合は40〜60%の範囲で保水している水分を全部放出する機能を有することが好ましい。湿潤地方に生息する植物の場合は60〜100で水分を欲しがる。60〜80%の範囲で、吸収した水分を全部放出することが好ましい。
【0012】
これに対して、植物(10)が生育のために水分を要求する湿度領域である湿度30〜100%の範囲内において、該湿度領域内における相対湿度の変化に対する放出水分量が、該湿度領域の外における相対湿度の変化に対する放出水分量に比較して大きく、かつ、化学的な結合によって吸着することで水分を保持する材料は、化学的な結合により、湿度が高いときから水分を放出するのではなく、植物が水分を要求する湿度30〜100%の範囲内においてで多くの水分を放出することができる。つまり、植物の生育に対して水分の吸収および放出に優れた特性を有する材料となる。
【0013】
従って、このような植物生成用吸水保持剤を植物の育成に用いれば、砂漠地域などのように降雨量が少ない地域で植樹を行ったとしても、植物が水分を要求する湿度領域において、植物に有用な水分を供給することが可能となる。このため、植物が枯れてしまうことを防止できる。
【0014】
例えば、このような材料としては、メソポーラスシリカもしくはシリカヒドロゲルを用いることができる。具体的には、20nm以上かつ10000nm以下の細孔が無数に形成されたメソポーラスシリカもしくはシリカヒドロゲルを用いることができる。
【0015】
この場合、メソポーラスシリカもしくはシリカヒドロゲルを粉末状で使用すれば、粉末が周囲の土と一体になり、土が硬化することを防止することができ、植物の生育に好ましい土壌、つまり根が成長する空間を維持できる土壌とすることが可能となる。
【0016】
また、メソポーラスシリカもしくはシリカヒドロゲルは袋状もしくはケース状のケース部材(40)に含まれるようにすれば、植樹を行う際に、ケース部材(40)ごと行えば良いため、植樹の効率を高めることが可能となる。
【0017】
さらに、細孔内に界面活性剤(33)を残すようにすれば、植物の成長の養分として用いられるようにすることが可能となる。
【0018】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態にかかる植物生成用吸水保持剤を用いて植えられた防砂林10を植樹したときの様子を示した斜視図であり、図2は、図1に示す防砂林10の生育に用いられた土壌の様子を示した部分断面図である。
【0021】
図1に示されるように、防砂林10が植物の生育を行うための農園20を囲むように生育されている。砂漠などに近い地域においては、黄砂と呼ばれる砂が風に吹かれて飛散し、農園20に堆積することになるため、まず、農園20の周囲を防砂林10で囲むことが必要になる。本実施形態は、このような農園20の周囲を囲む防砂林10に植物生成用吸水保持剤30(図2参照)を適用し、さらに、その防砂林10で囲まれた農園20で育てられる植物にも植物生成用吸水保持剤30を適用している。
【0022】
なお、防砂林10としては、丈が高く、かつ、生育に必要な水分が比較的少ない植物、例えばポプラや松等が好ましい。また、農園20で育てられる植物としては、色々な農作物や砂漠化防止のための植物を挙げることができるが、自動車部品等に用られる樹脂部品の製造のために使用する植物としては、トウモロコシやサツマイモなどが好ましい。すなわち、トウモロコシからリポ乳酸を生成し、生成されたリポ乳酸から樹脂部品を製造することができる。
【0023】
防砂林10によって囲まれる農園20の一辺の長さは、農園20に植えた植物の生育が黄砂の堆積によって防がれない程度とされ、例えば100m程度とされる。
【0024】
そして、防砂林10として使用されている各木が植えられる位置において、図2に示されるように、地表から例えば50cm程度の深さ若しくはそれ以上の深さまで、植物生成用吸水保持剤30が設置されている。該植物生成用吸水保持剤30の設置深さは、植樹する木の体格の大きさや根の大きさによって変る。例えば、木の体格が小さい場合は浅く設置し、木の体格が大きい場合は深く設置することが好ましい。
【0025】
植物生成用吸水保持剤30は、メソポーラスシリカ(メソポア材料もしくは高密度メソ多孔体)の粉末で構成されている。図3は、植物生成用吸水保持剤30を構成するメソポーラスシリカの分子構造を示した拡大図である。
【0026】
この図に示されるように、メソポーラスシリカは、無数の細孔31が形成された蜂の巣状の構造を有しており、各細孔31の直径は、20〜10000nm程度となっている。なお、現在、カーエアコンなどにおいてメソポーラスシリカが使用されているが、カーエアコン用のメソポーラスシリカの細孔の直径は例えば2〜10nm程度となっており、本実施形態で用いているメソポーラスシリカの細孔31の直径と比較すると、本実施形態で用いているメソポーラスシリカの細孔31が非常に大きなものであることが判る。
【0027】
このような構造のメソポーラスシリカは、例えば、細孔31によって表面積を稼いでいるため、メソポーラスシリカ1g当たりの表面積が例えば50〜2000m2という大きな値となる。
【0028】
このような細孔31および表面積となっているため、メソポーラスシリカ1g当たりの吸収水分量も非常に大きく、例えば0.2〜0.8g程度となる。
【0029】
このようなメソポーラスシリカは、例えば、特開平10−87319号公報に示される手法によって形成される。図4は、メソポーラスシリカの製造工程を示した図である。この図に示されるように、まず、粘土鉱物に酸を作用させて層状珪酸32としたのち、層状珪酸32に対してアルカリ金属化合物を作用させることで層状珪酸塩を形成する。次に、層状珪酸塩に対して界面活性剤(テンプレート材料)33を作用させることで、無数の細孔31が形成されたハニカム状の珪酸塩三次元構造体34を生成する。このとき、無数の細孔31の内壁には界面活性剤が付着した状態で残る。このように界面活性剤33が付着したままのメソポーラスシリカが本実施形態の植物生成用吸水保持剤30として使用されている。なお、界面活性剤33は、窒素、リン、カリウムの植物の養分3要素の少なくともいずれか1種を含有する。
【0030】
ここで、各細孔31の直径は、層状珪酸塩に作用させる界面活性剤33の種類に応じて決まる。界面活性剤33としては、例えばカルボン酸塩等を用いることができるが、カルボン酸塩におけるR=C8、C10、C12、C14、C16、C18、C20、C22、C24を用いると、細孔31の直径が上記の範囲となる。このため、重合度が大きなR=C10、C12、C14、C16、C18、C20、C22、C24を用いると、より細孔31の直径を大きく取ることが可能となるため好ましく、R=C16、C18、C20、C22、C24るを用いるとより直径を大きく取れるため好ましい。なお、メソポーラスシリカの細孔31の直径は、メソポーラスシリカの水分の吸収・放出特性と相関関係があるため、生育したい植物種類、つまりその植物が要求する湿度に対する水分量等に鑑みて、メソポーラスシリカの生成のために使用されるカルボン酸塩のRを決定することもできる。
【0031】
また、メソポーラスシリカの微細孔を生成する工程では、界面活性剤33は必要である。
その後の焼成工程で、この界面活性材は焼失して無くするのが一般的である。しかし、本実施形態の場合、上記製造工程の焼成工程で界面活性剤33を除去することも可能であるが、界面活性剤33に植物の生育の栄養となる分子(窒素、リン、カリウム等)が含まれていれば、それをそのまま残す方が好ましい。即ち、焼成工程、一般的には570℃×1時間の焼成を完全に行なわないで、例えば、約200〜550℃×1時間の焼成で、界面活性剤33を完全に分解せず一部分解した状態のメソポーラスシリカを植物生成用吸水保持剤30として用いている。
【0032】
なお、上記のように形成されたメソポーラスシリカを焼成し、焼成後のメソポーラスシリカを植物生成用吸水保持剤30に用いることも可能であるが、その場合にも焼成によって植物の生育の栄養となる分子(窒素、リン、カリウム等)を含んだ界面活性剤33が除去されてしまわないように、焼成時間や焼成温度を調整するのが好ましい。例えば、一般的な焼成が570℃程度で1時間行われるとすると、本実施形態では、570℃、10分間の焼成に留めたり、もしくは、200〜550℃の例えば500℃程度の比較的低温で数十分という焼成にすれば、界面活性剤33がCO2とH2Oとなってしまって植物の生育の栄養となる分子(窒素、リン、カリウム等)が流れ落ちることを防止することができる。
【0033】
次に、上記のように構成されたメソポーラスシリカの湿度に対する水分の吸収・放出特性について説明する。図5は、この特性を示したグラフである。参考として、本図中にエアコン用の細孔31の非常に小さなメソポーラスシリカやゼオライト、鹿沼土、蘭などの生育に用いられる苔(水苔)の特性についても記載してある。なお、この図の縦軸の水分量は、各吸水材料1g当たりの吸収水分量もしくは放出水分量を意味している。
【0034】
この図に示すように、相対湿度が0%という乾燥状態から湿度100%の状態(例えば雨降り状態)の領域において、本実施形態のメソポーラスシリカ、エアコン用のメソポーラスシリカ、ゼオライト、鹿沼土および苔の湿度に対する吸収水分量の特性がそれぞれ異なる特性となっている。本実施形態のメソポーラスシリカおよびエアコン用のメソポーラスシリカは共に、相対湿度に対する吸収水分量の特性と放出水分量の特性にヒステリシスがあり、ゼオライト、鹿沼土や苔は、ほぼ相対湿度に対する吸収水分量の特性と放出水分量の特性が一致している。
【0035】
これらのように特性に相違ができるのは、鹿沼土や苔等は物理的に水分を吸着・放出する(毛細管現象により水分を吸着・放水する)が、本実施形態のメソポーラスシリカやエアコン用のメソポーラスシリカは化学的に水分を吸着・放出するためである。物理的に水分を吸着・放水する場合、単に水分が細孔31や隙間などに付着し、その付着した水分を放出するだけであるため、相対湿度に対する吸収水分量の特性と放出水分量の特性に変化がない。化学的に水分を吸着する場合、水分が細孔31を構成する壁面に化学的な結合によって吸着されるため、ある湿度領域に達するまであまり水分の吸収が見られないが、化学的な結合が始まる湿度領域内では非常に高い割合で水分が吸収され、その後、その湿度領域を超えると再び水分の吸収の割合が低くなる。このため、化学的に吸着された水分が放出されるときにも、化学的な結合が分解される湿度領域に至るまであまり水分の放出が無いが、その湿度領域に至ると多くの水分が放出されることになる。
【0036】
植物が水分を要求する湿度領域は、植物の種類等によって異なるが、基本的に相対湿度が30〜100%の範囲に含まれる。このため、この湿度領域において、相対湿度に対する吸収水分量の特性の変化が大きいもの、つまり相対湿度の変化に対して放出できる水分量の変化が大きいものが、植物に対して多くの有用な水分を供給することができると言える。そして、そのような多くの有用な水分を供給できる湿度領域が植物の種類に応じて決まる水分が要求される湿度領域と一致していれば、植物に対して湿度変化に対応した水分供給を行うことができると言える。
【0037】
このような観点から上述した各種の植物生成用吸水保持剤30の相対湿度に対する吸収水分量の特性と放出水分量の特性を見てみる。
【0038】
従来のエアコンのメソポーラスシリカでは、相対湿度に対する吸収水分量の特性と放出水分量の特性が共に、相対湿度の変化に対して放出できる水分量の変化が大きくなっている湿度範囲があるものの、この湿度範囲は約12%から始まっており、植物が水分を要求する湿度領域30〜100%ではない。つまり、従来のエアコンのメソポーラスシリカが水分を放出する約20数%〜100%の相対湿度領域では、既に植物が枯れてしまっており、そのような湿度領域で幾ら多くの水分を放出して植物に供給できたとしても、植物にとって有用な水分の供給とは言えない。
【0039】
ゼオライトに関しても同様であり、水分の吸収は優れているものの、吸収した水分を放出できる湿度領域が非常に低く約0%から始まり、ほとんど乾燥状態にならなければ水分を放出できないため、植物にとって有用な水分を供給することができない。
【0040】
鹿沼土に関しては、植物が水分を要求する湿度領域30〜100%において、広い湿度領域全域において比較的高い水分量を吸収し、かつ、放出することができる。
しかしながら、湿度の変化に対して放出できる水分量がまだ十分ではなく、より放出できる水分量を多くできるようにすることが望まれる。すなわち、鹿沼土は、広い湿度領域全域においてある程度高い水分を放出することが可能であるが、植物の種類に対応してどの湿度領域において水分が要求されるかが異なっているため、上述した相対湿度30〜100%の湿度領域の中でも特定の湿度領域において高い水分量を放出できるようにするのが望まれる。
【0041】
苔に関しては、高い湿度のときに非常に多くの水分量を吸収することができるが、多くの水分量を放出できる湿度も非常に高い領域にあり、、ほとんどが湿度95%以上の湿度領域において水分を放出しきってしまう。このような湿度領域は、植物が水分を要求する湿度領域であるものの、元々雨降り状態のように十分な水分が存在する領域でもある。このため、苔による水分の吸収・放出では、水分が少なくなり始めたときに植物に対して有用な水分を供給したいという要求を満たすことができない。
【0042】
これらに対して、本実施形態のメソポーラスシリカでは、植物が水分を要求する30〜100%の湿度領域において、高い吸収水分量および高い放出水分量となっており、かつ、そのように高い放出水分量となる湿度領域は植物が水分を要求する湿度領域のうち限定された範囲となっている。具体的には、本実施形態のメソポーラスシリカの場合には、相対湿度が30〜70%程度の時に非常に湿度の変化に対する水分の放出量が非常に多くなっている。このため、本実施形態のメソポーラスシリカを使用することにより、この湿度領域において水分を要求する植物に対して、最も有用に水分を供給することが可能となる。
【0043】
具体的には、本実施形態のメソポーラスシリカは、相対湿度30〜70%において吸収した水分量のほとんどを放出できる。このため、本実施形態のメソポーラスシリカ1g当たりの吸収水分量が0.8g程度となっていることから、相対湿度30〜70%の範囲における相対湿度10%の変化量に対する放出水分量は0.2g程度となる。
【0044】
これに対し、鹿沼土は、相対湿度30〜100%において吸収した水分量のほとんどを放水しており、鹿沼土1g当たりの吸収水分量が0.8g程度であることから、相対湿度30〜70%の範囲における相対湿度10%の変化量に対する放出水分量は0.11g程度となる。苔は、相対湿度95〜100%において吸収した水分量のほとんどを放水しているため、相対湿度30〜70%の範囲における相対湿度10%の変化量に対する放出水分量は0gに近い値となる。また、エアコン用のメソポーラスシリカは、相対湿度10〜30%において吸収した水分量のほとんどを放水するため、相対湿度30〜70%の範囲における相対湿度10%の変化量に対する放出水分量は0gに近い値となる。ゼオライトも同様、相対湿度0〜5%において吸収した水分量のほとんどを放水するため、相対湿度30〜70%の範囲における相対湿度10%の変化量に対する放出水分量は0gに近い値となる。
【0045】
したがって、本実施形態のメソポーラスシリカが相対湿度30〜70%の湿度領域において最も相対湿度の変化量に対する放出水分量が大きくなっていることが判る。
【0046】
以上説明した本実施形態のメソポーラスシリカを植物生成用吸水保持剤30として用いることによる効果について説明する。
【0047】
(1)本実施形態の植物生成用吸水保持剤30として用いられているメソポーラスシリカは、植物の生育に対して水分の吸収および放出に優れた特性を有する材料となる。このため、本実施形態で示した植物生成用吸水保持剤30であるメソポーラスシリカを用いることで、砂漠地域などのように降雨量が少ない地域で植樹を行ったとしても、植物が水分を要求する湿度領域において、植物に有用な水分を供給することが可能となる。このため、植物が枯れてしまうことを防止できる。
【0048】
(2)また、現在、中国などにおいて、植樹が積極的に行われているが、植樹を行っただけでは木が育たないため、水遣りなどのメンテナンスが必要になる。しかしながら、そのメンテナンスが非常に莫大なものとなるため、十分なメンテナンスを行うことが困難である。昨今行われている植樹では、できる限りメンテナンスを行ってはいるものの、植樹したうちの半分程度しか育たないのが現状である。このため、本実施形態のように植物生成用吸水保持剤30としてメソポーラスシリカを使用することで、雨水やメンテナンスに水遣りしたときの水を長期間にわたって保持でき、長期間にわたって植物に供給することができる。
【0049】
具体的に雨が降った場合を想定すると、図2中に示したように、例えば雨水のうちの3割程度が地中に浸透し、3割程度は大気中に気化すると考えられるため、多くても3割ないし4割しか植物の成長に寄与していないと言える。このうち、地中に浸透してしまう3割の雨水や大気中に気化する前の雨水を本実施形態に示すメソポーラスシリカに取り込むことができれば、植樹を行った土壌の水分が不足し始めたときに、メソポーラスシリカに保持しておいた水分を供給することができる。
【0050】
したがって、植物生成用吸水保持剤30を用いることで、植物への水遣りなどのメンテナンスの回数の低減を図ることが可能になると共に、メンテナンス時に必要とされる水量を低減することが可能となり、メンテナンスに必要な作業の軽減およびコストの削減を図ることが可能となるという効果も得られる。
【0051】
(3)バイオテクノロジーにより、例えば、自動車部品等に用いられる樹脂製品を植物から製造するに当たり、樹脂製品の原材料となる植物の生産を現在植物が植えられていない地域で行うことが可能となる。このため、現存の植物伐採による自然破壊、地球の砂漠化、二酸化炭素(CO2)の増加の抑制を図りつつ、樹脂製品の植物からの製造が可能となる。
【0052】
(4)本実施形態では、メソポーラスシリカの細孔31内に界面活性剤33を残したままの状態としている。この界面活性剤33に含まれる分子が土壌中に溶出し、植物の養分として用いられるため、植物の成長の手助けをすることが可能となる。このような効果は、特に、砂丘・砂地などのように、例えば肥料を供給しても、雨に溶出してしまって地中深くに浸透してしまい、肥料の保持が行えないような場所に有用である。
【0053】
(5)本実施形態では、植物生成用吸水保持剤30としてメソポーラスシリカの粉末を用いている。このため、粉末が周囲の土と一体になり、土が硬化することを防止することができ、植物の生育に好ましい土壌、つまり根が成長する空間を維持できる土壌とすることが可能となる。
【0054】
なお、育った植物の根が植物生成用吸水保持剤30を通り越してそれよりも深い場所までたどり着くことになった場合、植物生成用吸水保持剤30から放出された水分を受け取ることができなくなるとも考えられるが、砂漠に近い地域では、黄砂が地表から1m位の深さまで堆積しているものの、それよりも深い場所には地下水脈も眠っており、そこから水分を受け取ることができる。このため、例えば植樹から3年程度たって根が地下水脈まで到達すると、その後は、植物生成用吸水保持剤30からの水分の供給を受けなくても、木が枯れることはない。
【0055】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。上記第1実施形態では、メソポーラスシリカで構成される植物生成用吸水保持剤30を粉末のまま用いているが、本実施形態では、その粉末を袋状もしくは植木鉢のようなケース状に加工したケース状部材とした場合について説明する。なお、その他の点に関しては、本実施形態の植物生成用吸水保持剤30は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0056】
図6は、本実施形態の防砂林10の生育に用いられた土壌の様子を示した部分断面図である。この図に示されるように、防砂林10の根を囲むように、メソポーラスシリカの粉末を袋状もしくは植木鉢のようなケース状に加工したケース状部材40が備えられている。袋状のものは、例えば、樹脂材料などに第1実施形態で示したメソポーラスシリカからなる植物生成用吸水保持剤30を混合して袋に加工することで製造され、鉢植えのようなケース状のものは、例えば、樹脂材料もしくは粘土材料などに第1実施形態で示したメソポーラスシリカを混合して成形型にて成形することで製造される。
【0057】
このような袋状もしくは鉢植えのようなケース部材40の植物生成用吸水保持剤30を用いれば、植樹を行う際に、ケース部材40ごと行えば良いため、植樹の効率を高めることが可能となる。
【0058】
また、植物生成用吸水保持剤30をケース部材40で構成することにより、根が生える領域を囲んだ状態とすることができる。このため、部分的に植物生成用吸水保持剤30が無い領域が存在するなどの不具合を減らすことが可能となり、バランス良い水分の供給を行うことが可能となる。
【0059】
なお、ケース部材40を完全に穴などが無いもので構成した場合、根がケース部材40から先に成長しなくなることも懸念される。このため、ケース部材40を網目状にするなどの対策をとったり、成長した根がケース部材40を突き破ることができる程度の強度のケース部材40とする等の対策を採るのが好ましい。
【0060】
(第3実施形態)
上記第1実施形態では、植物生成用吸水保持剤30としてメソポーラスシリカを用いる場合について説明したが、シリカヒドロゲルを用いても良い。
【0061】
シリカヒドロゲルとは、SiO2を主成分とし、水分を含有した材料であり、SiO2とH2Oの比率が1:9〜1:3.54となっており、SiO2の含有量が10〜22重量%、水分が残部(90〜78重量%)として構成されている。このシリカヒドロゲルに関しては、例えば特開昭58−135119に示されるものが挙げられるが、この公報に記載されているシリカヒドロゲルを合成したのち、水分を乾燥させない状態のものを植物生成用吸水保持剤30として用いる。
【0062】
図7は、シリカヒドロゲルの湿度に対する水分の吸収・放出特性を示したグラフである。参考として、本図中にエアコン用の細孔の非常に小さなメソポーラスシリカやゼオライト、鹿沼土、蘭などの生育に用いられる苔(水苔)の特性についても記載してある。
【0063】
本実施形態で示すシリカヒドロゲルでは、植物が水分を要求する湿度領域において、高い吸収水分量および高い放出水分量となっており、かつ、そのように高い放出水分量となる湿度領域は植物が水分を要求する湿度領域のうち限定された範囲となっている。具体的には、本実施形態のシリカヒドロゲルの場合には、相対湿度が60〜100%程度の時に非常に湿度の変化に対する水分の放出量が非常に多くなっている。このため、本実施形態のシリカヒドロゲルを使用することにより、この湿度領域において水分を要求する植物に対して、最も有用に水分を供給することが可能となる。
【0064】
具体的には、本実施形態のシリカヒドロゲルは、相対湿度30〜70%において吸収した水分量のほとんどを放出できるため、本実施形態のシリカヒドロゲル1g当たりの吸収水分量が1g程度となっているため、相対湿度60〜100%の範囲における相対湿度10%の変化量に対する放出水分量は0.25g程度となる。
【0065】
なお、相対湿度が100%近傍においては、元々雨降り状態のように十分な水分が存在する領域でもあるため、この領域では植物に対して有用な水分を供給できるとは言えないが、それ未満の湿度領域においても、十分に多くの水分を放出することが可能であるため、例えば湿度領域が60〜80%において水分を必要とする植物に関しては、有用な水分を供給することが可能になると言える。
【0066】
また、シリカヒドロゲルに含有される水は、一部SiOHのシラノールの状態であるが、大部分がシリカ粒子間の間隙(細孔)に吸着されるため、その水分を植物に供給することが可能である。
【0067】
(他の実施形態)
上記実施形態では、特に需要が考えられる砂漠などの地域において植物生成用吸水保持剤30を使用する場合について説明したが、屋上などでの植物栽培などにおいても、本発明で示す植物生成用吸水保持剤30を適用することが可能である。この場合、植物生成用吸水保持剤30として使用されるメソポーラスシリカなどが非常に軽く、養分を多く含む材料であるため、屋上などでの植物栽培にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる植物生成用吸水保持剤30を用いて植えられたポプラ等の防砂林10を植樹したときの様子を示した斜視図である。
【図2】図1に示す防砂林10の生育に用いられた土壌の様子を示した部分断面図である。
【図3】植物生成用吸水保持剤30を構成するメソポーラスシリカの分子構造を示した拡大図である。
【図4】メソポーラスシリカの製造工程を示した図である。
【図5】メソポーラスシリカの湿度に対する水分の吸収・放出特性を示したグラフである。
【図6】本発明の第2実施形態にかかる植物生成用吸水保持剤30を用いて植えられた防砂林10の生育に用いられた土壌の様子を示した部分断面図である。
【図7】シリカヒドロゲルの湿度に対する水分の吸収・放出特性を示したグラフである。
【符号の説明】
【0069】
10…防砂林、20…農園、30…植物生成用吸水保持剤、
31…細孔、40…ケース部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物(10)と共に土壌中に設置され、複数の細孔内に水分を吸収すると共に吸収した水分の放出を行うことで、前記植物(10)への水分の供給を行う植物生成用吸水保持剤であって、
前記植物(10)が生育のために水分を要求する湿度領域である湿度30〜100%の範囲内において、該湿度領域内における相対湿度の変化に対する放出水分量が、該湿度領域の外における相対湿度の変化に対する放出水分量に比較して大きく、かつ、化学的な結合によって吸着することで水分を保持する材料で構成されていることを特徴とする植物生成用吸水保持剤。
【請求項2】
前記材料は、メソポーラスシリカもしくはシリカヒドロゲルであることを特徴とする請求項1に記載の植物生成用吸水保持剤。
【請求項3】
前記メソポーラスシリカもしくは前記シリカヒドロゲルに形成された前記細孔は、20nm以上かつ10000nm以下であることを特徴とする請求項2に記載の植物生成用吸水保持剤。
【請求項4】
前記メソポーラスシリカもしくは前記シリカヒドロゲルは粉末状であることを特徴とする請求項2または3に記載の植物生成用吸水保持剤。
【請求項5】
前記メソポーラスシリカもしくは前記シリカヒドロゲルは袋状もしくはケース状のケース部材(40)に含まれていることを特徴とする請求項2または3に記載の植物生成用吸水保持剤。
【請求項6】
前記細孔内に界面活性剤(33)が含まれていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の植物生成用吸水保持剤。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の植物生成用吸水保持剤を用いて、該植物生成用吸水保持剤(30)を前記植物(10)が生育される土壌中に設置した状態で前記植物(10)を植えることを特徴とする植物の生育方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−236337(P2007−236337A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65957(P2006−65957)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】