説明

植物生育基盤の材料

【課題】粒度調整土を用いることなく植物生育基盤の材料を経済的に製造できるようにすること、及びペーパースラッジを植物生育基盤の材料の製造に用いることにより、前記ペーパースラッジを有効に利用できるようにすること。
【解決手段】植物生育基盤の材料は、ペーパースラッジと、有機肥料及び植物の破砕片の少なくとも一方と、団粒剤と、水とを含む。好ましくは、前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方との合計約1.0mにつき、前記ペーパースラッジは約0.1mないし約0.5mであり、前記水は約0.3mないし約0.8mである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切土や盛土により形成された法面又は平坦な地盤(以下「法面等」という。)上に形成される植物生育基盤の材料に関する。
【背景技術】
【0002】
道路やダムの構築、宅地やゴルフ場の造成等のために切土や盛土により形成された法面等を緑化するため、該法面等上に植物生育基盤が形成され、該植物生育基盤で植物を生育させる。
【0003】
従来、前記植物生育基盤の材料には、土と、団粒剤と、水とを含むものがある(特許文献1参照)。前記植物生育基盤の材料を製造するとき、前記土、前記団粒剤及び前記水を用意し、これらを混合する。このとき、前記団粒剤の働きにより、前記土に含まれている粘土粒子が凝集して複数の団粒からなる団粒構造が形成される。
【特許文献1】特開2001−269052号公報
【0004】
前記植物生育基盤の材料は、前記団粒間に、空気や水が通る大きな空隙を有するため、通気性及び排水性に優れる。また、前記植物生育基盤の材料は、前記団粒を構成する前記粘土粒子間に小さな空隙を有し、該小さな空隙に水を貯えるため、保水性に優れる。このため、前記植物生育基盤の材料は前記植物の生育に適している。
【0005】
団粒構造が効果的に形成されるためには、前記土に粘土が含まれていなければならない。このため、前記土は、図9に示すように、粘土を加えることにより粒度を調整した粒度調整土からなることが好ましい。例えば、前記粒度調整土は体積比で該粒度調整土全体の約15%ないし約50%の粘土を含む。
【0006】
図示の例では、前記植物生育基盤の材料は、前記粒度調整土、前記団粒剤及び前記水の他に、堆肥と、化学肥料と、繊維とを含む。前記繊維は、例えば古紙を細かく裁断したものからなる。前記繊維は、前記団粒と絡み合って前記植物生育基盤を補強するため、前記植物生育基盤の耐侵食性及び安定性の向上に寄与する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記粒度調整土は、粒径の異なる土粒子を所定の比率で配合することにより製造されるため、前記粒度調整土の製造には多大な手間及び費用を要する。このため、前記粒度調整土は非常に高価である。したがって、前記植物生育基盤の材料を経済的に製造することができない。
【0008】
ところで、近年、再生紙工場から大量に発生し、産業廃棄物として処理されるペーパースラッジの最終処分場の確保が困難になっている。
【0009】
再生紙の原料となる古紙には、紙の白色度や印刷適性を高めるため、填料が含まれている。前記填料には、カオリンやタルクのような粘土鉱物、炭酸カルシウム等(以下「粘土鉱物等」という。)の極めて微細な粒子が含まれている。前記填料は、多いものでは重量比で前記古紙の30%以上を占める。前記古紙から前記再生紙を製造するとき、前記填料は、前記再生紙として利用できない短い繊維とともに前記古紙から洗い落とされ、その後、脱水されて前記ペーパースラッジとなる。
【0010】
従来、前記ペーパースラッジは、埋立て処理されていたが、最終処分場の確保が困難になったため、近年では焼却処理もされている。しかし、焼却炉の運転による環境問題や、大量に発生する焼却灰の最終処分場の確保が難しいという問題が起きているため、前記ペーパースラッジの有効利用が強く求められている。
【0011】
本発明の目的は、粒度調整土を用いることなく植物生育基盤の材料を経済的に製造できるようにすることである。また、本発明の他の目的は、ペーパースラッジを植物生育基盤の材料の製造に用いることにより、前記ペーパースラッジを有効に利用できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記目的を達成するため、植物生育基盤の材料は少なくともペーパースラッジと団粒剤とを含み、該団粒剤の働きにより、前記ペーパースラッジに含まれている粘土鉱物等の粒子が凝集することによって、団粒構造が形成されるようにする。これにより、粒度調整土を用いることなく、団粒構造を有する前記植物生育基盤の材料を製造できるようにする。また、前記ペーパースラッジを有効利用できるようにする。
【0013】
本発明に係る、植物生育基盤の材料は、ペーパースラッジと、有機肥料及び植物の破砕片の少なくとも一方と、団粒剤と、水とを含む。
【0014】
前記植物生育基盤の材料を製造するとき、前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方と、前記団粒剤と、前記水とを用意し、これらを混合する。このとき、前記団粒剤の働きにより、前記ペーパースラッジに含まれている粘土鉱物等の粒子が凝集して団粒構造が形成される。このため、粒度調整土を用いることなく、団粒構造を有する前記植物生育基盤の材料を製造することができる。
【0015】
前記ペーパースラッジには、再生紙として利用できない短い繊維が含まれており、該繊維は前記団粒と絡み合って前記植物生育基盤を補強する。このため、前記植物生育基盤の材料を製造するとき、従来の植物生育基盤の材料を製造する場合と違い、別途繊維を用意する必要がない。このため、前記植物生育基盤の材料の製造をより経済的に行うことができる。
【0016】
前記植物の破砕片は、前記団粒と絡み合って前記植物生育基盤を補強するため、前記植物生育基盤の耐侵食性及び安定性を向上させる。
【0017】
好ましくは、前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方との合計約1.0mにつき、前記ペーパースラッジは約0.1mないし約0.5mであり、前記水は約0.3mないし約0.8mである。
【0018】
前記ペーパースラッジに含まれている前記粘土鉱物等は乾燥収縮率が大きいため、前記ペーパースラッジの量が多い場合、前記ペーパースラッジが乾燥収縮して前記植物生育基盤にクラックが生じる。このため、前記ペーパースラッジの量を一定量以下に抑えるのが好ましい。前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方との合計約1.0mにつき、前記ペーパースラッジを約0.5m以下に抑えることにより、前記植物生育基盤にクラックが生じるのを防止することができ、前記植物生育基盤の耐侵食性の向上を図ることができる。これにより、前記植物生育基盤が形成される法面等を効果的に保護することができる。
【0019】
本発明に係る、植物生育基盤の他の材料は、ペーパースラッジと、有機肥料及び植物の破砕片の少なくとも一方と、土と、団粒剤と、水とを含む。
【0020】
前記植物生育基盤の材料を製造するとき、前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方と、土と、前記団粒剤と、前記水とを用意し、これらを混合する。このとき、前記団粒剤の働きにより、前記ペーパースラッジに含まれている粘土鉱物等の粒子が凝集して団粒構造が形成される。
【0021】
前記土は、表土からなるものでもよいし、該表土下に存在する風化土からなるものでもよい。前記表土及び前記風化土は、いずれも、粘土粒子を含むため、前記植物生育基盤の材料の製造時に団粒構造の形成に寄与する。
【0022】
前記土は、前記植物生育基盤が形成される地盤から得た現地発生土からなるのが好ましい。前記現地発生土には、前記植物生育基盤が形成される前に前記地盤で生育していた在来植物の種子が含まれている。このため、前記土を前記現地発生土からなるものとすることにより、前記植物生育基盤に前記在来植物を生育させることができ、ダム、道路等の構築のための工事により破壊された生態系を復元することができる。
【0023】
好ましくは、前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方と、前記土との合計約1.0mにつき、前記ペーパースラッジは約0.1mないし約0.5mであり、前記水は約0.3mないし約0.8mである。前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方と、前記土との合計約1.0mにつき、前記ペーパースラッジを約0.5m以下に抑えることにより、前記植物生育基盤におけるクラックの発生を防止する。
【0024】
本発明に係る、植物生育基盤のさらに他の材料は、ペーパースラッジと、土と、団粒剤と、水とを含む。
【0025】
前記植物生育基盤の材料を製造するとき、前記ペーパースラッジ、前記土、前記団粒剤及び前記水を用意し、これらを混合する。このとき、前記団粒剤の働きにより、前記ペーパースラッジに含まれている粘土鉱物等の粒子が凝集して複数の団粒が形成される。
【0026】
好ましくは、前記ペーパースラッジと、前記土との合計約1.0mにつき、前記ペーパースラッジは約0.1mないし約0.5mであり、前記水は約0.3mないし約0.8mである。前記ペーパースラッジ及び前記土の合計約1.0mにつき、前記ペーパースラッジを約0.5m以下に抑えることにより、前記植物生育基盤にクラックが生じるのを防止する。
【0027】
ペーパースラッジは、体積比で該ペーパースラッジ全体の約20%ないし約30%の粘土鉱物等を含む。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、団粒剤の働きにより、ペーパースラッジに含まれている粘土鉱物等の粒子が凝集して団粒構造が形成される。このため、粒度調整土を用いることなく、団粒構造を有する植物生育基盤の材料を製造することができる。また、前記ペーパースラッジには繊維が含まれているため、前記植物生育基盤の材料を製造するとき、別途繊維を用意する必要がない。したがって、前記植物生育基盤の材料を経済的に製造することができる。また、前記ペーパースラッジを前記植物生育基盤の材料の製造に用いることにより、前記ペーパースラッジを廃棄することなく有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
道路やダムの構築、宅地やゴルフ場の造成等のために切土や盛土により形成された法面等を緑化しまた保護するため、該法面等上に植物生育基盤が形成され、該植物生育基盤で植物を生育させる。
【0030】
図1に示すように、前記植物生育基盤の材料は、ペーパースラッジと、有機肥料と、団粒剤と、水とを含む。
【0031】
図示の例では、前記植物生育基盤の材料はさらに化学肥料を含み、前記有機肥料は堆肥からなる。前記ペーパースラッジは0.30mであり、前記堆肥は0.70mであり、前記化学肥料は4kgであり、前記団粒剤は0.15kgであり、前記水は0.60mである。前記有機肥料は、堆肥からなる図示の例に代え、厩肥のような他の肥料からなるものでもよい。前記団粒剤は高分子凝集剤からなる。
【0032】
前記ペーパースラッジは、古紙から再生紙を製造するときに発生する廃棄物であり、前記古紙から分離された填料及び短い繊維を含む。前記填料は、粘土鉱物等、すなわち、カオリンやタルクのような粘土鉱物、炭酸カルシウム等からなる。
【0033】
前記ペーパースラッジは、一般に、体積比で該ペーパースラッジ全体の約20%ないし約30%の前記粘土鉱物等を含む。図2に示す例では、前記ペーパースラッジは、体積比で、約15%の前記粘土鉱物と、約15%の前記炭酸カルシウムと、約5%の前記繊維と、約65%の水とを含む。
【0034】
前記植物生育基盤の材料を製造するとき、0.30mの前記ペーパースラッジと、0.70mの前記堆肥と、4kgの前記化学肥料と、0.15kgの前記団粒剤と、0.60mの前記水とを用意し、これらを混合し、撹拌する。これにより前記植物生育基盤の材料が生成される。前記植物生育基盤の材料は、ベルトコンベヤー、ショベル系掘削機のバケット、圧縮空気等を用いて前記法面等上に散布され、これにより前記法面等上に前記植物生育基盤が形成される。
【0035】
前記植物生育基盤の材料の前記法面等上への散布は、ベルトコンベヤー、ショベル系掘削機のバケット、圧縮空気等を用いる上記の例に代え、ポンプを用いてもよい。この場合、まず、タンク(図示せず)と、一端部が前記タンクに接続され、他端部にノズルを備えるホース(図示せず)とを用意する。次に、前記ペーパースラッジ、前記堆肥、前記化学肥料、前記団粒剤及び前記水を前記タンク内で混合し、撹拌して、前記植物生育基盤の材料を生成する。その後、前記植物生育基盤の材料を前記ポンプにより前記ホース内に圧送し、前記ノズルから噴出させる。これにより前記植物生育基盤の材料を前記法面等に吹付ける。上記の例では、前記ペーパースラッジ、前記堆肥、前記化学肥料、前記団粒剤及び前記水を前記タンク内で混合するが、これに代え、前記ペーパースラッジ、前記堆肥、前記化学肥料及び前記水を前記タンク内で混合し、その混合物と前記団粒剤とを前記ノズル内で混合することもできる。
【0036】
前記ペーパースラッジ、前記堆肥、前記化学肥料、前記団粒剤及び前記水の混合時、前記団粒剤の凝集作用によって、前記ペーパースラッジに含まれている前記粘土鉱物等の粒子が凝集して団粒と呼ばれる複数の集合体が形成される。このため、前記植物生育基盤の材料は団粒構造を有する。
【0037】
前記ペーパースラッジに含まれている前記粘土鉱物等の粒子が凝集して団粒構造が形成されるため、粒度調整土を用いることなく、団粒構造を有する前記植物生育基盤の材料を製造することができる。したがって、粒度調整土の購入費を要しないため、前記植物生育基盤の材料の製造コストの低減を図ることができる。また、前記ペーパースラッジを前記植物生育基盤の材料の製造に用いることにより、前記ペーパースラッジを有効に利用することができる。
【0038】
前記ペーパースラッジに含まれている前記短い繊維は、前記団粒と絡み合って前記植物生育基盤を補強する。このため、前記植物生育基盤の材料を製造するとき、従来の植物生育基盤の材料を製造する場合のように新たに繊維を用意する必要がない。このため、前記植物生育基盤の材料の製造をより経済的に行うことができる。なお、前記ペーパースラッジは、焼成すると前記繊維が溶解して無くなるため、焼成せずに前記植物生育基盤の材料に用いる。
【0039】
団粒構造を有する前記植物生育基盤の材料は、前記団粒間に大きな空隙を有し、前記団粒を構成する前記粘土鉱物等の粒子間に小さな空隙を有する。前記大きな空隙を空気や水が通るため、前記植物生育基盤の材料は通気性及び排水性に優れる。また、前記小さな空隙が水を貯えるため、前記植物生育基盤の材料は保水性に優れる。このため、前記植物生育基盤の材料は前記植物の生育にとって好ましい環境を提供する。また、前記植物生育基盤の材料は、保水性が良いため、水を含んでも泥状化しにくく、大雨に曝されても流失しにくい。
【0040】
前記ペーパースラッジの量は、前記ペーパースラッジ及び前記堆肥の合計1.0m当たり、0.30mである図1に示した例に代え、任意に変更することができる。例えば、前記ペーパースラッジ及び前記堆肥の合計1.0m当たりの前記ペーパースラッジの量を0.10mとすることができる。この場合、前記植物生育基盤の材料は、0.10mの前記ペーパースラッジと、0.90mの前記堆肥と、4kgの前記化学肥料と、0.15kgの前記団粒剤と、0.60mの前記水とを含むものとすることができる。
【0041】
団粒構造が効果的に形成されるようにするためには、前記ペーパースラッジ及び前記堆肥の合計約1.0m当たり、約0.10m以上の前記ペーパースラッジが含まれていることが望ましい。また、廃棄物である前記ペーパースラッジは非常に安価であるため、前記植物生育基盤の材料に含まれる前記ペーパースラッジの量が多いほど、前記植物生育基盤の製造に要する費用を低減することができる。
【0042】
図3に示す例では、前記植物生育基盤の材料は、前記ペーパースラッジと、前記堆肥と、前記団粒剤と、前記水とを含む図1に示した例に代え、前記ペーパースラッジ、前記堆肥、前記団粒剤及び前記水の他に植物の破砕片を含む。
【0043】
図示の例では、前記植物生育基盤の材料は、0.30mの前記ペーパースラッジと、0.35mの前記堆肥と、0.35mの前記植物の破砕片と、4kgの前記化学肥料と、0.15kgの前記団粒剤と、0.60mの前記水とを含む。
【0044】
前記植物の破砕片は、樹木の幹、枝葉若しくは根の破砕片、草の破砕片又はこれらの混合物からなり、未腐熟である。前記植物の破砕片は、前記団粒と絡み合って前記植物生育基盤を補強するため、前記植物生育基盤の耐侵食性及び安定性を向上させ、前記植物生育基盤が崩れて前記法面等上から流されるのを防ぐ。前記植物の破砕片は、前記植物生育基盤が形成される場所で伐採された樹木の破砕片とするのが好ましい。これにより、伐採された樹木を廃棄することなく有効に利用することができる。
【0045】
前記植物生育基盤の材料を製造するとき、0.30mの前記ペーパースラッジと、0.35mの前記堆肥と、0.35mの前記植物の破砕片と、4kgの前記化学肥料と、0.15kgの前記団粒剤と、0.60mの前記水とを用意し、これらを混合する。このとき、前記団粒剤の働きによって、前記ペーパースラッジに含まれている前記粘土鉱物等の粒子が凝集して団粒構造が形成される。このため、粒度調整土を用いることなく、団粒構造を有する前記植物生育基盤の材料を製造することができる。
【0046】
前記ペーパースラッジの量は、前記ペーパースラッジ、前記堆肥及び前記植物の破砕片の合計1.0mにつき、0.30mである図1に示した例に代え、任意に変更することができる。このため、前記植物生育基盤の材料は、例えば、0.10mの前記ペーパースラッジと、0.35mの前記堆肥と、0.55mの前記植物の破砕片と、4kgの前記化学肥料と、0.15kgの前記団粒剤と、0.60mの前記水とを含むものとすることができる。団粒構造が効果的に形成されるようにするためには、前記ペーパースラッジ、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の合計約1.0mにつき、約0.10m以上の前記ペーパースラッジが含まれていることが望ましい。
【0047】
前記植物生育基盤の材料は、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の双方を含む図3に示した例に代え、前記有機肥料を含まず、前記植物の破砕片を含むものとすることもできる。
【0048】
ところで、前記ペーパースラッジに含まれている前記粘土鉱物等は乾燥収縮率が大きいため、前記ペーパースラッジの量が多い場合、前記ペーパースラッジが乾燥収縮して、前記法面等上に形成された前記植物生育基盤にクラックが生じ、前記植物生育基盤は耐侵食性に劣る。このため、前記ペーパースラッジの量を一定の量以下に抑えるのが望ましい。
【0049】
前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方と、団粒剤と、水とを含む前記植物生育基盤の材料では、図4に示すように、前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方を含む混合物との合計1.0mにつき、前記ペーパースラッジの量が0.50mより多い場合、前記植物生育基盤にクラックが生じ、前記植物生育基盤は耐侵食性に劣る。前記ペーパースラッジの量が0.50m以下である場合、前記植物生育基盤にクラックが生じることはなく、前記植物生育基盤は耐侵食性に優れる。すなわち、前記植物生育基盤にクラックを生じさせないようにし、また前記植物生育基盤の耐侵食性を良くするための前記ペーパースラッジの量の上限値は、前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方を含む混合物との合計1.0mにつき、約0.5mである。このため、前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方を含む混合物との合計約1.0mにつき、前記ペーパースラッジの量を約0.5m以下に抑えることにより、前記植物生育基盤におけるクラックの発生を防止することができ、前記植物生育基盤の耐侵食性の向上を図ることができる。
【0050】
なお、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方を含む前記混合物は、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方からなるか、又は前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方と、砂又は軽石とを含む。前記有機肥料、前記植物の破砕片、前記砂及び前記軽石は、いずれも粘土粒子を含まないため、これらの配合比率により、又は前記混合物が前記砂若しくは前記軽石を含むか否かにより、前記上限値が左右されることはない。
【0051】
前記水の量は、前記植物生育基盤におけるクラックの発生の有無に影響しないため、前記ペーパースラッジ、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方を含む混合物との合計1.0mにつき、0.45m又は0.50mである図示の例に代え、任意に変更することができる。前記ベルトコンベヤー又は前記ショベル系掘削機のバケットを用いて前記植物生育基盤の材料を前記法面等上に散布する場合、前記植物生育基盤の材料の量を低減して該記植物生育基盤の材料の前記法面等上への散布を容易にするため、前記水の量は、比較的少ない量、例えば約0.3mないし約0.6mであることが好ましい。また、前記ポンプを用いて前記植物生育基盤の材料を前記法面等上に散布する場合、前記ポンプによる圧送を容易にするため、前記水の量は、比較的多い量、例えば約0.5mないし約0.8mであることが好ましい。したがって、前記水の量は約0.3mないし約0.8mであることが好ましい。なお、前記水の量は約0.8mより多くてもよい。前記水の量が多い場合、余分な水は、前記植物生育基盤の材料を前記法面等上に散布した後、前記植物生育基盤から流出して又は乾燥して前記植物生育基盤から除去される。
【0052】
図5に示す例では、前記植物生育基盤の材料は、前記ペーパースラッジと、前記有機肥料と、前記団粒剤と、前記水とを含む図1に示した例に代え、前記ペーパースラッジ、前記有機肥料、前記団粒剤及び前記水の他に土を含む。
【0053】
前記土は、表土からなるものでもよいし、風化土からなるものでもよい。前記表土及び前記風化土は、いずれも、粘土粒子を含むため、前記植物生育基盤の材料の製造時に団粒構造の形成に寄与する。
【0054】
前記土は、前記植物生育基盤が形成される地盤から得た現地発生土からなるのが好ましい。前記現地発生土には、前記植物生育基盤が形成される前に前記地盤で生育していた在来植物の種子が含まれている。このため、前記土が前記現地発生土からなることにより、前記植物生育基盤に前記在来植物が生育するため、ダム、道路等の構築のために破壊された生態系を復元することができる。
【0055】
図示の例では、前記ペーパースラッジは0.30mであり、前記堆肥は0.50mであり、前記現地発生土は0.20mであり、前記化学肥料は4kgであり、前記団粒剤は0.15kgであり、前記水は0.60mである。前記土は、前記現地発生土からなる図示の例に代え、前記植物生育基盤が形成される場所へ他の場所から搬入した搬入土からなるものとすることもできる。
【0056】
前記植物生育基盤の材料を製造するとき、0.30mの前記ペーパースラッジと、0.50mの前記堆肥と、0.20mの前記現地発生土と、4kgの前記化学肥料と、0.15kgの前記団粒剤と、0.6mの前記水とを用意し、これらを混合し、撹拌する。このとき、前記団粒剤の働きによって、前記ペーパースラッジに含まれている前記粘土鉱物等の粒子が凝集して団粒構造が形成される。このため、粒度調整土を用いることなく、団粒構造を有する前記植物生育基盤の材料を製造することができる。
【0057】
前記ペーパースラッジの量は、前記ペーパースラッジ、前記堆肥及び前記現地発生土の合計1.0mにつき、0.30mである図5に示した例に代え、任意に変更することができる。このため、前記植物生育基盤の材料は、例えば、0.10mの前記ペーパースラッジと、0.70mの前記堆肥と、0.20mの前記現地発生土と、4kgの前記化学肥料と、0.15kgの前記団粒剤と、0.60mの前記水とを含むものとすることができる。
【0058】
前記植物生育基盤の材料は、前記有機肥料を含む図5に示した例に代え、前記植物の破砕片を含むものとすることができ、また、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の双方を含むものとすることができる。すなわち、前記植物生育基盤の材料は、前記ペーパースラッジと、前記植物の破砕片と、前記土と、前記団粒剤と、前記水とを含むものとすることができ、また、前記ペーパースラッジと、前記有機肥料と、前記植物の破砕片と、前記土と、前記団粒剤と、前記水とを含むものとすることができる。
【0059】
前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方と、前記土と、前記団粒剤と、前記水とを含む前記植物生育基盤の材料では、図6に示すように、前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方と、前記土との合計約1.0mにつき、前記ペーパースラッジの量が0.50m以下である場合、前記植物生育基盤にクラックが生じることはなく、前記植物生育基盤の耐侵食性は良い。すなわち、前記植物生育基盤にクラックを生じさせないようにして前記植物生育基盤の耐侵食性を良くするための前記ペーパースラッジの量の上限値は約0.5mである。この上限値は、図7に示すように、前記土の成分が異なる場合においても同じである。
【0060】
したがって、前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方と、前記土との合計約1.0mにつき、前記ペーパースラッジの量を約0.5m以下に抑えることにより、前記植物生育基盤におけるクラックの発生を防止することができ、前記植物生育基盤の耐侵食性の向上を図ることができる。なお、前記水の量は、図4に示した例と同様に、前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方と、前記土との合計約1.0mにつき、約0.3mないし約0.8mであることが好ましい。
【0061】
図8に示す例では、前記植物生育基盤の材料は、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方を含む図6に示した例に代え、前記有機肥料及び前記植物の破砕片のいずれも含まない。すなわち、前記植物生育基盤の材料は、前記ペーパースラッジと、前記土と、前記団粒剤と、前記水とを含む。
【0062】
前記ペーパースラッジと、前記土と、前記団粒剤と、前記水とを含む前記植物生育基盤の材料では、図8に示したように、前記ペーパースラッジと、前記土との合計1.0mにつき、前記ペーパースラッジの量が0.50mより多い場合、前記植物生育基盤にクラックが生じ、前記植物生育基盤の耐侵食性は良くない。また、前記ペーパースラッジの量が0.50m以下である場合、前記植物生育基盤にクラックが生じることはなく、前記植物生育基盤の耐侵食性は良い。よって、前記ペーパースラッジ及び前記土の合計約1.0mにつき、前記ペーパースラッジの量を約0.5m以下に抑えることにより、前記植物生育基盤におけるクラックの発生を防止することができ、前記植物生育基盤の耐侵食性の向上を図ることができる。なお、前記水の量は、図4に示した例と同様に、前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方と、前記土との合計約1.0mにつき、約0.3mないし約0.8mであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1実施例に係る植物生育基盤の材料の配合例。
【図2】ペーパースラッジの成分。
【図3】本発明の第2実施例に係る植物生育基盤の材料の配合例。
【図4】本発明の第1実施例又は第2実施例に係る植物生育基盤の材料により形成された植物生育基盤におけるクラック発生の有無及び耐侵食性の良否を示す実験データ。
【図5】本発明の第3実施例に係る植物生育基盤の材料の配合例。
【図6】本発明の第3実施例に係る植物生育基盤の材料により形成された植物生育基盤におけるクラック発生の有無及び耐侵食性の良否を示す実験データ。
【図7】本発明の第3実施例に係る植物生育基盤の材料により形成された植物生育基盤におけるクラック発生の有無及び耐侵食性の良否を示す他の実験データ。
【図8】本発明の第4実施例に係る植物生育基盤の材料により形成された植物生育基盤におけるクラック発生の有無を示す実験データ。
【図9】従来の植物生育基盤の材料の配合例。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペーパースラッジと、有機肥料及び植物の破砕片の少なくとも一方と、団粒剤と、水とを含む、植物生育基盤の材料。
【請求項2】
前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方との合計約1.0mにつき、前記ペーパースラッジは約0.1mないし約0.5mであり、前記水は約0.3mないし約0.8mである、請求項1に記載の植物生育基盤の材料。
【請求項3】
ペーパースラッジと、有機肥料及び植物の破砕片の少なくとも一方と、土と、団粒剤と、水とを含む、植物生育基盤の材料。
【請求項4】
前記ペーパースラッジと、前記有機肥料及び前記植物の破砕片の少なくとも一方と、前記土との合計約1.0mにつき、前記ペーパースラッジは約0.1mないし約0.5mであり、前記水は約0.3mないし約0.8mである、請求項3に記載の植物生育基盤の材料。
【請求項5】
ペーパースラッジと、土と、団粒剤と、水とを含む、植物生育基盤の材料。
【請求項6】
前記ペーパースラッジと、前記土との合計約1.0mにつき、前記ペーパースラッジは約0.1mないし約0.5mであり、前記水は約0.3mないし約0.8mである、請求項5に記載の植物生育基盤の材料。
【請求項7】
前記土は表土又は風化土からなる、請求項3又は5に記載の植物生育基盤の材料。
【請求項8】
前記土は、前記植物生育基盤が形成される地盤から得た現地発生土からなる、請求項3、5又は7に記載の植物生育基盤の材料。
【請求項9】
前記ペーパースラッジは、体積比で該ペーパースラッジ全体の約20%ないし約30%の粘土鉱物等を含む、請求項1、3又は5に記載の植物生育基盤の材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−237028(P2008−237028A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77680(P2007−77680)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】