説明

植物用鉄供給剤及びその製造方法

【課題】供給される鉄分のうちの2価鉄の割合が高く、この鉄分が植物に継続的に供給される植物用鉄供給剤、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基を有する有機酸(クエン酸等)と、鉄源(FeO等)と、硫酸基を有する化合物(石膏等)と、が水の存在下に混合され、その後、水が除去されてなる植物用鉄供給剤であり、この植物用鉄供給剤は、有機酸粉末(クエン酸粉末等)、鉄源粉末(FeO粉末等)、硫酸基を有する化合物の粉末(石膏粉末等)及び増量剤粉末(泥炭粉末等)を、水を吹き付けながら混合し、その後、造粒し、次いで、造粒物を加熱して乾燥させ、その後、分級し、所定粒径の粒状物(粒径は2〜6mmである。)とすることにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物用鉄供給剤及びその製造方法に関する。更に詳しくは、有機酸と、鉄源と、硫酸基を有する化合物からなる特定のバインダとを含有し、供給される鉄分のうちの2価鉄の割合が高く、この鉄分が植物に継続的に供給される植物用鉄供給剤、及び各々の成分を混合し、その後、造粒し、次いで、加熱して、乾燥し、その後、分級して所定粒径の粒状物とする植物用鉄供給剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄は、植物にとって微量要素ではあるけれども必須元素であり、通常、作物に1〜400ppm程度含有されており、微量要素とはいっても欠乏すると特有の欠乏症を生じる。例えば、鉄は葉緑素の形成に関与しており、欠乏すると葉が黄白化する。また、鉄は窒素の代謝作用にも関与しており、欠乏すると蛋白質の合成反応が損なわれる。この植物生育の必須元素である鉄を供給するために、鉄含有組成物として鉄粉や転炉滓、水酸化鉄などの使用が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
植物は根から酸を放出し、この酸によって鉄又は鉄化合物を溶解させ、2価鉄イオン等の形態で体内に取り込んでいる。2価鉄イオンは植物が直接取り込み可能であることが分かっており、植物に多くの負担がかからないことが予想され、結果として成長が促進されることが考えられる。このように2価鉄イオン等の形態で植物に鉄分を供給することができる鉄供給剤が提供されており(例えば、特許文献2参照。)、この鉄供給剤では、特定の酸化第一鉄に有機酸を併存させることで、酸化第一鉄から2価鉄イオンが供給され、植物の成長が促進される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−277183号公報
【特許文献2】WO2007/13218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の鉄含有組成物から溶出した鉄の大部分は、水酸化第二鉄となって沈殿してしまって、植物が取り込むことができず、植物にとって必須元素である鉄を十分に供給することができなかった。また、特許文献2に記載の鉄供給剤では、有機酸が水溶性であるため、散布後、土中の水分に溶解し、流失してしまって、酸化第一鉄が溶解せず、2価鉄イオンの供給が継続しないという問題がある。更に、酸化第一鉄と有機酸のみでは、供給される全鉄イオンのうちの2価鉄イオンの割合が低く、結果として、植物への鉄分の供給が継続しないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、有機酸と、鉄源と、硫酸基を有する化合物からなる特定のバインダとを、水とともに混合し、その後、水を除去してなり、供給される鉄分のうちの2価鉄の割合が高く、鉄分が植物に継続的に供給される植物用鉄供給剤、及び各々の成分を、水とともに混合し、その後、造粒し、次いで、加熱して、乾燥し、その後、分級して所定粒径の粒状物とする植物用鉄供給剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鉄は、一般的に、水と接触した場合に、pHが低ければ易溶であるが、pHが高いと難溶である。土壌のpHは一般に6.0程度であるため、植物に鉄を供給するため鉄を含有する植物用鉄供給剤を用いた場合、鉄は水に溶解し、2価鉄イオンが溶出する。しかし、pHが6.0程度では水酸化第二鉄等が生成し易く、即ち、2価の鉄が容易に水に不溶となって沈殿してしまい、植物が取り込むことができなくなる。一方、本発明の植物用鉄供給剤には、有機酸が含有されており、2価鉄の供給が継続される構成であるものの、有機酸は水溶性であり、散布後、土中の水分に溶解し、流失してしまうため、鉄が溶解しなくなり、2価鉄イオンの供給が継続しないという問題がある。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0008】
本発明は以下のとおりである。
1.カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基を有する有機酸と、鉄源と、硫酸基を有する化合物と、が水の存在下に混合され、その後、該水が除去されてなることを特徴とする植物用鉄供給剤。
2.上記有機酸として、少なくともクエン酸を含有する上記1.に記載の植物用鉄供給剤。
3.上記鉄源として、FeO及び鉄粉のうちの少なくとも一方を含有する上記1.又は2.に記載の植物用鉄供給剤。
4.上記硫酸基を有する化合物が石膏である上記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載の植物用鉄供給剤。
5.上記混合時に増量剤が混合され、該増量剤が泥炭、ゼオライト及び石灰石のうちの少なくとも1種である上記1.乃至4.のうちのいずれか1項に記載の植物用鉄供給剤。
6.上記有機酸、上記鉄源、上記硫酸基を有する化合物及び上記増量剤の合計を100質量%とした場合に、該有機酸は3〜12質量%、該鉄源は2〜35質量%、該硫酸基を有する化合物は1.5〜7質量%である上記5.に記載の植物用鉄供給剤。
7.有機酸粉末、鉄源粉末、硫酸基を有する化合物及び増量剤粉末を、水を吹き付けながら混合し、その後、造粒し、次いで、造粒物を加熱して乾燥させ、その後、分級し、所定粒径の粒状物とすることを特徴とする植物用鉄供給剤の製造方法。
8.上記有機酸粉末として、少なくともクエン酸粉末を含有する上記7.に記載の植物用鉄供給剤の製造方法。
9.上記鉄源粉末として、FeO粉末及び鉄粉のうちの少なくとも一方を含有する上記7.又は8.に記載の植物用鉄供給剤の製造方法。
10.上記硫酸基を有する化合物が石膏である上記7.乃至9.のうちのいずれか1項に記載の植物用鉄供給剤の製造方法。
11.上記増量剤粉末が、泥炭粉末、ゼオライト粉末及び石灰石粉末のうちの少なくとも1種である上記7.乃至10.のうちのいずれか1項に記載の植物用鉄供給剤の製造方法。
12.上記有機酸粉末、上記鉄源粉末、上記硫酸基を有する化合物及び上記増量剤粉末の合計を100質量%とした場合に、該有機酸粉末は3〜12質量%、該鉄源粉末は2〜35質量%、該硫酸基を有する化合物は1.5〜7質量%である上記7.乃至11.のうちのいずれか1項に記載の植物用鉄供給剤の製造方法。
13.上記粒状物の平均粒径が2〜6mmである上記7.乃至12.のうちのいずれか1項に記載の植物用鉄供給剤の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の植物用鉄供給剤は、クエン酸等の有機酸と、FeO及び鉄粉等の鉄源と、石膏等の硫酸基を有する化合物とが、混合されてなり、石膏等の硫酸基を有する化合物が含有されていないときと比べて、2価鉄の供給がより継続してなされる。
また、有機酸として、少なくともクエン酸を含有する場合は、刺激臭がなく、有機酸濃度に対する2価鉄イオン濃度が特に高く、より多くの2価鉄を供給することができる植物用鉄供給剤とすることができる。
更に、鉄源として、FeO及び/又は鉄粉を含有する場合は、2価鉄を効率よく供給することができる植物用鉄供給剤とすることができる。
また、硫酸基を有する化合物が石膏である場合は、バインダとしての作用に優れ、2価鉄の割合が高い鉄分がより継続的に植物に供給される植物用鉄供給剤とすることができる。
更に、混合時に増量剤が混合され、この増量剤が泥炭、ゼオライト及び石灰石のうちの少なくとも1種である場合は、増量剤を含有させることにより2価鉄の供給が低減することがなく、より少量の有機酸及び鉄源によって、所要量の2価鉄を供給することができる植物用鉄供給剤とすることができる。
また、有機酸、鉄源、硫酸基を有する化合物及び増量剤の合計を100質量%とした場合に、有機酸が3〜12質量%、鉄源が2〜35質量%、硫酸基を有する化合物が1.5〜7質量%である場合は、増量剤を除く必須成分が少量であるにもかかわらず、所要量の2価鉄が継続的に供給される植物用鉄供給剤とすることができる。
【0010】
本発明の植物用鉄供給剤の製造方法では、有機酸粉末、鉄源粉末、硫酸基を有する化合物及び増量剤粉末を、水を吹き付けながら混合し、造粒し、造粒物を加熱し、乾燥させ、分級して、所定粒径の粒状物とするため、2価鉄の供給が継続してなされる本発明の植物用鉄供給剤を、効率よく、且つ容易に製造することができる。
また、有機酸粉末として、少なくともクエン酸粉末を含有する場合は、製造時に刺激臭がなく、有機酸濃度に対する2価鉄イオン濃度が特に高く、より多くの2価鉄を継続的に供給することができる植物用鉄供給剤を製造することができる。
更に、鉄源粉末として、FeO粉末及び/又は鉄粉を含有する場合は、2価鉄をより効率よく供給することができる植物用鉄供給剤を製造することができる。
また、硫酸基を有する化合物が石膏である場合は、他成分との混合、及び造粒等が容易であり、2価鉄の割合が高い鉄分がより継続的に植物に供給される植物用鉄供給剤を製造することができる。
更に、増量剤粉末が、泥炭粉末、ゼオライト粉末及び石灰石粉末のうちの少なくとも1種である場合は、混合及び造粒が容易であり、より少量の有機酸及び鉄源によって、所要量の2価鉄を供給することができる植物用鉄供給剤を製造することができる。
また、有機酸粉末、鉄源粉末、硫酸基を有する化合物及び増量剤粉末の合計を100質量%とした場合に、有機酸粉末が3〜12質量%、鉄源粉末が2〜35質量%、硫酸基を有する化合物が1.5〜7質量%である場合は、必須成分と増量剤とを混合し易く、所要量の2価鉄が継続的に供給される植物用鉄供給剤を容易に製造することができる。
更に、粒状物の平均粒径が2〜6mmである場合は、2価鉄の安定な供給が継続的になされる植物用鉄供給剤とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】石膏を用いたときと、用いないときの、溶出試験の回数と溶出する2価鉄量との相関を表すグラフである。
【図2】クエン酸及びFeOを少し増量し、石膏を用いたときと、用いないときの、溶出試験の回数と溶出する2価鉄量との相関を表すグラフである。
【図3】クエン酸及びFeOを少し増量し、石膏を用いたときと、用いないときの、溶出試験の回数と溶出する全鉄量との相関を表すグラフである。
【図4】クエン酸及びFeOを少し増量し、石膏を用いたときと、用いないときの、溶出試験の回数と効率との相関を表すグラフである。
【図5】溶出試験の1回目の溶出量が好ましい量となるような組成の植物用鉄供給剤を用いたときとの、溶出試験の回数と溶出する2価鉄量との相関を表すグラフである。
【図6】溶出試験の1回目の溶出量が好ましい量となるような組成の植物用鉄供給剤を用いたときとの、溶出試験の回数と溶出する全鉄量との相関を表すグラフである。
【図7】溶出試験の1回目の溶出量が好ましい量となるような組成の植物用鉄供給剤を用いたときとの、溶出試験の回数と効率との相関を表すグラフである。
【図8】石膏を配合したときと、配合しないときの、各々のFT−IRのスペクトル及びこれらの差のスペクトルを表すチャートである。
【図9】クエン酸及び/又はFeOを増量したときの、溶出試験の回数と効率との相関を表すグラフである。
【図10】クエン酸に代えてアスコルビン酸を使用したときの、溶出試験の回数と、2価鉄量、全鉄量及び効率との相関を表すグラフである。
【図11】FeOに代えて鉄粉を使用したときの、溶出試験の回数と2価鉄量との相関を表すグラフである。
【図12】FeOに代えて鉄粉を使用したときの、溶出試験の回数と全鉄量との相関を表すグラフである。
【図13】FeOに代えて鉄粉を使用したときの、溶出試験の回数と効率との相関を表すグラフである。
【図14】FeOに代えてミルスケールを使用したときの、溶出試験の回数と効率との相関を表すグラフである。
【図15】石膏に代えて硫酸を使用したときの、溶出試験の回数と、2価鉄量、全鉄量及び効率との相関を表すグラフである。
【図16】泥炭に代えてゼオライト又は石灰石を使用したときの、溶出試験の回数と効率との相関を表すグラフである。
【図17】増量剤としてゼオライト使用し、クエン酸及び/又はFeOを増量したときの、溶出試験の回数と効率との相関を表すグラフである。
【図18】水耕栽培を模擬した溶出試験における経過日数と全鉄量との相関を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
[1]植物用鉄供給剤
本発明の植物用鉄供給剤は、カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基を有する有機酸と、鉄源と、硫酸基を有する化合物と、が水の存在下に混合され、その後、水が除去されてなる。
【0013】
上記「有機酸」は、カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基を有する酸である。カルボキシル基を有する有機酸としてはクエン酸(無水クエン酸でもよい。)、酢酸、酒石酸、シュウ酸等が挙げられる。ヒドロキシル基を有する有機酸としてはアスコルビン酸等が挙げられる。また、カルボキシル基及びヒドロキシル基を有する有機酸としては、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。これらの有機酸は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらのうちでは、安定性に優れ、刺激臭がなく、且つ有機酸濃度に対する2価鉄イオン濃度が高いクエン酸が好ましい。
【0014】
上記「鉄源」は、2価鉄の供給源となる鉄及び/又は鉄元素を有する化合物であればよく、特に限定されない。鉄としては、ミルスケールを還元して製造される還元鉄粉、溶鋼を水でアトマイズして製造されるアトマイズ鉄粉等の鉄粉等を用いることができる。また、鉄元素を有する化合物としてはFeO、製鋼工程等で発生するミルスケールなどを用いることができる。FeOは、NaCl型の結晶構造を有し、主として鉄と酸素とからなる物質である。このFeOには、鉄原子の一部が遷移金属原子等で置換された物質、及び酸素原子の一部がハロゲン元素などの他の元素で置換された物質が含有されていてもよい。また、原子空孔を有する物質が含有されていてもよい。FeOは、通常、粉末状である。このFeOとしては、複合酸化物が含有され、FeOが第二水酸化鉄等になることが効率よく抑えられるFeOを用いることが好ましい。
【0015】
FeOに含有される複合酸化物としては、CaAl、FeAl、MgAl、CaFeSi、MgFeSi、CaSi、MgSi、CaFe、MgFe、CaFeO及びMgFeO等が挙げられる。これらの複合酸化物を含有することにより、溶出した2価の鉄イオンが第二水酸化鉄等になることが、効率よく抑えられる。この複合酸化物は、特にCaAl、FeAl、CaFeSi及びCaSiのうちの少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
上記「硫酸基を有する化合物」は、2価鉄イオンを徐放させる作用を有し、経時とともに低下する2価鉄の供給量の低減を抑えることができ、鉄分が継続的に供給される植物用鉄供給剤とすることができる。この化合物としては、硫酸基を有する各種の化合物を用いることができ、特に、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等の硫酸塩を用いることができる。また、硫酸を用いても同様の作用効果が得られる。硫酸塩のうちでは、硫酸カルシウムが好ましい。
【0017】
硫酸カルシウム(CaSO)は、無水の石膏、即ち、硬石膏であり、硫酸カルシウムの1/2水和物(CaSO・1/2HO)は半水石膏、2水和物(CaSO・2HO)は二水石膏である。狭義の石膏は二水石膏であるが、硬石膏、半水石膏及び二水石膏を併せて石膏ということもある。本発明の植物用鉄供給剤で、硫酸基を有する化合物として用いられる石膏も、硬石膏、半水石膏及び二水石膏を意味し、いずれの石膏を用いてもよいが、通常、半水石膏が用いられる。
【0018】
有機酸、鉄源及び硫酸基を有する化合物を混合してなる混合物は、植物用鉄供給剤としての作用効果を有し、このままでも鉄供給剤として用いることができるが、通常、増量剤とともに混合され、造粒されて用いられる。この増量剤の配合により、容易に粒状の取り扱い易い植物用鉄供給剤とすることができる。
上記「増量剤」は、造粒が容易であり、所定粒径の粒状物とすることができ、且つ鉄分供給の作用が損なわれない限り、特に限定されず、泥炭、ゼオライト、石灰石[炭酸カルシウム(CaCO)を主成分とする鉱物である。]、石膏、マグネサイト、フラッシュアイ、パーライト、バーミキュライト、酸性白土、珪灰石、蛙目粘度、蝋石クレー、セピオライト等が挙げられる。これらの増量剤のうちでは、泥炭、ゼオライト、石灰石が好ましい。また、硫酸基を有する化合物として用いられる石膏を増量剤として用いることもできる。
【0019】
有機酸、鉄源、硫酸基を有する化合物及び増量剤の各々の配合割合は特に限定されないが、有機酸、鉄源、硫酸基を有する化合物及び増量剤の合計を100質量%とした場合に、有機酸は3〜12質量%、鉄源は2〜35質量%、硫酸基を有する化合物は1.5〜7質量%であり、残部は増量剤であることが好ましい。有機酸、鉄源、硫酸基を有する化合物が上記の割合で配合されておれば、所要量の2価鉄が継続的に供給される植物用鉄供給剤とすることができる。また、鉄源はより多量に配合されていてもよく、例えば、FeO及び鉄粉等の場合、上限は75質量%、特に70質量%とすることもできる。
【0020】
更に、有機酸、鉄源及び硫酸基を有する化合物に対する増量剤の配合割合により、特に初期の2価鉄の供給量を多くすることができる。即ち、より多くの有機酸及び/又はFeOを含有する植物用鉄供給剤であれば、初期の2価鉄供給量が多くなるが、本発明の植物用鉄供給剤は、2価鉄の継続的な供給を目的としており、この観点で、有機酸及び鉄源、特に鉄源の配合量を設定することが好ましい。
【0021】
本発明の植物用鉄供給剤の使用方法は特に限定されず、例えば、土と混合する、土に撒布する、土中に埋める等の使用方法が挙げられる。また、水耕栽培用の培養液等と接触させて使用することもできる。
【0022】
[2]植物用鉄供給剤の製造方法
本発明の植物用鉄供給剤は、有機酸粉末、鉄源粉末、硫酸基を有する化合物の粉末及び増量剤粉末を、水を吹き付けながら混合し、その後、造粒し、次いで、造粒物を加熱して乾燥させ、その後、分級し、所定粒径の粒状物とすることにより製造することができる。
【0023】
上記「有機酸粉末」は、前記の各種の有機酸を主成分(通常、純度99%以上である。)とする粉末であり、その純度は特に限定されず、また、粉末であればよく、粒子の形状及び寸法等も特に限定されない。この有機酸粉末としては、クエン酸粉末が特に好ましい。
【0024】
上記「鉄源粉末」は、前記の鉄及び/又は鉄元素を有する化合物の粉末であり、粒子の形状及び寸法等は特に限定されない。また、鉄源粉末として、例えば、FeO粉末を用いる場合、このFeO含有粉末におけるFeOの含有量は特に限定されないが、通常、FeO含有粉末を100質量%とした場合に、50質量%以上、特に65質量%以上であることが好ましく、実質的に全量がFeOであってもよい。このFeO粉末は特に限定されず、市販の各種のFeO粉末を用いることができ、前記の複合酸化物を含有するFeO粉末を用いることが好ましい。また、鉄粉を用いる場合、この鉄粉も特に限定されず、前記の各種の鉄粉を用いることができる。
【0025】
FeO粉末には、前記のように、各種の複合酸化物が含有されていることが好ましい。これらの複合酸化物は1種のみ含有されていてもよく、2種以上含有されていてもよい。また、複合酸化物の含有量は、FeO粉末を100質量%とした場合に、0.5〜10質量%であることが好ましい。この範囲の含有量であれば抗酸化性に特に優れた植物用鉄供給剤とすることができる。更に、このFeO粉末粒子の形状は特に限定されず、粒径は5000μm以下であり、多種の粒径の粉末が混在したFeO粉末であってもよく、多孔性の粒子が含有されていてもよい。
【0026】
上記「硫酸基を有する化合物」は、前記の各種の化合物であり、性状は粉末であることが多いが、硫酸のように液体を用いることもできる。粉末である場合、粒子の形状及び寸法等は特に限定されない。また、特に好ましい化合物である石膏粉末としては、硬石膏粉末、半水石膏粉末及び二水石膏粉末のうちのいずれの石膏粉末を用いてもよいが、通常、半水石膏粉末が用いられる。
【0027】
上記「増量剤粉末」は、前記の各種の増量剤の粉末であり、前記の各種の増量剤の粉末であり、粒子の形状及び寸法等は特に限定されない。この増量剤粉末としては、泥炭粉末、ゼオライト粉末及び石灰石粉末のうちの少なくとも1種を用いることが特に好ましい。
【0028】
混合、造粒に供される有機酸粉末、鉄源粉末、硫酸基を有する化合物及び増量剤粉末の各々の配合量は特に限定されないが、有機酸粉末、鉄源粉末、硫酸基を有する化合物及び増量剤粉末の合計を100質量%とした場合に、有機酸粉末は3〜12質量%、鉄源粉末は2〜35質量%、硫酸基を有する化合物は1.5〜7質量%であり、残部は増量剤粉末であることが好ましい。有機酸粉末、鉄源粉末、硫酸基を有する化合物及び増量剤粉末が上記の割合で配合されておれば、所要量の2価鉄が継続的に供給される植物用鉄供給剤を容易に製造することができる。また、鉄源粉末はより多量に配合してもよく、例えば、FeO及び鉄粉等では、上限は75質量%、特に70質量%とすることもできる。
【0029】
本発明の植物用鉄供給剤の製造方法では、有機酸粉末、鉄源粉末、硫酸基を有する化合物及び増量剤粉末に、ノズル等から噴霧される水を吹き付けながら混合する。上記「水」は特に限定されず、種々の水を用いることができる。粉末等に対する水の使用量は特に限定されず、用いる各々の原料の種類等にもよるが、粉末等の全量と水との合計量を100質量%とした場合に、5〜15質量%、特に7〜13質量%とすることができる。水の使用量が5〜15質量%であれば、造粒し易い適度な流動性を有する混合物とすることができる。
【0030】
また、混合と造粒は、連続的になされてもよく、連続していなくてもよいが、連続的になされることが好ましい。例えば、混合機が付設された造粒機を用いて、各々の粉末と水とを混合しながら、得られる混合物を連続的に造粒工程へと移送し、連続的に造粒する方法が好ましい。
【0031】
混合と造粒の後、各々の粉末と水とを含有する造粒物を加熱し、乾燥させる。この加熱、乾燥の方法は特に限定されず、減圧加熱乾燥でもよく、常圧加熱乾燥でもよい。また、加熱温度は特に限定されないが、造粒物が過度に加熱されることなく、且つ効率よく乾燥させるためには、60〜140℃、特に70〜120℃とすることが好ましい。
【0032】
乾燥された造粒物は、その後、室温(例えば、20〜35℃)付近の温度まで降温させ、分級して粒状物とし、この粒状物を植物用鉄供給剤として用いる。造粒物の降温は、放冷による自然冷却でもよく、強制冷却でもよいが、特に強制冷却する必要はなく、自然冷却でよい。降温された造粒物は振動篩等の分級機により分級することができ、所定粒径の粒状物とすることができる。粒状物の粒径は特に限定されないが、2〜6mm、特に3〜5mmであることが好ましい。また、粒状物の粒径はより均一であることが好ましく、粒径が均一であれば、2価鉄の供給がより継続的になされる植物用鉄供給剤とすることができる。この均一とは、粒径が2〜6mmの粒子の割合が、粒状物の全量の60%以上、特に70%以上と高いことを意味する。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1〜3、比較例1〜3及び参考例
(1)実施例1〜3、比較例1〜3及び参考例の植物用鉄供給剤の製造
パン型造粒機(ナカガワ社製、パン径;1500mm)に、表1に記載の原料を表1に記載の質量割合(単位は質量%、原料の合計を100質量%とする。)で投入し、パンの傾斜角度55°、噴霧水量11質量部(原料の合計を100質量部とする。)、パンの回転数15回/分、回転時間4分の条件で混合し、造粒した。
【0034】
(2)造粒物の乾燥及び分級
上記(1)で得られた造粒物を、造粒機に近接して配置されたロータリードライヤ(エスアールイー社製)に供給し、設定温度90℃で30分から2時間加熱して乾燥させた。その後、乾燥した造粒物を土間にて自然風にあて粗熱を除去し、次いで、分級機(興和工業所製)により分級し、粒状物を得た。この粒状物が植物用鉄供給剤である。原料の合計量、並びに粗熱除去後の造粒物及び粒状物の各々の収量は一定ではないが、粗熱除去後の造粒物に対する粒状物の割合[(粗熱除去後の造粒物−粒状物)/粗熱除去後の造粒物]×100は平均で60%であった。
尚、参考例は、所定の組成であって、石膏が配合されていない標準的な比較品である。
【0035】
(3)粒状物の平均粒径及び平均強度
上記(2)で得られた粒状物から30粒の粒子を任意に選び出し、各々の粒子の最大寸法をデジタルノギスにより測定した。また、寸法測定後のそれぞれの粒子の強度をデジタルフォースゲージにより測定した。その後、30粒の粒子の最大寸法及び強度の各々の平均値を算出した。実施例1〜3及び比較例1〜3の植物用鉄供給剤の平均粒径及び平均強度を表1に併記する。
【0036】
(4)2価鉄及び全鉄の各々の溶出量の測定
実施例1〜3、比較例1〜3及び参考例の各々の植物用鉄供給剤を、ビーカーに15g投入し、更に150ミリリットルの水を投入し、30分間静置した後、濾過した。そして、簡易鉄定量分析装置(関東化学社製、型式「RQ−フレックス」)の試験紙の指示薬部を濾液に浸漬し、この試験紙を本体に装着して2価鉄量を測定した。また、10ミリリットルの濾液にスパチュラ一杯のアスコルビン酸を加え、同様の操作により全鉄量を測定した。その後、濾過時、濾材上に残留した植物用鉄供給剤を、同様して水に投入し、30分間静置した後、濾過し、同様にして2価鉄量及び全鉄量を測定した。この操作を6回繰り返し、それぞれの繰り返し時点における2価鉄量と全鉄量の推移をみた。結果を表2及び図1(繰り返し回数と2価鉄量との相関)に記載する。
【0037】
【表1】

「PVA」はポリビニルアルコールを表し、PVA欄の(10)は、濃度20質量%のPVA水溶液を10質量%配合したという意味である。
【0038】
【表2】

2価鉄量及び全鉄量の単位はmg/リットルであり、効率は(2価鉄量/全鉄量)×100(%)である。
【0039】
表1によれば、バインダとして石膏又はベントナイトを用いた場合は、所定の粒径であり、且つ十分な強度を有する粒状物が得られているが、バインダとしてPVAを用いたときは、粒径が小さく、強度が低いことが分かる。また、表2及び図1によれば、繰り返し回数とともに溶出する2価鉄量が低下していく傾向は同様であるが、実施例1〜3と比べて比較例1〜3及び参考例では、より大きく低下していることが分かる。即ち、1〜6回で溶出した2価鉄の全合計量に対する後半の4〜6回で溶出した2価鉄の合計量の割合でみると、実施例1〜3では0.19〜0.33であり、比較例1〜3では0.06〜0.13、参考例では0.09であって、実施例1〜3ではより多くの2価鉄がより長く継続して溶出していることが分かる。また、6回目において測定した全鉄量に対する2価鉄の割合[(2価鉄量/全鉄量)×100(%)、表2では「効率」と表記する。]でみると、実施例1〜3では0.29〜0.55であり、比較例1〜3では0.19〜0.26、参考例では0.08であって、溶出試験を6回繰り返した後も、実施例1〜3では全鉄に対する2価鉄の割合が高く、2価鉄がより効率よく溶出していることが分かる。尚、石膏の配合でみると、2質量%と少ない実施例1が最も良好な結果である。
【0040】
実施例4〜6及び比較例4〜8
表3に記載のように、クエン酸及びFeOを少し増量し、バインダとして石膏を6質量%配合(実施例4〜6)、バインダとしてベントナイトを6質量%配合(比較例7〜8)、バインダ及び増量剤を配合しない(比較例4〜6)とした他は、前記(1)、(2)のようにして植物用鉄供給剤を製造し、前記(4)と同様にして2価鉄及び全鉄の溶出量を測定した。また、溶出の操作は7回繰り返した。更に、前記と同様にして効率を算出した。結果を表3に併記する。また、図2〜4に記載する(図2は繰り返し回数と2価鉄量との相関、図3は繰り返し回数と全鉄量との相関、図4は繰り返し回数と効率との相関である。)。
【0041】
【表3】

2価鉄量及び全鉄量の単位はmg/リットルであり、効率は(2価鉄量/全鉄量)×100(%)である。
【0042】
表3及び図2〜4によれば、実施例4〜6では、1回目から7回目の全てにおいて、比較例4〜8と比べて効率が高く、4回目以降、特に6回目以降では効率の差が顕著である。また、1回目〜3回目、特に1回目における全鉄の溶出量では比較例4〜8が多いものの、比較例4〜8では、4回目以降、特に2価鉄の溶出量が大きく低下し、6回目及び7回目では、全鉄量は比較例4〜8が少し多いものの、2価鉄量は実施例4〜6が多く、効率でみれば上記のように実施例4〜8が優れている。このように、バインダとして石膏が配合されている場合、植物用鉄供給剤として用いたときに、2価鉄がより継続的に溶出し、供給されることが推察される。
【0043】
実施例7〜13
溶出試験の1回目における2価鉄の溶出量が80〜110mg/リットル程度であり、全鉄量の溶出量が200〜250mg/リットル程度である場合、より多く、且つより長期に亘って鉄分を必要とする苺等の水耕栽培に好ましいため、そのような溶出量となる原料組成を検討した。
クエン酸、FeO、石膏及び泥炭の配合割合を表4に記載のようにした他は、前記(1)、(2)と同様にして植物用鉄供給剤を製造し、前記(4)と同様にして2価鉄及び全鉄の溶出量を測定した。また、溶出の操作は7回繰り返した。更に、前記と同様にして効率を算出した。結果を表4に併記する。また、図5〜7に記載する(図5は繰り返し回数と2価鉄量との相関、図6は繰り返し回数と全鉄量との相関、図7は繰り返し回数と効率との相関である。)。
【0044】
【表4】

2価鉄量及び全鉄量の単位はmg/リットルであり、効率は(2価鉄量/全鉄量)×100(%)である。
【0045】
表4及び図5〜7によれば、所定量のクエン酸、FeO、石膏及び泥炭が配合された各々の実施例では、6回目、7回目であっても、十分な量の2価鉄が溶出しており、高い効率が維持されていることが分かる。また、クエン酸が4.5質量%であり、FeOが3.5〜4.5である実施例11〜13では、6回目、7回目における効率がより高いことが分かる。このように、3.5〜4.5質量%のクエン酸、3.5〜5.5質量%のFeO及び2質量%の石膏を配合した場合、植物用鉄供給剤として用いたときに、2価鉄がより継続して供給されることが推察される。
【0046】
実施例14
これまでの溶出試験で良好な結果が得られている4.5質量%のクエン酸、3質量%のFeO、2質量%の石膏及び90.5質量%の泥炭の組成(実施例1の組成)の植物用鉄供給剤を、前記(1)、(2)と同様にして製造し、前記(4)と同様にして繰り返し回数2回目のみ2価鉄及び全鉄の溶出量を測定した。また、同様にして製造した参考例の植物用鉄供給剤についても、同様に繰り返し回数2回目のみ2価鉄及び全鉄の溶出量を測定した。その結果、実施例14の植物用鉄供給剤では2価鉄量が35mg/リットル、全鉄量が90mg/リットルであり、参考例の植物用鉄供給剤では2価鉄量が12mg/リットル、全鉄量が101mg/リットルであった。
【0047】
更に、上記の2回目の溶液を、ATR−FTIRにて測定した。測定条件は16回スキャニングとした。また、空気及び水との差スペクトルをとり、実施例14及び参考例の赤外線吸収スペクトルとし、これらのスペクトルの差スペクトルをとり、官能基をデータベースから呼び出してフィッティングを手動にて行った。結果は図8のとおりである。
【0048】
図8のスペクトルによれば、波数2300cm−1付近のピークは水に溶け込んだCOと判断される。また、1650cm−1付近及び2800〜3000cm−1付近のピークは、クエン酸由来のCOOHのOH伸縮振動によるものと判断される。一方、両者の差スペクトルをとると、1300cm−1付近、2300cm−1付近及び2800〜3000cm−1付近にピークが存在する。これらのうち、1300cm−1付近及び2800〜3000cm−1付近のピークは、石膏に由来するSOOHの振動によるものと判断される(2800〜30001300cm−1付近は図中A1、A2の強度比をみると、それぞれ0.5及び0.56になることから何らかのピークが重なっていることが予測される。これにより、このビーク位置に原料に由来するSOOHがあると判断した。)。このように、実施例14の溶出液には参考例の溶出液にはない硫酸基に由来するピークがあることから2価鉄の溶出比率が高くなると考えられる。また、差スペクトルには2300cm−1付近にCOに由来するピークがみられることから、硫酸基の影響で溶解しているCOのバランスが変化している可能性もあると思われる。これらのことを総括すると、石膏の硫酸基が溶解し、クエン酸のCOOH基と何らかの相関を持つことにより、相対的に2価鉄が増加しているものと考えられる。
【0049】
実施例15〜20
石膏を2質量%に固定し、クエン酸及び/又はFeOを増量したときの前記の効率を算出し、検討した。
クエン酸、FeO、石膏及び泥炭の配合割合を表5に記載のようにした他は、前記(1)、(2)と同様にして植物用鉄供給剤を製造し、前記(4)と同様にして2価鉄及び全鉄の溶出量を測定し、前記と同様にして効率を算出した。また、溶出の操作は6回繰り返した。結果を表5に併記する。更に、図9に記載する。
【0050】
【表5】

効率は(2価鉄量/全鉄量)×100(%)である。
【0051】
表5及び図9によれば、実施例15〜20では、クエン酸が2.5〜10.5質量%であるときに、FeOが10質量%であっても、20質量%であっても、効率が40%以上と高く、即ち、2価鉄の比率が高く、優れた植物用鉄供給剤である。また、溶出試験の繰り返し回数が4〜6回目、特に6回目であっても、クエン酸及びFeOの配合量に関係なく、高い効率が維持されており、2価鉄が継続的に溶出していることが分かる。
【0052】
実施例21及び比較例9
クエン酸に代えてアスコルビン酸を使用し、4.5質量%のアスコルビン酸、3質量%のFeO、2質量%の石膏及び90.5質量%の泥炭を、パン型造粒機(アズワン社製、パン径;250mm)に投入し、霧吹きにより、目視で原料全体が湿る程度に水を吹き付け、パンの回転数40回/分、回転時間4分の条件で混合し、造粒した。その後、温度90℃で48時間加熱して乾燥させ、次いで、分級し、粒径3〜5mmの粒状物を得た。この粒状物が植物用鉄供給剤である。その後、前記(4)と同様にして2価鉄及び全鉄の溶出量を測定し、前記と同様にして効率を算出した。また、石膏を配合しなかった他は、実施例21と同様にして植物用鉄供給剤を製造し、同様にして2価鉄及び全鉄の溶出量を測定し、同様にして効率を算出した(比較例9)。溶出の操作は6回繰り返した。結果を表6に記載する。また、図10に記載する。
【0053】
【表6】

2価鉄量及び全鉄量の単位はmg/リットルであり、効率は(2価鉄量/全鉄量)×100(%)である。
【0054】
表6及び図10によれば、有機酸としてアスコルビン酸を用いた実施例21の場合、クエン酸を用いたときと同様に溶出試験を繰り返した後も、高い効率が維持されている。このように、有機酸としてアスコルビン酸を用いたときも同様の作用効果が得られることが分かる。一方、石膏が配合されていない比較例9では、初期の効率は高いものの、繰り返し回数とともに効率が大きく低下していることが分かる。
【0055】
実施例22〜25及び比較例10〜13
鉄源としてFeOに代えて鉄粉(還元鉄粉、粒度約80μm)を使用し、表7に記載の配合量のクエン酸、鉄粉、石膏及び泥炭を用いて、実施例21と同様して粒径3〜5mmの粒状物からなる植物用鉄供給剤を製造した(実施例22〜25)。また、石膏を配合せず、表7に記載の配合量のクエン酸、鉄粉及び泥炭を用いて、実施例21と同様して粒径3〜5mmの粒状物からなる植物用鉄供給剤を製造した(比較例10〜13)。これらの植物用鉄供給剤について前記(4)と同様にして2価鉄及び全鉄の溶出量を測定した。溶出の操作は6回繰り返した。更に、前記と同様にして効率を算出した。結果を表7に併記する。また、図11〜13に記載する(図11は繰り返し回数と2価鉄量との相関、図12は繰り返し回数と全鉄量との相関、図13は繰り返し回数と効率との相関である。)。
【0056】
【表7】

2価鉄量及び全鉄量の単位はmg/リットルであり、効率は(2価鉄量/全鉄量)×100(%)である。
【0057】
表7及び図11〜13によれば、鉄源として鉄粉を用いた実施例22〜25の場合、FeOを用いたときと同様に溶出試験を繰り返した後も、高い効率が維持されている。このように、鉄源として鉄粉を用いたときも同様の作用効果が得られることが分かる。また、実施例22〜25のうちでは、鉄粉の配合量が少ない実施例22、23の場合、よりよい結果が得られている。一方、石膏が配合されていない他は実施例と同様の組成である比較例10〜13では、後半の4〜6回目、特に6回目における効率が組成が対応する実施例と比べて低く、劣っている。
【0058】
実施例26及び比較例14
鉄源としFeOに代えてミルスケール(成分は、Feを含有せず、FeOを60質量%、Feを33質量%、Feを7質量%含有する。)を使用し、表8に記載の配合量のクエン酸、ミルスケール、石膏及び泥炭を用いて、実施例21と同様して粒径3〜5mmの粒状物からなる植物用鉄供給剤を製造した(実施例26)。また、石膏を配合せず、表8に記載の配合量のクエン酸、ミルスケール及び泥炭を用いて、実施例21と同様して粒径3〜5mmの粒状物からなる植物用鉄供給剤を製造した(比較例14)。これらの植物用鉄供給剤について前記(4)と同様にして2価鉄及び全鉄の溶出量を測定し、前記と同様にして効率を算出した。溶出の操作は6回繰り返した。結果を表8に併記する。また、図14に記載する(図14は繰り返し回数と効率との相関である。)。
【0059】
【表8】

2価鉄量及び全鉄量の単位はmg/リットルであり、効率は(2価鉄量/全鉄量)×100(%)である。
【0060】
表8及び図14によれば、鉄源としてミルスケールを用いた実施例26の場合、1〜6回目の全てで、石膏が配合されていない比較例14と比べて効率が高く、特に5、6回目では比較例14を大きく上回っている、このように、鉄源としてミルスケールを用いたときも同様の作用効果が得られることが分かる。
【0061】
実施例27及び参考例
石膏に代えて硫酸を使用し、4.5質量%のクエン酸、3質量%のFeO及び92.5質量%の泥炭を用いて、実施例21と同様して粒径3〜5mmの粒状物からなる植物用鉄供給剤を製造した(実施例27)。尚、硫酸としては95質量%の水溶液を使用し、クエン酸、FeO及び泥炭の合計200gに対して10mlの硫酸をスポイトにより原料全体に均等に滴下し、その後、水を吹き付け、薬さじにより十分に練り込み、次いで、造粒した。また、硫酸を配合せず、4.5質量%のクエン酸、3質量%のFeO及び92.5質量%の泥炭を用いて、前記と同様して粒径3〜5mmの粒状物からなる植物用鉄供給剤を製造した(参考例)。これらの植物用鉄供給剤について前記(4)と同様にして2価鉄及び全鉄の溶出量を測定した。溶出の操作は6回繰り返した。更に、前記と同様にして効率を算出した。結果を表9に記載する。また、図15に記載する。
【0062】
【表9】

2価鉄量及び全鉄量の単位はmg/リットルであり、効率は(2価鉄量/全鉄量)×100(%)である。
【0063】
表9及び図15によれば、硫酸基を有する化合物として硫酸を用いた実施例27の場合、石膏を用いたときと同様に溶出試験を繰り返した後も、極めて高い効率が維持されている。このように、化合物として硫酸を用いたときも同様の作用効果が得られることが分かる。一方、硫酸が配合されていない参考例では、初期から6回繰り返し後の全てにおいて2価鉄及び全鉄の溶出量が少なく、且つ効率が低いことが分かる。
【0064】
実施例28〜29及び比較例15〜16
増量剤として泥炭に代えてゼオライト又は石灰石を使用し、表10に記載の配合量のクエン酸、FeO、石膏及び増量剤を用いて、実施例21と同様して粒径3〜5mmの粒状物からなる植物用鉄供給剤を製造した(実施例28〜29)。また、石膏を配合せず、表10に記載の配合量のクエン酸、FeO及び泥炭を用いて、実施例21と同様して粒径3〜5mmの粒状物からなる植物用鉄供給剤を製造した(比較例15〜16)。これらの植物用鉄供給剤について前記(4)と同様にして2価鉄及び全鉄の溶出量を測定し、前記と同様にして効率を算出した。溶出の操作は6回繰り返した。結果を表10に併記する。また、図16に記載する(図16は繰り返し回数と効率との相関である。)。
【0065】
【表10】

効率は(2価鉄量/全鉄量)×100(%)である。
【0066】
表10及び図16によれば、増量剤としてゼオライト又は石灰石を用いた実施例28、29の場合、1〜6回目のほぼ全てで、石膏が配合されていない比較例15、16と比べて効率が高く、特に5、6回目では比較例15、16を大きく上回っている、このように、増量剤としてゼオライト又は石灰石を用いたときも同様の作用効果が得られることが分かる。
【0067】
実施例30〜31及び比較例17〜18
クエン酸を10.5質量%に増量して、この配合量に固定し、且つ石膏を2質量%に固定し、増量剤としてゼオライトを使用し、FeOを増量したときの2価鉄量、全鉄量を測定し、効率を算出し、検討した。
クエン酸、FeO、石膏及びゼオライトの配合割合を表11に記載のようにした他は、実施例21と同様にして植物用鉄供給剤を製造した(実施例30〜31)。また、石膏を配合せず、表11に記載の配合量のクエン酸、FeO及びゼオライトを用いて、実施例21と同様して植物用鉄供給剤を製造した(比較例17〜18)。これらの植物用鉄供給剤について前記(4)と同様にして2価鉄及び全鉄の溶出量を測定し、前記と同様にして効率を算出した。溶出の操作は6回繰り返した。結果を表11に併記する。また、図17に記載する(図17は繰り返し回数と効率との相関である。)。
【0068】
【表11】

効率は(2価鉄量/全鉄量)×100(%)である。
【0069】
表11及び図17によれば、増量剤としてゼオライトを使用し、クエン酸及びFeOを増量した実施例32、33の場合、1〜6回目の全てで、石膏が配合されていない比較例17、18と比べて効率が高く、増量剤としてゼオライトを使用し、クエン酸を10.5質量%に増量し、FeOを10質量%及び35質量%に増量したときも同様の作用効果が得られることが分かる。
【0070】
実施例32〜33及び参考例
水耕栽培を模擬して36日間とより長期に亘る溶出試験をし、継続的な溶出がなされるか否かを確認した。
クエン酸、FeO、石膏及び泥炭の配合割合を表12に記載のようにした他は、実施例21と同様にして植物用鉄供給剤を製造した(実施例32〜33)。また、石膏を配合せず、表12に記載の配合量のクエン酸、FeO及び泥炭を用いて、実施例21と同様して植物用鉄供給剤を製造した(参考例)。これらの植物用鉄供給剤について、水耕栽培を模擬した溶出試験を以下のようにして実施した。
【0071】
網目寸法5μmのナイロン製メッシュを用いて、短辺50mm、長辺100mmの袋状容器(短辺のうちの一方を開口させておく。)を作製し、開口部から実施例32、33及び参考例の植物用鉄供給剤を各々5g入れた後、開口部をヒートーシーラーでシールし、試験体を準備した。また、上部開口側の寸法が縦200mm、横140mm、底部側の寸法が縦170mm、横110mmであり、深さが30mmであるプラスチック製トレーに、縦170mm、横110mm、厚さ30mmの樹脂スポンジを入れ、次いで、100ミリリットルの蒸留水を、樹脂スポンジ全体に行き渡るように染み込ませ、この樹脂スポンジ上に上記の試験体を載せた。この状態で、室温(20〜24℃)において24時間経過後、試験体を、同様にして準備した、トレーに入れられた水を染み込ませた樹脂スポンジ上に移動させた。このような操作を1日に1回36日間繰り返した。
【0072】
上記のようにして試験体を24時間載せておいた樹脂スポンジには、試験体から溶出した鉄分が含有されており、5、8、13、21、22、27及び36日目に、樹脂スポンジからビーカーに水を絞り出した水溶液を用いて前記(4)と同様にして全鉄量を測定した。この溶出試験は36日間を通じて上記室温で実施した。結果を表12に併記する。また、図18は、実施例32、33及び参考例の、経過日数と、それぞれの日において測定した全鉄量、各々の日に溶出した全鉄量の試験前の試料(植物用鉄供給剤)における鉄含有量に対する割合、及び実施例32、33の割合の参考例の割合に対する比との相関を表す。
【0073】
【表12】

割合は、(それぞれの経過日において測定した全鉄溶出量/試験前の5gの試料における鉄含有量)×100(%)である。また、参考例に対する割合の比は(各々の実施例の割合/参考例の同じ経過日における割合)である。
【0074】
表12及び図18によれば、FeOが10質量%の実施例32、及びFeOが20質量%の実施例33のいずれの場合も、試験前の試料(植物用鉄供給剤)における鉄含有量が参考例に比べて多いことを考慮しても、溶出する全鉄量の絶対値が参考例に比べて相当に多いことが分かる。また、溶出割合は、溶出試験初期(5日目)では参考例に比べて低いものの、8日目以降は経過日によって変動はあるものの溶出割合が参考例より高く、36日経過する間、継続してより効率よく鉄分が溶出していることが分かる。
【0075】
尚、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、目的、用途等に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。例えば、増量剤としてはドロマイト等を用いることもできる。また、土壌に散布して用いることにより、植物が地下の根から2価鉄イオンを取り込む態様ばかりでなく、この植物成長促進剤を水に浸漬し、溶出した2価鉄イオンを主体とする液体を、果樹及び花卉に対する鉄供給剤として葉面散布剤して用いた場合も、2価鉄イオンを地上部組織から細胞内に吸収することができ、地下部から鉄イオンを取り込むときと同様に成長促進の作用効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、農林業の広範な分野において利用することができる。例えば、農産物の生産、園芸植物の生産、公園、ゴルフ場、高速道路等の道路の中央分離帯及び側帯等における植栽の保全、並びに森林保護などにおいて幅広く利用することができ、各種の農産物の生産分野における植物成長促進剤として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基を有する有機酸と、鉄源と、硫酸基を有する化合物と、が水の存在下に混合され、その後、該水が除去されてなることを特徴とする植物用鉄供給剤。
【請求項2】
上記有機酸として、少なくともクエン酸を含有する請求項1に記載の植物用鉄供給剤。
【請求項3】
上記鉄源として、FeO及び鉄粉のうちの少なくとも一方を含有する請求項1又は2に記載の植物用鉄供給剤。
【請求項4】
上記硫酸基を有する化合物が石膏である請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の植物用鉄供給剤。
【請求項5】
上記混合時に増量剤が混合され、該増量剤が泥炭、ゼオライト及び石灰石のうちの少なくとも1種である請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の植物用鉄供給剤。
【請求項6】
上記有機酸、上記鉄源、上記硫酸基を有する化合物及び上記増量剤の合計を100質量%とした場合に、該有機酸は3〜12質量%、該鉄源は2〜35質量%、該硫酸基を有する化合物は1.5〜7質量%である請求項5に記載の植物用鉄供給剤。
【請求項7】
有機酸粉末、鉄源粉末、硫酸基を有する化合物及び増量剤粉末を、水を吹き付けながら混合し、その後、造粒し、次いで、造粒物を加熱して乾燥させ、その後、分級し、所定粒径の粒状物とすることを特徴とする植物用鉄供給剤の製造方法。
【請求項8】
上記有機酸粉末として、少なくともクエン酸粉末を含有する請求項7に記載の植物用鉄供給剤の製造方法。
【請求項9】
上記鉄源粉末として、FeO粉末及び鉄粉のうちの少なくとも一方を含有する請求項7又は8に記載の植物用鉄供給剤の製造方法。
【請求項10】
上記硫酸基を有する化合物が石膏である請求項7乃至9のうちのいずれか1項に記載の植物用鉄供給剤の製造方法。
【請求項11】
上記増量剤粉末が、泥炭粉末、ゼオライト粉末及び石灰石粉末のうちの少なくとも1種である請求項7乃至10のうちのいずれか1項に記載の植物用鉄供給剤の製造方法。
【請求項12】
上記有機酸粉末、上記鉄源粉末、上記硫酸基を有する化合物及び上記増量剤粉末の合計を100質量%とした場合に、該有機酸粉末は3〜12質量%、該鉄源粉末は2〜35質量%、該硫酸基を有する化合物は1.5〜7質量%である請求項7乃至11のうちのいずれか1項に記載の植物用鉄供給剤の製造方法。
【請求項13】
上記粒状物の平均粒径が2〜6mmである請求項7乃至12のうちのいずれか1項に記載の植物用鉄供給剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−228951(P2010−228951A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76806(P2009−76806)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000116655)愛知製鋼株式会社 (141)
【Fターム(参考)】