説明

植物由来ポリカーボネート樹脂及びその製造方法

【課題】環境適合性の新規な植物由来のポリポリカーボネート樹脂を提供。
【解決手段】複数のヒドロキシ基を有する植物由来素材を炭酸エステル基により連結して前記植物由来素材を高分子化したことを特徴とする植物由来ポリカーボネート樹脂及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来素材を原料とするポリカーボネート樹脂に関する。更に詳しくは植物由来の素材を骨格とし、成形加工性や強度、熱安定性に優れた植物由来のポリカーボネート樹脂及びその製造方に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油資源の大量利用から地球温暖化や資源枯渇が懸念され、省資源化、省エネルギ化等が進められている。その中で植物資源を原料とする樹脂開発が期待されている。その一つとして植物由来の素材を原料とするポリカーボネート樹脂がある。5大汎用エンジニアプラスチックのひとつであるポリカーボネート樹脂は芳香族や脂肪族のジオキシ化合物を単酸エステル基により、連結させた樹脂であり、特にビスフェノールA(2,2−ビス(4−ヒドロオキシフェニル)プロパン)より得られるものは成形性、耐熱性、強度等に優れた性能を示し、幅広い分野に利用されている。
【0003】
植物由来樹脂として、これまでにポリ乳酸やポリブチレンサクシネートが知られている。しかし、これらは成形性や強度が十分とは言えなかった。植物由来の素材としてリグニン、リグノフェノール、タンニン、キシリトール、キシロース、ソルビトール、セルロースなどがある。その中でリグニンは、植物成分中にセルロースに次いで大量に存在し、その構造は耐熱骨格のポリフェノールである。リグニンやリグニン誘導体であるリグノフェノールをエポキシ樹脂や硬化剤に用いたエポキシ樹脂硬化物は優れた耐熱性を示すことが知られている(特許文献1)。
【0004】
一方、石油由来の素材であるビスフェノールAはエポキシ樹脂やポリカーボネート樹脂の原料に多く用いられている。我が国における内分泌かく乱物質(環境ホルモン)問題の発端となった化学物質である。最近の研究で、環境から検出されるような低濃度では人体への影響を及ぼさないことが報告され、環境ホルモン騒動は急速に鎮静化した。しかし、新たなリスク知見も出現していること、又、水棲生物に対する影響が無視できないことなどから、それらの心配のない、カーボンニュートラル素材である植物由来のポリカーボネート樹脂に替われるなら、それらの点から望ましい。
【0005】
植物由来のポリカーボネート樹脂の背景技術のひとつとして、特許文献2がある。この公報には、テルペンジオールの構成単位を含んでなるポリカーボネート樹脂である。この場合、テルペンジオールの原料であるイソソルビドはデンプンを水素添加した後、脱水反応で得られる。しかし、デンプンは食糧であり、将来の食糧危機が予想される中、これらをポリカーボネート樹脂原料に用いるのは好ましくない。更に、背景技術として特許文献3がある。この公報は、石油由来のポリカーボネート樹脂に植物由来のポリ乳酸樹脂をブレンドしているものである。用いられているポリ乳酸も、トウモロコシやサツマイモを原料とするため、これをポリカーボネート樹脂の原料に用いるのは好ましくない。
【0006】
そこで本発明者は、人間の食料でなく植物に多量に含まれ、しかも現在、多くが廃棄されている植物由来素材を原料とする植物由来のポリカーボネートを検討し、本発明に到達した。
【0007】
本発明の植物由来ポリカーボネート樹脂は、水酸基を有するリグニン、リグニン誘導体のような非食性の植物由来素材を炭酸エステル化して得るものである。一般に、従来の石油由来のポリカーボネート樹脂も、ビスフェノールAの水酸基を炭酸エステル化してポリカーボネート樹脂を得ている。ビスフェノールAはヒドロキシ基を二個有する化合物のため、ポリカーボネート樹脂は線状の熱可塑性樹脂となる。そのため成形性と強度が両立する樹脂である。それに対し、植物由来素材は、水酸基を複数有するものが多い。これらを炭酸エステル化して得られるポリカーボネート樹脂は不溶、不融の樹脂になると考えるのが、この業界の常識である。そこで我々は、溶解性と強度を両立する非食性の植物由来素材を用いたポリカーボネート樹脂を得るため、鋭意検討した。着目点は植物由来素材の水酸基の反応性の低さであった。特許文献4には植物由来素材のリグニンに含まれる多くの水酸基のうち25%しか反応しないことが述べられている(特許文献4)。
【0008】
その理由として、特許文献4には述べられていないが、本発明者はリグニンの複数のヒドロキシ基が隣接するメトキシ基やリグニン自身の立体障害等により未反応割合が高く、その結果、ヒドロキシ基の反応率が低くなると考えた。そこで、その考えを利用し、リグニンの炭酸エステル化を抑制して合成を行えば、成形性が大きく改良されると判断し、合成を行った。その結果、合成した植物由来ポリカーボネート樹脂は溶媒溶解性、成形性と共に強度等に多くの優れた点を有することが分かり、本発明に到達した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−241855号公報
【特許文献2】特開2010−083905号公報
【特許文献3】特開2010−150424号公報
【特許文献4】特開2009−084320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、汎用樹脂として用いられる新規なポリカーボネート樹脂
を提供することであり、植物由来素材の選択により、成形性に優れた樹脂及び耐熱性
と機械的強度に優れたポリカーボネート樹脂を提供することである。特にリグニン又
はリグニン誘導体を使用すると、原料の植物由来素材が多官能性であるにも拘わらず、
成形性や強度などに優れた性能を有するポリカーボネート樹脂を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下本発明の主要な解決手段を順次説明する。
(1)複数のヒドロキシ基を有する植物由来素材を炭酸エステル基で連結して高分子化したことを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【0012】
植物由来素材としてはリグニン及びその誘導体及びタンニンがフェノール性化合物で、耐熱性、機械的特性に優れたポリカーボネート樹脂を得るのに適している。キシロース、キシリトール、ソルビトール、セルロース類は脂環式または直鎖状の素材の場合には、リグニン又はその誘導体を素材とするポリカーボネート樹脂よりも耐熱性や機械的強度は高くないが、溶剤溶解性がすぐれ、新しいポリカーボネート樹脂素材として使用し得る。また、植物油も植物由来素材として用い得るが、通常の植物油は食用、医薬品などとして利用されているので、食料資源問題を考えた時にあまり好ましい素材とは言えない。ただし、藻類から分離されるある種の植物油や食用に適しないとされるコパイバ油、石油ナット油などの植物油は、資源の有効活用が図れるならば利用価値のある素材である。しかしながら、本発明は、食用や医薬に利用されている植物油を植物由来素材として利用することを全面的に否定するものではない。
【0013】
なお、本発明のポリカーボネート樹脂は、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、アセトン、トルエン、キシレン、ベンゼン、クロロホルム、テトラリン、テトラヒドロフラン、酢酸ブチル、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジエチルエーテルなどの一般的な有機溶媒に溶解可能であるので、各種用途に応用可能である。また、本発明のポリカーボネート樹脂は、他の樹脂成分などとの混練やシート化などが容易である。
(2)植物由来素材がリグニン、リグノフェノール、タンニン、キシリトール、キシロース、ソルビトール、セルロース類、植物油の群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする前記(1)のポリカーボネート樹脂。
【0014】
リグニン、リグノフェノール、タンニンなどのリグニン及びリグニン誘導体はいずれも芳香族環を有し、耐熱性、機械的強度に優れたポリカーボネート樹脂を充てることができる。
(3)重量平均分子量が300〜8000の植物由来素材を用いたことを特徴とする前記(1)又は(2)記載のポリカーボネート樹脂。
(4)重量平均分子量が2000〜60000であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載のポリカーボネート樹脂。
(5)複数のヒドロキシ基を持つ植物由来素材と二官能の石油由来素材を混合し、それらの水酸基を炭酸エステル基に変換したポリカーボネート樹脂の共重合体であることを特徴とするポリカーボネート樹脂。
(6)前記(1)記載の植物由来のポリカーボネート樹脂と、石油由来のポリカーボネート樹脂との混合物を混錬したことを特徴とするポリカーボネート樹脂混合物。
(7)メルトフローレートが35g以上で、且つ曲げ強度が60MPa以上であることを特徴とする前記(1)、(5)又は(6)記載の植物由来素材のポリカーボネート樹脂。
(8)前記(1)、(5)又は(6)記載の植物由来素材を含むポリカーボネート樹脂から製造した成形品を用いたことを特徴とする電気掃除機、テレビ受像機、冷蔵庫、洗濯機などの各種電化製品あるいは自動車部品など。
(9)前記植物由来素材を含むポリカーボネート樹脂の水酸基の一部もしくは、全部に少なくとも一種類の置換基を導入したことを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
(10)植物由来素材のヒドロキシ基を炭酸エステル基に変換して植物由来素材を高分子化することを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
(11)前記炭酸エステル基に変換するために前記植物由来素材をホスゲンを反応させるか溶融重合法により反応させることを特徴とする前記(10)記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、植物由来素材を骨格とする、環境適合型の新規な熱可塑性ポリカーボネート樹脂を提供することができる。特にリグニン又はリグニン誘導体を植物由来素材として用いると、有機溶媒に対する溶解性、耐熱性、機械的特性に優れた新規なポリカーボネート樹脂が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】リグニン由来ポリカーボネート樹脂の反応機構を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において前記(1)及び(5)に記載したように植物由来ポリカーボネート樹脂や、植物由来素材と従来の石油由来素材の水酸基を炭酸エステル化して得た共重合体ポリカーボネート樹脂を得る合成法として、ホスゲン法や溶融重合法がある。
【0018】
石油由来のビスフェノールAを原料に用いた場合の合成法を説明する。ホスゲン法は、相溶しない2つの溶媒に水とジクロロメタンを使用する界面重縮合や、1つの溶液を用いる方法がある。界面重縮合法は水酸化ナトリウムを加えた水層には原料のビスフェノールAを例にとると、ビスフェノールAは水層に含まれる。ホスゲンとしてジホスゲンを用い、これをジクロロメタンに溶解する。攪拌によって界面で反応したポリカーボネート樹脂はジクロロメタン層に移動する。析出後、ろ過、水洗、乾燥しビスフェノールAを骨格とする石油由来のポリカーボネート樹脂を得る。1つの溶液を用いる方法は、ジクロロメタンなどに全てを溶解し、ホスゲンガスなどを導入するものである。従って、本発明によるポリカーボネート樹脂は、塗料、紡糸可能な繊維などとして極めて有用なものとなる。
【0019】
一方、溶融重合法は重合触媒の存在下、例えばビスフェノールAと炭酸ジエステルとを混合し、エステル交換反応によって、生成するアルコールやフェノールを高温の減圧下で留出させ、ポリカーボネート樹脂を得る方法である。生産の容易さからポリカーボネート樹脂の製造は、現在ホスゲン法が約90%を占めている。
【0020】
本発明の植物由来ポリカーボネート樹脂には、各種成形材料として用いるため、有機、無機フィラー、難燃材、アンチブロッキング剤、結晶化促進剤、ガス吸収材、老化防止剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、粘着付与剤、軟化材、滑剤、離形剤、帯電防止剤、変性剤、着色剤、カップリング剤、防腐剤、防カビ剤等の添加剤を適宜配合して良い。
【0021】
本発明の植物由来ポリカーボネート樹脂を成形材料にするには、特に限定されることなく、通常の混錬方法により行うことができる。例えばロール、ニーダ、バンバリーミキサ、インターミックス、1軸押出機、2軸押出機などの混錬機で混錬できる。混錬は前記混錬機の1種でも2種以上の混錬機を用いてもよい。
【0022】
前記成形材料から得る各種成形品は、通常の成形方法により製造することができる。例えば、熱プレス成形、圧縮成形、中空成形、押し出し成形、射出成形などである。
【0023】
前記(1)又は(2)の本発明のポリカーボネート原料である植物由来素材はリグニン、リグノフェノール、タンニン、キシリトール、キシロース、ソルビトール、セルロース類の群から選ばれる少なくとも一種であるが、より好ましくはリグニン、リグノフェノール、タンニンのように芳香族基を有するものが好ましい。理由は耐熱性の指針であるガラス転移温度(以下、Tgと略称する)が高いことにある。しかし、脂肪族系を用いたポリカーボネート樹脂も成形性等優れた点が多いので本発明の範囲内である。
【0024】
本発明において前記(3)のポリカーボネート樹脂の原料である植物由来素材の重量平均分子量は300〜8000(ポリスチレン換算)が好ましい。重量平均分子量300未満ではポリカーボネート樹脂を合成した場合、強度が著しく低下する傾向にある。一方、重量平均分子量が8000以上の植物由来素材では溶媒に対する溶解性低下し、ポリカーボネート樹脂合成の原料には適さない。
【0025】
本発明において(4)は合成したポリカーボネート樹脂の好ましい重量平均分子量が2000〜60000であることを特徴とする。植物由来ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量2000未満では成形品の強度が不十分になり易い。又、重量平均分子量が60000以上では、成形性が低下する。
【0026】
本発明において(5)は植物由来ポリカーボネート樹脂と石油由来素材を原料とするポリカーボネート樹脂の共重合体であることを特徴とするポリカーボネート樹脂である。この共重合体は植物由来素材と石油由来素材を有機溶媒中に任意量混合し、ホスゲン法等により、多官能基の植物由来素材と二官能の石油由来素材からなるポリカーボネート共重合体を得ることができる。
【0027】
本発明における(6)は植物由来ポリカーボネート樹脂と、石油由来素材ポリカーボネート樹脂の混合物からなり、これらを混練したものであることを特徴とするポリカーボネート樹脂混合物の製造方法である。
【0028】
石油由来素材を原料とする石油由来ポリカーボネート樹脂の原料は殆どが、ビスフェノールA及びその誘導体である。その構造は植物由来素材のリグニンや、リグノフェノールに類似している。そのため前述の1軸押出機や、2軸押出機で容易に混錬可能である。配合割合も石油由来ポリカーボネート樹脂と植物由来ポリカーボネート樹脂が類似構造のため任意に混錬可能である。
【0029】
本発明における前記(7)は、メルトフローレートが5g以上で、且つ曲げ強度が60MPa以上であることを特徴とする(1)〜(6)記載のポリカーボネート樹脂である。メルトフローレートが35g以上で、且つ、曲げ強度が60MPa以上示すポリカーボネート樹脂は各種製品の筺体などに適用できる。メルトフローレートが35g以下では、成形品に成形時ヒケや未充填部が発生する可能性が高まる。一方、曲げ強度が60MPa以下では、成形した筺体の強さが不十分である。
【0030】
本発明における前記(8)は、(1)〜(6)記載のポリカーボネート樹脂から製造した成形品を用いたことを特徴とする各種製品である。製品の具体例としては各種電化製品(パソコン、TV、冷蔵庫、掃除機、洗濯機、アイロン等)の筺体など、自動車部品、衣類の素材、塗料、フィルム等がある。
【0031】
本発明における前記(9)は、ポリカーボネート樹脂の水酸基の一部もしくは、全部に少なくとも一種類の置換基を導入したことを特徴とする植物由来ポリカーボネート樹脂、及び前記(10)〜(11)はポリカーボネート樹脂の製造方法である。
【0032】
植物由来ポリカーボネート樹脂には水酸基が残留しており、その結果、ポリカーボネート樹脂は吸水率が増加すると考えられる。そこで、植物由来ポリカーボネート樹脂を非アルコール系溶媒で溶解し、塩化アシル化合物等を付加することにより、水酸基の減少したポリカーボネート樹脂を得ることができる。そのため、吸水率の低いポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0033】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0034】
以下の実施例は、植物由来素材を原料とするポリカーボネート樹脂の合成例、及びその合成樹脂の特性例を説明する。なお、実施例及び比較例の結果をまとめて表1に示した。
【0035】
(実施例1)
攪拌羽根、温度計、ガス導入管、排気管の付いた四つ口フラスコに、ピリジン10ml、乾燥ジクロロメタン100mlと、リグニン20g(0.025mol、水酸基当量120g/eq)を加え、攪拌、溶解する。これにホスゲンガスを反応液中(流量:100ml/min)に導入する。反応液は氷冷しつつ、5〜10℃に保つ。ガス導入1時間後、反応を止め、反応液をメタノール1Lの中に投入して、樹脂分を析出させる。析出物を濾別し、濾物を水/メタノール混合液(等重量)で2〜3回洗浄した。これをテトラヒドロフラン溶液250ml中に投入して、攪拌溶解させる。溶解物をメタノール1Lに投入して、樹脂を析出させ、濾別して、濾物を水/メタノール混合液(等重量)を用いて洗浄し、リグニン由来ポリカーボネート樹脂を得た。
【0036】
図1にリグニンとホスゲンとの反応機構を簡単に説明した。リグニンのヒドロキシ基とホスゲンが反応して、炭酸エステル結合が形成され、これがリグニンを結合して高分子を形成する。
【0037】
そのIR測定より1770cm−1(カーボネートのC=O伸縮)、1600cm−1,1540cm−1(芳香環のC=C伸縮)、1230cm−1〜1160cm−1(芳香族エステルC−O伸縮)が確認された。一方、H−NMR測定からリグニン由来ポリカーボネート樹脂は7〜8ppmに芳香環、3.5〜4ppm付近にメトキシ基、0.5〜3ppmにかけてアルキル基のピークが見られた。それに対し、従来の石油由来ビスフェノールAを用いたポリカーボネート樹脂は、7.3ppmの芳香環と2,2−プロパンのメチル基が1.7ppmにピークが見られるだけである。
【0038】
実施例1で合成したものはIRとH−NMRの測定結果からリグニン由来ポリカーボネート樹脂であることを確認した。又、その重量平均分子量や溶解性、Tgなどを表1に示す。得られたリグニン由来ポリカーボネート樹脂は1軸押出機を用いて、酸化防止剤(イルガノックス1076、チバ・ジャパン社製)を0.1wt%加え、240℃で溶融混錬し、リグニン由来ポリカーボネート樹脂のペレットを得た。このペレットを用いて、メルトフローレートや射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、NEX110)と金型を用いて、JIS K−7171の手法に従って、曲げ試験片を作製した。JIS K−7171の手法に従って、作製した曲げ試験片を用いて、3点曲げ試験を実施し、曲げ強度(MPa)を求めた。その曲げ速度は1mm/分である。
【0039】
(成形条件)
温度:フィード部180〜240℃、混錬部220〜260℃、ノズル部220〜260℃、金型:60〜110℃、回転数:30〜50rpm。射出圧力:9.8MPa。
【0040】
(メルトフローレート)
メルトフローレート(以下、MFRと略称する)は樹脂の流動性の尺度であり、分子量と相関する。一般には、MFRの数値の大きい程、樹脂の分子量が小さく、流動性即ち成形性優れることを意味する。測定はJIS K−7210の手法に従って、得られた植物由来ポリカーボネート樹脂のチップをMFR測定機のシリンダに充填し、充填棒を用いて、圧縮した。260℃に保ち、充填から4.5分後に2.16kgの荷重を加え、30秒間樹脂を押し出した。この際に押し出された樹脂の重量を10分間押し出した重量に換算してMFR(g/10分)とした。
【0041】
(重量平均分子量分子量)
次の装置で求めた。値はポリスチレン換算値である。
機種: HLC−8200−GPC(東ソー社製)、検出器:3300RI、カラム:Super AWM−H+Super AW−H 溶離液:N−メチルピロリドン、測定温度:35℃
(IR)
IR測定は装置:FTS3000MX(デジラ.ジャパン社製)を用い、KBr錠剤法で求めた。
【0042】
H−NMR)
H−NMR測定は装置:ECA−500(日本電子社製)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド溶液として求めた。
【0043】
(溶解性)
合成樹脂1.0gに対し、テトラヒドロフラン5.0gを加え、回転子とスターラーを用いて24時間攪拌し、溶解の状態を目視で確認、評価した。評価基準は次の通りである。○:完全に溶解した。△:一部未溶解部あり、×:殆ど未溶解。
【0044】
ガラス転移温度(Tg)
曲げ試験片を切断して幅4mm×長さ25mm×厚さ約100μmの試験片を作製し、DVA−200(ティアイ計測器社製)を用い、5℃/分の昇温速度で引張モードにより、樹脂のガラス転移温度(以下、Tgと略称する)を求めた。貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E”)を測定し、その比(tanδ=E”/E’)を求め、tanδのピーク温度をTgとした。
【0045】
(実施例2)
リグニン70.0g(0.025mol)と乾燥ジクロロメタン200mlを用いて、他は全て実施例1に記載した経路に準拠して合成し、その特性を求めた。その結果を表1に併記する。
【0046】
(実施例3)
リグノフェノール72.5g(0.025mol)と乾燥ジクロロメタン200mlを溶解した以外、他は全て実施例1に記載した経路に準拠して合成し、その特性を求めた。その結果を表1に併記する。
【0047】
(実施例4)
リグノフェノール172.5g(0.025mol)と乾燥ジクロロメタン300mlを溶解した以外、他は全て実施例1に記載した経路に準拠して合成し、その特性を求めた。その結果を表1に併記する。
【0048】
(実施例5)
実施例5は本発明の請求項2記載のバイオマス以外のものとして加水分解性タンニンを用いた例を示す。タンニン55.0g(0.046mol)と乾燥ジクロロメタン300mlを溶解した以外、他は全て実施例1に記載した経路に準拠して合成し、その特性を求めた。その結果を表1に併記する。
【0049】
(実施例6)
実施例1で用いたリグニン160.0g(0.2mol)と石油由来素材であるビスフェノールAの2,2−ビス(4−ヒドロオキシフェニル)プロパン 11.4g(0.05mol)と、乾燥ジクロロメタン400mlを混合溶解した以外をすべて、実施例1と同様にポリカーボネート樹脂共重合体を合成した。これを用いて、各種特性を求めた。その結果を表1に併記する。
【0050】
(実施例7)
実施例1で用いたリグニン40.0g(0.05mol)と従来の石油由来素材であるビスフェノールAの2,2−ビス(4−ヒドロオキシフェニル)プロパン46.0g(0.2mol)を加え更に、乾燥ジクロロメタン300mlで溶解した以外、全て実施例1と同様にポリカーボネート樹脂の共重合体を合成した。これを用いて、各種特性を求め、その結果を表1に併記する。
【0051】
(実施例8)
実施例1で得た植物由来ポリカーボネート樹脂80gと市販のポリカーボネート樹脂(一般グレード、MW32000)20gを実施例1に準拠してブレンド品を作製した。これを用いて、各種特性を求めた。その結果を表1に併記する。
【0052】
(実施例9)
実施例1で得た植物由来ポリカーボネート樹脂20gと市販のポリカーボネート樹脂(一般グレード、MW32000、MFR26g/10分@300℃)80gを実施例1に準拠してブレンド品を作製した。これを用いて、各種特性を求めた。その結果を表1に併記する。
【0053】
(実施例10)
リグニン384g(0.48mol、Mw800、120g/eq)、及びジフェニルカーボネート128.5g(0.6mol)を四つ口フラスコの加え、重合触媒として、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プリパン二ナトリウム塩(0.012g)及び水酸化テトラメチルアンモニウム(0.017g)を加え、180℃(窒素雰囲気下)で溶解混合した。混合しながら反応釜中を100mmHgに減圧し、フェノール類を留去しながら約30分保持した。
【0054】
その後200℃に昇温させ、30mmHgまで減圧し、20分保持した。260℃/0.6mmHgの条件で2時間反応させた。冷却後テトラヒドロフラン溶液に1.5L溶解し、メタノール3L中に投入して合成樹脂を析出させた。ろ別した樹脂を水/メタノール混合液(等重量)で洗浄し、濾別乾燥して溶融法でリグニン由来ポリカーボネート樹脂を得た。IR及びH−NMRから実施例1と同様にリグニン由来ポリカーボネート樹脂であることを確認した。その特性を表1に併記する。
【0055】
(実施例11)
実施例1で得たリグニン由来ポリカーボネート樹脂200g(0.25mol)を乾燥ジエチルエーテル1lに加え、攪拌溶解する。金属ナトリウム15g(0.65mol)を加え、冷却しながら24時間攪拌する。溶解後、未反応の金属ナトリウムを除去する。ベンジルクロリド126.5g(1.0mol)とピリジン79.1g(1.0mol)を室温以下に冷却しながら、ゆっくり滴下する。滴下終了後、室温で48時間攪拌した。反応液に5%塩酸水を500ml加え攪拌しながら、ベンジルエーテル化したリグニン由来ポリカーボネート樹脂を析出させた。析出物を濾別して得た濾物に60℃の脱イオン水、次いでメタノールで繰り返し洗浄し、収率78% IR測定から芳香族に隣接するエーテル結合(1270cm−1、1211 cm−1)の増加を確認し、ベンジルエーテル化したリグニン由来ポリカーボネート樹脂を得た。その特性を表1に併記する。
【0056】
(実施例12)
ひまし油由来のポリオールである商品名:URIC H−30(伊藤製油社製)10gと実施例1で用いたリグニン30g(0.375molと乾燥ジクロロメタン200mlを用いて、ホスゲン導入時間を45分にした以外は、全て実施例1に記載した経路に準拠して合成し、その特性を求めた。その結果を表1に併記する。原料がリグニンと非芳香族の共重合ポリカーボネート樹脂のためTgは65℃と低かった。
【0057】
(比較例1)
石油由来素材であり、しかも分子中に三個の水酸基のある1,3,5− トリヒドロキシベンゼンを用いて、実施例1と同一条件で、ポリカーボネート樹脂を合成し、それが植物由来素材のポリカーボネート樹脂と同様に、それが成形性と強度が両立するかを調べた。1,3,5− トリヒドロキシベンゼン3.15g(0.025mol)に乾燥したジクロロメタン20gピリジン5gを加え、溶解する。以下は、実施例1に準拠して、ポリカーボネート樹脂を合成した。その結果を表1に示すように比較例1で合成した物は、溶解性が全くなく、他の物性は測定不可能であった。水酸基が反応して架橋したためと考える。
【0058】
(比較例2)
石油由来素材であり、しかも分子中に4個の水酸基を有する、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンを用いて、実施例1に準拠して合成した。しかし、結果は比較例1と同様に溶媒に全く溶解せず、他の物性は測定不可能であった。これは2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンの水酸基は殆ど立体障害も少なく、水酸基が多数反応して炭酸エステル化したためと考える。
【0059】
【表1】

表1によれば、リグニン及びその誘導体を素材として用いた実施例1〜5、9〜11においては、溶解性が良く、耐熱性(Tg)が比較的高く、曲げ強度の高いポリカーボネート樹脂が得られる。また、このようにして得たポリカーボネート樹脂と他の樹脂との共重合体(実施例6,7)及びブレンド系(実施例8)においても耐熱性及び機械的強度のよい樹脂が得られた。更に、植物油を用いて合成したポリカーボネート樹脂は、耐熱性は低いが、曲げ強度が比較的良くまた溶剤溶解性が良いので、各種成形材やシート材などとして利用できる。
【0060】
以上の結果から、植物由来素材は、分子内に水酸基が多数あるにもかかわらず石油由来素材に比べ、合成樹脂は成形性と強度の両立する特徴があることが明らかである。それに対し、分子内に水酸基が複数ある石油由来素材の用いたポリカーボネート樹脂は、不溶、不融となった。その理由は前述したように植物由来素材の水酸基に対する立体障害等がないため反応し易やすいためと考える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のヒドロキシ基を有する植物由来素材を炭酸エステル基により連結して前記植物由来素材を高分子化したことを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【請求項2】
前記植物由来素材がリグニン、リグノフェノール及びタンニンの群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項3】
前記植物由来素材がキシリトール、キシロース、ソルビトール、セルロース及び植物油の群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項4】
前記植物由来素材の重量平均分子量が300〜8000であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項5】
前記植物由来素材の重量平均分子量が2000〜60000であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項6】
ヒドロキシ基を有する植物由来素材と二官能のヒドロキシ基系石油由来素材の水酸基を炭酸エステル基により連結して共重合し、高分子化したことを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の植物由来のポリカーボネート樹脂と、石油由来のポリカーボネート樹脂を混錬したことを特徴とするポリカーボネート樹脂混合物。
【請求項8】
メルトフローレートが35g以上で、曲げ強度が60MPa以上である請求項1から5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項9】
請求項1から9のいずれかに記載の樹脂の成形品を用いたことを特徴とする各種製品。
【請求項10】
複数のヒドロキ基を有する植物由来素材を含むポリカーボネート樹脂のヒドロキシ基の一部もしくは全部を炭酸エステル基に変換し、前記植物由来素材を高分子化することを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項11】
複数のヒドロキ基を有し、重量平均分子量8000以下の植物由来素材と、ニ官能の石油由来素材を炭酸エステル基で結合して共重合することを特徴とするカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項12】
複数のヒドロキ基を有する植物由来素材を含むポリカーボネート樹脂のヒドロキシ基の一部もしくは全部を溶融重合法により炭酸エステル基に変換し、前記植物由来素材を高分子化することを特徴とするポリカーボネート樹脂の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−153797(P2012−153797A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13919(P2011−13919)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】