説明

植物種子におけるタンパク質製造

【課題】植物種子におけるタンパク質製造法を明らかにする。オオムギ、トウモロコシ又はコムギなどの穀類を含む植物を形質転換するための改善された方法も明らかにしている。
【解決手段】タンパク質の発現は、種子に特異的なプロモーターによって起動され、かつタンパク質は、このタンパク質を保護するために細胞下のコンパートメント中にタンパク質の蓄積を引き起こすシグナルペプチドを含む融合ポリペプチドとして発現されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物における異種タンパク質の発現、特に種子貯蔵タンパク質でない異種タンパク質の発現に関する。本発明はまた、異種タンパク質、特に種子貯蔵タンパク質でない異種タンパク質を発現するトランスジェニック植物およびその種子に関する。
【背景技術】
【0002】
植物種子での異種タンパク質の発現
植物種子での異種タンパク質の発現は、例えば容易に収穫できるポリペプチドの大量生産、およびそれらの穀粒で品質改善タンパク質を発現させる可能性を提供する。これについての考察は米国特許第5714474号に記載されている(“種子による酵素の産生とその使用”)。
【0003】
ホルデイン貯蔵タンパク質
オオムギ種子の貯蔵タンパク質は、オオムギの成熟穀粒の乾燥重量の約8から15%を占める。オオムギの主要な種子貯蔵タンパク質はアルコール可溶性プロラミン(ホルデインと称される)で、これは2つの主要な群、BおよびC並びに2つのマイナー群、Dおよびγに分類される(Shewry 1993)。窒素レベル依存して、これら4つの群は、オオムギ種子の総タンパク質の約35から55%を占める。B−およびC−ホルデインは、総ホルデイン分画のそれぞれ70から80%および10から20%を占め、少量のD−ホルデイン(2−4%)およびγ−ホルデイン(正確に決定されていない)が存在する。B−、D−およびγ−ホルデインはイオウが豊富なプロラミンで、一方、C−ホルデインはイオウが少ないプロラミンである(Bright & Shewry 1983)。ホルデインは発育中の澱粉性胚乳組織で連携的に合成される(Giese et al. 1993; Sorensen et al. 1989)。それらは、翻訳と共役してシグナルペプチドの同時切断を受けて粗面小胞体の管腔内に運ばれ、最終的にタンパク質小体に蓄積される(Cameron-Mills 1980; Cameron-Mills & von Wettstein 1980; Cameron-Mills & Madrid 1989))。
【0004】
遺伝学的分析によって、全てのホルデインはオオムギの第5番目染色体上の構造遺伝子(1H)によってコードされることが示された。第5番目染色体のHor1、Hor2、Hor3、およびHor5遺伝子座は、それぞれC−、B−、D−およびγ−ホルデインポリペプチドをコードする(Jensen et al. 1980; Shewry et al 1980; Blake et al. 1982; Shewry et al. 1983; Shewry & Parmar 1987)。B−、C−およびD−ホルデインの遺伝子が単離され、性状が調べられた(Brand et al. 1985; Forde et al. 1985; Rasmussen & Brandt 1986; S・rensen et al. 1996)。B−およびC−ホルデインは、10から20個のメンバーを含むマルチジーンファミリーによってコードされ、一方、D−ホルデインはただ1つの遺伝子によってコードされる(Brandt et al. 1985; Rasmussen & Brandt 1986; Sorensen et al. 1996)。これらのホルデインプロモーターの調節および発現は、オオムギの胚乳で一過性発現アッセイによって調べられた(Entwistle et al. 1991; Muller & Knudsen 1993; Sorensen et al. 1996)。プロモータ−uidA融合を用いるこれらのアッセイで決定されたとおり、D−ホルデインのプロモーターは、調べられたB−またはC−ホルデインのプロモーターよりも3から5倍活性が高かった(Sorensen et al. 1996)。B−ホルデインプロモーターもまた、プロモータ−cat融合による安定なタバコの形質転換によって調べられた(Marris et al. 1988)。B−、C−およびD−ホルデインの遺伝子が単離され性状が調べられたが、それらの調節および発現については、オオムギでの一過性発現アッセイおよび安定的に形質転換されたタバコで調べられただけである(Brandt et al. 1985; Forde et al. 1985; Marris et al. 1988; Sorensen et al. 1996)。
【0005】
オオムギ、コムギおよびトウモロコシでは、極めて不溶性の主要なプロラミン貯蔵タンパク質は、小胞体(ER)と密接に結合したポリソーム上で合成される("Seeds: Physiology of Development and Germination", 2nd eds, Bewley and Black, Plenum Press, New York, 1994を参照)。新しく合成されたタンパク質はER膜を通って管腔内に入り、そこでそれらは凝集して小粒子となる。これは、最終的に大きな凝集塊およびタンパク質小体を形成する(タンパク質小体は電子顕微鏡で観察できる)。
コムギでは、2つの異なるタイプのタンパク質小体が発育中の胚乳内にそれぞれ別個に蓄積される。より初期に発育する低密度小体およびより後期に発育する高密度小体はERに由来する。高密度タンパク質は、ERの管腔内のタンパク質凝集が膜を緊張させて膜が破壊されるときに形成される。この膜は、タンパク質小体自体が膜に結合していない合間の後で、タンパク質凝集物を含まないで再生される。コムギおよびオオムギ以外の他の穀類(例えばアワ、コメ、トウモロコシおよびモロコシ)では、タンパク質小体は、成熟種子でも明瞭に識別される膜結合体として存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、植物種子におけるタンパク質製造に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリペプチドに連結した種子成熟特異的プロモーターを利用する組換え(リコンビナント)核酸分子を提供する。このポリペプチドはまた、連結されたポリペプチドを細胞内小体(例えばタンパク質小体)へ標的化するシグナル配列も含む構築物である。そのような構築物は、P−XまたはP−SS−Xと表現される。ここでPは種子成熟特異的プロモーターで、SSはシグナル配列(例えば連結されたポリペプチドを細胞内小体に標的化する配列)で、Xは種子または植物の胚で発現されるポリペプチドである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1Aは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いてキメラ生成物を製造する4プライマー法の模式図である。 図1Bは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いてキメラ生成物を製造する3プライマー法の模式図である。 図1Cは、5’から3’の順にB1−ホルデインプロモーター、B1−ホルデインシグナル配列、uidA遺伝子およびnos3’ターミネータを含む構築物のマップである。
【図2】図2AおよびBは、B1−ホルデインプロモーター、uidA遺伝子、およびnos3’ターミネータを含みさらにB1−ホルデインシグナル配列を含む(2A)構築物とB1−ホルデインシグナル配列を含まない(2B)構築物の並び方を示している。
【図3】図3は、B1−ホルデインプロモーターおよび57塩基対のB1−ホルデインシグナル配列(下線部)の核酸配列を示す。
【図4】図4は、D−ホルデインプロモーターおよび63塩基対のD−ホルデインシグナル配列(下線部)の核酸配列を示す。
【図5】図5は、B1−ホルデインプロモーター、uidA遺伝子およびnos3’ターミネータを含み、さらにB1−ホルデインシグナル配列を含む(+SS)構築物とB1−ホルデインシグナル配列を含まない(−SS)構築物を発現している成熟オオムギの種子におけるGUS活性を示す棒グラフである。
【図6】図6は、B1−ホルデインプロモーター、uidA遺伝子およびnos3’ターミネータを含み、さらにB1−ホルデインシグナル配列を含む(+SS)構築物とB1−ホルデインシグナル配列を含まない(−SS)構築物を発現している未成熟オオムギの種子におけるGUS活性を示す棒グラフである。
【図7】図7は、N−末端19アミノ酸シグナルペプチド配列を含むB1ホルデイン−uidA DNA構築物で形質転換した系のGUS発現未成熟胚乳のタンパク質小体に対して特異的な免疫シグナルを示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ポリペプチドに連結した種子成熟特異的プロモーターを利用する組換え(リコンビナント)核酸分子を提供する。特にこのポリペプチドはまた、連結されたポリペプチドを細胞内小体(例えばタンパク質小体)へ標的化するシグナル配列も含む構築物である。そのような構築物は、P−XまたはP−SS−Xと表現される。ここでPは種子成熟特異的プロモーターで、SSはシグナル配列(例えば連結されたポリペプチドを細胞内小体に標的化する配列)で、Xは種子または植物の胚で発現されるポリペプチドである。ある実施態様では、Xは非貯蔵タンパク質で、これはタンパク質貯蔵小体へ標的化される。問題のポリペプチドを発現する種子は、当該ポリペプチドの最大発現および安定性が得られることが判明している所定の時期に収穫される。
【0010】
ある実施態様では、本発明は、遺伝子導入植物(単子葉植物を含む)の種子でポリペプチドの発現を誘導するためにホルデインプロモーター(例えばホルデインB1およびDプロモーター)を利用するリコンビナント核酸分子を提供する。特に、本発明は、ホルデインシグナル配列が、問題のポリペプチドをコードする核酸配列に機能的に連結された核酸分子を提供する。ホルデインシグナル配列の組み入れは植物種子中でのポリペプチド発現レベルを顕著に高めることが示された。この態様で、医薬(例えばインスリン、インターフェロン、エリスロポエチンおよびインターロイキン)および栄養補充物を含む広範囲のポリペプチドを植物種子で発現させることができる。本発明のこの特徴によって提供される核酸分子はPh−hSS−Xと表現でき、ここで、Phはホルデインプロモーターで、hSSはホルデインシグナル配列で、Xはポリペプチド(特に種子貯蔵タンパク質ではないポリペプチド)をコードする核酸配列であり、Ph、hSSおよびXは機能的に連結されている。ホルデインシグナル配列を欠く核酸分子はPh−Xと表現される。
【0011】
本発明は、これらの核酸を含む核酸導入植物およびこれら遺伝子導入植物の種子を提供し、これらは、この発現ポリペプチドの供給源として有用であり、また当該穀粒の品質を改善することができる。
本発明のある実施態様では、提供される遺伝子導入植物は、安定的に形質転換された単子葉植物、例えばオオムギまたはコムギのような穀類植物である。ある実施態様では、本発明は、以下を含む遺伝子型に由来するオオムギの安定に形質転換された植物を提供する:ハーリントン(Harrington)、モレックス(Morex)、クリスタル(Crystal)、スタンダー(Stander)、モラビアン(Moravian)III、ガレーナ(Galena)、サロメ(Salome)、ステプトウ(Steptoe)、クラーゲス(Klages)、およびバロネッセ(Baronesse)。本発明はまた、以下を含む遺伝子型に由来するコムギの安定的に形質転換された植物を提供する:アンザ(Anza)、カール(Karl)、ボブホワイト(Bobwhite)、およびイェコーラ・ロジョ(Yecora Rojo)。これらの遺伝子型の大半は従来の形質転換操作が難しい。したがって、これらの遺伝子型に属する安定的に形質転換された植物の生産を可能にするために、本発明はまた、提供核酸分子を合わせて用いて安定的に形質転換された植物を生産するために利用することができる形質転換方法を提供する。この形質転換方法は、接合植物胚の緑色再生組織の生産に依拠し、これは、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、コメ、エンバク、ライムギ、アワ、ソルガム、トリカレート、シバ、およびマグサを含む任意の単子葉植物種の形質転換に用いることができる。
【0012】
本形質転換方法は以下を含む:
(a)糖供給源としてマルトース、約0.1mg/Lから約5mg/Lの濃度のオーキシン、0mg/Lから約5mg/Lの濃度のサイトカイニンおよび約0.1μMから約50μMの濃度の銅を含む植物増殖用培地に、選択した単子葉植物の未成熟接合胚を静置し、緑色再生組織を形成させるために弱光下でインキュベーションし;
(b)形質転換組織を得るために以下のいずれかの核酸分子を導入し、
PhSS−X、P−X、Ph−hSS−X、またはPh−X、
ここで、Pは種子成熟特異的プロモーターで、SSはポリペプチドを細胞内小体(例えばタンパク質小体または液胞)に標的化するシグナル配列で、Phはホルデインプロモーター(特定の種子成熟特異的プロモーター)で、Xは選択したポリペプチド(種子貯蔵タンパク質以外のポリペプチドであろう)で、さらに、Ph、hSSおよびX(またはPhおよびX)は機能的に連結されていて;
(c)この形質転換材料上で緑色構造体が観察できるように植物増殖用培地で形質転換組織をインキュベーションし;
(d)緑色構造体から少なくとも1つの形質転換植物を再生させ;さらに
(f)この形質転換植物を発育させて種子を生産させる。
【0013】
本発明はまた、選択したポリペプチドをその種子の中で発現する安定的に形質転換された植物を提供する。本発明のまた別の特徴は、単子葉植物の種子の中でポリペプチドを発現させる方法である。本方法は、Ph−hSS−XまたはPh−Xなる構造の核酸分子で安定に形質転換された単子葉植物を提供し、種子を生産し種子の中で当該ポリペプチドを発現させるために効果的な条件下でこの植物を発育させることを含む。このポリペプチドは当該穀粒を改善するために用いることができ、または、このポリペプチドは、発現または安定性が最大の時期に種子から抽出して他の目的に使用できる。
【0014】
(配列表)
以下の配列表に挙げた核酸およびアミノ酸配列は、ヌクレオチド塩基については標準的な省略文字およびアミノ酸については標準的3文字コードを用いて示した。各核酸配列の一本の鎖のみを示したが、表示の鎖を参考にして相補鎖が含まれることは理解されよう。
配列番号:1は、オオムギのB1ホルデインプロモーターおよびシグナル配列の核酸配列を示している。
配列番号:2は、オオムギのB1ホルデインシグナル配列の核酸配列を示している。
配列番号:3は、オオムギのDホルデインプロモーターおよびシグナル配列の核酸配列を示している。
配列番号:4は、オオムギのDホルデインシグナル配列の核酸配列を示している。
配列番号:5−16は、本明細書で開示する核酸分子の増幅に用いたPCRプライマーを示している。
【0015】
I.略語と定義
A.略語
HMW:高分子量
CAT:クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ
GUS:β−グルクロニダーゼ
uidA:β−グルクロニダーゼ遺伝子
PCR:ポリメラーゼ連鎖反応
PEG:ポリエチレングリコール
MS培地:ムラシゲ・スクーグ(Murashige & Skoog)培地
CIM:カルス誘発培地
IIM:中間インキュベーション培地
RM:再生培地
2,4-D:2,4-ジクロロフェノキシ酢酸
BAP:ベンジルアミノプリン
2iP:N6(2−イソペンチル)アデニン
GFP:緑色蛍光タンパク質
CaMV:カリフラワーモザイクウイルス
rbcS:RUBISCO(D−リブロース−1,5−ビスホスフェートカルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ)小サブユニット
【0016】
B.定義
別に規定しないかぎり、技術用語は通常の用法にしたがって用いられる。分子生物学における一般的用語の定義は以下の文献に記載されている:Lewin, "Genes V", Oxford University Press・刊、1994(ISBN 0-19-854287-9);Kendrew et al編、"The Encyclopedia of Molecular Biology", Blackwell Science Ltd. 刊、1994(ISBN 0-632-02182-9); およびRobert A. Meyers編、"Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference", VCH Publishers, Inc. 刊、1995(ISBN 1-56081-569-8)。
本発明の種々の実施態様の概覧を容易にするために、以下の用語の定義を提示する。
【0017】
プロモーター:タンパク質の転写を指令する核酸配列。これには、プロトタイプ配列を有する分子だけでなく、遺伝子相同体由来のプロモーターも含まれる。さらにまた、開示したプロトタイプ分子と小さな相違をもつ分子も含まれる。そのような変異配列は標準的な手順を用いてプロモーターのヌクレオチド配列を操作して作製できる。
【0018】
ホルデインプロモーター:植物の種子でホルデインタンパク質の転写を指令する核酸配列。本発明にはいずれのホルデインプロモーターも用いることができるが、提示した特定の実施例では、オオムギのB1およびDホルデイン遺伝子に由来するプロモーター配列が使用された。オオムギのプロトタイプB1およびDホルデイン遺伝子の核酸配列がそれぞれ配列番号:1および3に、さらにそれぞれ図3および5に示されている。プロモーター領域は、シグナル配列(図3および4に示した下線部配列)をコードするヌクレオチドは含まない。当業者にはまたプロモーター領域の長さは表示した配列よりも長くても短くてもよいことは理解されよう。例えばホルデインの上流領域からさらに5’側付加配列をプロモーター配列に付加してもよく、また表示の配列から塩基を除去してもよい。しかしながらいずれのホルデインプロモーター配列も、機能的に連結された配列の転写を植物種子中で指令する能力をもつものでなければならない。植物種子中でタンパク質の転写を指令するオオムギの能力は、オープンリーディングフレーム(ORF)(好ましくは容易に検出できるタンパク質をコードする)、例えばGUSオープンリーディングフレームにプロモーターを機能的に連結し、得られた構築物を植物に導入し、続いて植物種子中で下記に詳細に記載したように発現を調べることによって容易に検定できる。ホルデインプロモーターは典型的には種子特異的発現を付与するであろう。これは、機能的に連結されたORFによってコードされたタンパク質の発現は、安定的にトランスフェクションした植物の種子中で他の組織(例えば葉)と較べて一般に少なくとも2倍高い(活性を基準に測定した場合)ことを意味する。より一般的には、ホルデインプロモーターは、植物の他の組織での発現よりも種子中で少なくとも5倍高い発現をもたらすであろう。多くの事例で、種子中でのタンパク質の発現は胚乳特異的であろう。
【0019】
本明細書で開示するオオムギのホルデインプロモーターの機能的な相同体は、他の植物種、例えば他の単子葉植物(コムギ、コメおよびトウモロコシを含む)から得ることができる。そのような特定の相同体例は、プロトタイプホルデインプロモーターに対して固有の配列同一性レベルを有するであろう(例えば少なくとも60%配列同一性)。機能的相同体はホルデインプロモーター機能を保持する。すなわち、植物に導入された場合、機能的に連結されたORFに種子特異的発現を付与する能力を保持する。したがって、本明細書においてホルデインプロモーターに言及する場合は、そのような言及には、本明細書で開示するプロトタイプ配列(またはこれら配列の変種)の配列だけでなく、ホルデイン遺伝子相同体由来のプロモーターも含まれることは理解されよう。さらにまたそのような用語の範囲に包含されるものは、開示されるプロトタイプ分子と少しの相違を有する分子である。そのような変種配列は、標準的な手順(例えば部位特異的変異導入またはポリメラーゼ連鎖反応)を用いてホルデインプロモーターのヌクレオチド配列を操作して作製できる。
【0020】
ホルデインシグナル配列(SS):本発明者らは、ホルデインプロモーターと一緒にホルデインシグナル配列を包含させることによって、種子でのある種の異種タンパク質の発現は強化されることを見出した。特に、未成熟な種子におけるタンパク質の発現は、タンパク質をコードするORFがホルデインプロモーターとホルデインシグナル配列の両方に機能的に連結されている場合、ホルデインシグナル配列を欠いている同等な構築物と比較してより強く強化される。推測に拘束されることを望まないが、ホルデインシグナル配列は、機能的に連結されたORFによってコードされるタンパク質の発現物を保護された細胞内の場所、例えば液胞またはタンパク小体に向かわせると考えられる。さらにまた、そのような液胞に標的化されたタンパク質は、種子成熟のある種の段階におけるタンパク質分解作用から保護されると考えられる。
【0021】
ホルデインシグナル配列は、典型的にはホルデイン遺伝子のオープンリーディングフレームの最初の約15-25アミノ酸、通常は約18-21アミノ酸を含む。プロトタイプのオオムギB1およびDホルデイン遺伝子のホルデインシグナル配列のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、配列番号:1−4に示されている。下記で述べる実施例では特定のシグナル配列が用いられているが、本発明はこれら特定の配列に限定されないことは、当業者には理解されよう。例えば、相同な配列を、厳密なヌクレオチド配列またはアミノ酸配列と異なるような配列と同じように有効に、そのような配列がコードされたタンパク質を未成熟種子での発現レベル強化をもたらすことを条件に用いることができる。典型的には、“ 強化発現”とは、シグナル配列を欠く同等な構築物で観察される発現の約2倍の発現であろう。したがって、 “ホルデインシグナル配列”という用語には、本明細書に示す特定の配列だけでなくこれら配列の相同体および変種もまた含まれる。
【0022】
配列同一性:2つの核酸配列または2つのアミノ酸配列間の類似性は、配列間の類似性、また他には配列同一性という言葉で表される。配列同一性は、しばしば百分率同一性(または類似性もしくは相同性)という言葉で定められる。百分率が高いほど、2つの配列は類似している。プロトタイプホルデインプロモーターおよびホルデインシグナル配列の相同体は、標準法を用いてアラインメントを実施したとき比較的高い配列同一性を有するであろう。比較のための配列アラインメントの方法は当技術分野では周知である。種々のプログラムおよびアラインメントアルゴリスムが報告されている:Smith & Waterman(1981); Needleman & Wunsch(1970); Pearson & Lipman(1988); Higgins & Sharp(1988); Higgins & Sharp(1989); Corpet et al.(1988); Huang et al.(1992);およびPearson et al.(1994)。Altschulら(1994)は、配列アラインメント法および相同性の算出について詳細な考察を記載している。
【0023】
NCBIベーシック・ローカル・アラインメント・サーチ・ツール(BLAST)(Altschul et al., 1990)は、National Center for Biotechnology Information(NCBI, ベセスダ、メリーランド)を含む複数の供給源および、配列分析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastnおよびtblastxと連結して使用するインターネットを通じて入手できる。それは、htp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/・でアクセスできる。このプログラムを使用して配列同一性を決定する方法についての説明は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/blast help.html で入手できる。
【0024】
開示したプロトタイプホルデインシグナル配列の相同体は、典型的には少なくとも60%配列同一性を有するという特徴をもつ。この同一性は、NCBIBlast2.0、デフォルトパラメータに設定したギャップトblastpを用いてプロトタイプのアミノ酸配列について完全な長さのアラインメントにわたって計測された。このリファレンス配列に対してさらに大きな類似性をもつタンパク質は、この方法によって検定した場合、高い百分率同一性、例えば少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも95%配列同一性を示すであろう。相同なホルデインプロモーターには、B1およびDホルデインタンパク質と同等なレベルの配列同一性(すなわち少なくとも60%および少なくとも95%までの配列同一性)をもつタンパク質をコードする遺伝子に由来するものが含まれる。
【0025】
オリゴヌクレオチド:長さが約100ヌクレオチド塩基までの直線状ポリヌクレオチド配列。
ベクター:ホスト細胞に導入され、それによって形質転換ホスト細胞を産生する核酸分子。ベクターは、ホスト細胞内でのベクターの複製を可能にする核酸配列、例えば複製開始点を含むであろう。ベクターはまた、1つまたは2つ以上の選別可能なマーカー遺伝子および他の当技術分野で既知の遺伝子成分を含むことができる。
形質転換:形質転換細胞とは、分子生物学的技術によってその中に核酸分子が導入された細胞である。本明細書で用いられるように、形質転換という用語は、核酸分子をそのような細胞に導入することができる全ての技術を包含し、この技術には、ウイルスベクターによるトランスフェクション、プラスミドベクターによる形質転換、並びに電気穿孔、リポフェクションおよび粒子銃加速(Particle gun acceleration)による裸のDNAの導入が含まれる。さらに一過性形質転換も安定形質転換と同様に包含される。
【0026】
単離: “単離された”生物学的成分(例えば核酸またはタンパク質または細胞小器官)は、当該生物学的成分が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的成分(すなわち他の染色体および染色体外DNAおよびRNA)から実質的に分離または精製されている。 “単離された”核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。この用語はまた、ホスト細胞内で遺伝子組換え発現によって調製された核酸およびタンパク質と同様に化学的に合成された核酸も包含する。
機能的連結:第一の核酸配列が第二の核酸配列と機能的な関係で配置されるとき、第一の核酸配列は第二の核酸配列と機能的に連結されている。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を与える場合、プロモーターはコード配列に機能的に連結されている。一般に、機能的に連結されているDNA配列は連続しており、2つのタンパク質コード領域を結合させる必要がある場合は同じ読み枠内で連続している。
【0027】
組換え体:組換え体(リコンビナント)核酸は、天然には存在しない配列を有する核酸、またはそうでなければ分離されている配列の2つのセグメントを人工的に結合させて作製された配列を有する核酸である。この人工的結合はしばしば、化学合成またはより一般的には単離核酸セグメントの人工的操作(例えば遺伝子工学技術)によって達成される。
cDNA(相補的DNA):内部非コードセグメント(イントロン)、および転写を決定する調節配列を欠くDNA断片。cDNAは、細胞から抽出したメッセンジャーRNAから逆転写によって実験室で合成される。
ORF(オープンリーディングフレーム):アミノ酸をコードする、終止コドンをもたない一連のヌクレオチドトリプレット(コドン)。これらの配列は通常はペプチドに翻訳できる。
【0028】
遺伝子導入植物:本明細書で用いられるように、この用語は、当該タイプの植物中には通常は見出されないリコンビナント遺伝物質を含む植物であって、人為的操作によって、当該リコンビナント遺伝物質が問題の植物(または当該植物の親)に導入された植物を指す。したがって、リコンビナントDNAを形質転換によって導入した植物細胞から発生した植物は遺伝子導入植物で、導入されたトランスジーンを含む当該植物の子孫(有性的に生産されたものであれ無性的に生産されたものであれ)も同様である。
“遺伝子導入植物”とい用語はまた、果実、種子および花粉を含む植物の部分も包含する。
本発明は、双子葉植物および単子葉植物の両方に適用可能で、双子葉植物には例えばトマト、ジャガイモ、ダイズ、綿、タバコなどが含まれ、単子葉植物には、イネ科単子葉植物、例えばコムギ(Triticum spp.)、コメ(Oryza spp.)、オオムギ(Hordeum spp.)、エンバク(Avena spp.)、ライムギ(Secale spp.)、トウモロコシ(Zea mays)、ソルガムおよびアワ(Pennisettum spp.)が含まれるが、ただしこれらに限定されない。例えば、本発明は、以下を含むオオムギの遺伝子型、モレックス(Morex)、ハーリントン(Harrington)、クリスタル(Crystal)、スタンダー(Stander)、モラビアン(Moravian)III、ガレーナ(Galena)、サロメ(Salome)、ステプトウ(Steptoe)、クラーゲス(Klages)、およびバロネッセ(Baronesse)、並びに以下を含むコムギの遺伝子型、イェコーラ・ロジョ(Yecora Rojo)、ボブホワイト(Bobwhite)、カール(Karl)、およびアンザ(Anza)に用いられるが、ただしこれらに限定されない。一般に、本発明は特に穀類で有用である。
【0029】
種子の成熟:種子の成熟または穀粒の発育は、代謝可能な食物貯蔵(例えばタンパク質、脂質、澱粉など)が発育中の種子、特に種子の貯蔵器官(例えば胚乳、外種皮、糊粉層、胚および胚盤上皮(scutellar epithelium)を含む)に沈積されて種子の肥大と充填をもたらす受精に始まり、種子の乾燥で終わる期間を指す。
誘導可能(誘導性):小分子の有無によってアップレギュレートされるプロモーターを特徴とし、直接誘導および間接誘導の両方を含む。
種子成熟特異的プロモーター:種子の成熟中に誘発されるプロモーター、例えば種子の成熟時に25%またはそれ以上増加する。
【0030】
シグナル/リーダー/標的/輸送配列:N−末端またはC−末端ポリペプチド配列であって、翻訳中または翻訳後に、当該配列が結合しているポリペプチドまたはタンパク質を選択された細胞内液胞もしくは他のタンパク質貯蔵小体、クロロプラスト、ミトコンドリア、または小胞体、または細胞から分泌された後で細胞外間隙または種子領域(例えば胚乳)に局在化させることができる配列。オオムギの例はホルデインシグナル配列であるが、他の例には以下のシグナル配列が含まれる:トウモロコシ(Bagga et al., Plant Cell 9:1683-1696(1997)、この文献によれば、トウモロコシのδ−ゼインおよびβ−ゼイン遺伝子の同時発現によって、β−ゼインによって形成される小胞体由来小体へのδ−ゼインの安定な蓄積がもたらされる;Torrent et al., Plant Molecular Biology 34:139-149(1997)、この文献によれば、リジンに富む改変γ−ゼインは、一過性に形質転換したトウモロコシ胚乳のタンパク質小体に蓄積される);イネ(Wu et al., Plant Journal 14:673-683(1998)、この文献によれば、GCN4モチーフは胚乳特異的遺伝子発現に必須で、遺伝子導入コメ植物体ではオパーク(Opaque)-2によって活性化される;Zheng et al., Plant Physiology 109:777-786(1995)、この文献によれば、マメβ−ファセオリンは、遺伝子導入コメ胚乳、主として糊粉層近くの液胞型IIタンパク質小体で発現された);コムギ(Grimwade et al., Plant Molecular Biology 30:1067-1073(1996)、この文献によれば、コムギのグルテンタンパク質をコードする遺伝子の発現パターンが報告された);レグミンを含むタバコ(Conrad et al., Journal of Plant Physiology 152:708-711(1998)、この文献は、生産物が小胞体に保持できるように、レグミンB4由来の2つの種子特異的ビシア・ファーバ(Vicia faba)プロモーターを用いて遺伝子導入タバコ植物体における薬用タンパク質の大量生産を開示する);およびレクチン遺伝子を用いて操作したダイズ(Takaiwa et al., Plant Science 111:39-49(1995)、この文献によれば、コメの貯蔵タンパク質グルテイリン遺伝子の胚乳特異的プロモーターに転写できるように融合させたダイズのグリシニン遺伝子をアグロバクテリウム仲介形質転換によってタバコのゲノムに導入し、子葉および成熟ダイズ種子の胚で特異的に発現させた)。
【0031】
末端プロセッシングまたは終結配列:RNAポリメラーゼに遺伝子の転写を終了させ、DNAから解離させる、コード配列の3’に位置するDNA配列。その例はnos 3’ターミネータである。ターミネータはまた、in vivoでのmRNAの転写後プロセッシング時にも現れ、翻訳される成熟mRNA種を生成するためにどこで前駆体mRNA分子が切断されるべきかを示すことがある。末端プロッセシングシグナルを含むセグメントは、同じ胚乳発現生成物をコードするcDNAを比較し、それによってcDNAの3’末端を特定することにより得ることができる。いずれかの側の3’末端に50から100塩基対を含むゲノムDNAセグメントを単離することによって、末端プロセッシングシグナルを含むセグメントを確保できる。
【0032】
タンパク質小体:ユニットメンブレン構造内のタンパク質を含む細胞内構造物。いくつかの事例では、この構造物は液胞と呼ばれる。
種子貯蔵タンパク質:種子成熟時に合成され蓄積され、乾燥穀粒に貯蔵され、さらに成熟時に動員される内在性植物タンパク質。そのようなタンパク質は、植物種子中のタンパク質小体にしばしば貯蔵される。そのような貯蔵タンパク質の例には、アラキン、アベニン、ココシン、コナルキン、コンココシン、コングルチン、コングリシニン、コンビシン、クランビン、クルシフェリン、ククルビチン、エデスチン、グリアジン、グルテン、グリテニン、グリシニン、ヘリアンシン、ホルデイン、カフィリン、レグミン、ナピン、オリジン、ペニステイン、ファセオリン、プソフォカルピン、セカリン、ビシリン、ビシンおよびゼインが含まれる。
【0033】
II.ホルデインプロモーター/ホルデインシグナル配列構築物を用いた種子特異的タンパク質発現
a.構築物
本発明は、植物種子で特定のポリペプチドを高レベルで発現させるために適したリコンビナント構築物を提供する。この構築物は一般にPh−hSS−Xと表される。ここで、Phはホルデインプロモーターで、hSSはホルデインシグナル配列で、Xは特定のポリペプチドをコードする核酸分子である。これら3つの成分の各々は次のものと機能的に連結される。すなわち、ホルデインプロモーターは、ホルデインシグナル配列をコードする配列の5’末端に連結され、ホルデインシグナル配列はX配列に機能的に連結される。通常、この構築物はまた3’調節配列(例えばNos3’領域)を含む。
【0034】
ホルデインプロモーターおよびシグナル配列の特徴は上記で述べた。B1およびDホルデイン遺伝子は文献に記載されている(Brandt et al.(1985); S・rensen et al.(1996))。プロモーターがPhの場合、ポリペプチド “X”はホルデインポリペプチドを除く任意のポリペプチドで、ある実施態様では、種子貯蔵タンパク質以外のもの、または種子特異的タンパク質の場合もある。本明細書で開示するように、P−X、P−SS−X、Ph−XまたはPh−SS−X構築物の部分として植物種子で発現できるポリペプチドXには、人間の治療用タンパク質のような非種子特異的タンパク質(例えばエリスロポエチン、組織プラスミノーゲンアクチベータ、ウロキナーゼおよびプロウロキナーゼ、生長ホルモン、サイトカイン、第8因子、エポエチン−α、顆粒球コロニー刺激因子、抗体、ワクチンなど)、または澱粉生合成用酵素のようなより植物特異的タンパク質(例えばADPグルコースピロホスホリラーゼ(EC2.7.7.27.);澱粉シンターゼ(EC2.4.1.21);および分枝形成酵素、R、Q)および種子特異的タンパク質、例えば強化栄養価を種子に付与するものが含まれる。そのようなタンパク質をコードする核酸は当技術分野で周知である。そのようなタンパク質のコード領域は、それが特定のホスト細胞の好ましいコドン使用の偏りにより一致するように改造できる。
【0035】
キメラ遺伝子によってコードされる他の異種タンパク質には、免疫学的に活性なエピトープを形成するポリペプチド、および細胞内代謝物の変換を触媒し、続いて細胞内に選択した代謝物を集積する酵素が含まれる。
形質転換ベクターの発現カセットまたはキメラ遺伝子は、典型的には転写開始調節領域から反対の末端に転写終結領域を有する。転写終結領域は、通常は異なる遺伝子の転写開始領域と結びつけてもよい。特にmRNAの安定のための転写終結領域を、発現を強化させるために選択できる。転写終結領域を例示すれば、アグロバクテリウムTiプラスミドのNOSターミネータ、およびコメのα−アミラーゼターミネータが含まれる。
通常ポリアデニル化テールもまた発現カセットに付加され、高レベルの転写および適切な転写終結をそれぞれ最適化させる。
標準的分子生物学的手法、例えばポリメラーゼ連鎖反応をこれら構築物を作製するために用いることができる。
【0036】
b.植物の形質転換の一般的原則
Ph−hSS−X構築物の植物への導入は典型的には標準的技術を用いて達成される。この基本的アプローチは、構築物を形質転換ベクターへクローニングし、続いてこのベクターを植物細胞に多数の技術(例えば電気穿孔)の1つを用いて導入し、導入構築物を含む子孫植物を選別するものである。好ましくは形質転換ベクターの全てまたは部分が、植物細胞のゲノムに安定に組み込まれるであろう。植物細胞に組み込まれ、さらに導入されたPh−hSS−X配列(導入 “トランスジーン”)を含む形質転換ベクターの部分は、リコンビナント発現カセットと呼ばれることがある。
導入トランスジーンを含む子孫植物の選別は、タンパク質Xの発現の検出または種子の検出によるか、または形質転換ベクターに取り込ませた優性選別マーカー遺伝子の組み入れの結果として化学物質(例えば抗生物質)に対する強化された耐性を基準に実施される。
【0037】
クローン化核酸配列による形質転換の結果、植物の性状が改変された成功例は技術文献に豊富である。この技術分野の知識の解説に役立つ選択例には以下が含まれる:
米国特許第5571706号(”植物ウイルス耐性遺伝子と方法”)
米国特許第5677175号(”植物病原体誘発タンパク質”)
米国特許第5510471号(”植物形質転換のためのキメラ遺伝子”)
米国特許第5750386号(”病原体−耐性遺伝子導入植物”)
米国特許第5597945号(”病害耐性を遺伝子的に強化された植物”)
米国特許第5589615号(”改変2S貯蔵アルブミンの発現による栄養価強化遺伝子導入植物の製造方法)
米国特許第5750871号(”ブラシカ種の形質転換と外来遺伝子発現”)
米国特許第5268526号(”遺伝子導入植物のフィトクロームの過剰発現”)
米国特許第5780708号(”遺伝子導入稔性トウモロコシ”)
米国特許第5538880号(”遺伝子導入稔性トウモロコシの製造方法”)
米国特許第5773269号(”遺伝子導入稔性エンバク”)
米国特許第5736369号(”遺伝子導入穀類植物の製造方法”)
米国特許第5610042号(”コムギの安定な形質転換のための方法”)
これらの例では、形質転換ベクターの選別、形質転換技術、および導入トランスジーンを発現させるためにデザインした構築物の構造が記載されている。前述の記載およびPh−hSS−X構築物に関する本明細書の教示によって、所望のタンパク質(X)をその種子中に発現する植物を生産するために、植物にこれらの構築物を導入できることは、当業者にはしたがって明白であろう。
【0038】
c.植物タイプ
本発明のPh−hSS−X構築物は広範囲の高等植物で有効に発現され、選択したポリペプチドの種子特異的発現をもたらす。本発明は、特に単子葉穀類植物(オオムギ、コムギ、コメ、ライムギ、トウモロコシ、トリカレート、アワ、モロコシ、飼料用エンバク、芝生を含む)に適用できると期待される。特に本明細書で開示する形質転換の方法は、以下を含むオオムギの遺伝子型(モレックス(Morex)、ハーリントン(Harrington)、クリスタル(Crystal)、スタンダー(Stander)、モラビアン(Moravian)III、ガレーナ(Galena)、ゴールデン・プロミス(Golden Promise)、ステプトウ(Steptoe)、クラーゲス(Klages)、およびバロネッセ(Baronesse)、および以下を含む産業的に重要なコムギの遺伝子型(イェコーラ・ロジョ(Yecora Rojo)、ボブホワイト(Bobwhite)、カール(Karl)、およびアンザ(Anza))に本発明を適用することを可能にするであろう。
【0039】
本発明はまた、双子葉植物(ダイズ、綿、ソラマメ、アブラナ/キャノーラ、アルファルファ、アマ、ヒマワリ、ベニバナ、ブラシカ、ピーナッツ、クローバを含む);レタス、トマト、ヒョウタン、カッサバ、ジャガイモ、ニンジン、ハツカダイコン、エンドウマメ、ヒラマメ、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリ、芽キャベツ、コショウ;および果樹、例えば柑橘類、リンゴ、ナシ、モモ、アプリコットおよびクルミに適用することができるが、ただしこれらに限定されない。
【0040】
d.ベクターの構築
植物細胞の安定なトランスフェクションまたは遺伝子導入植物の作製に適した多数のリコンビナントベクターは、以下の文献に記載されている;Pouwels et al.(1987); Weissbach & Weissbach,(1989); Gelvin et al.(1990)。典型的には、植物形質転換ベクターは、5’および3’の調節配列の転写制御下にある1つまたは2つ以上のORFおよび選別可能な優性マーカーを含む。本発明の構築物のために適した5’および3’調節配列の選択は上記の文献で考察されている。形質転換体の容易な選別を可能にする選別可能な優性マーカー遺伝子には、抗生物質耐性遺伝子(例えばヒグロマイシン、カナマイシン、ブレオマイシン、G418、ストレプトマイシンまたはスペクチノマイシン耐性)、および除草剤耐性遺伝子(例えばホスフィノスリシンアセチルトランスフェラーゼ)をコードするものを含む。
【0041】
e.形質転換および再生技術
単子葉植物および双子葉植物細胞の両細胞の形質転換および再生技術が知られており、適切な形質転換技術は実施者が決定できるであろう。どのような方法を選択するかは、形質転換される植物タイプにしたがって変わるであろう。当業者は与えられた植物タイプに適した特定の方法を選択できるであろう。適切な方法には、植物プロトプラストの電気穿孔;リポソーム仲介形質転換;ポリエチレングリコール(PEG)仲介形質転換;ウイルス利用形質転換;植物細胞のマイクロインジェクション;植物細胞の微粒子ボンバードメント(microprojectile bombardment);真空浸潤;およびアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens(AT))仲介形質転換が含まれるが、ただしこれらに限定されない。植物の形質転換および再生のための典型的な手順は、この節の初めに挙げた特許文献に記載されている。
【0042】
f.形質転換植物の選別
形質転換ベクターによる植物の形質転換と再生に続いて、通常は形質転換植物は、形質転換ベクターに組み込んだ選別可能な優性マーカーにより選別される。典型的には、そのようなマーカーは、形質転換植物の苗に抗生物質または除草剤耐性を付与するであろう。形質転換体の選別は適切な濃度の抗生物質に苗を暴露することによって達成できる。
形質転換植物を選別した後、成熟させて種子を付けさせ、この種子を収穫して“ X”ポリペプチドの発現を調べる。
【0043】
III.種子発現ポリペプチドの使用
上記のように形質転換させた細胞を用いて、植物を再生させ、この植物から得た種子を典型的には野外で成熟させ、その結果、種子中での異種タンパク質の生産を可能にする。
本明細書で述べた方法を用いて種子で発現したポリペプチドは、タンパク質の発現開始後の任意の時期に種子から採集することができる。すなわち、収穫前に種子が必ずしも成熟している必要はない。所望の場合は、発現タンパク質は、通常のタンパク質精製方法によって種子から単離できる。例えば、種子を製粉機にかけ、続いて水性または有機抽出媒体で抽出し、さらにこの抽出した外来タンパク質を精製することができる。また別には、発現タンパク質の性状および使用目的にしたがって、発現タンパク質を精製することなく種子を直接用いてもよい。
【0044】
異なるポリペプチドの蓄積パターンまたは種子内画分には違いがある。例えば、GPDhGN-6-9-6遺伝子導入系によるGUS発現は約20日でピークに達し、一方、GPBhGN-4-34-7-1-2系のGUS発現は、20日の発現より10−14日でより高い。したがって、それぞれ異なる発現パターンをモニターし、予想される発現ピーク時にペプチドを抽出することができる。
タンパク質が定められた細胞内小体(例えばタンパク質貯蔵液胞、プラスチド、またはミトコンドリア)へ標的化される場合、細胞内小体を先ず種子細胞ホモジネートから分画し、続いてさらに分画して、濃縮または精製された形態で所望のタンパク質を得ることができる。
【0045】
IV.他の発現系
下記実施例で述べる発現系はオオムギのホルデインプロモーター/シグナル配列系を基礎にしている。しかしながら、本発明はこの特定の系に限定されないことは当業者には理解されよう。したがって他の実施態様では、他のプロモーターおよび他のシグナル配列を用いて植物(特に穀類)の種子でポリペプチドを発現させることができる。
そのような配列を用いる構築物は、P−XまたはP−SS−Xと表現することができる。ここでXは発現されるべきポリペプチド(これは非植物性でも非種子特異的でもまた非植物貯蔵タンパク質でもよい)で、Pは種子成熟特異的プロモーターで、SSはシグナル配列、例えば連結ポリペプチドを細胞内小体(例えばタンパク質が貯蔵されるタンパク質小体)へ向かわせる配列である。
【0046】
プロモーターPは、種子特異的なプロモーターであろう(胚乳特異的または胚特異的プロモーターを含むが、ただしこれらに限定されない)。あるプロモーターが種子成熟時に最も活発に発現したときに、植物の種子内でのその発現が、その植物の葉または根での発現よりも少なくとも10倍高い場合は、そのプロモーターは種子特異的である。さらにあるプロモーターが種子の発育時に最も活発に発現したときに、胚乳内でのその発現が種子の他の組織での発現よりも少なくとも5倍高い場合は、そのプロモーターは胚乳特異的であると考えられる。オオムギのホルデインプロモーター以外に、いずれの周知の種子特異的転写制御成分またはプロモーターも用いることができる。これには、種子貯蔵タンパク質をコードする任意の遺伝子に由来するプロモーター、例えば以下の遺伝子に由来する周知のプロモーターが含まれるが、ただしこれらに限定されない:例えばコメのグルテリン、オリジン(oryzin)またはプロラミン;コムギのグリアジンまたはグルテニン;トウモロコシのゼインまたはグルテリン;エンバクのグルテリン;ソルガムのカフィリン;アワのペニセチン;またはライムギのセカリンをコードする遺伝子のプロモーター。
【0047】
発現ポリペプチドのレベルを高めるために、ポリペプチドをタンパク質分解作用から保護する(ポリペプチドのタンパク質分解が少なくとも10%、より典型的には25%、最も典型的には少なくとも50%低下する)細胞内局所に当該タンパク質を蓄積させるのが望ましい。結果として、ポリペプチドを融合ポリペプチドとして発現させることが好ましいが、この融合ポリペプチドは、同じ読み枠内に当該ポリペプチドのためのコード配列、および融合タンパク質を翻訳と同時または翻訳後に細胞内小室に向かわせるかまたは細胞から分泌させるペプチド(シグナル配列、リーダー配列、輸送配列または標的化配列もしくはペプチドと互換的に呼称される)のためのコード配列を含む。好ましくは、シグナルペプチドは、融合タンパク質を保護された細胞内小室(例えば液胞)へ標的化する。例えば、液胞内にタンパク質を蓄積させるシグナルペプチドは液胞標的化ペプチドと呼ばれるであろう。シグナルペプチドは、好ましくは融合タンパク質の5’または3’末端に配置される。オオムギのホルデインシグナルペプチド以外に、周知のいずれのリーダーペプチドまたはシグナルペプチドも用いることができる(これらのペプチドは、翻訳と同時または翻訳後にそのような保護された細胞質内小室に発現ポリペプチドを局在させることができる)。他のそのようなシグナルペプチドまたはリーダーペプチドには、単子葉種子特異的遺伝子に由来するシグナルペプチドが含まれるが、ただしこれらに限定されない(例えば、グルテリン(例えばコメ、コムギ、トウモロコシ、エンバクなどに由来するもの)、プロラミン、ホルデイン、グリアジン、グルテニン、ゼイン、アルブミン、グロブリン、ADPグルコースピロホスホリラーゼ、澱粉シンターゼ、分枝形成酵素、Emおよびleaに由来するもの)。シグナル配列の別の典型的な種類は、種子の発芽時に澱粉細胞からポリペプチドの分泌を促進する効果をもつ配列で、これにはα−アミラーゼ、プロテアーゼ、カルボキシペプチダーゼ、エンドプロテアーゼ、リボヌクレアーゼ、DNA分解酵素/RNA分解酵素、(1,3)-β−グルカナーゼ、(1-3)(1-4)β-グルカナーゼ、エステラーゼ、酸性ホスファターゼ、ペントサミン、エンドキシラーゼ、β−キシロピラノシダーゼ、アラビノフラノシダーゼ、α−グルコシダーゼ、(1-6)α−グルカナーゼ、ペルオキシダーゼおよびリソホスホリパーゼと結合したシグナル配列が含まれる。
【0048】
シグナルペプチドは、翻訳と同時にまたは翻訳後に細胞性酵素によって切断されるであろう。また別には、シグナルペプチドが切断されていない場合は、融合ポリペプチドは、所望する場合には融合ペプチドの精製後に切断することができる。この目的のためには、シグナルペプチドと異種タンパク質との間にアミノ酸配列を導入して、シグナル配列を除去するための酵素的切断または化学的切断を容易にすることができる。
【0049】
本発明のいくつかの実施態様を以下に示す。
(1)構造P-X又はP-SS-Xを有する組換え核酸分子(式中、Xはポリペプチドをコードしている核酸分子であり、Pは種子成熟に特異的なプロモーターであり、かつSSは細胞間質へと結合したポリペプチドを標的化するシグナル配列である。)。
(2)ポリペプチドが種子の貯蔵タンパク質以外である、(1)記載の組換え核酸分子。
(3)ポリペプチドが種子に特異的なタンパク質以外である、(1)記載の組換え核酸分子。
(4)シグナル配列がタンパク質貯蔵体へと結合したポリペプチド
を標的化する、(1)記載の組換え核酸分子。
(5)(1)記載の核酸分子を含むトランスジェニック植物。
(6)(5)記載のトランスジェニック植物の種子。
(7)植物が安定形質転換された単子葉植物である、(5)記載の植物。
(8)単子葉植物が、コメ、オオムギ、トウモロコシ、コムギ、エンバク、ライムギ、ソルガム、アワ、又はトリカレートからなる群より選択される穀類である、(7)記載の植物。
(9)植物がオオムギ、トウモロコシ又はコムギ植物である、(8)記載の植物。
(10)(9)記載のトランスジェニックコムギ又はオオムギ植物の種子。
(11)(8)記載のトランスジェニック植物の種子。
(12)核酸分子において、Pがオオムギのホルデインプロモーターであり、かつSSがオオムギのホルデインシグナルペプチドである、(5)記載のトランスジェニック植物。
(13)オオムギホルデインプロモーターが、オオムギのB1及びDホルデインプロモーターからなる群から選択され、かつオオムギのホルデインシグナルペプチドがオオムギのB1及びDホルデインシグナルペプチドからなる群から選択される、(12)記載のトランスジェニック植物。
(14)ポリペプチドが、そのポリペプチドが所望の濃度で発現されるような種子成熟の間のあらかじめ選択された時点で種子から精製される、(10)記載の種子。
(15)ポリペプチドの発現が植物代謝物の濃度を上昇させる、(5)記載のトランスジェニック植物。
(16)構造Ph-hSS-Xを有する組換え核酸分子(式中、Phはホルデインプロモーターであり、hSSはホルデインシグナル配列であり、かつXはポリペプチドをコードしている核酸分子であり、ここでPh、hSS及びXは機能的に結合している。)。
(17)(16)記載の核酸分子を含むトランスジェニック植物。
(18)(17)記載のトランスジェニック植物の種子。
(19)植物が安定形質転換された単子葉植物である、(16)記載の植物。
(20)単子葉植物が、コメ、オオムギ、トウモロコシ、コムギ、エンバク、ライムギ、ソルガム、アワ、又はトリカレートからなる群より選択される穀類である、(19)記載の植物。
(21)植物がオオムギ、トウモロコシ又はコムギ植物である、(20)記載の植物。
(22)(21)記載のトランスジェニックコムギ又はオオムギ植物の種子。
(23)オオムギ植物が、ハーリントン、モレックス、クリスタル、ゴールデン・プロミス、スタンダー、モラビアンIII、ガレーナ、サロメ、ステプトウ、クラーゲス及びバロネッセからなる群から選択される遺伝子型である、(20)記載のトランスジェニックオオムギ植物。
(24)(22)記載のトランスジェニックオオムギ植物の種子。
(25)コムギ植物が、アンザ、カール、ボブホワイト及びイェコーラ・ロジョからなる群から選択される遺伝子型である、(22)記載のトランスジェニックコムギ植物。
(26)(25)記載のトランスジェニックコムギ植物の種子。
(27)(a)(1)記載の核酸分子により安定形質転換された単子葉植物を提供する工程;及び
(b)種子の生産及び種子中での前記ポリペプチドの発現に効果的な条件下で種子
を生長する工程を含む、単子葉植物の種子におけるポリペプチドの発現法。
(28)(a)(15)記載の核酸分子により安定して形質転換された単子葉植物を提供する工程;及び
(b)種子の生産及び種子中での前記ポリペプチドの発現に効果的な条件下で種子を生長する工程、
を含む、単子葉植物の種子におけるポリペプチドの発現法。
(29)前記植物がオオムギ、トウモロコシ又はコムギ植物である、(28)記載の方法。
(30)(a)糖供給源としてのマルトース、濃度約0.1mg/L〜約5mg/Lのオーキシン、濃度0mg/L〜約5mg/Lのサイトカイニン、及び濃度約0.1μM〜約50μMの銅を含有する植物増殖培地上に植物の未熟な接合体胚を置き、弱光下で緑色再生組織を形成するようにインキュベーションする工程;
(b)前記組織に核酸分子を導入し、形質転換された組織を産生する工程であって、ここで該核酸分子は構造Ph-hSS-Xを有する(式中、Phはホルデインプロモーターであり、hSSはホルデインシグナル配列であり、かつXは選択されたポリペプチドをコードしている核酸分子であり、ここでPh、hSS及びXは機能的に結合している。)工程;
(c)前記形質転換された組織を植物増殖培地においてインキュベーションし、形
質転換された材料の上に緑色構造体が認められるようにする工程;
(d)前記緑色構造体から少なくとも1種の形質転換された植物を再生する工程;
及び
(f)前記形質転換された植物を栽培し種子を生産する工程、
を含む、植物の種子において選択されたポリペプチドを発現する安定形質転換された単子葉植物を作出する方法。
(31)単子葉植物が、コメ、オオムギ、トウモロコシ、コムギ、エンバク、ライムギ、ソルガム、アワ、又はトリカレートの群から選択される穀類である、(30)記載の方法。
(32)植物がオオムギ、トウモロコシ又はコムギ植物である、(31)記載の方法。
(33)オオムギ植物が、ハーリントン、モレックス、クリスタル、ゴールデン・プロミス、スタンダー、モラビアンIII、ガレーナ、サロメ、ステプトウ、クラーゲス及びバロネッセからなる群から選択される遺伝子型である、(32)記載の方法。
(34)コムギ植物が、アンザ、カール、ボブホワイト及びイェコーラ・ロジョからなる群から選択される遺伝子型である、(32)記載の方法。
(35) (a)糖供給源としてのマルトース、濃度約0.1mg/L〜約5mg/Lのオーキシン、濃度0mg/L〜約5mg/Lのサイトカイニン、及び濃度約0.1μM〜約50μMの銅を含有する植物増殖培地上に植物の未熟な接合体胚を置き、弱光下で緑色再生組織を形成するようにインキュベーションする工程;
(b)前記組織に核酸分子を導入し、形質転換された組織を産生する工程であって、ここで該核酸分子は構造Ph-Xを有する(式中、Phはホルデインプロモーターであり及びXは選択されたポリペプチドをコードしている核酸分子であり、ここでPh及びXは機能的に結合している。)工程;
(c)前記形質転換された組織を植物増殖培地においてインキュベーションし、形質転換された材料の上に緑色構造体が認められるようにする工程;
(d)前記緑色構造体から少なくとも1種の形質転換された植物を再生する工程;
及び
(f)前記形質転換された植物を栽培し種子を生産する工程、
を含む、植物の種子において選択されたポリペプチドを発現する安定形質転換された単子葉植物を作出する方法。
(36)植物がオオムギ、トウモロコシ又はコムギ植物である、(35)記載の方法。
(37)オオムギ植物が、ハーリントン、モレックス、クリスタル、スタンダー、モラビアンIII、ガレーナ、サロメ、ステプトウ、クラーゲス及びバロネッセからなる群から選択される遺伝子型である、(36)記載の方法。
(38)コムギ植物が、アンザ、カール、ボブホワイト及びイェコーラ・ロジョからなる群から選択される遺伝子型である、(36)記載の方法。
(39)(a)糖供給源としてのマルトース、濃度約0.1mg/L〜約5mg/Lのオーキシン、濃度0mg/L〜約5mg/Lのサイトカイニン、及び濃度約0.1μM〜約50μMの銅を含有する植物増殖培地上に植物の未熟な接合体胚を置き、弱光下で緑色再生組織を形成するようにインキュベーションする工程;
(b)前記組織に核酸分子を導入し、形質転換された組織を産生する工程であって、ここで該核酸分子は構造P-X又はP-SS-Xを有する(式中、Xはポリペプチドをコードしている核酸分子であり、Pは種子成熟に特異的なプロモーターであり、及びSSは細胞間質へと結合したポリペプチドを標的化するシグナル配列である。)
工程;
(c)前記形質転換された組織を植物増殖培地においてインキュベーションし、形質転換された材料の上に緑色構造体が認められるようにする工程;
(d)前記緑色構造体から少なくとも1種の形質転換された植物を再生する工程;
及び
(f)形質転換された植物を栽培し種子を生産する工程
を含む、植物の種子において選択されたポリペプチドを発現する安定形質転換された単子葉植物を作出する方法。
(40)植物がオオムギ又はコムギ植物である、(39)記載の方法。
(41)核酸分子において、Pがオオムギホルデインプロモーターであり、かつSSがオオムギホルデインシグナルペプチドである、(39)記載の方法。
(42)オオムギホルデインプロモーターが、オオムギB1及びDホルデインプロモーターからなる群から選択され、かつオオムギホルデインシグナルペプチドが、オオムギB1及びDホルデインシグナルペプチドからなる群から選択される、(41)記載の方法。
(43)プロモーターが、コメグルテリン、コメオリジン、コメプロラミン、オオムギホルデリン、コムギグリアジン、コムギグルテリン、トウモロコシゼイン、トウモロコシグルテリン、エンバクグルテリン、ソルガムカシリン、アワペニセチン、及びライムギセカリンを含む種子成熟に特異的なプロモーターの群から選択される、(1)記載の組換え核酸。
(44)シグナル配列が、グルテリン、プロラミン、ホルデリン、グリアジン、グルテニン、ゼイン、アルブミン、グロブリン、ADPグルコースピロホスホリラーゼ、デンプンシンターゼ、分枝酵素、Em、及びleaを含む、単子葉種子に特異的な遺伝子に由来するシグナルペプチドの群から選択される、(1)記載の組換え核酸。
(45)シグナル配列が、種子の発芽時に糊粉細胞由来のポリペプチドの分泌を促進するシグナル配列から選択される、(1)記載の組換え核酸。
(46)シグナル配列が、α−アミラーゼ、プロテアーゼ、カルボキシペプチダーゼ、エンドプロテアーゼ、リボヌクレアーゼ、DNアーゼ/RNアーゼ、(1-3)-β-グルカナーゼ、(1-3)(1-4)-β-グルカナーゼ、エステラーゼ、酸性ホスファターゼ、ペントサミン、エンドキシラナーゼ、β-キシロピラノシダーゼ、アラビノフラノシダーゼ、α-グルコシダーゼ、(1-6)-α-グルカナーゼ、ペルオキシダーゼ、又はリゾホスホリパーゼに関連したシグナル配列から選択される、(45)記載の組換え核酸。
以下の実施例は本発明の説明に有用である。
【実施例1】
【0050】
実施例1:Ph−hSS−X構築物の作製
ポリメラーゼ連鎖反応を用いて、植物への導入用構築物を作製した。使用した方法は、以下の文献に記載されたものの変法である:Higuchi et al.(1990); Horton et al.(1990); Pont-Kingdon et al.(1994); およびLefebvre et al.(1995)。この方法は、Phがオオムギの胚乳特異的B1−ホルデインプロモーター、hSSがオオムギのB1−ホルデインシグナル配列、Xが大腸菌(Escherichia coli)のβ−グルクロニダーゼ(uidA;gus)ORFであるPh−hSS−Xを作製するために用いた。この構築物は、さらにノパリンシンターゼ(nos)3’ターミネータを含んでいた。2つのPCR構築法を用いた。すなわち、図1Aに示した4プライマー法および図1Bに示した3プライマー法である。
【0051】
全てのPCR反応は、100μl反応容積中のリコンビナントpfuDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いてサーモサイクラー(MJ Research Inc.)で実施した。反応緩衝液は、20mMのトリス−HCl(pH8.2)、10mMのKCl、6mMの(NH4)2SO4、2mMのMgCl2、0.1% Triton X−100、10μg/mlのヌクレアーゼ排除BSAおよび各デオキシリボヌクレオシド三燐酸50μMを含んでいた。PCRの条件は、94℃ 1分、55℃ 1分および72℃ 2分を25サイクルで、最後の伸長工程は72℃で7分とした。
【0052】
リコンビナントPCR法は図1に示した。2つのオーバーラッププライマーは、5’-GCGGCAACAAGTACATTGCATTACGTCCTGTAGAAACCCCA-3’(BCプライマー)(配列番号:5)および5’-TGGGGTTTCTACAGGACGTAATGCAATCGTACTTGTTGCCGC-3’(cbプライマー)(配列番号:6);cbプライマーの配列はBCプライマーの逆方向に相補的である。これらのプライマーはuidAコード配列の部分およびB1−ホルデインプロモーターのシグナルペプチドコード配列の部分を含んでいる。2つの外部プライマーは、5’-GTAAAGCTTTAACAACCCACACATTG-3’(Aプライマー)(配列番号:7)および5’-CGGAATTCGATCTAGTAACATAGATGACA-3’(dプライマー)(配列番号:8)で、各々は固有の制限酵素部位(下線部)、それぞれHind IIIおよびEcoR Iを有する。
【0053】
Bhorss(シグナルペプチド配列を有するB1−ホルデインプロモーター)およびuidAnos(uidAコード配列+nos3’ターミネータ)フラグメントは以下のPCR条件を用いて得た。(I)Bhorssについては、20ngの鋳型(B1ホルデインの2-4/Hind IIIプラスミド含有ゲノムクローン(Brandt et al.(1985))および40 pmolのプライマーAおよびcbを100μlの1×PCR緩衝液(Stratagene)中で混合した。(II)uidAnosについては、20ngの鋳型(プロモーターのないuidAおよびnosを含むpDMC201.4プラスミド(McElroy et al.(1995));uidA遺伝子は液胞標的化実験のために部位特異的変異導入によって改変したpGUSN358->Sプラスミドに由来する(Farrell et al.(1990)))および40 pmolのプライマーBCおよびdを100μlの1×PCR緩衝液中で混合した。2.5単位のpfuDNAポリメラーゼを添加した後、反応混合物を50μlの鉱物油で重層した。
【0054】
4プライマー法の場合、最初の反応での2つの主要なPCR生成物はBhorssについては0.49kbで、uidAnosについては2.07kbであった。PCR反応のこの最初の2セットのアリコートをゲル精製せずに50倍に希釈し、5μlの希釈生成物を第二のPCR反応のための鋳型として直接用いた。40 pmolの外部プライマー(Aおよびdプライマー)および2.5単位のpfuDNAポリメラーゼを100μlの1×PCR緩衝液に添加した。3プライマー法については、0.49kbのBhorssのより短いフラグメントが最初のPCR反応で生成され、この最初のPCR生成物(メガプライマーと呼ぶ)を50倍に希釈した。第二のPCR反応では、5μlの希釈Bhorssメガプライマー(Bhorss)、20ngの鋳型(pDMC201.4)および40pmolの外部プライマー(Aおよびd)を最終容積100μlの1×PCR緩衝液中に混合した。
【0055】
改変3および4プライマー法の両方を用いた第二のPCR反応セットによって、BhorssおよびuidAnosDNAフラグメントを含む2.56kbのフラグメントが生成された(図1C)。4プライマー法と比較したとき、3プライマー法ではより少量のキメラ生成物が得られた。第三のPCR反応を実施して、微小推進体撃ち込みのために十分な量のキメラ生成物が得られた。3プライマー法のPCR生成物を50倍に希釈し、この希釈生成物の5μlを、100μlの1×PCR緩衝液中のA/dプライマー40 pmolに鋳型として添加した。3プライマー法および4プライマー法の両方から2×100μl(2反応)の最終容積で増幅した最終キメラ生成物を、QIAクィックゲル抽出キット(Qiagen Inc.)を用いて0.7%アガロースゲルで精製した。精製DNAフラグメントを50μlの1×TE緩衝液に溶出させ、制限酵素消化によって分析し、微粒子ボンバードメント実験に使用した(DNA構築物法をテストするための更なるクローニングは実施しなかった)。
【実施例2】
【0056】
実施例2:オオムギ細胞での一過性アッセイ
微粒子ボンバードメントの前に、未成熟胚(受粉後15−25日)を含む春咲き栽培品種(spring cultivar)オオムギGolden Promiseの花穂を20%(v/v)漂白剤(5.25%次亜塩素酸ナトリウム)で10−15分消毒し、5分3回滅菌水で簡単に洗浄した。胚乳を各胚から手動で無菌的に分離し、“ 溝側を下向き”にしてMS(Murashige & Skoog)基本培地(8)に静置した。基本培地は、30mg/lのマルトース、1.0mg/lのチアミン−HCl、0.25mg/lのミオイノシトール、1.0g/lのカゼイン水解物、0.69mg/lのプロリンを補充し、さらに3.5g/lのフィタゲル(Phytagel)(Sigma)で固化した。DNA撃ち込みは、報告された方法(Lemaux et al.(1996))に以下の改変を加え、約12.5μlの溶出DNAフラグメント(約1−2μg)で被覆した1μmの金粒子(Analytical Scientific, Inc.)を用いて実施した。金粒子および沈澱に必要な他の成分の容積は半分にした。DNA/微粒子沈殿物は36μlの無水エタノールに再懸濁させ、15μlの懸濁液を1撃ち込みに使用した。撃ち込みは、バイオリスティック(Biolistic)PDS−1000/He装置(Bio-Rad)で7.58×106 Pa(1100psi)で実施した。撃ち込みを受けた胚乳組織を24±1℃で暗所で1日保温し、GUS活性について染色した(Jefferson et al.(1987))。結果(表示せず)は胚乳組織におけるGUS発現を示し、上記のPCR反応によって精製されたキメラDNA構築物はインフレームであって、その結果機能的なuidA遺伝子生成物を生じさせ得るという事実と一致する。機能性をin vivoで確認した後、このキメラ生成物をベクターにサブクローニングし、さらにDNAシークェンシングによって確認し、オオムギの安定的な形質転換に用いてタンパク質標的化を調べた。
【実施例3】
【0057】
実施例3:オオムギにおけるPh-X構築物の安定した発現
材料及び方法
植物
春咲き(spring)の二条オオムギの栽培品種であるGolden Promiseを、既報(Wan及びLemaux、1994年;Lemausら、1996年)のようにグロースチャンバーにおいて生育した。
【0058】
核酸
プラスミドp16(Sorensenら、1996年)は、オオムギ胚乳に特異的なB1-ホルデインプロモーターの550bpによって制御されたβ−グルクロニダーゼ遺伝子(uidA;gus)を伴うpUC18骨格を含み、かつアグロバクテリウム・ツメファシエンスのノパリンシンターゼ3’ポリアデニル化シグナルnosでターミネーションされている。プラスミドpD11-Hor3(Sorensenら、1996年)は、D-ホルデインプロモーターの434bpによって制御されたuidA及びnosターミネーターを含む。pAHC20(Christensen及びQuail、1996年)は、トウモロコシのユビキチンプロモーターにより駆動されるbar、第一のイントロンを有し、nos 3’-末端でターミネーションされている。これらの構築物はどちらもホルデインプロモーターを含むが、ホルデインシグナル配列は含まない。従って、これらはPh-X型の構築物である。pAHC25(Christensen及びQuail、1996年)は、各々トウモロコシのユビキチン(Ubi1)プロモーターの制御下にあるuidA及びbar、並びに第一のイントロンからなり、nosによってターミネーションされている。
【0059】
形質転換法
B1-ホルデイン-uidA及びD-ホルデイン-uidAを含むオオムギの安定したトランスジェニック系統を、公表されたプロトコールを改変して行った後に得た(Wan及びLemaux、1994年;Lemauxら、1996年)。市販のオオムギ遺伝子型の形質転換のためには改変が必要であり、かつ本願明細書に記された方法は、公表された方法を用いては形質転換し難いオオムギ及びコムギを含む単子葉植物の市販の遺伝子型の形質転換に使用することができる(例えばオオムギ遺伝子型であるHarrington、Morex、Crystal、Stander、Moravian III、Galena、Salome、Steptoe、Klages及びBaronessse、並びにコムギ遺伝子型Anza、Karl、Bobwhite、Yecora Rojo)。
【0060】
未熟な胚のドナーオオムギ植物体を、既報のようなグロースチャンバー内の制御された条件下で、土壌において生育した(Wan及びLemaus、1994年;Lemauxら、1996年)。未熟な接合体胚の表面を滅菌し、DBC2培地の上に胚盤側を下側に置き、24±1℃でインキュベーションした。再生組織を、3〜4週間維持し、その後小片に切断し(約3〜5mm)、新鮮なDBC2培地に移し、かつ薄明かりの下で生育した。更に3週間後に、緑色のカルス化している扇形組織を小片に分け(3〜5mm)、かつ新鮮なDBC2培地に移した。緑色再生組織を、3-から4-週間間隔で継代培養し、DBC2培地上で維持した。
【0061】
ボンバードメントのために、緑色再生組織(約3〜5mm、4ヶ月目)を、24±1℃の暗所に1日置き、その後0.2Mマンニトール及び0.2Mソルビトールを含有するDBC2培地に移した。浸透圧調節物質 による処理の4時間後、緑色組織に、pAHC25、pAHC20及びp16の混合物(モル比1:2)、又はpAHC20及びpD11-Hor3の混合物(モル比1:2)で被覆された金微粒子(Analytical Scientific Instuments、アラメダ、CA)を、Lemauxら(1996年)に記されたように撃ち込んだ。撃ち込みの16〜18時間後、緑色組織を、浸透圧調節物質非含有のDBC2培地に移し、薄明かりの下で24±1℃で生育した(約10μE、16h-光)。
【0062】
非選択培地上で最初に3-から4-週培養した後、緑色組織の各片を、1から2小片に分け(約4mm〜5mm、当初の組織片の大きさによって決まる)、かつbar選択のためにビアラフォス5mg/Lを補充したDBC2培地に移した。緑色組織を、DBC2培地上で選択し、かつ4mmから5mmの組織を3-から4-週間間隔で継代培養した。ビアラフォス耐性カルスを、6-ベンジルアミノプリン(BAP)1mg/L及びビアラフォス3mg/Lを含有するFHG培地(Hunter、1988年)上で再生した。再生された苗条を、ビアラフォス3mg/Lを含有する発根培地(植物ホルモン非含有カルス誘導培地)を含むMagentaボックスに移した。苗条がボックスの頂上に到達した時点で、小植物を土壌に植え、温室の中で成熟するまで栽培した。
【0063】
形質転換に使用したDBC2培地は、MS培地(Murashige及びSkoog、1962年)を基にし、マルトース30g/L、チアミン−HCl 1.0mg/L、ミオ-イノシトール0.25g/L、カゼイン加水分解酵素(hydrolysate)1.0g/L、プロリン0.69g/Lが補充されており、及びPhytagel(Sigma、セントルイス、MO)3.5g/Lにより固化されている。この培地に更に植物オーキシン2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)2.5mg/L、植物サイトカイニン6-ベンジルアミノプリン(BAP)0.1mg/L、及び銅(硫酸銅として)5μMを添加した。他方で形質転換し難いオオムギ及びコムギの遺伝子型からの緑色再生材料の効果的な発生には、存在する銅の上昇及び高いオーキシン/低いサイトカイニンの比が必要であることがわかった。しかしDBC2培地の組成は、形質転換される特定の遺伝子型に応じて変動することができる。この培地の重要な成分は、以下の範囲であろう:オーキシン濃度約0.1mg/L〜約5mg/L、サイトカイニン濃度0mg/L〜約5mg/L、及び銅濃度約0.1μM〜約50μM(並びにより典型的には約1〜10μM)。より効果的な形質転換は、マルトースが、培地の炭素源として濃度最大約60g/L、より典型的には約30g/Lで使用された場合に得ることができる(ショ糖の代わりに、もしくは、ショ糖と組合せてのいずれか)。
【0064】
GUSの組織化学的染色を、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-β-D-グルクロン酸(X-gluc)(Gold Biotechnology Inc.、セントルイス、MO)を用いて行った(Jeffersonら、1989年)。試料は、GUSアッセイバッファー中で37℃で一晩インキュベーションした。
【0065】
Jeffersonらの方法(1987年)により、4-メチルウンベリフェリル-β-D-グルクロニド(MUG)基質(Sigma、セントルイス、MO)を用いて、GUS活性を定量測定した。ホモ接合体系統から、受粉後10〜14、20及び30日後に未熟な胚乳をひとつ、又は成熟した胚乳から単離し、液体窒素中で凍結し、GUS抽出バッファー中で粉砕した;各処理は4つ組で行った。遠心分離後、上清を用いてGUS活性を測定した。4-メチルウンベリフェロン(4-MU)(Sigma、セントルイス、MO)の蛍光を、TKO 100ミニ蛍光光度計(Hoefer Scientific Instruments、サンフランシスコ、CA)により、励起波長365nm及び発光波長460nmで測定した。タンパク質を、既報(Jefferson、1987年;Jeffersonら、1987年)のように抽出し、抽出物中のタンパク質濃度をBradford(1976年)に従いBioRad試薬(BioRad、リッチモンド、CA)を用いて測定した。
【0066】
T0植物及びその子孫の除草剤感受性を測定するために、4-から5-展葉期の葉身切片を、綿棒を用いてBasta(登録商標)液(出発濃度、200g/Lホフィノスリシン(phophinothricin)、Hoechst AG、フランクフルト、ドイツ)の0.25容量%溶液に0.1%Tween20を添加した溶液を塗布した。植物を除草剤適用の1週間後にスコア化した。
【0067】
独立したカルス又は葉組織からの総ゲノムDNAを、Dellaporta(1993年)が記したように精製した。推定される形質転換系統のゲノムDNA中のuidAの存在について調べるために、ゲノムDNA 250ngを、プライマーセットUIDA1 (5’-AGCGGCCGCATTACGTCCTGTAGAAACC-3’)(配列番号:9)及びUID2R (5’-AGAGCTCTCATTGTTTGCCTCCCTG-3’)(配列番号:10)を用いるPCRにより増幅した。barの存在については、プライマーセットBAR5F (5’-CATCGAGACAAGCACGGTCAACTTC-3’)(配列番号:11)及びBAR1R (5’-ATATCCGAGCGCCTCGTGCATGCG-3’)(配列番号:12)を用いて調べた(Lemauxら、1996年)。増幅は、25μl反応でTaq DNAポリメラーゼ(Promega、マジソン、WI)を用いて行った。PCR産物25μlとローディング色素 を、0.8%アガロースゲル上で臭化エチジウムと共に電気泳動し、UV光を用いて写真撮影した。UIDAプライマーによる1.8-kb断片の存在は、完全なuidA断片と一致し;0.34-kbの内部断片は、BARプライマーにより産生された。DNAハイブリダイゼーション分析のために、各系統の葉組織の総ゲノムDNA 10μgをEcoRI及びBamHIにより消化し、1.0%アガロースゲル上で分離し、製造業者の指示に従いZeta-Probe GT膜(BioRad、ヘルクレス、CA)に移しかつ放射標識したuidA−特異的プローブとハイブリダイゼーションした。pBI221由来のuidA−含有の1.8-kbのXbaI-断片を、QIAEXゲル抽出キット(Quiagen、チャトウォース、CA)を用いて精製し、かつランダムプライマーを用いてα-32P-dCTPにより標識した。
【0068】
結果
B1-又はD-ホルデインプロモーター-uidA融合体のいずれかを含む個別に安定して形質転換されたオオムギのカルス系統22系統を、最初の一連の形質転換において得た。13系統が再生可能であり、これは7系統がB1-ホルデイン-uidA形質転換体であり、6系統がD-ホルデイン-uidA形質転換体であった。再生可能な形質転換体のカルス由来のゲノムDNAを単離した。UIDA及びBARプライマーを用いてPCR分析を行った。PCR増幅は、T1子孫において、1.8-kbの完全なuidA及び0.34-kbの内部bar断片を生じた。しかし試験した13系統のT0葉組織の中の1系統(GPDhGN-22)は、uidAについてPCR増幅された断片を産生しなかった(表2)。7個のB1-ホルデイン-uidA形質転換体及び6個のD-ホルデイン-uidA形質転換体の葉組織由来のゲノムDNAをサザンハイブリダイゼーションした後、形質転換された13系統中の12系統が、予想された2.35-kb又は2.25-kbのホルデイン-uidA融合断片を産生した。残りの系統(GPDhGN-22)は、いかなるuidAハイブリダイゼーション断片も産生しなかったが、この系統は適切な大きさのbar-ハイブリダイゼーションバンドを含んでいた(データは示さず)。
【0069】
安定した形質転換体からの異なる組織を、組織化学的GUS活性について試験した。強いGUS発現が、B1-及びD-ホルデインの両プロモーターにより形質転換された胚乳組織において認められたが、胚、子房、柱頭、葯又は葉の組織では認められなかった。トウモロコシのユビキチン(Ubi1)プロモーターの制御下でのGUS発現は、全ての組織において認められた:形質転換していない対照においては、GUS発現は認められなかった。B1-又はD-ホルデインプロモーター-uidA融合形質転換体のいずれかのT1種子から発芽している根及び苗条においても、組織化学的なGUS活性は認められなかった(データは示さず)。
【0070】
B1-及びD-ホルデイン-uidA構築体の相対活性は、ホモ接合体系統の発育中の及び成熟した種子の抽出物中のGUSの蛍光分析により決定した(表1)。B1-プロモーター−駆動GUSによって駆動されたGUSの比活性は、受粉後10〜20日で最大レベルの発現を有した。D-ホルデインプロモーターは、受粉の20〜30日後に比活性がピークに達する発育パターンを示した。
【0071】
T0植物及びその子孫におけるホスフィノスリシンアセチルトランスフェラーゼ(PAT、bar産物)及びGUSの酵素活性を、PATについては葉をBastaで染色することにより、及びGUSについては組織化学的アッセイにより調べた。13個の独立した系統全てのT0植物の葉組織が、Basta耐性を示した(表2)。T1子孫13系統中の7系統をuidA及びbarについて試験したところその中の7系統が、GUS発現について3:1の分離パターンを示した(表2)。残りの6系統において、1系統(GPDhGN-6)は、GUS発現に関して43:2の分離比を有し;1系統(GPDhGN-22)は、PATを発現したが、uidAは含まず、1系統(GPBhGN-13)はuidAもbarも含まず、3系統(GPBhGN-2、GPDhGN-12、GPDhGN-14)は不稔性であった。uidAについて陽性DNAハイブリダイゼーションシグナルを有する稔性のT0トランスジェニック系統全てに由来するT1胚乳[B1-ホルデイン-uidA遺伝子及びD-ホルデイン-uidA遺伝子について、各々、2.35-kb及び2.25-kb断片]は、GPBhGN-13及びGPDhGN-14以外は強力なGUS活性を示した(表2)。bar遺伝子は、GPBhGN-13以外の全ての稔性系統のT1子孫に安定して移され;ひとつの安定して発現されたホモ接合体系統(GPDhGN-16)を得た(表2)。B1-又はD-ホルデインプロモーターのいずれかによって起動されたuidAの発現も、試験した7種の独立した系統全て(GPBhGN-4、-7、-12、-14、 GPDhGN-6、-11及び-16)においてT2子孫に安定して受け継がれた(表1)。uidA遺伝子の発現は、T5世代で試験した1系統(GPBhGN-4)、T4世代で試験した2系統(GPBhGN-7及びGPDhGN-16)、T3世代で試験した3系統(GPBhGN-12、GPDhGN-6及び-11)、T2世代で試験した1系統(GPBhGN-14)並びにT1世代で試験した1系統(GPBhGN-3)に安定して移されていた(表1)。安定してuidAを発現しているホモ接合体トランスジェニック系統が、事象(event)GPBhGN-4、-7、 GPDhGN-6及び-16から得られた(表1及び2)。
【0072】
表1.B1-又はD-ホルデイン-uidA融合体により形質転換されたT0オオムギ植物及びその子孫の分析

【0073】







































表1.続き

bar及びuidAの発現は、PCRによるT0植物におけるuidAの確認以外は、各々、Basta染色及び組織化学的GUSアッセイにより試験した。
* 不稔性
** 四倍体
a 染色体を算出しなかった。
b 非トランスジェニック植物により異系交配した。
c n.t. テストせず
【0074】
表2.発育中及び成熟したトランスジェニックオオムギ種子におけるGUS比活性

GUS活性は、ホモ接合体系統の発育中及び成熟した胚乳から得たタンパク質抽出物の蛍光アッセイにより決定した。GUS活性の値は、各処理について4つ組の平均±標準偏差により示した。
GPBhGN-4-34-7-1-2及びGPDhGN-6-9-6は、各々、B1-ホルデイン-uidA(p16)及びD-ホルデインuidA(pD11-Her3)構築物により形質転換されたホモ接合体系統であり、それぞれ、T5及びT3種子を生じた。
【実施例4】
【0075】
実施例4:Ph-hSS-X又はPh-X構築物により安定して形質転換されたオオムギ植物における種子発現の比較
タンパク質発現レベルに対するホルデインシグナル配列の作用を評価するために、ホルデインB1シグナル配列を伴う(構築物pdBhssGN5-6)、または、ホルデインB1シグナル配列を伴わない(構築物pdBhGN1-2)ホルデインB1プロモーターがuidA遺伝子に機能的に結合している構築物で、オオムギ植物を形質転換した(図2)。これらの手順の詳細及び結果を以下に記す。
【0076】
プラスミド
シグナルペプチド配列を含む又は含まないB1−ホルデインプロモーター及びgusコード領域を含む2種のDNA構築物を作出し、B1−ホルデインプロモーター-gus融合体の機能を試験し、かつその標的化について調べた:
(1) pdBhssGN5-6(シグナル配列あり、図2A):実施例1に記したPCR法により作出したB1−ホルデインプロモーター−シグナル配列−uidA-nosを含むキメラDNA構築物を、HindIII及びSnaBIにより消化し、HindIII/SnaBI断片を、HindIII/SnaBI−消化したpDMC201.4(McElroyら、1995年)に連結し、pdBhssGN5-6プラスミドを作出した。プラスミドpDMC201.4は、プロモーターを含まないuidA及びnosを含み;このuidA遺伝子は、液胞標的化試験(Farrell及びBeachy、1990年)のための部位特異的突然変異によって修飾されたプラスミドpGUSN358->Sに由来した。このキメラ産物のPCR-増幅断片(そのシグナル配列ペプチド+5’ uidAとの連結領域を伴うB1−ホルデインプロモーター)は、DNA塩基配列決定により確認した。
(2) pdBhGN1-2(シグナル配列なし、図2B):各々独自の制限酵素部位(小文字の部分)を有する、SphI及びXbaI部位を含むプライマーBhor3 (5’-cgcatgcGTGCAGGTGTATGATCATT-3’)(配列番号:13)及びBhor2R (5’-ccctctagaAGTGGATTGGTGTTAACT-3’)(配列番号:14)を使用して、鋳型としてB1−ホルデインプロモーター−uidA-nosを含むp16プラスミド(Sorensenら、1996年)を用いて、0.55-kb B1−ホルデイン5’領域を増幅した。この0.55-kb PCR増幅した断片は、SphI及びXbaIにより消化し、かつSphI/XbaIで消化したpUC19に連結し、pBhor-1を作出した。pBhGN-1は、p35SGN-3(CaMV35Sプロモーター−uidA-nosを含む)中のCaMV35Sプロモーターを、pBhor-1由来のSphI/XbaI B1−ホルデイン断片で置換することにより作出した。pBhGN-1由来のHindIII/SnaBI断片を、pDMC201.4のHindIII/SnaBI断片で置き換え、pdBhGN1-2を作出した。従って、120-kb 5’-B1−ホルデインフランキング領域は、pdBhssGN5-6及びpdBhGN1-2の両方において欠損している。
【0077】
安定した遺伝子発現アッセイのために、得られた2種のキメラDNA構築物を、微粒子ボンバードメント(microprojectile bombardment)を用いて、未熟なオオムギの胚乳組織に導入した。実施例3のように、GUS染色及び定量、並びにBasta感受性を測定した。
【0078】
ゲノムDNAの単離、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及びDNAブロットハイブリダイゼーション
個別のカルス又は葉組織から得た総ゲノムDNAを、既報(Dellaporta、1993年)に従い精製した。形質転換されたと推定される系統のゲノムDNAにおけるuidAの存在について試験するために、ゲノムDNA 250ngを、プライマーセットUIDA1及びUID2Rを用いて、PCRにより増幅した。Bhor8 (5’-GAAGAGATGAAGCCTGGCTAC-3’)(配列番号:15)及びGUS5516 (5’-CGATCCAGACTGAATGCCCACAGG-3’)(配列番号:16)のプライマーセットを、シグナル配列を伴う又は伴わないB1−ホルデインプロモーターを識別するために用いた。シグナル配列を伴うB1−ホルデインプロモーターを含む構築物からは229-bpのハイブリッド産物が予想される一方で、シグナル配列を伴わないB1−ホルデインプロモーターを含む構築物からは178-bpのPCR産物が予想された。barの存在は、プライマーセットBAR5F及びBAR1R(Lemauxら、1996年)を用いて試験した。25μl反応においてTaq DNAポリメラーゼ(Promega、マジソン、WI)を用いて増幅を行った。PCR産物25μlとローディング色素 を、臭化エチジウムと共に0.8%アガロースゲル上で電気泳動し、UV光を用いて写真撮影した。UIDAプライマーによる1.8-kb断片の存在は、完全なuidA断片に一致し;BARプライマーによって、0.34-kb内部断片が作出された。DNAハイブリダイゼーション分析のために、各系統の葉組織からの総ゲノムDNA10μgを、HindIII及びSacIで消化し、1.0%アガロースゲル上で分離し、製造業者の指示に従いZeta-Probe GT膜(Bio-Rad、ヘルクレス、CA)に移しかつ放射標識したuidA−特異的プローブとハイブリダイゼーションした。pBI221由来のuidA−含有の1.8-kbのXbaI-断片を、QIAEXゲル抽出キット(Quiagen、チャトウォース、CA)を用いて精製し、かつランダムプライマーを用いてα-32P-dCTPにより標識した。
【0079】
イムノゴールド標識アッセイ
トランスジェニックである又はトランスジェニックではない未熟な胚乳を、高圧凍結法(McDonard、1998年)を用いて、受粉のほぼ20日後に収穫した。組織を白色樹脂に包埋し、既報のように(Phillipら、1998年)免疫細胞化学的に調べた。
【0080】
結果
トランスジェニック植物のPCR及びDNAブロットハイブリダイゼーション分析
B1−ホルデインプロモーターのN-末端のシグナルペプチドの機能を調べ、かつ標的化のメカニズムを研究するために、我々は、pdBhssGN5-6又はpdBhGN1-2のいずれかを含む、10の個別の安定して形質転換されたオオムギ系統を得た。これらの各DNA構築物からの3系統は、uidA遺伝子とbar遺伝子の同時発現系統であった。これらの形質転換体からゲノムDNAを単離した。プライマーUIDA及びBARを用いてPCR分析を行った。PCR増幅は、6系統全てから1.8-kbの完全なuidA断片及び0.34-kbの内部bar断片を生じた(表3)。シグナル配列を含む及び含まないB1−ホルデイン-uidA形質転換体から増幅された断片の間には51bpのサイズの差が認められ、これは系統GPdBhGN-1、-2及び-16中のシグナル配列の存在によって説明される。
【0081】
トランスジェニック植物におけるホルデイン-uidA発現
T1種子を組織化学的GUS活性について試験した。強いGUS発現が、シグナル配列を伴うおよび伴わないB1−ホルデインプロモーターにより形質転換された胚乳組織の双方において認められたが、胚においては認められなかった。2種のB1−ホルデインuidA構築物からのGUS発現は、胚乳の発育において、特に胚乳組織の周辺細胞及び胚盤側近傍の胚乳組織において非常に顕著であった。シグナル配列を伴うB1−ホルデインプロモーターは、シグナル配列を伴わないものよりも、胚乳においてより強力な発現さえも有した。GUS発現は、形質転換していない対照組織においては認められなかった。
【0082】
B1−ホルデイン-uidA構築物の相対活性は、ホモ接合体系統の発育中及び成熟した種子の抽出物中のGUSの蛍光アッセイにより決定した。シグナル配列を伴うB1−ホルデインプロモーターによって駆動されたGUSの比活性は、シグナル配列を伴わないものよりも、発育中及び成熟した種子の両方においてより高かった(図6及び7)。特に、シグナル配列を伴うB1−ホルデインプロモーターにより形質転換された発育中の胚乳組織は、シグナル配列を伴わないB1−ホルデインプロモーターによるものと比べ、30倍を越えるGUS活性を有した。
【0083】
T0からT2子孫の分析
T0植物及びその子孫におけるホスフィノスリシンアセチルトランスフェラーゼ(PAT、barの産物)の酵素活性及びGUSを、PATについてはBastaによる葉の染色によって、及びGUSについては組織化学的アッセイによって調べた。全部で6種の個別の系統のT0植物由来の葉組織は、Basta耐性を示した(表1)。T1子孫において、uidAについて試験した6系統全てが、GUS発現について3:1の分離パターンを示した。GPdBhssGN-10以外の5系統において、bar遺伝子も、T1子孫へと安定して受け継がれた;GPdBhssGN-10系統は、PATを発現しなかった。安定してuidAを発現しているホモ接合体のトランスジェニック系統が、4事象GPdBhGN-1、 GPdBhssGN-7、-10及び-23において得られた。
【0084】
電子顕微鏡及びイムノゴールド標識
電子顕微鏡レベルで認められた免疫シグナルは、19個のアミノ酸のN-末端シグナルペプチド配列を含むB1−ホルデイン-uidA DNA構築物によって形質転換された系統のGUSを発現している未熟な胚乳中のタンパク質小体について特異的であった(図7)。
【0085】
考察
前述の研究では、19個のアミノ酸のN-末端シグナルペプチド配列を伴う又は伴わないオオムギB1−ホルデインプロモーターの機能を、オオムギにおいて一活性の発現アッセイ及び安定した発現アッセイの両方を用いて試験した。初期の研究(Muller及びKnudsen、1993年;Sorensenら、1996年)と一致するように、シグナル配列を伴わないB1−ホルデインプロモーター-uidA融合体の制御下でのGUSの一過性の発現が、発育中の胚乳においては認められたが、胚においては認められなかった。このシグナル配列を伴うB1−ホルデインプロモーターは、同じ発現パターンを示したが、より強力な発現であった。PCR分析から、シグナル配列を伴う又は伴わないB1−ホルデインプロモーターにより安定して形質転換された6種の異なる系統のT0植物からのゲノムDNA中のuidA及びbarの存在が確認された。
【0086】
安定して形質転換された、発育中及び成熟したオオムギ種子を、ホルデインプロモーターによって駆動されるGUS発現の組織特異性及び時期について特徴付けた。シグナル配列を伴う又は伴わないB1−ホルデインプロモーターにより駆動されたGUSは、胚乳組織において優先的に発現されたが、他の組織においては発現されなかった。加えて、B1−ホルデインプロモーターと一緒のシグナル配列の存在は、発育中のトランスジェニック胚乳におけるGUS発現を劇的に増強した。これは、抗原結合性1本鎖Fv(scFv)タンパク質は、シグナルペプチド配列を含む構築物で形質転換されたタバコ植物の種子においてのみ検出可能であるというFiedler及びConrad(1995年)の結果と一致している。成熟したトランスジェニックタバコ種子を室温に1年以上貯蔵した後に、scFvタンパク質又はその抗原結合活性は喪失されなかったが、シグナルペプチドを有さない構築物で形質転換された植物においては、登熟又は発育途中の種子中に検出可能なscFvの蓄積は生じなかった。彼らは、細胞質ゾル中のGUSタンパク質発現の欠損は、分泌経路に入らない場合にscFvタンパク質を分解する細胞質ゾルプロテアーゼによる翻訳又は翻訳後調節の結果であると推測した。対照的に、発育中の種子におけるGUS mRNAレベル及び成熟した種子のGUS活性は、ダイズ胚に特異的なレクチン遺伝子の32個アミノ酸のN-末端アミノ酸配列を含む形質転換されたタバコ系統において、この配列が欠損したものと比べて一貫して高かった(Phillipら、未発表の知見)。2種のB1−ホルデイン-uidA構築物由来のGUS発現は、特に形質転換されたオオムギの発育中の胚乳組織の周辺細胞及び胚盤側近傍の胚乳組織において非常に顕著であった。
【0087】
導入遺伝子の組込みが1箇所であるトランスジェニック植物は、導入遺伝子(及びその発現)の3:1の分離比を生じるように発現されるであろう。6系統全てが、このようなGUS発現比を示した。ホモ接合体で、安定して発現されているGUSトランスジェニック系統は、4系統から得られた。トウモロコシユビキチンプロモーターで駆動されたPATの発現も、5種のトランスジェニック系統のT1子孫において安定して受け継がれた;しかし1系統(GPdBhssGN-10)は、T2子孫においてPAT発現を示さなかった。
【0088】
ここに記載された結果は、D-又はB1−ホルデインプロモーターは、外来遺伝子発現を専らオオムギ種子の胚乳に限定するシステムの開発に使用することができることを示している。加えて、これらの結果は、シグナル配列を伴う種子に特異的なプロモーターによって形質転換された植物の使用により、導入遺伝子の発現が劇的に増強されることを示している。このことは、液胞を標的化する戦略を採用する中立植物(neutraceutical)及び医薬品目的のための新規穀物品種の作出を可能にしている。
【実施例5】
【0089】
実施例5:胚に特異的な発現
この実施例は、細菌レポーター遺伝子であるβ−グルクロニダーゼ遺伝子(uidA;gus)に融合された、5’フランキング配列の欠失を伴う又は伴わないトウモロコシGlb1プロモーターを使用して、トランスジェニックオオムギにおける胚に特異的な発現に関するトウモロコシGlb1プロモーターの機能を示す。
【0090】
春咲きの二条オオムギの栽培品種であるGolden Promiseを、既報(Wan及びLemaux、1994年;Lemauxら、1996年)のようにグロースチャンバー中で育種した。
【0091】
プラスミド
トウモロコシ胚に特異的なグロブリン(Glb1)プロモーター制御下のuidAレポーター遺伝子を含みかつnosをターミネーターとするプラスミドであるppGlb1GUS(Liu及びKriz、1996年)を、DEKALB Plant Genetics(ミスチック、CT)から得た。このppGlb1GUSを、EcoRIで消化し、1.04-kb 5’グロブリンフランキング領域を取り除いた。0.36-kbグロブリンプロモーター、uidAコード配列及びnos 3’ターミネーターを含む2.58-kb EcoRI断片を、EcoRI消化したpUC19に連結し、pdGlbGUS-6を作出した。従ってpdGlbGUS-6には、1.04-kb 5’グロブリンフランキング領域が欠損している。前述の2種のキメラDNA構築物を、微粒子ボンバードメントを用いて、一過性及び安定性の両方の遺伝子発現アッセイのために未熟なオオムギ胚乳組織へと導入した。
【0092】
グロブリンプロモーターによって駆動されたuidA遺伝子の一過性の遺伝子発現
受粉の約20〜25日後の花穂を、20容量%の漂白剤(5.25%次亜塩素酸ナトリウム)中で10〜15分間表面を滅菌し、引き続き滅菌水で3回洗浄した。未熟な胚及び胚乳組織を、無菌操作により分離し、浸透圧調節物質で処理をした又はせずに(Choら、1998b年)、3.5g/L Phytagel(Sigma、セントルイス、MO)を添加したMS培地(Murashige及びSkoog、1962年)上に胚盤側を上にして置いた。Lemauxらのプロトコール(1996年)に従い、ppGlb1GUS 又はpdGlbGUS-6のいずれかで被覆された1.0μmの金微粒子を、Biolistic PDS-1000 Heガン(Bio-Rad、ヘルクレス、CA)を用い、7584kPa(1100psi)で組織に撃ち込んだ。浸透圧処理は、0.2Mマンニトール及び0.2Mソルビトールを含み、最終濃度0.4Mとし、4時間の前処理及び1又は2日間の後処理によった。
【0093】
オオムギの安定形質転換
実質的にWan及びLemaux、1994年;Lemauxら、1996年;並びにChoら、1998b年に記された微粒子ボンバードメントにより、安定したトランスジェニックGP系統を得た。金微粒子(1.0μm)は、1:1モル比のpAHC20及びppGlb1GUS 又はpdGlb1GUS-6の25μgにより被覆し、前述のボンバードメント実験において使用した。プラスミドpAHC20(Christensen及びQuail、1996年)は、トウモロコシのユビキチンUbilプロモーターの制御下のストレプトミセス・ヒグロスコピカス(Streptmyces hygroscopicus)由来の除草剤耐性遺伝子であるbar及び第一のイントロン及びnos3’ターミネーターを含んでいる。ビアラフォス耐性カルスを、6-ベンジルアミノプリン(BAP)1mg/L及びビアラフォス3mg/Lを含有するFHG培地(Hunter、1988年)上で再生した。再生された苗条を、ビアラフォス3mg/Lを含有する発根培地(植物ホルモン非含有のカルス−誘導培地)を入れたMagentaボックスに移した。苗条がボックスの頂上に達した時点で、植物を土壌に植え、温室内で成熟するまで栽培した。
【0094】
GUS活性の組織化学的及び定量的アッセイ
GUSの組織化学的染色を、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-β-D-グルクロン酸(X-gluc)(Gold Biotechnology, Inc.、セントルイス、MO)を用いて行った。試料はGUSアッセイバッファー中、37℃で一晩インキュベーションした。
【0095】
除草剤の適用
T0植物及びその子孫の除草剤感受性を調べるために、4-から5-展葉期の葉身の切片に、綿棒を用いてBasta(登録商標)液(出発濃度、200g/Lホフィノスリシン、Hoechst AG、フランクフルト、ドイツ)の0.25容量%溶液に0.1%Tween20を添加した溶液を塗布した。植物を除草剤適用後1週間スコア化した。
【0096】
ゲノムDNAの単離、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及びDNAブロットハイブリダイゼーション
独立したカルス又は葉組織からの総ゲノムDNAを、Dellaporta(1993年)が記したように精製した。推定される形質転換系統のゲノムDNA中のuidAの存在を調べるために、ゲノムDNA 250ngを、プライマーセットUIDA1 (5’-agcggccgcaTTACGTCCTGTAGAAACC-3’)及びUID2R (5’-agagctcTCATTGTTTGCCTCCCTG-3’)を用いるPCRにより増幅した;各々、uidA遺伝子を含む別のDNA構築物のサブクローニングのための制限酵素部位(小文字)を伴う(Choら、1998a;b年)。barの存在は、プライマーセットBAR5F (5’-CATCGAGACAAGCACGGTCAACTTC-3’)及びBAR1R (5’-ATATCCGAGCGCCTCGTGCATGCG-3’)を用いて調べた(Lemauxら、1996年)。増幅は、25μl反応でTaq DNAポリメラーゼ(Promega、マジソン、WI)を用いて行った。PCR産物25μlとローディング色素 を、0.8%アガロースゲル上で臭化エチジウムと共に電気泳動し、UV光を用いて写真撮影した。UIDAプライマーによる1.8-kb断片の存在は、完全なuidA断片と一致し;0.34-kbの内部断片は、BARプライマーにより産生された。
【0097】
結果
グロブリン-uidA遺伝子の一過性遺伝子発現
最初にトウモロコシの胚に特異的なグロブリンプロモーターの機能を確立するために、プラスミドppGlb1GUS及びpdGlbGUS-6を用いて、各々、未熟なオオムギの胚乳及び胚への微粒子ボンバードメントすることによる一過性のアッセイを行った。2種の対照が含まれ、ひとつは1xTEバッファーにより撃ち込まれた陰性対照であり、及びひとつは構成的トウモロコシユビキチンプロモーターの制御下のuidAを含むpAHC25によりボンバードメント陽性対照であった。トウモロコシの胚に特異的なグロブリンプロモーターによって駆動されたGUSは、胚組織において弱く発現されたが、胚乳組織においては全く発現されなかった。2種のグロブリンプロモーターuidA融合体によって駆動されたGUS発現は、浸透圧処理をしたオオムギ未熟胚においての方が、浸透圧処理をしていないものよりも強力であった。欠失を伴わないグロブリンプロモーター(1.4-kb、ppGlb1GUS)によって駆動された胚におけるuidA遺伝子発現の程度は、欠失を伴うグロブリンプロモーター(0.36-kb、pdGlb1GUS-6)によって起動されたものよりもわずかに弱いように見えた。ABA処理は、浸透圧処理を施さなかった未熟胚においてはGUS発現を増強したが、浸透圧処理を施した胚においては増強しなかった。陰性対照は何らGUS発現を示さなかった。
【0098】
トランスジェニック植物における胚に特異的な発現
更にトウモロコシのGlb1-uidA構築物を試験するために、個別の安定形質転換されたオオムギ系統を10系統得た;5系統は欠失を伴わないグロブリンプロモーターによって形質転換され、残りの5系統は欠失を伴うグロブリンプロモーターによって形質転換された。再生可能な形質転換体からゲノムDNAを単離し、PCR分析を行った。カルス組織から抽出されたゲノムDNA由来のuidA及びbar遺伝子のPCR増幅の結果は、トランスジェニックオオムギ系統が、1.8-kbの完全なuidA断片及び0.34-kbの内部bar断片を生じたことを示した。
【0099】
安定形質転換体からの異なる組織を、組織化学的にGUS活性について試験した。弱いuidA遺伝子発現が、専らトウモロコシのGlb1プロモーターで形質転換された胚組織において示されたが、胚乳組織においては示されなかった。他方で、トウモロコシのユビキチン(Ubi1)プロモーター制御下でのGUS発現は、全ての組織において認められた;GUS発現は陰性対照においては検出されなかった。
【0100】
本発明は実施例及び説明の両方により詳細に説明されている。当業者には、前記説明の精神に従いその範囲内であるものは、請求の範囲に記されたような本発明と同等であると推定されることは明らかである。これらの同等物は、本発明の範囲に含まれる。
【0101】
表3.シグナル配列を伴う又は伴わないB1−ホルデイン-uidA融合体により形質転換されたT0オオムギ及びその子孫の分析

























【0102】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含むトランスジェニック単子葉植物:
(a)コメグルテリンプロモーターおよびオオムギホルデインプロモーターからなる群より選択される種子成熟特異的プロモーター、
(b)前記プロモーターに機能可能に連結された、連結されたタンパク質を単子葉植物種子中のタンパク質貯蔵体へ標的化する単子葉植物種子特異的配列をコードするシグナルDNA配列であって、コメグルテリン、オオムギD-ホルデインおよびオオムビB1-ホルデインからなる群に含まれるシグナル配列より選ばれる前記シグナルDNA配列、および
(c)前記シグナルDNA配列に機能可能に連結した、種子貯蔵タンパク質でない異種タンパク質をコードするDNA配列。
【請求項2】
シグナルDNA配列が単子葉植物種子特異的N-末端リーダー配列である、請求項1記載のトランスジェニック単子葉植物。
【請求項3】
単子葉植物がコメ、オオムギおよびコムギからなる群より選ばれる、請求項1記載のトランスジェニック単子葉植物。
【請求項4】
単子葉植物がコメである、請求項1記載のトランスジェニック単子葉植物。
【請求項5】
単子葉植物がオオムギである、請求項1記載のトランスジェニック単子葉植物。
【請求項6】
単子葉植物がコムギである、請求項1記載のトランスジェニック単子葉植物。
【請求項7】
以下を含む、請求項1記載のトランスジェニック単子葉植物から生成される種子:
(a)コメグルテリンプロモーターおよびオオムギホルデインプロモーターからなる群より選択される種子成熟特異的プロモーター、
(b)前記プロモーターに機能可能に連結された、連結されたタンパク質を単子葉植物種子中のタンパク質貯蔵体へ標的化する単子葉植物種子特異的配列をコードするシグナルDNA配列であって、コメグルテリン、オオムギD-ホルデインおよびオオムビB1-ホルデイン遺伝子からなる群に含まれるシグナル配列より選ばれる前記シグナルDNA配列、および
(c)前記シグナルDNA配列に機能可能に連結した、種子貯蔵タンパク質でない異種タンパク質をコードするDNA配列。
【請求項8】
シグナルDNA配列が単子葉植物種子特異的N-末端リーダー配列である、請求項7記載のトランスジェニック単子葉植物種子。
【請求項9】
単子葉植物がコメ、オオムギおよびコムギからなる群より選ばれる、請求項1記載のトランスジェニック単子葉植物種子。
【請求項10】
単子葉植物がコメである、請求項7記載のトランスジェニック単子葉植物。
【請求項11】
単子葉植物がオオムギである、請求項7記載のトランスジェニック単子葉植物。
【請求項12】
単子葉植物がコムギである、請求項7記載のトランスジェニック単子葉植物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−252820(P2010−252820A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189034(P2010−189034)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【分割の表示】特願2000−513959(P2000−513959)の分割
【原出願日】平成10年9月30日(1998.9.30)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】