説明

植物繊維含有樹脂組成物とそれを用いた植物繊維含有樹脂成形品

【課題】機械強度を向上させた、環境配慮型の植物繊維含有樹脂組成物とそれを用いた植物繊維含有樹脂成形品を提供する。
【解決手段】植物繊維に樹脂を含浸した植物繊維含有樹脂組成物であって、植物繊維の導管に樹脂が充填されており、比重が植物繊維の真比重と樹脂の真比重との加重平均値の90%以上であることとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、植物繊維含有樹脂組成物とそれを用いた植物繊維含有樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境配慮型の樹脂複合材料として、植物繊維を強化材として活用した繊維強化複合材料が注目されている。これまでの繊維強化複合材料としては一般的にFRPに代表されるようにガラス繊維入り複合材が用いられているが、このようなガラス繊維入り複合材は廃棄する際の焼却時に残渣が残るため、最終的には廃棄場スペースを圧迫してしまうという問題があった。また、焼却時にガラスが溶融するため、余分なエネルギーを必要とするなど環境問題に関する課題が残されてもいる。
【0003】
そこで、最近ではガラス繊維代替として植物繊維を強化材として活用する動きが出てきた。この植物繊維を用いたFRPはその焼却時に植物繊維が焼却されるため、残渣が残らない利点をもっている。また、以上の繊維は植物由来であり、植物繊維の焼却時に発生した二酸化炭素は植物を生育する際に再度使用され、いわゆるカーボンニュートラルとなり、大気中の二酸化炭素量の抑制にも貢献可能である。
【0004】
以上の植物繊維を強化材として用いた繊維強化複合材料は、これまで各種のものが提案されている。たとえば、植物繊維の特徴を生かし、天然の美麗な素材感を出すために、木繊維内腔および導管内に所定容量の樹脂液を注入した樹脂強化広葉樹単板が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。あるいは、植物繊維を用いたときの特有の問題である、植物繊維の水分吸収による膨張に起因する複合材料の寸法安定性の問題を解決するために、植物繊維の細胞壁内の空隙に樹脂を含浸した植物繊維シートが提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8−216113号公報
【特許文献2】特開2004−149930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、植物繊維はその特性上ガラス繊維と比較して強度が弱く、この植物繊維を用いた繊維強化複合材料の成形品については機械強度が不十分とされる場合もあることから、ガラス繊維代替として植物繊維を用いた場合には、さらなる機械強度向上が課題として残されている。
【0006】
そこで、本願発明は、以上の通りの背景から、機械強度を向上させた、環境配慮型の植物繊維含有樹脂組成物とそれを用いた植物繊維含有樹脂成形品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の植物繊維含有樹脂組成物は、前記の課題を解決するものとして、第1には、植物繊維に樹脂を含浸した植物繊維含有樹脂組成物であって、植物繊維の導管に樹脂が充填されており、比重が植物繊維の真比重と樹脂の真比重との加重平均値の90%以上であることを特徴とする。
【0008】
また、第2には、上記の植物繊維含有樹脂組成物における植物繊維はケナフ繊維であることを特徴とする。
【0009】
第3には、上記の植物繊維含有樹脂組成物における樹脂はポリ乳酸であることを特徴とする。
【0010】
また、第4には、本願発明の植物繊維含有樹脂成形品は、上記のいずれかに記載の植物繊維含有樹脂組成物を成形してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記第1の発明によれば、植物繊維の導管に樹脂が充填されており、比重が植物繊維の真比重と樹脂の真比重との加重平均値の90%以上であることにより、植物繊維と樹脂との界面での接着強度が増加して機械強度が向上するとともに環境に配慮した植物繊維含有樹脂組成物を得ることができる。
【0012】
上記第2の発明によれば、植物繊維がケナフ繊維であることにより、さらに機械強度を向上させることができる。また、ケナフは生長が早く空気中の二酸化炭素を効率的に固定できるため、より環境に配慮したものとすることができる。
【0013】
上記第3の発明によれば、樹脂がポリ乳酸であることにより、より機械強度を向上させることができるとともに、さらに環境に配慮した植物繊維含有樹脂組成物を実現することができる。
【0014】
上記第4の発明によれば、上記の植物繊維含有樹脂組成物を成形してなることにより、機械強度を向上させた、環境配慮型の植物繊維含有樹脂成形品として実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本願発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下に、その実施の形態について説明する。
【0016】
本願発明は、植物繊維に樹脂を含浸した植物繊維含有樹脂組成物であって、植物繊維の導管に樹脂が充填されている。そして、得られる植物繊維含有樹脂組成物の比重が植物繊維の真比重と樹脂の真比重との加重平均値の90%以上であることを特徴としている。
【0017】
本願発明における植物繊維の導管とは、吸収した水分および養分を運ぶ、縦に細長く繋がった管のような細胞のことをいい、仮導管をも含む。植物を伐採した際には、導管は空隙として存在することとなる。
【0018】
以上のように導管が空隙として存在する植物繊維を原材料としてこの植物繊維と樹脂との複合材料を製造する際に、導管に樹脂が十分に充填されていないと、植物繊維の外側だけが樹脂に接触した状態となり、樹脂と植物繊維の界面の接触面積が少なくなる。したがって、樹脂と植物繊維との密着性も低下し、そのものの成形品は曲げ強度、耐衝撃性などの機械強度が低くなる。本願発明では、導管に樹脂を充填して樹脂と植物繊維との接触面積を大きくし、樹脂と植物繊維との密着性を向上させてその成形品の機械強度を向上させたものとするためには、得られる植物繊維含有樹脂組成物の比重が植物繊維の真比重と樹脂の真比重との加重平均値の90%以上とすることが重要である。つまり、90%以上とすることで、導管には必ず樹脂が充填された状態となり、樹脂と植物繊維との密着性が向上して成形品の機械強度が向上する。90%未満の場合では、樹脂が必ずしも導管に充填されず十分な機械強度を有する成形品を得ることができない。上限については、特に制限しないが、全ての空隙に樹脂を充填させることは困難であることから一般的には99%程度である。
【0019】
植物繊維の導管への樹脂の充填方法については特に制限はないが、たとえば植物繊維に水分を一旦吸湿させて導管内に水分を充填させた後、混練機内で植物繊維と樹脂とを加熱混練しながら水分を除去して導管に樹脂を充填する方法が好ましく用いることができる。このとき、植物繊維の含水率を調節することで、樹脂の充填量が調節され、得られる植物繊維含有樹脂組成物の比重が植物繊維の真比重と樹脂の真比重との加重平均値の90%以上となるように制御される。
【0020】
本願発明における植物繊維の種類としては、特に制限されるものではなく、木質、草木類から適宜に選択される。たとえば草木類としてケナフ、ジュート、綿、ココヤシなどを挙げることができる。特に麻系の植物繊維は強度が高く、この植物繊維を含む植物繊維含有樹脂組成物の成形品の機械的強度を高くすることができるため好適である。とりわけ、環境面を考慮すると、ケナフは生長が早く空気中の二酸化炭素を効率的に固定できるため、好適に用いることができる。
【0021】
本願発明における樹脂としては、環境負荷低減の観点から生分解性樹脂を用いることが好ましい。なかでも取扱い性やこれまでの設備を利用できるなどの生産性を考慮すると、熱可塑性樹脂としての、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシブチレートなどの植物由来の脂肪族ポリエステル樹脂が好ましいものとして挙げることができる。以上の脂肪族ポリエステル樹脂と植物繊維を用いて植物繊維含有樹脂組成物を製造すると、樹脂と植物繊維の両者が植物由来資源で構成されることになるため、さらなるカーボンニュートラル効果が期待できる。特に、ポリ乳酸は、植物由来樹脂の中では硬質であり、機械強度向上の効果も高いことからより好ましく用いることができる。
【0022】
以上の樹脂の分子量は、植物繊維の導管に樹脂を充填することができれば特に制限されるものではないが、具体的には、重量平均分子量30000〜1000000の範囲で、数平均分子量が7000〜300000の範囲のものが考慮される。
【0023】
また、本願発明の植物繊維含有樹脂組成物には、染料、顔料、微小サイズのフィラーなどの各種の添加剤が含まれていてもよく、用途に合わせてこれら添加剤を適宜に用いることができる。
【0024】
本願発明の植物繊維含有樹脂組成物は、通常の成形方法によって成形することができる。すなわち、抽出、圧空、真空、射出、ブロー、発泡成形といった手法で成形することにより、機械強度を向上させた、環境配慮型の成形品を実現することができる。
【0025】
以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって本願発明が限定されることはない。
【実施例】
【0026】
<実施例1〜3><比較例1〜3>
表1に示す配合量および混練条件にて、所定の含水率の水分を吸湿させて導管内に水分を充填させた植物繊維と樹脂を配合し、混練機で混練し、植物繊維含有樹脂組成物のペレットを得た。これを射出成形機で射出成形し、試験片サンプルを得た。なお、試験片サンプルは表1に示すASTM規格に準ずるものを作成し、曲げ強さ、曲げ弾性率、引っ張り降伏強さ、アイゾット衝撃強さ、荷重たわみ温度を測定した。この測定結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

表1の結果から、植物繊維含有樹脂組成物の比重が植物繊維の真比重と樹脂の真比重との加重平均値の90%以上であることで、機械強度が向上していることが確認された。なお、曲げ弾性率は植物繊維添加量に比例して増加する傾向にあるため、他の例と比べて植物繊維添加量の少ない実施例2の曲げ弾性率はやや低くなっているが、曲げ強さ、引っ張り降伏強さ、アイゾット衝撃強さ、荷重たわみ温度などの特性値は向上していることが確認された。
【0028】
また、試験片サンプルの断面を顕微鏡で観察し、導管への樹脂の充填の有無を調べたところ、実施例1〜3では導管に樹脂が充填されていることが確認された。一方で、比較例1〜2では樹脂が導管に十分に充填されていなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物繊維に樹脂を含浸した植物繊維含有樹脂組成物であって、植物繊維の導管に樹脂が充填されており、比重が植物繊維の真比重と樹脂の真比重との加重平均値の90%以上であることを特徴とする植物繊維含有樹脂組成物。
【請求項2】
植物繊維はケナフ繊維であることを特徴とする請求項1に記載の植物繊維含有樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂はポリ乳酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の植物繊維含有樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の植物繊維含有樹脂組成物を成形してなることを特徴とする植物繊維含有樹脂成形品。

【公開番号】特開2007−197539(P2007−197539A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16941(P2006−16941)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】