説明

植物育成用保護材とその栽培方法

【課題】外部環境の変化に対して良好な保温効果ないし断熱効果を有し、軽量で敷設が容易であり、再利用が可能であり、植物を外気から保護する手段として最適な保護材を提供する。
【解決手段】シリカ質の中空微粒子からなり、例えば、粉体、スラリー、シートの形状を有し、樹木の枝に密着させ、あるいは植物の周りの地面を覆い、または地面中に含有させるなどの方法によって、植物の育成に用いられることを特徴とする植物育成用保護材であり、好ましくは、平均粒径100μm以下、容重0.35g/cm3以下である植物育成用保護材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野外での植物の栽培において、果樹、樹木、野菜、花等、あるいはこれらの生育地面に、防寒、保温、避暑、乾燥防止のために用いる植物育成用保護材と該保護材を用いた栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹木、野菜、花等を栽培する際、地面に植えて栽培するが、その植物が気候に対応しない場合には、気温をコントロールする対策がとられている。例えば、全体をコントロールする場合には、いわゆるビニールハウス内で栽培を行う。これは、小さく、付加価値の高い栽培に適しているが、ビニールハウスはその建設および燃料などのランニングコストが高くなる。また、果樹のような大きなものは適さない。
【0003】
また、保温を目的として、黒いフィルムを敷いた箇所に種苗、苗植することも知られている。しかし、このフィルムは使用後には再利用できず、フィルム廃棄処分が必要であるなどの問題がある(特許文献1、特許文献2)。さらに、適所での栽培でも、最近多発している異常気象により、寒暖の差が大きい場合には農作物に多大な被害を及ぼす。例えばリンゴの木は暑さに弱く、夏場に猛暑となった場合、樹木および地面が高温になると生育が悪くなる。
【特許文献1】特開昭63−71122号公報
【特許文献2】実用新案登録第3145778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、野外での植物の栽培に関し、従来の上記問題を解決したものであり、軽量でありながら十分な強度を有し、しかも外部環境の変化に対して植物を有効に保護する植物育成用保護材であり、敷設が容易で、再利用が可能であり、植物を外気から保護するための手段として最適である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に示す構成によって上記問題を解決した植物育成用保護材とその栽培方法に関する。
〔1〕シリカ質の中空微粒子からなり、植物の育成に用いられることを特徴とする植物育成用保護材。
〔2〕シリカ質の中空微粒子を含有する粉体、スラリー、シートである上記[1]に記載する植物育成用保護材
〔3〕シリカ質中空微粒子が平均粒径100μm以下である上記[1]または上記[2]に記載する植物育成用保護材。
〔4〕シリカ質中空微粒子が容重0.35g/cm3以下である上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する植物育成用保護材。
〔5〕シリカ質中空微粒が内部空間に隔壁を有する上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する植物育成用保護材。
〔6〕シリカ質中空微粒子の内部空間が隔壁によって区切られた表面に開口を有しない複数の独立気泡からなる上記[1]〜上記[5]の何れかに記載する植物育成用保護材。
〔7〕上記[1]〜上記[6]の何れかに記載する植物育成用保護材を樹木の枝に密着させること特徴とする植物の栽培方法。
〔8〕上記[1]〜上記[6]の何れかに記載する植物育成用保護材によって植物の周りの地面を覆い、または地面中に含有させることを特徴とする植物の栽培方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の植物育成用保護材は、シリカ質の中空微粒子からなり、あるいは該中空微粒子を含有するものであり、この中空微粒子は優れた断熱性を有するため、この保護材を樹木の枝に密着させ、あるいは植物の周りの地面を覆い、または地面中に含有させることによって、外気の温度差を緩和することができる。
【0007】
また、このシリカ質中空微粒子は、好ましくは、内部空間に隔壁を有するものが用いられるので、隔壁のない単一空間からなる中空粒子に比較して粒子の強度が大きい。このため、外部からの負荷に対して破壊され難く、長期間安定に中空状態が維持することができる。
【0008】
さらに、シリカ質中空微粒子の内部空間は独立気泡によって形成された閉じられた空間であるので、熱が蓄積されると、熱が長時間保持されるので外気からの保護に優れる。
【0009】
また、上記中空粒子は、隔壁によって区切られた独立気泡からなる複数の内部空間を有するので、粒材に局部的な亀裂や破損が生じても、残りの内部空間によって中空状態が維持されるので、外気からの保護に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の植物育成用保護材は、シリカ質の中空微粒子からなり、例えば、粉体、スラリー、シートの形状を有し、樹木の枝に密着させ、あるいは植物の周りの地面を覆い、または地面中に含有させるなどの方法によって、植物の育成に用いられることを特徴とする植物育成用保護材である。
【0011】
本発明の植物育成用保護材の使用形態は、例えば、樹木の枝等に粉末状の保護材(シリカ質中空微粒子)を直接振りかける、あるいは水などの溶媒に保護材を混合してスラリー状にし、これを樹木の表面に塗布する、もしくは、本発明の保護材を植物に無害である塗料等に混合して樹木の表面に塗布する。保護材を塗料等と混合して使用することによって風雨によって保護材(シリカ質中空微粒子)が流れ落ち、あるいは流出することがなく、保護材を長期間保持させることができる。また、保護材(シリカ質中空微粒子)を枝などの周りにそのまま塗布した後に、布、わら、ビニール等で囲むと効果が高い。
【0012】
また、ネット状のものに保護材(シリカ質微粒子)を混合した塗料を塗って使用してもよい。この場合には、設置が容易であるほか、作物を収穫した後、ネットを取り外し、別の場所への再利用が可能である。なお、保護材を樹木の葉に直接塗布してもよいが、日光を遮り、光合成が不十分になるので、樹木の幹や枝などに用いるのが良い。
【0013】
さらに、植物の周囲の地面に本発明の保護材を敷くことにより、地面の温度上昇もしくは温度低下を抑制することができる。これは樹木の他に、野菜や花の栽培でも使用することができる。その使用態様としては、保護材を地面に直接散布する、あるいは保護材を水などの溶媒に混合して散布する、または保護材を混合した塗料をネット状のものに塗布して地面に敷くなどの態様をとることができる。ネット状のものは風雨に抵抗性があるほか、設置が容易であり、再利用可能である。
【0014】
本発明の保護材(シリカ質中空微粒子)は乾燥粉体の状態で使用することができる。また、シリカ質中空微粒子を樹脂や塗料と混合して敷き詰めても良い。樹脂や塗料は、本発明の効果を阻害しないものであれば限定されない。例えば、塗料に使用される公知の溶剤や樹脂、増粘剤、糊剤、分散剤、着色顔料などと併用してもよい。また、ガラス繊維等の断熱材と併用しても効果が高い。暑さを保護するためには白いほうが効果が高く、また寒さを保護するためには黒いほうが効果が高い。
【0015】
本発明の保護材を上記態様で使用することによって、外気温の急激な変化を緩和し、植物を良好に育成することができる。
【0016】
本発明の保護材(シリカ質中空微粒子)は、好ましくは、内部空間が隔壁によって区切られた複数の独立気泡によって形成されている中空微粒子が用いられる。中空微粒子が内部隔壁を有することによって粒子の強度が向上する。この隔壁は1個よりも複数個あることが望ましい。複数の隔壁を有することによって、粒子の強度がさらに向上する。隔壁の厚さは本発明の効果を喪失させない限り制限されない。また、内部隔壁を有するので強度が大きく、加圧下でも亀裂が生じ難く、部分的に亀裂が生じても内部空間が隔壁によって区切られているので水などが浸透する範囲が限られ、中空状態を維持することができる。
【0017】
上記シリカ質中空微粒子において、隔壁を有する粒子の割合が多いほど材料の強度が向上するので好ましい。例えば、粒子数で50%以上の粒子の内部空間が隔壁によって区切られた複数の独立気泡によって形成されている中空微粒子が好ましい。隔壁を有する粒子の割合が多いと、上部より大きな圧力が加わっても、中空微粒子の強度が大きいので壊れ難く、中空構造が維持されるので、効果を維持することができる。なお、強度が小さいものは外部の圧力により破損し易く、次第に効果が低下する。
【0018】
本発明の保護材はシリカ質の中空微粒子である。シリカ含有量は70〜90%のものが好ましい。シリカ含有量が70%未満であると不純物が多くなり、均一な発泡ができなくなるため適当ではない。またシリカ含有量が90%を超えると融点が高くなるため発泡温度が高くなり、もしくは高温でも発泡しなくなるため、適当ではない。
【0019】
上記シリカ質中空微粒子はシリカ(化学成分としてSiO2)を主成分とする無機系材料から製造することができる。具体的には、シラス、真珠岩、黒曜石、松脂岩などのシリカ含有量70〜90%の天然ガラス質岩石を平均粒径100μm以下の微粒子に粉砕し、該岩石微粒子を900℃〜1500℃に加熱して発泡させて中空微粒子にし、この中空微粒子から内部空間が隔壁によって区切られたものを選択することによって製造することができる。また、上記シリカ質中空微粒子は、天然ガラス質岩石に限らず、例えば、岩石粉末に発泡原料を混合して造粒し、加熱発泡させることによって製造することもできる。
【0020】
このようにして製造した中空微粒子は内部に大きな空間を有するシリカガラス質粒子であるので、光学顕微鏡によって内部空間や隔壁構造を確認することができる。
【0021】
本発明の植物用保護材はシリカ質の無機材料なので、耐水生、耐酸性に優れている。従って、地中にしみ込んできた雨水にさらされても劣化せず、中空状態を維持するため長期間効果を維持することができる。
【0022】
本発明の保護材(シリカ質中空微粒子)は、好ましくは、粒子内部の空間が表面に開口のない独立気泡によって形成されている。従って、吸水率が低く、風雨などによって周囲に水が存在する場合でも、これらが内部に浸入せず、中空状態を維持することができる。また、地中にて雨水が浸る場合においても中空状態を維持し、効果を維持することができる。
【0023】
なお、閉口気孔の粒子であっても、内部空間が連続気泡によって形成されている中空粒子は、部分的に亀裂が生じると、粒子内部の空間全体に液体が浸透して充満し、中空状態を維持できなくなり、十分な効果が得られなくなる。
【0024】
本発明で用いるシリカ質中空微粒子は、平均粒径100μm以下が適当であり、50μm以下が好ましい。平均粒径が100μmより大きいと断熱効果が低く、また塗料と混合して塗布した時の平滑性および曲げに対する抵抗性が低くなる。平均粒径が50μmより小さい粒子は特に断熱性が高い。
【0025】
本発明の保護材となるシリカ質中空微粒子は、容重0.35g/cm3以下の軽量なものが好ましい。軽量な保護材を用いることによって、例えば、保護材を樹木の幹や枝に密着させる場合に、樹木に対する負荷を軽減することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。なお、粒子の平均粒径および容重は以下の方法によって測定した。使用材料を以下に示す
【0027】
〔平均粒径〕レーザー回折粒度分布測定装置を用い、日機装社製測定器(マイクロトラック)によって測定した。
〔容重〕一定容積S(cm3)の容重枡に試料を充填し、開口からはみ出た部分をすり切り、全体の重量G1を測定し、これから容器の重量G2を差し引いて粉末重量G3(g)を求め、上記容積Sに対する粉末重量G3〔G3/S〕g/cm3を容重とした。
【0028】
〔使用材料〕
真珠岩〔化学成分含有率(質量%)SiO2 74%、Al2O3 13%、Fe2O3 1%、CaO1%、ig.loss 2.2%〕を発泡させてシリカ質中空微粒子を製造し、容重0.13〜0.38g/cm3、平均粒径50〜200μmのものを選択した。これらの中空微粒子について、容重、平均粒径を表1に示した。
【0029】
〔実施例1〕
表1に示す保護材を塗布した保温用マットをリンゴの木の下の地面(5m四方)に敷き、夏場の地面の温度を測定した。このときの外気温は30℃であった。また、秋にリンゴの生育状況を観察した。この結果を表1に示した。表1に示すように、本発明の保護材を用いたものは地面の温度上昇が抑制されており、生育状態が良好であった。
【0030】
【表1】

【0031】
〔実施例2〕
表1に示すシリカ質中空微粒子を水性塗料に混合し、リンゴの木の枝に塗布し、夏場の塗布した部分の温度を測定した。また、秋にリンゴの育成状況を観察した。この結果を表2に示した。表2に示すように、本発明の保護材を用いたものは枝の温度上昇が抑制されており、生育状態が良好であった。
【0032】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ質の中空微粒子からなり、植物の育成に用いられることを特徴とする植物育成用保護材。
【請求項2】
シリカ質の中空微粒子を含有する粉体、スラリー、シートである請求項1に記載する植物育成用保護材
【請求項3】
シリカ質中空微粒子が平均粒径100μm以下である請求項1または請求項2に記載する植物育成用保護材。
【請求項4】
シリカ質中空微粒子が容重0.35g/cm3以下である請求項1〜請求項3の何れかに記載する植物育成用保護材。
【請求項5】
シリカ質中空微粒が内部空間に隔壁を有する請求項1〜請求項4の何れかに記載する植物育成用保護材。
【請求項6】
シリカ質中空微粒子の内部空間が隔壁によって区切られた表面に開口を有しない複数の独立気泡からなる請求項1〜請求項5の何れかに記載する植物育成用保護材。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れかに記載する植物育成用保護材を樹木の枝に密着させること特徴とする植物の栽培方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項6の何れかに記載する植物育成用保護材によって植物の周りの地面を覆い、または地面中に含有させることを特徴とする植物の栽培方法。

【公開番号】特開2010−130909(P2010−130909A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307134(P2008−307134)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【出願人】(508327652)有限会社ジュンコーポレーション (2)
【Fターム(参考)】